説明

添加剤

【課題】、印刷インキに加える添加剤組成物、およびそれらを用いた積層体に関するものであり、さらに詳しくは各種プラスチックフィルムに印刷インキを印刷後、接着層を介しシーラントフィルムでサンドイッチされたラミネート構成物において、インキ層に添加する添加剤の提供。
【解決手段】テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートを含んでなる多官能アジリジン化合物と、多官能イソシアネート化合物とを反応させてなる一分子中にアジリジニル基と、イソシアネート基とを有することを特徴とする引き裂き性向上添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキに加える添加剤組成物、およびそれらを用いた積層体に関するものであり、さらに詳しくは各種プラスチックフィルムに印刷インキを印刷後、接着層を介しシーラントフィルムでサンドイッチされたラミネート構成物において、インキ層に添加する添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラミネート構成物は包装容器分野に多く用いられるが、包装容器の場合、内容物を取り出すため容器を開封する必要がある。一般市場において、開封は人間の手によって行われることが多く、その際に鋏等の器具を用いずに容器を引き裂いて開封出切ることは、利便性の面で大きなメリットとなる。ここで包装容器の引き裂き性が悪いと開封時に力が要る・思わぬ方向に切れてしまい内容物がこぼれるといった問題を生じるため、包装容器分野のラミネート構成物では、良好な引き裂き性が求められる。
【0003】
引き裂き性を付与する従来技術として、例えばフィルム端面を切れ込みを入れる等の工夫をし引き裂けるきっかけを作る方法があるが、このような方法では、引き裂き始めの改善にはなるものの、フィルム面そのものが引き裂きにくいと、途中でひっかかる・直線的に引き裂けないという事態を生じる。
【0004】
また、包装容器は内容物の表示ならび意匠性のために印刷インキにより描画されている場合が多いが、一般にインキ上は接着層とインキ層との結合力が無地部より劣るため引き裂き性が劣る。フィルム面の引き裂き性を向上するための手段として特開2008−274061に示されるように接着層を硬くすることで引き裂き性が向上することが知られているが、インキ部、無地部が混在する場合、接着層をインキ上で引き裂ける硬さにすると非画線部が硬くなりすぎ物性バランスがとれず、無地部に合わせるとインキ上で引き裂き性が劣ることになる。
【0005】
ラミネート構成物のフィルム全面でのスムースな引き裂き性を付与するのためには、インキ部の引き裂き性を向上し無地部の引き裂き性と近づけることが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274061
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
印刷されたラミネート構成物においてインキ部の引き裂き性を向上し、フィルム面全体のスムースな引き裂き性を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インキ層と接着層の両層と効率的に反応し両層を一体化させることでインキ層と接着層の界面剥離を抑制し、インキ部の引き裂き性を向上する添加剤にかんするものである。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、
テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートを含んでなる多官 能アジリジン化合物と、
多官能イソシアネート化合物と
を反応させてなる
一分子中にアジリジニル基と、
イソシアネート基と
を有することを特徴とする引き裂き性向上添加剤に関するものである。
【0010】
また、本発明の第2の発明は、
前記多官能イソシアネート化合物が、
イソホロンジイソシアネート、
イソホロンジイソシアネート由来のビウレット体、
イソホロンジイソシアネート由来のアロファネート体、
イソホロンジイソシアネート由来のウレトジオン体、
イソホロンジイソシアネート由来のヌレート体、
イソホロンジイソシアネート由来のアダクト体、
および
イソホロンジイソシアネート由来の末端NCO基を有するポリイソシアネートとポ リオールとからなるプレポリマー
から選ばれる1種類以上であることを特徴とする上記の引き裂き性向上添加剤に関するものである。
【0011】
さらに、本発明の第3の発明は、基材フイルム、インキ層、接着層およびシーラントフイルムの順に積層する易引き裂き性構成物において、
接着層が、
カルボキシル基を有する化合物
を含み、
インキ層が、
アミノ基および/または水酸基を有する化合物
ならびに
請求項1または2に記載の引き裂き性向上添加剤
を含んでいることを特徴とする易引き裂き性構成物に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の添加剤を用いることで、インキ上でも良好な引き裂き性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添加剤製造に使用される多官能アジリジン化合物としては、イソシアネート化合物との反応性からテトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートを含むことが必要である。アジリジニル基がイソシアネート基と部分的に反応することを考慮すれば、3−(1−アジリジニル)プロピオネート、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジニル基を2つ以上有する多官能アジリジン化合物を用いればよいが、イソシアネート基との反応を確実に行うため分子中に水酸基をひとつ以上有するものがよい。
【0014】
添加剤製造に使用されるイソシアネート化合物としては、一般に使用される多官能イソシアネート化合物が使用できるが、アジリジニル基がイソシアネート基と反応性を有するため、反応性の高いイソシアネート化合物を用いると、合成中のゲル化を生じやすく、また合成後のポットライフという面でも実用性に劣ることとなる。そのため、添加剤の生産性およびポットライフからイソホロンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネート由来のビウレット体、アロファネート体、ウレトジオン体、ヌレート体またはアダクト体であるか、イソホロンジイソシアネート由来の末端NCO基を有するポリイソシアネートとポリオールとからなるプレポリマーである。
【0015】
多官能アジリジン化合物、多官能イソシアネート化合物のほかに、反応の安定化・インキ中での相溶性の向上等のため、通常のウレタン樹脂合成に用いられるポリエーテルやポリエステル等のポリオール成分を併用したり、インキ添加後の反応性向上のためトリメチロールプロパン等の多官能アルコールをゲル化等を生じない範囲で併用してもよい。
【0016】
添加剤の段階でイソシアネート基が残っていることが必要のため、合成に際し水酸基モル数<イソシアネートモル数であることが必要である。
【0017】
その他の合成条件は通常のウレタン合成の条件に準じ、例えば窒素還流下で60℃〜90℃で1時間〜10時間攪拌を行いイソシアネート基と水酸基を反応させる。その際に合成時の粘度低下、温度の過上昇防止のため、イソシアネート基やアジリジニル基と反応性を有しない、例えば酢酸エチル等のエステル類、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエンといった溶剤を併用してもよい。また、反応を効率よく進行させるため、2−エチルヘキシル酸第1錫等のウレタン化触媒を使用してもよいが、添加剤がイソシアネート残基を有しているため経時保存でのゲル化の原因となるので注意が必要である。一般にテトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートを含んでなる多官能アジリジン化合物は水酸基が0〜4の混合物であるため、未反応のアジリジン化合物およびイソシアネート化合物の諸物性への影響を考慮する必要がある。
【0018】
ラミネート構成物において、この添加剤を使用し引き裂き性を向上するためには、インキ中に本発明の添加剤と、同時にイソシアネート基と反応しうるアミノ基および/または水酸基が存在することが必要であり、反応速度の観点から1級もしくは2級のアミノ基が望ましい。インキ層中の官能基は添加剤と反応後、引き裂き時に加えられる物理力に抗する必要があるため、高分子量成分、例えばインキバインダー樹脂の末端等に存在するのが望ましい。また接着剤中に添加剤のアジリジニル基と反応しうるカルボキシル基が必要であり、やはり引き裂き時の物理力に抗するため主剤末端等に存在するのが望ましい。
【0019】
インキ中にカルボキシル基、接着剤中にアミノ基および/または水酸基の組み合わせでこの添加剤を使用しても同様の効果が期待できるが、概して接着剤中へのアミノ基の導入は、接着剤に添加する多価イソシアネート硬化剤との反応が早すぎるためにゲル化・濁りを生じる。
【0020】
本発明の添加剤はインキ中に添加し使用するのが好ましく、添加量はインキ100部に対し2〜10%添加が望ましい。これより少ないと効果が十分でなく、これより多くなると耐ブロッキング性等の諸物性が低下する。
【0021】
本発明の添加剤を接着剤に添加する使用方法でも同様の効果が期待できるが、この場合、添加剤成分が無地部にも配置されるため、インキ上の引き裂き性向上という目的に対しては効率が悪く、また添加剤イソシアネートの反応が接着剤硬化剤のイソシアネートとの競争反応になるため効果は劣る。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例で限定されるものではない。なお例中「部」とは重量部を、「%」は重量%を示す。
【0023】
[合成例]
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート131.6部、イソホロンジイソシアネート68.4部、酢酸エチル200部を仕込み、窒素雰囲気下攪拌しながら昇温し120℃で2時間反応を行い添加剤溶液1を得た。取り出し後は湿気を避け冷蔵庫中で保存した
【0024】
[製造例1]
樹脂末端にイソシアネート基と反応しうるアミノ基を有するウレタン・ウレア樹脂をインキバインダーとして用いている東洋インキ製造株式会社製の軟包装用印刷インキN839ファインスタースープ白100部に、酢酸n−プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比75/25)50部を希釈溶剤として添加混合し、さらに合成例1で示した添加剤溶液1を7部加えよく攪拌し希釈印刷インキ(W01)とした。
【0025】
[製造例2]
添加剤溶液1を4部加える以外は製造例1と同様の方法で印刷インキ(W02)を得た。
【0026】
[製造例3]
添加剤溶液1を25部を加える以外は製造例1と同様の方法で印刷インキ(W03)を得た。
【0027】
[製造例4]
製造例1の添加剤溶液1の代わりに多価イソシアネート硬化剤(イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)5部を加える以外は同様の方法で印刷インキ(W04)を得た。
【0028】
[製造例5]
製造例1の添加剤溶液1の代わりにテトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート3部を加える以外は同様の方法で印刷インキ(W05)を得た。
【0029】
[製造例6]
N839ファインスタースープ白100部に、酢酸n−プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比75/25)50部を希釈溶剤として添加混合し印刷インキ(W06)とした。
【0030】
[実施例1]
希釈インキ(W01)を版深35μmグラビア版を備えたグラビア印刷機により、コロナ処理ナイロンフィルム(NY)に印刷して60℃で乾燥し印刷物を得た。得られた印刷物について、ラミネート接着剤として東洋モートン株式会社製TM−550(測定酸価14mgKOH/g)およびイソシアネート硬化剤(東洋モートン株式会社製CATRT−37)を用い通常の工程でPEシーラントフィルムとラミネートし、50℃で60時間エージングしたのち、引き裂き性を評価した。
【0031】
<引き裂き性の評価>
引き裂き性の評価は印刷部端、印刷に対し垂直方向にカッターできっかけを入れ、手で引き裂きを行い評価した。
引き裂き性の評価基準は以下の通りで、実用レベルは△以上である。
(評価基準)
◎ :抵抗なく引き裂ける
○ :若干抵抗はあるが引き裂ける
△ :シーラントの伸びを若干生じるがなんとか引き裂ける
△×:引き裂き始めおよび/または途中で明らかなシーラントの伸びを生じる
× :全く引き裂けない
【0032】
<耐ブロッキング性>
インキ印刷物の一部を取り出し、4cm×4cmにサンプリングし、このサンプルの印刷面と同じ大きさの未印刷フィルムの非処理面とを合わせて、40℃12時間、10kgfの加圧を行い、サンプルを剥離した時の、インキ取られと抵抗感とを観察し、耐ブロッキング性の評価とした。評価基準は以下の通りで、実用レベルは△以上である。
(評価基準)
◎ :印刷物からインキの転移が全く認められず、剥離時の抵抗感もなかった。
○ :印刷物からインキの転移が全く認められなかった。
△ :印刷物からインキの転移がわずかに認められた。
△×:印刷物からインキの転移が、面積にして50%程度認められた。
× :印刷物からインキの転移が、全面で認められた。
【0033】
[実施例2,3]
実施例1と同様の方法で希釈インキ(W02)、希釈インキ(W03)を印刷からラミネートを行い、同様に引き裂き性と耐ブロッキング性とを評価した。
【0034】
[比較例1〜3]
実施例1と同様の方法で希釈インキ(W04)、希釈インキ(W06)、希釈インキ(W06)を印刷からラミネートを行い、同様に引き裂き性と耐ブロッキング性を評価した。
【0035】
[参考例]
本発明はインキ部の引き裂き性を無地部の引き裂き性に近づけることでフィルム全面でのスムースな引き裂き性を得ることを目的としているので、参考として上記条件でラミネートを行った非印刷部についても実施例1と同様の方法で引き裂き性評価した。
【0036】
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートを含んでなる多官 能アジリジン化合物と、
多官能イソシアネート化合物と
を反応させてなる
一分子中にアジリジニル基と、
イソシアネート基と
を有することを特徴とする引き裂き性向上添加剤。
【請求項2】
前記多官能イソシアネート化合物が、
イソホロンジイソシアネート、
イソホロンジイソシアネート由来のビウレット体、
イソホロンジイソシアネート由来のアロファネート体、
イソホロンジイソシアネート由来のウレトジオン体、
イソホロンジイソシアネート由来のヌレート体、
イソホロンジイソシアネート由来のアダクト体、
および
イソホロンジイソシアネート由来の末端NCO基を有するポリイソシアネートとポ リオールとからなるプレポリマー
から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1記載の引き裂き性向上添加剤。
【請求項3】
基材フイルム、インキ層、接着層およびシーラントフイルムの順に積層する易引き裂き性構成物において、
接着層が、
カルボキシル基を有する化合物
を含み、
インキ層が、
アミノ基および/または水酸基を有する化合物
ならびに
請求項1または2に記載の引き裂き性向上添加剤
を含んでいることを特徴とする易引き裂き性構成物。

【公開番号】特開2012−126793(P2012−126793A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278354(P2010−278354)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】