説明

液滴吐出ヘッド

【課題】圧電素子を用いて精度良く微小液滴を吐出あるいは分注することができる使い捨てに適した安価な液滴吐出ヘッドを提案すること。
【解決手段】液滴吐出ヘッド1では、弾性体のキャビティ板50のキャビティ用開口部53が、ノズル板40の裏面47と加圧板60の加圧面63aによって封鎖され、キャビティ53Aが形成されている。キャビティ53Aは、予圧機構6による予圧力で圧縮状態になっている。圧電素子5を収縮させると、予圧力が一時的に解除されキャビティ53Aが拡張し、所定のタイミングで圧電素子5を伸長させると、キャビティ板50のキャビティ53Aが圧縮して内圧が増加する方向に変化し、キャビティ53Aに連通しているノズル43から微小液滴が吐出する。キャビティ53Aの圧縮量は変位規制板48によって一定となるように規制されているので、常に一定量の微小液滴を正確に吐出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を用いてノズルから液滴を吐出する液滴吐出ヘッドに関する。さらに詳しくは、生物系材料、試薬、接着剤などの液体を、精度良く微小量ずつ吐出あるいは分注可能な液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
微小液滴の非接触分注技術として工業用、医療用などの分野では吸引式ピペット、加圧式のディスペンサが使用されており、微小液滴からなる画素形成技術として印刷の分野ではインクジェットヘッドが広く普及している。近年、医療分野における試薬などの分注、工業分野における接着剤塗布などにおいては、数百ピコリットルから数ナノリットルレベルの微小液滴を精度良く分注あるいは塗布可能な液滴分注用具あるいは液滴吐出用具が要求されている。この要求に応えるためにはインクジェットヘッドを利用することが望ましい。たとえば、特許文献1、2に開示のインクジェットヘッドを用いることが考えられる。これらの文献に開示のインクジェットヘッドでは、圧電素子とインクキャビティの間に弾性変形可能な変形層を形成した構成となっている。
【0003】
ここで、試薬、検体などを分注する場合には、それらのコンタミネーションを防止するために分注具を使い捨てとすることが望ましいが、一般にインクジェットヘッドは高価であり使い捨て用途には向かない。また、圧電素子などには鉛などの有害物質も含まれているのでそのまま廃棄することができない。
【0004】
そこで、本願人は特許文献3において、圧電素子を備えた駆動ユニットに対して、ノズル、インクキャビティを備えた流路ユニットを着脱可能としたインクジェット式の液滴吐出ヘッドを提案している。この液滴吐出ヘッドでは、安価な流路ユニットのみを使い捨てにできるので、試薬などの分注に用いるのに適している。
【特許文献1】特開平07−290705号公報
【特許文献2】特開平09−226120号公報
【特許文献3】特開2008−114569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示されている形式のインクジェットヘッドを、試薬、検体などを分注するための液滴吐出ヘッドとして利用する場合には、次のような課題がある。すなわち、弾性変形可能な変形層が変化することによってインクキャビティの容積変化が起き、これによりインクノズルからインク液滴が吐出するので、変形層の変形量を精度良く管理できないと、吐出する液滴の量が変動し、精度よく微小液滴の吐出を行うことができない。
【0006】
また、吐出特性を変更するために、例えば、変形層を弾性特性の異なるもの等に変更すればよい場合がある。しかしながら、変形層は他の部材に接着固定されているので、このような一部の部品のみの交換作業を行うことが出来ず、あるいは、交換作業が困難であり、全体を交換しなければならない場合が多く、経済的でない。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、圧電素子を用いてインクキャビティを弾性変形させて精度良く微小液滴を吐出あるいは分注することができる液滴吐出ヘッドを提案することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、部品交換を容易にすることにより、使い捨てに適した安価な液滴吐出ヘッドを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の液滴吐出ヘッドは、
ノズル板と、
前記ノズル板に積層されたキャビティ板と、
前記ノズル板との間に前記キャビティ板を挟む状態となるように当該キャビティ板に積層された加圧板と、
前記ノズル板および前記加圧板の間に配置された変位規制部材と、
前記加圧板を、前記ノズル板、前記キャビティ板および前記加圧板の積層方向に加圧して変位させる圧電素子と、
前記圧電素子を前記加圧板に押し付け、前記加圧板、前記キャビティ板および前記ノズル板を圧接状態に保持する予圧機構とを有し、
前記キャビティ板は前記積層方向に弾性変形可能な素材からなり、前記積層方向に貫通するキャビティ用開口部が形成されており、
前記ノズル板には、液滴吐出用のノズルと、当該ノズルに液体を供給する液体供給路と、前記キャビティ用開口部を前記積層方向の一方の側から封鎖するノズル板側封鎖面と、前記変位規制部材に対して前記積層方向の一方の側から当接可能なノズル板側当接面とが形成されており、
前記加圧板には、前記キャビティ用開口部を前記積層方向の他方の側から封鎖する加圧板側封鎖面と、前記変位規制部材に対して前記積層方向の他方の側から当接可能な加圧板側当接面とが形成されており、
前記キャビティ板は、前記予圧機構の予圧力によって前記積層方向に圧縮変形しており、
当該キャビティ板の圧縮量は、前記変位規制部材と、前記ノズル板側当接面および前記加圧板側当接面との当接によって規制されることを特徴としている。
【0010】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、ノズル板と加圧板の間に挟まれている弾性素材からなるキャビティ板にキャビティ用開口部が形成されており、当該キャビティ用開口部はノズル板側封鎖面および加圧板側封鎖面によって封鎖され、ノズルから吐出される液体を貯留するためのキャビティが形成されている。また、当該キャビティは、予圧機構による予圧力によって積層方向に圧縮変形した状態に保持されている。
【0011】
圧電素子を駆動して積層方向に収縮させると、圧電素子が加圧板から後退して予圧力が一時的に低下して、キャビティ板の弾性復帰力によってキャビティが積層方向に拡張し、その内容積が増加して液体供給路を経由して当該キャビティ内に液体が流れ込む。所定のタイミングで圧電素子を逆方向に駆動して積層方向に伸長させると、圧電素子によって加圧板が積層方向に押し出され、キャビティ板が弾性変形してキャビティが積層方向に圧縮してその内圧が増加する方向に変化する。キャビティ板の両側の加圧板およびノズル板が、それらの間に配置されている変位規制板に両側から当たると、キャビティの圧縮が阻止される。これに伴うキャビティ内圧変動によって、ノズル開口に形成されている液体のメニスカスから微小液滴が分離して吐出する。このように、キャビティの圧縮量は変位規制部材によって一定となるように規制されるので、液滴吐出時のキャビティの圧縮量(排除体積)を一定にすることができ、常に一定量の微小液滴を正確に吐出することができる。
【0012】
ここで、本発明の液滴吐出ヘッドは、前記ノズル板、前記キャビティ板および前記加圧板が、前記積層方向に分離自在であり、前記予圧力によって積層圧接状態に保持されていることを特徴としている。
【0013】
ノズル板側封鎖面および加圧板側封鎖面と、これらが圧接するキャビティ板の側の面との間を、圧接によって液密状態にシールできるようにしておけば、これらの三部材を単に積層して予圧機構による予圧力によって圧接状態にするだけで液密状態のキャビティが形成される。したがって、これらの三部材を接着あるいは接合しておく必要がない。したがって、異なる種類の液体を分注する場合などにおいては、これら三部材のみを交換すればよいので、高価な圧電素子の側はそのまま使用でき、使い捨てに適した液滴吐出ヘッドを実現できる。また、三部材を接合するための接着剤によってキャビティ内の試薬などが汚染するおそれも無い。さらに、三部材のそれぞれの交換が簡単であるので、三部材の組み合わせを変えて必要とされる特性の液滴吐出ヘッドを得ることが容易であり、一部の部品を交換するために三部材の全体を交換しなくてもよいので、経済的である。
【0014】
次に、本発明の液滴吐出ヘッドにおいて、前記キャビティ板に前記積層方向に貫通した少なくとも一つの貫通穴を形成し、この貫通穴内に少なくとも一つの前記変位規制部材を配置することができる。
【0015】
この場合には、前記加圧板側当接面および前記加圧板側封鎖面を同一面とし、前記ノズル板側当面および前記ノズル板側封鎖面を同一面とすることができる。
【0016】
また、この場合には、前記変位規制部材は、前記ノズル板側当接面および前記加圧板側当接面のうち、少なくとも一方の側に一体形成しておくことができる。双方にそれぞれ変位規制板を形成しておくことも可能である。
【0017】
前記予圧機構は、前記圧電素子を前記加圧板に付勢している付勢部材と、当該付勢部材による付勢力を調整するための調整部材とを備えた構成とすることができる。
【0018】
次に、本発明の液滴吐出ヘッドは、駆動ユニットと、この駆動ユニットに着脱可能な状態で装着される流路ユニットとを有し、前記駆動ユニットは、前記圧電素子および前記予圧機構を備えており、前記流路ユニットは、前記ノズル板、前記キャビティ板、前記加圧板および前記変位規制部材を備えていることを特徴としている。このように、流路ユニットを着脱式にしておけば、流路ユニットの交換を簡単に行うことができる。
【0019】
この場合には、前記流路ユニットに、前記ノズル板、前記キャビティ板および前記加圧板を積層状態で保持している保持ケースを配置し、前記駆動ユニットには、前記保持ケースが着脱可能な状態で装着されている装着部を配置し、前記流路ユニットを前記装着部に装着すると、前記圧電素子の変位面が前記流路ユニットの前記加圧板に対峙し、前記予圧機構による予圧力を前記変位面から前記加圧板に加えることができるようにすればよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、変位規制部材と、ノズル板側当接面および加圧板側当接面との当接によって、キャビティの圧縮量を精度良く規制している。したがって、常に一定量の微小液滴を精度良く吐出することができる。
【0021】
また、本発明において、ノズル板、キャビティ板および加圧板の三部材を分離自在な状態で積層状態に保持した場合には、これらを接合するための接着剤などが不要になり、接着剤によってキャビティ内に貯留した液体が汚染されるなどの弊害も起きない。また、三部材の交換作業が簡単であるので、ノズル詰まりが発生した場合のノズル板の交換作業が容易になり、三部材の組み合わせを変えて所望の液滴吐出特性のヘッドを得ることも簡単かつ廉価に行うことができる。
【0022】
さらに、本発明において、三部材を備えた流路ユニットを圧電素子を備えた駆動ユニットに対して着脱可能にした場合には、安価な流路ユニットのみを使い捨てにすることができる。よって、検体、試薬などを分注するための使い捨て式の分注具として用いるのに適した液滴吐出ヘッドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した液滴吐出ヘッドの実施の形態を説明する。
【0024】
図1は本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドを示す斜視図であり、図2は液滴吐出ヘッドを図1のII−II線で切断した場合の縦断面図であり、図3は流路ユニットを取り外した状態での液滴吐出ヘッドを示す斜視図である。液滴吐出ヘッド1は、駆動ユニット2、および、この駆動ユニット2に着脱可能に装着されている流路ユニット3から構成されている。
【0025】
(駆動ユニット)
駆動ユニット2は、ユニットケース4と、このユニットケース4に収納されている積層形の圧電素子5と、この圧電素子5を予圧するための予圧機構6とを備えている。ユニットケース4は、一定の間隔で平行に延びる細長い矩形形状をした一対の端板7、8と、これらの端板7、8の後端の間を繋ぐ矩形の背面板9とを備えている。
【0026】
ユニットケース4の端板7、8の間には、前後方向に延びる状態に矩形断面の保持筒10が取り付けられている。この保持筒10の前端および後端には、それぞれ、外方に直角に延びる矩形枠状の前フランジ10aおよび後フランジ10bが形成されており、これら前フランジ10aおよび後フランジ10bが端板7、8に固定されている。この保持筒10の内部には直方体形状の積層形の圧電素子5が同軸状態に収納されている。圧電素子5の変位方向は前後方向であり、その矩形の前端変位面5aが保持筒10の前端開口10cから前方に露出しており、その矩形の後端面5bも保持筒10の後端開口10dから後方に露出している。
【0027】
ここで、圧電素子5は非駆動状態における前後方向の長さが保持筒10よりも僅かに長い。したがって、図2、3から分かるように、その後端面5bが保持筒10の後端に一致している状態では、その前端変位面5aが前端開口10cから前方に僅かに突出する。なお、保持筒10の左右の側面には前後方向に長い長円形の配線穴10e、10fが形成されており、これらを介して圧電素子5を駆動するための配線11a、11bが配置されている。
【0028】
保持筒10に収納された圧電素子5の後側には、当該圧電素子5を前方に予圧するための予圧機構6が取り付けられている。予圧機構6は、端板7、8の間において前後方向にスライド可能に配置されたスライドブロック12を備えている。スライドブロック12は、両端にスライドピン12a、12bが取り付けられており、これらのスライドピン12a、12bは、端板7、8に形成した前後方向に延びるスライド溝7a、8aにスライド可能な状態で差し込まれている。したがって、スライドブロック12はスライド溝7a、8aに沿って、保持筒10の後フランジ10bの後端面10gに当接した位置から後側にスライド可能である。スライドブロック12の前端面に圧電素子5の後端面5bが接合されており、圧電素子5は全体としてスライドブロック12と共に前後にスライドするようになっている。
【0029】
スライドブロック12の後側には、前方に開く状態に折り曲げた板ばね13が配置されている。この板ばね13は後側から予圧調整ねじ14によって前側のスライドブロック12に押し付けられている。予圧調整ねじ14のねじ込み量を増やすと、板ばね13がそれに応じて前後方向に押し潰され、より大きな予圧力がスライドブロック12に作用する。
【0030】
一方、ユニットケース4の端板7、8は保持筒10の前端よりも前方に延びている前端部7b、8bを備えており、これらの前端部7b、8bの前端には相互に接近する方向に直角に折れ曲がった装着ガイド7c、8cが形成されている。これら前端部7b、8b、装着ガイド7c、8cおよび保持筒10の前端面10hによって、流路ユニット3の装着部15が形成されている。この装着部15には、左右方向から装着ガイド7c、8cに沿って流路ユニット3を装着可能である。
【0031】
(流路ユニット)
次に、図4は、駆動ユニット2から取り外した流路ユニット3を分解した状態で示す分解斜視図である。図5(a)は流路ユニット3の部分を縦断面で示す斜視図であり、図5(b)は図5(a)の縦断面状態の流路ユニット3の分解斜視図である。これらの図も参照して、装着部15に着脱可能な状態で装着される流路ユニット3の構造を説明する。
【0032】
流路ユニット3は、矩形皿状の保持ケース30を備えており、この保持ケース30に、同一大きさの矩形輪郭をしているノズル板40、キャビティ板50および加圧板60が、それらの厚さ方向に積層された状態で収納されている。加圧板60には左右一対のガイドピン61、62が垂直に固定されており、これらのガイドピン61、62は、ノズル板40およびキャビティ板50に形成した位置決め用のガイド穴41、42、51、52にスライド可能な状態で差し通されている。ノズル板40、キャビティ板50および加圧板60はガイドピン61、62によって位置決めされた状態で積層されているのみであり、接着剤などによって相互に接合されていない。したがって、これら三部材を積層方向に沿って簡単に分離することが可能である。
【0033】
保持ケース30は、矩形の底板部分31と、この底板部分31の両側の端から直角に起立している端板部分32、33と、底板部分31の左右の端から直角に起立している側板部分34、35とを備えている。底板部分31には、ガイドピン61、62に対峙する部位に貫通穴31a、31bが形成されており、これらの間には、左右に長い長穴31cが形成されている。また、両側の端板部分32、33の先端部は相互に離れる方向に直角に折れ曲がった装着用フランジ32a、33aが形成されている。これらの装着用フランジ32a、33aは、駆動ユニット2の装着部15に対して、横方から装着ガイド7c、8cに沿って差し込み可能な寸法に設定されている。
【0034】
ノズル板40は、プラスチック板、ステンレススチールなどの金属板、半導体基板などからなる一定の厚さの剛性矩形板である。ノズル板40には液滴吐出用のノズル43が厚さ方向に貫通する状態に形成されており、そのノズル開口43aがノズル板40の前面44に位置している。このノズル開口43aは、保持ケース30の底板部分31の長穴31cを介して前方に露出している。また、ノズル43から離れた位置には液体供給路45が形成されている。液体供給路45は、ノズル板40を厚さ方向に貫通している液体供給穴45aと、ノズル板40の前面44に沿って形成した連通路45bとを備えており、連通路45bには前側から液体供給管46が装着固定されている。液体供給管46は、保持ケース30の底板部分31に形成した長穴31cから前方に突出しており、ここに不図示の液体供給チューブが接続されるようになっている。
【0035】
ここで、図6は積層状態のノズル板40およびキャビティ板50を取り出して示す斜視図である。この図から分かるように、ノズル板40の平坦な裏面47(ノズル板側封鎖面、ノズル板側当接面)には4個の変位規制板48が一体形成されている。これらの変位規制板48は、裏面47から垂直に起立した一定長さ、一定幅、および一定高さの板である。これらの変位規制板48は左右方向に平行に延びており、点対称に配置されている。
【0036】
次に、図4〜図6を参照して、キャビティ板50および加圧板60について説明する。まず、キャビティ板50は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等の弾性特性を備えたシリコーンゴム、弾性を有するエラストマーなどからなる一定厚さの弾性矩形板である。キャビティ板50には、その中央部分に左右方向に延びる細長いキャビティ用開口部53が厚さ方向(積層方向)に貫通する状態に形成されている。このキャビティ用開口部53は左右方向の一方の端部分がノズル板40のノズル43に連通しており、他方の端部分が液体供給穴45aに連通している。
【0037】
また、キャビティ板50には、キャビティ用開口部53を取り囲む状態に、4個の貫通穴54が形成されている。本例の貫通穴54は一定幅のL形状の貫通穴であり、各貫通穴54における左右方向に延びる貫通穴部分には、ノズル板40に積層した状態において、当該ノズル板40の各変位規制板48が遊びのある状態で差し込まれるようになっている。また、ノズル板40の厚さは、変位規制板48の高さよりも僅かに大きな寸法に設定されている。
【0038】
キャビティ板50の平坦な裏面55に積載されている加圧板60は、プラスチック板、ステンレススチールなどの金属板、半導体基板などからなる剛性矩形板である。加圧板60の前面63には、その中央部分に僅かに前方に突出した平坦な矩形の加圧面63a(加圧板側封鎖面、加圧板側当接面)が形成されており、その四隅にも同一高さの平坦な当接面63bが形成されている。これら加圧面63aおよび当接面63bがキャビティ板50の平坦な裏面55に当接している。加圧板60の裏面64は平坦面からなり、後側から駆動ユニット2の圧電素子5の前端変位面5aが所定の予圧力で押し付けられるようになっている。
【0039】
(流路ユニットの装着および液滴吐出動作)
図7は流路ユニット3を駆動ユニット2の装着部15に装着する前の状態を示す模式図であり、理解を容易にするためにキャビティ53Aと、貫通穴54および変位規制板48とを横に並べた状態で示してある。装着前の流路ユニット3においては、弾性素材からなる中央のキャビティ板50はその本来の厚さt1のままである。変位規制板48の高さhは厚さt1よりも小さい。したがって、ノズル板40の変位規制板48の先端面48aと、加圧板60の加圧面63a(加圧板側当接面)とは離れており、これらの間には所定の隙間Δtが形成されている。
【0040】
次に、流路ユニット3の装着時には、駆動ユニット2の予圧機構6の予圧調整ねじ14を緩め、圧電素子5に対する予圧を解除する。この結果、圧電素子5を後方に押し込むことが可能となる。装着部15に突出している圧電素子5の前端変位面5aを後方に退避させ、この状態で、図3に矢印で示すように、流路ユニット3を横から装着部15に装着することができる。
【0041】
流路ユニット3を装着部15に装着した後は、駆動ユニット2の予圧機構6の予圧調整ねじ14を締め付ける。この結果、圧電素子5が全体として前方に押し出され、その前端変位面5aによって流路ユニット3の加圧板60が後側から前方に押し出され、所定の予圧が作用した状態が形成される。
【0042】
図8(a)は駆動ユニット2の装着部15に装着されて予圧が付与された状態の流路ユニット3を示す模式図であり、図7の場合と同様にキャビティ53Aと変位規制板48を並列配置した状態で示してある。この図に示すように、予圧機構6によって前方に僅かに押し出された圧電素子5によって、加圧板60が前方に押し出されている。この結果、三部材、60、50、40は、圧電素子5の前端変位面5aと、ユニットケース4の端板7、8の前端部7b、8bの装着ガイド7c、8cとの間において圧接状態になり、弾性素材からなるキャビティ板50が厚さt2まで積層方向に押し潰される。例えば、加圧板60の加圧面63a(加圧板側当接面)が変位規制板48の先端面48aに当接する位置までキャビティ板50が押し潰される。
【0043】
この状態では、キャビティ用開口部53の裏面側に加圧板60の加圧面63a(加圧板側封鎖面)が液密状態に圧接し、その前面側にノズル板40の裏面47(ノズル板側封鎖面)が液密状態に圧接しており、これにより、キャビティ用開口部53の前後が確実に封鎖されて、液体貯留用のキャビティ53Aが形成されている。装着状態が形成された後は、液体をキャビティ53A内に供給する液体供給チューブ49を接続し、キャビティ53A内に液体を充填する。
【0044】
図8(b)に示すように、液体を充填した後に圧電素子5を駆動して前後方向(積層方向)に収縮させると、圧電素子5の前端変位面5aが加圧板60から後退して予圧が一時的に低下する。この結果、キャビティ板50の弾性復帰力によってキャビティ53Aが積層方向に拡張し、その内容積が増加して液体供給路45を経由して当該キャビティ53A内に液体が流れ込む。
【0045】
この後は、図8(c)に示すように、所定のタイミングで圧電素子5を逆方向に駆動して積層方向に伸長すると、圧電素子5によって加圧板60が積層方向の前方に押し出される。この結果、キャビティ板50が押し潰されてキャビティ53Aが積層方向に圧縮してその内圧が増加する方向に変化する。ここで、加圧板60の加圧面63aが、ノズル板の側の変位規制板48の先端面48aに当たるまでキャビティ板50が圧縮され、加圧面63aが変位規制板48に当たることによるキャビティの内圧変動によって、ノズル開口43aに形成されている液体のメニスカスから微小液滴dが分離して前方に吐出する。
【0046】
このように、キャビティ53Aの圧縮量は変位規制板48によって一定となるように規制される。したがって、液滴吐出時のキャビティ53Aの体積減少量を常に一定にすることができるので、常に一定量の微小液滴を正確に吐出することができる。
【0047】
また、圧電素子5を予圧している予圧機構6による予圧力を調整することにより、圧電素子5の変位量を制御することができる。例えば、予圧力を小さくしておけば、圧電素子5の伸長時に予圧力に逆らって圧電素子5は後方にも伸長するので、その前端変位面5aによって押し出される加圧板60の移動量が少なくなる。この結果、弾性素材からなるキャビティ板50の圧縮量が少なくなり、圧縮時のキャビティ53Aの排除体積が少なくなるので、ノズル43からの液滴吐出量を少なくすることができる。したがって、駆動波形を変えることなく、液滴吐出量を機械的に変更することができる。
【0048】
なお、圧電素子5による液滴の吐出駆動モードとしては、上述した引き打ちモードと呼ばれるモードと、押し打ちモードと呼ばれるものがインクジェットヘッドの分野において知られている。本例の液滴吐出ヘッド1においても、圧電素子5の収縮後の伸長タイミングを調整することにより、いずれかのモードで液滴を吐出させることができる。押し打ちモードの場合には、圧電素子5の収縮後にキャビティ53A内の圧力変動が収束するのに必要な時間が経過した後のタイミングで圧電素子5の伸長を開始すればよく、引き打ちモードの場合には押し打ちモードに比べてより短い時間間隔で圧電素子を伸長させればよい。引き打ちモードは押し打ちモードに比べてより微小量の液滴を吐出させることができる。
【0049】
(作用効果)
以上説明したように、液滴吐出ヘッド1では、変位規制板48によって弾性素材からなるキャビティ板50の圧縮量、すなわち、キャビティ53Aの圧縮量が一定となるように規制される。よって、圧電素子5の変位によるキャビティ53Aの排除体積を常に一定に保持できるので、液滴の吐出量のバラツキを抑制できる。
【0050】
また、圧電素子5を備えた駆動ユニット2に、流路ユニット3を着脱可能な状態で装着した構成となっている。したがって、液滴吐出ヘッド1を検体などの分注ヘッドなどとして用いる場合には、流路ユニット3のみを交換することにより異なる種類の検体などを分注することができる。また、使用済の安価な流路ユニット3のみを廃棄すればよいので、使い捨て式の分注ヘッドなどとして用いるのに適している。
【0051】
さらに、キャビティ板50は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)からなる弾性板を用いており、ノズル板40および加圧板60との圧接により液密状態にシールされたキャビティ53Aが形成される。よって、積層した三部材を相互に接着、接合する必要がないので、接着剤などによってキャビティ53A内の液体が汚染されることもない。
【0052】
三部材の接合が不要なので、必要に応じて各部材を適宜組み合わせることで、特性の異なる各種の液滴吐出ヘッドを簡単に得ることができるので便利である。また、接着、接合が不要なので、接着剤による接着性などを考慮する必要がないので三部材に用いる素材の選択の自由度が高まるという利点もある。
【0053】
なお、液滴吐出ヘッド1は、血液などの検体の分注作業、短時間で目詰まりするような接着剤などの液体の塗布あるいは分注作業、細胞の三次元造形作業などに用いることができる。
【0054】
また、上記の実施の形態では、変位規制板48をノズル板40の裏面47に一体形成してあるが、変位規制板48を加圧板60の加圧面63aに一体形成しておくことも可能である。この場合には、変位規制板48がノズル板40の裏面47(ノズル板側当接面)に当たることにより、キャビティ板50の圧縮量が規制される。ノズル板40および加圧板60の双方に一体形成しておくことも可能である、また、変位規制板48を、ノズル板40、加圧板60とは別個の部材として製造し、キャビティ板50に形成した貫通穴54内に配置しておくことも可能である。この場合には、ノズル板40の裏面47(ノズル部材側当接面)および加圧板60の加圧面63a(加圧部材側当接面)が積層方向から変位規制板48に当接することにより、キャビティ53Aの圧縮量が規制される。
【0055】
次に、弾性素材からなるキャビティ板50の表面、キャビティ板50に圧接する加圧板60の加圧面63a、ノズル板40の裏面47には、シール性を確保できるような表面処理を施すようにしてもよい。また、キャビティ板50のキャビティ用開口部53の内周面などに撥水加工あるいは親水加工などの表面処理を適切な場所に行って、所望の液滴吐出特性が得られるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明を適用した液滴吐出ヘッドの斜視図である。
【図2】図1の液滴吐出ヘッドの縦断面図である。
【図3】図1の液滴吐出ヘッドを、流路ユニットを外した状態で示す分解斜視図である。
【図4】図3の液滴吐出ヘッドの流路ユニットを分解した状態で示す分解斜視図である。
【図5】図1の液滴吐出ヘッドの流路ユニットを縦断面状態で示す部分斜視図、および、その分解斜視図である。
【図6】流路ユニットのノズル板とキャビティ板を取り出して示す斜視図である。
【図7】図1の液滴吐出ヘッドの流路ユニットの装着前後の状態を示す説明図である。
【図8】図1の液滴吐出ヘッドの動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 液滴吐出ヘッド、2 駆動ユニット、3 流路ユニット、4 ユニットケース、5 圧電素子、5a 前端変位面、5b 後端面、6 予圧機構、7,8 端板、7a,8a スライド溝、7b,8b 前端部、7c,8c 装着ガイド、9 背面板、10 保持筒、10a 前フランジ、10b 後フランジ、10c 前端開口、10d 後端開口、10e,10f 配線穴、10g 後端面、10h 前端面、11a,11b 配線、12 スライドブロック、12a,12b スライドピン、13 板ばね、14 予圧調整ねじ、15 装着部、30 保持ケース、31 底板部分、31a,31b 貫通穴、31c 長穴、32,33 端板部分、32a,33a 装着用フランジ、34,35 側板部分、40 ノズル板、41,42 ガイド穴、43 ノズル、43a ノズル開口、44 前面、45 液体供給路、45a 液体供給穴、45b 連通路、46 液体供給管、47 裏面、48 変位規制板、48a 先端面、49 液体供給チューブ、50 キャビティ板、51,52 ガイド穴、53 キャビティ用開口部、53A キャビティ、54 貫通穴、55 裏面、60 加圧板、61,62 ガイドピン、63 前面、63a 加圧面、63b 当接面、64 裏面、t1 キャビティ板の本来の厚さ、t2 圧縮されたキャビティ板の厚さ、h 変位規制板の高さ、Δt 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル板と、
前記ノズル板に積層されたキャビティ板と、
前記ノズル板との間に前記キャビティ板を挟む状態となるように当該キャビティ板に積層された加圧板と、
前記ノズル板および前記加圧板の間に配置された変位規制部材と、
前記加圧板を、前記ノズル板、前記キャビティ板および前記加圧板の積層方向に加圧して変位させる圧電素子と、
前記圧電素子を前記加圧板に押し付け、前記加圧板、前記キャビティ板および前記ノズル板を圧接状態に保持する予圧機構とを有し、
前記キャビティ板は前記積層方向に弾性変形可能な素材からなり、前記積層方向に貫通するキャビティ用開口部が形成されており、
前記ノズル板には、液滴吐出用のノズルと、当該ノズルに液体を供給する液体供給路と、前記キャビティ用開口部を前記積層方向の一方の側から封鎖するノズル板側封鎖面と、前記変位規制部材に対して前記積層方向の一方の側から当接可能なノズル板側当接面とが形成されており、
前記加圧板には、前記キャビティ用開口部を前記積層方向の他方の側から封鎖する加圧板側封鎖面と、前記変位規制部材に対して前記積層方向の他方の側から当接可能な加圧板側当接面とが形成されており、
前記キャビティ板は、前記予圧機構の予圧力によって前記積層方向に圧縮変形しており、
当該キャビティ板の圧縮量は、前記変位規制部材と、前記ノズル板側当接面および前記加圧板側当接面との当接によって規制されることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記ノズル板、前記キャビティ板および前記加圧板は、前記積層方向に分離自在であり、前記予圧力によって積層圧接状態に保持されることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記キャビティ板は前記積層方向に貫通した少なくとも一つの貫通穴を備え、
前記貫通穴内に少なくとも一つの前記変位規制部材が配置されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記加圧板側当接面および前記加圧板側封鎖面は同一面であり、
前記ノズル板側当面および前記ノズル板側封鎖面は同一面であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記変位規制部材は、前記ノズル板側当接面および前記加圧板側当接面のうち、少なくとも一方の側に一体形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記予圧機構は、前記圧電素子を前記加圧板に付勢している付勢部材と、当該付勢部材による付勢力を調整するための調整部材とを備えていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちのいずれかの項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
駆動ユニットと、
前記駆動ユニットに着脱可能な状態で装着されている流路ユニットとを有し、
前記駆動ユニットは、前記圧電素子および前記予圧機構を備えており、
前記流路ユニットは、前記ノズル板、前記キャビティ板、前記加圧板および前記変位規制部材を備えていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記流路ユニットは、前記ノズル板、前記キャビティ板および前記加圧板を積層状態で保持している保持ケースを備え、
前記駆動ユニットは、前記保持ケースが着脱可能な状態で装着される装着部を備え、
前記流路ユニットが前記装着部に装着された状態では、前記圧電素子の変位面が前記流路ユニットの前記加圧板に対峙し、前記予圧機構による予圧力を前記圧電素子を介して前記加圧板に加えることが可能な状態になることを特徴とする液滴吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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