説明

混合粒子の分離方法

【課題】比較的大きな密度の2種以上の混合粒子を、粒子の大きさによらずに物質の違いによって、明確に分離する方法を提供すること。
【解決手段】一定距離をもって水平に位置づけられた上下2つの面の間に流動媒体を満たし、その密度が流動媒体の密度より大きい2種以上の混合粒子が下の面に沈降した状態で、一定周波数の音波を前記2つの面のうち少なくとも1つの面から放射して前記2つの面の間に音波の定在波における節を形成し、音波の平均音波エネルギー密度を徐々に大きくしていって、下の面に沈降していた前記2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に分離する混合粒子の分離方法によって解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の混合粒子の分離方法に関し、更に詳細には、音波定在波場と重力場を利用した密度の比較的大きい2種以上の混合粒子の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の分離は最も基礎的な技術領域の一つであり、対象物質の拡大や分離能の向上などに関する研究が盛んに行われている。分子レベルでは、クロマトグラフィーを始めとする方法の確立により、低分子から高分子に至る幅広い対象が分離可能になっているが、比較的大きい物質である粒子の分離については、相対的に優れた技術が少ない。
【0003】
粒子の分離方法としては、フィールド・フロー・フラクショネーション(以下、「FFF」と略記する)がある。FFFは、媒体の移動方向に垂直に場を形成し、流れのプロファイルを利用することで、混合粒子を分離する方法である。ここで、垂直に形成する場としては、電場、磁場、温度勾配、媒体流れ等が利用されているが、決め手になるような分離技術は確立されていない。
【0004】
更に、FFFでは、粒子の大きさを見分けてしまうという欠点を有している。FFFは粒径分析が可能ではあるが、未知の試料の場合、通常様々な粒径の粒子が混在しており、粒子の大きさを見分けてしまうことにより、かえって何がどのように分離されているのかがわからず、結局実用的ではなかった。
【0005】
従って、物質を見分けるが、大きさは見分けない混合粒子の分離方法が望まれていた。これを解決するものとして、非特許文献1には、重力場と音波定在波場の大きさによって、2種の粒子がそれぞれ異なる位置に凝集することを利用して、2種以上の粒子を分離する方法が記載されている。そして鉛直方向に分離した粒子を、上記複合場に直交するポアズイユ流れを利用して水平方向に分離する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、この方法では、使用した流動媒体に密度が比較的近い粒子、例えば高分子粒子等のように、その密度が1g/cmに近い粒子は分離可能であるが、金属やその酸化物等のように密度が比較的大きい2種以上の粒子の分離には適用できない場合があった。
【0007】
そのため、粒子の大きさによらずに物質に基づく分離が可能であり、また、比較的大きな密度を有する2種以上の混合粒子を、優れた分解能で分離する方法が望まれていた。
【0008】
【非特許文献1】化学工業、54巻、415−421(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、比較的大きな密度の2種以上の混合粒子を、粒子の大きさによらずに物質の違いによって、明確に分離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、重力場中で、まず流動媒体中で粒子を下に沈降させておいて、その上部に音波の定在波の節を形成することによって、その節に向かって鉛直上方向に移動しやすさを利用して混合粒子を分離すれば、比較的大きな密度の2種以上の混合粒子であっても、粒子の大きさによらず、物質の違いによってそれらを精度よく分離できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、一定距離をもって水平に位置づけられた上下2つの面の間に流動媒体を満たし、その密度が流動媒体の密度より大きい2種以上の混合粒子が下の面に沈降した状態で、一定周波数の音波を前記2つの面のうち少なくとも1つの面から放射して前記2つの面の間に音波の定在波における節を形成し、音波の平均音波エネルギー密度を徐々に大きくしていって、下の面に沈降していた前記2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に分離する混合粒子の分離方法を提供するものである。
【0012】
また本発明は、上記方法用のものであることを特徴とする混合粒子の分離装置を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、少なくとも正弦波電圧発生装置、トランスデューサ、上記方法用の混合粒子の分離装置及び分離された粒子の検出装置を備えたことを特徴とする混合粒子の構成分析装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
比較的大きな密度の2種以上の混合粒子を、実質的に粒子の大きさによらずに物質の違いによって分離する、優れた分解能をもった混合粒子の分離方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、一定距離をもって水平に位置づけられた上下2つの面の間(以下、上下2つの面の間を「分離チャンネル」といい、上下2つの面の間の距離を「チャンネル長」という)に流動媒体を満たし、分離チャンネル内に向けて上記面に垂直に音波を放射し、共振させて定在波を作り、少なくとも1個の節を分離チャンネル内に形成することが必要である。
【0016】
ここで、流動媒体としては特に限定はないが、常温で液体の有機化合物又は水が用いられる。安全性、低コスト等の点で水が特に好ましい。かかる流動媒体は使用に際し、キャビテーションを少なくするために脱気することが好ましい。
【0017】
本発明では、一定周波数の音波を分離チャンネル内に放射することが必要である。音波はトランスデューサから放射することが好ましい。トランスデューサからは、好ましくは正弦波の音波を放射し、周波数(波長)、位相、平均音波エネルギー密度等を調節して共振させ定在波を作り、また所望の位置に定在波の節を形成させる。
【0018】
放射させる音波の一定周波数は、分離チャンネル内で定在波ができ、少なくとも1個の節を分離チャンネル内に形成できれば特に限定はないが、1kHz〜10000kHzの範囲であることが好ましい。周波数が小さすぎる場合には、後述する音響放射力が音波の波数k(k=2π/λ(λは音波の波長))に比例するので、十分な大きさの音響放射力が得られない場合がある。
【0019】
一方、放射させる音波の一定周波数が大きすぎる場合は、それに対応して、定在波を作るためにチャンネル長を極端に短くせざるを得ない場合がある。
【0020】
特に好ましくは、100kHz〜1000kHzである。100kHzより小さい場合には、流動媒体中でキャビテーションがおこる場合がある。
【0021】
分離チャンネル内に定在波を作る方法は、分離チャンネル内に少なくとも1個の節が形成されさえすれば特に限定はないが、分離チャンネルの一方の面から音波を放射し、もう一方の面での反射を利用する方法、上下両方の面から位相の異なる音波を放射する方法等が挙げられる。
【0022】
正弦波の電圧制御、コストの点では、前者の方が好ましい。一方、チャンネル長は一般には固定されているので、固定されたチャンネル長の分離チャンネルを使用しても定在波を作りやすく(共振させやすく)、また所望の位置に定在波の節を形成させやすい点では後者の方が好ましい。
【0023】
2個のトランスデューサを用いた場合には、周波数(波長)が同一の正弦波の音波を放射し、それぞれの位相、周波数(波長)等を調節して、所望の位置に定在波の節を形成することが好ましい。
【0024】
本発明では、上記2つの面の間に音波の定在波における節を少なくとも1個形成することが必須である。節の数は好ましくは1〜5個、特に好ましくは1個である。後述するように、粒子は節に向かって音響放射力を受け、本発明はその力を利用しているので、少なくとも節は1個は必要である。
【0025】
図1は、2個のトランスデューサを用いた場合の分離素子(9a)の例である。チャンネル長(D)は、放射音波の流動媒体中での波長の1/2に設定されている。上の面の外側に密着されたトランスデューサから放射される音波の位相を、下の面の外側に密着されたトランスデューサから放射される音波の位相に対して変化させることによって、定在波の状態や定在波の節の位置を制御できる。音波の位相を、+90°から+270°の範囲でずらすことで、分離チャンネル内のいかなる位置にも節を形成させることができる。
【0026】
図2は、1個のトランスデューサを用い、もう一方の面での反射を利用する分離素子(9b)の例である。分離チャンネル(3)のチャンネル長(a)には特に限定はないが、放射される一定周波数の音波の流動媒体中での波長の1/2の長さであることが、共振条件の設定、流動によって分離を実行する際の分解能向上等のために好ましい。
【0027】
チャンネル長は、分離チャンネル中に節を1個だけ形成する場合には、上記したように放射される音波の波長に依存する。ただ一般にはチャンネル長は特に限定はなく、0.1mm〜50cmが好ましい。特に好ましくは、0.5mm〜1cmである。
【0028】
また、上下2つの面を形成する2つの壁の厚さ(b)(b)には特に限定はないが、放射される一定周波数の音波の、それぞれ壁の材質中での波長の1/2の長さであることが、分離チャンネルの一方の面から音波を照射した際の音場の制御、共振条件設定等のために特に好ましい。
【0029】
本発明は、分離チャンネル内に、その密度が前記流動媒体の密度より大きい2種以上の混合粒子を下の面に沈降させた状態にしておいて、そこに平均音波エネルギー密度を徐々に大きくしていきながら音波を放射していくことが必要である。
【0030】
ここで、2種以上の混合粒子すなわち分離する粒子の密度は、前記流動媒体の密度より大きく、分離チャンネルの下面に沈降すれば特に限定はないが、少なくとも一方の粒子の密度が、2g/cm以上が好ましく、特に好ましくは5g/cm以上、更に好ましくは7g/cm以上である。本発明は密度の大きい粒子でも精度よく分離ができる。また、2種の粒子の密度差は、1g/cm以下でも、特に0.5g/cm以下でも、それらを精度よく分離できるので、このような混合粒子であることは、本発明の効果が発揮できる点で好ましい。
【0031】
本発明では、音波の平均音波エネルギー密度を徐々に大きくしていくことにより、重力より音響放射力の方が大きくなった粒子から順に下面から上に移動し始めるので、それを利用して分離する。平均音波エネルギー密度は、トランスデューサに印加する電圧で調整できる。
【0032】
本発明では、下の面から最も近い位置にある定在波の節を、放射される一定周波数の音波の流動媒体中での波長の1/4より小さい長さだけ、分離チャンネルの下の面から上に移動した位置に形成させることが好ましい。すなわち、図3において、分離チャンネルの下面から、下面に最も近い定在波の節までの距離Hは、放射される音波の流動媒体中での波長の1/4より小さいことが好ましい。これを満たさない場合は、音響放射力を大きくしても、下方へ力を受けることになり、沈降している粒子は浮揚しない場合がある。
【0033】
図3のAでは、2種の粒子は両方とも沈降している。そこに徐々にトランスデューサへの電圧を上昇させ音響放射力を大きくしていくと、図3のBのような状況になり、音響放射力の方が重力より大きくなった黒色粒子が節に向かって浮揚する。この時、音響放射力の方が重力より小さい白色粒子は沈降したままである。次いで、後述する何らかの方法により浮揚した黒色粒子を取り除き、更に印加電圧を上昇させると、図3のCのようになり、白色粒子も浮揚し分離が完了する。
【0034】
分離チャンネルを構成する分離素子(9b)の具体例を図4に示す。図4では分離チャンネル(3)の上面での音の反射を利用し、分離チャンネル(3)内部に定在波を形成するが、分離チャンネル(3)の上下にトランスデューサを置き、位相差による制御も可能である。
【0035】
壁(11)及び(12)の好ましい厚さは、前記した通りである。そして材質については、音波を伝搬させることが可能で、特に1個のトランスデューサを用いる際は音波を反射しやすいものであれば特に限定はないが、具体的には、ガラス、石英、アルミニウム、ステンレス等が好ましい。スペーサ(13)の材質も寸法安定性、化学的安定性、密封性を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ステンレス等が好ましい。
【0036】
スペーサ(13)は、中が切り取られており、その部分が分離チャンネル(3)を構成する。スペーサ(13)の厚さはチャンネル長である。分離チャンネル(3)の横幅や、鉛直方向に移動した粒子を分離させる水平方向への長さには特に限定はないが、横幅は、5mm〜5cm、後者の長さは、1cm〜1mが好ましい。
【0037】
本発明は、分離チャンネルの下の面に沈降していた2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に分離する必要がある。その方法としては特に限定はないが、流動媒体の水平方向の流動によって分離する方法が好ましい。例えば、図4の分離素子(9)において、分離チャンネル(3)の両端上部に、分離媒体の入口(17)と出口(18)を設け、水等の分離媒体を入口(17)からシリンジポンプ等を用いて導入し長さ方向に流し、分離チャンネル(3)の反対側の出口(18)から流出させる方法が好ましい。
【0038】
また、上下2つの面を傾けることにより、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に重力を利用して分離する方法、遠心力を利用して分離する方法等も好ましい。更に、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に、物理的にすくい取ることにより分離する方法も好ましい。何れもバッチ処理も連続処理も可能である。
【0039】
図5は、本発明の上記分離素子(9)を用いた分離装置(21)の具体例である。正弦波電圧発生装置(22)から電圧をトランスデューサ(1)に印加して、音波を分離チャンネル(3)に放射させる。
【0040】
図5はまた、分離された粒子の検出装置(31)の好ましい具体例をも示しており、更に全体で、好ましい混合粒子の構成分析装置(41)の例を示している。粒子の検出装置(31)は、図5ではCCDカメラが用いられているが、原子スペクトル測定、光吸収、光散乱、電気伝導率、コンデンサーの間に媒体とは誘電率の異なる粒子が流れることによるキャパシタンスの変化による検出等が挙げられる。
【0041】
本発明の原理・作用については以下の通りであるが、本発明の技術的範囲は必ずしもこの原理・作用に限定されるものではない。
【0042】
定在波による音響放射力は、吉岡・川島理論により、音波定在波中で半径Rの粒子に作用する音響放射力Facは以下の式(1)で与えられる。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、kは音波の波数で、2π/λ(λは音波の波長)、Eacは平均音波エネルギー密度で、音波の強さを表すものである。zは音波定在波の節からの距離を表す。Aは以下の式(2)で与えられる。
【0045】
【数2】

【0046】
ここで、ρ、c、γは、それぞれ媒体の密度、音速、圧縮率を表し、上に*のついたものは粒子のそれを表す。図6に音波定在波中において粒子が受ける音響放射力を示す。図6より、全ての粒子は音波定在波場中において定在波節又は腹に凝集することが理解される。本発明では、粒子は音響放射力に加えて、以下の式(3)に示す重力も同時に受けることになる。
【0047】
【数3】

【0048】
ここで、gは重力加速度を示す。従って、音響放射力と重力の複合場中において粒子に作用する力Fcoは以下の式(4)のように表される。
【0049】
【数4】

【0050】
古典力学の考察から、複合場中における粒子凝集位置zは、Fco=0で与えられ、以下の式(5)ようになる。
【0051】
【数5】

【0052】
上記式から、複合場中において粒子の凝集位置は粒子径に関係なく、粒子及び媒体の密度と音速(又は圧縮率)、音波平均エネルギー密度に依存することがわかる。
【0053】
そして、音波平均エネルギーを徐々に増加していって、分離チャンネルの下面から「下面に最も近い節」までの長さHより、上記粒子凝集位置zが小さくなった時点で、その1種の粒子が下面から離れることによって、他の粒子から分離される。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
図2で示される分離チャンネルを用いた。 図2において、a=1.50mm、b=b=5.56mm、c=8.0mmであった。流動媒体としては脱気した水を用いた。また、壁(4)及び壁(5)の材質として溶融シリカを用いた。
【0056】
ここに、488kHzの周波数の音波を、トランスデューサ(1)から放射した。aは、水中でのこの周波数の音波の波長のほぼ1/2であり、b及びbは、溶融シリカ中でのこの周波数の音波の波長のほぼ1/2である。
【0057】
図7に、多層構造の理論を当てはめて計算した分離チャンネル内の定在波を示す。分離チャンネル内に1個の節ができていることが分かった。
【0058】
この分離チャンネル(3)中に、数平均粒径20μm〜30μmの鉄0.05gと数平均粒径8μm〜10μmのステンレス(SUS316L)0.05gを水0.2gに分散させた液を、0.1g入れ、トランスデューサへの印加電圧を徐々に上げていった。
【0059】
平均音波エネルギー密度Eacは、Vをトランスデューサへ印加電圧とすると、
ac=αV
で表され、鉄(密度:7.7g/cm、鉄中での音速 5850m/s(縦波))を標準物質としてαを求めると、平均音波エネルギー密度Eacの単位mJ/m、印加電圧Vの単位Vp−p(ボルト)の時、α=0.097になった。これより、VをEacに換算できる。
【0060】
印加電圧を徐々に上げていって、24.7Vp−pになった時、初めて浮き上がってきた粒子を31.6Vp−pにてすくい取った。その光学顕微鏡写真(100倍)を、図8の(a)に示す。それらは、すべて鉄であり、ステンレスは全く含まれていないことを、色、大きさ等から確認した。一方、45.0Vp−pになった時、初めて下面から浮き上がってきた粒子を51.9Vp−pにてすくい取った。その光学顕微鏡写真(100倍)を、図8の(b)に示す。同様に確認したところ、すべてステンレスであった。このように電圧差が大きかったため両粒子は良好に分離できた。
【0061】
比較例1
実施例1で用いた鉄とステンレスの混合粒子の水分散液を、実施例1で用いたのと同じ分離チャンネルを用いて、十分大きな印加電圧で、一旦両方の粒子を全て、定在波の節近傍まで浮揚させた。次いで、徐々に印加電圧を下げていったが、15.3
p−pでステンレスが、12.2 Vp−pで鉄が沈降しだした。その差は約3Vp−pしかなく、両粒子は同時に沈降することがあり、良好に分離できなかった。
【0062】
なお、鉄の密度ρ=7.7g/cm、鉄中での音速(縦波)5850m/s、A=2.217であるのに対し、ステンレス(SUS316)の密度ρ=7.6g/cm、音速を鉄中の音速と同じと見なすと、A=2.214である。
【0063】
上記した通り、鉄とステンレス間の音響物性(A、γ)にはあまり大きな差がない。粒子を音波によって浮揚し、トラップした後、音波のエネルギーを低下させていくと、徐々にその凝集位置が下がっていき、ある特定の音波エネルギーを下回ると、もはや凝集は起きなくなるが、この限界電圧(限界超音波エネルギー密度)はA値によって支配され、この2種類の粒子間ではほとんど差がない。つまり、一度トラップした後に音波エネルギーを低下させる方法(比較例1)では、これらの粒子を区別することはできなかったと考えられる。それに対して、粒子を沈降させておき、徐々に超音波エネルギーを高めていく方法(実施例1)では、圧縮率より密度による選別能力が高く、一度セルの底に沈降した粒子を浮揚させることによって分離する本発明の方法は、密度が比較的大きな粒子の選別、分離に適していることが分かった。また、金属などの高密度粒子の場合、材料による密度差が大きく、これらの分離するためには本発明が適していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の混合粒子の分離方法は、粒子の大きさによらず、物質の違いに基づく分離が可能であり、また比較的大きな密度を有する2種以上の混合粒子を、優れた分解能で分離することができる。またこの分離方法は、単体金属粒子の分離のみではなく、混合比の異なる合金の分離、セラミックス粒子の焼結度若しくは空隙率の違いによる分離等も可能である。従って、材料科学、医学用装置、廃棄物処理、有用物質の探索等広い分野に応用が可能である。
【0065】
更に、本発明の混合粒子の分離装置に、分離された粒子の検出装置を備えることによって、物質の分離分割以外に、混合粒子の構成を分析する装置にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】2個のトランスデューサを用い、音波の位相差を変えた時の、分離チャンネル内の音波定在波プロファイルを示す図である。
【図2】1個のトランスデューサを用いた混合粒子の分離素子の構造の一例を示す図である。a:チャンネル長 b、b:2つの面を形成する壁の厚さ
【図3】分離チャンネル(チャンネル長L)内の音波定在波の節の好ましい位置Hと、混合粒子の分離方法を示した図である。
【図4】分離素子の構造の一例を示す図である。
【図5】本発明の混合粒子の分離方法を利用した分離装置と検出装置を示す図である。
【図6】音波定在波場中における粒子が受ける音響放射力を示す図である。 A:A>0の時の音響放射力プロファイル B:A<0の時の音響放射力プロファイル C:音波定在波プロファイル
【図7】チャンネル長を、流動媒体(水)中での放射音波の波長の1/2に、壁の厚さを、壁材(溶融シリカ)中での放射音波の波長の1/2に設定した時の、音波定在波プロファイルを示す図である。
【図8】実施例1によって分離された粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 (a)鉄 (b)ステンレス
【符号の説明】
【0067】
1 下面のトランスデューサ
2 上面のトランスデューサ
3 分離チャンネル
4 2つの面を形成する下の壁
5 2つの面を形成する上の壁
9a 2個のトランスデューサを用いた分離素子
9b 1個のトランスデューサを用いた分離素子
11 下の壁を形成する板
12 上の壁を形成する板
13 分離チャンネルを構成するスペーサ
15 分離素子を挟む補強板
17 流動媒体の入口
18 流動媒体の出口
21 分離装置
22 正弦波電圧発生装置
23 電圧計
31 分離された粒子の検出装置
32 ビデオキャプチャボード付きコンピュータ
33 CCDカメラ
34 レンズ
41 混合粒子の構成分析装置
以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定距離をもって水平に位置づけられた上下2つの面の間に流動媒体を満たし、その密度が流動媒体の密度より大きい2種以上の混合粒子が下の面に沈降した状態で、一定周波数の音波を前記2つの面のうち少なくとも1つの面から放射して前記2つの面の間に音波の定在波における節を形成し、音波の平均音波エネルギー密度を徐々に大きくしていって、下の面に沈降していた前記2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に分離する混合粒子の分離方法。
【請求項2】
一定周波数の音波が、前記水平に位置づけられた上下2つの面を形成する2つの壁のそれぞれ外側に密着された2個のトランスデューサから放射されたものである請求項1記載の混合粒子の分離方法。
【請求項3】
下の面から最も近い位置にある定在波の節を、放射される一定周波数の音波の流動媒体中での波長の1/4より小さい長さだけ、下の面から上に移動した位置に形成させる請求項1又は請求項2記載の混合粒子の分離方法。
【請求項4】
水平に位置づけられた上下2つの面の間に、音波の定在波における節を1つだけ形成する請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項5】
上の面の外側に密着されたトランスデューサから放射される音波の位相を、下の面の外側に密着されたトランスデューサから放射される音波の位相に対して変化させる請求項2ないし請求項4の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項6】
音波の一定周波数が、100kHz〜1000kHzの範囲である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項7】
水平に位置づけられた上下2つの面の一定距離が、放射される一定周波数の音波の流動媒体中での波長の1/2の長さである請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項8】
2つの面を形成する2つの壁の厚さが、放射される一定周波数の音波の、それぞれ壁の材質中での波長の1/2の長さである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項9】
流動媒体が水である請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項10】
分離される混合粒子が、密度2g/cm以上の2種以上の粒子を含有するものである請求項1ないし請求項9の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項11】
2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に、流動媒体の水平方向の流動によって分離する請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項12】
2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に、上下2つの面を水平方向から傾けることにより分離する請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項13】
2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に、遠心力を利用して分離する請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項14】
2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に、物理的にすくい取ることにより分離する請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の混合粒子の分離方法。
【請求項15】
一定距離をもって水平に位置づけられた上下2つの面の間に流動媒体を満たし、その密度が流動媒体の密度より大きい2種以上の混合粒子が下の面に沈降した状態で、一定周波数の音波を前記2つの面のうち少なくとも1つの面から放射して前記2つの面の間に音波の定在波における節を形成し、音波の平均音波エネルギー密度を徐々に大きくしていって、下の面に沈降していた前記2種以上の混合粒子のうち、先に鉛直上方向に移動しだした粒子から順に分離する方法用のものであることを特徴とする混合粒子の分離素子。
【請求項16】
少なくとも正弦波電圧発生装置、トランスデューサ及び請求項15記載の混合粒子の分離素子を備えたことを特徴とする混合粒子の分離装置。
【請求項17】
少なくとも正弦波電圧発生装置、トランスデューサ、請求項15記載の混合粒子の分離装置及び分離された粒子の検出装置を備えたことを特徴とする混合粒子の構成分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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