説明

測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギス

【課題】計測値に信頼性が高い測定長が2200mm以上のノギスを提供することである。
【解決手段】測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、前記ノギスは、その本尺が炭素繊維強化樹脂で構成されてなり、その本尺がパイプで構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般機械工業や精密機械工業などの各種の分野において、物品の寸法(長さ、幅、厚み、深さ、高さ、径など)は精密に測定することが要請されている。このような精密測定には、通常、ノギスが用いられる。このようなノギスの一例が図2に示される。すなわち、ジョー(測定ジョー)が一端側に固定された本尺(主尺)と、ジョー(測定ジョー)が本尺に対して移動自在に設けられたスライダとを具備するタイプのノギスが知られている。このノギスにおける本尺は、撓み等に起因した測定精度の低下を防止する為、剛性が高く、かつ、強靱な材料、例えばマルテンサイト系のステンレス鋼と言った金属で構成されている。しかしながら、金属は比重が大きい為、金属製の長尺のノギスは重量が重く、持ち運びや操作性に問題が有る。そして、その重さ故に、ノギスが1m長のものにもなると、ノギス自身が撓むようになり、計測値は信頼性が劣るものになる。
【0003】
このような問題点を解決する為、例えば特開昭59−54901号公報、特開昭59−104501号公報、特開昭59−126901号公報、特開平3−54401号公報、特開平6−307802号公報、実公平5−37205号公報(実開平1−162607号公報)に示される如く、本尺が炭素繊維強化樹脂で構成されたノギスが提案されている。特公平8−12042号公報(特開昭63−149501号公報)にも、本尺を構成する一部の要素(心部(中実体:非中空体:非パイプ体))が炭素繊維強化樹脂で構成されたノギスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−54901号公報
【特許文献2】特開昭59−104501号公報
【特許文献3】特開昭59−126901号公報
【特許文献4】特開平3−54401号公報
【特許文献5】特開平6−307802号公報
【特許文献6】実公平5−37205号公報
【特許文献7】特公平8−12042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、本尺を金属から炭素繊維強化樹脂(例えば、CFRP)に転換したことから、軽量で、操作性や持ち運び性が改善された。更に、1m長の場合であっても、撓みが認められなかった。この為、1m長のノギスの計測値の信頼性は高いと考えられた。
【0006】
ところで、これまで、2m長を越えたノギスは殆ど使用されて来なかったことから、2m長を越えたノギスによる計測値の信頼性に疑問は指摘されてなかった。すなわち、1m長のノギスを用いた場合の計測値と同様に、2m長を越えたノギスを用いた場合の計測値も信頼性が高いであろうと思われて来た。
【0007】
ところが、2m長を越えたノギスの場合には、計測値の信頼性に疑問点が感じられ出した。すなわち、本尺がCFRPで構成されていても、ノギスが2m長を越えたものになると、その計測値に疑問符の付くことが判って来た。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、測定長が2.2m(2200mm)以上のノギスであって、その計測値に信頼性が高いノギスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題についての検討が、鋭意、推し進められて行った結果、1m長のノギスの場合には本尺の撓みが無視できる範囲であったものの、2.2m以上の長さのノギスの場合には本尺に撓みの測定に与える影響が大きく認められるに至り、この撓みに起因して計測値に信頼性の低下が起きているのであろうことが判って来た。すなわち、板であっても、これがCFRP製である場合には、長さが1m程度の場合には、撓みが無視できる程度であった。ところが、2.2m以上の長さのものになると、板がCFRP製のものであっても、この板には撓みが大きく、測定に誤差を認めるに至ったのである。この為、本尺が2.2m以上の長さの板状CFRP製のノギスでは、撓みが大きく、高精度な計測値を得ることが出来ないことに気付くに至った。更には、弾性率の低い炭素繊維が用いられていると、このものは熱膨張係数が高く、外気温によって測定精度が異なると言うことも判って来た。
【0010】
上記知見に基づいて本発明が達成されたものである。
【0011】
すなわち、前記の課題は、
測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、
前記ノギスは、
その本尺が炭素繊維強化樹脂で構成されてなり、
その本尺がパイプで構成されてなる
ことを特徴とする測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスによって解決される。
【0012】
好ましくは、前記測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、前記本尺が角パイプであり、前記角パイプの一辺の長さが10mm〜100mmであることを特徴とする測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスによって解決される。
【0013】
好ましくは、前記測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、前記本尺が丸パイプであり、前記丸パイプは直径が10mm〜100mmであることを特徴とする測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスによって解決される。
【0014】
好ましくは、前記測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、前記本尺が楕円パイプであり、前記楕円パイプの短径は10mm以上で100mm未満、長径は10mmを越えて100mm以下であることを特徴とする測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスによって解決される。
【0015】
好ましくは、前記測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、前記パイプは肉厚が1.5〜4mmであることを特徴とする測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスによって解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のノギスは、2200mm以上の寸法を計測できる。そして、この計測値は精度が良く、信頼性が高い。しかも、軽量であるから、操作性が良く、2200mmを越える寸法を一人でも計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明になるノギスの本尺の断面図
【図2】ノギスの説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明はノギスである。ノギスは、基本的には、本尺(主尺)と、本尺(主尺)のジョウと、スライダと、スライダーのジョウとを具備する。本尺には、例えば電子読取りの為の磁気目盛又は光学式読み取り目盛と、目視による本尺目盛との二種類のテープが接着剤で貼り付けられる為、表面に溝(図1参照)が形成されている。スライダには、例えばデジタル位置表示器が設けられている。計測する際は、部材の両側をジョウで挟むことによって行われる。そして、目視あるいは電子読取りで計測が行われる。勿論、上記構造以外のノギスも考えられる。但し、本尺(主尺)とスライダとジョウとを具備する。本ノギスは、その測定長が2200mm以上である。より好ましくは、その測定長が2300mm以上である。好ましくは、測定長が7000mm以下である。更に好ましくは、測定長が2500mm〜5000mmの長さのノギスである。本ノギスは、その本尺が炭素繊維強化樹脂(CFRP)で構成されている。かつ、その本尺はパイプで構成されている。すなわち、パイプ形状をした本尺が用いられている。例えば、断面が、角形(例えば、正方形あるいは長方形と言った矩形。)又は円形ないしは楕円形のパイプである。本尺をCFRPで構成するのみでは無く、本尺をパイプ(パイプのみ)で構成させた。これ等二つの要件が相俟って、2200mm以上のノギスであっても、その計測値の信頼性が高まった。
【0019】
基本的には、CFRPとパイプとの要件を具備した本尺は、ノギス計測値に信頼性が大幅に向上した。但し、本尺を構成するパイプに、次の要件を備えさせると、撓みが一層起き難く、かつ、操作性(取扱性)も向上し、計測値の信頼性向上の点から一層好ましかった。本尺が角パイプの場合、前記角パイプは、その一辺(外形寸法)の長さが10mm〜100mmである。本尺が丸パイプの場合、前記丸パイプは、その直径(外形寸法)が10mm〜100mmである。本尺が楕円パイプの場合、前記楕円パイプは、その短径(外形寸法)が10mm以上で100mm未満、長径(外形寸法)が10mmを越えて100mm以下である。前記パイプは、その肉厚が1.5〜4mmである。
【0020】
本発明に用いたCFRPは、弾性率(剛性)の要件も大事であった。弾性率は高ければ高いほど良い。好ましい弾性率は少なくとも50GPaである。これより小さい弾性率であると、熱膨張率が高くなり、計測値に温度変化による狂いが大きくなり、信頼性が低下する。弾性率が大きい方が好ましいものの、弾性率が大きなものはコストが高くなる。従って、弾性率は400GPa以下のものが好ましい。軽くて高剛性のCFRP製の本尺を使用することにより、本尺の撓みが少なく、測定精度の向上と熱膨張率が少なく、軽量で作業性の向上が図れる。
【0021】
本発明に用いられるCFRPの炭素繊維は、レーヨン系、ピッチ系、ポリアクリルニトリル(PAN)系の何れのものでも良い。炭素質あるいは黒鉛質の何れのものでも良い。炭素繊維は、3〜15μm程度の単糸径を有し、その形態は,平均長が0.05〜5mm(好ましくは0.2〜3μm)程度の短繊維であっても良く、連続繊維であっても良い。織物、フェルト、マット等のシート状の形態で用いられても良い。
【0022】
本発明に用いられるCFRPは、炭素繊維をエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂のバインダでプレプリグとする。このプレプリグを角棒あるいは丸棒に積層し、加熱成形することにより、本発明の本尺が得られる。
【0023】
[実施例]
以下、具体的な実施例が挙げられて説明されるが、本発明はこれによって限定されるものでは無い。
【0024】
[実施例1]
図1に示される断面が四角形のパイプ(肉厚2.5mm、幅40mm、高さ40mm、長さ3750mm)の本尺が作製された。この本尺はCFRP製である。弾性率は200GPaであった。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は3500mmである。
【0025】
[実施例2]
図1に示される断面が四角形のパイプ(肉厚2.5mm、幅40mm、高さ40mm、長さ3250mm)の本尺が作製された。この本尺はCFRP製である。弾性率は200GPaであった。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は3000mmである。
【0026】
[実施例3]
図1に示される断面が四角形のパイプ(肉厚2.5mm、幅40mm、高さ40mm、長さ2750mm)の本尺が作製された。この本尺はCFRP製である。弾性率は200GPaであった。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は2500mmである。
【0027】
[実施例4]
図1に示される断面が四角形のパイプ(肉厚2.5mm、幅40mm、高さ40mm、長さ2550mm)の本尺が作製された。この本尺はCFRP製である。弾性率は200GPaであった。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は2300mmである。
【0028】
[実施例5]
実施例1の四角形のパイプの代わりに丸パイプ(直径40mmφ、厚み2.5mm、長さ3750mm)の本尺が作製された。この本尺はCFRP製である。弾性率は200GPaであった。円の一部を削り目盛を貼り付けた。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は3500mmである。
【0029】
[実施例6]
実施例1の四角形のパイプの代わりに楕円パイプ(長径25mm、短径20mm、厚み2.5mm、長さ3750mm)の本尺が作製された。この本尺はCFRP製である。弾性率は200GPaであった。楕円の長径部分の一部を削り目盛を貼り付けた。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は3500mmである。
【0030】
[比較例1]
平板状(厚さ5mm、幅40mm、長さ2450mm)の本尺を作製した。この本尺はCFRP製である。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は2200mmである。
【0031】
[比較例2]
平板状(厚さ5mm、幅40mm、長さ1150mm)の本尺を作製した。この本尺はCFRP製である。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は1000mmである。
【0032】
[比較例3]
図1に示される断面が四角形のパイプ(肉厚5mm、幅40mm、高さ40mm、長さ2350mm)の本尺が作製された。この本尺はステレンレス製である。そして、この本尺が用いられて図2の如きのノギスが作製された。このノギスの測定長は2200mmである。
【0033】
[特性]
撓みは、ノギスの本尺の両末端を、厚さ方向に支持台に乗せて、自重による水平位置からの撓み量を本尺の中央で測定した。上記各例のノギス(本尺)の特性が調べられたので、その結果が下記の表1に示される。
表1
重量(Kg) 撓み(mm)
実施例1 4.2 0.4
実施例2 3.8 0.2
実施例3 3.4 0.1
実施例4 3.2 0.1
実施例5 4.0 0.6
実施例6 4.2 0.3
比較例1 2.7 15.7
比較例2 1.3 0.4
比較例3 13.0 0.1
【0034】
表1から判る通り、本発明のノギスは、ノギス測定長が2200mm以上の場合に認められた計測値の信頼性低下の問題点を解決している。そして、ノギス測定長が2200mm以上であるにも拘わらず、軽量であり、操作性が良い。更には、持ち運びが容易である。
【0035】
特開昭59−54901号公報、特開昭59−104501号公報、特開昭59−126901号公報、特開平3−54401号公報、特開平6−307802号公報、実公平5−37205号公報に示される如き炭素繊維強化樹脂でノギスの本尺を構成した場合、ノギス長が短い場合には、比較例2から判る通り、撓みは認められない。しかしながら、ノギス測定長が2200mm以上の長さになると、CFRP製ノギスの従来物は板材であるため、比較例1から判る通り、縦横の方向で撓みが違い、測定誤差が認められた。従って、比較例2のノギスによる計測値の信頼性は高いものの、比較例1のノギスによる計測値の信頼性は低い。すなわち、単に、CFRPを用いて本尺を構成すれば、信頼性に富むノギスが得られるものでは無いことが判る。
【0036】
又、特公平8−12042号公報に示される如く、本尺構成材料がCFRPでは無く金属の場合、本尺がパイプ状に構成されておれば、比較例3から判る通り、撓みは小さい。しかしながら、非常に重く、ハンドリング性が悪い。尚、特公平8−12042号公報には、「ジヨウ(2)が固定されている本尺(1)と該本尺(1)に可動に設けられている可動のジヨウ(5)を担持するスライダ(4)とから成るノギスにおいて、該本尺(1)が心部(7)と該心部(7)に固定されていてスライダ(4)を摺動自在に設けた案内要素(8)とから成る複合構造体として構成されていることを特徴とするノギス」「心部(7)が、繊維強化合成樹脂から成る」「心部(7)が、中空部材(38)から成る」「心部(7),(38)が金属から成る」旨の記載が有り、かつ、同公報の実施例には「第8図では例えば焼入れしていない鋼から成る中空部材38が使用されている。」旨の記載が有る。しかしながら、特公平8−12042号公報においては、ノギス測定長が2200mm以上である旨の記載は無い。かつ、中空部材38がCFRP製である実施例も無い。更には、そもそも、ノギス測定長が2200mm以上になると、本尺構成材料がCFRPでも撓みが起きる為に計測値に信頼性が低下すると言った本発明が解決しようとする課題についての認識が無い。そして、本発明の如くに構成させた場合にのみ本発明が奏する固有の特長が奏される技術思想は、特公平8−12042号公報からでは到底に想像できない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギスであって、
前記ノギスは、
その本尺が炭素繊維強化樹脂で構成されてなり、
その本尺がパイプで構成されてなる
ことを特徴とする測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギス。
【請求項2】
本尺が角パイプであり、
前記角パイプの一辺の長さが10mm〜100mmである
ことを特徴とする請求項1の測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギス。
【請求項3】
本尺が丸パイプであり、
前記丸パイプは直径が10mm〜100mmである
ことを特徴とする請求項1の測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギス。
【請求項4】
本尺が楕円パイプであり、
前記楕円パイプの短径は10mm以上で100mm未満、長径は10mmを越えて100mm以下である
ことを特徴とする請求項1の測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギス。
【請求項5】
パイプは肉厚が1.5〜4mmである
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの測定長が2200mm以上の長さを有する長尺ノギス。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−108083(P2012−108083A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277749(P2010−277749)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000236609)フドー株式会社 (12)
【出願人】(510287120)エルゴジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】