説明

温熱化粧用具及びそれを用いた化粧方法

【課題】十分な量の液体製剤が皮膚に浸透し、該液体製剤が本来有する効能が十分に発現される温熱化粧用具を提供すること。
【解決手段】発熱体2と、該発熱体2に隣接して配置された液体保持部材4と、該液体保持部材4に含浸された液体製剤とを有する温熱化粧用具1である。温熱化粧用具1からの液体製剤の移動量が3〜4.5μg/cm2である。温熱化粧用具1は、皮膚温度を38〜42℃の範囲に保持する時間が、25℃・40%RHの環境下で、5〜30分であり、かつ同環境下で皮膚温度を42℃超に加熱しない発熱特性を有していることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱を利用した化粧用具及びそれを用いた美容のための化粧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温熱を利用して化粧料を肌に吸収させる従来の技術として、例えば特許文献1に記載の顔面用温熱用具が知られている。この顔面用温熱用具は、通気性を有する通気面及び非通気面を有するシート状温熱体(A)と、水性組成物(B)と、キャリアシート(C)とを含むものである。この顔面用温熱用具は、その使用前には、シート状温熱体(A)と水性組成物(B)とが別々に気密性包装されている。使用時には、シート状温熱体(A)の非通気面にキャリアシート(C)が部分的に接合された状態で、キャリアシート(C)に担持された水性組成物(B)を顔面に接触させるように貼付する。水性組成物(B)は、キャリアシート(C)の重さの2〜8倍量がキャリアシート(C)に担持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−198325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし前記の温熱用具では、キャリアシート(C)に担持される水性組成物(B)の量が十分とは言えないので、該温熱用具を顔面に貼付しても十分な量の水性組成物(B)が皮膚に移行しづらい。したがって、水性組成物(B)が本来有する効能が十分に発現しづらい。
【0005】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る温熱化粧用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発熱体と、該発熱体に隣接して配置された液体保持部材と、該液体保持部材に含浸された液体製剤とを有する温熱化粧用具であって、該化粧用具からの該液体製剤の移動量が、以下の方法で測定した値で3〜4.5μg/cm2である温熱化粧用具を提供するものである。
〔液体製剤の移動量〕
25℃・40%RHの環境下で測定する。上質紙を水平かつ平坦な台の上に載置し、その上に、前記液体製剤が含浸された前記液体保持部材を有する前記温熱化粧用具を、該液体保持部材が上質紙と対向するように載置する。前記温熱化粧用具の全体に1.5g/cm2の圧力を加え、この状態を5秒間保持する。5秒経過後、前記温熱化粧用具を取り外して上質紙の質量を測定する。上質紙の質量増加分を、前記液体保持部材の面積で除して得られた値(μg/cm2)を、前記化粧用具からの前記液体製剤の移動量とする。
【0007】
また本発明は、前記の温熱化粧用具を用いた美容のための化粧方法であって、
前記発熱体を発熱させ、かつ前記液体製剤が含浸された前記液体保持部材を皮膚に当接させて、皮膚が加熱された状態下に前記液体製剤を皮膚に移行、浸透させ、
皮膚温度が38℃に低下するまで前記液体保持部材の皮膚への当接を継続し、
皮膚温度が38℃よりも低くなったら、前記液体保持部材を皮膚から離間させる化粧方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な量の液体製剤が皮膚に浸透し、該液体製剤が本来有する効能が十分に発現される温熱化粧用具及び化粧方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は、本発明の温熱化粧用具の一実施形態を示す平面図であり、図1(b)は図1(a)におけるb−b線断面図である。
【図2】図2は、図1に示す温熱化粧用具を備えたマスクを示す平面図である。
【図3】図3は、図2に示すマスクの使用状態を示す図である。
【図4】図4は、本発明の温熱化粧用具の他の実施形態を示す平面図である。
【図5】図5は、図4に示す温熱化粧用具を備えたマスクを示す平面図である。
【図6】図6は、本発明の温熱化粧用具の更に他の実施形態を備えたマスクを示す平面図である。
【図7】図7は、実施例1で得られた温熱化粧用具のしわ改善効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の温熱化粧用具は、温熱を利用して化粧料等の液体製剤を使用者の皮膚、特に顔面の皮膚に浸透させるものである。温熱の発生には発熱体が用いられる。この発熱体は、一般に、被酸化性金属の酸化反応を利用して熱を発生するものである。この発熱体の詳細については後述する。前記の液体成分は、温熱化粧用具が皮膚に当接する部位に配されている液体保持部材に保持されている。この液体保持部材は、前記の発熱体に隣接して配置されている。本発明の温熱化粧用具の使用に際しては、該化粧用具における液体保持部材の側を使用者の皮膚に当接させて、該液体保持部材に含浸保持されている液体製剤を使用者の皮膚に移行させ、かつ発熱体から生じた熱によって該液体製剤を使用者の皮膚に浸透させる。
【0011】
本発明の温熱化粧用具は、該化粧用具から放出される液体製剤の量に特徴の一つを有する。詳細には、本発明の温熱化粧用具から放出される液体製剤の量は、従来知られているこの種の化粧用具から放出される液体製剤の量よりも高く設定されている。本発明の温熱化粧用具から使用者の皮膚に向けて放出される液体製剤の量を高く設定することで、発熱体から生じる熱の作用と相まって、本発明の温熱化粧用具を使用中の使用者の皮膚の表面は、温熱下に非常に湿潤した状態となり、あたかも入浴中の高温高湿状態が実現される。そのような高温高湿の状態の実現によって、液体製剤が使用者の皮膚に迅速かつ多量に浸透するようになり、液体製剤が本来有する効能が十分に発現する。
【0012】
上述の利点を顕著なものとする観点から、本発明の温熱化粧用具においては、該化粧用具からの液体製剤の移動量を、以下の方法で測定した値で3.0〜4.5μg/cm2、好ましくは3.0〜4.0μg/cm2に設定している。液体製剤の移動量をこの範囲にすることで、該化粧用具の使用時に液ダレ等を生じさせずに、皮膚へ液体製剤に十分に浸透させることができる。この移動量が3μg/cm2未満である場合には、保持部材に浸透した液体製剤は、温熱化粧用具を皮膚に当接させた際にも使用者の皮膚へ移行せず、保持部材の中に取り込まれるだけという不都合がある。一方、この移動量が4.5μg/cm2超である場合には、過剰な液体製剤により使用中に液ダレが生じてしまう。また、液体製剤を温めるために発熱時のエネルギー量が多く消費されて、使用者が温熱を知覚しにくくなるか、又は十分な発熱温度に到達しない等の不都合を生じてしまう。
【0013】
液体製剤の移動量の測定方法は次のとおりである。25℃・40%RHの環境下で測定する。上質紙を水平かつ平坦な台の上に載置する。上質紙としてはフジゼロックスP紙(坪量64g/m2)を用いる。その上に、液体製剤が含浸された液体保持部材を有する温熱化粧用具を、該液体保持部材が上質紙と対向するように載置する。温熱化粧用具の全体に1.5g/cm2の圧力を加え、この状態を5秒間保持して、上質紙に液体製剤を吸収させる。5秒経過後、温熱化粧用具を取り外して上質紙の質量を測定する。上質紙の質量増加分、すなわち液体製剤を吸収した上質紙の質量から液体製剤を吸収する前の上質紙の質量を差し引いた値を、液体保持部材の面積で除す。このようにして得られた値(μg/cm2)を、温熱化粧用具からの液体製剤の移動量とする。測定は3回行い、その平均値を算出する。なお、液体保持部材の面積は、該液体保持部材の構成材料を一定の形状に切り取りその質量を測定し、その質量を該構成材料の坪量で除することで求める。なお、移動量の測定において用いる上質紙の大きさを、液体保持部材とほぼ同じにすると、液体製剤の横への拡散の影響を除外できるので一層精度のよい測定が可能となる。
【0014】
液体製剤の移動量を前記の範囲に設定するためには、該液体製剤が含浸保持されている液体保持部材の材質等を適切に選択すればよい。そのような液体保持部材としては、例えば液体の吸収保持が容易な材料である各種の繊維シート、スポンジや発泡体等の多孔質体、寒天、ゼラチンやコラーゲン等の天然素材の乾燥シート、及びこれらの複合材料などが挙げられる。液体保持部材は、使用者の肌に直接当接する部材であることから、肌触りが良好であることが有利である。このことを勘案すると、液体保持部材として繊維シートを用いることが好ましい。
【0015】
繊維シートとしては、各種の不織布、織布、編み物地、それらの積層材料等を用いることができる。これらの繊維シートのうち、各種の不織布を用いることが、液体の吸収保持が良好な点及び風合いが良好な点から好ましい。不織布としては、例えばエアスルー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブローン不織布、これらの不織布の複合材料が挙げられる。また、これらの不織布は、フィルム等の他のシート材料と複合化して用いてもよい。
【0016】
上述の各種の不織布のうち、特に、ニードルパンチ不織布を用いると、嵩高性のある、風合いのよい不織布が得られるので好ましい。
【0017】
上述の各不織布は、その構成繊維の太さが、1〜5dtex、特に2〜4dtexであることが、シートの強度及び肌さわりの点から好ましい。構成繊維の長さは、不織布の製造方法に応じて適切に決定され、連続フィラメント及びステープルファイバのいずれも用いることができる。不織布の坪量は、液体製剤の移動量に影響を及ぼす一因であり、本発明においては、該坪量が30〜100g/m2、特に30〜60g/m2であることが好ましい。また、不織布の厚みは0.2〜1mm、特に0.24〜0.43mmであることが、液体製剤の保持及び皮膚への移行の兼ね合いから好ましい。不織布の厚みは、ピーコック精密測定機器ダイヤルシックネスゲージによって測定する。
【0018】
なお、液体保持部材に含浸保持させる液体製剤の量が多いほど、該液体製剤の移動量は多くなる傾向はあるものの、両者は一次の相関を有する関係ではない。上述したとおり、本発明では、化粧用具から放出される液体製剤の量に特徴の一つを有するものであり、液体製剤の移動量とは、液体製剤を液体保持部材に含浸したときに、一定の圧力下において、該液体保持部材が該液体製剤を保持される量と、該液体保持部材から放出される該液体製剤の量の関係によるものである。本発明者らが、液体保持部材に含浸保持させる液体製剤の量と該液体製剤の移動量との関係について調べたところ、液体製剤の含浸保持量がある閾値を超えると、該液体製剤の移動量が急激に上昇することが見いだされた。先に述べた特許文献1には、同文献に記載の顔面用温熱用具における水性組成物(B)の含浸量が、キャリアシート(C)の重さの2〜8倍量であると記載されており、この含浸量はそれほど高いとは言えないことにかんがみると、このキャリアシート(C)からの水性組成物(B)の移動量は、本発明で規定する前記の範囲を大きく下回ると考えられる。
【0019】
本発明の温熱化粧用具において、液体保持部材に含浸保持させる液体製剤の量(以下、含浸保持量ともいう)は、含浸前の状態の液体保持部材100質量部に対して好ましくは800〜1500質量部、更に好ましくは890〜1500質量部、一層好ましくは1000〜1300質量部とする。液体製剤の含浸量をこの範囲内に設定することで、液体保持部材からの液体製剤の移動量を容易に上述した範囲内に設定することができる。
【0020】
液体保持部材からの液体製剤の移動量は、その組成によってもコントロールすることができる。例えば液体製剤の主基材成分を水とする水性液を用いると、液体保持部材からの液体製剤の移動量を容易に上述した範囲内に設定することができる。この観点から、液体製剤は水を50〜98質量%、特に60〜92質量%含有するものであることが好ましい。
【0021】
液体製剤は、皮膚へ浸透した該液体製剤の保持性、すなわち皮膚の保湿性を高める観点から、グリセリンを含有していることが好ましい。液体製剤に含まれるグリセリンの割合は、8〜25質量%、特に8〜20質量%であることが好ましい。
【0022】
液体製剤は、上述の成分に加えて、ヒトの皮膚、特にヒトの顔面の皮膚に対して効能を有する各種の薬効成分を含有していてもよい。そのような薬効成分としては、経皮吸収されて真皮の引き締め、美白、血行促進、脂肪分解促進、抗炎症等の効果を発現する物質が挙げられる。具体的には、植物抽出物、動物抽出物、グアニジン誘導体、カテコールアミン類、アミノ酸、ビタミン類、ホルモン、有機酸、天然抽出のスフィンゴシン誘導体、合成セラミド類似体等が挙げられる。液体製剤に占めるこれらの成分の割合は、それらの合計量で表して好ましくは3〜25質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。液体製剤は更に、必要に応じてpH調整剤や防腐剤といった、当該技術分野において通常用いられている成分を含有していてもよい。
【0023】
液体製剤が含浸保持される液体保持部材は、先に述べたとおり、発熱体に隣接して配置される。具体的には、発熱体を袋状の収容体内に収容し、該収容体と液体保持部材とを接合することで、該液体保持部材を発熱体に隣接して配置する。この収容体としては、例えば非透水性シートからなる第1の被覆シートと通気性シートからなる第2の被覆シートとの周縁域どうしが接合され、それらの内部に発熱体の収容空間が形成された扁平形状のものを用いることができる。この場合には、該収容体における非透水性シートの側に、液体保持部材が接合されることが好ましい。非透水性シートの側に液体保持部材を配置することで、該液体保持部材に含浸保持されている液体製剤の発熱体への吸収が、該非透水性シートによって遮断されるので、発熱体の発熱特性が損なわれにくくなる。
【0024】
前記の非透水性シートとしては、透水性を有さず、かつ通気性も有していないシートや、透水性は有しないが、通気性は有するシートを用いることができる。前者の例としては、樹脂製のフィルム等が挙げられる。後者の例としては、樹脂製の多孔性シートが挙げられる。一方、前記の通気性シートとしては、樹脂製の多孔性シートが挙げられる。
【0025】
第1の被覆シートである非透水性シートとして通気性を有さないものを用いた場合には、収容体は、その一方の面側、つまり液体保持部材が配置されていない方の面側から空気の流通が行われる。一方、第1の被覆シートである非透水性シートとして通気性を有するものを用いた場合には、収容体の両方の面から空気の流通が行われる。非透水性シートからなる第1の被覆シートが通気性を有する場合、この第1の被覆シートの通気性と、通気性シートからなる第2の被覆シートの通気性を比較した場合、発熱体の発熱特性を安定化させる観点から、第2の被覆シートの方が通気性が高いことが好ましい。
【0026】
非透水性シートからなる第1の被覆シートが通気性を有する場合、その通気度(JIS P8117、以下、通気度というときにはこの方法の測定値をいう)は5000〜100000秒/(100ml・6.42cm2)、特に10000〜40000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。一方、通気性シートからなる第2の被覆シートの通気度は、第1の被覆シートが通気性を有するか否かにかかわらず、500〜60000秒/(100ml・6.42cm2)、特に1500〜20000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。
【0027】
第1の被覆シート及び第2の被覆シートからなる収容体内に収容されている発熱体は、被酸化性金属の粒子を含み、更に電解質及び水を含んでいる。発熱体は、更に反応促進剤を含んでいてもよい。発熱体は、これらの成分を含む粉末状組成物の形態をしていてもよく、あるいはこれらの成分に加えて木材パルプや合成繊維等の繊維状物を含むシート状の形態をしていてもよい。発熱体がシート状の形態である場合、該発熱体は、湿式抄造された抄造体の形態や、繊維状物を含む繊維シートに、被酸化性金属の粒子等の固形分が担持された形態であり得る。
【0028】
発熱体を構成する被酸化性金属としては、例えば鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。反応促進剤としては、水分保持剤として作用するほかに、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能も有しているものを用いることが好ましい。反応促進剤としては例えば活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ等が挙げられる。電解質としては、被酸化性金属の粒子の表面に形成された酸化物の溶解が可能なものが用いられる。その例としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。
【0029】
本発明の温熱化粧用具から使用者の皮膚に付与される液体製剤の皮膚への浸透の程度を高めるためには、温熱化粧用具の発熱特性を適切にコントロールすることが有利である。本発明の温熱化粧用具を使用者の皮膚に当接させて、皮膚温度と液体製剤の皮膚への浸透の程度の関係を本発明者らが検討した結果、皮膚温度が38℃以上となる状態が5分以上持続することが、液体製剤の皮膚への十分な浸透の観点から有効であることが判明した。また、皮膚温度が38℃以上となる状態が30分を超えて持続しても、液体製剤の皮膚への浸透が飽和してしまうことも判明した。これらの観点から、本発明の温熱化粧用具は、これを使用者の皮膚に当接させた状態で、皮膚温度を38〜42℃の範囲に保持する時間が、25℃・40%RHの環境下で、5〜30分、特に5〜20分である発熱特性を有することが好ましい。また、本発明の温熱化粧用具は、これを使用者の皮膚に当接させた状態で、25℃・40%RHの環境下で皮膚温度を42℃超に加熱しない発熱特性を有することも好ましい。これによって、使用者の皮膚に過度の熱的負担が加わることを効果的に防止することができる。
【0030】
上述の皮膚温度の測定方法は次のとおりに行う。すなわち、測定部位の皮膚表面に熱電対を取り付け、粘着テープで保持し、その上から温熱化粧用具を当接し、発熱特性を測定する。熱電対は、データロガーに接続されており、温熱化粧用具を取り付け開始より熱電対と当接した部分の皮膚表面温度を測定する。測定点は温熱化粧用具と当接する部分の一箇所、または複数点でも良い。
【0031】
本発明の温熱化粧用具の発熱特性を上述のようにコントロールするためには、発熱体を収容する収容体を構成する第1及び第2の被覆シートの通気性を上述のとおりに設定することが有利である。また発熱体に含まれる各種の成分の割合を適切にコントロールすることも有利である。この観点から、発熱体に含まれる被酸化性金属100質量部に対して、電解質を1〜10質量部、特に3〜6質量部用いることが好ましく、反応促進剤を2〜15質量部、特に6〜12質量部用いることが好ましく、水を35〜65質量部、特に40〜55質量部用いることが好ましい。
【0032】
本発明の温熱化粧用具は、その使用前の状態においては、酸素遮断性の高い包材内に密封収容されている。そして使用に際して包材の封止を解き、温熱化粧用具を包材から取り出す。これによって、空気中の酸素との接触が始まり、発熱が開始する。そして、温熱化粧用具のうち、液体製剤が含浸された液体保持部材を使用者の皮膚に当接させて装着することで、発熱体の熱により皮膚が暖められた状態下で液体製剤を皮膚に移行、浸透させる。温熱化粧用具を装着し、化粧用具が当接する部位の皮膚温度が次第に上昇することによって、使用者の肌に移行した液体製剤も徐々に加熱され、使用者の皮膚と温熱化粧用具との間は高温高湿の状態となり、使用者の皮膚が液体製剤に含まれる各種成分を受け入れやすくなる。また、皮膚温度の上昇で皮膚の毛穴が開くため液体製剤を受け入れやすくなる。更に、液体製剤中にグリセリンが含まれていると、グリセリンの保湿効果によって、皮膚に浸透した液体製剤が皮膚に保持されやすくなる。この間、皮膚温度を38〜42℃の範囲に保持する時間を、先に述べたとおり5〜30分にすることが好ましい。
【0033】
更に時間が経過すると、発熱体の発熱が低下してきて、それに連れて皮膚温度も徐々に低下してくる。しかし、発熱が低下してきたからと言って、即座に温熱化粧用具を使用者の皮膚から離間させるよりも、皮膚温度がある程度低下するまで温熱化粧用具の皮膚への当接を継続し、皮膚温度がある程度まで低下してから温熱化粧用具を皮膚から離間させることが有利である。この理由は、皮膚温度がある程度高い状態で温熱化粧用具を皮膚から離間させてしまうと、皮膚温度が高いままの皮膚が外界に露出した状態になり、皮膚に浸透していた液体製剤が外界との温度差によって放出されてしまい、潤っていた皮膚が逆に乾燥してしまうからである。そこで本発明においては、皮膚温度が38℃に低下するまで温熱化粧用具の皮膚への当接を継続し、皮膚温度が38℃よりも低くなったら、温熱化粧用具を皮膚から離間させることが好ましい。温熱化粧用具を離間させる温度を38℃以下に設定した理由は、皮膚の細胞間脂質の相転移温度が約39℃であることから、皮膚温度がこの相転移温度よりも低下すれば細胞間脂質の水分バリア特性が発揮されるので、その後に温熱化粧用具を皮膚から離間させても、皮膚に浸透していた液体製剤の外界への放出を効果的に防止できるからである。
【0034】
このように、温熱化粧用具を使用者の皮膚から離間させるタイミングは、皮膚温度が38℃よりも低くなった時点であることが有利であるところ、皮膚温度を38〜42℃に保持する時間を上述の範囲とすることに加え、発熱の開始から皮膚温度が38℃よりも低くなるまでの時間は過度に長くならないようにすることが好ましい。例えば、皮膚温度の保持時間が前記範囲であっても、発熱開始から必要温度に達するまでの時間が長くなると、温熱化粧用具の全使用時間が長くなりすぎ、その使い勝手に影響がでるからである。この観点から、本発明の温熱化粧用具は、発熱開始から皮膚温度が38℃未満にまで低下するまでの時間が、25℃・40%RHの環境下で、5〜40分、特に7〜25分である発熱特性を有することが好ましい。本発明の温熱化粧用具がこのような発熱特性を有するためには、例えば発熱体を構成する各成分の割合を適切に調整したり、あるいは発熱体を収容する収容体を構成する第1及び第2の被覆シートの通気性を適切にコントロールしたりすればよい。
【0035】
本発明の温熱化粧用具は、これを例えば使用者の目尻、目の隈、目元、額、頬、鼻、口、顎、首等に当接させて使用され、それによってこれらの部位の皮膚の水分量を増加させ、皮膚に潤い感や、ハリ・ふっくら感を付与することができる。また液体製剤に各種の薬効成分が含まれている場合には、その薬効成分に起因するスキンケア効果、例えばしわの改善の効果や毛穴が目立ちにくくなる効果が発現する。特に、本発明の温熱化粧用具を、週に2〜5回使用し、これを2週間以上継続することで、前記の効果が一層際立つようになる。
【0036】
図1には、本発明の温熱化粧用具の一実施形態が示されている。同図に示す温熱化粧用具1は、扁平状の発熱体2と、発熱体2の各面を含む全体を被覆する収容体3と、収容体3の一面3aの外面上に配された液体保持シート4とを備えている。発熱体2は、その平面視において、略L字状の形状をしている。このような形状をしていることによって、後述するように、本実施形態の温熱化粧用具を用いて目尻と目の隈の両方に同時に熱を付与することができる。
【0037】
収容体3の一面3aは、非透水性シートからなる第1の被覆シートから構成されている。収容体3の他面3bは、通気性シートからなる第2の被覆シートから構成されている。第1及び第2の被覆シートは、発熱体2の周縁から外方に延出する延出域をそれぞれ有し、両被覆シートの延出域どうしが接合部3dによって連続して接合されている。第1及び第2の被覆シートの形状は、発熱体2の形状をほぼ倣ったものになっている。
【0038】
液体保持シート4は、収容体3の一面3aを構成する第1の被覆シートの上に積層されている。液体保持シート4は第1の被覆シートと略同形になっている。第1の被覆シートと液体保持シート4とは、先に述べた接合部3dにおいて接合されている。そして第1の被覆シートと液体保持シート4とは、接合部3dよりも内側の部位、具体的には、発熱体2が存在する領域において互いに非接合状態になっている。液体保持シート4には、所定量の液体製剤が含浸保持されている。
【0039】
上述の構成を有する温熱化粧用具1は、これをそのまま使用者の皮膚に当接させて用いてもよいが、好ましくは図2に示すようにマスク10の内面に取り付けて、図3に示すように使用することが有利である。
【0040】
図2に示すマスク10は、中心線CLに対して略左右対称に形成されている。なお、同図中に示す「Y」方向とは、中心線CLと平行な方向(縦方向)であり、「X」方向とは、中心線CLに垂直な方向(幅方向)である。
【0041】
マスク10は、装着時に使用者の両目の周囲を被覆する横長のマスク本体11を備えている(図2参照)。マスク本体11は、使用者の肌に当接する肌当接面11a及びそれと反対側に位置する非肌当接面11b(図3参照)を有している。本実施形態の温熱化粧用具1は、マスク10に対して左右一対用いられ、各温熱化粧用具1は、マスク本体11の肌当接面11a上における使用者の両目それぞれの目元に対応する部分Rに配されている。ここで、使用者の「目の周囲」とは、開眼状態における眼瞼裂の外側の領域をいい、眼窩の領域を含みかつそれよりも広い領域を指す。また、「使用者の目元に対応する部分R」とは、図2に示すように、マスク本体11の肌当接面11a上において、使用者の目頭(図3中の符号Eaで示す部分)と目尻(図3中の符号Ebで示す部分)との間の使用者の目の下の部位(図3中の符号Aで示す部分)から使用者の目尻を含む部位(図3中の符号Bで示す部分)に亘る部分に対応する部分を示す。
【0042】
マスク本体11は、略扁平状の1枚のシート材から形成されており、使用時に使用者の両目の周囲を覆うに足る形状及び大きさを有している。より具体的には、マスク本体11は、図3に示すように、Y方向において、顔の額(眉)から鼻尖にかけての部位を被覆し、X方向において、両頬間の部位を被覆するような大きさ及び形状をしている。使用者の両目それぞれに対応する部分は切り抜かれて開口部12,12が形成されており、また、使用者の鼻に対応する部分は切り欠かれて切り欠き部13が形成されている。
【0043】
マスク本体11は、図2に示すように、使用時に耳を掛ける一対の耳掛け部14,14を有している。耳掛け部14は、マスク本体11に配される温熱化粧用具1よりもX方向外方に延出する延出部において、使用者の耳の位置に対応する部分を切り抜いて形成されている。耳掛け部14の切り抜いた開口部に耳を通すことによって、マスク10を、使用者の両目の周囲を覆うように、使用者の顔面上に固定することができる。
【0044】
マスク本体11は、使用者の顔面上にフィットする観点から、X方向に伸長性を有していることが好ましい。ここで、マスク本体11が伸長性を有しているとは、マスク本体11の全体が伸長性を有している場合、及びマスク本体11の一部(例えば、耳掛け部14)のみが伸長性を有している場合の両方の場合を含む。
【0045】
マスク本体11の厚み(無荷重下における厚み)は特に制限されないが、良好な使用感を得る観点からは薄いことが好ましく、700Pa荷重下での厚みが0.3〜5mm、特に0.5〜2mmであることが好ましい。マスク本体11を構成するシート材としては、通気性及び伸長性を有しているものが好ましく、特に通気性及び伸縮性を有しているものが好ましい。具体的には、例えばスパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、エアスルー不織布、伸縮性を有するスパンボンド不織布等が挙げられる。
【0046】
温熱化粧用具1を構成する発熱体2は、図1に示すように、発熱体2における使用者の目に近い側に配される側部2cにおいて、その外縁2c1が目の周囲に沿うように(図3参照)、中央部2eに括れ部21が形成されている。その結果、マスク10の使用時においては、図3に示すように、温熱化粧用具1の側部2cの括れ部21が使用者の頬骨Cの頂部に対応する部位に配され、略L字状の形状の発熱体2が、図3に示すように、X方向に使用者の目頭Eaから目尻Ebに延在して使用者の目の下の部位Aを覆い、Y方向に使用者の目尻Ebを越えて延在して使用者の目尻を含む部位Bを覆うように配される。
【0047】
以上のように構成された本実施形態の温熱化粧用具1を備えるマスク10は、使用前は、一対の温熱化粧用具1,1が互いに重なるように、中心線CLに沿って二つ折りされた状態で、酸素遮断性を有する包材(図示せず)によって包装されており、温熱化粧用具1の発熱体2が空気中の酸素と接触しないようになっている。
【0048】
マスク10を使用するときには、温熱化粧用具1,1それぞれの液体保持シート4が使用者の皮膚に当接するように、マスク10の耳掛け部14の切り抜いた開口部に耳を通すことにより、マスク10を、使用者の両目の周囲を覆うように、使用者の顔面上に固定する。先に述べたとおり、温熱化粧用具1は、マスク本体11の肌当接面11a上における使用者の両目それぞれの目元に対応する部分Rにおいて、マスク本体11の開口部12それぞれの開口周縁に沿うように配されているので、耳掛け部14によってマスク10を使用者の両目の周囲を覆うように使用者の顔面上に固定すると、温熱化粧用具1の発熱体2は、図3に示すように、温熱化粧用具1の使用時に、使用者の目の下の部位Aから使用者の目尻を含む部位Bにわたって配され、側部2cの括れ部21が、使用者の頬骨Cの頂部に対応する部位に配される。
【0049】
次に、本発明の温熱化粧用具の他の実施形態について説明する。本実施形態の温熱化粧用具1は、平面視において、図4に示すように、略L字状の形状をしている。本実施形態の温熱化粧用具1は、扁平状の発熱体2と、発熱体2の各面を含む全体を被覆する収容体3と、収容体3の一面3aの外面上に配された液体保持シート4とを備えている。発熱体2は、図4に示すように、その平面視において、両側部2c、2dそれぞれの中央部2eに括れ部21を有している。発熱体2の両側部2c、2dは、本実施形態においては、図4に示すように、略S字状のカーブを描くように形成されている。
【0050】
本実施形態の温熱化粧用具1も、先述の実施形態の温熱化粧用具と同様、マスク本体11に配し、使用することが好ましい。具体的には、図5に示すように、発熱体2の側部2cが使用者の目に近い側になるように、温熱化粧用具1をマスク本体11の肌当接面11a上における使用者の両目それぞれの目元に対応する部分Rに配する。本実施形態を備えたマスク10は、発熱体2が先述の形状を有することによって、マスク10が装着された場合に、温熱化粧用具1の頬骨部に当接する部位には発熱体1の括れ部21が配されることとなる。したがって、頬骨部に当接する部位に発熱体2が存在しなくなるので、頬骨部が熱により赤くなることを低減することができる。
【0051】
次に、本発明の温熱化粧用具の更に他の実施形態について説明する。本実施形態の温熱化粧用具1は、図6に示すように、平面視において、各端部が丸みを帯びた略三日月形をしている。本実施形態の温熱化粧用具1は、扁平状の発熱体2と、発熱体2の各面を含む全体を被覆する収容体3と、収容体3の一面3aの外面上に配され、収容体3と略同形状の液体保持シート4とを備えている。本実施形態の温熱化粧用具1を構成する発熱体2、収容体3及び液体保持シート4は、図6に示すように、各端部が丸みを帯びた略三日月形をしている(温熱化粧用具1は、三日月の両端部に位置する接合部3dにおいてマスク本体11と固定されている。)。
【0052】
本実施形態の温熱化粧用具1も、先述の実施形態の温熱化粧用具と同様、マスク本体11に配し、使用することが好ましい。具体的には、図6に示すように、発熱体2の側部2cが使用者の目に近い側になるように、温熱化粧用具1をマスク本体11の肌当接面11a上における使用者の両目それぞれの目元に対応する部分Rに配する。
【0053】
本実施形態の温熱化粧用具1が配されるマスク本体11は、図6に示すように、Y方向において、顔の額(眉)から鼻尖にかけての部位を被覆し、X方向において、両頬間の部位を被覆するような大きさ及び形状をしている。マスク本体11はX方向に延びる上辺及び下辺、並びにY方向に延びる、上辺及び下辺と連なっている2つの側辺を有する。上辺は、顔の額の方向を上方向、顔の鼻の方向を下方向とした場合に(以下、上方向、下方向という言葉を用いた場合は同義)、上方向に凸ななだらかな曲線をしている。下辺は上方向に凸な曲線であり、かつその略中央部に、切り欠き部13となる切り欠きを有している。2つの側辺はそれぞれ、上辺及び下辺となだらかに連なっている。そして、2つの側辺は下辺に近づくしたがって、マスク本体11のX方向中央部に近づく。
【0054】
マスク本体11は使用者の両目それぞれに対応する部分は切り抜かれて形成された開口部12,12、また、使用者の鼻に対応する部分は切り欠かれて形成された切り欠き部13を有している。更に使用時に耳を掛ける一対の耳掛け部14,14を有している。耳掛け部14は、マスク本体11に配される温熱化粧用具1よりもX方向外方に延出する延出部において、使用者の耳の位置に対応する部分を切り抜いて形成されている。本実施形態の温熱化粧用具1が配されるマスク本体11においては、耳掛け部14は半楕円形をしており、かつその弦がマスク本体11の中央に向くように配されている。本実施形態の温熱化粧用具1が配されたマスク本体11は、顔の形状によらずに目元に隙間なく密着されるという効果を奏する。
【0055】
なお、以上の本発明の温熱化粧用具の他の実施形態を備えたマスクに関して、特に説明しない点については、最初に述べた温熱化粧用具及びマスクに関する説明が適宜適用される。
【0056】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記の実施形態に制限されない。例えば前記の実施形態においては、温熱化粧用具をマスク10に取り付けて使用する形態を説明したが、これに代えて、温熱化粧用具自体に取り付け部材を設けて、該取り付け部材によって温熱化粧用具を使用者の身体に取り付けてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0058】
〔実施例1〕
図1に示す形態の温熱化粧用具を以下の手順で製造した。
【0059】
<成形シートの作製>
<原料組成物配合>
・被酸化性金属:鉄粉、同和鉱業株式会社製、商品名「RKH」:84%
・繊維状物:パルプ繊維(フレッチャー チャレンジ カナダ社、商品名 NBKP「Mackenzi(CSF200mlに調整)」):8%
・活性炭:平均粒径45μm、(日本エンバイロケミカル株式会社、商品名「カルボラフィン」)8%
前記原料組成物の固形分(被酸化性金属、繊維状物及び活性炭の合計)100部に対し、カチオン系凝集剤であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)、商品名「WS4020」)0.7部及びアニオン系凝集剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)、商品名「HE1500F」0.18部を添加した。更に、水(工業用水)を、固形分濃度が12%となるまで添加しスラリーを得た。
<抄造条件>
前記スラリーを用い、これを抄紙ヘッドの直前で0.3%に水希釈し、傾斜型短網抄紙機によって、ライン速度15m/分にて抄紙して湿潤状態の成形シートを作製した。
<乾燥条件>
成形シートをフェルトで挟持して加圧脱水し、そのまま140℃の加熱ロール間に通し、含水率が5%以下になるまで乾燥した。乾燥後の坪量は450g/m2、厚さは0.45mmであった。このようにして得られた成形シートの組成を熱重量測定装置(セイコーインスツルメンツ社、TG/DTA6200)を用いて測定した結果、鉄84%、活性炭8%、パルプ8%であった。
【0060】
<発熱体の作製>
型抜き(20.4cm2)した成形シート100部に対して、濃度5%の43部の塩水を添加してシート状発熱体を作製した。通気度約3000秒/100cm3の炭酸カルシウムを含む延伸された多孔質のポリエチレン透湿性フィルムを第2の被覆シートとして用い、また坪量35g/m2のポリエチレンフィルムからなる非透水性シートを第1の被覆シートとして用いて収容体を作製した。この収容体内に、得られた発熱体を1枚収容した。
【0061】
<温熱化粧用具の作製>
芯がポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、鞘がポリエチレン(PE)からなる繊度3.3dtexの芯鞘型複合繊維30部と、コットン70部とからなる坪量50g/m2のスパンレース不織布(厚さ400μm)を第1の被覆シートの上に重ね、この不織布と第1の被覆シートとを、図1に示す接合部3dにおいて接合した。この不織布は、第1の被覆シートと略同形のものであった。この不織布に、以下の表1に示す組成の液体製剤1を含浸させた。含浸量は、不織布100部に対して920部とした。このようにして温熱化粧用具を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
得られた温熱化粧用具について、不織布からなる液体保持部材に含浸されている液体製剤の移動量を、上述の方法で測定したところ3.75μg/cm2であった。ここで、移動量の測定に際し、重ね合わせる液体保持部材と上質紙とは、同じ形状とした。また、この温熱化粧用具を、図2に示すマスク10に取り付け、このマスク10を図3に示すように10人の女性被験者(年齢30〜50代)に装着させた。この状態下に、温熱化粧用具が使用者の皮膚温度を38〜42℃の範囲に保持する時間を上述の方法で測定したところ平均で12分であった。皮膚温度の最高到達温度は41℃であった。また、発熱開始から皮膚温度が38℃未満にまで低下するまでの時間を測定したところ平均で14分であった。皮膚温度が38未満になったことを確認した後に、マスク10を被験者から取り外し、温熱化粧用具が当接していた部位の皮膚の角層の水分量を、共焦点顕微ラマン装置((株)東京インスツルメンツ製のナノファインダー30)を用いて測定した。その結果、水分量は平均で2.2(温熱化粧用具装着前の角層水分量との相対値;N=3、(各4回測定))であった。
【0064】
前記の温熱化粧用具を、前記の被験者に週3回の頻度で使用させ、目尻の小じわ及び目尻の深いしわの改善効果を検証した。検証前の状態を0とし、−2〜+2までの5段階評価でしわの改善効果を専門パネラーに評価させた。評価基準は以下のとおりである。比較は、液体製剤のみを使用した場合とした。これらの結果を図7に示す。図7に示す結果から明らかなように、本発明の温熱化粧用具を用いることで、しわの改善効果が明らかに発現することが判る。
+2:明らかに改善
+1:改善
0:変化なし
−1:悪化
−2:明らかに悪化
【0065】
〔実施例2〜5並びに比較例1及び2〕
表2に示す条件で、実施例1と同様にして温熱化粧用具を得た。得られた温熱化粧用具について、角層の水分量及び肌のしっとり感を評価した。結果を表2に示す。角層の水分量は実施例1と同様にして測定した。肌のしっとり感は、皮膚温度が38℃未満にまで低下してから温熱化粧用具を取り外し、更に30分経過したときの目もと周辺の状態を下記の基準で専門パネラーに判断させることにより評価した。
しっとりした・・・5点
ややしっとりした・・・4点
どちらともいえない・・・3点
あまりしっとりしない・・・2点
しっとりしない・・・1点
【0066】
【表2】

【0067】
〔実施例6〕
本実施例では、皮膚表面温度及び温度の保持時間の違いによる、温熱化粧用具から皮膚角層への水分の移行量の変化を調べるための模擬実験を行った。実施例1で製造した温熱化粧用具において、第1の被覆シートに配したスパンレース不織布に代えて、坪量が50g/m2で厚みが0.24mmであるコットン不織布を用いて温熱化粧用具を製造した。温熱化粧用具からコットン不織布を切り取り、切り取った該不織布に、実施例1と同じ組成を有する液体製剤を、該不織布100部に対して1250部含浸させた。この不織布上にラバーヒーターを載せ、液体製剤の移動量を、上述の方法で測定したところ4μg/cm2であった。この不織布1cm2を、25℃・40%RHの環境下で、6人の女性被験者(年齢30〜50代)の右腕前腕屈側部に接触させ、その上にラバーヒーターを載せた。ラバーヒーターにより、接触部の皮膚表面温度と保持時間を表3に示す皮膚表面温度と保持時間に保った。その後、不織布とラバーヒーターを取り外し、接触部の皮膚角層の水分量を、共焦点ラマン分光装置((株)東京インスツルメンツ社製のナノファインダー30)を用いて4回測定し、その平均値を算出した。水分量は、液体製剤接触前の角層水分量の測定値を基準とした相対値に換算した数値である。結果を表3に示す。表3に示すとおり、皮膚表面温度が低温(32℃)である場合でも、皮膚角層に十分な水分を移行させることができるが、移行させるためには保持時間を長時間にする必要があった。一方、皮膚表面温度が高温(39℃、40℃)である場合、短時間で皮膚角層に十分な水分を移行させることができた。
【0068】
【表3】

【0069】
〔実施例7〕
表4に示す液体製剤2を、不織布100部に対し950部を含浸させた以外は実施例1と同様にして温熱化粧用具を得た。得られた温熱化粧用具について、不織布に含浸されている液体製剤の移動量を、上述の方法で測定した。結果を表4に示す。この温熱化粧用具を、図2に示すマスク10に取り付け、このマスク10を図3に示すように6人の女性被験者(年齢30〜50代)の目もと周辺に装着させた。この状態下に、温熱化粧用具が使用者の皮膚温度を38〜42℃の範囲に保持する時間を上述の方法で測定したところ平均で10分であった。皮膚温度の最高到達温度は41.7℃であった。また、発熱開始から皮膚温度が38℃未満にまで低下するまでの時間を測定したところ平均で12分であった。更に、肌のしっとり感を上述の基準で専門パネラーに評価させた。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【符号の説明】
【0071】
1 温熱化粧用具
2 発熱体
3 収容体
4 液体保持シート
10 マスク
11 マスク本体
12 開口部
13 切り欠き部
14 耳掛け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と、該発熱体に隣接して配置された液体保持部材と、該液体保持部材に含浸された液体製剤とを有する温熱化粧用具であって、該化粧用具からの該液体製剤の移動量が、以下の方法で測定した値で3〜4.5μg/cm2である温熱化粧用具。
〔液体製剤の移動量〕
25℃・40%RHの環境下で測定する。上質紙を水平かつ平坦な台の上に載置し、その上に、前記液体製剤が含浸された前記液体保持部材を有する前記温熱化粧用具を、該液体保持部材が上質紙と対向するように載置する。前記温熱化粧用具の全体に1.5g/cm2の圧力を加え、この状態を5秒間保持する。5秒経過後、前記温熱化粧用具を取り外して上質紙の質量を測定する。上質紙の質量増加分を、前記液体保持部材の面積で除して得られた値(μg/cm2)を、前記化粧用具からの前記液体製剤の移動量とする。
【請求項2】
温熱化粧用具を皮膚に当接させた状態で、皮膚温度を38〜42℃の範囲に保持する時間が、25℃・40%RHの環境下で、5〜30分であり、かつ同環境下で皮膚温度を42℃超に加熱しない発熱特性を有している請求項1記載の温熱化粧用具。
【請求項3】
発熱開始から皮膚温度が38℃未満にまで低下するまでの時間が、25℃・40%RHの環境下で、5〜40分である発熱特性を有している請求項2記載の温熱化粧用具。
【請求項4】
前記発熱体が、非透水性シートと通気性シートとの周縁域どうしが接合して形成された収容体内に収容されており、該非透水性シートの外面に前記液体保持部材が配置されている請求項1ないし3のいずれかに記載の温熱化粧用具。
【請求項5】
前記液体保持部材100質量部に対して800〜1500質量部の前記液体製剤が保持されている請求項1ないし4のいずれかに記載の温熱化粧用具。
【請求項6】
前記液体製剤がグリセリンを含む水性液である請求項1ないし5のいずれかに記載の温熱化粧用具。
【請求項7】
請求項1記載の温熱化粧用具を用いた美容のための化粧方法であって、
前記発熱体を発熱させ、かつ前記液体製剤が含浸された前記液体保持部材を皮膚に当接させて、皮膚が加熱された状態下に前記液体製剤を皮膚に移行、浸透させ、
皮膚温度が38℃に低下するまで前記液体保持部材の皮膚への当接を継続し、
皮膚温度が38℃よりも低くなったら、前記液体保持部材を皮膚から離間させる化粧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−130484(P2012−130484A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284160(P2010−284160)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】