説明

液滴吐出装置

【課題】電磁波障害、搬送ベルトの損傷を増加させることなく、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動を抑制する。
【解決手段】接地部49によって接地された導電部材48を、搬送ベルト28を間に置いて、記録ヘッド32に対向して配設する。また、搬送ベルト28を第1誘電層28Aと導電層28Bと第2誘電層28Cとの3層構成とし、第2誘電層28Cに摩擦帯電を発生させ、搬送ベルト28と導電部材48との間に静電吸引力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、記録媒体を保持し液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、を備える液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置としてのインクジェットプリンタでは、帯電手段によって搬送ベルトや搬送ドラム等の搬送部材を帯電することで、記録媒体と搬送部材との間に静電吸着力を発生させ、記録媒体を搬送部材に静電吸着させる。そして、この状態で記録媒体を記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)のインク滴の吐出領域を通過させて、記録媒体に画像を記録させる。これによって、記録媒体と記録ヘッドのノズル面との距離(以下、TD:Throw Distanceという)の均一性が高くなり、記録媒体上におけるインク滴の着弾位置の精度が向上し、画質が向上する。
【0003】
また、近年は、記録媒体上におけるインク滴の着弾位置の精度の更なる向上、即ち、更なる高画質化を目的として、TDを、1〜2mmと狭くすることが行われている。一方で、TDの均一性を高めるためには、記録媒体と搬送部材との静電吸着力を強くすることが要求され、また、温湿度等の環境の変化や用紙の種類の違いによってTDの均一性が低下しないようにするためには、記録媒体と搬送部材との静電吸着力をさらに強くすることが要求される。
【0004】
このため、図13に示すように、記録ヘッド32と搬送ベルト28との間に発生する静電吸着力が強くなり、搬送ベルト28が浮上って記録ヘッド32に接触するトラブルが発生する場合があった。搬送ベルト28が記録ヘッド32に接触すると、搬送ベルト28がインクで汚れたり、搬送ベルト28を介して一の記録ヘッド32から他の記録ヘッド32へインクが移って混色が起こったり、搬送ベルト28に付着した異物がノズルから記録ヘッド32内へ混入したりする問題が発生する。特に、主に画質の向上が目的で、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のインクと混ざり合って凝集反応を生じさせる透明インク(反応液)を用いるシステム(所謂2液システム)や、例えばKとY等、異なる色のインクを混ぜ合わせて反応させるシステム(所謂インク間反応システム)では、記録ヘッド32でインクの凝集や変色が起こってしまい、回復不可能となる。
【0005】
このため、搬送ベルトを記録ヘッド側の反対側へ吸引することで、搬送ベルトの振動を抑制する構成が考案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の構成では、搬送ベルトに内蔵された櫛歯状電極に電圧を印加し、搬送ベルトの表裏両面に静電吸引力を発生させることで、搬送ベルトの表面に記録媒体を吸着させると共に、搬送ベルトの内周面を、ベルト吸引部材なる搬送ベルトの記録ヘッド側の反対側に配設された部材に吸引している。
【0006】
ここで、回動する搬送ベルトに内蔵された電極に対して連続して高電圧を印加するために、電極をベルト回動方向に沿って露出させ、この電極の露出部に導電性ブラシを摺擦させているが、導電性ブラシと電極との摺擦部において高電圧給電が行われることで放電が発生し易く、放電に伴って発生する電磁波が、ノイズ源となり、また、誤作動の要因となる。また、導電性ブラシと電極との摺擦部において火花が発生することによって、電極と導電性ブラシが損傷し、これらの寿命が著しく縮まる。
【特許文献1】特開2002−145474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、電磁波障害、搬送ベルトの損傷を増加させることなく、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の液滴吐出装置は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、導電層と、前記導電層の前記液滴吐出ヘッド側に設けられた第1誘電層と、前記導電層の前記液滴吐出ヘッド側の反対側に設けられた第2誘電層とを備え、記録媒体を保持し前記液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、前記搬送ベルトを前記第1誘電層側から帯電する第1帯電手段と、前記導電層を所定電位に維持する第1電位維持手段と、前記搬送ベルトを間に置いて前記液滴吐出ヘッドと対向する導電部材と、前記導電部材を所定電位に維持する第2電位維持手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の液滴吐出装置では、記録媒体が、搬送ベルトに保持され液滴吐出ヘッドに対向されて搬送され、この間に液滴吐出ヘッドが液滴を吐出することで、記録媒体に画像等が記録される。
【0010】
ここで、搬送ベルトは、第1電位維持手段によって所定電位に維持された導電層と、導電層の液滴吐出ヘッド側に設けられた第1誘電層とを備えており、第1帯電手段によって第1誘電層側から帯電される。これによって、記録媒体が搬送ベルトに静電吸着される。また、導電層が電位維持手段によって所定電位に維持されていることによって、誘電層の全域において電荷の状態が安定し、記録媒体の静電吸着力が安定するので、記録媒体の搬送ベルトからの浮上りを抑制できる。
【0011】
また、搬送ベルトは、導電層の液滴吐出ヘッド側の反対側に設けられた第2誘電層を備えている。このため、搬送ベルトが回動している間、第2誘電層が、搬送ベルトを張架しているロール等の部材と接触又は摺擦し、帯電する。また、第2電位維持手段によって所定電位に維持された導電部材が、搬送ベルトを間に置いて液滴吐出ヘッドに対向している。これによって、第2誘電層と導電部材との間で静電吸引力が発生し、搬送ベルトが、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢される。
【0012】
ここで、搬送ベルトの帯電量が増加するほど、また、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの間隔(上記TD)が狭くなるほど、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの間の静電吸引力が増加し、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの接触が発生し易くなる。
【0013】
しかし、本発明では、上述した接触や摩擦による帯電を利用した静電吸引力によって搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動が抑制されているので、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの接触を防止しつつ、搬送ベルトの帯電量をより大きく、TDをより狭くすることができる。これによって、記録媒体への液滴の着弾精度をより向上させることができ、以って、画質をより向上させることができる。
【0014】
また、搬送ベルトを液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢する力を、接触や摩擦による帯電を利用した静電吸引力としたことによって、電極同士が摺擦する高圧給電部が不要となるので、搬送ベルトの周囲での放電の発生を抑制でき、電磁波障害を抑制できる。また、搬送ベルトの周囲での火花の発生を防止できるので、搬送ベルトの損傷を抑制でき、搬送ベルトの短命化を抑制できる。
【0015】
請求項2に記載の液滴吐出装置は、請求項1に記載の液滴吐出装置であって、前記搬送ベルトを前記第2誘電層側から帯電する第2帯電手段を有することを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の液滴吐出装置では、搬送ベルトが、第2帯電手段によって第2誘電層側から帯電される。これによって、第2誘電層と導電部材との間で静電吸引力が発生し、搬送ベルトが、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢され、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動が抑制される。
【0017】
従って、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの接触を防止しつつ、搬送ベルトの帯電量をより大きく、TDをより狭くすることができる。これによって、記録媒体への液滴の着弾精度をより向上させることができ、以って、画質をより向上させることができる。
【0018】
また、電極同士が摺擦する高圧給電部が不要となるので、搬送ベルトの周囲での放電の発生を抑制でき、電磁波障害を抑制できる。また、搬送ベルトの周囲での火花の発生を防止できるので、搬送ベルトの損傷を抑制でき、搬送ベルトの短命化を抑制できる。
請求項3に記載の液滴吐出装置は、請求項1又は2に記載の液滴吐出装置であって、前記第2誘電層に接触する接触部材を有することを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の液滴吐出装置では、摺擦部材が第2誘電層に摺接しており、第2誘電層に帯電が発生する。これによって、第2誘電層と導電部材との間で静電吸引力が発生し、搬送ベルトが、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢され、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動が抑制される。
【0020】
従って、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの接触を防止しつつ、搬送ベルトの帯電量をより大きく、TDをより狭くすることができる。これによって、記録媒体への液滴の着弾精度をより向上させることができ、以って、画質をより向上させることができる。
【0021】
また、搬送ベルトを液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢する力を、摺擦部材との接触による帯電を利用した静電吸引力としたことによって、電極同士が摺擦する高圧給電部が不要となるので、搬送ベルトの周囲での放電の発生を抑制でき、電磁波障害を抑制できる。また、搬送ベルトの周囲での火花の発生を防止できるので、搬送ベルトの損傷を抑制でき、搬送ベルトの短命化を抑制できる。
【0022】
請求項4に記載の液滴吐出装置は、請求項1に記載の液滴吐出装置であって、前記第2誘電層をエレクトレット化したことを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載の液滴吐出装置では、第2誘電層がエレクトレット化されており、常時、自発分極により所定の電位に帯電している。これによって、第2誘電層と導電部材との間で静電吸引力が発生し、搬送ベルトが、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢され、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動が抑制される。
【0024】
従って、搬送ベルトと液滴吐出ヘッドとの接触を防止しつつ、搬送ベルトの帯電量をより大きく、TDをより狭くすることができる。これによって、記録媒体への液滴の着弾精度をより向上させることができ、以って、画質をより向上させることができる。
【0025】
また、搬送ベルトを液滴吐出ヘッド側の反対側へ付勢する力を、自発分極による帯電を利用した静電吸引力としたことによって、電極同士が摺擦する高圧給電部が不要となるので、搬送ベルトの周囲での放電の発生を抑制でき、電磁波障害を抑制できる。また、搬送ベルトの周囲での火花の発生を防止できるので、搬送ベルトの損傷を抑制でき、搬送ベルトの短命化を抑制できる。
【0026】
請求項5に記載の液滴吐出装置は、請求項3に記載の液滴吐出装置であって、前記第2誘電層に付着した電荷を除去する除電手段を有することを特徴とする。
【0027】
ここで、搬送ベルトを回動すると、搬送ベルトを張架するロール等と第2誘電層との接触や摩擦によって第2誘電層の表面に電荷が付着し、自発分極で形成された電界と接触帯電や摩擦帯電で形成された電界とが重合する。これによって、第2誘電層の帯電電位が変化し、接触帯電や摩擦帯電の極性によっては低下する。
【0028】
そこで、請求項5に記載の液滴吐出装置では、除電手段によって、第2誘電層に付着した電荷を除去している。これによって、第2誘電層の自発分極による帯電電位を維持できるので、第2誘電層と導電部材との間の静電吸引力の低下を抑制できる。
【0029】
請求項6に記載の液滴吐出装置は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の液滴吐出装置であって、前記導電部材を前記搬送ベルトに接触可能としたことを特徴とする。
【0030】
請求項6に記載の液滴吐出装置では、対向部材が搬送ベルトに接触可能となっており、第2誘電層と導電部材とが接触することによって、第2誘電層に帯電が発生し、第2誘電層と導電部材との間に静電吸引力が発生する。
【0031】
ここで、導電部材が搬送ベルトに対して接触する程近接されているので、導電部材と搬送ベルトとの間の静電吸引力が強くなり、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動をより一層抑制できる。また、搬送ベルトが導電部材との間の静電吸引力によって導電部材に付勢されるので、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側及び液滴吐出ヘッド側の反対側の双方への移動を抑制でき、より一層、TDの均一性が高くなり、画質が向上する。
【0032】
請求項7に記載の液滴吐出装置は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の液滴吐出装置であって、前記第1電位維持手段が、前記導電層を接地する接地手段であることを特徴とする。
【0033】
請求項7に記載の液滴吐出装置では、導電層が接地手段によって接地されているので、第1誘電層、第2誘電層において電荷の状態が安定し、記録媒体と第1誘電層との静電吸着力、第2誘電層と導電部材との間の静電吸引力が安定する。
【0034】
請求項8に記載の液滴吐出装置は、請求項1乃至7の何れか1項に記載の液滴吐出装置であって、前記第2電位維持手段が、前記導電部材を接地する接地手段であることを特徴とする。
【0035】
請求項8に記載の液滴吐出装置では、導電部材が接地手段によって接地されているので、第2誘電層と導電部材との間の静電吸引力が安定する。
【発明の効果】
【0036】
本発明は上記構成にしたので、電磁波障害、搬送ベルトの損傷を増加させることなく、搬送ベルトの液滴吐出ヘッド側への移動を抑制できる。また、記録媒体と搬送ベルトとの静電吸着力を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
【0038】
図1には、本実施形態のインクジェット記録装置12が示されている。インクジェット記録装置12の筐体14内の下部には給紙トレイ16が備えられており、給紙トレイ16内に積層された用紙Pをピックアップロール18で1枚ずつ取り出すことができる。取り出された用紙Pは、所定の搬送経路22を構成する複数の搬送ローラ対20で搬送される。
【0039】
給紙トレイ16の上方には、無端状の搬送ベルト28が、駆動ロール24及び従動ロール26、27に張架されている。搬送ベルト28の上方には記録ヘッドアレイ30が配置されており、搬送ベルト28の平坦部分28Fに対向している。この対向した領域が、記録ヘッドアレイ30からインク滴が吐出される吐出領域SEとなっている。搬送経路22を搬送された用紙Pは、搬送ベルト28で保持されてこの吐出領域SEに至り、記録ヘッドアレイ30に対向した状態で、記録ヘッドアレイ30から画像情報に応じたインク滴が付着される。
【0040】
記録ヘッドアレイ30は、本実施形態では、有効な記録領域が用紙Pの幅(搬送方向と直交する方向の長さ)以上とされた長尺状とされ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、サイアン(C)、及びブラック(K)の4色それぞれに対応した4つのインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)32が搬送方向に沿って配置されており、フルカラーの画像を記録可能になっている。
【0041】
各記録ヘッド32は、ヘッド駆動回路(図示省略)によって駆動される。ヘッド駆動回路は、たとえば、画像情報に応じてインク滴の吐出タイミングや使用するインク吐出口(ノズル)を決め、駆動信号を記録ヘッド32に送る構成である。
【0042】
また、記録ヘッドアレイ30は、搬送方向と直交する方向に不動とされていてもよいが、必要に応じて移動するように構成しておくと、マルチパスによる画像記録で、より解像度の高い画像を記録したり、記録ヘッド32の不具合を記録結果に反映させないようにしたりできる。
【0043】
記録ヘッドアレイ30の両側には、それぞれの記録ヘッド32に対応した4つのメンテナンスユニット34が配置されている。図2に示すように、記録ヘッド32に対してメンテナンスを行う場合には、記録ヘッドアレイ30が上方へ移動され、搬送ベルト28との間に構成された間隙にメンテナンスユニット34が移動して入り込む。そして、ノズル面に対向した状態で、所定のメンテナンス動作(吸引、ワイピング、キャッピング等)を行う。
【0044】
図3に示すように、記録ヘッドアレイ30の上流側には、電源38が接続された帯電ロール36が配置されている。帯電ロール36は、従動ロール26との間で搬送ベルト28及び用紙Pを挟みつつ従動し、用紙Pを搬送ベルト28に押圧する。この際、電源38から帯電ロール36へ500〜3000V程度の電圧が印加されることで、用紙Pに電荷が与えられて用紙Pが搬送ベルト28に静電吸着される。
【0045】
なお、帯電ロール36は、コロトロン等の非接触帯電器と比較して低い印加電圧で済み、オゾンや放電生成物の発生も少ない。しかし、帯電ロール36に変えてコロトロンやスコロトロン等を用いても良い。
【0046】
また、帯電ロール36の体積抵抗率は、10Ω・cm以下になると火花放電が発生し易く、1011Ω・cm以上になるとドット状の帯電不良が発生し易くなるので、10〜1010Ω・cmの範囲とすることが望ましい。
【0047】
また、導電部材48が、搬送ベルト28を間に置いて記録ヘッドアレイ30と対向して配設されている。この導電部材48は、全ての記録ヘッド32のノズル面32Nに対向するサイズの平板で、接地部49によって接地されている。
【0048】
また、記録ヘッドアレイ30の下流側には、剥離プレート40が配置されており、用紙Pを搬送ベルト28から剥離させる。剥離された用紙Pは、剥離プレート40の下流側で排出経路44を構成する複数の排出ローラ対42で搬送され、筐体14の上部に設けられた排紙トレイ46に排出される。
【0049】
また、図1、図2に示すように、記録ヘッドアレイ30の上方には、各色のインクを貯留するインクタンク35が配置されている。各インクタンク35には、各記録ヘッド32が接続されている。
【0050】
ここで、搬送ベルト28の構成について説明する。
【0051】
図4に示すように、搬送ベルト28は、1層の導電層28Bを第1誘電層28A、第228Cで挟んだ3層構成になっている。第1誘電層28Aは、用紙Pを静電吸着させるために帯電ロール36から供給される電荷を保持するための層、導電層28Bは、帯電ロール36から供給された電荷を第1誘電層28Aに広範囲に亘って安定的に保持させるための層、第2誘電層28Cは、搬送ベルト28の内周面を接触帯電又は摩擦帯電させるための層であり、第1誘電層28Aは外周側(記録ヘッド32側)、第2誘電層28Cは内周側(記録ヘッド32側の反対側)に設けられている。
【0052】
第1誘電層28Aは、下記(1)、(2)の熱可塑性樹脂や下記(3)のゴム材料ポリカーボネート樹脂を用いて無端ベルト化し、体積抵抗を1012〜1017Ω・cm、厚さを10〜200μmとすることが望ましい。また、第1誘電層28Aは、導電化して自己除電性を持たせても良い。この場合、カーボンブラック、カーボンナノチューブをはじめとする導電性無機粉体を樹脂中に適量混合する方法が最も効果的であるが、小径金属粒体、金属酸化物粒体、または酸化チタンや各種無機粒体・ウイスカーを金属酸化物等の導電性物質で皮膜形成したものを樹脂中に適量混合すること、LiCi等のイオン導電性物質やポリアニリン等の導電性高分子材料からなる粉体を樹脂中に添加することによっても同様の効果が得られる。
(1)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアルキレンフタレート、ポリカーボネート(PC)/ポリアルキレンテレフタレート(PAT)のブレンド材料
(2)エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)/PC、ETFE/PAT、PC/PATのブレンド材料
(3)クロロプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーン変性ウレタンゴム等のゴム材料
また、導電層28Bは、Al、Cr、Ni等の金属材料又はカーボン粒子や導電性樹脂フィラーを含んだ樹脂材料やゴム材料で形成し、体積抵抗を10−6〜10Ω・cm、厚さを0.1〜200μmとすることが望ましい。なお、導電層28Bは、蒸着、スパッタリング、導電ペーストの印刷、メッキ等の公知の方法により第1誘電層28Aの一面に形成すれば良い。
【0053】
また、第2誘電層28Cは、第1誘電層28Aと同様の材料、物性、厚みを適用可能である。
【0054】
なお、上記構成に加えて、基材層、表面保護層、撥水層、低摩擦係数層等を設けても良い。
【0055】
ここで、図5(A)に示すように、搬送ベルト28を第1誘電層28Aの1層構成とした場合、帯電ロール36と従動ロール26との間では、第1誘電層28Aに保持された電荷の状態が一様になるが、帯電ロール36の搬送方向下流側では、放電が起こる等して第1誘電層28Aに保持された電荷の状態が変化してしまう。これによって、用紙Pと搬送ベルト28との静電吸着力が不安定になり、用紙Pの搬送ベルト28からの浮上りが発生するという問題があった。
【0056】
一方で、第1誘電層28Aが内周側に露出していることから、駆動ロール24、従動ロール26と第1誘電層28Aとの接触、摺擦によって第1誘電層28Aに接触帯電又は摩擦帯電が発生し、導電部材48と搬送ベルト28との間に静電吸引力F1が発生する。これによって、静電吸引力F1の逆方向へ作用する搬送ベルト28と記録ヘッド32との間の静電吸引力F2が減衰され、搬送ベルト28の記録ヘッド32側への移動が抑制されるという利点を有していた。
【0057】
これに対して、図5(B)に示すように、搬送ベルト28を第1誘電層28Aと導電層28Bとの2層構成、但し、導電層28Bを第1誘電層28Aの一面全体に形成し、且つ導電層28を接地した場合、第1誘電層28A全域において電荷を安定した状態に保つことができる。これによって、搬送ベルト28と用紙Pとの静電吸着力が安定し、用紙Pの搬送ベルト28からの浮上りが抑制されるという利点を有する。
【0058】
一方で、第1誘電層28Aの内周側の面が導電層28Bによって完全に覆われていることで、第1誘電層28Aに接触帯電又は摩擦帯電が発生し難くなり、プラテン48と搬送ベルト28との間の静電吸引力F1が弱くなる。このため、搬送ベルト28の帯電電位を大きくした場合には、搬送ベルト28と記録ヘッド32との間の静電吸引力F2による搬送ベルト28の記録ヘッド32側への移動が発生し、TDを狭くした場合には、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触が発生するという問題があった。
【0059】
そこで、図4に示すように、本実施形態では、用紙Pと搬送ベルト28との静電吸着力を安定させるために、搬送ベルト28を第1誘電層28Aと導電層28Bとの2層を有するという点は変えずに、導電層28Bの内周側に接触帯電又は摩擦帯電が可能な第2誘電層28Cを設けた。
【0060】
図4は搬送ベルト28の周方向断面を示している。図示するように、第1誘電層28Aの幅が導電層28B、第2誘電層28Cよりも狭くなっており、導電層28Bの幅方向一端部が第1誘電層28A側に露出している。この導電層28Bの露出した部分には、接地部51によって接地された導電性ブラシ50が接触している。これによって、第1誘電層28A、第2誘電層28Cに保持された電荷が全周全域で安定した状態に保たれる。
【0061】
また、搬送ベルト28の内周側の一面が第2誘電層28Cになっているので、搬送ベルト28が回動している間、第2誘電層28Cと駆動ロール24、従動ロール26とが接触又は摺擦し、第2誘電層28Cに接触帯電又は摩擦帯電が発生する。このため、搬送ベルト28が記録ヘッド32と導電部材48との間を通過している際に、第2誘電層28Cと導電部材48との間で静電吸引力F1が発生する。
【0062】
これに対して、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの間には、静電誘導が発生することによって静電吸引力F2が発生する。本実施形例では、第1誘電層28Aの帯電電位Vを1000[V]、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの間隔(TD)dを1.0[mm]、搬送ベルト28の記録ヘッド32のノズル面32Nと対向する面積Sを0.09[m]としており、静電吸引力F2は、下記(1)式で示すように、0.41[N]となる。なお、電源38から帯電ロール36への印加電圧は1500Vである。
【0063】
F2=1/2εS(V/d)=0.41[N]、εは空気の誘電率…(1)
即ち、搬送ベルト28には、上向き(記録ヘッド32側向き)の静電吸引力F2と、下向き(導電部材48側向き)の静電吸引力F1とが作用しており、静電吸引力F2が静電吸引力F1によって減衰されている。これによって、搬送ベルト28の記録ヘッド32側への移動を抑制できる。
【0064】
本実施例では、第1誘電層28Aを、体積抵抗が1013Ω・cm、厚さが75μmのカーボン分散ポリイミドの層、導電層28Bを、体積抵抗が10Ω・cm、厚さが25μmのカーボン分散ポリイミドの層、第2誘電層28Cを、体積抵抗が1016Ω・cm、厚さが50μmのポリプロピレンの層、搬送ベルト28の幅を365mm、搬送ベルト28の周長を762mm、導電部材48の材質をAl、幅×長さ×厚みを350mm×300mm×6mm、導電部材48と搬送ベルト28とのギャップを平均で0.1mm、帯電ロール36を、体積抵抗が10Ω・cmのカーボン分散ポリウレタンゴムを金属シャフトに被覆したロール、駆動ロール24、従動ロール26、27の材質をAlとしたところ、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生しなかった。また、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。また、TDを0.5mmに縮小しても、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生せず、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。
【0065】
これに対して、図5(B)に示す第1誘電層28Aと導電層28Bとの2層構成の搬送ベルトを、本実施例の第1誘電層28A、導電層28Bと同じ条件で形成し、実験を行ったところ、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は、TDが1.5mmの場合では発生しなかったが、TDが1.0mmの場合では発生した。
【0066】
なお、本実施例では、第2誘電層28Cは平均で−350Vの表面電位に帯電したが、特に、第2誘電層28Cと駆動ロール24、従動ロール26、27とを滑らせた(摩擦させた)訳ではなく、むしろ滑ることなく一定速度で回転するように構成した。
【0067】
ここで、第2誘電層28Cの帯電量を増減させる必要がある場合には、第2誘電層28C又は駆動ロール24、従動ロール26、27の材質を変更すれば良い。この材質の変更に際しては、図6の表に示す帯電系列の中から配列順が近い2つの材質を選択すれば帯電量は減少し、配列順が遠い2つの材質を選択すれば帯電量は増加する。例えば、第2誘電層28Cを強マイナスのテフロン(登録商標)にすれば、帯電量は増加し、第2誘電層28Cの表面を強マイナスに帯電させることができる。なお、第2誘電層28Cの過剰な帯電は、第2誘電層28Cと導電部材48との間の静電吸引力F1を過剰に上昇させ、搬送ベルト28の回転負荷を増大させるので好ましくないが、テフロン(登録商標)は表面の摩擦係数が小さく、耐摩耗性、摺動性に優れているので、第2誘電層28Cの材料としては好適である。
【0068】
以上のことから、本実施形態のように、搬送ベルト28を導電層28Bを第1誘電層28A、第2誘電層28Cで挟んだ3層構成にすることで、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触を防止しつつ、搬送ベルト28の帯電量をより大きく、TDをより狭くすることができるので、用紙Pへのインク滴の着弾精度をより向上させることができ、以って、画質をより向上させることができる。
【0069】
また、搬送ベルト28を導電部材48側へ付勢する力を接触帯電又は摩擦帯電を利用した静電吸引力としたことによって、電極同士が摺擦する高圧給電部が不要となり、搬送ベルト28の周囲での放電の発生を抑制でき、電磁波障害を抑制できる。また、搬送ベルト28の周囲での火花の発生を防止できるので、搬送ベルト28の損傷を抑制でき、搬送ベルト28の短命化を抑制できる。
【0070】
なお、駆動ロール24が接地部39によって接地されており、搬送ベルト28は1周毎に第2誘電層28Cの電荷を減衰される。これによって、第2誘電層28Cでは、摩擦帯電による電荷の蓄積が行われないようになっており、第2誘電層28Cと導電部材48との間の静電吸引力F1の過剰な上昇が防止され、以って、搬送ベルト28の回転負荷の過剰な上昇が防止されている。
【0071】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、説明は省略する。
【0072】
図7に示すように、本実施形態では、摺接部材52が搬送ベルト28の内周側に配設され、従動ロール26と導電部材48との間で搬送ベルト28の内周面に摺接している。このため、第2誘電層28Cに接触帯電又は摩擦帯電が発生し、第2誘電層28Cと導電部材48との間で静電吸引力が発生する。
【0073】
なお、摺接部材52は、図示するようなブラシ状の部材以外にパッド状、ロール状の部材等が適用可能で、搬送ベルト28の全幅に亘って接しても良く、所々に接するようにしても良い。また、摺接部材52の材質、搬送ベルト28への接触面積、接触圧は、第2誘電層28Cの帯電量、搬送ベルト28の回転負荷の目標値に応じて適宜設計すれば良い。
【0074】
本実施例では、摺接部材52をナイロンの繊維を束ねたブラシ状の部材とし、搬送ベルト28の全幅に亘って接触させ、その他の条件を第1実施形態と同様にしたところ、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生しなかった。また、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。また、TDを0.5mmに縮小しても、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生せず、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。
【0075】
なお、摺接部材52を搬送ベルト28の周方向のどの位置に設置すべきかは特に限定されない。本実施例では体積抵抗率が高い第2誘電層28Cを選択したが、この場合、第2誘電層28Cの帯電面が金属ロールに触れたとしても短時間では減衰しないので、摺接部材52を搬送ベルト28の周方向の任意の位置に設置しても、誘電層28と導電部材48との間に十分大きな静電吸引力を発生させることができる。
【0076】
また、適度な導電性を有する第2誘電層28Cを選択し、第2誘電層28Cが帯電した電荷が常に減衰されるような構成にする場合には、摺接部材52を、導電部材48の直前に設置することが好ましい。
【0077】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、第1、第2実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、説明は省略する。
【0078】
図8に示すように、本実施形態では、導電部材54が、搬送ベルト28を間に置いて記録ヘッドアレイ30に対向して配設されている。この導電部材54は、上面が駆動ロール24、従動ロール26の上端部よりも記録ヘッドアレイ30側に位置するように配置されており、搬送ベルト28の内周面と導電部材54の上面とが接触するようになっている。このため、搬送ベルト28が回動している間、第2誘電層28Cと導電部材54との間で接触帯電又は摩擦帯電が発生することで第2誘電層28Cの帯電量が増加し、また、第2誘電層28Cと導電部材54との距離が接触する程小さくなったので、第1、第2実施形態と比較して、第2誘電層28Cと導電部材54との間の静電吸引力が増加する。
【0079】
また、搬送ベルト28が静電吸引力によって導電部材54に付勢されるので、搬送ベルト28の上下変動を抑制でき、TDの均一性をより一層向上できる。
【0080】
ここで、図9(A)に示すように、導電部材54の搬送方向上流端部及び下流端部には、曲面処理が施されており、角部が搬送ベルト28に接触しないようになっている。これによって、第2誘電層28Cの磨耗を低減でき、また、搬送ベルト28の回転負荷を抑制できる。
【0081】
なお、図9(B)に示すように、導電部材54の上面を耐摩耗性に優れた材質で被覆するとより効果的である。この場合、第2誘電層28Cと導電部材54の被覆層54Aとの摩擦帯電特性を考慮して被覆層54Aの材質を選択すれば良い。例えば、第2誘電層28Cをポリプロピレン、導電部材54の被覆層54Aをテフロン(登録商標)とした場合、第2誘電層28Cがプラスに、被覆層54Aがマイナスに帯電し、第2誘電層28Cと被覆層54Aとの間に静電吸引力が発生する。
【0082】
本実施例では、被覆層54Aをテフロン(登録商標)、第2誘電層28Cをポリプロピレン、その他の条件を第1実施形態と同様にしたところ、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生しなかった。また、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。また、TDを0.5mmに縮小しても、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生せず、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。
【0083】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、第1乃至第3実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、説明は省略する。
【0084】
図10に示すように、本実施形態では、電源56に接続された帯電ロール58が搬送ベルト28の内周側に配設されている。この帯電ロール58は、搬送ベルト28の従動ロール26、27間の面に当接し、搬送ベルト28に従動して回転し、第2誘電層28Cを帯電している。
【0085】
本実施例では、電源56から帯電ロール58へ800Vの電圧を印加し、第2誘電層28Cの表面を350Vに帯電させる。また、帯電ロール58を帯電ロール36と同一部品とし、その他の条件を第1実施形態と同様にしている。その結果、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生しなかった。また、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。また、TDを0.5mmに縮小しても、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生せず、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。
【0086】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。なお、第1乃至第4実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、説明は省略する。
【0087】
図4に示すように、本実施形態では、第2誘電層28Cが、エレクトレット材料からなる薄層となっている。この第2誘電層28Cは、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化ポリプロピレン共重合体等をシート状に加工し高電界雰囲気に晒して自発分極を発生させる方法で形成し、体積抵抗率を1012〜1017Ω・cm、厚さを10〜200μmとすることが望ましい。
【0088】
即ち、本実施形態では、搬送ベルト28の内周側の一面がエレクトレット化された第2誘電層28Cになっており、常時、搬送ベルト28の内周側の一面が帯電しているので、搬送ベルト28が記録ヘッド32と導電部材48との間を通過している際に、第2誘電層28Cと導電部材48との間で静電吸引力が発生する。
【0089】
ここで、搬送ベルト28を回動すると、第2誘電層28Cと駆動ロール24、従動ロール26、27等との接触帯電や摩擦帯電によって第2誘電層28Cの表面に電荷が付着し、自発分極で形成された電界と接触帯電や摩擦帯電で形成された電界とが重合する。これによって、第2誘電層28Cの帯電電位が変化し、接触帯電や摩擦帯電の極性によっては低下する。
【0090】
このため、図11に示すように、接地部61によって接地された導電性ブラシ60を、搬送ベルト28の内周側に配設し、搬送ベルト28の従動ロール26、27間の面に当接させて、第2誘電層28Cに付着した電荷を除去している。これによって、第2誘電層28Cの自発分極による帯電電位を維持できるので、第2誘電層28Cと導電部材48との間の静電吸引力の低下を抑制できる。
【0091】
本実施例では、第2誘電層28Cを、体積抵抗が1013Ω・cm、厚さが50μm、帯電電位が+300Vのエレクトレット化されたプロピレンの層、導電性ブラシ60を、直径10〜100μm程度のアクリル繊維に銅イオンを封じ込めた有機導電性繊維、ステンレス繊維、アモルファス金属繊維等の集束体、その他の条件を第1実施形態と同様にしたところ、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生しなかった。また、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。また、TDを0.5mmに縮小しても、搬送ベルト28と記録ヘッド32のノズル面32Nとの接触は発生せず、搬送ベルト28からの用紙Pの浮上りも見られなかった。
【0092】
なお、本実施形態では、第2誘電層28Cを除電する除電手段を、接地された導電性ブラシ60としたが、第2誘電層28Cに付着した電荷と逆極性の電圧を印加する除電器や、第2誘電層28Cに交流電圧を印加する除電器等も適用可能である。また、除電手段は第2誘電層28Cに接触するように配置しても良いし、第2誘電層28Cとの間に微小なギャップが形成されるように配置しても良い。
【0093】
次に、本発明の第6実施形態について説明する。なお、第1乃至第5実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、説明は省略する。
【0094】
図12に示すように、本実施形態では、第2誘電層28Cの幅が導電層28B、第1誘電層28Aよりも狭くなっており、導電層28Bの幅方向一端部が第2誘電層28C側に露出している。この導電層28Bの露出した部分には、接地部39によって接地された駆動ロール26が接触している。これによって、第1誘電層28A(図4参照)、第2誘電層28Cに保持された電荷が全周全域で安定した状態に保たれる。
【0095】
また、搬送ベルト28の内周側の一面が第2誘電層28Cになっているので、搬送ベルト28が回動している間、第2誘電層28Cと駆動ロール24、従動ロール26とが接触、摺擦し、第2誘電層28Cに接触帯電又は摩擦帯電が発生する。このため、搬送ベルト28が記録ヘッド32と導電部材48との間を通過している際に、第2誘電層28Cと導電部材48との間で静電吸引力が発生する。
【0096】
なお、第1乃至第6実施形態では、インクジェット記録装置を例に取って本発明を説明したが、本発明は、インクジェット記録装置に限らず、高分子フィルム上に着色インクを吐出して行うディスプレイ用のカラーフィルターの作製、有機EL溶液を基板上に吐出させて行うELディスプレイパネルの形成など、様々な工業的用途を対象とした液滴吐出装置一般に対して、適用可能である。
【0097】
また、本発明の液滴吐出装置において画像記録の対象となる「記録媒体」には、液滴吐出ヘッドが液滴を吐出する対象物であれば広く含まれる。したがって、記録媒体には、記録用紙やOHPシートなどが含まれるのはもちろんであるが、これら以外にも、たとえば、高分子フィルムなどが含まれる。
【0098】
さらに、第1乃至第6実施形態では、用紙Pの幅よりも短尺のインクジェット記録ヘッドを用紙Pの幅方向に複数配列してユニット化した構成を例に取って本発明を説明したが、これに限らず、例えば、用紙Pの幅よりも短尺のインクジェット記録ヘッドを用紙Pの幅方向に移動させる構成等にも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の概略を示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の概略を示す側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図4】本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の搬送ベルトの周方向の断面を示す図である。
【図5】(A)は誘電層の1層構成の搬送ベルトを示す断面図、(B)は誘電層と導電層との2層構成の搬送ベルトを示す断面図である。
【図6】各種の材料の帯電系列を示す表である。
【図7】本発明の第2実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図8】本発明の第3実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図9】(A)、(B)は、本発明の第3実施形態のインクジェット記録装置の導電部材を示す断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図11】本発明の第5実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図12】本発明の第6実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図13】従来のインクジェット記録装置における記録ヘッドと搬送ベルトとを模式的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0100】
12 インクジェット記録装置(液滴吐出装置)
26 駆動ロール(第1電位維持手段、接地手段)
28 搬送ベルト
28A 第1誘電層
28B 導電層
28C 第2誘電層
32 インクジェット記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
36 帯電ロール(第1帯電手段)
39 接地部(第1電位維持手段、接地手段)
48 導電部材
50 導電性ブラシ(第1電位維持手段、接地手段)
51 接地部(第1電位維持手段、接地手段)
52 摺接部材(接触部材)
54 導電部材
58 帯電ロール(第2帯電手段)
60 導電性ブラシ(除電手段)
61 接地部(除電手段)
P 用紙(記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、
導電層と、前記導電層の前記液滴吐出ヘッド側に設けられた第1誘電層と、前記導電層の前記液滴吐出ヘッド側の反対側に設けられた第2誘電層とを備え、記録媒体を保持し前記液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトを前記第1誘電層側から帯電する第1帯電手段と、
前記導電層を所定電位に維持する第1電位維持手段と、
前記搬送ベルトを間に置いて前記液滴吐出ヘッドと対向する導電部材と、
前記導電部材を所定電位に維持する第2電位維持手段と、
を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記搬送ベルトを前記第2誘電層側から帯電する第2帯電手段を有することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記第2誘電層に接触する接触部材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記第2誘電層をエレクトレット化したことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記第2誘電層に付着した電荷を除去する除電手段を有することを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記導電部材を前記搬送ベルトに接触可能としたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記第1電位維持手段が、前記導電層を接地する接地手段であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記第2電位維持手段が、前記導電部材を接地する接地手段であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−210112(P2007−210112A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29473(P2006−29473)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】