説明

液状複合肥料及びその製造方法

【課題】日本では古くからホヤ(海鞘)が食用として加工流通しており、加工された残渣であるホヤ殻部分や二つの突起部分(入水口と出水口)などは、加工品の生産地域において悪臭を放つために環境汚染などの原因ともなっている。これらの海産物の残渣を液状肥料として有効利用し、液状であるために取扱いが容易で、化成肥料にはない植物成長の促進効果を期待できる液状複合肥料とその製造方法を提供するものである。
【解決手段】水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合したことを特徴とする液状複合肥料とその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海産物の残渣であるホヤ殻部分や二つの突起部分(入水口と出水口)やその他の臓器類など(以下、ホヤ殻という。)、又はウニ殻部分や他の臓器類など(以下、ウニ殻という。)を利用した液状複合肥料に関する。更には、海産物の生産・加工地域におけるホヤ殻又はウニ殻の廃棄処分による環境汚染を防止すると共に、従来は廃棄されてきたホヤ殻等を発酵させて分解溶液として有効利用する液状複合肥料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来使用している一般的な肥料は、窒素質肥料、りん酸質肥料、加里質肥料の単肥を組み合わせるか、化学的な複合肥料を用いるか、あるいは動物質、植物質、堆肥化資材を利用した有機質肥料が存在している。また、日本では古来より多種類の海産物を食用として利用し、これらの海産物の残渣を肥料として利用することが行われている。例えば、魚かすや骨粉などを肥料として利用する技術、カキ殻やホタテ殻などを肥料に利用する技術、カニ類やエビ類などを肥料に利用する技術が存在する。
【0003】
一方、日本では海産物として古くからホヤ(海鞘)を食用として利用して加工流通しており、その加工された不可食部である残渣のホヤ殻部分や二つの突起部分(入水口と出水口)などは、加工品の生産地域において廃棄処分されることから悪臭を放つために環境汚染などの原因ともなっている。また、ウニ殻についても同様であった。
【0004】
このような問題に対して、特開2000−319084には、海産物であるイカの残渣やホタテ貝の残渣を肥料に利用する技術が開示されている。特開2000−342190には、海産物残渣としてエビ類、カニ類、魚類の不可食部を有機素材として利用し好熱性みろく種菌の活性を高めて飼料(肥料)に利用する技術が開示されている。特開2001−335392には、海産物残渣としてカニ殻やカキ殻などに含まれているキチン、キトサンと木酢液とを複合させて肥料に利用する技術が開示されているが、ホヤ殻やウニ殻を肥料に利用する技術は開発されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−319084
【特許文献2】特開2000−342190
【特許文献3】特開2001−335392
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の海産物であるイカの残渣やホタテ貝の残渣を肥料に利用する技術は、当該残渣中に含まれているカドミウムを処理するために、肥料製造工程において嫌気性複合微生物を鶏糞、米糠、煤煙、籾殻などで充分発酵熟成させて培養体を形成し、当該培養体と炭酸カルシウムなどを混合した混合物を前記残渣中に添加混合して発酵乾燥して肥料とするものである。そのためにイカやホタテ貝などの残渣を肥料として利用するために培養体に作成し、更に他材料と混合して発酵・乾燥させるという工程を必要とすることから肥料化するのに時間と処理費用が嵩むという課題を有している。
【0007】
また、海産物の残渣であるエビ類、カニ類、魚類などを飼料に利用する技術は、好熱性みろく種菌を有機素材である海産物の残渣に添加して発酵させて飼料添加物とするものである。そのために肥料として用いる場合には、家畜類の糞尿を当該飼料添加物に添加して発酵させて粉状体の有機肥料としたり、更に粉状体の飼料添加物を水や蒸留液に添加して培養して液状有機肥料とするものであることから、肥料化するのに同様に時間と処理費用が嵩むという課題を有している。
【0008】
更に海産物の残渣としてキチン、キトサンと木酢液を複合させて肥料に利用する技術は、キチン、キトサンを得るためにカニ殻やホタテ殻からアルカリ溶液で処理して脱アセチル化する必要があることから、肥料として利用するために同様に時間と処理費用が嵩むという課題を有している。
【0009】
本発明は、従来未利用であったホヤ殻やウニ殻などの海産物の残渣を液状肥料として有効利用し、ホヤ殻やウニ殻などに含まれるミネラル分や天然ホルモン成分を肥料として活用すると共に、液状であるために取扱いが容易で、従来の単肥や化成肥料にはない植物成長の促進効果を期待できる液状複合肥料とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許を受けようとする第1発明は、水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合したことを特徴とする液状複合肥料である。
【0011】
特許を受けようとする第2発明は、水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合すると共に、水溶性窒素肥料の含有量が1.4%前後、水溶性りん酸肥料の含有量が7.7%前後、水溶性加里肥料の含有量が10.4%前後となるように調整したことを特徴とする請求項1記載の液状複合肥料である。当該第2発明は、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液と、単肥の三要素として知られる窒素肥料、りん酸肥料及び加里肥料の肥料成分とからなる液状複合肥料である。
【0012】
特許を受けようとする第3発明は、前記海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液の原材料がホヤ殻又はウニ殻である請求項1または2に記載の液状複合肥料である。当該第3発明は、分解溶液の原材料をホヤ殻又はウニ殻から分解抽出して溶液とした請求項1または2に記載の液状複合肥料である。
【0013】
特許を受けようとする第4発明は、水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合すると共に、かつ腐敗防止剤及び沈殿防止剤を混合したことを特徴とする請求項1及び2に記載の液状複合肥料である。当該第4発明は、液状複合肥料の混合物として、腐敗防止剤及び沈殿防止剤を混合した発明であり、腐敗防止剤としては無水次亜硫酸ソーダを用い、沈殿防止剤としては酢酸を用いた。
【0014】
特許を受けようとする第5発明は、前記腐敗防止剤の混合量が0.4%以内であり、前記沈殿防止剤の混合量が5.0%以内である請求項4記載の液状複合肥料である。当該第5発明は、前記の第4発明における腐敗防止剤及び沈殿防止剤を混合した混合量を特定した発明であり、無水次亜硫酸ソーダを0.4%以内とし、酢酸を5.0%以内としたものである。また、この他に混合物として苦土、石灰などの特殊要素を混合したり、ほう素、マンガンなどの微量要素を混合しても良い。
【0015】
特許を受けようとする第6発明は、水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料、水溶性加里肥料の各溶液及び海産物の残渣をそれぞれ計量しておき、当該海産物の残渣をph6〜7になるように調整発酵して分解溶液とし、これに計量した水溶性加里肥料を加えて分解し、これに計量した水溶性りん酸肥料を加えて中和させて、これに計量した水溶性窒素肥料を加えて混合し、発酵後の海産物等の残渣をろ過するようにしたことを特徴とする液状複合肥料の製造方法である。当該第6発明は、液状複合肥料の製造方法の発明であり、まず、計量した水溶性加里肥料と計量したホヤ殻を混合してph6〜7に分解発酵させ、これに計量した水溶性りん酸肥料を混合して中和させる。後に計量した水溶性窒素肥料を混合した上、ホヤ殻等の残渣をろ過する。
【発明の効果】
【0016】
第1発明乃至及び第3発明は、従来着目されることのなかったホヤ殻、ウニ殻といった海産物の残渣をph6〜7で発酵させて分解溶液とし、この分解溶液と水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料、水溶性加里肥料の溶液とを混合して液状複合肥料としたものである。そのために分解溶液に含有されるミネラル分や天然ホルモン成分が従来からの構成される肥料と相俟って植物の成長を促進させることができる。

【0017】
第4発明及び第5発明は、液状複合肥料の混合物として、更に腐敗防止剤及び沈殿防止剤を混合した発明である。腐敗防止剤としては無水次亜硫酸ソーダを用い、沈殿防止剤としては酢酸を用いた点が大きな特徴である。
【0018】
第6発明は、液状複合肥料の製造方法の発明であり、まず、計量した水溶性苛性加里と計量したホヤ殻を混合してph6〜7に分解発酵させ、これに計量した水溶性りん酸を混合して中和させる。後に計量した水溶性窒素肥料を混合した上、発酵後の残渣をろ過して製造する。そのために目的とする複合肥料を製造するに当たり三要素となる単肥の混合量や分解溶液の混合量の計量調整が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態は一実施形態を示すにすぎず、何等これに限定されるものではなく、本発明の範囲内において自由に変更可能である。
【0020】
本発明の液状複合肥料は、まず、水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料、水溶性加里肥料をそれぞれ計量しておく。次に海産物の残渣であるホヤ殻を分解し易いように破砕しておき、これに計量した水溶性の苛性加里を加えてホヤ殻を分解させる。この際、ph6〜7においてホヤ殻を分解発酵させる。苛性加里は腐食性の物質であるために、破砕したホヤ殻の分解発酵が促進される。その後、計量した水溶性のりん酸を混合して中和させる。りん酸は溶解性を有しているため分解発酵後に中和するのに適している。中和した後に中性の肥料として水溶性の尿素を混合した後、発酵後のホヤ殻等の残渣をろ過して液状複合肥料を得る。なお、上記の海産物の残渣としてホヤ殻を使用したが、ウニ殻であっても良い。
【実施例】
【0021】
本発明に係る液状複合肥料を用いて一般的に知られている肥料と栽培比較試験を行い、植物の生育上生理障害等の植害があるか否かを検討した。供試肥料と対照肥料の種類及び分析成績は表1に示すとおりである。対照肥料は粉砕して、デシケーターにて7日間乾燥させた肥料の重量を測定して使用した。表2は供試土壌の土性、沖積土又は洪積土の別などの表である。なお、供試作物は、「小松菜」(楽天:タキイ種苗)である。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表3は、標準量施用区の試験区における供試肥料の施用量と成分量を示し、表4-1は、標準量施用区の試験区における対照肥料の施用量と成分量であり、表4-2は、標準量施用区の標準区における標準区の施用量と成分量である。

【0025】
【表3】

【0026】
【表4−1】

【0027】
【表4−2】

【0028】
表5は、上記の標準量施用区おける栽培方法を示す。
【0029】
【表5】

【0030】
表6は、前記の標準量施用区おける管理の状況を示す。一回の灌水量は4月25日から5月1日までは一日20ml前後、5月3日からは毎日50ml灌水した。

【0031】
【表6】

【0032】
表7は、標準量施用区における供試肥料、対象肥料、標準区の発芽調査成績と生育調査成績である。発芽調査は3回行い、生育調査は2回行い、最終的には地上部を収穫し生体重などを計量した。生体重指数は、標準区のB1の平均値を100.0とした。

【0033】
【表7】

【0034】
なお、参考写真1は、植えた小松菜の平成19年4月25日発芽時を示すものであり、参考写真2は、平成19年5月10日最終調査を示すものであり、参考写真3は、平成19年5月10日最終調査時点の根の状態を示すものである。
【0035】
表8は、標準量施用区の跡地土壌調査の考察表であり、表9は、供試土壌の分析値を示す。表8において、水素イオン濃度(pH)は、pH(H2O)とpH(KCL)の二つを行い、電気伝導率(EC)の単位は、mS/cmである。A−Nは、アンモニア性窒素、N−Nは、硝酸性窒素の略である。同時に有効りん酸(P2O5)と有効加里(K2O)も同時に分析を行った。これらの分析数値の単位は全てppmである。

【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
試験は供試肥料区と対照肥料区を用いて、標準量施用区、2倍量施用区、3番量施用区、4倍量施用区を設けて行った、供試肥料区は4月23日の発芽率調査の結果、発芽勢いが少し劣っていたが、4月25日の調査では発芽が揃い、その後の生育は標準量施用区、2倍量施用区、3倍量施用区ともに順調に良い生育をした。4倍量施用区は初期成育が少し停滞したが後半は逆に生体重指数が159と標準量施用区や2倍量施用区、3倍量施用区よりも良い結果が得られた。

【0039】
対照肥料区の標準量施用区は4月23日の発芽率調査時点では、良い結果が得られたが、2倍量施用区、3倍量施用区、4倍量施用区はともに4月23日の発芽率調査の時点から発芽はしたものの、生育が悪くなった。

【0040】
2倍量施用区は5月3日から葉に枯れこみが発生して生育が停滞した状態となり、3倍量施用区と4倍量施用区は4月25日の発芽率調査の時点で発芽はしたが、すぐに枯れてなくなり、4倍量施用区は5月3日の生育調査時点では何もない状態になった。3倍量施用区は5月3日の生育調査時点では1鉢あたり7〜8本残っていたが、5月10日の最終生育調査と収穫の時点では殆ど枯れてしまい2本しか残らなかった。
【0041】
対照肥料区の土壌の電気伝導率(EC)が、標準量施用区が0.24mS/cm、2倍量施用区が0.93mS/cm、3倍量施用区が0.28mS/cm、4倍量施用区が0.47mS/cmに比較して非常に硬くなっており、跡地の土壌分析調査結果らも解るように供試肥料国比較して培地中に吸収されずに残っている硝酸態窒素をはじめとする肥料成分がたくさんあることがわかる。
【0042】
また、対照肥料区のH2OpHとKCLpHの差が、標準量施用区は、1.09と良いが、2倍量施用区は、0.62、3倍量施用区は、0.45、4倍量施用区は、0.02というように差が非常に小さくなっており、跡地の土壌分析結果からも解るように供試肥料区に比較して、培地中に吸収されずに残っているアンモニア性窒素やカリウム等が多くあることが解る。H2OpHとKCLpHとの差は、最低でも0.8以上が必要で、それ以下の値では土壌中に塩基性の肥料成分が蓄積し生育に支障が生ずる。これらの結果を総合的に考えると対照肥料区は、やはり肥料による濃度障害により生育が不良になったものと考えられる。

【0043】
供試肥料区は、Nが1.4%、Pが7.7%、Kが10.4%と窒素量が不足のため対照区と同じ条件にするため硫酸アンモニアや過りん酸石灰を補填して植害試験を行った。試験の結果、生育期間中は順調に生育し、供試肥料による植害症状は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合したことを特徴とする液状複合肥料。
【請求項2】
水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合すると共に、水溶性窒素肥料の含有量が1.4%前後、水溶性りん酸肥料の含有量が7.7%前後、水溶性加里肥料の含有量が10.4%前後となるように調整したことを特徴とする請求項1記載の液状複合肥料。
【請求項3】
前記海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液の原材料がホヤ殻又はウニ殻である請求項1または2に記載の液状複合肥料。
【請求項4】
水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料及び水溶性加里肥料を必須の成分として水に溶解した溶液と、海産物の残渣をph6〜7で発酵した分解溶液とを混合すると共に、かつ腐敗防止剤及び沈殿防止剤を混合したことを特徴とする請求項1及び2に記載の液状複合肥料。
【請求項5】
前記腐敗防止剤の混合量が0.4%以内であり、前記沈殿防止剤の混合量が5.0%以内である請求項4記載の液状複合肥料。
【請求項6】
水溶性窒素肥料、水溶性りん酸肥料、水溶性加里肥料の各溶液及び海産物の残渣をそれぞれ計量しておき、当該海産物の残渣をph6〜7になるように調整発酵して分解溶液とし、これに計量した水溶性加里肥料を加えて分解し、これに計量した水溶性りん酸肥料を加えて中和させて、これに計量した水溶性窒素肥料を加えて混合し、発酵後の海産物等の残渣をろ過するようにしたことを特徴とする液状複合肥料の製造方法。

【公開番号】特開2009−249239(P2009−249239A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99925(P2008−99925)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(596161237)有限会社 ピー・シー・センター (1)
【出願人】(504329702)有限会社コスモプロデュース (1)
【Fターム(参考)】