説明

混合信号分離装置及び混合信号分離方法、並びにOFDM受信装置及びOFDM受信方法

【課題】独立成分分析(ICA)を適用した場合に生じる成分置換の問題やスケール不定の問題を解決することが可能な混合信号分離装置を提供する。
【解決手段】ICAで得られる分離行列Wにより混合シンボルxを分離して分離シンボルuを得る。分離シンボルuの各成分に対しk番目の成分uのみを残して他を0としたベクトルに逆行列W−1を掛けて分割ベクトルξを作る。分割ベクトルξの最大成分の順序l(k)を分割ベクトルξの順番とし、分割ベクトルを並べ替えてICAによる成分置換を是正する。また、各分割ベクトルξはスケール不定性がないため、同時にICAによるスケール不定の問題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)通信システムにおける受信技術に関し、特に、未知のチャネル干渉状態と送信シンボルを独立成分分析法により推定する受信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OFDM通信システムは、無線LAN、地上波デジタル放送、電力線搬送通信などの幅広い分野において利用され、また、次世代移動体通信を実現するための技術としても注目されている。
【0003】
OFDMは、直交する多数の搬送波(サブキャリア)を使用し、変調する信号波の位相が隣り合うサブキャリア間で直交するようにし、サブキャリアの帯域を一部重ね合わせて周波数帯域を有効利用する通信方式である。
【0004】
OFDM通信システムの基本的構成を図1に示す。図1において、OFDM通信システムは、OFDM送信機100及びOFDM受信機120を備えており、両者の間は通信チャネル140により結合されている。
【0005】
OFDM送信機100は、エンコーダ101、インタリーバ102、マッパ103、直並列変換器104、逆離散フーリエ変換器105、並直列変換器106、デジタル・アナログ変換器107、ローパス・フィルタ108、搬送波発信器109及びアップ・コンバータ110を備えている。
【0006】
OFDM送信機100では、まず、ランダム誤りに対する誤り訂正を可能とするため、エンコーダ101において、送信するデータの符号化が行われる。次いで、バースト誤りに対する誤り訂正を可能とするため、インタリーバ102において、符号化後の送信ビット列において符号化前の送信ビット列の隣接ビットができるだけ離れて系列的に独立となるように、送信ビットの入れ替えが行われる。次いで、マッパ103において、送信ビット列が複素シンボルs[n](n=0,1,…)に対応づけられる。以下、この複素シンボルs[n]を「送信シンボル」といい、各送信シンボルのシンボル時間をTsと記す。
【0007】
次に、直並列変換器104において、送信シンボルs[n]は、N個のデータブロック毎に直並列変換される。ここで、Nはサブキャリアの総数である。データブロックの時刻をm(m=0,1,…)と記す。時刻mのデータブロックにおいて、直列の送信シンボルs[n]は、並列の送信ベクトルs[m]=(s0[m],…,sN-1[m])Tに対して次式のように変換される。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、si[m]は並列化された送信シンボル、i=1,2,…,N-1はサブキャリア番号、mはデータブロック番号である。並列化された各送信シンボルsi[m]のシンボル時間(以下「OFDMシンボル時間」という。)Tpは、次式のように表される。
【0010】
【数2】

【0011】
また、i番目のサブキャリアに対しては周波数fi=i・f0が割り当てられる。f0はサブキャリアの間隔(バンド幅)であり、f0=1/Tp=1/NTsである。
【0012】
次に、逆離散フーリエ変換器105は、送信ベクトルs[m]に対して逆離散フーリエ変換を行う。si[m]=s(fi;m) (fi=i・f0)を周波数空間の関数、bk[m]=b(tk;m) (tk=k・Ts,k=1,2,…,N-1)を時間空間の関数とみなして、
【0013】
【数3】

とすると、bk[m]は次式のように表される。
【0014】
【数4】

【0015】
bk[m]は「変調シンボル」と呼ばれ、マルチキャリア化されたベースバンドOFDM信号
【0016】
【数5】

をtk=k・Tsで標本化して得られる標本値と同じである。
【0017】
次に、並直列変換器106においてbk[m]は次式のように並直列変換される。
【0018】
【数6】

【0019】
次に、直列化された変調シンボルb[n]は、デジタル・アナログ変換器107においてアナログ信号b(tn)(tn=n・Ts)に変換された後、ローパス・フィルタ108を通過する。簡単のため、ローパス・フィルタ108が理想的な線形フィルタであるとすれば、変調信号b(tn)は、ローパス・フィルタ108において次式のようなベースバンドOFDM信号sTm(t)に変換される。
【0020】
【数7】

ここで、ht(t)はローパス・フィルタ108のインパルス応答を表す。
【0021】
最後に、アップ・コンバータ110において、ベースバンドOFDM信号sTm(t)は、搬送波発信器109から出力される正弦波exp(j2πfct)と掛け合わされて、次式のようにパスバンドOFDM信号sT(t)にアップ・コンバージョンされ、通信チャネル140へ送信される。
【0022】
【数8】

【0023】
通信チャネル140において、パスバンドOFDM信号sT(t)は、歪みやノイズの影響を受ける。そのため、OFDM受信機120で受信される受信信号sR(t)は次のようになる。
【0024】
【数9】

ここで、hc(t)はチャネルのインパルス応答、n(t)は負荷雑音である。負荷雑音は、白色でガウス分布に従うものとする。
【0025】
OFDM受信機120は、搬送波発信器121,ダウン・コンバータ122,ローパス・フィルタ123,アナログ・デジタル変換器124,直並列変換器125,逆離散フーリエ変換器126,並直列変換器127,デマッパ128,デインタリーバ129,及びデコーダ130を備えている。
【0026】
受信信号sR(t)は、まず、ダウン・コンバータ122において、搬送波発信器121が出力する正弦波exp(-j2πfct)と掛け合わされてベースバンドOFDM信号sRm(t)にダウン・コンバージョンされる。更に、ローパス・フィルタ123、アナログ・デジタル変換器124、直並列変換器125、離散フーリエ変換器126、並直列変換器127までの処理により送信シンボルs[n]が復元され、その後、デマッパ128、デインタリーバ129、デコーダ130の処理が行われることになる。
【0027】
しかしながら、上記ダウン・コンバージョンの際に、搬送波発信器121が出力する正弦波exp(-j2πfct)の搬送波周波数fcがfc-Δfにずれると、ベースバンドOFDM信号sRm(t)は、周波数オフセットΔfの影響を受けて歪み、次式のようになる(尚、位相オフセットについては、以降の周波数オフセットの推定に関する本質的な議論には影響しないため、ここでは考えないこととする)。
【0028】
【数10】

【0029】
従って、ローパス・フィルタ123を通過後の変調信号c(t)は次式のようになる。
【0030】
【数11】

ここで、hr(t)はローパス・フィルタ123のインパルス応答である。また、ノイズ項n’(t)は省略した。
【0031】
このような周波数オフセットΔfの影響により、以降の処理を行っても送信シンボルs[n]は正確に復元されず、シンボル誤り率が大きくなる。
【0032】
そこで、この周波数オフセットΔfの影響についてより詳細に評価するため、次のようなキャリア間干渉問題(ICI:Inter Carrier Interference)について考える。尚、以下では、簡単のため、OFDM送信機100及びOFDM受信機120のローパス・フィルタ108,123並びに通信チャネル140を含む伝送路に歪みはなく、シンボル同期や標本化同期も適切に行われているものと仮定する。また、式中で付加雑音n(t)に起因する項は省略する。
【0033】
以上の前提の元で、上記変調信号c(t)をc(tn)=c[n](tn=n・Ts)と標本化して、更にc[mN+k]→ck[m]のように直並列化する。伝送路に歪みはないと仮定したため、伝送路の周波数応答h(t)はナイキスト基準を満たすと仮定してよいので、h(tk)は次式のようになる。
【0034】
【数12】

【0035】
従って、並列受信シンボルck[m]は、次式のようになる。
【0036】
【数13】

【0037】
ここで、εは次式で定義される規格化周波数オフセットである。
【0038】
【数14】

ck[m]=c(tk;m),xl[m]=x(fl;m),fl=l・f0,f0=1/Tp=1/NTsとすると、離散フーリエ変換器126において並列受信シンボルck[m]を離散フーリエ変換して得られる混合シンボルxl[m]は、次式のように表される。
【0039】
【数15】

ここで、αl,iは「干渉度」と呼び、次式で定義される未知の値である。
【0040】
【数16】

【0041】
式(18)から分かるように、混合シンボルxl[m]には、当該サブキャリアの希望シンボル分αll・sl[m]だけではなく、その他のサブキャリアからの干渉成分αl,i・si[m](i≠l)も含まれる。
【0042】
実際に、式(18)(19)より、Δf=0(ε=0)の場合、
【0043】
【数17】

となって、xl[m]=sl[m]となる。一方、Δf≠0(ε≠0)の場合、αl,i≠0(∀l,i)となるため、xl[m]≠sl[m]となる。従って、周波数オフセットがある場合には、混合シンボルxl[m]は送信シンボルsl[m]とは同じにならない。これが、OFDMシステムにおけるICI問題である。
【0044】
ところで、式(18)を行列表現で表記すると、次式のように表される。
【0045】
【数18】

ここで、ブロック番号を表す添字mは省略した。sは送信ベクトル、xは混合ベクトル、Aは「干渉行列」という。OFDM受信機120においては、混合ベクトルx及び干渉行列Aは未知である。
【0046】
このような状況において、干渉行列Aを推定する方法としては、独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)の手法が知られている。ICAは、信号源が統計的に独立であるとき、それらが混合して観測される信号(混合信号)だけから元の信号源を分離する方法である。ICAにより分離される信号を「分離信号」という。
【0047】
OFDM受信機においてICAにより干渉行列Aの推定を行う技術としては、特許文献1,2に記載のMIMO受信装置が公知である。
【0048】
ICAにおいては、(a)送信シンボルsi(i=0,…,N-1)は統計的に独立で、(b)平均値が0で、(c)非ガウシアン的な確率分布を持つと仮定する。(a)の仮定はE[s0,…,sN-1]=E[s0]…E[sN-1]を意味する。(b)の仮定は事前に直流除去処理をしておけば、一般性は失われない。また、(c)の仮定は、送信シンボルの系列s[n]が完全なランダム系列ではないことを意味する。
【0049】
この仮定の下で、次式で表される分離ベクトルuの各要素が独立となるように分離行列Wを推定する。
【0050】
【数19】

W=A-1であれば、u=sとなり、干渉の除去された送信ベクトルを推定することができる。特許文献1には、この分離行列Wの推定に関して、自然勾配アルゴリズムを用いて解く方法、最尤推定アルゴリズムを用いて解く方法、Jutten and Heraultのアルゴリズムを用いて解く方法などが記載されている。尚、分離行列Wを推定するアルゴリズムとしては、そのほかにBell and Sejnowskiのアルゴリズム、Amari et. al.のアルゴリズム、Cardoso and Laheldのアルゴリズムなど、種々のアルゴリズムが考案されている(非特許文献1参照)。通常は、自然勾配アルゴリズムや最尤推定アルゴリズムを用いて解く方法がよく使用される。自然勾配アルゴリズムでは、分離行列Wは、次式のような逐次更新によって求められる。
【0051】
【数20】

ここで、ηは更新係数である。F(x|W(t))は推定関数と呼ばれ、任意の非線形可測関数φ(u)を用いて以下のように表される。
【0052】
【数21】

ここで、E[・]は期待値、Iは単位行列、・H は共役転置を表す。
【0053】
また、推定関数F(x|W(t))については、仮に信号源の確率密度関数p(s)が既知であるとすれば、最尤推定アルゴリズムを適用して、次式のように解くことができる。
【0054】
【数22】

【特許文献1】特開2006-186804号公報
【特許文献2】特開2006-191187号公報
【非特許文献1】村田昇,「入門 独立成分分析」,東京電機大学出版局,2004年7月,pp.66-104,pp.144-150。
【非特許文献2】Yuan Liu and Wasfy Mikhael, "A Blind Intercarrier Interference Cancellation Approach in Differential Modulation OFDM Communication Systems", Proc. IASTED International Conference on Circuits, Signals, and Systems, pp.178-181, 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0055】
しかしながら、上述のようなアルゴリズムによって分離行列Wを求め、分離ベクトルuを推定したとしても、ICA固有の成分置換とスケール不定の問題によって、分離ベクトルuは、必ずしも送信ベクトルsと等しくなるとは限らない。
【0056】
成分置換の問題とは、分離ベクトルuのi番目の成分が、必ずしも送信ベクトルsのi番目の成分に対応せず、成分の順序が入れ替わる場合があるという問題である。そこで、分離ベクトルuでは成分が置換されていることを強調するために、分離ベクトルuの成分は
【0057】
【数23】

のように、成分番号を表す添字のiにチルダ(tilde)を付けて表記し、
【0058】
【数24】

と定義する(尚、以下の明細書中で式(35)をテキスト表記する場合には(i)~と記すことにする)。
【0059】
補足すると、分離ベクトルuの第(i)~番目の成分である分離シンボルu(i)~は、N個の送信シンボル{s0,s1,…,sN-1}の何れか一つと排他的に対応するが、どの送信シンボルと対応するのかは未知である。つまり、集合{u(0)~,u(1)~,…,u(N-1)~}は集合{s0,s1,…,sN-1}と一対一対応であるが、どれがどれに対応するか、具体的な対応関係は未知である。
【0060】
また、スケール不定の問題とは、送信シンボルsiと分離シンボルu(i)~との具体的な対応関係が特定できたとしても、
【0061】
【数25】

のように送信シンボルsiはdi倍されて、しかもdiとiとは独立に不規則な値をとるため、倍率(スケール)diが定まらない、という問題である。
【0062】
すなわち、分離行列Wの推定値は必ずしもA-1に収束せず、一般に、W=PDA-1に収束する。ここで、行列Dはスケールを変換する対角行列でありD=diag(d0,d1,…,dN-1)と表される。行列Pは置換行列であり、各行各列の要素に1個の“1”を持ちその他の成分は0である。
【0063】
特許文献1においては、この成分置換の問題を解消するため、予め送信シンボルにIPアドレスのような既知の情報を含ませておき、その既知のシンボルに基づいて分離ベクトルuの成分の順序の修正を行うように構成されている。
【0064】
しかしながら、この場合、送信機側と受信機側とで共通に既知の情報を予め持っておくことが必要とされるため、汎用的な通信に適用する場合に制約となる。また、特許文献1のMIMO受信装置ではスケール不定の問題についての対策がなされていない。従って、干渉行列Aを直接求めることができないため、上述したようなキャリア間干渉問題(ICI)が生じる場合においては送信シンボルslを正確に推定することが困難になる場合が生じる。
【0065】
一方、非特許文献2においては、分離行列Wが干渉行列Aの逆行列A-1に相当すると考え、Aが巡回行列(circulant matrix)でその要素間にαi,i>αl,i(l≠i)なる関係が成り立つことから(後述)、Wの要素wl,iについても同様にwi,i>wl,i(l≠i)なる関係が成り立つと仮定し、この仮定を根拠に成分置換の解決を試みている。
【0066】
しかしながら、W=A-1であればこの仮定は成立するが、上述したように、一般にWはA-1ではない。また、非特許文献2においても、スケール不定の問題については解決されていない。
【0067】
従って、上記従来の技術においては、各サブキャリアに適用可能な変調方式は、DPSKやPSKのタイプに限定され、QAMタイプの変調方式に対しては適用することができないという問題があった。
【0068】
そこで、本発明の目的は、ICAを適用した場合に生じる成分置換の問題やスケール不定の問題を解決することが可能な混合信号分離技術を提供することにある。
【0069】
また、本発明の目的は、独立成分分析により混合信号の分離を行うOFDM受信機において、QAMタイプの変調方式に対しても適用することが可能なOFDM受信技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0070】
以下では、まず、本発明の基本原理について説明し、その後、本発明の構成及びその作用について説明する。
〔1〕基本原理
〔1-1〕干渉度の性質
最初に、上記干渉行列Aの要素である干渉度αl,iの性質について説明する。干渉度αl,iは、式(19)から分かるように、iやlの個々の値に依存するのではなく、(i-l) mod Nと規格化周波数オフセットεに依存する。そこで、
【0071】
【数26】

と表記を改める。αi-lについて、規格化周波数オフセットがε=0.2のときの値をプロットすると、図2のようになる。図2より、αi-lの実部と虚部は両方とも、i≠lの場合の値に比べてi=lの場合の値が際立って大きな値をとって最大となることが分かる。すなわち、
【0072】
【数27】

のように当該サブキャリアでの干渉成分が最も大きく、他のサブキャリアからの干渉成分は小さい。
【0073】
〔1-2〕成分置換の是正
式(25)により得られる分離ベクトルuは、一般に成分が置換されており、式(36)のように表記される。分離ベクトルuの要素u(i)~((i)~=(0)~,(1)~,…,(N-1)~)を「分離シンボル」と呼ぶ。N個の分離シンボルu(i)~((i)~=(0)~,(1)~,…,(N-1)~)のそれぞれに対して、第(i)~成分がu(i)~でそれ以外の成分が0であるN次元ベクトルを導入し、これをu(i)~と記す。
【0074】
【数28】

【0075】
更にN次元ベクトルu(i)~に分離行列の逆行列W-1を作用して得られるベクトルを「分割ベクトル」と呼び、
【0076】
【数29】

と記す。また、分割ベクトルξ(i)~の各要素ξl,(i)~を「分割シンボル」と呼ぶ。定義より、各分割ベクトルξ(i)~は次式のように表される。
【0077】
【数30】

【0078】
このとき、次の定理が成立する。
【0079】
〔定理1〕
送信シンボルsi、分割シンボルξl,(i)~、及び干渉度αl,iの間に次式のような関係が成立する。
【0080】
【数31】

(定理1終わり)
【0081】
(証明)
信号源から送信されるN個の送信シンボルの順列からなる送信ベクトルをs=(s0,s1,…,sN-1)T、混合シンボルの順列からなる混合ベクトルをx=(x0,x1,…,xN-1)T、ICAにより得られる分離ベクトルをu=(u(0)~,…,u(N-1)~)Tとする。このとき、分離ベクトルは次式のように表される。
【0082】
【数32】

【0083】
ここで、行列Dはスケールの不定性を表す対角行列である。行列Pは置換行列であり、各行各列の要素に1個の“1”を持ちその他の成分は0である。
【0084】
一方、干渉行列をA、分離行列をWとするとき、分離ベクトルuは次式のように関係づけられる。
【0085】
【数33】

【0086】
式(46)の両辺を展開すると次式のようになる。
【0087】
【数34】

【0088】
第(i)~番目の分離シンボルu(i)~は、第i番目の送信シンボルsiが成分置換されて
【0089】
【数35】

と得られたものと仮定する。このとき、第i番目の送信シンボルsiのみが活性(si≠0)で、その他は不活性(sn≠i=0)とすると式(47)より、次式のような関係が得られる。
【0090】
【数36】

【0091】
さらに、第(i)~番目の分離シンボルu(i)~から誘導される分割ベクトルξ(i)~
【0092】
【数37】

と定義すると、式(49),(50)より次式が成立する。
【0093】
【数38】

【0094】
これを要素表示すると、
【0095】
【数39】

となり、式(43)が成り立つことが証明される。
(証明終わり)
【0096】
分離シンボルu(i)~は、前述のように、第i番目の送信シンボルsiが分離ベクトルuでは順番が入れ替わって第(i)~番目の要素として算出されたものであるが、その番号(i)~は未知である。すなわち、図3を用いて説明すると、送信シンボルsiが{u(0)~,…,u(N-1)~}のうちの何れに対応するのかは判然としないが、とりあえずは対応する分離シンボルをu(i)~と表記している。従って、分離シンボルu(i)~から式(42)のように誘導される第(i)~番目の分割ベクトルξ(i)~についても、それが具体的に何番目の送信シンボルに対応しているのかは未知である。
【0097】
しかしながら、送信シンボルsiの順番iと分割ベクトルξ(i)~の順番(i)~との具体的な対応関係が未知であったとしても、式(43)は分割ベクトルξ(i)~に以下の性質があることを示唆している。
【0098】
(性質1)
分割ベクトルの要素ξl,(i)~は、送信シンボルsi(第i番目のサブキャリア)からの各混合シンボル(サブキャリア)(l=0,1,…,N-1)への干渉分を表している(式(18)との対比より)。
【0099】
(性質2)
成分置換により、ξl,(i)~とαl,iとは第2添字がiと(i)~とで異なったとしても、第1添字は同じlを採る。すなわち、成分置換があったとしても、ξl,(i)~の第1添字lはαl,iの第1添字lの順序をそのまま承継する(図3参照)。
【0100】
(性質3)
送信シンボルsiから各混合シンボルxl(l=0,1,…,N-1)への干渉度(αl,i)は、分離シンボルu(i)~から分割ベクトルの各要素ξl,(i)~(l=0,1,…,N-1)が生成されるときの大きさ(αl,i)にそのまま反映される(図3参照)。
【0101】
上記(性質2),(性質3)は、サブキャリアの観点から換言すると、第i番目のサブキャリアから各サブキャリア(l=0,1,…,N-1)への干渉メカニズムは、分離シンボルu(i)~から分割シンボルξl,(i)~(l=0,1,…,N-1)の生成メカニズムに承継される、と纏められる。
【0102】
一方、式(43)を式(39)に代入すると、次のような関係式が得られる。
【0103】
【数40】

【0104】
式(53)より、ξl,(i)~は第1添字lがl=iとなったときに絶対値が最大となることが分かる。
以上のことから、これまで未知であった(i)~を以下のようにして推定することが可能となる。
すなわち、式(53)と(性質2)より、分割ベクトルξ(i)~について、それに属する分割シンボルξl,(i)~(l=0,1,…,N-1)のうち絶対値が最大であるものの番号lを
【0105】
【数41】

とすれば、(i)~=(i)^となって、分割ベクトルξ(i)~に対応する送信シンボルをs(i)^に特定することができる。この手順をすべての分割ベクトルξ(i)~((i)~=(0)~,(1)~,…,(N-1)~)に対して行えば、成分置換の問題は解消されることになる。
【0106】
(例1)
例えば、図4に示すように、分割ベクトルξ(i)~=(ξ0,(i)~1,(i)~,…,ξN-1,(i)~)Tの要素のうち、太い矢印で示された要素を絶対値が最大である要素とする。式(54)による結果は、(0)^=2,(1)^=3,(2)^=0,(3)^=1となって、分割ベクトルと送信シンボルとの対応関係は、ξ(0)~がs2、ξ(1)~がs3、ξ(2)~がs0、ξ(3)~がs1にそれぞれ対応する、と特定することができる。この対応関係に基づいて、分割ベクトルを(ξ(2)~(3)~(0)~(1)~)、分離シンボルを(u(2)~,u(3)~,u(0)~,u(1)~)と並べ替えると、その順番は送信ベクトル(s0,s1,s2,s3)の順番と一致して、成分置換の問題は解消される。
(例終り)
【0107】
〔1-3〕スケール不定性の解消
上述のように、成分置換の問題を解消して、各送信シンボルの順番との対応付けが明確となった分割ベクトルの表記を改めて
【0108】
【数42】

と記す。また、各送信シンボルの順番との対応付けが明確となった分離ベクトルuの表記を改めて
【0109】
【数43】

と記す。また、式(43)及び式(37)の表記を、それぞれ
【0110】
【数44】

と書き改める。
【0111】
このとき、分離シンボル(u)^iは、送信シンボルsiをdi倍したものとなる。しかしながら、diは、iとは独立にランダムな値を採るため、すべてのi(i=0,1,…,N-1)でスケールが同一とはならない。故に、成分置換を是正したとしても、分離シンボル(u)^iには、スケール不定の問題が残る。
【0112】
一方、分割シンボル(ξ)^l,iは、送信シンボルsiをαl,i倍したものとなる。ここで、αl,iはランダムな値ではなく、式(19)のように(i-l)に依存して規則的な値を採る。従って、成分置換が是正された分割シンボル(ξ)^l,iにはスケールの不定性はない。
【0113】
このことを詳しく説明すると以下のようになる。まず、式(38)から、式(57)は次式と等価である。
【0114】
【数45】

【0115】
従って、受信側のサブキャリアが送信側と同一番号のサブキャリアの場合(すなわち、l=iの場合)、送信シンボルsiは、受信側ではα0倍されて次式のように表される。
【0116】
【数46】

【0117】
これは、サブキャリアの番号が送信側と受信側とで同じであれば、すべてのサブキャリアでスケールはα0倍であり、分割シンボル(ξ)^i,iにはスケールの不定性がないことを意味している。
【0118】
また、隣接サブキャリアへのクロストークについても、
【0119】
【数47】

となって、すべてのiについてスケールは同一となることが分かる。
【0120】
更に一般的に、第i番目のサブキャリアから第l番目のサブキャリアへのクロストーク
【0121】
【数48】

についても、αi-lが式(19)によって(i-l)の関数として一意的に決定される。以上のことから、分割シンボル(ξ)^i,iにはスケールの不定性がないと結論づけられる。
【0122】
〔1-4〕規格化周波数オフセットの推定
次に、上述のように成分置換とスケールの不定性を是正して得られた分割シンボル(ξ)^l,iを用いて規格化周波数オフセットεを推定する。
【0123】
まず、分割ベクトル(ξ)^iの第i番目の要素(ξ)^i,iと第l番目の要素(ξ)^l,iとの比rl,iを「分割シンボル比」と呼びrl,i=(ξ)^i,i/(ξ)^l,iと定義する。この分割シンボル比rl,iは、式(43)より次式のように干渉度の比として表すことができる。
【0124】
【数49】

【0125】
式(64)に式(19)を代入すると、次式が導かれる。
【0126】
【数50】

【0127】
式(65)をεについて解いて、それをl,i(l≠i)に対する規格化周波数オフセットとして改めてεl,iと表記すると、εl,iは次式のようになる。
【0128】
【数51】

【0129】
実際に、ICAにより得られる分割シンボル比rl,iの値は誤差を含んでばらつくため、規格化周波数オフセットεl,iの値もばらつく。従って、できるだけ誤差によるばらつきの少ない規格化周波数オフセットεを頑健に推定する方法が必要となる。
【0130】
ここで、分割シンボル比rl,iは、式(65)から明らかなように、(i-l) mod Nに依存する。従って、ri-l=rl,iと表記すれば明確になるように、
【0131】
【数52】

と巡回性を持つ。そのため、何れのri-lについても、集合{rl,i|i,l=0,1,…,N-1}からN個の値が得られる。従って、各ri-lについてN個の値を平均すれば、誤差によるばらつきの問題は緩和することができる。
【0132】
平均については、標本のばらつきが大きい場合、通常の相加平均よりも調和平均が有効である。従って、次式で定義される調和平均(r)^i-lを分割シンボル比ri-lの推定値として採用する。
【0133】
【数53】

【0134】
また、式(66)の右辺は理論的には実数であるが、実際には(r)^i-lを代入しても実数値とはならない。従って、本来、実数値であるべき規格化周波数オフセットεl,iが複素数値となって推定される。そこで、式(66)の規格化周波数オフセットεl,iをε(ri-l)と再定義して、これに分割シンボル比の推定値(r)^i-lを代入して、次式より得られる(ε)^を規格化周波数オフセットの推定値として採用する。
【0135】
【数54】

【0136】
〔1-5〕送信シンボルの復元
最後に、式(69)によって推定される規格化周波数オフセット(ε)^に基づいて、送信ベクトルsを復元する。
【0137】
まず、式(19)に式(69)で得られる(ε)^を代入して、干渉度の推定値を
【0138】
【数55】

として求める。
【0139】
次に、これを干渉行列Aの各要素に割り当てて、干渉行列の推定値(A)^を求める。最後に、この干渉行列の推定値(A)^の逆行列(A)^-1を求め、次式により送信ベクトルsの推定値(s)^を求める。
【0140】
【数56】

【0141】
これにより、歪みのある混合ベクトルxから送信ベクトルsが歪みなく復元される。
【0142】
〔2〕本発明の構成及び作用
混合信号分離装置に係る本発明の第1の構成は、N個(N≧2)の独立な送信シンボルsi(i=1,…,N-1)が伝送路で混合して生成されるN個の混合シンボルxj(j=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを復元する混合信号分離装置であって、
N個の前記混合シンボルxjを、統計的に独立なN個の分離シンボルuk(k=1,…,N-1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出手段と、
前記分離行列Wの逆行列W-1を算出する逆行列算出手段と、
前記N個の前記混合シンボルxjと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルukを算出する分離ベクトル算出手段と、
N個の前記分離シンボルukのそれぞれに対応して、第k番目の成分がukでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルukを前記分離行列の逆行列W-1で変換して得られる分割ベクトルξkを算出する分割ベクトル算出手段と、
N個の前記分割ベクトルξkのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出手段と、
N個の前記分離シンボルuk及び/又はN個の前記分割ベクトルξkのそれぞれの順序kを、前記順序索出手段で索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正手段と、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N-1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを推定する送信シンボル推定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0143】
この構成により、成分置換是正手段は、干渉行列Aを直接反映しスケール不定性のない分割ベクトルξkの成分に基づいて成分置換の是正を行うため、ICAにおいて分離行列Wがどのような状態に収束したとしても、正確に成分置換の是正を行うことが可能となる。すなわち、ICAを適用した場合に生じる成分置換の問題を解決することができる。そして、成分置換が是正された分離シンボルul(k)(k=1,…,N-1)又は分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)に基づいて、もとの各送信シンボルsiを推定することで、精度良くもとの各送信シンボルsiを復元することが可能となる。
【0144】
尚、本発明の混合信号分離装置は、OFDM通信システム以外に、一般のMIMO通信システムにおいて各送信アンテナから送信された成分の分離に使用することも可能である。
【0145】
混合信号分離装置に係る本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記送信シンボル推定手段は、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)l, l(k)を算出する分割シンボル比算出手段と、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsiから混合シンボルxjを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k)l,l(k)の比αl(k),l(k)l,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定手段と、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxjから復元された前記各送信シンボルsiを算出する復元シンボル算出手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0146】
この構成によれば、送信シンボル推定手段は、スケール不定性のない分割ベクトルξl(k)の成分ξl, l(k)に基づいて干渉行列A=(αj,i)の成分(干渉度)の推定が行うため、ICAにおいて生じるスケールの不定性に影響されることなく各干渉度αj,iの値を精度良く推定することができる。すなわち、ICAを適用した場合に生じるスケール不定の問題を解決することができる。そして、この推定された干渉行列Aを用いて各送信シンボルsiを算出することにより、精度良くもとの各送信シンボルsiを復元することが可能となる。
【0147】
混合信号分離方法に係る本発明の第1の構成は、N個(N≧2)の独立な送信シンボルsi(i=1,…,N-1)が伝送路で混合して生成されるN個の混合シンボルxj(j=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを復元する混合信号分離方法であって、
N個の前記混合シンボルxjを、統計的に独立なN個の分離シンボルuk(k=1,…,N-1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出ステップと、
前記分離行列Wの逆行列W-1を算出する逆行列算出ステップと、
前記N個の前記混合シンボルxjと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルukを算出する分離ベクトル算出ステップと、
N個の前記分離シンボルukのそれぞれに対応して、第k番目の成分がukでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルukを前記分離行列の逆行列W-1で変換して得られる分割ベクトルξkを算出する分割ベクトル算出ステップと、
N個の前記分割ベクトルξkのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出ステップと、
N個の前記分離シンボルuk及び/又はN個の前記分割ベクトルξkのそれぞれの順序kを、前記順序索出ステップにおいて索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正ステップと、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N-1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを推定する送信シンボル推定ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0148】
混合信号分離方法に係る本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記送信シンボル推定ステップは、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)l, l(k)を算出する分割シンボル比算出ステップと、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsiから混合シンボルxjを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k)l,l(k)の比αl(k),l(k)l,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定ステップと、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxjから復元された前記各送信シンボルsiを算出する復元シンボル算出ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0149】
OFDM受信装置に係る本発明の第1の構成は、送信側において独立な送信シンボルsi(i=1,…,N-1)がOFDM変調されて送信され、伝送路で混合された後、受信側において受信されN個の混合シンボルxj(j=1,…,N-1)として復調されるOFDM通信システムにおいて、前記各混合シンボルxj(j=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを復元するOFDM受信装置であって、
N個の前記混合シンボルxjを、統計的に独立なN個の分離シンボルuk(k=1,…,N-1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出手段と、
前記分離行列Wの逆行列W-1を算出する逆行列算出手段と、
前記N個の前記混合シンボルxjと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルukを算出する分離ベクトル算出手段と、
N個の前記分離シンボルukのそれぞれに対応して、第k番目の成分がukでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルukを前記分離行列の逆行列W-1で変換して得られる分割ベクトルξkを算出する分割ベクトル算出手段と、
N個の前記分割ベクトルξkのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出手段と、
N個の前記分離シンボルuk及び/又はN個の前記分割ベクトルξkのそれぞれの順序kを、前記順序索出手段で索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正手段と、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N-1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを推定する送信シンボル推定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0150】
この構成により、成分置換是正手段は、干渉行列Aを直接反映しスケール不定性のない分割ベクトルξkの成分に基づいて成分置換の是正を行うため、分離行列Wがどのような状態に収束したとしても、正確に成分置換の是正を行うことが可能となる。すなわち、OFDM受信装置にICAを適用した場合に生じる成分置換の問題を解決することができる。そして、成分置換が是正された分離シンボルul(k)(k=1,…,N-1)又は分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)に基づいて、もとの各送信シンボルsiを推定することで、精度良くもとの各送信シンボルsiを復元することが可能となる。
【0151】
OFDM受信装置に係る本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記送信シンボル推定手段は、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)l, l(k)を算出する分割シンボル比算出手段と、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsiから混合シンボルxjを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k)l,l(k)の比αl(k),l(k)l,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定手段と、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxjから復元された前記各送信シンボルsiを算出する復元シンボル算出手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0152】
この構成によれば、スケール不定性のない分割ベクトルξl(k)の成分ξl, l(k)に基づいて干渉行列A=(αj,i)の成分(干渉度)の推定が行われるため、各干渉度αj,iの値を精度良く推定することができる。すなわち、OFDM受信装置にICAを適用した場合に生じるスケール不定の問題を解決することができる。そして、この推定された干渉行列Aを用いて各送信シンボルsiを算出することにより、精度良くもとの各送信シンボルsiを復元することが可能となる。従って、DPSKやPSKのタイプの変調方式に加えて、QAMタイプの変調方式を適用することも可能となる。
【0153】
OFDM受信装置に係る本発明の第3の構成は、前記第2の構成において、前記干渉度推定手段は、
前記各分割シンボル比rl, l(k)について、そのインデックスの絶対値差|l(k)-l|が等しいものの平均値である平均分割シンボル比rl(k)-lを算出する分割シンボル比平均化手段と、
N-1個の前記平均分割シンボル比rl(k)-l(l(k)-l=1,…,N-1)に基づいて、規格化周波数オフセットεを算出する規格化周波数オフセット算出手段と、
前記規格化周波数オフセットの推定値εに基づいて、前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N-1)を算出する干渉度算出手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0154】
この構成により、受信機側のダウン・コンバージョンの際に、送信機側の搬送波周波数と受信機側の発信周波数との間にずれが生じることによって規格化周波数オフセットが生じた場合であっても、精度良く干渉行列Aを推定し、精度良くもとの各送信シンボルsiを復元することが可能となる。
【0155】
OFDM受信装置に係る本発明の第4の構成は、前記第3の構成において、前記分割シンボル比平均化手段は、式(72)の調和平均演算を行うことにより平均分割シンボル比rl(k)-lを算出することを特徴とする。
【0156】
【数57】

【0157】
この構成により、誤差により各分割ベクトルξl(k)の成分から計算される分割シンボル比にばらつきがある場合でも、調和平均演算によりそのばらつきが抑えられ、精度の良い安定した平均分割シンボル比rl(k)-lを算出することができる。
【0158】
OFDM受信装置に係る本発明の第5の構成は、前記第3の構成において、前記規格化周波数オフセット算出手段は、式(73),(74)の演算を行うことにより規格化周波数オフセットεを算出することを特徴とする。
【0159】
【数58】

【0160】
この構成により、誤差により各分割ベクトルξl(k)の成分から計算される規格化周波数オフセットにばらつきや虚数部分がある場合でも、実数値化と平均演算によりそのばらつきが抑えられ、精度の良い安定した規格化周波数オフセットεを算出することができる。
【0161】
OFDM受信装置に係る本発明の第6の構成は、前記第3の構成において、前記干渉度算出手段は、式(75)の演算を行うことにより前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N-1)を算出することを特徴とする。
【0162】
【数59】

【0163】
この構成により、規格化周波数オフセットが生じた場合、その規格化周波数オフセットを考慮して、精度良く干渉行列Aを算出することができる。
【0164】
OFDM受信方法に係る本発明の第1の構成は、送信側において独立な送信シンボルsi(i=1,…,N-1)がOFDM変調されて送信され、伝送路で混合された後、受信側において受信されN個の混合シンボルxj(j=1,…,N-1)として復調されるOFDM通信システムにおいて、前記各混合シンボルxj(j=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを復元するOFDM受信方法であって、
N個の前記混合シンボルxjを、統計的に独立なN個の分離シンボルuk(k=1,…,N-1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出ステップと、
前記分離行列Wの逆行列W-1を算出する逆行列算出ステップと、
前記N個の前記混合シンボルxjと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルukを算出する分離ベクトル算出ステップと、
N個の前記分離シンボルukのそれぞれに対応して、第k番目の成分がukでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルukを前記分離行列の逆行列W-1で変換して得られる分割ベクトルξkを算出する分割ベクトル算出ステップと、
N個の前記分割ベクトルξkのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出ステップと、
N個の前記分離シンボルuk及び/又はN個の前記分割ベクトルξkのそれぞれの順序kを、前記順序索出ステップにおいて索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正ステップと、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N-1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsiを推定する送信シンボル推定ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0165】
OFDM受信方法に係る本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記送信シンボル推定ステップにおいては、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N-1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)l, l(k)を算出する分割シンボル比算出ステップと、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsiから混合シンボルxjを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k)l,l(k)の比αl(k),l(k)l,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定ステップと、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxjから復元された前記各送信シンボルsiを算出する復元シンボル算出ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0166】
OFDM受信方法に係る本発明の第3の構成は、前記第2の構成において、前記干渉度推定ステップにおいては、
前記各分割シンボル比rl, l(k)について、そのインデックスの絶対値差|l(k)-l|が等しいものの平均値である平均分割シンボル比rl(k)-lを算出する分割シンボル比平均化ステップと、
N-1個の前記平均分割シンボル比rl(k)-l(l(k)-l=1,…,N-1)に基づいて、規格化周波数オフセットεを算出する規格化周波数オフセット算出ステップと、
前記規格化周波数オフセットの推定値εに基づいて、前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N-1)を算出する干渉度算出ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0167】
OFDM受信方法に係る本発明の第4の構成は、前記第3の構成において、前記分割シンボル比平均化ステップにおいては、式(72)の調和平均演算を行うことにより平均分割シンボル比rl(k)-lを算出することを特徴とする。
【0168】
OFDM受信方法に係る本発明の第5の構成は、前記第3の構成において、前記規格化周波数オフセット算出ステップにおいては、式(73),(74)の演算を行うことにより規格化周波数オフセットεを算出することを特徴とする。
【0169】
OFDM受信方法に係る本発明の第6の構成は、前記第3の構成において、前記干渉度算出ステップにおいては、式(75)の演算を行うことにより前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N-1)を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0170】
以上のように、本発明によれば、干渉行列Aを直接反映しスケール不定性のない分割ベクトルξkの成分に基づいて成分置換の是正を行うため、ICAにおいて分離行列Wがどのような状態に収束したとしても、正確に成分置換の是正を行うことが可能となる。これにより、ICAを適用した場合に生じる成分置換の問題を解決することが可能な混合信号分離装置及び混合信号分離方法を提供することができる。
【0171】
また、スケール不定性のない分割ベクトルξl(k)の成分ξl, l(k)に基づいて干渉行列A=(αj,i)の成分(干渉度)の推定が行われるため、ICAにおいて生じるスケールの不定性に影響されることなく各干渉度αj,iの値を精度良く推定し、精度良く送信シンボルsiを復元することができる。これにより、ICAを適用した場合に生じるスケール不定の問題を解決することが可能な混合信号分離装置及び混合信号分離方法を提供することができる。
【0172】
また、上記混合信号分離方法をOFDM受信機に使用することで、成分置換の問題やスケール不定の問題に影響されず、精度良く送信シンボルsiを復元することができる。従って、独立成分分析により混合信号の分離を行うOFDM受信機において、QAMタイプの変調方式に対しても適用することが可能なOFDM受信装置及びOFDM受信方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0173】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0174】
図5は、本発明の実施例1に記載のOFDM受信装置1のブロック図である。
本実施例のOFDM受信装置1は、アンテナ2、搬送波発信器3、ダウン・コンバータ4、ローパス・フィルタ5、アナログ・デジタル変換器6、直並列変換器7、離散フーリエ変換器8、送信シンボル復元器9、並直列変換器10、デマッパ11、デインタリーバ12、及びデコーダ13を備えている。これらの構成部分のうち、送信シンボル復元器9以外の部分は、図1のOFDM受信機120と同様のものである。
【0175】
本実施例のOFDM受信装置1は、離散フーリエ変換器8の後段に、各サブキャリア間の干渉を除去して送信シンボルを推定、復元する送信シンボル復元器9を備えていることを特徴としている。
【0176】
図6は、図5の送信シンボル復元器9の構成を表すブロック図である。送信シンボル復元器9は、分離行列演算器21、逆行列演算器22、分離ベクトル演算器23、分割ベクトル生成器24、順序決定器25、分割シンボル比演算器26、規格化周波数オフセット演算器27、平均化器28、干渉行列生成器29、逆行列演算器30、及び復元ベクトル生成器31を備えている。
【0177】
ここで、本実施例において、分離行列演算器21は分離行列算出手段、逆行列演算器22は逆行列算出手段、分離ベクトル演算器23は分離ベクトル算出手段、分割ベクトル生成器24は分割ベクトル算出手段、順序決定器25は順序索出手段及び成分置換是正手段、分割シンボル比演算器26は分割シンボル比算出手段、規格化周波数オフセット演算器27は平均化器28及び干渉行列生成器29は干渉度推定手段、逆行列演算器30及び復元ベクトル生成器31は復元シンボル算出手段に相当する。
【0178】
分離行列演算器21は、N個の混合シンボルxjを、統計的に独立なN個の分離シンボルuk(k=1,…,N-1)に変換する分離行列Wを、ICAにより算出する。
【0179】
逆行列演算器22は、分離行列演算器21が生成する分離行列Wの逆行列W-1を生成する。
【0180】
分離ベクトル演算器23は、混合ベクトルxと分離行列Wに基づいて、N個の分離シンボルukからなる分離ベクトルuを算出する。
【0181】
分割ベクトル生成器24は、分離ベクトル演算器23が出力する各分離シンボルukと、逆行列演算器22が出力する分離行列の逆行列W-1に基づいて、式(42)で定義されるN個の分割ベクトルξ(i)~((i)~=(0)~,(1)~,…,(N-1)~)を生成する。
【0182】
順序決定器25は、分割ベクトル生成器24が出力する各分割ベクトルξ(i)~の順番(i)~=(i)^を式(54)に従って決定する。
【0183】
分割シンボル比演算器26は、順序決定器25によって順番(i)^が決定された分割ベクトル(ξ)^i=ξ(i)^の各成分に基づいて、式(64)により定義される分割シンボル比rl,,i(i,l=0,1,…,N-1)を算出し、更に、式(68)で定義される(N-1)個の分割シンボル比ri-lの推定値(r)^i-lを算出する。
【0184】
規格化周波数オフセット演算器27は、分割シンボル比演算器26が出力する(N-1)個の分割シンボル比ri-lのそれぞれに対して、式(66)の演算により規格化周波数オフセットε((r)^i-l)=εl,,iの実部Re[ε((r)^i-l)]を算出する。
【0185】
平均化器28は、規格化周波数オフセット演算器27が出力する(N-1)個の規格化周波数オフセットの実部Re[ε((r)^i-l)]の平均を算出し、これを最終的な規格化周波数オフセットの推定値(ε)^として算出する。
【0186】
干渉行列生成器29は、規格化周波数オフセットの推定値(ε)^に基づいて、式(19)により干渉行列Aの各干渉度αl,i(i,l=0,1,…,N-1)を算出する。
【0187】
逆行列演算器30は、干渉行列生成器29が出力する干渉行列Aの逆行列A-1を算出する。
【0188】
復元ベクトル生成器31は、逆行列演算器30が出力する干渉行列の逆行列A-1と混合ベクトルxに基づいて、式(71)の演算によって送信ベクトルsの推定値(s)^を算出し、これを並直列変換器10に出力する。
【0189】
以上のように構成された本実施例のOFDM受信装置1の送信シンボル復元器9について、以下にその動作を説明する。図7は、図6の送信シンボル復元器9の動作を表すフローチャートである。
【0190】
まず、分離行列演算器21に、離散フーリエ変換器8が出力する混合ベクトルxが入力される。混合ベクトルxは、並列化されたN個の前記混合シンボルxjからなるベクトルである。
【0191】
ステップS1において、分離行列演算器21は、このN個の混合シンボルxjを、統計的に独立なN個の分離シンボルuk(k=1,…,N-1)に変換する分離行列Wを、ICAにより算出する。ここで、ICAによる分離行列Wのアルゴリズムとしては、一般に、自然勾配法を使用するのが容易であるが、上述したように、自然勾配法以外の種々の公知の方法を使用することも可能である。
【0192】
ステップS2において、逆行列演算器22は、分離行列演算器21が生成する分離行列Wの逆行列W-1を生成する。尚、逆行列の生成アルゴリズムについては、ガウス・ジョルダン法などの周知の手法が使用される。
【0193】
一方、ステップS3において、分離ベクトル演算器23は、混合ベクトルxと分離行列Wに基づいて、式(46)の演算により、N個の分離シンボルukからなる分離ベクトルuを算出する。分離ベクトルuは、混合ベクトルxを、統計的に独立な成分に分解して得られるベクトルである。
【0194】
ステップS4において、分割ベクトル生成器24は、内部変数レジスタとして有するインデックス番号iを0に初期化する。
【0195】
ステップS5において、分割ベクトル生成器24は、次式の演算を行うことにより、分割ベクトルξ(i)~=(ξ0,(i)~1,(i)~,…,ξN-1,(i)~)Tを算出する。
【0196】
【数60】

ここで、w(-1)l,iは分離行列の逆行列W-1の第(l,i)成分を表す。
【0197】
続いて、ステップS6において、順序決定器25は、分割ベクトルξ(i)~の要素{ξ0,(i)~1,(i)~,…,ξN-1,(i)~}のうちで絶対値が最大のものξl,(i)~を索出し、そのインデックス番号l=(i)^を分割ベクトルξ(i)~の順番(i)~に決定する。すなわち、
【0198】
【数61】

のように分割ベクトルξ(i)~の順番(i)~を決定する。
【0199】
そして、ステップS6において、分割ベクトル生成器24はi=N-1か否かを判定し、i<N-1の場合にはiを1だけインクリメントして(S8)、ステップS5に戻る。i=N-1の場合には、順序決定器25は、決定された順番に従って、各分割ベクトルξ(i)^の各要素の順序を並べ替えて、成分置換の是正がされたN個の分割ベクトル(ξ)^0,(ξ)^1,…,(ξ)^N-1を生成する。そしてこれらを分割シンボル比演算器26に出力し、ステップS9に移行する。
【0200】
ステップS9において、分割シンボル比演算器26は、順序決定器25によって成分置換の是正がされた分割ベクトル(ξ)^0,(ξ)^1,…,(ξ)^N-1の各成分に基づいて、式(64)の演算を行うことにより、分割シンボル比rl,,i(i,l=0,1,…,N-1)を算出する。そして、分割シンボル比演算器26は、式(68)の演算を行うことにより、(N-1)個の分割シンボル比ri-lの推定値(r)^i-l(i-l=1,2,…,N-1)を算出する。
【0201】
ステップS10において、規格化周波数オフセット演算器27は、分割シンボル比演算器26が出力する(N-1)個の分割シンボル比ri-l(i-l=1,2,…,N-1)のそれぞれに対して、式(66)の演算を実行することにより、規格化周波数オフセットε((r)^i-l)=εl,,iの実部Re[ε((r)^i-l)]を算出する。そして、平均化器28は、規格化周波数オフセット演算器27が出力する(N-1)個の規格化周波数オフセットの実部Re[ε((r)^i-l)]の平均を算出し、これを最終的な規格化周波数オフセットの推定値(ε)^として出力する。
【0202】
ステップS11において、干渉行列生成器29は、規格化周波数オフセットの推定値(ε)^に基づいて、式(19)により干渉行列Aの各成分である干渉度αl,i(i,l=0,1,…,N-1)を算出する。
【0203】
ステップS12において、逆行列演算器30は、干渉行列生成器29が出力する干渉行列Aの逆行列A-1を算出する。
【0204】
最後に、ステップS13において、復元ベクトル生成器31は、逆行列演算器30が出力する干渉行列の逆行列A-1と混合ベクトルxに基づいて、式(71)の演算を実行し、送信ベクトルsの推定値(s)^を算出する。算出された送信ベクトルの推定値(s)^は、並直列変換器10に出力される。
【図面の簡単な説明】
【0205】
【図1】OFDM通信システムの基本的構成を表すブロック図である。
【図2】干渉度とキャリア番号の差の関係を表す図である。
【図3】分割シンボルの生成と干渉特性の継承を表す図である。
【図4】送信シンボルと分割シンボルとの対応(N=4)を表す図である。
【図5】本発明の実施例1に記載のOFDM受信装置のブロック図である。
【図6】図5の送信シンボル復元器の構成を表すブロック図である。
【図7】図6の送信シンボル復元器の動作を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0206】
1 OFDM受信装置
2 アンテナ
3 搬送波発信器
4 ダウン・コンバータ
5 ローパス・フィルタ
6 アナログ・デジタル変換器
7 直並列変換器
8 離散フーリエ変換器
9 送信シンボル復元器
10 並直列変換器
11 デマッパ
12 デインタリーバ
13 デコーダ
21 分離行列演算器
22 逆行列演算器
23 分離ベクトル演算器
24 分割ベクトル生成器
25 順序決定器
26 分割シンボル比演算器
27 規格化周波数オフセット演算器
28 平均化器
29 干渉行列生成器
30 逆行列演算器
31 復元ベクトル生成器
100 OFDM送信機
101 エンコーダ
102 インタリーバ
103 マッパ
104 直並列変換器
105 逆離散フーリエ変換器
106 並直列変換器
107 デジタル・アナログ変換器
108 ローパス・フィルタ
109 搬送波発信器
110 アップ・コンバータ
120 OFDM受信機
121 搬送波発信器
122 ダウン・コンバータ
123 ローパス・フィルタ
124 アナログ・デジタル変換器
125 直並列変換器
126 離散フーリエ変換器
127 並直列変換器
128 デマッパ
129 デインタリーバ
130 デコーダ
140 通信チャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個(N≧2)の独立な送信シンボルs(i=1,…,N−1)が伝送路で混合して生成されるN個の混合シンボルx(j=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを復元する混合信号分離装置であって、
N個の前記混合シンボルxを、統計的に独立なN個の分離シンボルu(k=1,…,N−1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出手段と、
前記分離行列Wの逆行列W−1を算出する逆行列算出手段と、
前記N個の前記混合シンボルxと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルuを算出する分離ベクトル算出手段と、
N個の前記分離シンボルuのそれぞれに対応して、第k番目の成分がuでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルuを前記分離行列の逆行列W−1で変換して得られる分割ベクトルξを算出する分割ベクトル算出手段と、
N個の前記分割ベクトルξのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出手段と、
N個の前記分離シンボルu及び/又はN個の前記分割ベクトルξのそれぞれの順序kを、前記順序索出手段で索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正手段と、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N−1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを推定する送信シンボル推定手段と、
を備えた混合信号分離装置。
【請求項2】
前記送信シンボル推定手段は、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)/ξl, l(k)を算出する分割シンボル比算出手段と、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsから混合シンボルxを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k),αl,l(k)の比αl(k),l(k)/αl,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定手段と、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxから復元された前記各送信シンボルsを算出する復元シンボル算出手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の混合信号分離装置。
【請求項3】
N個(N≧2)の独立な送信シンボルs(i=1,…,N−1)が伝送路で混合して生成されるN個の混合シンボルx(j=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを復元する混合信号分離方法であって、
N個の前記混合シンボルxを、統計的に独立なN個の分離シンボルu(k=1,…,N−1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出ステップと、
前記分離行列Wの逆行列W−1を算出する逆行列算出ステップと、
前記N個の前記混合シンボルxと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルuを算出する分離ベクトル算出ステップと、
N個の前記分離シンボルuのそれぞれに対応して、第k番目の成分がuでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルuを前記分離行列の逆行列W−1で変換して得られる分割ベクトルξを算出する分割ベクトル算出ステップと、
N個の前記分割ベクトルξのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出ステップと、
N個の前記分離シンボルu及び/又はN個の前記分割ベクトルξのそれぞれの順序kを、前記順序索出ステップにおいて索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正ステップと、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N−1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを推定する送信シンボル推定ステップと、
を備えた混合信号分離方法。
【請求項4】
前記送信シンボル推定ステップは、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)/ξl, l(k)を算出する分割シンボル比算出ステップと、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsから混合シンボルxを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k),αl,l(k)の比αl(k),l(k)/αl,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定ステップと、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxから復元された前記各送信シンボルsを算出する復元シンボル算出ステップと、
を備えたことを特徴とする請求項3記載の混合信号分離方法。
【請求項5】
送信側において独立な送信シンボルs(i=1,…,N−1)がOFDM変調されて送信され、伝送路で混合された後、受信側において受信されN個の混合シンボルx(j=1,…,N−1)として復調されるOFDM通信システムにおいて、前記各混合シンボルx(j=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを復元するOFDM受信装置であって、
N個の前記混合シンボルxを、統計的に独立なN個の分離シンボルu(k=1,…,N−1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出手段と、
前記分離行列Wの逆行列W−1を算出する逆行列算出手段と、
前記N個の前記混合シンボルxと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルuを算出する分離ベクトル算出手段と、
N個の前記分離シンボルuのそれぞれに対応して、第k番目の成分がuでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルuを前記分離行列の逆行列W−1で変換して得られる分割ベクトルξを算出する分割ベクトル算出手段と、
N個の前記分割ベクトルξのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出手段と、
N個の前記分離シンボルu及び/又はN個の前記分割ベクトルξのそれぞれの順序kを、前記順序索出手段で索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正手段と、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N−1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを推定する送信シンボル推定手段と、
を備えたOFDM受信装置。
【請求項6】
前記送信シンボル推定手段は、
前記成分置換是正手段により順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)/ξl, l(k)を算出する分割シンボル比算出手段と、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsから混合シンボルxを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k),αl,l(k)の比αl(k),l(k)/αl,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定手段と、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxから復元された前記各送信シンボルsを算出する復元シンボル算出手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5記載のOFDM受信装置。
【請求項7】
前記干渉度推定手段は、
前記各分割シンボル比rl, l(k)について、そのインデックスの絶対値差|l(k)−l|が等しいものの平均値である平均分割シンボル比rl(k)-lを算出する分割シンボル比平均化手段と、
N−1個の前記平均分割シンボル比rl(k)-l(l(k)-l=1,…,N−1)に基づいて、規格化周波数オフセットεを算出する規格化周波数オフセット算出手段と、
前記規格化周波数オフセットの推定値εに基づいて、前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N−1)を算出する干渉度算出手段と、
を備えたことを特徴とする請求項6記載のOFDM受信装置。
【請求項8】
前記分割シンボル比平均化手段は、式(1)の調和平均演算を行うことにより平均分割シンボル比rl(k)-lを算出することを特徴とする請求項7記載のOFDM受信装置。
【数1】

【請求項9】
前記規格化周波数オフセット算出手段は、式(2),(3)の演算を行うことにより規格化周波数オフセットεを算出することを特徴とする請求項7記載のOFDM受信装置。
【数2】

【請求項10】
前記干渉度算出手段は、式(4)の演算を行うことにより前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N−1)を算出することを特徴とする請求項7記載のOFDM受信装置。
【数3】

【請求項11】
送信側において独立な送信シンボルs(i=1,…,N−1)がOFDM変調されて送信され、伝送路で混合された後、受信側において受信されN個の混合シンボルx(j=1,…,N−1)として復調されるOFDM通信システムにおいて、前記各混合シンボルx(j=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを復元するOFDM受信方法であって、
N個の前記混合シンボルxを、統計的に独立なN個の分離シンボルu(k=1,…,N−1)に変換する分離行列Wを、独立成分分析により算出する分離行列算出ステップと、
前記分離行列Wの逆行列W−1を算出する逆行列算出ステップと、
前記N個の前記混合シンボルxと前記分離行列Wに基づいてN個の前記分離シンボルuを算出する分離ベクトル算出ステップと、
N個の前記分離シンボルuのそれぞれに対応して、第k番目の成分がuでそれ以外の成分が0であるN次元のベクトルuを前記分離行列の逆行列W−1で変換して得られる分割ベクトルξを算出する分割ベクトル算出ステップと、
N個の前記分割ベクトルξのそれぞれに対応して、当該分割ベクトルのN個の成分ξl,kのなかで最大の成分の順序l(k)=arg maxll,k}を索出する順序索出ステップと、
N個の前記分離シンボルu及び/又はN個の前記分割ベクトルξのそれぞれの順序kを、前記順序索出ステップにおいて索出された順序l(k)に再設定することによって、独立成分分析における成分置換の是正を行う成分置換是正ステップと、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の前記分離シンボルul(k)(k=1,…,N−1)又はN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)に基づいて、もとの前記各送信シンボルsを推定する送信シンボル推定ステップと、
を備えたOFDM受信方法。
【請求項12】
前記送信シンボル推定ステップにおいては、
前記成分置換是正ステップにおいて順序の再設定が行われたN個の分割ベクトルξl(k)(k=1,…,N−1)のそれぞれに対して、当該分割ベクトルの第l(k)番目の成分ξl(k), l(k)とそれ以外の成分ξl, l(k)(l≠l(k))との比である分割シンボル比rl, l(k)=ξl(k), l(k)/ξl, l(k)を算出する分割シンボル比算出ステップと、
前記各分割シンボル比rl,l(k)を、送信シンボルsから混合シンボルxを生成する干渉行列A=(αj,i)の2つの成分αl(k),l(k),αl,l(k)の比αl(k),l(k)/αl,l(k)として前記干渉行列Aを推定する干渉度推定ステップと、
推定された前記干渉行列Aに基づいて前記各混合シンボルxから復元された前記各送信シンボルsを算出する復元シンボル算出ステップと、
を備えたことを特徴とする請求項11記載のOFDM受信方法。
【請求項13】
前記干渉度推定ステップにおいては、
前記各分割シンボル比rl, l(k)について、そのインデックスの絶対値差|l(k)−l|が等しいものの平均値である平均分割シンボル比rl(k)-lを算出する分割シンボル比平均化ステップと、
N−1個の前記平均分割シンボル比rl(k)-l(l(k)-l=1,…,N−1)に基づいて、規格化周波数オフセットεを算出する規格化周波数オフセット算出ステップと、
前記規格化周波数オフセットの推定値εに基づいて、前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N−1)を算出する干渉度算出ステップと、
を備えたことを特徴とする請求項12記載のOFDM受信方法。
【請求項14】
前記分割シンボル比平均化ステップにおいては、式(1)の調和平均演算を行うことにより平均分割シンボル比rl(k)-lを算出することを特徴とする請求項13記載のOFDM受信方法。
【請求項15】
前記規格化周波数オフセット算出ステップにおいては、式(2),(3)の演算を行うことにより規格化周波数オフセットεを算出することを特徴とする請求項13記載のOFDM受信方法。
【請求項16】
前記干渉度算出ステップにおいては、式(4)の演算を行うことにより前記干渉行列Aの各成分αj,i(i,j=0,…,N−1)を算出することを特徴とする請求項13記載のOFDM受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−306605(P2008−306605A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153412(P2007−153412)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】