説明

減結合回路

【課題】 被試験装置に印加した雷サージ過電圧が試験の対象としていないIT機器等の通信機器である対向装置へ流入するのを防止可能な減結合回路を提供する。
【解決手段】 メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路に設けられた減結合回路9であり、被試験装置7と前記IT機器等の通信機器である対向装置11との間に設置され、かつ前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、xDSL(x Digital Subscriber Line)高速常時接続通信ネットワークに接続されているIT(Information Technology)機器等の通信機器に雷サージ過電圧が印加された際に、上記IT機器等が有する過電圧に対する耐力特性を評価するための雷サージ試験回路に用いられる減結合回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワークのブロードバンド化に伴うインターネット利用の急激な増加の下で、メタル加入者回線においては、従来の音声伝送信号に比べ、xDSL等の高速デジタル伝送信号が常時接続された状態で使用することが普及している。
【0003】
このような常時接続通信の普及とともに、xDSL用のIT機器の雷サージに対する信頼性への関心も高まりつつある。このIT機器は、通信速度の高速化及び広帯域化に伴い、使用する電子デバイスが低電圧駆動され、かつ高密度実装されているため、雷サージ過電圧に対する耐力の低下傾向にある。これに加えてxDSL等の高速デジタル伝送信号の常時接続通信状態が急増し、雷に暴露される確率が高くなったことが一時的な通信異常の増加の一因となっている。
【0004】
このような不具合を改善するため、IT機器等では、雷サージ過電圧に対する耐力特性の評価が必要になっている。
【0005】
xDSL用のIT機器の雷サージ試験に際しては、国際電気通信連合電気通信標準化部門の過電圧試験法に関する勧告(以下、ITU−T k.44という。)の試験条件において述べられているように、IT機器等を動作状態で実施する必要がある。
【0006】
しかし、雷サージ試験を行う際には、印加した雷サージ過電圧から対向装置を防護するための減結合回路が必要であり、上記ITU−T k.44においても減結合回路を原則として使用することとしている。
【0007】
上記の動作状態における試験の実施及び減結合回路の原則的な使用方法については、非特許文献1に開示されている。
【非特許文献1】「ITU-T K.44 “Resistibility tests for telecommunication equipment exposed to overvoltages and overcurrents-Basic Recommendation”02/2000」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来技術において、雷サージ試験では、減結合回路を使用するように勧告されているにもかかわらず、減結合回路は従来の音声伝送帯域用のIT機器に適用する製品しか存在せず、xDSLのような高速デジタル通信信号を伝送することのできる減結合回路は実現していなかった。
【0009】
その理由としては、国際電気標準会議の電磁適合性におけるサージイミュニティ試験規格IEC61000-4-5において雷サージ試験電圧は0.5kVから4kVと規定されているので、これらの過電圧に耐え得る耐電圧特性を備え、かつ数十kHz〜数十MHzの周波数帯域を使用する高速デジタル信号を伝送可能な減結合回路を構成する素子であるコモンモードチョークコイルの製作が困難であったことに起因する。このため、xDSL用のIT機器の雷サージ試験に適用可能な減結合回路が必要であった。
【0010】
さらに、平成15年1月31日制定された日本電信電話株式会社の通信装置の過電圧耐力に関するテクニカルリクワイヤメントTR189001号では、雷サージ試験電圧が最大30kVに定められている。このため、上記雷サージ試験電圧を含めると0.5kVから30kVを超える高い耐電圧特性を備え、かつ数十kHz〜数十MHzの周波数帯域を使用する高速デジタル信号を伝送可能な減結合回路を構成する素子であるコモンモードチョークコイルが必要となった。
【0011】
xDSLにおいては、主にADSL(Asymmetric DSL)、VDSL(Very-high-speed DSL)が使用されており、周波数帯域については、ADSLが26kHz〜3.75MHz、VDSLでは26kHz〜16.2MHzが使用されているため、これらの周波数帯域において減結合回路と通信線とのインピーダンス整合を図ることによって高速伝送信号をできるだけ減衰させないことが必要である。そのために減結合回路は、ノーマルインピーダンスが110Ω程度の特性が求められる。
【0012】
xDSL用のIT機器は、通信線ポートを最大4本備えているものの、その通信線ポートを4本あるいは2本使用することから、減結合回路のワイヤ数は最大で4本を備える必要がある。
【0013】
通信線ポートを2本備えたxDSL用のIT機器では、4ワイヤを備えた減結合回路における4ワイヤの内の2ワイヤを使用する場合、2ワイヤのみを備えた減結合回路を使用することもできる必要がある。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、被試験装置に印加した雷サージ過電圧が試験の対象としていないIT機器等の通信機器である対向装置へ流入するのを防止可能な減結合回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、上記課題を解決するため、メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路に設けられた減結合回路であって、被試験装置と前記IT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、かつ前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有することを要旨とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、上記課題を解決するため、前記コモンモードチョークコイルは、絶縁材を被覆した電線をボビンの外周に2並列巻き、又は4並列巻きしてなることを要旨とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、上記課題を解決するため、前記ボビンは、円筒状に形成され、その長手方向の両端にストッパを有することを要旨とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、上記課題を解決するため、前記コモンモードチョークコイルは、ノーマルインピーダンスが110Ω程度の特性を有することを要旨とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、上記課題を解決するため、前記コモンモードチョークコイルは、前記IT機器等の通信機器における4ポートの通信線ポートに対応するためワイヤ数は4ワイヤを有し、前記被試験装置の通信線ポートが2ポートに対しては4ワイヤの内の2ワイヤを使用可能な4ワイヤで構成したことを要旨とする。
【0020】
請求項6記載の発明は、上記課題を解決するため、前記コモンモードチョークコイルは、前記IT機器等の通信機器における2ポートの通信線ポートに対応するためワイヤ数を2ワイヤで構成したことを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、被試験装置とIT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、かつxDSLの通信信号を通過させるための空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有することにより、被試験装置に印加した雷サージ過電圧が試験の対象としていない対向装置へ流入するのを未然に防止することが可能となり、IT機器等の通信機器を動作状態にて雷サージ試験を行うことができる。
【0022】
また、複数の空心コイルがコモンモードで動作させるコモンモードチョークコイルであることから、印加された雷サージ電圧によって絶縁破壊を発生することなく、試験電圧数百Vから数十kVの雷サージ試験を実施することができる。
【0023】
請求項2記載の発明によれば、コモンモードチョークコイルが絶縁材を被覆した電線をボビンの外周に2並列巻き、又は4並列巻きして構成したことから、コイルの巻線間に生じる静電容量をできるだけ抑制し、xDSL通信信号にできるだけ影響を与えないようにすることができる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、ボビンが円筒状に形成され、その長手方向の両端にストッパを有することにより、コモンモードチョークコイルをボビンに押え付け、確実に固定することができる。
【0025】
請求項4記載の発明によれば、コモンモードチョークコイルは、ノーマルインピーダンスが110Ω程度の特性を有することから、減結合回路と通信線とのインピーダンス整合を図ることができる。
【0026】
請求項5記載の発明によれば、コモンモードチョークコイルは、IT機器等の通信機器における4ポートの通信線ポートに対応するためワイヤ数は4ワイヤを有し、被試験装置の通信線ポートが2ポートに対しては4ワイヤの内の2ワイヤを使用可能な4ワイヤで構成したことにより、1台の減結合回路で通信線ポートが4ポート及び2ポートについての雷サージ試験に適用することができ、汎用性を高めることでできる。
【0027】
請求項6記載の発明によれば、コモンモードチョークコイルは、IT機器等の通信機器における2ポートの通信線ポートに対応するためワイヤ数を2ワイヤで構成したことにより、2ポートについてだけの雷サージ試験に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0029】
(雷サージ試験回路)
図1は、本発明の一実施形態における減結合回路を適用した雷サージ試験回路を示す回路図である。なお、図1に示す雷サージ試験回路は、メタル加入者回線を用いた高速デジタル伝送方式であるxDSL用のIT機器の雷サージ試験回路に適用した例を示している。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の雷サージ試験回路において、雷サージ発生器1は、2つの結合回路3a,3bを介して印加点T1及び印加点T2に接続されている。これらの印加点T1,T2は、ユーザ宅に設置されている加入者保安器で構成された一次防護素子5の一方の端子にそれぞれ接続され、この一次防護素子5の他方の端子は、被試験装置7の通信線ポートにそれぞれ接続されている。
【0031】
また、印加点T1,T2は、減結合回路9の被試験装置7側の端子にそれぞれ接続され、減結合回路9の対向装置11側の端子は、対向装置11の通信線ポートにそれぞれ接続されている。
【0032】
さらに、雷サージ発生器1のアースポートは、被試験装置7のアースポートと接続され、かつアース13に接続されて零電位に保持している。一次防護素子5のアースポートには、接地抵抗を模擬した抵抗15が接続され、この抵抗15の他方の端子はアース13に接続されている。なお、対向装置11は、アースポートを有している場合でも、アース13には接続せずに電位的にフローティングさせている。
【0033】
減結合回路9は、対向装置11と被試験装置7との間で通話路を形成し、被試験装置7の通信線ポートに、ユーザ宅に設置されている加入者保安器で構成された一次防護素子5を接続した状態において、xDSL通信信号を遮断することなく通過させるための空心コイルのみで構成された後述するコモンモードチョークコイルを有している。
【0034】
したがって、雷サージ発生器1で発生させた雷サージ電圧は、2つの結合回路3a,3bを通って印加点T1及び印加点T2に印加される。この時、減結合回路9は、非試験対象のIT機器等の通信機器である対向装置11の通信線ポートに過電圧が流入するのを防止する。
【0035】
(減結合回路)
図2は、減結合回路9の構成を示す回路図である。
【0036】
図2に示すように、減結合回路9は、筐体17と、この筐体17内に設けられた空心コイルC1〜C4と、被試験装置側端子21と、対向装置側端子23とを備えている。なお、図2において、空心コイルC1〜C4の巻き始め側は、黒丸印が付されており、空心コイルC1〜C4の巻き終わり側は、上記黒丸印が付されていない側である。
【0037】
また、減結合回路9に使用されている素子である空心コイルC1〜C4は、コモンモードで動作させるコモンモードチョークコイルである。その一例として各々の空心コイルのインダクタンス値は、前述の国際電気標準会議の電磁適合性におけるサージイミュニティ試験規格IEC61000-4-5において20mHと示されている。
【0038】
空心コイルC1〜C4は、雷サージ過電圧の流入を抑制するためのものであり、その巻き始め側は筐体17に設置されている被試験装置7とのインターフェースである被試験装置側端子21に接続されている。
【0039】
この被試験装置側端子21には、空心コイルC1と接続されたワイヤW1の端子21aと、空心コイルC2と接続されたワイヤW2の端子21bと、空心コイルC3と接続されたワイヤW3の端子21cと、空心コイルC4と接続されたワイヤW4の端子21dとが設けられている。
【0040】
また、空心コイルC1〜C4の巻き終わり側は、筐体17に設置されている対向装置11とのインターフェースである対向装置側端子23と接続されている。
【0041】
この対向装置側端子23には、空心コイルC1と接続されたワイヤW1の端子23aと、空心コイルC2と接続されたワイヤW2の端子23bと、空心コイルC3と接続されたワイヤW3の端子23cと、空心コイルC4と接続されたワイヤW4の端子23dとが設けられている。
【0042】
したがって、本実施形態の減結合回路9によれば、被試験装置7に印加した雷サージ過電圧が試験の対象としていないIT機器等の通信機器である対向装置11へ流入するのを未然に防止することが可能となり、IT機器等の通信機器を動作状態にて雷サージ試験を行うことができる。
【0043】
(減結合回路の実施例)
次に、減結合回路9の具体的な実施例について説明する。
【0044】
本実施例では、試験電圧数百Vから数十kVの雷サージ試験を実施することができるようにするため、被試験装置7に印加された雷サージ過電圧によって上記コモンモードチョークコイルが絶縁破壊を生じさせないような空心構造を用いている。
【0045】
また、xDSLにおいては、主にADSL、VDSLが使用されており、周波数帯域については、ADSLが26kHz〜3.75MHz、VDSLでは26kHz〜16.2MHzが使用されているため、減結合回路9の周波数帯域については、これらの周波数帯域を含み、従来の音声信号周波数帯域についてもその信号を伝送することができるようにしている。
【0046】
さらに、空心コイルと接続されるワイヤ数は、IT機器の通信線ポートに対応するため、図2に示すように4ワイヤ必要である。減結合回路9では、上述したように通信線ポートの本数に相当する線をワイヤと呼ぶことにする。被試験装置7の通信線ポートが4ポートの場合には、4ワイヤを使用する。
【0047】
また、その通信線ポートが2ポートの場合には、4ワイヤの内の隣接する2ワイヤを使用することができるようにしている。このように通信線ポートを4ワイヤとすることによって、1台の減結合回路9で通信線ポートが4ポート及び2ポートについての雷サージ試験に適用することができ、汎用性を高めることでできる。
【0048】
本実施例では、印加された雷サージ過電圧によって空心コイルC1〜C4で構成されたコモンモードチョークコイル、被測定装置側端子21、対向装置側端子23及び筐体17の間で絶縁破壊を生じさせないため、絶縁耐力は50kV以上を有する構造とし、試験電圧数百Vから数十kVの雷サージ試験を実施することができるようにしている。
【0049】
ここで、絶縁耐力が50kV以上を有する具体的な根拠を述べる。コモンモードチョークコイル25の巻線の構成をもとに(1)巻線間絶縁、(2)層間絶縁、(3)巻線とボビン間の絶縁、を考慮した。2ワイヤコモンモードチョークコイルの巻線層数は7層であるのに対して、4ワイヤコモンモードチョークコイルの巻線層数は13層になるため、2ワイヤコモンモードチョークコイルの方が4ワイヤコモンモードチョークコイルに比べて層間に加わる電圧が高くなり、層間絶縁面で厳しい。このため、ここでは層間絶縁面で厳しい2ワイヤコモンモードチョークコイルについて説明する。
【0050】
(1)の巻線間絶縁について述べる。巻線用電線31は、JIS C 3308の7.5kVポリエチレン絶縁ビニールシースネオン電線(以下、ネオン電線という)を用いており、前記ネオン電線はJIS C 3308において試験電圧15kVを1分間印加すると規定されている。この試験電圧は商用周波数において実効値で表されているので、雷サージ電圧に換算せねばならない。
【0051】
この換算を行うために電気学会の電気規格調査会標準規格であるJEC−0102試験電圧標準に記載されている表1の試験電圧値を用いる。前記表1の試験電圧値において短時間商用周波耐電圧試験の項目には1 0 kVと16kVの2つの電圧値が記載されているが、両者の内の10kVを選択する。
【0052】
その根拠としては、ネオン電線の試験電圧値は15kVであるが、安全マージンを考慮して15kVよりも低い値である10kVを選んだからである。前記表1を用いて、この10kVに相当する雷インパルス耐電圧試験値を求めると、30kVが得られる。
【0053】
すなわち、ネオン電線の前記JEC−0102試験電圧標準に記載されている雷インパルス耐電圧という用語は、ここでいう雷サージ耐電圧と同義であり、その値は30kVである。次にコモンモードチョークコイル25に印加される雷サージ電圧は2ワイヤの各々のワイヤとアース間とにコモンモードで印加されるので、2ワイヤの各々のワイヤは同電位となる。そのために巻線間絶縁は問題にしなくても良い。
【0054】
(2)の層間絶縁について述べる。層間絶縁は層間に加わる最大電圧を下記の式1で計算して、これに絶え得るように絶縁しなければならない。下記の式1において、雷サージ印加電圧Eはコモンモードチョークコイル25の絶縁耐力に相当するのでE=50kVとおく。
【0055】
2ワイヤコモンモードチョークコイルの巻線層数は7層であるのでNL=7である。これらの値を用いて最大層間電圧Eimax〔kV〕を求めると、
Eimax=2E/NL
=2×50/7
=14.2〔kV〕 (式1)
となる。
【0056】
したがって、Eimax=14.2〔kV〕と、前記(1)項で述べたネオン電線の雷サージ耐電圧30kVとを比較すると、前記ネオン電線の雷サージ耐電圧はEimaxの2倍以上であることがわかる。よって、層間絶縁面から見てもコモンモードチョークコイル25の絶縁耐力は50kV以上を有している。
【0057】
なお、4ワイヤコモンモードチョークコイルでは巻線の層数は13層にもなるため、巻線を正しく整列して巻くために、層間に厚さ0.25mmのマイラフィルムの絶縁体を入れてある。マイラフィルムの層間絶縁体を使用することによって、副次的に最大層間電圧Eimaxも30kVより高くなっている。もちろん2ワイヤコモンモードチョークコイルにもマイラフィルムの層間絶縁体を入れることも可能であるが、ここでは最大層間電圧値を満足しているのでマイラフィルム絶縁体を使用していない。
【0058】
(3)巻線とボビン間の絶縁について述べる。ボビン27の材質である前記塩化ビニールの絶縁耐力は東京天文台編纂の理科年表によると10〜30kV/mmである。巻線とボビン間の絶縁に関して最悪条件を仮定すると、それは零電位であるアース上にコモンモードチョークコイル25を直接置いた状態であり、その際にコモンモードチョークコイル25の台座29の底面から被試験装置側端子21及び対向装置側端子23までの高さ、すなわち離隔距離は35mmである。前記塩化ビニールの絶縁耐力はかなり幅をもっているので、その低い方の値の10kV/mmを用いる。これらの値を用いてアースと端子間絶縁耐力を求めると、
アースと端子間絶縁耐力=10×35
=350〔kV〕 (式2)
となる。
【0059】
したがって、この絶縁耐力値から判断すると巻線とボビン間の絶縁に関しては特に問題ない。
【0060】
次に、減結合回路9に使用されている素子である空心コイルC1〜C4がコモンモードで動作させるコモンモードチョークコイルであることから、このコモンモードチョークコイルの具体的な実施例を図3に基づいて説明する。なお、図3に示す実施例では、図2と異なり2ワイヤのコモンモードチョークコイルが使用されている。
【0061】
図3に示すように、コモンモードチョークコイル25は、円筒状に形成され長手方向の両端にフランジ状のストッパ27aを有する塩化ビニールパイプ製のボビン27と、このボビン27の一端に固定された正方形の台座29と、ボビン27のストッパ27a間の外周に2並列巻きされた絶縁材を被覆した巻線用電線31とを備えている。また、図4には、実際のコモンモードチョークコイル25が示されている。
【0062】
ボビン27は、外径が318mm、内径が298mm、長さが620mmである。台座29は、正方形の一辺が350mm、厚さが10mmの板体が使用されている。
【0063】
巻線用電線31に用いる前記ネオン電線は、その仕様は図5に示すように、巻線が7.5kVネオン電線、外径5.4mmΦ、断面積2mm、巻線方法が2並列巻、巻数Nが48ターン×7層=336、インダクタンスが20mH×2、直流抵抗が3.6Ωである。また、図3に示すように巻線用電線31の長さGが53cm、平均直径Dが35.58cmであり、これらの値と上記巻数Nを用いてインダクタンスL〔μH〕を求めると、
L=0.1×D×N/(4.5×D+10×G)
=0.1×35.58×35.58×336
×336/(4.5×35.58+10×53)
=20.7〔mH〕 (式3)
となる。
【0064】
したがって、本実施例では、巻線用電線31に用いられるネオン電線は、2本並列にして同方向に巻き付けて、さらにインダクタンス20〔mH〕を得るために多層巻構造にしている。
【0065】
このインダクタンス特性を図6に示す。なお、図6に示すグラフにおいては、周波数は5MHzまでのデータを示しているが、これは本特性測定に使用した平衡不平衡トランスの周波数帯域の上限周波数が5MHzであるため、それ以上の周波数では有効な測定ができないためである。5MHzを越える周波数のデータは上限周波数が5MHzを越えるトランスを用いれば良いが、本実施例の説明においては示していない。なお、後述する図7〜図10においても同様である。
【0066】
図6によれば、前述の国際電気標準会議の電磁適合性におけるサージイミュニティ試験規格IEC61000-4-5を満たすインダクタンス値である20mHを得ることができる。そして、共振周波数f0は、46.415kHzである。
【0067】
また、巻線用電線31は、図7に示すようにノーマルインピーダンスの値を110Ω程度にしており、そのコモンモードインピーダンスの振幅特性及び位相特性をそれぞれ図8及び図9に示している。図8によれば、周波数が約50kHzで100kΩ程度のインピーダンスの振幅が得られることが判明し、また図9によれば、周波数が50kHz程度までは、インダクタンス成分が影響を及ぼし、それ以上ではキャパシタンス成分が影響を及ぼすことが分かる。
【0068】
上記2ワイヤのコモンモードチョークコイルの減結合回路を用いて、被試験装置7及び対向装置11として50Mbps伝送速度のVDSLモデムを使用して、図1に示した雷サージ試験回路を構成して試験を行った。
【0069】
このときの雷サージ波形は、10(波頭長)/700(波尾長)usに25Ωを直列接続した波形であり、雷サージ発生器1の充電電圧が15kVである。
【0070】
したがって、被試験装置7と対向装置11間の平均伝送速度は、下り(受信側)で14Mbps、上り(送信側)で13Mbpsの通話路を開いた状態で雷サージ電圧を印加した結果、被試験装置7と対向装置11ともに異常は発生しなかった。このときの伝送損失特性における振幅を図10に示す。
【0071】
このように本実施例の減結合回路9によれば、被試験装置7と対向装置11との間に設置され、VDSLの通信信号を通過させるためのコモンモードチョークコイル25を有することにより、被試験装置7に印加した雷サージ過電圧が試験の対象としていない50Mbps伝送速度のVDSLモデムである対向装置11へ流入するのを未然に防止することが可能となり、上記VDSLモデムを動作状態にて雷サージ試験を行うことができる。
【0072】
また、本実施例によれば、複数の空心コイルC1〜C4がコモンモードで動作させるコモンモードチョークコイル25であることから、印加された雷サージ電圧によって絶縁破壊を発生することなく、試験電圧数百Vから数十kVの雷サージ試験を実施することができる。
【0073】
さらに、本実施例によれば、コモンモードチョークコイル25が絶縁材を被覆した電線をボビン27の外周に2並列巻きして構成したことから、コイルの巻線間に生じる静電容量をできるだけ抑制し、xDSL通信信号にできるだけ影響を与えないようにすることができる。
【0074】
そして、本実施例によれば、ボビン27が円筒状に形成され、その長手方向の両端にストッパ27aを有することにより、コモンモードチョークコイル25をボビン27に押え付け、確実に固定することができる。
【0075】
本実施例によれば、前記コモンモードチョークコイル25は、ノーマルインピーダンスが110Ω程度の特性を有することから、減結合回路9と通信線とのインピーダンス整合を図ることができる。
【0076】
また、本実施例によれば、コモンモードチョークコイル25は、被試験装置7の通信線ポートが4ポートの場合、4ワイヤを使用し、その通信線ポートが2ポートの場合には、4ワイヤの内の隣接する2ワイヤを使用することができるようにしている。このように通信線ポートを4ワイヤとすることによって、1台の減結合回路9で通信線ポートが4ポート及び2ポートについての雷サージ試験に適用することができ、汎用性を高めることでできる。
【0077】
なお、本実施例では、2ポートの通信線ポートに対応するため、ワイヤ数を単に2ワイヤで構成するようにしてもよい。これにより、2ポートについてだけの雷サージ試験に適用することができる。
【0078】
なお、上記実施例では、被試験装置7及び対向装置11としてVDSLモデムを使用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その他のIT機器等の通信機器にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態における減結合回路を適用した雷サージ試験回路を示す回路図である。
【図2】一実施形態における減結合回路の構成を示す回路図である。
【図3】一実施形態におけるコモンモードチョークコイルを示す概略図である。
【図4】実際のコモンモードチョークコイルを示す写真である。
【図5】ネオン電線の仕様を示す説明図である。
【図6】ネオン電線のインダクタンス特性を示す特性図である。
【図7】ネオン電線のノーマルインピーダンス特性を示す特性図である。
【図8】コモンモードインピーダンスの振幅特性を示す特性図である。
【図9】コモンモードインピーダンスの位相特性を示す特性図である。
【図10】伝送損失特性における振幅を示す特性図である。
【符号の説明】
【0080】
1 雷サージ発生器
3a,3b 結合回路
5 一次防護素子
7 被試験装置
9 減結合回路
11 対向装置
13 アース
15 抵抗
17 筐体
21 被試験装置側端子
23 対向装置側端子
25 コモンモードチョークコイル
27 ボビン
27a ストッパ
29 台座
31 巻線用電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路に設けられた減結合回路であって、
被試験装置と前記IT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、かつ前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有することを特徴とする減結合回路。
【請求項2】
前記コモンモードチョークコイルは、
絶縁材を被覆した電線をボビンの外周に2並列巻き、又は4並列巻きしてなることを特徴とする請求項1記載の減結合回路。
【請求項3】
前記ボビンは、
円筒状に形成され、その長手方向の両端にストッパを有することを特徴とする請求項2記載の減結合回路。
【請求項4】
前記コモンモードチョークコイルは、
ノーマルインピーダンスが110Ω程度の特性を有することを特徴とする請求項1記載の減結合回路。
【請求項5】
前記コモンモードチョークコイルは、
前記IT機器等の通信機器における4ポートの通信線ポートに対応するためワイヤ数は4ワイヤを有し、前記被試験装置の通信線ポートが2ポートに対しては4ワイヤの内の2ワイヤを使用可能な4ワイヤで構成したことを特徴とする請求項1記載の減結合回路。
【請求項6】
前記コモンモードチョークコイルは、
前記IT機器等の通信機器における2ポートの通信線ポートに対応するためワイヤ数を2ワイヤで構成したことを特徴とする請求項1記載の減結合回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−352698(P2006−352698A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178406(P2005−178406)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】