説明

測定用基板、並びに、これを用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法

【課題】表面プラズモン共鳴を適用し、発光ダイオードとCCDカメラを主な要素とする簡易な装置により、一重項酸素を媒介とした化学増幅型蛍光イムノアセイを実現することができる測定用基板、並びに、これを用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の測定用基板10は、光源と光検出素子による反射または透過光学系で構成される測定装置において、表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量を検出する測定方法に用いられ、透明基板11と、透明基板11の一方の面11aに設けられた金薄膜12と、金薄膜12上に配置された感応剤13と、金薄膜12および感応剤13を被覆する保護膜14と、保護膜14の表面14aに固定化された1次抗体15と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノアッセイと言われる生化学的測定方法に用いられる測定用基板、並びに、これを用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノアッセイとは、免疫反応を利用して、微量物質の検出・定量を行う免疫学的測定方法、抗原抗体反応を利用した測定方法などの生化学的測定方法である。
近年、生化学的測定方法の1つとして、蛍光色素を含む微粒子をレーザーダイオードから発振された光により励起することによって生じる一重項酸素による発光現象を利用したアセイが実用化されている。このアセイは、現在でも一般的に用いられるエンザイムイノアッセイ(ELISA)と比較すると、抗原と、これを挟み込む2種の抗体とを1つのステップで混合するだけで、これらの抗原および抗体を検出できることから、測定時間と手間を大幅に軽減することができるという利点がある。さらに、このアセイは、1次抗体−抗原−2次抗体が結合して近接していないと発光しないため、エンザイムイノアッセイや従来の蛍光イムノアッセイに比べてバックグラウンドが低く抑えられるので、高感度化にも有利な手法である。また、このアセイでは、蛍光色素を励起する一重項酸素が生体中分子やスーパーオキシドと反応して濃度が減少することから、蛍光色素をシリカで保護した微粒子により、測定時の夾雑物の影響が抑えられることも報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中島 憲一郎、「化学発光を利用する分析法」、分析化学、Vol.49(2000)、No.3、pp.135−159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような利点を有する活性酸素種(一重項酸素)を用いた化学増幅は、診療や介護の現場で行う臨床検査(POCT、Point of Care Testing)やオンサイトでの生化学的測定にも適していると期待される。しかしながら、従来は、レーザーダイオードを用いているため、測定装置の小型化や低コスト化を達成することが難しい上に、測定装置の設置場所にも制限があった。そこで、レーザーダイードの代りに、これと比べると安価で小型の測定装置に組み込みが可能な発光ダイオードを用いて、一重項酸素を発生させることも可能であるが、それによって発生する一重項酸素の量は、生化学分析に十分な反応量ではなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、表面プラズモン共鳴を適用し、発光ダイオードとCCDカメラを主な要素とする簡易な測定装置により、一重項酸素を媒介とした化学増幅型蛍光イムノアセイを実現することができる測定用基板、並びに、これを用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の測定用基板は、光源と光検出素子による反射光学系で構成される測定装置において、表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量を検出する測定方法に用いられる測定用基板であって、透明基板と、該透明基板の一方の面に設けられた金薄膜と、該金薄膜上に配置された感応剤と、前記金薄膜および前記感応剤を被覆する保護膜と、該保護膜の表面に固定化された1次抗体と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の測定用基板は、光源と光検出素子による透過光学系で構成される測定装置において、表面プラズモンによる増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量を検出する測定方法に用いられる測定用基板であって、透明基板と、該透明基板の一方の面に設けられたドット状の金薄膜の集合体と、該集合体上に配置された感応剤と、前記集合体および前記感応剤を被覆する保護膜と、該保護膜の表面に固定化された1次抗体と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
前記保護膜はシリカ薄膜であることが好ましい。
【0009】
本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法は、本発明の測定用基板を用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法であって、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、少なくとも前記1次抗体を収容するとともに測定対象である溶液αを保持する空間を有する溶液保持部材を設けるステップA1と、前記空間に前記溶液αを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液αを接触させるステップB1と、前記空間に蛍光試薬と結合した2次抗体を含む溶液βを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液βを接触させるステップC1と、前記透明基板側から前記金薄膜に光を入射して、該入射光によって前記蛍光試薬から励起された蛍光を、前記透明基板側に反射させて、前記蛍光を測定するステップD1と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法は、本発明の測定用基板を用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法であって、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、少なくとも前記1次抗体を収容するとともに測定対象である溶液αを保持する空間、並びに、前記溶液αを前記空間内に流入する流入部および前記空間から前記溶液αを排出する排出部を有する溶液保持部材を設けるステップA2と、前記空間に前記溶液αを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液αを接触させるステップB2と、前記空間に蛍光試薬と結合した2次抗体を含む溶液βを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液βを接触させるステップC2と、前記透明基板側から前記金薄膜に光を入射して、該入射光によって前記蛍光試薬から励起された蛍光を、前記保護膜側に透過させて、前記蛍光を測定するステップD2と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定用基板によれば、可搬・小型化に適した発光ダイオード(LED)とCCDカメラを組み合わせた簡易な測定装置により、一重項酸素を用いた蛍光発光イムノアセイを測定できるようになり、将来的にオンサイト測定、POCTへの応用が可能になる。また、感応剤が保護膜で被覆されているので、本発明の測定用基板を用いた測定中に感応剤が消失して、測定感度が低下するという不具合を防止できる。
【0012】
本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法によれば、可搬・小型化に適した発光ダイオードとCCDカメラを組み合わせた簡易な測定装置により、一重項酸素を用いた蛍光発光イムノアセイを測定できるようになり、将来的にオンサイト測定、POCTへの応用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の測定用基板の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の測定用基板の第一の実施形態の製造方法を示す概略断面図である。
【図3】本発明の測定用基板の第一の実施形態の製造方法を示す概略断面図である。
【図4】本発明の測定用基板の第一の実施形態の製造方法を示す概略断面図である。
【図5】本発明の測定用基板の第一の実施形態の製造方法を示す概略断面図である。
【図6】本発明の測定用基板の第二の実施形態を示す概略断面図である。
【図7】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態に用いられる測定用チップを示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図8】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図9】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図10】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図11】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図12】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態に用いられる測定装置を示す概略構成図である。
【図13】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図14】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法に用いられる測定用チップの第二の実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図15】本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第二の実施形態に用いられる測定装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の測定用基板、並びに、これを用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
「測定用基板」
本発明の測定用基板は、光源と光検出素子による反射または透過光学系で構成される測定装置において、一重項酸素による蛍光発光現象である表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法に用いられる測定用基板である。
なお、ここでいう生化学的結合形成および生化学的結合量とは、1次抗体に結合させた抗原と2次抗体との結合の形成、および、その結合量のことである。
【0016】
(1)第一の実施形態
図1は、本発明の測定用基板の第一の実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態の測定用基板10は、透明基板11と、透明基板11の一方の面11aに設けられた金薄膜12と、金薄膜12上(金薄膜12の透明基板11と接している面とは反対側の面(以下、「一方の面」と言う。)12a)に配置された感応剤13と、金薄膜12の一方の面12aおよび感応剤13の表面(感応剤13の金薄膜12と接している面以外の面)13aを被覆する保護膜14と、保護膜14の表面14aに固定化された1次抗体15とから概略構成されている。
【0017】
透明基板11は、特に限定されないが、発光ダイオード(LED)から入射された光の透過率に優れ、熱膨張係数が小さく、低膨張の材質からなるものが好ましく、例えば、BK7(硼珪酸ガラス)などの光学ガラスなどが用いられる。
また、透明基板11の厚さは、特に限定されないが、金薄膜12の表面にエバネッセント波を生じさせるのに十分な光が、発光ダイオードから金薄膜12に入射される程度、かつ、取り扱いがし易く、割れ難い厚さであることが好ましく、0.5mm〜2mmであることがより好ましい。
【0018】
金薄膜12は、スパッタリング装置や蒸着装置などによって形成された連続した薄膜である。
金薄膜12は、透明基板11の一方の面11aに、感応剤13を配置するために必要な大きさ(面積)に設けられるが、所定量の感応剤13が設けられる大きさであれば、その大きさは特に限定されない。すなわち、金薄膜12は、透明基板11の一方の面11aの一部に設けられていても、全面に設けられていてもよい。
【0019】
また、金薄膜12の膜厚は、特に限定されないが、透明基板11を介して、発光ダイオードから入射された光により、金薄膜12の表面に表面プラズモン波が誘起される大きさであることが好ましく、20nm〜50nmであることがより好ましい。
【0020】
感応剤13としては、ローズベンガル(Rose Bengal)、メチレンブルー(Methylene Blue)などの一重項酸素を発生させる色素が用いられる。
透明基板11の一方の面11aに配置される感応剤13の量は、表面プラズモン共鳴によって、生化学的結合形成および生化学的結合量を検出するために十分な励起光が得られる量であり、金薄膜12の一方の面12aにおいて、100mmあたり0.6μg〜30μgであることが好ましい。
【0021】
保護膜14は、特に限定されないが、感応剤13において発生した励起光の透過率に優れるとともに、表面プラズモン共鳴を実施するバッファ溶液中に測定用基板10を浸漬しても、そのバッファ溶液中に感応剤13が溶出することを防止することができるものが好ましく、シリカ薄膜であることがより好ましい。
【0022】
また、保護膜14の膜厚は、特に限定されないが、感応剤13において発生した励起光を減衰することがないとともに、表面プラズモン共鳴を実施するバッファ溶液中に測定用基板10を浸漬しても、そのバッファ溶液中に感応剤13が溶出することを防止することができる大きさであり、10nm〜100nmであることが好ましい。
【0023】
1次抗体15としては、表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法により検出される抗原を認識することができる抗体が用いられる。すなわち、測定対象の抗原に応じて、1次抗体15は適宜選択される。
また、1次抗体15は、物理吸着あるいはシランカップリング剤を介した化学結合により、保護膜14の表面14aにおいて、感応剤13上に固定化されている。すなわち、保護膜14を介して、感応剤13の表面13a上に、1次抗体15が固定化されている。
【0024】
保護膜14の表面14aに固定化される1次抗体15の量は、測定対象の抗原を結合させるために十分な量であり、例えば、保護膜14の表面14aにおいて、100mmあたり1ng〜100ngであることが好ましい。
【0025】
次に、図2〜5を参照して、この測定用基板10の製造方法を説明する。
まず、図2に示すように、スパッタリング装置や蒸着装置などにより、透明基板11の一方の面11aに、所定の大きさ、所定の膜厚の金薄膜12を形成する。
次いで、スポッター装置などを用いて、金薄膜12の一方の面12aに、ローズベンガル、メチレンブルーなどの色素を含む溶液を微量の液滴として滴下し、その後、液滴の溶媒を乾燥するなどして除去し、図3に示すように、金薄膜12の一方の面12aに、所定量の感応剤13を配置する。
【0026】
次いで、図4に示すように、金薄膜12の一方の面12aおよび感応剤13の表面13aを覆うように、所定の膜厚の保護膜14を形成する。
保護膜14を形成する方法としては、例えば、(1)スパッタリングにより金薄膜12を形成する方法、(2)スポッター装置により、金薄膜12の一方の面12aおよび感応剤13の表面13aに、テトラエトキシシランのエタノール溶液を液滴として滴下し、その後、金薄膜12の一方の面12aおよび感応剤13の表面13aに塩酸を含むエタノール溶液を30分以上接触させ、さらに、温度80℃以上で4〜20時間加熱して、保護膜14を形成する方法などが用いられる。
【0027】
次いで、図5に示すように、物理吸着あるいはシランカップリング剤を介した化学結合により、保護膜14の表面14aに、1次抗体15を固定化し、測定用基板10を得る。
シランカップリング剤としては、例えば、3アミノプロピルエトキシシランなどが用いられる。
【0028】
この測定用基板10によれば、可搬・小型化に適した発光ダイオードとCCDカメラを組み合わせた簡易な測定装置により、一重項酸素を用いた蛍光発光イムノアセイを測定できるようになり、将来的にオンサイト測定、POCTへの応用が可能になる。
また、感応剤13が保護膜14で被覆されているので、この測定用基板10を用いた測定中に感応剤13が消失して、測定感度が低下するという不具合を防止できる。
【0029】
(2)第二の実施形態
図6は、本発明の測定用基板の第二の実施形態を示す概略断面図である。
図6において、図1に示した測定用基板10と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態の測定用基板20が、上述の第一の実施形態の測定用基板10と異なる点は、透明基板11の一方の面11aに、ドット状の金薄膜22Aの集合体22が設けられ、それぞれのドット状の金薄膜22Aの上(ドット状の金薄膜22Aの透明基板11と接している面とは反対側の面(以下、「一方の面」と言う。)22a)に、感応剤23が配置されている点である。すなわち、感応剤23も、ドット状に配置されている。
【0030】
ドット状の金薄膜22Aの集合体22は、電子線リソグラフィー、ナノインプリント法などによって、一定の間隔を置いて、不連続かつ規則的に形成された多数のドット状(点状)の金薄膜22Aの集合体からなる薄膜である。
集合体22は、透明基板11の一方の面11aに、感応剤23を配置するために必要な大きさ(面積)に設けられるが、所定量の感応剤23が設けられる大きさであれば、その大きさは特に限定されない。すなわち、集合体22は、透明基板11の一方の面11aの一部に設けられていても、全面に設けられていてもよい。
【0031】
また、集合体22の膜厚、すなわち、ドット状の金薄膜22Aの膜厚は、特に限定されないが、透明基板11を介して、発光ダイオードから入射された光により、集合体22(ドット状の金薄膜22A)の表面22aに表面プラズモン波が誘起される程度であることが好ましく、5nm〜40nmであることがより好ましい。
さらに、ドット状の金薄膜22A同士の間隔は、特に限定されないが、発光ダイオードから入射された光により、集合体22の表面に局在する局在プラズモンが誘起されて電場強度を増大させることができる大きさが好ましく、5nm〜40nmであることがより好ましい。
【0032】
感応剤23としては、上述の感応剤13と同様のものが用いられる。
【0033】
次に、この測定用基板20の製造方法を説明する。
電子線リソグラフィー、ナノインプリント法などにより、透明基板11の一方の面11aに、所定の大きさ、所定の膜厚のドット状の金薄膜22Aの集合体22を形成し、さらに、集合体22(ドット状の金薄膜22A)の表面22aに、感応剤23を配置する以外は、上述の第一の実施形態と同様にして、測定用基板20を製造する。
【0034】
この測定用基板20によれば、可搬・小型化に適した発光ダイオードとCCDカメラを組み合わせた簡易な測定装置により、一重項酸素を用いた蛍光発光イムノアセイを測定できるようになり、将来的にオンサイト測定、POCTへの応用が可能になる。
また、感応剤23が保護膜14で被覆されているので、この測定用基板10を用いた測定中に感応剤23が消失して、測定感度が低下するという不具合を防止できる。
さらに、ドット状の金薄膜22Aからなる集合体22を設けたことにより、発光ダイオードにより透明基板11側から集合体22に光を入射することによって、集合体22の表面に局在する局在プラズモンが誘起して電場強度を増大させることができるので、透過光学系による測定方法が可能となる。
【0035】
「生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法」
本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法では、まず、上述の測定用基板を用いて、測定用チップを形成する。
【0036】
(1)第一の実施形態
図7〜13を参照して、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態を説明する。
図7は、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法の第一の実施形態に用いられる測定用チップを示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
図7において、図1に示した測定用基板10と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、図7において、説明を簡略化するために、図1に示した測定用基板10の構成要素の一部の図示を省略する。また、図8〜13において、説明を簡略化するために、図7に示した測定用チップ30の構成要素の一部の図示を省略する。
【0037】
この実施形態の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法は、まず、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面(透明基板11の一方の面11a)上に、少なくとも1次抗体15を収容するとともに測定対象である溶液αを保持する空間31aを有する溶液保持部材31を設け、測定用チップ30を作製する(ステップA1)。
【0038】
測定用チップ30は、測定用基板10と、その透明基板11の一方の面11a上に設けられた溶液保持部材31とから概略構成されている。
また、溶液保持部材31には、測定用基板10における少なくとも1次抗体15が設けられている部分に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面円形の空間31aが設けられている。
【0039】
溶液保持部材31は、ポリジメチルシロキサンシートからなり、その厚さは、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、測定対象の抗原を含む溶液の必要量を収容(保持)できる大きさであることが好ましく、1mm〜10mmであることがより好ましい。
また、溶液保持部材31の空間31aの大きさ(直径)は、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、測定対象の抗原を含む溶液の必要量を収容(保持)できる大きさであり、かつ、保護膜14の表面14aに固定化された1次抗体15を収容できる大きさであることが好ましく、0.05mm〜0.07mmであることがより好ましい。
【0040】
なお、この実施形態では、溶液保持部材31の空間31aの断面形状を円形としたが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、ポリジメチルシロキサンシートに設けられる貫通孔の断面形状は、正方形、長方形、楕円形などであってもよい。
【0041】
次いで、溶液保持部材31の空間31a内に、測定対象の溶液α(抗原を含む場合も含まない場合もある)を流入して(図8参照)、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、溶液αを接触させる(ステップB1)。
これにより、測定用チップ30の1次抗体15と、溶液αに抗原が含まれる場合、その抗原41とを反応させて、図9に示すように、1次抗体15に抗原41を結合させる。
1次抗体15と抗原41との反応が完了した後、溶液保持部材31の空間31a内から、溶液αを除去する。
【0042】
次いで、溶液保持部材31の空間31a内に、予め調製しておいた、蛍光試薬42と結合した2次抗体43を含む溶液βを流入して(図10参照)、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、溶液βを接触させる(ステップC1)。
これにより、1次抗体15に結合した抗原41と、2次抗体43とを反応させて、図11に示すように、1次抗体15に結合した抗原41に2次抗体43を結合させ、2次抗体43における1次抗体15に結合している側とは反対側の端に蛍光試薬42を配置させる。
1次抗体15に結合した抗原41と2次抗体43との反応が完了した後、溶液保持部材31の空間31a内から、2次抗体43を含む溶液βを除去し、さらに、空間31a内をバッファ溶液で洗浄する。
バッファ溶液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル社製)水溶液などが用いられる。
【0043】
蛍光試薬42としては、特に限定されないが、表面プラズモン共鳴によって発生した一重項酸素により蛍光を発するものが用いられ、例えば、ユーロピウム錯体(Sodium[4’−(4’−Amino−4−biphenyl)−2,2’:−6,2“−terpydine−6,6”−diylbis(methyliminodiacetato)]europate(III)])、Eu tribipyridine Cryptate、テルビウム錯体などのランタノイド錯体が挙げられる。
【0044】
2次抗体43としては、表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法により検出される抗原41を認識することができる抗体が用いられる。すなわち、測定対象の抗原41に応じて、2次抗体43は適宜選択される。
なお、本発明では、蛍光試薬42と2次抗体43の結合体の代りに、市販の抗体固定化用の蛍光ビーズを用いることもできる。
【0045】
次いで、溶液保持部材31の空間31a内にバッファ溶液を入れた状態で、図12に示すように、測定用チップ30を測定装置50に設置して、1次抗体15に結合させた抗原41と2次抗体43との結合の形成、および、その結合量を検出する。
すなわち、透明基板11側から金薄膜12に光を入射して、その入射光によって蛍光試薬42から励起された蛍光を、透明基板11側に反射させて、その蛍光を測定する(ステップD1)。
【0046】
この測定装置50は、測定用チップ30を載置する面(載置面)51aを有するコニカルプリズム51と、測定用チップ30に光を入射する発光ダイオード52と、蛍光試薬42が発光した蛍光を観察、測定するための2次元CCDカメラ53と、2次元CCDカメラ53によって測定する光の波長を選択するためのフィルタ(波長選択フィルタ)54とから概略構成されている。
【0047】
コニカルプリズム51としては、特に限定されないが、発光ダイオードから入射された光の透過率に優れ、熱膨張係数が小さく、低膨張の材質からなるものが好ましく、例えば、BK7(硼珪酸ガラス)などの光学ガラスなどが用いられる。
発光ダイオード52としては、特に限定されないが、水の吸収が少ない波長640nm〜760nmの光を発光するものが好ましい。
【0048】
2次元CCDカメラ53としては、画素数640×480以上で、フレームレートが200fps以上の性能を有し、データの転送に必要なGiga Ethernetインターフェースを備えたもので、例えば、Prosilica社製のGE680(商品名)などが用いられる。
フィルタ54としては、蛍光試薬42から発光される蛍光を選択的に透過するものが用いられ、波長500〜600nmの範囲でのバンドパスフィルターであればよく、例えば、595nm中心の25nm幅バンドパスフィルターであればよい。
【0049】
この測定装置50を用いた測定方法では、図12に示すように、コニカルプリズム51の載置面51aに、測定用チップ30を設置し、コニカルプリズム51介して、発光ダイオード52から発光した光を、透明基板11側から金薄膜12に入射する。
発光ダイオード52から金薄膜12に入射する光は、1MHz〜5MHzの周期で間欠的(パルス状)な光である。
【0050】
すると、金薄膜12の表面にエバネッセント波が生じるとともに、金薄膜12の表面に表面プラズモン波が誘起され、感応剤13が励起して、その励起光と、溶液保持部材31の空間31a内のバッファ溶液中に含まれている酸素分子とが反応して、一重項酸素が生成する。
【0051】
そして、生成した一重項酸素が、蛍光試薬42と反応する(図13参照)。ここで、2次元CCDカメラ53によって、蛍光試薬42から発光された蛍光が観測された場合、測定対象の溶液αには、抗原41が含まれていたことになる。すなわち、この蛍光が発光する現象は、測定用チップ30の1次抗体15に結合している抗原41に、蛍光試薬42と結合している2次抗体43が結合することによって生じる現象であるから、蛍光が観測されれば、溶液αには、抗原41が含まれていたことを確認することができる。
また、溶液αにおける抗原41の濃度が高ければ、2次抗体43に結合した蛍光試薬42の数、すなわち、2次抗体43と蛍光試薬42との結合数も多くなるため、蛍光量と抗原濃度との間には相関(比例関係)がある。
【0052】
なお、発光ダイオード52から金薄膜12にパルス状の光を入射した際、初期に観測される蛍光の光信号は、目的とする蛍光試薬以外の夾雑物から発せられた短時間の蛍光信号も含まれている可能性が高い。そこで、2次元CCDカメラ53によって撮影された画像のデータ処理により、蛍光が観測された初期のデータについては採用せず、発光ダイオード52から発光された光による蛍光試薬42の励起後、一定時間経過してから開始する擬似的プラトー部分での蛍光量を求め、抗原濃度に換算する。
なお、「擬似的プラトー部分」とは、最初に現れるプラトー部分であり、この部分の時間が長くなると、発散する。
【0053】
この実施形態の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法によれば、可搬・小型化に適した発光ダイオードとCCDカメラを組み合わせた簡易な測定装置により、一重項酸素を用いた蛍光発光イムノアセイを測定できるようになり、将来的にオンサイト測定、POCTへの応用が可能になる。
【0054】
(2)第二の実施形態
図14は、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法に用いられる測定用チップの第二の実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
図14において、図1に示した測定用基板10と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、図14において、説明を簡略化するために、図6に示した測定用基板20の構成要素の一部の図示を省略する。また、図14において、説明を簡略化するために、図1に示した測定用基板10の構成要素の一部の図示を省略する。
【0055】
この実施形態の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法は、まず、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面(透明基板11の一方の面11a)上に、少なくとも1次抗体15を収容するとともに測定対象である溶液αを保持する空間61aを有するシート状の第一部材61と、溶液αを空間61a内に流入する流入部62aおよび空間61aから溶液αを排出する排出部62bを有するシート状の第二部材62とから構成される溶液保持部材63を設け、測定用チップ60を形成する(ステップA2)。
【0056】
測定用チップ60は、測定用基板10と、その透明基板11の一方の面11a上に順に設けられたシート状の第一部材61およびシート状の第二部材62とから概略構成されている。
また、第一部材61は両面テープなどからなり、第一部材61には、測定用基板10における少なくとも1次抗体15が設けられた部分に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面長方形の空間61aが設けられている。
さらに、第二部材62はポリジメチルシロキサンシートなどからなり、第二部材62には、第一部材61の空間61aの一端に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面円形の流入部62aが設けられ、かつ、第一部材61の空間61aの他端に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面円形の排出部62bが設けられている。
【0057】
第一部材61の厚さは、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、測定対象の溶液αの必要量を収容(保持)できる大きさであることが好ましく、0.5mm〜3mmであることがより好ましい。
また、第一部材61の空間61aの大きさ(面積)は、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、測定対象の溶液αの必要量を収容(保持)できる大きさであり、かつ、保護膜14の表面14aに固定化された1次抗体15を収容できる大きさであることが好ましく、5mm〜10mmであることがより好ましい。
【0058】
第二部材62の厚さは、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、第一部材61の空間61a内に、測定対象の溶液αを流入させることができる程度であればよく、1mm〜10mmであることが好ましい。
また、第二部材62の流入部62aの大きさ(直径)は、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、第二部材62の流入部62aには、第一部材61の空間61a内に、測定対象の溶液αを流入させるためのポンプが接続(図示略)されるため、その接続に適した大きさであることが好ましく、0.8mm〜1.5mmであることがより好ましい。
さらに、第二部材62の排出部62bの大きさ(直径)は、特に限定されないが、本発明の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法において、第二部材62の排出部62bには、第一部材61の空間61a内から排出された廃液を回収する回収容器(図示略)が接続されるため、その接続に適した大きさであることが好ましく、0.8mm〜1.5mmであることがより好ましい。
【0059】
また、第二部材62の流入部62aにポンプを接続し、第二部材62の排出部62bに回収容器を接続することにより、第一部材61の空間61a内では、図中の矢印(破線)方向に、測定対象の溶液αが流入する。
【0060】
なお、この実施形態では、第一部材61の空間61aの断面形状を長方形としたが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、第一部材に設けられる空間の断面形状は、正方形、円形、楕円形などであってもよい。
また、この実施形態では、第二部材62の流入部62a、第二部材62の排出部62bの断面形状を円形としたが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、第二部材に設けられる流入部または排出部の断面形状は、正方形、長方形、楕円形などであってもよい。
【0061】
次いで、第二部材62の流入部62aを介して、第一部材61の空間61a内に、測定対象の溶液α(抗原を含む場合も含まない場合もある)を流入して、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、溶液αを接触させる(ステップB2)。
これにより、測定用チップ60の1次抗体15と、溶液αに含まれる抗原41とを反応させて、1次抗体15に抗原41を結合させる(図9参照)。
1次抗体15と抗原41との反応が完了した後、第二部材62の排出部62bを介して、第一部材61の空間61a内から、溶液αを排出する。
【0062】
次いで、第二部材62の流入部62aを介して、第一部材61の空間61a内に、予め調製しておいた、蛍光試薬42と結合した2次抗体43を含む溶液βを流入して(図10参照)、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、溶液βを接触させる(ステップC2)。
これにより、1次抗体15に結合した抗原41と、2次抗体43とを反応させて、図11に示すように、1次抗体15に結合した抗原41に2次抗体43を結合させて、2次抗体43における1次抗体15に結合している側とは反対側の端に蛍光試薬42を配置させる。
1次抗体15に結合した抗原41と2次抗体43との反応が完了した後、第二部材62の排出部62bを介して、第一部材61の空間61a内から、2次抗体43を含む溶液βを排出し、さらに、第二部材62の流入部62aを介して、第一部材61の空間61a内にバッファ溶液を流入し、第一部材61の空間61a内をバッファ溶液で洗浄する。
【0063】
次いで、第一部材61の空間61a内にバッファ溶液を入れた状態で、図15に示すように、測定用チップ60を測定装置70に設置して、1次抗体15に結合させた抗原41と2次抗体43との結合の形成、および、その結合量を検出する。
すなわち、透明基板11側からドット状の金薄膜22Aからなる集合体22に光を入射して、その入射光によって蛍光試薬42から励起された蛍光を、保護膜14側に透過させて、その蛍光を測定する(ステップD2)。
【0064】
この測定装置70は、測定用チップ60を支持する支持部(図示略)と、測定用チップ60に光を入射する発光ダイオード72と、蛍光試薬42が発光した蛍光を観察、測定するための2次元CCDカメラ73と、2次元CCDカメラ73によって測定する光の波長を選択するためのフィルタ(波長選択フィルタ)74とから概略構成されている。
【0065】
発光ダイオード72としては、特に限定されないが、波長640nm〜760nmの光を発光するものが用いられる。
【0066】
2次元CCDカメラ73としては、画素数640×480以上で、フレームレートが200fps以上の性能を有し、データの転送に必要なGiga Ethernetインターフェースを備えたもので、例えば、Prosilica社製のGE680(商品名)などが用いられる。
フィルタ74としては、蛍光試薬42から発光される蛍光を選択的に透過するものが用いられ、波長500〜600nmの範囲でのバンドパスフィルターであればよく、例えば、595nm中心の25nm幅バンドパスフィルターであればよい。
【0067】
この測定装置70を用いた測定方法では、図15に示すように、支持部により測定用チップ60を支持し、発光ダイオード72から発光した光を、透明基板11側からドット状の金薄膜22Aからなる集合体22に入射する。
【0068】
すると、ドット状の金薄膜22Aからなる集合体22の表面にエバネッセント波が生じるとともに、ドット状の金薄膜22Aからなる集合体22の表面に表面プラズモン波が誘起され、感応剤23が励起して、その励起光と、第一部材61の空間61a内のバッファ溶液中に含まれている酸素分子とが反応して、一重項酸素が生成する。
【0069】
そして、生成した一重項酸素が、蛍光試薬42と反応する(図13参照)。ここで、2次元CCDカメラ73によって、蛍光試薬42から発光された蛍光が観測された場合、測定対象の溶液αには、抗原41が含まれていたことになる。すなわち、この蛍光が発光する現象は、測定用チップ60の1次抗体15に結合している抗原41に、蛍光試薬42と結合している2次抗体43が結合することによって生じる現象であるから、蛍光が観測されれば、溶液αには、抗原41が含まれていたことを確認することができる。
また、溶液αにおける抗原41の濃度が高ければ、2次抗体43に結合した蛍光試薬42の数、すなわち、2次抗体43と蛍光試薬42との結合数も多くなるため、蛍光量と抗原濃度との間には相関(比例関係)がある。
【0070】
なお、発光ダイオード72から金薄膜12にパルス状の光を入射した際、初期に観測される蛍光の光信号は、目的とする蛍光試薬以外の夾雑物から発せられた短時間の蛍光信号も含まれている可能性が高い。そこで、2次元CCDカメラ73によって撮影された画像のデータ処理により、蛍光が観測された初期のデータについては採用せず、発光ダイオード72から発光された光による蛍光試薬42の励起後、一定時間経過してから開始する擬似的プラトー部分での蛍光量を求め、抗原濃度に換算する。
【0071】
この実施形態の生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法によれば、可搬・小型化に適した発光ダイオードとCCDカメラを組み合わせた簡易な測定装置により、一重項酸素を用いた蛍光発光イムノアセイを測定できるようになり、将来的にオンサイト測定、POCTへの応用が可能になる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
「実施例1」
(1)測定用基板の作製
図1に示す測定用基板10を作製した。
まず、スパッタリングにより、BK7(硼珪酸ガラス)からなり、縦16mm×横16mm×厚さ1mmの透明基板11の一方の面11aに、膜厚約50mmの金薄膜12を形成した。
次いで、スポッター装置を用いて、金薄膜12の一方の面12aに、感応剤のローズベンガルを含む溶液を1点あたり4nLの液滴として多数滴下し、その後、液滴の溶媒を乾燥するなどして除去し、金薄膜12の一方の面12aに、薄膜状に感応剤(ローズベンガル)13を配置した。
次いで、スパッタリングにより、金薄膜12の一方の面12aおよび感応剤13の表面13aを覆うように、膜厚約100nmのシリカ薄膜からなる保護膜14を形成した。
次いで、シランカップリング剤を介した化学結合により、保護膜14の表面14aに、唾液中に存在するストレスマーカーとして知られるコルチゾールを抗原とし、そのコルチゾールの1次抗体15を固定化し、測定用基板10を得た。
【0074】
(2)測定用チップの作製
図7に示す測定用チップ30を作製した。
測定用基板10の1次抗体15が設けられた面上に、少なくとも1次抗体15を収容するとともに溶液を保持する空間31aを有する溶液保持部材31を設け、測定用チップ30を作製した。
溶液保持部材31としては、ポリジメチルシロキサンからなるシートを型抜きして、測定用基板10における少なくとも1次抗体15が設けられている部分に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面円形の空間31aを設けた反応ウェルを用いた。
【0075】
(3)反応測定
測定用チップ30の溶液保持部材31の空間31a内に、1μg/mLのコルチゾールを含むバッファ溶液(ポジティブ・サンプル溶液)を流入して、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、ポジティブ・サンプル溶液を接触させ、室温にて10分間、反応させた。バッファ溶液としては、トリス緩衝液を用いた。
反応が完了した後、溶液保持部材31の空間31a内から、ポジティブ・サンプル溶液を除去した。
次いで、溶液保持部材31の空間31a内に、予め調製しておいた蛍光試薬のユーロピウム錯体(Sodium[4’−(4’−Amino−4−biphenyl)−2,2’:−6,2“−terpydine−6,6”−diylbis(methyliminodiacetato)]europate(III)])と結合したコルチゾールの2次抗体を含むバッファ溶液を流入して、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、このバッファ溶液を接触させ、室温にて20分間、反応させた。この間、測定用チップ30をしんとう機に搭載して回転数30rpmで揺らした。
【0076】
反応が完了した後、溶液保持部材31の空間31a内から、ユーロピウム錯体とコルチゾールの2次抗体を含むバッファ溶液を除去し、さらに、溶液保持部材31の空間31a内をバッファ溶液で洗浄した。
次いで、溶液保持部材31の空間31a内にバッファ溶液を入れた状態で、測定用チップ30を、図12に示す測定装置50に設置した。
そして、BK7(硼珪酸ガラス)からなるコニカルプリズム51の載置面51aに、測定用チップ30を設置し、コニカルプリズム51介して、発光ダイオード52から発光した光(波長680nm)を、透明基板11側から金薄膜12に入射した。
すると、測定用チップ30から緑色の蛍光が発光する様子を目視にて確認することができた。
また、2次元CCDカメラ53で蛍光画像を記録して、その画像データを処理することによって、蛍光発光開始から500μs後、300μsの間の蛍光量を求めた。
【0077】
「実施例2」
(1)測定用基板の作製
図6に示す測定用基板20を作製した。
まず、電子線リソグラフィーにより、BK7(硼珪酸ガラス)からなり、縦16mm×横16mm×厚さ1mmの透明基板11の一方の面11aに、幅20nm×20nm、膜厚約20mmのドット状の金薄膜22Aの集合体22を形成した。
次いで、スポッター装置を用いて、それぞれのドット状の金薄膜22Aの一方の面22aに、感応剤のローズベンガルを含む溶液を1点あたり4nLの液滴として滴下し、その後、液滴の溶媒を乾燥するなどして除去し、ドット状の金薄膜22Aの一方の面22aに、ドット状に感応剤(ローズベンガル)23を配置した。
次いで、スパッタリングにより、ドット状の金薄膜22Aの一方の面22aおよび感応剤23の表面23aを覆うように、膜厚約100nmのシリカ薄膜からなる保護膜14を形成した。
次いで、シランカップリング剤を介した化学結合により、保護膜14の表面14aに、唾液中に存在するストレスマーカーとして知られるコルチゾールを抗原とし、そのコルチゾールの1次抗体15を固定化し、測定用基板20を得た。
【0078】
(2)測定用チップの作製
図14に示す測定用チップ60を作製した。
測定用基板20の1次抗体15が設けられた面上に、少なくとも1次抗体15を収容するとともに溶液を保持する空間61aを有するシート状の第一部材61と、溶液を空間61a内に流入する流入部62aおよび空間61aから溶液を排出する排出部62bを有するシート状の第二部材62とから構成される溶液保持部材63を設け、測定用チップ60を作製した。
溶液保持部材63としては、第一部材61と第二部材62を積層した、フローセルを用いた。
第一部材61としては、両面テープを型抜きして、測定用基板10における少なくとも1次抗体15が設けられた部分に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面長方形の空間61aが設けられたものを用いた。
第二部材62としては、ポリジメチルシロキサンシートを型抜きして、第一部材61の空間61aの一端に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面円形の流入部62aが設けられ、かつ、第一部材61の空間61aの他端に対向する位置に、その厚さ方向に貫通する断面円形の排出部62bが設けられたものを用いた。
【0079】
(3)反応測定
実施例1と同様にして、測定用チップ60の第一部材61の空間61a内に、1μg/mLのコルチゾールを含むバッファ溶液(ポジティブ・サンプル溶液)を流入して、反応させた後、測定用チップ60の第一部材61の空間61a内に、ユーロピウム錯体とコルチゾールの2次抗体を含むバッファ溶液を流入して、反応させた。
反応が完了した後、第一部材61の空間61a内から、ユーロピウム錯体とコルチゾールの2次抗体を含むバッファ溶液を除去し、さらに、第一部材61の空間61a内をバッファ溶液で洗浄した。
次いで、第一部材61の空間61a内にバッファ溶液を入れた状態で、測定用チップ60を、図15に示す測定装置70に設置した。
そして、発光ダイオード72から発光した光(波長680nm)を、透明基板11側からドット状の金薄膜22Aからなる集合体22に入射した。
すると、測定用チップ60から緑色の蛍光が発光する様子を目視にて確認することができた。
また、2次元CCDカメラ73で蛍光画像を記録して、その画像データを処理することによって、蛍光発光開始から500μs後、300μsの間の蛍光量を求めた。
【0080】
「比較例」
(1) 測定用基板の作製
実施例1と同様にして、図1に示す測定用基板10を作製した。
(2)測定用チップの作製
実施例1と同様にして、図7に示す測定用チップ30を作製した。
(3)反応測定
測定用チップ30の溶液保持部材31の空間31a内に、バッファ溶液のみ(ネガティブ・サンプル溶液)を流入して、測定用基板10の1次抗体15が設けられた面に、ネガティブ・サンプル溶液を接触させ、室温にて10分間、反応させた。バッファ溶液としては、トリス緩衝液を用いた。
反応が完了した後、溶液保持部材31の空間31a内から、ネガティブ・サンプル溶液を除去した。
次いで、実施例1と同様にして、溶液保持部材31の空間31a内に、ユーロピウム錯体とコルチゾールの2次抗体を含むバッファ溶液を流入して、反応させた。
反応が完了した後、溶液保持部材31の空間31a内から、ユーロピウム錯体とコルチゾールの2次抗体を含むバッファ溶液を除去し、さらに、溶液保持部材31の空間31a内をバッファ溶液で洗浄した。
次いで、溶液保持部材31の空間31a内にバッファ溶液を入れた状態で、測定用チップ30を、図12に示す測定装置50に設置した。
そして、実施例1と同様にして、発光ダイオード52から発光した光(波長680nm)を、透明基板11側から金薄膜12に入射した。
すると、測定用チップ30から蛍光が発光する様子を目視にて確認することができなかった。
また、2次元CCDカメラ53で蛍光画像を記録して、その画像データを処理することによって、蛍光発光開始から500μs後、300μsの間の蛍光量を求めた。
【0081】
以上の結果から、実施例1および2において求められた蛍光量と、比較例において求められた蛍光量とを比較したところ、実施例1および2の蛍光量は、比較例の蛍光量の3倍以上であることが分かった。これより、実施例1および2によれば、発光ダイオードを用いた測定装置にて、プラズモン増強蛍光イムノアセイが実現できることを確認できた。
【0082】
なお、実施例1で用いたウェル型測定用チップ30は、一般的な96穴ウェルと同じサイズのウェルとして設計していることから、ジグに設置することによって、上記の測定装置50に限らず、市販の生化学用蛍光測定装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0083】
10・・・測定用基板、11・・・透明基板、12・・・金薄膜、13・・・感応剤、14・・・保護膜、15・・・1次抗体、20・・・測定用基板、22・・・集合体、22A・・・ドット状の金薄膜、23・・・感応剤、30・・・測定用チップ、31・・・溶液保持部材、41・・・抗原、42・・・蛍光試薬、43・・・2次抗体、50・・・測定装置、51・・・コニカルプリズム、52・・・発光ダイオード、53・・・2次元CCDカメラ、54・・・フィルタ、60・・・測定用チップ、61・・・第一部材、62・・・第二部材、63・・・溶液保持部材、70・・・測定装置、72・・・発光ダイオード、73・・・2次元CCDカメラ、74・・・フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と光検出素子による反射光学系で構成される測定装置において、表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量を検出する測定方法に用いられる測定用基板であって、
透明基板と、該透明基板の一方の面に設けられた金薄膜と、該金薄膜上に配置された感応剤と、前記金薄膜および前記感応剤を被覆する保護膜と、該保護膜の表面に固定化された1次抗体と、を備えたことを特徴とする測定用基板。
【請求項2】
光源と光検出素子による透過光学系で構成される測定装置において、表面プラズモン共鳴による増強を利用した生化学的結合形成および生化学的結合量を検出する測定方法に用いられる測定用基板であって、
透明基板と、該透明基板の一方の面に設けられたドット状の金薄膜の集合体と、該集合体上に配置された感応剤と、前記集合体および前記感応剤を被覆する保護膜と、該保護膜の表面に固定化された1次抗体と、を備えたことを特徴とする測定用基板。
【請求項3】
前記保護膜はシリカ薄膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定用基板。
【請求項4】
請求項1または3に記載の測定用基板を用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法であって、
前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、少なくとも前記1次抗体を収容するとともに測定対象である溶液αを保持する空間を有する溶液保持部材を設けるステップA1と、前記空間に前記溶液αを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液αを接触させるステップB1と、前記空間に蛍光試薬と結合した2次抗体を含む溶液βを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液βを接触させるステップC1と、前記透明基板側から前記金薄膜に光を入射して、該入射光によって前記蛍光試薬から励起された蛍光を、前記透明基板側に反射させて、前記蛍光を測定するステップD1と、を有することを特徴とする生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法。
【請求項5】
請求項2または3に記載の測定用基板を用いた生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法であって、
前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、少なくとも前記1次抗体を収容するとともに測定対象である溶液αを保持する空間、並びに、前記溶液αを前記空間内に流入する流入部および前記空間から前記溶液αを排出する排出部を有する溶液保持部材を設けるステップA2と、前記空間に前記溶液αを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液αを接触させるステップB2と、前記空間に蛍光試薬と結合した2次抗体を含む溶液βを流入して、前記測定用基板の1次抗体が設けられた面に、前記溶液βを接触させるステップC2と、前記透明基板側から前記金薄膜に光を入射して、該入射光によって前記蛍光試薬から励起された蛍光を、前記保護膜側に透過させて、前記蛍光を測定するステップD2と、を有することを特徴とする生化学的結合形成および生化学的結合量の測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−209108(P2011−209108A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76984(P2010−76984)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ETHERNET
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】