説明

液滴吐出ヘッドの検査方法

【課題】金属粒子と該金属粒子が分散する分散媒とを含むインク吐出するための液滴吐出ヘッドの吐出性を容易に評価することが可能な液滴吐出ヘッドの検査方法を提供すること。
【解決手段】本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法は、金属粒子と当該金属粒子が分散する分散媒とを含むインクを吐出する液滴吐出ヘッドの検査方法であって、前記インクの吐出性と相関を有し、かつ、前記インクと同一の分散媒を含む検査用インクを前記液滴吐出ヘッドから吐出し、前記検査用インクの吐出性を評価する検査用インク評価工程と、前記検査用インク評価工程における評価結果、および、前記検査用インクの吐出性と前記インクの吐出性との相関に基づいて、前記液滴吐出ヘッドからの前記インクの吐出性を評価する液滴吐出ヘッド評価工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドの検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路または集積回路などに使われる配線の製造には、例えばフォトリソグラフィ法が用いられている。このフォトリソグラフィ法は、予め導電膜を塗布した基板上にレジストと呼ばれる感光材を塗布し、回路パターンを照射して現像し、レジストパターンに応じて導電膜をエッチングすることで導体パターンからなる配線を形成するものである。このフォトリソグラフィ法は真空装置などの大掛かりな設備と複雑な工程を必要とし、また材料使用効率も数%程度でそのほとんどを廃棄せざるを得ず、製造コストが高い。
【0003】
これに対して、液体吐出ヘッドから液体材料を液滴状に吐出する液滴吐出法、いわゆるインクジェット法を用いて導体パターン(配線)を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、導電性微粒子(金属微粒子)を分散させた導体パターン形成用インクを基板に直接パターン塗布し、その後、溶媒を除去して導体パターン前駆体を得、焼結させることにより導体パターンに変換する。この方法によれば、フォトリソグラフィが不要となり、プロセスが大幅に簡単なものになるとともに、原材料の使用量も少なくてすむというメリットがある。また、この方法によれば、従来の方法と比較して、微細な導体パターンを形成することが可能であり、回路密度の向上に有利である。
【0004】
ところで、導体パターンの形成に用いる液滴吐出装置(産業用)は、プリンターに適用されるもの(民生用)とは全く異なるものであり、例えば、大量生産を行うため、複数の液滴吐出ヘッドから大量の液滴を長時間にわたって連続で吐出することが求められる。また、近年の配線密度の増大(配線の細線化)に伴い、液滴を吐出する間隔が短くなってきているため、耐久性が高く、また、吐出性能に優れた液滴吐出ヘッドの開発が行われている。
しかしながら、1つ1つの液滴吐出ヘッドの吐出性にはばらつきがあるため、高価な導体パターン形成用インクを各液滴吐出ヘッドから試し打ちをして、その結果をフィードバックした後でないと、信頼性の高い配線基板を製造するのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−84387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含むインク吐出するための液滴吐出ヘッドの吐出性を容易に評価することが可能な液滴吐出ヘッドの検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法は、金属粒子と当該金属粒子が分散する分散媒とを含むインクを吐出する液滴吐出ヘッドの検査方法であって、
前記インクの吐出性と相関を有し、かつ、前記インクと同一の分散媒を含む検査用インクを前記液滴吐出ヘッドから吐出し、前記検査用インクの吐出性を評価する検査用インク評価工程と、
前記検査用インク評価工程における評価結果、および、前記検査用インクの吐出性と前記インクの吐出性との相関に基づいて、前記液滴吐出ヘッドからの前記インクの吐出性を評価する液滴吐出ヘッド評価工程とを有することを特徴とする。
これにより、金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含むインクを吐出するための液滴吐出ヘッドの吐出性を容易に評価することが可能な液滴吐出ヘッドの検査方法を提供することができる。
【0008】
本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法では、前記インクと前記検査用インクとは、ともに、同一の表面張力調整剤を含むことが好ましい。
これにより、インクの吐出性と検査用インクの吐出性との相関性をより高いものとすることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法では、前記検査用インクは、前記インクの前記金属粒子を除いた成分を含んで構成されていることが好ましい。
これにより、インクの吐出性と検査用インクの吐出性との相関性をさらに高いものとすることができる。
【0009】
本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法では、前記検査用インクの吐出性は、前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置についての精度に基づく性能であることが好ましい。
これにより、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾精度を容易に検査することができる。
【0010】
本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法では、前記検査用インクの吐出性は、前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の重量についての精度に基づく性能であることが好ましい。
これにより、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の重量精度を容易に検査することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法では、前記検査用インクの吐出性は、前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の飛行速度についての精度に基づく性能であることが好まし
これにより、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の飛行速度精度を容易に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液滴吐出装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
【図2】液滴吐出ヘッドの概略構成の一例を示す模式図である。
【図3】検査用インクと導体パターン形成用インクとの相関関係を示すグラフである。
【図4】検査用インクと導体パターン形成用インクとの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《液滴吐出ヘッド(液滴吐出装置)》
まず、本発明の検査方法の説明に先立ち、本発明の検査方法に供される液滴吐出ヘッド(液滴吐出装置)について説明する。
図1は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図、図2は、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)の概略構成を説明するための模式図である。
【0013】
液滴吐出装置(インクジェット装置)100は、基材S(セラミックス成形体15)上に導体パターン形成用インク1を吐出し、導体パターンを形成するための装置である。
図1に示すように、液滴吐出装置100は、図2に示す液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド。以下、単にヘッドと呼ぶ)110と、ベース130と、テーブル140と、制御装置190と、テーブル位置決め手段170と、ヘッド位置決め手段180とを有している。
【0014】
ベース130は、テーブル140、テーブル位置決め手段170、およびヘッド位置決め手段180等の液滴吐出装置100の各構成部材を支持する台である。
テーブル140は、テーブル位置決め手段170を介してベース130に設置されている。また、テーブル140は、基材S(本実施形態ではセラミックス成形体15)を載置するものである。
【0015】
また、テーブル140の裏面には、ラバーヒータ(図示せず)が配設されている。テーブル140上に載置されたセラミックス成形体15は、その上面全体がラバーヒータにて所定の温度に加熱されるようになっている。
セラミックス成形体15に着弾したインク(後述する導体パターン形成用インク)1は、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックス成形体15は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進される。そして、セラミックス成形体15に着弾したインク1は、乾燥とともにその表面の外縁から増粘し、つまり、中央部に比べて外周部における固形分(粒子)濃度が速く飽和濃度に達することから表面の外縁から増粘していく。外縁の増粘したインク1は、セラミックス成形体15の面方向に沿う自身の濡れ広がりを停止するため、着弾径しいては線幅の制御が容易になる。
【0016】
セラミックス成形体15の加熱温度としては、例えば、40℃以上100℃以下で行うのが好ましく、50℃以上70℃以下で行うのがより好ましい。このような条件とすることにより、水系分散媒が蒸発した際に、クラックが発生するのをより効果的に防止することができる。
テーブル位置決め手段170は、第1移動手段171と、モータ172とを有している。テーブル位置決め手段170は、ベース130におけるテーブル140の位置を決定し、これにより、ベース130におけるセラミックスグリーンシート15の位置を決定する。
【0017】
第1移動手段171は、Y方向と略平行に設けられた2本のレールと、当該レール上を移動する支持台とを有している。第1移動手段171の支持台は、モータ172を介してテーブル140を支持している。そして、支持台がレール上を移動することにより、基材Sを載置するテーブル140は、Y方向に移動および位置決めされる。
モータ172は、テーブル140を支持しており、θz方向にテーブル140を揺動および位置決めする。
【0018】
ヘッド位置決め手段180は、第2移動手段181と、リニアモータ182と、モータ183、184、185とを有している。ヘッド位置決め手段180は、ヘッド110の位置を決定する。
第2移動手段181は、ベース130から立設する2本の支持柱と、当該支持柱同士の間に当該支持柱に支持されて設けられ、2本のレールを有するレール台と、レールに沿って移動可能でヘッド110を支持する支持部材(図示せず)とを有している。そして、支持部材がレールに沿って移動することにより、ヘッド110は、X方向に移動および位置決めされる。
【0019】
リニアモータ182は、支持部材付近に設けられており、ヘッド110のZ方向の移動および位置決めをすることができる。
モータ183、184、185は、ヘッド110を、それぞれα,β,γ方向に揺動および位置決めする。
以上のようなテーブル位置決め手段170およびヘッド位置決め手段180とにより、インクジェット装置100は、ヘッド110のインク吐出面115Pと、テーブル140上の基材Sとの相対的な位置および姿勢を、正確にコントロールできるようになっている。
【0020】
図2に示すように、ヘッド110は、インクジェット方式(液滴吐出方式)によってインク1をノズル(突出部)118から吐出するものである。本実施形態では、ヘッド110は、圧電体素子としてのピエゾ素子113を用いてインクを吐出させるピエゾ方式を用いている。ピエゾ方式は、インク1に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えないなどの利点を有する。
【0021】
ヘッド110は、ヘッド本体111と、振動板112と、ピエゾ素子113とを有している。
ヘッド本体111は、本体114と、その下端面にノズルプレート115とを有している。そして、本体114を板状のノズルプレート115と振動板112とが挟み込むことにより、空間としてのリザーバ116およびリザーバ116から分岐した複数のインク室117が形成されている。
【0022】
リザーバ116には、図示せぬインクタンクよりインク1が供給される。リザーバ116は、各インク室117にインク1を供給するための流路を形成している。
また、ノズルプレート115は、本体114の下端面に装着されており、インク吐出面115Pを構成している。このノズルプレート115には、インク1を吐出する複数のノズル118が、各インク室117に対応して開口されている。そして、各インク室117から対応するノズル118に向かって、インク流路が形成されている。
【0023】
振動板112は、ヘッド本体111の上端面に装着されており、各インク室117の壁面を構成している。振動板112は、ピエゾ素子113の振動に応じて振動可能となっている。
ピエゾ素子113は、その振動板112のヘッド本体111と反対側に、各インク室117に対応して設けられている。ピエゾ素子113は、水晶等の圧電材料を一対の電極(不図示)で挟持したものである。その一対の電極は、駆動回路191に接続されている。
【0024】
そして、駆動回路191からピエゾ素子113に電気信号を入力すると、ピエゾ素子113が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子113が収縮変形すると、インク室117の圧力が低下して、リザーバ116からインク室117にインク1が流入する。また、ピエゾ素子113が膨張変形すると、インク室117の圧力が増加して、ノズル118からインク1が吐出される。なお、印加電圧を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形量を制御することができる。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形速度を制御することができる。すなわち、ピエゾ素子113への印加電圧を制御することにより、インク1の吐出条件を制御し得るようになっている。
【0025】
制御装置190は、インクジェット装置100の各部位を制御する。例えば、駆動回路191で生成する印加電圧の波形を調節してインク1の吐出条件を制御したり、ヘッド位置決め手段180およびテーブル位置決め手段170を制御することにより基板Sへのインク1の吐出位置を制御する。
以上のようなインクジェット装置100を用いることにより、インク1を、セラミックス成形体15(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出し、配することができる。
【0026】
《導体パターン形成用インク》
次に、本発明の検査方法に供される液滴吐出ヘッドから吐出すべき、導体パターン形成用インクについて説明する。
導体パターン形成用インクは、前述した液滴吐出ヘッドから、導体パターン前駆体を形成するために吐出されるインクである。
なお、本実施形態では、金属粒子を水系分散媒に分散してなる分散液として、銀粒子が分散した分散液を用いた場合について代表的に説明する。
【0027】
以下、導体パターン形成用インクの各構成成分について詳細に説明する。
[水系分散媒]
まず、水系分散媒について説明する。
本明細書において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。
【0028】
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、導体パターン形成用インク中における水系分散媒の含有量は、25wt%以上60wt%以下であることが好ましく、30wt%以上50wt%以下であることがより好ましい。これにより、インクの粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
【0029】
[銀粒子]
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターンの主成分であり、導体パターンに導電性を付与する成分である。
また、銀粒子は、インク中において分散している。
【0030】
銀粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上30nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより高いものとすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0031】
また、インク中において、銀粒子の平均粒子間距離は、1.7nm以上380nm以下であるのが好ましく、1.75nm以上300nm以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性に特に優れたものとなる。
また、インク中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子(金属粒子))の含有量は、0.5wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上45wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターンの断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターンを提供することができる。
【0032】
また、銀粒子(金属粒子)は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子(金属コロイド粒子)として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、インクの吐出安定性が特に優れたものとなる。
分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とOH基の数が3個未満であったり、COOH基の数がOH基の数よりも少ないと、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
このような分散剤としては、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基が銀微粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とSH基の数が2個未満すなわち片方のみであると、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
【0034】
このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
インク中における銀コロイド粒子の含有量は、1wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上50wt%以下であるのがより好ましい。銀コロイド粒子の含有量が前記下限値未満であると、銀の含有量が少なく、導体パターンを形成した際、比較的厚い膜を形成する場合に、複数回重ね塗りする必要が生じる。一方、銀コロイド粒子の含有量が前記上限値を超えると、銀の含有量が多くなり、分散性が低下し、これを防ぐためには攪拌の頻度が高くなる。
【0036】
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1wt%以上25wt%以下が好ましい。コロイド粒子(固形分)を500℃まで加熱すると、表面に付着した分散剤、後述する還元剤(残留還元剤)等が酸化分解され、大部分のものはガス化されて消失する。残留還元剤の量は、僅かであると考えられるので、500℃までの加熱による減量は、銀コロイド粒子中の分散剤の量にほぼ相当すると考えられる。加熱減量が1wt%未満であると、銀粒子に対する分散剤の量が少なく、銀粒子の充分な分散性が低下する。一方、25wt%を超えると、銀粒子に対する残留分散剤の量が多くなり、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、導体パターンの形成後に加熱焼結して有機分を分解消失させることである程度改善することができる。そのため、より高温で焼結されるセラミックス基板等に有効である。
【0037】
[有機バインダー]
また、導体パターン形成用インクは、有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーは、導体パターン形成用インクによって形成された導体パターン前駆体10において、銀粒子の凝集を防止するものである。すなわち、形成された導体パターン前駆体10において、有機バインダーは、銀粒子同士の間に存在することで銀粒子同士が凝集して、パターンの一部に亀裂(クラック)が生じることを防止できる。また、焼結時においては、有機バインダーは、分解されて除去されることができ、導体パターン前駆体10中の銀粒子同士は、結合して導体パターン20を形成する。
【0038】
有機バインダーとしては、特には限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル等のポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリグリセリンエステルとしては、例えば、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等が挙げられる。
【0039】
この中でも、有機バインダーとして、ポリグリセリン化合物を用いた場合、以下のような効果が得られる。
ポリグリセリン化合物は、導体パターン形成用インクによって形成された導体パターン前駆体10を乾燥(脱分散媒)した際に、導体パターン前駆体10にクラックが発生するのを特に好適に防止することができる。これは、以下のように考えられる。導体パターン形成用インク中にポリグリセリン化合物が含まれることにより、銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を適度なものとすることができる。さらに、ポリグリセリン化合物は比較的沸点が高いため、水系分散媒の除去時においては除去されず、銀粒子の周囲に付着する。以上により、水系分散媒除去時において、ポリグリセリン化合物が銀粒子を包み込んだ状態が長く続き、水系分散媒の揮発による急激な体積収縮が避けられるとともに銀の粒成長(凝集)が妨げられる結果、導体パターン前駆体10中のクラックの発生が抑制されると考えられる。
【0040】
また、ポリグリセリン化合物は、導体パターン20を形成する際の焼結時において、断線が発生するのをより確実に防止することができる。これは、以下のように考えられる。ポリグリセリン化合物は、比較的沸点あるいは分解温度が高い。このため、導体パターン形成用インクから導体パターン20を形成する過程において、水系分散媒が蒸発した後、比較的高い温度まで、ポリグリセリン化合物を、蒸発或いは熱(酸化)分解せずに、導体パターン前駆体10中に存在させることができる。したがって、ポリグリセリン化合物が蒸発或いは熱(酸化)分解するまでは、銀粒子の周囲にポリグリセリン化合物が存在し、銀粒子同士の接近と凝集とを抑制することができ、ポリグリセリン化合物が分解した後には、より均一に銀粒子同士を接合させることができる。さらに、焼結時においてパターン中の銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖(ポリグリセリン化合物)が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を保つことができる。また、このポリグリセリン化合物は、適度な流動性を有している。このため、ポリグリセリン化合物を含むことにより、導体パターン前駆体10は、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が優れたものとなる。
以上より、形成された導体パターン20に断線が生じることをより確実に防止することができると考えられる。
【0041】
また、このようなポリグリセリン化合物を含むことにより、インクの粘度をより適度なものとすることができ、インクジェットヘッドからの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。また、成膜性も向上させることができる。
ポリグリセリン化合物としては、上述した中でも、ポリグリセリンを用いるのが好ましい。ポリグリセリンは、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が特に優れるとともに、セラミックス成形体の焼結後には、導体パターン中からより確実に除去することができる成分である。その結果、導体パターンの電気的特性をより高いものとすることができる。さらに、ポリグリセリンは、水系分散媒への溶解度も高いので、好適に用いることができる。
【0042】
有機バインダーは、その重量平均分子量が300以上3000以下であるのが好ましく、400以上1000以下であるのがより好ましく、400以上600以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンを乾燥した際に、クラックの発生をより確実に防止することができる。これに対し、有機バインダーの重量平均分子量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、水系分散媒を除去する際に有機バインダーが分解しやすい傾向があり、クラックの発生を防止する効果が小さくなる。また、有機バインダーの重量平均分子量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、排除体積効果等によりインク中への溶解性、分散性が低下する場合がある。
【0043】
また、インク中に有機バインダーの含有量は、1wt%以上30wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上20wt%以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。これに対して、有機バインダーの含有量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、クラックの発生を防止する効果が小さくなる場合がある。また、有機バインダーの含有量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、インクの粘度を十分に低いものとすることが困難な場合がある。
【0044】
[乾燥抑制剤]
また、導体パターン形成用インクは、乾燥抑制剤を含んでいてもよい。乾燥抑制剤は、インク中の水系分散媒の不本意な揮発を防止するものである。その結果、インクジェット装置の吐出部付近において水系分散媒が揮発することを防止でき、インクの粘度の上昇、乾燥が抑えられる。導体パターン形成用インクは、このような乾燥抑制剤を含む結果、インクの液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。すなわち、インクの液滴の重量のばらつきが小さいものとなり、目詰まり、飛行曲がり等が少ないものとなる。
このような乾燥抑制剤としては、下記式(I)で示される化合物、糖アルコール、アルカノールアミン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
【化1】

(ただし、R、R’は、それぞれ、Hまたはアルキル基である。)
【0046】
上記式(I)で表される化合物は、水素結合性の高い成分である。このため、水との親和性が高く、適度な水分を保持することができ、導体パターン形成用インクの水系分散媒の不本意な揮発を防止することができる。
また、上記化合物は、比較的燃焼しやすく、導体パターンを形成する際には導体パターン内からより容易に除去(酸化分解)することができる。
【0047】
また、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンを乾燥(脱分散媒)する際に、水系分散媒が揮発とともに、上記化合物の濃度が上昇する。これにより、導体パターンの前駆体の粘度が上昇するため、前駆体を構成するインクの不本意な部位への流れ出しがより確実に防止される。その結果、形成される導体パターンをより高い精度で所望の形状とすることができる。
【0048】
また、上述したような化合物は、金属粒子(銀粒子)が前述したように表面に分散剤が付着したコロイド粒子である場合、表面の分散剤と水素結合により結合し、金属粒子の分散安定性を向上させる効果を有している。これにより、導体パターン形成用インクの吐出安定性に優れるとともに、保存安定性にも優れたものとなる。
上述したように、本発明で用いる上記式(I)で表される化合物中における、R、R’は、それぞれ、水素またはアルキル基であるが、R、R’は、ともに水素であるのが好ましい。すなわち、尿素であるのが好ましい。これにより、上述したような保湿性を特に高いものとすることができ、特に優れた吐出安定性を得ることができる。また、金属粒子が上述したようなコロイド粒子として存在する場合に、特に優れた分散安定性を示すものとなる。
【0049】
このような上記式(I)で表される化合物のインク中における含有量は、5wt%以上25wt%以下であるのが好ましく、8wt%以上20wt%以下であるのがより好ましく、10wt%以上18wt%以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの不本意な乾燥をより効率よく防止することができる。その結果、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0050】
アルカノールアミンは、保湿性の高い成分であるとともに、金属粒子が前述したようなコロイド粒子である場合に、コロイド粒子表面の分散剤の官能基を活性化させることができ、金属粒子の分散安定性をより高いものとすることができる。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等各種のものを挙げることができる。
【0051】
また、アルカノールアミンは、第3級アミンであるのが好ましい。第3級アミンは、アルカノールアミンの中でも、特に保湿性が高く、上記効果をより顕著なものとすることができる。
また、第3級アミンの中でも、取り扱いやすさや、保湿性の高さ等の観点から、特に、トリエタノールアミンを用いるのが好ましい。
【0052】
導体パターン形成用インク中におけるアルカノールアミンの含有量は、1wt%以上10wt%以下であるのが好ましく、3wt%以上7wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの吐出安定性をより効果的に優れたものとすることができる。
糖アルコールは、糖類のアルデヒド基およびケトン基を還元して得られるものである。
【0053】
また、糖アルコールは、高い保湿性を有する化合物である。また、糖アルコールは、分子量あたりの酸素数が多いため、雰囲気が糖アルコールの分解温度に達すると、容易に分解して除去される。このため、導体パターンを形成する際には、導体パターンの温度を糖アルコールの分解温度よりも高くすることで、導体パターン内から糖アルコールを確実に除去(酸化分解)することができる。
【0054】
糖アルコールとしては、例えば、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、スレイトール、グリトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール、アルトリトール、ドルシトール、イディトール、グリセリン(グリセロール)、イノシトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、ツラニトール等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
上述したような糖アルコールの、導体パターン形成用インク中における含有量は、3wt%以上20wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上15wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの水系分散媒の揮発をより確実に抑制することができ、導体パターン形成用インクは、より長期にわたって液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。
【0056】
[表面張力調整剤]
また、導体パターン形成用インクには、表面張力調整剤を含んでいてもよい。
表面張力調整剤は、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の角度に調整するために用いられる。
表面張力調整剤としては、各種界面活性剤を用いることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アセチレングリコール系化合物を含むことが好ましい。
【0057】
アセチレングリコール系化合物は、少ない添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することができる。このように、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することにより、より微細な導体パターンを形成することができる。また、吐出した液滴内に気泡が混入した場合であっても、速やかに気泡を除去することができる。その結果、形成される導体パターンでのクラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。
【0058】
アセチレングリコール系化合物としては、例えば、サーフィノール104シリーズ(104E、104H、104PG−50、104PA等)、サーフィノール400シリーズ(420、465、485等)、オルフィンシリーズ(EXP4036、EXP4001、E1010等)(「サーフィノール」および「オルフィン」は、日信化学工業株式会社の商品名)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
また、インク中には、HLB値が異なる2種以上のアセチレングリコール系化合物を含んでいるのが好ましい。導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
特に、インク中に含まれる2種以上のアセチレングリコール系化合物のうち、最もHLB値が高いアセチレングリコール系化合物のHLB値と、最もHLB値が低いアセチレングリコール系化合物のHLB値との差が、4以上12以下であるのが好ましく、5以上10以下であるのがより好ましい。これにより、より少ないアセチレングリコール系化合物の添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
【0060】
インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の高いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、8以上16以下であるのが好ましく、9以上14以下であるのがより好ましい。
また、インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の低いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、2以上7以下であるのが好ましく、3以上5以下であるのがより好ましい。
インク中に含まれる表面張力調整剤の含有量は、0.001wt%以上1wt%以下であるのが好ましく、0.01wt%以上0.5wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角をより効果的に所定の範囲に調整することができる。
【0061】
[その他の成分]
なお、導体パターン形成用インクの構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、導体パターン形成用インクには、上記成分の他、1,3−プロパンジオールが含まれていてもよい。これにより、インクジェットヘッドの吐出部付近における水系分散媒の揮発をより効果的に抑制することができるとともに、インクの粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性がさらに向上する。
【0062】
インク中に1,3−プロパンジオールを含む場合、その含有量は、0.5wt%以上20wt%以下であるのが好ましく、2wt%以上10wt%以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。
また、例えば、導体パターン形成用インクは、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを含んでいてもよい。導体パターン形成用インクは、上述した尿素以外にも、チオ尿素を含んでいてもよい。
【0063】
導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角は、特に限定されないが、40°以上80°以下であることが好ましく、50°以上80°以下であることがより好ましい。接触角が小さすぎると、微細な線幅の導体パターンを形成するのが困難となる場合がある。一方、接触角が大きすぎると、吐出条件等によっては、均一な線幅の導体パターンを形成するのが困難となる場合がある。また、着弾した液滴とセラミックス成形体との接触面積が小さくなりすぎてしまい、着弾した液滴が着弾位置からずれてしまう場合がある。
【0064】
《液滴吐出ヘッドの検査方法》
次に、本発明の液滴吐出ヘッドの検査方法の好適な実施形態について説明する。
本実施形態の液滴吐出ヘッドの検査方法は、上述したような導体パターン形成用インクを吐出する液滴吐出ヘッドに対して適用されるものであり、導体パターン形成用インクの吐出性と相関を有する検査用インクを、液滴吐出ヘッドから吐出して、検査用インクの吐出性を評価し、評価結果を得る工程(検査用インク評価工程)と、当該評価結果、および、検査用インクの吐出性と導体パターン形成用インクの吐出性との相関関係に基づいて、液滴吐出ヘッドからの導体パターン形成用インクの吐出性を評価する工程(液滴吐出ヘッド評価工程)とを有している。
【0065】
このように本発明では、吐出すべき導体パターン形成用インクと既知の相関性を有する検査用インクを用いて、導体パターン形成用インクを吐出する液滴吐出ヘッドを検査することにより、液滴吐出ヘッドからの導体パターン形成用インクを直接吐出せずに、導体パターン形成用インクの吐出性を容易に評価することができる。その結果、検査における導体パターン形成用インクによる液滴吐出ヘッドの劣化を防止することができるとともに、導体パターン形成用インクの試し打ち等の何度も繰り返す必要もなく、配線基板の生産効率を向上させることができる。
【0066】
以下、各工程について詳細に説明する。
<検査用インク評価工程>
本工程では、上述したような導体パターン形成用インクの吐出性と相関を有し、かつ、導体パターン形成用インクと同一の分散媒(水系分散媒)を含む検査用インクを、導体パターン形成用インクを吐出すべき液滴吐出ヘッドから吐出して、検査用インクの吐出性を評価する(検査用インク評価工程)。
【0067】
本発明において、検査用インクは、液滴吐出ヘッドから吐出予定の導体パターン形成用インクに含まれる分散媒と、同じ分散媒を含むものであればよいが、さらに、検査用インクは、上記導体パターン形成用インクに含まれる表面張力調整剤と同一の表面張力調整剤が含まれているのが好ましい。すなわち、導体パターン形成用インクと検査用インクとは、ともに、同一の表面張力調整剤を含んでいるのが好ましい。これにより、検査用インクの吐出性と導体パターン形成用インクの吐出性との相関性をより高いものとすることができ、より容易に液滴吐出ヘッドからの導体パターン形成用インクの吐出性を推定(評価)することができる。
【0068】
また、特に、検査用インクは、検査に供される液滴吐出ヘッドから吐出されるべき導体パターン形成用インクの金属粒子を除いた成分を含んで構成されているのがより好ましい。すなわち、検査用インクと導体パターン形成用インクとは、金属粒子以外の成分が全て共通しているのがより好ましい。これにより、検査用インクの吐出性と導体パターン形成用インクの吐出性との相関性をさらに高いものとすることができ、さらに容易に液滴吐出ヘッドからの導体パターン形成用インクの吐出性を推定(評価)することができる。
【0069】
検査用インクの吐出性の評価は、例えば、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置についての精度(着弾位置精度)、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の重量についての精度(液滴重量精度)、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の飛行速度(液滴速度精度)等に基づいて評価される。これらの中でも、導体パターン形成用インクの吐出性と高い相関性が得られることから、着弾位置精度、液滴重量精度に基づいて評価するのが好ましい。
なお、導体パターン形成用インクの吐出性と検査用インクの吐出性との、着弾位置精度、液滴重量精度に基づく相関性は、例えば、以下のようにして取得することができる。
【0070】
[着弾位置精度に基づく相関性の取得]
まず、ガラス基板または紙上へ検査用インク、導体パターン形成用インクをそれぞれ吐出させ、着弾位置精度相関評価用サンプルを作成する。なお、サンプル作成には、同一の液滴吐出ヘッドを使用する。
次に、着弾サンプルの着弾ドット位置をノズル毎に測定し、基準からのズレ量を算出する。
【0071】
その後、検査用インクでのズレ量と導体パターン形成用インクでのズレ量データから、相関関係を取得する。
例えば、それぞれのインクでのズレ量が表1に示すものであった場合、図3に示すような相関関係(検量線)を取得することができる。
【0072】
【表1】

【0073】
[液滴重量精度に基づく相関性の取得]
まず、それぞれのインクにおいて、ヘッド駆動電圧と吐出重量の関係を測定する。なお、測定には同一の液滴吐出ヘッドを利用する。
次に、測定結果から相関関係を取得する。例えば、各インクのヘッド駆動電圧と吐出重量の関係が表2に示すものであった場合、図4に示すような相関関係(検量線)を取得することができる。
【0074】
【表2】

【0075】
[液滴飛行速度精度に基づく相関性の取得]
まず、それぞれのインクにおいて、吐出液滴の飛行速度を測定する。測定には同一の液滴吐出ヘッドを利用する。
次に、測定結果から相関関係を取得する。
<液滴吐出ヘッド評価工程>
本工程では、上記検査用インク評価工程で得られた検査用インクの吐出性の評価結果と、上記のようにして取得された相関とに基づいて、液滴吐出ヘッドからの導体パターン形成用インクの吐出性を評価(推定)する(液滴吐出ヘッド評価工程)。これにより、導体パターン形成用インクを直接吐出しなくても、当該液滴吐出ヘッドからの導体パターン形成用インクの吐出性を推定することができ、容易に液滴吐出ヘッドの性能を検査することができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
前述した実施形態では、金属粒子を溶媒に分散してなる分散液として、コロイド液を用いる場合について説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクは、銀粒子が分散したものとして説明したが、銀以外のものであってもよい。金属粒子に含まれる金属としては、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、金、または、これらの合金等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。金属粒子が合金である場合、前記金属が主とするもので、多の金属を含む合金であってもよい。また、上記金属同士が任意の割合で混ざった合金であってもよい。また、混合粒子(例えば、銀粒子と銅粒子とパラジウム粒子とが任意の比率で存在するもの)が液中に分散したものであってもよい。これら金属は、抵抗率が小さく、かつ、加熱処理によって酸化されない安定なものであるから、これらの金属を用いることにより、低抵抗で安定な導体パターンを形成することが可能になる。
【符号の説明】
【0077】
1…導体パターン形成用インク(インク) 100…インクジェット装置(液滴吐出装置) 110…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド、ヘッド) 111…ヘッド本体 112…振動板 113…ピエゾ素子 114…本体 115…ノズルプレート 115P…インク吐出面 116…リザーバ 117…インク室 118…ノズル(突出部) 130…ベース 140…テーブル 170…テーブル位置決め手段 171…第1移動手段 172…モータ 180…ヘッド位置決め手段 181…第2移動手段 182…リニアモータ 183、184、185…モータ 190…制御装置 191…駆動回路 S…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と当該金属粒子が分散する分散媒とを含むインクを吐出する液滴吐出ヘッドの検査方法であって、
前記インクの吐出性と相関を有し、かつ、前記インクと同一の分散媒を含む検査用インクを前記液滴吐出ヘッドから吐出し、前記検査用インクの吐出性を評価する検査用インク評価工程と、
前記検査用インク評価工程における評価結果、および、前記検査用インクの吐出性と前記インクの吐出性との相関に基づいて、前記液滴吐出ヘッドからの前記インクの吐出性を評価する液滴吐出ヘッド評価工程とを有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの検査方法。
【請求項2】
前記インクと前記検査用インクとは、ともに、同一の表面張力調整剤を含む請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの検査方法。
【請求項3】
前記検査用インクは、前記インクの前記金属粒子を除いた成分を含んで構成されている請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッドの検査方法。
【請求項4】
前記検査用インクの吐出性は、前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置についての精度に基づく性能である請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの検査方法。
【請求項5】
前記検査用インクの吐出性は、前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の重量についての精度に基づく性能である請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの検査方法。
【請求項6】
前記検査用インクの吐出性は、前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の飛行速度についての精度に基づく性能である請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−167673(P2011−167673A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36646(P2010−36646)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】