説明

温度計測器の耐熱保護ボックス及びこれを用いた温度計測装置、並びに温度計測方法

【課題】600℃を超える高温下で長時間さらされても内部温度を100℃程度の低温に維持でき、収納した温度計測器を確実に保護できるとともに、高さの限られたガラス基板等のトンネル炉においても、問題なく使用することができる薄型コンパクトで軽量な耐熱保護ボックス、及びこれを用いた温度計測装置、並びに温度計測方法を提供せんとする。
【解決手段】石膏材を用いて成形され、内部に温度計測器5を収納するための収納部20を備える内側容器2と、断熱材を用いて成形され、内部に前記内側容器2が嵌め込まれる外側容器3と、前記温度計測器5に接続される熱電対6又は測温抵抗体の引き出し部4とより耐熱保護ボックス1を構成した。そして耐熱保護ボックス1から延出される温度計測器の単又は複数の熱電対6又は測温抵抗体を被温度測定体の所定箇所に接続し、該耐熱保護ボックス1を被温度測定体とともに加熱炉内を搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FPD(フラットパネルディスプレイ)製造におけるガラス基板の熱処理や、半導体製造過程における各種熱処理の際に用いられる温度計測技術に係り、より詳しくは、これらガラス基板等の被温度測定体の温度を炉内で計測する温度計測器のための耐熱保護ボックス、温度計測装置及び温度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の被温度測定体の温度計測構造としては、従来、例えばシリコンウエハ等の被温度測定体の加熱温度分布を予め調査するために、調査用のシリコンウエハ表面の複数箇所に有底の取付穴を設け、この取付穴内に熱電対素線先端や測温抵抗体素子の感温部を位置させた状態で、セラミックセメント等の接着部材で固定し、素線間の絶縁のためセラミック製の絶縁材を熱電対素線に外被させた温度計測構造が提案ないし採用されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【0003】
ところで、例えばFPD製造過程におけるガラス基板の熱処理では、所定の条件に温度設定されたトンネル炉内をベルト等の搬送手段でガラス基板を搬送しながら加熱処理が行われるが、このようなトンネル炉内での調査用のガラス基板の温度測定をする場合のように、搬送しながら被温度測定体の加熱温度分布を調査するためには、上記のごとく被温度測定体表面の複数箇所に熱電対や測温抵抗体を接続した配線をトンネル炉出入り口から外部に引き出し、炉外に別途設置された温度計測器に接続する方法がある。
【0004】
このような方法によれば、炉外の温度計測器に接続して遠隔的に温度計測することが可能であるが、熱電対や測温抵抗体が被温度測定体と一緒にトンネル炉内を搬送される際、配線の引きずり等が生じることとなり、配線の束の重さも加わって、搬送に伴い被温度測定体の取付穴から熱電対の素線先端や測温抵抗体素子の感温部が浮き上がり測定誤差を生じさせたり、完全に剥がれてしまう虞があった。このような浮き上がりや剥がれに対する解決策として、支持部材により熱電対等の複数本を纏めて同じ被温度測定体の上に固定する方法が提案されているが(例えば、特許文献5参照。)、熱電対等の本数が増えると支持部材だけでは耐え切れない場合もあり、ガラス基板が割れてしまうといった虞もあった。また、このように配線を引き出す方法では熱電対から温度計測器までの配線部分が長くなり、測定誤差の原因となる。
【0005】
そこで、高温に耐えられない温度計測器を耐熱保護ボックス内に収納して、被温度測定体と一緒に炉内を搬送する方法、より具体的には、真空容器内に送信機や一次電池等の電池電源から成る温度計測器を挿入し、これを囲繞する様に蓄熱材を配設して真空容器内の温度上昇を防止するように構成した耐熱保護ボックスを設け、これを被温度測定体とともに炉内を搬送させる方法が提案されている(例えば、特許文献6)。この方法によれば、配線の引き出し/引きずりがなくなり、上記問題が解決される。
【0006】
しかしながら、近年のFPDガラス基板の熱処理トンネル炉などでは、約600℃程度の高温に耐える耐熱保護ボックスが必要であるが、上記の耐熱保護ボックスでは、350℃程度が限界であり、FPD製造において使用できるものではない。また、とくにFPDのトンネル炉では内部温度を精密制御するべく炉の出入り口は極力狭く設定されており、上記のような真空容器や蓄熱材を有する構成では高さも高くなり大掛かりとなるため利用できないといった問題もある。また、ガラス基板とともに搬送するためにはできるだけ耐熱保護ボックスを小型かつ軽量に構成する必要がある。水タンクをボックス内に入れる方法もあるが液体は扱いにくい。
【0007】
【特許文献1】実開平6−69785号公報
【特許文献2】特開平10−9963号公報
【特許文献3】特開2000−58406号公報
【特許文献4】特開2001−289715号公報
【特許文献5】特開2000−81353号公報
【特許文献6】特開2002−304689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、600℃を超える高温下で長時間さらされても内部温度を100℃程度の低温に維持でき、収納した温度計測器を確実に保護できるとともに、高さの限られたガラス基板等のトンネル炉においても、問題なく使用することができる薄型コンパクトで軽量であり、取り扱い容易な耐熱保護ボックス、及びこれを用いた温度計測装置、並びに温度計測方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、石膏材を用いて成形され、内部に温度計測器を収納するための収納部を備える内側容器と、断熱材を用いて成形され、内部に前記内側容器が嵌め込まれる外側容器と、前記温度計測器に接続される熱電対又は測温抵抗体の引き出し部とより構成した温度計測器の耐熱保護ボックスを提供する。
【0010】
ここで、前記断熱材が、ヒュームドシリカよりなるものが好ましい。
【0011】
また、前記引き出し部として、前記内側容器及び外側容器の各側壁に互いに連通する貫通溝を形成したものが好ましい。
【0012】
特に、前記外側容器の側壁に幅広の嵌合溝を設けるとともに、該嵌合溝にはめ込まれる分割ピースを設け、該分割ピースの下面に前記貫通溝を形成したものが好ましい。
【0013】
更に、前記内側容器を、前記収納部を備えた上端開放の容器本体と、該容器本体の上端開口部を閉塞する蓋体とより構成し、該容器本体の上端開口部の周りに該蓋体と係合する凹凸係合部を周設したものが好ましい。
【0014】
また、前記外側容器を、前記内側容器が嵌め込まれる嵌合空間を備えた上端開放の容器本体と、該容器本体の上端開口部を閉塞する蓋体とより構成し、該容器本体の上端開口部の周わりに該蓋体と係合する凹凸係合部を周設したものが好ましい。
【0015】
また本発明は、上記した本発明に係る耐熱保護ボックスに温度計測器を収納するとともに、被温度測定体の所定箇所に接続される単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を、前記引き出し部を通じて前記温度計測器に接続してなる温度計測装置をも提供する。
【0016】
ここで、耐熱シートよりなる耐熱カバーを上下分割して構成するとともに、一方又は双方の分割カバーに熱電対又は測温抵抗体を引き出すための切欠部を形成し、前記温度計測器を収納する耐熱保護ボックスを前記耐熱カバー内に収納したものが好ましい。
【0017】
また本発明は、上記した本発明に係る温度計測装置により、加熱炉内を搬送中の被温度測定体の温度を計測する温度計測方法であって、前記耐熱保護ボックスから前記引き出し部を通じて延出される前記温度計測器の単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を、前記被温度測定体の所定箇所に接続し、該耐熱保護ボックスを前記被温度測定体とともに加熱炉内を搬送してなる温度計測方法をも提供する。
【0018】
ここで、前記被温度計測体の温度測定領域を二以上の複数領域に分け、一の領域の所定箇所に単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を接続し、且つその他の領域に前記耐熱保護ボックスを載置した状態で、当該被温度計測体を加熱炉内を搬送することにより一の領域の温度計測を行い、他の領域についても、順次同様にして温度計測を行い、すべての領域の温度計測を行うようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上にしてなる本願発明に係る温度計測器の耐熱保護ボックスによれば、外側容器である程度の高温下でも内側容器の温度上昇を抑えることができるとともに、内側容器が温度上昇しても、当該内側容器は石膏材よりなるため、内部に含む結晶水の熱分解エネルギーによって温度上昇を抑え、容器内部は結晶水の蒸発温度である100℃程度に長時間維持され、内部に収納された温度計測器を確実に保護することができる。そして、このように蓄熱材や水タンク等を別途設けることなく容器自体が昇温抑制(プラトー)機能を有することから、収納部などのサイズを必要最小限に抑え、薄型・軽量・コンパクトで取り扱い容易な耐熱保護ボックスを提供できる。
【0020】
また、外側容器の断熱材が、ヒュームドシリカよりなるものでは、外側容器自体を空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造を有する断熱構造に構成することができ、600℃以上の高温下においても内部への伝熱を効果的に遮断し、耐熱性が向上する。
【0021】
また、内側容器を、前記収納部を備えた上端開放の容器本体と、該容器本体の上端開口部を閉塞する蓋体とより構成し、該容器本体の上端開口部の周りに該蓋体と係合する凹凸係合部を周設したこと、及び、外側容器を、前記内側容器が嵌め込まれる嵌合空間を備えた上端開放の容器本体と、該容器本体の上端開口部を閉塞する蓋体とより構成し、該容器本体の上端開口部の周わりに該蓋体と係合する凹凸係合部を周設したことから、これら凹凸係合部によって容器本体と蓋体との隙間から内部への伝熱を確実に遮断できるとともに、高さを抑えた薄型ボディにすることができる。
【0022】
また、外側容器の外面に、飛散防止用の被覆層を形成したので、外側容器を構成する断熱材の炉内への飛散・汚染を防止し、製造品質への悪影響を回避できる。
【0023】
また、被温度計測体の温度測定領域を二以上の複数領域に分け、一の領域の所定箇所に単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を接続し、且つその他の領域に前記耐熱保護ボックスを載置した状態で、当該被温度計測体を加熱炉内を搬送することにより一の領域の温度計測を行い、他の領域についても、順次同様にして温度計測を行い、すべての領域の温度計測を行うことで、耐熱保護ボックスを別途搬送するための基台を必要とすることなく、被温度計測体に載せて効率よく温度測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る耐熱保護ボックス及び温度計測装置を示す分解斜視図であり、図1〜4は第1実施形態、図5、6は第2実施形態を示し、図中符号Sは温度計測装置、1は耐熱保護容器、2は内側容器、3は外側容器、4は引き出し部、5は温度計測器、6は熱電対をそれぞれ示している。
【0026】
本発明に係る温度計測器の耐熱保護ボックス1は、図1及び図2に示すように、石膏材を用いて成形され、内部に温度計測器5を収納するための収納部20を備える内側容器2と、断熱材を用いて成形され、内部に前記内側容器2が嵌め込まれる外側容器3と、前記温度計測器5に接続される熱電対6又は測温抵抗体の引き出し部4とより構成されている。内側容器2は石膏が含む水分の気化熱で、外側容器3を構成している断熱材によって抑えきれない熱による内部の収納部20の100℃以上の温度上昇を抑える。
【0027】
そして、本発明に係る温度計測装置Sは、上記の耐熱保護ボックス1に温度計測器5を収納するとともに、被温度測定体の所定箇所に接続される単又は複数の熱電対6又は測温抵抗体は、前記引き出し部4を通じて内部の前記温度計測器5に接続されており、本例では、予め温度計測器5に熱電対6を接続した計測体を、引き出し部4を通じて温度計測器5を収納部20内にセットできるように構成されているが、このような形態に何ら限定されるものではない。
【0028】
尚、以下の実施形態では、FPD製造のトンネル炉内での調査用のガラス基板の温度測定を例に説明するが、本発明における被温度測定体としては、このようなガラス基板に何ら限定されず、半導体製造装置での調査用のシリコンウエハや、その他のものも勿論可能であり、炉内を搬送しながら被温度測定体の加熱温度分布を調査するもの以外に、チャンバー内に載置された状態で加熱されるものや、製品と一緒に調査用の被温度測定体を炉内に入れる場合においても同様に利用できることは勿論である。また、本例では、耐熱保護ボックス内に収納する温度計測器5として、熱電対等で集めた温度測定データを記憶し、後でコンピュータに接続してデータ出力するようなデータロガー(例えば,グラム株式会社製耐熱温度ロガー LTシリーズ「LT−3L/LT−3H」など)を用いる場合を例に説明するが、その他の方式の温度計測器でもよく、例えば炉外に設けた受信器に対してデータを無線送信する送信器でもよく、この場合、耐熱保護ボックスにアンテナを延出させる延出溝を形成することも好ましい。
【0029】
先ず、図1〜4に基づき、本発明の第1実施形態について説明する。
【0030】
内側容器2は、石膏材で成形されたケースであり、収納部20を備えた上端開放の容器本体21と、該容器本体21の上端開口部21aを閉塞する蓋体22とより構成し、該容器本体21の上端開口部21aの周りに該蓋体22と係合する凹凸係合部2aが周設されている。凹凸係合部2aは、より詳しくは容器本体21の側壁23上端面に外側に段差状の凹溝24を形成するとともに、蓋体22の内面外周部に沿って、前記凹溝24に嵌合する凸条25を突設して構成されており、この凹凸係合部2aにより容器本体21と蓋体22との隙間から熱気が浸入することを効果的に防止している。この凹凸係合部2aは、本例のような凹溝24と凸条25で構成されるものに限定されず、種々の構造が採用できる。また、このような凹凸係合部2aは本例のように全周に形成することが好ましいが、一部にのみ構成してもよい。また、凹凸係合部2aを構成する凹溝24又は凸条25に面取りを行い、取付け時の欠損等を未然に防止する構造も好ましい。
【0031】
内側容器2の容器本体21及び蓋体22は、それぞれ石膏材を用いて成形されている。この石膏材には、繊維等の補強材やその他の成分を混合して成形することも好ましい。本発明の内側容器2は、このように石膏材で構成されているため、100℃以上に高温に晒された際に内部に20重量パーセント以上含まれている結晶水の熱分解エネルギーによって温度上昇が抑えられ、収納部20を結晶水の蒸発温度である100℃程度に維持でき、収納した温度計測器5を確実に保護できるように構成されている。
【0032】
外側容器3は、断熱材で構成される断熱ケースであり、直接加熱炉からの熱を受け、内側容器2への熱の移動を遮断する。具体的には、上記した内側容器2の構造と同様、内側容器2が嵌め込まれる嵌合空間30を備えた上端開放の容器本体31と、該容器本体31の上端開口部31aを閉塞する蓋体32とより構成されており、該容器本体31の上端開口部31aの周わりに該蓋体32と係合する凹凸係合部3aが周設されている。尚、外側容器3は本例のように容器本体31と蓋体32とより構成されるもの以外に、例えば側方に開口する筒状に構成し、内側容器を当該開口部より引き出すような構造としてもよい。この場合、例えば内側容器の前後面に、外側容器と同じ断熱材で構成されたパネルを貼りあわせておき、前後開口した筒状の外側容器に挿着する構造など種々の構造が採用できる。また嵌合空間30は、本例ではほぼ隙間なく内側容器2が嵌め込まれる空間寸法に設定されているが、多少の隙間が維持されるように設定してもよい。
【0033】
凹凸係合部3aは、より詳しくは容器本体31の側壁33上端面に外側に段差状の凹溝34を形成するとともに、蓋体32の内面外周部に沿って、前記凹溝34に嵌合する凸条35を突設して構成され、凹凸係合部3aにより容器本体31と蓋体32との隙間から熱気が浸入することを効果的に防止している。この凹凸係合部3aは、内側容器2の場合と同様、凹溝34と凸条35で構成されるものに限定されず、種々の構造が採用できる。また、このような凹凸係合部3aは本例のように全周に形成することが好ましいが一部にのみ構成してもよい。また、凹凸係合部3aを構成する凹溝34又は凸条35に面取りを行い、取付け時の欠損等を未然に防止する構造も好ましい。本例では凹溝34の掘り下げ角部に面取り部34bが形成され、凸条35との接触時に破損することを防止している。
【0034】
外側容器3の容器本体31及び蓋体32は、それぞれ断熱材を用いて成形されており、この断熱材としては、ヒュームドシリカよりなるものが好ましく、より詳しくは、ヒュームドシリカの微粒子、例えば5〜30nmほどの球状微粒子を圧縮成形することで、外側容器3自体を空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造を有する断熱構造に構成することができ、600℃以上の高温下においても内部への伝熱を遮断できるとともに、このようなヒュームドシリカのマイクロポア構造とすれば、石膏材から成形された内側容器2から放出される蒸気を吸収するとともに外部に放出することができ、内側容器2内部の圧力を蒸気圧1気圧に維持して温度上昇を確実に防止することが可能となるのである。
【0035】
具体的には、100℃以上における物質の伝熱は放射伝熱が支配的であることから、ヒュームドシリカ以外に赤外線を透過させない物質として高純度ジルコニア等の赤外線吸収材を混合して成形したものが好ましく、例えばPorextherm Daammstoffe GmbH社製「Porextherm WDS(登録商標)」を用いて成形することができる。勿論、このようなヒュームドシリカよりなる断熱材として、その他のものを用いたり、断熱材としてヒュームドシリカ以外のもの、例えばケイ酸カルシウムやセラミックファイバーなどの公知の断熱材で成形したものでもよい。尚、外側容器3を構成する容器本体31及び蓋体32の外面全体に、飛散防止用の被覆層として、セラミック和紙の被覆膜を形成することや、その外側を熱処理されたステンレスケースで保護することも好ましい例である(何れも図示せず)。本例では、後述の通り、シリカカバー内に収めることで飛散防止を図っている。
【0036】
内側容器2及び外側容器3の各側壁23、33には、熱電対6の引き出し部4として、互いに連通する貫通溝41、42が形成されており、外側容器3においては、貫通溝42に連通する貫通溝43が蓋体32にも形成されている。より具体的には、内側容器2の側壁23の上端面に開放して内外方向に貫通する貫通溝41が穿設され、外側容器3の側壁33にも、同じく上端面に開放して内外方向に貫通する貫通溝42が穿設され、本例では貫通溝42の深さの関係から凹溝34の上部に開放されるため、さらに蓋体32の凸条35にも、その下端面に開放して内外方向に貫通する貫通溝43が穿設されている。本例では、引き出し部4を一本のみ形成しているが、複数本形成することも好ましい。図1の例では、3つの温度計測器5が収納され、3本の熱電対が接続されるが、熱電対6の途中部を1本にまとめて引き出し部4に挿着するように構成している。しかし、このように1本にまとめず、3本を縦方向に並べて引き出し部4内に挿着したり、或いは引き出し部4を3本形成し、それぞれ1本ずつ挿着するように構成することも勿論可能である。
【0037】
本例では、引き出し部4として、それぞれ上端面又は下端面に開放された貫通溝41〜43を穿設して構成したが、とくに貫通溝42、43はそれぞれ深い溝で構成され、熱電対6を挿通した状態で開放されている上端面側、下端面側にそれぞれ余剰空間が生じる。そこで、機密性をよりよくして断熱性を高めるべく、図3に示すように側壁33を切り欠いた切欠き部36の底部に浅い貫通溝42を形成するとともに、蓋体32内面の前記切欠き部36に対応する位置に該切欠き部36に嵌合する突起部37を設け、該突起部37の先端面に同じく浅い貫通溝43を形成し、該突起部37と切欠き部36とで貫通溝42、43に内装した熱電対6を余剰空間なく挟み込む構成とすることが好ましく、さらに、同じく凸条35を切り欠いた切欠き部38の底部に、前記突起部37から延びる浅い貫通溝43を延設するとともに、容器本体31の凹溝34上面の前記切欠き部38に対応する位置に該切欠き部38に嵌合する突起部39を設け、該突起部39の上端面に前記切欠き部36底面から延びる浅い貫通溝42を延設し、該突起部39と切欠き部38とで貫通溝42、43に内装した熱電対6を余剰空間なく挟み込む構成とすることが好ましい。尚、本例では突起部37と切欠き部36の組合せ、及び突起部39と切欠き部38の組合せにより、それぞれ熱電対6を挟み込む構造であるが、いずれか一方の組合せのみからなる構造とし、他方は図1に示した深い貫通溝を形成するようにしてもよい。また、他の例として、熱電対6を屈曲させる必要はあるが、図4に示すように容器本体31の凹溝34を備える側壁33の外面形状に沿って浅い開放溝60を形成して熱電対6を余剰空間なく装着し、蓋体32との間で挟み込むものも好ましい。
【0038】
また、本例では、引き出し部4として、それぞれ上端面又は下端面に開放された貫通溝41〜43を穿設して構成したが、開放しない孔として構成することも可能である。その他、側壁23、33に穿設するもの以外に、蓋体22、32に貫通孔を連設して設けたもの等でもよい。また、本例では引き出し部4を一方向にのみ設けているが、複数方向の側壁23、33にそれぞれ設け、熱電対6を複数方向に引き出すことができるように構成してもよい。さらに、内側容器2の貫通溝と外側容器3の貫通溝が互いに連通しない構造、例えば内側容器2の蓋体22から引き出し、且つ外側容器3の側壁33から引き出すような構造を採用することも可能である。
【0039】
本例では、内側容器2及び外側容器3をそれぞれ平面視で方形に構成したが、多角形、楕円形、円形、異形、その他の形状に構成してもよい。また、特に外側容器は、例えば半球形状や円錐台形状や角錐台形状などに構成することも好ましい。
【0040】
次に、図5、6に基づき、本発明の第2実施形態について説明する。
【0041】
本実施形態では、図5に示すように内側容器2が同じく凹凸係合部2aを有する容器本体21と蓋体22とより構成され、側壁23に引き出し部4として貫通溝41が形成されているが、蓋体22内面の前記貫通溝41に対応する位置に、該貫通溝41に嵌合する突起部26が突設されており、これにより貫通溝41を通る熱電対6を前記突起部26と貫通溝41とで余剰空間なく挟み込むことができ、機密性が向上して熱気の入り込みをより確実に防止している。
【0042】
また、外側容器3は、第1実施形態と同様、凹凸係合部3aを有する容器本体31と蓋体32とより構成されており、本例では凹凸係合部3aを構成する凹溝34と凸条35が互いにテーパー状に接するように断面視略台形状に形成されている。このテーパー形状は上記第1実施形態で説明した面取り部34bをより大きくしてテーパー状に傾斜面を構成したものであり、このように両者がテーパー状に当接して係合することにより容器開閉時に互いに接触する当該凹凸係合部3aが破損しにくいようになっている。
【0043】
更に本例では、外側容器3の側壁33に貫通溝42を設ける代わりに、凹溝34を内部の嵌合空間30側に連通させる幅広の嵌合溝61を設けるとともに、該嵌合溝61にはめ込まれる分割ピース62を設け、該分割ピース62に熱電対6を通すための貫通溝63が形成されている。貫通溝63は分割ピース62の下面62aに開放して設けられており、分割ピース62を嵌合溝61にはめ込むことで、熱電対6を貫通溝63内に通しつつ機密性を保持する壁として機能する。ここで、前記分割ピース62と嵌合溝61とは上方が幅広なテーパー状に当接するように構成されているが、その他の形状であっても勿論よい。また、熱電対6を通す貫通溝63は分割ピース62の下面62aに設けたが、上面や上下面に開放されない孔として構成することも勿論可能である。本例のように分割ピース62を用いて熱電対6の引き出し部4を構成することにより、図6の断面図にも示すように、外側容器3の嵌合空間30内に内側容器2を装着し、幅広な嵌合溝61を通して熱電対6を引き出して自由に配線した後、分割ピース62を上から取り付けて貫通溝63内に熱電対6を収納しつつ簡単に閉鎖することができ、ガラス基板等への熱電対の配線時における熱電対の移動により引き出し部4の角部等が破損するといった問題も未然に防止することができる。なお、例えば分割ピース6に複数本の貫通溝63を設けることも可能である。
【0044】
次に、図7〜9に基づき、本発明に係る温度計測装置Sにより加熱炉内を搬送中の被温度測定体の温度を計測する温度計測方法について説明する。
【0045】
本例の温度計測は、耐熱保護ボックス1から引き出し部4を通じて延出される複数の熱電対6を、被温度測定体であるガラス基板7の所定の複数箇所にそれぞれ接続し、耐熱保護ボックス1はガラス基板7とともに加熱炉内を搬送させる。加熱炉で加熱されたガラス基板7の複数個所の温度は、熱電対6によって温度計測器5であるデータロガーに記録され、測定後、炉内から取り出した当該データロガーを別途コンピュータに接続し、記録されたデータを読み取って該コンピュータで解析されることとなる。
【0046】
ガラス基板7への熱電対6等の接続は、従来からシリコンウエハ等でも広く採用されている構造が採用でき、本例では複数箇所に有底の取付穴70を設けて熱電対素線の感温部をセラミックセメント等の接着部材で固定しているが、このような方法に何ら限定されない。勿論、熱電対素線以外に、測温抵抗体で測定するようにしてもよい。また、熱電対自体の構造も何ら限定されず、例えば先端の温接点をシース外に露出させた露出型やシース先端に接続した接触型、その他の種々の構造のものを採用できる。
【0047】
本実施形態においては、図7に示すように被温度計測体であるガラス基板7の温度測定領域を二つの領域71、72に分け、まず、一方の領域71の所定箇所(取付穴70)に熱電対6をそれぞれ接続するとともに、他方の領域72に前記熱電対6が接続された温度計測器5(データロガー)を収納する耐熱保護ボックスを載置し、この状態で当該ガラス基板7を加熱炉内を搬送して一方の領域71の温度計測を行った後、次に同様にして、領域72に熱電対6を接続するとともに領域71に耐熱保護ボックスを載置して温度計測を行うことで、双方の領域71、72の温度計測を終了させる方法を採用している。尚、本例では二つの領域に分けているが、三以上の領域に分けて順次同様にして温度計測を行い、すべての領域の温度計測を行うようにすることも可能である。
【0048】
また、本発明の耐熱保護ボックス1をそのまま設置することも可能であるが、好ましくは図9に示すようにシリカ繊維等の耐熱繊維よりなる耐熱カバー8内に収納して設置し、耐熱保護ボックス1を構成している特に断熱材よりなる外側容器の細かい破片などの不純物が飛散するのを未然に防止している。本例では、上下に分割された分割カバー81、82(下側の分割カバー82は熱電対を引き出す切欠部を有する)より構成したがその他の形態のカバーでもよい。
【0049】
また、本発明は、このように耐熱保護ボックスをガラス基板の上に載置して測定する方法以外に、例えば図8(a),(b)に示すように、ガラス基板7の隣に耐熱保護ボックスを搬送して測定するようにしても勿論よい。図8(a)はガラス基板7を挟み込むように搬送方向の前後両隣にそれぞれ耐熱保護ボックス1,1を配置させるように搬送させ、略半分づつの領域の測定を担当させるように構成した例であり、図8(b)は、ガラス基板7の前後片方の隣にのみ耐熱保護ボックス1を配置させるように搬送させ、すべての領域の測定を担当させるように構成した例である。
【0050】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例に係る耐熱保護ボックスの耐熱特性(収納部の温度特性)について試験を行った結果について説明する。
【0052】
試験に使用した耐熱保護ボックス(実施例)は、図1、2に示した第1実施形態と同じ構造を有し、外側容器3は高さ80mm、縦200mm、横300mmに設定した。そして、内側容器2の収納部20内に温度計を配置し、大気ニクロム炉(炉内サイズ;400×400×1000mm、灼熱範囲;300×390×800mm)で600℃まで加熱して10分間保持した後に空冷する熱サイクルを10回繰り返した。当該10回の各サイクルでの収納部20の最高温度を、下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
上記試験結果から、収納部に収納される温度計測器(バッテリー等も含む)の耐熱温度が約100℃であるとすれば、本実施例の耐熱保護容器は600℃程度まで上昇する場面においても、6ショットまで使用可能であることが分かる。7回目以降、収納部の温度上昇が抑えられなかった理由としては、内側容器を構成している石膏材の含有する結晶水が出尽くしたことが考えられる。よって、実際の使用の際、6ショット目で内側容器2を交換することより、さらに7ショット目以降も繰り返して使用することができることが分かる。又、別途行った600℃連続加熱試験では、3時間ボックス内温度を100℃に保った。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係る耐熱保護ボックス及び温度計測装置を示す分解斜視図。
【図2】同じく縦断面図。
【図3】引き出し部の変形例を示す分解斜視図。
【図4】引き出し部の他の変形例を示す要部の縦断面図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る耐熱保護ボックス及び温度計測装置を示す分解斜視図。
【図6】(a),(b)は、同じく縦断面図。
【図7】(a),(b)は、温度計測装置により被温度測定体の温度を計測する温度計測方法を示す説明図。
【図8】(a),(b)は、同じく温度計測方法の変形例を示す説明図。
【図9】耐熱保護ボックスを耐熱カバー内に収納した温度計測装置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0056】
S 温度計測装置
1 耐熱保護ボックス
2 内側容器
2a 凹凸係合部
3 外側容器
3a 凹凸係合部
4 引き出し部
5 温度計測器
6 熱電対
7 ガラス基板
8 耐熱カバー
20 収納部
21 容器本体
21a 開口部
22 蓋体
23 側壁
24 凹溝
25 凸条
26 突起部
30 嵌合空間
31 容器本体
31a 開口部
32 蓋体
33 側壁
34 凹溝
34b 面取り部
35 凸条
36 切欠き部
37 突起部
38 切欠き部
39 突起部
41,42,43 貫通溝
60 開放溝
61 嵌合溝
62a 下面
62 分割ピース
63 貫通溝
70 取付穴
71,72 領域
81 分割カバー
82 分割カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏材を用いて成形され、内部に温度計測器を収納するための収納部を備える内側容器と、
断熱材を用いて成形され、内部に前記内側容器が嵌め込まれる外側容器と、
前記温度計測器に接続される熱電対又は測温抵抗体の引き出し部と、
より構成した温度計測器の耐熱保護ボックス。
【請求項2】
前記断熱材が、ヒュームドシリカよりなる請求項1記載の耐熱保護ボックス。
【請求項3】
前記引き出し部として、前記内側容器及び外側容器の各側壁に互いに連通する貫通溝を形成した請求項1又は2記載の耐熱保護ボックス。
【請求項4】
前記外側容器の側壁に幅広の嵌合溝を設けるとともに、該嵌合溝にはめ込まれる分割ピースを設け、該分割ピースの下面に前記貫通溝を形成してなる請求項3記載の耐熱保護ボックス。
【請求項5】
前記内側容器を、前記収納部を備えた上端開放の容器本体と、該容器本体の上端開口部を閉塞する蓋体とより構成し、該容器本体の上端開口部の周りに該蓋体と係合する凹凸係合部を周設した請求項1〜4の何れか1項に記載の耐熱保護ボックス。
【請求項6】
前記外側容器を、前記内側容器が嵌め込まれる嵌合空間を備えた上端開放の容器本体と、該容器本体の上端開口部を閉塞する蓋体とより構成し、該容器本体の上端開口部の周わりに該蓋体と係合する凹凸係合部を周設した請求項1〜5の何れか1項に記載の耐熱保護ボックス。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の耐熱保護ボックスに温度計測器を収納するとともに、被温度測定体の所定箇所に接続される単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を、前記引き出し部を通じて前記温度計測器に接続してなる温度計測装置。
【請求項8】
耐熱繊維よりなる耐熱カバーを上下分割して構成するとともに、一方又は双方の分割カバーに熱電対又は測温抵抗体を引き出すための切欠部を形成し、前記温度計測器を収納する耐熱保護ボックスを前記耐熱カバー内に収納してなる請求項7記載の温度計測装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載の温度計測装置により、加熱炉内を搬送中の被温度測定体の温度を計測する温度計測方法であって、前記耐熱保護ボックスから前記引き出し部を通じて延出される前記温度計測器の単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を、前記被温度測定体の所定箇所に接続し、該耐熱保護ボックスを前記被温度測定体とともに加熱炉内を搬送してなる温度計測方法。
【請求項10】
前記被温度計測体の温度測定領域を二以上の複数領域に分け、一の領域の所定箇所に単又は複数の熱電対又は測温抵抗体を接続し、且つその他の領域に前記耐熱保護ボックスを載置した状態で、当該被温度計測体を加熱炉内を搬送することにより一の領域の温度計測を行い、他の領域についても、順次同様にして温度計測を行い、すべての領域の温度計測を行う請求項9記載の温度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−75076(P2009−75076A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175484(P2008−175484)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(390007744)山里産業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】