説明

清掃用水解性ウェットシート

【課題】樹脂や陶器部分等の対象物表面を拭き取りする際、拭き取り面に良好な防汚皮膜を施すことができる清掃用水解性ウェットシートを提供する。
【解決手段】上記課題は、水解性繊維集合体からなるシート基材に対して100〜300重量%の水性含浸液が含浸された清掃用水解性ウェットシートにおいて、水性含浸液は、水を80〜95重量%、水分の除去により剥離性シリコーン皮膜を形成するシリコーンを0.1〜4.5重量%を含むことにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレの清掃等に用いられる清掃用水解性ウェットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水洗トイレの清掃には、水解性の繊維集合シートに洗浄剤等を含む含浸液を含浸させてなる清掃用水解性ウェットシートを使用することが多くなっている。このような水解性ウェットシートは、便座、蓋、水タンク、便器等の樹脂、金属、陶器部分を拭いた後、便器内に投棄して水洗式で流すことができ、廃棄容易性の点で好まれているものである。
【0003】
また、ウェットシートに防汚剤を含浸させておき、ウェットシートを便器内の水溜まりに投棄することで、防汚剤が水溜まり部の壁面に付着堆積してコーティング層を形成し、汚れが付着するのを防止することも、本出願人により提案されている(例えば特許文献2参照)。その後の研究において、このような防汚剤を含有させたウェットシートは、水溜り部のみならず拭き取り対象にも防汚剤が付着し、防汚効果が発現することが判明している。
【0004】
しかしながら、この従来の清掃用水解性ウェットシートは、水溜り部以外の部分に防汚皮膜を施すものではなかったため、拭き取り対象に防汚皮膜を施す場合、均一且つ十分な皮膜を形成できないことがある等、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3574318号
【特許文献2】特開2006−307389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、樹脂や陶器部分等の対象物表面を拭き取りする際、拭き取り面に良好な防汚皮膜を施すことができる清掃用水解性ウェットシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
水解性繊維集合体からなるシート基材に対して100〜300重量%の水性含浸液が含浸された清掃用水解性ウェットシートにおいて、
前記水性含浸液は、水を80〜95重量%、水分の除去により剥離性シリコーン皮膜を形成するシリコーンを0.1〜4.5重量%含むものである、
ことを特徴とする清掃用水解性ウェットシート。
【0008】
(作用効果)
本発明の清掃用水解性ウェットシートでは、樹脂や陶器部分等の対象物表面の拭き取りを行うだけで、水性含浸液が対象物表面に満遍なく付着し、水分の蒸発により剥離性シリコーン皮膜が形成される。以降は、剥離性シリコーン皮膜の撥水性により、対象物表面に汚れが付着し難くなり、また付着したとしても容易に拭き取ることができる。さらに、この剥離性シリコーン皮膜が形成された状態で、再度、本発明の清掃用水解性ウェットシートで拭き取りを行うと、皮膜ごと汚れを取り除いた上で、新たに剥離性シリコーン皮膜を形成することができる。
【0009】
<請求項2記載の発明>
前記シリコーンは、その一部又は全部が、水分の除去により剥離性シリコーン皮膜を形成するシリコーン水性エマルジョンとして前記水性含浸液中に含有されている、請求項1記載の清掃用水解性ウェットシート。
【0010】
(作用効果)
これは当初予想していなかったことであるが、後述する香料のように、水性エマルジョン化したとしても不安定で分離し易い他の油性成分を添加する場合、シリコーンをシリコーン水性エマルジョンとして添加すると、他の油性成分の水性エマルジョンの安定性が高まるという利点ももたらされる。油性成分の水性エマルジョンが分離し易いものであると、シート中の油性成分によりシート内に水が浸入し難くなり、水解性が低下するおそれがある。
【0011】
さらに、防汚成分であるシリコーンは水性エマルジョンの形態でシート中に含有されるため、シート基材による保持性、対象物表面の転写性に優れるだけでなく、防汚成分であるシリコーンの撥水性によりシートの水解性が低下するといった事態も発生し難くなる。
【0012】
<請求項3記載の発明>
前記水性含浸液は、油性香料を0.1〜2重量%含有し、且つこの油性香料の一部又は全部が水性エマルジョンとして前記水性含浸液中に含有されている、請求項2記載の清掃用水解性ウェットシート。
【0013】
(作用効果)
水性含浸液中にシリコーンを水性エマルジョンの形態で含有する場合、油性香料の水性エマルジョンを水性含浸液に含有させても、シリコーン水性エマルジョンの存在により、油性香料のエマルジョンが安定し分離し難い。よって、本発明では、水性香料だけでなく油性香料も好適に用いることができ、香料選択の幅が広いものとなる。
【0014】
<請求項4記載の発明>
前記水性含浸液は、水性洗浄剤として低級アルコールを2〜8重量%、及び脂肪族アルコールを0.5〜6重量%含有し、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を含有せず、且つエマルジョンの乳化剤として非イオン性界面活性剤を含有する、請求項2又は3記載の清掃用水解性ウェットシート。
【0015】
(作用効果)
本発明の清掃用水解性ウェットシートは清掃効果を高めるために、水性洗浄剤を含有するのが好ましい。しかし、水性含浸液中にシリコーンを水性エマルジョンの形態で含有する場合、洗浄効果を付与するために、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を含有させると、シリコーンエマルジョンの安定性が低下し、シート中に残留するシリコーンの撥水性によりシート内に水が浸入し難くなり、水解性が低下するおそれがある。よって、上述のように、水性洗浄剤として界面活性剤ではなく低級アルコール及び脂肪族アルコールを用い、さらにイオン性を有する界面活性剤は用いないのが好ましい。なお、「乳化剤」とは、シリコーン水性エマルジョンに限らず、他の成分のエマルジョンにおける乳化剤も含む意味である。
【0016】
<請求項5記載の発明>
前記水性含浸液は、パラベン類からなる防腐剤を0.1〜0.5重量%、塩化ベンザルコニウムを0.1〜0.5重量%、ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物を0.05〜1重量%含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の清掃用水解性ウェットシート。
【0017】
(作用効果)
清掃用水解性ウェットシートのような製品は、多数枚が密閉容器に封入された状態で販売され、製造後から全てのシートを使いきるまで長期間の保管が必要となるため、防腐剤や除菌剤を含有するのが好ましく、特に上述の防腐剤、除菌剤の組み合わせは、効果に優れるとともに、エマルジョンの安定性にも影響が無いため好ましい。
【0018】
<請求項6記載の発明>
前記シート基材は、木材パルプを主体としバインダーを実質的に有しない内層と、木材パルプを主体としバインダーを有する両外層とからなる積層体であり、
前記各外層はバインダーとしての繊維状ポリビニルアルコールを外層繊維重量に対し0.5〜8重量%含有するものであり、
前記水性含浸液はホウ酸を0.5〜8重量%含有するものである、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の清掃用水解性ウェットシート。
【0019】
(作用効果)
このようなシート基材は、内層がバインダーを実質的に有せず、木材パルプを主体としたものであるから、水解性に優れる。これに対し、両外層はバインダーを有する水解性繊維シートであるので、バインダーの存在により、水解性は低いものの、繊維相互が結合され、引張強度や表面強度に優れたものとなる。そして、上述のような三層構造を採用すると、水解に際して、内層が、バインダーを実質的に有せず水解性に優れるものであり、まずこの内層が水解するので、その後に両外層も続いて水解または分散するようになり、強度と水解性との両者を同時に満足するものとなる。
【0020】
特に、ポリビニルアルコールとホウ酸の交差結合を利用し、ポリビニルアルコールが少量の水に対しては不溶性または難溶性にしたものをバインダーとした場合、含浸液による湿潤状態ではバインダー機能を十分に発揮するものの、これがトイレに流す際などの大量の水と接触する場合、交差結合が解かれ、水溶性を示すものとなり、水解または分散するようになる。
【0021】
しかも、液状のポリビニルアルコールを使用するのではなく、繊維状ポリビニルアルコールを使用することにより、繊維シートを抄造する段階で、木材パルプと繊維状ポリビニルアルコールとの両者を抄造でき、繊維状ポリビニルアルコールを厚み方向全体に均一に分散できる。したがって、少量の繊維状ポリビニルアルコールの使用量でも十分なバインダー効果により必要な強度を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のとおり、本発明によれば、良好な水解性及び水性含浸液の安定性を確保しつつ、樹脂や陶器部分等の対象物表面を拭き取りする際、拭き取り面に良好な防汚皮膜を施すことができるようになる、等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】清掃用水解性ウェットシートの断面図である。
【図2】試験方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳説する。
<シート基材>
含浸液を保持するシート基材としては、水解性を有する繊維集合体であれば特に限定されないが、単層又は複数層の紙又は不織布を好適に用いることができる。これらの紙又は不織布には必要に応じてバインダーを添加することができる。原料繊維は、天然繊維でも合成繊維でも良く、これを混合することも可能である。好適な原料繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、レーヨン、コットン等のセルロース系繊維、ポリ乳酸等からなる生分解性繊維等を挙げることができる。また、これらの繊維を主体としてポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニールアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリニトリル繊維、合成パルプ、ガラスウール等を併用することができる。
【0025】
ただし、トイレを掃除した後、そのままトイレ内に廃棄できるように、シート基材は水解性を有する必要がある。具体的に、シート基材の水解性は、JIS P 4501−1993に準じて測定されるほぐれやすさが500秒以内であるのが好ましい。
【0026】
特に好ましいシート基材は、図1に示すように、内層シート1の両面に、外層シート2,2が積層され、圧着により一体化されたものである。内層シート1は、木材パルプを主体とした水解性の繊維シートであり、叩解パルプ、未叩解パルプのいずれでもよいが、好ましくは未叩解パルプである。原料となるパルプが未叩解であると、水解性に優れる。原料となるパルプは、特にその種類を限定するものではないが、NBKPとLBKPとを、その重量比が95:5〜50:50となるように使用するのが好ましい。さらに、バインダーを実質的に含有させないものである。必要により、バインダーを0.2%以下であれば、水解性を阻害しない。
【0027】
外層シート2,2は、叩解パルプ、未叩解パルプのいずれでもよいが、好ましくは叩解パルプである。外層シート2,2にはバインダーとして繊維状等のポリビニルアルコールが含有される。繊維状ポリビニルアルコールを含有させる場合、繊維シートを抄造する段階で、木材パルプと繊維状ポリビニルアルコールとの両者を抄造するのが望ましい。また、外層シート2,2の形成に、叩解パルプを使用すると、強度に優れる。原料となる叩解パルプは、特にその種類を限定するものではないが、NBKPとLBKPとを、その重量比が6:4〜10:0となるように使用するのが好ましい。NBKPはLBKPに比べ強度に優れるので、NBKPを多く使用すると強度が向上する。
【0028】
繊維状ポリビニルアルコールを用いる場合、その配合量は外層繊維重量に対し0.5〜8重量%、望ましくは1〜5重量%、特に1.5〜3.5重量%程度とするのが望ましい。バインダー量が少ないとバインダー効果、特に表面強度及び引張強度を得難い。他方、過剰のバインダー量はバインダー効果が飽和しコスト高となるばかりでなく、表面のベトツキを生じる。
【0029】
このようにポリビニルアルコールをバインダーとする場合、後述する含浸液中にホウ酸を含有させ、ポリビニルアルコールとホウ酸との交差結合を形成する。これにより、外層シート2,2は、廃棄時(水解時)においては、叩解パルプがバラケ易くなり、水解性が向上する。なお、過少のホウ酸量は、十分な強度が得られない。他方で過剰のホウ酸量はその析出によりザラツキを生じさせる。
【0030】
他方、基材シートには、適宜形状及び大きさのエンボスを付与できる。エンボス加工により、層同士の貼合及びシートの嵩高さ、柔軟性を得ることができる。基材シートの坪量は、60〜120g/m2、特に80〜120g/m2であるのが望ましい。ここで、シート基材の坪量を105g/m2と固定した場合を基準とすると、内層シート1の坪量は、20〜45g/m2(特に25〜35g/m2)、外層シート2,2の坪量は、20〜45g/m2(特に30〜40g/m2)であるのが望ましい。
【0031】
<水性含浸液>
本発明では、上述のような水解性のシート基材に対して、100〜300重量%、望ましくは120〜200重量%の水性含浸液が含浸される。この水性含浸液は、水を80〜95重量%、水分の除去により剥離性シリコーン皮膜を形成するシリコーンを0.1〜4.5重量%を含むものであり、必要に応じて水性洗浄剤の他、香料、防腐剤、除菌剤等の補助剤を配合することができる。以下、各成分について順に説明する。
【0032】
(シリコーン)
本発明では、水性含浸液中にシリコーンを0.1〜4.5重量%、望ましくは0.5〜3重量%含む。シリコーンが少な過ぎると十分な厚みを有する皮膜を均一に形成できず、多過ぎると水性含浸液中のシリコーンの安定性を確保し難くなる。シリコーンは、シロキサン結合を骨格とし、そのケイ素原子に有機基などが直接結合した有機ケイ素高分子結合物であり、ケイ素原子に結合した有機基の種類により、ストレートシリコーンと変性シリコーンとに大別されるが、基本的には水分の除去により剥離性皮膜を形成するものであってあれば特に限定無く使用できる。ストレートシリコーンは、メチル基、フェニル基、水素原子を置換基として結合したものをいい、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンのような非反応性のものと、メチル水素シリコーンのような反応性のものとがある。変性シリコーンは、アルキル基(メチル基除く)、アラルキル基、ポリエーテル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基など置換基として結合したものをいい、アルキル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン、フルオロアルキル変性シリコーンのような非反応性のものと、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、アルコール変性シリコーンのような反応性のものとがある。
【0033】
シリコーンは、水性含浸液を調製する際、シリコーン水性エマルジョンとして水性含浸液に配合するのが望ましいが、他の公知の形態で含有させることもできる。シリコーンを水性エマルジョンとして水性含浸液に配合する場合、その全部が水性エマルジョンとなっているのが望ましいが、一部が分離していても良いことはいうまでもない。
【0034】
シリコーンを水性エマルジョン液とするための乳化剤は、特に限定されず、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤等から1種または数種を適宜選択して使用できるが、水性エマルジョンの安定性の観点から非イオン性界面活性剤が好適である。非イオン性界面活性剤として、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類,ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類,ポリオキシアルキレンアルキルエステル類,ポリオキシアルキレンソルビタンアルキルエステル類,ソルビタンアルキルエステル類,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール等が例示される。また、アニオン性界面活性剤として、具体的には、オクチルベンゼンスルホン酸,ドデシルベンゼンスルホン酸,セチルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸;高級アルコール硫酸エステル,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル,アルキルナフチルスルホン酸等のナトリウム塩,カリウム塩,リチウム塩またはアミン塩等が例示される。カチオン性界面活性剤として、具体的には、オクチルトリメチルアンモニュウムヒドロキシド,ドデシルトリメチルアンモニュウムヒドロキシド,ヘキサデシルトリメチルアンモニュウムヒドロキシド,オクチルジメチルベンジルアンモニュウムヒドロキシド,デシルジメチルアンモニュウムヒドロキシド,ジドデシルジメチルアンモニュウムヒドロキシド,ジオクタデシルジメチルアンモニュウムヒドロキシド,牛脂トリメチルアンモニュウムヒドロキシド,ヤシ油トリメチルアンモニュウムヒドロキシド等の第4級アンモニュウムヒドロキシドおよびこれらの塩等が例示される。より具体的てきには、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0035】
シリコーン水性エマルジョンにおいて、乳化剤の配合量は特に限定されず、乳化剤の種類により異なるが、好ましくはシリコーン成分の合計量100重量部に対して、1〜20重量部の範囲であり、特に好ましくは7.5〜16.5重量部の範囲である。乳化剤が少な過ぎると水性エマルジョンの安定性を確保しがたくなり、多過ぎるとベトツキの原因となる。
【0036】
本発明のシリコーン水性エマルジョンは分散剤として水を含む。水の配合量は特に限定されないが、シリコーン水混合液がO/W型の水性エマルジョンとなるためには、一般に、シリコーン及び乳化剤の合計濃度が1〜40重量%となるような量であることが好ましく、より好ましくは17.5〜36.5重量%となるような量である。シリコーン水溶性エマルジョンは、使用時に水で希釈して用いることもできる。
【0037】
(水性洗浄剤)
清掃効果を高めるために本発明の含浸液に水性洗浄剤を含有させるのが好ましい。水性洗浄剤としては、界面活性剤の他、低級又は高級(脂肪族)アルコールを用いることができる。界面活性剤を用いる場合、水性含浸液中のシリコーンの安定性の観点からは非イオン界面活性剤を用いるか、或いは界面活性剤を用いずに低級及び高級アルコールの少なくとも一方を用いるのが好ましいが、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。特にアルコールは、除菌剤としての機能も有するため好ましい。
【0038】
低級アルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、イソプロピルアルコール等から1種または数種を適宜選択して使用することができる。一方、高級アルコールとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノシクロヘキシルエーテル、2−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール等を挙げることができ、中でも3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等から1種または数種を適宜選択して使用することができる。低級アルコール及び高級アルコールは単独で用いる他、併用することもできる。
【0039】
水性洗浄剤の配合量は適宜定めることができるが、界面活性剤を用いずに低級及び高級アルコールを用いる場合、低級アルコールを2〜8重量%、特に4〜6重量%とするのが好適である。また、高級アルコールは0.5〜6重量%、特に2〜4重量%とするのが好適である。配合量が少な過ぎると汚れ落ち機能が低下し、多過ぎるとベトツキの原因となる。
【0040】
(香料)
この種の衛生製品では、使用時の清潔感等を向上させるために香料を用いることが一般的となっており、本発明においても香料を含有させるのが好ましい。香料としては、オレンジエキス等の水性香料の他、オレンジオイル等の油性香料の中から、一種又は数種を適宜選択して用いることができる。香料の配合量は適宜定めることができるが、含浸液の総量に対して0.1〜2重量%、特に0.1〜0.4重量%とするのが好適である。この配合量が少な過ぎると芳香効果が不十分となる。
【0041】
油性香料をそのまま用いると、含浸液中から分離してシート中の繊維に付着し、この油性香料によりシート内に水が浸入し難くなり、水解性が低下するおそれがある。よって、油性香料を用いる場合、水性エマルジョンとして配合するのが好ましい。油性香料の配合が多過ぎると水性エマルジョンの安定性を確保し難くなる。油性香料を水性エマルジョン液化する場合の乳化剤としては、前述のシリコーンの項で述べた乳化剤から適宜選択して用いることができ、その配合量は特に限定されず、乳化剤の種類により異なるが、好ましくは乳化剤と油性香料の合計量100重量部に対して、30〜80重量部の範囲であり、特に好ましくは50〜80重量部の範囲である。また、分散媒としての水の配合量は油性香料及び乳化剤の合計濃度が0.1〜2重量%となるような量であることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.6重量%となるような量である。油性香料を水性エマルジョンとして水性含浸液に配合する場合、その全部が水性エマルジョンとなっているのが望ましいが、一部が分離していても良いことはいうまでもない。
【0042】
(防腐剤、除菌剤)
清掃用水解性ウェットシートのような製品は、多数枚が密閉容器に封入された状態で販売され、製造後から全てのシートを使いきるまで長期間の保管が必要となるため、防腐剤や除菌剤を含有するのが好ましい。防腐剤としては、例えばメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等のパラベン類を用いることができ、その配合量は含浸液の総量に対して0.1〜0.5重量%、特に0.1〜0.3重量%とするのが好適である。
【0043】
また、除菌剤(抗菌剤)としては、アルコール、パラオキシ安息香酸エステル、モノマーの四級アンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム、フェノキシエタノール、グルコン酸クロロヘキシジン、ラウリル硫酸塩等、適宜のものを用いることができるが、ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物及び塩化ベンザルコニウムの組み合わせは除菌効果のみならずウイルス不活化効果にも優れ、エマルジョンの安定性にも影響が無いため好ましい。
【0044】
なお、ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物は、下記化学式1に示されるように、ビグアナイド基とヘキサメチレン基が交互に多数連結した高分子である。
【0045】
【化1】

【0046】
ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物の配合量は適宜定めることができるが、費用対効果の観点から、含浸液の総量に対して0.05〜1重量%、特に0.05〜0.5重量%とするのが好適である。また、塩化ベンザルコニウムの配合量は適宜定めることができるが、費用対効果の観点から、含浸液の総量に対して0.1〜0.5重量%、特に0.1〜0.3重量%とするのが好適である。
【0047】
(ホウ酸)
基材シートのバインダーとしてポリビニルアルコールを用いる場合、含浸液中にホウ酸を含有させ、ポリビニルアルコールとホウ酸との交差結合を形成する。ホウ酸の配合量は適宜定めることができるが、上述の繊維状ポリビニルアルコールを用いる場合、0.5〜8重量%、望ましくは1〜5重量%、特に1.5〜3.5重量%程度とするのが好ましい。
【0048】
(その他)
含浸液のpHは適宜定めることができるが、3〜7、特に3〜5であるのが好ましい。この範囲外では、水解性が低下する等の不利益がある。含浸液のpHは、塩化ナトリウムや水酸化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等のpH調整剤を適量使用することにより調整できる。薬液におけるpH調整剤の含有量は、目的のpHに応じて適宜定めることができる。
【実施例】
【0049】
水性含浸液中のシリコーンの濃度の影響を調べるため、以下の実験を行った。
(清掃用水解性ウェットシートの準備)
シート基材として、内層シートの両面に外層シートを積層した3層構造のシート基材を使用した。シート基材の各層は、叩解パルプ(NL比9:1、繊維長2.39mm、叩解度4.92%)を繊維目付け30g/m2で抄紙して形成した。よって、シート基材全体としての繊維目付けは90g/m2となった。両外層には、繊維状ポリビニルアルコール(クラレ社製クラレビニロンVPの「VPW101×3」)を3重量%配合した。
【0050】
このシート基材に、表1に示す各含浸液を含浸させ、シリコーン水性エマルジョンの濃度のみ異なるウェットシートを製造した。シリコーン水性エマルジョンは、アミノ変性ジメチルシリコーンを15重量%、非イオン界面活性剤を12重量%、及び水を73重量%含有する基本液を用意し、適宜水で希釈して用いた。
【0051】
(実験方法)
ポリプロピレン製の平坦な正方形試験板(10cm×10cm)を用意し、その表面全体をウェットシートで3往復拭いた後、図2に示すように試験板10の表面が15度となるように傾斜(下端及び上端の各辺は水平)させ、試験板10表面の上端に、試験板10表面に対して1cmの高さから50μリットルの水11を滴下し、その水滴が二点鎖線で示すように試験板10表面の下端まで転がり落ちる時間(滑水時間)を測定した。この測定(表面の引取りから時間の測定まで)を5回行い、平均値を測定値とした。結果を表1に示した。この結果から、シリコーン水性エマルジョン中のシリコーン含有量が1重量%でも十分な撥水性が得られており、十分な防汚効果が推測された。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る清掃用水解性ウェットシートは、その用途が特に限定されるものではないが、使用後に便器内に捨てるトイレ清掃用水解性ウェットシート(一般に「トイレクリーナー」と称される)に好適なものである。
【符号の説明】
【0054】
1…内層シート、2…外層シート、10…試験板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水解性繊維集合体からなるシート基材に対して100〜300重量%の水性含浸液が含浸された清掃用水解性ウェットシートにおいて、
前記水性含浸液は、水を80〜95重量%、水分の除去により剥離性シリコーン皮膜を形成するシリコーンを0.1〜4.5重量%含むものである、
ことを特徴とする清掃用水解性ウェットシート。
【請求項2】
前記シリコーンは、その一部又は全部が、水分の除去により剥離性シリコーン皮膜を形成するシリコーン水性エマルジョンとして前記水性含浸液中に含有されている、請求項1記載の清掃用水解性ウェットシート。
【請求項3】
前記水性含浸液は、油性香料を0.1〜2重量%含有し、且つこの油性香料の一部又は全部が水性エマルジョンとして前記水性含浸液中に含有されている、請求項2記載の清掃用水解性ウェットシート。
【請求項4】
前記水性含浸液は、水性洗浄剤として低級アルコールを2〜8重量%、及び脂肪族アルコールを0.5〜6重量%含有し、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を含有せず、且つエマルジョンの乳化剤として非イオン性界面活性剤を含有する、請求項2又は3記載の清掃用水解性ウェットシート。
【請求項5】
前記水性含浸液は、パラベン類からなる防腐剤を0.1〜0.5重量%、塩化ベンザルコニウムを0.1〜0.5重量%、ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物を0.05〜1重量%含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の清掃用水解性ウェットシート。
【請求項6】
前記シート基材は、木材パルプを主体としバインダーを実質的に有しない内層と、木材パルプを主体としバインダーを有する両外層とからなる積層体であり、
前記各外層はバインダーとしての繊維状ポリビニルアルコールを外層繊維重量に対し0.5〜8重量%含有するものであり、
前記水性含浸液はホウ酸を0.5〜8重量%含有するものである、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の清掃用水解性ウェットシート。

【図1】
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【図2】
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