説明

液晶組成物及び液晶表示素子

【課題】 急峻性−レスポンスの関係に代表される液晶表示素子の表示特性を悪化させることなく、動作電圧の温度依存性を改善した液晶組成物、および当該液晶組成物を使用した液晶表示素子を提供する。
【解決手段】 一般式(I)、一般式(II)及び一般式(III)


で表される化合物を含有する液晶組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学的液晶表示材料として有用なネマティック液晶組成物及び、これを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、電卓のディスプレイとして登場して以来、コンピューターの開発と歩みを同じくして、TN-LCD(捩れネマティック液晶表示装置)から、STN-LCDへと表示容量の拡大に対応してきた。STN-LCDは、シェファー(Scheffer)等[SID ’’85 Digest, 120頁(1985年)]、あるいは衣川等[SID ’’86 Digest, 122頁(1986)]によって開発され、ワードプロセッサ、パーソナルコンピューターなどの高情報処理用の表示に広く普及されてきた。しかし最近ではTFT-LCDの台頭によってSTN-LCDは携帯電話やPDA、車載用途を中心とした中小型LCDへの使用が一般的となってきている。またSTN-LCDについては低コストを実現するために、動作電圧の温度補償回路を組み込まない設計や簡易的な補償のみの対応が一般的となり、液晶に対する温度特性の改善要求が強まっている。中でも携帯電話を中心とした携帯用端末 (Personal Digital Assistance)ではコントラストを損なわず高速応答化を実現し、より広い温度域で良好な表示特性を得ることが要求されている。この様な液晶材料としては、ネマティック液晶の立ち上がり特性の急峻性を維持し、低粘性かつ広い温度範囲に対して一定値を保持することや、あるいは種々の時分割に対応した周波数範囲で駆動電圧が変動しないことが要求されている。周囲の温度変化によるLCD表示品位低下の原因の一つに、捩れピッチの温度変化による動作電圧の変化、カイラル剤添加による粘性増大、応答速度悪化がある。ピッチの動作電圧を広い温度範囲で一定に保つ方法としては、捩れピッチの温度依存性が異なる2種類のカイラル剤によって捩れピッチの温度依存性をコントロールする方法などが知られているが(特許文献1参照)、カイラル剤を2種類使用することによるコスト増や添加量増大による粘性増加、応答速度の悪化などの問題があった。またカイラル剤の代表的なものとしてコレステロール誘導体のコレステリルノナエートが知られているが動作電圧の温度依存性についてはより改善が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】国際公開第97/29167号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、急峻性−レスポンスの関係に代表される液晶表示素子の表示特性を悪化させることなく、動作電圧の温度依存性を改善した液晶組成物を提供すること、また、この液晶組成物を使用した液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、種々のカイラル添加剤及び液晶化合物の組み合わせを検討した結果、一般式(III)で表される化合物(4’-But-2-enyloxy-biphenyl-4carboxylic acid 1-phenyl-ethyl ester)をピッチ調整剤として使用することで、液晶表示素子の表示特性を悪化させることなく動作電圧の温度依存性を改善させることを見出した。
すなわち、本発明は以下に記載のネマティック液晶を提供する。
一般式(I)、及び一般式(II)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立的にフッ素置換されていても良い炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基又は炭素原子数3〜8のアルケニルオキシ基を表し、A、B、C、D及びEはそれぞれ独立的に1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、3−メチル−1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基、フルオレン−2,7−ジイル基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、トランス−1,3ジオキサン−2,5−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基又はピリダジン−2,5−ジイル基を表し、これら環は更に1から3のフッ素原子により置換されていてもよくl、及びmはそれぞれ独立的に0、1もしくは2を表しZ1、Z2、Z3、及びZ4はそれぞれ独立的に単結合、−CH2CH2−、−(CH24−、−OCH2−、−CH2O−、−COO−、−C≡C−又は−CH=N-N=CH−を表し、X2はシアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメトキシ基、水素原子又は3,3,3−トリフルオロエトキシ基を表し、X1及びX3は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)で表せる化合物を併せて5種以上含有し、一般式(III)
【0008】
【化2】

(式中、Rは炭素原子数1から3のアルキル基又は水素原子を表し、*は不斉炭素を表す。)
で表される化合物を0.025%~3.0%含有することを特徴とする液晶組成物。また当該液晶組成物を用いた液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組み合わせによりコントラストを高めるために重要な急峻性(γ)を大きく悪化させることなく、閾値電圧の温度依存性と応答速度を同時に改善することができた。この液晶組成物は90°〜250°捩じられたツイスト配向を有するLCDに有効であり、特に5.0μm以下の狭ギャップLCDでは非常に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において一般式(I)及び一般式(II)で表される化合物を併せて5種類以上含有するが5〜25種類が好ましく、7〜25種類がより好ましく、9〜20種類が特に好ましく、一般式(III)の含有量はd/p が0.05〜0.8の範囲となるような含有量が好ましく、その含有量は一般的に0.1~0.7が好ましく、0.2〜0.6がさらに好ましい。
【0011】
一般式(III)において、Rはメチル基が好ましい。
またR1、R2及びR3はそれぞれ独立的にフッ素置換されていても良い炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数3〜8のアルケニルオキシ基を表すが炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基又は3〜6のアルケニルオキシ基が好ましく、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルコキシル基又は炭素原子数2〜6のアルケニル基がより好ましく、アルケニル基としては以下の構造が好ましい。
【0012】
【化3】

Z1、Z2、Z3及びZ4はそれぞれ独立的に単結合、−CH2CH2−、−(CH24−、−OCH2−、−CH2O−、−COO−、−C≡C−又は−CH=N-N=CH−を表すが単結合、−COO−、−C≡C−、−CH=N-N=CH−が特に好ましい。
【0013】
ははシアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメトキシ基、水素原子又は3,3,3−トリフルオロエトキシ基を表すがシアノ基、フッ素原子がより好ましく、シアノ基が特に好ましい。
X1及びX3は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表すが水素原子又はフッ素原子が好ましい。
一般式(I)及び一般式(II)で表される化合物の具体的な化合物として以下の一般式
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基又は炭素原子数3〜6のアルケニルオキシ基を表す。)で表される構造が好ましく、さらに一般式(I−1)から一般式(I−54)に挙げた化合物のなかで一般式(I−1、I−3、I−4、I−8、I−10、I−11、I−13、I−14、I−22、I−25、I−26、I−28、I−29、I−31、I−33、I−36、I−38、I−41、I−45、I−46、I−47)から選ばれる化合物によって動作電圧、屈折率異方性、液晶相転移温度などを調整したホスト液晶が、動作電圧を一定に保ちながらより高いコントラストと高速応答を実現する上で好ましいが一般式(I−1、I−3、I−4、I−10、I−11、I−13、I−14、I−22、I−33、I−36、I−45、I−46、I−47)から選ばれる化合物が特に好ましい。
【0018】
本発明の液晶組成物は、液晶相転移温度は70〜150℃が好ましく、80〜130℃が特に好ましい。またΔnは0.07〜0.30が好ましく、0.13〜0.25が特に好ましい。
【0019】
第1成分に対して第2成分が、90°〜250°ツイストセルにおいて、セル厚d(μm)とねじれピッチ長P(μm)の比(d/P値)が低次元ドメイン、ストライプドメイン、ハイツイストドメインの発生しない0.05〜0.8の範囲で必要相当量含まれた液晶組成物。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を*29167挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『重量%』を意味する。
【0021】
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
【0022】
TNI :ネマティック相―等方性液体相転移温度(℃)
Vth :240°STN−LCDに注入した時のしきい値電圧(V)Static 1000Hz
γ :V90/V10(Vth) Static 1000Hz
τ :240°STN−LCDに注入した時の応答速度(ms)
Δn :複屈折率
STN−LCD表示素子の作製は以下のように行った。ネマティック液晶組成物にカイラル物質を添加して混合液晶を調整し、対向する平面透明電極上に「サンエバー150」(日産化学社製)の有機膜をラビングして配向膜を形成したツイスト角240度のSTN-LCD表示用セルに注入した。なお、カイラル物質はカイラル物質の添加による混合液晶の固有らせんピッチPと表示用セルのセル厚dが、Δn・d=0.85、d/p=0.50となるように添加した。
(実施例1及び比較例1から3)
ネマティック液晶組成物 M1
【0023】
【化7】

【0024】
TNI= 100 Δn= 0.130 Vth = 1.9V
を調整し、これに、カイラル剤として式(III)で表される化合物を用いて実施例1の液晶組成物を構成した。又、式(IV)、式(V)及び式(VI)で表される化合物を用いて液晶組成物を構成し比較例1から3の液晶組成物を調整した。これらの組成及び物性値を表1に示す。
【0025】
【化8】

【0026】
【表1】

【0027】
*; 式(V):式(VI)=2:1
表1に示されるように、式(III)で表されるカイラル剤を使用した実施例1の液晶組成物は、動作電圧の温度依存性(mV/℃)が、式(IV)から式(VI)で表されるカイラル剤を用いた比較例の液晶組成物と比較して大幅に改善されていることが明らかである。
作成した実施例1及び比較例1から3の液晶組成物の応答速度(τr=τd)の値を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示されるように、式(III)で表されるカイラル剤を使用した実施例1の液晶組成物は、応答速度が、式(IV)から式(VI)で表されるカイラル剤を用いた比較例の液晶組成物と比較して5%〜10%改善されていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)、及び一般式(II)
【化1】

(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立的にフッ素置換されていても良い炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基又は炭素原子数3〜8のアルケニルオキシ基を表し、A、B、C、D及びEはそれぞれ独立的に1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、3−メチル−1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基、フルオレン−2,7−ジイル基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、トランス−1,3ジオキサン−2,5−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基又はピリダジン−2,5−ジイル基を表し、これら環は更に1から3のフッ素原子により置換されていてもよくl、及びmはそれぞれ独立的に0、1もしくは2を表しZ1、Z2、Z3、及びZ4はそれぞれ独立的に単結合、−CH2CH2−、−(CH24−、−OCH2−、−CH2O−、−COO−、−C≡C−又は−CH=N-N=CH−を表し、X2はシアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメトキシ基、水素原子又は3,3,3−トリフルオロエトキシ基を表し、X1及びX3は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)で表せる化合物を併せて5種以上含有し、一般式(III)
【化2】

(式中、Rは炭素原子数1から3のアルキル基又は水素原子を表し、*は不斉炭素を表す。)
で表される化合物を0.025%~3.0%含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項2】
一般式(I−1)〜一般式(I−54)
【化3】

【化4】

【化5】

(式中R4,R5は炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数3〜8のアルケニルオキシ基を表す)で表される化合物を含有する請求項1記載の液晶組成物。
【請求項3】
一般式(III)を0.1〜2%含有する請求項1又は2記載の液晶組成物。
【請求項4】
一般式(I)で表される化合物を5〜95%含有し、一般式(II)で表される化合物を5〜95%含有し、一般式(III)表される化合物を0.02〜3%含有する請求項1記載の液晶組成物。
【請求項5】
ネマティック相―等方性液体相転移温度が60〜150℃でΔnが0.07〜0.30でありd/p が0.05〜0.8である請求項1〜4の何れかに記載の液晶組成物。
【請求項6】
請求項1〜5記載の液晶組成物を用いて構成した液晶表示素子。


【公開番号】特開2006−274142(P2006−274142A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97860(P2005−97860)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】