説明

液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器

【課題】表示品位を向上できる液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器を提供する。
【解決手段】マトリックス状に配列された複数の画素電極12及び斜方蒸着膜21を備えた回路基板20と、共通電極32及び斜方蒸着膜41を備えた対向基板30と、回路基板及び対向基板の間に狭持された液晶50とを有し、回路基板と対向基板との斜方蒸着膜は互いに対向して液晶に対面している液晶装置100は、少なくとも回路基板の斜方蒸着膜上にはシランカップリング剤層22が複数の画素電極の外側に対応する部分S2に設けられており、且つ、シランカップリング剤層が複数の画素電極の内側に対応する部分には設けられておらず、シランカップリング剤層は長鎖シランカップリング剤を有しているとともに、斜方蒸着膜の膜厚より薄く形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機配向膜を備えた液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器に関する。特に、液晶プロジェクタ(Liquid Crystal Projector)のライトバルブ(Light Valve)に好適な液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶プロジェクタの高輝度化や小型化に伴って、液晶プロジェクタの液晶装置(Liquid Crystal Display)には小さい面積に強い光が入射されるので、従来のポリイミド等からなる有機配向膜では光や熱による劣化や変質のおそれがあった。そこで、SiO等の珪素酸化物を斜方蒸着してなる蒸着膜を無機配向膜として用いた液晶装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、前記無機配向膜は垂直配向方式の有機配向膜に比べて液晶分子の配向規制力が弱いとともに、TFT(Thin Film Transistor)基板等の回路基板における複数の画素電極の外側に対応する部分(以下、「外側部分」という。)はスイッチング素子と走査線と信号線とが高精細に配設されているために画素電位を印加すると横方向電界が発生することにより、前記外側部分の液晶に配向不良が発生するので、表示欠陥や画質低下が引き起こされた、表示として使用不可能な不適格領域が発生してしまう。特に、この不適格領域はFHD(Full High Definition)以上の画素数を有する高精細なディスプレイに顕著に現れてしまう。このため、無機配向膜が液晶に付与するプレチルト角(Pretilt Angle)を大きくして液晶分子を傾斜した姿勢に配向すると、前記不適格領域は低減されるが液晶装置のコントラスト特性が低下してしまう。一方、無機配向膜が液晶に付与するプレチルト角を小さくして液晶分子を起立した姿勢に配向すると、液晶装置のコントラスト特性の低下は抑制されるが前記不適格領域が増加してしまう。したがって、無機配向膜では前記不適格領域の低減とコントラスト特性の低下抑制とを両立させることができないという問題があった。
【0004】
この問題点を解決するために、回路基板における前記外側部分のプレチルト角を回路基板における複数の画素電極の内側に対応する部分(以下、「内側部分」という。)のプレチルト角に比べて大きくして、前記不適格領域の低減とコントラスト特性の低下抑制とを両立させた液晶装置が考案されている。この種類の液晶装置は例えば特許文献2に記載されている。
【0005】
特許文献2に記載の液晶装置は、マトリックス状に配列された複数の画素電極を備えた回路基板と対向基板とシール材とによって囲まれた閉鎖空間内に液晶が充填されてなる液晶装置であって、前記回路基板の前記内側部分に第1無機配向膜と第2無機配向膜とが2層設けられているとともに、前記回路基板の前記外側部分に前記第2無機配向膜が1層設けられており、又は、前記回路基板の前記内側部分に前記第1無機配向膜が1層設けられているとともに、前記回路基板の前記外側部分に前記第2無機配向膜が1層設けられており、前記外側部分における前記液晶のプレチルト角を前記内側部分における前記液晶のプレチルト角より大きい角度に設定してなる液晶装置が記載されている。ここで、プレチルト角とは基板平面に直交する方向と液晶分子の長軸方向(Director)とのなす角度をいう。
【0006】
また、シランカップリング剤(Silane Coupling Agents)によって無機配向膜を表面処理してなる液晶装置が考案されており、例えば、特許文献3に記載されている。この特許文献3に記載の液晶装置は、一対の基板とシール材とによって囲まれた閉鎖空間内に液晶が充填されてなる液晶装置であって、前記一対の基板の各内面上に珪素酸化物を斜方蒸着してなる無機配向膜が設けられ、これら無機配向膜が異なる分子量の複数のシランカップリング剤によって表面処理されてなる液晶装置が記載されている。これにより、無機配向膜の表面が撥水化されて防湿性が向上し、水分による液晶劣化を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−126463号公報
【特許文献2】特開2005−107373号公報
【特許文献3】特開2007−127757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の液晶装置は、前記第1無機配向膜と前記第2無機配向膜との2種類の無機配向膜が設けられていることにより、斜方蒸着を2回行う必要があるので、製造コストが増加してしまうという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の液晶装置のうち、前記回路基板の前記内側部分に第1無機配向膜と第2無機配向膜とが2層設けられているとともに、前記回路基板の前記外側部分に前記第2無機配向膜が1層設けられているものは、前記内側部分と前記外側部分との境界位置に前記第1無機配向膜の膜厚と同じ厚みを備えた段差が形成され、この段差によって前記液晶に配向不良が生ずるので、前記不適格領域の低減が抑制されてしまうという問題がある。
【0010】
そこで、上記問題点を解決するものであり、その課題は、前記外側部分における前記液晶のプレチルト角を前記内側部分における前記液晶のプレチルト角より大きい角度に設定してなる液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器であって、製造コストを低減できるとともに前記不適格領域を低減して表示品位を向上できる液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明の液晶装置は、マトリックス状に配列された複数の画素電極と、前記複数の画素電極をそれぞれ駆動する複数のスイッチング手段と、前記複数のスイッチング手段にそれぞれ接続された複数の信号線及び複数の走査線並びに珪素酸化物からなる斜方蒸着膜を備えた回路基板と、共通電極及び珪素酸化物からなる斜方蒸着膜を備えた対向基板と、前記回路基板及び前記対向基板の間に狭持された液晶と、を有し、前記回路基板と前記対向基板との前記斜方蒸着膜は互いに対向して前記液晶に対面している液晶装置であって、前記回路基板と前記対向基板とのうちの少なくとも前記回路基板の前記斜方蒸着膜上にはシランカップリング剤層が前記複数の画素電極の外側に対応する部分に設けられており、且つ、前記シランカップリング剤層が前記複数の画素電極の内側に対応する部分には設けられておらず、前記シランカップリング剤層は長鎖シランカップリング剤を有しているとともに、前記斜方蒸着膜の膜厚より薄く形成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、前記回路基板と前記対向基板とのうちの少なくとも前記回路基板の前記斜方蒸着膜上にはシランカップリング剤層が前記複数の画素電極の外側に対応する部分に設けられており、且つ、前記シランカップリング剤層が前記複数の画素電極の内側に対応する部分には設けられておらず、前記シランカップリング剤層は前記斜方蒸着膜の膜厚より薄く形成されていることにより、前記回路基板と前記対向基板とのうちの少なくとも前記回路基板において、前記複数の画素電極の外側に対応する部分と前記複数の画素電極の内側に対応する部分との境界位置に、前記斜方蒸着膜の膜厚より薄い厚みを備えた段差が形成されるので、前記回路基板における前記複数の画素電極の外側に対応する部分に斜方蒸着膜を1層設けるとともに前記回路基板における前記複数の画素電極の内側に対応する部分に斜方蒸着膜を2層設ける場合に比べて、前記段差を低くすることができ、この段差に起因する前記液晶の配向不良を低減して不適格領域を低減でき、表示品位を向上できる。
【0013】
ここで、前記長鎖シランカップリング剤は長鎖の有機官能基を備えたシランカップリング剤であり、前記長鎖の有機官能基は炭素数が8以上の有機官能基であり、前記有機官能基は例えばアルキル基である。前記長鎖シランカップリング剤は例えばデシルトリメトキシシランである。
【0014】
また、前記シランカップリング剤層は前記長鎖シランカップリング剤と短鎖シランカップリング剤とを有していてもよい。前記短鎖シランカップリング剤は短鎖の有機官能基を備えたシランカップリング剤であり、前記短鎖の有機官能基は炭素数が1の有機官能基であり、前記有機官能基は例えばメチル基である。前記短鎖シランカップリング剤は例えばヘキサメチルジシラザンやトリメチルメトキシシランやメチルトリメトキシシランやビニルオキシトリメチルシランである。
【0015】
本発明において、前記シランカップリング剤層は前記回路基板の前記斜方蒸着膜上にのみ設けられていることを特徴とする。この発明によれば、前記シランカップリング剤層は前記回路基板の前記斜方蒸着膜上に設けられており、前記対向基板の前記斜方蒸着膜上に設けられていないので、前記回路基板の前記シランカップリング剤層と前記対向基板の前記シランカップリング剤層とが対向するように位置決めすることなく前記回路基板と前記対向基板とを貼り合わせることができ、前記シランカップリング剤層が前記回路基板と前記対向基板との両方に設けられている場合に比べて液晶装置の歩留まりを向上できる。
【0016】
本発明において、前記シランカップリング剤層は前記回路基板と前記対向基板との両方の前記斜方蒸着膜上に設けられていることを特徴とする。この発明によれば、前記シランカップリング剤層が前記回路基板と前記対向基板との両側から前記液晶を配向するので、前記シランカップリング剤層が前記回路基板の一方側から前記液晶を配向する場合に比べて、前記液晶中の液晶分子の姿勢を揃えることができ、前記液晶の配向性を向上できる。
【0017】
本発明の液晶装置の製造方法は、マトリックス状に配列された複数の画素電極を備えた回路基板と共通電極を備えた対向基板との間に液晶を狭持してなる液晶装置の製造方法であって、前記回路基板及び前記対向基板の両方の基板表面上に珪素酸化物を斜方蒸着法を用いて全面に亘って蒸着して斜方蒸着膜を形成する斜方蒸着膜形成工程と、前記斜方蒸着膜を長鎖シランカップリング剤によって表面処理して前記斜方蒸着膜の全面に亘ってシランカップリング剤層を形成するシランカップリング剤層形成工程と、真空紫外線をフォトマスクを通して前記シランカップリング剤層に照射して前記複数の画素電極の内側に対応する部分の前記シランカップリング剤層を除去し、前記シランカップリング剤層を前記複数の画素電極の外側に対応する部分に設けるシランカップリング剤層分割工程とを有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、前記シランカップリング剤層形成工程においてシランカップリング剤層を前記斜方蒸着膜の全面に亘って形成した後、前記シランカップリング剤層分割工程において真空紫外線をフォトマスクを通して前記シランカップリング剤層に照射して前記複数の画素電極の内側に対応する部分の前記シランカップリング剤層を除去して、前記シランカップリング剤層を前記複数の画素電極の外側に対応する部分に設けるので、斜方蒸着膜形成工程を2回行う場合に比べて、液晶装置を簡単かつ短時間に製造することができ、液晶装置の製造コストを低減できる。
【0019】
ここで、前記長鎖シランカップリング剤は長鎖の有機官能基を備えたシランカップリング剤であり、前記長鎖の有機官能基は炭素数が8以上の有機官能基であり、前記有機官能基は例えばアルキル基である。前記長鎖シランカップリング剤は例えばデシルトリメトキシシランである。また、前記シランカップリング剤層形成工程の表面処理方法は例えば化学気相成長法である。
【0020】
本発明において、前記シランカップリング剤層形成工程は前記斜方蒸着膜を前記長鎖シランカップリング剤によって表面処理した後に短鎖シランカップリング剤によって表面処理することを特徴とする。この発明によれば、前記斜方蒸着膜を前記長鎖シランカップリング剤によって表面処理した後に前記短鎖シランカップリング剤によって表面処理してなるシランカップリング剤層は、前記斜方蒸着膜を前記長鎖シランカップリング剤によって表面処理してなるシランカップリング剤層に比べて、プレチルト角が大きい角度になるので、前記液晶の液晶分子を横倒し易くすることができ、液晶装置の表示品位を向上できる。
【0021】
ここで、前記短鎖シランカップリング剤は短鎖の有機官能基を備えたシランカップリング剤であり、前記短鎖の有機官能基は炭素数が1の有機官能基であり、前記有機官能基は例えばメチル基である。前記短鎖シランカップリング剤は例えばヘキサメチルジシラザンやトリメチルメトキシシランやメチルトリメトキシシランやビニルオキシトリメチルシランである。また、前記シランカップリング剤層形成工程の表面処理方法は例えば化学気相成長法である。
【0022】
本発明の電子機器は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の液晶装置、あるいは請求項4又は請求項5に記載の製造方法によって得られた液晶装置を有することを特徴とする。この発明によれば、電子機器の表示品位が向上したものになる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように本発明によれば、シランカップリング剤層が斜方蒸着膜上の複数の画素電極の外側に対応する部分に設けられており、且つ、前記シランカップリング剤層が前記複数の画素電極の内側に対応する部分には設けられておらず、このシランカップリング剤層は斜方蒸着膜の膜厚より薄く形成されていることにより、前記複数の画素電極の内側に対応する部分に2層の斜方蒸着膜を設けるとともに前記複数の画素電極の外側に対応する部分に1層の斜方蒸着膜を設けた場合に比べて、複数の画素電極の内側に対応する部分と前記複数の画素電極の外側に対応する部分との境界位置の段差を低くすることができるので、段差に起因する液晶の配向不良を低減して液晶装置の表示品位を向上できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る実施形態の液晶装置の概略構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図2】本実施形態に係る液晶装置の1画素分の構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図3】斜方蒸着膜単独のプレチルト角に対する無機配向膜のプレチルト角を測定したグラフである。
【図4】長鎖シランカップリング剤と短鎖シランカップリング剤とからなるシランカップリング剤層を模式的に示す部分拡大図(a)と、長鎖シランカップリング剤のみからなるシランカップリング剤層を模式的に示す部分拡大図(b)である。
【図5】画素縁部の透過率分布を示すグラフである。
【図6】無機配向膜の製造工程を模式的に示す概略縦断面図(a)〜(e)である。
【図7】CVD装置の概略構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図8】液晶プロジェクタの要部を模式的に示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[液晶装置]
以下、本発明に係る実施形態の液晶装置について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る実施形態の液晶装置の概略構造を模式的に示す概略縦断面図であり、図2は本実施形態に係る液晶装置の1画素分の構造を模式的に示す概略縦断面図である。図1に示すように、本実施形態の液晶装置100は回路基板10と対向基板30と液晶50を有している。なお、この図1ではTFTスイッチング素子や信号線や走査線等を省略している。
【0026】
この回路基板10は、基板本体11と複数の画素電極12と無機配向膜20とを有している。この基板本体11はガラスや石英やアクリル樹脂等の透光性材料からなる平板であり、複数の画素電極12はインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide、以下ITOという。)等からなるものである。この基板本体11の内面上に複数の画素電極12がマトリックス状に配置されており、基板本体11と複数の画素電極12との上に基板本体11の全面に亘って無機配向膜20が積層されている。
【0027】
図2に示すように、この回路基板10の基板本体11と複数の画素電極12との間には、これら複数の画素電極12をそれぞれ駆動するゲート13a、ソース13b及びドレイン13c等を備えた複数のスイッチング素子13と、これら複数のスイッチング素子13にそれぞれ接続された複数の信号線14および複数の走査線15と、いわゆる蓄電容量を形成するための画素電位容量誘電体層16と、平坦化層17とがそれぞれ設けられている。
【0028】
図1及び図2に示すように、上記対向基板30は基板本体31と共通電極32と無機配向膜40とを有している。この基板本体31はガラスや石英やアクリル樹脂等の透光性材料からなる平板であり、共通電極32はITO等からなるものである。この基板本体31の内面上の全面に亘って共通電極32が設けられており、この共通電極32の上に基板本体31の全面に亘って無機配向膜40が積層されている。
【0029】
また、回路基板10の複数の画素電極12の外側に対応する部分(以下、「外側部分S2」という。)に遮光膜33が設けられており、液晶装置100の外側部分S2は非表示領域になっているとともに、液晶装置100の複数の画素電極12の内側に対応する部分(以下、「内側部分S1」という。)は表示領域になっている。これにより、液晶装置100の表示を高精細にできる。
【0030】
図1に示すように、回路基板10と対向基板30とにおける無機配向膜20、40はいずれも斜方蒸着膜21、41とシランカップリング剤層22、42とを有している。この斜方蒸着膜21、41はSiOやSiO等の珪素酸化物からなる多数の柱状体が密集してなるものであり、基板本体11、31の内面上の略全面に亘って設けられている。この斜方蒸着膜21、41の多数の柱状体は基板本体11、31に対して傾斜しており、この傾斜角度によって液晶50の液晶分子にプレチルト角が付与されるようになっている。これら斜方蒸着膜21と斜方蒸着膜41とは同一物である。
【0031】
無機配向膜20、40のシランカップリング剤層22、42はそれぞれ少なくとも長鎖シランカップリング剤を有している。これらシランカップリング剤層22とシランカップリング剤層42は同一物である。本実施形態ではシランカップリング剤層22、42はいずれも長鎖シランカップリング剤と短鎖シランカップリング剤とを含んでいる。
【0032】
ここで、長鎖シランカップリング剤とは長鎖の有機官能基を備えたシランカップリング剤をいい、短鎖シランカップリング剤とは短鎖の有機官能基を備えたシランカップリング剤をいう。一般的にシランカップリング剤は一分子中に有機官能基と加水分解基とを併せもつ有機珪素化合物であり、有機材料と無機材料を結ぶ仲介役としての働きをするので、複合材料の機械的強度の向上や接着性の改良、樹脂改良、表面改良等に用いられる。シランカップリング剤の構造式は、珪素原子をSiとし、アルキル基(−R)等の有機官能基をXとし、メトキシ基(−OCH)等の加水分解基をYとすると、式(XSiY)によって表される。有機官能基がアルキル基(C2n+1)−である場合、炭素数nが多くなるほど分子量が大きくなって長鎖になり、炭素数nが少なくなるほど分子量が小さくなって短鎖になる。本実施形態において長鎖の有機官能基とは炭素数nが8以上の有機官能基をいい(n≧8)、短鎖の有機官能基とは炭素数nが1の有機官能基をいう(n=1)。
【0033】
本実施形態では長鎖シランカップリング剤としてデシルトリメトキシシラン(英語化学名:N-Decyltrimethoxysilane, 分子式:C13H30O3Si、Chemical Abstracts Service(CAS)番号:5575-48-4)を用いた。このデシルトリメトキシシランの構造式(1)を以下に示す。
【0034】
【化1】

【0035】
また、本実施形態では短鎖シランカップリング剤としてヘキサメチルジシラザン(英語化学名:Hexamethyldisilazane, 分子式:C6H19NSi2、CAS番号:999-97-3)と、トリメチルメトキシシラン(英語化学名:Methoxytrimethylsilane, 分子式:C4H12OSi、CAS番号:1825-61-2)と、メチルトリメトキシシラン(英語化学名:Trimethoxy(methyl)silane, 分子式:C4H12O3Si、CAS番号:1185-55-3)と、ビニルオキシトリメチルシラン(英語化学名:Vinyloxytrimethylsilane, 分子式:C5H12OSi、CAS番号:6213-94-1)とをそれぞれ用いた。ヘキサメチルジシラザンの構造式(2)とトリメチルメトキシシランの構造式(3)とメチルトリメトキシシランの構造式(4)とビニルオキシトリメチルシランの構造式(5)とを以下に示す。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
図3に示すように、斜方蒸着膜単独のプレチルト角θ1'と斜方蒸着膜及びシランカップリング剤層を含む無機配向膜のプレチルト角θ2'とを比較すると、プレチルト角θ1'が4°のときデシルトリメトキシシラン及びヘキサメチルジシラザンのシランカップリング剤層を含む無機配向膜のプレチルト角θ2'は9°になり(図3の△参照)、プレチルト角θ1'が5°のときデシルトリメトキシシラン及びトリメチルメトキシシランからなるシランカップリング剤層を含む無機配向膜のプレチルト角θ2'と、デシルトリメトキシシラン及びメチルトリメトキシシランからなるシランカップリング剤層を含む無機配向膜のプレチルト角θ2'とはいずれも10°近くになり(図3の○及び▽参照)、さらに、プレチルト角θ1'が5°のときデシルトリメトキシシラン及びビニルオキシトリメチルシランからなるシランカップリング剤層を含む無機配向膜のプレチルト角θ2'は11°になった(図3の□参照)。したがって、斜方蒸着膜とシランカップリング剤層とを含む無機配向膜のプレチルト角θ2'は斜方蒸着膜単独のプレチルト角θ1'に比べて4°〜6°程大きくなる(θ2'>θ1')。
【0041】
図4(a)に示すように、これは、短鎖シランカップリング剤22b(42b)の加水分解基が長鎖シランカップリング剤22a(42a)と反応していない、斜方蒸着膜21(41)の表面にあるシラノール基の水酸基(OH−)と反応するので、長鎖シランカップリング剤22a(42a)に比べて付着量が少ないとともに、短鎖シランカップリング剤自体が垂直配向を阻害する働きをするからだと考えられる。
【0042】
また、別の実施形態のシランカップリング剤層は長鎖シランカップリング剤のみから構成されている。図3に示すように、斜方蒸着膜単独のプレチルト角θ1'が3°と4°と5°のとき、デシルトリメトキシシランからなるシランカップリング剤層を含む無機配向膜のプレチルト角θ2'は5°と6°と7°にそれぞれなった(図3の◇参照)。したがって、斜方蒸着膜と長鎖シランカップリング剤のみからなるシランカップリング剤層とを含む無機配向膜のプレチルト角θ2'は、斜方蒸着膜単独のプレチルト角θ1'に比べて約2°大きくなる(θ2'>θ1')。
【0043】
図4(b)に示すように、これは、長鎖シランカップリング剤(デシルトリメトキシシラン)22a、(42a)の加水分解基(メトキシ基(−OCH))が斜方蒸着膜21(41)の表面にあるシラノール基の水酸基(OH−)と反応し、長鎖シランカップリング剤22a、(42a)の長鎖の有機官能基(アルキル基)が伸びて、長鎖シランカップリング剤22a(42a)が斜方蒸着膜21(41)に針状に付着し、この長鎖シランカップリング剤22a(42a)の針状体と斜方蒸着膜21(41)の柱状体との相乗効果が液晶に作用するからだと考えられる。
【0044】
なお、長鎖シランカップリング剤としては、デシルトリメトキシシランの他に、ドデシルトリメトキシシラン(英語化学名:Dodecyltrimethoxysilane, 分子式:C15H34O3Si、CAS番号:3069-21-4)やトリメトキシテトラデシルシラン(英語化学名:Trimethoxytetradecylsilane, 分子式:C17H38O3Si、CAS番号:83038-82-8)やドデシルトエイエトキシシラン(N-Dodecyltriethoxysilane, 分子式:C18H40O3Si、CAS番号:18536-91-9)やヘキサデシルトリメトキシシラン(英語化学名:Hexadecyltrimethoxysilane, 分子式:C19H42O3Si、CAS番号:16415-12-6)やオクタデシルトリメトキシシラン(英語化学名:Octadecyltrimethoxysilane, 分子式:C21H46O3Si、CAS番号:3069-42-9)等が考えられる。これらシランカップリング剤の有機官能基はデシルトリメトキシシランの有機官能基より炭素数が多く、長鎖になっているからである。
【0045】
図1に示すように、無機配向膜20、40のシランカップリング剤層22、42は外側部分S2に設けられており、且つ、内側部分S1には設けられていない。このため、無機配向膜20、40の内側部分S1では斜方蒸着膜21、41が露出しているとともに、無機配向膜20、40の外側部分S2ではシランカップリング剤層22、42が露出しており、無機配向膜20、40は内側部分S1と外側部分S2との境界位置にシランカップリング剤層22、42の膜厚と同じ厚みを備えた段差が形成されている。
【0046】
ここで、斜方蒸着膜21、41の膜厚は50nmから100nmまでの範囲内であるとともに、シランカップリング剤層22、42の膜厚は3nm未満であり、このシランカップリング剤層22、42の膜厚は斜方蒸着膜21、41の膜厚より薄くなっている。したがって、無機配向膜20、40の内側部分S1と外側部分S2との境界位置にある段差は、内側部分S1に斜方蒸着膜を2層設けるとともに外側部分S2に斜方蒸着膜を1層設けた場合の無機配向膜の段差に比べて低くなっている。これにより、当該段差に起因する液晶の配向不良を低減できる。
【0047】
また、液晶50は負の誘電異方性を有し、電圧の印加により液晶分子が回動するものであり、回路基板10と対向基板30との間に狭持されており、無機配向膜20、40の内側部分S1では斜方蒸着膜21、41が液晶50に対面しているとともに、無機配向膜20、40の外側部分S2ではシランカップリング剤層22、42が液晶50に対面している。したがって、液晶50における内側部分S1の液晶分子51は斜方蒸着膜21、41によってプレチルト角θ1が付与されるようになっており、外側部分S2の液晶分子52は斜方蒸着膜21、41とシランカップリング剤層22、42とによってプレチルト角θ2が付与されるようになっている。ここで、プレチルト角とは基板表面に直交する方向と液晶分子の長軸方向とのなす角度をいう。
【0048】
ここで、図3に示すように、斜方蒸着膜とシランカップリング剤層とを含む無機配向膜によって付与されるプレチルト角θ2'は斜方蒸着膜単独のプレチルト角θ1'に比べて大きくなるので(θ2'>θ1')、液晶50における外側部分S2の液晶分子52のプレチルト角θ2は、内側部分S1の液晶分子51のプレチルト角θ1に比べて大きくなっており(θ2>θ1)、回路基板10と対向基板30との間に電圧が印加されていないときには、外側部分S2の液晶分子52は内側部分S1の液晶分子51に比べて傾斜した姿勢に配向されている。
【0049】
言い換えると、液晶50における内側部分S1の液晶分子51のプレチルト角θ1は、外側部分S2の液晶分子52のプレチルト角θ2に比べて小さくなっており(θ1<θ2)、回路基板10と対向基板30との間に電圧が印加されていないときには、内側部分S1の液晶分子51は外側部分S2の液晶分子52に比べて起立した姿勢に配向されている。
【0050】
この状態において、図1に示すように、液晶装置100の外側部分S2は非表示領域になっているとともに、液晶装置100の内側部分S1は表示領域になっており、液晶50の内側部分S1の液晶分子51のみが液晶装置100の表示に寄与しており、液晶50の外側部分S2の液晶分子52は液晶装置100の表示に寄与していない。これにより、液晶50の外側部分S2の液晶部分市52に起因する液晶装置100のコントラスト特性の低下を抑制できる。
【0051】
図5は画素縁部の透過率分布を示すグラフである。このグラフは画素電極の幅長が10μmであるとともに、画素電極の間の幅長が1μmである液晶装置を用いたシミュレーション(Simulation)結果であり、横軸の0位置が画素縁の位置を示し、横軸のプラス側(右側)は画素電極が設けられた内側部分S1であり、横軸のマイナス側(左側)は画素電極が設けられていない外側部分S2である。この状態において、液晶装置100に電圧を印加すると、二点鎖線cで示すように内側部分S1の透過率が1になるとともに外側部分S2の透過率が0になるのが理想であるが、内側部分S1と外側部分S2のプレチルト角θ1、θ2を同じ3°に設定した場合(θ1=θ2=3°)では点線bに示す透過率分布になり、内側部分S1のプレチルト角θ1を3°にするとともに外側部分S2のプレチルト角θ2を7°にして、外側部分S2のプレチルト角θ2を内側部分S1のプレチルト角θ1より大きくした場合(θ1=3°、θ2=7°、θ2>θ1)では実線aに示す透過率分布になった。
【0052】
図5に示すように、内側部分S1のプレチルト角θ1と外側部分S2のプレチルト角θ2を同じにした場合(θ1=θ2)では画素縁から約1.0μm内側部分S1に入った位置までの範囲は透過率が不十分であり、表示として使用不可能な不適格領域になっている(点線b参照)。一方、外側部分S2のプレチルト角θ2を内側部分S1のプレチルト角θ1より大きくした場合(θ2>θ1)では画素縁から約0.8μm内側部分S1に入った位置までの範囲が不適格領域になっている(実線a参照)。したがって、外側部分S2のプレチルト角θ2を内側部分S1のプレチルト角θ1より大きくすると、外側部分S2と内側部分S1のプレチルト角θ1、θ2を同じにした場合に比べて、不適格領域が低減される。これは内側部分S1の液晶分子51が液晶50の粘性により外側部分S2の液晶分子52に追随して横倒するからだと考えられる。
【0053】
上述のように構成された液晶装置100は、その内側部分S1では光が回路基板10と液晶50と対向基板30とを順次透過して液晶装置100の外側に出射し、その外側部分S2では光が遮光膜33によって遮られて液晶装置100の外側に出射しない。
【0054】
この実施形態では、液晶50における外側部分S2のプレチルト角θ2は内側部分S1のプレチルト角θ1に比べて大きい角度に設定されており、電圧印加によって内側部分S1の液晶分子51を外側部分S2の液晶分子52に追随させて横倒させることができるので、外側部分S2と内側部分S1のプレチルト角θ1、θ2を同じにした場合に比べて、液晶装置100の不適格領域を低減でき、液晶装置100の表示を高精細にできる。
【0055】
また、液晶50における内側部分S1の液晶分子51は外側部分S2の液晶分子52に比べて起立した姿勢に配向されており、遮光膜33によって液晶50の内側部分S1の液晶分子51のみが液晶装置100の表示に寄与しており、液晶50の外側部分S2の液晶分子52は液晶装置100の表示に寄与していないので、液晶50の外側部分S2の液晶分子52に起因する液晶装置100のコントラスト特性の低下を抑制できる。
【0056】
この実施形態では、シランカップリング剤層22、42は斜方蒸着膜21、42の外側部分S2に設けられており、且つ、斜方蒸着膜21、42の内側部分S1に設けられておらず、無機配向膜20、40は内側部分S1と外側部分S2との境界位置にシランカップリング剤層22、42の膜厚と同じ厚みを備えた段差が形成されており、このシランカップリング剤層22、42の膜厚は斜方蒸着膜21、41の膜厚より薄くなっているので、内側部分S1に斜方蒸着膜を2層設けるとともに外側部分S2に斜方蒸着膜を1層設ける場合に比べて、この段差を低くすることができ、この段差に起因する液晶50の配向不良を低減して液晶50の配向性を向上させることができる。
【0057】
また、回路基板10と対向基板30との両方の斜方蒸着膜21、41にシランカップリング剤層22、42が設けられており、回路基板10と対向基板30の間に液晶50が狭持されていることにより、液晶50は回路基板10と対向基板30との両側からシランカップリング剤層22、42によって配向させられるので、回路基板10の斜方蒸着膜21のみにシランカップリング剤層22が設けられて、液晶50が回路基板10の一方側からシランカップリング剤層22によって配向させられる場合に比べて、液晶50の配向性を向上できる。
【0058】
[液晶装置の製造方法]
次に、図6(a)から図6(e)までを参照して本発明に係る実施形態の液晶装置の製造方法を詳細に説明する。図6(a)から図6(e)までは無機配向膜の製造工程を模式的に示す概略縦断面図である。本実施形態の液晶装置の製造方法は、電極形成工程と、斜方蒸着膜形成工程と、シランカップリング剤層形成工程と、シランカップリング剤層分割工程とを有している。
【0059】
まず、ガラスや石英やアクリル樹脂等の透光性材料からなる基板本体11、31を2枚用意して、電極形成工程を行う。図6(a)に示すように、この電極形成工程では、一方の基板本体11の基板表面上に図示しない半導体層、走査線や信号線等の各種配線を公知の方法で形成してから複数の画素電極12を公知の方法で形成し、他方の基板本体31の基板表面上に遮光膜33と共通電極32を公知の方法で形成する。
【0060】
図6(b)に示すように、次に斜方蒸着膜形成工程を行う。この斜方蒸着膜形成工程では2枚の基板本体11、31の基板表面上にSiO等の珪素酸化物を公知の斜方蒸着法を用いて全面に亘ってそれぞれ蒸着して、斜方蒸着膜21、41をそれぞれ形成する。
【0061】
次にシランカップリング剤層形成工程を行う。図6(c)に示すように、このシランカップリング剤層形成工程では、2枚の基板本体11、31の基板表面上に全面に亘ってシランカップリング剤層22、42をそれぞれ形成する。
【0062】
具体的には、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition, 以下CVDという。)を用いる。図7に示すように、基板本体11(31)と液状の長鎖シランカップリング剤22a(42a)とをCVD装置70の真空槽の如き密閉容器71に入れた状態で、この長鎖シランカップリング剤22a(42a)をヒータ72によって気化させて、基板本体11(31)の基板表面の全面に亘って付着させてから、長鎖シランカップリング剤22a(42a)を密閉容器71から取り出して液状の短鎖シランカップリング剤22b(42b)を密閉容器71に入れて、この状態で、短鎖シランカップリング剤22b(42b)をヒータ72によって気化させて、基板本体11、31の基板表面の全面に亘って付着させる。本実施形態では、長鎖シランカップリング剤22a(42a)にデシルトリメトキシシランを用いて大気圧下において150℃で1時間処理を行ってから、短鎖シランカップリング剤22b(42b)にヘキサメチルジシラザンを用いて大気圧下において25℃で1時間処理を行った。
【0063】
別の実施形態のシランカップリング剤層形成工程は、図7に示すように、基板本体11(31)と液状の長鎖シランカップリング剤22a(42a)とをCVD装置70の真空槽の如き密閉容器71に入れた状態で、この長鎖シランカップリング剤22a(42a)をヒータ72によって気化させて、基板本体11(31)の基板表面の全面に亘って付着させて、図6(c)に示すように、2枚の基板本体11、31の基板表面の全面に亘ってシランカップリング剤層21、41をそれぞれ形成する。この実施形態では、長鎖シランカップリング剤22a(42a)にデシルトリメトキシシランを用いて大気圧下において150℃で1時間処理を行った。
【0064】
図6(d)に示すように、次にシランカップリング剤層分割工程を行う。このシランカップリング剤層分割工程では、2枚の基板本体11、31を真空槽の如き密閉容器80に入れた状態で、真空紫外線(Vacuum Ultra Violet)UVを複数の画素電極12に対応する部分81a、82aが開口したフォトマスク81、82を通して2枚の基板本体11、31の基板表面上にそれぞれ照射する。ここで、真空紫外線とは波長範囲が100nmから200nmまでの紫外線をいい、本実施形態では密閉容器80の中を真空紫外線UVの減衰防止のために10Pa等に減圧させた状態で、185nmから250nmまでの波長範囲の真空紫外線が出射する低圧水銀ランプを用いて約10秒間から5分間までの範囲内の所定時間照射した。
【0065】
図6(e)に示すように、上記シランカップリング剤層分割工程を行うと、複数の画素電極12の内側に対応する内側部分S1のシランカップリング剤層22、42は分解して除去され、複数の画素電極12の外側に対応する外側部分S2のシランカップリング剤層22、42が残存し、シランカップリング剤層22、42が外側部分S2の斜方蒸着膜21、41の上に設けられた状態になる。このシランカップリング剤層の除去は、真空紫外線UVの照射によりシランカップリング剤層22、42の有機官能基が直接励起されるとともにオゾン等の活性酸素が生成されて、この活性酸素によって励起されたシランカップリング剤層が酸化されるためだと考えられている。
【0066】
最後に、これら2枚の基板本体11、31の間に図示しない環状のシール材を介して貼り合わせて、2枚の基板本体11、31とシール材との間の閉鎖空間内に液晶50を充填し、これら2枚の基板本体11、31の外面上に図示しない偏光板をそれぞれ貼付する。これにより、液晶装置100が製造される。
【0067】
この実施形態では、シランカップリング剤層分割工程において真空紫外線UVをフォトマスク81、82を通して基板本体11、31の基板表面上に照射するだけで、シランカップリング剤層22、42を外側部分S2にのみ設けることができるので、斜方蒸着膜形成工程を2回行って2つの斜方蒸着膜を形成する場合に比べて、内側部分S1と外側部分S2とでプレチルト角が異なる液晶装置を簡単かつ短時間に製造することができ、液晶装置の製造コストを低減できる。
【0068】
[電子機器]
次に、本発明の実施形態に係る電子機器の一実施形態としての液晶プロジェクタについて説明する。図8に示すように、液晶プロジェクタ1000は、メタルハライド等のランプ201及びランプ201の光を反射するリフレクタ202を含む光源200と、光源200の白色光に含まれる赤色光を透過するが青色光及び緑色光を反射する第1ダイクロイックミラー301と、第1ダイクロイックミラー301を透過した赤色光を反射する第1反射ミラー310と、第1ダイクロイックミラー301によって反射された青色光を透過するが緑色光を反射する第2ダイクロイックミラー302と、入射レンズ421、リレーレンズ422、出射レンズ423及び2枚の第2反射ミラー411、412を含んでおり、第2ダイクロイックミラー302を透過した青色光を入射して方向を変換させて出射させる導光手段400と、上記実施形態に係る液晶装置100から構成されており、第1反射ミラー310によって反射された赤色光、第2ダイクロイックミラー302によって反射された緑色光及び導光手段400から出射される青色光がそれぞれ入射される3つの光変調手段110、120、130と、4つの直角プリズムから構成されており、3つの光変調手段110、120、130からそれぞれ出射された赤色光、緑色光及び青色光を合成して合成光を出射するクロスダイクロイックプリズム500と、この合成光をスクリーン600に拡大投射してスクリーン600にカラー画像を表示させる投射レンズ320とを有している。
【0069】
この実施形態では、液晶プロジェクタ1000は3つの光変調手段110、120、130を備えており、これら3つの光変調手段110、120、130は上記実施形態に係る液晶装置100から構成されているので、液晶プロジェクタ1000の表示品位が向上したものになる。
【0070】
尚、本実施形態の液晶装置、液晶装置の製造方法及び電子機器は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。例えば、本実施形態の液晶装置100における回路基板10と対向基板30の無機配向膜20、40はいずれもシランカップリング剤層22、42を有しているが、回路基板10の無機配向膜20のみがシランカップリング剤層22を有しており、対向基板30の無機配向膜40はシランカップリング剤層42を有していなくてもよい。回路基板10と対向基板30を貼り合わせて液晶装置100を製造する際に、回路基板10のシランカップリング剤層22と対向基板30のシランカップリング剤層42とが対向するように位置決めする必要がないので、液晶装置100の歩留まりを向上させることができるからである。
【0071】
また、本実施形態の液晶装置100はスイッチング素子としてTFTを備えているが、スイッチング素子として薄膜ダイオード(Thin Film Diode, TFD)等の二端子型素子を備えていてもよい。さらに、本実施形態の液晶装置100は透過型であるが、反射型であってもよい。
【0072】
なお、本実施形態の液晶装置の製造方法は、そのシランカップリング剤層分割工程において真空紫外線が出射する光源に低圧水銀ランプを用いているが、エキシマレーザやエキシマランプ等でもよい。
【0073】
また、本実施形態の電子機器は液晶プロジェクタ1000であるが、表示部が設けられていれば他の電子機器でもよく、例えば、携帯電話、ICカード、ビデオカメラ、パーソナルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、ファクシミリ装置、デジタルカメラ、テレビ、DSP装置、PDA、電子手帳、電光掲示板および宣伝広告用ディスプレイ等でもよい。
【符号の説明】
【0074】
100…液晶装置、110、120、130…光変調手段、10…回路基板、11、31…基板本体、12…画素電極、13…スイッチング素子、13a…ゲート、13b…ソース、13c…ドレイン、14…信号線、15…走査線、16…画素電位容量誘電体層、17…平坦化層、20、40…無機配向膜、21、41…斜方蒸着膜、22、42…シランカップリング剤層、22a、42a…長鎖シランカップリング剤、22b、42b…短鎖シランカップリング剤、30…対向基板、32…共通電極、33…遮光膜、50…液晶、51、52…液晶分子、70…CVD装置、71、80…密閉容器、72…ヒータ、81、82…フォトマスク、81a、82a…部分、200…光源、201…ランプ、202…リフレクタ、301…第1ダイクロイックミラー、302…第2ダイクロイックミラー、310…第1反射ミラー、320…投射レンズ、400…導光手段、411、412…第2反射ミラー、421…入射レンズ、422…リレーレンズ、423…出射レンズ、500…クロスダイクロイックプリズム、600…スクリーン、1000…液晶プロジェクタ、θ1、θ1'、θ2、θ2'…プレチルト角、S1…内側部分、S2…外側部分、UV…真空紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス状に配列された複数の画素電極と、
前記複数の画素電極をそれぞれ駆動する複数のスイッチング手段と、
前記複数のスイッチング手段にそれぞれ接続された複数の信号線及び複数の走査線並びに珪素酸化物からなる斜方蒸着膜を備えた回路基板と、
共通電極及び珪素酸化物からなる斜方蒸着膜を備えた対向基板と、
前記回路基板及び前記対向基板の間に狭持された液晶と、
を有し、
前記回路基板と前記対向基板との前記斜方蒸着膜は互いに対向して前記液晶に対面している液晶装置であって、
前記回路基板と前記対向基板とのうちの少なくとも前記回路基板の前記斜方蒸着膜上にはシランカップリング剤層が前記複数の画素電極の外側に対応する部分に設けられており、且つ、前記シランカップリング剤層が前記複数の画素電極の内側に対応する部分には設けられておらず、
前記シランカップリング剤層は長鎖シランカップリング剤を有しているとともに、前記斜方蒸着膜の膜厚より薄く形成されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記シランカップリング剤層は前記回路基板の前記斜方蒸着膜上にのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記シランカップリング剤層は前記回路基板と前記対向基板との両方の前記斜方蒸着膜上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項4】
マトリックス状に配列された複数の画素電極を備えた回路基板と共通電極を備えた対向基板との間に液晶を狭持してなる液晶装置の製造方法であって、
前記回路基板及び前記対向基板の両方の基板表面上に珪素酸化物を斜方蒸着法を用いて全面に亘って蒸着して斜方蒸着膜を形成する斜方蒸着膜形成工程と、
前記斜方蒸着膜を長鎖シランカップリング剤によって表面処理して前記斜方蒸着膜の全面に亘ってシランカップリング剤層を形成するシランカップリング剤層形成工程と、
真空紫外線をフォトマスクを通して前記シランカップリング剤層に照射して前記複数の画素電極の内側に対応する部分の前記シランカップリング剤層を除去し、前記シランカップリング剤層を前記複数の画素電極の外側に対応する部分に設けるシランカップリング剤層分割工程と、
を有することを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項5】
前記シランカップリング剤層形成工程は前記斜方蒸着膜を前記長鎖シランカップリング剤によって表面処理した後に短鎖シランカップリング剤によって表面処理することを特徴とする請求項4に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の液晶装置、あるいは請求項4又は請求項5に記載の製造方法によって得られた液晶装置を有することを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−220596(P2012−220596A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84247(P2011−84247)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】