説明

温度計測装置及び車両

【課題】従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができる温度計測装置及び該温度計測装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】赤外線にて被撮像体を撮像する遠赤外線撮像部11を備え、撮像して得た撮像画像を構成する複数画素夫々の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置1に、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を記憶する温度パラメータメモリ17と、遠赤外線撮像部11の撮像範囲内に配されるべき温度センサ14と、温度センサ14が検出した温度、温度パラメータメモリ17が記憶している関係、温度センサ14に対応する画素の階調値、及び他の画素の階調値に基づいて、各画素の階調値を被撮像体の温度を示す階調値に変換する温度補正処理部16とを備える。また、温度計測装置1を車両に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像して得た撮像画像の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置及び温度計測装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の温度分布を測定する車両用温度測定装置が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る車両用温度測定装置は、赤外線を検知することで車室内の温度分布を測定するサーモパイルモジュールと、サーモパイルモジュールの検知範囲に配設され、所定温度で発熱する標準発熱体とを備えている。車両用温度測定装置は、外乱光の影響を除去すべく、標準発熱体から放射される赤外線をサーモパイルモジュールで検知し、その検知結果に基づいて温度分布の較正を行う。
このように構成された車両用温度測定装置にあっては、外乱光がある場合であっても、車室内の絶対温度分布を精度良く測定することができる。
一方、長波長、例えば8〜14μmの赤外線にて車室内の被撮像体、例えば乗員を撮像する車載撮像装置が開発されている。長波長の赤外線を用いた場合、外乱光の影響を受けることなく車室内の相対的な温度分布を測定することができる。
【特許文献1】特開2006−113025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に係る車両用温度測定装置においては、ヒータの電源を入切することによって標準発熱体の温度制御を行っているため、数分周期で標準発熱体の温度が2〜3℃変動し、結果として車室内の温度分布を正確に測定することができないという問題があった。具体的には、ヒータの電源が入になったとき、標準発熱体の温度は瞬間的に高温になり、サーモパイルモジュールで検知される温度は全体的に数℃低くなる。また、ヒータの電源が切りになった場合、標準発熱体の温度はなだらかに低下し、サーモパイルモジュールで検知される温度も全体的に上昇するという不具合が生ずる。
また、ヒータへの通電を制御するためには、CPU(Central Processing Unit)、温度センサ、通信回路、電源ケーブル等が必要であり、車両用温度測定装置の構成が複雑になり、コストが増大するという問題があった。
更に、ヒータへの通電及び通電制御を行う必要があるため、消費電力が増大するという問題があった。
更にまた、ヒータへの通電を制御するための通信線、電源ケーブル等を引き回し、各種回路を配置する必要があるための配置空間が必要であるという問題があった。
【0004】
一方、従来の車載撮像装置においては、外乱光の影響を受けることなく、車室内の相対的な温度分布を測定することはできるが、被撮像体の絶対温度を測定することはできない。これは、車載撮像装置の周囲環境の変動によって、階調値のオフセットが変動し、撮像画像の階調値と温度との対応関係が変動するためである。例えば、階調値32と20℃とが対応していても、周囲環境が変動した場合、階調値32と25℃とが対応することもある。
なお、オフセットを固定することも考えられるが、車載撮像装置のオフセットを固定した場合、特定の周囲環境でしか被撮像体を撮像できなくなるという問題が生ずる。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができ、しかも標準発熱体が不要であり、装置を簡単且つ低コストで構成することができる温度計測装置及び該温度計測装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る温度計測装置は、赤外線にて被撮像体を撮像する赤外線撮像部を備え、撮像して得た撮像画像を構成する複数画素夫々の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置において、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を記憶する記憶手段と、前記赤外線撮像部の撮像範囲内に配されるべき温度センサと、該温度センサが検出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記温度センサに対応する画素の階調値、及び他の画素の階調値に基づいて、各画素の階調値を被撮像体部分の温度を示す階調値に変換する変換手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
第2発明に係る温度計測装置は、前記記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶しており、更に、前記温度センサが検出した温度に基づいて、該温度に対応する前記関係を選択する選択手段を備え、前記変換手段は、前記選択手段が選択した前記関係に基づいて、前記他の画素の階調値を変換するようにしてあることを特徴とする。
【0008】
第3発明に係る温度計測装置は、前記記憶手段が記憶している関係は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係であり、該比例関係を規定する比例係数は前記温度センサが検出する温度の関数であることを特徴とする。
【0009】
第4発明に係る温度計測装置は、前記温度センサは複数であり、各温度センサが検出した温度と、各温度センサに対応する画素の階調値とに基づいて、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を算出する手段を備えることを特徴とする。
【0010】
第5発明に係る車両は、第1乃至第4発明のいずれか一つの温度計測装置を備えることを特徴とする。
【0011】
第1及び第5発明にあっては、赤外線撮像部が赤外線にて被撮像体を撮像する。赤外線撮像部にて撮像された撮像画像を構成する複数の画素は被撮像体の温度に応じた階調値を有しているが、該階調値は被撮像体の相対温度を示しているに過ぎない。
変換手段は、温度センサが検出した温度と、温度センサに対応する画素の階調値と、記憶手段が記憶している関係とに基づいて、各画素の階調値を、温度に一対一対応した階調値に変換する。
詳細には、温度センサが検出した温度と、温度センサに対応する画素の階調値とに基づいて、一の温度と一の階調値とを対応付けることができる。また、前記一の温度及び一の階調値を基準とし、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を用いることによって、他の階調値も温度に対応付けることができる。よって、変換手段は、撮像して得た階調値を、温度に一対一対応した階調値に変更することができる。
【0012】
第2及び第5発明にあっては、記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶している。一般に各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係は、周囲温度によって変動することが知られている。
選択手段は、温度センサが検出した温度に基づいて、記憶手段が記憶している複数の関係の内、前記温度に対応する関係を選択する。従って、変換手段は、周囲温度に応じた関係に基づいて、より正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変更することができる。
【0013】
第3及び第5発明にあっては、記憶手段は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係として比例関係を記憶しており、該比例関係を規定する比例係数は温度センサが検出する温度、つまり温度計測装置の周囲温度の関数である。一般に各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係は、周囲温度によって変動することが知られている。
変換手段は、温度センサが検出した温度に基づいて、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係を特定することができ、周囲温度に応じた比例関係に基づいて、より正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変更することができる。
【0014】
第4及び第5発明にあっては、複数の温度センサが検出した温度と、各温度センサに対応する画素の階調値とに基づいて、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を算出することができる。従って、赤外線撮像部の経年変化によって前記関係が変化した場合であっても、また、温度計測装置の周囲温度が変化した場合であっても、撮像して得た階調値をより正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変更することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができ、しかも標準発熱体が不要であり、装置を簡単且つ低コストで構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る温度計測システムの構成を示す模式図である。図中1は、車両Cに搭載された本発明に係る温度計測装置であり、温度計測装置1は被駆動部3の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)2に通信網を介して接続されている。通信網は、例えば専用ケーブル等の通信線、又は有線若しくは無線の車内LAN(Local Area Network)によって構成されている。
【0017】
図2は、本発明に係る温度計測装置1の構成を示すブロック図である。温度計測装置1は、遠赤外線にて被撮像体を撮像する遠赤外線撮像部11を備えている。遠赤外線撮像部11は、運転者の前方、例えば車両Cのハンドル、ダッシュボード等に配設され、運転者の上半身及び車両C内の天井部分4を撮像することが可能な姿勢で固定されている。
【0018】
遠赤外線撮像部11は、赤外線レンズ11a及び遠赤外線撮像素子11bを備えている。赤外線レンズ11aは、例えば硫化亜鉛原料粉末、カルコゲンガラス、ゲルマニウム、、ジンクセレン等を焼結してなる焼結体であり、8〜14μm帯の遠赤外線に対して透過性を有している。
遠赤外線撮像素子11bは、波長が8〜14μmの遠赤外線にて運転者を撮像、つまり赤外線レンズ11aにて結像した遠赤外線像をアナログの撮像画像信号vに光電変換する素子であり、例えば抵抗ボロメータ方式、強誘電方式、SOIダイオード方式、サーモパイル方式等を用いた非冷却型の撮像素子である。なお、遠赤外線撮像素子11bのアスペクト比は、例えば3/2、画素数は360×240である。遠赤外線撮像部11は、連続的又は断続的に撮像処理を行い、撮像画像を構成する複数画素(x,y)夫々の撮像画像信号vを、例えば1秒当たり30枚のフレームレートで生成し、画像構成処理部12へ出力する。なお、xは撮像画像の水平方向における画素の座標を示しており、yは撮像画像の垂直方向における画素の座標を示している。
【0019】
画像構成処理部12は、遠赤外線撮像部11から出力された撮像画像信号の信号レベルに対応した階調値を、遠赤外線撮像部11の撮像特性に基づいて補正することで各画素の階調値を算出し、該階調値を有する撮像画像データを温度補正処理部16に与える。具体的には、画像構成処理部12は、遠赤外線撮像部11から出力されたアナログの撮像画像信号vをデジタルの画像データにAD変換し、AD変換した画像データを画像メモリ13に一時記憶させる。画像メモリ13は、例えばSRAM、DRAM等の揮発性メモリである。そして、画像構成処理部12は、画像メモリ13に記憶させた画像データに対して撮像画像の不均一性を補正するNUC(Non-Uniformity Correction)処理、欠陥画素の補正処理等の各種画像処理を行い、画像処理された画像データを温度補正処理部16に与える。撮像画像を構成する各画素は、二次元に配列されており、画像データは各画素の位置(x,y)及び階調値V(x,y)として示される各画素の輝度を示すデータを含んでいる。NUC処理で補正された階調値V(x,y)は、下記式(1)で表される。
Vij=Gij・vij+Oij…(1)
但し、Vijは画素(x,y)=(i,j)の補正後の階調値、vijは画素(x,y)=(i,j)の撮像画像信号の信号レベル、Gijはゲイン補正値、Oijはオフセット補正値であり、i,jは、画素位置を示している。Gij、Oijは、例えば黒体炉、シャッタ等の温度分布が均一の物体を撮像して得た階調値に基づいて算出したものである。
【0020】
なお、画像構成処理部12で得られる画像データから被撮像体の相対的な温度分布を計測することは可能であるが、各画素の階調値V(x,y)と温度とは一対一対応していないため、温度を計測することはできない。これは、画像構成処理部12が、遠赤外線撮像部11の周囲環境の変動によって階調値のオフセットを変動させるためである。オフセットが変動した場合、被撮像体の温度が同じであっても階調値V(x,y)が変動してしまう。
【0021】
また、言うまでもなく、遠赤外線撮像部11を構成する赤外線レンズ11a、遠赤外線撮像素子11b、及び赤外線レンズ11aを保持する図示しない鏡筒も、周囲温度に応じた遠赤外線を放射している。従って、各画素の階調値V(x,y)と温度とは一対一対応していない。
【0022】
温度補正処理部16は、例えばMPU(Microprocessor Unit)を備えたマイクロコンピュータであり、画像構成処理部12で画像処理された画像データを、温度に一対一対応した階調値W(x,y)を有する画像データに変換する後述の温度補正処理を実行する。MPUには、図示しないバスを介してMPUの制御に基づき実行される各種コンピュータプログラム及びデータを記録するROM、ROMに記録されたコンピュータプログラムの実行時に一時的に発生する各種データを記録するRAM、画像データを一時的に記録するフレームメモリ、I/Oポート等が接続されており、MPUが前記コンピュータプログラムを実行することによって、階調値W(x,y)の変換処理を実行する。温度補正処理部16は、温度補正された画像データを通信インタフェース18に与える。通信インタフェース18は、温度補正された画像データをNTSC(National Television System Committee Standard)等のアナログ信号、IEEE1394、MOST規格に準拠したデジタルの画像データに変換し、ECU2に送信する。
【0023】
また、温度計測装置1は、温度センサ14及び温度補正処理に必要な各種パラメータを記憶する温度パラメータメモリ17を備えている。
【0024】
温度センサ14は、該温度センサ14に接触した物体又は周囲の温度を検出し、検出した温度(以下、センサ温度TTRMという)を示す温度信号をA/Dコンバータ15に与える。温度センサ14は、例えば、熱電対、白金測温抵抗体、サーミスタ等のアナログ式センサ、並びに半導体温度センサIC等のデジタル式センサであり、遠赤外線撮像部11の所定視野内に位置し、温度センサ14、温度センサ14周辺の物体の遠赤外線像が所定の画素(以下、センサ画素(xT,yT)という)に写るように、車両C内の天井部分4に配設されている(図1、図5参照)。なお、温度センサ14の配置場所は、特に限定されず、ヘッドレスト、室内灯、ピラー、ドア等に配しても良い。但し、温度と階調値V(x,y)とを正確に対応付けるためには、撮像される温度センサ14又は温度センサ14周辺部分の温度変動が比較的小さく、遠赤外線の放射率が高い部材、例えば布、ゴム等であることが望ましい。車両Cの天井部分4は、温度変動が比較的小さく、遠赤外線の反射率も小さいため、好適である。
また、温度センサ14は天井部分4に埋没するように配設しても良いし、天井部分4から突出するように配設しても良い。ルームランプの適宜箇所に配設しても良い。
更に、温度センサ14又は温度センサ14周辺部の被撮像部分を構成する平面状表面部の法線と、赤外線レンズ11a群の光軸とのなす角が50度以内になるように、温度センサ14を配設することが好ましい。
このように配置することによって、温度センサ14又は温度センサ14周辺部の温度に対応する遠赤外線を受光することが可能になる。
A/Dコンバータ15は、温度信号をデジタルの温度データにAD変換し、AD変換された温度データを温度補正処理部16に与える。
【0025】
温度パラメータメモリ17は、フラッシュメモリのような不揮発性メモリであり、被撮像体の絶対温度分布を測定するためのゲインDb、センサ画素(xT,yT)の座標位置を記憶している。ゲインDbは、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量、つまり被撮像体の温度が単位温度1℃変化した場合の階調値の変化量を示している。ゲインDbは、被撮像体の温度に拘わらずほぼ一定の値であるため、温度計測装置1の製造時に測定しておき、測定して得たゲインDbを温度パラメータメモリ17に記憶させておけば良い。
また、温度パラメータメモリ17は、外部のECU2にて絶対温度分布を認識できるように画像データの階調値を変換するためのゲインDx及び測定基準温度TMINを記憶している。ゲインDxは、下記式(2)で表される定数である。
Dx=最大階調値PMAX/(測定上限温度TMAX−測定基準温度TMIN)…(2)
【0026】
ゲインDxは、絶対温度分布を示す画像データにおいて、単位温度1℃の変化量に対応する階調値の変化量を示している。
【0027】
図3は、ECU2の構成を示すブロック図である。ECU2は、車室内の絶対温度分布を利用して空調装置、エアバッグ装置等の被駆動部3の動作を制御する制御装置である。ECU2は制御部21を備えており、制御部21には、バス27を介してROM22、RAM23、通信インタフェース24、画像メモリ25、制御インタフェース26等が接続されている。
【0028】
ROM22は、温度計測装置1から送信された画像データに基づいて、車室内の温度を算出する処理、車室内の絶対温度分布に基づいて被駆動部3の動作を制御するためのコンピュータプログラムを記憶している。また、ROM22は、ゲインDx、測定基準温度TMINを記憶している。
【0029】
RAM23は、制御部21によるコンピュータプログラムの実行時に発生する各種データを記憶する揮発性メモリである。
【0030】
通信インタフェース24は、温度計測装置1から送信された画像データを受信し、画像メモリ25は、通信インタフェース24で受信した画像データを一時記憶する。制御インタフェース26は、制御部21の制御によって制御信号を被駆動部3へ出力し、被駆動部3の動作を制御する。
【0031】
被駆動部3は、例えば空調装置であり、運転者の上半身部分及びその周辺の絶対温度分布を用いて、空調装置による送風温度、送風方向、送風速度等を制御することができ、より快適に車室内を空調することができる。
また、被駆動部3は、例えばエアバッグ装置であり、絶対温度分布を用いることによって、運転者の頭部、上半身、その周辺部分を判別し、運転者の有無、眼鏡装着の有無、体型、姿勢等をより正確に認識することができ、運転者の頭部の位置、眼鏡装着の有無、体格、姿勢等に応じてエアバッグの展開方法を制御することができ、車両C衝突時、安全に運転者を保護することができる。
【0032】
図4は、温度補正処理に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。温度補正処理部16は、画像構成処理部12から出力された画像データを取得し(ステップS11)、温度センサ14からセンサ温度TTRMを取得する(ステップS12)。そして、温度補正処理部16は、センサ画素(xT、yT)の階調値Z=V(xT ,yT )を特定する(ステップS13)。
【0033】
図5は、撮像画像及びセンサ画素(xT,yT)を説明するための説明図である。横長矩形枠は撮像画像を示しており、横軸Xは水平ライン、縦軸Yは垂直ラインを示している。白丸部分は温度センサ14又は温度センサ14周辺部に対応するセンサ画素(xT,yT)を示している。温度補正処理部16は、センサ画素(xT,yT)の階調値Zと、センサ温度TTRMとから一の階調値Zと一の温度とを対応付けることができる。ハッチングを付した丸部分は、センサ画素(xT,yT)を除く他の任意の画素を示している。
【0034】
次いで、温度補正処理部16は、ゲインDb、ゲインDx、及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS14)、階調値V(x,y)を、温度に一対一対応した階調値W(x,y)に変換する温度補正処理を実行する(ステップS15)。
【0035】
図6は、階調値V(x,y)と温度TABS との対応関係を示すグラフである。横軸は階調値V(x,y)、縦軸は温度TABS を示している。図6に示すように、温度TABS は、階調値V(x,y)に比例しており、その比例係数は1/ゲインDbである。従って、温度センサ14から取得したセンサ温度TTRMと、温度センサ14を撮像して得たセンサ画素(xT,yT)の階調値Zと、ゲインDbとから、階調値V(x,y)と、温度TABS とを一対一で対応付けることができる。温度TABS は、下記式(3)で表される。
ABS =V(x,y)/Db+TTRM −Z/Db…(3)
【0036】
ところが、階調値V(x,y)を有する画像データをそのまま外部のECU2に送信しても、ECU2側では階調値V(x,y)と温度との対応が取れていないため、被撮像体の温度を算出することができない。そこで、温度補正処理部16は、2つの要素に対して対応付けを行う。第1の要素は、オフセット、即ち測定基準温度TMINであり、第2の要素はゲイン、即ち温度変化量に対する階調値の変化量の比率である。ECU2は、オフセット及びゲインとして、所定の測定基準温度TMIN及びゲインDxを記憶しているため、温度補正処理部16は、ECU2側で測定基準温度TMIN及びゲインDxにて温度を算出することができるように階調値V(x,y)を階調値W(x,y)に変換する。
【0037】
図7は、階調値W(x,y)と温度TABS との対応関係を示すグラフである。横軸は階調値W(x,y)、縦軸は温度TABS を示している。ステップS15で温度補正処理部16は、図7に示すように階調値1を測定基準温度TMINに合わせ、単位温度1℃変化した場合の階調値の変化量がゲインDxになるように、階調値V(x,y)を階調値W(x,y)に変換する。
【0038】
温度補正された階調値W(x,y)は、下記式(4)で表される。
W(x,y)=(TABS −TMIN )×Dx…(4)
結局、上記式(4)は下記式(5)のように式変形することができ、温度補正処理部16は、下記式(5)にて階調値W(x,y)を算出する。
W(x,y)=Dx/Db×〔V−{Z−(TTRM −TMIN )×Db}〕…(5)
【0039】
例えば、測定基準温度TMINを16℃、ゲインDxを8とした場合、16℃〜48℃の範囲と、階調値1〜256とを一対一で対応付けることができる。この場合、20℃は階調値32に対応する。
なお、変換後の階調値W(x,y)が0以下又は256より大きな値になった場合、階調値W(x,y)は夫々1と、256とに丸められる。
【0040】
次いで、温度補正処理部16は、温度補正された階調値W(x,y)を有する画像データをECU2へ送信する(ステップS16)。
【0041】
図8は、ECU2の制御部21の処理手順を示すフローチャートである。制御部21は、温度計測装置1にて温度補正された画像データを受信する(ステップS21)。次いで、制御部21は、ROM22からゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS22)、階調値W(x,y)、ゲインDx及び測定基準温度TMINに基づいて温度TABS を算出し、処理を終える。
【0042】
温度TABS は、下記式(6)によって算出することができる。
ABS =W(x,y)/Dx+TMIN …(6)
【0043】
このように構成された実施の形態1に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、従来の車両用温度測定装置に比してより正確に被撮像体の絶対温度分布を測定することができる。
【0044】
また、従来技術のように標準発熱体が不要であるため、該標準発熱体を制御する各種回路が不要になり、温度計測装置1を簡単且つ低コストで構成することができる。
【0045】
更に、一般のサーモグラフィに比べて簡単な構成で、被撮像体の温度の絶対値を測定することができる。
【0046】
更にまた、従来技術のようにヒータへの通電及び通電の制御を行う必要がないため、低消費電力で被撮像体の温度分布を測定することができる。
【0047】
更にまた、従来技術のようにヒータへの通電を制御するための通信線、電源ケーブル等を引き回し、各種回路を配置する必要がないため、省スペースを図ることができる。特に自動車分野ではエレクトロニクス化が進む一方で車両Cの小型化、車内空間の拡大が求められているため、車両C搭載用の温度計測装置1にあっては特に効果的である。
【0048】
更にまた、温度計測装置の周囲環境に応じて画像構成処理部12が階調値V(x,y)のオフセットを変更させる構成であっても、温度に一対一対応した階調値W(x,y)を外部装置に送信することができる。
なお、赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する赤外線撮像部を備え、該赤外線撮像部から出力された撮像画像信号の信号レベルに対応した各画素の階調値を、前記赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正し、補正した各画素の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置において、各画素の温度及び補正後の階調値夫々の時間的な変化量の関係を記憶する記憶手段と、前記赤外線撮像部の撮像範囲内に配されるべき温度センサと、該温度センサが検出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記温度センサに対応する画素の補正後の階調値、及び他の画素の補正後の階調値に基づいて、各画素の階調値を被撮像体の温度を示す階調値に変換する変換手段とを備えるように構成することにより、階調値に各種補正処理が施される場合であっても、温度に一対一対応した階調値を外部装置に送信することができる。
【0049】
図9は、第1の変形例に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。第1の変形例に係る温度パラメータメモリ17は、周囲温度に応じて異なる複数のゲインDb1、…、Dbk、…を記憶しており、温度補正処理部16は、周囲温度に対応したゲインDbkを用いることによって、より正確な温度の測定を可能にしたものである。但し、kは2以上の自然数である。
【0050】
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS31)、センサ温度TTRMを取得し(ステップS32)、センサ画素(xT,yT)の階調値Zを特定する(ステップS33)。そして、温度補正処理部16は、ステップS32で取得したセンサ温度TTRMに基づいて、該センサ温度TTRMに対応するゲインDbkを選択して読み出す(ステップS34)。以下、図4と同様、ゲインDbk及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS35)、温度補正処理を行い(ステップS36)、温度補正された画像データを送信し(ステップS37)、処理を終える。
【0051】
第1の変形例に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、温度計測装置1の周囲温度に応じたゲインDbkを用いることによって、周囲温度に拘わらず、被撮像体の温度を正確に計測することができる。
【0052】
図10は、第2の変形例に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。第2の変形例に係る温度パラメータメモリ17は、周囲温度に応じて線形的に変化するゲインDbを規定する定数a,bを記憶している。定数a,bは、Db(TTRM )=a×TTRM +bで表されるゲインDbを規定する値であり、温度計測装置1の製造時に予め測定及び算出し、温度パラメータメモリ17に記憶させておく。温度補正処理部16は、定数a,b及び温度センサ14が検出したセンサ温度TTRMに基づいてゲインDbを算出し、算出されたゲインDbを用いることによって、より正確な温度の測定を可能にしたものである。
【0053】
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS41)、センサ温度TTRMを取得し(ステップS42)、センサ画素(xT,yT)の階調値Zを特定する(ステップS43)。そして、温度補正処理部16は、温度パラメータメモリ17からゲインDb(TTRM )算出用の定数a,bを読み出し(ステップS44)、センサ温度TTRM、及び定数a,bに基づいて、ゲインDb(TTRM )=a×TTRM +bを算出する(ステップS45)。以下、図4と同様、ゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS46)、温度補正処理を行い(ステップS47)、温度補正された画像データを送信し(ステップS48)、処理を終える。
【0054】
第2の変形例に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、温度計測装置1の周囲温度に応じたゲインDbを算出することによって、温度計測装置1の周囲温度に拘わらず、被撮像体の温度を正確に計測することができる。
【0055】
なお、実施の形態1及び変形例にあっては、遠赤外線にて被撮像体を撮像する場合を説明したが、他の周波数帯域の赤外線にて被撮像体を撮像し、温度を測定するように構成しても良い。但し、遠赤外線撮像素子を用いた場合、車室内に入射する外光の影響を受けないため、正確に被撮像体の温度分布を計測することができ、好適である。
【0056】
また、センサ温度TTRMとして、瞬間の温度を用いる場合を説明したが、異なる時刻で複数のセンサ温度TTRMを取得し、該複数のセンサ温度TTRMから移動平均を算出し、該移動平均を用いて階調値を変更するように構成しても良い。同様に、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタにてセンサ温度TTRMの変動を抑制するように構成しても良い。フィルタ期間は、例えば0.5〜1.5秒程度が好ましく、温度変化に追従でき、且つノイズを効果的に抑制することができる。このように構成した場合、センサ温度TTRMの短期的変動によって、測定される温度が揺らぐことを防止することができる。
【0057】
(実施の形態2)
図11は、実施の形態2に係る温度計測装置201の構成を示すブロック図である。実施の形態2に係る温度計測装置201は、実施の形態1に係る温度計測装置1が備えている温度センサに代えて、第1温度センサ14aと、第2温度センサ14bと、2つのA/Dコンバータ15a、15bを備えており、第1温度センサ14aが検出したセンサ温度TTRMAと、第2温度センサ14bが検出したセンサ温度TTRMBと、第1及び第2温度センサ14a,14bに夫々対応する画素の階調値ZA ,ZB とに基づいてゲインDbを算出するように構成した点が異なるため、以下では主に上記相違点について説明する。他の構成は、実施の形態1と同様である。
第1温度センサ14a及び第2温度センサ14bは、遠赤外線撮像部11の撮像範囲内の異なる箇所であって、各箇所に温度差があるような部分に配されている。
【0058】
図12は、実施の形態2における温度補正処理に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS51)、センサ温度TTRMA、TTRMBを取得し(ステップS52)、センサ画素の階調値ZA ,ZB を特定する(ステップS53)。
【0059】
図13は、実施の形態2における撮像画像及びセンサ画素を説明するための説明図である。横長矩形枠は撮像画像を示しており、横軸Xは水平ライン、縦軸Yは垂直ラインを示している。図中左側の白丸部分は第1温度センサ14a又は第1温度センサ14a周辺部に対応するセンサ画素(xTA,yTA)を示している。また、図中右側の白丸部分は第2温度センサ14b又は第2温度センサ14b周辺部に対応するセンサ画素(xTB,yTB)を示している。
なお、センサ画素(xTA,yTA)及びセンサ画素(xTB,yTB)の画素位置は、温度パラメータメモリ17に格納されている。
【0060】
そして、温度補正処理部16は、ゲインDbを算出する(ステップS54)。ゲインDbは、下記式(7)によって表される。
Db=(ZA −ZB )/(TTRMA−TTRMB)…(7)
【0061】
以下、図4と同様、ゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS55)、温度補正処理を行い(ステップS56)、温度補正された画像データを送信し(ステップS57)、処理を終える。
なお、温度補正処理で利用するセンサ温度は、センサ温度TTRMA又はセンサ温度TTRMBのいずれかを利用すれば良い。
【0062】
実施の形態2に係る温度計測装置201及び車両Cにあっては、遠赤外線撮像部11の経年変化によってゲインDbが変化した場合であっても、経年変化に追従するようにゲインDbを変更することができ、被撮像体の絶対温度分布を正確に計測することができる。
また、温度計測装置201の周囲温度が変化した場合であっても、周囲温度の変化に応じたゲインDbを算出することができ、被撮像体の絶対温度分布を正確に計測することができる。
なお、実施の形態2では常にゲインDbを算出する処理を実行する場合を説明したが、実施の形態1で説明したゲインDbを温度パラメータメモリ17に記憶させておき、実施の形態1に係る温度計測方法と、実施の形態2に係る温度計測方法とを適宜選択するように構成しても良い。具体的には、温度補正処理部16が、センサ温度TTRMAと、センサ温度TTRMBとの差を算出し、該差が閾値以上であるか否かを判定し、閾値以上であると判定した場合、センサ温度TTRMA、TTRMBに基づいてゲインDbを算出し、閾値未満であると判定した場合、温度パラメータから所定のゲインDbを読み出すように構成すると良い。
また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1に係る温度計測システムの構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る温度計測装置の構成を示すブロック図である。
【図3】ECUの構成を示すブロック図である。
【図4】温度補正処理に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】撮像画像及びセンサ画素を説明するための説明図である。
【図6】階調値と温度との対応関係を示すグラフである。
【図7】階調値と温度との対応関係を示すグラフである。
【図8】ECUの制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】第1の変形例に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】第2の変形例に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】実施の形態2に係る温度計測装置の構成を示すブロック図である。
【図12】実施の形態2における温度補正処理に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図13】実施の形態2における撮像画像及びセンサ画素を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 温度計測装置
2 ECU
3 被駆動部
4 天井部分
11 遠赤外線撮像部
11a 赤外線レンズ
11b 遠赤外線撮像素子
12 画像構成処理部
13 画像メモリ
14 温度センサ
15 A/Dコンバータ
16 温度補正処理部
17 温度パラメータメモリ
18 通信インタフェース
C 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線にて被撮像体を撮像する赤外線撮像部を備え、撮像して得た撮像画像を構成する複数画素夫々の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置において、
各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を記憶する記憶手段と、
前記赤外線撮像部の撮像範囲内に配されるべき温度センサと、
該温度センサが検出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記温度センサに対応する画素の階調値、及び他の画素の階調値に基づいて、各画素の階調値を被撮像体部分の温度を示す階調値に変換する変換手段と
を備える温度計測装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶しており、
更に、前記温度センサが検出した温度に基づいて、該温度に対応する前記関係を選択する選択手段を備え、
前記変換手段は、
前記選択手段が選択した前記関係に基づいて、前記他の画素の階調値を変換するようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記記憶手段が記憶している関係は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係であり、該比例関係を規定する比例係数は前記温度センサが検出する温度の関数である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
前記温度センサは複数であり、
各温度センサが検出した温度と、各温度センサに対応する画素の階調値とに基づいて、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を算出する手段を備える
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の温度計測装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の温度計測装置を備える
ことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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