説明

温度検出装置及び温度検出方法

【課題】精度よく測定対象物温度を取得する。
【解決手段】赤外線センサ11は、測定対象物から放射された赤外線を検知して、測定対象物の温度Tbbに対応する電圧Voを示す信号S11を出力する。サーミスタ12aは、赤外線センサ11のセンサ温度Tthを検出し、検出した温度Tthに対応する電圧Vthを示す信号S12を出力する。温度演算部4は、増幅されて、デジタル信号に変換された信号に基づいて、測定対象物の温度Tbbを示す信号Soutを出力する。温度換算補正に用いられる係数として、温度Tbbを電圧値に換算するための係数と、温度Tthを電圧値に換算するための係数とは、異なった値に設定され、温度演算部4は、これらの係数を独立、分離させた演算式に従い、測定対象物の温度Tbbを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度検出装置及び温度検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、赤外線センサを用いて測定対象物の温度を検出する温度検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる温度センサは、赤外線センサと赤外線センサの温度を測定するサーミスタと、を備え、数1に従って温度換算補正を行うようにしている。
【数1】

尚、数1に示す係数Kは、例えば、黒体温度を、それぞれ、35°C,40°Cに設定し、赤外線センサ自体のセンサ温度(サーミスタで測定した温度)を30°Cに設定して、黒体のそれぞれのエネルギー量を測定することにより求められた値である。
【特許文献1】特開2005−55323号公報(第2,3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の温度検出装置では、数1の測定対象物のエネルギー量に関する係数と、赤外線センサのエネルギー量に関する係数と、が同一であるため、温度センサ自体の温度変化の要素に対して、温度補正の精度は良好でなかった。
【0004】
即ち、係数Kを求めるときに設定したセンサ温度30°C、40°C付近において、数1に示す温度補正式を用いて温度補正を行った場合には、測定対象物の温度誤差は小さい。しかし、このセンサ温度30°C、40°Cとは異なった温度で温度補正を行った場合には、測定対象物の温度誤差が±10°C程度になってしまう。
【0005】
また、パッケージ内部の温度分布が不均一の場合、センサ温度が変動すると、温度検出精度が低下してしまう。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、測定対象物の温度を精度良く取得することが可能な温度検出装置及び温度検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る温度検出装置は、
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサ、前記温度センサから、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数2に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えたことを特徴とする。
【数2】

【0008】
本発明の第2の観点に係る温度検出装置は、
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサ、前記温度センサから、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数3に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えたことを特徴とする。
【数3】

【0009】
本発明の第3の観点に係る温度検出装置は、
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサを収納する外囲器内の温度を検出する内部温度検出部と、
前記赤外線センサ、前記温度センサ、前記内部温度検出部から、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧、前記内部温度検出部の出力電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数4に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えたことを特徴とする。
【数4】

【0010】
本発明の第4の観点に係る温度検出装置は、
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサを収納する外囲器内の温度を検出する内部温度検出部と、
前記赤外線センサ、前記温度センサ、前記内部温度検出部から、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧、前記内部温度検出部の出力電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数5に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えたことを特徴とする。
【数5】

【0011】
前記赤外線センサと前記温度センサとは、センサ部に備えられたものであり、
前記センサ部の熱時定数以下の遅延特性を有し、前記赤外線センサ及び前記温度センサの少なくとも一方の出力端に接続されて、接続されたセンサが出力する電圧を平滑化するローパスフィルタを備えてもよい。
【0012】
本発明の第5の観点に係る温度検出方法は、
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数2に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の第6の観点に係る温度検出方法は、
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数3に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の第7の観点に係る温度検出方法は、
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが収納された内部の温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数4に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の第8の観点に係る温度検出方法は、
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが収納された内部の温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数5に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えたことを特徴とする。
【0016】
前記測定対象物の温度を取得するステップは、前記赤外線センサの検出信号を、前記赤外線センサが備えられたセンサ部の熱時定数以下の遅延特性で遅延させ、平滑化させてから、前記補正を行うステップであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、測定対象物の温度を精度良く取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る温度検出装置を図面を参照して説明する。
(実施形態1)
実施形態1に係る温度検出装置の構成を図1に示す。
実施形態1に係る温度検出装置は、センサ部1と、アンプ2a,2bと、A/D変換器3と、温度演算部4と、メモリ5と、からなる。
【0019】
この温度検出装置は、例えば、防災システム等に利用される。この温度検出装置を防災システムに利用した場合、温度検出装置は、火災による火を測定対象物として、この火の温度を検出する。
【0020】
センサ部1は、赤外線センサ11と、温度センサ12aと、抵抗12bと、からなる。赤外線センサ11は、測定対象物から放射された赤外線を検知するものであり、測定対象物の温度Tbbに対応する電圧Voを示す信号S11を出力する。
【0021】
サーミスタ12aは、赤外線センサ11のセンサ温度Tthを検出するためのものであり、その電気抵抗が温度によって変化する。抵抗12bは、プルアップ抵抗であり、その一端が電圧Vddの電源に接続される。サーミスタ12aの一端は、この抵抗12bの他端に接続され、サーミスタ12aの他端は接地される。このサーミスタ12aと抵抗12bとの接続点の電圧をVthとする。電圧Vthは、赤外線センサ11自体のセンサ温度Tthに対応する電圧である。
【0022】
一般にサーミスタの特性は次の数6に示す式によって表される。
【数6】

サーミスタ12aを赤外線センサ11に近接させると、サーミスタ12aの温度は、赤外線センサ11自体のセンサ温度Tthとみなすことができ、数6は、数7によって表される。
【数7】

この数7から、数8が得られる。
【数8】

また、電圧Vthは、次の数9に従って求められる。
【数9】

この数9において、電圧Vthは、赤外線センサ11自体のセンサ温度Tthに対応する。センサ部1は、この電圧Vthを示す信号S12を出力する。
【0023】
このセンサ部1の構造を図2に示す。赤外線センサ11は、赤外線センサ101〜104からなり、赤外線センサ101〜104は、ICチップ13上に形成される。
【0024】
このICチップ13は、熱伝導性が良好な金属製の外囲器(パッケージ)14に収納される。外囲器14には、赤外線センサ101〜104が赤外線を受光できるような窓14aが形成される。サーミスタ12aは、この外囲器14上であって、赤外線センサ101〜104との熱的結合を良くするため、赤外線センサ101〜104の近傍に配置される。
【0025】
また、図1において、アンプ2aは、赤外線センサ11から出力された信号S11を増幅するものである。アンプ2bは、入力端がサーミスタ12aと抵抗12bとの接続点に接続されて、センサ部1から出力された信号S12を増幅するものである。
【0026】
A/D変換器3は、アンプ2a,2bから出力された信号S11,S12を、それぞれ、デジタル信号に変換するものである。
【0027】
温度演算部4は、赤外線センサ11から出力された信号S11とサーミスタ12aから出力された信号S12とを取得して、測定対象物の温度Tbbを取得するものである。
【0028】
まず、温度換算補正を行う演算式について説明する。本実施形態におけるこの演算式は次の数10に示す式とする。
【数10】

温度Tbbは、赤外線センサ11の視野に入った赤外線エネルギーの黒体温度換算値を示し、絶対温度で表される。係数Aは、温度Tbbをエネルギー量、あるいは電圧値に換算するための係数であって、シュテファン−ボルツマン定数とエミッション係数とを含む。
【0029】
さらに、この係数Aには、アンプ2aの増幅率等、諸々の条件も含まれる。従って、数10の第1項は、この温度Tbbに対応するエネルギー量、あるいは電圧値を示す。
【0030】
係数Bは、センサ温度Tthをエネルギー量、あるいは電圧値に換算するための係数であって、係数Aと同様に、シュテファン−ボルツマン定数とエミッション係数とを含む。
【0031】
さらに、係数Bには、アンプ2bの増幅率等、諸々の条件も含まれる。従って、数10の第2項は、センサ温度Tthに対応するエネルギー量、あるいは電圧値を示す。
【0032】
尚、オフセット値R1は、測定対象物の温度Tbbと赤外線センサ11のセンサ温度Tthとの差を調整するための値である。
【0033】
係数A、Bに含まれているシュテファン−ボルツマン定数は、測定対象物と赤外線センサ11とで同じ値である。しかし、エミッション係数は、測定対象物と赤外線センサ11とで異なる値になる。そこで、この係数A,Bは、測定対象物の温度検出の精度を高めるように異なる値に設定され、係数A,Bを分離、独立させている。本実施形態で用いられる数10に示す式は、この点で従来の数1に示す式とは相違する。
【0034】
尚、係数A,Bは、実験に基づいて設定されるものであって、係数A,Bの値は、1<B/A≦1.5であることが好ましい。メモリ5は、この数10の式及び各係数の値A,B,R1を記憶する。
【0035】
そして、前述の数8で求められる温度Tthを数10に代入し、数10を測定対象物の温度Tbbを求める式に変形すると、数11に示す演算式が得られる。
【数11】

メモリ5は、この数11の演算式も記憶する。温度演算部4は、この数11に示す演算式に基づいて、測定対象物の温度Tbbを取得し、この温度Tbbを示す信号Soutを出力する。
【0036】
次に実施形態1に係る温度検出装置の動作を説明する。
赤外線センサ11は、測定対象物から放射された赤外線を検知して、電圧Voを示す信号S11を出力する。アンプ2aは、この信号S11を増幅する。A/D変換器3は、アンプ2aが増幅した信号をデジタル信号に変換して、変換したデジタル信号を温度演算部4に供給する。
【0037】
サーミスタ12aの抵抗値は、赤外線センサ11のセンサ温度Tthの変化に対応して変化する。これにより、電圧Vthも変化する。センサ部1は、電圧Vthを示す信号S12を出力する。アンプ2bは、信号S12を増幅する。A/D変換器3は、アンプ2bが増幅した信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を温度演算部4に供給する。
【0038】
温度演算部4は、A/D変換器3から供給されたデジタル信号に基づき、数11に従って、測定対象物の温度Tbbを取得する。
【0039】
ここで、従来の温度換算補正を示す数1を、次の数12に示すような測定対象物の温度Tbbを求める式に変形してみる。
【数12】

尚、数11、数12において、オフセット量を含めて、電圧Voを含む項を第1項、センサ温度Tthを含む項を第2項とする。この数11と数12とを比較すると、従来の温度補正方式を示す数12の第2項の係数は1となる。
【0040】
一方、実施形態1の温度補正方式を示す数11の第2項の係数はB/Aとなり、この係数A,Bは、前述のように異なる値に設定され、B/Aは1にはならない。このため、温度演算部4は、係数A,Bが分離、独立した数11に基づいて演算を行うことにより、精度の高い温度Tbbを取得することになる。そして、温度演算部4は、この温度Tbbを示す信号Soutを出力する。
【0041】
図3は、温度Tbbとセンサ温度Tthと出力電圧Voとの関係を、2値補正、3値補正、測定値の場合について比較した図である。
【0042】
2値補正とは、測定対象物の温度Tbbとセンサ温度Tthとをセットにして2値、例えば、Tbb/Tth=35/25°C,70/25°Cの2値で行う補正をいい、数1に従って行われる従来の補正方式による補正である。
【0043】
3値補正とは、測定対象物の温度Tbbとセンサ温度Tthとをセットにして3値、例えば、Tbb/Tth=35/0°C,35/50°C,70/25°Cの3値で行う補正をいい、数11に従って行われる実施形態1の補正である。
【0044】
この図3から分かるように、3値補正の場合、出力電圧Voは、温度Tbbが35°C,50°C,70°Cのいずれであっても、2値補正の場合と比較して、より測定値に近似していることが分かる。
【0045】
また、図4は、2値補正の場合のセンサ温度Tthと温度Tbbに対する温度誤差との関係を示す。この図4に示すように、2値補正の場合、センサ温度Tth<20°C及びTth>40°Cにおいて、実測値カーブからの温度誤差が大きくなる。
【0046】
図5は、3値補正の場合のセンサ温度Tthと温度Tbbに対する温度誤差との関係を示す。この図5に示すように、3値補正の場合、温度誤差は、広い温度範囲に渡って実測値カーブに対応している。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、温度演算部4は、異なる値に設定された係数A,Bを用いて行われる温度換算補正式を変形した数11に従って測定対象物の温度Tbbを取得するようにした。
【0048】
従って、係数A,Bを、それぞれ、測定対象物、赤外線センサ11に対応した値に設定することにより、精度良く測定対象物の温度Tbbを取得することができる。
【0049】
(実施形態2)
実施形態2に係る温度検出装置は、数11に示す式において、サーミスタが検出したセンサ温度の時間変化量に係数を乗算し、この値を、さらに加算することにより、精度よく測定対象物の温度を取得するようにしたものである。
【0050】
測定対象物の温度に対して、赤外線センサ11の温度は、設置場所の温度等によって大きく左右され、この影響は、温度換算補正に大きな影響を及ぼす。従って、温度演算部4は、この赤外線センサ11の温度変化の影響を少なくするため、係数Cを設定し、次の数13に従って、測定対象物の温度Tbbを取得する。
【数13】

【0051】
具体的に、温度演算部4は、センサ部1から出力された信号S12に基づいて温度Tthをサンプリングし、この温度Tthの4乗値をメモリ5に記憶する。そして、温度演算部4は、次のサンプリングタイミングで温度Tthをサンプリングして4乗値を求め、求めた4乗値とメモリ5に記憶した4乗値との差を求めて、数13の第3項を求める。
【0052】
そして、温度演算部4は、この数13により補正した結果の電圧値Voを有する信号Soutを出力する。
【0053】
このように、実施形態2によれば、赤外線センサ11の温度が設置場所等によって変化しても、温度演算部4は、この影響が少なくなるようにして精度良く測定対象物の温度Tbbを取得することができる。
【0054】
(実施形態3)
実施形態3に係る温度検出装置は、外囲器内壁の温度を検知する専用の赤外線センサを備え、この赤外線センサの出力電圧に係数を乗算した値を、さらに加算することにより、精度よく測定対象物の温度を取得するようにしたものである。
【0055】
実施形態3に係る温度検出装置のセンサ部1は、図6に示すように、赤外線センサ15と、アンプ2cと、を備える。赤外線センサ15は、外囲器14の内壁の温度を検出する内部温度検出部であって、図7に示すように、外囲器14の近傍となるように、ICチップ13上に形成される。
【0056】
また、外囲器14には、遮蔽板16が備えられる。この遮蔽板16は、外囲器14の外部からのエネルギーを遮蔽するためのものである。
【0057】
赤外線センサ15は、内部温度として、外囲器14の内壁の温度を検出して、その内壁温度に対応する電圧Vorefを有する信号S15を出力する。アンプ2cは、この赤外線センサ15が出力した信号S15を増幅して、A/D変換器3に供給する。
【0058】
温度演算部4は、この赤外線センサ15が出力した信号S15を取得して、次の数14に従って演算を行い、精度よく測定対象物の温度Tbbを取得する。
【数14】

温度演算部4は、この数14により補正された温度Tbbを示す信号Soutを出力する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態3によれば、外囲器14内壁の検知温度に係数Dを乗算し、この値も含めて補正を行うようにしたので、精度良く測定対象物の温度Tbbを取得することができる。
【0060】
(実施形態4)
実施形態4に係る温度検出装置は、内部の温度を検出する赤外線センサの出力電圧と、サーミスタが検出したセンサ温度の時間変化量と、をさらに用いて精度よく測定対象物の温度を取得するようにしたものである。
【0061】
実施形態4に係る温度検出装置は、実施形態3と同様に図6に示す構成を有する。温度演算部4は、次の数15に従って演算を行い、精度よく測定対象物の温度Tbbを取得する。
【数15】

温度演算部4は、この数15により補正された温度Tbbを示す信号Soutを出力する。
【0062】
以上説明したように、本実施形態4によれば、温度演算部4は、外囲器14内壁の検知温度と、サーミスタ12aが検出したセンサ温度Tthの時間変化量と、をさらに含めて補正を行うようにした。従って、さらに精度良く測定対象物の温度Tbbを取得することができる。
【0063】
(実施形態5)
実施形態5に係る温度検出装置は、センサ温度を検知するサーミスタの出力信号を、センサ部の熱時定数以下の遅延特性を有するローパスフィルタを介して出力するようにしたものである。
【0064】
実施形態5に係る温度検出装置は、図8に示すように、アンプ2bの出力端とA/D変換器3の入力端との間に、移動平均フィルタ6が介挿される。この移動平均フィルタ6は、ローパスフィルタであって、センサ部1の熱伝導等による温度変動が安定するまでの熱時定数以下の遅延特性を有する。
【0065】
この移動平均フィルタ6がこのような特性を有することにより、センサ部1における温度が安定するまでの熱時定数で決まる応答時間内で、赤外線センサ11のセンサ温度Tthが変化しても、移動平均フィルタ6は、アンプ2bの出力信号の信号レベルを平均化することにより、このセンサ部1の局部における急激な温度変化の影響、及び電気的ノイズを抑制する。
【0066】
一方、センサ部1の熱時定数で決まる応答時間を越えて、赤外線センサ11のセンサ温度Tthが変化した場合、移動平均フィルタ6を通過した信号は、赤外線センサ11の温度変化による影響を受けないように補正される。
【0067】
温度演算部4は、移動平均フィルタ6を介して供給された信号を取得し、数11、数13〜数15のいずれかの式を用いて演算を行い、精度よく測定対象物の温度Tbbを取得する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態5によれば、温度検出装置は、センサ部1の熱時定数以下の遅延特性を有するローパスフィルタとして移動平均フィルタ6を備え、移動平均フィルタ6が、センサ部1の急激な温度変化、及び電気的ノイズを抑制するようにした。
【0069】
従って、赤外線センサ11の温度が設置場所等の影響により急激に変化しても、温度検出装置は、この影響を少なくすることができ、さらに精度良く測定対象物の温度Tbbを取得することができる。
【0070】
尚、本発明を実施するにあたっては、種々の形態が考えられ、上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上記実施の形態では、サーミスタ12aは、外囲器14上に形成されるものとした。しかし、赤外線センサ101〜104との熱的結合をさらに良くするため、ICチップ13上に形成されるようにしてもよい。
【0071】
また、温度検出装置は、測定対象物の情報、あるいは、周囲の環境情報に基づいて、係数A,Bを設定するように構成されることもできる。
【0072】
即ち、温度検出装置は、測定対象物を完全黒体として、この測定対象物の温度を検出する。しかし、赤外線の放射量は、測定対象物、その表面状態によって異なってくる。例えば、人が放出する赤外線エネルギーとその他の物体の赤外線エネルギーとでは、異なってくる場合がある。
【0073】
また、測定対象物が設置されている環境、温度検出装置の設置場所等によっても、赤外線エネルギーは異なる値となる場合がある。
【0074】
この場合、メモリ5は、測定対象物、環境に基づいて予め設定された複数の係数A,Bを記憶するようにする。そして、測定対象物の情報、環境情報を温度演算部4に供給し、温度演算部4が、この情報に基づいて、対応する係数A,Bを選択するようにすれば、温度演算部4は、より精度の高い温度Tbbを取得することができる。
【0075】
また、上記実施形態5では、移動平均フィルタ6をアンプ2bの出力端とA/D変換器3の入力端との間に介挿するようにした。しかし、図9に示すように、アンプ2aの出力端とA/D変換器3の入力端との間に、センサ部1の熱時定数以下の遅延特性を有する移動平均フィルタ7を介挿するように構成されてもよい。このようにすれば、赤外線センサ11の急激な温度変化の影響、及び電気的ノイズを抑制することができる。
【0076】
さらに、アンプ2bの出力端とA/D変換器3の入力端との間に移動平均フィルタ6を介挿し、アンプ2aの出力端とA/D変換器3の入力端との間に移動平均フィルタ7を介挿するように構成されてもよい。このようにすれば、さらに、センサ部1全体の急激な温度変化の影響、及び電気的ノイズを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施形態1に係る温度検出装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示すセンサ部の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図3】図1に示す温度検出装置の特性として、従来のものと比較して、センサ温度と出力電圧との関係を示す図である。
【図4】従来の温度検出装置のセンサ温度と温度誤差との関係を示す図である。
【図5】図1に示す温度検出装置のセンサ温度と温度誤差との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施形態3に係る温度検出装置の構成を示す図である。
【図7】図6に示すセンサ部の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図8】本発明の実施形態5に係る温度検出装置の構成を示す図である。
【図9】本発明の実施形態5に係る温度検出装置の応用例として、センサ部の赤外線センサ側に移動平均フィルタを介挿した場合の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 センサ部
4 温度演算部
5 メモリ
6,7 移動平均フィルタ
11(101〜104) 赤外線センサ
15 赤外線センサ(外囲器内壁温度測定用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサ、前記温度センサから、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数1に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えた、
ことを特徴とする温度検出装置。
【数1】

【請求項2】
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサ、前記温度センサから、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数2に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えた、
ことを特徴とする温度検出装置。
【数2】

【請求項3】
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサを収納する外囲器内の温度を検出する内部温度検出部と、
前記赤外線センサ、前記温度センサ、前記内部温度検出部から、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧、前記内部温度検出部の出力電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数3に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えた、
ことを特徴とする温度検出装置。
【数3】

【請求項4】
測定対象物が発する赤外線を検知して前記測定対象物の温度に対応する第1の電圧を出力する赤外線センサと、
前記赤外線センサのセンサ温度を検出し、前記センサ温度に対応する第2の電圧を出力する温度センサと、
前記赤外線センサを収納する外囲器内の温度を検出する内部温度検出部と、
前記赤外線センサ、前記温度センサ、前記内部温度検出部から、それぞれ、出力された前記第1の電圧、前記第2の電圧、前記内部温度検出部の出力電圧を取得し、前記測定対象物の温度を前記第1の電圧に換算するための係数を第1の係数、前記センサ温度を前記第2の電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数4に従って、前記測定対象物の温度を取得する温度演算部と、を備えた、
ことを特徴とする温度検出装置。
【数4】

【請求項5】
前記赤外線センサと前記温度センサとは、センサ部に備えられたものであり、
前記センサ部の熱時定数以下の遅延特性を有し、前記赤外線センサ及び前記温度センサの少なくとも一方の出力端に接続されて、接続されたセンサが出力する電圧を平滑化するローパスフィルタを備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の温度検出装置。
【請求項6】
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数1に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えた、
ことを特徴とする温度検出方法。
【請求項7】
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数2に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えた、
ことを特徴とする温度検出方法。
【請求項8】
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが収納された内部の温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数3に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えた、
ことを特徴とする温度検出方法。
【請求項9】
測定対象物が発する赤外線を検知する赤外線センサを備えて温度を検出する温度検出方法であって、
前記赤外線センサの温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが収納された内部の温度を検出するステップと、
前記赤外線センサが前記測定対象物の赤外線を検知したときの前記測定対象物の温度を電圧に換算するための係数を第1の係数、前記赤外線センサのセンサ温度を電圧に換算するための係数を第2の係数として、前記第1の係数と前記第2の係数とが異なる値に設定され、数4に従って、前記測定対象物の温度を取得するステップと、を備えた、
ことを特徴とする温度検出方法。
【請求項10】
前記測定対象物の温度を取得するステップは、前記赤外線センサの検出信号を、前記赤外線センサが備えられたセンサ部の熱時定数以下の遅延特性で遅延させ、平滑化させてから、前記補正を行うステップである、
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の温度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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