説明

温度管理用示温材およびその製造方法

【課題】6価クロムのような有害金属を含まず人体や環境に対して安全で、耐久性や安定性や携帯性に優れ、安価に製造できる簡易な組成であり、高価な温度測定器や電源を必要とせずに効率よく鉄骨溶接の際のパス間温度管理を行うことができ、火傷の恐れがない温度管理用示温材を提供する。
【解決手段】温度管理用示温材1は、鉄骨造の溶接時に管理すべきその鉄骨の加熱温度で熱溶融する融点を有しているイソフタル酸及びメラミンから選ばれる少なくとも一種類を含む熱溶融性物質と、ワニスとが、含有されており、柱状又は板状に成型され、それが嵌まる窪み6を有しつつ向き合っているアーム7a、7bの先端で挟まれつつ、該アームの先端の周囲を締付具2で締め付けているホルダー4によって脱落不能に把持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨造の溶接時の加熱温度を目視で確認するために用いられる温度管理用示温材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物に用いる鉄骨造は、鉄骨鋼材同士を何層もの溶接金属層で繰返して溶接するという多層溶接により、形作られる。1995年1月に起こった阪神・淡路大震災で、鉄骨造の溶接継手での予想を超える多くの破断を生じたために、甚大な建造物崩壊被害を被ったことが、明らかとなってきた。その破断は、過剰な溶接熱を経たこと、例えば溶接を行う際に発生させる熱量が過剰になったことや、繰返して溶接する際の直前の溶接部近傍の温度、即ちパス間温度が高過ぎたことが一因となって、起こったものであった。
【0003】
そこで、十分な強度の鉄骨造となるように、工場での鉄骨製造時の初期段階から、建造現場での鉄骨溶接施行時の最終段階に至るまで、一貫して徹底した温度管理を行うことが、必要となってきた。特に、繰返し溶接する際に、そのパス間で適切な冷却時間を設けてパス間温度を管理することが重要である。
【0004】
このような温度管理のための温度測定装置として、熱電対を用いた接触式温度計や、熱画像用携帯カメラを用いた非接触型温度計が知られている。これらの温度計は、高価であるうえ、重い携帯バッテリを必要とし、高所や足場の悪い作業現場で作業者が取り扱い辛いものである。
【0005】
そのような測定装置を用いずに温度管理するのに、検知すべき温度で溶融する示温材が知られている。例えばサーモクレヨン−M(日油技研工業株式会社製:サーモクレヨンは登録商標:商品番号M−345)は、350℃付近の温度を検知するもので、チョーク型であって、溶接作業者毎に携帯し、検知すべき箇所に線描して目視で確認するという作業性に優れている。このような示温材の中でも6価クロムのような有害金属を成分として含むものは、溶接作業者の安全性、環境保全の観点から、また潮解性があるため耐湿性に劣るという点から、敬遠されている。
【0006】
有害金属を含まない示温材として、特許文献1に、示温顔料とパラフィンワックスとを含む固形状の温度表示材が開示されている。このような温度表示材は、パラフィンワックスが検知すべき高温に曝されると多量の煙を発し変色が目視し難くなるうえ、製造効率が悪くしかもパラフィンが付着した製造用品の洗浄に手間がかかるので製造コストが高くなってしまう。
【0007】
【特許文献1】特開2003−4550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、6価クロムのような有害金属を含まず人体や環境に対して安全で、耐久性や安定性や携帯性に優れ、安価に製造できる簡易な組成であり、高価な温度測定器や電源を必要とせずに効率よく鉄骨溶接の際のパス間温度管理を行うことができ、火傷の恐れがない温度管理用示温材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の温度管理用示温材は、鉄骨造の溶接時に管理すべきその鉄骨の加熱温度で熱溶融する融点を有しているイソフタル酸及びメラミンから選ばれる少なくとも一種類を含む熱溶融性物質と、ワニスとが、含有されており、柱状又は板状に成型されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の温度管理用示温材は、請求項1に記載されたもので、有害重金属を非含有であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の温度管理用示温材は、請求項1に記載されたもので、それが嵌まる窪みを有しつつ向き合っているアームの先端で挟まれつつ、該アームの先端の周囲を締付具で締め付けているホルダーによって、脱落不能に把持されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の温度管理方法は、鉄骨造の溶接時に加熱温度を管理すべき鉄骨の溶接部位へ、請求項1に記載の温度管理用示温材を、塗布し、擦り付け、線描きし、又は押し付けて、それの熱溶融の有無を確認することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の温度管理用示温材の製造方法は、鉄骨造の溶接時に加熱温度を管理すべきその鉄骨の温度で熱溶融する融点を有しているイソフタル酸及びメラミンから選ばれる少なくとも一種類を含む熱溶融性物質と、ワニスとを混練し、その組成物を型に入れて、柱状又は板状に圧搾成型することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の温度管理用示温材は、クロムや水銀や鉛等の重金属のような有害金属を含まないから人体に対して安全で環境を汚染しない。この温度管理用示温材は、電源を必要としない簡易な構成であり、安価に大量に製造できる。そのため多数の溶接作業者に一斉に持たせることができるから、何時でも何処でも簡便に均一な精度で正確に温度測定をすることができる。しかも潮解性が低いから、保存安定性や耐久性に優れ、長期間使用しても品質が劣化しない。
【0015】
温度管理用示温材が、ホルダーで把持されているとあたかもペンのような筆記用具の如く胸ポケットに挿し入れることができ、温度管理時に直ぐに取り出して、火傷をすることなく安全に温度を測定することができる。
【0016】
この温度管理用示温材を用いた温度管理方法によれば、温度測定すべき鉄骨のような被検物に示温材を押し当て、示温材が熱溶融するか否かを目視で確認することにより、簡便に、パス間温度等の温度管理を行うことができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の温度管理用示温材の好ましい一形態は、熱溶融性物質として、融点が350℃であるイソフタル酸と、ワニスとが、径10mmで長さ80mmの六角柱状に成型されたものである。
【0019】
なお、温度管理用示温材を成型する組成物に、添加剤が加えられていてもよい。この組成物は、熱溶融性物質の50〜99重量%と、ワニス及び添加剤の1〜50重量%とを、含有していることが好ましい。
【0020】
温度管理用示温材は、円柱状、三角柱状、四角柱状、五角柱状、八角柱状、又は板状に圧搾成型されていてもよい。圧搾成型されたまま用いられてもよく、それをホルダーで支持しながら用いられてもよい。
【0021】
温度管理用示温材は、熱溶融性物質としてイソフタル酸を用いた例を示したが、イソフタル酸に代えて、又はイソフタル酸とともに、メラミンを用いたものであってもよい。
【0022】
イソフタル酸は、用時、合成してもよく、試薬や工場用原料として市販されているものを用いてもよい。メラミンは、モノマータイプのものが良く、用時、合成してもよく、試薬や工場用原料として市販されているものを用いてもよい。
【0023】
これらの熱溶融性物質は、その純度によって、温度管理のための温度測定の精度を変動させてしまうため、80〜100%の高純度であることが好ましい。
【0024】
ワニスは、バインダーとして用いられるもので、例えば樹脂の1〜50重量部と溶剤の50〜99重量部とを含んでいることが好ましい。
【0025】
ワニスを構成する樹脂として、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマリン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチル メタクリレート(MMA)−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチルセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピルセルロース樹脂、酢酸・酪酸セルロース樹脂、硝酸セルロース樹脂、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン610樹脂、ナイロン11樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンテレフタレート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エチルセルロース、天然ゴムや合成ゴム、石油樹脂、油脂が挙げられる。またこれらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0026】
ワニスを構成する溶剤として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、インキオイル、ソルベントナフサ、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、第二ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール、トリデシルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、ジペンテン、ヘプタン、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジエチルケトン、エチルアミルケトン、メチルシクロヘキサン、イソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが挙げられる。またこれらは、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0027】
ワニスは、市販の印刷用ワニスであってもよい。このような市販のワニスとして、アクリディック(大日本インキ化学工業株式会社の商品名)、スーパーベッカミン(大日本インキ化学工業株式会社の商品名)、ヒタロイド(日立化成工業株式会社の商品名)、バーノック(大日本インキ化学工業株式会社の商品名)、デスモフェン(住化バイエルウレタン株式会社の商品名)、スミフェン(住化バイエルウレタン株式会社の商品名)、ルミフロン(旭硝子株式会社の商品名)、ゼッフル(ダイキン工業株式会社の商品名)F−Glossメジウム(大日本インキ化学工業株式会社の商品名)、Hy Unity Soyメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、Nouvel Maxiメジウム(大日精化工業株式会社の商品名)、Nouvel Senior Soyメジウム(大日精化工業株式会社の商品名)、Qセット200メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、No.900メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、ハイセットマットメジウム(ミノグループの商品名)、JRPメジウム(セイコーアドバンスの商品名)、PAS No.800メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、FBHDメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、スチレンBメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、NEW LPスーパーRメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)などが挙げられる。
【0028】
添加物は、固形物の成形調整や強度の向上、識別色やデザイン性の向上等のために用いられる。添加物として、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、アルミナホワイト(Al23・xH2O)、クレー、沈降性硫酸バリウム、グロスホワイト、ファストイエローG、ファストイエロー10G、ジスアゾイエローAAA、ジスアゾイエローAAMX、ジスアゾイエローAAOT、黄色酸化鉄、ジスアゾイエローHR、ジニトロアニリンオレンジ、ジスアゾオレンジPMP、ジスニシジンオレンジ、トルイジンレッド、塩素化パラレッド、ビリリアントファストスカーレット、ピラゾロンレッドB、バリウムレッド2B、カルシウムレッド2B、バリウムリソールレッド、レーキレッドC、ブリリアンカーミン6B、ピグメントスカーレット3Bレーキ、ローダミン6G PTMA トーナー、べんがら、ナフトールレッドFGR、キナクリドンマゼンダ、ローダミンB PTMA トーナー、メチルバイオレット PTMA トーナー、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレット、ビクトリアピュアブルー PTMA トーナー、フタロシアニンブルー、アルカリブルートーナー、紺青、群青、ブリリアントグリーン PTMA トーナー、ダイヤモンドグリーン PTMA トーナー、フタロシアニングリーン、カーボンブラック、蛍光顔料などが挙げられる。これらの添加物は、1種類だけで用いてもよく、複数種混合して用いてもよい。
【0029】
ホルダーは、300〜500℃の高温となっている鉄骨等の被検物の温度の測定の際の火傷を防止し、溶接作業者等が携帯でき必要なときに直ぐに取出せる形状であることが好ましい。ホルダーは、金属製、セラミック製、陶磁器製、鉱物製、セメント製、硝子製などであることが好ましい。例えば、図1に示すように、六角柱状の温度管理用示温材1が嵌まる窪み6を有しつつ向き合っている示温材挟み3の二つのアーム7a・7bの先端で挟まれつつ、両アーム7a・7bの先端の周囲を締付具2で締め付けているホルダー4によって、脱落不能に把持されていてもよい。締付具2は、ピン状のクリップ5を有していてもよい。このホルダー4により、熱い鉄骨のパス間温度を測定する際に、火傷を負う危険がなくなり、しかもポケット等に挿し込んで携帯し易くなる。
【0030】
温度管理用示温材は以下のようにして製造される。先ず熱溶融性物質であるイソフタル酸とワニスとを混練し、得られた組成物を、例えば円柱状、又は図2に示すような四角柱状に凹んだ雌型金型11に入れ、その凹み13に嵌合する雄型金型12を嵌め込んで、圧搾成型すると、四角柱状の温度管理用示温材1が得られる。一度に圧搾成型できる本数を、複数例えば2〜6本となるように、凹み13が複数並べられていてもよい。
【0031】
この温度管理用示温材は、マグ溶接ワイヤの規格「JIS Z3312−1999」に準じて、以下のようにして使用される。
【0032】
専用ホルダーに固定した温度管理用示温材を、既に高温になっている被検物の検査部位、例えば繰り返し溶接している部位や、そこから所定の距離例えば10cm離れた部位に、押し付けて、擦りつける。そこで、温度管理用示温材がそれの加熱温度によって熱溶融すれば、所定の温度を超えており、一方、熱溶融しなければ、所定の温度未満であるということが、目視で判別できる。所定温度は、熱溶融性物質がイソフタル酸のみである場合、約350℃であり、熱溶融性物質がメラミンのみである場合、約347℃である。このような熱溶融の有無により、鉄骨造の溶接時のパス間温度、例えば300〜400℃の温度を、目視で簡便に測定することができる。ホルダーの使用の有無にかかわらず、測定できる温度に相違はない。
【0033】
また、検知すべき温度に達していない被検物が、その後、所定の温度に達したかについて温度管理する際には、断裁したり削ったりした温度管理用示温材を、被検物に載置したり擦り付けたり貼付したりしてもよい。この温度管理用示温材が熱溶融したときに、所定の温度以上に達したと、確認できる。
【実施例】
【0034】
以下に、温度管理用示温材とその製造方法の実施例を示す。
【0035】
(実施例1)
スーパーベッカミンL−105−60(大日本インキ化学工業株式会社製:商品名)の10重量%、アクリディックA−407(大日本インキ化学工業株式会社製:商品名)の30重量%、溶剤としてキシレン30重量%、トルエン30重量%を均一に混ぜた混合溶液を調製し、ワニスとした。イソフタル酸(和光純薬工業株式会社製 和光一級)500gに、染料(フタロシアニンブルー)2gおよびワニス100gを入れ品川式ライカイ機で1時間混和し、組成物(a)を調製した。その組成物(a)を口の広いプラスティック製バットに移し替え、2〜3日間自然乾燥させた。乾燥した組成物(a)を品川式ライカイ機で0.1〜0.5mm程度の粒子に粉砕した。この粉砕した組成物(a)を8g計量し、圧搾用金型に入れ、圧力10MPaで円柱状に圧搾した。それを120℃にて1時間恒温で加熱した後、放置することにより常温まで自然冷却すると、温度管理用示温材(A)が得られた。
【0036】
温度管理用示温材(A)を、既に加熱されている被検物に押し当て温度測定を行った。被検物について、熱勾配加熱装置(三陽理化学器械製作所製:温度勾配盤 型式SYD)を用い、温度測定として接触温度計測器(安立計器株式会社製:HFT−50 DIGITAL SURFACE THERMOMETER)を用いて温度を数値として確認した。同時に温度管理用示温材(A)を用いて温度測定を行ったところ、330℃付近では溶融せず350℃付近で溶融し、温度管理をする事ができた。
【0037】
(実施例2)
メラミン500g(和光純薬工業株式会社製 和光特級)に、染料(セイカファストイエロー:大日精化工業株式会社製)5g、および実施例1で用いたのと同様なワニス100gを入れ品川式ライカイ機で1時間程度混和し、組成物(b)を調製した。その組成物(b)を口の広いプラスティック製バットに移し替え、2〜3日間自然乾燥させた。乾燥した組成物(b)を品川式ライカイ機で0.1〜0.5mm程度の粒子に粉砕した。この粉砕した組成物(b)を10g計量し、圧搾用金型に入れ、圧力10MPaで圧搾した。それを120℃にて1時間恒温で加熱した後、放置することにより常温まで自然冷却すると、温度管理用示温材(B)が得られた。
【0038】
温度管理用示温材(B)を、既に加熱されている被検物に押し当て温度測定を行った。実施例1と同様にして、被検物について、熱勾配加熱装置を用い、温度測定として接触式温度計を比較として用いた。同時に温度管理用示温材(B)を用いて温度測定を行ったところ、330℃付近では溶融せず348℃付近で溶融し、温度管理をする事ができた。
【0039】
(比較試験)
実施例1および2で得た温度管理用示温材(A)および(B)が、湿度に対する耐久性が高いことを確認する試験として、市販の従来型示温材(サーモクレヨン−M、M−345)との比較試験を行った。
【0040】
高温高湿装置LH43−12P(ナガノサイエンス株式会社製:商品名)を用い40℃−80%RHの条件下で保持した場合の、温度管理用示温材(A)、(B)、および従来型示温材の吸湿度合に対する比較結果を、表1に示す。表1から明らかなように、実施例の温度管理用示温材(A)および(B)は、24時間保持後も外観上に変化がないのに比べ、従来型示温材は、同条件で6時間後に大量に吸湿していた。日本の梅雨期間に市販従来型示温材を自然放置すると3日間程度で吸湿し水分を含み、固形物が脆くなることが、経験的に分かっているから、40℃−80%RHの条件は、湿度における耐久性の加速試験として妥当であると考えられる。この試験条件において、温度管理用示温材(A)、(B)は、従来型示温材よりも湿度に対し、耐久性が高いことが確かめられた。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の温度管理用示温材は、溶接施工における溶接入熱及びパス間温度の温度管理を行うのに有用である。この温度管理用示温材は、溶接施工中に全溶接技術者ごとに携帯して、何時でも何処でも温度測定できるから、工場での鉄骨製造時から、建造現場での鉄骨溶接施行時の最終段階まで、一貫して厳密に温度管理をするのに、用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明を適用する温度管理用示温材の使用途中の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用する温度管理用示温材の製造方法の実施途中の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1は温度管理用示温材、2は締付具、3は示温材挟み、4はホルダー、5はクリップ、6は窪み、7a・7bはアーム、11は雌型金型、12は雄型金型、13は凹みである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨造の溶接時に管理すべきその鉄骨の加熱温度で熱溶融する融点を有しているイソフタル酸及びメラミンから選ばれる少なくとも一種類を含む熱溶融性物質と、ワニスとが、含有されており、柱状又は板状に成型されていることを特徴とする温度管理用示温材。
【請求項2】
有害重金属を非含有であることを特徴とする請求項1に記載の温度管理用示温材。
【請求項3】
前記温度管理用示温材は、それが嵌まる窪みを有しつつ向き合っているアームの先端で挟まれつつ、該アームの先端の周囲を締付具で締め付けているホルダーによって、脱落不能に把持されていることを特徴とする請求項1に記載の温度管理用示温材。
【請求項4】
鉄骨造の溶接時に加熱温度を管理すべき鉄骨の溶接部位へ、請求項1に記載の温度管理用示温材を、塗布し、擦り付け、線描きし、又は押し付けて、それの熱溶融の有無を確認することを特徴とする温度管理方法。
【請求項5】
鉄骨造の溶接時に加熱温度を管理すべきその鉄骨の温度で熱溶融する融点を有しているイソフタル酸及びメラミンから選ばれる少なくとも一種類を含む熱溶融性物質と、ワニスとを混練し、その組成物を型に入れて、柱状又は板状に圧搾成型することを特徴とする温度管理用示温材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−215941(P2008−215941A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51633(P2007−51633)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】