説明

温泉水のガス分離装置

【課題】
散水、送風および水分低減の組合せにより、分離対象ガスの安全な分離、拡散及び希釈を行うとともに温泉スケール発生防止、温泉水温の降下及び白煙発生の二次被害を防止した温泉水のガス分離装置を提供する。
【解決手段】
1で温泉水からのガス分離及び拡散を行うため温泉水を散水し衝撃版に衝撃落水させ又爆発性や有害性の危険を防止するため一次外気送風により分離したガスを希釈するとともに装置内の分離対象ガス成分の分圧を下げ分離性能を向上させる。2で排気口での白煙発生を抑制するため水分除去を行うとともに排気温を外気温に近づけるため及びガス成分に応じた安全率を有する濃度まで希釈するため二次外気取り入れする。3で排気による騒音が発生しないよう消音する。6の温泉貯留部にガスが滞留しないよう114の吸気管で排気を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉水を揚湯するに当り付随して発生するガスを安全に分離、拡散及び希釈する装置にかかり効率的且つ効果的なガス分離、拡散及び希釈を行う一方、副作用として発生する温泉スケール発生、温泉水の温度降下及び白煙の発生という問題の防止又は抑制を実現するガス分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、温泉水の利用に当りポンプで揚湯し水槽に貯留しヘンリーの法則により大気へ温泉水中のガスが自然放出される現象を利用してきた。然しこの方法では当該温泉水に対する分離対象ガスの飽和溶解濃度以下とすることが難しく、分離対象ガスが温泉水中に残留又は溶存し風呂などの利用施設内で温泉水から分離対象ガスが放出され成分により爆発、燃焼、酸欠又は有害ガスによる健康被害の問題があった。
【0003】
又、従来の技術では分離対象ガスの特性によって爆発の危険性があるため水槽に煙突を設置し煙突上部に特殊金網を取り付け水槽内への火気の侵入防止を図ってきた。然しこの方法では水槽内に高濃度のガスが滞留し爆発する危険性に対して不十分という問題があった。
【0004】
又、温泉水以外の従来技術分野では例えば脱炭酸塔設備で散水により溶存ガスを分離する装置は存在する。然し温泉水に含まれるガス分離及び拡散を目的とする技術分野では該当する装置が存在しなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
温泉水のガス分離技術分野で散水によるガス分離装置が存在しなかった背景として以下の3つの問題があった。第一に温泉水を空気中に散水すると空気中の酸素が温泉水に溶解し成分が酸化されること、又は温泉水中に溶解する二酸化炭素が空気中に放出されることにより二酸化炭素が排出されることによる炭酸水素イオンの減少に伴う化学変化が発生し、これら含有成分の変質により水への溶解度が低い成分が生成され当該発生物質が装置内に付着し当該付着物の除去費用がかかるという温泉スケール問題があった。第二に散水により温泉水の熱が放出され湯温が降下し降下分の加温のための燃料が増加するという問題があった。第三にガス分離に伴い装置内空気中に温泉水から水蒸気が供給され装置内空気が排気口から外気へ排出される際に気温の低い外気と接触し排気温の低下に伴って飽和水蒸気量が下がり過飽和した水蒸気が液化し白煙が発生する問題があった。発明が解決しようとする課題はこれら3つの副作用を防止又は抑制しつつ効率的且つ効果的なガス分離、拡散及び希釈を実施できる装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の装置は、気体の水への溶解量は溶解する気体の圧力に比例するというヘンリーの法則を応用したもので温泉水を温泉井戸から汲み上げて本装置に送湯し装置内で高圧下にあった温泉井戸内の温泉水圧を降下させることにより、それに比例して分離対象ガスの気体圧力が下がることで分離対象ガスの溶解量が小さくなり、温泉水に溶解できなくなった分離対象ガスが自然放出する現象を利用してガス分離する。
【0007】
然し上記の装置では、外気との接触面積が小さいがゆえにガス分離が抑制されるため外気との接触面積を増加し分離対象ガスの分離を促進する必要があった。そこで本装置は散水管により温泉水を散水しシャワー状とし温泉水と装置内の空気との気液界面表面積を増加させるとともに散水管の下部に衝撃版を設置し温泉水に衝撃を与えることでヘンリーの法則による水中から装置内空気への分離対象ガス成分の移動を促進する。
【0008】
然し上記の装置では、水中の対象気体の分圧は接触する気体中の対象気体の分圧に比例するというヘンリーの法則により、装置内で分離対象ガスを分離した温泉水中の分離対象ガス濃度が装置内空気の分離対象ガス濃度と平衡し温泉水中の分離対象ガスの濃度がそれ以上は下がらなくなるため装置内空気中の分離対象ガス成分の分圧を下げる必要があった。そこで本装置は送風機を付属し装置内に外気を送風することで装置内の分離対象ガスの装置内空気中の分圧を降下させ分離を促進する。
【0009】
然し上記の装置では、散水又は送風もしくはその両方により酸素を温泉水に供給し温泉水中の成分が酸化されること又は分離対象ガス成分ではない二酸化炭素等のガス成分が分離され炭酸水素イオン等の成分が減少し炭酸イオン等に変化することにより温泉水中の成分が変質し難溶性の化学物質が生成する温泉スケールが発生すること、及び温泉水に外気を送風し排気することにより温泉水の熱が排気に移動し排出され温泉水の湯温が下がることが起こり、これら副作用を抑制又は防止する必要があった。そこで本装置は散水の落差と送風量を調整することで温泉スケールの発生を抑制又は防止しつつ分離対象ガスの分離を促進するとともに温泉水の湯温の降下を抑制又は防止する。
【0010】
然し上記の装置では、送風量の制限によりメタンなど可燃性ガスの場合は爆発の危険性、又は硫化水素のようなガスの場合は毒性が保持され危険となるため装置内空気の希釈を行う必要があった。そこで本装置は送風を二段階以上とし第一段階は分離対象ガスの温泉水中からの分離に必要な量を送風し、第二段階以後は装置内空気中の分離対象ガス濃度を爆発限界又は毒性限界から十分な安全率を設定した濃度まで装置内空気を希釈することで危険を防止又は抑制する。
【0011】
然し上記の装置では、温泉水と送風空気の接触により分離対象ガスが放出されるに付随して温度の高い温泉水から相対的に温度の低い送風空気に熱が移動し、送風空気の気温が上昇し、その結果、相対的に湿度が下がり飽和水蒸気量が上がり、温泉水から送風空気に水蒸気が供給され、その後、排気口で外気に接触する際に排気温が外気に対して相対的に高いため、熱が排気から外気に移動し、排気温が下がり、それに比して飽和水蒸気量が下がり水蒸気が過飽和となり液化し白煙が発生するため、その抑制又は防止を行う必要があった。そこで本装置は水分除去部を有し水分除去するともに二次外気取り入れにより排気温を下げることで外気との接触の際に水蒸気が液化して白煙や霧となることを防止又は抑制する。
【0012】
然し上記の装置では、散水部、一次外気の取り入れ部、水分低減部、二次外気取り入れ部及び排気口を鉛直方向に縦積みすると装置高が大きくなり設置位置の制限を受け周囲に威圧感を与え景観を損なうため機械高さを抑制する必要があった。そこで本装置は横方向にも装置構造を展開し装置高を小さくする。
【0013】
然し上記の装置では、処理された温泉水に極微量に存在する分離対象ガスが処理済みの温泉水を貯留する部分の上空空間中に放出され滞留するためこの部分での滞留を防止する必要があった。そこで本装置は温泉貯留部の排気を行って分離対象ガスを温泉貯留部の上部から排出する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温泉水から安全にガス分離、拡散及び希釈を効率的且つ効果的に行うことができ、副作用として発生する温泉水温の低下、温泉スケールの発生及び白煙の発生を防止又は抑制できるとともに可燃性ガスの爆発を防止又は抑制し有毒ガスの有害性を低減できる。又、その構造が強固であり操作も簡便で装置の清掃を容易とする構造となっており維持管理の手間も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1において1は温泉水散水部及びガス分離拡散部で101の送湯管により送湯される分離対象ガスを含んだ温泉水を107の散水管で散水し108の衝撃版に衝突させ分離対象ガスを分離するとともに分離対象ガスを装置内空気へ拡散する。102の送風機により103の一次外気送風管を通じて一次外気を1に送風し分離対象ガス濃度が高まった装置内空気を5の落水部の上部を通過し送風方向を180度曲げて2の水分低減部へ上昇させる。この送風により装置内空気の分離対象ガス濃度が低くなり分離対象ガスの分離が促進される。2は装置内空気中の水分を低減するとともに102の送風機により104の二次外気送風管を通じて二次外気を取り入れ装置内空気中の分離対象ガス濃度を安全な濃度まで希釈すると同時に装置内空気の温度を外気温に近づける。3は消音部で排気音及び塔内のシャワー音を減衰し105のガス濃度検知器で装置内空気の分離対象ガス濃度を検知し運転管理を行い4の排気口へ送る。4は装置内空気を大気へ排出する。一方、1で分離処理された温泉水は5の落水部に落水する。5は1により分離対象ガスが分離された温泉水の落水を受けて6の温泉貯留部へ送る。6は106の配湯管により温泉水利用施設へ配湯されるまで温泉水を貯留する。101は温泉井戸から1への送湯管である。102は送風機である。103は一次外気送風管で1へ送風する。104は二次外気送風管で2へ送風する。105はガス濃度検知器である。106は温泉水利用施設への配湯管である。107は散水管で温泉水を散水する。108は衝撃版で散水された温泉水から衝撃によりガスを分離する。109は水位計で温泉水の水位を計測し水槽の貯留量管理をする。110は制御盤でガス濃度及び水槽内水位により運転管理をする。111は温泉井戸である。112はポンプで温泉水を揚湯する。113は流量センサで温泉供給量を管理する。114は吸気管で温泉水中に残留するガスが分離され滞留する6の温泉貯留部の上空からガスを排出する。
【0016】
装置高を小さくするため1、2、3及び4の順序で縦積みせず、図1のように水平2列とする。1の温泉水散水部及びガス分離拡散部で鉛直下向きに送風し、5の落水部で送風された空気の流れを180度曲げて鉛直上向きに送風方向を変え、2を通過した後、90度曲げて3を通過し、90度曲げて4へ排気するという送風の流れとする。
【実施例】
【0017】
この発明に係る温泉水のガス分離装置の実施例を挙げることにより、一層明確なものとする。但し、この発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。図2の正面図及び図3の側面図に本発明を温泉水のメタンガス分離装置として実施した事例を示す。図2の正面図では1の温泉水散水部及びガス分離拡散部と2の水分低減部の位置関係、又、103の一次外気送風管と104の二次外気送風管の位置関係が定かでないため図3の側面図で示した。本実施例では101の送湯管で最大150リットル毎分の温泉水を装置内に送る一方、102の送風機により送風される最大17立方メートル毎分の半分8.5立方メートルの外気を、103の一次外気送風管を通して装置内に送風する。1の温泉水散水部及びガス分離拡散部では温泉水から84リットル毎分のメタンガスが分離され、8.5立方メートルの外気と混合することにより、1パーセント体積濃度以下に希釈する。当該温泉水及び送風空気は5の落水部に流され、5でメタンガスが分離処理された温泉水とメタンガスが含まれる送風空気とに分ける。メタンガスを含む送風空気は5の落水部上空で送風方向を180度曲げ2の水分低減部へと上昇する。2は水分を除去し104の二次外気送風管により8.5立方メートルの外気を送風し0.5パーセント体積濃度以下までメタンを希釈するとともに送風空気の温度を外気温に近づける。そして3の消音部で騒音が発生しないように消音し、又105のガス濃度検知器で0.5パーセント体積濃度を基準に計測し管理しながら、4の排出口から大気へ放出する。一方、1で処理された温泉水は5の落水部から6の温泉貯留部に移動し、利用施設へ送られる。6は106の配湯管により温泉利用施設へ配湯されるまで貯留する。101は温泉井戸から1への送湯管である。102は送風機である。103は一次外気送風管で102の送風機により外気をとりいれ1へ送風する。104は二次外気送風管で102の送風機により外気をとりいれ2へ送風する。105はガス濃度検知器である。106は温泉水利用施設への配湯管である。114は吸気管で102の送風機により吸気を行い6の温泉貯留部上空に滞留したガスを排気する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の概念図である。
【図2】本発明の実施事例の正面図である。
【図3】本発明の実施事例の側面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 温泉水散水部及びガス分離拡散部
2 水分低減部
3 消音部
4 排気口
5 落水部
6 温泉貯留部
101 送湯管
102 送風機
103 一次外気送風管
104 二次外気送風管
105 ガス濃度検知器
106 配湯管
107 散水管
108 衝撃版
109 水位計
110 制御盤
111 温泉井戸
112 ポンプ
113 流量センサ
114 吸気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散水又は衝撃若しくはその両方によりガスを分離又は拡散若しくはその両方の機能を有することを特徴とする温泉水のガス分離装置
【請求項2】
送風機を有し一段階での送風又は二段階以上での送風をすることを特徴とする請求項第1項の温泉水のガス分離装置
【請求項3】
水分低減部又は温泉貯留部の滞留ガス排出部若しくはその両方を有することを特徴とする請求項第2項の温泉水のガス分離装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−291729(P2009−291729A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148886(P2008−148886)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(308016127)株式会社 エオネックス (2)
【出願人】(592141053)明和工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】