温熱素子
【課題】従来の標的ターゲット能を有する抗体が固定化された温熱素子において生じる標的ターゲット以外への非特異的な吸着およびそれによる副作用を防ぎ、十分な効果得るために必要な投与量を低減すること。
【解決手段】表面の少なくとも一部に金属を含む構造体と、構造体に対して親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原に対して親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子とで温熱素子を構成する。
【解決手段】表面の少なくとも一部に金属を含む構造体と、構造体に対して親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原に対して親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子とで温熱素子を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱素子に関する。
【背景技術】
【0002】
温熱療法(ハイパーサーミア;hyperthermia)とは、腫瘍部位が正常細胞より温度感受性が高いという性質を利用して、腫瘍細胞を選択的に殺し、癌を治療しようとする方法である。温熱療法による癌治療は、温熱の生物学的効果をみると、41〜45℃の比較的温和な加温で細胞致死効果が得られること、免疫能の亢進、また放射線療法や抗癌剤による化学療法と併用することにより相乗的な効果が得られることなど、有利な点が多い。しかし、周囲の正常組織に損害を与えることのない温度にまで、局所の腫瘍領域だけを加熱することが困難な場合が多い。
【0003】
この課題を克服するために、磁場印加や光照射により発熱することが知られている磁性微粒子や金属ナノ微粒子を腫瘍組織のみに蓄積させることが試みられている。腫瘍組織のみに磁性粒子を蓄積させることができれば、ヒステリシスロスによって交番磁場(AMF)において発熱を生じさせて、癌に特異的な温熱療法を達成することができる。そこで、細胞内温熱療法のメディエーターとして、マグネタイト陽イオン性リポソーム(MCL)が開発されている。これらのMCLでは、腫瘍細胞への吸着および取込みが改善されており、中性に荷電したマグネタイトリポソームに比べて10倍高い腫瘍細胞に対する親和性を有する。
【0004】
しかし、MCLは、ほとんどの細胞に結合することが可能であり、目的の細胞のみに選択的に結合する能力は十分とはいえず、これらのMCLは直接腫瘍組織に注入する必要がある。そこで、磁性微粒子や金属ナノ微粒子、またはリポソームの表面に抗体を固定化し、抗体が有する標的特異的結合能を利用することで、発熱源となる磁性粒子や金属ナノ粒子を腫瘍部位にターゲッティングする技術が検討されている(特許文献1及び2)。
【特許文献1】特開2006-273740
【特許文献2】米国特許 2003/0093092
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように標的腫瘍部位へターゲティングを目的とした際に、磁性微粒子や金属ナノ微粒子あるいはリポソームといった構造体上に抗体を結合させるためには、磁性微粒子及び又は抗体に化学的に修飾を施す必要が生じる。このような化学修飾は、抗体がその分子内に多数有するアミノ残基やカルボキシル基を標的とする場合が多い。しかしながら、その化学修飾のための反応にかかわる部位は非選択的であり、抗体が有する標的特異的結合能が低下する恐れがある。さらに、個々の抗体によってアミノ酸配列や分子表面状態が異なるため、必ずしも全ての抗体で同様の手法を用いることができないという課題があった。また、上記の修飾操作により固定化が可能である抗体についても、抗体の標的結合部位が必ずしも望ましい配向性を有しているとは限らない。更に、構造体表面へ抗体を固定化することにより、構造体との相互作用により抗体が変性し、抗体の標的結合能が低下する場合があることが知られている。結果として、標的以外の部位への非特異的な結合による正常部位の損傷や、十分な効果を得るために多量の投与が必要となることによる微粒子そのものの生体内での毒性および負荷といった副作用の恐れがあるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明では、以下に示す構成の温熱素子を用いることで上記課題を解決し得る発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の温熱素子は、外部信号により発熱する温熱素子であって、
(1)表面の少なくとも一部に金属を含む構造体と、
(2)前記金属への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子と、
(3)前記外部信号により発熱する発熱部と、
を有し、
前記多重特異性分子が前記金属結合部位を介して前記構造体に結合している
ことを特徴とする温熱素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、金属結合部位および細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子を用いることで、従来のような抗体及び/又は構造体への、これらの結合のための化学修飾が不要となる。更に、本発明における構造体との結合形態によれば、多重特異性分子は、金属結合部位を介して構造体に配向結合し、細胞表面抗原結合部位が構造体表面から離れた方向に配置された細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で配向させることが可能となる。更には、構造体表面から細胞表面抗原結合部位までの距離を保つことにより、細胞表面抗原結合部位の変性を抑えることができる。これらの効果によって、細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で維持し、また細胞表面抗原結合部位の変性によってもたらされる正常部位への非特異的な結合や多量投与による生体内への副作用を低減することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の温熱素子は、少なくとも以下の部分を有して構成される。
(1)表面の少なくとも一部が金属からなる構造体。
(2)前記金属を含む部分への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子。
(3)前記外部信号により発熱する発熱部。
【0010】
本発明にかかる温熱素子では構造体が発熱部を構成していてもよい。発熱のための外部信号としては、光および磁気の少なくとも一方を好ましく用いることができる。本発明にかかる温熱素子は癌治療のために用いることができる。その際に、多重特異性分子の細胞表面抗原結合部位として腫瘍関連分子結合性を有する部位を好ましく用いることができる。また、腫瘍関連分子結合性としては、上皮細胞成長因子受容体(ErbB2)結合性を好適に利用できる。
【0011】
以下に、本発明にかかる温熱素子について更に詳述する。
【0012】
まず、以下の各用語について説明する。
【0013】
<構造体>
本発明における構造体は、多重特異性分子の結合を可能とするために、その表面の少なくとも一部が金属を含む部分として形成されており、かつ温熱素子の基体として機能できる大きさ、形状、強度及び物性などを有するものであればよい。多重特異性分子の所望の結合が可能であれば、構造体の表面の全部に、あるいは構造体の表面に部分的に、金属を含む部分が形成されていればよい。金属としては、後述する多重特異性分子が有する金属結合部位が結合可能なものが少なくとも用いられる。構造体表面の金属を含む部分は、金属系材料からなる部分、例えば、金属、金属合金及びこれらの誘導体の少なくとも1種からなる部分、金属、金属合金及びこれらの誘導体の少なくとも1種の金属系材料と非金属系材料とからなる部分等として形成することができる。また、構造体を発熱部とする場合には、構造体の少なくとも一部を外部信号により発熱する材料から構成する。かかる発熱材料としては、昇温速度が早く、かつ発熱においても安定である材料が好ましい。更に、構造体自体は、生体内への影響がない、あるいは実質的に影響が少ない材料からなることが好ましい。これらの観点から、構造体の構成材料として用いることができる金属としては、貴金属類、例えば金が好ましい。更に、金以外にも、銀、白金、パラジウム、イリジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、または、これら金属を2種あるいはそれ以上含有する合金、さらにはこれらの誘導体などを挙げることができる。なお、かかる誘導体には金属化合物も含まれる。構造体の例としては、上記の金属、合金及びこれらの誘導体の少なくとも1種をからなる微粒子が例示できる。更に、例えば、金属分が70重量%以上であり、この金属分の80重量%以上がFeである鉄を主体とした磁性金属微粒子が挙げられる。かかる磁性金属微粒子の具体例としては、例えばFe−Co、Fe−Ni、Fe−Al、Fe−Ni−Al、Fe−Co−Ni、Fe−Ni−Al−Zn、Fe−Al−Siなどの合金または金属化合物からなる金属微粒子を挙げることができる。また、FeOx(4/3≦x≦3/2)で表わされる酸化鉄系の強磁性微粒子;FeOxにCr、Mn、Co、Niなどの二価の金属が添加された酸化鉄微粒子、FeOxにCo被着させたCo被着FeOx微粒子;二酸化クロムまたは二酸化クロムに、Na、K、Fe、Mnなどの金属、あるいはこれら金属の酸化物が添加された酸化物微粒子も挙げられる。また、構造体の形状は、本発明の効果を達成しえるものであれば如何なるものであってもよく、球形、ロッド型、針状、中空素子、異なる金属の層状構造(コア・シェル構造)、チューブ型等を挙げることができ、凹凸、突起を有していてもよい。
【0014】
本発明の構造体の大きさは、特に制限はない。EPR 効果(enhanced permeability and retentioneffect)を発揮できる大きさであること、更に腫瘍新生血管の透過性の亢進と腫瘍組織における滞留性による効果を発揮できることなどを考慮した場合には、粒径(直径)が10nm及至1000nmにあることが好ましい。さらに好ましい粒径は、10nm及至500nmであり、10nm及至200 nmであることが特に好ましい。
【0015】
また、構造体には各種の処理が施されていてもよい。例えば、構造体を、薬剤を保持した温度応答性高分子で処理することができる。構造体に温度応答性高分子を付与しておくと、構造体により発せられる熱によって温度応答性高分子が収縮し、薬剤の放出制御が可能となる。このような温度応答性高分子を用いる場合、多重特異性分子の有する機能を低下させないためには、薬剤を内包した温度応答性分子をコアとして含み、その外殻を構造体からなる層で被覆して、さらにその外殻に多重特異性分子を結合する構造とすることが好ましい。この場合、構造体からなる層は温度応答性高分子が収縮によって、部分的な崩壊などによりコア内部と外部とが連通するように構成されていることが好ましい。この層は、例えば、多数の微粒子状の構造体からなる層として形成できる。
【0016】
また、保持される薬剤としては特に限定されないが、例えば、温熱治療と併用して抗癌剤治療を行うための抗癌剤であってもよいし、熱処理後に速やかに多重特異性分子を分解させるために消化酵素などを含んでいてもよい。
【0017】
また、多重特異性分子が固定化された領域以外の部分への生体物質の吸着抑制や、複数の構造体の凝集を防止するための非特異吸着能を有する官能基を少なくとも一部に有する分子で表面処理を施してもよい。
【0018】
<細胞表面抗原>
本発明における細胞表面抗原とは、細胞表面、すなわち細胞膜で発現し、細胞膜を構成しているタンパク質、糖タンパク質、ペプチド、糖鎖、脂質およびそれらの複合体を指す。細胞表面抗原は、細胞の種類や分化状態によって発現が変化し、細胞の特性を解析するのに有用なマーカーであり、癌細胞を同定するための重要なマーカーとしても利用されている。
【0019】
<腫瘍関連分子>
本発明における腫瘍関連分子とは、正常細胞と比較して腫瘍細胞によって特異的にまたは独特に産生、発現される物質を指す。本発明における腫瘍関連分子は、すでに同定されたおよびまだ同定されていない分子を含み、断片、エピトープおよび腫瘍関連分子への任意のおよびすべての修飾を含む。
【0020】
例としては、胎児期に肝細胞で産生され胎児血中に存在する酸性糖蛋白であり、肝細胞癌(原発性肝癌)、肝芽腫、転移性肝癌、ヨークサック腫瘍のマーカーとなるα-フェトプロテイン(AFP)、肝実質障害時に出現する異常プロトロンビンであり、肝細胞癌で特異的に出現することが確認されるPIVKA-II;免疫組織化学的に乳癌特異抗原である糖蛋白で、原発性進行乳癌、再発・転移乳癌のマーカーとなるBCA225;ヒト胎児の血清、腸および脳組織抽出液に発見された塩基性胎児蛋白であり、卵巣癌、睾丸腫瘍、前立腺癌、膵癌、胆道癌、肝細胞癌、腎臓癌、肺癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌のマーカーである塩基性フェトプロテイン(BFP);進行乳癌、再発乳癌、原発性乳癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA15-3;膵癌、胆道癌、胃癌、肝癌、大腸癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA19-9;卵巣癌、乳癌、結腸・直腸癌、胃癌、膵癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA72-4;卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、卵管癌、子宮頸部腺癌、膵癌、肺癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA125;上皮性卵巣癌、卵管癌、肺癌、肝細胞癌、膵癌マーカーとなる糖蛋白であるCA130;卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、子宮頸部腺癌のマーカーとなるコア蛋白抗原であるCA602;卵巣癌(特に粘液性嚢胞腺癌)、子宮頸部腺癌、子宮体部腺癌のマーカーとなる母核糖鎖関連抗原であるCA54/61(CA546);大腸癌、胃癌、直腸癌、胆道癌、膵癌、肺癌、乳癌、子宮癌、尿路系癌等の腫瘍関連のマーカー抗原として現在、癌診断の補助に最も広く利用されている癌胎児性抗原(CEA);膵癌、胆道癌、肝細胞癌、胃癌、卵巣癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるDUPAN-2;膵臓に存在し、結合組織の弾性線維エラスチン(動脈壁や腱などを構成する)を特異的に加水分解する膵外分泌蛋白分解酵素であり、膵癌、膵嚢癌、胆道癌のマーカーとなるエラスターゼ1;ヒト癌患者の腹水や血清中に高濃度に存在する糖蛋白であり、肺癌、白血病、食道癌、膵癌、卵巣癌、腎癌、胆管癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫のマーカーとなる免疫抑制酸性蛋白(IAP);膵癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、肝細胞癌、肺腺癌、胃癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるNCC-ST-439;前立腺癌のマーカーとなる糖蛋白質であるγ-セミノプロテイン(γ-Sm);ヒト前立腺組織から抽出された糖蛋白であり、前立腺組織のみに存在し、それゆえ前立腺癌のマーカーとなる前立腺特異抗原(PSA);前立腺から分泌される酸性pH下でリン酸エステルを水解する酵素であり、前立腺癌の腫瘍マーカーとして用いられる前立腺酸性フォスファターゼ(PAP);神経組織及び神経内分泌細胞に特異的に存在する解糖系酵素であり、肺癌(特に肺小細胞癌)、神経芽細胞腫、神経系腫瘍、膵小島癌、食道小細胞癌、胃癌、腎臓癌、乳癌のマーカーとなる神経特異エノラーゼ(NSE);子宮頸部扁平上皮癌の肝転移巣から抽出・精製された蛋白質であり、子宮癌(頸部扁平上皮癌)、肺癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌のマーカーとなる扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原);肺腺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるシアリルLeX-i抗原(SLX);膵癌、胆道癌、肝癌、胃癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるSPan-1;食道癌、胃癌、直腸・結腸癌、乳癌、肝細胞癌、胆道癌、膵癌、肺癌、子宮癌のマーカーであり、特に他の腫瘍マーカーと組み合わせて進行癌を推測し、再発予知・治療経過観察として有用である単鎖ポリペプチドである組織ポリペプタイド抗原(TPA);卵巣癌、転移性卵巣癌、胃癌、大腸癌、胆道系癌、膵癌、肺癌のマーカーとなる母核糖鎖抗原であるシアリルTn抗原(STN);肺の非小細胞癌、特に肺の扁平上皮癌の検出に有効な腫瘍マーカーであるシフラ(cytokeratin;CYFRA)、等が挙げられる。卵巣癌,乳癌、大腸癌、非小細胞肺癌などで発現の上昇がみられる上皮成長因子受容体(ErbB1,ErbB2,ErbB3,ErbB4)が挙げられる。中でも、ErbB2に対する抗体(商品名:ハーセプチン(登録商標))は抗体医薬として、転移性乳がんの適応薬として承認されている。
【0021】
<多重特異性分子>
本発明における「多重特異性分子」とは、構造体の表面に含有される金属に対して親和性を有する金属結合部位と、細胞表面抗原に対して親和性を有する細胞表面抗原結合部位とを併せ持つ分子である。「親和性」とは、物質間の相互作用により、結合対象物質と特異的に結合状態を形成できる性質を指す。この物質間の相互作用には、化学反応による結合や金属間結合などの結合は含まれない。
【0022】
本発明における多重特異性分子は、上述のとおり、金属結合部位と細胞表面抗原結合部位との二つの異なる結合部位を有する。金属結合部位は、構造体の表面に含まれる1種の金属に対する親和性を有するものであっても、2種以上の金属に対して親和性を有するものであってもよい。また、2種以上の異なる金属のそれぞれに親和性を有する2以上の眷属結合部位を有するものであってもよい。この構造を有する多重特異性分子は、金属結合部位を介して構造体に配向結合し、細胞表面抗原結合部位が構造体表面から離れた方向に配向される。その結果として、細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で配向させることが可能となる。更には、構造体表面から空間的距離を保ち、細胞表面抗原結合部位の変性が抑えることができる。また、金属結合部位には細胞表面結合機能が要求されないので、金属結合部位の構造設計の自由度が広がり、安定な立体構造を付与し易くなる。また金属結合部位と細胞表面結合部位の間に、リンカーを介することによって空間的距離を保つことができる。その結果、細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で維持し、また細胞表面抗原結合部位の変性によってもたらされる正常部位への非特異的な結合や多量投与による生体内への副作用を低減することが期待できる。
【0023】
多重特異性分子における金属結合部位及び又は細胞表面抗原結合部位は、各々所定の機能を有し、本発明に適用できるものであれば特には限定されない。例えば、結合対象としての金属への特異的結合能を有する、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、核酸、糖またはこれらの誘導体、およびこれらの複合体を金属結合部位の構成材料として利用できる。また、例えば、結合対象としての細胞表面にある抗原への特異的結合能を有する、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、核酸、糖またはこれらの誘導体、およびこれらの複合体を細胞表面抗原結合部位の構成材料として利用できる。
【0024】
多重特異性分子の有する結合部位の少なくとも一部に、抗体可変領域の少なくとも一部を含んでなるものを用いることが好ましい。抗体可変領域は、標的に対する特異性が高く、また、抗体可変領域が有する立体的にも安定したβシート構造からなるβサンドイッチ構造を有する。このβサンドイッチ構造により、構造体と細胞表面抗原結合部位との間に適度な空間位置を保つことが可能で、かつ結合対象物質との結合による衝撃を吸収することが可能である。その結果、細胞表面抗原結合部位が、構造体から何らかの相互作用を受けることがなく、結合能を保持することができる。更に、結合力の高い抗体もしくは抗体断片を人工的に作製することができる点で有効である。
【0025】
ここで、「抗体」とは以下の(1)及び(2)に分類されるタンパク質の一群を示す。
(1)すべての脊椎動物のリンパ系細胞で産出される抗体。
(2)上記(1)の抗体のアミノ酸の1以上が抗体としての所望の機能を維持し得る範囲内で欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、その構造・機能において関連を有するタンパク質。
【0026】
抗体は、その特性(免疫学的または物理学的な)の分類において、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに分類される。
【0027】
<抗体断片>
「抗体断片」とは、抗体或いは免疫グロブリンの全長に満たない抗体の任意の分子或いは複合体をいう。好ましくは、抗体フラグメントは、少なくとも、全長抗体の特異的結合能力の重要な部分を保持する。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、ディアボディー、およびFdフラグメントが挙げられるがこれらに限定されない。多重特異性分子の金属結合部位及び細胞表面結合部位が抗体断片から構成される場合、抗体を用いるよりも全体としての低分子量化が可能であり、ヒトへ投与する際に、余分な免疫原性を抑制または低減し、腫瘍部位への浸潤性の向上とそれによるプロテアーゼ等による分解からの保護が期待できる。
【0028】
抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、酵素的または化学的に、インタクトな抗体の断片化によって産生され得る。あるいは部分抗体配列をコードする遺伝子より組換え的に産生され得る。あるいは、抗体断片は、全体的にまたは部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、必要に応じて、一本鎖抗体断片とすることもできる。あるいは、抗体断片は、例えば、ジスルフィド(−S−S−)結合によって連結される複数の鎖を含み得る。抗体断片はまた、必要に応じて、複数の分子の複合体でも良い。機能的な抗体断片は、代表的には、少なくとも約50アミノ酸を含み、より代表的には少なくとも、約200アミノ酸を含む。
【0029】
「抗体の可変領域」とは、標的物質(抗原)の種類により特異的な結合/捕捉機能を発揮するために抗原毎に異なるアミノ酸配列部分を有する、免疫グロブリンの先端のドメインであり、通常Fvと記される。Fvはまた、「重鎖の可変ドメイン(以下VHと記す場合もある)」、及び「軽鎖の可変ドメイン(以下VLと記す場合もある)」から成り、免疫グロブリンGではVH、VLドメインを通常それぞれ2ずつ含む。多重特異性分子は、Fvまたはその一部であってもよく、例えばFvを構成する重鎖可変領域(VH)や軽鎖可変領域(VL)またはその一部であってもよい。一方、VHとVLからなる複合体としては、一方のカルボキシ末端と他方のアミノ末端数個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結した一本鎖Fv(single chain Fv:scFv)を利用することもできる。scFvを形成するVH/VL間(順不同)に一以上のアミノ酸からなるリンカーを設けることが望ましい。アミノ酸リンカーの残基長については、VHまたはVLと抗原との結合に必要な構造形成を妨げるような拘束力を持たないように設計することが重要である。具体的な例としては、アミノ酸リンカー長は、5乃至18残基が一般的で15残基が最も多く用いられ検討されている。これら断片は遺伝工学的な手法により得ることが可能である。
【0030】
抗体可変領域(Fv)はVHまたはVL単独、またはこれら複合体(Fv、scFvを含む)であっても構わない。更に、VHまたはVL、もしくはVH/VL複合体の一部であっても、金属微粒子及び細胞表面抗原に対して結合性を有するものであれば何ら問題はない。構造体の表面に少なくとも一部に金を含む場合、前記抗体可変領域が金結合性を有することが好適である。
【0031】
構造体の表面の少なくとも一部に金を含むとき、多重特異性分子の金属結合部位として、抗体可変領域が配列番号:1乃至配列番号:57のアミノ酸配列から選択された少なくとも一つを有することが望ましい。そのような抗体可変領域のアミノ酸配列の一例を、配列番号:58乃至配列番号:78に示す。これら配列において、一個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を少なくとも一以上含んだものであっても、上述のように所望の機能を発揮できるのであれば本発明で用いる多重特異性分子として何ら問題はない。
【0032】
多重特異性分子が有する金属結合部位及び細胞表面抗原結合部位は、双方が抗体断片であっても良いし、一方が抗体断片、他方が5以上のアミノ酸からなるペプチド鎖であってもよく、双方が5以上のアミノ酸からなるペプチド鎖であってもよい。また、細胞表面抗原結合部位として、細胞表面抗原のリガント分子もしくは受容体を用いることができる。例えば、成長因子、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、細胞接着分子、ホルモン、神経伝達物質,レクチン等のリガンド分子やこれらの受容体タンパク質を用いることができる。細胞表面抗原結合部位としては、細胞表面抗原に対して特異的に親和性を有するものであれば、種々の組み合わせから本発明の目的にあった機能を有するものを選択して用いることが可能である。
【0033】
これらの結合部位の双方が抗体断片である場合についての具体例を図1に示す。この例では、多重特異性分子の最小単位は、構造体表面に含まれる金属を認識する第一のドメインと細胞表面抗原を認識する第二のドメインから構成される。その組み合わせ例としては、VH(金属)−VH(細胞表面抗原)、VH(金属)−VL(細胞表面抗原)、VL(金属)−VH(細胞表面抗原)、VL(金属)−VL(細胞表面抗原)といった組み合わせが挙げられる。
【0034】
更に、第一のドメインと複合体を形成する、VHの少なくとも一部及び/またはVLの少なくとも一部を含む第三のドメインを更に有するものでもよい。また、第二のドメインと複合体を形成する、VHの少なくとも一部及び/またはVLの少なくとも一部を含む第四のドメインを更に含んでなる構成であっても良い。あるいは、これらの第三のドメインと第四のドメインの両方を更に含むものであってもよい。なお、第三のドメインは、第一のドメインと複合体を形成することにより、第一のドメインと相補的な金属結合部位を形成することがより望ましい。例えば、図2の模式図で示すように第一のドメイン1がVH(金属結合部位:以下「金属」と表記する)である場合、第三のドメイン3は第一のドメイン1とFvを形成し得るVL(金属)であることが好ましく、より好ましくは第一のドメイン1と第三のドメイン3が金属結合部位を連合して形成する構成である。このように第一のドメイン1が第三のドメイン3とFvを形成することにより、構造的により安定化し、構造変化による機能低下を抑制することが期待できる。さらに、第三のドメイン3が第一のドメイン1と連合して金結合部位を形成することにより、更に結合能(例えば、結合速度の向上、解離速度の抑制等)を向上することも期待される。
【0035】
更には、第一のドメイン1と第三のドメイン3は、それぞれ独立したポリペプチド鎖として設けても、連鎖してなるポリペプチド鎖であってもよい。例えば、図2の模式図に示す例では、第一のドメイン1と第二のドメイン2はリンカー5で連鎖しており、第三のドメイン3はこれらに対して独立したドメインとして設けられている。また、図3の模式図に示すように第三のドメイン3−第一のドメイン1−第二のドメイン2がリンカー5により1つの鎖として連結した構造を挙げることができる。なお、金属及び細胞表面抗原に対してそれぞれのドメイン及びドメイン複合体の結合能が発揮されるように適宜その構成を決定することができる。また、別の例として、図4の模式図に示すような構成も可能である。つまり、第一のドメイン1と第二のドメイン2からなるポリペプチド鎖と第三のドメイン3と第二のドメイン2からなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第一のドメインと第三のドメインから形成されるFvまたはFv様複合体により金属結合部位を連合して形成し、両ポリペプチド鎖を細胞表面抗原に対して結合するアンカーとして第二のドメインが機能するものである。
【0036】
また、第四のドメインは、第二のドメインとともに細胞表面抗原に対する結合部位を相補的に形成することが望ましい。例えば、図5の模式図に示すように、第二のドメイン2がVLである場合、第四のドメイン4は第二のドメイン2とFvを形成し得るVHであることが好ましく、より好ましくは第二のドメイン2と第四のドメイン4が細胞表面に対する結合部位を連合して形成する構成である。また、図6の模式図に示すように、第一のドメイン1、第二のドメイン2及び第四のドメイン4が連鎖したポリペプチド鎖を形成してもよい。
【0037】
更に、図7の模式図に示すような構成も可能である。つまり、第一のドメイン1と第二のドメイン2からなるポリペプチド鎖と第一のドメイン1と第四のドメイン4からなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第二のドメイン2と第四のドメイン4から形成されるFvまたはFv様複合体により細胞表面抗原を結合し、両ポリペプチド鎖を金属に対して結合するアンカーとして第一のドメイン1が機能するものである。
【0038】
また、図8の模式図に示すように第三のドメイン3及び第四のドメイン4がそれぞれ、連鎖している第一のドメイン1と第2のドメイン2に対して独立したポリペプチド鎖であっても、図9の模式図に示すように、第一のドメイン1と第2のドメイン2が、第三のドメイン3及び第四のドメイン4がそれぞれ、連鎖されてなるポリペプチド鎖であってもよい。連鎖したポリペプチド鎖の場合、第三のドメインと第四のドメインを直接連鎖してもよいし、図9のように一以上のアミノ酸からなるリンカーを介して連鎖してもよい。リンカー長の設定については、前記と同様にアミノ酸からなるリンカーは1乃至10アミノ酸であることが好ましい。より好ましくは1乃至5個のアミノ酸からなるものである。
【0039】
また、図10の模式図に示すように第一乃至第四のドメイン1〜4が一つのポリペプチド鎖内に連鎖されたものであってもよい。この場合、第一のドメイン1と第三のドメイン3が複合体を形成し金属と結合し、第二のドメイン2と第四のドメイン4が複合体を形成し細胞表面抗原に結合できるように配置できるように構成されるものである。その為に、リンカーをドメイン間に設けることが好ましい。例えば、第一及び第二のドメイン間、第三及び第四のドメイン間は1乃至5アミノ酸であり、第二及び第三のアミノ酸のドメイン間は15乃至25アミノ酸である。同じような構成において、第一のドメインと第二のドメイン、第三のドメインと第四のドメインをそれぞれ/双方とも入れ替えること可能である。これら一本鎖ポリペプチド内における各ドメインの配列は、金属または細胞表面抗原に対する結合性、及び本多重特異性分子の長期安定性等、所望の特性に応じて適宜選択して決定することが可能である。
【0040】
更に、上記のように抗体断片から構成される多重特異性分子の各部分は、所望の結合能に影響の大きくない部分の一部を遺伝的に改変することも可能である。かかる改変は、上記のように結合部位を形成するドメイン複合体の組み合わせ(例えば、第一のドメインと第三のドメイン、または第二のドメインと第四のドメイン)において、結合性特性の向上、及び安定性の向上を図る場合に有用である。例えば、上記ドメイン間の接合界面にてジスフィルド結合を形成できるようにする方法が挙げられ、例えば、前記したドメイン複合体(例えば、第一のドメインと第三のドメイン、または第二のドメインと第四のドメイン)の接合界面部の所望の部位にシステイン残基を導入する方法が利用できる。また、リンカー内に二つのシステインを設けることにより、同じ結合部位を形成するドメイン複合体の形成補助や、安定性を向上させる方法も利用可能である。
【0041】
多重特異性分子が有する金属及び細胞表面抗原に対する結合部位の一方を抗体断片とし、他方を親和性ペプチドとすることもできる。この場合、これら親和性ペプチド鎖としては、従来既知のファージディスプレー法に代表されるペプチド提示によるスクリーニング法や、計算化学を用いた設計等からその結合性において選択し、好適なものを用いることができる。また、従来公知であるペプチドのアミノ酸配列(Nature Materials、Vol.2、pp577、2003)を参考に候補ライブラリーを作製し、スクリーニングを行うことも可能である。例えば、上記抗体可変領域またはその複合体のN末端またはC末端に上記親和性ペプチドを融合したタンパク質を形成することも可能である。
【0042】
また、多重特異性分子は、金属結合性および細胞表面抗原結合性に影響を及ぼさない限り、一部に本発明を適用する際に望ましい機能を有する部位を付加することもできる。例えば、温熱素子を複数回使用する場合、多重特異性分子が熱により変性し標的部位との結合能が低下するのを抑制するのが望ましい。そのような場合、熱ショックタンパク質などのシャペロン分子を多重特異性分子との融合タンパク質として発現させることで熱による変性を抑制することができる。
【0043】
このような多重特異性分子は、タンパク質として遺伝子工学的に作製が可能である。一本のポリペプチド鎖として作製することも可能であるが、複数のポリペプチド鎖の複合体によって構成されるように作製しても、本発明に求められる機能を損なわないものであればその形態は問題ではない。
【0044】
更に、上記の場合と同様に結合部位を形成するscFvの組み合わせ(例えば、上記第一のドメインと上記第三のドメイン、または上記第二のドメインと上記第四のドメイン)に対して、所望の結合能に影響の大きくない部分の一部を遺伝的に改変してもよい。この改変は、結合性特性の向上、及び安定性の向上を図ることを目的として行うことができる。例えば、上記scFv間の接合界面にてジスフィルド結合を形成できるようにする方法が挙げられる。かかるジスルフィド結合の形成のための構造は、例えば、前記scFv(例えば、上記第一のドメインと上記第三のドメイン、または上記第二のドメインと上記第四のドメイン)の接合界面部の所望の部位へのシステイン残基の導入により得ることができる。また、上記リンカー内に二つのシステインを設けることにより、同じ結合部位を形成するscFv形成補助や、安定化する方法も可能である。
【0045】
一本鎖として形成する場合、所望の構造を有する融合タンパク質の発現のための融合核酸を用いることができる。この融合核酸としては、例えば、前記抗体可変領域をコードする核酸の5'末端(または3'末端)に前記親和性ペプチドをコードする核酸を挿入した融合核酸を挙げることができる。この融合核酸を用いて、前記可変領域のN末端(またはC末端)に前記金属微粒子親和性ペプチドを融合したタンパクを得ることができる。
【0046】
上記のような多重特異性分子をコードした核酸を種々の発現ベクターに導入、発現・精製することにより多重特異性分子を融合タンパクとして得ることができる。
【0047】
タンパク質発現用ベクターとしては、選択する既知の宿主細胞に応じて、多重特異性分子をコードする導入遺伝子を、発現させるために必要な既知のプロモーター等の構成等に組み込むことより、設計及び構築することができる。大腸菌等を宿主細胞として用いる場合、外来遺伝子産物であるタンパク質またその構成物を速やかに細胞質外に除外することで、プロテアーゼによる分解を少なくすることが可能である。また、この外来遺伝子産物が菌体にとって毒性である場合でも、菌体外へ分泌することによりその影響を小さくすることができることが知られている。通常、既知の細胞質膜あるいは内膜を通過して分泌されるタンパク質の多くがその前駆体のN末端にシグナルペプチドを有し、分泌過程においてシグナルペプチダーゼにより切断され、成熟タンパク質となる。多くのシグナルペプチドはそのN末に塩基性のアミノ酸、疎水性アミノ酸、シグナルペプチダーゼによる切断部位と配置されている。
【0048】
目的とするタンパク質をコードする核酸の5'側にシグナルペプチドの一つとされているpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより分泌発現させることができる。
【0049】
また、多重特異性分子が複数のポリペプチド鎖の複合体として形成される場合。個々のポリペプチドを別個のベクターにて作製することも可能であるが、ひとつのベクター中に複数のポリペプチド鎖を作製できるように構成することも可能である。この場合、各ドメインまたはポリペプチド鎖をコードする核酸の5'側にpelBをコードする核酸を配置し、分泌を促すことができる。更に、または一以上のドメインからなるポリペプチド鎖として発現させる場合、前記ポリペプチド鎖の5'末端に同様にしてpelBをコードする核酸を配置することにより分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合したタンパク質は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。
【0050】
また、発現させたタンパク精製時の作業の簡便さを考慮して、抗体分子、または独立した各抗体断片もしくは複数の抗体断片が連続して結合して形成されたポリペプチド鎖のNまたはC末端に精製用のタグを遺伝子工学的に配置することが可能である。例えば、前記精製用タグとしては、ヒスチジンが6残基連続したヒスチジンタグ(以下、His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)のグルタチオン結合部位などが挙げられる。前記タグの導入方法としては、前記発現用ベクターにおける金結合性タンパク質をコードする核酸の5'または3'末端に精製タグをコードする核酸をベクター内の所定の位置に挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用するなどが挙げられる。
【0051】
以下に、上記発現ベクターを用いた多重特異性分子の製造方法例について述べる。
【0052】
本発明の癌治療用の温熱素子を構成する多重特異性分子であるタンパク質、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、遺伝子組み換え技術により生産することができる。例えは、従来既知のタンパク発現用の宿主細胞を、宿主細胞に応じて設計したタンパク質発現用ベクターで形質転換し、宿主細胞内のタンパク合成システムを用いて、目的とするタンパク質を宿主細胞内で合成することができる。その後、宿主細胞内に蓄積された、または細胞質外に分泌された目的タンパク質をそれぞれ細胞内部画分または細胞培養上清から精製する。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合、タンパク質をコードする核酸の5'側にpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより細胞質外に分泌発現するように試みることができる。
【0053】
ひとつの発現用ベクターに構成要素となるポリペプチド鎖を複数コードすることも可能である。その場合、構成要素となる各ポリペプチド鎖をコードする核酸の5'側にpelBをコードする核酸を配置し、発現時に細胞質外への分泌を促すことができる。
【0054】
このようにシグナルペプチドをN末端に融合したタンパク質は、ペリプラズマ画分及び培地上清画分から精製することができる。精製方法としては、目的のタンパク質を含む画分から硫酸アンモニウム等によりタンパク質成分を濃縮した後に再度適当なバッファーに懸濁し、カラム精製を行う。例えば、精製タグがHisタグの場合はニッケルキレートカラムで、精製タグがGSTの場合はグルタチオン固定化カラムを使用すること等により目的のタンパク質を精製することができる。
【0055】
また、菌体内に発現したタンパク質を不溶性顆粒で得ることも可能である。この場合、培養液から得られた菌体をフレンチプレスや超音波により破砕した細胞破砕液から前記不溶性顆粒を遠心分離することができる。得られた不溶性顆粒画分を尿素、塩酸グアニジン塩を含むの従来既知の変性剤を含んだ緩衝溶液で可溶化した後に、変性条件下で前記同様なカラム精製することができる。得られたカラム溶出画分は、リフォールディング作業により、変性剤除去と活性構造再構築を行うことができる。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。例えば、段階透析法や希釈法など従来既知の方法を目的のタンパク質に応じて用いることが可能である。
【0056】
多重特異性分子の各ドメインまたは各ポリペプチド鎖は、同一宿主細胞内で発現させることも可能であるし、別の宿主細胞を使用して発現した後に共存させて、複合体化させることも可能である。
【0057】
更に、多重特異性分子をコードする核酸を含む上記ベクターを、細胞抽出液を用いて生体外での目的のタンパク質発現をすることも可能であることが知られている。好適に用いられる細胞としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等が挙げられる。しかしながら、上記無細胞抽出液によるタンパク合成は還元条件下で行われることが一般的である。その為に、抗体断片中のジスルフィド結合を形成させるために従来既知のリフォールディング処理を行うことがより好ましい。
【0058】
更に、また、前述の多重特異性分子の金属結合部位または細胞表面抗原結合部位の何れか一方に化学修飾基を導入することが可能である。例えば、構造体の表面の少なくとも一部に金が露出している場合、金属微粒子表面に結合性を有する部位以外にSH基を末端部に有する導入基を導入することにより、本発明の多重特異性分子とすることができる。また、金に対して結合部位を有する多重特異性分子にシラノール基やアルコシキシランを有するような官能基を導入することも可能である。このような官能基の導入により、本発明の多重特異性分子の金属または細胞表面抗原標的結合部位への結合性を高めることが可能である。
【0059】
<温熱素子>
本発明において温熱素子とは、外部信号により発熱する構造体を有する物質を指す。本発明の温熱素子は、先に記載したとおり、少なくとも以下の構成要素を有する。
(1)表面の少なくとも一部が金属からなる構造体。
(2)前記金属を含む部分への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子。
(3)前記外部信号により発熱する発熱部。
【0060】
本発明における温熱素子の一例の構成を図11に示す。また、図12に本発明が適用できる癌治療用素子の別の形態について示す。この癌治療用温熱素子は、構造体としての金属微粒子、金属微粒子表面に結合した多重特異性分子、コア粒子、コア粒子表面に被覆した温度応答性高分子、温度応答性高分子に内包された放出剤からなる。この構成により、外部信号の付加により金属微粒子より発せられる熱発生により温度応答性高分子に内包された放出剤を放出することが可能となる。内包する放出剤としては、ハイパーサーミアによる効果と併用することで、殺腫瘍効果を相乗的に向上できる抗癌剤等の薬剤が好ましい。例えば、種々の生理活性作用のあるタンパク質やペプチド、脂質、糖、核酸等が挙げられるが、本発明において適用可能なものであれば特に限定されない。
【0061】
(外部信号)
本発明の温熱素子は外部信号の付加により、熱を発生する機能を有する。外部信号としては、光、磁気、電気等が挙げられる。なお、外部信号は、被投与側への影響がないか、あるいは影響が少なくいものであることが望ましい。そのような観点から、光及び磁気(磁界の変化)の少なくとも一方を用いるのが好ましい。光の場合、波長などの選択は、用いる金属、被投与側への影響を鑑み、適宜選択されるものである。例えば、構造体として金微粒子(粒径:1nm乃至100nm)を用いた場合は、動物体内の組織及び細胞に殆ど害を及ぼさない800nm乃至1200nmの光を吸収し、発熱する。この発熱により、腫瘍組織を局所的に加熱し、損傷、死滅せしめることが可能である。また、構造体を金微粒子とした場合、例えば、短波からマイクロウェーブ領域の10MHz乃至2GHzの高周波を与えることに熱を発することが知られている。照射時間は照射に使用する波数に応じて適宜定めることができる。
【0062】
本発明の温熱素子を用いて熱を発生させるために用いる信号入力用装置は、本発明の温熱素子の使用目的に応じて選択できる。例えば、800乃至1200nm波長の光線を照射できるランプでもよく、YAGレーザーであってもよい。更には、種々のマイクロウェーブを発生装置として用いることも可能である。
【実施例】
【0063】
以下に構造体として金微粒子、多重特異性分子として金結合性部位及び上皮細胞成長因子ErbB2結合性部位を有するタンパク質からなる温熱素子を作製する場合についての実施例について説明する。
【0064】
(実施例1)
金結合性およびErbB2結合性を有する多重特異性分子の作製
(1)発現ベクターの作製
(1−1)金結合性VHコード核酸断片の調製
金結合性部位の構成要素となる金結合性VHをコードする核酸配列(配列番号:110)の5’末端側に制限酵素NcoI切断部位、3’末端側に制限酵素NheIを配置したベクター導入用のPEG結合性VH(以下、VH(Au))を作製する。すなわち、以下のプライマーを用いて、市販のPCRキットを当業者の推奨する調合に準じた方法によって、オーバラップPCRを行い、約380bpの塩基対からなる人工核酸を得る。
・Au-VHF-1(配列番号:82)
nnnnnccatgg caggtgcagttggtggagtctggagcagaggtgaaaaaggccggggagtctctgaagatc
・Au-VHF-2(配列番号:83)
gcgccagatgcccggcaaaggcctggaatggatggggatgatctatcctgctgactctgataccagatat
・Au-VHF-3(配列番号:84)
caccgcctacctgcaatgggccggcctgaaggcctcggacaccgccatatattactgtgcgagacttgga
・Au-VHR-1(配列番号:85)
catctggcgcacccagttgatccagtaactgggaaagctgtatccagatcccttacaggagatcttcaga
・Au-VHR-2(配列番号:86)
gtaggcggtgttgatggacttgtcggctgagatggtgacgtggccttggaaggacgggctatatctggta
・Au-VHR-3(配列番号:87)
nnnnnngctagctgaggagacggtgaccagggttccctggccccatctagacatgtacctcccaccaattccaagtctc
更に、Au-VH F1およびAu-VH R-3を使用し、市販のシークエンス反応キットと反応液組成によりBIGDYE−PCR反応を行った。温度サイクルは96℃×3min→(94℃×1min→50℃×1min→68℃×4min)×30CYCLE→4℃とする。目的のVHをコードする塩基配列を有する断片が得られたことを確認する。
【0065】
(1−2)Au結合性VLコード核酸断片の調製
金結合性部位の構成要素となる金結合性VLをコードする核酸配列(配列番号:111)の5’末端側に制限酵素NheI部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸、3’末端側に制限酵素SacIIを配置したベクター挿入用の金結合性VL(以下、VL(Au))を作製する。すなわち、以下のプライマーを使用する以外は、(1−1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVLの塩基配列を有することを確認する。
・Au-VLF-1(配列番号:88)
nnnnnngctagcggcggcggcggctctgaaattgtgttgacgcagtctccatcttctgtgtctgcatctgtgggagacagagtcacc
・Au-VLF-2(配列番号:89)
cctggtatcagcagaagccagggaaagcccctaagctcctgatctatggttcaaccaatttgcaaggtgg
・Au-VLF-3(配列番号:90)
ccatcaacggcctgcagcctgaagatattgcaacatattactgtaaatattttgatgctctccctccggt
・Au-VLR-1(配列番号:91)
tgataccaggctaaccagctgttaacatcctcactcgcccgacaagtgatggtgactctg
・Au-VLR-2(配列番号:92)
ccgttgatggtgaaagtaaagtgtgtcccagatccacgtccgctgaaccttgatgggaccccaccttgca
・Au-VLR-3(配列番号:93)
nnnnnccgcggcgcacgtttaatctccagtcgtgtcccttggccgaaggtgaccggaggga
(1−3)ErbB2結合性VHコード核酸断片の調製
配列番号79で指定されるアミノ酸配列を有するErbB2結合性VHをコードする核酸配列(配列番号:112)の5末端側に制限酵素NcoI切断部位、3’末端側に制限酵素NheIを配置したベクター導入用のErbB2結合性VH(以下、VH(ErbB2))を作製する。すなわち、以下のプライマーを使用する以外は、(1−1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVHの塩基配列を有することを確認する。
・ErbB2−VH F1(配列番号:94)
nnnnnn ccatggcaggtccagctgcagcagtctgggtctgagatggcgaggcctggagcttcagtgaagctgccctgcaagg
ErbB2−VH F2(配列番号:95)
catggacatggccctgagtggatcggaaatatttatccaggtagtggtggtactaactacgctgagaagt
・ErbB2−VH F3(配列番号:96)
atgcacctcagcaggctgacatctgaggactctgcggtctattattgtacaagatcggggggtccctact
・ErbB2−VH R1(配列番号:97)
catgtccatgcctctgcttcacccagtgcatccagtaactggtgaatgtgtcgccagaagccttgcaggg
・ErbB2−VH R2(配列番号:98)
tgaggtgcatgtagactgtgcgggaggacctgtctacagtcagagtgaccttgttcttgaacttctcagc
ErbB2−VH R3(配列番号:99)
nnnnnngctagcggaggagactgtgagagtggtgccttggccccagtagtcaaagaagtagggacc
(1−4)ErbB2結合性VLコード核酸断片の調製
配列番号80で指定されるアミノ酸配列を有するErbB2結合性VLをコードする核酸配列(配列番号:113)の5末端側に制限酵素NheI切断部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸、3’末端側に制限酵素SacII切断部位を配置したベクター挿入用のErbB2結合性VL(以下、VL(ErbB2))を作製する。すなわち、以下のプライマーを使用する以外は、(1−1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVLの塩基配列を有することを確認する。
・ErbB2−VL F1(配列番号:100)
nnnnnngctagcggcggcggcggctctgacattctaatgacccaatctccactctccctgcctgtcagtcttggaga
ErbB2−VL F2(配列番号:101)
gaatcacctatttagaatggtacctgcaaaggccaggccagtctccaaagctcctgatctacaaagtttc
・ErbB2−VL F3(配列番号:102)
actcaagatcagcagagtagaggctgaggatctgggaatttattactgctttcaaggttc
・ErbB2−VL R1(配列番号:103)
taggtgattccattattatgtacaatgttctgactagatctgcaagagatggaggcttgatctccaagac
ErbB2−VL R2(配列番号:104)
gatcttgagtgtgaaatctgtccctgatccactgccactgaacctgtctgggaccccagaaaatcggtcggaaactttgt
・ErbB2−VL R3(配列番号:105)
nnnnnnccgcggcgcacgtttgatttccagcttggtcccccctccgaacgtgggaggaatatgtgaaccttgaa
(1−5)発現ベクター作製
上記4種の核酸断片用いてを2つの発現ベクターを以下の構成で構築する。
(1−5−1)VH(Au)−VL(ErbB2)発現用ベクター(pAu−ErbB2)の作製 (図13)
(i)VH(Au)の挿入
図13に示したプラスミドpUT−XX2を、制限酵素NcoI/NheI(ともにN
ew England Biolabs社)で切断し、スピンカラム S-400 HR(GEヘススケアバイオサンエンス)する。次に、同様に制限酵素NcoI/NheIにて切断した前記VHpegを切断し、切断断片を市販のゲル精製キット(SV Gel and PCR Clean−up system: Promega社)を使用して精製する。上記二つの断片を、市販のT4リガーゼキット(Roche社)を業者推奨の方法にて調合しライゲーションを行う。ライゲーション溶液をJM109コンピテントセル(Promega社)40μLにヒートショック法により形質転換した後に、LB/アンピシリン(amp.)プレートに撒き、37℃にて一晩静置する。
【0066】
次に、プレート中から任意のコロニーをLB/amp. 3mL液体培地に植え継ぎ、37℃にて一晩振盪培養を行う。その後、市販のMiniPrepsキット(Plus Minipreps DNA Purification System:Promega社)を使用して、プラスミドを回収する。得られたプラスミドを、Au−VH F1およびAu−VH R3を使用して前記シークエンス方法にて塩基配列を確認したところ、目的の断片が挿入されていることを確認する。
【0067】
(ii)VL(ErbB2)の挿入
上記(i)で得られたプラスミドpUT-VH(Au)を制限酵素NheI/SacIIで切断し、スピンカラム 400HR(アマシャムサイエンス)する。次に、同様に制限酵素NheI/SacIIにて切断したVL(ErbB2)を得る。以下、上記(i)と同様にして、ライゲーション及び目的のVH(Au)−VL(ErbB2)発現用プラスミドpAu-ErbB2であることを確認する(確認用プライマーは、VL−ErbB2 F1およびVL−ErbB2 R3)。
【0068】
(1−5−2)VH(ErbB2)−VL(Au) 発現用ベクター(pErbB2−Au)の作製(図14)
(i)VH(ErbB2)の挿入
上記(1−5−1)の(i)と同様の方法にてVH(ErbB2)をプラスミドpUT−XX2に挿入し、得られたプラスミドが目的のプラスミドであることを確認する。(確認用プライマーは、ErbB2−VH F1およびErbB2−VH R3)
(ii)VL(Au)の挿入
VL(Au)を上記(i)で得られたプラスミドに上記(1−5−1)(ii)と同様の方法にて挿入し、得られたプラスミドが目的のVH(ErbB2)−VL(Au)発現用ベクターpErbB2−Auであることを、(1−1)と同様にして確認する(確認用プライマーはAu−VL F1およびAu−VL R3)。
【0069】
(1−6)タンパク発現及び精製
上記(1−5−1)(i)で得られたVH(Au)−VL(ErbB2)、及び(1−5−2)(ii)で得られたVH(ErbB2)−VL(Au)のポリペプチドを発現する発現ベクターを、個別の系において以下に記すタンパク発現及び精製工程で処理を行い、それぞれポリペプチド鎖pAu-ErbB2およびpErbB2-Auとして取得する。
a)形質転換
上記2つの発現ベクターを、それぞれ異なるBL21(DE3)コンピテントセル溶液40μLを形質転換する。形質転換は、ヒートショックを氷中→42℃×90sec→氷中の条件でおこなう。ヒートショックにより形質転換した上記BL21溶液にLB培地750μLを加え、一時間37℃にて振盪培養を行った。その後、6000rpm×5分間遠心を行う。培養上清650μLを廃棄し、残った培養上清と沈殿となった細胞画分を攪拌し、LB/amp.プレートに撒き、一晩37℃にて静置する。
b)予備培養
プレート上のコロニーを無作為に選択し、3.0mL LB/amp.培地にて28℃にて一晩振盪培養を行う。
c)本培養
上記予備培養溶液を2×YT培地 750MLに植え継ぎ、更に培養を28℃にて継続した。OD600が0.8を越えた時点で、終濃度が1mMとなるようにIPTGを加え、更に28℃にて終夜培養を行う。
d)精製
目的のポリペプチド鎖を不溶性顆粒画分から以下の工程により精製する。
(i)不溶性顆粒の回収
上記c)で得られた培養液を6000rpm×30minにて遠心し、沈殿を菌体画分として得る。得られた菌体をトリス溶液(20mM トリス/500mM NaCl)15mlに氷中にて懸濁する。得られた懸濁液をフレンチプレスにて破砕し、菌破砕液を得る。次に、菌破砕液を12,000rpm×15minで遠心を行い、上清を除き、沈殿を不溶性顆粒画分として得る。
(ii)不溶性顆粒画分の可溶化
上記(i)で得られた不溶性画分を6M 塩酸グアニジン/トリス溶液 10mLを加えて、一晩浸漬する。次に、12,000rpm×10minで遠心し、上清を可溶化溶液として得る。
(iii)金属キレートカラム
金属キレートカラム担体として、His−Bind(Novagen社製)を用いる。カラム調製やサンプル負荷、及び洗浄工程は、前記業者の推奨方法に準拠し、室温(20℃)にて行う。目的であるHisタグ融合のポリペプチドの溶出は60mMイミダゾール/Tris溶液にて行う。溶出液のSDS−PAGE(アクリルアミド15%)の結果、単一バンドであり、精製されていることを確認する。
(iv)透析
上記溶出液に対して、外液を6M 塩酸グアニンジン/Tris溶液として4℃にて透析を行い、溶出液中のイミダゾールの除去を行い、上記それぞれのポリペプチド鎖溶液を得る。
(v)リフォールディング
上記と同様にして、VH(Au)−VL(ErbB2)及びVH(ErbB2)−VL(Au)のそれぞれのポリペプチド鎖溶液を以下の工程により別個に、脱塩酸グアニンジンを透析(4℃)にて行いながらタンパク質のリフォールディングを行う。
(a) 6M 塩酸グアニジン/Tris溶液を用い、それぞれのポリペプチド鎖のモル吸光係数とΔO.D.(280nm−320nm)値から濃度7.5μMのサンプル(希釈後体積10ml)を調製する。次にβ−メルカプトエタノール(還元剤)を終濃度375μM(タンパク濃度50倍)になるよう添加、室温、暗所で4時間還元を行う。このサンプル溶液を透析バック(MWCO:14,000)に入れ、透析用サンプルとする。
(b)透析外液を6M塩酸グアニンジン/トリス溶液として、透析サンプルを浸漬し、緩やかに攪拌しながら6時間透析する。
(c)外液の塩酸グアニジン濃度を3M、2Mと段階的に下げる。それぞれの外液濃度において、6時間透析する。
(d)酸化型グルタチオン(GSSG)を終濃度375μM、L−Argを 終濃度0.4M)となるようにトリス溶液に加え、上記(c)の2Mの透析外液を加え、塩酸グアニジン濃度が1Mとし、pHをNaOHで、pH8.0(4℃)に調製した溶液にて、12時間緩やかに攪拌しながら透析する。
(e)上記(d)と同様の作業にて塩酸グアニジン濃度0.5Mの含L−Arg トリス溶液を整し、更に12時間透析する。
(f)最後にトリス溶液にて12時間透析する。
(g)透析終了後、10000rpmで約20分遠心分離し凝集体と上清を分離する。
【0070】
(vi)2量化画分の精製
上記(v)で得られた個々の5μM ポリペプチド(VH(Au)−VL(ErbB2)、VH(ErbB2)−VL(Au))溶液を混合し、4℃にて一晩する。次に、セファデックス75カラム(カラム:バッファー 20mM トリス、500mM NaCl、流速 1ml/min)にて二量体化した60kDa相当(インジェクションから約18分)のフラクションを得る。
(vii)緩衝液置換
以下の結合実験を行う為、緩衝液をリン酸緩衝液(PBS)に置換する。緩衝液の置換は、透析により行う。透析バックとして、RC Membrane Spectra/Pro2(MWCO12,000〜14,000:Spectrum社製)を用いる。上記透析バックに(vii)で得られる二量化タンパク質画分を入れ、外液をPBS500mLとし、ゆっくりと攪拌しながら透析を行う。外液は6時間毎に3回交換する。これにより得られた溶液をSPR測定用サンプルとする。
【0071】
(実施例2)
(二重結合性の確認)
実施例1で得られた二量化タンパク質画分の、金に対する結合性をSPRにて測定する。SPR測定装置として、BIAcore2000(BIAcore社製)を使用する。未使用のSIA-Kit Au金蒸着基板を、洗浄した後、窒素雰囲気下で乾燥させる。この金基板をSPR装置に装着し、ランニングバッファーをインジェクションする。SPRシグナルが安定した後、実施例Xで得た500nMの二量化タンパク質/PBST溶液を、40μLインジェクションする。金結合性を確認できる。尚、その他の諸条件は以下の通りである。
・温度:25℃
・流速:1μL/min
さらに、金結合性をSPR評価したサンプルに引き続き、連続して 0.5、1.0、2.0μM ErbB2/PBST溶液をインジェクションし、金基板上に固定化した多重特異性分子のErbB2に対する結合性をSPRにて測定する。SPRシグナル強度は、ErbB2濃度に依存性を示し、二量化画分タンパク質が金およびErbB2二重特異性を有することが確認できる。尚、その他の諸条件は以下の通りである。
・温度:25℃
・流速:1μL/min
(実施例3)
(ErbB2発現細胞への結合性の確認)
ErbB2を発現するTFK-1、A431およびMDAMB468細胞は、それぞれ胆管、外陰部および胸部から分離されたErbB2を有する腫瘍細胞である。陰性対照として、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO、ガングリオシドを有する黒色腫細胞系であるSK−MEL−23、を用いる。
【0072】
上記の細胞を1x106cells/mlとなるようにRPMI1640培地(インビトロジェン株式会社)を用いて懸濁し、細胞懸濁液を96穴ウェルプレート(ベクトンディッキンソン)に100μ
lずつ添加し37℃,5%CO2条件下で1晩培養する。
【0073】
実施例1で得られた二量化タンパク質に蛍光標識するために、Fluorescein Labeling Kit - NH2(株式会社同仁化学研究所)を製造業者の推奨する方法にて用いる。得られた標識多重特異性分子はPBS(-)を用いて10μg/mlに希釈する。
【0074】
培養した上記細胞をPBS(-)(インビトロジェン)100μlで3回洗浄したのち、この標識
二量化タンパク質溶液を0.22μmのフィルターを用いてろ過した後、50μlを添加し、3
0分間静置する。その後、PBS(-)100μlを用いて3回洗浄した後にPBS(-)を50μl添加
し、蛍光顕微鏡を用いて観察を行う。その結果、ErbB2陽性細胞株、TFK-1、A431およびMDAMB468においては蛍光が確認できる。一方、ErbB2陰性細胞株CHO、SK−MEL−23では蛍光は確認できない。以上のことから、実施例1で作製した二量化タンパク質はErbB2を発現する培養細胞に適用可能であることが確認できる。
【0075】
(実施例4)
次に、本発明における温熱素子の腫瘍細胞への効果を調べるため下記検討を行う。
【0076】
上記実施例1で得られた金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質溶液に、金微粒子(15nm, 田中貴金属、0.2mmol)を加え室温で緩やかに攪拌しながら30分間反応させる。4℃、12000rpm,5分間遠心して、上清を除去し、得られた沈殿に0.1MのK2CO3(pH9)を得る。これを4℃で30分間、12000×gで遠心分離を行い、沈澱を再懸濁することを3回繰り返して精製した。さらに、20mMトリス緩衝液(150mM NaCl、pH8.2、1%BSA)に懸濁し、本発明の温熱素子として適用できる金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質固定化金微粒子を得る。
【0077】
また、比較のために、別途作製した抗ErbB2抗体断片(scFv(ErbB2)、VH(ErbB2)−リンカー(GGGGS)−VL(ErbB2)のアミノ酸配列を有する)に修飾を施して金微粒子表面へ固定する。固定方法は、従来既知の方法である。すなわち、末端にカルボキシル基を有する自己組織化単分子膜形成によりカルボキシル基を表面に露出させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(アルドリッチ)を用いて、カルボキシル基を活性化する。その後、scFv(ErbB2)の有するアミノ基を反応させることにより抗体を金微粒子上へ固定化する。
【0078】
得られた上記金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質固定化金微粒子およびscFv(erbB2)固定化金微粒子を、実施例3と同様にして培養した以下の各細胞に投与する。
・ErbB2陽性細胞TFK-1
・A431
・MDAMB468
・ErbB2陰性細胞CHO
・SK−MEL−23
投与後30分間静置した後、PBS(-)で3回洗浄する。その後、200kHz、磁界強度34000A/mの高周波磁界をを3分間印加する。この操作を3回行う。次に上記の処理を行った細胞を回収し、1500rpm,5分間遠心後,PBS(-)で1mlに懸濁し、トリパンブルー1mlを加え懸濁した後、ヘモサイトメーターを用いて生細胞および死細胞のカウントを行った。その結果、金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質固定化金微粒子を用いたErbB2陽性細胞において、優位に死細胞が観察された。
【0079】
(実施例5)
金結合性scFv−EGF融合タンパク質の作製
配列番号81で指定されるアミノ酸配列を有するヒト上皮細胞成長因子(hEGF)をコードする核酸配列(配列番号:114)を金scFvのC末端に融合したタンパク質を以下の工程により作製する。
(1)発現ベクター作製
予め、金結合性scFvの構成要素となる、VH(Au)(配列番号:110)VL(Au)(配列番号:111)をpUT-XX2べクターに挿入する。得られた発現ベクターをpUT−ScFv(Au)とする。次に、VH(Au)コード遺伝子、リンカー(GGGGS)×3、VL(Au)コード遺伝子、リンカー(GGGGS)×3、hEGF、His×6(以下、Hisタグ)がこの順に機能的に配列された発現ベクターを以下のように作製する。この発現ベクターによれば、これらの領域が順に翻訳された融合タンパク質を得ることができる。この発現ベクターをpUT−scFv(Au)- hEGFとする。
【0080】
ヒトEGFをコードする遺伝子(配列番号114)の5末端側に制限酵素SacII切断部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸を、3’末端側に制限酵素SacII切断部位をコードする核酸を含む核酸断片を作製する。これらの断片の付加は、下記プライマーを用いるオーバーラップPCRにて行う。その結果得られたPCR産物に対して、2%アガロース電気泳動を行う。次に、ゲル抽出キット(Promega社)を使用してゲルから粗精製を行い、約180bpのPCR断片を得る。シークエンスの結果、目的の塩基配列を有することを確認する。
hEFG-F1(配列番号:106)
aacagcgactccgaatgcccgctgagccatgacggctactgcctgcacgacggcgtatgcatgtacatcgaagcactgga
hEGF-F2(配列番号:107)
NNNNNNCCGCGG aacagcgactccgaatg
hEGF-R1(配列番号:108)
gcgcagttcccaccacttaaggtcacggtactgacagcgctcgccgatgtagccaacaacacagttgcacgcgtatttgtccagtgcttcgatgtac
hEGF-R2(配列番号:109)
nnnnnnccgcgg gcgcagttcccaccacttaagg
pUT−scFv(Au)および上記で得られたPCR断片を、SacIIを用いて、切断する。次いで、アガロース電気泳動を行い、Vector側及びInsert側でそれぞれ目的の断片を精製する。
【0081】
上記で得た精製した核酸断片を、Vector:Insert=1:5となるように混合し、実施例1と同様にしてライゲーション反応を行う。
【0082】
以下、上記ライゲーション反応液を用いてJM109コンピテントセル40μLを形質転換する。形質転換は、ヒートショックを氷中→42℃×90sec→氷中の条件でおこなう。ヒートショックにより形質転換した上記JM109溶液にLB培地750μLを加え、一時間37℃にて振盪培養を行う。その後、6000rpm×5分間遠心を行い、培養上清650μLを廃棄し、残った培養上清と沈殿となった細胞画分を攪拌し、LB/amp.プレートに撒き、一晩37℃にて静置する。プレートから無作為にコロニーを選択し、LB/amp.液体培地3mLにて振盪培養を行う。JM109大腸菌から、市販のMiniPrepキット(プロメガ社製)を用い、業者推奨の方法により、プラスミドを抽出する。得られたプラスミドをNotI/SacIIを用いて、切断する。次いで、アガロース電気泳動を行い、目的の遺伝子断片が挿入されていることを確認する。
【0083】
このプラスミドをpUT−scFv(Au)-EGFとする。このプラスミドを実施例1と同様の方法を用いて、BL21(DE3)に形質転換し、予備培養、本培養、精製操作により金結合性scFv−EGF融合タンパク質を得る。得られる融合タンパク質の金結合性を実施例2と同様の方法により、金および二重特異性を確認する。
【0084】
(実施例6)
実施例5で作製したscFv(Au)-hEGF融合タンパク質含有溶液に、実施例4と同様にして金微粒子溶液を加え、金微粒子表面にscFv(Au)-hEGF融合タンパク質を固定化する。その後、実施例4と同様にして、scFv(Au)-hEGF融合タンパク質固定化金微粒子を、ErbB2陽性細胞TFK-1、A431、MDAMB468およびErbB2陰性細胞CHO、SK−MEL−23に投与する。投与後30分間静置した後、PBS(-)で3回洗浄する。その後、YAGレーザー(1064nm、164mJ/pulse、7nsec、10Hz)を5分間照射する。次に上記の処理を行った細胞を回収し、1500rpm,5分間遠心後,PBS(-)で1mlに懸濁し、トリパンブルー1mlを加え懸濁した後、ヘモサイトメーターを用いて生細胞および死細胞のカウントを行った。その結果、scFv(Au)-hEGF固定化金微粒子を投与したErbB2陽性細胞において、優位に死細胞が観察された。
【0085】
(実施例7)
磁性金属結合性およびErbB2結合性を有する多重特異性分子の作製
酸化鉄(Fe2O3)に結合性を有するペプチドとして、配列番号115に示したアミノ酸配列を繰り返し5回連続してコードする核酸配列(配列番号:116)のC末端にErbB2scFvを融合したタンパク質を以下の工程により作製する。
【0086】
(1)発現ベクター作製
予め、ErbB2結合性scFvの構成要素となる、VH(ErbB2)(配列番号:79)VL(ErbB2)(配列番号:80)をpUT-XX2べクターに挿入する。得られた発現ベクターをpUT−ScFv(ErbB2)とする。次に、このベクターに配列番号116で示した核酸配列をVH(ErbB2)の上流に挿入する。この発現ベクターによれば、これらの領域が酸化鉄結合性、ErbB2順に翻訳された融合タンパク質を得ることができる。この発現ベクターをpUT−Fe2O3−scFv(ErbB2)とする。
【0087】
配列番号116で示される遺伝子の5末端側に制限酵素NcoI切断部位及びリンカー(G
GGGS)をコードする核酸を、3’末端側に制限酵素NcoI切断部位をコードする核酸
を含む核酸断片を作製する。これらの断片の付加は、下記プライマーを用いるオーバーラップPCRにて行う。その結果得られたPCR産物に対して、2%アガロース電気泳動を行う。次に、ゲル抽出キット(Promega社)を使用してゲルから粗精製を行い、約140bpのPCR断片を得る。シークエンスの結果、目的の塩基配列を有することを確認する。
Fe2O3-F1
nnnnnnccatggcgtcgtaccgttaaacatcatgttaatcgtcgtaccgttaaacatcatgttaatcgtcgtaccgttaaacatcatgttaa
Fe2O3-R1
nnnnnnccatggattaacatgatgtttaacggtacgacgattaacatgatgtttaacggtacgacgattaacatgatgtttaacggt
上記で得られた核酸断片を実施例1と同様な方法にてライゲーション反応を行い、発現ペクターpUT−Fe2O3−scFv(ErbB2)を有するプラスミドを得る。このプラスミドを実施例1と同様の方法を用いて、BL21(DE3)に形質転換し、予備培養、本培養、精製操作により酸化鉄結合性およびErbB2結合性を有する多重特異性分子を得る。
【0088】
(実施例8)
磁性金属酸化物ナノ粒子として、PVS(Physical Vapor Synthesis)法により得られた市販品(Fe2O3ナノ粒子、商品名:NanoTek(登録商標)Iron Oxide,Nanophase Technologies Corporation製、安達新産業株式会社より入手、平均粒子径23nm)を利用する。
上述の磁性金属酸化物ナノ粒子(平均粒子径23nm)を超音波により分散させた溶液中に実施例7で得られる多重特異性分子を加える。その後、実施例4と同様にして、酸化鉄結合性及びErbB2結合性を有する多重特異性分子固定化磁性金属酸化物ナノ粒子を、ErbB2陽性細胞TFK-1、A431、MDAMB468およびErbB2陰性細胞CHO、SK−MEL−23に投与する。投与後30分間静置した後、PBS(-)で3回洗浄する。高周波磁場発生器(360kHz、120Oe、第一高周波製)のコイルの中央に細胞を配置する。交番磁場照射時間は、30分とする。AMF照射の間、周囲温度を37℃に維持する。次に上記の処理を行った細胞を回収し、1500rpm,5分間遠心後,PBS(-)で1mlに懸濁し、トリパンブルー1mlを加え懸濁した後、ヘモサイトメーターを用いて生細胞および死細胞のカウントを行った。その結果、ErbB2結合性を有する多重特異性分子固定化磁性金属酸化物ナノ粒子を投与したErbB2陽性細胞において、優位に死細胞が観察された。
【0089】
(実施例9)
薬剤放出型温熱素子の作製方法
50mlのエタノールに2.7gの30%アンモニア水溶液と1.5mlのテトラエトキシシランを混合し、一晩撹拌する。これらの操作により、粒径100nmのシリカ粒子の分散液が作製される。次に、前記シリカ粒子の分散液10mlに20μlアミノプロピルトリメトキシシランを混合し、撹拌、静置する。さらに、95℃に加熱し、撹拌する。この間、随時溶媒を補充し、全体量が変わらないようにする。その後、遠心分離、エタノール分散による洗浄を繰り返し、最後に再びエタノールに分散させることで、シリカ粒子表面にカップリング層が形成されたアミノ化シリカ粒子分散液が作製される。
【0090】
次にラジカル開始剤である4,4’−アゾビス(4- シアノ吉草酸)の固定化を行う。アミノ基を導入したシリカ粒子5g、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)0.2g、テトラエチルアミン289μl、クロロ炭酸エチル116μlをTHFに溶解し、0℃で1時間撹拌した後、0℃で12時間反応を行う。濾過で粒子を回収し、低温の水/メタノール混合溶媒で洗浄、真空乾燥を行う。
【0091】
上記のラジカル開始剤固定化アミノ化シリカ微粒子を用いて、N−イソプロピルアクリルアミドとアクリルアミドのグラフト共重合を行う。表面にラジカル開始剤を固定化したシリカ微粒子に、N−イソプロピルアクリルアミドモノマ/アクリルアミドモノマーをモル比19/1で添加し、10℃で30分窒素バブリングを行った。その後70℃で24時間反応を行い、遠心分離で粒子を回収し、真空乾燥を行う。
【0092】
上記で得られる微粒子をメチレンブルー染色液(0.33mg/ml,50mM Tris, pH7.4)中に加え膨潤させる。ハイドロゲルが固定化された微粒子を回収し、トリス緩衝液で洗浄した後、を金微粒子分散液(1-3nm)に入れ、攪拌、静置する。遠心分離で粒子を回収する。シリカ粒子表面の表面が金微粒子で被覆されていることが透過型電子顕微鏡(TEM)で確認できる。
【0093】
次に、得られた微粒子をYAGレーザー(1064nm、164mJ/pulse、7nsec、10Hz)を5分間照射する。照射前後の溶液の663.5nmのメチレンブルーの吸光度を測定することで、溶液中にメチレンブルーが放出されることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図2】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図3】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図4】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図5】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図6】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図7】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図8】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図9】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図10】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図11】本発明の温熱素子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図12】本発明の温熱素子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図13】多重特異性分子作製用のベクター作製図の一例を示す図である。
【図14】多重特異性分子作製用のベクター作製図の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 :第一のドメイン
2 :第二のドメイン
3 :第三のドメイン
4 :第四のドメイン
5、6 :リンカー
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱素子に関する。
【背景技術】
【0002】
温熱療法(ハイパーサーミア;hyperthermia)とは、腫瘍部位が正常細胞より温度感受性が高いという性質を利用して、腫瘍細胞を選択的に殺し、癌を治療しようとする方法である。温熱療法による癌治療は、温熱の生物学的効果をみると、41〜45℃の比較的温和な加温で細胞致死効果が得られること、免疫能の亢進、また放射線療法や抗癌剤による化学療法と併用することにより相乗的な効果が得られることなど、有利な点が多い。しかし、周囲の正常組織に損害を与えることのない温度にまで、局所の腫瘍領域だけを加熱することが困難な場合が多い。
【0003】
この課題を克服するために、磁場印加や光照射により発熱することが知られている磁性微粒子や金属ナノ微粒子を腫瘍組織のみに蓄積させることが試みられている。腫瘍組織のみに磁性粒子を蓄積させることができれば、ヒステリシスロスによって交番磁場(AMF)において発熱を生じさせて、癌に特異的な温熱療法を達成することができる。そこで、細胞内温熱療法のメディエーターとして、マグネタイト陽イオン性リポソーム(MCL)が開発されている。これらのMCLでは、腫瘍細胞への吸着および取込みが改善されており、中性に荷電したマグネタイトリポソームに比べて10倍高い腫瘍細胞に対する親和性を有する。
【0004】
しかし、MCLは、ほとんどの細胞に結合することが可能であり、目的の細胞のみに選択的に結合する能力は十分とはいえず、これらのMCLは直接腫瘍組織に注入する必要がある。そこで、磁性微粒子や金属ナノ微粒子、またはリポソームの表面に抗体を固定化し、抗体が有する標的特異的結合能を利用することで、発熱源となる磁性粒子や金属ナノ粒子を腫瘍部位にターゲッティングする技術が検討されている(特許文献1及び2)。
【特許文献1】特開2006-273740
【特許文献2】米国特許 2003/0093092
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように標的腫瘍部位へターゲティングを目的とした際に、磁性微粒子や金属ナノ微粒子あるいはリポソームといった構造体上に抗体を結合させるためには、磁性微粒子及び又は抗体に化学的に修飾を施す必要が生じる。このような化学修飾は、抗体がその分子内に多数有するアミノ残基やカルボキシル基を標的とする場合が多い。しかしながら、その化学修飾のための反応にかかわる部位は非選択的であり、抗体が有する標的特異的結合能が低下する恐れがある。さらに、個々の抗体によってアミノ酸配列や分子表面状態が異なるため、必ずしも全ての抗体で同様の手法を用いることができないという課題があった。また、上記の修飾操作により固定化が可能である抗体についても、抗体の標的結合部位が必ずしも望ましい配向性を有しているとは限らない。更に、構造体表面へ抗体を固定化することにより、構造体との相互作用により抗体が変性し、抗体の標的結合能が低下する場合があることが知られている。結果として、標的以外の部位への非特異的な結合による正常部位の損傷や、十分な効果を得るために多量の投与が必要となることによる微粒子そのものの生体内での毒性および負荷といった副作用の恐れがあるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明では、以下に示す構成の温熱素子を用いることで上記課題を解決し得る発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の温熱素子は、外部信号により発熱する温熱素子であって、
(1)表面の少なくとも一部に金属を含む構造体と、
(2)前記金属への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子と、
(3)前記外部信号により発熱する発熱部と、
を有し、
前記多重特異性分子が前記金属結合部位を介して前記構造体に結合している
ことを特徴とする温熱素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、金属結合部位および細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子を用いることで、従来のような抗体及び/又は構造体への、これらの結合のための化学修飾が不要となる。更に、本発明における構造体との結合形態によれば、多重特異性分子は、金属結合部位を介して構造体に配向結合し、細胞表面抗原結合部位が構造体表面から離れた方向に配置された細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で配向させることが可能となる。更には、構造体表面から細胞表面抗原結合部位までの距離を保つことにより、細胞表面抗原結合部位の変性を抑えることができる。これらの効果によって、細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で維持し、また細胞表面抗原結合部位の変性によってもたらされる正常部位への非特異的な結合や多量投与による生体内への副作用を低減することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の温熱素子は、少なくとも以下の部分を有して構成される。
(1)表面の少なくとも一部が金属からなる構造体。
(2)前記金属を含む部分への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子。
(3)前記外部信号により発熱する発熱部。
【0010】
本発明にかかる温熱素子では構造体が発熱部を構成していてもよい。発熱のための外部信号としては、光および磁気の少なくとも一方を好ましく用いることができる。本発明にかかる温熱素子は癌治療のために用いることができる。その際に、多重特異性分子の細胞表面抗原結合部位として腫瘍関連分子結合性を有する部位を好ましく用いることができる。また、腫瘍関連分子結合性としては、上皮細胞成長因子受容体(ErbB2)結合性を好適に利用できる。
【0011】
以下に、本発明にかかる温熱素子について更に詳述する。
【0012】
まず、以下の各用語について説明する。
【0013】
<構造体>
本発明における構造体は、多重特異性分子の結合を可能とするために、その表面の少なくとも一部が金属を含む部分として形成されており、かつ温熱素子の基体として機能できる大きさ、形状、強度及び物性などを有するものであればよい。多重特異性分子の所望の結合が可能であれば、構造体の表面の全部に、あるいは構造体の表面に部分的に、金属を含む部分が形成されていればよい。金属としては、後述する多重特異性分子が有する金属結合部位が結合可能なものが少なくとも用いられる。構造体表面の金属を含む部分は、金属系材料からなる部分、例えば、金属、金属合金及びこれらの誘導体の少なくとも1種からなる部分、金属、金属合金及びこれらの誘導体の少なくとも1種の金属系材料と非金属系材料とからなる部分等として形成することができる。また、構造体を発熱部とする場合には、構造体の少なくとも一部を外部信号により発熱する材料から構成する。かかる発熱材料としては、昇温速度が早く、かつ発熱においても安定である材料が好ましい。更に、構造体自体は、生体内への影響がない、あるいは実質的に影響が少ない材料からなることが好ましい。これらの観点から、構造体の構成材料として用いることができる金属としては、貴金属類、例えば金が好ましい。更に、金以外にも、銀、白金、パラジウム、イリジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、または、これら金属を2種あるいはそれ以上含有する合金、さらにはこれらの誘導体などを挙げることができる。なお、かかる誘導体には金属化合物も含まれる。構造体の例としては、上記の金属、合金及びこれらの誘導体の少なくとも1種をからなる微粒子が例示できる。更に、例えば、金属分が70重量%以上であり、この金属分の80重量%以上がFeである鉄を主体とした磁性金属微粒子が挙げられる。かかる磁性金属微粒子の具体例としては、例えばFe−Co、Fe−Ni、Fe−Al、Fe−Ni−Al、Fe−Co−Ni、Fe−Ni−Al−Zn、Fe−Al−Siなどの合金または金属化合物からなる金属微粒子を挙げることができる。また、FeOx(4/3≦x≦3/2)で表わされる酸化鉄系の強磁性微粒子;FeOxにCr、Mn、Co、Niなどの二価の金属が添加された酸化鉄微粒子、FeOxにCo被着させたCo被着FeOx微粒子;二酸化クロムまたは二酸化クロムに、Na、K、Fe、Mnなどの金属、あるいはこれら金属の酸化物が添加された酸化物微粒子も挙げられる。また、構造体の形状は、本発明の効果を達成しえるものであれば如何なるものであってもよく、球形、ロッド型、針状、中空素子、異なる金属の層状構造(コア・シェル構造)、チューブ型等を挙げることができ、凹凸、突起を有していてもよい。
【0014】
本発明の構造体の大きさは、特に制限はない。EPR 効果(enhanced permeability and retentioneffect)を発揮できる大きさであること、更に腫瘍新生血管の透過性の亢進と腫瘍組織における滞留性による効果を発揮できることなどを考慮した場合には、粒径(直径)が10nm及至1000nmにあることが好ましい。さらに好ましい粒径は、10nm及至500nmであり、10nm及至200 nmであることが特に好ましい。
【0015】
また、構造体には各種の処理が施されていてもよい。例えば、構造体を、薬剤を保持した温度応答性高分子で処理することができる。構造体に温度応答性高分子を付与しておくと、構造体により発せられる熱によって温度応答性高分子が収縮し、薬剤の放出制御が可能となる。このような温度応答性高分子を用いる場合、多重特異性分子の有する機能を低下させないためには、薬剤を内包した温度応答性分子をコアとして含み、その外殻を構造体からなる層で被覆して、さらにその外殻に多重特異性分子を結合する構造とすることが好ましい。この場合、構造体からなる層は温度応答性高分子が収縮によって、部分的な崩壊などによりコア内部と外部とが連通するように構成されていることが好ましい。この層は、例えば、多数の微粒子状の構造体からなる層として形成できる。
【0016】
また、保持される薬剤としては特に限定されないが、例えば、温熱治療と併用して抗癌剤治療を行うための抗癌剤であってもよいし、熱処理後に速やかに多重特異性分子を分解させるために消化酵素などを含んでいてもよい。
【0017】
また、多重特異性分子が固定化された領域以外の部分への生体物質の吸着抑制や、複数の構造体の凝集を防止するための非特異吸着能を有する官能基を少なくとも一部に有する分子で表面処理を施してもよい。
【0018】
<細胞表面抗原>
本発明における細胞表面抗原とは、細胞表面、すなわち細胞膜で発現し、細胞膜を構成しているタンパク質、糖タンパク質、ペプチド、糖鎖、脂質およびそれらの複合体を指す。細胞表面抗原は、細胞の種類や分化状態によって発現が変化し、細胞の特性を解析するのに有用なマーカーであり、癌細胞を同定するための重要なマーカーとしても利用されている。
【0019】
<腫瘍関連分子>
本発明における腫瘍関連分子とは、正常細胞と比較して腫瘍細胞によって特異的にまたは独特に産生、発現される物質を指す。本発明における腫瘍関連分子は、すでに同定されたおよびまだ同定されていない分子を含み、断片、エピトープおよび腫瘍関連分子への任意のおよびすべての修飾を含む。
【0020】
例としては、胎児期に肝細胞で産生され胎児血中に存在する酸性糖蛋白であり、肝細胞癌(原発性肝癌)、肝芽腫、転移性肝癌、ヨークサック腫瘍のマーカーとなるα-フェトプロテイン(AFP)、肝実質障害時に出現する異常プロトロンビンであり、肝細胞癌で特異的に出現することが確認されるPIVKA-II;免疫組織化学的に乳癌特異抗原である糖蛋白で、原発性進行乳癌、再発・転移乳癌のマーカーとなるBCA225;ヒト胎児の血清、腸および脳組織抽出液に発見された塩基性胎児蛋白であり、卵巣癌、睾丸腫瘍、前立腺癌、膵癌、胆道癌、肝細胞癌、腎臓癌、肺癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌のマーカーである塩基性フェトプロテイン(BFP);進行乳癌、再発乳癌、原発性乳癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA15-3;膵癌、胆道癌、胃癌、肝癌、大腸癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA19-9;卵巣癌、乳癌、結腸・直腸癌、胃癌、膵癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA72-4;卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、卵管癌、子宮頸部腺癌、膵癌、肺癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA125;上皮性卵巣癌、卵管癌、肺癌、肝細胞癌、膵癌マーカーとなる糖蛋白であるCA130;卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、子宮頸部腺癌のマーカーとなるコア蛋白抗原であるCA602;卵巣癌(特に粘液性嚢胞腺癌)、子宮頸部腺癌、子宮体部腺癌のマーカーとなる母核糖鎖関連抗原であるCA54/61(CA546);大腸癌、胃癌、直腸癌、胆道癌、膵癌、肺癌、乳癌、子宮癌、尿路系癌等の腫瘍関連のマーカー抗原として現在、癌診断の補助に最も広く利用されている癌胎児性抗原(CEA);膵癌、胆道癌、肝細胞癌、胃癌、卵巣癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるDUPAN-2;膵臓に存在し、結合組織の弾性線維エラスチン(動脈壁や腱などを構成する)を特異的に加水分解する膵外分泌蛋白分解酵素であり、膵癌、膵嚢癌、胆道癌のマーカーとなるエラスターゼ1;ヒト癌患者の腹水や血清中に高濃度に存在する糖蛋白であり、肺癌、白血病、食道癌、膵癌、卵巣癌、腎癌、胆管癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫のマーカーとなる免疫抑制酸性蛋白(IAP);膵癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、肝細胞癌、肺腺癌、胃癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるNCC-ST-439;前立腺癌のマーカーとなる糖蛋白質であるγ-セミノプロテイン(γ-Sm);ヒト前立腺組織から抽出された糖蛋白であり、前立腺組織のみに存在し、それゆえ前立腺癌のマーカーとなる前立腺特異抗原(PSA);前立腺から分泌される酸性pH下でリン酸エステルを水解する酵素であり、前立腺癌の腫瘍マーカーとして用いられる前立腺酸性フォスファターゼ(PAP);神経組織及び神経内分泌細胞に特異的に存在する解糖系酵素であり、肺癌(特に肺小細胞癌)、神経芽細胞腫、神経系腫瘍、膵小島癌、食道小細胞癌、胃癌、腎臓癌、乳癌のマーカーとなる神経特異エノラーゼ(NSE);子宮頸部扁平上皮癌の肝転移巣から抽出・精製された蛋白質であり、子宮癌(頸部扁平上皮癌)、肺癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌のマーカーとなる扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原);肺腺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるシアリルLeX-i抗原(SLX);膵癌、胆道癌、肝癌、胃癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるSPan-1;食道癌、胃癌、直腸・結腸癌、乳癌、肝細胞癌、胆道癌、膵癌、肺癌、子宮癌のマーカーであり、特に他の腫瘍マーカーと組み合わせて進行癌を推測し、再発予知・治療経過観察として有用である単鎖ポリペプチドである組織ポリペプタイド抗原(TPA);卵巣癌、転移性卵巣癌、胃癌、大腸癌、胆道系癌、膵癌、肺癌のマーカーとなる母核糖鎖抗原であるシアリルTn抗原(STN);肺の非小細胞癌、特に肺の扁平上皮癌の検出に有効な腫瘍マーカーであるシフラ(cytokeratin;CYFRA)、等が挙げられる。卵巣癌,乳癌、大腸癌、非小細胞肺癌などで発現の上昇がみられる上皮成長因子受容体(ErbB1,ErbB2,ErbB3,ErbB4)が挙げられる。中でも、ErbB2に対する抗体(商品名:ハーセプチン(登録商標))は抗体医薬として、転移性乳がんの適応薬として承認されている。
【0021】
<多重特異性分子>
本発明における「多重特異性分子」とは、構造体の表面に含有される金属に対して親和性を有する金属結合部位と、細胞表面抗原に対して親和性を有する細胞表面抗原結合部位とを併せ持つ分子である。「親和性」とは、物質間の相互作用により、結合対象物質と特異的に結合状態を形成できる性質を指す。この物質間の相互作用には、化学反応による結合や金属間結合などの結合は含まれない。
【0022】
本発明における多重特異性分子は、上述のとおり、金属結合部位と細胞表面抗原結合部位との二つの異なる結合部位を有する。金属結合部位は、構造体の表面に含まれる1種の金属に対する親和性を有するものであっても、2種以上の金属に対して親和性を有するものであってもよい。また、2種以上の異なる金属のそれぞれに親和性を有する2以上の眷属結合部位を有するものであってもよい。この構造を有する多重特異性分子は、金属結合部位を介して構造体に配向結合し、細胞表面抗原結合部位が構造体表面から離れた方向に配向される。その結果として、細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で配向させることが可能となる。更には、構造体表面から空間的距離を保ち、細胞表面抗原結合部位の変性が抑えることができる。また、金属結合部位には細胞表面結合機能が要求されないので、金属結合部位の構造設計の自由度が広がり、安定な立体構造を付与し易くなる。また金属結合部位と細胞表面結合部位の間に、リンカーを介することによって空間的距離を保つことができる。その結果、細胞表面抗原結合部位を十分利用可能な形で維持し、また細胞表面抗原結合部位の変性によってもたらされる正常部位への非特異的な結合や多量投与による生体内への副作用を低減することが期待できる。
【0023】
多重特異性分子における金属結合部位及び又は細胞表面抗原結合部位は、各々所定の機能を有し、本発明に適用できるものであれば特には限定されない。例えば、結合対象としての金属への特異的結合能を有する、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、核酸、糖またはこれらの誘導体、およびこれらの複合体を金属結合部位の構成材料として利用できる。また、例えば、結合対象としての細胞表面にある抗原への特異的結合能を有する、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、核酸、糖またはこれらの誘導体、およびこれらの複合体を細胞表面抗原結合部位の構成材料として利用できる。
【0024】
多重特異性分子の有する結合部位の少なくとも一部に、抗体可変領域の少なくとも一部を含んでなるものを用いることが好ましい。抗体可変領域は、標的に対する特異性が高く、また、抗体可変領域が有する立体的にも安定したβシート構造からなるβサンドイッチ構造を有する。このβサンドイッチ構造により、構造体と細胞表面抗原結合部位との間に適度な空間位置を保つことが可能で、かつ結合対象物質との結合による衝撃を吸収することが可能である。その結果、細胞表面抗原結合部位が、構造体から何らかの相互作用を受けることがなく、結合能を保持することができる。更に、結合力の高い抗体もしくは抗体断片を人工的に作製することができる点で有効である。
【0025】
ここで、「抗体」とは以下の(1)及び(2)に分類されるタンパク質の一群を示す。
(1)すべての脊椎動物のリンパ系細胞で産出される抗体。
(2)上記(1)の抗体のアミノ酸の1以上が抗体としての所望の機能を維持し得る範囲内で欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、その構造・機能において関連を有するタンパク質。
【0026】
抗体は、その特性(免疫学的または物理学的な)の分類において、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに分類される。
【0027】
<抗体断片>
「抗体断片」とは、抗体或いは免疫グロブリンの全長に満たない抗体の任意の分子或いは複合体をいう。好ましくは、抗体フラグメントは、少なくとも、全長抗体の特異的結合能力の重要な部分を保持する。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、ディアボディー、およびFdフラグメントが挙げられるがこれらに限定されない。多重特異性分子の金属結合部位及び細胞表面結合部位が抗体断片から構成される場合、抗体を用いるよりも全体としての低分子量化が可能であり、ヒトへ投与する際に、余分な免疫原性を抑制または低減し、腫瘍部位への浸潤性の向上とそれによるプロテアーゼ等による分解からの保護が期待できる。
【0028】
抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、酵素的または化学的に、インタクトな抗体の断片化によって産生され得る。あるいは部分抗体配列をコードする遺伝子より組換え的に産生され得る。あるいは、抗体断片は、全体的にまたは部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、必要に応じて、一本鎖抗体断片とすることもできる。あるいは、抗体断片は、例えば、ジスルフィド(−S−S−)結合によって連結される複数の鎖を含み得る。抗体断片はまた、必要に応じて、複数の分子の複合体でも良い。機能的な抗体断片は、代表的には、少なくとも約50アミノ酸を含み、より代表的には少なくとも、約200アミノ酸を含む。
【0029】
「抗体の可変領域」とは、標的物質(抗原)の種類により特異的な結合/捕捉機能を発揮するために抗原毎に異なるアミノ酸配列部分を有する、免疫グロブリンの先端のドメインであり、通常Fvと記される。Fvはまた、「重鎖の可変ドメイン(以下VHと記す場合もある)」、及び「軽鎖の可変ドメイン(以下VLと記す場合もある)」から成り、免疫グロブリンGではVH、VLドメインを通常それぞれ2ずつ含む。多重特異性分子は、Fvまたはその一部であってもよく、例えばFvを構成する重鎖可変領域(VH)や軽鎖可変領域(VL)またはその一部であってもよい。一方、VHとVLからなる複合体としては、一方のカルボキシ末端と他方のアミノ末端数個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結した一本鎖Fv(single chain Fv:scFv)を利用することもできる。scFvを形成するVH/VL間(順不同)に一以上のアミノ酸からなるリンカーを設けることが望ましい。アミノ酸リンカーの残基長については、VHまたはVLと抗原との結合に必要な構造形成を妨げるような拘束力を持たないように設計することが重要である。具体的な例としては、アミノ酸リンカー長は、5乃至18残基が一般的で15残基が最も多く用いられ検討されている。これら断片は遺伝工学的な手法により得ることが可能である。
【0030】
抗体可変領域(Fv)はVHまたはVL単独、またはこれら複合体(Fv、scFvを含む)であっても構わない。更に、VHまたはVL、もしくはVH/VL複合体の一部であっても、金属微粒子及び細胞表面抗原に対して結合性を有するものであれば何ら問題はない。構造体の表面に少なくとも一部に金を含む場合、前記抗体可変領域が金結合性を有することが好適である。
【0031】
構造体の表面の少なくとも一部に金を含むとき、多重特異性分子の金属結合部位として、抗体可変領域が配列番号:1乃至配列番号:57のアミノ酸配列から選択された少なくとも一つを有することが望ましい。そのような抗体可変領域のアミノ酸配列の一例を、配列番号:58乃至配列番号:78に示す。これら配列において、一個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を少なくとも一以上含んだものであっても、上述のように所望の機能を発揮できるのであれば本発明で用いる多重特異性分子として何ら問題はない。
【0032】
多重特異性分子が有する金属結合部位及び細胞表面抗原結合部位は、双方が抗体断片であっても良いし、一方が抗体断片、他方が5以上のアミノ酸からなるペプチド鎖であってもよく、双方が5以上のアミノ酸からなるペプチド鎖であってもよい。また、細胞表面抗原結合部位として、細胞表面抗原のリガント分子もしくは受容体を用いることができる。例えば、成長因子、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、細胞接着分子、ホルモン、神経伝達物質,レクチン等のリガンド分子やこれらの受容体タンパク質を用いることができる。細胞表面抗原結合部位としては、細胞表面抗原に対して特異的に親和性を有するものであれば、種々の組み合わせから本発明の目的にあった機能を有するものを選択して用いることが可能である。
【0033】
これらの結合部位の双方が抗体断片である場合についての具体例を図1に示す。この例では、多重特異性分子の最小単位は、構造体表面に含まれる金属を認識する第一のドメインと細胞表面抗原を認識する第二のドメインから構成される。その組み合わせ例としては、VH(金属)−VH(細胞表面抗原)、VH(金属)−VL(細胞表面抗原)、VL(金属)−VH(細胞表面抗原)、VL(金属)−VL(細胞表面抗原)といった組み合わせが挙げられる。
【0034】
更に、第一のドメインと複合体を形成する、VHの少なくとも一部及び/またはVLの少なくとも一部を含む第三のドメインを更に有するものでもよい。また、第二のドメインと複合体を形成する、VHの少なくとも一部及び/またはVLの少なくとも一部を含む第四のドメインを更に含んでなる構成であっても良い。あるいは、これらの第三のドメインと第四のドメインの両方を更に含むものであってもよい。なお、第三のドメインは、第一のドメインと複合体を形成することにより、第一のドメインと相補的な金属結合部位を形成することがより望ましい。例えば、図2の模式図で示すように第一のドメイン1がVH(金属結合部位:以下「金属」と表記する)である場合、第三のドメイン3は第一のドメイン1とFvを形成し得るVL(金属)であることが好ましく、より好ましくは第一のドメイン1と第三のドメイン3が金属結合部位を連合して形成する構成である。このように第一のドメイン1が第三のドメイン3とFvを形成することにより、構造的により安定化し、構造変化による機能低下を抑制することが期待できる。さらに、第三のドメイン3が第一のドメイン1と連合して金結合部位を形成することにより、更に結合能(例えば、結合速度の向上、解離速度の抑制等)を向上することも期待される。
【0035】
更には、第一のドメイン1と第三のドメイン3は、それぞれ独立したポリペプチド鎖として設けても、連鎖してなるポリペプチド鎖であってもよい。例えば、図2の模式図に示す例では、第一のドメイン1と第二のドメイン2はリンカー5で連鎖しており、第三のドメイン3はこれらに対して独立したドメインとして設けられている。また、図3の模式図に示すように第三のドメイン3−第一のドメイン1−第二のドメイン2がリンカー5により1つの鎖として連結した構造を挙げることができる。なお、金属及び細胞表面抗原に対してそれぞれのドメイン及びドメイン複合体の結合能が発揮されるように適宜その構成を決定することができる。また、別の例として、図4の模式図に示すような構成も可能である。つまり、第一のドメイン1と第二のドメイン2からなるポリペプチド鎖と第三のドメイン3と第二のドメイン2からなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第一のドメインと第三のドメインから形成されるFvまたはFv様複合体により金属結合部位を連合して形成し、両ポリペプチド鎖を細胞表面抗原に対して結合するアンカーとして第二のドメインが機能するものである。
【0036】
また、第四のドメインは、第二のドメインとともに細胞表面抗原に対する結合部位を相補的に形成することが望ましい。例えば、図5の模式図に示すように、第二のドメイン2がVLである場合、第四のドメイン4は第二のドメイン2とFvを形成し得るVHであることが好ましく、より好ましくは第二のドメイン2と第四のドメイン4が細胞表面に対する結合部位を連合して形成する構成である。また、図6の模式図に示すように、第一のドメイン1、第二のドメイン2及び第四のドメイン4が連鎖したポリペプチド鎖を形成してもよい。
【0037】
更に、図7の模式図に示すような構成も可能である。つまり、第一のドメイン1と第二のドメイン2からなるポリペプチド鎖と第一のドメイン1と第四のドメイン4からなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第二のドメイン2と第四のドメイン4から形成されるFvまたはFv様複合体により細胞表面抗原を結合し、両ポリペプチド鎖を金属に対して結合するアンカーとして第一のドメイン1が機能するものである。
【0038】
また、図8の模式図に示すように第三のドメイン3及び第四のドメイン4がそれぞれ、連鎖している第一のドメイン1と第2のドメイン2に対して独立したポリペプチド鎖であっても、図9の模式図に示すように、第一のドメイン1と第2のドメイン2が、第三のドメイン3及び第四のドメイン4がそれぞれ、連鎖されてなるポリペプチド鎖であってもよい。連鎖したポリペプチド鎖の場合、第三のドメインと第四のドメインを直接連鎖してもよいし、図9のように一以上のアミノ酸からなるリンカーを介して連鎖してもよい。リンカー長の設定については、前記と同様にアミノ酸からなるリンカーは1乃至10アミノ酸であることが好ましい。より好ましくは1乃至5個のアミノ酸からなるものである。
【0039】
また、図10の模式図に示すように第一乃至第四のドメイン1〜4が一つのポリペプチド鎖内に連鎖されたものであってもよい。この場合、第一のドメイン1と第三のドメイン3が複合体を形成し金属と結合し、第二のドメイン2と第四のドメイン4が複合体を形成し細胞表面抗原に結合できるように配置できるように構成されるものである。その為に、リンカーをドメイン間に設けることが好ましい。例えば、第一及び第二のドメイン間、第三及び第四のドメイン間は1乃至5アミノ酸であり、第二及び第三のアミノ酸のドメイン間は15乃至25アミノ酸である。同じような構成において、第一のドメインと第二のドメイン、第三のドメインと第四のドメインをそれぞれ/双方とも入れ替えること可能である。これら一本鎖ポリペプチド内における各ドメインの配列は、金属または細胞表面抗原に対する結合性、及び本多重特異性分子の長期安定性等、所望の特性に応じて適宜選択して決定することが可能である。
【0040】
更に、上記のように抗体断片から構成される多重特異性分子の各部分は、所望の結合能に影響の大きくない部分の一部を遺伝的に改変することも可能である。かかる改変は、上記のように結合部位を形成するドメイン複合体の組み合わせ(例えば、第一のドメインと第三のドメイン、または第二のドメインと第四のドメイン)において、結合性特性の向上、及び安定性の向上を図る場合に有用である。例えば、上記ドメイン間の接合界面にてジスフィルド結合を形成できるようにする方法が挙げられ、例えば、前記したドメイン複合体(例えば、第一のドメインと第三のドメイン、または第二のドメインと第四のドメイン)の接合界面部の所望の部位にシステイン残基を導入する方法が利用できる。また、リンカー内に二つのシステインを設けることにより、同じ結合部位を形成するドメイン複合体の形成補助や、安定性を向上させる方法も利用可能である。
【0041】
多重特異性分子が有する金属及び細胞表面抗原に対する結合部位の一方を抗体断片とし、他方を親和性ペプチドとすることもできる。この場合、これら親和性ペプチド鎖としては、従来既知のファージディスプレー法に代表されるペプチド提示によるスクリーニング法や、計算化学を用いた設計等からその結合性において選択し、好適なものを用いることができる。また、従来公知であるペプチドのアミノ酸配列(Nature Materials、Vol.2、pp577、2003)を参考に候補ライブラリーを作製し、スクリーニングを行うことも可能である。例えば、上記抗体可変領域またはその複合体のN末端またはC末端に上記親和性ペプチドを融合したタンパク質を形成することも可能である。
【0042】
また、多重特異性分子は、金属結合性および細胞表面抗原結合性に影響を及ぼさない限り、一部に本発明を適用する際に望ましい機能を有する部位を付加することもできる。例えば、温熱素子を複数回使用する場合、多重特異性分子が熱により変性し標的部位との結合能が低下するのを抑制するのが望ましい。そのような場合、熱ショックタンパク質などのシャペロン分子を多重特異性分子との融合タンパク質として発現させることで熱による変性を抑制することができる。
【0043】
このような多重特異性分子は、タンパク質として遺伝子工学的に作製が可能である。一本のポリペプチド鎖として作製することも可能であるが、複数のポリペプチド鎖の複合体によって構成されるように作製しても、本発明に求められる機能を損なわないものであればその形態は問題ではない。
【0044】
更に、上記の場合と同様に結合部位を形成するscFvの組み合わせ(例えば、上記第一のドメインと上記第三のドメイン、または上記第二のドメインと上記第四のドメイン)に対して、所望の結合能に影響の大きくない部分の一部を遺伝的に改変してもよい。この改変は、結合性特性の向上、及び安定性の向上を図ることを目的として行うことができる。例えば、上記scFv間の接合界面にてジスフィルド結合を形成できるようにする方法が挙げられる。かかるジスルフィド結合の形成のための構造は、例えば、前記scFv(例えば、上記第一のドメインと上記第三のドメイン、または上記第二のドメインと上記第四のドメイン)の接合界面部の所望の部位へのシステイン残基の導入により得ることができる。また、上記リンカー内に二つのシステインを設けることにより、同じ結合部位を形成するscFv形成補助や、安定化する方法も可能である。
【0045】
一本鎖として形成する場合、所望の構造を有する融合タンパク質の発現のための融合核酸を用いることができる。この融合核酸としては、例えば、前記抗体可変領域をコードする核酸の5'末端(または3'末端)に前記親和性ペプチドをコードする核酸を挿入した融合核酸を挙げることができる。この融合核酸を用いて、前記可変領域のN末端(またはC末端)に前記金属微粒子親和性ペプチドを融合したタンパクを得ることができる。
【0046】
上記のような多重特異性分子をコードした核酸を種々の発現ベクターに導入、発現・精製することにより多重特異性分子を融合タンパクとして得ることができる。
【0047】
タンパク質発現用ベクターとしては、選択する既知の宿主細胞に応じて、多重特異性分子をコードする導入遺伝子を、発現させるために必要な既知のプロモーター等の構成等に組み込むことより、設計及び構築することができる。大腸菌等を宿主細胞として用いる場合、外来遺伝子産物であるタンパク質またその構成物を速やかに細胞質外に除外することで、プロテアーゼによる分解を少なくすることが可能である。また、この外来遺伝子産物が菌体にとって毒性である場合でも、菌体外へ分泌することによりその影響を小さくすることができることが知られている。通常、既知の細胞質膜あるいは内膜を通過して分泌されるタンパク質の多くがその前駆体のN末端にシグナルペプチドを有し、分泌過程においてシグナルペプチダーゼにより切断され、成熟タンパク質となる。多くのシグナルペプチドはそのN末に塩基性のアミノ酸、疎水性アミノ酸、シグナルペプチダーゼによる切断部位と配置されている。
【0048】
目的とするタンパク質をコードする核酸の5'側にシグナルペプチドの一つとされているpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより分泌発現させることができる。
【0049】
また、多重特異性分子が複数のポリペプチド鎖の複合体として形成される場合。個々のポリペプチドを別個のベクターにて作製することも可能であるが、ひとつのベクター中に複数のポリペプチド鎖を作製できるように構成することも可能である。この場合、各ドメインまたはポリペプチド鎖をコードする核酸の5'側にpelBをコードする核酸を配置し、分泌を促すことができる。更に、または一以上のドメインからなるポリペプチド鎖として発現させる場合、前記ポリペプチド鎖の5'末端に同様にしてpelBをコードする核酸を配置することにより分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合したタンパク質は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。
【0050】
また、発現させたタンパク精製時の作業の簡便さを考慮して、抗体分子、または独立した各抗体断片もしくは複数の抗体断片が連続して結合して形成されたポリペプチド鎖のNまたはC末端に精製用のタグを遺伝子工学的に配置することが可能である。例えば、前記精製用タグとしては、ヒスチジンが6残基連続したヒスチジンタグ(以下、His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)のグルタチオン結合部位などが挙げられる。前記タグの導入方法としては、前記発現用ベクターにおける金結合性タンパク質をコードする核酸の5'または3'末端に精製タグをコードする核酸をベクター内の所定の位置に挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用するなどが挙げられる。
【0051】
以下に、上記発現ベクターを用いた多重特異性分子の製造方法例について述べる。
【0052】
本発明の癌治療用の温熱素子を構成する多重特異性分子であるタンパク質、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、遺伝子組み換え技術により生産することができる。例えは、従来既知のタンパク発現用の宿主細胞を、宿主細胞に応じて設計したタンパク質発現用ベクターで形質転換し、宿主細胞内のタンパク合成システムを用いて、目的とするタンパク質を宿主細胞内で合成することができる。その後、宿主細胞内に蓄積された、または細胞質外に分泌された目的タンパク質をそれぞれ細胞内部画分または細胞培養上清から精製する。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合、タンパク質をコードする核酸の5'側にpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより細胞質外に分泌発現するように試みることができる。
【0053】
ひとつの発現用ベクターに構成要素となるポリペプチド鎖を複数コードすることも可能である。その場合、構成要素となる各ポリペプチド鎖をコードする核酸の5'側にpelBをコードする核酸を配置し、発現時に細胞質外への分泌を促すことができる。
【0054】
このようにシグナルペプチドをN末端に融合したタンパク質は、ペリプラズマ画分及び培地上清画分から精製することができる。精製方法としては、目的のタンパク質を含む画分から硫酸アンモニウム等によりタンパク質成分を濃縮した後に再度適当なバッファーに懸濁し、カラム精製を行う。例えば、精製タグがHisタグの場合はニッケルキレートカラムで、精製タグがGSTの場合はグルタチオン固定化カラムを使用すること等により目的のタンパク質を精製することができる。
【0055】
また、菌体内に発現したタンパク質を不溶性顆粒で得ることも可能である。この場合、培養液から得られた菌体をフレンチプレスや超音波により破砕した細胞破砕液から前記不溶性顆粒を遠心分離することができる。得られた不溶性顆粒画分を尿素、塩酸グアニジン塩を含むの従来既知の変性剤を含んだ緩衝溶液で可溶化した後に、変性条件下で前記同様なカラム精製することができる。得られたカラム溶出画分は、リフォールディング作業により、変性剤除去と活性構造再構築を行うことができる。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。例えば、段階透析法や希釈法など従来既知の方法を目的のタンパク質に応じて用いることが可能である。
【0056】
多重特異性分子の各ドメインまたは各ポリペプチド鎖は、同一宿主細胞内で発現させることも可能であるし、別の宿主細胞を使用して発現した後に共存させて、複合体化させることも可能である。
【0057】
更に、多重特異性分子をコードする核酸を含む上記ベクターを、細胞抽出液を用いて生体外での目的のタンパク質発現をすることも可能であることが知られている。好適に用いられる細胞としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等が挙げられる。しかしながら、上記無細胞抽出液によるタンパク合成は還元条件下で行われることが一般的である。その為に、抗体断片中のジスルフィド結合を形成させるために従来既知のリフォールディング処理を行うことがより好ましい。
【0058】
更に、また、前述の多重特異性分子の金属結合部位または細胞表面抗原結合部位の何れか一方に化学修飾基を導入することが可能である。例えば、構造体の表面の少なくとも一部に金が露出している場合、金属微粒子表面に結合性を有する部位以外にSH基を末端部に有する導入基を導入することにより、本発明の多重特異性分子とすることができる。また、金に対して結合部位を有する多重特異性分子にシラノール基やアルコシキシランを有するような官能基を導入することも可能である。このような官能基の導入により、本発明の多重特異性分子の金属または細胞表面抗原標的結合部位への結合性を高めることが可能である。
【0059】
<温熱素子>
本発明において温熱素子とは、外部信号により発熱する構造体を有する物質を指す。本発明の温熱素子は、先に記載したとおり、少なくとも以下の構成要素を有する。
(1)表面の少なくとも一部が金属からなる構造体。
(2)前記金属を含む部分への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子。
(3)前記外部信号により発熱する発熱部。
【0060】
本発明における温熱素子の一例の構成を図11に示す。また、図12に本発明が適用できる癌治療用素子の別の形態について示す。この癌治療用温熱素子は、構造体としての金属微粒子、金属微粒子表面に結合した多重特異性分子、コア粒子、コア粒子表面に被覆した温度応答性高分子、温度応答性高分子に内包された放出剤からなる。この構成により、外部信号の付加により金属微粒子より発せられる熱発生により温度応答性高分子に内包された放出剤を放出することが可能となる。内包する放出剤としては、ハイパーサーミアによる効果と併用することで、殺腫瘍効果を相乗的に向上できる抗癌剤等の薬剤が好ましい。例えば、種々の生理活性作用のあるタンパク質やペプチド、脂質、糖、核酸等が挙げられるが、本発明において適用可能なものであれば特に限定されない。
【0061】
(外部信号)
本発明の温熱素子は外部信号の付加により、熱を発生する機能を有する。外部信号としては、光、磁気、電気等が挙げられる。なお、外部信号は、被投与側への影響がないか、あるいは影響が少なくいものであることが望ましい。そのような観点から、光及び磁気(磁界の変化)の少なくとも一方を用いるのが好ましい。光の場合、波長などの選択は、用いる金属、被投与側への影響を鑑み、適宜選択されるものである。例えば、構造体として金微粒子(粒径:1nm乃至100nm)を用いた場合は、動物体内の組織及び細胞に殆ど害を及ぼさない800nm乃至1200nmの光を吸収し、発熱する。この発熱により、腫瘍組織を局所的に加熱し、損傷、死滅せしめることが可能である。また、構造体を金微粒子とした場合、例えば、短波からマイクロウェーブ領域の10MHz乃至2GHzの高周波を与えることに熱を発することが知られている。照射時間は照射に使用する波数に応じて適宜定めることができる。
【0062】
本発明の温熱素子を用いて熱を発生させるために用いる信号入力用装置は、本発明の温熱素子の使用目的に応じて選択できる。例えば、800乃至1200nm波長の光線を照射できるランプでもよく、YAGレーザーであってもよい。更には、種々のマイクロウェーブを発生装置として用いることも可能である。
【実施例】
【0063】
以下に構造体として金微粒子、多重特異性分子として金結合性部位及び上皮細胞成長因子ErbB2結合性部位を有するタンパク質からなる温熱素子を作製する場合についての実施例について説明する。
【0064】
(実施例1)
金結合性およびErbB2結合性を有する多重特異性分子の作製
(1)発現ベクターの作製
(1−1)金結合性VHコード核酸断片の調製
金結合性部位の構成要素となる金結合性VHをコードする核酸配列(配列番号:110)の5’末端側に制限酵素NcoI切断部位、3’末端側に制限酵素NheIを配置したベクター導入用のPEG結合性VH(以下、VH(Au))を作製する。すなわち、以下のプライマーを用いて、市販のPCRキットを当業者の推奨する調合に準じた方法によって、オーバラップPCRを行い、約380bpの塩基対からなる人工核酸を得る。
・Au-VHF-1(配列番号:82)
nnnnnccatgg caggtgcagttggtggagtctggagcagaggtgaaaaaggccggggagtctctgaagatc
・Au-VHF-2(配列番号:83)
gcgccagatgcccggcaaaggcctggaatggatggggatgatctatcctgctgactctgataccagatat
・Au-VHF-3(配列番号:84)
caccgcctacctgcaatgggccggcctgaaggcctcggacaccgccatatattactgtgcgagacttgga
・Au-VHR-1(配列番号:85)
catctggcgcacccagttgatccagtaactgggaaagctgtatccagatcccttacaggagatcttcaga
・Au-VHR-2(配列番号:86)
gtaggcggtgttgatggacttgtcggctgagatggtgacgtggccttggaaggacgggctatatctggta
・Au-VHR-3(配列番号:87)
nnnnnngctagctgaggagacggtgaccagggttccctggccccatctagacatgtacctcccaccaattccaagtctc
更に、Au-VH F1およびAu-VH R-3を使用し、市販のシークエンス反応キットと反応液組成によりBIGDYE−PCR反応を行った。温度サイクルは96℃×3min→(94℃×1min→50℃×1min→68℃×4min)×30CYCLE→4℃とする。目的のVHをコードする塩基配列を有する断片が得られたことを確認する。
【0065】
(1−2)Au結合性VLコード核酸断片の調製
金結合性部位の構成要素となる金結合性VLをコードする核酸配列(配列番号:111)の5’末端側に制限酵素NheI部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸、3’末端側に制限酵素SacIIを配置したベクター挿入用の金結合性VL(以下、VL(Au))を作製する。すなわち、以下のプライマーを使用する以外は、(1−1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVLの塩基配列を有することを確認する。
・Au-VLF-1(配列番号:88)
nnnnnngctagcggcggcggcggctctgaaattgtgttgacgcagtctccatcttctgtgtctgcatctgtgggagacagagtcacc
・Au-VLF-2(配列番号:89)
cctggtatcagcagaagccagggaaagcccctaagctcctgatctatggttcaaccaatttgcaaggtgg
・Au-VLF-3(配列番号:90)
ccatcaacggcctgcagcctgaagatattgcaacatattactgtaaatattttgatgctctccctccggt
・Au-VLR-1(配列番号:91)
tgataccaggctaaccagctgttaacatcctcactcgcccgacaagtgatggtgactctg
・Au-VLR-2(配列番号:92)
ccgttgatggtgaaagtaaagtgtgtcccagatccacgtccgctgaaccttgatgggaccccaccttgca
・Au-VLR-3(配列番号:93)
nnnnnccgcggcgcacgtttaatctccagtcgtgtcccttggccgaaggtgaccggaggga
(1−3)ErbB2結合性VHコード核酸断片の調製
配列番号79で指定されるアミノ酸配列を有するErbB2結合性VHをコードする核酸配列(配列番号:112)の5末端側に制限酵素NcoI切断部位、3’末端側に制限酵素NheIを配置したベクター導入用のErbB2結合性VH(以下、VH(ErbB2))を作製する。すなわち、以下のプライマーを使用する以外は、(1−1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVHの塩基配列を有することを確認する。
・ErbB2−VH F1(配列番号:94)
nnnnnn ccatggcaggtccagctgcagcagtctgggtctgagatggcgaggcctggagcttcagtgaagctgccctgcaagg
ErbB2−VH F2(配列番号:95)
catggacatggccctgagtggatcggaaatatttatccaggtagtggtggtactaactacgctgagaagt
・ErbB2−VH F3(配列番号:96)
atgcacctcagcaggctgacatctgaggactctgcggtctattattgtacaagatcggggggtccctact
・ErbB2−VH R1(配列番号:97)
catgtccatgcctctgcttcacccagtgcatccagtaactggtgaatgtgtcgccagaagccttgcaggg
・ErbB2−VH R2(配列番号:98)
tgaggtgcatgtagactgtgcgggaggacctgtctacagtcagagtgaccttgttcttgaacttctcagc
ErbB2−VH R3(配列番号:99)
nnnnnngctagcggaggagactgtgagagtggtgccttggccccagtagtcaaagaagtagggacc
(1−4)ErbB2結合性VLコード核酸断片の調製
配列番号80で指定されるアミノ酸配列を有するErbB2結合性VLをコードする核酸配列(配列番号:113)の5末端側に制限酵素NheI切断部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸、3’末端側に制限酵素SacII切断部位を配置したベクター挿入用のErbB2結合性VL(以下、VL(ErbB2))を作製する。すなわち、以下のプライマーを使用する以外は、(1−1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVLの塩基配列を有することを確認する。
・ErbB2−VL F1(配列番号:100)
nnnnnngctagcggcggcggcggctctgacattctaatgacccaatctccactctccctgcctgtcagtcttggaga
ErbB2−VL F2(配列番号:101)
gaatcacctatttagaatggtacctgcaaaggccaggccagtctccaaagctcctgatctacaaagtttc
・ErbB2−VL F3(配列番号:102)
actcaagatcagcagagtagaggctgaggatctgggaatttattactgctttcaaggttc
・ErbB2−VL R1(配列番号:103)
taggtgattccattattatgtacaatgttctgactagatctgcaagagatggaggcttgatctccaagac
ErbB2−VL R2(配列番号:104)
gatcttgagtgtgaaatctgtccctgatccactgccactgaacctgtctgggaccccagaaaatcggtcggaaactttgt
・ErbB2−VL R3(配列番号:105)
nnnnnnccgcggcgcacgtttgatttccagcttggtcccccctccgaacgtgggaggaatatgtgaaccttgaa
(1−5)発現ベクター作製
上記4種の核酸断片用いてを2つの発現ベクターを以下の構成で構築する。
(1−5−1)VH(Au)−VL(ErbB2)発現用ベクター(pAu−ErbB2)の作製 (図13)
(i)VH(Au)の挿入
図13に示したプラスミドpUT−XX2を、制限酵素NcoI/NheI(ともにN
ew England Biolabs社)で切断し、スピンカラム S-400 HR(GEヘススケアバイオサンエンス)する。次に、同様に制限酵素NcoI/NheIにて切断した前記VHpegを切断し、切断断片を市販のゲル精製キット(SV Gel and PCR Clean−up system: Promega社)を使用して精製する。上記二つの断片を、市販のT4リガーゼキット(Roche社)を業者推奨の方法にて調合しライゲーションを行う。ライゲーション溶液をJM109コンピテントセル(Promega社)40μLにヒートショック法により形質転換した後に、LB/アンピシリン(amp.)プレートに撒き、37℃にて一晩静置する。
【0066】
次に、プレート中から任意のコロニーをLB/amp. 3mL液体培地に植え継ぎ、37℃にて一晩振盪培養を行う。その後、市販のMiniPrepsキット(Plus Minipreps DNA Purification System:Promega社)を使用して、プラスミドを回収する。得られたプラスミドを、Au−VH F1およびAu−VH R3を使用して前記シークエンス方法にて塩基配列を確認したところ、目的の断片が挿入されていることを確認する。
【0067】
(ii)VL(ErbB2)の挿入
上記(i)で得られたプラスミドpUT-VH(Au)を制限酵素NheI/SacIIで切断し、スピンカラム 400HR(アマシャムサイエンス)する。次に、同様に制限酵素NheI/SacIIにて切断したVL(ErbB2)を得る。以下、上記(i)と同様にして、ライゲーション及び目的のVH(Au)−VL(ErbB2)発現用プラスミドpAu-ErbB2であることを確認する(確認用プライマーは、VL−ErbB2 F1およびVL−ErbB2 R3)。
【0068】
(1−5−2)VH(ErbB2)−VL(Au) 発現用ベクター(pErbB2−Au)の作製(図14)
(i)VH(ErbB2)の挿入
上記(1−5−1)の(i)と同様の方法にてVH(ErbB2)をプラスミドpUT−XX2に挿入し、得られたプラスミドが目的のプラスミドであることを確認する。(確認用プライマーは、ErbB2−VH F1およびErbB2−VH R3)
(ii)VL(Au)の挿入
VL(Au)を上記(i)で得られたプラスミドに上記(1−5−1)(ii)と同様の方法にて挿入し、得られたプラスミドが目的のVH(ErbB2)−VL(Au)発現用ベクターpErbB2−Auであることを、(1−1)と同様にして確認する(確認用プライマーはAu−VL F1およびAu−VL R3)。
【0069】
(1−6)タンパク発現及び精製
上記(1−5−1)(i)で得られたVH(Au)−VL(ErbB2)、及び(1−5−2)(ii)で得られたVH(ErbB2)−VL(Au)のポリペプチドを発現する発現ベクターを、個別の系において以下に記すタンパク発現及び精製工程で処理を行い、それぞれポリペプチド鎖pAu-ErbB2およびpErbB2-Auとして取得する。
a)形質転換
上記2つの発現ベクターを、それぞれ異なるBL21(DE3)コンピテントセル溶液40μLを形質転換する。形質転換は、ヒートショックを氷中→42℃×90sec→氷中の条件でおこなう。ヒートショックにより形質転換した上記BL21溶液にLB培地750μLを加え、一時間37℃にて振盪培養を行った。その後、6000rpm×5分間遠心を行う。培養上清650μLを廃棄し、残った培養上清と沈殿となった細胞画分を攪拌し、LB/amp.プレートに撒き、一晩37℃にて静置する。
b)予備培養
プレート上のコロニーを無作為に選択し、3.0mL LB/amp.培地にて28℃にて一晩振盪培養を行う。
c)本培養
上記予備培養溶液を2×YT培地 750MLに植え継ぎ、更に培養を28℃にて継続した。OD600が0.8を越えた時点で、終濃度が1mMとなるようにIPTGを加え、更に28℃にて終夜培養を行う。
d)精製
目的のポリペプチド鎖を不溶性顆粒画分から以下の工程により精製する。
(i)不溶性顆粒の回収
上記c)で得られた培養液を6000rpm×30minにて遠心し、沈殿を菌体画分として得る。得られた菌体をトリス溶液(20mM トリス/500mM NaCl)15mlに氷中にて懸濁する。得られた懸濁液をフレンチプレスにて破砕し、菌破砕液を得る。次に、菌破砕液を12,000rpm×15minで遠心を行い、上清を除き、沈殿を不溶性顆粒画分として得る。
(ii)不溶性顆粒画分の可溶化
上記(i)で得られた不溶性画分を6M 塩酸グアニジン/トリス溶液 10mLを加えて、一晩浸漬する。次に、12,000rpm×10minで遠心し、上清を可溶化溶液として得る。
(iii)金属キレートカラム
金属キレートカラム担体として、His−Bind(Novagen社製)を用いる。カラム調製やサンプル負荷、及び洗浄工程は、前記業者の推奨方法に準拠し、室温(20℃)にて行う。目的であるHisタグ融合のポリペプチドの溶出は60mMイミダゾール/Tris溶液にて行う。溶出液のSDS−PAGE(アクリルアミド15%)の結果、単一バンドであり、精製されていることを確認する。
(iv)透析
上記溶出液に対して、外液を6M 塩酸グアニンジン/Tris溶液として4℃にて透析を行い、溶出液中のイミダゾールの除去を行い、上記それぞれのポリペプチド鎖溶液を得る。
(v)リフォールディング
上記と同様にして、VH(Au)−VL(ErbB2)及びVH(ErbB2)−VL(Au)のそれぞれのポリペプチド鎖溶液を以下の工程により別個に、脱塩酸グアニンジンを透析(4℃)にて行いながらタンパク質のリフォールディングを行う。
(a) 6M 塩酸グアニジン/Tris溶液を用い、それぞれのポリペプチド鎖のモル吸光係数とΔO.D.(280nm−320nm)値から濃度7.5μMのサンプル(希釈後体積10ml)を調製する。次にβ−メルカプトエタノール(還元剤)を終濃度375μM(タンパク濃度50倍)になるよう添加、室温、暗所で4時間還元を行う。このサンプル溶液を透析バック(MWCO:14,000)に入れ、透析用サンプルとする。
(b)透析外液を6M塩酸グアニンジン/トリス溶液として、透析サンプルを浸漬し、緩やかに攪拌しながら6時間透析する。
(c)外液の塩酸グアニジン濃度を3M、2Mと段階的に下げる。それぞれの外液濃度において、6時間透析する。
(d)酸化型グルタチオン(GSSG)を終濃度375μM、L−Argを 終濃度0.4M)となるようにトリス溶液に加え、上記(c)の2Mの透析外液を加え、塩酸グアニジン濃度が1Mとし、pHをNaOHで、pH8.0(4℃)に調製した溶液にて、12時間緩やかに攪拌しながら透析する。
(e)上記(d)と同様の作業にて塩酸グアニジン濃度0.5Mの含L−Arg トリス溶液を整し、更に12時間透析する。
(f)最後にトリス溶液にて12時間透析する。
(g)透析終了後、10000rpmで約20分遠心分離し凝集体と上清を分離する。
【0070】
(vi)2量化画分の精製
上記(v)で得られた個々の5μM ポリペプチド(VH(Au)−VL(ErbB2)、VH(ErbB2)−VL(Au))溶液を混合し、4℃にて一晩する。次に、セファデックス75カラム(カラム:バッファー 20mM トリス、500mM NaCl、流速 1ml/min)にて二量体化した60kDa相当(インジェクションから約18分)のフラクションを得る。
(vii)緩衝液置換
以下の結合実験を行う為、緩衝液をリン酸緩衝液(PBS)に置換する。緩衝液の置換は、透析により行う。透析バックとして、RC Membrane Spectra/Pro2(MWCO12,000〜14,000:Spectrum社製)を用いる。上記透析バックに(vii)で得られる二量化タンパク質画分を入れ、外液をPBS500mLとし、ゆっくりと攪拌しながら透析を行う。外液は6時間毎に3回交換する。これにより得られた溶液をSPR測定用サンプルとする。
【0071】
(実施例2)
(二重結合性の確認)
実施例1で得られた二量化タンパク質画分の、金に対する結合性をSPRにて測定する。SPR測定装置として、BIAcore2000(BIAcore社製)を使用する。未使用のSIA-Kit Au金蒸着基板を、洗浄した後、窒素雰囲気下で乾燥させる。この金基板をSPR装置に装着し、ランニングバッファーをインジェクションする。SPRシグナルが安定した後、実施例Xで得た500nMの二量化タンパク質/PBST溶液を、40μLインジェクションする。金結合性を確認できる。尚、その他の諸条件は以下の通りである。
・温度:25℃
・流速:1μL/min
さらに、金結合性をSPR評価したサンプルに引き続き、連続して 0.5、1.0、2.0μM ErbB2/PBST溶液をインジェクションし、金基板上に固定化した多重特異性分子のErbB2に対する結合性をSPRにて測定する。SPRシグナル強度は、ErbB2濃度に依存性を示し、二量化画分タンパク質が金およびErbB2二重特異性を有することが確認できる。尚、その他の諸条件は以下の通りである。
・温度:25℃
・流速:1μL/min
(実施例3)
(ErbB2発現細胞への結合性の確認)
ErbB2を発現するTFK-1、A431およびMDAMB468細胞は、それぞれ胆管、外陰部および胸部から分離されたErbB2を有する腫瘍細胞である。陰性対照として、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO、ガングリオシドを有する黒色腫細胞系であるSK−MEL−23、を用いる。
【0072】
上記の細胞を1x106cells/mlとなるようにRPMI1640培地(インビトロジェン株式会社)を用いて懸濁し、細胞懸濁液を96穴ウェルプレート(ベクトンディッキンソン)に100μ
lずつ添加し37℃,5%CO2条件下で1晩培養する。
【0073】
実施例1で得られた二量化タンパク質に蛍光標識するために、Fluorescein Labeling Kit - NH2(株式会社同仁化学研究所)を製造業者の推奨する方法にて用いる。得られた標識多重特異性分子はPBS(-)を用いて10μg/mlに希釈する。
【0074】
培養した上記細胞をPBS(-)(インビトロジェン)100μlで3回洗浄したのち、この標識
二量化タンパク質溶液を0.22μmのフィルターを用いてろ過した後、50μlを添加し、3
0分間静置する。その後、PBS(-)100μlを用いて3回洗浄した後にPBS(-)を50μl添加
し、蛍光顕微鏡を用いて観察を行う。その結果、ErbB2陽性細胞株、TFK-1、A431およびMDAMB468においては蛍光が確認できる。一方、ErbB2陰性細胞株CHO、SK−MEL−23では蛍光は確認できない。以上のことから、実施例1で作製した二量化タンパク質はErbB2を発現する培養細胞に適用可能であることが確認できる。
【0075】
(実施例4)
次に、本発明における温熱素子の腫瘍細胞への効果を調べるため下記検討を行う。
【0076】
上記実施例1で得られた金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質溶液に、金微粒子(15nm, 田中貴金属、0.2mmol)を加え室温で緩やかに攪拌しながら30分間反応させる。4℃、12000rpm,5分間遠心して、上清を除去し、得られた沈殿に0.1MのK2CO3(pH9)を得る。これを4℃で30分間、12000×gで遠心分離を行い、沈澱を再懸濁することを3回繰り返して精製した。さらに、20mMトリス緩衝液(150mM NaCl、pH8.2、1%BSA)に懸濁し、本発明の温熱素子として適用できる金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質固定化金微粒子を得る。
【0077】
また、比較のために、別途作製した抗ErbB2抗体断片(scFv(ErbB2)、VH(ErbB2)−リンカー(GGGGS)−VL(ErbB2)のアミノ酸配列を有する)に修飾を施して金微粒子表面へ固定する。固定方法は、従来既知の方法である。すなわち、末端にカルボキシル基を有する自己組織化単分子膜形成によりカルボキシル基を表面に露出させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(アルドリッチ)を用いて、カルボキシル基を活性化する。その後、scFv(ErbB2)の有するアミノ基を反応させることにより抗体を金微粒子上へ固定化する。
【0078】
得られた上記金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質固定化金微粒子およびscFv(erbB2)固定化金微粒子を、実施例3と同様にして培養した以下の各細胞に投与する。
・ErbB2陽性細胞TFK-1
・A431
・MDAMB468
・ErbB2陰性細胞CHO
・SK−MEL−23
投与後30分間静置した後、PBS(-)で3回洗浄する。その後、200kHz、磁界強度34000A/mの高周波磁界をを3分間印加する。この操作を3回行う。次に上記の処理を行った細胞を回収し、1500rpm,5分間遠心後,PBS(-)で1mlに懸濁し、トリパンブルー1mlを加え懸濁した後、ヘモサイトメーターを用いて生細胞および死細胞のカウントを行った。その結果、金およびErbB2二重特異性二量化タンパク質固定化金微粒子を用いたErbB2陽性細胞において、優位に死細胞が観察された。
【0079】
(実施例5)
金結合性scFv−EGF融合タンパク質の作製
配列番号81で指定されるアミノ酸配列を有するヒト上皮細胞成長因子(hEGF)をコードする核酸配列(配列番号:114)を金scFvのC末端に融合したタンパク質を以下の工程により作製する。
(1)発現ベクター作製
予め、金結合性scFvの構成要素となる、VH(Au)(配列番号:110)VL(Au)(配列番号:111)をpUT-XX2べクターに挿入する。得られた発現ベクターをpUT−ScFv(Au)とする。次に、VH(Au)コード遺伝子、リンカー(GGGGS)×3、VL(Au)コード遺伝子、リンカー(GGGGS)×3、hEGF、His×6(以下、Hisタグ)がこの順に機能的に配列された発現ベクターを以下のように作製する。この発現ベクターによれば、これらの領域が順に翻訳された融合タンパク質を得ることができる。この発現ベクターをpUT−scFv(Au)- hEGFとする。
【0080】
ヒトEGFをコードする遺伝子(配列番号114)の5末端側に制限酵素SacII切断部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸を、3’末端側に制限酵素SacII切断部位をコードする核酸を含む核酸断片を作製する。これらの断片の付加は、下記プライマーを用いるオーバーラップPCRにて行う。その結果得られたPCR産物に対して、2%アガロース電気泳動を行う。次に、ゲル抽出キット(Promega社)を使用してゲルから粗精製を行い、約180bpのPCR断片を得る。シークエンスの結果、目的の塩基配列を有することを確認する。
hEFG-F1(配列番号:106)
aacagcgactccgaatgcccgctgagccatgacggctactgcctgcacgacggcgtatgcatgtacatcgaagcactgga
hEGF-F2(配列番号:107)
NNNNNNCCGCGG aacagcgactccgaatg
hEGF-R1(配列番号:108)
gcgcagttcccaccacttaaggtcacggtactgacagcgctcgccgatgtagccaacaacacagttgcacgcgtatttgtccagtgcttcgatgtac
hEGF-R2(配列番号:109)
nnnnnnccgcgg gcgcagttcccaccacttaagg
pUT−scFv(Au)および上記で得られたPCR断片を、SacIIを用いて、切断する。次いで、アガロース電気泳動を行い、Vector側及びInsert側でそれぞれ目的の断片を精製する。
【0081】
上記で得た精製した核酸断片を、Vector:Insert=1:5となるように混合し、実施例1と同様にしてライゲーション反応を行う。
【0082】
以下、上記ライゲーション反応液を用いてJM109コンピテントセル40μLを形質転換する。形質転換は、ヒートショックを氷中→42℃×90sec→氷中の条件でおこなう。ヒートショックにより形質転換した上記JM109溶液にLB培地750μLを加え、一時間37℃にて振盪培養を行う。その後、6000rpm×5分間遠心を行い、培養上清650μLを廃棄し、残った培養上清と沈殿となった細胞画分を攪拌し、LB/amp.プレートに撒き、一晩37℃にて静置する。プレートから無作為にコロニーを選択し、LB/amp.液体培地3mLにて振盪培養を行う。JM109大腸菌から、市販のMiniPrepキット(プロメガ社製)を用い、業者推奨の方法により、プラスミドを抽出する。得られたプラスミドをNotI/SacIIを用いて、切断する。次いで、アガロース電気泳動を行い、目的の遺伝子断片が挿入されていることを確認する。
【0083】
このプラスミドをpUT−scFv(Au)-EGFとする。このプラスミドを実施例1と同様の方法を用いて、BL21(DE3)に形質転換し、予備培養、本培養、精製操作により金結合性scFv−EGF融合タンパク質を得る。得られる融合タンパク質の金結合性を実施例2と同様の方法により、金および二重特異性を確認する。
【0084】
(実施例6)
実施例5で作製したscFv(Au)-hEGF融合タンパク質含有溶液に、実施例4と同様にして金微粒子溶液を加え、金微粒子表面にscFv(Au)-hEGF融合タンパク質を固定化する。その後、実施例4と同様にして、scFv(Au)-hEGF融合タンパク質固定化金微粒子を、ErbB2陽性細胞TFK-1、A431、MDAMB468およびErbB2陰性細胞CHO、SK−MEL−23に投与する。投与後30分間静置した後、PBS(-)で3回洗浄する。その後、YAGレーザー(1064nm、164mJ/pulse、7nsec、10Hz)を5分間照射する。次に上記の処理を行った細胞を回収し、1500rpm,5分間遠心後,PBS(-)で1mlに懸濁し、トリパンブルー1mlを加え懸濁した後、ヘモサイトメーターを用いて生細胞および死細胞のカウントを行った。その結果、scFv(Au)-hEGF固定化金微粒子を投与したErbB2陽性細胞において、優位に死細胞が観察された。
【0085】
(実施例7)
磁性金属結合性およびErbB2結合性を有する多重特異性分子の作製
酸化鉄(Fe2O3)に結合性を有するペプチドとして、配列番号115に示したアミノ酸配列を繰り返し5回連続してコードする核酸配列(配列番号:116)のC末端にErbB2scFvを融合したタンパク質を以下の工程により作製する。
【0086】
(1)発現ベクター作製
予め、ErbB2結合性scFvの構成要素となる、VH(ErbB2)(配列番号:79)VL(ErbB2)(配列番号:80)をpUT-XX2べクターに挿入する。得られた発現ベクターをpUT−ScFv(ErbB2)とする。次に、このベクターに配列番号116で示した核酸配列をVH(ErbB2)の上流に挿入する。この発現ベクターによれば、これらの領域が酸化鉄結合性、ErbB2順に翻訳された融合タンパク質を得ることができる。この発現ベクターをpUT−Fe2O3−scFv(ErbB2)とする。
【0087】
配列番号116で示される遺伝子の5末端側に制限酵素NcoI切断部位及びリンカー(G
GGGS)をコードする核酸を、3’末端側に制限酵素NcoI切断部位をコードする核酸
を含む核酸断片を作製する。これらの断片の付加は、下記プライマーを用いるオーバーラップPCRにて行う。その結果得られたPCR産物に対して、2%アガロース電気泳動を行う。次に、ゲル抽出キット(Promega社)を使用してゲルから粗精製を行い、約140bpのPCR断片を得る。シークエンスの結果、目的の塩基配列を有することを確認する。
Fe2O3-F1
nnnnnnccatggcgtcgtaccgttaaacatcatgttaatcgtcgtaccgttaaacatcatgttaatcgtcgtaccgttaaacatcatgttaa
Fe2O3-R1
nnnnnnccatggattaacatgatgtttaacggtacgacgattaacatgatgtttaacggtacgacgattaacatgatgtttaacggt
上記で得られた核酸断片を実施例1と同様な方法にてライゲーション反応を行い、発現ペクターpUT−Fe2O3−scFv(ErbB2)を有するプラスミドを得る。このプラスミドを実施例1と同様の方法を用いて、BL21(DE3)に形質転換し、予備培養、本培養、精製操作により酸化鉄結合性およびErbB2結合性を有する多重特異性分子を得る。
【0088】
(実施例8)
磁性金属酸化物ナノ粒子として、PVS(Physical Vapor Synthesis)法により得られた市販品(Fe2O3ナノ粒子、商品名:NanoTek(登録商標)Iron Oxide,Nanophase Technologies Corporation製、安達新産業株式会社より入手、平均粒子径23nm)を利用する。
上述の磁性金属酸化物ナノ粒子(平均粒子径23nm)を超音波により分散させた溶液中に実施例7で得られる多重特異性分子を加える。その後、実施例4と同様にして、酸化鉄結合性及びErbB2結合性を有する多重特異性分子固定化磁性金属酸化物ナノ粒子を、ErbB2陽性細胞TFK-1、A431、MDAMB468およびErbB2陰性細胞CHO、SK−MEL−23に投与する。投与後30分間静置した後、PBS(-)で3回洗浄する。高周波磁場発生器(360kHz、120Oe、第一高周波製)のコイルの中央に細胞を配置する。交番磁場照射時間は、30分とする。AMF照射の間、周囲温度を37℃に維持する。次に上記の処理を行った細胞を回収し、1500rpm,5分間遠心後,PBS(-)で1mlに懸濁し、トリパンブルー1mlを加え懸濁した後、ヘモサイトメーターを用いて生細胞および死細胞のカウントを行った。その結果、ErbB2結合性を有する多重特異性分子固定化磁性金属酸化物ナノ粒子を投与したErbB2陽性細胞において、優位に死細胞が観察された。
【0089】
(実施例9)
薬剤放出型温熱素子の作製方法
50mlのエタノールに2.7gの30%アンモニア水溶液と1.5mlのテトラエトキシシランを混合し、一晩撹拌する。これらの操作により、粒径100nmのシリカ粒子の分散液が作製される。次に、前記シリカ粒子の分散液10mlに20μlアミノプロピルトリメトキシシランを混合し、撹拌、静置する。さらに、95℃に加熱し、撹拌する。この間、随時溶媒を補充し、全体量が変わらないようにする。その後、遠心分離、エタノール分散による洗浄を繰り返し、最後に再びエタノールに分散させることで、シリカ粒子表面にカップリング層が形成されたアミノ化シリカ粒子分散液が作製される。
【0090】
次にラジカル開始剤である4,4’−アゾビス(4- シアノ吉草酸)の固定化を行う。アミノ基を導入したシリカ粒子5g、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)0.2g、テトラエチルアミン289μl、クロロ炭酸エチル116μlをTHFに溶解し、0℃で1時間撹拌した後、0℃で12時間反応を行う。濾過で粒子を回収し、低温の水/メタノール混合溶媒で洗浄、真空乾燥を行う。
【0091】
上記のラジカル開始剤固定化アミノ化シリカ微粒子を用いて、N−イソプロピルアクリルアミドとアクリルアミドのグラフト共重合を行う。表面にラジカル開始剤を固定化したシリカ微粒子に、N−イソプロピルアクリルアミドモノマ/アクリルアミドモノマーをモル比19/1で添加し、10℃で30分窒素バブリングを行った。その後70℃で24時間反応を行い、遠心分離で粒子を回収し、真空乾燥を行う。
【0092】
上記で得られる微粒子をメチレンブルー染色液(0.33mg/ml,50mM Tris, pH7.4)中に加え膨潤させる。ハイドロゲルが固定化された微粒子を回収し、トリス緩衝液で洗浄した後、を金微粒子分散液(1-3nm)に入れ、攪拌、静置する。遠心分離で粒子を回収する。シリカ粒子表面の表面が金微粒子で被覆されていることが透過型電子顕微鏡(TEM)で確認できる。
【0093】
次に、得られた微粒子をYAGレーザー(1064nm、164mJ/pulse、7nsec、10Hz)を5分間照射する。照射前後の溶液の663.5nmのメチレンブルーの吸光度を測定することで、溶液中にメチレンブルーが放出されることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図2】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図3】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図4】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図5】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図6】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図7】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図8】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図9】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図10】多重特異性分子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図11】本発明の温熱素子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図12】本発明の温熱素子の一例の構成を模式的に示す図である。
【図13】多重特異性分子作製用のベクター作製図の一例を示す図である。
【図14】多重特異性分子作製用のベクター作製図の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 :第一のドメイン
2 :第二のドメイン
3 :第三のドメイン
4 :第四のドメイン
5、6 :リンカー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部信号により発熱する温熱素子であって、
(1)表面の少なくとも一部に金属を含む構造体と、
(2)前記金属への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子と、
(3)前記外部信号により発熱する発熱部と、
を有し、
前記多重特異性分子が前記金属結合部位を介して前記構造体に結合している
ことを特徴とする温熱素子。
【請求項2】
前記構造体が、前記発熱部である請求項1に記載の温熱素子。
【請求項3】
前記外部信号が、光および磁気の少なくとも一方である請求項1または2に記載の温熱素子。
【請求項4】
前記金属が金であり、前記多重特異性分子の金属結合部位が金結合性を有する請求項1ないし3のいずれかに記載の温熱素子。
【請求項5】
前記温熱素子が癌治療用である請求項1ないし4のいずれかに記載の温熱素子。
【請求項6】
前記多重特異性分子の細胞表面抗原結合部位が腫瘍関連分子結合性を有する部位である請求項1〜5のいずれかに記載の温熱素子。
【請求項7】
前記腫瘍関連分子結合性が上皮細胞成長因子受容体(ErbB2)結合性である請求項1〜6に記載の温熱素子。
【請求項1】
外部信号により発熱する温熱素子であって、
(1)表面の少なくとも一部に金属を含む構造体と、
(2)前記金属への結合のための親和性を有する金属結合部位及び細胞表面抗原への結合のための親和性を有する細胞表面抗原結合部位を有する多重特異性分子と、
(3)前記外部信号により発熱する発熱部と、
を有し、
前記多重特異性分子が前記金属結合部位を介して前記構造体に結合している
ことを特徴とする温熱素子。
【請求項2】
前記構造体が、前記発熱部である請求項1に記載の温熱素子。
【請求項3】
前記外部信号が、光および磁気の少なくとも一方である請求項1または2に記載の温熱素子。
【請求項4】
前記金属が金であり、前記多重特異性分子の金属結合部位が金結合性を有する請求項1ないし3のいずれかに記載の温熱素子。
【請求項5】
前記温熱素子が癌治療用である請求項1ないし4のいずれかに記載の温熱素子。
【請求項6】
前記多重特異性分子の細胞表面抗原結合部位が腫瘍関連分子結合性を有する部位である請求項1〜5のいずれかに記載の温熱素子。
【請求項7】
前記腫瘍関連分子結合性が上皮細胞成長因子受容体(ErbB2)結合性である請求項1〜6に記載の温熱素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−201690(P2008−201690A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37194(P2007−37194)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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