説明

測角装置および測角装置の設計方法

【課題】演算装置規模が小さく、且つ広帯域信号を観測していても1回の測角処理で到来信号の入射角度を推定する測角装置を得る。
【解決手段】測角装置は、信号を観測する複数のセンサと、上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、を備える測角装置において、上記統計処理を行う手段は、各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、上記分割されたブロック毎の周波数データを上記センサの位置に関して補間処理する手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、並べて配置された複数のセンサで受信した信号源からの到来信号の入射角度(信号源の方位)を推定する測角装置およびその測角装置の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空間的に並べて配置された複数のセンサを用いる測角装置では、各センサで受信された観測データ間に存在する振幅差や位相差に基づいて到来信号の入射角度が推定される。
並べて配置された複数のセンサを用いて到来信号の入射角度を推定する方法として、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等を用いる測角装置が知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【0003】
そして、帯域幅が広い到来信号の入射角度を測角装置で推定すると、帯域幅が狭い到来信号の入射角度を推定する場合と比べて、入射角度が一意に定まらないなど推定精度の低下が見られる。これは、帯域毎に波長と素子間隔の比率が変化するためである。このため、従来の測角装置でMUSIC法などを実施する場合、到来信号の観測データを複数の帯域に分割してから、帯域毎に測角処理を実施することがあった。
【0004】
従来の測角装置では、センサで観測した時系列データをそれぞれ周波数変換手段で周波数データに変換し、全センサ分の周波数データを帯域分割処理部で複数の帯域ブロックに周波数データを分割する。相関行列算出部で各帯域ブロックの相関行列を算出し、測角処理部で測角処理していた。1つの到来信号に対して得られた複数の測角値を角度平均処理部で平均し、平均値を出力部から出力していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Krim、M.Viberg、「Two Decades of Array Signal Processing Research:The Parametric Approach」、IEEE Signal Processing Magazine、Vol.13、No.4、pp.67−94、July 1996
【非特許文献2】Y.OGAWA、N.HAMAGUCHI、K.OHSHIMA、K.ITOH、「High−Resolution Analysis of Indoor Multipath Propagation Structure」、IEICE Trans.、Vol.E78−B、No.11、pp.1450−1457、Nov 1995
【非特許文献3】A.Moffet、「Minimum−redundancy linear arrays」、IEEE Trans. Antennas and Propagat.、Vol.16、No.2、pp.172−175、1968
【非特許文献4】B.Friedlander、A.J.Weiss、「Direction Finding in the Presence of Mutual Coupling」、IEEE Trans. Antennas and Propagation、Vol.39、No.3、pp.273−284、March 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の測角装置では、信号成分を帯域分割することから、各測角処理部で相関の高い信号に対応できる測角アルゴリズムが必要であり、相関の高い信号に対応できる測角アルゴリズムとしては、最尤法が代表的であるが、演算量の大きいことが知られているおり、このような測角アルゴリズムを複数実施しなければならないので、演算装置規模が大きくなるという問題がある。
また、到来信号の帯域が広く、かつ、空間的に並べて配置された複数センサのセンサ間隔が大きい場合において、従来の測角装置では複数の測角処理を実施する必要がある。
【0007】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、演算装置規模が小さく、且つ広帯域信号を観測していても1回の測角処理で到来信号の入射角度を推定する測角装置および測角装置の設計方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る測角装置は、信号を観測する複数のセンサと、上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、を備える測角装置において、上記統計処理を行う手段は、各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、上記分割されたブロック毎の周波数データを上記センサの位置に関して補間処理する手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る測角装置は、帯域ブロック毎の補間処理部を備えることにより、広帯域信号を1回の測角処理で測角可能であるという効果を奏する。
また、帯域分割処理部の後段に複数の補間処理部を備えることにより、相関行列算出部を1つに纏めることができるので、相関の低い信号にしか対応できないような演算量の小さい測角アルゴリズムも採用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る測角装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る測角装置の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る測角装置の構成図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る他の測角装置の構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る測角装置の構成図である。
【図6】MRAに基づいて行列要素を対角方向に複製する様子を説明するための図である。
【図7】この発明の実施の形態5に係る測角装置の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態6に係る測角装置の構成図である。
【図9】相関行列に情報量が足りない要素がある場合に、他の要素を用いて補間処理で補う様子を説明するための図である。
【図10】センサを配置する方法で使用する方位ベクトルと相対座標ベクトルを示す。
【図11】この発明の実施の形態8に係る測角装置の構成図である。
【図12】この発明の実施の形態9に係る測角装置の構成図である。
【図13】この発明の実施の形態9に係る他の測角装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の測角装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態1に係る測角装置は、到来する電波を受信する複数(以下の説明では2以上の整数であるLで表す)個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データを複数(以下の説明では2以上の整数であるMで表す)個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データをそれぞれ補間処理する補間処理部8〜8と、全ての帯域ブロックの補間処理された周波数データから相関行列を算出する相関行列算出部4と、相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
補間処理部8〜8では、非特許文献2で示される直線近似で補間処理を行う。そしてこの補間処理は、帯域毎に波長が違い影響を補正し、特定周波数の波長に一致させる処理に相当する。この際、特定周波数は、観測帯域内から選択する必要はないが、観測帯域内から選択しないと複数の到来信号を観測した場合に測角精度の劣化が懸念される。
【0012】
測角処理部5は、モノパルス推定法、DBF、最尤法、Capon法、MUSIC法、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MODE(Method Of Direction Estimation)、SAGE(Space−Alternating Generalized Expectation−maximization algorithm)、VESPA(Virtual ESPRIT Algorithm)のいずれかに基づく推定法を用いて測角処理を実施する。
【0013】
上述のように、この発明の実施の形態1に係る測角装置では、帯域ブロック毎の補間処理部8〜8を備えることにより、広帯域信号を1回の測角処理で測角可能である。
また、帯域分割処理部3の後段にM個の補間処理部8〜8を備えることにより、相関行列算出部4を1つに纏めることができるので、相関の低い信号にしか対応できないような演算量の小さい測角アルゴリズムも採用することができる。
【0014】
なお、補間処理部8〜8は、直線近似に限らずに、スプライン補間などを含む多項式近似処理を行っても良い。
また、センサ1〜1の観測データが複素数となることもあるため、実数部と虚数部、または、IchデータとQchデータ、または、振幅値と位相値などのように情報を分離してから補間処理を実施しても良い。
【0015】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態1に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データからそれぞれ相関行列を算出するM個の相関行列算出部4〜4と、各帯域ブロックの相関行列を補間処理する行列補間処理部9〜9と、全ての帯域ブロックの相関行列を平均処理する相関行列平均処理部10と、平均化された相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
行列補間処理部9〜9では、非特許文献2で示される直線近似で補間処理を行う。そしてこの補間処理は、帯域毎に波長が違い影響を補正し、特定周波数の波長に一致させる処理に相当する。
【0016】
この発明の実施の形態2に係る測角装置では、帯域ブロック毎の行列補間処理部9〜9を備えることにより、広帯域信号を1回の測角処理で測角可能である。
また、相関行列算出部4〜4の後段に行列補間処理部9〜9を備えることにより、M個の帯域ブロック毎に得られた相関行列を相関行列平均処理部10で一つの相関行列に纏めることができる。
なお、相関行列平均処理部10では、複数の相関行列を平均しているが、複数の相関行列を合計しても良い。
【0017】
実施の形態3.
図3は、この発明の実施の形態3に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態3に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データをそれぞれ補間処理する補間処理部8〜8と、全ての帯域ブロックで補間処理された周波数データを連結してセンサ1〜1の数L個の補間周波数データを得る帯域連結処理部11と、L個の補間周波数データを逆変換して補間時系列データを得る逆変換処理部12〜12と、補間時系列データから相関行列を算出する相関行列平均処理部10と、相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
【0018】
この発明の実施の形態3に係る測角装置では、帯域ブロック毎の補間処理部8〜8を備えることにより、広帯域信号を1回の測角処理で測角可能である。
なお、この発明の実施の形態3に係る測角装置のように逆変換処理部12〜12で補間した時系列データから相関行列を得る代わりに、図4に示すように、独立成分分析部13で補間した時系列データから相関行列を得ても良いし、測角処理部5でVirtual ESPRIT Algorithm(以下、VESPAと略称する)を用いて測角値を推定しても良い。そして、測角処理部5でVESPAを用いて測角値を推定するとき、相関行列算出部4で高次統計処理を行って良い。
【0019】
実施の形態4.
図5は、この発明の実施の形態4に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態4に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データからそれぞれ相関行列を算出するM個の相関行列算出部4〜4と、各帯域ブロックの相関行列を補間処理する行列補間処理部9〜9と、全ての帯域ブロックで補間処理された相関行列を連結してセンサ1〜1の数L個の補間周波数データを得る帯域連結処理部11と、L個の補間周波数データを逆変換して補間時系列データを得る逆変換処理部12〜12と、全ての帯域ブロックの補間相関行列を平均処理して平均相関行列を得る相関行列平均処理部10と、平均相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
【0020】
この発明の実施の形態4に係る測角装置では、帯域ブロック毎の行列補間処理部9〜9を備えることにより、広帯域信号を1回の測角処理で測角可能である。
なお、この発明の実施の形態4に係る測角装置のように補間時系列データから相関行列を得る代わりに、独立成分分析部で補間した時系列データから相関行列を得ても良い。
【0021】
実施の形態5.
本願では、広帯域信号の測角処理を目的とするため、非特許文献3に記載されているMinimum−Redundancy Arrays(以下、MRAと略称する)をそのまま流用することができない。MRAは、センサ間隔を大きく設定できることとセンサ数を超える到来信号数に対応可能であることを長所とし、狭帯域かつ無相関な到来信号を受信する場合に限定されることを短所とする。とりわけ、MRAが狭帯域信号処理に限定されることが本願の目的に合わない。
【0022】
しかし、本願の測角装置では、基準周波数を定めて補間処理を実施することにより、近似的に狭帯域状態を得ている。よって、広帯域信号を受信する場合でも、本願の測角装置でMRAを導入できる。
一方、この発明の実施の形態1に係る補間処理部8〜8で実行される補間処理は、多項式近似に基づく処理であるため、センサ間隔が大きくなると近似誤差も大きくなるという問題がある。この問題に対して、MRAを適用すると、センサが実在しない位置にセンサが存在するように仮想化できるため、近似誤差の増大を回避できる。このような回避方法が採用できる理由は、補間処理が観測信号の帯域幅を問わずに適用できることである。
【0023】
まず、MRAの基本技術を図6で説明する。
図6(a)は、7つのセンサの観測データから得られる相関行列の例を示す。これに対して図6(b)は、4つのセンサの観測データからMRAを用いて得られた相関行列の例を示す。
設置位置に大きな間隔がある4つのセンサの観測データを用いて相関行列を計算し、相関行列の行列要素を対角方向へ複製することにより、7つのセンサの観測データから得られる相関行列を仮想的に得る。この場合のMRAは、4つのセンサの観測データで、7つのセンサの場合と同様の測角処理を実施できる。このようなMRAの検討は、より多数のセンサに対しても行われており、多次元配置のセンサに対しても行われている。
【0024】
図7は、この発明の実施の形態5に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態5に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データをそれぞれ補間処理する補間処理部8〜8と、全ての帯域ブロックの補間処理された周波数データから相関行列を算出する相関行列算出部4と、相関行列の行列要素を対角方向へ複写して行列要素で埋められた相関行列を得る要素複製処理部14と、相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
【0025】
上述のように、この発明の実施の形態5に係る測角装置では、MRAを用いて相関行列の行列要素を対角方向へ複製するので、センサ1〜1を仮想化できるとともに、センサ1〜1の数より多い到来信号数の信号を測角できる効果も得られる。
また、MRAを用いて相関行列の行列要素を対角方向へ複製することにより、センサ間隔が広い場合においても補間処理ができるし、従来のMRAで対応できなかった広帯域信号の測角処理において、センサ数を超える信号数を測角処理対象とできる。
【0026】
実施の形態6.
図8は、この発明の実施の形態6に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態6に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データからそれぞれ相関行列を算出するM個の相関行列算出部4〜4と、相関行列の行列要素を対角方向へ複写して行列要素で埋められた相関行列を得る要素複製処理部14〜14と、各帯域ブロックの相関行列を補間処理する行列補間処理部9〜9と、全ての帯域ブロックの相関行列を平均処理する相関行列平均処理部10と、平均化された相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
【0027】
例えば相関行列を算出して要素複製処理を実施した後、図9のように相関行列の行列要素に隙間が残ったとしても、この発明の実施の形態9に係る測角装置では行列補間処理部9〜9において他の要素を用いた補間処理により隙間が埋められる。
上述のように、この発明の実施の形態5に係る測角装置では、MRAを用いて相関行列の行列要素を対角方向へ複製するので、センサ1〜1を仮想化できるとともに、センサ1〜1の数より多い到来信号数の信号を測角できる効果も得られる。
上述のように、この発明の実施の形態5に係る測角装置では、MRAを用いて相関行列の行列要素を対角方向へ複製するので、センサ1〜1を仮想化できるとともに、センサ1〜1の数より多い到来信号数の信号を測角できる効果も得られる。
また、MRAを用いて相関行列の行列要素を対角方向へ複製することにより、センサ間隔が広い場合においても補間処理ができるし、従来のMRAで対応できなかった広帯域信号の測角処理において、センサ数を超える信号数を測角処理対象とできる。
【0028】
ところで、要素複製処理部14〜14でMRAを用いて相関行列の行列要素を対角方向へ複製し、且つ、補間処理を実施するには、補間処理における基準周波数の半波長以下となるセンサ間隔を含むセンサ群を設計する必要がある。すなわち、センサ間隔を基準周波数の半波長以下と設定する理由は標本化定理に基づく。
【0029】
なお、センサ間隔が基準周波数の半波長以上となるセンサ間隔を含むセンサ群としても良い。
また、センサ間隔が基準周波数の半波長以下でないセンサが存在しないとしても、他のセンサ間隔の最大公約数が基準周波数の半波長以下であれば良い。この場合、要素複製処理を実施した後の相関行列に隙間が存在することもあるが、図9のように行列補間処理で隙間を埋めることが可能である。
【0030】
実施の形態7.
この発明の実施の形態7に係る測角装置では、MRAで冗長度が最小となるセンサ間隔のセンサ群を、図10に示すように「到来信号の入射角度を表す方位ベクトル」と「あるセンサ位置から別のセンサ位置への相対座標ベクトル」の内積値に基づいて設定する。
尚、センサを立体構造で設置することも想定して、方位ベクトルは3次元で定義しうるものである。同様に、相対座標ベクトルは、あるセンサ位置から別のセンサ位置への3次元ベクトルである。
この発明の実施の形態7に係る測角装置では、用途に応じて、一本または複数本の方位ベクトルを定義し、方位ベクトルと相対座標ベクトルの内積値の冗長度が最小となるようにセンサの位置を設定する。
【0031】
尚、方位ベクトルと相対座標ベクトルの内積値に所望の冗長度を許容しても良い。そして、冗長度を許容度は、センサ数や用途に応じて適宜設定すれば良い。内積値に冗長度を許容する場合、冗長した情報のうちの1つだけを使用することもできるし、複数の情報を平均して使用することもできる。特に、相関行列に対して考える場合、行列要素を対角方向に平均することに相当する。このように相関行列の対角要素を平均化することは擬似的な相関抑圧方法として用いられることがある。とりわけ、センサを直線状に等間隔で配置する場合、または、そうような配置に仮想化されるMRAの場合、理想的な相関行列がテープリッツ行列となることに基づいて、対角要素の平均化が実施されることがある。センサ配置によっては、理想的な相関行列が循環行列などとなり、理想状態に合わせて行列要素の平均化が行われる。
【0032】
また、冗長度を許容する場合、空間平均法や改良空間平均法として知られる技術を導入し、冗長する情報を平均しても良い。そして、空間平均法または改良空間平均法の適用に際して、行列要素の隙間が存在する場合は補間処理によって埋めても良い。
また、空間平均法や改良空間平均法の適用後に、相関行列の理想状態に合わせた行列要素の平均化を行っても良い。
【0033】
実施の形態8.
図11は、この発明の実施の形態8に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態8に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、非特許文献4に記載されている校正行列を用いて周波数データを校正する校正処理部15と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、M個の帯域ブロックの周波数データをそれぞれ補間処理する補間処理部8〜8と、全ての帯域ブロックの補間処理された周波数データから相関行列を算出する相関行列算出部4と、相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
【0034】
この発明の実施の形態8に係る測角装置では、測角処理を実施する前に観測データを校正する必要があるので、校正処理部15を備える。
尚、校正処理部15を周波数変換部2〜2の前段に配置しても良い。
【0035】
実施の形態9.
図12は、この発明の実施の形態9に係る測角装置の構成図である。
この発明の実施の形態9に係る測角装置は、到来する電波を受信するL個のセンサ1〜1と、センサ1〜1で観測した時系列データをそれぞれ周波数データに変換する周波数変換部2〜2と、全周波数変換部2〜2の周波数データをM個の帯域ブロックに分割する帯域分割処理部3と、非特許文献4に記載されている校正行列を用いてM個の帯域ブロックの周波数データをそれぞれ校正する校正処理部15〜15と、M個の帯域ブロックの校正された周波数データをそれぞれ補間処理する補間処理部8〜8と、全ての帯域ブロックの補間処理された周波数データから相関行列を算出する相関行列算出部4と、相関行列を用いて測角値を演算する測角処理部5と、測角値を出力する出力部7と、を備える。
【0036】
非特許文献4に記載されている校正行列は、狭帯域信号を対象としているため、広帯域信号を観測するときセンサの観測特性が帯域毎に変化する場合があるので、周波数帯域全体の周波数データに適用することができないことも考えられる。よって、帯域ブロック毎の周波数データに校正処理を設けている。
尚、校正処理部15〜15および補間処理部8〜8が線形変換処理のみで構成される場合、図13のように校正処理と補間処理をまとめて行う校正補間処理部16〜16で、校正処理部15〜15および補間処理部8〜8を代替しても良い。
【0037】
この発明の実施の形態1乃至9に係る測角装置では、周波数変換部2〜2、帯域分割処理部3、相関行列算出部4、4〜4、測角処理部5、出力部7、補間処理部8〜8、行列補間処理部9〜9、相関行列平均処理部10、帯域連結処理部11、逆変換処理部12〜12、独立成分分析部13、要素複製処理部14、14〜14、校正処理部15、15、15〜15、校正補間処理部16〜16がコンピュータから構成され、センサ1〜1から入力される時系列データを演算処理して測角値を出力する。
【0038】
この発明の実施の形態1乃至9に係る測角装置のセンサ配置を設計する方法において、例えば、到来信号の数、信号の帯域幅、入射角度幅などを仮定して、補間処理で発生する近似誤差を算出する。そして、この近似誤差と、測角誤差として許容値とが整合することを判定基準として、センサ配置を設計する。
また、MRAに基づいて測角装置を設計するときに、センサの数を設計する方法として入射角度を推定可能とする信号数をセンサ数より多く設定する。
【符号の説明】
【0039】
〜1 センサ、2〜2 周波数変換部(FFT)、3 帯域分割処理部、4、4〜4 相関行列算出部、5 測角処理部、7 出力部、8〜8 補間処理部、9〜9 行列補間処理部、10 相関行列平均処理部、11 帯域連結処理部、12〜12 逆変換処理部(IFFT)、13 独立成分分析部、14、14〜14 要素複製処理部、15、15〜15 校正処理部、16〜16 校正補間処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を観測する複数のセンサと、
上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、
上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、
を備える測角装置において、
上記統計処理を行う手段は、
各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、
上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、
上記分割されたブロック毎の周波数データを上記センサの位置に関して補間処理する手段と、
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項2】
信号を観測する複数のセンサと、
上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、
上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、
を備える測角装置において、
上記統計処理を行う手段は、
各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、
上記周波数データを校正処理する手段と、
上記校正処理された周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、
上記分割されたブロック毎の周波数データを上記センサの位置に関して補間処理する手段と、
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項3】
信号を観測する複数のセンサと、
上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、
上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、
を備える測角装置において、
上記統計処理を行う手段は、
各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、
上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、
上記分割された周波数データを校正処理する手段と、
上記校正処理された周波数データを上記分割されたブロック毎の周波数データを上記センサの位置に関して補間処理する手段と、
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項4】
上記統計処理を行う手段は、上記補間処理された全ての上記ブロックの周波数データから上記統計処理結果としての相関行列を算出する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の測角装置。
【請求項5】
上記統計処理を行う手段は、
上記補間処理された全ての上記ブロックの周波数データを1つの周波数データに帯域連結する手段と、
上記帯域連結された周波数データを時系列データに逆変換する手段と、
上記逆変換された時系列データから上記統計処理結果としての相関行列を算出する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の測角装置。
【請求項6】
上記統計処理を行う手段は、
上記補間処理された全ての上記ブロックの周波数データを1つの周波数データに帯域連結する手段と、
上記帯域連結された周波数データを時系列データに逆変換する手段と、
上記逆変換された時系列データから独立成分分析により上記統計処理結果としての相関行列を算出する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の測角装置。
【請求項7】
信号を観測する複数のセンサと、
上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、
上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、
を備える測角装置において、
上記統計処理を行う手段は、
各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、
上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、
上記分割されたブロック毎の周波数データに対応する相関行列を算出する手段と、
各上記ブロックの相関行列を上記センサの位置に関して補間処理する手段と、
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項8】
上記統計処理を行う手段は、上記時系列データを用いて上記補間処理された全ての上記相関行列を平均化して上記統計処理結果としての相関行列を算出する手段を備えることを特徴とする請求項7に記載の測角装置。
【請求項9】
上記統計処理を行う手段は、
上記補間処理された全ての上記ブロックの周波数データを1つの周波数データに帯域連結する手段と、
上記帯域連結された周波数データを時系列データに逆変換する手段と、
上記逆変換された時系列データを用いて上記補間処理された全ての上記相関行列を平均化して上記統計処理結果としての相関行列を算出する手段を備えることを特徴とする請求項7または8に記載の測角装置。
【請求項10】
上記補間処理は、多項式近似に基づく補間処理であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の測角装置。
【請求項11】
上記補間処理は、使用するデータを、実数部と虚数部、IchデータとQchデータ、または、振幅値と位相値に分けて行われることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の測角装置。
【請求項12】
予め基準周波数が格納され、
上記補間処理する手段は、ブロック毎の補間処理により得られた周波数データが上記基準周波数の波長と等しくなるように補間することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の測角装置。
【請求項13】
到来する信号を観測する該信号の数より少ない複数のセンサと、
上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、
上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、
を備える測角装置において、
上記統計処理を行う手段は、
各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、
上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、
上記分割されたブロック毎の周波数データを上記センサの位置に関して補間処理する手段と、
上記補間処理された全ての上記ブロックの周波数データから上記統計処理結果としての上記到来する信号の数と同じ行と列を有する相関行列を算出する手段と、
上記相関行列の空白の要素に他の要素を複製する手段と、
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項14】
到来する信号を観測する該信号の数より少ない複数のセンサと、
上記センサでの観測により得られた時系列データの統計処理を行う手段と、
上記統計処理による統計処理結果を用いて上記信号の入射角度を測角する手段と、
を備える測角装置において、
上記統計処理を行う手段は、
各上記センサでの観測により得られた時系列データを周波数データに変換する手段と、
上記周波数データを複数の周波数帯域のブロックに分割する手段と、
上記分割されたブロック毎の周波数データに対応し且つ行および列の数が該信号の数である相関行列を算出する手段と、
上記相関行列の空白の要素に他の要素を複製する手段と、
各上記ブロックの要素複製された相関行列を上記センサの位置に関して補間処理する手段と、
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項15】
上記複数のセンサは、全てが上記基準周波数の半波長以下または上記基準周波数の半波長以上の間隔で配置されていることを特徴とする請求項13または14に記載の測角装置。
【請求項16】
上記複数のセンサは、間隔の最大公約数が上記基準周波数の半波長以下である間隔で配置されていることを特徴とする請求項13または14に記載の測角装置。
【請求項17】
上記複数のセンサは、到来信号の入射角度を表す方位ベクトルと上記センサから他の上記センサに向かう相対座標ベクトルとの内積値の冗長度が最小になるように配置されていることを特徴とする請求項13または14に記載の測角装置。
【請求項18】
上記内積値の小さい順にセンサ間受信特性差を算出し、
上記内積値の小さい順に対応してセンサ間受信特性差を行列の列要素または行要素とする対称行列または共役対称行列となる拡張相関行列を得ることを特徴とする請求項17に記載の測角装置。
【請求項19】
上記拡張相関行列に対して上記センサの位置と上記行列要素の関係に対する補間処理を実施することを特徴とする請求項18に記載の測角装置。
【請求項20】
上記内積値の冗長度が最小に対して所定の範囲内であることを特徴とする請求項13または14に記載の測角装置。
【請求項21】
上記時系列データまたは上記周波数データ、上記相関行列の要素を平均化することを特徴とする請求項20に記載の測長装置。
【請求項22】
上記時系列データまたは上記周波数データ、上記相関行列の要素に対して空間平均法、または改良空間平均法を適用することを特徴とする請求項20に記載の測角装置。
【請求項23】
上記測角する手段は、モノパルス推定法、DBF、最尤法、Capon法、MUSIC法、ESPRIT、MODE、SAGE、VESPAのいずれかに基づく推定法を用いて測角処理を実施することを特徴とする請求項1乃至22のいずれかに記載の測角装置。
【請求項24】
請求項1乃至23に記載の測角装置の設計方法。
【請求項25】
到来する信号の数、および、到来する信号の帯域幅、到来する信号の入射角度幅を仮定し、仮定した値を用いて補間処理で発生する近似誤差を算出し、該近似誤差と測角誤差とが整合するようにセンサの配置位置を決定することを特徴とする請求項24に記載の測角装置の設計方法。
【請求項26】
入射角度が推定可能な信号数をセンサ数より多く設定することができるように入射角度を仮定することを特徴とする請求項25に記載の測角装置の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−88150(P2012−88150A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234546(P2010−234546)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】