説明

深部脳刺激のための電極システム

本発明は、深部脳刺激に特に適している電極システム200に関する。好ましい実施の形態によれば、電極システム200は、間隔dで軸方向に分布する半径r及び軸方向の伸長hの複数の環状刺激電極201を担持している細長いプローブ本体202を有する。軸方向の伸長hは、好ましくは直径2rより小さく、好ましくは間隔dより大きい。さらに電極システム200は、プローブ本体202から放射状に突き出している複数の微小電極203をオプションとして有し、前記微小電極203は、神経生理学的電位を記録することに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の刺激電極を備えた細長いプローブ本体を有する深部脳刺激のための電極システムに関する。
【背景技術】
【0002】
埋込型電極による脳領域の電気的刺激は、いくつかの神経異常に対して使用できる療法である。US6,343,226は、そのような深部脳刺激のための電極システムを開示し、当該電極システムは、プローブ本体の領域に沿って等しい距離で分布するいくつかの環状刺激電極を有するフレキシブルな軸方向に伸びるプローブ本体、及び、プローブ本体の先端部から組織の中へと押し進められることができ、生理学的電位を記録するための電極として機能する軸方向に移動可能なスタイレットを有する。この文献は、これらの電極の寸法に関して詳細に述べていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この背景に基づいて、深部脳刺激又は同様の電気生理学的処置の治療効果を改善する手段を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1による電極システム及び請求項10による方法によって達成される。好ましい実施の形態は、従属請求項に開示される。
【0005】
その第1の態様によれば、本発明は、深部脳刺激に特に適した電極システム(すなわち「深部脳刺激システム」)に関するが、本発明は、さまざまな他のアプリケーションにも有用である。電極システムは、以下のコンポーネントを有する。
【0006】
a) 軸方向に伸びる「プローブ本体」(すなわち一般的に細長い又は繊維状の形状を有する本体)。この形状の伸びる方向が、定義上、プローブ本体の「軸」である。プローブ本体は、フレキシブルで生理的適合性の電気的絶縁材料(例えばポリイミド又はポリウレタン及びシリコーン-ウレタンコポリマー)から一般的に形成される。
【0007】
b) プローブ本体の軸に沿って分布する少なくとも3つの電極。これらの電極は、参照として及びそれらの典型的な機能(すなわち神経組織の刺激)を示すものとして、以下において「刺激電極」と呼ばれる。刺激電極は、一般的に等しい形状及びサイズであり、等しい距離で軸方向に配置されるが、互いから異なる距離で配置される異なる形状及び/又はサイズの電極の使用も本発明に含まれる。さらに、刺激電極は、一般的にリング又はディスクの形状を持つ。
【0008】
刺激電極の直径2r(rは電極の半径)は、電極の軸方向の伸長hより大きい。式で記述すると、これは、"アスペクト比"h/2r≦1に等しい(しかしながら、このような式は、特許請求の範囲のはっきりした境界を意味せず、例えば、1よりわずかに大きいアスペクト比も勿論なお本発明の有望な効果を提供する)。定義として、刺激電極の「直径」はプローブ本体の軸に対して垂直な方向で測定され、一方「軸方向の伸長」はもちろん前記軸の方向で測定される。電極の輪郭が円形でない場合、直径は、例えば電極の輪郭にある2つのポイント間の最大の可能な距離として、適切に定められなければならない。
【0009】
電極の数は、好ましくは、少なくとも2r/(h+d)又は2r/hである(dは隣り合う電極間の(平均)距離)。これは、電極が、プローブ本体の直径に匹敵する軸方向の長さHにわたって広がることを保証する。
【0010】
c) 刺激電極に関して軸方向にシフトされるという点で互いに異なる電位のパターンを選択的に生成するコントローラ。パターンは、好ましくは、n個(n=2; 3; 4;…)の刺激電極のグループへの同一の電位(例えば3V)の印加を含み、nは刺激電極の総数Mより小さく、それらの電極は好ましくは互いに隣り合う電極であり、最も好ましくは、残りの(M-n個の)刺激電極は、他の固定電位(例えば0 V)に固定されるか又はフローティングである。この場合には、コントローラを駆動するために、単一のパルス発生器で十分である。
【0011】
コントローラはオプションとして、選択的に刺激電極のアドレス指定を行うこと、すなわち各々の刺激電極に個々の電位を印加することが可能であり、それゆえ活性化体積が、その位置及び大きさに関して広範囲で調整されることができる。
【0012】
図に関してさらに詳細に示されるように、提案された刺激電極のアスペクト比h/2r≦1は、電極に印加される電位によって刺激される神経組織中の活性化体積に関して有益である。それらの直径2rに対する電極の限られた軸方向の高さhは特に、活性化体積が比較的小さくて軸方向に適切に配置されるという効果を持つ。さらに、コントローラは、2つの刺激電極間の(小さい)距離のステップで、電極システムの軸方向に沿った周囲の神経組織中の活性化体積を選択的にシフトすることができる。したがって、電極システムの電気的刺激をそれが必要である脳領域に正確に適合させることが可能である。
【0013】
好ましくは、刺激電極の直径2rは、それらの軸方向の伸長の少なくとも2倍の大きさ(すなわち2r≧2h)であり、最も好ましくは、軸方向の伸長の4倍よりも大きい(すなわち2r≧4h)。
【0014】
本発明の他の特定の実施の形態において、少なくとも2つの隣り合う刺激電極は、それらの軸方向の伸長hより小さい互いからの軸方向の距離dを持つ(すなわちd≦h)。より好ましくは、さらに接近した電極間の間隔が用いられることができる(例えばd≦h/2)。好ましくは、電極システムの全ての刺激電極が、そのような条件に従う。軸方向の伸長hが全ての電極で同じであるというわけではない場合、この条件は、考慮される2つの隣り合う刺激電極の最大の軸方向の伸長を指す。この比較的密集した電極配置の利点は、(i)神経組織の電気的刺激が、一つの電極から隣の電極へと活性化パターンをシフトすることによって、非常に正確に位置決めされることができること、及び(ii)比較的小さい電極間間隔を用いる場合の比較的大きな電極表面積によって、電極-組織系の電気的インピーダンスがあまり高くないことである。
【0015】
刺激電極は好ましくは、少なくとも刺激電極の直径2rの長さ(すなわち、H≧2r)、好ましくは当該直径の少なくとも2倍の長さ(H≧2・2r)、最も好ましくは当該直径の少なくとも5倍の長さ(H≧5・2r)である長さHを有する軸方向の領域にわたって分布する。あるいは、前記長さHは、電極の軸方向の伸長hの少なくとも10倍の長さ(すなわち、H≧10h)であることが要求される。これは、電極の刺激がそれにわたって分布することができる十分に長い距離であって、電極システムを物理的に動かすことなく刺激の重心がそれにわたって電気的に調整されることができる十分に長い距離が存在することを保証する。典型的なケースでは、Hは1mmから20mmの範囲である。
【0016】
コントローラは、好ましくは、所望の(調整可能な)周波数及び電圧レベルを有する電圧パルスを生成することができる単一のパルス発生器を含む。これらのパルスを刺激電極に選択的に分布させることによって、さまざまな活性化パターン及びそれによる活性化ボリュームが生成されることができる。フレキシブルな刺激ボリュームを生成するために単一のパルス発生器で十分であることは重要な利点であり、システムデザインを単純化する。
【0017】
本発明の更なる発展によって、電極システムは、プローブ本体から突き出る、すなわちプローブ本体の表面から出て、少なくともあるポイントで、その起点での距離よりも大きいプローブ本体からの半径方向の距離を呈する少なくとも一つの微小電極を有する。微小電極は特に、少なくともコンポーネントによって、半径方向に伸びることができる。「微小電極」という用語は、刺激電極からこの電極を区別するためにここで用いられる。さらにこの用語は、通常この電極が刺激電極より小さいことを示し、これは、微小電極が数個の神経細胞だけ又は一つの神経単位だけからの電位を記録するために一般的に用いられる一方で、刺激電極が複数の神経細胞を伴う領域を電気的に刺激するために用いられるからである。微小電極は通常、軸方向に第1の刺激電極の直前のポイントと軸方向に最後の刺激電極のすぐ向こうのポイントとの間のどこかに配置される。さらに微小電極は、一般的に、(周囲の神経組織への適用の間)プローブ本体から離れて若干の距離を広がり、当該距離は、神経組織中の長期にわたる埋め込みの間のプローブ本体周辺で増える瘢痕組織による記録される神経信号の品質への有害な影響を最小限にするために、好ましくは100マイクロメートル以上のオーダーである。微小電極を有する上述の電極システムは、その微小電極が刺激電極によって電気的に刺激される神経組織の中にまっすぐに伸び、したがって刺激効果の直接観測を可能にするという利点を持つ。
【0018】
微小電極を含む電極システムにおいて、この微小電極は好ましくは、その先端部の他のあらゆる所が電気的絶縁によって囲まれる。これは、微小電極の先端部だけが電気生理学的電位に対して高感度であることを保証し、前記先端部は、刺激電極の電位による干渉を回避するため、及び長期にわたる埋め込みの間の被包を最小限にするために、プローブ本体から十分遠くに位置することができる。
【0019】
プローブ本体から突き出る微小電極は、一般に、プローブ本体の側面のどこからでも生じることができる。それは特に、2つの刺激電極の間で、あるいは刺激電極の領域内で、生じることができる。後者の場合、微小電極の起点のポイントは通常は絶縁材料によって取り囲まれて、したがって対応する刺激電極から微小電極を安全に分離する。
【0020】
上記記載が常に一つの微小電極のみが存在する場合を含んだが、電極システムは、好ましくは、異なる方向にプローブ本体から突き出る複数の微小電極を含む。それゆえ電気生理学的電位は、細長い電極システムの周囲のさまざまな方向において検知されることができる。
【0021】
本発明のさらに別の実施の形態において、微小電極を有する電極システムは、微小電極を介して電位を検知するための記録ユニットを含む。したがって、例えば、刺激電極によって神経組織中で生成される電気的刺激の効果をモニタリングすることが可能である。
【0022】
本発明はさらに、上で説明される種類の微小電極を有する電極システムの製造方法に関し、当該方法は、以下のステップを含む。
a) 少なくとも1つの埋め込み電気的導線を有する絶縁材料のシートの事前加工。前記導線の端部を含む絶縁材料のストライプが、絶縁材料中のU字型の切れ目によって切り離される。
b) 前もって製造されたプローブ本体の周りに前記シートを巻く。そして上述のストライプは、プローブ本体から突き出るように、シートの面の外に折り返されることができる。
【0023】
これらの及び他の本発明の態様は、以下に記載される実施の形態から明らかであり、それらを参照して説明される。これらの実施の形態は、添付の図面の助けを借りて一例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】深部脳刺激のための本発明による電極システムの適用を概略的に示す図。
【図2】本発明による電極システムの第1の実施の形態を示す図。
【図3】異なる数及び/又は位置の活性電極を用いることによって、図2のような電極システムで生成されることができる神経活性化の異なるボリュームを示す図。
【図4】微小電極を担持する微小ワイヤを有する本発明による電極システムの実施の形態を示す図。
【図5】微小電極を担持する微細構造を有する本発明による電極システムの実施の形態を示す図。
【図6】刺激電極内から生じる微小電極を担持する微細構造を有する本発明による電極システムの実施の形態を示す図。
【図7】微小電極を有する電極システムの製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図において、同様の参照番号又は100の整数倍だけ異なる番号は、同一の又は同様のコンポーネントを指す。
【0026】
中枢神経組織へのわずかな電気刺激の適用の有益な治療効果が、1980年代後半にBenabid及び協力者(Grenoble)によって発見された。いわゆる高周波電気刺激(典型的な刺激パラメータ、130Hz、3V、60μs)を視床組織に印加することは、パーキンソン病(PD)患者を救い、そして本態性振戦(ET)患者を振戦から救うことができる。近年では、深部脳刺激(DBS)の他のターゲットが確認され(例えば淡蒼球の内部セグメント、GPi及び視床下核(STN))、PD患者の生活の質の顕著な改善に結びついた。さらに、てんかん及び抑うつのような他の神経障害に対するDBSの使用が調査されている。
【0027】
典型的なDBSシステム構成は、図1に示されて、
- 鎖骨の下に外科的に埋め込まれて、必要な電圧パルスを供給する埋込型パルス発生器11、
- パルス発生器11に接続されて、首の中を頭蓋骨へと通り、そこでコネクタで終端する延長ワイヤ12、及び
- 頭蓋骨の穿頭孔を通して脳組織中に埋め込まれるDBSプローブ100、
から構成される。
【0028】
臨床的結果の成功が、ターゲット領域(例えば視床下核)内での電極の正確な位置決めに非常に依存していることが、DBS療法の実務においてよく知られている。長期間にわたる刺激電極の正確な配置を保証するために、注意深い手術計画及びナビゲーションが、術前に取得された患者の脳中のターゲット領域の撮像データに基づいて実行される。その後、常習的刺激電極の埋め込みの前に、DBS手術の間に、医療チームは、記録用微小電極を用いてターゲット領域の電気生理学的探索を実行して、その後、疾患症状に関する刺激の効果を調査するために、急性検査刺激を使用する。これらの手順は、常習的刺激のための最適位置をより厳密に定めるために実行される。
【0029】
注意深い外科的な神経生理学的及び神経学的な手順にもかかわらず、常習的刺激電極が通常、DBS療法に対して最適に配置されないことは不可避である。位置的不確実さは、例えば、術前撮像データの誤差、ターゲティングシステムの機械的な不正確さ、プローブ固定の間の機械的な外乱、並びに、外科的手順及び/又は埋め込み手順の間の脳組織の機械的シフトに起因する場合がある。
【0030】
他の問題は、患者ごとに詳細な解剖学的形態に変動があることに関連している。(STN又はGPiのようなDBSターゲットを含む)脳構造の大きさ及び形状と同様に厳密な場所は、異なる人の間で完全に同一ではない。結果的に、必要とされる最適の刺激領域レイアウトは、患者ごとに幾分異なり、一般に、刺激領域の最適の形状はアプリオリには分からない。
【0031】
したがって、理想的なターゲットに対するプローブ位置の不確実さ/誤差を手術後に訂正するために、そして患者の局所的な詳細な解剖学的形態に基づいて刺激領域要求における不確実さに対処するために、刺激領域の成形におけるフレキシビリティが必要である。
【0032】
解剖学的ターゲットのサイズ(数mm)及び刺激領域配置の必要とされる精度(< 1mm)に関して、常習的刺激のために今日用いられている典型的なDBSプローブは、刺激領域をこの精度まで適合させるにはあまりに粗い。
【0033】
刺激領域位置決めを改善する既知のソリューションは、電場ステアリングである(例えばUS589416参照)。この場合には、プローブ方向に沿って刺激領域をシフトするために、電極に適用される電流(又は電位)のバランスをとる。残念なことに、この方法はいくつかの短所を持つ。第一に、各々の電極がそのアドレス指定を行うための別々の刺激装置を必要とするので、電子部品実装がより難しい。第2に、神経細胞活性化のボリュームの位置を移すことは、電流振幅の非常に正確な制御を必要とする。第3に、神経細胞活性化のボリュームの位置を移すことは、その形状のかなりの変更を伴う。活性化のボリュームは、あまりスムーズにプローブに沿ってシフトしない。その代わりに、それは電極位置に「くっつき」、29/30対1/30の非常に精密な電流再配分としても、洋梨型の活性化ボリュームをもたらす。そのような「洋梨型」のボリュームの幅は、それぞれの電極における電流振幅の比によって決定される。装置デザインの観点から、領域ステアリング方法のために必要とされる更に複雑な電子部品が装置の小型化を妨げて、装置コストを増加させるので、このアプローチは好ましくない。臨床的観点から、プローブに沿ってその位置を動かすことを試みる際の神経細胞活性化ボリュームの形状の大きな変形(プローブ方向に沿ってさらに細長くなる)のために、この方法は最適ではない。
【0034】
以下において、上記の問題に対処する電極システムのさまざまな実施の形態が提案される。
【0035】
図2は、図1の構成に適用されることができる「DBSプローブ」又は「電極システム」100の第1の実施の形態を示す。電極システム100は、
- 絶縁材料から成り、半径rを有する円柱状の形を持つ細長い又は線維状のフレキシブルなプローブ本体102、
- プローブ本体102の側面上で軸方向の伸長h及び直径2rを持つリング状の外観を呈する一セットの刺激電極101、
を有する。
【0036】
刺激電極101は、互いから距離dの間隔を置いて配置され、刺激電極101によって覆われるプローブ本体102の領域全体は、長さHにわたって軸方向に伸びる。刺激電極101の軸方向の伸長h及びそれらの間の距離dは、各々の電極又は電極のペアで原則としてそれぞれ異なることができるが、図2は、全ての軸方向の伸長h及び距離dが同じである好ましい場合を示す。
【0037】
DBSプローブ100の説明されたデザインの中心的な態様は、プローブ軸に沿った電極101の正確な分布である。したがって、電極101は、軸方向の伸長hと直径2rとの間の1以下のアスペクト比(h/2r≦1)によって特徴づけられ、より好ましくは、このアスペクト比はh/2r≦0.5である。特定の実施の形態では、h/2r≦0.25がさらに選択されることができる。電極間の距離dは、軸方向の伸長以下の値に好ましくは設定され(d/h≦1)、より好ましくはd/h≦0.5である。そのようなデザインによって、神経細胞活性化ボリューム(VOA)の形及び位置は、ただ一つのパルス発生器の出力に複数の電極を並列に接続することによって、高い精度で制御されることができる。これは、軸に沿ってVOAを移すことや、プローブ軸の方向に沿ってVOAを長くする又は圧縮することを可能にする。
【0038】
図3は、深部脳刺激計算モデルの助けを借りてこれを図示する。図は、プローブに対して放射状に向きを定められる面中のDBSプローブを通過するファイバ(いわゆる接線ファイバ)のいわゆる活性化関数AFの空間分布を示す。図は、r=0.6 mm, h/2r=0.166, h/d=1である13個の電極を持つ図2のプローブのようなDBSプローブのいくつかの隣り合う電極(黒線で示される)による単極刺激に対するAFの分布を示す。描かれたラインは、神経細胞線維の励起の典型値であるAF=+20mVの境界を示す。刺激は、-3.6Vの振幅に設定される。それぞれの図の個々の設定は以下の通りである。
(a) -3.6Vが電極4〜7に適用される。
(b) -3.6Vが電極5〜8に適用される。
(c) -3.6Vが電極6〜9に適用される。
(d) -3.6Vが電極4〜9に適用される。
【0039】
図(a), (b)及び (c)は、電極の次のグループに進むことによって刺激界分布がプローブに沿って徐々にシフトされることができることを示し、一方で図(d)は、活性化ボリュームの形が、活性化される電極の数を変更することによってスムーズに調整されることができることを示す。分割電極システムに関する更なるシミュレーションデータを文献中に見つけることができる(例えば、Xuefeng F Wei and Warren M Grill, "Current density distributions, field distributions and impedance analysis of segmented deep brain stimulation electrodes, J. Neural Eng. 2 (2005) 139-147)。
【0040】
図4〜7は、図2の実施の形態100に加えて、プローブ本体から放射状に突き出る複数の微小電極を有する本発明による電極システムの異なる実施の形態を示す。これらのデザインは、以下の背景を考慮して提案される。
【0041】
今日用いられているDBS電極は、巨視的刺激電極(mmサイズ)だけを含み、神経細胞の信号(活動電位)を記録することができない。そのような神経信号を記録するために、神経細胞によって生成されるわずかな細胞外の電位を拾うことができるいわゆる微小電極(<100μmサイズ)が、必要である。神経信号を拾うために微小電極を用いる理由は、神経細胞の典型的な充てん密度と同様に、信号の小さな振幅に関連している。一般的に、神経細胞のサイズは、30-50μmの範囲である。記録用電極のサイズが非常に大きい場合、複数の神経細胞の発射を平均化し、個々の発射パターンを識別することが不可能になる。また、小さな信号振幅のために、理想的に言えば、電極は神経細胞の非常に近くに配置されるべきであり、それは、神経細胞自体と同じサイズである電極サイズに対してのみ可能である。これらの信号振幅は、以下のように推定されることができる。活動電位伝播の間の典型的な膜電流Iは、以下のように、セルの膜容量C(10pF)、活動電位の振幅U(0.1V)及び継続時間(0.1ms)に関連している。
I = C(dU/dt) = 10-11・0.1/10-4 A = 10 nA
結果として生じる細胞外の電位は、点源近似によって推定されることができ、そして、r=1mmの距離でU(r)=I/(4πrσ)=2.5μVを与え、典型的な神経細胞間距離の40μmで100μVを与える。
【0042】
DBS手術の間、常習的刺激電極の埋め込みの前に、刺激ターゲットの電気生理学的特徴信号を確認するために、そのような微小電極記録が用いられることができる。さらに、神経信号(例えば活動電位)を長期的(常習的)に記録することが可能であることは、これが長期の刺激にわたる神経信号の進展を調査することを可能にして、さらに記録された神経発射パターンに刺激出力が結びつけられる「閉ループ」刺激の可能性を開くかもしれないので、DBSの分野において有益である。しかしながら、この点において発生する問題は、時間の経過とともに、記録用微小電極を担持する常習的に埋め込まれたプローブが、神経細胞信号を拾う能力を失うことである。したがって、既存の微小電極プローブは、何十年間も機能する必要がある長期のDBSアプリケーションに適していない。その理由は、プローブの近くの組織応答が、厚さ約100μmであって、ひどく減少した神経細胞密度及び小膠細胞の高まった密度によって特徴づけられる瘢痕組織の包皮によるプローブの被包をもたらすことである。この問題は、特に微小電極皮質人工器官の分野でよく知られており、mmの寸法を持ち、組織の大きな機械的変位をもたらす常習的埋込型DBSのプローブ周辺でさらに深刻である。このカプセル化シースの結果、微小電極は近くの神経細胞との「物理的」接触を失い、神経信号(振幅は10μV範囲以下に低下する)はノイズ中で見えなくなる。
【0043】
ここで提案されるソリューションは、巨視的DBSプローブから「生える」微小ワイヤ延長部上に微小電極を製造することである。組織応答が、細胞レベルの、細胞の特徴より小さい又は細胞の特徴と同じ規模の特徴サイズでのプロセスによって駆動されるので、結果として生じる細胞の応答は非常に緩やかであり、すなわち、小さな装置又はプロセスは、重篤な組織反応をほとんどもたらさない。微小電極位置における低下した組織反応は、電気的接触を改善して、DBSアプリケーション又は任意の他の神経刺激装置における長期の神経細胞記録を可能にする。
【0044】
説明されたソリューションの第1の特定の実施の形態が、図4に示される。図2のプローブ100と同様に、この電極システム200は、一般的に直径が2r=1mmの円柱状のDBSプローブ本体202を有し、d=0.5mm間隔でプローブに沿って分布する高さh=1mmの4つのリング形状の巨視的刺激電極201を持つ。3つの電極間領域の各々において、プローブ表面から伸びる4つの微小構造突起204が、プローブの円周に沿って一定の間隔で分布する。この突起は、一般的に約80μmの直径及び約120μmの長さを持つ。これらの突起の末端部分に、記録用微小電極203(直径20μm)が設置される。記録用微小電極の導電性部分は、Pt、Ir、Pt-Ir合金又はWのような生体適合性金属から好ましくは製造される。さらに、組織にさらされる微小電極の表面には、コーティングが適用されることができる。例えばヒドロゲル又は(導電性)ポリマーに基づくそのようなコーティングは、組織と電極との間の接触を改善するのに用いられる。微小電極203が主に半径方向に伸びるように示されるが、それらは代わりに、少なくとも部分的に、接線方向の伸長又は循環する伸長を持つこともできる。
【0045】
図5は、本発明による電極システムの第2の実施の形態300を示す。このデザインにおいて、微小電極303を担持している微細構造304はDBSプローブ302の表面から伸び、環状の刺激電極301の間の輪形隙間又はその隣から生じている。微細構造304は、図4の突起204に比べて幾分短く、そしてより高密度に配置される。その他は、それらのデザインは同様又は同一であることができる。
【0046】
電極システムの第3の実施の形態400が、図6に示される。この電極システム400は、微小電極403を担持している微細構造404が、刺激電極401内の領域から、DBSプローブ402の表面から伸び、すなわちそれらが刺激電極に埋め込まれる点で、図5の電極システムと異なる。
【0047】
図7は、微小伸長504上に微小電極503を有するDBSプローブ500のための例示的な製造手順の連続するステップを図示する。この手順は、複数の平行に走る埋め込み電気的導線を備えた絶縁材料のシート510により、ステップ(a)から始まる。導線の自由端部を備えたこの絶縁材料のストライプは、U字形の切れ目によって切り離される。
【0048】
次のステップ(b)において、絶縁材料の切り離された端部は、シートの面から上方向へ曲げられる。ステップ(c)において、シートは、例えばポリイミドからなる円柱状のプローブ本体502の周りに巻きつけられて取り付けられる。この結果、最終的な電極システム500は、プローブ本体から放射状に突き出て、末端部に自由な微小電極503を持つ微小伸長504を備える。
【0049】
要約すると、プローブの軸に沿った電極の正確な分布を有する新規な深部脳刺激プローブデザインが提案された。この提案の一態様では、刺激電極は、h/2r≦1のアスペクト比、より好ましくはh/2r≦0.5、いくつかの例ではh/2r≦0.25によって特徴づけられ、一方、このアスペクト比は、一般的に下限の範囲において、h/2r>0.05、より好ましくはh/r>0.10によって制限される。電極間の間隔dは、好ましくはd/h≦1、より好ましくはd/h≦0.5である。新たなプローブデザインは、適切なグループの電極を刺激装置出力に接続することによって、プローブ周囲における神経細胞活性化ボリュームの正確な成形及び位置決めを可能にする。本発明の他の態様において、刺激電極を担持するプローブ本体から離れて伸びる微小電極を有するプローブデザインが提案された。
【0050】
最後に、本出願において、「有する」「含む」などの用語は他の要素又はステップを除外せず、単数形の名詞は複数を除外せず、単一のプロセッサ又は他のユニットがいくつかの手段の機能を実現することができることが指摘される。本発明は、いずれの新規な特有の特徴及び特有の特徴のいずれの組み合わせにも属する。さらに、特許請求の範囲中の参照符号は、それらの範囲を制限するものとして解釈されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
深部脳刺激のための電極システムであって、
軸方向に伸びるプローブ本体、
前記プローブ本体の軸に沿って分布する少なくとも3つの刺激電極、
前記刺激電極に関して軸方向にシフトされる点で互いに異なる電位のパターンを選択的に生成するコントローラを有し、
前記刺激電極の直径2rは、それらの軸方向の伸長h以上(2r≧h)である、
電極システム。
【請求項2】
前記刺激電極の直径2rが、それらの軸方向の伸長より少なくとも2倍大きく(2r≧2h)、好ましくはそれらの軸方向の伸長より少なくとも4倍大きい(2r≧4h)ことを特徴とする、請求項1に記載の電極システム。
【請求項3】
少なくとも2つの隣り合う刺激電極が、当該電極の軸方向の伸長hより小さい間隔dを持ち(d≦h)、好ましくはd≦0.5hであることを特徴とする、請求項1に記載の電極システム。
【請求項4】
前記刺激電極が、当該刺激電極の直径2rと少なくとも同じ長さ及び/又は当該電極の軸方向の伸長hの少なくとも10倍の長さ(H≧10h)である長さHの軸方向領域にわたって分布することを特徴とする、請求項1に記載の電極システム。
【請求項5】
前記コントローラが単一のパルス発生器を有することを特徴とする、請求項1に記載の電極システム。
【請求項6】
前記プローブ本体から突き出る少なくとも一つの微小電極を有することを特徴とする請求項1に記載の電極システム。
【請求項7】
前記微小電極が、その先端の他はいずれも電気的絶縁体によって覆われていることを特徴とする、請求項6に記載の電極システム。
【請求項8】
前記微小電極が、2つの刺激電極の間又は刺激電極の領域内を起点とすることを特徴とする、請求項6に記載の電極システム。
【請求項9】
前記微小電極を介して電位を検知するための記録ユニットを有することを特徴とする、請求項6に記載の電極システム。
【請求項10】
少なくとも一つの埋め込み電気導線を有する絶縁材料のシートを製造し、前記導線の端部を含む前記絶縁材料のストライプを切り離し、
前記シートをプローブ本体の周りに巻きつける、
請求項6に記載の電極システムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【公表番号】特表2010−519949(P2010−519949A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551295(P2009−551295)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【国際出願番号】PCT/IB2008/050672
【国際公開番号】WO2008/107815
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】