説明

液滴吐出方法

【課題】短時間に集中してパターン形成を行った場合における機能液の温度の低下に起因するパターン精度の低下を抑制する。
【解決手段】吐出データに基づいて、液滴吐出ヘッド47から機能性材料を含有する液状体49を液滴50として媒体61上に吐出する液滴吐出方法であって、液滴吐出ヘッド47及び/又は液滴吐出ヘッド47に至る液状体49の供給経路29の、少なくとも一部を電気熱変換素子54により所定の温度に加熱する加熱工程と、媒体61上に液滴50を吐出する液滴吐出工程と、を実施することを特徴とする液滴吐出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体の表面にパターンを形成する方法のひとつとして、液滴吐出ヘッドのノズルから、顔料等の機能性材料を含有する液状体(以下、「機能液」と称する。)の液滴を吐出して、被吐出物上の任意の位置に該機能性材料を含む層からなるパターンを形成する液滴吐出(インクジェット)法がある。近年では、ICパッケージ等の表面に文字等のパターンを形成するような用途にも用いられている。かかる用途において、形成されるパターンの精度を向上させるためには、液滴吐出ヘッドから吐出される機能液の(吐出量の)ばらつきを低減する必要がある。そして、かかる吐出量は機能液の温度の影響を受けるため、吐出量のばらつきを低減するためには、該機能液の温度変化を低減する必要がある。
【0003】
図1に、機能液の吐出量と該機能液の温度との関係を示す。(a)は機能液の温度と粘度の関係を示す図であり、(b)は機能液の粘度と吐出量の関係を示す図である。夫々、(1)〜(3)の3種類の機能液について上記の関係を示している。一般的に、機能液は温度によって粘度等の特性が変動するという特徴を有している。すなわち、図1(a)に示すように、温度(液温)が低下すると粘度が上昇する。そして、図1(b)に示すように、粘度が上昇すると、同一条件、すなわち後述する圧電素子24(図4参照)に印加する電圧等が同一の場合においての吐出量が低下する。したがって、パターン精度の向上のためには、吐出される機能液の温度変化を低減する必要がある。
【0004】
ここで問題となるのが、機能液の温度が、単位時間当たりの吐出量の影響を受けるということである。機能液は液滴吐出ヘッドの近傍に配置されたタンクに充填されており、吐出量に合せて、すなわち吐出した分を補充するように、該液滴吐出ヘッド供給される。一般的に、液滴吐出ヘッド内の機能液はヒーター等の電気熱変換素子により若干加熱されており、一方でタンク内の機能液の温度は室温と略同一である。したがって、短時間に集中して印字等のパターン形成を行った場合、タンクから液滴吐出ヘッドに急速に機能液が補充されるため、該液滴吐出ヘッド内の温度が低下し、結果としてパターン精度の低下につながることがある。
【0005】
かかる現象を抑制するために、例えば(特許文献1)では、液滴吐出ヘッドの近傍にヒーターと共にセンサーを配置する態様の液滴吐出装置が提案されている。機能液の温度をセンサーで感知し、該機能液の温度の低下の度合いに合せてヒーターに通電することで、該機能液の温度変化を低減でき、その結果、短時間に集中してパターン形成を行う場合におけるパターン精度の低下を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−254312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記の態様は、従来の液滴吐出装置にセンサー等を新たに付加する必要があり、装置構成の複雑化につながると言う問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]吐出データに基づいて、液滴吐出ヘッドから機能性材料を含有する液状体を液滴として媒体上に吐出する液滴吐出方法であって、上記液滴吐出ヘッド及び/又は上記液滴吐出ヘッドに至る上記液状体の供給経路の、少なくとも一部を電気熱変換素子により所定の温度に加熱する加熱工程と、上記媒体上に上記液滴を吐出する液滴吐出工程と、を実施することを特徴とする液滴吐出方法。
【0010】
このような液滴吐出方法であれば、吐出される液状体の温度変化を低減でき、該液状体の粘度の増加に伴う吐出量の変動を低減できる。したがって、媒体上に形成されるパターンの精度を向上できる。
【0011】
[適用例2]上述の液滴吐出方法であって、上記加熱工程は、上記媒体上における上記液滴の配置に関する上記吐出データに基づいて、将来的に上記液滴吐出ヘッドから吐出される上記液状体の単位時間あたりの吐出量を算出する吐出量算出工程と、上記吐出量算出工程で算出された上記単位時間あたりの吐出量に基づき、加熱に要する通電量を算出する通電量算出工程と、上記通電量算出工程で算出された通電量に基づいて、上記電気熱変換素子に通電する通電工程と、を含む工程であることを特徴とする液滴吐出方法。
【0012】
このような液滴吐出方法であれば、温度センサー等を用いることなく吐出される液状体の温度変化を低減できる。したがって、コストの増加を抑制しつつ媒体上に形成されるパターンの精度を向上できる。
【0013】
[適用例3]上述の液滴吐出方法であって、上記液滴吐出工程は、上記媒体に対して上記液滴吐出ヘッドを対向配置して相対的に移動させる主走査の間に上記液滴吐出ヘッドから上記液状体を上記液滴として吐出する工程であり、上記吐出量算出工程は、上記主走査ごとの上記吐出量を算出する工程であることを特徴とする液滴吐出方法。
【0014】
このような液滴吐出方法であれば、主走査ごとに吐出量を算出するので、例えば、単位時間を1秒とする場合に比べて長い時間を単位とすることができ、算出のための情報量を簡略化することができる。
【0015】
[適用例4]上述の液滴吐出方法であって、上記媒体は、上記液状体に対して非吸収性を有し、上記液状体は、上記機能性材料を含む紫外線硬化型の溶液であり、上記媒体上の吐出された上記液状体に紫外線を照射する照射工程をさらに実施することを特徴とする液滴吐出方法。
【0016】
このような液滴吐出方法であれば、媒体上に液状体を液滴として吐出して硬化させることにより、文字や所定のパターン形状を有するマークなどの画像を安定した形状で形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】機能液の吐出量と該機能液の温度との関係を示す図。
【図2】実施形態の液滴吐出方法の対象となるIC基板の概略を示す図。
【図3】実施形態の液滴吐出方法に用いられる液滴吐出装置の構成を示す概略斜視図。
【図4】液滴吐出ヘッドの構造を示す模式断面図。
【図5】ヘッドユニット内に配置された圧力調整ユニットと電気熱変換素子としてのヒーターとを模式的に示す図。
【図6】液滴吐出装置の制御系と該制御系によって動作する各要素とを示すブロック図。
【図7】本実施形態にかかる液滴吐出方法を示すフローチャート。
【図8】液滴吐出工程と通電工程との時間軸上の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態にかかる液滴吐出方法について、図面を参照しつつ述べる。上述したように、本実施形態は機能液の液滴を吐出してパターンを形成する方法に関するものである。そこで、該液滴の吐出に用いる装置及び吐出の対象物(すなわち媒体)等について説明した後に、具体的な液滴吐出方法について説明する。
【0019】
(IC基板)
図2は、本実施形態の液滴吐出方法の対象となるIC基板1の概略を示す図である。IC基板1は、ICパッケージ3と該ICパッケージが複数個実装された基板2とを含んでいる。ICパッケージ3は、パターン形成時においては、このように基板2上に複数個が規則的に実装された状態で一括して処理される。基板2は耐熱性が必要であり、ガラスエポキシ基板、紙フェノール基板、紙エポキシ基板、紙エポキシ基板等が用いられている。
【0020】
ICパッケージ3の表面には会社名4、機種コード5、製造番号6等の文字、すなわちパターンが形成されている。上述したように、かかるパターンは表面に吐出された機能液を硬化させることで形成される。機能液は、水、アルコール等の溶媒に、紫外線硬化樹脂、機能性材料としての染料または顔料、エチレングリコール等の界面活性剤を溶解または分散させることにより得られている。なお、吐出後の機能液は紫外線の照射により硬化されるが、本実施形態ではかかる硬化工程及び紫外線の照射に要する機構等の記載は省略する。
【0021】
(液滴吐出装置)
図3は、本実施形態の液滴吐出方法に用いられる液滴吐出装置10の構成を示す概略斜視図である。図示すように、液滴吐出装置10は、直方体形状に形成された基台35を備えている。後述する液滴50(図4(b)参照)を吐出するときに、ヘッドユニット45と被パターン形成物(すなわち上述のIC基板1)とを相対移動させることを主走査という。そして、該主走査の方向を主走査方向とする。そして、主走査方向と直交する方向を副走査方向とする。本実施形態ではY方向を主走査方向とし、X方向を副走査方向としている。
【0022】
基台35の図中上面には、Y方向に延在する一対の案内レール36がY方向の全幅にわたり形成されている。その基台35の図中上側には、一対の案内レール36に対応するステージ駆動機構78(後述する図6参照)を備えたステージ37が取付けられている。該ステージ駆動機構には、リニアモーターあるいはネジ式直動機構等が用いられ、Y方向に沿って所定の速度で往動または復動が可能である。さらに、基台35の図中上面には、案内レール36と平行に主走査位置検出装置38が配置され、主走査位置検出装置38によりステージ37の位置が検出される。ステージ37の図中上面には、図示しない吸引式の基板チャック機構が設けられている。IC基板1は、該基板チャック機構によりステージ37の該上面に固定される。
【0023】
基台35のX方向の両側には一対の支持台40が立設され、該一対の支持台にはX方向に延在する案内部材41が形成されている。そして、該案内部材の図中下側にはX方向に延在する案内レール42がX方向の全幅にわたり形成されている。そして、案内レール42には、キャリッジ43が該案内レールに沿って移動可能なように配置されている。キャリッジ43は後述するキャリッジ駆動機構77(後述する図6参照)を備えており、X方向に沿って走査移動が可能である。案内部材41とキャリッジ43との間には副走査位置検出装置44が配置され、キャリッジ43の位置が計測される。
【0024】
キャリッジ43の図中下側にはヘッドユニット45が配置され、該ヘッドユニットのステージ37側の面には1又は複数個の、後述する液滴吐出ヘッド47(図4参照)が配置されている。ヘッドユニット45には、液滴吐出ヘッド47を駆動するヘッドドライバー73(後述する図6参照)が内蔵されており、その他後述する機能液の圧力を調整する装置等が配置されている。
【0025】
キャリッジ43の図中上側には、機能液49(図4参照)が充填される機能液タンク46が配置されている。ヘッドユニット45内に配置されている液滴吐出ヘッド47と機能液タンク46とは機能液供給チューブ29(後述する図5参照)により接続されている。そして、機能液49が吐出されると、吐出された量と同量の機能液49が、機能液タンク46内から該機能液供給チューブを介して液滴吐出ヘッド47に供給される。
【0026】
図4は、液滴吐出ヘッド47の構造を示す模式断面図である。液滴吐出ヘッド47は、X方向に列状に形成された複数のノズル18を有している。図4(a)は、X方向に垂直の断面であり、列状に形成された複数のノズル18の断面を示す図である。図4(b)は、Y方向に垂直の断面であり、ノズル18を連通部27等と共に示す図である。
【0027】
図4(a)に示すように、ノズルプレート17の上側であってノズル18と相対する位置には、キャビティ21が形成されている。キャビティ21の図中上側には、上下方向に振動して、キャビティ21内の容積を拡大縮小する振動板23と、上下方向に伸縮して振動板23を振動させる圧電素子24が配置されている。そして、キャビティ21には機能液49が充填されている。
【0028】
液滴吐出ヘッド47が、上述のヘッドドライバー73から圧電素子24を駆動するためのノズル駆動信号を受けると、圧電素子24が上下方向に伸縮する。そして、圧電素子24は振動板23を振動させるので、振動板23と隣接するキャビティ21の容積が拡大縮小する。それにより、キャビティ21内に供給された機能液49のうち縮小した容積分の機能液49がノズル18から液滴50として吐出される。液滴吐出装置10は、ステージ37とキャリッジ43とを走査移動する。そして、ノズル18が所定の場所に位置するときに液滴50を吐出することにより、基板2に実装されたICパッケージ3の表面に上述の機能性材料からなる任意の平面形状のパターンを形成できる。
【0029】
図4(b)に示すように、キャビティ21と接続して機能液供給路26が形成されている。機能液供給路26は1つのキャビティ21に1つ形成され、キャビティ21に機能液49が流入する流路となっている。各機能液供給路26と接続する共通の流路としての連通部27が形成され、各キャビティ21は連通部27によりつながっている。連通部27の図中上側には機能液導入路28が連通部27と接続して形成されている。そして、機能液導入路28に接続して、機能液タンク46と該機能液導入路との間を導通する機能液供給チューブ29が配置されている。
【0030】
機能液供給チューブ29から供給される機能液49は機能液導入路28を通過して連通部27に流動する。そして、機能液49は連通部27から複数の機能液供給路26に分岐して流入する。圧電素子24が振動板23を振動させるとき、機能液49は機能液供給路26からキャビティ21に入って、ノズル18から液滴50として吐出される。
【0031】
図5は、ヘッドユニット45内に配置された、圧力調整ユニット52と電気熱変換素子としてのヒーター54とを模式的に示す図である。図示するようにキャリッジ43は、機能液49を充填可能な機能液タンク46と、液滴吐出ヘッド47を内蔵するヘッドユニット45と、を備えている。なお、液滴吐出ヘッド47の構造は簡略化して、ノズル18と機能液導入路28と連通部27との3要素のみを示している。
【0032】
機能液タンク46と機能液導入路28との間を導通する機能液供給チューブ29には、圧力調整ユニット52が配置されている。圧力調整ユニット52は、液滴吐出ヘッド47における機能液49が充填されている部分(上述のキャビティ21等)の圧力が常に一定値となるように調整して、ノズル18から機能液49が吐出されたときには該吐出量と等しい量の新たな機能液49を機能液タンク46から自動的に供給させる機能を果たしている。したがって、流量センサー等を配置することなく、常にノズル18の先端まで機能液49が充填されている。
【0033】
機能液供給チューブ29における、圧力調整ユニット52と液滴吐出ヘッド47との間には、ヒーター54が取り付けられている。同様に、液滴吐出ヘッド47の周囲にも、ヒーター54が取り付けられている。したがって、機能液供給チューブ29においてヒーター54が取り付けられている部分からノズル18にいたるまでの部分は加熱されており、加熱部となっている。ここで、該加熱部における機能液49の液温をTh(℃)とする。
【0034】
一方、機能液タンク46から上述のヒーター54に至るまでの間は非加熱部である。該非加熱部における機能液49の液温をTa(℃)とする。非加熱部の温度は、当該液滴吐出装置が設置されている場所の温度(いわゆる室温)に略一致している。したがって、Taは室温に近い温度である。機能液49の温度は、機能液タンク46内に充填されている段階では、Ta(℃)である。一方、吐出される直前に連通部27あるいはキャビティ21(図4参照)等に充填されている段階の温度は、Th(℃)である。
【0035】
本実施形態の液滴吐出方法で用いられる液滴吐出装置10は、吐出する前の段階で機能液49を加熱することで流動性を一定に保ち、吐出量(すなわち個々の液滴50の体積)の変動を低減している。そして、本実施形態の液滴吐出方法で用いられる液滴吐出装置10は、後述するパターンデータから算出される機能液49の吐出量に合せて、ヒーター54へ供給する電流量を定めることができる。すなわち、温度センサーあるいは流量センサーを用いずに吐出量を推定して、該推定値に基づいてヒーター54へ供給する電流量を定めることができる。
【0036】
図6は、本実施形態の液滴吐出方法に用いられる液滴吐出装置10の制御系11と、該制御系によって動作する各要素と、を示すブロック図である。図示するように、液滴吐出装置10の制御系11は、コントローラー70と、液滴吐出装置10を構成する各構成要素を駆動する各種ドライバーとを含んでいる。
【0037】
各種ドライバーとは、少なくともキャリッジ駆動機構77とステージ駆動機構78とを駆動する駆動用ドライバー72と、液滴吐出ヘッド47を駆動するヘッドドライバー73と、圧力調整ユニット52を駆動する圧力調整用ドライバー74と、ヒーター54を駆動するヒーター用ドライバー75と、の計4種のドライバーを含んでいる。なお、各種ドライバーには、上述の5つの構成要素以外の構成要素を駆動するドライバーを含ませることもできる。
【0038】
コントローラー70は、互いにバスを介して接続された、CPU(不図示)とROM(不図示)とRAM(不図示)とを少なくとも備えている。そして、液滴吐出装置10には含まれない外部コンピューター71と接続されている。ROMは、コントローラー70がパターン形成を行う際に用いる制御プログラム等を記憶している。RAMは、外部コンピューター71から伝達される、ICパッケージ3に形成される文字等のパターンデータを一時的に記憶できる。CPUは、上述のROMに記憶されている変換プログラムに従って、RAM内のパターンデータを吐出データに変換できる。
【0039】
ここで、「パターンデータ」とは、上述の会社名4等のパターン(この場合は文字)である。そして、「吐出データ」とは、液滴吐出ヘッド47が有する複数のノズル18の各々の、該パターンを形成する際の吐出のタイミング等の内容である。CPUは、該吐出データに基づいて、駆動用ドライバー72及びヘッドドライバー73等に各種の制御信号を出力することにより液滴吐出装置10全体を制御して、文字等のパターンを形成している。
【0040】
そして、本実施形態で用いられる液滴吐出装置10は、ROMに吐出データに基づいて機能液49の所要量(吐出量)を算出するプログラムと、算出された所要量の機能液49が吐出された場合に上述の加熱部から失われる熱量を算出するプログラムと、を記憶させている。外部コンピューター71からパターンデータが伝達されると、CPUは上述の変換プログラムを用いて吐出データに変換し、さらに上述のROMに記憶されている算出プログラムにより加熱部から失われる熱量を算出する。
【0041】
ここで、本実施形態の液滴吐出方法では、機能液49の吐出量を、上述の主走査毎に算出している。すなわち一回の主走査で吐出される全液滴50の総量を算出して、該総量の機能液49が加熱部から外部(すなわち媒体としてのIC基板1)へ向けて供給されることにより失われる熱量を算出している。かかる手法によれば、個々の液滴50毎に失われる熱量を算出している手法に比べて、算出のための情報量等を簡略化できる。
【0042】
そしてCPUは、実際にパターン形成(すなわち機能液49の吐出)が開始される前、あるいは該パターン形成と同時に、ヒーター用ドライバー75を駆動してヒーター54に通電させることで、加熱部から失われる熱量を補填して加熱部の温度低下を防ぐことができる。以下、かかる液滴吐出装置10を用いて行う、本実施形態の液滴吐出方法について述べる。
【0043】
(液滴吐出方法)
図7は、本実施形態にかかる液滴吐出方法を示すフローチャートである。
ステップS1は、パターンデータ取得工程であり、コントローラー70が、外部コンピューター71より媒体としてのIC基板1(より具体的にはICパッケージ3)に形成されるべき会社名4等のパターンを受け取る工程である。なお、ステップS1の時点において、IC基板1はステージ37の上面に固定されていることが好ましいが、本実施形態の液滴吐出方法では、ステップS6の工程を実施までにIC基板1を固定すればよい。次にステップS2に移行する。
【0044】
ステップS2は、ROMに記憶されている変換プログラムにより、上述のパターンデータを吐出データに変換する工程である。次にステップS3に移行する。
【0045】
ステップS3は、ROMに記憶されている算出プログラムにより、上述の吐出データから上述のパターン形成に必要な機能液49の吐出量を算出する工程である。かかる量の機能液49が、パターン形成の終了までに機能液供給チューブ29内を流動することとなる。すなわち、当該量の機能液49が新たに非加熱部から液滴吐出ヘッド47の内部等の加熱部に流入することとなる。次にステップS4に移行する。
【0046】
ステップS4は、ROMに記憶されている算出プログラムにより、ステップS3で算出された量の機能液49が加熱部に流入することによる温度の低下と該低下を補填するために要するヒーター54の通電量を算出する工程である。次にステップS5に移行する。
【0047】
ステップS5は、ステップS4で算出された量の電流をヒーター54に供給する工程である。かかる工程により非加熱部に存在していた室温に近い温度の機能液49が加熱部に流入しても、温度の低下が抑制される。なお、本工程はこの後のステップS6の工程と重ねて実施される。したがって、加熱部内に位置する機能液49が過度に加熱されることは抑制される。次にステップS6が、(上述したようにステップS5と相前後して)実施される。
【0048】
ステップS6は、液滴吐出工程である。ステップS2の工程で得られた吐出データとROMに記憶されている制御プログラムに基づき、ステージ37上に固定されているIC基板1に対して、液滴吐出ヘッド47より機能液49を液滴50として吐出する。ステージ37は主走査及び副走査が行われるため、本工程でIC基板1に対して任意のパターンを形成できる。
【0049】
以上のステップS1〜ステップS6の工程を実施後に、吐出された機能液49を硬化等させる工程を実施して、本実施形態の液滴吐出方法により、媒体としてのIC基板1にパターンを形成する工程が終了する。
【0050】
上述するように、本実施形態の液滴吐出方法は、ステップS5の工程においてヒーター54に供給する電流量を、媒体(本実施形態ではIC基板1)に形成するパターンの内容すなわちパターンデータから推定するところに特徴がある。パターンデータを吐出データに変換し、該吐出データから将来的に吐出される機能液49の量を、実際に液滴吐出工程が開始される前に算出している。すなわち、流量センサー等を用いずに吐出される機能液49の量を算出している。その結果、液滴吐出装置10の構成を簡略化することを可能にしている。
【0051】
また、将来的に吐出される機能液49の量を算出できるため、実際に機能液49が吐出される前の時点でヒーター54に対する電流の供給を開始できる。その結果、大量の媒体を連続して処理する場合、すなわち大量の機能液49を連続的に吐出するような場合であっても、加熱部の温度Th(℃)の低下を抑制でき、吐出される機能液49の粘度のばらつきを低減できる。したがって、吐出される液滴50の体積のばらつきを低減でき、媒体に形成されるパターンの精度等を向上できる。
【0052】
図7に示すフローチャートに基づき、本実施形態の液滴吐出方法は、以下に示すように、液滴50の吐出工程に合せてヒーター54への通電が実施される。図8は、かかる液滴吐出工程と通電工程との時間軸上の関係を示す図である。図示するように、上述したようなICパッケージ3上に(図2参照)文字を形成する場合、液滴50の吐出は間欠的に行われる。すなわち、1又は複数のICパッケージ3を実装したIC基板1(図2参照)が処理される間に一群の液滴50が集中的に吐出される。そして、次のIC基板1が搬送される間は、液滴50は殆んど吐出されない。
【0053】
通電工程は、吐出される液滴50の総量、すなわち機能液供給チューブ29(図4(b)参照)内を流動する機能液49の総量に比例する電流を供給する工程である。したがって、通電工程も図示するように間欠的に行われる。また、仮に液滴50の吐出が間欠的ではなく連続的な場合は、ヒーター54への通電も連続的なものとなる。
【0054】
なお、本図では、液滴50が(集中的に)吐出されていない時間帯も、若干の吐出がされている。かかる吐出はフラッシング工程であり、液滴吐出ヘッド47を良好な状態に保つために行われている。
【0055】
ヒーター54への通電は、かかるフラッシング工程時においても若干はなされている。理由の1つとしては、フラッシングにより吐出される若干の機能液49に見合った分の加熱が必要なことである。もうひとつの理由としては、仮にフラッシング工程が行われず、1つのIC基板1が処理された後、次のIC基板1の処理が始まるまでの間は液滴50が全く吐出されない場合であっても、液滴吐出ヘッド47内を室温よりも高温に保つために、すなわち、Th>Taを維持するためには若干の加熱が必要だからである。
【0056】
上述したように、ヒーター54への電流の供給は、通電量算出工程による算出結果に基づいて行われる。該通電量算出工程は、下記にように行われる。なお、以下の記載においては単位を一部省略している。
【0057】
(1)吐出データと機能液吐出量(流量)との関係。
まず、
d:吐出データ内の総液滴吐出回数、
V:1液滴(50)あたりの機能液容積、
p:パターン形成に要する時間、
I:単位時間当たりに機能液吐出量(流量)、
としたとき、
I=IVd/Tp
である。
【0058】
(2)発熱量と機能液吐出量(流量)との関係。
機能液49が吐出されない場合において、上述の加熱部温度Thが一定値に制御されている場合、発熱量Jinと放熱量Joutとの関係はJin=Joutの関係が成り立ち、熱的に平衡状態である。上述の式が成り立っているときのJinが、上述のTh>Taを維持するための若干の加熱に該当する。この状態から機能液49の吐出を開始すると、液温がThの機能液49が熱を奪って加熱部から出て行き、非加熱部からは液温がTaの機能液49が流入してくる。したがって、該流入に見合った分の加熱を行わない限り(すなわちJinを増加させない限り)、液滴吐出ヘッド47内の温度が低下する。
【0059】
機能液49の吐出により失われる熱量をJiとして、ここで機能液の比熱をcとすると、
in=Jout+Ji
であり、
i=Ic
である。
そして、液滴吐出ヘッド47の放熱抵抗をRoutとすると、
out=(Th−Ta)/Rout
であるので、発熱量Jin、すなわちヒーター54に通電することで生じさせるべき熱量は、
in=(Th−Ta)/Rout+Ic
と、算出される。
上述のコントローラー70(図6参照)に内蔵されているCPU(不図示)は、上述のような手順で吐出データから主要の通電量を算出してヒーター54に供給している。
【符号の説明】
【0060】
1…媒体としてのIC基板、2…基板、3…ICパッケージ、4…会社名、5…機種コード、6…製造番号、10…液滴吐出装置、17…ノズルプレート、18…ノズル、21…キャビティ、23…振動板、24…圧電素子、26…機能液供給路、27…連通部、28…機能液導入路、29…機能液供給チューブ、35…基台、36…案内レール、37…ステージ、38…主走査位置検出装置、40…支持台、41…案内部材、42…案内レール、43…キャリッジ、44…副走査位置検出装置、45…ヘッドユニット、46…機能液タンク、47…液滴吐出ヘッド、49…機能性材料を含有する液状体としての機能液、50…液滴、52…圧力調整ユニット、54…電気熱変換素子としてのヒーター、70…コントローラー、71…外部コンピューター、72…駆動用ドライバー、73…ヘッドドライバー、74…圧力調整用ドライバー、75…ヒーター用ドライバー、77…キャリッジ駆動機構、78…ステージ駆動機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出データに基づいて、液滴吐出ヘッドから機能性材料を含有する液状体を液滴として媒体上に吐出する液滴吐出方法であって、
前記液滴吐出ヘッド及び/又は前記液滴吐出ヘッドに至る前記液状体の供給経路の、少なくとも一部を電気熱変換素子により所定の温度に加熱する加熱工程と、
前記媒体上に前記液滴を吐出する液滴吐出工程と、
を実施することを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴吐出方法であって、
前記加熱工程は、前記媒体上における前記液滴の配置に関する前記吐出データに基づいて、将来的に前記液滴吐出ヘッドから吐出される前記液状体の単位時間あたりの吐出量を算出する吐出量算出工程と、
前記吐出量算出工程で算出された前記単位時間あたりの吐出量に基づき、加熱に要する通電量を算出する通電量算出工程と、
前記通電量算出工程で算出された通電量に基づいて、前記電気熱変換素子に通電する通電工程と、
を含む工程であることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の液滴吐出方法であって、
前記液滴吐出工程は、前記媒体に対して前記液滴吐出ヘッドを対向配置して相対的に移動させる主走査の間に前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を前記液滴として吐出する工程であり、
前記吐出量算出工程は、前記主走査ごとの前記吐出量を算出する工程であることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液滴吐出方法であって、
前記媒体は、前記液状体に対して非吸収性を有し、
前記液状体は、前記機能性材料を含む紫外線硬化型の溶液であり、
前記媒体上の吐出された前記液状体に紫外線を照射する照射工程をさらに実施することを特徴とする液滴吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−161393(P2011−161393A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28609(P2010−28609)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】