説明

測定デバイス、測定装置及び測定方法

【課題】簡易な構成で、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正して、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる測定デバイスを提供する。
【解決手段】測定デバイスは、内壁で囲まれ、被検物質である抗原を含む試料を保持するための空間部と、前記空間部と連通し、前記空間部内に前記試料を供給するための試料供給口と、前記試料を光学的に測定するための光学測定部と、前記空間部内に設けられ、前記抗原に対する抗体、及び前記抗原と前記抗体とを含む凝集複合体の生成を促進させ、色素によって標識された凝集促進剤を保持する試薬保持部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる被検物質の分析を行うための測定デバイス、測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、臨床検査分野で使用される測定機器として、POCT(Point of Care Testing)機器が用いられている。POCT機器とは、病院の検査室や検査センターを除く医療現場で実施される臨床検査に用いられる機器であり、在宅医療に用いられる機器も含まれる(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
POCT機器としては、例えば、血糖センサ、妊娠診断薬、排卵検査薬、HbA1c・微量アルブミン測定装置(例えば、バイエル製DCA2000)が挙げられる。POCT機器は、ある病態に特異的なマーカー物質にフォーカスして、当該マーカー物質を簡易・迅速に測定することができるため、被検者のスクリーニング及びモニタリングに効果的に用いられる。また、POCT機器は、小型であるため、携帯性に優れており、低コストで導入することができ、さらに操作性においても特に専門性を必要とせず、誰にでも使用することができる。
【0004】
現在、臨床検査の測定項目は多く存在するが、尿などの体液を検体とする場合、測定方式は、主に光学測定方式と電気化学測定方式に大別される。従来の大規模自動化機器及びPOCT機器では、それぞれいずれかの測定方式を用いて測定が行われている。
例えば、特許文献3では、抗体を用いた抗原の測定の一例として、抗原であるアルブミンやCRP(C反応性タンパク質)を、それらの抗体や凝集促進剤としてのポリエチレングリコールとともに混合することにより、抗原−抗体凝集体を生成し、470nmの光を用いて比濁測定することが提案されている。
【特許文献1】特開平07−248310号公報
【特許文献2】特開平03−046566号公報
【特許文献3】特表2002−509247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような、乾燥状態の抗体や凝集促進剤などの試薬を用いた抗原−抗体凝集体の生成に基づいた従来の測定方法では、試薬、特に凝集促進剤の試料への溶解が必ずしも容易でないため、その溶解状態が測定毎に異なり、その結果、測定に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
そこで、本発明は上記従来の問題点に鑑み、簡易な構成を有し、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、迅速かつ正確に測定対象物質である抗原の測定を行うことができる測定デバイス、測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために、本発明の測定デバイスは、内壁で囲まれ、被検物質である抗原を含む試料を保持するための空間部と、前記空間部と連通し、前記空間部内に前記試料を供給するための試料供給口と、前記試料を光学的に測定するための光学測定部と、前記空間部内に設けられ、前記抗原に対する抗体、及び前記抗原と前記抗体とを含む凝集複合体の生成を促進させ、色素によって標識された凝集促進剤を保持する試薬保持部とを備える。
【0008】
また、本発明の測定装置は、上記測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部と、前記空間部外から前記空間部内に入射する光を出射するための光源と、前記空間部内から前記空間部外に出射した光を受光するための受光部と、前記受光部により受光された、前記凝集複合体の量を反映する光の強度と、前記受光部に受光された、前記色素によって標識された前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映する光の強度とに基づいて、前記試料中に含まれる前記被検物質の濃度を定量するための演算部とを備える。
本発明の測定装置の第1の好ましい態様は、前記光源は第1の光源と第2の光源とを備え、前記受光部は前記第1の光源から出射した第1の出射光を受光する第1の受光部と、前記第2の光源から出射された第2の出射光を受光する第2の受光部とを備え、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度が、前記凝集複合体の量を反映し、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度が、前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映し、さらに、前記凝集促進剤の濃度が互いに異なる場合における、前記被検物質の濃度と、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度との関係を表す複数の第1の検量線、及び前記凝集促進剤の濃度と、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度との関係を表す第2の検量線を格納する記憶部を備える。
本発明の測定装置の第2の好ましい態様は、前記光源は第1の光源と第2の光源とを備え、前記受光部は前記第1の光源から出射した第1の出射光を受光する第1の受光部と、前記第2の光源から出射された第2の出射光を受光する第2の受光部とを備え、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度が、前記凝集複合体の量を反映し、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度が、前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映し、さらに、前記被検物質の濃度が互いに異なる場合における、前記凝集促進剤の濃度と、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度との関係を表す複数の第3の検量線、及び前記凝集促進剤の濃度と、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度との関係を表す第2の検量線を格納する記憶部を備える。
【0009】
本発明の第1の測定方法は、上記測定デバイス、及び上記第1の好ましい態様の測定装置を用い、前記試料中に含まれる前記被検物質を測定する測定方法であって、前記測定デバイスの前記空間部内に前記試料を供給する第1の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第1の出射光を照射する第2の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第1の出射光の強度を測定する第3の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第2の出射光を照射する第4の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第2の出射光の強度を測定する第5の工程と、前記第2の検量線を参照することにより、前記第5の工程で測定された第2の出射光の強度を前記凝集促進剤の濃度に換算する第6の工程と、前記複数の第1の検量線の中から、前記第6の工程において換算された凝集促進剤の濃度に対応する第1の検量線を抽出する第7の工程と、前記第7の工程において抽出された第1の検量線を参照することにより、前記第3の工程において測定された第1の出射光の強度を前記被検物質の濃度に換算する第8の工程とを含む。
【0010】
本発明の第2の測定方法は、上記測定デバイス、及び上記第2の好ましい態様の測定装置を用い、前記試料中に含まれる前記被検物質を測定する測定方法であって、前記測定デバイスの前記空間部内に前記試料を供給する第1の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第1の出射光を照射する第2の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第1の出射光の強度を測定する第3の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第2の出射光を照射する第4の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第2の出射光の強度を測定する第5の工程と、前記第2の検量線を参照することにより前記第5の工程において測定された第2の出射光の強度を前記凝集促進剤の濃度に換算する第6の工程と、前記第3の検量線の中から、前記第6の工程で換算された凝集促進剤の濃度に対応する第1の出射光の強度が前記第3の工程において測定された第1の出射光の強度と等しくなる第3の検量線を抽出する第7の工程と、前記第7の工程において抽出された第3の検量線に対応する前記被検物質の濃度を求める第8の工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、簡易な構成を有し、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、迅速かつ正確に測定対象物質である抗原の測定を行うことができる測定デバイス、測定装置及び測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の測定デバイスは、内壁で囲まれ、被検物質である抗原を含む試料を保持するための空間部と、前記空間部と連通し、前記空間部内に前記試料を供給するための試料供給口と、前記試料を光学的に測定するための光学測定部と、前記空間部内に設けられ、前記抗原に対する抗体、及び前記抗原と前記抗体とを含む凝集複合体の生成を促進させ、色素によって標識された凝集促進剤を保持する試薬保持部とを備える。
この構成により、空間部内に供給された試料中に含まれる被検物質である抗原と、試薬保持部に担持された抗体との反応による凝集複合体の生成を実現することができる。測定デバイスの光学測定部に入射した光が空間部内に供給された試料中を透過した後、測定デバイスの光学測定部から出射した光である散乱光や透過光の強度は、試料中において生成した凝集複合体の量に依存する。このため、その出射光の強度を測定することによって、凝集複合体、すなわち試料の被検物質の量を測定することができる。
【0013】
さらに、本発明の測定デバイスでは、試薬保持部に担持された凝集促進剤に色素が標識されているため、試料中への凝集促進剤の溶解に伴い、色素も溶解する。測定デバイスに光を入射し、試料が供給された空間部から出射した光である透過光(吸収光)や蛍光の強度は、試料中に溶解している色素の量に依存する。このため、その出射光を測定することによって、試料中に溶解している凝集促進剤の量を測定することができる。
したがって、簡易な構成により、試料中に溶解している凝集促進剤の量を測定することができるため、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原(被検物質)の量の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0014】
前記光学測定部は、前記空間部外から前記空間部内に光を入射させるための光入射部と、前記空間部内から前記空間部外に光を出射させるための光出射部とを備えることが好ましい。
前記試薬保持部は、前記抗体を保持する第1の試薬保持部と、前記色素で標識された前記凝集促進剤を保持する第2の試薬保持部とからなるのが好ましい。この構成によって、抗体と凝集促進剤とが、それぞれ別々に保持されるため、抗体の溶解がより円滑になり、安定した測定を行うことができる。
前記凝集促進剤は、主鎖としてポリエチレングリコールを含む高分子化合物であることが好ましい。
【0015】
前記凝集促進剤を標識する色素としては、フェノキサジン及びフェノキサジン誘導体、フェナジン及びフェナジン誘導体、アクリジン及びアクリジン誘導体、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体、ならびにフェノチアジン誘導体等が挙げられる。上記色素は化学的に安定しており、その吸光係数や蛍光収率、及び吸収・励起・蛍光波長などの分光学的特性が良く知られているため、これらの色素で標識された凝集促進剤の量の測定を安定かつ正確に行うことができる。
フェノチアジン誘導体としては、チオニン及びチオニン誘導体、アズールA及びアズールA誘導体、アズールC及びアズールC誘導体、ならびにトルイジンブルー及びトルイジンブルー誘導体等が挙げられる。フェノチアジン誘導体は、化学的に安定しており、かつ、分光学的特性がよく知られているとともに、分子内にアミノ基を有しているため、凝集促進剤への共有結合による標識が可能となり、これらの色素で標識された凝集促進剤の量の測定を安定かつ正確に行うことができる。
【0016】
また、本発明の測定装置は、上記測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部と、前記空間部外から前記空間部内に入射する光を出射するための光源と、前記空間部内から前記空間部外に出射した光を受光するための受光部と、前記受光部により受光された、前記凝集複合体の量を反映する光の強度と、前記受光部に受光された、前記色素によって標識された前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映する光の強度とに基づいて、前記試料中に含まれる前記被検物質の濃度を定量するための演算部とを備える。
前記光源は第1の光源と第2の光源とを備え、前記受光部は前記第1の光源から出射した第1の出射光を受光する第1の受光部と、前記第2の光源から出射された第2の出射光を受光する第2の受光部とを備え、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度が、前記凝集複合体の量を反映し、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度が、前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映するのが好ましい。
【0017】
本発明の測定装置の第1の好ましい態様としては、上記測定装置が、さらに、前記凝集促進剤の濃度が互いに異なる場合における、前記被検物質の濃度と、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度との関係を表す複数の第1の検量線、及び前記凝集促進剤の濃度と、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度との関係を表す第2の検量線を格納する記憶部を備える。
この構成によって、空間部内に保持された試料中から出射した第2の出射光の強度に対応する第2の受光部からの信号に基づいて、記憶部に記憶された第2の検量線を参照して、色素で標識された凝集促進剤の溶解濃度を決定することができる。複数の第1の検量線の中から、決定された凝集促進剤の濃度に対応する第1の検量線を抽出することができる。抽出された第1の検量線を参照することにより、空間部内に保持された試料中から出射した第1の出射光の強度に対応する第1の受光部からの信号を、被検物質の濃度に換算することができる。したがって、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0018】
本発明の測定装置の第2の好ましい態様としては、上記測定装置が、さらに、前記被検物質の濃度が互いに異なる場合における、前記凝集促進剤の濃度と、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度との関係を表す複数の第3の検量線、及び前記凝集促進剤の濃度と、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度との関係を表す第2の検量線を格納する記憶部を備える。
この構成によって、第2の出射光の強度に対応する第2の受光部から出力された信号に基づいて、記憶部に記憶された第2の検量線を参照して、色素で標識された凝集促進剤の溶解濃度を決定することができる。複数の第3の検量線の中から、決定された凝集促進剤の濃度に対応する第1の出射光の強度が、測定された第1の出射光の強度と等しくなるような、第3の検量線を抽出することができる。そして、抽出された第3の検量線に対応する被検物質の濃度を求めることができる。したがって、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0019】
また、本発明の測定装置は、さらに、前記試料を前記測定デバイスの前記空間部内に吸引するための吸引部を備えることが好ましい。この構成によって、吸引部を用いて、測定デバイスの試料供給口から試料を吸引し、測定デバイスの試料保持部内に容易に試料を供給することができる。
【0020】
本発明の第1の測定方法は、上記測定デバイス、及び上記第1の好ましい態様の測定装置を用いて、前記試料中に含まれる前記被検物質を測定する方法である。すなわち、前記測定デバイスの前記空間部内に前記試料を供給する第1の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第1の出射光を照射する第2の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第1の出射光の強度を測定する第3の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第2の出射光を照射する第4の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第2の出射光の強度を測定する第5の工程と、前記第2の検量線を参照することにより、前記第5の工程で測定された第2の出射光の強度を前記凝集促進剤の濃度に換算する第6の工程と、前記複数の第1の検量線の中から、前記第6の工程において換算された凝集促進剤の濃度に対応する第1の検量線を抽出する第7の工程と、前記第7の工程において抽出された第1の検量線を参照することにより、前記第3の工程において測定された第1の出射光の強度を前記被検物質の濃度に換算する第8の工程とを含む。
【0021】
この構成によって、空間部内に保持された試料中から出射した第2の出射光の強度に対応する第2の受光部からの信号に基づいて、記憶部に記憶された第2の検量線を参照して、色素で標識された凝集促進剤の溶解濃度を決定することができる。複数の第1の検量線の中から、決定された凝集促進剤の濃度に対応する第1の検量線を抽出することができる。抽出された第1の検量線を参照することにより、第1の光源から出射された光のうち、空間部内に保持された試料中から第1の出射光の強度に対応する第1の受光部からの信号を、被検物質の濃度に換算することができる。したがって、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0022】
本発明の第2の測定方法は、上記測定デバイス、及び上記第2の好ましい態様の測定装置を用いて、前記試料中に含まれる前記被検物質を測定する方法である。すなわち、前記測定デバイスの前記空間部内に前記試料を供給する第1の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第1の出射光を照射する第2の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第1の出射光の強度を測定する第3の工程と、前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第2の出射光を照射する第4の工程と、前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第2の出射光の強度を測定する第5の工程と、前記第2の検量線を参照することにより前記第5の工程において測定された第2の出射光の強度を前記凝集促進剤の濃度に換算する第6の工程と、前記第3の検量線の中から、前記第6の工程で換算された凝集促進剤の濃度に対応する第1の出射光の強度が前記第3の工程において測定された第1の出射光の強度と等しくなる第3の検量線を抽出する第7の工程と、前記第7の工程において抽出された第3の検量線に対応する前記被検物質の濃度を求める第8の工程とを含む。
【0023】
この構成によって、第2の出射光の強度に対応する第2の受光部から出力された信号に基づいて、記憶部に記憶された第2の検量線を参照して、色素で標識された凝集促進剤の溶解濃度を決定することができる。複数の第3の検量線の中から、決定された凝集促進剤の濃度に対応する第1の出射光の強度が、第3の工程で測定された第1の出射光の強度と等しい第3の検量線を抽出することができる。そして、抽出された第3の検量線に対応する被検物質の濃度を求めることができる。したがって、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0024】
臨床検査における試料としては、血清、血漿、尿、間質液、リンパ液などの体液、培地の上清液などの液体試料が挙げられる。特に、尿は非侵襲的に在宅での日常の健康管理を行うためには非常に有効的な試料である。その他、これらの体液中の特定の成分と反応する試薬、例えば酵素、抗体、もしくは色素などと、体液とを混合したものを、試料として測定デバイスに供給してもよい。
被検物質としては、アルブミン、hCG、LH、CRP、IgGなどが挙げられる。
健康管理の最初の段階で行われる尿の定性検査、腎機能検査、妊娠検査・排卵検査などにおいては、蛋白、微量アルブミンや、hCG、LHなどのホルモン等に関して測定の要望があり、その測定には抗原抗体反応に基づいた光学測定が適している。抗原抗体反応に基づいた光学測定としては、免疫比ろう法、免疫比濁法、ラテックス免疫凝集法などの、抗原抗体反応に基づいて試料中に生じた濁りを測定するものが挙げられる。
【0025】
また、試薬に含まれる抗体は、公知の方法により産生させることができるので、試薬を作製しやすいという点で有利である。例えば、アルブミンやCRPなどの蛋白や、hCG、LHなどのホルモンを抗原として、マウス・ウサギなどに免疫することにより、抗原に対する抗体を得ることができる。また、抗体としては、アルブミンやCRPなどの尿中に含まれる蛋白に対する抗体や、hCG、LHなどの尿中に含まれるホルモンに対する抗体などが挙げられる。
以下、本発明の実施の形態について、試料として尿を用い、被検物質がヒトアルブミンである場合の例を、図面を用いて説明する。
【0026】
(実施の形態1)
試料に含まれる被検物質を測定するための試料を吸引、保持するための測定デバイスについて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る測定デバイスの斜視図、図2は、図1におけるA−A線断面図である。図1及び図2において、測定デバイス1は、透明な材料、例えばポリスチレンにて作製された空間部2aを有する基体2からなる。基体2は、中空四角柱部分2dと中空四角錐部分2eとからなり、基体2内部の空間部2aは試料保持部として機能する。中空四角柱部分2dの上端部には吸引口2cが設けられ、中空四角錐部分2eの下端部には試料供給口2bが設けられている。
【0027】
中空四角柱部分2dの側面は4つの面、すなわち第1の面3、第2の面4、第3の面5及び第4の面6を有する。これらの面のうち、第2の面4が光入射部として機能し、第2の面4に対向する第3の面5が光出射部として機能する。この光入射部及び光出射部が、上記光学測定部に相当する。
この光入射部及び光出射部は、光学的に透明な材料、または可視光を実質的に吸収しない材料で形成されていることが好ましい。例えば、上述したポリスチレンの他、石英、ガラス、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。測定デバイスを使い捨てにする場合には、コストの観点からポリスチレンなどの樹脂材料を用いることが好ましい。また、測定デバイスにおいて、少なくとも光入射部及び光出射部のみが光学的に透明であればよく、上記以外の部分は必ずしも光学的に透明である必要はない。
【0028】
空間部2aを囲む内壁面のうち、中空四角柱部分2dの第4の面6の内壁面には、第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8が設けられている。
第1の試薬保持部7には、空間部2a内に供給された試料と反応させるための試薬が乾燥状態で担持されている。試薬としては、試料中の被検物質である抗原と反応する抗体が用いられる。第1の試薬保持部7は、空間部2a内に試料が供給された際、試薬が試料に溶解しやすいような位置に配置されていることが好ましい。
また、第2の試薬保持部8には、試薬として、抗原と抗体との凝集反応を促進させるための凝集促進剤が乾燥状態で担持されている。凝集促進剤は、色素によって標識されている。色素によって標識された凝集促進剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される構造を有する化合物が用いられる。
一般式(1):
【0029】
【化1】

【0030】
式(1)中、X及びYは、それぞれ独立して水素(−H)またはメチル基(−CH3)である。nは、好ましくは30〜350である。
一般式(1)は、凝集促進剤としてポリエチレングリコールを用い、凝集促進剤を標識する色素としてはフェノチアジン誘導体を用いた場合の例を示す。凝集促進剤であるポリエチレングリコールの主鎖末端において、ポリエチレングリコールとフェノチアジン誘導体とがペプチド結合により結合している。色素は、一般式(1)において、X=Y=Hの場合はチオニン、X=H及びY=CH3の場合はアズールC、X=Y=CH3の場合はアズールAとなる。
【0031】
凝集促進剤としては、上述したポリエチレングリコールや、多糖類(デキストラン、セルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)等の水溶性高分子を主鎖として含む化合物が挙げられる。凝集促進剤と色素との結合形態は、上記ペプチド(N−C)結合以外に、C−C結合、C=C結合、C=N結合、S−S結合などでもよい。
また、凝集促進剤の主鎖に、炭素数1〜10の側鎖が結合していてもよい。上記側鎖としては、例えば、カルボキシアルキル、アルキル、アルキルアミン、アルキルアミドなどが挙げられる。
【0032】
凝集促進剤を標識する色素としては、例えば、上述したフェノチアジン誘導体の他、フェノキサジン及びフェノキサジン誘導体、フェナジン及びフェナジン誘導体、アクリジン及びアクリジン誘導体、ならびにフルオレセイン及びフルオレセイン誘導体が用いられる。また、フェノチアジン誘導体としては、例えば、チオニン及びチオニン誘導体、アズールA及びアズールA誘導体、アズールC及びアズールC誘導体、ならびにトルイジンブルー及びトルイジンブルー誘導体が用いられる。
【0033】
図4に、標識に用いる色素の一例であるチオニンの吸収スペクトルを示す。図4において、横軸は波長(nm)、縦軸は吸光度(任意強度)を示す。図4は、チオニン濃度の低下に伴い、吸光度が減少することを示す。
フェノチアジン誘導体、フェノキサジン及びフェノキサジン誘導体、フェナジン及びフェナジン誘導体、アクリジン及びアクリジン誘導体、ならびにフルオレセイン及びフルオレセイン誘導体は、化学的に安定しており、その吸光係数や蛍光収率、及び吸収・励起・蛍光波長などの分光学的特性が良く知られているため、これらの色素で標識された凝集促進剤の測定を安定かつ正確に行うことができる。また、チオニン及びチオニン誘導体、アズールA及びアズールA誘導体、アズールC及びアズールC誘導体、ならびにトルイジンブルー及びトルイジンブルー誘導体は、化学的に安定しており、かつ分光学的特性が良く知られていると同時に、これらの色素は分子内にアミノ基を有しており、凝集促進剤への共有結合による標識が容易である。
【0034】
なお、第2の試薬保持部8では、色素によって標識された凝集促進剤だけではなく、色素によって標識されていない、非標識の凝集促進剤を保持させてもよい。
凝集促進剤の分子量や側鎖の化学構造は、凝集反応の種類に応じて適宜、適切なものを用いることができる。凝集促進剤には、例えば、分子量が1000〜10000の範囲にあるものが用いられる。凝集促進剤は抗原抗体反応を促進させるために用いられるため、第2の試薬保持部8は、抗体を含む第1の試薬保持部7の近傍に配置するのが好ましい。また、第2の試薬保持部8は、第1の試薬保持部7と同様に、空間部2a内に試料が供給されたときに、凝集促進剤が試料に溶解しやすいような位置に配置されていることが好ましい。
このように、本実施の形態の測定デバイス1では、空間部2a内に設けられた第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8に、それぞれ抗体及び凝集促進剤を担持させることによって、試料への抗体の溶解が非常に円滑になり、被検物質の測定を安定して行うことができる。
【0035】
測定デバイス1を使用して被検物質を測定する際、測定デバイス1の一部を、例えば容器内に採取された尿に浸漬した後、後述の測定装置によって吸引口2cから空間部2a内の空気を吸引することにより、空間部2a内に尿を供給する。
なお、本実施の形態では、光入射部及び光出射部として機能させる面を第2の面4及び第3の面5としたが、これに限ることはなく、例えば、第2の面4を光入射部として機能させ、第2の面4から空間部2a内に入射した後空間部2a内において散乱した光に対しては、第4の面6が光出射部として機能するようにしてもよい。
【0036】
次に、測定デバイス1の作製方法について、図3を用いて説明する。
図3は、本実施の形態1に係る測定デバイスの分解斜視図である。図3に示すように、測定デバイス1の基体2を構成する第1の部材31及び第2の部材32は、それぞれ透明な材料、例えばポリスチレンにて作製され、かつ、凹部を有する。これら第1の部材31と第2の部材32とが互いに組み合わされることにより、中空四角柱部分2d及び中空四角錐部分2eを有する基体2が構成される。
第1の部材31及び第2の部材32は、金型を用いた成型により得られる。また、第1の部材31及び第2の部材32を左右対称な形状とすることによって、1つの金型で形成することができ、コストを低減することができる。成型には、公知の樹脂成型技術を用いればよい。第1の部材31及び第2の部材32の寸法は、適宜設定すればよいが、例えば、幅A10mm、長さB84mm、長さC6mm、及び厚み1mmである。
【0037】
まず、以下のようにして、第2の部材32の凹部の底面に、第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8を設ける。
例えば、光学測定のための試薬であるヒトアルブミンに対する抗体の水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて第2の部材32の凹部の底面上に一定量滴下し、これを室温〜30℃程度の環境に静置して水分を蒸発させることにより、ヒトアルブミンに対する抗体を乾燥状態で担持させて第1の試薬保持部7を形成することができる。例えば、濃度が8mg/dLの抗体の水溶液を用い、0.7mLの滴下量で、面積が5cm2の領域に滴下すればよい。
【0038】
同様に、凝集促進剤の水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて第2の部材32の凹部の底面上に一定量滴下し、これを室温〜30℃程度の環境に静置して水分を蒸発させることにより、凝集促進剤を乾燥状態で担持させて第2の試薬保持部8を形成することができる。例えば、濃度16重量%の凝集促進剤の水溶液を用いて、0.7mLの滴下量で、面積が5cm2の領域に滴下すればよい。
塗布する試薬を含む水溶液の濃度及び量は、必要とするデバイスの特性や第2の部材32における形成位置の空間的な制限に応じて、適切に選択すればよい。また、第2の部材32における第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8の位置や面積は、試薬の試料に対する溶解性や光学測定部の位置などを鑑みて適宜選択すればよい。
【0039】
なお、ヒトアルブミンに対する抗体は、従来公知の方法により得ることができる。例えば、ヒトアルブミンを免疫したウサギの抗血清を、プロテインAカラムクロマトグラフィーにより精製した後、透析チューブを用いて透析することにより、抗ヒトアルブミン抗体が得られる。
また、上述のように、第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8を形成する代わりに、例えば、ガラス繊維や濾紙などからなる多孔性の担体に、それぞれの試薬の溶液を含浸させた後、乾燥させることにより試薬を担持させ、上記担体を第2の部材32の凹部の底面にそれぞれ貼付することによって、空間部2a内に設けるようにしてもよい。また、空間部2aを構成する壁面の一部に、試薬の溶液を直接塗布した後、乾燥することにより、試薬を配置してもよい。さらに、空間部2aの外部において凍結乾燥させた試薬を担持した担体を空間部2a内に設置してもよい。
【0040】
次に、上記で得られた第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8を設けた第2の部材32と、第1の部材31とを、図3の1点鎖線で示す位置関係で接合して、測定デバイス1を組み立てる。
具体的には、第1の部材31と第2の部材32との接合部分に、例えばエポキシ樹脂などの接着剤を塗布し、第1の部材31と第2の部材32とを張り合わせた後、静置し乾燥させて接着させてもよい。また、接着剤を塗布せずに、第1の部材31と第2の部材32とを組み合わせた後、市販の溶着機を用いて第1の部材31と第2の部材32との接合部分を、熱または超音波によって溶着させてもよい。
【0041】
なお、本実施の形態では、試薬保持部として2つの試薬保持部、すなわち第1の試薬保持部7と第2の試薬保持部8を設け、試薬としての抗体及び凝集促進剤をそれぞれ担持させるように記述したが、空間部2a内の壁面に、抗体と凝集促進剤との混合物を乾燥状態で担持させて1つの試薬保持部を形成してもよい。
【0042】
以上のように、本発明の実施の形態1に係る測定デバイス1を用いることにより、空間部2a内に供給された試料中に含まれる被検物質である抗原と、第1の試薬保持部7に担持された抗体との反応による凝集体の生成を実現することができる。測定デバイス1の光入射部より入射し、空間部2a内に供給された試料中を透過した後、測定デバイス1の光出射部から出射した光である散乱光や透過光の強度は、試料中において生成した凝集体の量に依存する。このため、その出射光を測定することによって、凝集体、すなわち試料中の被検物質の量を測定することができる。
【0043】
さらに、本実施の形態の測定デバイス1では、凝集促進剤には色素が標識されているので、試料中への凝集促進剤の溶解に伴い、色素も溶解する。測定デバイス1の光入射部より入射し、空間部2a内に供給された試料中を透過した後、測定デバイスの光出射部から出射した光である透過光(吸収光)や蛍光の強度は、試料中に溶解している色素の量に依存する。このため、その出射光を測定することによって、試料中に溶解している凝集促進剤の量を測定することができる。
したがって、本実施の形態における測定デバイス1の簡易な構成により、試料中に溶解する凝集促進剤の量を容易に測定することができる。また、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原(被検物質)の量の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0044】
本発明の測定デバイスの形状は、本発明の構成要件を満たし、かつ本発明の効果を得られるものであればよく、本実施の形態の測定デバイス1に限定されない。例えば、図5及び図6に示す測定デバイス11でもよい。図5は、本発明の実施の形態1に係る測定デバイスの他の一例を示す斜視図、図6は、図5のB−B線断面図である。なお、図5及び図6の測定デバイス11において、図1及び図2の測定デバイス1と同じ構成要素には、同じ符号を付している。
図5及び図6において、測定デバイス11は、内部に空間部2aを有する有底中空直方体形状の基体2からなる。基体2の第1の面3の下部には、試料供給口2bが設けられている。
また、基体2は、第1の面3、第2の面4、及び第3の面5に対応する3つの側面ならびに底部33を有する第1の部材31と、第4の面6に対応する第2の部材32とで構成されている。第2の部材32の内壁面には、上記図1及び図2の測定デバイス1と同様の第1の試薬保持部7及び第2の試薬保持部8が配されている。
【0045】
(実施の形態2)
本実施の形態では、上記本発明の第1の好ましい態様の測定装置、およびそれを用いた上記本発明の第1の測定方法の一例を、図面を参照しながら説明する。
まず、測定装置の構成について説明する。図7は、本実施の形態の測定装置の外観を示す斜視図である。図7に示すように、測定装置80には、実施の形態1における測定デバイス1を測定装置80に取付けるための測定デバイス取付け部81、測定結果が表示されるディスプレイである表示部82、試料吸引開始ボタン83、及び測定デバイス取外しボタン84が設けられている。また、後述するが、測定装置80の内部には、測定デバイス取付け部81と連通するデバイス装着口94、フレーム部材92を介してデバイス装着口94と接続するピストン機構103が設けられている。なお、測定デバイス1は、着脱可能な状態で測定装置80に取付けられることが好ましい。また、測定デバイス1は、使い捨てであることが好ましい。
【0046】
図8は、本実施の形態の測定装置における測定デバイス挿入時の内部構成を示す縦断面図である。図8に示すように、測定デバイス1が測定デバイス取付け部81より測定装置80に挿入された際、測定デバイス1の吸引口2cは、凸状のデバイス装着口94に係合するとともに、スライド部材91を上方に押し上げる。そして、スライド部材91の押圧突出部91aによって、測定デバイス挿入検知スイッチ95が押圧されて、測定装置80への測定デバイス1の装着が完了する。
デバイス装着口94は、フレーム部材92に凸状に設けられたデバイス装着用突起部92a、及びデバイス装着用突起部92aの外周部に嵌め込まれたデバイス装着封止部材93からなる。デバイス装着用突起部92a及びデバイス装着封止部材93の外周部の形状、すなわち中心線96に対して垂直方向におけるデバイス装着用突起部92a及びデバイス装着封止部材93の断面形状は、測定デバイス1の吸引口2cの内面形状に相似した形状を有する。デバイス装着封止部材93の外径の寸法は、測定デバイス1の吸引口2cの径の寸法よりも僅かに大きい。このため、デバイス装着封止部材93と吸引口2cとの密着性が向上し、それらの接合部における空気の漏れを防止することができる。
【0047】
デバイス装着封止部材93には、例えばイソプレンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、テフロン(登録商標)被覆ゴムなどの弾性を有する材料が用いられる。また、デバイス装着用突起部92aとデバイス装着封止部材93とが一体化されたデバイス装着口94を用い、デバイス装着口94そのものがイソプレンゴムなどの弾性を有する材料で構成されていてもよい。
フレーム部材92において、デバイス装着用突起部92aの反対側には、凸状のシリンダ装着用突起部92bが設けられ、その外周部には、デバイス装着封止部材93と同様の弾性を有する材料からなるシリンダ装着封止部材97が嵌め込まれている。このシリンダ装着封止部材97を介して、ピストンロッド98が固着されたピストン99を内部に有するシリンダ100が、フレーム部材92のシリンダ装着用突起部92bに装着されている。これにより、シリンダ100とフレーム部材92との間において、気密性を有する。
【0048】
ピストン機構103は、測定デバイス1に試料を吸引するための吸引部であって、ピストンロッド98が固着されたピストン99を有するシリンダ100と、ピストンロッド98に設けられた雌ねじ部98aに螺合する雄ねじ部102と、雄ねじ部102が固着されたモータ101とによって構成されている。
具体的には、ピストンロッド98の中心部に雌ねじ部98aが設けられ、その外周部の長手方向にはキー溝98bが形成されている。このキー溝98bには、シリンダ装着封止部材97との接合部とは反対側のシリンダ100の上端面に設けられた突出部100aが係合している。これにより、ピストンロッド98が回転動作せずに、確実に直進動作する。
また、モータ101の回転軸に固着された雄ねじ部102が、雌ねじ部98aに螺合している。このため、モータ101の回転に伴う雄ねじ部102の回転によって、ピストンロッド98は、中心線96に沿って、上下に直線移動することができる。また、突出部100aが形成されたシリンダ100の上端面には、ピストン99の移動に伴って流入するシリンダ100内の空気を抜くための穴部100bが設けられている。
【0049】
なお、吸引部であるピストン機構103は、手動によるものであっても自動によるものであってもよいが、自動化することが、作業者の負担を軽減することができるので好ましい。自動化する方法としては、上述のように、ピストン99をモータ101で作動させる方法がある。モータ101としては、ステップモータ、直流モータなどが用いられる。
ステップモータは、入力された1パルス信号あたりに特定の回転角だけ回転するモータであり、パルス数で回転角度を決定できるため、位置決めのためのエンコーダーを必要としない。すなわち、入力パルス数により、ピストン99の動作距離を制御することができる。また、リニア型のステップモータもある。このタイプのモータは、モータ内に雄ネジと雌ネジを組み合わせた直進機構が組み入れられており、入力パルス数に依存して、棒状の可動部が直進運動するように構成されている。このため、この棒状の可動部に直接、ピストン99を連結すればよく、構成が簡単となる。
一方、直流モータの場合は、ピストン99の動作距離を制御するために、モータ101の回転位置を検出するエンコーダーが必要となる。したがって、本実施の形態の測定装置におけるピストン機構103は、モータ101としてステップモータを用い、ピストン99をステップモータで作動させる構成とすることが好ましい。
【0050】
このように、本発明においては、測定装置80に測定デバイス1の吸引口2cが接続されるように測定デバイス1を取付けた状態で、吸引部であるピストン機構103を用いて、測定デバイス1の試料供給口2bから試料を吸引し、測定デバイス1の空間部2a内に容易に試料を供給することができる。
また、測定装置80には、測定デバイス1の光学測定部に入射する光を出射するための第1の光源104及び第2の光源106と、その光学測定部から出射した光を受光するための第1の受光部である第1の受光器105及び第2の受光部である第2の受光器107とが設けられている。第1の光源104及び第2の光源106から出射されたそれぞれの光(第1の出射光および第2の出射光)は、測定デバイス1の第2の面4における光入射部と、測定デバイス1の空間部2aに供給された試料と、測定デバイス1の第3の面5における光出射部とを順に透過し、第1の受光器105及び第2の受光器107でそれぞれ受光される。第1の受光器105及び第2の受光器107は、受光した光の強度に対応する電気信号を、後述するCPU121へそれぞれ出力する。
【0051】
なお、第1の光源104から出射された光が第1の受光器105で受光される光路、及び第2の光源106から出射された光が第2の受光器107で受光される光路において、測定デバイス1の光入射部と光出射部をそれぞれ透過する光のスポットの位置が、測定デバイス1を構成する第1の部材31と第2の部材32との接合部分から離れた位置となるように、第1の光源104、第1の受光器105、第2の光源106及び第2の受光器107の配設位置を設定するのが好ましい。
第1の光源104及び第2の光源106としては、例えば780nm及び600nmの波長の光を出射する半導体レーザーを用いることができる。あるいは、ライトエミッティングダイオード(LED)などを用いてもよい。
【0052】
なお、本実施の形態においては、免疫比濁法による測定を適用することを想定して、第1の光源104及び第1の受光器105の波長として780nmの照射及び受光波長を選択するが、この波長は測定方法や測定対象に応じて適宜選択することができる。
また、第2の光源106及び第2の受光器107の波長は600nmとしたが、この波長は凝集促進剤を標識する色素の吸収ピーク付近の波長が好ましく、測定に用いる色素の吸収特性に応じて適宜適切な波長を選択すればよい。
また、第1の受光器105及び第2の受光器107としては、例えばフォトダイオードを用いることができる。あるいは、電荷結合型素子(CCD)、フォトマルチメーターなどを用いてもよい。
【0053】
ここで、図9は、本実施の形態の測定装置における測定デバイス取外し機構を示す正面図、および図10は、本実施の形態の測定装置における測定デバイス取外し機構を示す側面図である。図9及び図10に示すように、測定デバイス取外し機構117は、測定装置80におけるフレーム部材92の下部に設けられている。測定デバイス取外し機構117は、スライド部材91、駆動レバー111及び112、支点軸113、作動ピン114、及びプランジャ116を有するソレノイド115からなる。
具体的には、スライド部材91における、測定デバイス1の第1の面3側の面と、それに対向する第4の面6側の面には、それぞれ押圧ピン部91b、91cが設けられている。押圧ピン部91bは、駆動レバー111の端部側に設けられた長穴部111aと摺動可能なように嵌合している。押圧ピン部91cは、駆動レバー112の端部側に設けられた長穴部(図示せず)と摺動可能なように嵌合している。また、スライド部材91の下部における、押圧ピン部91b、91cが形成されている側には、押圧突起部91d、91eが設けられている。
【0054】
駆動レバー111は略Z字状、駆動レバー112は略逆Z字状の形状を有する。駆動レバー111、112は、駆動レバー111の中間部に設けられた長穴部111bおよび駆動レバー112の中間部に設けられた長穴部(図示せず)において、互いに対向して接触するように重ね合わせられ、摺動可能なように作動ピン114と嵌合している。また、作動ピン114は、ソレノイド115のプランジャ116とも嵌合している。したがって、駆動レバー111、112とプランジャ116とは、作動ピン114により連結されている。駆動レバー111の穴部111cおよび駆動レバー112の穴部(図示せず)は、それぞれ駆動レバー111の長穴部111aおよび駆動レバー112の長穴部とは反対側の端部に設けられ、互いに対向して接触するように重ね合わせられて、支点軸113に嵌合している。これにより、駆動レバー111、112が支点軸113を支点として回動することができる。
【0055】
測定完了後に、測定デバイス取外しボタン84が押下されると、ピストン機構103が動作して、空間部2a内の尿が測定デバイス1から便器内や紙コップなどの容器内に排出される。その後、測定デバイス取外し機構117が作動し、ソレノイド115に電流が供給されて、プランジャ116がソレノイド115に吸引されることで、駆動レバー111、112を反時計方向に回動させる。上記回動によって、押圧ピン部91b、91cが下方向に押圧され、スライド部材91を下方向に移動させる。これにより、押圧突起部91d、91eが測定デバイス1の上端面に直接接触し、測定デバイス1を下方向に移動させる。このようにして、デバイス装着口94から測定デバイス1を離脱させ、測定装置80から測定デバイス1を自動的に取外すことができる。
【0056】
図11は、本実施の形態の測定装置の構成を示すブロック図である。図11に示すように、測定装置80の内部にはCPU121が設けられている。CPU121は、上記の演算部に相当する。CPU121は、第1の受光器105により受光された第1の出射光に対応する電気信号に基づいて、試料中に含まれる被検物質を検出または定量するための第1の演算部と、第2の受光器107により受光された第2の出射光に対応する電気信号に基づいて、試料中に溶解した凝集促進剤の濃度を検出または定量するための第2の演算部とを含む。
また、測定装置80の内部にはメモリ122が設けられている。メモリ122は、上記の記憶部に相当する。メモリ122は、第1の受光器105により受光される第1の出射光の強度における、試料中に溶解した凝集促進剤の濃度による影響を補正して、上記出射光強度を被検物質であるヒトアルブミンの濃度に換算するためのデータが格納されている。より具体的には、測定装置80のメモリ122には、ヒトアルブミン濃度に換算するためのデータとして、種々の凝集促進剤濃度における、ヒトアルブミン濃度と第1の受光器105により受光される第1の出射光の強度との関係を表す第1の検量線群と、第2の受光器107により受光される第2の出射光の強度と凝集促進剤の濃度との関係を表す第2の検量線とが格納されている。
【0057】
本実施の形態の測定装置では、第1の光源104と第2の光源106、及び第1の受光器105と第2の受光器107を設けたが、本発明の測定装置はこれに限定されない。測定方法や測定対象(被検物質)、及び測定に用いる色素の吸収特性に応じた適切な波長の光を少なくとも出射する1つの光源を用いてもよい。その場合、1つの光源から出射された光を受光する1つの受光器と、上記受光器からの、試料中の被検物質の検出のために選択された波長に対応する電気信号、及び色素の吸収特性に応じて選択された波長に対応する電気信号を抽出するCPUとを設ければよい。また、1つの光源に対し、試料中の被検物質の検出のために選択された波長を受光する第1の受光器と、色素の吸収特性に応じて選択された波長を受光する第2の受光器とを設けてもよい。
本実施の形態の測定装置では、ピストン機構103及びデバイス取外し機構117を設けたが、本発明の測定装置はこれに限定されない。このような試料排出及びデバイス取外しの機構を測定装置80に設けずに、ユーザが手動で測定デバイス1を測定デバイス取付け部81から取外し、試料を排出させてもよい。
【0058】
次に、上記測定デバイス1及び測定装置80を用いて、試料中の被検物質を測定するための測定方法について説明する。
まず、測定デバイス1の吸引口2cを、測定装置80の測定デバイス取付け部81内のデバイス装着口94に接合し、測定装置80に測定デバイス1を取付ける。このとき、測定装置80内に設けられた測定デバイス挿入検知スイッチ95が作動して、制御部として機能するCPU121が測定デバイス1の挿入を検知し、測定装置80の電源がONに変わる。
【0059】
次に、例えば便器内に設けられた受尿容器または紙コップなどの運搬可能な容器内に採取された尿に、測定デバイス1を少なくとも試料供給口2bが浸漬する位置まで浸漬させる。続いて、試料吸引開始ボタン83を押下することにより、ピストン機構103内のピストン99が動き、測定デバイス1の試料供給口2bから空間部2a内に所定量(例えば、3mL)の尿が吸引される(第1の工程)。
測定デバイス1の空間部2a内に供給された尿は、空間部2a内に設けられた第1の試薬保持部7に担持された乾燥状態の試薬である抗ヒトアルブミン抗体、及び第2の試薬保持部8に担持された乾燥状態の試薬である凝集促進剤を溶解し、尿中の抗原であるヒトアルブミンと抗ヒトアルブミン抗体との免疫反応が進行する。そして、空間部2a内への試料の供給が完了すると、CPU121がタイマーである計時部123に計時を開始させる。
【0060】
その後、計時部123からの信号によって、空間部2a内への試料の供給完了から所定時間(例えば、2分)経過したことをCPU121が判断すると、CPU121は第1の光源104及び第2の光源106に光照射を実行させる。
第1の光源104から出射した第1の出射光は、測定デバイス1の第2の面4すなわち光入射部を通して空間部2a内に入射する(第2の工程)。その後、空間部2a内に保持された尿中を透過及び散乱して測定デバイス1の第3の面5すなわち光出射部から出射した第1の出射光を、所定時間の間(例えば、3分間)、測定装置80内に設けられた第1の受光器105により受光し、その光の強度を測定する(第3の工程)。
また、同様にして、第2の光源106から出射した第2の出射光は、上記光入射部を通して空間部2a内に入射する(第4の工程)。その後、尿中の凝集促進剤を標識した色素によって吸収されて光出射部から出射した第2の出射光を、所定時間の間(例えば、3分間)、測定装置80内に設けられた第2の受光器107により受光し、その光の強度を測定する(第5の工程)。
【0061】
CPU121は、メモリ122に格納されている第2の出射光強度と、色素標識された凝集促進剤濃度との関係を表す第2の検量線を読み出し、この第2の検量線を参照することにより、第2の受光器107により受光された光強度を、色素標識された凝集促進剤の溶解濃度(CA)に換算する(第6の工程)。
ここで、第2の検量線の一例を図12に示す。図12は、ヒトアルブミン濃度が20mg/dLのときの凝集促進剤の濃度と出射光強度との関係を示す。図12において、横軸は試料中のポリエチレングリコール濃度(wt%)、縦軸は吸光度(任意強度、以下、a.u.と略称する)を示す。例えば、第2の受光器107により受光された第2の出射光強度(吸光度)が1.5である場合、第2の検量線により色素標識されたポリエチレングリコール濃度は3.0wt%と求められる。
【0062】
次に、CPU121は、メモリ122に格納されている、種々の色素標識された凝集促進剤濃度における、ヒトアルブミンの濃度と第1の受光器105により受光される第1の出射光強度との関係を表す第1の検量線群の中から、色素標識された凝集促進剤の溶解濃度CAにおける、ヒトアルブミンの濃度と、第1の受光器105により受光される出射光強度との関係を表す第1の検量線を選択し、読み出す(第7の工程)。そして、上記凝集促進剤の溶解濃度CAにおける第1の検量線を参照することによって、CPU121が、第1の受光器105により受光された出射光強度の、色素標識された凝集促進剤の溶解濃度による影響を補正して、上記出射光強度をヒトアルブミン濃度に換算する(第8の工程)。
ここで、第1の検量線群の一例を図13に示す。図13は、種々の色素標識された凝集促進剤濃度における、ヒトアルブミンの濃度と第1の受光器105により受光される第1の出射光強度との関係を表す。図13中の横軸は試料中のヒトアルブミン濃度(mg/dL)、縦軸は第1の受光器105により受光された第1の出射光強度(散乱光強度)(a.u.)を示す。図13において、第1の検量線群を構成する第1の検量線A〜Gは、それぞれ色素標識されたポリエチレングリコール濃度(wt%)が、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、及び4.0である場合の検量線を示す。
例えば、上記のように、第6の工程において換算されたポリエチレングリコール濃度が3.0wt%である場合、CPU121は、第1の検量線A〜Gから、第1の検量線Eを選択し、読み出す。そして、図14に示すように、第1の受光器105により受光された第1の出射光の強度を示す第1の検量線E上の点から、横軸値のヒトアルブミン濃度を見積もることにより、上記出射光強度に対応するヒトアルブミン濃度を求めることができる。図14中の横軸は試料中のヒトアルブミン濃度(mg/dL)、縦軸は第1の受光器105により受光された散乱光強度(a.u.)を示す。例えば、第1の受光器105により受光された出射光強度(散乱光強度)が66である場合、上記出射光強度に対応するヒトアルブミン濃度は14mg/dLと求められる。
【0063】
なお、本実施の形態においては、担持した凝集促進剤が全て溶解した時に得られる、第1の出射光強度とヒトアルブミン濃度との関係を表す第4の検量線が、上記第1の検量線群及び第2の検量線等に加えてさらに、メモリ122に格納されていてもよい。CPU121は、上記第4の検量線を読み出し、上記第4の検量線を参照することにより、第1の受光器105により受光された出射光強度を、担持した凝集促進剤が全て溶解したと仮定した場合のヒトアルブミン濃度に換算することができる。この構成により、凝集促進剤の試料への溶解状態を考慮しない場合と考慮した場合とでどの程度、ヒトアルブミン濃度が異なっていたかを知ることができる。
【0064】
このようにして得られたヒトアルブミン濃度は、測定結果として表示部82に表示され、好ましくは、計時部123により計時された時刻とともに、メモリ122に保存することができる。さらには、測定装置80に設けられた記録部124により、SDカードなどの取外し可能な記憶媒体に、測定結果を記録することができる。これにより、測定結果を測定装置80から容易に取り出すことができるので、記憶媒体を分析専門業者に持参もしくは郵送して、分析を容易に依頼することができる。
以上の過程を経て、被検物質量の測定完了後に、ユーザが測定デバイス取外しボタン84を押下することにより、ピストン機構103を動作させ、空間部2a内の尿を測定デバイス1の試料供給口2bから便器内や紙コップなどの容器内に排出させる。その後、測定デバイス取外し機構117が作動して、測定デバイス1が測定装置80から自動的に取外される。
【0065】
なお、本実施の形態の測定装置80は、測定装置80外の病院内の分析関連部門または分析関連業者などに送信することができる送信部125や、病院内の分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部126を備えている。これにより、病院内の分析関連部門または分析関連業者などと直接、測定結果及び分析結果を送受信して、迅速にユーザに分析結果をフィードバックすることができ、時間を短縮することができる。
また、本実施の形態では、空間部2a内への試料(尿)の供給が完了してから所定時間後に、第1の光源104及び第2の光源106による光の照射を行ったが、試料供給完了の検知と同時に光照射を開始してもよい。この場合、第1の光源104及び第2の光源106から出射された光を受光する第1の受光器105及び第2の受光器107からの電気信号を、試料供給完了から所定時間後に、CPU121へ入力するように設定すればよい。
以上のように、本実施の形態によれば、簡易な構成により、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【0066】
(実施の形態3)
本実施の形態では、上記本発明の第2の好ましい態様の測定装置、およびそれを用いた上記本発明の第2の測定方法の一例を説明する。
本実施の形態の測定装置は、メモリ122が、実施の形態2と同じ第2の検量線と、種々の抗原濃度(被検物質)における、色素で標識された凝集促進剤の濃度と第1の受光器105により受光される第1の出射光強度との関係を表す第3の検量線群とを格納する以外は、実施の形態2の測定装置と同じである。
以下、本実施の形態の測定装置を用いた測定方法を説明する。なお、本実施の形態の測定方法は、第1の受光器105により受光される出射光強度における、試料中に溶解した凝集促進剤の濃度による影響を補正して、上記出射光強度を被検物質であるヒトアルブミン濃度に換算する工程以外は、実施の形態2の測定方法における第1の工程〜第5の工程と同じであるため、説明を省略する。
【0067】
メモリ122は、例えば、実施の形態2と同じ図12に示す第2の検量線、および図15に示す第3の検量線群を格納する。図15は、種々のヒトアルブミン濃度における、色素で標識された凝集促進剤の濃度と、第1の受光器105により受光される第1の出射光強度との関係を表す第3の検量線群の一例を示す。図15中の横軸は試料中のポリエチレングリコール濃度(wt%)、縦軸は第1の受光器105により受光された散乱光強度(a.u.)を示す。図15中における、第3の検量線群を構成する第3の検量線A〜Kは、それぞれヒトアルブミン濃度(mg/dL)が、0、2、4、6、8、10、12、14、16、18、及び20である場合の検量線を示す。
まず、CPU121は、図12に示すような、第2の出射光強度と、色素で標識された凝集促進剤の濃度との関係を表す第2の検量線をメモリ122から読み出し、この第2の検量線を参照することにより、第2の受光器107により受光された出射光強度(吸光度)を、色素で標識されたポリエチレングリコールの濃度に換算する(第6の工程)。
【0068】
次に、CPU121は、図15に示すような第3の検量線群をメモリ122から読み出し、第3の検量線群を参照することによって、CPU121が、第1の受光器105により受光された出射光強度における、色素で標識された凝集促進剤の溶解濃度による影響を補正して、上記第1の出射光強度をヒトアルブミン濃度に換算する。すなわち、第3の検量線群の中から、上記第6の工程で得られたポリエチレングリコールの濃度に対応する第1の出射光の強度が、上記第3の工程で測定された第1の出射光の強度と等しくなるような第3の検量線を抽出する(第7の工程)。
そして、CPU121が、抽出された第3の検量線がいくらのヒトアルブミン濃度に対して得られたものであるかを判定することにより、ヒトアルブミン濃度を求める(第8の工程)。
【0069】
例えば、上記第6の工程で換算されたポリエチレングリコール濃度が3.0wt%であり、及び第3の工程で測定された第1の出射光の強度(散乱光強度)が66である場合、CPU121は、図15に示す第3の検量線群A〜Kの中から、第2の検量線によって求められたポリエチレングリコールの濃度(3.0wt%)を示す横軸値と、第1の出射光の強度(66)を示す縦軸値との交点を含む第3の検量線Hを抽出する。そして、第3の検量線Hはヒトアルブミン濃度が14mg/dLの場合の検量線を示すことから、ヒトアルブミン濃度は14mg/dLと求められる。
以上のように、本実施の形態によれば、簡易な構成により、測定毎に凝集促進剤の試料への溶解状態が異なることによる測定の不均一性を効率よく補正し、測定対象物質である抗原の測定を迅速かつ正確に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る測定デバイス、測定装置及び測定方法は、測定デバイスに供給された試料中における凝集促進剤の溶解状態による影響に応じて補正を加えることにより、正確な被検物質量を測定することができるため、医療及び医療関連の検査分野で、特に尿検体中の被検物質の量を測定する場合などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態1における測定デバイスを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における測定デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1における凝集促進剤を標識する色素の吸収スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1における測定デバイスの他の一例を示す斜視図である。
【図6】図5のB−B線断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2における測定装置を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態2における測定装置に図1の測定デバイスを挿入した場合の内部構成を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における測定装置の測定デバイス取外し機構を示す正面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における測定装置の測定デバイス取外し機構を示す側面図である。
【図11】本発明の実施の形態2における測定装置の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態2における測定装置のメモリに格納される第2の検量線を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態2における測定装置のメモリに格納される第1の検量線群を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態2において抽出された第1の検量線を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態3における測定装置のメモリに格納される第3の検量線群を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 測定デバイス
2 基体
2a 空間部
2b 試料供給口
2c 吸引口
2d 中空四角柱部分
2e 中空四角錐部分
3 第1の面
4 第2の面
5 第3の面
6 第4の面
7 第1の試薬保持部
8 第2の試薬保持部
31 第1の部材
32 第2の部材
33 底部
80 測定装置
81 測定デバイス取付け部
82 表示部
83 試料吸引開始ボタン
84 測定デバイス取外しボタン
91 スライド部材
91a 押圧突出部
91b、91c 押圧ピン部
91d、91e 押圧突起部
92 フレーム部材
92a デバイス装着用突起部
92b シリンダ装着用突起部
93 デバイス装着封止部材
94 デバイス装着口
95 測定デバイス挿入検知スイッチ
96 中心線
97 シリンダ装着封止部材
98 ピストンロッド
98a 雌ねじ部
98b キー溝
99 ピストン
100 シリンダ
100a 突出部
100b、111c 穴部
101 モータ
102 雄ねじ部
103 ピストン機構
104 第1の光源
105 第1の受光器
106 第2の光源
107 第2の受光器
111、112 駆動レバー
111a、111b 長穴部
111c 穴部
113 支点軸
114 作動ピン
115 ソレノイド
116 プランジャ
117 測定デバイス取外し機構
121 CPU
122 メモリ
123 計時部
124 記録部
125 送信部
126 受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁で囲まれ、被検物質である抗原を含む試料を保持するための空間部と、
前記空間部と連通し、前記空間部内に前記試料を供給するための試料供給口と、
前記試料を光学的に測定するための光学測定部と、
前記空間部内に設けられ、前記抗原に対する抗体、及び前記抗原と前記抗体とを含む凝集複合体の生成を促進させ、色素によって標識された凝集促進剤を保持する試薬保持部とを備える、測定デバイス。
【請求項2】
前記光学測定部は、前記空間部外から前記空間部内に光を入射させるための光入射部と、前記空間部内から前記空間部外に光を出射させるための光出射部とを備える、請求項1に記載の測定デバイス。
【請求項3】
前記試薬保持部が、前記抗体を保持する第1の試薬保持部と、前記凝集促進剤を保持する第2の試薬保持部とからなる、請求項1または2に記載の測定デバイス。
【請求項4】
前記凝集促進剤は、主鎖としてポリエチレングリコールを含む高分子化合物である、請求項3記載の測定デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載の測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部と、
前記空間部外から前記空間部内に入射する光を出射するための光源と、
前記空間部内から前記空間部外に出射した光を受光するための受光部と、
前記受光部により受光された、前記凝集複合体の量を反映する光の強度と、前記受光部に受光された、前記色素によって標識された前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映する光の強度とに基づいて、前記試料中に含まれる前記被検物質の濃度を定量するための演算部とを備える、測定装置。
【請求項6】
前記光源は第1の光源と第2の光源とを備え、
前記受光部は前記第1の光源から出射した第1の出射光を受光する第1の受光部と、前記第2の光源から出射された第2の出射光を受光する第2の受光部とを備え、
前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度が、前記凝集複合体の量を反映し、
前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度が、前記凝集促進剤の前記試料中における濃度を反映する、請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
さらに、前記凝集促進剤の濃度が互いに異なる場合における、前記被検物質の濃度と、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度との関係を表す複数の第1の検量線、及び前記凝集促進剤の濃度と、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度との関係を表す第2の検量線を格納する記憶部を備える、請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
さらに、前記被検物質の濃度が互いに異なる場合における、前記凝集促進剤の濃度と、前記第1の受光部により受光された前記第1の出射光の強度との関係を表す複数の第3の検量線、及び前記凝集促進剤の濃度と、前記第2の受光部により受光された前記第2の出射光の強度との関係を表す第2の検量線を格納する記憶部を備える、請求項6に記載の測定装置。
【請求項9】
さらに、前記試料を前記測定デバイスの前記空間部内に吸引するための吸引部を備える、請求項5〜8のいずれかに記載の測定装置。
【請求項10】
請求項1に記載の測定デバイスと、請求項7に記載の測定装置とを用い、前記試料中に含まれる前記被検物質を測定する測定方法であって、
前記測定デバイスの前記空間部内に前記試料を供給する第1の工程と、
前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第1の出射光を照射する第2の工程と、
前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第1の出射光の強度を測定する第3の工程と、
前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第2の出射光を照射する第4の工程と、
前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第2の出射光の強度を測定する第5の工程と、
前記第2の検量線を参照することにより、前記第5の工程で測定された第2の出射光の強度を前記凝集促進剤の濃度に換算する第6の工程と、
前記複数の第1の検量線の中から、前記第6の工程において換算された凝集促進剤の濃度に対応する第1の検量線を抽出する第7の工程と、
前記第7の工程において抽出された第1の検量線を参照することにより、前記第3の工程において測定された第1の出射光の強度を前記被検物質の濃度に換算する第8の工程とを含む測定方法。
【請求項11】
請求項1に記載の測定デバイスと、請求項8に記載の測定装置とを用い、前記試料中に含まれる前記被検物質を測定する測定方法であって、
前記測定デバイスの前記空間部内に前記試料を供給する第1の工程と、
前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第1の出射光を照射する第2の工程と、
前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第1の出射光の強度を測定する第3の工程と、
前記試料が供給された空間部に、前記光学測定部を通じて前記第2の出射光を照射する第4の工程と、
前記光学測定部を通じて前記試料が供給された空間部から出射した前記第2の出射光の強度を測定する第5の工程と、
前記第2の検量線を参照することにより前記第5の工程において測定された第2の出射光の強度を前記凝集促進剤の濃度に換算する第6の工程と、
前記第3の検量線の中から、前記第6の工程で換算された凝集促進剤の濃度に対応する第1の出射光の強度が前記第3の工程において測定された第1の出射光の強度と等しくなる第3の検量線を抽出する第7の工程と、
前記第7の工程において抽出された第3の検量線に対応する前記被検物質の濃度を求める第8の工程とを含む測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−14403(P2010−14403A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291313(P2006−291313)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】