説明

液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法及び重合装置

【課題】液相重合を緊急停止する際に塊化物の発生を抑えることができる液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法及び重合装置を提供する。
【解決手段】液相重合反応器1内における重合反応を停止させる方法であって、高さの異なる複数の位置において、液相重合反応器1内に重合停止剤を導入する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法、及び重合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単量体を液相重合するプロセスにおいては、異常な反応等が発生したときに重合を緊急停止させることがある。重合を緊急停止させる方法として、例えば、特許文献1には、オレフィンを液相で連続的に重合又は共重合する重合反応を、重合反応器内に一酸化炭素を導入することによって緊急停止する方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、暴走反応を安全に終結させる方法において、反応容器の中の圧力上昇を感知し、反応器の中への流路を塞いでいる障壁を開口し、開口した流路を介して停止剤を反応容器の中に注入し、反応を終結させる段階を含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−128814号公報(2002年5月9日公開)
【特許文献2】特表2006−526696号公報(2006年11月24日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術においては、重合を緊急停止させる操作を行った後にも液相で重合が進行し、重合体の塊化物が発生して重合反応器内に残留することがある。塊化物が残留すると、重合を再開するときに単量体の導入ラインや重合体の移送ラインなどを閉塞することがある。
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液相重合を緊急停止する際に塊化物の発生を抑えることができる液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法及び重合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る方法は、液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法であって、高さの異なる複数の位置において、上記液相重合反応器内に重合停止剤を導入する工程を含む方法である。
【0008】
また、本発明に係る方法では、重合停止剤を導入する上記工程において、重合停止剤を、上記液相重合反応器内の上方にある気相部又は上記液相重合反応器内の上方に形成される気相部と、上記気相部の下方にある液相部とに導入することが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る方法では、重合停止剤を導入する上記工程に先立ち又は同時に、上記液相部の一部を上記液相重合反応器外に移送する工程を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る方法では、上記形成される気相部は、液相部の一部を上記液相重合反応器外に移送する上記工程により形成されることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る方法では、重合停止剤を導入する上記工程において、重合停止剤を、上記液相重合反応器の頂部から上記気相部に導入し、上記液相重合反応器の底部から上記液相部に導入することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る方法では、上記重合反応がオレフィンの液相重合反応であり、上記重合停止剤が、一酸化炭素、二酸化炭素、イソプロピルアルコール、水、及びエチルベンゼンからなる群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0013】
本発明に係る重合装置は、液相重合反応器と、上記液相重合反応器に重合停止剤を導入する第1の導入管と第2の導入管とを備え、上記第1の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置と、上記第2の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置とは、上記液相重合反応器における互いに高さの異なる位置である。
【0014】
また、本発明に係る重合装置では、上記第2の導入管は、上記液相重合反応器内の上方にある気相部又は上記液相重合反応器内の上方に形成される気相部に重合停止剤を導入するものであることが好ましく、上記第1の導入管は、上記気相部の下方にある液相部に重合停止剤を導入するものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る重合装置では、上記液相重合反応器内の液相部を収容するための収容容器と、上記液相重合反応器から上記収容容器に上記液相部を移送するための移送手段とを備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る重合装置では、上記第1の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置は、上記液相重合反応器の底部であることが好ましく、上記第2の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置は、上記液相重合反応器の頂部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液相重合を緊急停止する際に塊化物の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る重合装置を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施例に係る重合装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔重合装置〕
以下、本発明の一実施形態に係る重合装置について、図1を参照して以下に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る重合装置を模式的に示す図である。
【0020】
本実施形態における重合装置10は、単量体を重合して重合体を得るための装置である。重合装置10によって重合できる重合体としては、例えばポリオレフィンおよび合成ゴムが挙げられ、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。重合装置10は、重合体を製造する製造装置の一部を構成するものであってもよい。重合体を製造する装置としては、例えば、重合装置10における後述する液相重合反応器1と気相重合反応器とが移送ラインによって接続され、液相重合反応器1で得られた重合体が気相重合反応器へ移送され、気相重合反応器においてさらに重合を行う装置が挙げられる。
【0021】
図1に示すように、重合装置10は、液相重合反応器1及び収容容器2を備える。液相重合反応器1と収容容器2とは、移送ライン3(移送手段)を介してつながっている。また、液相重合反応器1は、導入ライン4(第2の導入管)及び導入ライン5(第1の導入管)を備える。
【0022】
液相重合反応器1とは、液相重合を行うための反応器である。液相重合反応器1としては、公知の反応器を用いることができ、例えば、頂部と底部とが円蓋状に突出した円筒形状の反応器や、配管を環状につないだ環状反応器(ループリアクター)などを用いることができる。また、液相重合反応器1は、反応器内が液相で満たされた状態(満液状態)において液相重合を行うものであってもよく、液相重合するための液相部と、当該液相部に接する気相部とを常に有して液相重合を行うものであってもよい。
【0023】
ここで、重合装置10の操作には、液相重合反応器1において液相重合を行う場合(以下、「通常時」ともいう。)の操作と、例えば異常な反応が発生したときに液相重合を緊急に停止する場合(以下、「緊急停止時」ともいう。)の操作とがある。
【0024】
通常時には、液相重合に用いられる触媒及び単量体が、液相重合反応器1に導入される(触媒及び単量体の導入ラインは、図1には示していない)。液相重合反応器1に導入された単量体は液相重合し、重合体の粒子を含むスラリー状の生成物等が得られる。
【0025】
また、液相重合反応器1においてオレフィン重合を行う場合には、液相重合反応器1に導入される単量体、すなわちオレフィンとしては、炭素数2〜12のα−オレフィン等を用いることができ、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられる。
【0026】
液相重合反応器1におけるオレフィンの重合反応においては、従来公知の反応条件を採用して行うことができる。
【0027】
導入ライン4及び5は、緊急停止時に、液相重合反応器1内に重合停止剤を導入するための配管である。導入ライン4の一端が液相重合反応器1に接続する位置と、導入ライン5の一端が液相重合反応器1に接続する位置とは、液相重合反応器1における互いに高さの異なる位置である。液相重合を緊急停止する際に塊化物の発生をより抑えやすいという観点から好ましくは、導入ライン4の一端は液相重合反応器1の頂部に接続し、また導入ライン5の一端は液相重合反応器1の底部に接続する。導入ライン4及び5の他端は、それぞれ例えば重合停止剤が導入された耐圧容器等に接続する。耐圧容器としては、例えばボンベ等が挙げられる。なお、導入ライン4及び5は、例えば液相重合反応器1内に重合停止剤を注入するノズル等であってもよい。また、液相重合反応器1の頂部に接続する導入ライン4及び液相重合反応器1の底部に接続する導入ライン5は、それぞれ複数であってもよい。
【0028】
ここで、「頂部」とは、液相重合反応器1の上部の領域をさす。例えば、液相重合反応器1が円筒形状の反応器である場合には、頂部とは上面及びその周辺の側面を含む領域である。また、例えば液相重合反応器1が環状反応器である場合には、頂部とは、最も高い箇所から側部に到達するまでを構成するループ状の部分である。
【0029】
また、「底部」とは、液相重合反応器1の下部の領域をさす。例えば液相重合反応器1が円筒形状の反応器である場合には、底部とは底面及びその周辺の側面を含む領域である。また、例えば液相重合反応器1が環状反応器である場合には、底部とは、最も低い箇所から側部に到達するまでを構成するループ状の部分である。
【0030】
また、導入ライン4は、緊急停止時に液相重合反応器1内の上方にある気相部12に重合停止剤を導入するものであり、導入ライン5は、緊急停止時に気相部12の下方にある液相部11に重合停止剤を導入するものである。なお、図1は、緊急停止時において、液相重合反応器1内に液相部11及び気相部12が存在する状態を示している。
【0031】
ここで、本実施形態において「液相部」とは、液相が存在する領域をさす。なお、液相部11に存在する液相そのものを液相部として表すこともある。液相とは、触媒、単量体、液相重合によって得られる重合体の粒子を含むスラリー状の生成物等を含むものであってもよい。
【0032】
「気相部」とは、液相重合反応器1内における液相部11以外の領域であって、気相が存在する領域をさす。気相部12は、通常時及び緊急停止時を通して常に液相重合反応器1に存在するものであってもよい。また、気相部12は、緊急停止時に移送ライン3を介して液相が移送されることによって形成されるものであってもよい。なお、液相が移送されることによって気相部12が形成される範囲は、収容容器2の容量などに基づいて予測することができる。したがって、導入ライン4を設ける位置は、この予測された範囲内に重合停止剤を導入できる位置にすることができる。
【0033】
導入ライン4及び5は、弁7及び8をそれぞれ備えており、弁7及び8の開閉によって、重合停止剤の導入を開始もしくは停止し、又は重合停止剤の導入量を調節する。弁7及び8としては、例えば仕切り弁等が挙げられる。
【0034】
ここで、重合停止剤としては、重合に用いられる単量体や触媒等に応じて、好適なものが選択される。例えばオレフィン重合を行う場合には、重合停止剤として、一酸化炭素、二酸化炭素、イソプロピルアルコール、水、エチルベンゼンからなる群より選択される少なくとも一つを用いることができる。
【0035】
移送ライン3は、緊急停止時に、液相重合反応器1から収容容器2に液相重合反応器1内の液相部を移送するための配管である。移送ライン3は、一端が液相重合反応器1の底部に接続し、他端が収容容器2に接続する。この構成により、移送ライン3は、液相重合反応器1内の液相部を効率よく収容容器2に移送させることができる。また、移送ライン3は、弁6を備えており、弁6の開閉によって、液相重合反応器1内の液相部の移送を開始もしくは停止し、又は移送量を調節する。
【0036】
収容容器2は、緊急停止時に、液相重合反応器1内の液相部を収容するための容器であり、移送ライン3を介して移送された液相を収容する。収容容器2は、移送された液相が気化されて収容されるものであってもよい。なお、収容容器2は、例えば、緊急停止時に液相部を収容するために備えられる専用の容器であって、通常時には使用されないもの、いわゆるブローダウンドラムであってもよい。
【0037】
また、収容容器2は、通常時には液相重合反応器1において得られた生成物をさらに重合する反応器であって、緊急停止時には液相部が収容されるために使用されるものであってもよい。反応器としては、例えば気相重合反応器などが挙げられる。この場合には、通常時における収容容器2内の圧力が液相重合反応器1内の圧力よりも低く保持されており、緊急停止時には、液相重合反応器1内の圧力と収容容器2内の圧力とが同圧になるまで、移送ライン3を介して液相重合反応器1内の液相部が収容容器2に移送される。
【0038】
本実施形態においては、導入ライン4及び導入ライン5は、液相重合反応器1内における、高さの異なる2箇所から重合停止剤を導入することができるので、重合停止剤が、液相中に効率よく導入される。したがって、液相重合反応を効率よく停止させることができる。また、導入ライン4によって、導入ライン5よりも高い位置から重合停止剤が導入されるので、導入された重合停止剤の一部が液相とともに移送ライン3を介して収容容器2に移送されたとしても、液相部11に充分な量の重合停止剤を存在させることができる。したがって、液相部11における液相重合反応を効率よく停止させることができ、重合が進行することによる塊化物の発生を抑えることができるため、重合を再開するときの単量体の導入ラインや重合体の移送ラインなどの閉塞トラブル等を防止することができる。
【0039】
また、導入ライン5を液相重合反応器1の底部に接続することによって、液相重合反応器1内の液相部11により効率よく重合停止剤を導入することができる。
【0040】
そして、導入ライン4を液相重合反応器1の頂部に接続することによって、液相重合反応器内の気相部12にも重合停止剤を導入することにより、液相部11に導入された重合停止剤の一部が液相とともに移送ライン3を介して収容容器2に移送されたとしても、気相部12に充分な量の重合停止剤を存在させることができる。そして、気相部12と液相部11との気液平衡によって液相部11に重合停止剤を効率よく導入することができる。
【0041】
したがって、液相部11における液相重合反応を効率よく停止させることができ、重合が進行することによる塊化物の発生を抑えることができるため、重合を再開するときの単量体の導入ラインや重合体の移送ラインなどの閉塞トラブル等を防止することができる。
【0042】
また、底部には移送ライン3が接続しているため、導入ライン5は、移送ライン3の近傍に接続することとなる。したがって、液相重合反応器1内の移送工程が行われる領域の近傍で、液相部11への重合停止剤の導入が行われることとなり、移送ライン3の近傍に存在する液相の液相重合反応を効率よく停止させることができるので、塊化物の発生を抑え、塊化物によって移送ライン3が閉塞することを防ぐことができ、液相を効率よく移送させることができる。
【0043】
〔液相重合の停止方法〕
次に、上述した重合装置10を用いて、本発明に係る液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法について、さらに図1を参照して以下に説明する。
【0044】
本実施形態における方法は、液相重合反応器1内における重合反応を停止させる方法であって、導入工程と移送工程とを含む方法である。
【0045】
導入工程は、導入ライン4及び5を介して液相重合反応器1内に重合停止剤を導入する工程である。
【0046】
導入工程においては、高さの異なる複数の位置において、液相重合反応器1内に重合停止剤を導入すればよい。これにより、本発明は、液相重合反応器1内の複数の層における液相部11に重合停止剤を効率よく導入することができるので、当該複数の層における液相重合反応を同時に効率よく停止させることができる。また、複数の異なる高さから重合停止剤を導入するので、導入された重合停止剤の一部が液相とともに移送ライン3を介して収容容器2に移送されたとしても、気相を介して又は介さずに、効率よく液相部11に重合停止剤を導入して液相重合反応を停止させることができるため、重合が進行することによる塊化物の発生を抑えることができる。
【0047】
また、導入工程においては、移送工程が行われる液相重合反応器1内の領域の近傍で、液相部11への重合停止剤の導入が行われる一方、液相重合反応器1内の当該近傍以外の領域で、液相部11への重合停止剤の導入が行われてもよい。これによって、より効率よく液相中に重合停止剤を導入して液相重合反応を停止させることができるとともに塊化物の発生を抑え、塊化物によって移送ライン3が閉塞することを防ぐことができ、重合を再開するときの閉塞トラブル等を防止することができる。
【0048】
導入工程では、液相重合反応器1の頂部に接続された導入ライン4を介して、気相部12に重合停止剤を導入することが好ましい。また、液相重合反応器1の底部に接続された導入ライン5を介して、液相部11に重合停止剤を導入することが好ましい。重合停止剤を導入する気相部12は、導入工程の開始前から液相重合反応器1内の上方に存在する気相部であってもよく、導入工程の間に、例えば移送工程によって、液相重合反応器1内の上方に形成される気相部であってもよい。
【0049】
導入工程において重合停止剤を液相重合反応器1の頂部から気相部12に導入することによって、液相部11に導入された重合停止剤の一部が液相とともに移送ライン3を介して収容容器2に移送されたとしても、気相部12に充分な量の重合停止剤を存在させることができる。また、液相重合反応器1内の液相が残存している間は、気相部12と液相部11との気液平衡によって液相部11に重合停止剤を効率よく導入することができる。
【0050】
また、導入工程において重合停止剤を液相重合反応器1の底部から液相部11に導入することによって、液相重合反応器1内の液相部11に直接、重合停止剤を導入することによって、液相部11における液相重合反応を効率よく停止させることができる。
【0051】
したがって、上述した構成により、液相部11における液相重合反応を効率よく停止させることができるので、重合が進行することによる塊化物の発生を抑えることができ、重合を再開するときの閉塞トラブル等を防止することができる。
【0052】
移送工程は、導入工程に先立ち又は同時に、移送ライン3を介して、液相重合反応器1内にある液相部11の一部を、液相重合反応器1外にある収容容器2に移送する工程である。
【0053】
移送工程によって、例えば満液状態において液相重合を行う液相重合反応器1内が脱圧されて、液相重合反応器1内に気相部12が形成される場合がある。気相部12が形成される範囲は、移送される液相の量などによって決まる。通常、液相部11は、液相重合反応器1の下方、すなわち底部を含む領域に形成され、気相部12は、液相重合反応器1の上方、すなわち頂部を含む領域に形成される。
【0054】
移送工程によって、液相重合反応器1から収容容器2に移送される液相の量は、収容容器2が液相を収容できる容量などによって決まる。液相重合反応器1内の液相の量が、収容容器2が液相を収容できる容量を超える場合には、超える分の液相は液相重合反応器1内に残留する。なお、液相重合反応器1内の液相の量が、収容容器2が液相を収容できる容量より少ない場合でも、液相重合反応器1内に液相が残存している間は、重合停止剤が導入される。
【0055】
ここで「収容容器2が液相を収容できる容量」とは、緊急停止する直前の収容容器2が収容できる液相の量をさす。収容容器2が液相を収容できる容量は、収容容器2の容積などによって決まる。また、例えば液相が、液相重合反応器1内の圧力と収容容器2内の圧力とが同圧になるまで移送される場合には、収容容器2が液相を収容できる容量は、収容容器2の容積、緊急停止する直前の液相重合反応器1及び収容容器2の圧力などによって決まる。
【0056】
液相重合反応器1の底部には移送ライン3が接続しているため、液相重合反応器1内の移送工程が行われる領域の近傍で、液相部11への重合停止剤の導入が行われることとなり、移送ライン3の近傍に存在する液相の液相重合反応を効率よく停止させることができるので、塊化物によって移送ライン3が閉塞することを防ぐことができ、効率よく液相を移送させることができる。
【実施例】
【0057】
〔実施例〕
図2に示した重合装置20を用いてポリプロピレンの重合を行い、液相重合を緊急停止させた後に、塊化物の発生の有無を調べた。図2は、本発明の一実施例に係る重合装置20を模式的に示す図である。以下、図2を参照して説明する。
【0058】
重合装置20では、液相重合反応器として4脚の環状反応器1’(液相重合反応器)を用いた。導入ライン4及び5は、それぞれ2個ずつ設けた。2個の導入ライン4の一端を、環状反応器1’の頂部を形成するループの2箇所にそれぞれ接続した。また、2個の導入ライン5の一端を、環状反応器1’の底部を形成するループの2箇所にそれぞれ接続した。また、導入ライン4及び5には弁7及び8として仕切り弁を設けた。また、収容容器としては、気相重合反応器2’(収容容器)を用いた。
【0059】
まず、環状反応器1’及び気相重合反応器2’においてプロピレンの重合を行った。環状反応器1’においては、圧力3.5MPaG、温度70℃において、満液の条件下にて液相重合を行った。また、気相重合反応器2’においては、圧力1.3MPaG、温度70℃において気相重合を行った。
【0060】
その後、上述した重合中に、液相重合を停止させるために、以下の操作を行った。
【0061】
(1)重合停止剤の導入操作(導入工程)
環状反応器1’内に、重合停止剤として一酸化炭素を導入した。具体的には、導入ライン4及び5の他端に、一酸化炭素を封入したボンベ21を接続し、弁7及び8を開放して一酸化炭素を環状反応器1’内に導入した。
【0062】
(2)緊急脱圧操作(移送工程)
上記重合停止剤の導入操作と同時に、環状反応器1’内を緊急脱圧させた。具体的には、移送ライン3に設けられた弁6を開放し、環状反応器1’内の液相を気相重合反応器2’に移送させた。環状反応器1’内の液相は、環状反応器1’と気相重合反応器2’とが同圧になるまで気相重合反応器2’に移送された。ここでの液相は、プロピレンの液状物、ポリプロピレンのスラリーなどを含むものであった。
【0063】
次に、環状反応器1’内を大気圧まで脱圧して大気と置換した後に、環状反応器1’を開放して点検したところ、ポリプロピレン等の塊化物は観察されなかった。
【0064】
〔比較例〕
上記実施例と同じ構成の重合装置20においてプロピレンの重合を行い、液相重合を緊急停止させた後に、塊化物の発生の有無を調べた。なお、比較例では、液相重合を停止させる際、上述した(1)重合停止剤の導入操作において導入ライン4からの重合停止剤の導入を行わなかった点以外は、上記実施例と同様の操作を行った。また、導入ライン5から導入した重合停止剤の量は、上記実施例において導入ライン5から導入した量と同程度とした。
【0065】
液相重合を停止させるための操作の後に、環状反応器1’を開放して点検したところ、ポリプロピレンの塊化物が存在することが確認された。したがって、重合を再開する際には、この塊化物を除去する作業が必要となった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、液相重合を緊急停止する際に塊化物の発生を抑えることができ、重合を再開するときの単量体の導入ラインや重合体の移送ラインなどの閉塞トラブル等を防止することができるので、液相重合による重合体の製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 液相重合反応器
1’ 環状反応器(液相重合反応器)
2 収容容器
2’ 気相重合反応器(収容容器)
3 移送ライン(移送手段)
4 導入ライン(第2の導入管)
5 導入ライン(第1の導入管)
6、7、8 弁
10 重合装置
11 液相部
12 気相部
20 重合装置
21 ボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相重合反応器内における重合反応を停止させる方法であって、
高さの異なる複数の位置において、上記液相重合反応器内に重合停止剤を導入する工程を含む、方法。
【請求項2】
重合停止剤を導入する上記工程において、重合停止剤を、上記液相重合反応器内の上方にある気相部又は上記液相重合反応器内の上方に形成される気相部と、上記気相部の下方にある液相部とに導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重合停止剤を導入する上記工程に先立ち又は同時に、上記液相部の一部を上記液相重合反応器外に移送する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記形成される気相部は、液相部の一部を上記液相重合反応器外に移送する上記工程により形成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
重合停止剤を導入する上記工程において、重合停止剤を、上記液相重合反応器の頂部から上記気相部に導入し、上記液相重合反応器の底部から上記液相部に導入する、請求項2〜4の何れか1項に記載の液相重合の停止方法。
【請求項6】
上記重合反応がオレフィンの液相重合反応であり、
上記重合停止剤が、一酸化炭素、二酸化炭素、イソプロピルアルコール、水、及びエチルベンゼンからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1〜5の何れか1項に記載の液相重合の停止方法。
【請求項7】
液相重合反応器と、
上記液相重合反応器に重合停止剤を導入する第1の導入管と第2の導入管とを備え、
上記第1の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置と、上記第2の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置とは、上記液相重合反応器における互いに高さの異なる位置である、重合装置。
【請求項8】
上記第2の導入管は、上記液相重合反応器内の上方にある気相部又は上記液相重合反応器内の上方に形成される気相部に重合停止剤を導入するものであり、
上記第1の導入管は、上記気相部の下方にある液相部に重合停止剤を導入するものである、請求項7に記載の重合装置。
【請求項9】
上記液相重合反応器内の液相部を収容するための収容容器と、
上記液相重合反応器から上記収容容器に上記液相部を移送するための移送手段とを備える、請求項7又は8に記載の重合装置。
【請求項10】
上記第1の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置は、上記液相重合反応器の底部であり、
上記第2の導入管が上記液相重合反応器に接続する位置は、上記液相重合反応器の頂部である、請求項7〜9の何れか1項に記載の重合装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−241247(P2011−241247A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111923(P2010−111923)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】