説明

液滴吐出ヘッドのクリーニング方法

【課題】ノズル内への気泡等の侵入を防いだ上で、クリーニングの作業時間を短縮し、効率的なクリーニングを行うことができる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】複数のノズルを覆った状態でキャップ部材をノズル面に当接させるキャッピング工程と、吸引ポンプを作動させ、内側空間内を負圧吸引する吸引工程とを有し、吸引工程では、大気開放弁を遮断した状態で、内側空間を負圧吸引する遮断吸引工程と、遮断吸引工程の終了後、大気開放弁を開放した状態で、内側空間を負圧吸引する開放吸引工程とを有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドのクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式で機能液の微小な液滴を吐出可能な液滴吐出ヘッドを用い、液晶表示装置や有機EL装置等のカラーフィルターに代表される各種の電気光学装置(フラットパネルディスプレイ:FPD)を製造する液滴吐出装置が知られている。この液滴吐出装置は、液滴吐出ヘッドに設けられたノズルから記録媒体に向けて液滴が吐出される構成になっている。
【0003】
上述した液滴吐出装置では、時間の経過に伴って気泡が成長したり、ノズル内の機能液が増粘したりすることで、液滴の吐出速度や吐出量が所望の値を超え、液滴のヌケや飛行曲がり等の吐出不良が生じる場合がある。そこで、液滴吐出装置では、液滴の吐出特性を一定の特性に維持するために、液滴吐出ヘッドに対して定期的なクリーニング処理を行っている。
【0004】
液滴吐出ヘッドのクリーニング方法としては、例えば特許文献1,2に示されるように、液滴吐出ヘッドのノズル面にキャップを押し付けてキャッピング状態とした後、吸引ポンプ等によりキャップ内を負圧吸引することで、ノズル内の機能液等を吸引するようになっている。また、特許文献1,2にあっては、弁手段を介してキャップ内と大気とを連通可能とする大気開放口を、キャップに設けている構成が開示されている。この場合、キャッピング状態のまま吸引ポンプを停止させた後、キャップ内の負圧が自然に大気圧まで復帰した時点で弁手段を開弁する。そして、弁手段を開弁した状態で再びキャップ内を吸引することで、キャップ内に残存している廃液等をキャップ外に排出できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−169668号公報
【特許文献2】特許第3259748号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した液滴吐出装置にあっては、上述した電気光学装置の製造効率の向上を図るため、上述したクリーニングの作業時間を可能な限り短縮したいという要請がある。
この場合、特許文献1,2の構成では、上述したようにキャップ内の負圧が自然に大気圧に復帰するまで待機してから弁手段を開き、その後吸引動作を行うため、クリーニングに長い時間を要する。
【0007】
しかしながら、キャップ内が負圧状態のうちに弁手段を開弁すると、キャップの内部と外部(大気)との圧力差により、弁手段を開弁した瞬間に大気開放口から負圧状態のキャップ内に大気が勢いよく流入する。そして、キャップ内に流入した大気は、そのままノズル内に侵入して、ノズル内で気泡となって残存する虞がある。その結果、クリーニング後においても、未だに液滴のヌケや飛行曲がりが解消できず、吐出不良が生じるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ノズル内への気泡等の侵入を防いだ上で、クリーニングの作業時間を短縮し、効率的なクリーニングを行うことができる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、複数のノズルから機能液の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを、前記複数のノズルが配列されたノズル面に当接可能なキャップ部材を用いてクリーニングする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法であって、前記キャップ部材には、前記ノズル面と前記キャップ部材との間に形成される内側空間内に連通する吸引手段と、前記内側空間と外部との連通及び遮断を切替可能な大気開放部とが設けられ、前記複数のノズルを覆った状態で前記キャップ部材を前記ノズル面に当接させるキャッピング工程と、前記吸引手段を作動させ、前記内側空間内を負圧吸引する吸引工程とを有し、前記吸引工程では、前記大気開放部を遮断した状態で、前記内側空間を負圧吸引する遮断吸引工程と、前記遮断吸引工程の終了後、前記大気開放部を開放した状態で、前記内側空間を負圧吸引する開放吸引工程とを有していることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、遮断吸引工程において、大気開放部を遮断した状態で内側空間内を負圧吸引することで、内側空間を介して液滴吐出ヘッド内に確実に負圧を印加することができる。そのため、ノズル内に存在する気泡がノズル内の増粘した機能液とともに、内側空間へ速やかに排出させ、ノズル内の気泡や増粘した機能液を除去することができる。
【0011】
特に、本発明によれば、遮断吸引工程後の開放吸引工程において、大気開放部を開放した状態で内側空間内を負圧吸引することで、大気開放部を介して内側空間内に大気が流入するが、この流入した大気の流通方向を吸引手段に向けて指向させることができる。すなわち、内側空間内に流入した大気は、内側空間を経由して内側空間内に残存する機能液とともに速やかに吸引手段によって吸引されるため、内側空間内に流入した大気がノズル内に向けて流通することを防ぐことができる。そのため、内側空間内に流入した大気がノズル内に気泡となって侵入することを防いだ上で、内側空間が負圧状態から大気圧まで復帰するのに要する時間(以下、復帰時間という)を短縮することができる。よって、クリーニングの作業時間を短縮し、効率的なクリーニングを行うことができるので、作業効率の向上を図ることができる。
また、内側空間内が負圧状態にある場合には、ノズル内から機能液が排出され続けるが、本発明では復帰時間を短縮することができるため、復帰時間中に排出される機能液の液量を減少させることができる。その結果、製造コストを低減することができるとともに、環境負荷を低減させることができる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記開放吸引工程における前記吸引手段の吸引力を、前記遮断吸引工程における前記吸引手段の吸引力に比べて低く設定することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、大気開放部の開閉に関わらず開放吸引工程における内側空間の負圧状態を、遮断吸引工程における内側空間の負圧状態に比べて確実に弱くすることができるため、内側空間内における圧力の復帰を促進することができる。また、ノズル内からの機能液の排出量を削減することができるので、製造コストを低減することができるとともに、環境負荷を低減させることができる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記遮断吸引工程と前記開放吸引工程との間に、前記吸引手段を所定時間停止する吸引停止工程を有することを特徴とする。
【0015】
ところで、吸引手段を停止すると、内側空間内の負圧によりノズルから内側空間内に機能液が流入し、機能液が内側空間内に流出され続けるとともに、これに伴って内側空間内の圧力が徐々に復帰していくことになる。
ここで、本発明によれば、遮断吸引工程から開放吸引工程への切替時に吸引停止工程を設けることで、内側空間の内部と外部との圧力差を縮小することができる。すなわち、開放吸引工程の開始時点における内側空間内の圧力変化量を減少させることができるので、大気開放部から内側空間に流入する大気がノズル内に侵入することを確実に防ぐことができる。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記開放吸引工程の終了後において、前記ノズル面をワイピングするワイピング工程を有していることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、開放吸引工程後にノズル面に残存する機能液を除去することができるので、液滴吐出ヘッドの印刷時や移動時等に余剰の機能液がノズル面から滴下することがなく、液滴吐出ヘッドの周辺の汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における液滴吐出装置の斜視図である。
【図2】クリーニング部の概略構成を示す図であり、(a)はクリーニング部の平面構成図、(b)はクリーニング部の斜視構成図、(c)はクリーニング部の要部の概略断面構成を示す図である。
【図3】液滴吐出ヘッドの概略構成図であり、(a)は液滴吐出ヘッドをワークステージ側から見た平面図、(b)は液滴吐出ヘッドの部分斜視図、(c)は液滴吐出ヘッドの1ノズル分の部分断面図である。
【図4】本実施形態のクリーニング方法(遮断吸引工程)を説明するための図であり、液滴吐出ヘッド及びクリーニング部の概略断面図である。
【図5】本実施形態のクリーニング方法(開放吸引工程)を説明するための図であり、液滴吐出ヘッド及びクリーニング部の概略断面図である。
【図6】各吸引工程において、吸引ポンプの動作時間に対する内側空間の圧力変化を示すグラフである。
【図7】吸引ポンプ及び大気開放弁の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、部材毎に縮尺を適宜変更している。
【0020】
(液滴吐出装置)
図1は、本実施形態に係る液滴吐出装置の概略構成図である。
この液滴吐出装置は、インクジェット法(液滴吐出法)により機能液Lの液滴L1(ともに図3(c)参照)を被処理基板に配置するものである。配置される機能液Lは、膜材料等の固形分を含有しており、乾燥させると固形分が残留するものである。すなわち、ここでいう機能液Lは、固形分を分散媒に分散させた分散液や、固形分を溶媒に溶解させた溶液等を含むものである。機能液の具体例としては、顔料や染料等を含んだカラーフィルター材料や、UVインク、金属配線等の導電膜パターンの形成材料である金属粒子を含んだコロイド溶液等が挙げられる。
【0021】
本実施形態では、上述したような機能液Lを膜材料に用いる液滴吐出装置として、カラーフィルター基板(記録媒体)の所定領域上に機能液L(カラーフィルター材料)の液滴L1を吐出してカラーフィルター層を形成する装置を説明する。なお、以下の説明においては、図1中に示されたXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材について説明する。図1におけるXYZ直交座標系は、X軸及びY軸がワークステージ2に対して平行となるよう設定され、Z軸がワークステージ2に対して直交する方向に設定されている。図1中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。
【0022】
図1に示されるように、液滴吐出装置IJは、装置架台1、ワークステージ2、ステージ移動装置3、キャリッジ4、液滴吐出ヘッド5、キャリッジ移動装置6、チューブ7、第1タンク8、第2タンク9、第3タンク10、制御装置11、及びクリーニング部15を備えている。
【0023】
装置架台1は、ワークステージ2及びステージ移動装置3の支持台である。ワークステージ2は、装置架台1上においてステージ移動装置3によってX軸方向に移動可能に設置されており、上流側の搬送装置(図示せず)から搬送されるカラーフィルター基板P(以下、基板Pという)を、真空吸着機構によりXY平面上に保持する。ステージ移動装置3は、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置11から入力される、ワークステージ2のX座標を示すステージ位置制御信号に基づいて、ワークステージ2をX軸方向に移動させる。
【0024】
キャリッジ4は、液滴吐出ヘッド5を搭載するものであり、キャリッジ移動装置6によってY軸方向及びZ軸方向に移動可能に設けられている。液滴吐出ヘッド5は、後述する複数のノズルN(図3参照)を備えており、制御装置11から入力される描画データや駆動制御信号に基づいて、機能液Lの液滴L1を吐出する。この液滴吐出ヘッド5は、機能液LのR(赤)、G(緑)、B(青)に対応して設けられており、それぞれの液滴吐出ヘッド5はキャリッジ4を介してチューブ7と連結されている。そして、R(赤)に対応する液滴吐出ヘッド5はチューブ7を介して第1タンク8からR(赤)用の機能液Lの供給を受け、G(緑)に対応する液滴吐出ヘッド5はチューブ7を介して第2タンク9からG(緑)用の機能液Lの供給を受け、また、B(青)に対応する液滴吐出ヘッド5はチューブ7を介して第3タンク10からB(青)用の機能液Lの供給を受けるようになっている。
【0025】
キャリッジ移動装置6は、例えば装置架台1を跨ぐ橋梁構造をしており、Y軸方向及びZ軸方向に対してボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置11から入力される、キャリッジ4のY座標及びZ座標を示すキャリッジ位置制御信号に基づいて、キャリッジ4をY軸方向及びZ軸方向に移動させる。
【0026】
チューブ7は、第1タンク8、第2タンク9及び第3タンク10とキャリッジ4(液滴吐出ヘッド5)とを連結する機能液Lの供給用チューブである。第1タンク8は、R(赤)用の機能液Lを貯蔵するとともに、チューブ7を介してR(赤)に対応する液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。第2タンク9は、G(緑)用の機能液Lを貯蔵するとともに、チューブ7を介してG(緑)に対応する液滴吐出ヘッド5に機能液Lを供給する。第3タンク10は、B(青)用の機能液Lを貯蔵するとともに、チューブ7を介してB(青)に対応する液滴吐出ヘッド5に機能液Lを供給する。
【0027】
制御装置11は、ステージ移動装置3にステージ位置制御信号を出力し、キャリッジ移動装置6にキャリッジ位置制御信号を出力するとともに、液滴吐出ヘッド5の駆動回路基板(不図示)に描画データ及び駆動制御信号を出力して、液滴吐出ヘッド5による液滴吐出動作、ワークステージ2の移動による基板Pの位置決め動作、キャリッジ4の移動による液滴吐出ヘッド5の位置決め動作の同期制御を行うことにより、基板P上の所定の位置に機能液Lの液滴L1(図3(c)参照)を吐出する。
【0028】
クリーニング部15は、キャリッジ4に搭載された液滴吐出ヘッド5に対する種々のクリーニングを行うためのものである。クリーニング部15は、液滴吐出ヘッド5におけるホームポジションに配設されている。このホームポジションは、非吐出動作時又は保管時等、液滴吐出装置IJが吐出動作休止状態にあるときにキャリッジ4が配置される領域である。これに対して、液滴吐出ヘッド5から基板P上に液滴を吐出する際のキャリッジ4の位置を吐出ポジションと呼ぶ。すなわち、吐出ポジションにおいて、キャリッジ4はワークステージ2の上方に位置する。
【0029】
(クリーニング部)
ここで、クリーニング部15について説明する。図2はクリーニング部15の概略構成を示す図である。具体的に、図2(a)はクリーニング部15の平面構成図、図2(b)はクリーニング部15の斜視構成図、図2(c)はクリーニング部15の要部の概略断面構成を示す図である。なお、クリーニング部15は、制御装置11からの制御信号により駆動されるようになっている。
【0030】
図2(a),(b)に示すように、クリーニング部15は、キャップ本体67と、キャップ本体67の上面に枠状に設けられ、ノズルプレート21(図3参照)の表面(ノズル面21a)に当接されるシール部材62と、液滴吐出ヘッド5のノズルプレート21のノズル面21aを払拭するワイピング工程時に用いられるワイプ部材63と、これらキャップ本体67及びワイプ部材63を一体的に保持する筐体部64と、を備えている。ワイプ部材63は例えばエラストマー等の弾性部材から構成されるものである。また、キャップ本体67は後述する液滴吐出ヘッド5のクリーニングにおいて、液滴吐出ヘッド5から吐出される機能液Lの廃液を受ける受け部材として機能する。
なお,ワイプ部材63は、エラストマー等の弾性部材に限らず、ポリエステル等、布状の材料を押し付ける等して使用してもよい。この場合は、特許第4058969号にあるような機構にて、布をロール状にして、機能液Lを拭き取りつつ、順次、新しい布の面がノズル面21aに当接するようすることが好ましい。
【0031】
図2(c)に示すように、キャップ本体67の内側には、液滴吐出ヘッド5のノズルNから排出された機能液Lを吸収する機能液吸収体65が、キャップ本体67の底部に沿って配置されている。機能液吸収体65はスポンジ等の多孔質部材から構成されている。なお、機能液吸収体65は単一のスポンジから構成してもよく、複数のスポンジを組み合わせることで形成してもよい。
【0032】
キャップ本体67の底部の幅方向(図2(c)中紙面奥行き方向)中央部には、底部を厚さ方向に貫通するように吸引口40及び大気開放口41が、キャップ本体67の底部の長手方向(図2(c)中左右方向)に沿って並んで設けられている。
吸引口40には、チューブ42の一端が接続されており、チューブ42の他端には廃液タンク61が接続されている。チューブ42の途中にはチューブ42内に負圧を発生させる吸引ポンプ(吸引手段)50が設けられている。廃液タンク61は、チューブ42及び吸引ポンプ50を介してキャップ本体67に連通し、液滴吐出ヘッド5から排出された廃液を回収するためのものである。
一方、大気開放口41には、チューブ43の一端が接続されており、チューブ43の他端は大気開放弁44を介して外部に連通している。大気開放弁44は、開弁及び閉弁を切り替えることで、キャップ本体67の内側と外部との連通及び遮断を切替可能とするものである。
【0033】
そして、キャップ本体67は、図示しない駆動手段によってZ軸方向に沿って上下動可能とされており、液滴吐出ヘッド5がホームポジション側に配されている場合に、シール部材62を介してノズル面21aに当接し、ノズルプレート21をキャッピングするようになっている。このキャッピング状態において、キャップ本体67の内側とノズルプレート21との間には、キャップ本体67によってノズル面21aが封止された内側空間S(図4参照)が形成される。なお、本実施形態のクリーニング部15は、ワイプ部材63も図示しない駆動手段によってZ方向に沿って上下動可能とされており、液滴吐出ヘッド5がホームポジション側に配されている場合に、ノズル面21aにワイプ部材63の先端が接触するようになっている。
【0034】
(液滴吐出ヘッド)
図3は液滴吐出ヘッド5の概略構成図である。図3(a)は液滴吐出ヘッド5をワークステージ2側から見た平面図、図3(b)は液滴吐出ヘッド5の部分斜視図、図3(c)は液滴吐出ヘッド5の1ノズル分の部分断面図である。
【0035】
図3(a)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、Y軸方向に配列された複数(例えば180個)のノズルNを備えている。そして、複数のノズルNによってノズル列NAが形成されている。図3(a)では1列分のノズルを示したが、液滴吐出ヘッド5に設けるノズル数及びノズル列数は任意に変更可能であり、Y軸方向に配列した1列分ノズルをX軸方向に複数列設けても良い。また、キャリッジ4内に配置する液滴吐出ヘッド5の数も任意に変更可能である。さらに、キャリッジ4をサブキャリッジ単位で複数設ける構成としても良い。
【0036】
図3(b)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、チューブ7と連結される材料供給孔20aが設けられた振動板20と、ノズルNが設けられたノズルプレート21と、振動板20とノズルプレート21との間に設けられたリザーバ22と、複数の隔壁23と、複数のキャビティ24とを備えている。ノズルプレート21は、例えばSUSから構成されるものであり、吐出ポジションにおいて、ノズル面21aと基板Pとが対向するようになっている。振動板20上には、各ノズルNに対応して圧電素子(駆動素子)PZが配置されている。圧電素子PZは、例えばピエゾ素子である。
【0037】
リザーバ22には、材料供給孔20aを介して供給される液状の機能液Lが充填されるようになっている。キャビティ24は、振動板20と、ノズルプレート21と、1対の隔壁23とによって囲まれるようにして形成されおり、各ノズルNに1対1に対応して設けられている。また、各キャビティ24には、一対の隔壁23の間に設けられた供給口24aを介して、リザーバ22から機能液Lが導入されるようになっている。
【0038】
図3(c)に示すように、圧電素子PZは、圧電材料25を一対の電極26で挟持したものであり、一対の電極26に駆動信号を印加すると圧電材料25が収縮するよう構成されたものである。そして、このような圧電素子PZが配置されている振動板20は、圧電素子PZと一体になって同時に外側(キャビティ24の反対側)へ撓曲するようになっており、これによってキャビティ24の容積が増大するようになっている。したがって、キャビティ24内に増大した容積分に相当する機能液が、リザーバ22から供給口24aを介して流入する。また、このような状態から圧電素子PZへの駆動信号の印加を停止すると、圧電素子PZと振動板20はともに元の形状に戻り、キャビティ24も元の容積に戻ることから、キャビティ24内の機能液Lの圧力が上昇し、ノズルNから基板Pに向けて機能液Lの液滴L1が吐出される。
【0039】
(クリーニング方法)
続いて、上述した液滴吐出装置IJ(液滴吐出ヘッド5)のクリーニング方法について説明する。
図4,図5は、本実施形態のクリーニング方法を説明するための図であり、液滴吐出ヘッド5及びクリーニング部15の概略断面図である。
図4(a)に示すように、まずキャップ本体67をノズル面21aに当接させるキャッピング工程を行う。具体的には、基板P(ワークステージ2)上、すなわち吐出ポジションに位置するキャリッジ4をクリーニング部15側(同図、−Y方向)、すなわちホームポジションまで移動させる。そして、クリーニング部15の駆動手段を駆動し、液滴吐出ヘッド5に向けて(Z軸方向上方)キャップ本体67を上昇させる。これにより、キャップ本体67がシール部材62を介して液滴吐出ヘッド5のノズル面21aに密着し、ノズルプレート21のノズル列NAがキャップ本体67に覆われたキャッピング状態となる。このキャッピング状態において、キャップ本体67とノズルプレート21との間には、ノズル列NAが封止された内側空間Sが形成される。これと同時に大気開放弁44を閉弁し、内側空間Sと外部とを遮断した遮断状態とする。
【0040】
図6は、各吸引工程において、吸引ポンプ50の動作時間に対する内側空間Sの圧力変化を示すグラフである。また、図7は、吸引ポンプ50及び大気開放弁44の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
次に、図4(b),図6,図7に示すように、キャップ本体67のキャッピング状態において、ノズルN内の機能液Lを吸引する遮断吸引工程を行う。具体的には、時間T1において、まず吸引ポンプ50を駆動させる(図6中ON1)。すると、内側空間S内の空気が、吸引口40からチューブ42を介して吸引ポンプ50により吸引される。なお、遮断吸引工程時における吸引ポンプ50の吸引力は、内側空間S内を十分に負圧とし、ノズルN内から機能液Lを吸引することができる程度に設定することが好ましく、この時の吸引力を遮断吸引出力とする。これにより、内側空間S内が減圧され、時間T2経過後(例えば、5秒後)には、内側空間Sが所定の負圧P1(例えば、大気圧に対して−70kPa程度)の負圧室となる。
【0041】
すると、内側空間S内に印加された負圧P1が、ノズルNからキャビティ24まで印加され、ノズルN内に存在する気泡が増粘した機能液Lとともに、ノズルNから内側空間Sへと排出される。そして、内側空間Sに排出された機能液Lは、機能液吸収体65に吸収された後、吸引ポンプ50によって負圧状態となったチューブ42内に流入する(図4中矢印Q)。そして、チューブ42内に流入した機能液Lは、チューブ42の他端側に接続されている廃液タンク61で回収される。これにより、ノズルN内の気泡や増粘した機能液Lが除去される。
【0042】
そして、内側空間S内の圧力を負圧P1の状態で所定時間保持(時間T2〜T3間:負圧保持時間(例えば、1〜2秒程度))した後、時間T3において吸引ポンプ50を停止させる(吸引停止工程)。すると、図4(c)に示すように、内側空間S内の負圧によりノズルNから内側空間S内に機能液Lが引き込まれ、機能液Lが内側空間S内に排出され続けるとともに、これに伴って内側空間S内の圧力が徐々に復帰していく。この際、内側空間S内に引き込まれた機能液Lは、吸引口40からチューブ42を介して廃液タンク61で回収されるため、内側空間S内に残存する機能液Lは徐々に少なくなる。
【0043】
ここで、図5(a),図6,図7に示すように、時間T3から所定時間経過後(例えば、1〜2秒後)、内側空間S内が負圧P2になった時点(図6,図7中時間T4)で、大気開放弁44を開弁し、これと同時に吸引ポンプ50を再び作動させる開放吸引工程を行う(図7中ON2)。大気開放弁44を開弁した状態で、吸引ポンプ50により内側空間S内を吸引すると、内側空間Sの内部と外部との圧力差により内側空間S外の大気が、チューブ43の他端側から入り込み、大気開放口41を介して負圧状態の内側空間S内に流入する(図5中矢印R)。これにより、内側空間S内の圧力が急増する。
【0044】
この時、本実施形態では、大気開放弁44の開弁と同時に吸引ポンプ50を作動させることで、ノズルN側の負圧状態よりも吸引口40(吸引ポンプ50)側の負圧状態の方が強くなる。これにより、大気開放口41から内側空間S内に連続的に流入する大気は、吸引口40に向けて積極的に流通する。すなわち、内側空間Sを経由した後、吸引ポンプ50によって速やかに吸引口40から吸引されることになる。
この開放吸引工程において、内側空間S内は、大気開放弁44の開弁時点での負圧P2よりも弱い負圧P3(例えば、大気圧に対して−15kPa程度)の負圧状態に保持される。これにより、大気開放口41から内側空間S内に流入してきた大気がノズルN内に向けて流通することを防止した上で、内側空間S内に残存する機能液Lを大気とともに吸引口40から回収することができる。
【0045】
なお、第2吸引工程における吸引ポンプ50の吸引力(以下、開放吸引出力という)は、上述した遮断吸引出力に比べて低出力に設定することが好ましい。具体的に、開放吸引出力は、大気開放口41から内側空間S内に流入した大気をノズルN内に向けて流入させ、かつノズルN内から機能液Lを排出させない程度に設定することが好ましい。このように設定することで、大気開放弁44の開閉に関わらず開放吸引工程における内側空間Sの負圧状態(負圧P3)を、遮断吸引工程における内側空間Sの負圧状態(負圧P2)に比べて確実に弱くすることができるため、内側空間S内における圧力の復帰を促進することができる。また、ノズルN内からの機能液Lの排出量を削減することができるので、製造コストを低減することができるとともに、環境負荷を低減させることができる。
【0046】
そして、時間T4から所定時間(例えば、2秒程度)経過後、時間T5において、吸引ポンプ50の動作を停止すると、内側空間Sの内部と外部との圧力差により、内側空間S外の大気が大気開放口41から内側空間S内に流入する。これにより、内側空間S内の圧力が増加し、内側空間S内が完全に大気圧まで復元する。この際、負圧P3と大気圧との圧力差は比較的小さいため、内側空間S内へ流入する大気の量は少ない。そのため、時間T5において、吸引ポンプ50を直ぐに停止したとしても、内側空間S内に流入する大気がノズルN内に侵入することはない。
そして、内側空間S内が復帰後、駆動手段を駆動させ、キャップ本体67を下降させることで、キャップ本体67をノズル面21aから離間させる。
【0047】
図5(b)に示すように、開放吸引工程の終了後、ノズル面21a上には、吸引工程で吸引しきれなかった機能液Lが付着して残存していることがある。そこで、ノズル面21a上に残存した機能液Lを除去するためのワイピング工程を行う。具体的には、まずワイプ部材63を不図示の駆動機構により上昇させることで、ノズルプレート21とワイプ部材63とが接触する位置までワイプ部材63を移動させる。その後、液滴吐出ヘッド5をホームポジションから吐出ポジションへ移動させると(図5(b)中矢印参照)、液滴吐出ヘッド5がワイプ部材63の上方を通過する際に、ワイプ部材63の先端によりノズル面21aが払拭される。これにより、吸引工程後にノズル面21aに残存する機能液Lを除去することができる。なお、ワイプ部材63により払拭された機能液Lは、キャップ本体67に受け止められるようになっている。
【0048】
このように、本実施形態では、大気開放弁44を遮断した状態で、内側空間Sを負圧吸引する遮断吸引工程と、遮断吸引工程の終了後、大気開放弁44を開放した状態で、内側空間Sを負圧吸引する開放吸引工程とを有する構成とした。
この構成によれば、遮断吸引工程において、大気開放弁44を遮断した状態で内側空間S内を負圧吸引することで、内側空間Sを介して液滴吐出ヘッド5(ノズルNからキャビティ24)内に確実に負圧P1を印加することができる。そのため、ノズルN内に存在する気泡がノズルN内の増粘した機能液Lとともに、内側空間Sへ速やかに排出され、ノズルN内の気泡や増粘した機能液Lを除去することができる。
【0049】
ここで、図6中鎖線は従来のクリーニング方法における内側空間S内の圧力変動を示している。
すなわち、従来のクリーニング方法にあっては、内側空間Sの大気開放弁44の開弁後にノズルN内への大気の侵入を防止するため、時間T3において吸引ポンプ50を停止した後、内側空間S内の負圧が自然に大気圧に復帰するまで待機(例えば、時間T5’)しなければならかった。その結果、クリーニングする度に長い時間を要していた。
【0050】
これに対して、本実施形態によれば、遮断吸引工程後の開放吸引工程において、大気開放弁44を開放した状態で内側空間S内を負圧吸引することで、大気開放弁44を介して内側空間S内に大気が流入するが、この流入した大気の流通方向を吸引ポンプ50に向けて指向させることができる。すなわち、内側空間S内に流入した大気は、内側空間Sを経由して内側空間S内に残存する機能液Lとともに速やかに吸引ポンプ50によって吸引されるため、内側空間S内に流入した大気がノズルN内に向けて流通することを防ぐことができる。そのため、内側空間S内に流入した大気がノズルN内に気泡となって侵入することを防いだ上で、内側空間Sの復帰時間を従来に比べて大幅に短縮することができる。
よって、クリーニングの作業時間を大幅に短縮し、効率的なクリーニングを行うことができるので、作業効率の向上を図ることができる。さらに、各吸引工程において、ノズルN内の気泡等を確実に除去することができるので、液滴L1のヌケや飛行曲がり等を防ぎ、信頼性の高い液滴吐出装置IJを提供することができる。
【0051】
また、各吸引工程において、内側空間S内が負圧状態にある場合には、ノズルN内から機能液Lが排出され続けるが、本実施形態では従来に比べて復帰時間を大幅に短縮することができるため、復帰時間中に排出される機能液Lの液量を減少させることができる。その結果、製造コストを低減することができるとともに、環境負荷を低減させることができる。
さらに、遮断吸引工程から開放吸引工程への切替時に吸引停止工程を設けることで、内側空間S内の圧力が徐々に復帰していくため、開放吸引工程の開始時点における内側空間Sの内部と外部との圧力差を縮小することができる。すなわち、開放吸引工程の開始時点における内側空間S内の圧力変化量を減少させることができるので、大気開放口41から内側空間S内に流入する大気がノズルN内に侵入することを確実に防ぐことができる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
例えば、各吸引工程における吸引ポンプ50の吸引力は適宜設定することが可能である。この場合、上述した実施形態では、遮断吸引出力と開放吸引出力との2段階の出力を用いて吸引ポンプ50を制御したが、これに限らず、2段階以上の複数段の出力を用いてもよく、また吸引ポンプ50の出力を漸次弱くするようにしてもよい。
さらに、上述した実施形態では、吸引ポンプ50の動作タイミングと大気開放弁44の開弁タイミングとを同時に設定した場合について説明したが、両タイミングを異なるように設定してもよい。この場合、吸引ポンプ50の動作タイミングを大気開放弁44の開弁タイミングよりも早く設定することが好ましい。
【0053】
また、上述した実施形態では、吸引ポンプ50を停止させた後、所定圧力増加後に再び吸引ポンプ50を作動させる場合について説明したが、これに限らず吸引ポンプ50を作動させたまま、大気開放弁44を開弁しても構わない。この場合、吸引ポンプ50の出力により内側空間S内の圧力を制御してもよく、また大気開放弁44の開閉量を調整することにより内側空間S内の圧力を制御してもよい。
【符号の説明】
【0054】
5…液滴吐出ヘッド 21…ノズル面 41…大気開放口(大気開放部) 44…大気開放弁(大気開放部) 50…吸引ポンプ(吸引手段) 67…キャップ本体(キャップ部材) L…機能液 L1…液滴 N…ノズル S…内側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから機能液の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを、前記複数のノズルが配列されたノズル面に当接可能なキャップ部材を用いてクリーニングする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法であって、
前記キャップ部材には、前記ノズル面と前記キャップ部材との間に形成される内側空間内に連通する吸引手段と、前記内側空間と外部との連通及び遮断を切替可能な大気開放部とが設けられ、
前記複数のノズルを覆った状態で前記キャップ部材を前記ノズル面に当接させるキャッピング工程と、
前記吸引手段を作動させ、前記内側空間内を負圧吸引する吸引工程とを有し、
前記吸引工程では、
前記大気開放部を遮断した状態で、前記内側空間を負圧吸引する遮断吸引工程と、
前記遮断吸引工程の終了後、前記大気開放部を開放した状態で、前記内側空間を負圧吸引する開放吸引工程とを有していることを特徴とする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項2】
前記開放吸引工程における前記吸引手段の吸引力を、前記遮断吸引工程における前記吸引手段の吸引力に比べて低く設定することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項3】
前記遮断吸引工程と前記開放吸引工程との間に、前記吸引手段を所定時間停止する吸引停止工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項4】
前記開放吸引工程の終了後において、前記ノズル面をワイピングするワイピング工程を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate