説明

液状推進薬タンク及びこの液状推進薬タンクを用いた蒸気噴射装置

【課題】軽量化を実現し、液状推進薬を気化させて生じる蒸気ガスのみを外部に供給することができ、外部熱エネルギをほとんど必要としない液状推進薬タンク及びこの液状推進薬タンクを用いた蒸気噴射装置を提供する。
【解決手段】液状推進薬Aの一部が気化して生じる蒸気ガスを外部に供給する液状推進薬タンク2であって、液状推進薬Aを収容するタンク本体21と、タンク本体21の内部で該タンク本体21の軸心L周りに並べて配置された複数枚の保持板23を備え、タンク本体21の内部には、表面張力によって複数枚の保持板23の各々に液状推進薬Aを付着させることで液状推進薬Aを保持する液状推進薬保持空間LAと、液状推進薬Aの一部が気化して生じる蒸気ガスが溜まるガス溜まり空間GAが形成され、タンク本体21の液状推進薬保持空間LAには推進薬注入口21Fが形成されていると共に、ガス溜まり空間GAにはガス排出口21Dが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人工衛星等の宇宙機に搭載されて、収容した液状の推進薬の一部が気化して生じる蒸気ガスを外部に供給する液状推進薬タンク及びこの液状推進薬タンクから供給される蒸気ガスを噴射することで推力を得る蒸気噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような液状推進薬タンクとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この液状推進薬タンクは、液状推進薬を収容するタンク本体と、このタンク本体の内部にほぼ全体にわたって充填された発泡金属と、タンク本体の周囲に配置されたヒータを備えている。タンク本体にはガス排出口が形成されており、タンク本体に収容される液状の推進薬は、発泡金属に浸み込んだ状態で保持されるようになっている。
【0004】
この液状推進薬タンクにおいて、ヒータによる加熱によってタンク本体内部の液状推進薬の一部を気化させるようになっており、この液状推進薬タンクを用いた蒸気噴射装置では、タンク本体内部で生じる蒸気ガスをガス排出口と接続するスラスタに供給して噴射させることで推力を得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-214695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記した従来の液状推進薬タンクにおいて、重量の嵩む発泡金属をタンク本体の内部にほぼ全体にわたって充填している都合上、液状の推進薬を浸み込ませた状態で保持することはできるものの、軽量化が望めない。
また、上記した従来の液状推進薬タンクでは、ヒータによる加熱によって推進薬の一部を気化させるにあたって、発泡金属の全体に熱を伝えなくてはならず、その分だけ、多大な外部熱エネルギが必要になるという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0007】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、軽量化を実現したうえで、液状推進薬が気化して生じる蒸気ガスのみを外部に供給することができると共に、外部熱エネルギをほとんど必要としない液状推進薬タンク及びこの液状推進薬タンクを用いた蒸気噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、液状の推進薬の一部が気化して生じる蒸気ガスを外部に供給する液状推進薬タンクであって、前記液状の推進薬を収容するタンク本体と、このタンク本体の内部に配置された複数枚の保持板を備え、前記タンク本体の内部には、表面張力によって前記複数枚の保持板のそれぞれに前記液状の推進薬を付着させることで該液状推進薬を保持する液状推進薬保持空間と、前記液状の推進薬の一部が気化して生じる蒸気ガスが溜まるガス溜まり空間が形成され、前記タンク本体の液状推進薬保持空間には推進薬注入口が形成されていると共に、ガス溜まり空間にはガス排出口が形成されている構成としたことを特徴としており、この構成の液状推進薬タンクを前述の従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
本発明の請求項2に係る液状推進薬タンクにおいて、前記複数枚の保持板は、タンクサイズや液状推進薬の表面張力などの物性や搭載される宇宙機の加速度環境に基づいて決定される間隔をおいて並べられている構成としている。
【0010】
一方、本発明の請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の液状推進薬タンクから供給される液状推進薬の蒸気ガスを噴射することで推力を得る蒸気噴射装置であって、前記液状推進薬タンクと、この液状推進薬タンクにおけるタンク本体のガス排出口と接続されて、このガス排出口を介して供給される前記タンク本体内部で生じた蒸気ガスを噴射するスラスタを備え、前記タンク本体から前記スラスタまでのガス供給ラインの温度を前記タンク本体内部の温度よりも高く設定してある構成としている。
【0011】
本発明に係る液状推進薬タンクにおいて、タンク本体には、アルミニウムやSUS等を用いることができ、保持板としては、軽量な金属、例えば、アルミニウム製の平板を用いることができるが、いずれも特に限定しない。
【0012】
また、本発明に係る液状推進薬タンクにおいて、このタンク本体に収容される液状の推進薬としては、熱を加えなくても気化し易いものであれば特に限定しない。例えば、液化ガスであるイソブタンや、HFC−134a等の代替フロンを用いることができるが、不燃性で且つ無毒であってタンク本体や保持板を腐食させる虞のないHFC−134aを採用することが望ましい。
【0013】
本発明に係る液状推進薬タンクでは、タンク本体の内部に配置した複数枚の保持板のそれぞれに対して、表面張力によって液状の推進薬が付着することで、この液状推進薬を保持する液状推進薬保持空間が推進薬注入口側に形成され、一方、液状の推進薬の一部が気化して生じる蒸気ガスが溜まるガス溜まり空間がガス排出口側に形成されるので、気化した液状推進薬の蒸気ガスのみを外部に供給し得ることとなる。
そして、発泡金属をタンク本体の内部にほぼ全体にわたって充填する必要がないので、軽量化が図られることとなる。
【0014】
本発明に係る液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置は、液状の推進薬が複数枚の保持板のそれぞれに表面張力によって付着することを利用しているので、微小重力環境下で飛翔するスピン型衛星や3軸型衛星に搭載することができる。この際、タンク本体の軸心をスピン型衛星のスピン軸上に位置させ、複数枚の保持板をタンク本体の軸心周りに互いに適宜間隔をおいて並べるように成せば、スピン型衛星搭載用として好適なものとなる。
【0015】
一方、本発明に係る蒸気噴射装置において、気蓄器や燃焼器を必要としないので、その分だけ、システムの軽量化及び簡素化を実現し得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に係る液状推進薬タンクでは、上記した構成としているので、軽量化を実現したうえで、液状推進薬が気化して生じる蒸気ガスのみを外部に供給することができ、加えて、外部熱エネルギを不要なものとすることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る液状推進薬タンクでは、上記した構成としているので、液状推進薬を効率よく保持して、確実にガス溜まり空間を形成することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0018】
一方、本発明の請求項3に係る蒸気噴射装置では、上記した構成としているので、システム全体の軽量化及び簡素化を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例による液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置の概略システム説明図である。
【図2】図1における液状推進薬タンクのタンク本体の内部を破断して示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本発明に係る液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置の一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置をスピン型衛星に搭載する場合を例に挙げて説明する。
【0021】
図1に示すように、この蒸気噴射装置1は、液状推進薬タンク2と、複数個のスラスタ3とから主として構成されている。
液状推進薬タンク2は、液状の推進薬Aを収容する球形状を成すタンク本体21を備えている。このタンク本体21は、アルミニウムから成り、その軸心Lはスピン型衛星のスピン軸上に位置している。
【0022】
このタンク本体21の内部には、支持部材22と、複数枚の保持板23が配置されている。
支持部材22は、スピン型衛星の打ち上げ姿勢において下側になるタンク本体21の図示下部に固定されており、軸心L上に位置している。
【0023】
一方、複数枚の保持板23は、図2に示すように、支持部材22の周りに並べて配置されて、この支持部材22を介してタンク本体21に固定されている。この実施例において、保持板23は、厚さ1mmのアルミニウム平板で形成されており、互いに30°の間隔をおいて配置されている。
【0024】
複数枚の保持板23は、表面張力によって各々の表面に液状の推進薬Aを付着させることで液状推進薬Aを保持するようになっている。つまり、タンク本体21の内部において、複数枚の保持板23が占める部分(スピン型衛星の打ち上げ姿勢において下側になるタンク本体21の図示下側部分)が液状推進薬保持空間LAとして形成され、複数枚の保持板23が位置しない部分(スピン型衛星の打ち上げ姿勢において上側になるタンク本体21の図示上側部分)がガス溜まり空間GAとして形成されている。
【0025】
タンク本体21のガス溜まり空間GA側には、ガス排出口21Dが形成され、タンク本体21の液状推進薬保持空間LA側には、推進薬注入口21Fが形成されている。
【0026】
この蒸気噴射装置1において、複数個のスラスタ3は、液状推進薬タンク2のタンク本体21におけるガス排出口21Dと配管5を介して接続されており、このガス供給ラインである配管5上には、注排液バルブ6及び圧力計7が接続されている。この際、配管5の温度をタンク本体21よりも必ず高くなるように設定することで、ガス排出口21Dから排出された蒸気ガスが配管5内で液化するのを防止するようにしている。
なお、図1における符号9は、推進薬注入口21Fと接続する注排液バルブである。
【0027】
上記したように、この実施例に係る液状推進薬タンク2では、タンク本体21の内部に配置した複数枚の保持板23のそれぞれに表面張力によって液状の推進薬Aが付着することで、この液状推進薬Aを保持する液状推進薬保持空間LAが推進薬注入口21F側に形成され、一方、液状の推進薬Aの一部が気化して生じる蒸気ガスが溜まるガス溜まり空間GAがガス排出口21D側に形成されることとなり、したがって、推進薬Aを気化させて生じる蒸気ガスのみをスラスタ3側に供給し得ることとなる。
この際、従来のように、発泡金属をタンク本体の内部にほぼ全体にわたって充填する必要がないので、大幅な軽量化が図られることとなる。
【0028】
そして、この実施例に係る蒸気噴射装置1では、気蓄器や燃焼器を必要としないので、その分だけ、システムの軽量化及び簡素化を実現し得ることとなる。
【0029】
上記した実施例では、本発明に係る液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置をスピン型衛星に搭載する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、本発明に係る推進薬タンク及び蒸気噴射装置を3軸型衛星に搭載することが可能である。
【0030】
また、本発明に係る液状推進薬タンク及び蒸気噴射装置の構成は、上記した実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1 蒸気噴射装置
2 液状推進薬タンク
3 スラスタ
21 タンク本体
21D ガス排出口
21F 推進薬注入口
23 保持板
A 液状の推進薬
GA ガス溜まり空間
LA 液状推進薬保持空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の推進薬の一部が気化して生じる蒸気ガスを外部に供給する液状推進薬タンクであって、
前記液状の推進薬を収容するタンク本体と、
このタンク本体の内部に配置された複数枚の保持板を備え、
前記タンク本体の内部には、表面張力によって前記複数枚の保持板のそれぞれに前記液状の推進薬を付着させることで該液状推進薬を保持する液状推進薬保持空間と、前記液状の推進薬の一部が気化して生じる蒸気ガスが溜まるガス溜まり空間が形成され、
前記タンク本体の液状推進薬保持空間には推進薬注入口が形成されていると共に、ガス溜まり空間にはガス排出口が形成されている
ことを特徴とする液状推進薬タンク。
【請求項2】
前記複数枚の保持板は、タンクサイズや液状推進薬の物性や加速度環境に基づいて決定される間隔をおいて並べられている請求項1に記載の液状推進薬タンク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液状推進薬タンクから供給される液状推進薬の蒸気ガスを噴射することで推力を得る蒸気噴射装置であって、
前記液状推進薬タンクと、
この液状推進薬タンクにおけるタンク本体のガス排出口と接続されて、このガス排出口を介して供給される前記タンク本体内部で生じた蒸気ガスを噴射するスラスタを備え、
前記タンク本体から前記スラスタまでのガス供給ラインの温度を前記タンク本体内部の温度よりも高く設定してある
ことを特徴とする蒸気噴射装置。

【図1】
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【図2】
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