渦電流減速装置の制動力推定方法及び推定制動力演算装置、並びに制動力制御装置、渦電流減速装置
【課題】ロータ回転数や時間の経過とともに変化する制動力を精度良く推定する。
【解決手段】回転軸1に連結された導電性材料からなるロータ2と、固定側に配置された磁力発生手段5,5a,5b,9を備え、磁力発生手段5,5a,5b,9で発生する磁力をロータ2に及ぼすことで、ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置13において、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出する。
【効果】時々刻々変化する渦電流減速装置の制動力を精度良く求めることが可能となり、その結果、車両の制動力統合制御の制御性能が向上し、より安全に安定した制動を行うことができる。
【解決手段】回転軸1に連結された導電性材料からなるロータ2と、固定側に配置された磁力発生手段5,5a,5b,9を備え、磁力発生手段5,5a,5b,9で発生する磁力をロータ2に及ぼすことで、ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置13において、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出する。
【効果】時々刻々変化する渦電流減速装置の制動力を精度良く求めることが可能となり、その結果、車両の制動力統合制御の制御性能が向上し、より安全に安定した制動を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として渦電流減速装置において、制動時に時々刻々変化する制動力を、精度良く推定する方法及びこの推定制動力を演算する装置、並びにこの推定制動力に基づいて制動力を制御する装置と、これらの装置を備えた渦電流減速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バスやトラックの商用車には、主ブレーキであるフットブレーキや補助ブレーキである排気ブレーキの他に、渦電流減速装置が取り付けられるようになってきている。この渦電流減速装置は、長い降坂時等において、安定した減速・抑速を行い、フットブレーキの使用回数を減少させてライニングの異常摩耗やフェード現象を防止すると共に、制動停止距離の短縮を目的とするものである。
【0003】
この渦電流減速装置は、大別して永久磁石式と電磁石式の二つの方式があり、そのうち永久磁石式としては、以下の4つの方式がある。
【0004】
1) 軸スライド方式(特許文献1:図14参照)
回転軸1に取付けられたドラム状のロータ2の内周面側に、非磁性体の支持体3間にその周方向に所定の間隔を存して強磁性体のポールピース4群を配置し、このポールピース4群の内周側に、ポールピース4と同じ間隔でN極、S極を周方向に交互に配置した永久磁石5群を、外周面に取り付けた強磁性体の支持リング6を配置したものである。そして、アクチュエータ7によって、前記永久磁石5群がポールピース4群と全面対向する位置から全面離脱する位置まで密閉ケース8内を進退可能なように、支持リング6を設けている。
【特許文献1】特開平1−234043号公報
【0005】
2) 単列旋回方式(特許文献2:図15参照)
ロータ2の内周面側に、これに対向して配置した支持リング6を、ポールピース4と、支持リング6の外周面に取り付けた永久磁石5とが重なり合うと位置と、一つの永久磁石5が隣接するポールピース4を跨いで半分ずつ重なり合う位置とを、選択できるように旋回移動可能に設けたものである。
【特許文献2】特開平1−298948号公報
【0006】
3) 複列旋回方式(特許文献3:図16参照)
外周面にその周方向に沿って所定の間隔でN極、S極を交互に配置した永久磁石5a,5b群を有する支持リング6a,6bを例えば2個並列に配置し、これらの支持リング6a,6bにおける隣合う永久磁石5a,5bの極を同極に揃えたり、異極になるように選択できるように構成したものである。
【特許文献3】特開平4−12659号公報
【0007】
4) ディスク型(特許文献4:図17参照)
回転軸1に取り付けられたディスク(円板)型のロータ2と対向する位置に、周方向に所定の間隔を存して強磁性体のポールピース4群を取り付けた非磁性の支持体3を配置し、前記ポールピース4群の反ロータ側に、ポールピース4と同じ間隔でN極、S極を周方向に交互に配置した永久磁石5群を取り付けた強磁性体の支持リング6を配置したものである。そして、アクチュエータ7によって、前記永久磁石5群を、ポールピース4群に近づけたり、ポールピース4群から離したりすることで制動力を切換えるようにしている。
【特許文献4】特開2004−48978号公報
【0008】
一方、電磁石式としては、例えば図18に示すような、回転軸1に取り付けられた円筒状ロータ2と、ロータ2の内周面に磁極が対向するように電磁石9を周方向に配置し、電磁石9への通電量を切換えることによって制動力を切換える方式等がある。
【特許文献5】特開昭63−274359号公報
【0009】
また、電磁石式の中には、内部に発電機能を備え、発電した電力によって電磁石を励磁して制動力を発生させる方式(特許文献6)や、電磁石と永久磁石を組み合わせ、制動時は、電磁石だけでなく、永久磁石の磁力も及ぶように構成した方式(特許文献7)等もある。
【特許文献6】特開平7−143732号公報
【特許文献7】特開2002−95235号公報
【0010】
前述の通り、磁力発生手段として、永久磁石式は永久磁石を、電磁石式は主として電磁石を用いているが、回転軸に取り付けられた導電性のロータに、固定側に取り付けられた磁力発生手段から生じる磁力を及ぼすことで、ロータ内部に渦電流を生じさせ、ロータの回転方向と反対側にローレンツ力による制動力を発揮するという基本原理は同じである。
【0011】
しかしながら、渦電流減速装置の制動力は、何れの方式でも、磁力発生手段からの磁力が一定であっても、ロータ回転数によって異なる(図19参照)だけでなく、回転数が一定であっても、時間の経過とともに変化する(図20参照)という特徴を必ず有している。従って、ある時刻における正確な制動力を把握することが困難であった。
【0012】
なお、図19及び図20は単列の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、永久磁石が最大磁力発生位置にある状態で測定したものである。そして、図19は初期温度が20℃で、最大制動力を1.0とした制動力比で示した図、図20は回転数を1800rpmの一定とし、初期の最大制動力を1.0とした制動力比で示した図である。
【0013】
ところで、車両の制動動作は、通常、運転者によるペダル踏み込み量によってフットブレーキの制動力を調整し、また補助ブレーキ作動レバーの操作により排気ブレーキや渦電流減速装置を作動させることによって、必要な制動力を運転者が自らが判断して調整している。
【0014】
しかしながら、近年では、車速センサーやGセンサー(加減速度センサー)等からの情報に基づいて必要な制動力を算出し、算出された必要制動力を発揮するように各制動装置を協調させ、適切に制動力を制御・調整する制動装置の統合制御が採用されるようになってきている。
【0015】
このような統合制御によって、運転者の制動操作を簡素化できたり、積載量に応じて制動力を加減したり、降坂時に一定速度で安定的に降坂することが可能となる。
【0016】
前記統合制御に渦電流減速装置を適用する方法として、例えば以下の提案がなされている(特許文献8〜10)。
【特許文献8】特開2001−78305号公報
【特許文献9】特開2001−78429号公報
【特許文献10】特開2001−78499号公報
【0017】
これら特許文献8〜10で提案された技術は、何れも、スイッチや各種センサー類の情報に基づいて必要な制動力を算出し、渦電流減速装置が必要な制動力を発揮するように永久磁石位置や電磁石への通電量を調整する制御を行っている。
【0018】
例えば特許文献10では、「協調ブレーキ処理手段」によって、Gセンサーなどの情報に基づいて所望の制動力を決定し、この制動力を発揮するために、予め実験などで得た車速(ロータ回転数に比例)に応じた制動トルクとの理想曲線に基づいて、渦電流減速装置の電磁石のコイルへ供給する電圧を決め、電圧に応じた制動力を発生させるとともに、排気ブレーキ等の他の制動装置による制動力を適切に制御する。
【0019】
そして、発生した渦電流式減速装置の制動力と他の各制動装置の制動力とによって決まる車両全体の制動力をGセンサーで検出し、所望の制動力と比較して、過不足があれば、渦電流減速装置へ供給する電圧を変化させ、所望の制動力を発揮するようにフィードバック制御を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、前述の通り、渦電流減速装置では、仮に磁力発生手段からの磁力が一定(電磁石式では電圧が一定)であっても、制動力はロータ回転数によって異なるだけでなく、さらに時間の経過とともに変化するという特徴を必ず有しているので、ある時刻における制動力を精度良く把握することが困難である。
【0021】
従って、例えば特許文献10のような回転数に応じて渦電流減速装置の制動力を算出する方法では、算出した制動力の精度が不十分な場合があるので、前記制動力統合制御装置において、車両全体の実際の制動力が、計算上必要とする制動力と乖離してしまう。このような場合、フィードバック制御を行っても目標とする制動力を適切に得られなかったり、制動力が不安定となる可能性がある。つまり、坂道を一定速度で安定的に降坂することができなかったり、必要以上に制動力が強くなりすぎて車輪がロックする可能性がある。
【0022】
解決しようとする問題点は、渦電流減速装置では、仮に磁力発生手段からの磁力が一定(電磁石式では電圧が一定)であっても、ロータ回転数や時間の経過とともに制動力が変化するので、高精度に制動力の推定を行うことができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の渦電流減速装置の制動力推定方法は、
渦電流減速装置の使用中、ロータ回転数や時間の経過とともに変化する制動力を精度良く推定するために、
回転軸に連結された導電性材料からなるロータと、固定側に配置された磁力発生手段を備え、前記磁力発生手段で発生する磁力を前記ロータに及ぼすことで、前記ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置において、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを最も主要な特徴としている。
【0024】
本発明の渦電流減速装置の制動力推定方法は、
予め求めておいたロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を記憶した記憶部と、
この記憶部の前記相関関係と温度センサーからの検出ロータ温度に基づいて推定制動力を算出する演算部を備えた本発明の渦電流減速装置の推定制動力演算装置によって実施することができる。
【0025】
また、本発明の渦電流減速装置の推定制動力演算装置と、
車両全体の必要制動力を満足するように、各制動装置が要求する制動力を決定し、各制動装置を制御する制御装置へ要求制動力を伝達する車両の制動力統合制御装置と、
前記推定制動力演算装置と制動力統合制御装置から伝達される情報に基づいて渦電流減速装置の制動力を制御する制御部を備えた本発明の渦電流減速装置の制動力制御装置によれば、制動力統合制御装置から伝達される情報に基づいて渦電流減速装置の制動力を精度良く制御することができる。
【0026】
また、本発明の渦電流減速装置の制動力制御装置を備えた本発明の渦電流減速装置では、必要以上に制動力が強くなりすぎて車輪がロックするというようなことが無く、坂道を一定速度で安定的に降坂することができるようになる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、ロータ温度を考慮して制動力を推定するので、図13に示すように、時々刻々変化する渦電流減速装置の制動力を精度良く求めることが可能となり、その結果、車両の制動力統合制御の制御性能が向上し、より安全に安定した制動を行うことができる。なお、図13は単列の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、永久磁石が最大磁力発生位置にある状態で、回転数を1800rpmの一定とし、初期の最大制動力を1.0とした制動力比で示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための各種の形態と共に、最良の形態について、図1〜図12を用いて説明する。
【0029】
発明例1)
図1は、図15に示す単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置において、永久磁石の最大磁力発生位置におけるロータ発熱部の温度と制動力との関係を、ロータの回転数毎に示したものである。なお、ロータ発熱部の温度は、実験室でロータに熱電対を直接埋め込んで測定した。
【0030】
発明者らは、ロータの回転数が一定であれば、ロータ発熱部の温度と制動力との関係はほぼ一定の関係にあることを知見し(図1参照)、例えば下記数式1に示すような一次関数で近似的に表現することが可能であることを明らかにした。
【0031】
【数1】
【0032】
本発明の渦電流減速装置の制動力推定方法は、上記の知見に基づいてなされたものであり、
回転軸に連結された導電性材料からなるロータと、固定側に配置された磁力発生手段を備え、前記磁力発生手段で発生する磁力を前記ロータに及ぼすことで、前記ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置において、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とするものである。
【0033】
発明例2)
また、発明者らは、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を、上記数式1で示すような一次関数で表現した場合には、直線の傾きとY軸(制動力比)の切片との関係は、図2(a)(b)に示すような関係となり、近似的に下記数式2、数式3で示すロータ回転数の関数で表現できることも明らかにした。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
図1及び数式1における制動力は、渦電流減速装置の最大制動力を1.0として、最大制動力に対する比率(制動力比)を求めているが、制動力比とせずに、図1の縦軸を制動力で表し、制動力に応じた傾きaや切片bを求め、相関式を構成しても良い。
【0037】
同様に、図1では横軸をロータ発熱部の温度を直接示しているが、例えば常温(20℃)の温度を基準値0とし、基準温度からの比率や差を図1の横軸のパラメータとして、相関式を構成しても良い。
【0038】
つまり、別のパラメータを用い、そのパラメータによって実際の制動力とロータ温度との相関を表現することができれば良く、演算時の計算機の性能に応じて、適宜選択することができる。
【0039】
そして、これらの相関式を、推定制動力演算装置に記憶させておき、時々刻々変化するロータ回転数に応じて、その時点における前記一次相関式の傾きa(数式2)と切片b(数式3)を求め、前記数式1へ、その時点におけるロータ温度を代入することによって、その時刻の制動力を算出できることが分かった。
【0040】
すなわち、発明例2は、前記の発明例1において、ロータ回転数に応じて、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係を表す、例えば一次関数の係数(傾きaと切片b)を求め、この求めた係数を前記関係式に代入して得た前記相関関係に基づいて、推定制動力を算出するものである。
【0041】
発明例3)
また、前記の発明例1,2において、ロータ温度とロータ回転数と制動力との相関関係に加えて、制動状態を示す情報と制動力との相関関係を予め求めておき、これらの予め求めておいた相関関係と、検出ロータ温度、検出ロータ回転数に加えて、制動状態を示す情報に応じて推定制動力を算出しても良い。これが発明例3である。
【0042】
ここで、制動状態を示す情報とは、渦電流減速装置が現在どのような制動状態にあるかを判断するための情報であり、例えば制動ON・OFFを選択するスイッチや、制動力の強さを選択するスイッチ、またそれらに応じて永久磁石の制動位置を制御する制御信号や電磁石への印加電圧を意味する。
【0043】
これら発明例2,3の方法によれば、ロータ温度とロータ回転数、その時の制動状態を示す情報があれば、予め実験で求めた関係式を推定制動力演算装置に記憶させておくことで、推定制動力を精度良く算出することができる。
【0044】
発明例4)
実際の車両においては、発明例1〜3で説明したように、ロータの温度を熱電対で直接測定することが困難である。従って、発明例4では、例えば特開2004−23930号で開示されているような方法を用いて、ロータ温度を推定することとした。
【0045】
すなわち、渦電流式減速装置のある時刻tiのロータ温度Tiは、ひとつ前の時刻ti‐1のロータ温度をTi‐1、時刻tiよりひとつ前の時刻ti‐1間の温度変化量をΔTi‐1とした場合、下記数式4の温度演算基本式で求めることができる。
【0046】
【数4】
【0047】
ロータ温度を演算するための数式4のΔTi‐1を求めるために必要なKi‐1は、実験や解析によって、図3や図4に示すように、制動状態とロータ回転数毎にロータ温度に対応する値を求めておき、それらの関係を関数で表現し、事前に推定制動力演算装置に記憶させておく。
【0048】
そして、渦電流式減速装置のロータ温度は、制動ON・OFFを問わず常に変化するので、渦電流式減速装置の運転中は、推定制動力演算装置にて、常にその時の制動状態、ロータ回転数、ロータ温度Ti‐1に応じたKi‐1値を算出するようにし、数式4を用いて、時刻tiにおけるロータ温度Tiを算出する。もちろん、関数を記憶させておく代わりに、データをマップ化して記憶させておいても良い。
【0049】
このようにロータ温度を常に更新補正することによって、ロータ温度を精度良く推定することができ、推定したロータ温度とロータ回転数と制動状態情報とから、前述の通り、予め記憶させておいた関係式やデータマップを用いて制動力を精度良く算出できる。
【0050】
また、例えば制動力強と制動力弱のように、制動力を複数に切換えることの可能な渦電流減速装置においては、その時点の制動力だけでなく、その時刻で制動力を切換えた際の切換え後の制動力も同様の手順で、同時に算出しておくことができる。つまり、切換え後の制動状態情報に基づく前記関数のパラメータを用いて、その時のロータ温度とロータ回転数とから切換え後の制動力を算出する。
【0051】
この場合、例えば現在の制動力の選択状態(リターダ作動スイッチの選択状態)が弱である場合に、現在の選択状態である制動力が弱の場合の制動力と、制動力を強に切換えた場合の制動力を予測することが可能になる。
【0052】
また、制動力選択情報の選択肢が、例えば4段階や5段階のように多数の場合、それぞれの制動選択情報に応じて、それぞれの切換え後の制動力を予め算出しておくことも可能である。
【0053】
さらに、非制動状態においても、その時のロータ温度とロータ回転数とに応じて、その時点で制動状態に切換えた場合の制動力を同様の手順で算出しておくことができる。
【0054】
発明例5)
図5に示すように、上述の発明例4の通り精度良く算出したその時点における制動力や、その時点で制動力を切換える際の予測された制動力は、推定制動力演算装置11から車両の制動力統合制御装置12へ伝達される。この制動力統合制御装置12では、Gセンサーや車速センサーなどから求めた車両全体の必要制動力を満足するように、渦電流減速装置13の制動力制御装置14などの各々の制動装置が要求する制動力を決定し、各々の制動装置を制御する制御装置へ要求制動力を伝達する。そして、伝達された要求制動力に応じて、各々の制動装置が制動力を発揮することによって、各々の制動装置が要求された制動力を発揮し、車両全体の必要な制動力を得ることが可能となる。
【0055】
この場合、制動力を複数選択することができない方式の渦電流減速装置の場合は、車両の制動力統合制御装置12から制動要求が伝達された場合は、制動ONに切換えて要求された制動力を発揮し、制動要求が伝達されない場合は、非制動状態となる(制動力統合制御装置12からの要求制動力が0を意味する)。
【0056】
一方、永久磁石の位置を変更したり、電磁石へ印加する電圧を変化させることによって制動力を複数選択して切換えることのできる渦電流減速装置の場合は、例えば制動力統合制御装置12からの指令に基づいて制動力を弱から強に切換えることによって、要求された制動力を発揮することができる。
【0057】
発明例6)
上記発明例5よりも、より一層精度良く制動力を推定するために、図6に示すように、温度センサーによって磁力発生手段の温度を測定し、磁力発生手段の温度と制動力との関係を予め推定制動力演算装置11に記憶させておく。そして、発明例5と同様に制動状態情報、検出ロータ温度、検出ロータ回転数と、さらに磁力発生手段の温度に応じて制動力を算出することで、発明例5よりも一層精度良く制動力を推定することが可能になる。
【0058】
ところで、磁力発生手段の温度を測定するには、例えば図11に示すような単列旋回式の永久磁石式渦電流減速装置であれば、永久磁石5またはその近傍、電磁石式渦電流減速装置であれば、電磁石のコイルまたはその近傍の温度を温度センサー15で測定する。
【0059】
永久磁石であっても電磁石であっても、温度上昇に伴って磁石の磁力線量は減少するため、その結果、制動力が低下する。この関係を関数で表現したり、又はマップ化し、推定制動力演算装置11に記憶させておくことで、磁力発生手段の温度に応じて推定制動力を補正することが可能となる。
【0060】
また、同時に、磁力発生手段の温度は、ロータ温度とも相関関係があることから、磁力発生手段の温度に応じて補正したロータ温度を、推定制動力の算出に用いることも可能である。
【0061】
発明例7)
上記発明例5,6では、温度変化率を用いた更新補正によってロータ温度を求めているが、図7に示す発明例7では、図12に示すように、ロータ2の近傍に設けた温度センサー16によって、ロータ近傍の空気温度を測定するものである。
【0062】
この発明例7は、ロータの発熱によって、ロータ近傍の空気が加熱されるので、実際のロータ温度とロータ近傍の空気温度とは相関関係があることから、ロータ近傍の空気温度と制動力との関係も相関関係があることに基づくものである。
【0063】
すなわち、発明例7は、実験等で予めロータ近傍の空気温度と制動力との関係を求めておき、その関係を推定制動力演算装置11に記憶させておき、測定したロータ近傍温度とロータ回転数と制動状態情報に応じた推定制動力を算出するのである。
【0064】
発明例8)
発明例8は、図8に示すように、発明例7の構成に加えて、磁力発生手段の温度も同時に測定するもので、この場合、発明例7よりも精度良く制動力を推定することができる。
【0065】
その他の発明例)
ロータ温度を求める方法としては、前述の方法に限らず、放射温度計で直接ロータ温度を測定したり、ロータの温度変化に応じた熱変形量を変位センサーで検出し、変位量をロータ温度に代用するなど、渦電流減速装置の個々の特性に応じて、選択しても良い。
【0066】
また、渦電流減速装置の推定制動力演算装置11と制動力制御装置14は、図5〜図8に示す発明例5〜8のように別個の装置であっても良いし、図9に示すように一つの統合された演算制御装置であっても良い。
【0067】
さらに、図10に示すように、車両の制動力統合制御装置12の中に、渦電流減速装置の推定制動力演算装置11と制動力制御装置14と同等の機能を組み込んで、車両の制動力統合制御装置12で渦電流減速装置13の推定制動力を演算したり、渦電流減速装置13を直接制御することも可能である。
【0068】
なお、ロータの回転数は、車両に取り付けられた車速センサーから求めてもよいし、渦電流減速装置内に回転数検出機能を備えても良い。
【0069】
本発明は上記の例に限らず、本発明の各請求項に記載された技術的思想の範疇内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは、言うまでもない。
【0070】
例えば上記の例では、図1で示したロータ温度と制動力との関係を一次関数で表現しているが、図1に破線で示したように、一次関数と二次関数を合わせたものとしても良く、また渦電流減速装置の個々の特性に応じて、相関式を変えても良い。もちろん、相関式の代りに、ロータ温度、ロータ回転数、制動状態情報と制動力との関係を示す多数のデータをマップ化して記憶させておいても同様の作用がある。
【0071】
また、制動力制御装置14における渦電流減速装置13の制動指令の判断は、車両の制動力統合制御装置12による情報のみならず、制動状態情報(制動スイッチなど)やロータ温度の算出結果、ロータ近傍温度の測定値、磁力発生手段の測定値に基づいて制動指令を切換えても良い。例えばロータ温度が上限温度を超えないように渦電流減速装置13の制動力を自動的に低減したり、強制解除するような制御を行っても良い。また、磁力発生手段が電磁石の場合は、コイルの発熱を検出して、コイル温度が上限温度を超えないように、印加電圧を低減し、制動力を低減しても良い。このとき、制動力は自動的に切替わるが、推定制動力演算装置11によって切替わる制動力も計算できるので、車両の制動力統合制御装置12へ算出された制動力が伝達される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、バスやトラックなどの自動車のみならず鉄道車両にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ロータ温度と制動力の関係を表した図である。
【図2】(a)はロータ温度とロータ回転数の一次相関式における傾きとロータ回転数との関係を表した図、(b)はロータ温度とロータ回転数の一次相関式における切片とロータ回転数との関係を表した図である。
【図3】複列旋回方式の渦電流式減速装置を用いたベンチ試験において、制動状態が弱、回転数が1800rpmの一定条件で制動実験を行った結果を示したもので、横軸にロータ温度を、縦軸に温度変化率を示した図である。
【図4】ロータ回転数とロータ温度変化率との関係を表した図である。
【図5】発明例5における渦電流減速装置の推定制動力演算装置、制動力制御装置と車両の制動力統合制御装置との概略構成例を示すブロック図である。
【図6】発明例6における図5と同じ図である。
【図7】発明例7における図5と同じ図である。
【図8】発明例8における図5と同じ図である。
【図9】渦電流減速装置の推定制動力演算装置と制動力制御装置を一つの演算制御装置とした場合のブロック図である。
【図10】車両の制動力統合制御装置に渦電流減速装置の推定制動力演算装置、制動力制御装置を構成した例を示すブロック図である。
【図11】発明例6における磁力発生手段近傍温度を測定する温度センサーの構成例を示す図である。
【図12】発明例7におけるロータ近傍温度を測定する温度センサーの構成例を示す図である。
【図13】実測値と、本発明例と、従来例における制動力の時間変化を示した図である。
【図14】軸スライド方式の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図15】単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図16】複列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図17】ディスク型の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図18】電磁石への通電量を切換えることによって制動力を切換える電磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図19】単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、磁石が最大磁力発生位置にある状態で測定した、ロータ回転数と制動力の関係を示した図である。
【図20】単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、磁石が最大磁力発生位置にある状態で測定した、制動力の時間変化を示した図である。
【符号の説明】
【0074】
1 回転軸
2 ロータ
5,5a,5b 永久磁石
9 電磁石
11 推定制動力演算装置
12 車両の制動力統合制御装置
13 渦電流減速装置
14 渦電流減速装置の制動力制御装置
15,16 温度センサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として渦電流減速装置において、制動時に時々刻々変化する制動力を、精度良く推定する方法及びこの推定制動力を演算する装置、並びにこの推定制動力に基づいて制動力を制御する装置と、これらの装置を備えた渦電流減速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バスやトラックの商用車には、主ブレーキであるフットブレーキや補助ブレーキである排気ブレーキの他に、渦電流減速装置が取り付けられるようになってきている。この渦電流減速装置は、長い降坂時等において、安定した減速・抑速を行い、フットブレーキの使用回数を減少させてライニングの異常摩耗やフェード現象を防止すると共に、制動停止距離の短縮を目的とするものである。
【0003】
この渦電流減速装置は、大別して永久磁石式と電磁石式の二つの方式があり、そのうち永久磁石式としては、以下の4つの方式がある。
【0004】
1) 軸スライド方式(特許文献1:図14参照)
回転軸1に取付けられたドラム状のロータ2の内周面側に、非磁性体の支持体3間にその周方向に所定の間隔を存して強磁性体のポールピース4群を配置し、このポールピース4群の内周側に、ポールピース4と同じ間隔でN極、S極を周方向に交互に配置した永久磁石5群を、外周面に取り付けた強磁性体の支持リング6を配置したものである。そして、アクチュエータ7によって、前記永久磁石5群がポールピース4群と全面対向する位置から全面離脱する位置まで密閉ケース8内を進退可能なように、支持リング6を設けている。
【特許文献1】特開平1−234043号公報
【0005】
2) 単列旋回方式(特許文献2:図15参照)
ロータ2の内周面側に、これに対向して配置した支持リング6を、ポールピース4と、支持リング6の外周面に取り付けた永久磁石5とが重なり合うと位置と、一つの永久磁石5が隣接するポールピース4を跨いで半分ずつ重なり合う位置とを、選択できるように旋回移動可能に設けたものである。
【特許文献2】特開平1−298948号公報
【0006】
3) 複列旋回方式(特許文献3:図16参照)
外周面にその周方向に沿って所定の間隔でN極、S極を交互に配置した永久磁石5a,5b群を有する支持リング6a,6bを例えば2個並列に配置し、これらの支持リング6a,6bにおける隣合う永久磁石5a,5bの極を同極に揃えたり、異極になるように選択できるように構成したものである。
【特許文献3】特開平4−12659号公報
【0007】
4) ディスク型(特許文献4:図17参照)
回転軸1に取り付けられたディスク(円板)型のロータ2と対向する位置に、周方向に所定の間隔を存して強磁性体のポールピース4群を取り付けた非磁性の支持体3を配置し、前記ポールピース4群の反ロータ側に、ポールピース4と同じ間隔でN極、S極を周方向に交互に配置した永久磁石5群を取り付けた強磁性体の支持リング6を配置したものである。そして、アクチュエータ7によって、前記永久磁石5群を、ポールピース4群に近づけたり、ポールピース4群から離したりすることで制動力を切換えるようにしている。
【特許文献4】特開2004−48978号公報
【0008】
一方、電磁石式としては、例えば図18に示すような、回転軸1に取り付けられた円筒状ロータ2と、ロータ2の内周面に磁極が対向するように電磁石9を周方向に配置し、電磁石9への通電量を切換えることによって制動力を切換える方式等がある。
【特許文献5】特開昭63−274359号公報
【0009】
また、電磁石式の中には、内部に発電機能を備え、発電した電力によって電磁石を励磁して制動力を発生させる方式(特許文献6)や、電磁石と永久磁石を組み合わせ、制動時は、電磁石だけでなく、永久磁石の磁力も及ぶように構成した方式(特許文献7)等もある。
【特許文献6】特開平7−143732号公報
【特許文献7】特開2002−95235号公報
【0010】
前述の通り、磁力発生手段として、永久磁石式は永久磁石を、電磁石式は主として電磁石を用いているが、回転軸に取り付けられた導電性のロータに、固定側に取り付けられた磁力発生手段から生じる磁力を及ぼすことで、ロータ内部に渦電流を生じさせ、ロータの回転方向と反対側にローレンツ力による制動力を発揮するという基本原理は同じである。
【0011】
しかしながら、渦電流減速装置の制動力は、何れの方式でも、磁力発生手段からの磁力が一定であっても、ロータ回転数によって異なる(図19参照)だけでなく、回転数が一定であっても、時間の経過とともに変化する(図20参照)という特徴を必ず有している。従って、ある時刻における正確な制動力を把握することが困難であった。
【0012】
なお、図19及び図20は単列の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、永久磁石が最大磁力発生位置にある状態で測定したものである。そして、図19は初期温度が20℃で、最大制動力を1.0とした制動力比で示した図、図20は回転数を1800rpmの一定とし、初期の最大制動力を1.0とした制動力比で示した図である。
【0013】
ところで、車両の制動動作は、通常、運転者によるペダル踏み込み量によってフットブレーキの制動力を調整し、また補助ブレーキ作動レバーの操作により排気ブレーキや渦電流減速装置を作動させることによって、必要な制動力を運転者が自らが判断して調整している。
【0014】
しかしながら、近年では、車速センサーやGセンサー(加減速度センサー)等からの情報に基づいて必要な制動力を算出し、算出された必要制動力を発揮するように各制動装置を協調させ、適切に制動力を制御・調整する制動装置の統合制御が採用されるようになってきている。
【0015】
このような統合制御によって、運転者の制動操作を簡素化できたり、積載量に応じて制動力を加減したり、降坂時に一定速度で安定的に降坂することが可能となる。
【0016】
前記統合制御に渦電流減速装置を適用する方法として、例えば以下の提案がなされている(特許文献8〜10)。
【特許文献8】特開2001−78305号公報
【特許文献9】特開2001−78429号公報
【特許文献10】特開2001−78499号公報
【0017】
これら特許文献8〜10で提案された技術は、何れも、スイッチや各種センサー類の情報に基づいて必要な制動力を算出し、渦電流減速装置が必要な制動力を発揮するように永久磁石位置や電磁石への通電量を調整する制御を行っている。
【0018】
例えば特許文献10では、「協調ブレーキ処理手段」によって、Gセンサーなどの情報に基づいて所望の制動力を決定し、この制動力を発揮するために、予め実験などで得た車速(ロータ回転数に比例)に応じた制動トルクとの理想曲線に基づいて、渦電流減速装置の電磁石のコイルへ供給する電圧を決め、電圧に応じた制動力を発生させるとともに、排気ブレーキ等の他の制動装置による制動力を適切に制御する。
【0019】
そして、発生した渦電流式減速装置の制動力と他の各制動装置の制動力とによって決まる車両全体の制動力をGセンサーで検出し、所望の制動力と比較して、過不足があれば、渦電流減速装置へ供給する電圧を変化させ、所望の制動力を発揮するようにフィードバック制御を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、前述の通り、渦電流減速装置では、仮に磁力発生手段からの磁力が一定(電磁石式では電圧が一定)であっても、制動力はロータ回転数によって異なるだけでなく、さらに時間の経過とともに変化するという特徴を必ず有しているので、ある時刻における制動力を精度良く把握することが困難である。
【0021】
従って、例えば特許文献10のような回転数に応じて渦電流減速装置の制動力を算出する方法では、算出した制動力の精度が不十分な場合があるので、前記制動力統合制御装置において、車両全体の実際の制動力が、計算上必要とする制動力と乖離してしまう。このような場合、フィードバック制御を行っても目標とする制動力を適切に得られなかったり、制動力が不安定となる可能性がある。つまり、坂道を一定速度で安定的に降坂することができなかったり、必要以上に制動力が強くなりすぎて車輪がロックする可能性がある。
【0022】
解決しようとする問題点は、渦電流減速装置では、仮に磁力発生手段からの磁力が一定(電磁石式では電圧が一定)であっても、ロータ回転数や時間の経過とともに制動力が変化するので、高精度に制動力の推定を行うことができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の渦電流減速装置の制動力推定方法は、
渦電流減速装置の使用中、ロータ回転数や時間の経過とともに変化する制動力を精度良く推定するために、
回転軸に連結された導電性材料からなるロータと、固定側に配置された磁力発生手段を備え、前記磁力発生手段で発生する磁力を前記ロータに及ぼすことで、前記ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置において、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを最も主要な特徴としている。
【0024】
本発明の渦電流減速装置の制動力推定方法は、
予め求めておいたロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を記憶した記憶部と、
この記憶部の前記相関関係と温度センサーからの検出ロータ温度に基づいて推定制動力を算出する演算部を備えた本発明の渦電流減速装置の推定制動力演算装置によって実施することができる。
【0025】
また、本発明の渦電流減速装置の推定制動力演算装置と、
車両全体の必要制動力を満足するように、各制動装置が要求する制動力を決定し、各制動装置を制御する制御装置へ要求制動力を伝達する車両の制動力統合制御装置と、
前記推定制動力演算装置と制動力統合制御装置から伝達される情報に基づいて渦電流減速装置の制動力を制御する制御部を備えた本発明の渦電流減速装置の制動力制御装置によれば、制動力統合制御装置から伝達される情報に基づいて渦電流減速装置の制動力を精度良く制御することができる。
【0026】
また、本発明の渦電流減速装置の制動力制御装置を備えた本発明の渦電流減速装置では、必要以上に制動力が強くなりすぎて車輪がロックするというようなことが無く、坂道を一定速度で安定的に降坂することができるようになる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、ロータ温度を考慮して制動力を推定するので、図13に示すように、時々刻々変化する渦電流減速装置の制動力を精度良く求めることが可能となり、その結果、車両の制動力統合制御の制御性能が向上し、より安全に安定した制動を行うことができる。なお、図13は単列の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、永久磁石が最大磁力発生位置にある状態で、回転数を1800rpmの一定とし、初期の最大制動力を1.0とした制動力比で示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための各種の形態と共に、最良の形態について、図1〜図12を用いて説明する。
【0029】
発明例1)
図1は、図15に示す単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置において、永久磁石の最大磁力発生位置におけるロータ発熱部の温度と制動力との関係を、ロータの回転数毎に示したものである。なお、ロータ発熱部の温度は、実験室でロータに熱電対を直接埋め込んで測定した。
【0030】
発明者らは、ロータの回転数が一定であれば、ロータ発熱部の温度と制動力との関係はほぼ一定の関係にあることを知見し(図1参照)、例えば下記数式1に示すような一次関数で近似的に表現することが可能であることを明らかにした。
【0031】
【数1】
【0032】
本発明の渦電流減速装置の制動力推定方法は、上記の知見に基づいてなされたものであり、
回転軸に連結された導電性材料からなるロータと、固定側に配置された磁力発生手段を備え、前記磁力発生手段で発生する磁力を前記ロータに及ぼすことで、前記ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置において、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とするものである。
【0033】
発明例2)
また、発明者らは、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を、上記数式1で示すような一次関数で表現した場合には、直線の傾きとY軸(制動力比)の切片との関係は、図2(a)(b)に示すような関係となり、近似的に下記数式2、数式3で示すロータ回転数の関数で表現できることも明らかにした。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
図1及び数式1における制動力は、渦電流減速装置の最大制動力を1.0として、最大制動力に対する比率(制動力比)を求めているが、制動力比とせずに、図1の縦軸を制動力で表し、制動力に応じた傾きaや切片bを求め、相関式を構成しても良い。
【0037】
同様に、図1では横軸をロータ発熱部の温度を直接示しているが、例えば常温(20℃)の温度を基準値0とし、基準温度からの比率や差を図1の横軸のパラメータとして、相関式を構成しても良い。
【0038】
つまり、別のパラメータを用い、そのパラメータによって実際の制動力とロータ温度との相関を表現することができれば良く、演算時の計算機の性能に応じて、適宜選択することができる。
【0039】
そして、これらの相関式を、推定制動力演算装置に記憶させておき、時々刻々変化するロータ回転数に応じて、その時点における前記一次相関式の傾きa(数式2)と切片b(数式3)を求め、前記数式1へ、その時点におけるロータ温度を代入することによって、その時刻の制動力を算出できることが分かった。
【0040】
すなわち、発明例2は、前記の発明例1において、ロータ回転数に応じて、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係を表す、例えば一次関数の係数(傾きaと切片b)を求め、この求めた係数を前記関係式に代入して得た前記相関関係に基づいて、推定制動力を算出するものである。
【0041】
発明例3)
また、前記の発明例1,2において、ロータ温度とロータ回転数と制動力との相関関係に加えて、制動状態を示す情報と制動力との相関関係を予め求めておき、これらの予め求めておいた相関関係と、検出ロータ温度、検出ロータ回転数に加えて、制動状態を示す情報に応じて推定制動力を算出しても良い。これが発明例3である。
【0042】
ここで、制動状態を示す情報とは、渦電流減速装置が現在どのような制動状態にあるかを判断するための情報であり、例えば制動ON・OFFを選択するスイッチや、制動力の強さを選択するスイッチ、またそれらに応じて永久磁石の制動位置を制御する制御信号や電磁石への印加電圧を意味する。
【0043】
これら発明例2,3の方法によれば、ロータ温度とロータ回転数、その時の制動状態を示す情報があれば、予め実験で求めた関係式を推定制動力演算装置に記憶させておくことで、推定制動力を精度良く算出することができる。
【0044】
発明例4)
実際の車両においては、発明例1〜3で説明したように、ロータの温度を熱電対で直接測定することが困難である。従って、発明例4では、例えば特開2004−23930号で開示されているような方法を用いて、ロータ温度を推定することとした。
【0045】
すなわち、渦電流式減速装置のある時刻tiのロータ温度Tiは、ひとつ前の時刻ti‐1のロータ温度をTi‐1、時刻tiよりひとつ前の時刻ti‐1間の温度変化量をΔTi‐1とした場合、下記数式4の温度演算基本式で求めることができる。
【0046】
【数4】
【0047】
ロータ温度を演算するための数式4のΔTi‐1を求めるために必要なKi‐1は、実験や解析によって、図3や図4に示すように、制動状態とロータ回転数毎にロータ温度に対応する値を求めておき、それらの関係を関数で表現し、事前に推定制動力演算装置に記憶させておく。
【0048】
そして、渦電流式減速装置のロータ温度は、制動ON・OFFを問わず常に変化するので、渦電流式減速装置の運転中は、推定制動力演算装置にて、常にその時の制動状態、ロータ回転数、ロータ温度Ti‐1に応じたKi‐1値を算出するようにし、数式4を用いて、時刻tiにおけるロータ温度Tiを算出する。もちろん、関数を記憶させておく代わりに、データをマップ化して記憶させておいても良い。
【0049】
このようにロータ温度を常に更新補正することによって、ロータ温度を精度良く推定することができ、推定したロータ温度とロータ回転数と制動状態情報とから、前述の通り、予め記憶させておいた関係式やデータマップを用いて制動力を精度良く算出できる。
【0050】
また、例えば制動力強と制動力弱のように、制動力を複数に切換えることの可能な渦電流減速装置においては、その時点の制動力だけでなく、その時刻で制動力を切換えた際の切換え後の制動力も同様の手順で、同時に算出しておくことができる。つまり、切換え後の制動状態情報に基づく前記関数のパラメータを用いて、その時のロータ温度とロータ回転数とから切換え後の制動力を算出する。
【0051】
この場合、例えば現在の制動力の選択状態(リターダ作動スイッチの選択状態)が弱である場合に、現在の選択状態である制動力が弱の場合の制動力と、制動力を強に切換えた場合の制動力を予測することが可能になる。
【0052】
また、制動力選択情報の選択肢が、例えば4段階や5段階のように多数の場合、それぞれの制動選択情報に応じて、それぞれの切換え後の制動力を予め算出しておくことも可能である。
【0053】
さらに、非制動状態においても、その時のロータ温度とロータ回転数とに応じて、その時点で制動状態に切換えた場合の制動力を同様の手順で算出しておくことができる。
【0054】
発明例5)
図5に示すように、上述の発明例4の通り精度良く算出したその時点における制動力や、その時点で制動力を切換える際の予測された制動力は、推定制動力演算装置11から車両の制動力統合制御装置12へ伝達される。この制動力統合制御装置12では、Gセンサーや車速センサーなどから求めた車両全体の必要制動力を満足するように、渦電流減速装置13の制動力制御装置14などの各々の制動装置が要求する制動力を決定し、各々の制動装置を制御する制御装置へ要求制動力を伝達する。そして、伝達された要求制動力に応じて、各々の制動装置が制動力を発揮することによって、各々の制動装置が要求された制動力を発揮し、車両全体の必要な制動力を得ることが可能となる。
【0055】
この場合、制動力を複数選択することができない方式の渦電流減速装置の場合は、車両の制動力統合制御装置12から制動要求が伝達された場合は、制動ONに切換えて要求された制動力を発揮し、制動要求が伝達されない場合は、非制動状態となる(制動力統合制御装置12からの要求制動力が0を意味する)。
【0056】
一方、永久磁石の位置を変更したり、電磁石へ印加する電圧を変化させることによって制動力を複数選択して切換えることのできる渦電流減速装置の場合は、例えば制動力統合制御装置12からの指令に基づいて制動力を弱から強に切換えることによって、要求された制動力を発揮することができる。
【0057】
発明例6)
上記発明例5よりも、より一層精度良く制動力を推定するために、図6に示すように、温度センサーによって磁力発生手段の温度を測定し、磁力発生手段の温度と制動力との関係を予め推定制動力演算装置11に記憶させておく。そして、発明例5と同様に制動状態情報、検出ロータ温度、検出ロータ回転数と、さらに磁力発生手段の温度に応じて制動力を算出することで、発明例5よりも一層精度良く制動力を推定することが可能になる。
【0058】
ところで、磁力発生手段の温度を測定するには、例えば図11に示すような単列旋回式の永久磁石式渦電流減速装置であれば、永久磁石5またはその近傍、電磁石式渦電流減速装置であれば、電磁石のコイルまたはその近傍の温度を温度センサー15で測定する。
【0059】
永久磁石であっても電磁石であっても、温度上昇に伴って磁石の磁力線量は減少するため、その結果、制動力が低下する。この関係を関数で表現したり、又はマップ化し、推定制動力演算装置11に記憶させておくことで、磁力発生手段の温度に応じて推定制動力を補正することが可能となる。
【0060】
また、同時に、磁力発生手段の温度は、ロータ温度とも相関関係があることから、磁力発生手段の温度に応じて補正したロータ温度を、推定制動力の算出に用いることも可能である。
【0061】
発明例7)
上記発明例5,6では、温度変化率を用いた更新補正によってロータ温度を求めているが、図7に示す発明例7では、図12に示すように、ロータ2の近傍に設けた温度センサー16によって、ロータ近傍の空気温度を測定するものである。
【0062】
この発明例7は、ロータの発熱によって、ロータ近傍の空気が加熱されるので、実際のロータ温度とロータ近傍の空気温度とは相関関係があることから、ロータ近傍の空気温度と制動力との関係も相関関係があることに基づくものである。
【0063】
すなわち、発明例7は、実験等で予めロータ近傍の空気温度と制動力との関係を求めておき、その関係を推定制動力演算装置11に記憶させておき、測定したロータ近傍温度とロータ回転数と制動状態情報に応じた推定制動力を算出するのである。
【0064】
発明例8)
発明例8は、図8に示すように、発明例7の構成に加えて、磁力発生手段の温度も同時に測定するもので、この場合、発明例7よりも精度良く制動力を推定することができる。
【0065】
その他の発明例)
ロータ温度を求める方法としては、前述の方法に限らず、放射温度計で直接ロータ温度を測定したり、ロータの温度変化に応じた熱変形量を変位センサーで検出し、変位量をロータ温度に代用するなど、渦電流減速装置の個々の特性に応じて、選択しても良い。
【0066】
また、渦電流減速装置の推定制動力演算装置11と制動力制御装置14は、図5〜図8に示す発明例5〜8のように別個の装置であっても良いし、図9に示すように一つの統合された演算制御装置であっても良い。
【0067】
さらに、図10に示すように、車両の制動力統合制御装置12の中に、渦電流減速装置の推定制動力演算装置11と制動力制御装置14と同等の機能を組み込んで、車両の制動力統合制御装置12で渦電流減速装置13の推定制動力を演算したり、渦電流減速装置13を直接制御することも可能である。
【0068】
なお、ロータの回転数は、車両に取り付けられた車速センサーから求めてもよいし、渦電流減速装置内に回転数検出機能を備えても良い。
【0069】
本発明は上記の例に限らず、本発明の各請求項に記載された技術的思想の範疇内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは、言うまでもない。
【0070】
例えば上記の例では、図1で示したロータ温度と制動力との関係を一次関数で表現しているが、図1に破線で示したように、一次関数と二次関数を合わせたものとしても良く、また渦電流減速装置の個々の特性に応じて、相関式を変えても良い。もちろん、相関式の代りに、ロータ温度、ロータ回転数、制動状態情報と制動力との関係を示す多数のデータをマップ化して記憶させておいても同様の作用がある。
【0071】
また、制動力制御装置14における渦電流減速装置13の制動指令の判断は、車両の制動力統合制御装置12による情報のみならず、制動状態情報(制動スイッチなど)やロータ温度の算出結果、ロータ近傍温度の測定値、磁力発生手段の測定値に基づいて制動指令を切換えても良い。例えばロータ温度が上限温度を超えないように渦電流減速装置13の制動力を自動的に低減したり、強制解除するような制御を行っても良い。また、磁力発生手段が電磁石の場合は、コイルの発熱を検出して、コイル温度が上限温度を超えないように、印加電圧を低減し、制動力を低減しても良い。このとき、制動力は自動的に切替わるが、推定制動力演算装置11によって切替わる制動力も計算できるので、車両の制動力統合制御装置12へ算出された制動力が伝達される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、バスやトラックなどの自動車のみならず鉄道車両にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ロータ温度と制動力の関係を表した図である。
【図2】(a)はロータ温度とロータ回転数の一次相関式における傾きとロータ回転数との関係を表した図、(b)はロータ温度とロータ回転数の一次相関式における切片とロータ回転数との関係を表した図である。
【図3】複列旋回方式の渦電流式減速装置を用いたベンチ試験において、制動状態が弱、回転数が1800rpmの一定条件で制動実験を行った結果を示したもので、横軸にロータ温度を、縦軸に温度変化率を示した図である。
【図4】ロータ回転数とロータ温度変化率との関係を表した図である。
【図5】発明例5における渦電流減速装置の推定制動力演算装置、制動力制御装置と車両の制動力統合制御装置との概略構成例を示すブロック図である。
【図6】発明例6における図5と同じ図である。
【図7】発明例7における図5と同じ図である。
【図8】発明例8における図5と同じ図である。
【図9】渦電流減速装置の推定制動力演算装置と制動力制御装置を一つの演算制御装置とした場合のブロック図である。
【図10】車両の制動力統合制御装置に渦電流減速装置の推定制動力演算装置、制動力制御装置を構成した例を示すブロック図である。
【図11】発明例6における磁力発生手段近傍温度を測定する温度センサーの構成例を示す図である。
【図12】発明例7におけるロータ近傍温度を測定する温度センサーの構成例を示す図である。
【図13】実測値と、本発明例と、従来例における制動力の時間変化を示した図である。
【図14】軸スライド方式の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図15】単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図16】複列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図17】ディスク型の永久磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図18】電磁石への通電量を切換えることによって制動力を切換える電磁石式渦電流減速装置の回転軸方向の断面図である。
【図19】単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、磁石が最大磁力発生位置にある状態で測定した、ロータ回転数と制動力の関係を示した図である。
【図20】単列旋回方式の永久磁石式渦電流減速装置を用いて、磁石が最大磁力発生位置にある状態で測定した、制動力の時間変化を示した図である。
【符号の説明】
【0074】
1 回転軸
2 ロータ
5,5a,5b 永久磁石
9 電磁石
11 推定制動力演算装置
12 車両の制動力統合制御装置
13 渦電流減速装置
14 渦電流減速装置の制動力制御装置
15,16 温度センサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に連結された導電性材料からなるロータと、固定側に配置された磁力発生手段を備え、前記磁力発生手段で発生する磁力を前記ロータに及ぼすことで、前記ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置において、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項2】
ロータの回転数に応じて、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度と検出ロータ回転数に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする請求項1に記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項3】
前記ロータの回転数に応じたロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を相関式で表した後、この相関式の係数を検出ロータ回転数に応じて求め、この求めた係数を前記相関式に代入して得た相関関係に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする請求項2に記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項4】
予め求める前記相関関係に加えて、制動状態を示す情報と制動力との相関関係を予め求めておき、これらの予め求めておいた相関関係と前記検出した値と制動状態を示す情報に対応して推定制動力を算出することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項5】
予め求める前記相関関係に加えて、磁力発生手段の温度と制動力との相関関係を予め求めておき、これらの予め求めておいた相関関係と前記検出した値と磁力発生手段の検出温度に対応して推定制動力を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項6】
前記ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係における検出ロータ温度として、
制動状態を示す情報とロータ回転数との相関関係からなる温度変化率を用いて、前の時刻のロータ温度から更新補正によって推定する値を用いることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項7】
前記ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係の検出ロータ温度として、
実際のロータ温度と相関関係のある部位の測温値を用いることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項8】
予め求めておいたロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を記憶した記憶部と、
この記憶部の前記相関関係と温度センサーからの検出ロータ温度に基づいて推定制動力を算出する演算部を備えたことを特徴とする渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項9】
前記記憶部には、予め求めておいた、ロータの回転数に応じた、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を記憶させ、
前記演算部では、この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度と検出ロータ回転数に基づいて推定制動力を算出することを特徴とする請求項8に記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項10】
前記演算部では、検出したロータ回転数に応じて、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係を表した相関式の係数を求め、この求めた係数を前記相関式に代入して得た相関関係と前記検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする請求項9に記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項11】
前記記憶部には、予め求めておいた制動状態を示す情報と制動力との相関関係も記憶させておき、
前記演算部では、これらの相関関係と前記検出した値と制動状態を示す情報に基づいて推定制動力を算出することを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項12】
前記記憶部には、予め求めておいた磁力発生手段の温度と制動力との相関関係も記憶させておき、
前記演算部では、これらの相関関係と前記検出した値と温度センサーから得た磁力発生手段の温度に基づいて推定制動力を算出することを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項13】
前記演算部では、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係に基づいて推定制動力を算出する際に用いる検出ロータ温度を、
制動状態を示す情報とロータ回転数との相関関係からなる温度変化率を用いて、前の時刻のロータ温度から更新補正によって推定したものを使用することを特徴とする請求項8〜12の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項14】
前記演算部では、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係に基づいて推定制動力を算出する際に用いる検出ロータ温度として、
実際のロータ温度と相関関係のある部位の測温値を使用することを特徴とする請求項8〜12の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項15】
請求項8〜14の何れかに記載の推定制動力演算装置と、
車両全体の必要制動力を満足するように、各制動装置が要求する制動力を決定し、各制動装置を制御する制御装置へ要求制動力を伝達する車両の制動力統合制御装置と、
前記推定制動力演算装置と制動力統合制御装置から伝達される情報に基づいて渦電流減速装置の制動力を制御する制御部を備えたことを特徴とする渦電流減速装置の制動力制御装置。
【請求項16】
請求項15に記載の渦電流減速装置の制動力制御装置を備えたことを特徴とする渦電流減速装置。
【請求項1】
回転軸に連結された導電性材料からなるロータと、固定側に配置された磁力発生手段を備え、前記磁力発生手段で発生する磁力を前記ロータに及ぼすことで、前記ロータ内部に渦電流を生じさせて制動力を発生する渦電流減速装置において、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項2】
ロータの回転数に応じて、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係を予め求めておき、
この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度と検出ロータ回転数に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする請求項1に記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項3】
前記ロータの回転数に応じたロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を相関式で表した後、この相関式の係数を検出ロータ回転数に応じて求め、この求めた係数を前記相関式に代入して得た相関関係に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする請求項2に記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項4】
予め求める前記相関関係に加えて、制動状態を示す情報と制動力との相関関係を予め求めておき、これらの予め求めておいた相関関係と前記検出した値と制動状態を示す情報に対応して推定制動力を算出することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項5】
予め求める前記相関関係に加えて、磁力発生手段の温度と制動力との相関関係を予め求めておき、これらの予め求めておいた相関関係と前記検出した値と磁力発生手段の検出温度に対応して推定制動力を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項6】
前記ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係における検出ロータ温度として、
制動状態を示す情報とロータ回転数との相関関係からなる温度変化率を用いて、前の時刻のロータ温度から更新補正によって推定する値を用いることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項7】
前記ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係の検出ロータ温度として、
実際のロータ温度と相関関係のある部位の測温値を用いることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の渦電流減速装置の制動力推定方法。
【請求項8】
予め求めておいたロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を記憶した記憶部と、
この記憶部の前記相関関係と温度センサーからの検出ロータ温度に基づいて推定制動力を算出する演算部を備えたことを特徴とする渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項9】
前記記憶部には、予め求めておいた、ロータの回転数に応じた、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との相関関係を記憶させ、
前記演算部では、この予め求めておいた相関関係と検出ロータ温度と検出ロータ回転数に基づいて推定制動力を算出することを特徴とする請求項8に記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項10】
前記演算部では、検出したロータ回転数に応じて、ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係を表した相関式の係数を求め、この求めた係数を前記相関式に代入して得た相関関係と前記検出ロータ温度に基づいて、推定制動力を算出することを特徴とする請求項9に記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項11】
前記記憶部には、予め求めておいた制動状態を示す情報と制動力との相関関係も記憶させておき、
前記演算部では、これらの相関関係と前記検出した値と制動状態を示す情報に基づいて推定制動力を算出することを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項12】
前記記憶部には、予め求めておいた磁力発生手段の温度と制動力との相関関係も記憶させておき、
前記演算部では、これらの相関関係と前記検出した値と温度センサーから得た磁力発生手段の温度に基づいて推定制動力を算出することを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項13】
前記演算部では、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係に基づいて推定制動力を算出する際に用いる検出ロータ温度を、
制動状態を示す情報とロータ回転数との相関関係からなる温度変化率を用いて、前の時刻のロータ温度から更新補正によって推定したものを使用することを特徴とする請求項8〜12の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項14】
前記演算部では、
ロータ温度と渦電流減速装置の制動力との前記相関関係に基づいて推定制動力を算出する際に用いる検出ロータ温度として、
実際のロータ温度と相関関係のある部位の測温値を使用することを特徴とする請求項8〜12の何れかに記載の渦電流減速装置の推定制動力演算装置。
【請求項15】
請求項8〜14の何れかに記載の推定制動力演算装置と、
車両全体の必要制動力を満足するように、各制動装置が要求する制動力を決定し、各制動装置を制御する制御装置へ要求制動力を伝達する車両の制動力統合制御装置と、
前記推定制動力演算装置と制動力統合制御装置から伝達される情報に基づいて渦電流減速装置の制動力を制御する制御部を備えたことを特徴とする渦電流減速装置の制動力制御装置。
【請求項16】
請求項15に記載の渦電流減速装置の制動力制御装置を備えたことを特徴とする渦電流減速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−54451(P2008−54451A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229615(P2006−229615)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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