説明

液状形態及び凍結乾燥形態の免疫ブロブリンG組成物用安定化配合物

本発明は、液状形態及び凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物の安定化に好適な、糖アルコール、グリシン及び非イオン洗浄剤を含む、免疫グロブリンG組成物の安定化配合物に関する。また、本発明は、前記安定化配合物を含む、液状形態又は凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状形態又は凍結乾燥形態のいずれかの免疫グロブリンG組成物(IgG)の安定化及び保存のための薬学的に許容される安定化配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自己免疫由来の多数の疾患が、現在のところ、IgG濃縮物によって治療されており、これは、過去数年において、欧州及びアメリカ合衆国におけるIgGの不足を生じている。
【0003】
事実、例えば、通常、酸性pHに処方され、静脈内投与によって適用可能な、ヒト血漿から製造されたIgG濃縮物の必要性が高まりつつある。IgGの必要性が高まると共に、治療において使用されることを目的とする、ならびに、液状又は凍結乾燥のいずれかの形態で保存される、静脈内投与が可能なIgG濃縮物(IgGIV)の安定化が、必須の特徴となっている。
【0004】
この点において、特に、アナフェラキシー反応のリスクと関連する、補体システムを活性化し得る凝集体(オリゴマー及びポリマー)の形成を回避するように、IgGIVが、安定化されなければならないことが知られている。さらに、IgGIV中の二量体の存在は、in vivoにおける動脈圧の低下と相関関係がある(Bleeker W.K. et al, Blood, 95, 2000. p. 1856-1861)。また、さらなる物理化学的劣化、とりわけ、酸化及び加水分解等は、IgGの保存中に干渉する可能性がある。
【0005】
治療的使用に好適な、変性されていないIgG組成物を得るためだけでなく、向上した保存安定性を備えたIgG組成物を得るため、IgGの凍結乾燥又は液状形態の安定化は、古くから、糖及びアミノ酸から選択される化合物の添加を必要とする。
【0006】
タンパク質組成物、特にIgGの凍結乾燥形態の特定の安定化剤の添加による安定化は、数々の研究において調べられた。M. Pikal, “Freez-Drying of Proteins, Part 2: Formulation Selection”, Biopharm, 3(9); pp. 26-30 (1990) 及びArakawa et al, Pharm. Res., 1991, 8(3), p. 285-291によって科学論文に掲載されたそれらは、凍結乾燥前のタンパク質組成物への賦形剤の添加は、凍結乾燥中の安定性及び/又は保存中の凍結乾燥産物の安定性を高めることを示している。しかしながら、これらの安定化剤のうちのいくつかは、およそ100kDaよりも大きいタンパク質の沈殿剤として知られている。従って、ポリエチレングリコール(PEG)3000〜6000の使用は、対応するタンパク質組成物を凍結乾燥に導く凍結相において致命的(redhibitory)である。Osterberg et al, (Pharm. Res., 1997, 14(7), p. 892-898) は、組換え第VIII因子の凍結乾燥形態の安定化に対する、ヒスチジン、スクロース、非イオン界面活性剤及び塩化ナトリウムを含む混合物の有効性を示し、PEGの添加を通じて、何の安定化の向上も観察されなかったことを示した。さらに、Guo et al, (Biomacromol., 2002, 3(4), p. 846-849)は、PEG存在下のセイヨウワサビペルオキシダーゼの凍結乾燥は、その天然の構造を保持することができないことを指摘した。従って、PEGの存在は、望ましくないようである。
【0007】
凍結乾燥IgGIV組成物は、例えば、安定化剤として、それぞれ2%のグルコース、5%のスクロース及び2%のD−マンニトールを含む、商標、PolygamTM(American Red Cross)、Gammar IVTM(Armour Pharmaceutical Company)及びVenoglobulinTM I(Alpha)のもと、商業的に入手可能である。
【0008】
国際特許出願WO97/04801は、特定の賦形剤を含む凍結乾燥モノクローナル抗体配合物(免疫グロブリンG及びE型)の安定化の効果を開示している。スクロース/グリシン及びスクロース/マンニトール等の他の組み合わせに比べ、有効性に欠けることから、これらの賦形剤からグリシン/マンニトールの組み合わせは選択されなかった。
【0009】
しかしながら、IgGIVの凍結乾燥形態に好適な安定化剤は、液状IgGIV組成物に対して効果がない可能性があることが知られている。
【0010】
従って、商業的に入手可能な液状IgGIV組成物は、対応する凍結乾燥形態で使用されるものとは異なる、特定の安定化剤を含む。例えば、安定化剤として、10%マルトース、0.16〜0.24Mのグリシン及び5%D−ソルビトールを含む液状IgGIV組成物は、それぞれ、商標、Gamimune NTM、Gamimune NTM 10%(Miles Inc.)及びVenoglobulinTM(Alpha)として知られている。
【0011】
液状形態及び凍結乾燥形態のIgG組成物を安定化するために使用される成分の異なる特性は、幾人かの著者らを、両方の形態のIgG組成物を保存することを可能にする同一の安定化剤又は安定化剤の混合物を調べることに駆り立てた。この点において、最近の研究は、同一の安定化剤の混合物、主に、アルブミン及びスクロースを含む、液状IgGIV組成物Vigam-S及びVigam Liquid(National Blood Authority、イギリスの登録商標)及び凍結乾燥された後の液状IgGIV組成物(Vigam-S)の安定化に向けられた(K. Chidwick et al, Vox Sanguinis, 77, 204-209, 1999)。しかしながら、溶液Vigam Liquidは、酸性pH(pH5)にて処方され、これは、IgG及びアルブミンのリシンのアミノ残基と縮合する還元糖(フルクトース及びグルコース)(メイラード産物(溶液の褐変)になる不安定なシッフ塩基を与える)へのスクロースの加水分解のために欠点がある。IgGの保存の間に変化する(evolve)賦形剤の使用は、一旦反応が始まると、制御することができないため、充分ではないと理解されている。
【0012】
さらに、マルトース又はスクロース等の前述のいくつかの安定剤は、腎不全及び/又は糖尿病を罹患する患者において、危険を伴わずに使用することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の欠点を克服するために、本出願人は、両方の考慮されるIgGの保存形態の安定化及びこれらIgGの治療的有効性を保存し、さらに向上させる目的を達成する、独特の薬学的に許容される安定化配合物を実施する。
【0014】
その様な安定化配合物は、特に、出発材料のコントロールを容易にするという、ただ1つの処方を実行することの利点、ならびに生産工程図の簡略化と併せて、製造コストの削減をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0015】
その目的のため、糖及びアミノ酸は、安定化剤として使用されるという観察結果に基づいて、本出願人は、これら安定化剤のうちのいくつかは、選択された糖及びアミノ酸の特性について種々の結果を有するが、熱及び攪拌によって引き起こされる変性に対する保護特性を有する、液状IgG組成物を与えること、そしてさらに、例えば2つの成分の、混合物の安定化効果は、個々の成分が単独で用いられた際に得られる安定化効果からは推測できないことを、予備試験に基づいて示した。さらに、いくつかの試験された糖は、液状IgG組成物の最適コンディショニング溶媒に対応する酸性pH値において、安定ではなかった。
【0016】
他方、予備試験後に選択された安定化剤は、引き起こされた酸化に対する液状IgG組成物の不安定性の最小化を可能にすることはできなかった。そこで、本出願人は、Tween (登録商標)80又はTriton(登録商標)X 100等の非イオン洗浄剤を添加し、満足な結果を得た。
【0017】
従って、本発明は、免疫グロブリンG組成物用安定化配合物であって、液状形態及び凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物の安定化に適するように糖アルコール、グリシン及び非イオン洗浄剤を含むこと特徴とする配合物に関する。
【0018】
本発明の安定化配合物は、糖アルコール、グリシン及び非イオン洗浄剤の他に、少なくとも1種の他の添加剤を含むことができる。この添加剤は、界面活性剤、糖及びアミノ酸等の、本発明の技術分野において古典的に使用される安定化剤の異なるカテゴリーから選択される化合物であり得、例えば、pH、イオン強度等を調整するために該配合物に添加される賦形剤であってもよい。
【0019】
好ましくは、本発明の配合物は、前記糖アルコール、グリシン、非イオン洗浄剤からなる。そのような、本発明のこれらの3つの化合物のみを含む安定化配合物は、凍結乾燥及び非凍結乾燥IgG組成物の共同の安定化を提供すること、ならびに、有効な最小数の安定化剤の存在によって、工業規模での製造期間及びコストを削減するという利点を有する。
【0020】
本発明の範囲において、液状IgG組成物は、ヒト血漿の分画によって直接得られる、ポリクローナルIgG濃縮物の水性溶液はもちろん、前者の凍結乾燥後、好適な水性媒体に再構成されたものである。再構成のための水性溶媒は、薬学的に許容される賦形剤を含み得る注射用水であり、IgGと適合性がある。これらのIgG組成物は、さらに、特定のウイルスの不活性化/除去工程にかけられ得る。好ましくは、血漿分画法(plasma fraction methods)は、Cohn et al (J. Am. Chem. Soc. 68, 459, 1946)、Kistler et al. (Vox Sang., 7, 1962, 414-424)、Steinbuch et al. (Rev. Franc. Et. Clin. and Biol., XIV, 1054, 1969)及び特許出願WO94/9334に記載されている。
【0021】
考慮された糖のうち、本出願人は、IgG組成物のコンディショニングの酸性pHにおける安定性基準(そのようにして、免疫グロブリンGとのメイラード反応の開始を回避する)、薬学的適合性、及び、特に、液状又は凍結乾燥IgG組成物のいずれかに対するそれらの安定化作用についての基準に基づいて、糖アルコールを選択した。実際、安定化剤としてのみ使用される所与の糖アルコールは、液状形態にのみ対応し得ることが指摘されていた。
【0022】
糖アルコールのうち、本発明によって好ましく使用されるものは、マンニトール、ソルビトール又はこれらの異性体であり、より好ましくはマンニトールである。
【0023】
本発明の安定化配合物中に存在する、グリシンは、IgG組成物の安定化に好適であることが知られているが、それは液状形態においてのみである。
【0024】
非イオン洗浄剤の添加は、該配合物の保護効果を、相乗効果によって驚くほど向上させた。好適な非イオン洗浄剤は、Tween(登録商標)80(ポリオキシエチレンソルビタン−モノオレエート)、Tween(登録商標)20(ポリオキシエチレンソルビタン−モノラウレート)、Triton(登録商標)X 100(オクトキシノール10)及びPluronic(登録商標)F68(ポリエチレンポリプロピレン グリコール)からなる群より有利に選択される。Tween(登録商標)80及びTriton(登録商標)X 100が好ましく使用された。
【0025】
これらの化合物の濃度は、凍結乾燥及び非凍結乾燥IgG組成物に対する望ましい安定化効果を得るように、当業者によって選択される。
【0026】
好ましくは、マンニトール濃度は30g/l〜50g/l、洗浄剤濃度は20〜50ppm、及びグリシン濃度は7g/l〜10g/lである。
【0027】
また、本発明は、本発明の安定化配合物を含む、液状形態及び/又は凍結乾燥形態のIgG組成物であって、さらに、治療、特に静脈内投与に使用可能なIgG組成物に関する。これらの液状形態及び/又は凍結乾燥形態のIgG組成物は、本発明の安定化配合物の存在により、4℃にて24ヶ月の保存期間の後に7%未満の量の二量体を含有する。室温にて6ヶ月間の液状形態のIgG組成物の保存は、欧州薬局方(European Pharmacopeia)に定められる基準(3%)より極めて低い量(すなわち、約0.3%未満)のポリマーを生じる。凍結乾燥形態のIgG組成物は、室温にて12ヶ月又は40℃にて6ヶ月の保存の後の耐量(tolerated amount)よりもおよそ10倍低いポリマー割合を含む。
【0028】
さらに、本発明は、ヒト血漿の分画によって直接得られた液状形態の免疫グロブリンG組成物、凍結乾燥形態のもの及び好適な水性溶媒における凍結乾燥形態の再構成後のものの安定化のための、本発明による安定化配合物の使用に関する。
【発明の効果】
【0029】
その様な安定化配合物は、特に、出発材料のコントロールを容易にするという、ただ1つの処方を実行することの利点、ならびに生産工程図の簡略化と併せて、製造コストの削減をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下の実施例は、この範囲に限定することなく、異なる上記免疫グロブリンG組成物を注射した後の、経時的な、ラットにおける動脈圧変動の経過(curse)をグラフによって示す図1を参照し、本発明を説明する。
【実施例1】
【0031】
実施例1 安定化配合物の作製(elaboration)
国際特許出願WO02/092632において本出願人によって開発された方法に従って得られた濃縮物を、IgG組成物として使用した。およそ50g/lのIgGを含むこの濃縮物を、pH値4.6〜4.8に調整し、そして熱不安定性の不純物を除去するために、56℃にて2時間、熱処理にかける。
【0032】
マンニトール、グリシン及びTween(登録商標)80又はTriton(登録商標)X 100を、単独又は混合(試験溶液)し、表1に指定される濃度で、このIgG濃縮物に添加する。
【0033】
【表1】

【0034】
さらに、試験溶液は、残渣(粒子、凝集体)の可能性のある存在を観察することによって、それらの変性の程度を測定するため、熱ストレス、攪拌ストレス及び酸化ストレスの異なる試験にかけられる。
【0035】
熱ストレスは、P. Fernandes et al, Vox Sanguinis,1980, 39. p. 101-112の論文に従って行われる。要約すると、5mlの試験溶液の試料を、10mlのひだを付けられた(crimped)ガラスバイアル中に入れ、その後、57℃にて4時間、水浴中で加熱する。試験溶液に対する加熱の影響は、熱ストレスの後及び前の濁度の違いを計測することによって測定される。計測された濁度の値が低ければ低いほど、適用された熱ストレスについて、IgG溶液が安定である。
【0036】
攪拌ストレスの試験は、H. Levine et al, Journal of Parental Science & technology, 1991, vol. 45, n°3, p. 160-165による論文において記載されている通りに行われる。以下、5mlの試験溶液の試料を、遮光された10mlのひだを付けられたガラス管中に入れ、その後、各管をミキサーIKA Vibrax VXR(Fisher Scientific,フランス製)上に横にして置き、そしてその後、室温にて150rpmで18時間攪拌する。攪拌ストレスの結果は、ストレス適用の前後の試験溶液の視覚的な外観の比較によって測定される。その目的のため、以下の任意値の価値尺度を、定義する:
0.25:1又は2の懸濁した粒子を含む透明溶液;
0.50:少し懸濁した微粒子を含む透明溶液;
0.75:0.50のときよりも多い少しの懸濁した粒子を含む透明溶液;
2.0:さらに多くの懸濁した粒子を含む、わずかに改変した(modified)視覚的な外観;
5.0:多数の懸濁したフィラメント又は粒子;
10.0:さらに大きな粒子及び凝集体、さらには凝固体。
【0037】
酸化ストレスは、10mlのガラスバイアル中に入れられた5mlの試験溶液の試料に対して行われる。液体の表面は、酸素−豊富雰囲気(O>21%)の存在下に3〜4秒、入れられる。密閉及び攪拌の後、このバイアルを、15分間、5℃まで冷却する。結果は、酸化ストレスの適用の前後の試験溶液の視覚的外観の比較によって、測定される。結果は、攪拌ストレス用に定義されたものと同じ価値尺度に従って、数的に表される。
【0038】
異なる上記のストレスを適用された後に得られた、異なる計測結果は、表2に要約される。
【0039】
【表2】

【0040】
得られた結果は、最初に、IgG濃縮物(溶液B、C、E、F)溶液に、ただ1種の安定化剤の添加は、安定化剤を含まないコントロール溶液Aに比べ、適用された3種のストレスのうち、2種のストレスに対して向上した保護を可能にすることを示す。それに加え、マンニトール及びグリシンが共同して存在すること(溶液D)は、望ましくなく、撹拌ストレスの結果は、マンニトール及びグリシンのみ(溶液B又はC)によって得られたものより、あるいは、コントロール溶液Aに比べても、明らかに低い。この結果は、本発明による安定化配合物の作製のための成分の選択の重要性を実証し、これは、個々の成分単独の安定化効果からは、結果として推測され得ない。他方、試験溶液に対して実施された試験は、考慮された特定の安定化配合物I及びJが、安定化剤を含まないコントロール溶液Aに比べ、適用された3種のストレスによる変性に対して極めて満足な保護を提供することを示す。しかしながら、本発明によらない安定化配合物を含む試験溶液G及びHも、この段階では、同様に満足な結果を与える。
【実施例2】
【0041】
実施例1による攪拌ストレスにかけられた試験溶液G、H、I及びJ中に存在するポリマー、特に二量体の量を定量的に測定するため、これらは、欧州薬局方(欧州薬局方、第4版、“静脈内投与用正常ヒト免疫グロブリン”章、方法2.2.29)の方法に記載されている手段に従って、サイズ除外クロマトグラフィーにかけられる。
【0042】
表3は、二量体及びポリマーの得られたパーセンテージを表す。
【0043】
【表3】

【0044】
ポリマーの最も低いパーセンテージは、試験溶液I及びJによって得られる。これらの結果は、考慮された安定化剤I及びJの特定の配合物は、実施例1において記載される、適用された攪拌ストレスによる変性に対して、極めて満足な保護を提供することを裏付ける。
【0045】
配合物I及びJの選択の後、薬学的に許容される非イオン洗浄剤(すなわち、Tween(登録商標)80)の含有量のために、試験溶液Jのみが、以下の実施例のために選択された。
【実施例3】
【0046】
液状形態の溶液J(以下、“液状IgG”と呼ぶ)は、現在の温度条件(4℃)下での保存期間による、安定性試験にかけられる。同様の試験を、以下、“凍結乾燥IgG”と記載される、凍結乾燥溶液J(45±3時間の凍結乾燥期間)に対して行う。これらの安定性試験は、必要に応じて注射用水で再構成された液状溶液Jを用いて行われる。それらは、以下に定義される24ヶ月の期間の4つのパラメーターの変動(evolution)に対するフォローアップ(follow-up)からなり、このうち3つは、欧州薬局方(欧州薬局方、第4版、“静脈内投与用正常ヒト免疫グロブリン”章:
(a)サイズ除外クロマトグラフィー(方法2.2.29)によって測定される二量体量の変動、
(b)抗−補体活性の変動(方法2.6.17)、及び
(c)B型肝炎ウイルスに対する特異抗体、抗HBsの力価の変動(方法2.7.1))
に含まれる方法を参照して測定される。
【0047】
第4のパラメーター(d)は、当業者に公知の、特異的抗−IgG3(DADE-Behring:キット抗−IgG3)の存在下における、比濁分析用量(nephelometric dosage)によるIgG3の量の変動を明示する。
【0048】
計測は、液状溶液Jの調製(t)に続いて、それぞれ12ヶ月及び24ヶ月の保存期間の後に行われる。
【0049】
各試験に対して得られた計測結果は、以下の表に示され、データは、3つの試験の平均値である。
【0050】
【表4】

【0051】
保存期間中の二量体量の増加は、試験の正確性の限界(limits of exactitude)の内に含まれ、組成物の定量的変性を観察することができるほど充分に有意ではない。
【0052】
【表5】

【0053】
抗補体活性におけるわずかな減少が、液状IgG組成物に対して観察される一方、凍結乾燥IgGでは、何も変動していない。この減少は、臨床的な有意性を有するものではなく、この活性の増加は、もっぱら、利用の観点から好ましくないであろう。
【0054】
【表6】

【0055】
極めてわずかな減少が、液状IgG組成物において生じているように見えるが、特に、凍結乾燥IgGに対しては、有意な変化は見られない。
【0056】
【表7】

【0057】
観察された変化は、IgG3量の値の不確定性限界(uncertainty margine)内に含まれる。従って、それらは、有意ではない。
【0058】
4つの上記のパラメーターは、本発明の配合物が、特に、液状又は凍結乾燥形態のいずれのIgG組成物の、4℃の温度にて24ヶ月の保存期間での、これらの組成物の注目すべき変動なしに、安定化に対しても好適であることを示し、逆の場合、製品の変性を意味し、従って、臨床的使用は可能ではないであろう。
【実施例4】
【0059】
実施例1に示される組成物は、IgG組成物として使用される。マンニトール、グリシン及びTween(登録商標)80は、それぞれ32g/l、7g/l及び50ppmの濃度で、このIgG濃縮物に添加される。このようにして得られた液状形態の溶液K(以下、“液状IgG”と記載する)は、4℃、室温及び40℃での保存期間による安定性試験にかけられる。同じ試験を、凍結乾燥溶液K(45±3時間の凍結乾燥期間)(以下、“凍結乾燥IgG”と記載する)に対して行う。これらの安定性試験は、必要に応じて、注射用の調製物用の水で再構成された、液状溶液Kを用いて行われる。試験は、実施例3に示される、欧州薬局方に記載される方法2.2.29を参照してサイズ除外クロマトグラフィーによって測定されるポリマー含有量の変動の12ヶ月の期間のフォローアップ(follow-up)からなる。最大耐量閾値(maximal tolerated threshold)は、欧州薬局方の基準によって定義され、3%である。
【0060】
計測は、液状溶液Kの調製(t)に続き、それぞれ、3、6及び12ヶ月の保存期間の後に行われる。
【0061】
上記3種の保存温度にて各試験に対して得られた計測結果は、以下表8、9及び10にそれぞれ示され、得られた値は、3つの試験の平均値である。
【0062】
【表8】

【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
液状IgGの保存期間は、40℃にて3ヶ月である。4℃及び室温での6ヶ月保存期間の終わりに、観察されたポリマーの含有量は、欧州薬局方に定められる基準をはるかに下回っている。凍結乾燥IgGに対しては、4℃及び室温での12ヶ月の保存期間は、耐量の10倍低いポリマー含有量を生じる。同じ含有量が、40℃にて6ヶ月の保存期間の後に観察される。
【実施例5】
【0066】
この実施例は、二量体含有量7%未満を有する本発明の溶液が、in vivoにおいて注射した後、降圧効果(hypotensor effect)を引き起こさないことを確認することを意図する。Bleeker W.K.ら (Blood, 95, 2000, p. 1856-1861) は、注射されるIgG試料における免疫グロブリンG二量体の含有量が多いほど、in vivoにおける降圧効果が高いことを報告している。自己免疫疾患の治療は、IgGの大量注射を必要とし、従って、IgGにおける二量体の含有量が制御されなければ、低血圧に苦しむ患者にとって、危険因子となり得る。
【0067】
本実施例において示される、これらの研究は、2つの液状形態のIgG溶液、それぞれ、11.50%の二量体量を含む古典的なIgG溶液(溶液T−IgG:50g/l;スクロース:100g/l;NaCl:3g/l、pH:6.5)、及び6.3%の二量体量を含む前述の実施例由来の溶液Kの、麻酔して調製されたラットにおける、血液動態効果を評価及び比較することを目的とした。
手法
180〜200gの成体、雄、Sprangue−Dawly(IFFA-Credo:フランス)ラットを、60mg/kgの割合でペントバルビタール(Sanofi-France)を腹腔内注射によって麻酔する。麻酔されたラットを、37℃に自動温度調節されたマットレス上に仰向けに寝かせる。古典的な圧センサー及び動脈圧を継続的に計測することを可能にするレコーダーと接続されたカテーテルを、頸動脈に導入する。気管カニューレは、呼吸路を自由にすることを可能にする。IgG(溶液K及びT)の静脈内投与は、2.66ml/120分の速度で、動物の頸静脈内に導入されたカテーテルを通して行われる。
【0068】
動脈圧(mmHg)変動は、各6匹のラットの3グループについて、経時的に計測される:
−生理学的血清を受ける1つのコントロール群、
−0.65 g/kgの割合にて溶液Tを受ける1つの処置群、及び
−0.65 g/kgの割合にて溶液Kを受ける1つの処置群。
【0069】
実験は、20分の予備的な安定化フェーズ(preliminary stabilisation phase)で始まる。動脈圧の継続的記録は、t−10分に始まる(t=注射)。
【0070】
これらの研究結果は、図1のチャートで読まれ、各点は、6つの実験の標準偏差を伴う、平均値である。統計学的解析は、当業者によって公知の分散分析の後、Scheffe検定によって行われる。
【0071】
これらの結果は、動脈圧データは、IgG注射前、安定であり、3群のラットにおいて同程度であることを示す。動脈圧の減少は、t+10分にて見られ、最小値は、およそt+15分に注射前の最初の値の50%未満の値(およそ100mmHgからおよそ50mmHgに下がる)に達し、その後、注射を始めた後50分から60分に、動脈圧に達し、徐々に元に戻る。
【実施例6】
【0072】
本実施例は、液状形態の溶液Jが、タンパク質及び異なる賦形剤を含む溶液と比較して、血液粘度の減少に寄与するかどうかを確認することを意図する。その目的のため、室温及びT=37℃にて、当業者に公知の方法に従って、赤血球の2つの重力沈降試験を行った。
手法
クエン酸三ナトリウム0.2M(1/9,v/v)の抗凝固溶液の存在下で、群0+のヒト赤血球を、pH7.4の通常濃度のPBSの生理食塩水溶液で3回洗浄する。様々な賦形剤中のタンパク質の水溶液を調製し、溶液Jを、NaCl 0.15M及びpH7に調整する。タンパク質及び賦形剤、ならびにそれらの各濃度は、表11に示される。各タンパク質溶液の4.5mlの試料を取り、10mlの目盛りのついたガラス管に入れる。その後、0.5mlの洗浄された赤血球を、各溶液に添加する。得られた混合物を、密閉した管を3〜4回上下に回転する事によって均質化する。均質化の終わりに、管を、カウンターディスプレー上に置き、沈降速度を表す、透明なメニスカス(meniscus)までの赤血球細胞のタンジェント(tangent)の明瞭なデカンテーションライン(decantation line)が出現するために要する時間を計測する。室温での実験結果は、表11に示される。
【0073】
【表11】

【0074】
得られた結果は、考慮された赤血球は、本発明の溶液JのIgGの存在下で、試験された混合物の粘度の減少に対応する、高い沈降速度を有し、従って、より良い血液流動性を得ることを可能にすることを示す。
【0075】
さらなる試験が、目盛りつきの10mlのガラス管中に入れられた上記混合物(4.5mlのタンパク質溶液及び0.5mlの洗浄された赤血球)を用いて行われ、この管を3〜4回上下に回転することによって均質化した。この作業が完了するとすぐに、この管を、37℃の温度にて45°の角度で1時間以内に、それらの内容物が沈降する方法で、置き、試験された混合物の上清量を計測する。T=37℃の試験結果を、表12に示す。
【0076】
【表12】

【0077】
表12における結果の解析は、以下に示される:
−血漿混合物の上清容量は、試験された混合物中で最も高く、従って、対応する最も低い粘度を示す;
−アルブミン混合物及び本発明の溶液Jは、同様の沈降速度(同容量の上清)を示す;
−従来技術のIgG混合物(すなわち、スクロース及びNaClを含む)は、最も少ない上清容量を導き、本発明の混合物J中においてよりも、赤血球の沈降が遅いことを意味し、さらに、上記の他の試験混合物と同様、上清は分離した溶血によって、バラ色に着色されていることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】異なる上記免疫グロブリンG組成物を注射した後の、経時的な、ラットにおける動脈圧変動の経過(curse)をグラフによって示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンG組成物用安定化配合物であって、該配合物が、液状形態及び凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物の安定化に適するように、糖アルコール、グリシン、及び非イオン洗浄剤を含むことを特徴とする配合物。
【請求項2】
前記糖アルコール、グリシン及び非イオン洗浄剤からなる、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
該糖アルコールがマンニトールであることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項4】
マンニトールの濃度が、30g/l〜50g/lであることを特徴とする、請求項3に記載の配合物。
【請求項5】
グリシンの濃度が、7g/l〜10g/lであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項6】
非イオン洗浄剤の濃度が、20〜50ppmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定化配合物を含む、液状形態の免疫グロブリンG組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定化配合物を含む、凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物。
【請求項9】
室温にて6ヶ月の保存期間の後に、0.3%未満のポリマー量を含有することを特徴とする、請求項7に記載の免疫グロブリンG組成物。
【請求項10】
室温にて12ヶ月又は40℃にて6ヶ月の保存期間後に、0.3%未満のポリマー量を含有することを特徴とする、請求項8に記載の免疫グロブリンG組成物。
【請求項11】
4℃にて24ヶ月の保存期間の後に、7%未満の二量体の量を含むことを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の免疫グロブリンG組成物。
【請求項12】
ヒト血漿の分画によって直接得られた液状形態の免疫グロブリンG組成物の安定化のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定化配合物の使用。
【請求項13】
凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物の安定化のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定化配合物の使用。
【請求項14】
凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物を好適な水性媒体中において再構成した後に得られた、液状形態の免疫グロブリンG組成物の安定化のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定化配合物の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリクローナル免疫グロブリンG組成物用安定化配合物であって、該配合物が、液状形態及び凍結乾燥形態の免疫グロブリンG組成物の安定化に適するように、糖アルコール、7g/l〜10g/lの濃度のグリシン、及び20〜50ppmの濃度の非イオン洗浄剤を含むことを特徴とする配合物。
【請求項2】
前記糖アルコール、グリシン及び非イオン洗浄剤からなる、請求項1に記載の安定化配合物。
【請求項3】
該糖アルコールがマンニトールであることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項4】
マンニトールの濃度が、30g/l〜50g/lであることを特徴とする、請求項3に記載の配合物。
【請求項5】
安定化剤として、請求項2〜4のいずれか1項に記載の安定化配合物を含む、液状形態のポリクローナル免疫グロブリンG組成物。
【請求項6】
ポリクローナル免疫グロブリンG組成物及び請求項1〜4のいずれか1項に記載の安定化配合物の凍結乾燥によって得られる、凍結乾燥形態のポリクローナル免疫グロブリンG組成物。
【請求項7】
室温にて6ヶ月の保存期間の後に、0.3%未満のポリマー量を含有することを特徴とする、請求項5に記載のポリクローナル免疫グロブリンG組成物。
【請求項8】
室温にて12ヶ月又は40℃にて6ヶ月の保存期間の後に、0.3%未満のポリマー量を含有することを特徴とする、請求項6に記載のポリクローナル免疫グロブリンG組成物。
【請求項9】
4℃にて24ヶ月の保存期間の後に、7%未満の二量体の量を含む組成物であることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリクローナル免疫グロブリンG組成物。
【請求項10】
ヒト血漿の分画によって直接得られた液状形態のポリクローナル免疫グロブリンG組成物用の安定化剤としての、請求項2〜4のいずれか1項に記載の安定化配合物の使用。
【請求項11】
凍結乾燥形態のポリクローナル免疫グロブリンG組成物の安定化のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の安定化配合物の使用。
【請求項12】
凍結乾燥形態のポリクローナル免疫グロブリンG組成物を好適な水性媒体中において再構成した後に得られた、液状形態のポリクローナル免疫グロブリンG組成物の安定化のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の安定化配合物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−522780(P2006−522780A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505786(P2006−505786)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000871
【国際公開番号】WO2004/091656
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(505375300)ラボラトワール フランセ デュ フラクショヌマン エ デ ビオテクノロジ.グループメント ディンテレット パブリック (2)
【Fターム(参考)】