温度可変減衰器
【課題】2組設けられている90°位相遅延回路の削減ができ、小型化及びコストの低減を図るようにする。
【解決手段】主線路1Aと1Bの間に、第2サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)3A、3Bをシリーズに設けると共に、この第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と接地との間に第1サーミスタ2を接続する。そして、第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と第1サーミスタ2との間に、静電容量Cの集中定数型コンデンサ5A,5Bと集中定数型インダクタ(コイル)6によりπ型に構成された集中定数型90°位相遅延回路を1組設けるようにする。この集中定数型90°位相遅延回路の代わりに、1/4波長分布定数伝送線路を設けてもよい。
【解決手段】主線路1Aと1Bの間に、第2サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)3A、3Bをシリーズに設けると共に、この第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と接地との間に第1サーミスタ2を接続する。そして、第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と第1サーミスタ2との間に、静電容量Cの集中定数型コンデンサ5A,5Bと集中定数型インダクタ(コイル)6によりπ型に構成された集中定数型90°位相遅延回路を1組設けるようにする。この集中定数型90°位相遅延回路の代わりに、1/4波長分布定数伝送線路を設けてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度可変減衰器、特に高周波帯で用いられ、周囲温度に応じて減衰量を変えることができる減衰器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
温度可変減衰器は、例えば高周波帯の信号の伝送ラインにおいて周囲温度に応じて減衰量が変化するものであり、この温度可変減衰器の構成として、従来では、図9に示されるもの(特許文献1)が存在する。
【0003】
図9の温度可変減衰器は、主線路1Aと1Bの間において、中央の第1サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)2、両脇の第2サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)3A,3Bがシリーズに接続され、この第2サーミスタ3Aと第1サーミスタ2の間に、コンデンサ5A,5Bとインダクタ(コイル)6Aによりπ型に構成されたCLCの集中定数回路(π型エレメント)が設けられ、また第1サーミスタ2と第2サーミスタ3Bの間に、コンデンサ5C,5Dとインダクタ(コイル)6Bからなる集中定数回路が設けられる。
【0004】
即ち、この集中定数回路は、使用周波数信号の透過位相を90度に設定する役目をする90°位相遅延回路であり、この集中定数回路は、第2サーミスタ3Aと第1サーミスタ2の一対の負温度係数温度可変抵抗体に対して1組、また第1サーミスタ2と第2サーミスタ3Bの一対の負温度係数温度可変抵抗体に対して1組設けられることになる。
【0005】
図10には、上記第1サーミスタ2、第2サーミスタ3A,3Bの特性が示されており、この第1サーミスタ2と第2サーミスタ3A,3Bは、図示のように、周囲温度の増加に対して抵抗量が減少する負温度係数となる。
【0006】
図11には、上記従来の温度可変減衰器の特性が示されており、この温度可変減衰器によれば、高周波において特性インピーダンスの整合を良好に保ちつつ、周囲温度の増加に対して減衰量が減少するように動作する。
【0007】
図12には、従来の温度可変減衰器の他の例が示されており、これは、上記第1サーミスタ2に対し第1固定抵抗器7、第2サーミスタ3A,3Bのそれぞれに対し第2固定抵抗器8A,8Bを並列に接続したものである。この温度可変減衰器によれば、第1及び第2のサーミスタ2,3A,3Bの抵抗量の変化が周囲温度に対して直線性でない場合に、第1固定抵抗器7と第2固定抵抗器8A,8Bにて抵抗値の調整を行い、その結果、温度に対する減衰量を直線性にすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−209453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の温度可変減衰器では、負温度係数温度可変抵抗体としての各サーミスタ2,3A,3Bのそれぞれの間に、コンデンサ5A,5Bとコイル6Aからなる集中定数型90°位相遅延回路と、コンデンサ5C,5Dとコイル6Bからなる同様の集中定数型90°位相遅延回路の2組が設けられており、小型化及びコストの低減が図れないという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2組設けられている90°位相遅延回路の削減ができ、小型化及びコストの低減を図ることが可能になる温度可変減衰器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、誘電体基板上に形成された伝送線路間に直列に接続された少なくとも2つの第2負温度係数温度可変抵抗体と、この2つの第2負温度係数温度可変抵抗体間の接続点と接地との間に接続された第1負温度係数温度可変抵抗体と、2つの上記第2負温度係数温度可変抵抗体の接続点(中点)と上記第1負温度係数温度可変抵抗体との間に介挿された90°位相遅延回路と、からなることを特徴とする。
請求項2の発明は、上記90°位相遅延回路として、集中定数型90°位相遅延回路又は1/4波長分布定数伝送線路を設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明の構成によれば、主伝送線路間に従来はシリーズに配置していた第1及び第2負温度係数温度可変抵抗体をT型に配置し、かつ第2負温度係数温度可変抵抗体間の接続点と第1負温度係数温度可変抵抗体との間に90°位相遅延回路を1組配置することで、従来と同様の減衰特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば一対のコンデンサと1つのコイルからなる2組の90°位相遅延回路を1組にすることができ、温度可変減衰器の小型化及びコストの低減を図ることが可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図2】第1実施例の温度可変減衰器の等価回路を示す図である。
【図3】第1実施例の温度可変減衰器における周囲温度と負温度係数温度可変抵抗値との関係を示すグラフ図である。
【図4】第1実施例の温度可変減衰器における周囲温度と減衰量との関係を示すグラフ図である。
【図5】第2実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図6】第3実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図7】第4実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図8】第5実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図9】従来の温度可変減衰器の構成の一例を示す回路図である。
【図10】従来の温度可変減衰器における周囲温度と減衰量との関係を示すグラフ図である。
【図11】従来の温度可変減衰器における周囲温度と減衰量との関係を示すグラフ図である。
【図12】従来の温度可変減衰器の構成の他の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、本発明の第1実施例に係る温度可変減衰器の構成が示されており、この温度可変減衰器では、図示されるように、主線路1Aと1Bの間に、第2負温度係数温度可変抵抗体である第2サーミスタ3A、3Bがシリーズに設けられ、この第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と接地との間に第1負温度係数温度可変抵抗体である第1サーミスタ2が接続される。そして、上記第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と第1サーミスタ2との間に、静電容量Cの集中定数型コンデンサ5A,5Bと集中定数型インダクタ(コイル)6によりπ型に構成されたCLCの集中定数型90°位相遅延回路が1組設けられる。
【0016】
即ち、実施例は、第2サーミスタ3A,3Bと第1サーミスタ2をT型に配置することで、1組の集中定数型90°位相遅延回路を、従来と同様に、第2サーミスタ3Aと第1サーミスタ2の一対の負温度係数温度可変抵抗体の中点、また第1サーミスタ2と第2サーミスタ3Bの一対の負温度係数温度可変抵抗体の中点の両方に対して配置できるようにしたものである。
【0017】
この90°位相遅延回路は、使用周波数(伝送信号)の波長を1/4波長だけ遅らせる回路であり、使用周波数をf0とすると、上記インダクタ6のインダクタンスLaとコンデンサ5A,5Bの静電容量Cは、次式で表すことができる。
【数1】
【数2】
【0018】
図2には、図1の等価回路が示されており、上記のような関係にすることで、コンデンサ(静電容量C)及びインダクタ(インダクタンスLa)からなる回路網は、使用周波数の波長を90°(1/4波長)だけ遅らせる集中定数型90°位相遅延回路10として働くことになり、この集中定数型90°位相遅延回路10が第2サーミスタ3A−3B間の接続点(中点)と第1サーミスタ2との間に配置される。
【0019】
そして、図2の等価回路においては、回路の特性インピーダンスをZ0としたときの減衰量をLとすると、第2サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体をNTCとする)3A,3Bの抵抗値(第2NTC抵抗値)及び第1サーミスタ2の抵抗値(第1NTC抵抗値)は次のようになる。
【数3】
【数4】
【0020】
この数式3と数式4の第1NTC抵抗値及び第2NTC抵抗値は、従来の図9の構成の場合と同一となる。このことを以下に説明する。
図2の等価回路におけるABCDマトリクスは、次の数式5のようになる。
【数5】
ここで、aは第1NTC(2)の抵抗値、bは第2NTC(3A,3B)の抵抗値、Z0は特性インピーダンスを表す。
【0021】
そして、減衰量L(dB)及び反射損失RL (dB)とABCDマトリクスの関係は、次の数式6,7のようになる。
L=20×LOG|2/(A+B+C+D)| … 式6
RL =20×LOG|(A+B−C−D)/(A+B+C+D)| … 式7
【0022】
また、減衰量L(dB)及び反射損失RL (dB)と上記抵抗値a,bとの関係は、上記数式6及び7に、数式5を代入すると、次のようになる。
L=20×LOG|2/((a×b2/Z03)+(2a×b/Z02)+((a+2b)/Z0)+2)|
… 式8
RL =20×LOG|((a×b2/Z03)+((2b−a)/Z0))/((a×b2/Z03)
+(2a×b)/Z02)+((a+2b)/Z0)+2)| … 式9
【0023】
ここで、減衰器としては、反射損失が−∞(dB)が理想値であるため、下記の関係が成り立つ。
(a×b2/Z03)+((2b−a)/Z0)=0 … 式10
この式10より、aとbの関係は、
a=2×b×Z02/(Z02−b2) … 式11
となる。
【0024】
また、上記数式11を数式8に代入し、抵抗値bと減衰量Lとの関係を導くと、
L=20×LOG((Z0−b)/(Z0+b))
となる。従って、抵抗値bは、次のようになる。
【数12】
【0025】
また、上記数式12を上記数式11に代入することにより、抵抗値aと減衰量L(dB)との関係が導かれ、この抵抗値aは次のようになる。
【数13】
【0026】
即ち、上記数式12のbは上記数式4の第2NTC抵抗値と同式、また数式13のaは上記数式3の第1NTC抵抗値と同式となり、この関係式に従った減衰量が得られることになる。
【0027】
図3には、第1実施例の第1サーミスタ2、第2サーミスタ3A,3Bの特性が示されており、このサーミスタ2,3A,3Bは、周囲温度の増加に対して抵抗量が減少する負温度係数となる。
図4には、第1実施例の温度可変減衰器の特性が示されており、この第1実施例によれば、高周波において特性インピーダンスの整合を良好に保ちつつ、周囲温度の増加に対して減衰量が減少するように動作する。
【0028】
即ち、従来の一般のπ型及びT型の減衰器では、回路の特性インピーダンスの整合を保ちつつ減衰器の減衰量を低減する場合、伝送線路である主線路に直列に挿入された抵抗値は低減し、逆に主線路と接地との間に挿入された抵抗値は増加する方向にあるが、本発明では数式1及び2に示されるように、減衰器の減衰量が低滅する場合、第1負温度係数温度可変抵抗体(2)の抵抗値及び第2負温度係数温度可変抵抗体(3A,3B)の抵抗値は共に減衰方向になる。
【0029】
図5には、第2実施例の構成が示されており、この第2実施例では、第1サーミスタ2に対し補助的な第1固定抵抗器(R1 )12、第2サーミスタ3A,3Bのそれぞれに対し補助的な第2固定抵抗器(R2 )13A,13Bを並列に接続したものである。
この第2実施例によれば、負温度係数温度可変抵抗体である第1サーミスタ2及び第2サーミスタ3A,3Bの抵抗値の変動が周囲温度に対して直線でない場合に、調整用の上記第1固定抵抗器12及び第2固定抵抗器13A,13Bを付加することにより、周囲温度に対する抵抗値の変動を直線にすることができる。
【0030】
図6には、第3実施例の構成が示されており、この第3実施例では、第1実施例の集中定数型90°位相遅延回路の集中定数型コンデンサ(C)及びインダクタ(L)を入れ替え、集中定数型コンデンサ5及びインダクタ6A,6BからなるLCLの回路網としたものである。このLCLの回路網によっても、同様に90°位相遅延回路として動作する。
【0031】
図7には、第4実施例の構成が示されており、この第4実施例では、90°位相遅延回路として使用周波数波長の1/4波長の分布定数伝送線路14を用いたものである。即ち、使用周波数がより高周波となり集中定数回路網では90°位相遅延回路が構成できない場合もあり、この場合は、1/4波長の分布定数伝送線路14を使用することで、90°位相遅延の機能を果たすことができる。
【0032】
図8には、第5実施例の構成が示されており、この第5実施例は多段(2段)構成としたものであり、図8に示されるように、主線路1Aと1Bの間に配置された第2サーミスタ3Aと3Bの間に、第3負温度係数温度可変抵抗体として第3サーミスタ16が設けられると共に、この第3サーミスタ16に対しても第3固定抵抗器17が並列に接続される。そして、第2サーミスタ3Aと第3サーミスタ16の接続点と接地との間に、1/4波長分布定数伝送線路14Aを介して第1サーミスタ2A及び第1固定抵抗器12Aが接続され、第3サーミスタ16と第2サーミスタ3Bの接続点と接地との間に、1/4波長分布定数伝送線路14Bを介して第1サーミスタ2B及び第1固定抵抗器12Bが接続される。
【0033】
この場合、上記第3負温度係数温度可変抵抗体である第3サーミスタ16の抵抗値(a)は、第2サーミスタ3A,3Bの抵抗値(b)の2倍であり、同様に第3固定抵抗器17の抵抗値(R3 )は、第2固定抵抗器13A,13Bの抵抗値(R3 )の2倍となる。
この第5実施例によれば、多段の構成にて、温度に対する減衰量の変化を大きく得ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1A,1B…主線路、 2…第1サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)、
3A,3B…第2サーミスタ、 5,5A〜5D…コンデンサ、
6,6A,6B…インダクタ、 7,12,12A,12B…第1固定抵抗器、
8A,8B,13A,13B…第2固定抵抗器、
10…90°位相遅延回路、
14,14A,14B…1/4波長分布定数伝送線路、
16…第3サーミスタ、 17…第3固定抵抗器。
【技術分野】
【0001】
本発明は温度可変減衰器、特に高周波帯で用いられ、周囲温度に応じて減衰量を変えることができる減衰器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
温度可変減衰器は、例えば高周波帯の信号の伝送ラインにおいて周囲温度に応じて減衰量が変化するものであり、この温度可変減衰器の構成として、従来では、図9に示されるもの(特許文献1)が存在する。
【0003】
図9の温度可変減衰器は、主線路1Aと1Bの間において、中央の第1サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)2、両脇の第2サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)3A,3Bがシリーズに接続され、この第2サーミスタ3Aと第1サーミスタ2の間に、コンデンサ5A,5Bとインダクタ(コイル)6Aによりπ型に構成されたCLCの集中定数回路(π型エレメント)が設けられ、また第1サーミスタ2と第2サーミスタ3Bの間に、コンデンサ5C,5Dとインダクタ(コイル)6Bからなる集中定数回路が設けられる。
【0004】
即ち、この集中定数回路は、使用周波数信号の透過位相を90度に設定する役目をする90°位相遅延回路であり、この集中定数回路は、第2サーミスタ3Aと第1サーミスタ2の一対の負温度係数温度可変抵抗体に対して1組、また第1サーミスタ2と第2サーミスタ3Bの一対の負温度係数温度可変抵抗体に対して1組設けられることになる。
【0005】
図10には、上記第1サーミスタ2、第2サーミスタ3A,3Bの特性が示されており、この第1サーミスタ2と第2サーミスタ3A,3Bは、図示のように、周囲温度の増加に対して抵抗量が減少する負温度係数となる。
【0006】
図11には、上記従来の温度可変減衰器の特性が示されており、この温度可変減衰器によれば、高周波において特性インピーダンスの整合を良好に保ちつつ、周囲温度の増加に対して減衰量が減少するように動作する。
【0007】
図12には、従来の温度可変減衰器の他の例が示されており、これは、上記第1サーミスタ2に対し第1固定抵抗器7、第2サーミスタ3A,3Bのそれぞれに対し第2固定抵抗器8A,8Bを並列に接続したものである。この温度可変減衰器によれば、第1及び第2のサーミスタ2,3A,3Bの抵抗量の変化が周囲温度に対して直線性でない場合に、第1固定抵抗器7と第2固定抵抗器8A,8Bにて抵抗値の調整を行い、その結果、温度に対する減衰量を直線性にすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−209453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の温度可変減衰器では、負温度係数温度可変抵抗体としての各サーミスタ2,3A,3Bのそれぞれの間に、コンデンサ5A,5Bとコイル6Aからなる集中定数型90°位相遅延回路と、コンデンサ5C,5Dとコイル6Bからなる同様の集中定数型90°位相遅延回路の2組が設けられており、小型化及びコストの低減が図れないという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2組設けられている90°位相遅延回路の削減ができ、小型化及びコストの低減を図ることが可能になる温度可変減衰器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、誘電体基板上に形成された伝送線路間に直列に接続された少なくとも2つの第2負温度係数温度可変抵抗体と、この2つの第2負温度係数温度可変抵抗体間の接続点と接地との間に接続された第1負温度係数温度可変抵抗体と、2つの上記第2負温度係数温度可変抵抗体の接続点(中点)と上記第1負温度係数温度可変抵抗体との間に介挿された90°位相遅延回路と、からなることを特徴とする。
請求項2の発明は、上記90°位相遅延回路として、集中定数型90°位相遅延回路又は1/4波長分布定数伝送線路を設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明の構成によれば、主伝送線路間に従来はシリーズに配置していた第1及び第2負温度係数温度可変抵抗体をT型に配置し、かつ第2負温度係数温度可変抵抗体間の接続点と第1負温度係数温度可変抵抗体との間に90°位相遅延回路を1組配置することで、従来と同様の減衰特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば一対のコンデンサと1つのコイルからなる2組の90°位相遅延回路を1組にすることができ、温度可変減衰器の小型化及びコストの低減を図ることが可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図2】第1実施例の温度可変減衰器の等価回路を示す図である。
【図3】第1実施例の温度可変減衰器における周囲温度と負温度係数温度可変抵抗値との関係を示すグラフ図である。
【図4】第1実施例の温度可変減衰器における周囲温度と減衰量との関係を示すグラフ図である。
【図5】第2実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図6】第3実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図7】第4実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図8】第5実施例に係る温度可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図9】従来の温度可変減衰器の構成の一例を示す回路図である。
【図10】従来の温度可変減衰器における周囲温度と減衰量との関係を示すグラフ図である。
【図11】従来の温度可変減衰器における周囲温度と減衰量との関係を示すグラフ図である。
【図12】従来の温度可変減衰器の構成の他の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、本発明の第1実施例に係る温度可変減衰器の構成が示されており、この温度可変減衰器では、図示されるように、主線路1Aと1Bの間に、第2負温度係数温度可変抵抗体である第2サーミスタ3A、3Bがシリーズに設けられ、この第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と接地との間に第1負温度係数温度可変抵抗体である第1サーミスタ2が接続される。そして、上記第2サーミスタ3Aと3Bの接続点と第1サーミスタ2との間に、静電容量Cの集中定数型コンデンサ5A,5Bと集中定数型インダクタ(コイル)6によりπ型に構成されたCLCの集中定数型90°位相遅延回路が1組設けられる。
【0016】
即ち、実施例は、第2サーミスタ3A,3Bと第1サーミスタ2をT型に配置することで、1組の集中定数型90°位相遅延回路を、従来と同様に、第2サーミスタ3Aと第1サーミスタ2の一対の負温度係数温度可変抵抗体の中点、また第1サーミスタ2と第2サーミスタ3Bの一対の負温度係数温度可変抵抗体の中点の両方に対して配置できるようにしたものである。
【0017】
この90°位相遅延回路は、使用周波数(伝送信号)の波長を1/4波長だけ遅らせる回路であり、使用周波数をf0とすると、上記インダクタ6のインダクタンスLaとコンデンサ5A,5Bの静電容量Cは、次式で表すことができる。
【数1】
【数2】
【0018】
図2には、図1の等価回路が示されており、上記のような関係にすることで、コンデンサ(静電容量C)及びインダクタ(インダクタンスLa)からなる回路網は、使用周波数の波長を90°(1/4波長)だけ遅らせる集中定数型90°位相遅延回路10として働くことになり、この集中定数型90°位相遅延回路10が第2サーミスタ3A−3B間の接続点(中点)と第1サーミスタ2との間に配置される。
【0019】
そして、図2の等価回路においては、回路の特性インピーダンスをZ0としたときの減衰量をLとすると、第2サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体をNTCとする)3A,3Bの抵抗値(第2NTC抵抗値)及び第1サーミスタ2の抵抗値(第1NTC抵抗値)は次のようになる。
【数3】
【数4】
【0020】
この数式3と数式4の第1NTC抵抗値及び第2NTC抵抗値は、従来の図9の構成の場合と同一となる。このことを以下に説明する。
図2の等価回路におけるABCDマトリクスは、次の数式5のようになる。
【数5】
ここで、aは第1NTC(2)の抵抗値、bは第2NTC(3A,3B)の抵抗値、Z0は特性インピーダンスを表す。
【0021】
そして、減衰量L(dB)及び反射損失RL (dB)とABCDマトリクスの関係は、次の数式6,7のようになる。
L=20×LOG|2/(A+B+C+D)| … 式6
RL =20×LOG|(A+B−C−D)/(A+B+C+D)| … 式7
【0022】
また、減衰量L(dB)及び反射損失RL (dB)と上記抵抗値a,bとの関係は、上記数式6及び7に、数式5を代入すると、次のようになる。
L=20×LOG|2/((a×b2/Z03)+(2a×b/Z02)+((a+2b)/Z0)+2)|
… 式8
RL =20×LOG|((a×b2/Z03)+((2b−a)/Z0))/((a×b2/Z03)
+(2a×b)/Z02)+((a+2b)/Z0)+2)| … 式9
【0023】
ここで、減衰器としては、反射損失が−∞(dB)が理想値であるため、下記の関係が成り立つ。
(a×b2/Z03)+((2b−a)/Z0)=0 … 式10
この式10より、aとbの関係は、
a=2×b×Z02/(Z02−b2) … 式11
となる。
【0024】
また、上記数式11を数式8に代入し、抵抗値bと減衰量Lとの関係を導くと、
L=20×LOG((Z0−b)/(Z0+b))
となる。従って、抵抗値bは、次のようになる。
【数12】
【0025】
また、上記数式12を上記数式11に代入することにより、抵抗値aと減衰量L(dB)との関係が導かれ、この抵抗値aは次のようになる。
【数13】
【0026】
即ち、上記数式12のbは上記数式4の第2NTC抵抗値と同式、また数式13のaは上記数式3の第1NTC抵抗値と同式となり、この関係式に従った減衰量が得られることになる。
【0027】
図3には、第1実施例の第1サーミスタ2、第2サーミスタ3A,3Bの特性が示されており、このサーミスタ2,3A,3Bは、周囲温度の増加に対して抵抗量が減少する負温度係数となる。
図4には、第1実施例の温度可変減衰器の特性が示されており、この第1実施例によれば、高周波において特性インピーダンスの整合を良好に保ちつつ、周囲温度の増加に対して減衰量が減少するように動作する。
【0028】
即ち、従来の一般のπ型及びT型の減衰器では、回路の特性インピーダンスの整合を保ちつつ減衰器の減衰量を低減する場合、伝送線路である主線路に直列に挿入された抵抗値は低減し、逆に主線路と接地との間に挿入された抵抗値は増加する方向にあるが、本発明では数式1及び2に示されるように、減衰器の減衰量が低滅する場合、第1負温度係数温度可変抵抗体(2)の抵抗値及び第2負温度係数温度可変抵抗体(3A,3B)の抵抗値は共に減衰方向になる。
【0029】
図5には、第2実施例の構成が示されており、この第2実施例では、第1サーミスタ2に対し補助的な第1固定抵抗器(R1 )12、第2サーミスタ3A,3Bのそれぞれに対し補助的な第2固定抵抗器(R2 )13A,13Bを並列に接続したものである。
この第2実施例によれば、負温度係数温度可変抵抗体である第1サーミスタ2及び第2サーミスタ3A,3Bの抵抗値の変動が周囲温度に対して直線でない場合に、調整用の上記第1固定抵抗器12及び第2固定抵抗器13A,13Bを付加することにより、周囲温度に対する抵抗値の変動を直線にすることができる。
【0030】
図6には、第3実施例の構成が示されており、この第3実施例では、第1実施例の集中定数型90°位相遅延回路の集中定数型コンデンサ(C)及びインダクタ(L)を入れ替え、集中定数型コンデンサ5及びインダクタ6A,6BからなるLCLの回路網としたものである。このLCLの回路網によっても、同様に90°位相遅延回路として動作する。
【0031】
図7には、第4実施例の構成が示されており、この第4実施例では、90°位相遅延回路として使用周波数波長の1/4波長の分布定数伝送線路14を用いたものである。即ち、使用周波数がより高周波となり集中定数回路網では90°位相遅延回路が構成できない場合もあり、この場合は、1/4波長の分布定数伝送線路14を使用することで、90°位相遅延の機能を果たすことができる。
【0032】
図8には、第5実施例の構成が示されており、この第5実施例は多段(2段)構成としたものであり、図8に示されるように、主線路1Aと1Bの間に配置された第2サーミスタ3Aと3Bの間に、第3負温度係数温度可変抵抗体として第3サーミスタ16が設けられると共に、この第3サーミスタ16に対しても第3固定抵抗器17が並列に接続される。そして、第2サーミスタ3Aと第3サーミスタ16の接続点と接地との間に、1/4波長分布定数伝送線路14Aを介して第1サーミスタ2A及び第1固定抵抗器12Aが接続され、第3サーミスタ16と第2サーミスタ3Bの接続点と接地との間に、1/4波長分布定数伝送線路14Bを介して第1サーミスタ2B及び第1固定抵抗器12Bが接続される。
【0033】
この場合、上記第3負温度係数温度可変抵抗体である第3サーミスタ16の抵抗値(a)は、第2サーミスタ3A,3Bの抵抗値(b)の2倍であり、同様に第3固定抵抗器17の抵抗値(R3 )は、第2固定抵抗器13A,13Bの抵抗値(R3 )の2倍となる。
この第5実施例によれば、多段の構成にて、温度に対する減衰量の変化を大きく得ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1A,1B…主線路、 2…第1サーミスタ(負温度係数温度可変抵抗体)、
3A,3B…第2サーミスタ、 5,5A〜5D…コンデンサ、
6,6A,6B…インダクタ、 7,12,12A,12B…第1固定抵抗器、
8A,8B,13A,13B…第2固定抵抗器、
10…90°位相遅延回路、
14,14A,14B…1/4波長分布定数伝送線路、
16…第3サーミスタ、 17…第3固定抵抗器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上に形成された伝送線路間に直列に接続された少なくとも2つの第2負温度係数温度可変抵抗体と、
この2つの第2負温度係数温度可変抵抗体間の接続点と接地との間に接続された第1負温度係数温度可変抵抗体と、
2つの上記第2負温度係数温度可変抵抗体の接続点と上記第1負温度係数温度可変抵抗体との間に介挿された90°位相遅延回路と、からなる温度可変減衰器。
【請求項2】
上記90°位相遅延回路として、集中定数型90°位相遅延回路又は1/4波長分布定数伝送線路を設けたことを特徴とする請求項1記載の温度可変減衰器。
【請求項1】
誘電体基板上に形成された伝送線路間に直列に接続された少なくとも2つの第2負温度係数温度可変抵抗体と、
この2つの第2負温度係数温度可変抵抗体間の接続点と接地との間に接続された第1負温度係数温度可変抵抗体と、
2つの上記第2負温度係数温度可変抵抗体の接続点と上記第1負温度係数温度可変抵抗体との間に介挿された90°位相遅延回路と、からなる温度可変減衰器。
【請求項2】
上記90°位相遅延回路として、集中定数型90°位相遅延回路又は1/4波長分布定数伝送線路を設けたことを特徴とする請求項1記載の温度可変減衰器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−55181(P2011−55181A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201377(P2009−201377)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】
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