説明

温度管理媒体

【課題】保存温度以下になったことを判定することができ、乳化液の起動温度と分離温度との差が小さく、所定温度にて乳化液を分離させることができ、かつ、乳化液の起動温度の下限が低い温度管理媒体を提供する。
【解決手段】常温にて液状で、かつ、所定温度まで冷却すると凝固する乳化液を備え、該凝固した乳化液は昇温により融解し、相分離する温度管理媒体であって、乳化液は、水、油分およびリン脂質を含む脂質混合物を含有し、油分は、トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロールと、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素と、を主成分とし、リン脂質はレシチンとリゾレシチンからなり、レシチンとリゾレシチンの配合割合は質量比で70:30〜30:70である温度管理媒体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品が一旦、所定の温度域以下の雰囲気中に曝され、その後、これより高い温度の雰囲気中に曝されたか否かという温度履歴を容易に確認することができる温度管理媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍あるいは冷蔵した状態で配送される荷物が一段と増加するに伴って、これらの荷物を配達先まで予め決められた温度に保ちながら運搬する宅配便などの配送手段が普及している。このような配送手段を用いて荷物を配送すると、例えば、集荷元の冷凍・冷蔵施設から配送車へ荷物を積み込む時、配送車間で荷物を積み替える時、配送車から荷物を取り出し配達先へ配達する時などに、本来ならば冷凍・冷蔵状態が保たれなければならない荷物が、直射日光による高温雰囲気や室温雰囲気に曝されることがある。
【0003】
また、無事に冷凍・冷蔵状態が保たれながら配達先に届けられた後も、荷物の冷凍・冷蔵状態が保たれることが求められる。荷物の中身が食品や医薬品である場合、これらの冷凍・冷蔵状態が保たれないと、これらに変質や雑菌の繁殖などが生じて、その品質が損なわれるおそれがある。極端な場合、食品や医薬品の冷凍・冷蔵状態が保たれないと、食中毒や医療事故などを誘発しかねない。このような厳格な温度管理が求められるものとしては、食品や医薬品の他に、化学分野や写真分野で用いられる各種薬品などが挙げられる。
【0004】
従来、上述のような温度管理が正常に行われているか否かを簡便に確認する方法として、以下に示す方法が提案されている。
例えば、脂溶性色素を溶解した炭素数7〜15の高級アルコールの1種または2種以上が、非イオン系界面活性剤および水に分散されてなる乳化液(エマルション)を、密封容器に充填してなる保存温度管理用インジケータが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
この保存温度管理用インジケータは、通常の温度条件下では、外観上は、乳化液の色素の色調が抑えられ、不透明な乳濁色を呈している。一方、この保存温度管理用インジケータが、乳化液が氷結する温度以下に曝されると、一旦、乳化液の全成分が凝固するが、乳化液が再び融解するとき、粗大化した乳化粒子は浮上し、色素の濃い色調を有した油滴または油層が上層へ浮上し、水層と、油滴または油層とに分離する。よって、このような変化が認められた保存温度管理用インジケータを含む包装内の物品は劣化している恐れがあるとして使用時に注意を促すことができる。
【0005】
また、室温で液状の、保存管理温度を超えると溶融する油性物質を非イオン界面活性剤および水によってエマルション化してなるO/W型エマルション層と、上記油性物質のみを選択的に拡散透過する、油溶性色素をエマルション層と反対面に設けてなる障壁と、油性物質を拡散透過する不透明層とを密封容器に順次設けてなる保存温度管理用インジケータが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
この保存温度管理用インジケータは、O/W型エマルション層が、一旦、氷点下にて凍結した後、解凍する際に、水と油性物質とに相分離し、この油性物質のみが障壁を拡散透過して、障壁の上に設けられた油溶性色素を溶かし、さらに油溶性色素の上の不透明層を拡散透過して発色または着色する。これにより、厳格な温度管理を必要とする物品に異常があったことを肉眼で容易に検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−37227号公報
【特許文献2】特開平5−149797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の保存温度管理用インジケータには、以下に示すような課題があった。
従来の保存温度管理用インジケータは、保存温度以下になったことを判定することができなかった。
また、従来の保存温度管理用インジケータは、起動温度(乳化液が均一に凝固する温度)と分離温度(乳化液が昇温して相分離する温度)との差が大きく、所定温度(食品や医薬品などの保存温度;−60℃以上、+20℃以下)にて、乳化液を分離させることが難しく、インジケータとして十分に機能しないという問題があった。
さらに、従来の保存温度管理用インジケータは、乳化液の起動温度に下限があり、ある温度以下で乳化液を凝固させると、その後、乳化液が分離しなくなり、インジケータとして機能しなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、保存温度以下になったことを判定することができ、乳化液の起動温度と分離温度との差が小さく、所定温度にて乳化液を分離させることができ、かつ、乳化液の起動温度の下限が低い温度管理媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の温度管理媒体は、常温にて液状で、かつ、所定温度まで冷却すると凝固する乳化液を備え、該凝固した乳化液は昇温により融解し、相分離する温度管理媒体であって、前記乳化液は、水、油分およびリン脂質を含む脂質混合物を含有し、前記油分は、トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロールと、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素と、を主成分とし、前記リン脂質はレシチンとリゾレシチンからなり、前記レシチンと前記リゾレシチンの配合割合は質量比で70:30〜30:70であることを特徴とする。
【0010】
本発明の温度管理媒体において、前記脂質混合物の配合量は、前記油分100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の温度管理媒体において、前記乳化液は、単糖類または二糖類をさらに含有することが好ましい。
【0012】
本発明の温度管理媒体において、前記乳化液は、重量平均分子量が100,000以下の水溶性高分子をさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の温度管理媒体は、保存温度以下になったことを判定することができ、乳化液の起動温度と分離温度との差が小さく、所定温度にて乳化液を分離させることができ、かつ、乳化液の起動温度の下限が従来よりも低くなる。したがって、本発明の温度管理媒体によれば、宅配便などで配送される荷物の温度管理を、簡易に目的とする保存温度範囲内にて行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る温度管理媒体の一実施形態を示す概略正面図であり、(a)は密閉容器内に収容された乳化液を、(b)は密閉容器内に収容された乳化液が水相と油相に相分離した状態をそれぞれ表している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の温度管理媒体の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る温度管理媒体の一実施形態を示す概略正面図であり、(a)は密閉容器内に収容された乳化液を、(b)は密閉容器内に収容された乳化液が水相と油相に相分離した状態をそれぞれ表している。
図1中、符号10は温度管理媒体、11は乳化液、12は密閉容器、13は水相、14は油相をそれぞれ示している。
【0017】
この実施形態の温度管理媒体10は、乳化液11と、密閉容器12とから概略構成されており、乳化液11が密閉容器12内に収容され、この密閉容器12が密閉されてなるものである。
【0018】
乳化液11は、水、油分およびリン脂質を含む脂質混合物を含有するエマルションであり、常温にて液状で、かつ、所定温度まで冷却すると凝固するものである。
この乳化液11は、水または油分のいずれか一方が分散媒(連続相)をなし、他方が分散相(不連続相)をなしており、リン脂質を含む脂質混合物が界面活性剤として機能し、水または油分のいずれか一方が他方に微粒子状に分散している。また、乳化液11は、分散媒(連続相)が水で、分散相(不連続相)が油分の場合、水中油滴型(Oil in Water型:O/W型)エマルションをなし、一方、分散媒(連続相)が油分で、分散相(不連続相)が水の場合、油中水滴型(Water in Oil型:W/O型)エマルションをなす。
【0019】
乳化液11において、水と油分の割合(水:油)は、目的とする温度管理媒体10の起動温度の範囲に応じて適宜調整されるが、5:95(wt:wt)〜95:5(wt:wt)が望ましく、10:90(wt:wt)〜60:40(wt:wt)が好ましく、15:85(wt:wt)〜30:70(wt:wt)が特に好ましい。
【0020】
また、乳化液11の分離温度(乳化液が昇温により相分離する温度)は、2種以上の異なる油分を使用することにより調整される。
【0021】
乳化液11を構成する水としては、特に限定されず、如何なる水でも用いられるが、リン脂質への影響を考慮すると、イオン交換水や蒸留水が好適に用いられる。
【0022】
油分としては、室温(約23℃)付近にて界面活性剤を用いて水とともに乳化液11を構成し、一旦、所定温度以下、例えば、−60℃〜+20℃に曝された後、再び所定温度を超える温度に昇温することにより相分離するものが挙げられる。このような油分としては、例えば、トリアシルグリセロール(トリグリセリド、TAG)および/またはジアシルグリセロール(ジグリセリド、DAG)と、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素とを主成分とするものが挙げられる。
【0023】
トリアシルグリセロールは、グリセリンに3個の脂肪酸が結合してなる構造をなす、ナタネ油,ヒマシ油,パーム油、大豆油、魚油などの動植物油であり、脂肪酸残基の炭素数は、乳化液11の起動温度と分離温度を考慮して適宜選択することができる。
【0024】
ジアシルグリセロールは、グリセリンに2個の脂肪酸が結合してなる構造をなす、ナタネ油,ヒマシ油,パーム油、大豆油、魚油などの動植物油であり、脂肪酸残基の炭素数は、乳化液11の起動温度と分離温度を考慮して適宜選択することができる。
【0025】
炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素は、鎖式炭化水素であっても環式炭化水素であってもよく、鎖式炭化水素は直鎖式であっても分岐鎖式であってもよい。また、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素は、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよい。
炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素としては、凝固時の結晶が多形を示す(凝固の条件によって多数の異なる結晶構造を示すこと)ものが用いられ、これらの炭化水素の中でも、常温付近にて液状であることから炭素数が12以上かつ20以下の炭化水素が好ましく、炭素数が12以上かつ14以下の炭化水素がより好ましい。
【0026】
また、官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素は、アルキルカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、カルバモイル基、エーテル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、チオエーテル基、ジスルフィド基、スルホキシド基、シアノ基、イソシアネート基、シアネート基、アゾ基、ジアゾ基の群から選択される1種または2種以上の官能基を有するものが用いられる。
これらの官能基を有する炭素数の中でも、アルキルカルボニルオキシ基を有する炭化水素が好ましい。
【0027】
このような官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素は、鎖式炭化水素であっても環式炭化水素であってもよく、鎖式炭化水素は直鎖式であっても分岐鎖式であってもよい。また、官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素は、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよい。
官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素としては、凝固時の結晶が多形を示す(凝固の条件によって多数の異なる結晶構造を示すこと)ものが用いられ、例えば、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸ブチルなどが挙げられる。
【0028】
また、本発明では、モノアシルグリセロール(MAG)などを含有してもよい。
【0029】
乳化液11では、トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロールと、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素とが、目的とする温度管理媒体10の起動温度(乳化液11が凝固する温度)範囲および分離温度に応じて、適宜の割合で混合して用いられる。
例えば、乳化液11に含まれる油分において、トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロールと、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素との割合を、1重量%:99重量%〜99重量%:1重量%の範囲とすれば、起動温度が−60℃〜+20℃、分離温度が−40℃〜+23℃となる。
【0030】
また、リン脂質としては、レシチンおよびリゾレシチンを主成分とするものが挙げられる。
【0031】
レシチンは、乳化液11において、水または油脂のいずれか一方を他方に微粒子状に分散させるための界面活性剤として機能する。レシチンとしては、下記の一般式(1)で表される大豆レシチン、下記の一般式(5)〜(8)で表される卵黄リン脂質を含む卵黄レシチン、魚介類由来のレシチンなどが挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
上記の一般式(1)中、R、Rは飽和および不飽和炭化水素から構成される。また、Aは塩基を表している。
例えば、Aが下記の式(2)で表される塩基である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジルコリン、Bが下記の式(3)で表される塩基である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジルエタノールアミン、Aが下記の式(4)で表される塩基である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジルイノシトール、Aが水素原子である場合、上記の一般式(1)で表される大豆レシチンはホスファチジン酸である。
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
大豆レシチンは、上記の一般式(1)に示すように、2つの脂肪酸残基と、1つの塩基を有している。大豆レシチンは天然の乳化剤であり、抗酸化作用、離型作用、分散作用、起泡・消泡作用、保水作用、蛋白質・澱粉との結合作用、チョコレートの粘度低下作用など多岐にわたる性質を兼ね備えている。また、大豆レシチンは、大豆を抽出した大豆粗油を濾過後、約2%の温水を加え攪拌し、ガム状となって油層から分離したものを乾燥することにより得られる。さらに、大豆レシチンは、安価で大量供給が可能であり、精製度合いによって様々な状態で得ることができるという特長を備えているので、使用条件によって種類を選択できる。
【0042】
卵黄レシチンは、鶏卵の卵黄は水分48%、蛋白質16%、脂質33%からなるが、この脂質中に30%含まれる成分がリン脂質である。また、卵黄の脂質は中性脂肪65%、リン脂質30%、コレステロール4%から構成されている。また卵黄リン脂質は、上記の一般式(5)のホスファチジルコリン(Phosphatidylcholine)70〜80%、上記の一般式(6)のホスファチジルエタノールアミン(Phosphatidylethanolamine)10〜15%、上記の一般式(7)のスフィンゴミエリン(Sphingomyelin)1〜3%、上記の一般式(8)のリゾホスファチジルコリン(Lysophosphatidylcholine)1〜2%から構成されている。
【0043】
リゾレシチンは、上記のようなレシチンと同様に、乳化液11において、水または食用油脂のいずれか一方を他方に微粒子状に分散させるための界面活性剤として機能する。リゾレシチンとしては、上記の一般式(1)で表される大豆レシチン、上記の一般式(5)〜(8)で表されるレシチンなどをリゾ化して、レシチンから脂肪酸が1個取れた構造をなすものが挙げられる。ここで、リゾ化とは、酵素であるPhospholipaseA2を用いて、レシチンが持つグリセリン基の第二位の脂肪酸残基を脱離させることをいう。
【0044】
また、リゾレシチンは、天然の乳化剤であり、抗酸化作用、離型作用、分散作用、起泡・消泡作用、保水作用、蛋白質・澱粉との結合作用、チョコレートの粘度低下作用など多岐にわたる性質を兼ね備えている。
【0045】
乳化液11において、リン脂質を含む脂質混合物の配合量は、油分100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下が好ましく、1質量部以上、20質量部以下がより好ましい。
リン脂質を含む脂質混合物の配合量が、油分100質量部に対して、0.1質量部未満では、乳化し難い。一方、リン脂質を含む脂質混合物の配合量が、油分100質量部に対して、40質量部を超えると、水に油分およびリン脂質が分散し難くなり、うまく乳化しない。
【0046】
また、レシチンとリゾレシチンの配合割合は、目的とする温度管理媒体12の起動温度(乳化液11の凝固する温度)範囲に応じて適宜調整されるが、20:80(wt:wt)〜80:20(wt:wt)が好ましく、70:30(wt:wt)〜30:70(wt:wt)がより好ましい。
【0047】
また、乳化液11には、その凝固点を所望の温度範囲に調整するために、糖類や水溶性高分子を配合してもよい。糖類や水溶性高分子の種類、配合量などを変えることにより、乳化液11の凝固点を所望の温度範囲に調整することができる。
【0048】
糖類としては、例えば、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、麦芽糖、ショ糖、ラクトース、セルビオースなどの二糖類、スタキオース、ラフィノースなどのオリゴ糖類、ペクチン、ガラクタン、デンプン、アミロース、プルラン、アラビアガム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルキチンなどの多糖類が挙げられる。これらの中でも、凝固点調整の意味から分子量の分かっている、単糖類や二糖類が望ましい。
【0049】
水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ゼラチン、ポリアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンオキサイド、ポリオキシプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、イソブテン−無水マレイン酸共重合体、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルエーテルなどが挙げられる。水溶性高分子は、重合度が大きくなると粘性が高くなり、乳化が困難となる傾向にあることから、重量平均分子量100,000以下のものを使用することが好ましい。
【0050】
密閉容器12としては、乳化液11を収容する部分(空間)を有し、乳化液11が相分離した様子を光学的に確認できる材質からなるものが好ましく、ガラスやプラスチック、あるいは食して無害な材料が好適に用いられる。食して無害な材料としては、例えば、プルラン、オブラート、ガム、アメなどが挙げられる。その形態としては、例えば管状、板状、フィルム状、球状などが挙げられる。なお、相分離を確認するだけならば、密閉容器12を、乳化液11が相分離してなる水相と油相の境界付近のみ透明な材質とし、他は不透明な金属などからなる構成としてもよい。
【0051】
特に、密閉容器12として可撓性のフィルム状のものを用いた場合、荷物などの対象物の外形に沿って温度管理媒体10を貼付することができるばかりでなく、温度管理媒体10に外力が加えられた際に密閉容器12自体が柔軟に変形してその影響を回避することができるので望ましい。
【0052】
また、乳化液11の相分離によって、密閉容器12内に収容されている液体の体積が変動してもその影響を受けないようにするために、例えば、乳化液11とともに空気や不活性ガスなどの気体を密閉容器12内に封入しておいてもよい。
【0053】
この実施形態の温度管理媒体10は、保存温度以下になったことを判定することができ、乳化液11の起動温度と分離温度との差が小さく、所定温度にて乳化液11を分離させることができ、かつ、乳化液11の起動温度の下限が従来よりも低くなる。したがって、この実施形態の温度管理媒体10によれば、宅配便などで配送される荷物の温度管理を、簡易に目的とする保存温度範囲内にて行うことができる。
【0054】
また、油分と、リン脂質を含む脂質混合物との組合せを適宜選択することにより、乳化液11を高粘度物の形態とすることもできる。このようにすれば、乳化液11を密閉容器12などに内包させる必要がないので、乳化液11のパッケージングなどが不要になることから、温度管理媒体10を使用する際の自由度が向上する。
【0055】
次に、この実施形態の温度管理媒体の製造方法の一例を説明する。
まず、トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロールと、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素とを混合し、これらの混合液を調製する。
次いで、この混合液にリン脂質を含む脂質混合物を溶解して、油分の混合液(油分混合液)を調整する。
次いで、攪拌しながら、水に油分混合液を少しずつ加えて、水または油分のいずれか一方を他方に微粒子状に分散させて、乳化液11を得る。
次いで、密閉容器12内に乳化液11を充填して、密閉容器12を密閉し、温度管理媒体10を得る。なお、この際、密閉容器12の乳化液11で満たされていない部分に、空気などの気体を封入してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
「実施例1」
トリアシルグリセロールとしてニッコールトリファットC−24(商品名、融点20〜26℃、日光ケミカル社製)60g、トリアシルグリセロールとしてココナードRK(商品名、融点−5℃、花王社製)60g、官能基を有する炭化水素としてステアリン酸ブチル(融点20℃、炭素数20、関東化学社製)70g、官能基を有する炭化水素としてミリスチン酸ブチル(融点5℃、炭素数18、和光純薬工業社製)10gを混合し、これらの混合液を調製した。
次いで、この混合液に、粉レシチン(商品名;SLP−ホワイト、辻製油社製)2g、ペーストレシチン(商品名;SLP−ペーストリゾ、辻製油社製)15gを溶解して、油分混合液を調整する。
次いで、攪拌しながら、水40gに、油分混合液217gを少しずつ加え、油分混合液を全量加えた後、乳化機により7000rpmで30分間、室温にて、水と油分混合液の混合物を攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
この乳化液を透明フィルム製の容器に入れて密封して、温度管理媒体Aを作製した。
そして、この温度管理媒体Aを、1℃にて14時間以上放置して、乳化液を凝固させた後、5℃、10℃、11℃、15℃、19℃、20℃、30℃の雰囲気に曝して、その時の乳化液の状態(相分離の有無)を目視により確認した。この結果を表1に示す。
表1において、○は乳化液の全部が相分離したことを、△は乳化液の一部が相分離したことを、×は乳化液が全く相分離しなかったことを表している。
【0058】
「比較例1」
トリアシルグリセロールとしてニッコールトリファットC−24(商品名、融点20〜26℃、日光ケミカル社製)120g、トリアシルグリセロールとしてココナードRK(商品名、融点−5℃、花王社製)30gを混合し、これらの混合液を調製した。
次いで、この混合液に、粉レシチン(商品名;SLP−ホワイト、辻製油社製)2g、ペーストレシチン(商品名;SLP−ペーストリゾ、辻製油社製)15gを溶解して、油分混合液を調整する。
次いで、攪拌しながら、水40gに、油分混合液167gを少しずつ加え、油分混合液を全量加えた後、乳化機により7000rpmで30分間、室温にて、水と油分混合液の混合物を攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
この乳化液を透明フィルム製の容器に入れて密封して、温度管理媒体Bを作製した。
そして、この温度管理媒体Bについて、実施例1と同様にして、乳化液の相分離の有無を目視により確認した。この結果を表1に示す。
【0059】
「比較例2」
官能基を有する炭化水素としてステアリン酸ブチル(融点20℃、炭素数20、関東化学社製)120g、官能基を有する炭化水素としてミリスチン酸ブチル(融点5℃、炭素数18、和光純薬工業社製)30gを混合し、これらの混合液を調製した。
次いで、この混合液に、粉レシチン(商品名;SLP−ホワイト、辻製油社製)2g、ペーストレシチン(商品名;SLP−ペーストリゾ、辻製油社製)15gを溶解して、油分混合液を調整する。
次いで、攪拌しながら、水40gに、油分混合液167gを少しずつ加え、油分混合液を全量加えた後、乳化機により7000rpmで30分間、室温にて、水と油分混合液の混合物を攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
この乳化液を透明フィルム製の容器に入れて密封して、温度管理媒体Cを作製した。
そして、この温度管理媒体Cについて、実施例1と同様にして、乳化液の相分離の有無を目視により確認した。この結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
「実施例2」
実施例1で作製した温度管理媒体Aを、−30℃、−20℃、−10℃、1℃、3℃、5℃、6℃、10℃にて12時間以上放置(冷却)した後、室温(23℃)の雰囲気に曝した。その時の乳化液の状態(乳化液の凝固の状態)を目視により確認した。この結果を表2に示す。
表2において、○は乳化液の全部が凝固したことを、△は乳化液の一部が凝固したことを、×は乳化液が全く凝固しなかったことを表している。
【0062】
「比較例3」
トリアシルグリセロールとしてニッコールトリファットC−24(商品名、融点20〜26℃、日光ケミカル社製)108g、トリアシルグリセロールとしてココナードRK(商品名、融点−5℃、花王社製)27gを混合し、これらの混合液を調製した。
次いで、この混合液に、粉レシチン(商品名;SLP−ホワイト、辻製油社製)1.8g、ペーストレシチン(商品名;SLP−ペーストリゾ、辻製油社製)13.5gを溶解して、油分混合液を調整する。
次いで、攪拌しながら、水45gに、油分混合液150.3gを少しずつ加え、油分混合液を全量加えた後、乳化機により7000rpmで30分間、室温にて、水と油分混合液の混合物を攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
この乳化液を透明フィルム製の容器に入れて密封して、温度管理媒体Dを作製した。
そして、この温度管理媒体Dについて、実施例2と同様にして、乳化液の起動(凝固)の有無を目視により確認した。この結果を表2に示す。
【0063】
「比較例4」
比較例2で作製した温度管理媒体Cについて、実施例2と同様にして、乳化液の起動(凝固)の有無を目視により確認した。この結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
「実施例3」
トリアシルグリセロールとしてニッコールトリファットC−24(商品名、融点20〜26℃、日光ケミカル社製)60g、トリアシルグリセロールとしてココナードRK(商品名、融点−5℃、花王社製)45g、官能基を有する炭化水素としてステアリン酸ブチル(融点20℃、炭素数20、関東化学社製)95gを混合し、これらの混合液を調製した。
次いで、この混合液に、粉レシチン(商品名;SLP−ホワイト、辻製油社製)2g、ペーストレシチン(商品名;SLP−ペーストリゾ、辻製油社製)15gを溶解して、油分混合液を調整する。
次いで、攪拌しながら、水40gに、油分混合液217gを少しずつ加え、油分混合液を全量加えた後、乳化機により7000rpmで30分間、室温にて、水と油分混合液の混合物を攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
この乳化液を透明フィルム製の容器に入れて密封して、温度管理媒体Eを作製した。
そして、この温度管理媒体Eを、1℃にて14時間以上放置して、乳化液を凝固させた後、10℃、12℃、15℃、22℃の雰囲気に曝して、その時の乳化液の状態(相分離の有無)を目視により確認した。この結果を表3に示す。
表3において、○は乳化液の全部が相分離したことを、△は乳化液の一部が相分離したことを、×は乳化液が全く相分離しなかったことを表している。
【0066】
「実施例4」
トリアシルグリセロールとしてニッコールトリファットC−24(商品名、融点20〜26℃、日光ケミカル社製)70g、トリアシルグリセロールとしてココナードRK(商品名、融点−5℃、花王社製)35g、官能基を有する炭化水素としてステアリン酸ブチル(融点20℃、炭素数20、関東化学社製)95gを混合し、これらの混合液を調製した。
次いで、この混合液に、粉レシチン(商品名;SLP−ホワイト、辻製油社製)2g、ペーストレシチン(商品名;SLP−ペーストリゾ、辻製油社)15gを溶解して、油分混合液を調整する。
次いで、攪拌しながら、水40gに、油分混合液217gを少しずつ加え、油分混合液を全量加えた後、乳化機により7000rpmで30分間、室温にて、水と油分混合液の混合物を攪拌することにより乳化させて乳化液を得た。
この乳化液を透明フィルム製の容器に入れて密封して、温度管理媒体Fを作製した。
そして、この温度管理媒体Fについて、実施例3と同様にして、乳化液の相分離の有無を目視により確認した。この結果を表3に示す。
【0067】
「比較例5」
比較例1で作製した温度管理媒体Bについて、実施例3と同様にして、乳化液の相分離の有無を目視により確認した。この結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表1の結果から、比較例2のように油分が炭化水素のみで構成される場合、5〜30℃にて乳化液が分離しないことが分かった。
比較例1のように油分がトリアシルグリセロールのみで構成される場合、20〜30℃にて乳化液が分離するものの、乳化液の分離温度範囲が狭いことが分かった。
実施例1のように油分がトリアシルグリセロールと炭化水素から構成される場合、10〜30℃にて乳化液が分離し、油分がトリアシルグリセロールのみ、あるいは、炭化水素のみで構成される場合よりも、乳化液の分離温度範囲が広くなることが分かった。
【0070】
表2の結果から、比較例4のように油分が炭化水素のみで構成される場合、乳化液が凝固しないことが分かった。
比較例3のように油分がトリアシルグリセロールのみで構成される場合、−10〜5℃にて乳化液が凝固するものの、−20℃以下では乳化液が凝固しないことが分かった。
実施例2のように油分がトリアシルグリセロールと炭化水素から構成される場合、−30〜5℃にて乳化液が凝固し、油分がトリアシルグリセロールのみ、あるいは、炭化水素のみで構成される場合よりも、乳化液の凝固温度(起動温度)が低くなることが分かった。
【0071】
表3の結果から、比較例5のように油分がトリアシルグリセロールのみで構成される場合、22℃にて乳化液が分離するものの、乳化液の分離温度範囲が狭いことが分かった。
実施例3、4のように油分がトリアシルグリセロールと炭化水素から構成される場合、10〜22℃にて乳化液が分離し、しかも、油分の組成比を調整することにより、乳化液の分離温度範囲が広くなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の温度管理媒体は、荷物の表面に貼付する従来の利用形態の他に、食品や薬品と同梱して用いる新たな形態にも利用できることから、食品や薬品の温度管理の状況を把握することにも利用できる。
【符号の説明】
【0073】
10・・・温度管理媒体、11・・・乳化液、12・・・密閉容器、13・・・水相、14・・・油相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温にて液状で、かつ、所定温度まで冷却すると凝固する乳化液を備え、該凝固した乳化液は昇温により融解し、相分離する温度管理媒体であって、
前記乳化液は、水、油分およびリン脂質を含む脂質混合物を含有し、
前記油分は、トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロールと、炭素数が4以上かつ40以下の炭化水素および/または官能基を有する炭素数が1以上かつ60以下の炭化水素と、を主成分とし、
前記リン脂質はレシチンとリゾレシチンからなり、前記レシチンと前記リゾレシチンの配合割合は質量比で70:30〜30:70であることを特徴とする温度管理媒体。
【請求項2】
前記脂質混合物の配合量は、前記油分100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の温度管理媒体。
【請求項3】
前記乳化液は、単糖類または二糖類をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の温度管理媒体。
【請求項4】
前記乳化液は、重量平均分子量が100,000以下の水溶性高分子をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の温度管理媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−189614(P2012−189614A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−147294(P2012−147294)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【分割の表示】特願2007−29285(P2007−29285)の分割
【原出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】