説明

温度測定方法

本明細書は、温度を測定する方法を記載する。本発明によれば、RFIDタグ(1)の局部発振器の周波数変化から温度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、温度測定に関するものである。特に、本発明の方法は、RFID技術による温度測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存のセンサタグは、生産量が限られた高価なカスタムICであり、特定のコマンド及びリーダ(読取り装置)を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、温度測定の新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、標準型RFIDタグを用いて、特定のコマンドまたはカスタムタグなしで、環境温度を遠隔的に測定することのできる方法を述べる。その原理はGen2EPCプロトコルで実証されており、オンチップ発振器を含む他のタグに適用することができる。この測定は、タグ内部発振器の周波数の変化、及び伝送EPCプロトコルのプリアンブルに基づく。
【0005】
本発明の一態様によれば、この周波数変化は、RFIDリーダ装置2によって、伝送タイミングシーケンスTRcal 3を変化させることによって測定される。
【0006】
より具体的には、本発明による方法は、請求項1の特徴部分に記載の事項によって特徴付けられる。
【0007】
その一部として、本発明による使用方法は、請求項8〜12に記載の事項によって特徴付けられる。
【0008】
本発明の利用により大きな利点が得られる。
【0009】
本発明は、いくつかの好適例も有し、これらの好適例は、以前から知られた温度測定方法に対する特定の利点を提供する。
【0010】
1つの好適例によれば、リーダの製造業者が本発明を用いて、廉価で、広く入手可能な標準型タグにより、温度センサ機能を自分のシステムに追加することができる。
【0011】
本発明は、タグ上に特別なハードウェアを必要とせず、かつ電力消費を増加させず、従って、読取り距離は同一のままである。各タグは較正することができ、そのデータはタグメモリ自体に記憶されている。
【0012】
既存のRFIDセンサタグに比べて、本発明において述べる解決法は、専用タグの価格の何分の一かで広く入手可能な標準型タグを使用する。その原理は単純であり、リーダのソフトウェアで実現される。この温度センシング機能は電力消費を増加させず、従って、同じ読取り範囲(一般に10メートルまで)を測定用に利用可能である。必要な較正情報は、タグメモリ自体に記憶することができる。
【0013】
いくつかの場合には、ある量の直接測定値を温度測定値に変換することができ、例えば、液体の不透明度により、光がこの液体を通過することを妨げられて、照射されるタグの温度が低下する。タグの温度を測定することによって、液体の不透明度を推定することができる。このことは、多数の量を無線温度センサで測定することができることを意味するに過ぎない。
【0014】
本発明は、他のいくつかの好適例も有し、これらの好適例は、関連する多数の利点を提供する。
【0015】
本発明及びその利点のより完全な理解のために、以下、本発明を、その例を用いて、次の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に適したシステムの一般原理のブロック図である。
【図2】本発明によるEPCプリアンブルのクロノグラフによる計時を示す図である。
【図3】本発明による、リンク周波数のTRcal持続時間への依存性のシミュレーション結果をグラフで示す図である。
【図4】図4a及び4bはそれぞれ、本発明を実証するために使用したシステム、及び将来可能な統合のブロック図である。
【図5】タグの温度を測定するために用いるTRcal掃引の例を示す図である。
【図6】後方散乱周波数の差を用いたタグ発振器周波数の測定のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明による、測定したTRcalのジャンプ値を温度の関数としてグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明による理論及び例を、より完全に説明する。
【0018】
図1によれば、温度が、RFIDタグ1のオンチップ(チップ上)発振器の周波数に影響を与える。タグ1は、RFIDリーダ装置2によって読み取られる。タグ1の局部発振器の周波数は、本明細書で後に詳細に説明する方法によって測定される。このプロトコルは、設計により、この周波数の変化に敏感ではない。適切な方法により、タグのクロック周波数を測定することができる。タグ周波数は温度に比例する。
【0019】
図6a及び6bによれば、ノイズ及び未知のパラメータを最大限取り除くために、温度は段階的に増減させる。
【0020】
以下のことを仮定する:
UHFタグの内部発振器は一般に、リング発振器に基づく。
このリング発振器の周波数は、タグ温度に比例する。
このリング発振器の周波数の依存性は、特徴化されている。
【0021】
温度は、すべての電子装置に影響を与える。UHF RFIDタグでは、局部発振器の周波数は、図1に示すように温度に比例する。論理回路のクロック周波数は、温度と共に変化する。
【0022】
UHFで使用されるEPCプロトコルは、タグの応答を後方散乱させるために、局部発振器を用いず、図2に示すような、リーダ・プリアンブルの持続時間の関数を用いる。従って、温度はデータ伝送に影響を与えない。
【0023】
本発明によれば、リンク周波数のジャンプ(跳躍)を誘発するTRcalの値が温度と共に低下するので、局部発振器の周波数を測定することができる。このことのシミュレーション結果を図3に示す。その技術的理由は、タグ論理回路内のTRcal持続時間の離散化である。
【0024】
図4a及び4bはそれぞれ、温度依存性を測定するために使用するシステム、及び本発明をRFIDリーダ内に統合することのできる方法を示す。実験では、コンピュータ10が標準型RFIDリーダ2を制御する。このコンピュータは、プリアンブル・パラメータTRcal 3を調整して、タグ1にIDを問い合わせる。復調したリーダの出力をオシロスコープ11によって捕捉して、コンピュータによって分析して、応答のリンク周波数を測定する。
【0025】
図4bでは、温度読取り機能をリーダ5内に統合する。コンピュータ10は、タグID及びその温度を直接要求する。
【0026】
図5によれば、局部発振器の周波数は、異なるTRcalのシーケンス長で離散値を得る。y軸上には1/LF(リンク周波数)を示し、x軸上にはTRcal 3をマイクロ秒単位で示す。
【0027】
一定温度で、LF(リンク周波数)は、予想通りに「ジャンプ」している。
【0028】
入力信号は非常にノイズが多く、LFの測定値は正確でない(この図では、ノイズが目に見える)。
【0029】
LFのジャンプを含むTRcalの値は、適切な閾値で容易に測定することができる。
【0030】
TRcalパラメータを掃引し、後方散乱されたタグ応答のリンク周波数を測定することによって、リーダは図5と類似の曲線を取得することができる。点A、B及びEは、ランダムに選定されている。点C、D及びFは、段階のエッジ上に置かれている。
【0031】
1つ以上の対(TRcal、LF)を用いることによって、リーダがタグ発振器の周波数を測定することができ、従って、タグ温度を測定することができる。リーダは、次のものを用いることができる:
1つ以上のΔLF(例えば、LFA−LFE
1つ以上の「ジャンプ値の差」ΔTRcal(例えば、TRC−TRF
1つ以上の明確なジャンプのTRcal値(例えばTRC
1対以上のランダム点「TRcal及び対応するLF」(例えば、TRB、LFB
1対以上の「ジャンプのTR値及び対応するLF」(例えば、TRC、LFC
段階を規定する1組以上の3値(例えばTRC、TRF、LFF
以上の方法の組合せ。
【0032】
TRcal掃引情報(図5)をリーダが用いることのできる方法を示すために、2つの方法を説明する。
【0033】
第1の方法:1つのΔLFを用いる
リーダは、タグに応答を要求するコマンドを発行し、このコマンドのプリアンブルはTRcalのタイミングを指定し、タグはこのタイミングを用いて、後方散乱周波数LFを発生する。
タグは、TRcal 3の持続時間を、タグ自体の発振器のクロックで測定し、TRcal 3はタグの論理回路における離散値(TRcount)である。
タグ1は、上記LFの離散値を用いて、応答を後方散乱させる。ここで、
TRcount=ラウンド(TRcal・fclk) (「ラウンド」は丸め関数である)
【数1】

である。
リーダ2は、後方散乱周波数LF(LFA)を測定する。
リーダ2は他のコマンドを発行し、周波数変化が十分大きければ、TRcal 3のタイミングが小幅に増加し、タグの離散値TRcountが1単位だけ増加し、従って、後方散乱周波数LFBは、次式:
【数2】

のように少し低速になる。
これら2つのLFの測定値(LFA、LFB)により、リーダ2はタグのリング発振器の周波数を次式:
【数3】

により推定することができる
リーダは、リング発振器の較正パラメータをメモリから取得し、リング発振器の周波数の線形依存性を用いて、次式:
clk=TC・(温度)+(オフセット)
により、タグ温度を推定することができる。
【0034】
この方法のシミュレーション結果を、図6に示す。
【0035】
第2の方法:ジャンプのTRcal値を用いる
タグ温度を測定する他の方法は、ジャンプのTRcal値3の、温度に伴う変化を観測することである。図7は、1つのタグについての、−30℃から+70℃までの大きな温度範囲におけるこうした変化を示す。この曲線は単調であり、多項式関数に適合させることができる。
【0036】
温度測定の性能は、タグファミリ(タグ群)に大きく依存する。以下に挙げる感度は例である;一部のタグファミリはより高感度であるのに対し、他のタグファミリはより低感度に見えることがある。この感度は通常、温度依存性である。この感度は、低い温度でより高い。
−20℃では、1桁当たり約0.2℃
0℃では、1桁当たり約0.3℃
+20℃では、1桁当たり約0.5℃
【0037】
測定範囲は動作温度範囲と同一である。通常、タグは−40℃から+80℃までで動作する。
【0038】
捕捉時間は、n回の読取り動作と等価である。通常はn<10である。従って、捕捉時間は1秒より小さい。より良好な精度のために、測定値の平均をとることができる。
【0039】
温度に伴うTRcalのジャンプ値の変化に適合する多項式関数は、異なる周囲温度でタグを測定することによって得ることができる。より良好な精度のために、タグを個別に較正することができる。より低コストのために、この較正を、タグのファミリに対して一意的にすることができる。係数は、タグメモリまたは集中型データベースに記憶することができる。
【0040】
1つの有利な解決法では、タグ1の温度依存性を、タグ1の製造業者に基づく一組のRFIDタグについて測定するか、あるいは、精密な測定のために、各タグ1を個別に較正する。その代わりに、タグの較正を、製造されたタグ1のサンプルに対して行う。
【0041】
本発明によれば、RFIDタグの局部発振器の周波数情報を、温度測定、特に人体の温度測定に用いることができる。本発明を用いて、温度測定によって湿度情報を測定することもできる。本発明の1つの実現には、食品の温度測定、特に食品コールドチェーン(低温流通体系)の温度制御もある。
【0042】
本発明に関連して、次の事項が必要であり得る:
UHFタグの内部発振器は一般に、リング発振器に基づく。
このリング発振器の周波数は、タグ温度に比例する。
このリング発振器の周波数依存性は、特徴化されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を測定する方法であって、
RFIDタグ(1)の局部発振器の周波数変化から温度を測定することを特徴とする温度測定方法。
【請求項2】
前記周波数変化を、RFIDリーダ装置(2)によって、伝送タイミングシーケンス(TRcal, 3)を変化させることによって測定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記周波数変化を、RFIDリーダ装置(2)によって、リーダ・プリアンブルのタイミング、特にTRcal(3)の持続時間を変化させることによって測定することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記周波数変化を、RFIDリーダ装置(2)によって、多重伝送中に少なくとも3つの異なるタイミング値(TRcal, 3)を用いることにより伝送タイミングシーケンス(TRcal, 3)を変化させることによって測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記局部発振器の周波数の測定を、次のシーケンスで、即ち:
RFIDリーダ装置(2)が、前記RFIDタグ(1)に応答を要求するコマンドを発行し、該コマンドのプリアンブルは、前記RFIDタグが後方散乱周波数LFを発生するために用いるTRcalのタイミングを指定し、
前記RFIDタグは、前記TRcalの持続時間を、当該RFIDタグ自体の発振器のクロックで測定し、前記TRcal(3)は、前記RFIDタグの論理回路における離散値(TRcount)であり、
前記RFIDタグ(1)は、前記LFの離散値を用いて、前記応答を後方散乱させ、ここで、
TRcount=ラウンド(TRcal・fclk) (「ラウンド」は丸め関数である)、
【数1】

であり、
前記RFIDリーダ(2)は、前記後方散乱周波数LF(LFA)を精密に測定し;
前記RFIDリーダ(2)は他のコマンドを発行し、前記周波数変化が十分大きければ、TRcalのタイミングが小幅に増加し、前記RFIDタグの離散値TRcountが1単位だけ増加し、従って、前記前記後方散乱周波数LFBは、次式:
【数2】

のように少し低速になり、
前記LFの測定値LFA、LFBにより、前記RFIDリーダが、前記RFIDタグのリング発振器の周波数を次式:
【数3】

により推定し、
前記RFIDリーダ(2)は、前記リング発振器の較正パラメータを前記RFIDタグのメモリから取得し、前記リング発振器の周波数の線形依存性を用いて、次式:
clk=TC・(温度)+(オフセット)
により前記RFIDタグの温度を推定して、
実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記RFIDタグ(1)の温度依存性を、当該RFIDタグ(1)の製造業者に基づく一組のRFIDタグについて測定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
精密な測定のために、前記RFIDタグ(1)の各々を個別に較正することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記RFIDタグの較正を、製造された前記RFIDタグ(1)のサンプルに対して行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
RFIDタグの局部発振器の周波数情報を、温度測定に用いる方法。
【請求項10】
RFIDタグの局部発振器の周波数情報を、人体の温度測定に用いる方法。
【請求項11】
RFIDタグの局部発振器の周波数情報を、温度測定により湿度情報を得るために用いる方法。
【請求項12】
RFIDタグの局部発振器の周波数情報を、食品の温度測定に用いる方法。
【請求項13】
RFIDタグの局部発振器の周波数情報を、食品コールドチェーンにおける温度制御に用いる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−510291(P2013−510291A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535893(P2012−535893)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050880
【国際公開番号】WO2011/055014
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(511215207)テクノロジアン テュトキムスケスクス ヴェーテーテー (11)
【氏名又は名称原語表記】Teknologian tutkimuskeskus VTT
【Fターム(参考)】