説明

減圧鋳造システム

【課題】メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる減圧鋳造システムの提供。
【解決手段】キャビティからガスを抜く吸引装置とキャビティとの間に、キャビティから延出する溶湯通路44と、溶湯通路44と吸引装置とを連通させるガス通路47と、案内面55A内を摺動可能に設けられ溶湯通路44の溶湯圧で作動する受圧バルブ51と、受圧バルブ51の作動に連動してガス通路47を閉じるシャットオフバルブ52とが設けられ、受圧バルブ51には、案内面55Aとの隙間に進入した溶湯を収容可能なバリ溝71が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧鋳造システムに関し、特にその生産効率向上に関する。
【背景技術】
【0002】
減圧鋳造システムは、キャビティに溶湯を充填する際に吸引装置でキャビティ内からガスを抜くことで、このガスに起因して製品に生じる巣等を低減するものである。このような減圧鋳造システムにおいては、キャビティに溶湯が充填された後に、余剰溶湯が吸引装置に至るのを防止する必要があることから、キャビティと吸引装置との間に、キャビティから延出する溶湯通路の溶湯圧で受圧バルブを作動させ、この受圧バルブの作動に連動するシャットオフバルブで、溶湯通路と吸引装置とを連通させるガス通路を閉塞するものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2002−144009号公報
【特許文献2】特開2003−126952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の受圧バルブは、溶湯通路の溶湯圧を受けることで案内面内を摺動してシャットオフバルブを閉じるものであるため、案内面との間に微小ながら隙間がある。よって、この隙間に溶湯が進入しバリ化すると、このバリを噛むことで受圧バルブの摺動が阻害されてしまうことになる。このため、このバリを除去するためのメンテナンスが必要となってくるが、このメンテナンスの頻度が高いと、生産効率が低下してしまう。
【0004】
したがって、本発明は、メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる減圧鋳造システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、溶湯が充填されるキャビティ(例えば実施形態におけるキャビティ12)からガスを抜く吸引装置(例えば実施形態における吸引装置15)と前記キャビティとの間に、該キャビティから延出する溶湯通路(例えば実施形態における溶湯通路44)と、該溶湯通路と前記吸引装置とを連通させるガス通路(例えば実施形態におけるガス通路47)と、案内面(例えば実施形態における案内面55A)内を摺動可能に設けられ前記溶湯通路の溶湯圧で作動する受圧バルブ(例えば実施形態における受圧バルブ51)と、該受圧バルブの作動に連動して前記ガス通路を閉じるシャットオフバルブ(例えば実施形態におけるシャットオフバルブ52)とが設けられた減圧鋳造システム(例えば実施形態における減圧鋳造システム11)において、前記受圧バルブには、前記案内面との隙間に進入した溶湯を収容可能なバリ溝(例えば実施形態におけるバリ溝71)が形成されていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記案内面を形成し前記受圧バルブが挿入される受圧バルブブッシュ(例えば実施形態における受圧バルブブッシュ55)に、前記隙間に進入した溶湯を収容可能なバリ溝(例えば実施形態におけるバリ溝60)が形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明において、前記受圧バルブには、物理的蒸着法により表面処理が施されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に係る発明において、前記シャットオフバルブは、前記ガス通路の内面(例えば実施形態における内面79A)に先端の弁部(例えば実施形態における弁部96)を嵌合させて前記ガス通路を閉じるものであり、前記弁部から前記ガス通路の内面を摺動するガイド(例えば実施形態におけるガイド97)が連続的に延設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、前記ガス通路の内面を形成し前記シャットオフバルブを包含するシャットオフバルブブッシュ(例えば実施形態におけるシャットオフバルブブッシュ79)に、進入した溶湯を収容可能なバリ溝(例えば実施形態におけるバリ溝92)が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項6に係る発明は、請求項4または5に係る発明において、前記シャットオフバルブには、物理的蒸着法により表面処理が施されていることを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に係る発明において、前記溶湯通路が、上流側通路部(例えば実施形態における通路部25〜28)および該上流側通路部と交差する下流側通路部(例えば実施形態における通路部26〜29)とからなる角部(例えば実施形態における角部31〜34)を少なくとも一つ有するクランク形状をなしていることを特徴とする。
【0012】
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明において、前記上流側通路部が前記下流側通路部を越える突出形状部(例えば実施形態における突出形状部25a〜28a)を有することを特徴とする。
【0013】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に係る発明において、前記受圧バルブおよび前記シャットオフバルブのうちの少なくともいずれか一方に潤滑油を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、受圧バルブと案内面との隙間に進入した溶湯が、受圧バルブのバリ溝に逃げて収容されることになるため、溶湯が受圧バルブと案内面との隙間でバリ化して受圧バルブの摺動を阻害することになるまでの時間を長くできる。したがって、メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、受圧バルブと案内面との隙間に進入した溶湯が、案内面を形成する受圧バルブブッシュのバリ溝にも逃げて収容されることになるため、溶湯が受圧バルブと案内面との隙間でバリ化して受圧バルブの摺動を阻害することになるまでの時間をさらに長くできる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、受圧バルブには、物理的蒸着法により表面処理が施されているため、溶損の発生を抑制でき、寿命を向上することができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、シャットオフバルブには、ガス通路の内面を摺動するガイドが先端の弁部から連続的に延設されているため、弁部の開閉性能を向上することができる。よって、多少のゆがみがガス通路の内面に生じる等しても弁部を確実に閉じることができる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、例えば飛沫化した溶湯の先湯がガスの流れでシャットオフバルブに至り、例えばガス通路の内面とシャットオフバルブとの隙間に進入してしまうことがあっても、ガス通路の内面を形成するシャットオフバルブブッシュに形成されたバリ溝に逃げて収容されることになるため、溶湯がシャットオフバルブとシャットオフバルブブッシュとの隙間でバリ化してシャットオフバルブの摺動を阻害することになるまでの時間を長くできる。したがって、メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、シャットオフバルブには、物理的蒸着法により表面処理が施されているため、溶損の発生を抑制でき、寿命を向上することができる。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、溶湯通路が、上流側通路部および上流側通路部と交差する下流側通路部とからなる角部を少なくとも一つ有するクランク形状をなしているため、溶湯通路内で飛沫化した溶湯が進むことを抑制できる。したがって、溶湯の先湯が飛沫化してシャットオフバルブに至るのを抑制できるため、飛沫化した溶湯によってシャットオフバルブの摺動が阻害されることを防止できる。したがって、メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる。
【0021】
請求項8に係る発明によれば、溶湯通路の角部の上流側通路部が下流側通路部を越える突出形状部を有するため、溶湯通路内で飛沫化した溶湯が進むことをさらに抑制できる。したがって、溶湯の先湯が飛沫化してシャットオフバルブに至るのをさらに抑制できるため、溶湯によってシャットオフバルブの摺動が阻害されることをさらに防止できる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0022】
請求項9に係る発明によれば、受圧バルブおよびシャットオフバルブのうちの少なくともいずれか一方に潤滑油を供給するため、受圧バルブおよびシャットオフバルブのうちの潤滑油が供給された少なくともいずれか一方については、バリ化した溶湯で摺動が阻害されることになるまでの時間をさらに長くできる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムを図面を参照して以下に説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の減圧鋳造システム11は、キャビティ12を有する製品成形金型13と、キャビティ12内に溶湯を加圧状態で充填する加圧充填装置14と、キャビティ12内からガスを抜く吸引装置15と、キャビティ12と吸引装置15との間に設けられて吸引装置15によるガス抜きを制御するガス抜き装置16と、キャビティ12から製品を押し出す押出機構17とを有している。
【0025】
製品成形金型13は、固定金型21と、固定金型21に対して近接・離間可能に設けられた可動金型22とを有しており、これら固定金型21および可動金型22の合わせ面21A,22A側にキャビティ12が形成されている。また、製品成形金型13には、キャビティ12と加圧充填装置14とを連通させる溶湯通路23と、キャビティ12とガス抜き装置16とを連通させる溶湯通路24とが形成されている。
【0026】
キャビティ12とガス抜き装置16とを連通させる溶湯通路24には、図2に示すように、複数、具体的には5カ所の直線状の通路部25〜29がクランク形状をなすように繋がっている。つまり、溶湯の流れ方向上流側の通路部25およびその直下流側の通路部26が互いに交差して角部31を構成しており、その際に、上流側の通路部25には下流側の通路部26を越える突出形状部25aが形成されている。同様に、上流側の通路部26およびその直下流側の通路部27が互いに交差して角部32を構成しており、上流側の通路部26には下流側の通路部27を越える突出形状部26aが形成されている。同様に、上流側の通路部27およびその直下流側の通路部28が互いに交差して角部33を構成しており、上流側の通路部27には下流側の通路部28を越える突出形状部27aが形成されている。同様に、上流側の通路部28およびその直下流側の通路部29が互いに交差して角部34を構成しており、上流側の通路部28には下流側の通路部29を越える突出形状部28aが形成されている。つまり、溶湯通路24には、四カ所の角部31〜34が形成されている。なお、このような角部は、少なくとも一カ所形成されていれば良い。ここで、この溶湯通路24は、図3に示すように、可動金型22の合わせ面22Aから凹んで形成されており、基本的に合わせ面22A側が広い等脚台形の断面で、その断面積はガス通路47の断面積以上とし、全長にわたって一定化されている。
【0027】
押出機構17は、図1に示すように、可動金型22に挿通されるピン38を有しており、可動金型22が固定金型21から離型することでこのピン38をキャビティ12内に突出させて製品をキャビティ12から押し出す。
【0028】
ガス抜き装置16は、図1に示すように、製品成形金型13の固定金型21に取り付けられる固定型41と、製品成形金型13の可動金型22に取り付けられてこれと一体に移動する可動型42とを有している。可動型42の合わせ面42A側には、図4に示すように、可動金型22の溶湯通路24に連通することでこの溶湯通路24とともにキャビティ12から延出する溶湯通路44と、溶湯通路44を挟んで両側に設けられて製品成形金型13とは反対側で互いに合流する一対の主通路45と、溶湯通路44における溶湯の流れ方向とは逆向きに傾斜して溶湯通路44と主通路45とを連通させる複数の枝通路46とが形成されている。一対の主通路45および複数の枝通路46が、溶湯通路44と吸引装置15とを連通させるガス通路47の一部を構成している。
【0029】
ガス抜き装置16には、その溶湯通路44の端末位置に、溶湯通路44の溶湯圧で作動する受圧バルブ51が設けられており、ガス通路47の一対の主通路45の合流位置に、受圧バルブ51の作動に連動してガス通路47を閉じるシャットオフバルブ52が設けられている。
【0030】
固定型41には、図5に示すように、溶湯通路44の端末位置に嵌合穴54が、合わせ面41Aと直交する方向に穿設されており、この嵌合穴54内に概略円筒状の受圧バルブブッシュ55が嵌合固定されている。そして、この受圧バルブブッシュ55と固定型41とに受圧バルブ51が摺動可能に包含されている。なお、受圧バルブブッシュ55はメンテナンス時に嵌合穴54から取り外し可能となっている。
【0031】
受圧バルブブッシュ55は、図6に示すように、軸方向の一端側および他端側が同外径の大径円筒部56,57とされ、これらの間にこれらよりも小径の外径を有する小径円筒部58が形成された段付形状をなしている。ここで、受圧バルブブッシュ55は、一端側の大径円筒部56が図5に示すように合わせ面41A側に配置されて嵌合穴54に嵌合される。両側の大径円筒部56,57は同内径となっており、中間の小径円筒部58はバリ溝として機能する。受圧バルブブッシュ55の内周面は合わせ面41A側に抜き勾配としてのテーパー面59があり、更に受圧バルブ51の摺動案内面55A,55Bの間にバリ溝62がある。
【0032】
受圧バルブブッシュ55は、小径円筒部58の径方向外側が、円環状をなして径方向に凹むバリ溝60となっており、嵌合穴54への嵌合時にこのバリ溝60が嵌合穴54との間に空間部を形成する。また、受圧バルブブッシュ55の小径円筒部58には、複数カ所に貫通孔61が径方向に貫通して形成されている。具体的に、貫通孔61は、円周方向に等間隔で形成され、しかも、このような貫通孔61の列が小径円筒部58の軸線方向両端側それぞれに形成されている。これにより、受圧バルブブッシュ55は、受圧バルブ51との隙間に溶湯通路44から溶湯が進入した場合に、この溶湯を貫通孔61を介してバリ溝60内に収容可能となっている。なお、受圧バルブブッシュ55のこれらのバリ溝60および貫通孔61は、受圧バルブ51および受圧バルブブッシュ55の隙間へ潤滑油を供給する供給路を兼用しており、これらバリ溝60および貫通孔61を介して上記隙間に潤滑油が供給される。
【0033】
受圧バルブ51は、受圧バルブブッシュ55内に合わせ面41Aとは反対側から挿入されるもので、図7に示すように、受圧バルブブッシュ55の案内面55A,55Bに摺動可能に嵌合される同径円柱状の三カ所の大径部65,66,67が軸線方向に間隔をあけて形成されている。挿入方向先端側の大径部65と、これに隣り合う大径部66との間にこれらよりも小径の円柱状の小径部68が形成されており、また、大径部66と挿入方向後端側の大径部67との間にもこれらよりも小径の円柱状の小径部69が形成されている。
【0034】
受圧バルブ51は、小径部68の径方向外側が、円環状をなして径方向に凹むバリ溝71となっており、図5に示すように、受圧バルブブッシュ55への嵌合時にこのバリ溝71が受圧バルブブッシュ55の案内面55Aとの間に空間部を形成する。これにより、受圧バルブ51は、受圧バルブブッシュ55の案内面55Aとの隙間に溶湯通路44から溶湯が進入した場合に、この溶湯をバリ溝71内に収容可能となっている。なお、小径部69には受圧バルブ51と固定型41との隙間をシールするシールリング73が嵌合されている。また、受圧バルブ51には、挿入方向の後端部に大径部65〜67よりも大径のフランジ部74が形成されている。ここで、受圧バルブ51には、物理的蒸着法と呼ばれるPVD処理法により表面処理が施されている。具体的には、表面に使用限界温度が高く耐食性が高いCr−N被膜が形成されている。
【0035】
また、固定型41には、図4に示すガス通路47の一対の主通路45の合流位置に、図5に示すように、嵌合穴78が、合わせ面41Aと直交する方向に穿設されており、この嵌合穴78内に概略円筒状のシャットオフバルブブッシュ79が嵌合固定されている。そして、このシャットオフバルブブッシュ79内にシャットオフバルブ52が摺動可能に包含されている。なお、シャットオフバルブブッシュ79はメンテナンス時に嵌合穴78から取り外し可能となっている。
【0036】
シャットオフバルブブッシュ79は、図8に示すように、軸方向に間隔をあけて三カ所に同外径の大径円筒部80,81,82とこれらより大径の最大径円筒部83とが形成され、大径円筒部80〜82および最大径円筒部83の隣り合うもの同士の間にこれらよりも小径の外径を有する小径円筒部84,85,86が形成された段付形状をなしている。ここで、シャットオフバルブブッシュ79は、図5に示すように、一端側の大径円筒部80が合わせ面41A側に配置されて嵌合穴78に嵌合される。大径円筒部80〜82、最大径円筒部83および小径円筒部84〜86は同内径となっており、その結果、シャットオフバルブブッシュ79は、その内面79Aが全長にわたって一定径とされている。
【0037】
シャットオフバルブブッシュ79には、大径円筒部81の中間位置に径方向に貫通する通路穴89が形成されている。この通路穴89は、固定型41に形成された通路穴90とともにガス通路47を形成することになり、シャットオフバルブブッシュ79の内面79Aはこのガス通路47の内面を構成する。また、シャットオフバルブブッシュ79には、小径円筒部86に径方向に貫通する貫通穴91が形成されている。
【0038】
シャットオフバルブブッシュ79は、合わせ面41A側の小径円筒部84の径方向外側が、円環状をなして径方向に凹むバリ溝92となっており、嵌合穴78への嵌合時にこのバリ溝92が嵌合穴78との間に空間部を形成する。よって、例えば飛沫化した溶湯の先湯がガスの流れでシャットオフバルブ52に至り、合わせ面41A側からシャットオフバルブブッシュ79と嵌合穴78との間に進入した場合に、この溶湯をシャットオフバルブブッシュ79のバリ溝92内に収容可能となっている。なお、この小径円筒部84には、径方向に貫通する貫通孔は形成されていない。
【0039】
また、シャットオフバルブブッシュ79は、中間位置の小径円筒部85の径方向外側が、円環状をなして径方向に凹む溝94となっており、嵌合穴78への嵌合時にこの溝94が嵌合穴78との間に空間部を形成する。また、この小径円筒部85には、円周方向に等間隔で複数カ所の貫通孔95が径方向に貫通して形成されている。なお、シャットオフバルブブッシュ79のこれらの溝94および貫通孔95は、シャットオフバルブ52およびシャットオフバルブブッシュ79の隙間へ潤滑油を供給する供給路であり、これら溝94および貫通孔95を介して上記隙間に潤滑油が供給される。
【0040】
シャットオフバルブ52は、シャットオフバルブブッシュ79の内面79Aつまりガス通路47の内面に摺動可能に嵌合されるもので、合わせ面41A側には、シャットオフバルブブッシュ79から突出することでガス通路47を開き、シャットオフバルブブッシュ79の内面79Aに嵌合することでガス通路47を閉じる円板状の弁部96が形成されている。また、シャットオフバルブ52の軸方向の中間部には、シャットオフバルブブッシュ79の内面79Aを摺動する三カ所のガイド97が弁部96から軸線方向に連続的に延設されている。これらガイド97は、図9に示すように、円周方向に等間隔で形成されており、それぞれの外径面が弁部96と同一の円筒面に配置されている。これらガイド97の円周方向に隣り合うもの同士の間には、弁部96よりも径方向に凹むように平面状に切り落とされた形状の通路形成部98がそれぞれ形成されている。
【0041】
シャットオフバルブ52には、通路形成部98の弁部96とは反対側に、すべての通路形成部98と連続するように弁部96よりも小径の小径部99が形成されており、小径部99の弁部96とは反対側には、弁部96と同径でシャットオフバルブブッシュ79の内面79Aに摺動可能に嵌合される大径部100が形成されている。さらに、大径部100の小径部99とは反対側には大径部100よりも小径且つ小径部99よりも大径の中間径部101が形成されており、この中間径部101の大径部100とは反対側には大径部100と同径の大径部102が形成されている。ここで、中間径部101にはシャットオフバルブ52とシャットオフバルブブッシュ79との隙間をシールするシールリング105が嵌合される。
【0042】
シャットオフバルブ52は、図5に示すように、その小径部99および通路形成部98と、シャットオフバルブブッシュ79との隙間を通路穴89に常時連通させており、この隙間は、ガス通路47の一部を構成するブッシュ内通路107となっている。そして、弁部96の全体がシャットオフバルブブッシュ79から突出することで、このブッシュ内通路107を一対の主通路45の合流位置に連通させてガス通路47を開く。他方、弁部96がシャットオフバルブブッシュ79に嵌合することで、ガス通路47をブッシュ内通路107の位置で閉じる。シャットオフバルブ52の大径部102には、径方向に凹む凹部108が形成されている。
【0043】
シャットオフバルブ52は、上記形状に一体成形されており、よって、弁部96と複数のガイド97も一体で連続している。ここで、シャットオフバルブ52には、受圧バルブ51と同様にPVD処理法により表面処理が施されてCr−N被膜が形成されている。
【0044】
シャットオフバルブ52の凹部108には、シャットオフバルブブッシュ79の貫通穴91を貫通して開閉レバー111の一端側が嵌合されている。この開閉レバー111は、他端側が受圧バルブ51の合わせ面41Aとは反対側に対向している。そして、受圧バルブ51が溶湯通路44の溶湯圧で溶湯通路44とは反対側に摺動すると、この受圧バルブ51で押圧されて開閉レバー111が揺動し、開閉レバー111で押圧されてシャットオフバルブ52が閉じられる。つまり、受圧バルブ51が溶湯通路44の溶湯圧で作動すると、この作動に連動して開閉レバー111が揺動し、この開閉レバー111の作動に連動してシャットオフバルブ52が閉じられる。なお、固定型41には、開閉レバー111を合わせ面41Aの方向に押すことで、シャットオフバルブ52を開き、受圧バルブ51を溶湯通路44側に戻す開放機構部112と、開閉レバー111を合わせ面41Aとは反対方向に押すことで、シャットオフバルブ52を閉じる閉鎖機構部113とが設けられている。
【0045】
次に、以上の減圧鋳造システム11の作動を説明する。
図1に示すように、製品成形金型13の固定金型21と可動金型22とが合わせ面21A,22A同士を密着させてキャビティ12を画成する型締め状態では、図5に示すようにガス抜き装置16の固定型41と可動型42とが合わせ面41A,42A同士を密着させた状態となっている。またこのとき、開放機構部112は合わせ面41と反対側に押圧された状態にあり、開閉レバー111は自由に揺動できる状態にある。また、シャットオフバルブ52の弁部96は開いており、溶湯通路44およびガス通路47でキャビティ12と吸引装置15とを連通させている。
【0046】
この状態から、吸引装置15により溶湯通路44およびガス通路47を介してキャビティ12内のガスを吸引しつつ、加圧充填装置14により溶湯通路23を介して溶湯をキャビティ12内に導入する。すると、溶湯はキャビティ12内に充填された後に、余剰分が溶湯通路24から溶湯通路44に流れる。そして、この溶湯の溶湯圧が受圧バルブ51の溶湯通路44側の端面に加わり、受圧バルブ51を溶湯通路44とは反対側に押す。すると、図10に示すように、受圧バルブ51が受圧バルブブッシュ55内で摺動して、溶湯通路44とは反対側に移動し、開閉レバー111を可動型42とは反対方向に揺動させる。すると、開閉レバー111がシャットオフバルブ52をシャットオフバルブブッシュ79内で摺動させて弁部96をシャットオフバルブブッシュ79に嵌合させる。これにより、ガス通路47がブッシュ内通路107において閉鎖され、吸引装置15とキャビティ12との連通を遮断する。
【0047】
そして、溶湯の固化後、可動金型22を固定金型21から離間させて型開きを行うと、図11に示すように、可動型42も固定型41から離れ、固化した溶湯が受圧バルブ51から離れる方向に移動することになる。また、型開きが行われることにより、開放機構部112が開閉レバー111と反対の位置に設置されているスプリングの力によって開閉レバー111を介して受圧バルブ51およびシャットオフバルブ52を押圧する。すると、受圧バルブ51が合わせ面41A側に戻り、シャットオフバルブ52が弁部96をシャットオフバルブブッシュ79から突出させて、ガス通路47のブッシュ内通路107を開く。これにより、キャビティ12と吸引装置15とが連通可能な状態に戻る。また、型開きを行うと、可動金型22の移動でピン38が突出し可動金型22から成形品を離型させる。
【0048】
以上に述べた本実施形態の減圧鋳造システム11によれば、受圧バルブ51と受圧バルブブッシュ55の案内面55Aとの隙間に溶湯が進入する可能性があるが、進入したとしても、この溶湯を、受圧バルブ51のバリ溝71に逃がして収容することができるため、溶湯が受圧バルブ51と案内面55Aとの隙間でバリ化して受圧バルブ51の摺動を阻害することになるまでの時間を長くできる。したがって、メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる。
【0049】
また、受圧バルブ51と案内面55Aとの隙間に進入した溶湯が、案内面55Aを形成する受圧バルブブッシュ55のバリ溝60にも貫通孔61を介して逃げて収容されることになるため、溶湯が受圧バルブ51と案内面55Aとの隙間でバリ化して受圧バルブ51の摺動を阻害することになるまでの時間をさらに長くできる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0050】
また、受圧バルブ51には、物理的蒸着法により表面処理(PVD処理)が施されてCr−N被膜が形成されているため、溶損の発生を抑制でき、寿命を向上することができる。
【0051】
また、シャットオフバルブ52には、ガス通路47の内面であるシャットオフバルブブッシュ79の内面79Aを摺動する複数のガイド97が先端の弁部96から連続的に延設されているため、弁部96の開閉性能を向上することができる。よって、例えば飛沫化されガスの流れでシャットオフバルブ52の位置まで至ってしまう溶湯の先湯がシャットオフバルブブッシュ79と嵌合穴78との隙間に進入してシャットオフバルブブッシュ79の内面79Aに多少のゆがみを生じさせる等しても、弁部96を確実に閉じることができる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0052】
また、上記のように飛沫化した溶湯の先湯がガスの流れでシャットオフバルブ52の位置に至り、シャットオフバルブブッシュ79と嵌合穴78との隙間に進入してしまうことがあっても、この溶湯をシャットオフバルブブッシュ79に形成されたバリ溝92に逃がして収容することができるため、シャットオフバルブブッシュ79の内面79Aに生じるゆがみを抑制でき、シャットオフバルブブッシュ79とシャットオフバルブ52のセンターずれが小さくなって、弁部96を確実に閉じることができる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0053】
また、シャットオフバルブ52には、物理的蒸着法により表面処理(PVD処理)が施されてCr−N被膜が形成されているため、溶損の発生を抑制でき、寿命を向上することができる。
【0054】
また、溶湯通路24が、通路部25〜29で形成される複数の角部31〜34を有するクランク形状をなしているため、溶湯通路24内で、飛沫化した溶湯が進むことを抑制できる。したがって、溶湯の先湯が飛沫化してシャットオフバルブ52に至るのを抑制できるため、飛沫化した溶湯によってシャットオフバルブ52の摺動が阻害されることを防止できる。したがって、メンテナンスの頻度を低くすることができ、生産効率を向上することができる。
【0055】
また、角部31の上流側の通路部25が下流側の通路部26を越える突出形状部25aを、角部32の上流側の通路部26が下流側の通路部27を越える突出形状部26aを、角部33の上流側の通路部27が下流側の通路部28を越える突出形状部27aを、角部34の上流側の通路部28が下流側の通路部29を越える突出形状部28aをそれぞれ有するため、流動解析で分析すると、溶湯通路24内で飛沫化した溶湯が進むことをさらに抑制できることがわかった。したがって、溶湯の先湯が飛沫化してシャットオフバルブ52に至るのをさらに抑制できるため、溶湯によってシャットオフバルブ52の摺動が阻害されることをさらに防止できる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0056】
また、溶湯通路24の断面積が全長にわたって一定化されているため、溶湯通路24内で溶湯が飛沫化するのをさらに抑制できる。したがって、溶湯の先湯が飛沫化してシャットオフバルブ52に至るのをさらに抑制できるため、溶湯によってシャットオフバルブ52の摺動が阻害されることをさらに防止できる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【0057】
また、受圧バルブ51に受圧バルブブッシュ55のバリ溝60および貫通孔61を介して潤滑油を供給し、シャットオフバルブ52にシャットオフバルブブッシュ79の溝94および貫通孔95を介して潤滑油を供給するため、受圧バルブ51およびシャットオフバルブ52は、バリ化した溶湯で摺動が阻害されることになるまでの時間をさらに長くできる。したがって、メンテナンスの頻度をさらに低くすることができ、生産効率をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムを概略的に示す全体構成図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムの可動金型を示す平面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムの溶湯通路を示す断面図である。
【図4】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムのガス抜き装置の可動型を示す平面図である。
【図5】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムのガス抜き装置を示す側断面図である。
【図6】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムの受圧バルブブッシュを示す断面図である。
【図7】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムの受圧バルブを示す側面図である。
【図8】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムのカットオフバルブブッシュを示す断面図である。
【図9】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムのカットオフバルブを示すもので、(a)は側面図、(b)は(a)のX−X断面図である。
【図10】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムのガス抜き装置を示す側断面図である。
【図11】本発明に係る一実施形態の減圧鋳造システムのガス抜き装置を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0059】
11 減圧鋳造システム
12 キャビティ
15 吸引装置
25〜29 通路部
25a〜28a 突出形状部
31〜34 角部
44 溶湯通路
47 ガス通路
51 受圧バルブ
52 シャットオフバルブ
55 受圧バルブブッシュ
55A 案内面
60,71,92 バリ溝
79 シャットオフバルブブッシュ
79A 内面
96 弁部
97 ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯が充填されるキャビティからガスを抜く吸引装置と前記キャビティとの間に、該キャビティから延出する溶湯通路と、該溶湯通路と前記吸引装置とを連通させるガス通路と、案内面内を摺動可能に設けられ前記溶湯通路の溶湯圧で作動する受圧バルブと、該受圧バルブの作動に連動して前記ガス通路を閉じるシャットオフバルブとが設けられた減圧鋳造システムにおいて、
前記受圧バルブには、前記案内面との隙間に進入した溶湯を収容可能なバリ溝が形成されていることを特徴とする減圧鋳造システム。
【請求項2】
前記案内面を形成し前記受圧バルブが挿入される受圧バルブブッシュに、前記隙間に進入した溶湯を収容可能なバリ溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の減圧鋳造システム。
【請求項3】
前記受圧バルブには、物理的蒸着法により表面処理が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の減圧鋳造システム。
【請求項4】
前記シャットオフバルブは、前記ガス通路の内面に先端の弁部を嵌合させて前記ガス通路を閉じるものであり、前記弁部から前記ガス通路の内面を摺動するガイドが連続的に延設されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の減圧鋳造システム。
【請求項5】
前記ガス通路の内面を形成し前記シャットオフバルブを包含するシャットオフバルブブッシュに、進入した溶湯を収容可能なバリ溝が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の減圧鋳造システム。
【請求項6】
前記シャットオフバルブには、物理的蒸着法により表面処理が施されていることを特徴とする請求項4または5に記載の減圧鋳造システム。
【請求項7】
前記溶湯通路が、上流側通路部および該上流側通路部と交差する下流側通路部とからなる角部を少なくとも一つ有するクランク形状をなしていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の減圧鋳造システム。
【請求項8】
前記上流側通路部が前記下流側通路部を越える突出形状部を有することを特徴とする請求項7に記載の減圧鋳造システム。
【請求項9】
前記受圧バルブおよび前記シャットオフバルブのうちの少なくともいずれか一方に潤滑油を供給することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の減圧鋳造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−110774(P2010−110774A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284199(P2008−284199)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】