説明

混合イオン交換樹脂、脱塩方法および脱塩装置

【課題】原子力発電所における脱塩に有用な混合イオン交換樹脂であって、冷却水中の懸濁性金属腐食生成物の除去性能が高く、かつ冷却水の浄化に使用できる期間が長く、その結果、使用済みのイオン交換樹脂よりなる放射性廃棄物量を低減することができる混合イオン交換樹脂を提供する。
【解決手段】原子力発電所における脱塩処理に使用される酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合イオン交換樹脂であって、酸性陽イオン交換樹脂の架橋度が8〜12重量%であり、塩基性陰イオン交換樹脂について特定の方法で測定したポリスチレンスルホン酸の吸着量が0.18〜1.00mmoL/L−樹脂である混合イオン交換樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における脱塩処理に使用される混合イオン交換樹脂に関する。詳しくは、酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂の混合樹脂であって、加圧水型原子力発電プラントの冷却水の懸濁性金属腐食生成物の除去性能が高く、かつこれらの冷却水の浄化に使用可能な期間の長い、長寿命の混合イオン交換樹脂に関する。
本発明はまた、この混合イオン交換樹脂を用いた脱塩方法および脱塩装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電に利用される原子炉には、沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)とがある。前者は、原子炉で冷却水を加熱して蒸気に変換して直接タービンへ供給する形式であり、後者は、原子炉で一次冷却水を加熱して蒸気発生器へ供給し、蒸気発生器で二次冷却水を加熱して蒸気に変換しタービンへ供給する形式である。上記の何れの原子炉においても、冷却水の循環系には、イオン交換樹脂を充填した原子炉水脱塩装置が設置されており、この脱塩装置による脱塩処理で、配管等の金属製材料から溶出してくる懸濁性金属腐食生成物や、復水器の冷却水として使用される海水のリークにより混入する塩類を除去し、水質純度の向上が図られている。
【0003】
加圧水型原子力発電プラントの冷却水が流れる水系として、一次冷却水系と二次冷却水系がある。そして、一次冷却水に含まれる無機イオンおよび陽イオン放射性核種を除去するために、一次冷却水の一部を原子炉格納容器の外部に導き出して、化学体積制御系およびホウ酸回収系の混床式脱塩塔によって処理している。また、使用済み燃料ピット系においても、冷却水に含まれる無機イオンおよび陽イオン放射性核種を混床式脱塩塔によって除去している。
【0004】
これら混床式脱塩塔には、酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂の混合イオン交換樹脂が使用されている。酸性陽イオン交換樹脂は、通常、交換基としてスルホン酸基を有する酸性の陽イオン交換樹脂であり、その溶出物の主成分はポリスチレンスルホン酸である。このため、酸性陽イオン交換樹脂が酸化劣化した場合には、このポリスチレンスルホン酸が溶出し、処理された一次冷却水の水質低下の要因となる。
【0005】
また、一次冷却水系の脱塩塔の酸性陽イオン交換樹脂は、安全性を重視して、定期点検の際に、使用限界(破過)に達する前に、新品の酸性陽イオン交換樹脂と交換される。交換された使用済みの酸性陽イオン交換樹脂は、放射性物質を高濃度で吸着しているため、原子力発電所の敷地内の貯蔵タンクに貯蔵される。しかしながら、その貯蔵量が増大して貯蔵タンクの容量不足が大きな問題となっており、一次冷却水の浄化寿命の長い酸性陽イオン交換樹脂が求められている。
【0006】
そのため、従来、陽イオン交換樹脂を高架橋度として耐酸化性を高め、ポリスチレンスルホン酸の溶出量を低減する方法(例えば特許文献1、2)、また、溶出したポリスチレンスルホン酸を陰イオン交換樹脂に吸着させる方法(例えば特許文献3)等が提案されている。
【0007】
特許文献1等で提案されるように、原子力発電プラントの冷却水系あるいは復水脱塩装置において、使用する陽イオン交換樹脂の使用期間を延ばすために、陽イオン交換樹脂の架橋度を高くすることで樹脂の耐酸化性を高め、樹脂から溶出するポリスチレンスルホン酸量を低減する方法は各種プラントで採用されつつあるが、冷却水および復水中の懸濁性金属腐食生成物の除去性能は、架橋度が高い陽イオン交換樹脂よりも架橋度が低い陽イオン交換樹脂の方が優れることが知られている(例えば特許文献4、5)。
【0008】
そのため、架橋度を高めることで陽イオン交換樹脂の耐酸化性を向上させて陽イオン交換樹脂の寿命を延長させることができる一方で、冷却水および復水中に含まれる懸濁性金属腐食生成物の除去性能が低下し、結果として、意図するほどには樹脂の使用期間が延びていないという問題が表面化しつつあるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−352283号公報
【特許文献2】特開2004−309268号公報
【特許文献3】特開2009−281873号公報
【特許文献4】特開平1−174998号公報
【特許文献5】特開平2−131188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、原子力発電所、特に加圧水型原子力発電プラントの一次冷却水系統の脱塩処理に使用される酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂の混合イオン交換樹脂において、冷却水中の懸濁性金属腐食生成物の除去性能が高く、かつ冷却水の浄化に使用できる期間が長く、その結果、使用済みのイオン交換樹脂よりなる放射性廃棄物量を低減することができる混合イオン交換樹脂を提供することにある。本発明はまた、このような混合イオン交換樹脂を用いた脱塩方法と脱塩装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、加圧水型原子力発電プラントの一次冷却水系統に使用される酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂の混合イオン交換樹脂において、架橋度が8〜12重量%の酸性陽イオン交換樹脂と、この酸性陽イオン交換樹脂から溶出するポリスチレンスルホン酸を十分に吸着除去することができるポリスチレンスルホン酸吸着能を有する塩基性陰イオン交換樹脂との混合イオン交換樹脂が、樹脂の耐酸化性が高く、かつ冷却水中の懸濁性金属腐食生成物の高い除去性能を有し、一次冷却水の浄化に使用可能な期間を延長できるとの知見を得た。
【0012】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下の[1]〜[10]を要旨とする。
【0013】
[1] 原子力発電所における冷却水の脱塩処理に使用される酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合イオン交換樹脂であって、前記酸性陽イオン交換樹脂が、架橋度が8〜12重量%の樹脂であり、かつ前記塩基性陰イオン交換樹脂が、下記のポリスチレンスルホン酸の吸着能の評価における単位樹脂量当たりのポリスチレンスルホン酸の吸着量が0.18〜1.00mmoL/L−樹脂の樹脂であることを特徴とする混合イオン交換樹脂。
<塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能の評価>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を酸性陽イオン交換樹脂に通液してH形とした後、水を添加してH濃度として0.01mmol/Lに希釈することにより、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調整する。
塩基性陰イオン交換樹脂10mL相当量をカラムに充填した後、上記濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を3.3mL/分の流速で通液し、カラム出口水の波長225nmにおけるUV吸光度を測定する。カラム出口水のUV吸光度が、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液のUV吸光度と比較して50%となる時点を、塩基性陰イオン交換樹脂の50%破過時点とし、その時点までの通液ポリスチレンスルホン酸量を50%破過相当ポリスチレンスルホン酸吸着量とし、この値を塩基性陰イオン交換樹脂1L当たりの量に換算してポリスチレンスルホン酸の吸着能とする。
【0014】
[2] 前記酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合容積比が、1/5〜5/1の範囲にあることを特徴とする[1]に記載の混合イオン交換樹脂。
【0015】
[3] 前記酸性陽イオン交換樹脂の塩形がH形またはLi形であり、かつ前記塩基性陰イオン交換樹脂の塩形がOH形であることを特徴とする[1]または[2]に記載の混合イオン交換樹脂。
【0016】
[4] 前記酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂がともにゲル型樹脂であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の混合イオン交換樹脂。
【0017】
[5] 前記酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂の少なくとも一方が、均一係数1.2以下の樹脂であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の混合イオン交換樹脂。
【0018】
[6] 混合イオン交換樹脂全体としての平均粒径が500〜700μmの範囲にあることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の混合イオン交換樹脂。
【0019】
[7] 前記原子力発電所が加圧水型原子力発電所であることを特徴とする[1]ないし[6]に記載の混合イオン交換樹脂。
【0020】
[8] 前記加圧水型原子力発電所の一次冷却水が流れる化学体積制御系、ホウ酸回収系または使用済み燃料ピット系の脱塩塔に使用されることを特徴とする[7]に記載の混合イオン交換樹脂。
【0021】
[9] 原子力発電所における冷却水の脱塩方法であって、[1]ないし[8]のいずれかに記載の混合イオン交換樹脂を使用することを特徴とする脱塩方法。
【0022】
[10] 原子力発電所の一次冷却水が流れる化学体積制御系、ホウ酸回収系または使用済み燃料ピット系で使用される脱塩装置であって、[1]ないし[8]のいずれかに記載の混合イオン交換樹脂を用いることを特徴とする脱塩装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来の混合イオン交換樹脂に比べて高い懸濁性金属腐食生成物除去性能を有し、かつ耐酸化性に優れ、ポリスチレンスルホン酸の溶出が低減された混合イオン交換樹脂が提供される。従って、本発明の混合イオン交換樹脂を充填した脱塩装置を用いることにより、処理水の純度を向上させることができ、かつ冷却水の浄化寿命を長く保つことができるので、使用済みイオン交換樹脂よりなる放射性廃棄物量を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0025】
[混合イオン交換樹脂]
本発明の混合イオン交換樹脂は、原子力発電所における冷却水の脱塩処理に使用される酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合樹脂であって、前記酸性陽イオン交換樹脂が、架橋度が8〜12重量%の樹脂であり、かつ前記塩基性陰イオン交換樹脂が、特定の方法で測定された単位樹脂量当たりのポリスチレンスルホン酸の吸着量(以下、単に「ポリスチレンスルホン酸の吸着能」と称す場合がある。)が0.18〜1.00mmoL/L−樹脂の樹脂であることを特徴とする。
【0026】
本発明において、このように、架橋度が8〜12重量%の酸性陽イオン交換樹脂と、ポリスチレンスルホン酸の吸着能が0.18〜1.00mmoL/L−樹脂の塩基性陰イオン交換樹脂とを組み合わせて用いることにより、酸性陽イオン交換樹脂の耐酸化性を高め、酸性陽イオン交換樹脂からのポリスチレンスルホン酸等の溶出を低減することができると共に、酸性陽イオン交換樹脂からの溶出物を塩基性陰イオン交換樹脂により十分に吸着除去することができ、結果として酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂からなる混合イオン交換樹脂の使用年数を延ばすことができる。また、前述したとおり、懸濁性金属腐食生成物の除去性能は酸性陽イオン交換樹脂の架橋度が低くなると向上する傾向にあり、一方で、酸性陽イオン交換樹脂の耐酸化性を維持できる程度までに酸性陽イオン交換樹脂の架橋度を低くすることにより懸濁性金属腐食性生物の除去性能を高められる傾向にある。しかしながら、本発明は、上記のように架橋度が8〜12重量%の特定の範囲とすることで高い耐酸化性と非常に優れた懸濁性金属腐食性生物の除去性能とを達成することができる。
【0027】
本発明の混合イオン交換樹脂において、耐酸化性の向上効果が発揮される理由の詳細は明らかではないが、架橋度が8重量%以上の高さになると三次元架橋構造が十分に発達し、より強固な構造を成すためであると推定される。
また、架橋度が12重量%以下であれば、樹脂の三次元網目構造内に拡散しやすくなることにより、懸濁性金属腐食生成物の除去性能も高められるものと推定される。
【0028】
なお、本発明で用いる酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂の製造方法には特に制限はなく、常法(例えば、北条舒正著「キレート樹脂・イオン交換樹脂」(講談社・1984年)参照)に従って、スチレン等のモノビニル芳香族モノマーとジビニルベンゼン等の架橋性芳香族モノマーとを懸濁重合等により共重合させて架橋ポリマーを合成し、この架橋ポリマーに、酸性陽イオン交換樹脂であればスルホン酸基等の官能基を、塩基性陰イオン交換樹脂であればアミノ基等の官能基を導入して製造することができる。
なお、本明細書において、「モノビニル芳香族モノマー」とはビニル基を1つ有し、かつ芳香族炭化水素基を有するモノマーを意味し、また、「架橋性芳香族モノマー」とはビニル基を少なくとも1つと、架橋構造を形成し得る反応性の官能基(ここでいう「反応性の官能基」にはビニル基も含まれ、架橋性芳香族モノマーとしてはビニル基を複数もつものであってもよい。)を少なくとも1つ有し、かつ芳香族炭化水素基を有するモノマーを意味する。
【0029】
本発明の混合イオン交換樹脂に用いる酸性陽イオン交換樹脂(以下「本発明の酸性陽イオン交換樹脂」と称す場合がある。)は、架橋度が8〜12重量%の樹脂である。
酸性陽イオン交換樹脂の架橋度が8重量%未満では、原子力発電所における脱塩用途には耐酸化性が不足し、架橋度が12重量%を超えると、懸濁性金属腐食生成物の除去性能が劣るものとなり、いずれの場合も好ましくない。架橋度が8〜12重量%、好ましくは9〜11重量%の酸性陽イオン交換樹脂であれば、耐酸化性と懸濁性金属腐食生成物の除去性能のバランスに優れ、本発明に好適である。
なお、本発明の酸性陽イオン交換樹脂の架橋度は、酸性陽イオン交換樹脂の製造に用いるモノビニル芳香族モノマーと架橋剤である架橋性芳香族モノマーの重量の合計に対する架橋性芳香族モノマーの占める重量比率を意味する。
【0030】
この酸性陽イオン交換樹脂とは、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーから成る架橋ポリマーにスルホン酸基(−SOH)などの交換基を持つイオン交換樹脂であり、塩酸、硫酸などの鉱酸と同様に解離して酸性を示すものである。特に、全てのpH領域(0〜14)でイオン交換性を有するものが好ましく、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。市販の酸性陽イオン交換樹脂としては、三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標)のSKシリーズ、PKシリーズ、UBKシリーズが挙げられる。本発明の混合イオン交換樹脂に用いる酸性陽イオン交換樹脂は、強酸性のものが好ましい。酸性陽イオン交換樹脂の具体的なものとしてはスルホン酸基を交換基として有し、また、その塩形は、通常、H形またはLi形であり、脱塩効率の点でH形であることが好ましい。
【0031】
一方、本発明の混合イオン交換樹脂に用いる塩基性陰イオン交換樹脂(以下「本発明の塩基性陰イオン交換樹脂」と称す場合がある。)は、以下の方法で測定されたポリスチレンスルホン酸の吸着能が0.18〜1.00mmoL/L−樹脂の樹脂である。
【0032】
<塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能の評価>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を酸性陽イオン交換樹脂に通液してH形とした後、水を添加してH濃度として0.01mmol/Lに希釈することにより、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調整する。
塩基性陰イオン交換樹脂10mL相当量をカラムに充填した後、上記濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を3.3mL/分の流速で通液し、カラム出口水の波長225nmにおけるUV吸光度を測定する。カラム出口水のUV吸光度が、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液のUV吸光度と比較して50%となる時点を、塩基性陰イオン交換樹脂の50%破過時点とし、その時点までの通液ポリスチレンスルホン酸量を50%破過相当ポリスチレンスルホン酸吸着量とし、この値を塩基性陰イオン交換樹脂1L当たりの量に換算してポリスチレンスルホン酸の吸着能とする。
【0033】
塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能が0.18mmoL/L−樹脂未満では、酸性陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着除去性能が不十分である。ポリスチレンスルホン酸の吸着能が0.18mmoL/L−樹脂以上であることにより、酸性陽イオン交換樹脂からのポリスチレンスルホン酸等の溶出物を効率的に吸着除去して、脱塩処理水質を高めることができ、また、脱塩寿命を延長することができる。
【0034】
塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能は、高い程好ましく、特に0.20mmoL/L−樹脂以上、とりわけ0.22mmoL/L−樹脂以上であることが好ましいが、過度に高いと塩基性陰イオン交換樹脂の物理的強度が劣る傾向にあることから、このポリスチレンスルホン酸の吸着能は1.00mmoL/L−樹脂以下、好ましくは0.50mmoL/L−樹脂以下である。
【0035】
なお、本発明の塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能は、より具体的には後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0036】
本発明に用いる塩基性陰イオン交換樹脂は、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーから成る架橋ポリマーに四級アンモニウム(トリメチルアンモニウムあるいはジメチルエタノールアミン)基などの交換基を有し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強アルカリと同様に解離して塩基性を示すものである。特に、全pH範囲(0〜14)においてイオン交換性を示すものが好ましく、強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。市販の塩基性陰イオン交換樹脂としては、三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標)のSAシリーズ、PAシリーズ、UBAシリーズが挙げられる。本発明の混合イオン交換樹脂に用いることのできる塩基性陰イオン交換樹脂の具体的なものとしては、交換基として、四級アンモニウム(トリメチルアンモニウムあるいはジメチルエタノールアミン)基を有し、塩形が、OH型、Cl型などが挙げられ、これらの中でもOH型が脱塩する上で好ましい。
【0037】
また、イオン交換樹脂は、その構造的性質で大別すると、「ゲル型」「ポーラス(多孔性)型」に分けられるが、本発明の酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂はともにゲル型であることが好ましい。
即ち、ゲル型のイオン交換樹脂は、ポーラス型のイオン交換樹脂に比べて、体積当たりのイオン交換容量が大きく、物理強度(押し潰し強度)が高いため、原子力発電所の脱塩装置等において、長期間使用することができる。
【0038】
また、本発明の混合イオン交換樹脂は、混合イオン交換樹脂全体としての平均粒径が500〜700μmの範囲にあることが好ましい。混合イオン交換樹脂の平均粒径が小さ過ぎると、樹脂充填層における通水時の圧力損失が大きくなり、送液に大容量のポンプが必要となったり、耐圧容器を使用することとなったりして、実用上不利となる。ただし、混合イオン交換樹脂の平均粒径が大き過ぎると、体積あたりの表面積が小さくなりイオン交換の反応速度が低下する、あるいは樹脂の強度を維持することが難しくなるという問題がある。このため、混合イオン交換樹脂の平均粒径は500〜700μmが好ましく、特に530〜600μmであることが好ましい。
【0039】
なお、本発明の酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径は、本発明の混合イオン交換樹脂の平均粒径が上記範囲となるような平均粒径であればよく、特に制限はないが、通常、酸性陽イオン交換樹脂の平均粒径は550〜700μm程度、塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径は500〜600μm程度であることが好ましい。
なお、イオン交換樹脂の平均粒径は、後述の実施例の項に記載される方法で測定された値である。
【0040】
また、本発明の酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂は、その少なくとも一方、好ましくは両方が、均一係数1.2以下の樹脂であることが好ましい。均一係数が大きい樹脂は粒径が揃っていないために、カラムへの均一充填性に劣り、また、充填する樹脂の間隙に小粒子が入り込むことで空隙率が均一な樹脂のそれに比べて低下し、樹脂充填層における通水時の圧力損失が大きくなり、装置の設計上不利となることがある。
均一係数は1.0を限度として小さい程好ましく、より好ましくは1.0〜1.2、特に好ましくは1.0〜1.1である。均一係数を小さくするためには、分級するか特開2003−252908号公報に記載されているように、均一なモノマー液滴を発生させた後、加熱して重合を行うことにより、均一な微粒子を作製することができる。
なお、イオン交換樹脂の均一係数は、後述の実施例の項に記載されるように、定法(三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオンマニュアルI」第4版(平成20年10月10日)第70〜71頁に記載される公知の算出法)に従い、算出された値である。
【0041】
本発明の酸性陽イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される水分保有能力が40〜55%であることが、イオン交換樹脂の脱塩性能を確保する点で好ましい。水分量が少な過ぎるとイオン交換樹脂内の物質拡散が抑制されるため、脱塩性が阻害され、多過ぎるとイオン交換樹脂の体積あたりの交換容量が低くなり脱塩能力が低下する傾向にある。酸性陽イオン交換樹脂のより好ましい水分保有能力は42〜53%である。
【0042】
また、本発明の酸性陽イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定されるイオン交換容量が1.8meq/mL以上であることが好ましい。このイオン交換容量は大きいほど好ましく、より好ましくは2.0meq/mL以上である。
【0043】
一方、本発明の塩基性陰イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される水分保有能力が55〜75%であることが、イオン交換樹脂の脱塩性能を確保する点で好ましい。水分量が少な過ぎるとイオン交換樹脂内の物質拡散が抑制されるため、脱塩性が阻害され、多過ぎるとイオン交換樹脂の体積あたりのイオン交換容量が低くなり脱塩能力が低下する傾向にある。塩基性陰イオン交換樹脂のより好ましい水分保有能力60〜70%である。
【0044】
また、本発明の塩基性陰イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定されるイオン交換容量が0.8meq/mL以上であることが好ましい。このイオン交換容量は大きいほど好ましく、より好ましくは0.9meq/mL以上である。
【0045】
本発明の混合イオン交換樹脂は、上述のような本発明の酸性陽イオン交換樹脂と本発明の塩基性陰イオン交換樹脂との混合樹脂であり、その混合容積比には特に制限はないが、原子力発電所における脱塩用途においては、酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合容積比が、1/5〜5/1が好ましく、特に1/3〜3/1が好ましい。なお、ここで言う混合容積比とは、酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換容量と、塩基性陰イオン交換樹脂のイオン交換容量との比((酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換容量)/(塩基性陰イオン交換樹脂のイオン交換容量))を意味するものであり、酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂のそれぞれのイオン交換容量は中和滴定により求めることができる。イオン交換容量のより具体的な測定方法は本明細書の実施例において説明する。
【0046】
このような本発明の混合イオン交換樹脂は、その耐酸化性の程度として、後述の実施例の項における耐酸化性の評価方法で測定されるTOC溶出濃度が1500ppm以下、特に1000ppm以下であることが好ましい。このTOC溶出濃度は低い程、耐酸化性が高く好ましいが、通常100ppm以上である。なお、このTOC溶出濃度における「ppm」とは重量ppmを意味する。
【0047】
また、本発明の混合イオン交換樹脂は、以下の懸濁性金属腐食生成物の除去性能の評価におけるDF値が40以上であることが好ましい。このDF値が40以上、特に60以上であると、原子力発電所における一次冷却水の懸濁性金属腐食生成物の除去性能が高く、長寿命であり、好ましい。
【0048】
<混合イオン交換樹脂の懸濁性金属腐食生成物の除去性能の評価>
内径25mmのカラムに、充填高さ200mmとなるように混合イオン交換樹脂を詰め、マグネタイト粒子を10ppm(重量ppm)の濃度で分散させた懸濁水を445mL/minの流速で通液する。通液開始後、所定時間ごとにカラム入口および出口の水を採取し、塩酸を加えてマグネタイトを溶解して鉄の濃度をICP発光分析法で定量し、下式によって、通液開始90分後のDF値を算出する。
(DF値)=(カラム入口水の鉄濃度)/(カラム出口水の鉄濃度)
【0049】
上記DF値は、大きい程懸濁性金属腐食生成物の除去性能に優れることを示し好ましいが、本発明により達成されうるDF値の上限は1000程度である。
【0050】
なお、本発明の混合イオン交換樹脂のDF値は、より具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0051】
このような本発明の混合イオン交換樹脂は、耐酸化性に優れ、特に懸濁性金属腐食生成物の除去能力を有する。一般に特開2004−309268号公報に記載されているように、沸騰水型原子力発電所においては、炉水に酸素を注入するため酸化雰囲気であるが、脱塩塔入口の一次冷却水の過酸化水素はほとんど検出されない。これに対して、加圧水型原子力発電所においては、運転中炉水に水素を注入するために、その一次冷却水は還元雰囲気である。一方、加圧水型原子力発電所の定期点検時には、水素の注入が停止されると共に放射線の作用により過酸化水素が発生して、その一次冷却水は酸化雰囲気となる。このように、沸騰水型原子力発電所と加圧水方原子力発電所の一次冷却水の雰囲気は異なっており、かつ酸化雰囲気下においても、過酸化水素の濃度が異なっている。そのため、本発明の混合イオン交換樹脂は、定期点検時に強い酸化雰囲気になる加圧水型原子力発電所において、安定的に長期間にわたり高純度な水質を得ることができる。
【0052】
[脱塩方法および脱塩装置]
本発明の脱塩方法は、本発明の混合イオン交換樹脂を用いて原子力発電所の冷却水中に含まれる無機イオンと陽イオン放射性核種および懸濁性金属腐食生成物を脱塩処理するものであり、本発明の脱塩装置は、本発明の混合イオン交換樹脂を含む原子力発電所の脱塩装置であり、本発明の混合イオン交換樹脂を充填した混床式イオン交換樹脂塔を備えるものである。また、本発明の混合イオン交換樹脂を用いた脱塩装置は、原子力発電所の一次冷却水が流れる化学体積制御系、ホウ酸回収系、使用済み燃料ピット系で特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0054】
[イオン交換樹脂の物性の測定ないし評価]
以下の実施例および比較例におけるイオン交換樹脂の各種物性の測定ないし評価方法は、以下の通りである。
【0055】
<イオン交換樹脂の平均粒径の測定>
酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂をそれぞれガラス製シャーレ上に取り、少量の脱塩水に馴染ませた後、偏光顕微鏡(Nikon製OPTIPHOT−POL,C−DSS115)にて観察して試料写真を撮影した。撮影した画像を画像処理して、400個以上の粒径を実測することにより、平均粒径を測定した。
酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合イオン交換樹脂の平均粒径(「x」とする。)については、酸性陽イオン交換樹脂の平均粒径(「a」とする。)と塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径(「b」とする。)および混合イオン交換樹脂中の酸性陽イオン交換樹脂の体積(「c」とする。)と塩基性陰イオン交換樹脂の体積(「d」とする。)を用い、x=ac/(c+d)+bd/(c+d)により算出した。
【0056】
<イオン交換樹脂の均一係数の測定>
イオン交換樹脂の均一係数は、三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオンマニュアルI」第4版(平成20年10月10日)第70〜71頁に記載される公知の算出法で測定した。
【0057】
<酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換容量および水分保有能力の測定>
H形の酸性陽イオン交換樹脂を10mL取ってカラムに充填し、このカラムに、5重量%塩化ナトリウム水溶液を25倍(BV)量通液し、流出液を全て捕集した。この流出液を水酸化ナトリウムで滴定することにより、H形の酸性陽イオン交換樹脂の体積あたりのイオン交換容量(meq/mL)を算出した。
また、水分保有能力は、H形の酸性陽イオン交換樹脂を遠心分離にかけて付着している水分を除去した後、予め恒量にしてある平型はかり瓶に約5gを計り採った(水分が平衡状態にある樹脂の重さW)。これを(105±2)℃に予め調節してある乾燥容器中に入れ、4時間乾燥させた後、デシケーター中で約30分間放冷した。次いで、はかり瓶に蓋をしてその質量を計り(乾燥後の樹脂の重さW)、水分が平衡状態にある樹脂の重さWと、乾燥後の樹脂の重さWの差(W−W)を水分保有量W(=W−W)とし、下記式により水分保有能力(%)を算出した。
(水分保有能力(%))=W/W ×100
【0058】
<塩基性陰イオン交換樹脂のイオン交換容量および水分保有能力の測定>
OH形の塩基性陰イオン交換樹脂を10mL採り取ってカラムに充填し、このカラムに、5重量%塩化ナトリウム水溶液を20倍(BV)量通液し、流出液を全て捕集した。この流出液を塩酸で滴定することにより、OH形の塩基性陰イオン交換樹脂の体積あたりのイオン交換容量(meq/mL)を算出した。
また、水分保有能力は、OH形の塩基性陰イオン交換樹脂を遠心分離にかけて付着している水分を除去した後、カールフィッシャー法により塩基性陰イオン交換樹脂中の水分保有量Wを測定し、上記酸性陽イオン交換樹脂の水分保有能力と同様の式で水分保有能力(%)を算出した。
【0059】
<混合イオン交換樹脂の懸濁性金属腐食生成物の除去性能の評価>
内径25mmのカラムに、充填高さ200mmとなるように混合イオン交換樹脂を詰め、マグネタイト(Fe)粒子(高純度化学研究所(株)製、平均粒径0.2μm)を10ppm(重量ppm)の濃度で分散させた懸濁水を445mL/minの流速で通液した。通液開始後、所定時間ごとにカラム入口および出口の水を採取し、塩酸を加えてマグネタイトを溶解して鉄の濃度をICP発光分析法(セイコー電子工業株式会社製 SPS1700HVR)で定量した。下式によって、通液開始90分後のDF値を算出した。
(DF値)=(カラム入口水の鉄濃度)/(カラム出口水の鉄濃度)
【0060】
<混合イオン交換樹脂の耐酸化性の評価>
酸性陽イオン交換樹脂50mL相当量をフラスコに量り取り、樹脂への鉄負荷量が2g/L−樹脂となるように0.27重量%硫酸鉄水溶液を加え、栓をして25℃に保った恒温水槽で100rpmで2時間振とうした。その後、樹脂を洗浄してフラスコに50mL相当量を量り取り、0.53重量%過酸化水素水を120mLに加え、栓をして40℃に保った恒温水槽で100rpmで24時間振とうした。その後、上澄み水を採取し、島津製作所製TOC測定装置「TOC5000A」で溶出TOC濃度を測定し、耐酸化性の指標とした。TOC溶出濃度が高い程耐酸化性に劣る。
【0061】
<塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能の評価>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を酸性陽イオン交換樹脂に通液してH形とした後、水を添加してH濃度として0.01mmol/Lに希釈することにより、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調整した。
塩基性陰イオン交換樹脂10mL相当量をカラムに充填した後、この濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を3.3mL/分の流速で通液し、カラム出口水の波長225nmにおけるUV吸光度を日立製作所社製UV検出器「655A−21」にて測定した。カラム出口水のUV吸光度が、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液のUV吸光度と比較して50%となる時点を、塩基性陰イオン交換樹脂の50%破過時点とし、その時点までの通液ポリスチレンスルホン酸量を50%破過相当ポリスチレンスルホン酸吸着量とし、この値を塩基性陰イオン交換樹脂1L当たりの量に換算してポリスチレンスルホン酸の吸着性能とした。
【0062】
<混合イオン交換樹脂の高分子率の評価>
GPC装置(東ソー社製GPC−8020)を用いて、酸性陽イオン交換樹脂の上澄み液中の溶出物の分子量分布を測定した。次いで、測定したクロマトグラムの面積比より、測定された重量平均分子量5000以上の存在比率を求め、混合イオン交換樹脂の高分子率(酸性陽イオン交換樹脂からの溶出物中の高分子率)とした。
【0063】
[実施例1]
<スチレン−ジビニルベンゼン架橋ポリマーの調製>
開始剤として過酸化ベンゾイルを含有するスチレン−ジビニルベンゼン混合物を、特開2003−252908号公報を参照し、ノズルプレート噴出孔から分散安定剤としてポリビニルアルコールを含有する水性媒体中に連続的に放出し、均一なモノマー液滴が分散した水中油型分散液を調製した。その後、得られた水中油型分散液を重合容器に供給し、液滴が壊れない程度の緩やかな攪拌条件のもと、重合温度に加熱することで、粒径分布の狭い均質なゲル型スチレン−ジビニルベンゼン架橋ポリマーを得た。
【0064】
<H形酸性陽イオン交換樹脂の合成>
上記で得られた均質なゲル型スチレン−ジビニルベンゼン架橋ポリマーに濃硫酸を加えて加熱することでスルホン化し、スルホン酸基を官能基として持つゲル型のH形酸性陽イオン交換樹脂(サンプル(B))を作製した。この酸性陽イオン交換樹脂の架橋度は[(ジビニルベンゼンの重量)/{(スチレンの重量)+(ジビニルベンゼンの重量)}]×100に各原料モノマーの重量を代入することに求められ、10重量%であった。
【0065】
<OH形塩基性陰イオン交換樹脂の合成>
塩基性陰イオン交換樹脂は、特開2010−042395号公報に記載されている公知の手法により作製される。上記で得られた均質なゲル型スチレン−ジビニルベンゼン架橋ポリマーをクロロメチル化し、次いでアミノ化することによって、トリメチルアンモニウム基を官能基として持つゲル型のCl形塩基性陰イオン交換樹脂を作製した。続いて、得られた陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、重曹水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを通液して再生を行い、OH形の塩基性陰イオン交換樹脂に変換した。最後に超純水で水洗し、塩基性陰イオン交換樹脂(サンプル(C))とした。
【0066】
<混合イオン交換樹脂の作製>
上記のH形酸性陽イオン交換樹脂:サンプル(B)と、OH形塩基性陰イオン交換樹脂:サンプル(C)を、イオン交換容量比が1となるように表−1に示す混合容積比((塩基性陰イオン交換樹脂のイオン交換容量)/(酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換容量))で混合し、実施例の混合イオン交換樹脂のサンプル(A)とした。
各イオン交換樹脂および得られた混合イオン交換樹脂について、その物性の測定および評価を実施した結果を表−1に示す。
【0067】
[比較例1,2]
比較例1,2として、市販の混合イオン交換樹脂、即ち、三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標)「SMN1」、同「USMN1」を使用した。
混合イオン交換樹脂「SMN1」は、架橋度8重量%のガウシアン分布のゲル型酸性陽イオン交換樹脂「SKN1」(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標))とガウシアン分布のゲル型塩基性陰イオン交換樹脂「SAN1」(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標))を交換容量比が1となるように混合した樹脂である。
混合イオン交換樹脂「USMN1」は、架橋度14重量%の均一分布のゲル型酸性陽イオン交換樹脂「UBKN1」(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標))と均一分布のゲル型塩基性陰イオン交換樹脂「UBAN1」(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標))を交換容量比が1となるように混合した樹脂である。
それぞれの評価を実施した結果を表−1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
<結果の評価>
表−1より明らかなように、比較例1の混合イオン交換樹脂は、耐酸化性に優れるものの、DF値が低く、懸濁性金属腐食生成物の除去性能が悪かった。また、比較例2の混合イオン交換樹脂は、耐酸化性が悪く、また、DF値が低く、懸濁性金属腐食生成物の除去性能が悪かった。本発明の混合イオン交換樹脂を用いた実施例1は、耐酸化性に優れ、DF値が非常に高く、懸濁性金属腐食生成物の除去性能が特に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の混合イオン交換樹脂は、耐酸化性が高く、かつ冷却水中の懸濁性金属腐食生成物の除去性能に優れ、原子力発電所の冷却水の浄化に長期間継続使用することができるため、高純度の水質が要求され、かつ、使用済みのイオン交換樹脂よりなる放射性廃棄物量の低減が切望される原子力発電所における復水脱塩装置等に好適に使用することができ、その産業上の利用可能性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所における冷却水の脱塩処理に使用される酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合イオン交換樹脂であって、前記酸性陽イオン交換樹脂が、架橋度が8〜12重量%の樹脂であり、かつ前記塩基性陰イオン交換樹脂が、下記のポリスチレンスルホン酸の吸着能の評価における単位樹脂量当たりのポリスチレンスルホン酸の吸着量が0.18〜1.00mmoL/L−樹脂の樹脂であることを特徴とする混合イオン交換樹脂。
<塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能の評価>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を酸性陽イオン交換樹脂に通液してH形とした後、水を添加してH濃度として0.01mmol/Lに希釈することにより、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調整する。
塩基性陰イオン交換樹脂10mL相当量をカラムに充填した後、上記濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を3.3mL/分の流速で通液し、カラム出口水の波長225nmにおけるUV吸光度を測定する。カラム出口水のUV吸光度が、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液のUV吸光度と比較して50%となる時点を、塩基性陰イオン交換樹脂の50%破過時点とし、その時点までの通液ポリスチレンスルホン酸量を50%破過相当ポリスチレンスルホン酸吸着量とし、この値を塩基性陰イオン交換樹脂1L当たりの量に換算してポリスチレンスルホン酸の吸着能とする。
【請求項2】
前記酸性陽イオン交換樹脂と塩基性陰イオン交換樹脂との混合容積比が、1/5〜5/1の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項3】
前記酸性陽イオン交換樹脂の塩形がH形またはLi形であり、かつ前記塩基性陰イオン交換樹脂の塩形がOH形であることを特徴とする請求項1または2に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項4】
前記酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂がともにゲル型樹脂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項5】
前記酸性陽イオン交換樹脂および塩基性陰イオン交換樹脂の少なくとも一方が、均一係数1.2以下の樹脂であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項6】
混合イオン交換樹脂全体としての平均粒径が500〜700μmの範囲にあることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項7】
前記原子力発電所が加圧水型原子力発電所であることを特徴とする請求項1ないし6に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項8】
前記加圧水型原子力発電所の一次冷却水が流れる化学体積制御系、ホウ酸回収系または使用済み燃料ピット系の脱塩塔に使用されることを特徴とする請求項7に記載の混合イオン交換樹脂。
【請求項9】
原子力発電所における冷却水の脱塩方法であって、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の混合イオン交換樹脂を使用することを特徴とする脱塩方法。
【請求項10】
原子力発電所の一次冷却水が流れる化学体積制御系、ホウ酸回収系または使用済み燃料ピット系で使用される脱塩装置であって、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の混合イオン交換樹脂を用いることを特徴とする脱塩装置。

【公開番号】特開2013−17935(P2013−17935A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152044(P2011−152044)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】