説明

測定装置

【課題】画像の劣化を抑制しつつ、被検体内の深さ方向において広範囲な被検体情報イメージングを行うための技術を提供する。
【解決手段】被検体を保持する保持部と、光を照射された被検体から生じる音響波を保持部を介して受信する受信素子を含む探触子を有し、光は保持部に保持されている被検体表面に照射され、探触子は保持部に保持されている被検体表面の法線の方向と受信素子の受信感度が最も高い方向とが非平行になるように配置される測定装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エックス線、超音波、MRI(核磁気共鳴法)を用いたイメージング装置が医療分野で多く使われている。一方、レーザーなどの光源から照射した光を生体などの被検体内に伝播させ、その伝播光等を検知することで、生体内の情報を得る光イメージング装置の研究も医療分野で積極的に進められている。このような光イメージング技術の一つとして、Photoacoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)が提案されている(非特許文献1)。
【0003】
PATの技術では、まず、光源から発生したパルス光を被検体に照射し、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波(以降光音響波と呼ぶ)を複数の個所で検出する。続いて、それらの信号を解析処理し、被検体内部の光学特性値に関連した情報を可視化する。これにより、被検体内の光学特性値分布、特に光エネルギー吸収密度分布を得ることができる。
【0004】
非特許文献1によれば、光音響トモグラフィーにおいて、光吸収により被検体内の吸収体から発生する光音響波の初期音圧(P)は次式(1)で表すことができる。
=Γ・μ・Φ …(1)
ここで、Γはグリューナイゼン係数であり、体積膨張係数(β)と音速(c)の二乗の積を定圧比熱(C)で割ったものである。μは吸収体の光吸収係数、Φは局所的な領域での光量(吸収体に照射された光量で、光フルエンスとも言う)である。
【0005】
生体内においては血液中のヘモグロビンによる光の吸収が大きく、PATを用いて生体内の血管をイメージングする報告例が数多く出されている。
【0006】
また近年では非特許文献2のように、PATを用いて乳がんの検出を行う研究も行われている。乳がんは成長過程において、腫瘍の周囲に血管新生を起こさせる。このため周囲の脂肪組織などに比べ、腫瘍部周辺の光吸収が大きくなると考えられている。
【0007】
ところで、光音響イメージングにおいては、式(1)に示すように、光吸収により生体内の吸収体から得られる音響波の音圧は、吸収体に到達する局所的な光量に比例する。
【0008】
生体に照射された光は、散乱と吸収により体内で急激に減衰するため、体内奥深くの組織で生じる音響波の音圧は光照射位置からの距離に応じて大きく減衰する。さらに、生体に照射できる照射光量には制限がある。このためPATを用いて生体深部のイメージングを行うことは困難である。
【0009】
PATを用いて乳がんのイメージングを行う際も同様の課題が生じる。この課題に対する一つの有効な手段として、X線マンモグラフィーで用いられているように乳房を圧迫することで乳房の厚みを減らすことが考えられる。このような非特許文献2の装置構成を図1に示す。図1に示した装置は、ガラス板10と探触子11により乳房12をはさみこんで圧迫し、ガラス板の側から光13を照射している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M. Xu, L. V. Wang, “Photoacoustic imaging in biomedicine”, Review of scientific instruments, 77, 041101(2006)
【非特許文献2】S. Manohar et al., “Region-of-interest breast studies using the Twente Photoacoustic Mammoscope (PAM)”, Proc. Of SPIE Vol. 6437 643702-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、非特許文献2のように、光が圧迫された乳房に対して探触子と逆側から照射(以降、非探触子側照射と呼ぶ)する場合、探触子に近い側に到達する光は非常に弱く、その位置に存在するがん(吸収体)をイメージングすることは困難である。出来る限り圧迫することにより、探触子側のがんをイメージング出来る可能性はあるが、患者への負担や苦痛が大きくなってしまうので圧を高めることは好ましくない。
【0012】
圧迫量を上げずに、探触子側のがんもイメージングするための方法として、圧迫された乳房に対して探触子側からも光を照射(以降、探触子側照射と呼ぶ)することが挙げられる。この手法により、乳房の探触子側の領域にも十分な光量が到達するため、探触子側のがんから生じる光音響信号を探触子で検出することが出来る。
【0013】
ところが探触子側照射を行った場合、光が照射される生体の表面から大きな光音響信号が生じる。これは、式(1)に示すように、光音響波の音圧は吸収体に到達する局所的な光量に比例するところ、生体表面では光が減衰されておらず、光量が大きいためである。この生体表面からの大きな光音響信号により再構成後の画像にアーティファクトが生じ、画像が大きく劣化する。また、検出したいがんからの光音響信号がこの生体表面からの大きな光音響信号に埋もれてしまうとがんを検出することが出来ない。
【0014】
さらに、被検体を圧迫する部材が探触子と被検体の間に存在すると、その部材の内部で光音響波が多重反射するため、探触子から見て深い部分から生じる信号に多重反射した信号が重なってしまい、深い部分の画像も劣化させてしまう。深部のがんからの光音響信号は小さいため、結果として深部のがんの検出精度を悪化させる。
【0015】
このように、被検体を圧迫した際に、あらゆる深さにおいてイメージングを行うためには探触子側照射をする必要がある。しかし、探触子側照射をすることで画像を劣化させ、生体内部の光吸収体(例えば乳がんなど)のイメージングに悪影響を与えるという課題が生じる。
【0016】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、画像の劣化を抑制しつつ、被検体内の深さ方向において広範囲な被検体情報イメージングを行うための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、被検体を保持する保持部と、光を照射された被検体から生じる音響波を、前記保持部を介して受信する受信素子を含む探触子と、を有し、前記光は、前記保持部に保持されている被検体表面に照射され、前記探触子は、前記保持部に保持されている被検体表面の法線の方向と、前記受信素子の受信感度が最も高い方向とが、非平行になるように配置されることを特徴とする測定装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、画像の劣化を抑制しつつ、被検体内の深さ方向において広範囲な被検体情報イメージングを行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】被検体を保持する被検体情報イメージング装置の構成の例を示す図。
【図2】本発明の原理を説明するためのモデルを示す図。
【図3】本発明の原理を説明するためのモデルを示す別の図。
【図4】本発明の原理を説明するためのモデルを示す別の図。
【図5】本発明を適用できる測定装置の構成の例を示す図。
【図6】本発明を適用できる測定装置の構成の別の例を示す図。
【図7】本発明を適用できる測定装置の構成の別の例を示す図。
【図8】本発明の原理検証実験で用いた構成の一例を示す図。
【図9A】本発明の原理検証実験の結果を示す図。
【図9B】本発明の原理検証実験の結果を示すグラフ。
【図10】本発明の球面波受信のモデルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の測定装置(被検体情報イメージング装置)の構成により、探触子側照射を行った際に、画像の劣化を抑制することが可能となる原理を述べる。図2と図3は原理を説明するためのモデルである。図4は探触子40の受信素子表面41に対する角度θを示す図である。
【0021】
図2において被検体20の形状は直方体であり、平面状に保持されている乳房を模擬している。被検体20の中にはがんを模擬した球状光吸収体21が存在する。光22を、被検体20への照射光量密度が均一になるように、生体内の光の進達長よりも十分に広い面積に照射する。被検体20の光照射面と探触子23の受信素子表面24は平行に配置されている。
【0022】
この光照射22により、平面状になっている被検体20の光照射表面から生じる光音響波は平面波25となる。平面波になる条件として、照射光量密度が均一であり、かつ生体内の光の進達長よりも広い面積に照射することが重要である。このとき平面波25は探触子23の方向に伝播し、探触子23の受信素子表面24に対し垂直に入射する。一方、球状光吸収体21から生じる光音響波は同心円状に伝播する球面波26となる。なお、一般的に、受信素子の受信感度が最も高い方向は、後述するように、素子表面に対して垂直な方向である。
【0023】
一方、図3においては、被検体30の光照射面と探触子33の受信素子表面34は平行ではなく、角度θ傾いた状態で配置されている。つまり、光照射面の法線の方向と、受信素子の受信感度が最も高い方向が、非平行になるように、探触子が配置されている。それ以外の構成は図2と同様である。
【0024】
このとき、光照射32によって光照射表面から生じる光音響波は平面波35となる。平面波35は、探触子33からθ傾いた方向に伝播し、探触子33の受信素子表面34に対し角度θ傾いて入射する。球状光吸収体31から生じる光音響波は、図2の配置と同様に同心円状に伝播する球面波36となる。
【0025】
ここで超音波探触子の、超音波入射方向と受信感度の関係(受信感度の指向性)について図4を用いて述べる。受信素子が円形の場合、受信感度d(θ)は以下の式(2)のよう
になる。
【数1】


ここで、θは入射角度、aは受信素子半径、kは超音波の角周波数、J1はベッセル関数である。
【0026】
また、受信素子が矩形の場合、受信感度は以下の式(3)のようになる。
【数2】


ここで、aは受信素子の一辺の長さである。
【0027】
これらの式は、入射角度θが大きくなるほど、つまり斜めから入射するほど受信感度は小さくなることを表している。また、この受信感度の入射角度依存性は、受信素子のサイズや受信する超音波の周波数によって異なることを表している。一般的に、受信素子のサイズが大きい場合、また、受信素子が受信する超音波の周波数が大きい場合には、指向性が大きく(強く)なる。つまり、これらの場合には、斜めから入射するほど受信感度は小さくなる。
よって、探触子の被検体表面に対する受信素子面の角度は、受信素子の受信感度の指向性に応じて調整されることが好ましい。また、探触子の被検体表面に対する受信素子面の角度は、受信素子の素子サイズや受信周波数に応じて調整されることが好ましい。
【0028】
図2で生じる平面波25は受信素子表面24に対し垂直、つまりθ=0で入射するため、感度良く受信される。一方、図3で生じる平面波35は受信素子表面34に対し角度θで入射するため、入射角度θに応じて感度が低下した状態で受信される。この受信感度の指向性のため、図2と図3で前記被検体表面において同じ強度の平面的な光音響波が生じても、探触子で受信される平面波は、図3の場合は図2の場合よりも小さくなる。
【0029】
一方、図2の球状光吸収体21から生じる光音響波26と、図3の球状光吸収体31から生じる光音響波36はどちらも球面波であるため、探触子の受信素子への入射角は同じとなる。よって、図2と図3で前記球状光吸収体において同じ強度の光音響波が生じた際に、球面波に対する探触子の感度は、図2と図3の場合で同じとなる。
【0030】
つまり、図3の配置を取る場合、図2の配置に比べて、球面波に対する受信感度は変化させずに、被検体20の光照射表面から生じる平面波に対する受信感度のみを小さくすることができることを意味している。被検体30の光照射面と探触子33の受信素子表面34をある角度θ傾いた状態で配置すると、同様の光照射を行った際に、探触子で受信される光音響信号は、球状吸収体からのものに対して、被検体表面からのものは減らすことができる。
探触子の被検体表面に対する受信素子面の角度は、探触子の受信素子の受信感度が最大値の4分の1以下でかつ、受信感度の大きさが0以上になるような角度であることが好ましい。
一方、前記球状光吸収体からの球面波を探触子で受信した際の受信強度について図10を用いて説明する。
図10において、球状光吸収体1001から生じ、球面状に伝播する球面波1003の音圧は、光吸収体1001からの距離の大きさに反比例して減少する。
図10(a)のようにθ=0の場合は、光吸収体1001と受信面との距離はaである。一方、図10(b)のようにθ=0ではない場合は、光吸収体1001と受信面との距離bはa/cosθとなる。球面状に伝播する光音響波1003の音圧は光吸収体1001からの距離に反比例するので、探触子1002における受信音圧(強度)はcosθに比例して減少する。
以上より、探触子をθ傾けることにより、見たい球面波も減少してしまうため、平面波を減らすために、θを大きくしすぎると、本来見たい球面波が検出しづらくなる可能性もある。
これらを踏まえて、さらに好ましくは、探触子の被検体表面に対する受信素子面の角度は、受信感度が最大値の4分の1以下100分の1以上になるような角度であることがよい。この構成により、被検体20の光照射表面から生じる平面波の受信信号をより小さくすることができる。
また、探触子の被検体表面に対する受信素子面の角度は、10度以上80度以下が好ましく、さらには10度以上60度以下、最適には、20度から50度が好ましい。
【0031】
その結果、図2の配置で得られた光音響信号を用いて画像再構成した場合に比べ、図3の配置で得られた光音響信号を用いて画像再構成した場合は、被検体表面からの光音響信号により生じる画像の劣化を抑制することが出来る。そしてがんなどの被検体内部の光吸収体を高精細に画像化することが可能となる。
【0032】
また、受信感度の指向性以外にも、図3の配置を取ることにより、被検体表面からの平面波の進行方向を傾けることで、平面波を探触子から逸らすことにより受信しにくくするという効果も生まれる。
【0033】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら、更に説明する。以下の説明では、本発明の被検体情報イメージング装置を生体に適用した、生体情報イメージング装置を例として説明する。ただし本発明の測定対象はこれに限定されるものではない。
【0034】
<実施形態1>
まず、本発明の実施形態1における生体情報イメージング装置について説明する。
図5に、本実施形態における生体情報イメージング装置の構成例を説明する図を示す。
本実施形態の生体情報イメージング装置は、腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などのため、生体内の光学特性値分布及び、それらの情報から得られる生体組織を構成する物質の濃度分布の画像化を可能とするものである。
【0035】
本実施形態の生体情報イメージング装置は、生体50を保持するための保持部51と52を備える。また保持された生体50に照射光53を照射する。
また、生体内における腫瘍、血管、またはこれらに類する生体内の光吸収体54が光のエネルギーの一部を吸収して発生した光音響波55や、生体の表面から発生した光音響波56を検出し電気信号に変換する探触子57を備える。
また、電気信号を解析して、光学特性値分布情報などの、ユーザに画像を表示するための元データである画像データを生成する信号処理部58を備える。また、画像表示装置59は、信号処理部による処理結果を表示する装置である。
【0036】
保持部51と52は対向する一対の平面に傾斜のついている板状の部材を用いる。このような部材を2枚用いて生体50を挟み込むようにして圧迫保持する。このため、生体5
0の保持部51,52側は平面状になる。保持部51における一対の平面のうち一方は生体50を保持する保持面であり、他方には探触子57が配置される。保持部51は、光の透過性が高く、光に対する耐久性が高いものが好ましい。さらに音響波の減衰が小さく、音響インピーダンスが生体に近いものが好ましい。このような材料として例えばポリメチルペンテンを使用することが可能である。
【0037】
また保持部51と生体50の間や、保持部51と探触子57の間には、音響波の反射を抑えるための音響結合媒体を使うことが望ましい。例えばインピーダンスマッチングジェルなどを用いることが可能である。
保持部52は光の透過性が高く、光に対する耐久性が高いものが好ましい。このような材料として例えばガラスやアクリルを使用することが可能である。
今後、生体50に関して、探触子57が配置された保持部51側を探触子側と呼び、保持部52側を非探触子側と呼ぶことにする。
【0038】
照射光53は、生体50を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特性の波長の光を用いる。本実施形態において、照射光53は探触子側と非探触子側の両側から照射しているが、探触子側からのみ照射することも可能である。また、探触子側の照射において探触子の両側から照射しているが、探触子57の前面に位置する生体50の表面に光が照射されればよく、例えば探触子の片側から照射しても良い。
【0039】
照射光53は照射光の生体(被検体)中における進達長よりも広い幅(サイズ、径)で照射することが好ましい。例えば、光の有効減衰係数をμeffとすると、1/μeffより広い幅で照射することが好ましい。μeffは以下の式(4)のように表される。
【数3】


ここでμaは光の吸収係数、μs’は等価散乱係数である。
【0040】
また照射光53は照射光量密度分布が均一になるように照射することが好ましい。照射光量密度分布を均一にするために、拡散板やフライアイレンズなどを用いることが可能である。
照射光53はパルス光を用いることが出来る。パルス光として好ましいものは、数ナノから数百ナノ秒オーダーのものであり、波長は400nm以上、1600nm以下の範囲のものである。
【0041】
照射光53を発生する光源としてはレーザーが好ましいが、レーザーの代わりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。
発振する波長の変換可能な色素やOPO(Optical Parametric Oscillators)を用いれば、光学特性値分布の波長による違いを測定することも可能になる。
【0042】
使用する光源の波長に関しては、生体内において吸収が少ない700nmから1100nmの領域が好ましい。しかし上記の波長領域よりも範囲の広い、例えば400nmから1600nmの波長領域、さらにはテラヘルツ波、マイクロ波、ラジオ波領域の使用も可能である。
また、照射光53の光源は生体50の表面に沿って走査することも可能である。
【0043】
探触子57は、照射光53のエネルギーの一部を吸収することで生体内から発生する音響波(典型的には超音波であり、光音響波とも呼ぶ)を検出し、電気信号に変換する。
探触子としては、圧電現象を用いたトランスデューサー、光の共振を用いたトランスデューサー、容量の変化を用いたトランスデューサーなど音響波信号を検知できるものであれば、どのような音波検出器を用いてもよい。なお、探触子57は、光源53と同様に被検体50の表面に沿って走査するような構成であってもよい。
【0044】
また、本実施形態では、受信素子が2次元アレイ状に配置されたアレイ型の探触子57を配置させた場合を示しているが、このような配置に限らず、複数の個所で音響波が検知可能に構成されていればよい。すなわち、複数の個所で音響波を検知できれば同じ効果が得られるため、1個の受信素子を持つ探触子(シングルトランスデューサー)を保持部51の表面上で走査しても良い。
なお、探触子57から得られた電気信号が小さい場合は増幅器を用いて、信号強度を増幅することが好ましい。
【0045】
本実施形態の信号処理部58は、探触子57より得られた電気信号に基づいて、生体内の吸収体54の位置や大きさ、あるいは光吸収係数あるいは光エネルギー堆積量分布などの光学特性値分布を計算する。
得られた複数位置での電気信号から光学特性値分布を得るための再構成アルゴリズムとしては、ユニバーサルバックプロジェクションや整相加算などが考えられる。これらのアルゴリズムを用いる際に、本実施形態では、生体50と探触子57の間に位置する保持部51による音響波の屈折や音速の変化、さらには、被検体表面に対する受信素子面の角度を考慮する必要がある。
【0046】
なお、信号処理部58は音響波の強さとその時間変化を記憶し、それを演算手段により、光学特性値分布のデータに変換できるものであればどのようなものを用いてもよい。例えば、オシロスコープとオシロスコープに記憶されたデータを解析できるコンピューターなどが使用できる。
【0047】
なお、複数の波長の光を用いた場合は、それぞれの波長に関して、生体内の光学係数を算出し、それらの値と生体組織を構成する物質(グルコース、コラーゲン、酸化・還元ヘモグロビンなど)固有の波長依存性とを比較する。これによって、生体を構成する物質の濃度分布を画像化することも可能である。
【0048】
また、本発明の実施形態では信号処理により得られた画像情報を表示する画像表示装置59を備えることが望ましい。
【0049】
このような実施形態に示された生体情報イメージング装置を用いることで、画像の劣化を抑制しつつ、被検体内の深さ方向において広範囲な被検体情報イメージングを行うことが可能となる。
【0050】
<実施形態2>
本発明の実施形態2における生体情報イメージング装置について説明する。
図6に、本実施形態における生体情報イメージング装置の構成例を説明する図を示す。なお、図5に示した装置と共通する構成要素には同一の符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0051】
本実施形態の生体情報イメージング装置は、生体50を保持するための保持部60と61を備える。また保持された生体50に照射光53を照射する。
また、生体情報イメージング装置は探触子57を備える。探触子57は、生体内におけ
る腫瘍、血管、またはこれらに類する生体内の光吸収体54が光のエネルギーの一部を吸収して発生した光音響波55や、生体の表面から発生した光音響波56を検出し、電気信号に変換する。
【0052】
また、本実施形態では、生体50と探触子57の間に、角度のついた一対の平面を持つ部材62を備える。
また、電気信号の解析により、光学特性値分布情報を得る信号処理部58を備える。また、画像表示装置59は、信号処理部による処理結果を表示する装置である。
【0053】
本実施形態では保持部60と61として、平行平板状に配置された、板状の部材を用いる。このような部材を2枚用いて生体50を挟み込むようにして保持する。保持部60は、光の透過性が高く、光に対する耐久性が高いものが好ましい。さらに音響波の減衰が小さく、音響インピーダンスが生体に近いものが好ましい。このような材料として例えばポリメチルペンテンを使用することが可能である。保持部60において一対の平面のうち一方は生体50を保持し、他方には探触子57が配置される。
【0054】
また、生体50と探触子57の間に角度のついた一対の平面を持つ部材62が配置される。部材62は、音響波の減衰が小さく、音響インピーダンスが生体に近いものが好ましい。このような材料として例えばポリメチルペンテンやアクリルを使用することが可能である。
【0055】
また保持部60と生体50の間、保持部60と部材62の間、さらには探触子57と部材62の間には、音波の反射を抑えるための音響結合媒体を使うことが望ましい。例えばインピーダンスマッチングジェルなどを用いることが可能である。
保持部61は光の透過性が高く、光に対する耐久性が高いものが好ましい。このような材料として例えばガラスやアクリルを使用することが可能である。
【0056】
本実施形態において、照射光、探触子、信号処理部や画像表示装置については実施形態1と同様のものを使用することができる。
【0057】
このような実施形態に示された生体情報イメージング装置を用いることで、画像の劣化を抑制しつつ、被検体内の深さ方向において広範囲な被検体情報イメージングを行うことが可能となる。
【0058】
<実施形態3>
本発明の実施形態3における生体情報イメージング装置について説明する。
図7に、本実施形態における生体情報イメージング装置の構成例を説明する図を示す。なお、図5に示した装置と共通する構成要素には同一の符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0059】
本実施形態の生体情報イメージング装置は、生体50を保持するための保持部70と71を備える。また保持された生体50に照射光53を照射する。
また、生体内における腫瘍、血管、またはこれらに類する生体内の光吸収体54が光のエネルギーの一部を吸収して発生した光音響波55や、生体の表面から発生した光音響波56を検出し電気信号に変換する探触子57を備える。
また、電気信号の解析により、光学特性値分布情報を得る信号処理部58を備える。さらに処理結果を表示する画像表示装置59を備える。
【0060】
保持部70と71は生体50を挟み込むようにして保持する。保持部70は容器状になっており、保持部70の底面73は生体50を平面になるように保持する。容器の中には
音響結合媒体72が満たされている。音響結合媒体72として水やひまし油を用いることが可能である。探触子57は音響結合媒体中に、探触子受信面と保持された生体表面とに傾斜がつくように配置される。
【0061】
保持部70は、光の透過性が高く、光に対する耐久性が高いものが好ましい。さらに音響波の減衰が小さく、音響インピーダンスが生体に近いものが好ましい。このような材料として例えばポリメチルペンテンを使用することが可能である。保持部70の底面73は音響が透過するように、フィルム状であることが好ましい。例えばポリエチレンフィルムなどを用いることが可能である。
【0062】
また保持部70の底面73と生体50の間には音波の反射を抑えるための音響結合媒体を使うことが望ましい。例えばインピーダンスマッチングジェルなどを用いることが可能である。
保持部71は光の透過性が高く、光に対する耐久性が高いものが好ましい。このような材料として例えばガラスやアクリルを使用することが可能である。
【0063】
本実施形態において、照射光、探触子、信号処理部や画像表示装置については実施形態1と同様のものを使用することができる。
【0064】
このような実施形態に示された生体情報イメージング装置を用いることで、画像の劣化を抑制しつつ、被検体内の深さ方向において広範囲な被検体情報イメージングを行うことが可能となる。
【実施例1】
【0065】
実施例1として、被検体の平面的な光照射面と探触子の受信素子面との間の角度を変化させることが、画像に与える影響の実験結果を示す。
【0066】
実験系を図8に示す。被検体として、厚さ0.5cmのウレタンから成るファントム80を用いた。ファントム80の光学係数(μa、μs’)は生体と類似した値であった。ファントム80と探触子81は水槽82の中に配置され、水槽には水が満たされている。
【0067】
そして、図8に示すように光83を照射した。光源としてパルス幅50ナノ秒、波長が1064nmのYAGレーザーを用いた。照射光は直径6cmに拡大してファントムに照射
した。
探触子81としては受信素子が2次元状にならんだアレイトランスデューサを用いた。素子数は15×23素子である。受信素子は、PZTから成り、中心周波数1MHz、素子サイズが1辺2mm弱の正方形である。
【0068】
探触子81は固定し、ファントム80を回転させることで、被検体の平面的な光照射面と探触子の受信素子面84との間の角度θを変化させ測定を行った。各々の受信素子から得られた光音響信号を用いて、画像再構成を行った。再構成にはユニバーサルバックプロジェクションを用いた。
【0069】
図9Aは、角度θを変化させた際に得られる光音響波を用いた再構成画像の結果である。
図9Bは、図9Aにおいてファントムの光照射平面から生じる光音響波による強度の最大値をプロットしたグラフである。横軸が角度θ、縦軸が強度(初期圧)にあたる。角度θを0°から増加させてゆくと、強度は低下していることが分かる。θを20°にすると、0°の場合と比較して強度は約6割まで減った。さらにθを30°にすると、0°の場合と比較して強度は約4分の1以下に減った。超音波受信の指向性の式(3)から期待さ
れる値ほど減少していない理由として、照射光83の均一性が達成できずに、光音響波が完全な平面波とならなかったことが考えられる。
なお図9Aにおいて、角度θが大きい方がスケールの目盛りの最大値が小さいことから、光照射平面から生じる光音響波の影響が小さくなっていることが分かる。
【0070】
被検体の平面的な光照射面と探触子の受信素子面84との間に角度θをつけると、被検体の光照射面から生じる平面波(光音響波)は受信素子に入射角θで入射する。よって角度θが増加すると、探触子の指向性によって平面波は受信されにくくなると考えられる。
【0071】
以上のように、被検体の平面的な光照射面と探触子の受信素子面との間に角度をつけることによって、被検体の光照射平面から生じる光音響波が画像へあたえる影響は軽減された。
【実施例2】
【0072】
実施例2として実施例1の結果を適用した構成例について説明する。本実施例では図6の装置構成とする。
【0073】
被検体50として、厚さ5cmのウレタンから成るファントムを用いる。ファントムの光学係数(μa、μs’)は生体と類似した値である。ウレタンファントムの中には、μaが3倍の球状光吸収体54が存在する。保持部51の材料はポリメチルペンテンとし、
保持部52の材料はアクリルとする。光源としてパルス幅50ナノ秒、波長が1064nmのYAGレーザーを用いる。探触子57は実施例1と同じものを用いる。
【0074】
生体50と探触子57の間に備えた部材62の角度は20°とする。また部材62の材料はポリメチルペンテンとする。
また保持部51と生体50の間、保持部51と部材62の間、さらには探触子57と部材62の間にはマッチングジェルを備える。
【0075】
各々の受信素子から得られた光音響信号を用いて、ユニバーサルバックプロジェクションにより画像再構成を行う。この際、ファントム50と保持部51または部材62との、音響波の屈折率や音速の変化、保持部51または部材62の形状を考慮してユニバーサルバックプロジェクションを行う。
【0076】
部材62を配置しない場合つまりθ=0°の場合と比較して、θ=30°の部材62を配置する場合は、ファントムの光照射平面から生じる光音響波による、再構成画像における強度は4分の1以下に減少する。一方、球状光吸収体54から生じる光音響波による、再構成画像における強度は、θ=0°の場合と比較してθ=30°においても同程度の値となる。
【0077】
よって、実施例2の構成をとることで、生体内の深さ方向において広範囲な光特性値分布イメージングを、画像の劣化を抑制しつつ得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0078】
51、52:保持部,57:探触子,58:信号処理部,59:画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を保持する保持部と、
光を照射された被検体から生じる音響波を、前記保持部を介して受信する受信素子を含む探触子と、を有し、
前記光は、前記保持部に保持されている被検体表面に照射され、
前記探触子は、前記保持部に保持されている被検体表面の法線の方向と、前記受信素子の受信感度が最も高い方向とが、非平行になるように配置される
ことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記探触子は、複数の前記受信素子が配置された受信素子面を含んでおり、
前記保持部に保持されている被検体表面と、前記受信素子面とが非平行に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記光は、被検体に対して、均一な照射光量密度分布で照射される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
被検体における光の有効減衰係数をμeffとすると、前記光は、被検体に対して、前記光の1/μeffよりも大きい幅で照射される
ことを特徴とする請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記保持部は被検体を保持する一対の部材である
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
被検体に対して、前記探触子が配置される側の保持部を介して光が照射される
ことを特徴とする請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記探触子が配置される側の保持部は、被検体を保持する保持面、および、前記保持面と非平行な面を含んでおり、
前記探触子は、前記受信素子の受信感度が最も高い方向が、前記保持面と非平行な面に対して垂直に配置される
ことを特徴とする請求項5または6に記載の測定装置。
【請求項8】
前記探触子が配置される側の保持部は板状の部材であり、
前記板状の部材に接する面、および、前記接する面と非平行な面を含む部材をさらに有し、
前記探触子は、前記受信素子の受信感度が最も高い方向が、前記接する面と非平行な面に対して垂直に配置される
ことを特徴とする請求項5または6に記載の測定装置。
【請求項9】
前記探触子が配置される側の保持部は音響結合媒体が満たされた容器状の部材であり、
前記探触子は、前記容器状の部材の中に配置される
ことを特徴とする請求項5または6に記載の測定装置。
【請求項10】
前記容器状の部材のうち、被検体を保持する面はフィルム状の部材である
ことを特徴とする請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記探触子は、受信素子の受信感度の指向性に応じて、複数の前記受信素子が配置された受信素子面の、前記被検体表面に対する角度を変えて配置される
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項12】
前記探触子は、受信素子の素子サイズと受信周波数に応じて、複数の前記受信素子が配置された受信素子面の、前記被検体表面に対する角度を変えて配置される
ことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項13】
前記探触子の複数の前記受信素子が配置された受信素子面の、前記被検体表面に対する角度は、受信素子の受信感度が最大値の4分の1以下でかつ、受信感度の大きさが0以上になるような角度である
ことを特徴とする、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項14】
前記探触子の複数の前記受信素子が配置された受信素子面の、前記被検体表面に対する角度は、受信素子の受信感度が最大値の4分の1以下100分の1以上になるような角度である
ことを特徴とする、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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