説明

温度制御による生分解性ゲルのゲル化制御方法とその成形体

【課題】 本発明は、天然由来で生分解性高分子材料であるセルロースやキチン・キトサン等の多糖類誘導体に、水や有機溶剤の吸収性を導入し、使用中に破断しない強度を付与した材料を作製する際のゲル化を制御することを課題としている。
【解決手段】 生分解性ゲルのゲル化制御方法であって、多糖類誘導体100重量部に対して、水5〜100,000重量部、弱アルカリ水溶液5〜10,000重量部、又は有機溶剤5〜1,000重量部を含む混合物を形成し、前記混合物に放射線を0.1〜500kGy照射し、前記多糖類誘導体を橋かけさせて生分解性ゲルを製造することを含み、放射線照射時の温度を−196〜100℃の範囲で調節することにより橋かけ度合いであるゲル分率を制御することを特徴とする、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース、デンプン、キチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナンや寒天等の多糖類誘導体と水又は有機溶剤とを良く練った混合物に、所定温度に制御しながら電離性放射線を照射して橋かけして得られるゲルに関するものである。本発明は、水又は有機溶剤を多量に保持することができ、保持された水又は有機溶剤を多少の圧力負荷でも滲み出すことがない吸収性を有するゲルを放射線橋かけにより三次元の網目構造を生成する際に、照射時の温度、原料濃度、照射線量を変化させることにより、橋かけ度合いを制御する方法である。その製造方法で作製した生分解性ゲルである。
【背景技術】
【0002】
放射線加工技術を利用すれば、生成されるラジカルによるグラフト重合反応、橋かけ反応、又は分解反応により、高分子材料の改質が可能となる。上記のうち特に応用されている有用な反応は橋かけ反応である。これは、高分子ラジカル同士の再結合反応により三次元の網目構造が形成される反応である。放射線による橋かけ技術は、自動車のエンジン周りに使われている電線被覆材、家庭用の発泡マット、自動車用ラジアルタイヤ等に、それらの耐熱性の改善を目的として応用されている。
【0003】
ここで、機能性材料の一つとして、多量に吸水するゲル、すなわちハイドロゲルが存在する。ハイドロゲルは、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、又はポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の水溶液を、架橋剤を用いた化学処理法や電離性放射線で照射する法により容易に得ることができる。このハイドロゲルは、高分子内部に水を多量に吸収し保持できるため、使い捨てオムツ等の衛生用品や保湿材として医療・化粧品の分野で応用されている。
【0004】
一方、近年、タンカー、工場、家庭、レストラン等からの油の流出により、河川、湖沼、海洋及び土壌の汚染等の環境破壊が問題になっている。これらの問題を解決するため、アルキルスチレン/ジビニルベンゼン共重合体、又は、t−ブチルメタクリレート若しくはメンチルメタクリレートをはじめとするメタクリレート系架橋重合体等を材料とした、高分子内部に油を取り込む機能を有する自己膨潤型の吸油性ゲルが応用されている。
【0005】
しかし、これらの高分子は、生分解性を有しておらず、使用後の燃焼廃棄処理において燃焼処理反応炉の温度低下による有害なダイオキシン発生の恐れがあるという問題が存在する。また、燃焼時に発生する熱及び排出ガスによる地球温暖化、燃焼により生ずる灰の埋設処理地の確保等、種々の社会的な問題も生じている。
【0006】
このような問題点を解決する材料として、セルロース又はデンプン等の多糖類やデンプンから合成されるポリ乳酸等の、天然由来の生分解性高分子材料が注目されている。これら生分解性高分子材料は、石油系合成高分子材料と異なりコンポスト化(堆肥化)処理によって消化・分解され、土に還元することができ、更に肥料として植物に活力を与えることができる資源循環型の材料である。
【0007】
特許文献1には、セルラーゼ等の酵素で分解するアルキルセルロース誘導体の放射線橋かけしたハイドロゲルが、吸水性に優れ、生分解性が向上したことが記載されており、特許文献2、3、4には、簡単に土壌中で分解するデンプン誘導体や抗菌活性、金属捕集特性を有するキチン・キトサン誘導体も同様に放射線照射によって橋かけした高吸水性ハイドロゲルを形成することが記載されている。この特許文献1を例とした放射線橋かけによるセルロース誘導体ゲルが有機溶剤を吸収することは見出されていなかった。しかし、最近、特許文献5において、セルロース誘導体ゲルが弱アルカリ水溶液やメタノールといった有機溶剤中で照射するとゲル化し、有機溶剤吸収ゲルを形成することが記載されている。これら上記のゲルの応用例として、特許文献6において、糞尿、汚泥、食物残渣、酒の抽出残渣等に添加し、水分を吸収し固形化後、運搬作業性を容易にし、飼料化及び堆肥化を可能にすることを記載している。さらに応用分野を広げるためには、セルロース誘導体のゲル化を制御して、水や有機溶剤の吸収率を変化させた材料が必要であるが、上記の特許文献1〜6には、ゲル化を制御させる方法は記載されていない。
【特許文献1】特開2001−2703号公報
【特許文献2】特開2001−329070号公報
【特許文献3】特開2003−48997号公報
【特許文献4】特開2004−358252号公報
【特許文献5】特開2004−359916号公報
【特許文献6】特開2005−95737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、天然由来で生分解性高分子材料であるセルロース、デンプンやキチン・キトサン等の多糖類誘導体に、水や有機溶剤の吸収性を導入し、使用中に破断しない強度を付与した材料を作製する際のゲル化を制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記本発明の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、セルロース誘導体を含む原料を、水または有機溶剤に混合し、混合物のままか又は所要形状に成形したものに、所定温度になるように制御しながら電離性放射線を照射することによって、橋かけ度合いであるゲル分率を自在にコントロールでき、水または有機溶剤といった溶媒に溶解しないセルロースゲルを得ることに成功した。
【0010】
要するに、本発明は、高吸水性ゲルであって、アルキル基を有する多糖類誘導体原料100重量部に対して、水5〜100,000重量部を含む混合物に、所定温度−196〜100℃で放射線を照射して橋かけさせることにより得られることを特徴とするものである。
【0011】
また、有機溶剤吸収ゲルを作製する際は、アルキル基またはカルボン酸基を有する多糖類誘導体原料100重量部に対して、水5〜100,000重量部または弱アルカリ水溶液5〜10,000重量部または有機溶剤5〜1,000重量部を含む混合物に、所定温度−196〜100℃で放射線を照射して橋かけさせることにより得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の生分解性ゲルのゲル化制御方法の好適な実施形態について説明する。
【0013】
本発明の生分解性ゲルのゲル化制御方法は、多糖類誘導体100重量部に対して、水5〜100,000重量部(望ましくは100〜30,000重量部、更に望ましくは最も好ましくは300〜10,000重量部)、弱アルカリ水溶液5〜10,000重量部、又は有機溶剤5〜1,000重量部を含む混合物を形成し、前記混合物に放射線を0.1〜500kGy照射し、前記多糖類誘導体を橋かけさせて生分解性ゲルを製造することを含み、放射線照射時の温度を−196〜100℃の範囲で調節することにより橋かけ度合いであるゲル分率を制御することを特徴とする。
【0014】
したがって、本発明の方法においては、まず、多糖類誘導体100重量部に対して、水5〜100,000重量部、弱アルカリ水溶液5〜10,000重量部、又は有機溶剤5〜1,000重量部を含む混合物を形成する。多糖類誘導体は粉末状であり、容易に分散又は溶解するように液体中に徐々に添加して混合物を形成する。得られる混合物は、多糖類誘導体の濃度に依存して、低濃度の溶液、高濃度の粘稠な溶液、又はペースト(糊)状の形態である。
【0015】
本発明に使用できる多糖類誘導体は、生分解性高分子材料であるセルロース誘導体である。
【0016】
セルロース誘導体は、得られる生分解性ゲルに吸水性を付与する目的のためにはアルキル基を有するものとし、アルキル基はカルボキシル基又はヒドロキシル基により置換されていてもよい。アルキル基を有するセルロース誘導体としては、これらに限定されないが、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。これらのセルロース誘導体は、単独で、又は2種以上の混合物として使用してもよく、あるいはデンプン、キチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナンや寒天等からなる群から選択される1種以上の他の多糖類誘導体との混合物として使用してもよい。水溶性の多糖類やその誘導体であれば、市販品でも開発品でも使用してもよい。
【0017】
また、セルロース誘導体は、得られる生分解性ゲルに有機溶剤吸収性を付与する目的のためにはカルボン酸基を有するものとする。カルボン酸基を有するセルロース誘導体としては、これらに限定されないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルローステトラヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、セルロースアセテートトリメリテート、酢酸セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等が挙げられる。これらのセルロース誘導体は、単独で、又は2種以上の混合物として使用してもよく、あるいはデンプン、キチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナンや寒天からなる群から選択される1種以上の他の多糖類誘導体との混合物として使用してもよい。有機溶剤吸収性ゲルの場合、アルカリ現像タイプのフォトレジスト製品のバインダーに使用されている工業的に得られるものでよく、特に市販品を使用することができる。
【0018】
従って、本発明において、セルロース誘導体は、グルコース単位当たり少なくとも一つ以上のカルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、ヒドロキシプロポキシル基、メトキシル基、フタリル基、アセチル基、サクシノイル基、ヘキサヒドロフタリル基、カルボキシベンゾイル基、テトラヒドロフタロイル基、マレイル基又はトリメリロイル基を有していてもよく、本発明の原料セルロース誘導体の平均置換度は0.01以上である。デンプン、キチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナンや寒天などの他の多糖類の誘導体も上記と同様に平均置換度は0.01以上であればよい。
【0019】
本発明に使用できる水は、これらに限定されないが、市水、工業用水、脱気水、脱イオン水、ゲル濾過水、蒸留水等であり、酸素やイオン等が含まれていないものが好ましい。また、本発明に使用できる弱アルカリ水溶液は、これらに限定されないが、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム等の工業的に得られるアルカリ塩を溶解した0.1〜5重量%濃度の水溶液であり、好ましくは1〜5重量%の炭酸ナトリウム水溶液である。また、本発明に使用できる有機溶剤は、これらに限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、ギ酸、酢酸、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルアセテート、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−プロパノール、1,4−ジオキサン、クロロホルム、トルエン、キシレン等の一般有機溶剤、又はアセトン/エタノール(1/1比)、塩化メチレン/エタノール(1/1比)、メタノール/水(9/1、8/2、7/3、6/4、1/1比)等の混合溶剤である。
【0020】
本発明の方法においては、次いで、得られた混合物に放射線を0.1〜500kGy照射し、混合物中の多糖類誘導体を橋かけさせて生分解性ゲルを製造する。多糖類誘導体は、放射線照射により橋かけして生分解性ゲルが製造され、生分解性ゲルは放射線照射後に更に粘度増加を伴う。
【0021】
本発明に使用できる放射線は、重イオン線、アルファ線、ベータ線等の電子線、又はエックス線、ガンマ線等の電離性放射線である。線種については、重イオン等の大きな粒子線ではセルロース分子に与える影響にムラができる可能性があることから、工業的によく用いられている電子線やガンマ線の使用が望ましい。
【0022】
放射線照射量、すなわち線量は、多糖類誘導体を橋かけするのに必要十分な線量である必要がある。具体的には、0.1〜500kGyが望ましく、更に望ましくは1〜150kGyである。
【0023】
本発明の方法においては、放射線照射時の温度を−196〜100℃の範囲で調節することにより橋かけ度合いであるゲル分率を制御することができる。照射時の温度は、用いる溶媒に依存するが、例えば、水の場合は沸点である100℃以下であり、メタノールの場合は沸点である約70℃以下である。
【0024】
本発明の生分解性ゲルは、水、金属塩水溶液、弱アルカリ性水溶液、有機溶剤、及び混合溶液を吸収することができ、これらに限定されないが、アルキル基を有する場合は、水系の溶剤を、カルボキシル基を有する場合は、有機溶剤を吸収する。
吸収可能な溶液としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化亜鉛、塩化銀等の塩化物、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の炭酸化物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム等の硝酸化物等の工業的に得られる塩類を溶解した0.1〜5重量%濃度の水溶液、又は溶解するとアルカリ性を示すアンモニアを溶解した0.1〜5重量%濃度の水溶液、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルアセテート等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、ピリジン、ピコリン、アニリン等のアミン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホアミド等の含硫黄化合物類、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロベンゼン等の含ハロゲン化合物類等の揮発性と不揮発性とを問わない全ての有機溶剤が挙げられ、また、アセトン/エタノール(1/1比)、ジクロルメタン/メタノール(1/1比)、塩化メチレン/エタノール(1/1比)、メタノール/水(9/1、8/2、7/3、6/4、1/1比)等の混合溶液も含まれるが、この限りではない。
【0025】
本発明の生分解性ゲル成形体の吸収率は、精製水について自重1に対し5重量倍以上、有機溶剤について自重1に対し1重量倍以上である。
従来法では、特許文献1〜5は、室温で上記の試料に、電離放射線を照射して、ゲルを製造していたが、濃度が非常に濃い状態が望ましく、濃度と線量によってゲル化を制御できるが、本発明では、照射時の温度を−196〜100℃の範囲で制御することにより、ゲル化を制御でき、水や有機溶剤といった溶媒を吸収する生分解性ゲルを製造する方法で、また、その製造方法で作製した生分解性ゲルである。
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
以下の実施例において使用した多糖類誘導体は、次のセルロース誘導体である。

A:ダイセル化学工業(株)製のカルボキシメチルセルロース(CMC1380)
25℃での1重量%濃度水溶液の粘度:1820(mPa・s)
カルボキシメチル基の平均置換度:1.36
B:日澱化学工業(株)製のカルボキシメチルデンプン(キプロガムF500)
30℃での1重量%濃度水溶液の粘度:2280(mPa・s)
カルボキシメチル基の平均置換度:0.11
C:日澱化学工業(株)製のカルボキシメチルデンプン(キプロガムM800)
30℃での1重量%濃度水溶液の粘度:1280(mPa・s)
カルボキシメチル基の平均置換度:0.14
D:甲陽ケミカル社製のカルボキシメチルキチン
25℃での1重量%濃度水溶液の粘度:23.5(mPa・s)
カルボキシメチル基の平均置換度:0.83
E:和光純薬社製のヒドロキシプロピルセルロース
20℃での0.25重量%濃度水溶液の粘度:3460(mPa・s)
ヒドロキシプロピル基の平均置換度:0.25
以下の実施例において、ゲル分率は次のようにして求めた。
【0027】
放射線照射後に得られたゲルを乾燥し、更に50℃の真空乾燥器中で恒量になるまで乾燥させた。乾燥した試料を200メッシュのステンレス網に入れ、室温で48時間多量の蒸留水に漫漬した。このとき、橋かけしていない溶解部分は蒸留水側に移るため、ゲル成分のみが金網中に残る。ゲル成分を包含したステンレス網を蒸留水でよく洗浄してから、更にメタノール中に1時間浸漬し、その後50℃で24時間乾燥させた。ゲル分率は次式により算出した。
【0028】
ゲル分率(%)=(溶解成分を除いたゲル乾燥重量/初期乾燥重量)×100
また、吸収率は、照射を行った試料を多量の蒸留水に室温で24時間浸漬し、得られたゲルを凍結乾燥して、それを蒸留水に漬け、1グラムのドライゲルが吸収した蒸留水のグラム数で表した。
【0029】
(比較例1)
上記の原料A〜Bを固体状及び原料100重量部に対して水が100,000重量部以上の低い濃度の水溶液状で所定温度−70〜70℃でγ線照射を行った。その結果、分解が優先的に起きて、橋かけされず、生分解性ゲルが製造されなかった。
【0030】
(実施例1)
上記原料Aを種々の濃度の水溶液になるように溶解させ、所定の温度でγ線を5〜50kGy照射した。各濃度で得られた試料のゲル分率を図1に示す。図1の横軸は、照射線量(kGy)を示し、縦軸は照射後の試料Aのゲル分率(重量%)を示す。橋かけ反応は5kGyから開始され、温度が低いとゲル分率が高かった。CMCゲルの吸水率(g膨潤ゲル/g乾燥ゲル)を図2に示す。
【0031】
(実施例2)
上記原料Aを原料100重量部に対して、水333、500、1,000、2,000重量部濃度の水溶液になるように溶解させ、−78℃から70℃までの温度でγ線を5kGy、15kGy照射した。各温度で得られた試料のゲル分率を図3及び4に示す。図3,4の横軸は、照射時温度(℃)を示し、縦軸は照射後の試料Aのゲル分率(重量%)を示す。温度が低いとゲル分率が高かった。
【0032】
(実施例3)
上記実施例1,2と同様に用いた試料Aを原料100重量部に対して水が10,000重量部濃度以下の水溶液に調製し、−78℃の温度でγ線を所定線量照射した。温度を変化させて得られたゲル分率を図5に示す。図5の横軸は、照射線量(kGy)を示し、縦軸は照射後の試料Aのゲル分率(重量%)を示す。橋かけ反応が0.5%の低濃度でも橋かけすることを発見した。
【0033】
(実施例4)
上記原料B、Cを原料100重量部に対して水が500重量部濃度の水溶液に調製して、−78℃から70℃の温度範囲で5kGyγ線を照射した。得られたゲル分率を図6に示す。図6の横軸は、照射時温度(℃)を示し、縦軸は照射後の試料B,Cのゲル分率(重量%)を示す。橋かけ反応は室温が最も橋かけしやすく、他の温度では橋かけしづらいが、ゲル分率を制御することが可能であった。
【0034】
(実施例5)
上記原料Dを原料100重量部に対して水が333重量部濃度で水溶液に調製し、−78℃から70℃の温度範囲で所定線量をγ線照射した。温度を変化させて得られたゲル分率を図7に示す。実施例1と同様に、温度が低いとゲル分率が増加した。
【0035】
(実施例6)
上記原料Eを原料100重量部に対して水が333重量部濃度の水溶液に調製し、γ線を照射した。温度を変化させて得られたゲル分率を図8に示す。室温と0℃付近で、橋かけすることを発見した。
[発明の効果]
【0036】
本発明においては、セルロース誘導体に水溶液状態又はペースト状態で所定温度に制御しながら放射線を照射し、橋かけを行うことにより、溶媒を多量に吸収する生分解性ゲル合成の制御に成功した。
本発明の生分解性ゲルのゲル化制御方法とそのゲルは、様々な用途への使用が期待できる有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明での実施例1における照射時の温度とゲル分率との関係を示すグラフである。
【図2】本発明での実施例1における照射時の温度と吸水率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明での実施例2における5kGy照射した照射時の原料濃度とゲル分率との関係を示すグラフである。
【図4】本発明での実施例2における15kGy照射した照射時の原料濃度とゲル分率の関係を示すグラフである。
【図5】本発明での実施例3における照射時の温度とゲル分率の関係を示すグラフである。
【図6】本発明での実施例4における照射時の温度とゲル分率の関係を示すグラフである。
【図7】本発明での実施例5における照射時の温度とゲル分率の関係を示すグラフである。
【図8】本発明での実施例6における照射時の温度とゲル分率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ゲルのゲル化制御方法であって、多糖類誘導体100重量部に対して、水5〜100,000重量部、弱アルカリ水溶液5〜10,000重量部、又は有機溶剤5〜1,000重量部を含む混合物を形成し、前記混合物に放射線を0.1〜500kGy照射し、前記多糖類誘導体を橋かけさせて生分解性ゲルを製造することを含み、放射線照射時の温度を−196〜100℃の範囲で調節することにより橋かけ度合いであるゲル分率を制御することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
多糖類誘導体がセルロース誘導体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
多糖類誘導体が、デンプン、キチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナン及び寒天等からなる群から選択される1種以上を更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
多糖類誘導体がアルキル基を有するセルロース誘導体であり、得られる生分解性ゲルが吸水性ゲルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
多糖類誘導体がカルボキシル基を有するセルロース誘導体であり、得られる生分解性ゲルが有機溶剤吸収性ゲルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−277491(P2007−277491A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109429(P2006−109429)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】