説明

混練装置および磁性塗料の製造方法

【課題】混練前の湿潤時では、クリアランスが大きすぎ、混練後の希釈時にはクリアランスが小さすぎるという問題点をなくし、均一な混練が行え、効率よく混練作業が行える混練装置を提供することを目的とする。
【解決手段】混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した2本のロータを備える混練装置において、前記混練槽の底面部と前記ロータの回転軸との距離が変更可能に構成することを特徴とする混練装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練装置に関し、特に、良好な混練が行える混練装置およびこれを用いた磁性塗料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中、高粘度から超高粘度材料の混練、捏和処理は、混練槽内に混練材料を入れ、混練槽内に並列に設置され、強力に反対方向に回転するブレ−ド(ロータ)を備えた混練装置(例えば特許文献1など)で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−305514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の混練装置では、混練時のせん断力が最適になるように混練槽底面部とロータ翼とのクリアランスを設定されていたが、そのため、混練前の湿潤時では、クリアランスが大きすぎ、混練後の希釈時にはクリアランスが小さすぎるという問題点があり、混練品質や作業効率が低下する傾向があった。
【0005】
本発明では、均一な混練が行え、効率よく混練作業が行える混練装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、混練装置について鋭意検討した結果、混練装置を下記の構成にすれば、均一で良好な混練が行え、効率よく混練作業が行える混練装置を提供できることを見出して本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した2本のロータを備える混練装置において、前記混練槽の底面部と前記ロータの回転軸との距離が変更可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した2本のロータを備える混練装置において、前記混練槽の底面部と前記ロータの回転軸との距離が変更可能に構成されているために、混練槽の底面部分における、ロータ翼と槽内面とのクリアランスを、混練材量の種類、混練目的に応じて、変えることができるので、幅広い材料の混練に対応することができて、かつ全混練工程中に、クリアランスを変更できるので、均一で良好な混練が行え、効率よく混練作業が行えて磁気特性の良好なシートが得られる磁性塗料が製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来の代表的な一例の混練装置の断面構造図である。
【図2】本発明の、一例の混練装置の断面構造図である。
【図3】全混練工程における一例の混練装置の負荷電流値の変化を示す説明図である。
【図4】各実施例、比較例により得られた磁気シートの磁性層の表面写真である。
【0010】
(a)実施例1
(b)比較例1
(c)比較例2
(d)比較例3
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の混練装置について説明する。図1に従来の代表的な一例の混練装置の断面構造図を示す。従来の混練装置1aは、混練材料を収容する混練槽10の内部に、混練槽に収容された混練材料を混練する並列した2本のロータ2を備えている。ロータ2は、ロータ軸2aとロータ翼2bとから構成されており、図に示した矢印の方向に回転して、混練材料を混練する。ロータ2が回転するとロータ翼22の最外部は円筒面(図1の一点鎖線)を描くが、この円筒面と混練槽10の内面は所定のクリアランスd1を保つように設計されている。また、二つのロータの円筒面は外周面が重ならず、所定のクリアランスd2を保つように設計されている。クリアランスd2は、大きいほうが混練後の希釈分散が均一に行い易い。
一般的に、クリアランスd1は、大きいと混練材料の混合効率が良くなるが、材料に大きなせん断力は掛けられなくなり、小さいと材料に大きなせん弾力が掛けられるために、材料を分散する力は大きくなるが、混合効率が低下するという傾向があるため、使用する混練材量の種類、混練目的に応じて、適宜設計されている。
【0012】
本発明の混練装置はこのような問題に対応するもので、図面に基づいて以下具体的に説明する。図2に本発明の、一例の混練装置の断面構造図を示す。本発明の混練装置1bは、ロータ2の構成は、従来のものと同様である。
【0013】
混練槽10の底面部の構造が、従来のものと異なり、上下に移動可能な可動型底面部100として構成されている。
【0014】
可動型底面部100は、可動ネジ110を介して混練槽10と連結されている。このため、混練材量の種類、混練目的に応じて、可動ネジ110を回すことにより、ロータ2の回転軸と可動型底面部100との距離、すなわちロータ2の描く円筒面と底面とのクリアランスd3を変えることができる。d3は、通常d1と等しくなるように設定されている。
また、本発明の混練装置1bは、湿潤工程、混練工程、希釈工程からなる全混連工程の各工程において、クリアランスd3を最適化して、混練を行なうことができるので。均一で良好な混練が行え、効率よく混練作業が行える。
図3に、全混練工程における混練装置の負荷電流値の一例を示す。この図に基づいて、各工程について説明する。
湿潤工程においては、粉体材料と樹脂液とが、混合撹拌され、粉体表面が有機溶剤で濡らされる。この状態では、材料はさらさらした状態で混合撹拌されており負荷電流値は小さい。その後、湿潤が進むと大きな負荷が掛かり、全混練工程中で最大の負荷電流が流れる。この時、材料は粉体状態から塊り状に変化する過程にある。その後、負荷電流が低下すると共に、材料は練り物状に変化する。この状態で、ほぼ、一定の負荷電流で、所定の時間粉末材料と樹脂液を練り上げる(混練工程)、混練工程が終了すると、有機溶媒を徐々に滴下し混練物の粘度を低下させて、取り出し易くする(希釈工程)、この間負荷電流は徐々に小さくなる。所定の固形分濃度まで希釈したところで、希釈工程が終了し、全混練工程が終了する。
【0015】
例えば、湿潤工程においては、d3<d1とすることにより、底面側にある混練物はロータ翼で剪断を受けてかつ内側側壁に上げられるので、湿潤時に回転時するロータ翼2bが描く円筒面と混練槽の内側壁面との間に形成され易い不動層(内側壁面に張り付いているだけで、動かない材料層)の形成を抑制することができる。このため、最終塗料の小凝集物が少なくなる。
混練工程においては、d3=d1とすることにより、混練物はロータ翼2bの外周面と混練槽10の底面部および側面部との間で均一なせん断力でに混練されるので、スムーズな混練が行なえる。このため、最終塗料の品質が向上し。磁性層の角型比、SFDが向上する。
希釈工程においては、d3>d1とすることにより、希釈で加える有機溶剤と混練物の混合が容易に行なわれるようになるため、希釈ムラによる大きなダマの発生が抑制される。このため、最終塗料の大凝集物が少なくなる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は、重量部である。また、実施例および比較例中の平均粒子径は、数平均粒子径である。
【0017】
実施例1
(1)混練工程成分
・金属磁性粉末 (平均粒子径35nm) 100部
・塩化ビニル系共重合体 25.6部
(日本ゼオン社製MR−555)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 7.7部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
・フェニルホスホン酸 4.6部
・トルエン 163部
・シクロヘキサノン 163部
(2)希釈工程成分
・トルエン 305部
・シクロヘキサノン 305部

(1)の混練工程成分を図2で示した混練機(混練容量50L、d1=2.5mm、)で混練した。
さらに希釈成分を加え希釈をして、磁性塗料としPETフイルム上に簡易アブリケータで塗布し評価用磁気シートを作製した。
【0018】
全混練工程中、湿潤工程においては、d3=1.5mm、混練工程中は、d3=2.5mm、希釈工程中は、d3=3.5mmに、d3の寸法を調整した。
【0019】
比較例1〜3
混練機を図1のものに変更し、d1を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして、評価用磁気シートを作成した。
得られた磁気シートは下記の方法で評価し、その結果を表に示した。

〈磁性層の表面写真〉
偏光顕微鏡を用いて、倍率200倍で撮影した。図4(a)は実施例1の表面写真、図4(b)は比較例1の表面写真、図4(c)は比較例2の表面写真、図4(d)は比較例3の表面写真である。

〈磁気層の表面粗さRa〉
評価用磁気シートの磁性層をZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmで測定した。測定視野は、350μm×260μmである。磁性層の中心線平均表面粗さをRaとして求めた。

〈磁気特性〉
評価用の磁気シートに、外部磁場0.8MA/m(10kOe)をかけ、常法に従って、長手方向(磁場配向方向)の磁気特性(角型比(Br/Bm)、異方性磁界分布(SFD))を測定した。測定には、東英工業製の試料振動型磁束計VSM−P7を用いた。
【0020】
表1および図4に評価結果を示した。
〈表1〉

【0021】
実施例で作成した磁気シートは、全混練工程中に、混練槽の底面とロータ翼とのクリアランスを変更した。すなわち、湿潤工程はd3<d1、混練工程ではd3=d1、希釈工程においてはd3>d1の条件に変化して磁性塗料を作製した。したがって、得た磁気シートの特性は、図4からわかるように比較例の磁気シートより凝集物が少なく、表1に示すRaの値も小さい。また、比較例より表1に示した磁気特性においても、角型比(Br/Bm)は大きく、SFDは小さくて良好であることがわかる。
【0022】
比較例はいずれもクリアランスが固定の混練装置を用いたものであるが、この中でも本発明での塗料系ではd3=2.5mmの場合が均一な剪断力で混練できる最適条件に近いようで比較例2が角型比は良好であった。しかし、クリアランスの小さい比較例1の方が
RaとSFDは良好である。クリアランスが一番広い比較例3は、凝集の度合いも大きく磁気特性も劣ることがわかる。
【符号の説明】
【0023】
1a 従来の混練装置
1b 本発明の一例の混練装置
2 ロータ
2a ロータ軸
2b ロータ翼
10 混練槽
100 可動型底面部
110 可動ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した2本のロータを備える混練装置において、前記混練槽の底面部と前記ロータの回転軸との距離が変更可能に構成されていることを特徴とする混練装置。
【請求項2】
非磁性支持体上に磁性塗料を塗布してなる磁気記録媒体の製造方法であって、該磁性塗料が磁性粉末と結合剤と有機溶媒とを含む磁性塗料原料を請求項1に記載の混練装置で混練する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−121015(P2011−121015A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282334(P2009−282334)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】