説明

液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物及びその成形品

【課題】粘度が低く、硬化後の成形品のタック感が低く、特には射出成形に好適に適用し得る液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物、及び該組成物を加熱硬化して得られるフロロシリコーンゴム成形品を提供する。
【解決手段】液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物において、特定の環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度が低く、硬化後の成形品のタック感が低く、特には射出成形に好適に適用し得る液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物、及び該組成物を加熱硬化して得られるフロロシリコーンゴム成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物は、耐ガソリン性、耐油性に優れることから航空機や車載用ゴム部品等に使用されている。
【0003】
上記部品加工の生産性を向上させるため、射出成形機を使用し、ハイサイクルで射出成形することが望まれていた。しかし、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物は、粘度が高く、かつゴム成形品のタック感が強いという欠点があった。即ち、該組成物は、粘度が高いため、該組成物を材料ポンプで射出成形機に材料供給することが困難であり、また得られるゴム成形品のタック感が強いため、金型から脱型が困難となり、ハイサイクルで成形できないという問題があった。
【0004】
射出成形加工において、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物を用いること、及び該組成物を成形、硬化してなる成形品についての記載は、公知文献に見当たらない。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3365785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、粘度が低く、硬化後の成形品のタック感が低く、特には射出成形に好適に適用し得る液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物、及び該組成物を加熱硬化して得られるフロロシリコーンゴム成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物において、特定の環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤を使用することにより、粘度が低く、かつ、硬化後の成形品のタック感が低い液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物が得られ、該組成物は、射出成形用材料として好適であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記に示す液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物及びその成形品を提供する。
〔請求項1〕
(A)下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦1,000の整数である。)
で示される25℃の粘度が100〜500,000mPa・sであるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(B)成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり0.5〜10個となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)下記一般式(II)
【化2】

〔式中、R6、R8、R9は炭素原子数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R7は3,3,3−トリフロロプロピル基であり、pは1≦p≦100の整数、qは1≦q≦100の整数、p+qは3≦p+q≦200の整数である。(SiR67O)単位と(SiR89NH)単位とはランダムに結合していてもよい。〕
で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤:10〜60質量部
を含有することを特徴とする液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物。
〔請求項2〕
射出成形用である請求項1記載の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物。
〔請求項3〕
請求項1又は2記載の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物を加熱硬化してなるフロロシリコーンゴム成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物によれば、粘度が低く、かつ得られる硬化物のタック感が弱い(小さい)ため、今まで困難であった射出成形用の材料として好適に用いることができ、成形品の生産性向上に寄与することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物は、
(A)下記一般式(I)
【化3】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦1,000の整数である。)
で示される25℃の粘度が100〜500,000mPa・sであるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(B)成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり0.5〜10個となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)下記一般式(II)
【化4】

〔式中、R6、R8、R9は炭素原子数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R7は3,3,3−トリフロロプロピル基であり、pは1≦p≦100の整数、qは1≦q≦100の整数、p+qは3≦p+q≦200の整数である。(SiR67O)単位と(SiR89NH)単位とはランダムに結合していてもよい。〕
で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤:10〜60質量部
を含有してなるものである。
【0011】
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A)成分は、下記一般式(I)で示される25℃の粘度が100〜500,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンである。
【化5】

【0012】
ここで、上記式(I)中、R1〜R5は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子(特には、フッ素以外のハロゲン原子)、シアノ基等で置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、2−シアノエチル基等の、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6の、脂肪族不飽和基を除く非置換又は置換の一価炭化水素基である。R1〜R5としては、アルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
【0013】
また、mは、0≦m≦100の整数であり、好ましくは0≦m≦50、より好ましくは0≦m≦30、更に好ましくは0≦m≦20、最も好ましくは0≦m≦10の整数であり、nは、1≦n≦1,000の整数であり、好ましくは5≦n≦900、より好ましくは10≦n≦800、更に好ましくは50≦n≦800、最も好ましくは100≦n≦800の整数である。(m+n)は、好ましくは5≦m+n≦950、より好ましくは10≦m+n≦830、更に好ましくは60≦m+n≦830、最も好ましくは120≦m+n≦830の整数である。
このオルガノポリシロキサンの重合度は、25℃における粘度が100〜500,000mPa・sとなる範囲である。
【0014】
(A)成分の25℃における粘度は、硬化物の物理的特性が良好であり、また組成物の取扱い作業性が良好であることから、100〜500,000mPa・sの範囲内であり、300〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。25℃における粘度が100mPa・s未満であると硬化物の強度が不十分となり、500,000mPa・sを超えると取扱い性が低下する。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定することができる(以下、同じ)。
【0015】
また、優れた炭化水素溶剤耐久性を持たせるためには、3,3,3−トリフロロプロピルメチルシロキサン単位(即ち、(CF3CH2CH2)(CH3)SiO単位)の含有量が、分子中の全シロキサン単位(特には、主鎖を構成する2官能性シロキサン単位の合計)中、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30〜100モル%である。
【0016】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤として作用する。(B)成分の分子構造に特に制限はなく、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造(樹脂状)等の、従来製造されている各種のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することができる。
【0017】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3〜100個、特に好ましくは3〜50個のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、ヒドロシリル基(SiH基))を有する。(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが直鎖状構造を有する場合、これらのSiH基は、分子鎖末端及び分子鎖途中(分子鎖非末端)のどちらか一方にのみ位置していても、その両方に位置していてもよい。
【0018】
ケイ素原子に結合した水素原子以外のケイ素原子に結合する一価の有機基としては、通常、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8程度の、非置換又は置換の、脂肪族不飽和結合を含有しない同一又は異種の一価炭化水素基が例示でき、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換したもの、例えばトリフロロプロピル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、トリフロロプロピル基である。
【0019】
(B)成分の1分子中のケイ素原子の数(重合度)は、好ましくは2〜300個、より好ましくは3〜200個、更に好ましくは4〜150個である。
【0020】
更に、(B)成分は室温(25℃)で液状であり、(B)成分の25℃における粘度は0.1〜1,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは0.5〜500mPa・sである。粘度が低すぎても高すぎても作業性が低下することがある。
【0021】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、具体的には、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体や、上記例示化合物において、メチル基の一部又は全部を他のアルキル基や、フェニル基、トリフロロプロピル基等で置換したものなどが挙げられる。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の数が0.5〜10個、好ましくは1〜5個の範囲内となる量である。該配合量が(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5個未満となる量であると、得られる組成物は十分に硬化しない。また、該配合量が(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が10個を超える量であると、得られるシリコーンゴムの耐熱性が極端に劣ったものとなる。
【0023】
(C)付加反応触媒
(C)成分の付加反応触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進するものであればいかなる触媒であってもよい。その具体例としては、白金、パラジウム、ロジウム等や塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の、白金族金属又はそれらの化合物が挙げられるが、特に好ましくは白金系化合物である。
(C)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
(C)成分の配合量は、触媒としての有効量でよいが、(A)成分及び(B)成分の合計量に対して、触媒金属元素に換算して質量基準で1〜500ppmの範囲であることが好ましく、10〜100ppmの範囲であることがより好ましい。かかる範囲を満たすと、付加反応の反応速度が適切なものとなり、かつ硬化物の耐熱性が良好なものとなる。
【0025】
(D)環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤
本発明の(D)成分であるシリカ充填剤は、下記一般式(II)で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤であり、得られるシリコーンゴムに十分な強度を与えるために必須なものである。本発明組成物の粘度及びゴム成形品のタック感を低くするためには、該環状ポリオルガノシロキサンシラザンでシリカを表面処理することが必須である。
【0026】
【化6】

〔式中、R6、R8、R9は炭素原子数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R7は3,3,3−トリフロロプロピル基であり、pは1≦p≦100の整数、qは1≦q≦100の整数、p+qは3≦p+q≦200の整数である。(SiR67O)単位と(SiR89NH)単位とはランダムに結合していてもよい。〕
【0027】
上記式(II)中、R6、R8、R9の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、脂肪族不飽和結合を除くものが好ましく、例えば、前記(A)成分のR1〜R5と同様のものを挙げることができ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子(特には、フッ素原子以外のハロゲン原子)、シアノ基等で置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、2−シアノエチル基等の、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6の、脂肪族不飽和基を除く非置換又は置換の一価炭化水素基が挙げられ、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基である。
【0028】
また、pは1≦p≦100、好ましくは2≦p≦50、より好ましくは3≦p≦30の整数、qは1≦q≦100、好ましくは1≦q≦50、より好ましくは1≦q≦30の整数、p+qは3≦p+q≦200、好ましくは3≦p+q≦100、より好ましくは4≦p+q≦60、更に好ましくは4≦p+q≦20の整数である。
【0029】
上記環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理するシリカとしては、従来からシリコーンゴム組成物に使用されているものを用いることができ、沈澱シリカ(湿式シリカ)、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)、焼成シリカ等が好適に使用され、とりわけヒュームドシリカを用いることが好適である。
【0030】
(D)成分としては、表面未処理のシリカを予め上記環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理したものを使用するか、あるいは組成物を調製する際に、表面未処理のシリカとシリコーンオイル((A)成分及び/又は(B)成分)との混練時に上記環状ポリオルガノシロキサンシラザンを添加して、好ましくは少量の水の存在下に加熱混合して組成物中で表面処理したものを使用することが好ましい。
上記環状ポリオルガノシロキサンシラザンによりシリカを表面処理する際の処理量は、表面未処理のシリカ40質量部に対して上記環状ポリオルガノシロキサンシラザンを1〜30質量部、特に2〜20質量部程度で表面処理することが好ましい。
【0031】
上記環状ポリオルガノシロキサンシラザンでの表面処理前又は表面処理後の、シリカのBET法による比表面積は、50m2/g以上、好ましくは100〜400m2/g、より好ましくは150〜350m2/gである。比表面積が50m2/gより小さいと十分な強度が得られないばかりか、ゴム成形品の外観も良くない場合がある。400m2/gより大きいと配合が困難になったりする場合がある。
【0032】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し、10〜60質量部、好ましくは15〜55質量部である。配合量が10質量部より少ないと十分なゴム強度が得られず、また60質量部を超える量では配合が困難になってしまう。
【0033】
その他の成分
本発明の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物において、その他の成分として、必要に応じて、前記(D)成分以外の、沈降シリカ、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することは、ゴム成形品の外観を損なわない範囲で任意とされる。
【0034】
本発明の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物は、上記(A)〜(D)成分、及び必要に応じて各任意成分を、ニーダー、プラネタリーミキサーなどの通常の混合攪拌器、混練器等を用いて上記各成分を均一に混合することにより調製することができる。
【0035】
本発明の組成物は、作業性等の点から、23℃において、せん断速度0.9s-1での粘度が10,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは500〜9,000Pa・s、更に好ましくは1,000〜8,000Pa・s程度である。この粘度が10,000Pa・sを超える場合には、射出成形を行う際に材料供給に時間がかかり、生産性が著しく低下することがある。なお、せん断速度下での粘度の測定は、例えば、精密回転式粘度計(Haake(株)製)等のレオメーター式の回転粘度計を用いて行えばよい。
【0036】
なお、本発明においては、上記液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物を2液型とすることもでき、この場合、架橋剤としての(B)成分と付加反応触媒の(C)成分とが同一の組成物(A液又はB液)中に混在しないように各成分を適宜分割すればよく、例えば、(A)成分の一部、(C)成分及び(D)成分の一部又は全部を含有するA液と、(A)成分の残部、(B)成分及び場合により(D)成分の残部を含有するB液とからなる2液型の組成物とすることができ、等質量又は等容量で混合できるように調製することが好ましい。
本発明の組成物は、圧縮成形、押出成形、射出成形等各種の成形方法に適用することができ、低粘度で、かつ硬化物(成形物)の表面タック性が低いことから、ハイサイクルでの射出成形に好適に使用できる。
【0037】
次に、射出成形によるシリコーンゴムの成形方法について説明する。
液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物は、射出成形材料として、A液とB液の2液タイプに分割される。2液に分割された材料は材料供給ポンプから定量器に供給される。定量器からA液とB液が等量の割合で材料供給ラインを通じて合流する。材料は成形機本体のスクリュー部とシリンダー部で混合される。その後、金型に射出され、金型内で加熱されて硬化し、シリコーンゴムが成形される。
【0038】
液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物の硬化成形(1次キュア)条件としては、公知の液状付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、硬化温度は80〜220℃、特に120〜200℃で、硬化時間は3秒〜10分間、特に5秒〜5分間加熱することにより硬化成形することができる。成形した硬化物は、必要に応じて、例えば、180〜220℃で30分〜6時間程度、ポストキュア(2次硬化)させてもよい。
【0039】
本発明の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物を加熱硬化して得られたフロロシリコーンゴム成形品は、耐ガソリン性、耐油性に優れることから、航空機や車載用ゴム部品等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、(A)成分の粘度は、25℃においてBH型回転粘度計(ロータNo.7、回転数10rpm)により、(B)成分の粘度は、25℃においてBL型回転粘度計(ロータNo.2、回転数60rpm)により、それぞれ測定した。
【0041】
[実施例1]
下記式(1)
【化7】

で示される両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が1,000Pa・sであるトリフロロプロピルメチルポリシロキサン[ビニル基含有量3.5×10-5mol/g]100質量部、BET法による比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40質量部、下記式(2)
【化8】

で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザン12質量部、水6質量部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間攪拌を続け、シリコーンゴムベースを得た。
【0042】
このシリコーンゴムベース140質量部、上記式(1)で示される両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が1,000Pa・sであるトリフロロプロピルメチルポリシロキサン15質量部、架橋剤として下記式(3)
【化9】

で示される側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[粘度0.06Pa・s、SiH基量0.0048mol/g]2.3質量部((A)成分中のケイ素原子結合ビニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比[SiH/SiVi]=2.4)、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.20質量部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.3質量部を適宜混合し、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物1を調製した。
【0043】
このシリコーンゴム組成物1を150℃/10分のプレスキュアを行った1次加硫したものと、150℃/10分のプレスキュアを行ったものに更に200℃/4時間恒温槽で2次加硫(ポストキュア)したものについて、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント)を測定し、更に2次加硫したものについて、指触によるゴム表面のタックの有無を判定すると共に、ゴム硬化物表面の抵抗力を測定し、これらの結果を表1に示した。また、このシリコーンゴム組成物1を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃におけるせん断速度0.9s-1での粘度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、シリコーンゴムベースを作製する工程において、上記式(2)で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザン12質量部及び水6質量部を、下記式(4)
【化10】

で示されるシラノール化合物16質量部に変更した以外は同様に混合し、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物2を調製した。
このシリコーンゴム組成物2を150℃/10分のプレスキュアを行った1次加硫したものと、150℃/10分のプレスキュアを行ったものに更に200℃/4時間恒温槽で2次加硫したものについて、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント)を測定し、更に2次加硫したものについて、指触によるゴム表面のタックの有無を判定すると共に、ゴム硬化物表面の抵抗力を測定し、これらの結果を表1に示した。また、このシリコーンゴム組成物2を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃におけるせん断速度0.9s-1での粘度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
実施例1において、シリコーンゴムベースを作製する工程において、上記式(2)で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザン12質量部及び水6質量部を、下記式(5)
【化11】

で示されるシラザン化合物16質量部、水2質量部に変更した以外は同様に混合し、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物3を調製した。
このシリコーンゴム組成物3を150℃/10分のプレスキュアを行った1次加硫したものと、150℃/10分のプレスキュアを行ったものに更に200℃/4時間恒温槽で2次加硫したものについて、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント)を測定し、更に2次加硫したものについて、指触によるゴム表面のタックの有無を判定すると共に、ゴム硬化物表面の抵抗力を測定し、これらの結果を表1に示した。また、このシリコーンゴム組成物3を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃におけるせん断速度0.9s-1での粘度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
[比較例3]
実施例1において、シリコーンゴムベースを作製する工程において、上記式(2)で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザン12質量部及び水6質量部を、下記式(6)
【化12】

で示されるシラザン化合物8質量部、水2質量部に変更した以外は同様に混合し、液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物4を調製した。
このシリコーンゴム組成物4を150℃/10分のプレスキュアを行った1次加硫したものと、150℃/10分のプレスキュアを行ったものに更に200℃/4時間恒温槽で2次加硫したものについて、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント)を測定し、更に2次加硫したものについて、指触によるゴム表面のタックの有無を判定すると共に、ゴム硬化物表面の抵抗力を測定し、これらの結果を表1に示した。また、このシリコーンゴム組成物4を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃におけるせん断速度0.9s-1での粘度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
〔表面タック(指触)の評価レベル〕
5人のテスターにより、下記4段階レベルでの評価を行い、各サンプルについて最多の評価レベルを採用した。
○ :ゴム表面にほとんどタック感(べたつき感)がない。
△ :ゴム表面に軽いタック感(べたつき感)がある。
× :ゴム表面にタック感(べたつき感)がある。
××:ゴム表面に強いタック感(べたつき感)がある。
【0049】
〔表面抵抗力の測定方法〕
テクスチャアナライザーTA−XT2(Texture Technologies Corp.製)を用いて、シリコーンゴム硬化物シート(厚さ2mm)をガラス板に載せ、テクスチャアナライザーのステージにセットし、0.2mm/秒の速度でプローブを300gfの力で硬化物に押しつけ、硬化物を0.1mm圧縮させた後、同速度でプローブの引き上げを開始し、プローブを引き上げる力(gf)が最大値を超えた時点で終了する。この時の最大引き上げ力(gf)を10分以内に7点測定し、その平均値を表面抵抗力とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦1,000の整数である。)
で示される25℃の粘度が100〜500,000mPa・sであるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(B)成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり0.5〜10個となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)下記一般式(II)
【化2】

〔式中、R6、R8、R9は炭素原子数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R7は3,3,3−トリフロロプロピル基であり、pは1≦p≦100の整数、qは1≦q≦100の整数、p+qは3≦p+q≦200の整数である。(SiR67O)単位と(SiR89NH)単位とはランダムに結合していてもよい。〕
で示される環状ポリオルガノシロキサンシラザンで表面処理した補強性シリカ充填剤:10〜60質量部
を含有することを特徴とする液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物。
【請求項2】
射出成形用である請求項1記載の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液状付加硬化型フロロシリコーンゴム組成物を加熱硬化してなるフロロシリコーンゴム成形品。

【公開番号】特開2013−47290(P2013−47290A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185589(P2011−185589)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】