説明

測量システム

【課題】測定時に直ちに自動的に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができる測量機を提供する。
【解決手段】プリズム装置に、GPS受信機(58)と、気圧センサ(60)と、気温センサ(32)と、測量機と通信する送受信部(54)とを備え、測量機に、GPS受信機(28)と、プリズム装置と通信する送受信部(24)と備える。測量機の制御手段(26)は、GPS受信機から得られたプリズム装置の位置及び測量機の位置とから測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び両者間の距離を算出し、さらに、両者間の距離とプリズム装置の位置での気圧及び測量機の位置での気圧とから測量機から見たプリズム装置の高度角を算出し、視準望遠鏡がプリズム装置に向くように水平駆動部(16)及び鉛直駆動部(18)に回転指令を出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反射プリズム(ターゲット)と、測定時に視準望遠鏡を反射プリズムに自動的に向けることができる測量機とからなる測量システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測量現場においては、1つの基準点に対する複数の測点の方位角、高度角及び距離を測定することが一般的である。このような場合、従来は、反射プリズムを複数の測点間で移動させる作業員と、基準点にいて、各測点上に置かれた反射プリズムを、基準点に置かれた測量機の視準望遠鏡を覗いて反射プリズムを視準する作業員との2名が必要であった。
【0003】
近年、自動視準装置又は自動追尾装置を備えた測量機が実用化されている。自動視準装置とは、視準望遠鏡を回転させて反射プリズムを自動的に視準するものであり、自動追尾装置とは、常に反射プリズムを視準状態に維持するように、視準望遠鏡を自動的に回転させるようにしたものである。自動視準装置又は自動追尾装置を備えるとともに、リモコン操作可能な測量機を用いると、測量機を反射プリズム側からリモコン装置で操作することができるので、基準点側の作業員が不要になる。
【0004】
しかし、自動視準装置を備えた測量機では、視準望遠鏡が予め反射プリズム方向に向いていないと、測量機が反射プリズムを見付けるまでに時間がかかるという問題があった。自動追尾装置を備えた測量機であれば、反射プリズムを測点に設置して直ぐに測定できるが、反射プリズムを移動させる際には、反射プリズムを常に測量機に向けながら、反射プリズムが視準望遠鏡の視野から外れないようにゆっくりと移動する必要があった。もし、反射プリズムを測量機と異なる方向に向けてしまったり、反射プリズムを速く動かしてしまったり、測量機と反射プリズムの間に障害物が位置してしまったりして、反射プリズムが視準望遠鏡の視野から外れた場合には、それ以後、自動追尾ができなくなるという問題点があった。
【0005】
このような問題を解決するため、トータルステーション(測距測角儀)と反射プリズムそれぞれにGPS受信機を備えて、GPS衛星からの電波を受信して、トータルステーションと反射プリズムそれぞれの位置を求めて、トータルステーションから見た反射プリズムの方位角及び高度角を算出し、この方位角及び高度角を用いて測定時には直ちに視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができるようにしたトータルステーションが提案されている(後記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−178652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、GPS衛星を利用した位置測定では、水平方向に対して高度方向の誤差が大きいという欠点がある。したがって、前記特許文献1に開示されたトータルステーションと反射プリズムからなる測量システムを用いても、反射プリズムの高度角の誤差が大きく、測定時に迅速かつ自動的に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができない場合が多々あるという問題がある。
【0008】
本発明は、前記問題を解決するため、測定時に迅速かつ自動的に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができるようにした測量システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、反射プリズムを備えたプリズム装置と、視準望遠鏡を水平回転させる水平駆動部と前記視準望遠鏡を鉛直回転させる鉛直駆動部と前記両駆動部を制御する制御手段とを備えた測量機とからなる測量システムにおいて、前記プリズム装置に、位置を検出するプリズム側GPS受信機と、気圧を検出する気圧センサと、前記測量機と通信するプリズム側送受信部とを備え、前記測量機に、位置を検出する測量機側GPS受信機と、前記プリズム装置と通信する測量器側送受信部とを備え、前記測量機の制御手段は、前記プリズム装置の位置及び前記測量機の位置とから前記測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び前記測量機と前記プリズム装置の間の距離を算出する方位角及び距離算出手段と、前記距離と前記プリズム装置の位置での気圧及び前記測量機の位置での気圧とから前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出する高度角算出手段と、前記方位角及び前記高度角に基づいて前記視準望遠鏡が前記プリズム装置に向くように前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部に回転指令を出す回転指令手段とを有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記プリズム装置に気温を検出する気温センサを備え、前記高度角算出手段は、前記気温センサで検出した気温を加味して前記高度角を算出することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、反射プリズムを備えたプリズム装置と、視準望遠鏡を水平回転させる水平駆動部と前記視準望遠鏡を鉛直回転させる鉛直駆動部と前記両駆動部を制御する制御手段とを備えた測量機とからなる測量システムにおいて、前記プリズム装置に、位置を検出するプリズム側GPS受信機と、気圧を検出する気圧センサと、前記測量機と通信するプリズム側送受信部とを備え、前記測量機に前記プリズム装置と通信する測量機側送受信部を備え、前記測量機の制御手段は、前記プリズム側GPS受信機を用いて前記測量機の位置を検出するとともに前記気圧センサとを用いて前記測量機の位置での気圧を検出して記憶する測量機側位置気圧記憶手段と、前記GPS受信機から得たプリズム装置の位置及び前記測量機の位置とから前記測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び前記測量機と前記プリズム装置の間の距離を算出する方位角及び距離算出手段と、前記距離と前記測量記の位置での気圧と前記プリズム装置の位置での気圧とから前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出する高度角算出手段と、前記方位角及び前記高度角に基づいて前記視準望遠鏡が前記プリズム装置に向くように前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部に回転指令を出す回転指令手段とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の発明において、前記プリズム装置に気温を検出する気温センサを備え、前記高度角算出手段は、前記気温センサで検出した気温も加味して、前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の発明において、前記プリズム側送受信部が前記測量機を操作するリモコン装置の送受信部であり、前記測量機側送受信部が前記リモコン装置との通信を行う送受信部であり、前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部が自動視準装置の水平駆動部及び鉛直駆動部であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の発明において、前記プリズム側送受信部が前記測量機を操作するリモコン装置の送受信部であり、前記測量機側送受信部が前記リモコン装置との通信を行う送受信部であり、前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部が自動追尾装置の水平駆動部及び鉛直駆動部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、前記プリズム装置に、位置を検出するプリズム側GPS受信機と、気圧を検出する気圧センサと、前記測量機と通信するプリズム側送受信部とを備え、前記測量機に、位置を検出する測量機側GPS受信機と、前記プリズム装置と通信する測量器側送受信部とを備えたから、前記測量機の制御手段は、予めプリズム装置を基準点に設置した測量機と同じ高さで隣接させ、前記気圧センサを用いて前記測量機の位置での気圧を測定してこれを記憶できる。それから、プリズム装置を測点まで持っていって、そこに設置すると、前記プリズム側GPS受信機から得た前記プリズム装置の位置と前記測量機側GPS受信機から得た前記測量機の位置とを用いて、前記測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び両者間の距離を算出でき、さらに、両者間の距離と前記測量機の位置での気圧と前記気圧センサから得たプリズム装置の位置での気圧とから前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出できる。この際、前記プリズム装置の高度角算出に、誤差の大きなGPS受信機から得た高度を用いずに、前記プリズム装置の位置での気圧と前記測量機の位置での気圧とから両者の高度差を算出して、この高度差と両者間の距離とから高度角を算出しているから、高度角の精度が高い。こうして算出した方位角及び高度角に応じて、制御手段から水平駆動部及び鉛直駆動部に指令信号を出すことにより、視準望遠鏡を迅速かつ自動的に反射プリズムに向けることができる。自動視準装置又は自動追尾装置を備えるとともにリモコン装置でリモコン操作できる測量機に本発明を適用すると、プリズム装置側の作業員一人で測定作業ができ、しかも従来よりも迅速確実に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができるようになって、迅速な測定ができる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、さらに、プリズム装置に気温センサを備えたから、高度角算出手段は、気温も加味することにより、測量機とプリズム装置の間の高度差をいっそう正確に算出できる。これにより、測量機から見たプリズム装置の高度角をいっそう正確に算出できるので、測定時にはいっそう迅速確実に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、前記プリズム装置に、位置を検出するプリズム側GPS受信機と、気圧を検出する気圧センサと、前記測量機と通信するプリズム側送受信部とを備え、前記測量機に前記プリズム装置と通信する測量機側送受信部を備えたから、前記測量機の制御手段は、予めプリズム装置を基準点に設置した測量機と同じ高さで隣接させ、前記GPS受信機を用いて前記測量機の位置を測定するとともに前記気圧センサとを用いて前記測量機位置での気圧を測定し、それぞれ測量機位置及び測量機側気圧として記憶できる。それから、プリズム装置を測点まで持っていって、そこに設置し、前記GPS受信機から得たプリズム装置の位置及び予め記憶している前記測量機の位置とから前記測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び両者間の距離を算出し、さらに、両者間の距離と前記測量機の位置での気圧と前記気圧センサから得たプリズム装置の位置での気圧とから前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出する。この際、前記プリズム装置の高度角算出に、誤差の大きなGPS受信機から得た高度を用いずに、前記プリズム装置の位置での気圧と前記測量機の位置での気圧とから両者の高度差を算出して、この高度差と両者間の距離とから高度角を算出しているから、高度角の精度が高い。こうして算出した方位角及び高度角に基づいて、請求項1に係る発明と同様に視準望遠鏡をプリズム装置に向けることができるので、本発明も請求項1に係る発明と同じ効果を奏する。しかも、測量機については、制御手段のプログラムを修正するのみで、ハードの変更が無いので安価に製造できて経済的である。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、さらに、プリズム装置に気温センサを備え、測量機の制御手段は、気温も加味することにより、測量機とプリズム装置の間の高度差をいっそう正確に算出できる。これにより、測量機から見たプリズム装置の高度角をいっそう正確に算出できるので、測定時にはいっそう迅速確実に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、前記プリズム装置の送受信部が前記測量機を操作するリモコン装置の送受信部であり、前記測量機の送受信部がリモコン装置との通信を行う送受信部であり、前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部が自動視準装置の水平駆動部及び鉛直駆動部であるから、従来から用いられているリモコン装置及び自動視準装置と共用の部品を利用して経済的である。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、プリズム装置の送受信部が前記測量機を操作するリモコン装置の送受信部であり、前記測量機の送受信部がリモコン装置との通信を行う送受信部であり、前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部が自動追尾装置の水平駆動部及び鉛直駆動部であるから、従来から用いられているリモコン装置及び自動追尾装置と共用の部品を利用して経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施例の測量システムに関するブロック図である。
【図2】本発明の第1実施例の測量システムが備える自動視準プログラムを説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施例の測量システムが備える自動追尾プログラムを説明するフローチャートである。
【図4】本発明の第3実施例の測量システムに関するブロック図である。
【図5】前記第3実施例の測量システムが備える自動視準プログラムを説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第4実施例の測量システムが備える自動追尾プログラムを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の第1実施例を図1及び図2により説明する。本実施例の測量システムは、図1に示したようにトータルステーションとプリズム装置からなる。
【0023】
トータルステーションは、従来のリモコン操作可能で自動視準装置を備えたトータルステーションと同じく、反射プリズムの方位角及び高度角を測定する測角部10(水平エンコーダ、鉛直エンコーダ)と、反射プリズムまでの距離を測定する測距部12と、視準光を反射プリズムに向けて送光するとともに、反射プリズムで反射して戻ってきた視準光を受光して、反射プリズムの視準軸からのずれを検出する自動視準光学系(発光素子、対物レンズ、受光素子等)14と、視準望遠鏡を水平方向に回転させる水平駆動部16(水平サーボモータ)と、視準望遠鏡を鉛直方向に回転させる鉛直駆動部18(鉛直サーボモータ)と、指令やデータを入力するための入力部20と、測定値や指令やデータを表示する表示部22と、リモコン装置と通信するための送受信部24と、これらに接続されたマイコン(制御手段)26とを備える。そして、自動視準光学系14、水平駆動部16、鉛直駆動部18及びマイコン26で自動視準装置が構成されている。
【0024】
このトータルステーション(以下、単に測量機と記載する)は、さらに、GPS衛星からの電波を受信して測量機の位置を測定するGPS受信機28を備え、これもマイコン28に接続されている。
【0025】
プリズム装置は、反射プリズム(図示省略)の他に、リモコン装置を備えている。リモコン装置は、従来のものと同じく、指令やデータを入力するための入力部50と、入力した指令やデータを表示する表示部52と、測量機と通信するための送受信部54と、これらに接続されたマイコン56とを備える。
【0026】
このプリズム装置は、さらに、GPS衛星からの電波を受信してプリズム装置の位置を測定するGPS受信機58と、反射プリズムの位置での気圧を測定するための気圧センサ60と、プリズム装置の位置での気温を測定する気温センサ62とを備え、これらもマイコン56に接続されている。
【0027】
測量機及びプリズム装置の各GPS受信機28、58は、それぞれ4つ以上のGPS衛星からの電波を同時に受信すると、測量機及びプリズム装置の3次元の位置を求めることができる。すなわち、プリズム装置で得られたプリズム装置の位置を各送受信部54、24を介して測量機のマイコン26に送ると、マイコン26によって、測量機に対するプリズム装置の3次元の相対位置を算出することができる。これで、測量機から見たプリズム装置の方位角及び高度角を算出できる。ただし、GPS受信機28、58で得られた位置は、水平方向に対して高度方向の誤差が大きいという欠点がある。
【0028】
ところで、測量機の位置での気圧P0(hP)及び気温t0(℃)と、反射プリズムの位置での気圧P1(hP)及び気温t1(℃)とが分かると、ラプラスの測高公式によりにより、次式で両者の高度差Δh(m)が得られる。
Δh=18400(1+0.00366t)log10(P0/P1) (1)
ただし、t=(t0+t1)/2 (2)
【0029】
そこで、GPS受信機28、58の受信データからは、測量機から見た反射プリズムの方位角と両者の間の距離のみを求める。すると、測量機から見た反射プリズムの高度角が、両者の間の距離と前記(1)式から求めた両者の高度差Δhから算出することができる。こうして、方位角と高度角が得られると、マイコン26から水平駆動部16及び鉛直駆動部18に指令を送って直ちに視準望遠鏡をプリズム装置に向けることができる。
【0030】
なお、さらに正確な高度差Δhを得るには湿度も考慮しなければならないが、反射プリズムが視準望遠鏡の視野内に入る程度に、視準望遠鏡を反射プリズムに向けるだけでよいので、高度差Δhの算出には湿度の影響は無視した。
【0031】
図2に、第1実施例の測量機及びプリズム装置の各マイコン26、56が行う自動視準プログラムのフローチャートを示す。
【0032】
まず、作業員が測量機とプリズム装置とを用意して、プリズム装置の測定開始ボタンを押して、自動視準プログラムをスタートさせる。すると、ステップS1に進んで、プリズム装置から測量機へ測定開始指令が送られる。そして、プリズム装置では、ステップS2に進んで、測量機からのプリズム装置の位置、気圧及び気温のデータ送信要求を待つ。
【0033】
測量機は、プリズム装置から測定開始指令を受信すると、まず、ステップS10に進んで、GPS受信機28、58のキャリブレーションをしたか否か調べる。
【0034】
キャリブレーションをしていなければ、ステップS11に進んで、表示部22、52にキャリブレーションをされたい旨の表示し、作業員へキャリブレーションを指示する。次にステップS12に進んで、作業員は、キャリブレーションの準備、すなわち、測量機を基準点上に設置し、測量機と反射プリズムを同じ高さで隣接させる。
【0035】
キャリブレーションの準備が済むと、ステップS13に進んで、測量機からプリズム装置へ、プリズム装置の位置、そこでの気圧及び気温のデータ要求を送信する。そして、ステップ14に進んで、GPS受信機28から測量機の位置を取得し、測角部10から方位角と高度角を取得する。
【0036】
測量機がステップS14を実行している間に、プリズム装置は、データ要求を受信し、ステップS3に進んで、GPS受信機58からプリズム装置の位置を取得し、気圧センサ60から気圧P1を取得し、気温センサ62から気温t1を取得する。そして、ステップS4に進んで、プリズム装置の位置、気圧P1及び気温t1のデータを測量機へ送信する。それから、ステップS2に戻って、再び測量機から位置、気圧P1および気温t1のデータ要求を待つ。
【0037】
測量機は、プリズム装置から位置、気圧P1および気温t1のデータを受信すると、ステップS15に進んで、キャリブレーションを行う。すなわち、測量機とプリズム装置の位置の差を検出して、この差を補正値として記憶する。また、このとき送られてきた気圧P1、気温t1を、測量機の位置での気圧P0、気温t0として記憶する。方位角及び高度角は、現在の視準望遠鏡の向きとして記憶する。それから、キャリブレーション完了を表示部に表示して、この自動視準プログラムをストップする。
【0038】
作業員は、キャリブレーション完了を確認した後、プリズム装置を測点まで持って行って、そこに設置するとともに、反射プリズムを測量機に向ける。そして、再びプリズム装置の測定開始ボタンを押す。すると、プリズム装置においてはステップS2まで進み、測量機においてはステップS10まで進むことは前述したとおりである。
【0039】
測量機は、ステップS10において、既にキャリブレーションを済ましていれば、ステップS20に進み、プリズム装置の位置、そこでの気圧P1及び気温t1のデータ要求をプリズム装置へ送信し、次に、ステップS21に進んで、GPS受信機28によって測量機の位置を取得し、測角部10から方位角と高度角を取得する。
【0040】
この間にプリズム装置は、前述したようにステップS3〜S4を実行して、プリズム装置の位置、気圧P1及び気温t1のデータを取得して測量機へ送信する。すると、測量機では、ステップ22に進んで、測量機に対するプリズム装置の相対位置を求めて、これから測量機から見たプリズム装置の方位角及び両者間の距離を算出する。それから、両者の位置での各気圧P0(ステップS15で決定)、P1(ステップS22で決定)及び各気温t0(ステップS15で決定)、t1(ステップS22で決定)から両者の高度差Δhを求め(前記(1)式及び(2)式参照)、さらに両者の間の距離と高度差Δhから、測量機から見たプリズム装置の高度角を算出する。
【0041】
この際、測量機に対するプリズム装置の相対位置には、ステップS15で行ったキャリブレーションで得た補正値を加味する。この補正値を加味することにより、方位角と高度角の誤差を大幅に減らすことができる。
【0042】
なお、前記実施例では、GPS受信機28、58は、単独測位法で測量機及びプリズム装置それぞれの位置を求め、それから両者の相対位置を求めたが、キネマティック型干渉測位法を用いて両者の相対位置を直接求めることも可能である。干渉測位法によれば極めて高精度な相対位置が得られるので、気圧による補正は不要である。
【0043】
次に、ステップS23に進んで、ステップS22で算出した方位角と高度角の方向に視準望遠鏡を回転させる。すなわち、ステップS22で算出した方位角及び高度角と、現在の視準望遠鏡の向いている方位角及び高度角それぞれの差に応じた指令信号を水平駆動部16及び鉛直駆動部18に送って、視準望遠鏡をプリズム装置の方向へ回転させる。
【0044】
次に、ステップS24に進んで反射プリズムを自動視準し、さらに、ステップS25に進んで、距離、方位角、高度角を測定して記録するととともに、表示部に測定結果を表示して、ストップする。
【0045】
作業員は、測定結果が得られたことを確認して、プリズム装置を次の測点まで持って行って、そこに設置する。そして、再びプリズム装置の測定開始ボタンを押す。以下、同様にして、作業員は一人で複数の測点について測定を行うことができる。
【0046】
本実施例においては、ステップS10〜S22の測量機から見たプリズム装置の方位角及び両者間の距離を算出するまでが、請求項1に記載の方位角及び距離算出手段に相当し、ステップS22のこの後の部分が請求項1に記載の高度角算出手段に相当し、ステップS23が請求項1に記載の回転指令手段に相当する。
【0047】
本実施例によれば、プリズム装置にGPS受信機58と気圧センサ60と気温センサ62とを備え、測量機にもGPS受信機28を備えたから、測量機のマイコン26は、測量機に対するプリズム装置の相対位置を求めて、測量機から見たプリズム装置の方位角と、測量機とプリズム装置の間の距離を算出できる。この際、測量機から見たプリズム装置の高度角も算出できるが、GPS衛星の高度方向の誤差が大きいので、GPS衛星から得た相対位置を用いて高度角の算出はしない。そこで、測量機とプリズム装置の間の距離とプリズム装置の位置での気圧P1及び気温t1と測量機の位置での気圧P0及び気温t0とから、測量機から見たプリズム装置の高度角を算出する。こうして算出した方位角及び高度角に応じて、制御手段から水平駆動部及び鉛直駆動部に指令信号を出すことにより、視準望遠鏡を迅速かつ自動的に反射プリズムに向けることができる。しかも、測量機が自動視準装置を備えるとともにリモコン装置で操作できるので、プリズム装置側の作業員一人で測定作業ができ、しかも従来よりも迅速確実に視準望遠鏡を反射プリズムに向けることができるようになって、迅速な測定ができる。
【0048】
次に、本発明の第2実施例について説明する。本実施例の測量システムは、測量機が自動視準装置と自動視準プログラムの代わりに自動追尾装置と自動追尾プログラムを備える。これ以外は、前記第1実施例と同じである。自動追尾装置の構成は、自動視準装置と略同じでかつ周知であるので、説明を省略する。
【0049】
それでは、図3に基づいて、本願の測量システムが備える自動追尾プログラムについて説明する。
【0050】
プリズム装置におけるステップS1〜S4は、前記第1実施例と同じである。測量機におけるステップS10〜S15までのキャリブレーションを済ますまでも、前記第1実施例と同じである。ただし、キャリブレーションが済むと、ステップS10に戻り、さらにステップS16に進んで直ちに自動追尾に移る。一方、作業員は、キャリブレーションが済むと、反射プリズムを測量機に向けながら、プリズム装置を持って測点まで歩いて行く。測量機においては、ステップS16に続いて、ステップS17に進んで、追尾状態をチェックする。追尾状態にロックされていれば、ステップS16に戻って、以下、ステップS16、S17を繰り返して、自動追尾を維持する。
【0051】
ステップS17において、なんらかの原因で追尾状態が失われていることを検出したときは、ステップS20に進む。ステップS20〜S23までは、前記第1実施例と同じである。こうして、視準望遠鏡がプリズム装置の方向に回転すると、ステップS26に進んで、反射プリズムを捕捉でき、自動追尾が可能になり、続いてステップS16に戻る。以下、ステップS16、S17を繰り返して、自動追尾を維持する。
【0052】
測量機が自動追尾を維持していれば、プリズム装置が測点上に設置されしだい反射プリズムが自動視準されるので、自動視準されしだい、距離、方位角、高度角を測定して記録するととともに、表示部22に測定結果を表示する。作業員は、測定結果が得られたことを確認して、プリズム装置を次の測点まで持って行って、そこに設置すれば、同様に次の測定ができる。
【0053】
こうして、本実施例も、前記第1実施例と同様に作業員は一人で複数の測点について測定を行うことができ、前記第1実施例と同じ効果を奏する。
【0054】
次に、本発明の第3実施例を図4及び図5に基づいて説明する。図4に示したように、プリズム装置は第1実施例と同じであるが、測量機はGPS受信機を備えない。この測量システムでは、測量機から見た反射プリズムの方位角及び高度角の精度は、反射プリズムが視準望遠鏡の視野内に入る程度でよい。そこで、測定開始前に基準点上に設置した測量機にプリズム装置を隣接させて、プリズム装置のGPS受信機58を用いて基準点位置を測定する。この基準点の位置が既知であれば、測定値と既知の座標とを比較して、補正値を求める。そして、その後のGPS受信機58によるプリズム装置の位置測定では、補正値を加味してプリズム装置の位置を算出し、測量機から見たプリズムの相対位置を算出する。これ以後は、前記各実施例と同じである。ただし、基準点の位置が未知で補正値が得られない場合でも、若干精度が劣るものの、測量機から見たプリズムの相対位置を算出することは可能である。
【0055】
次に、この測量システムが備える自動視準プログラムを図5に基づいて説明する。この自動視準プログラムでは、前記第1実施例のステップS10〜S15がステップS10’〜S15’へと、ステップS22がステップS22’へと後述するように少し変更されている。これ以外は、前記第1実施例と同じである。
【0056】
ステップS10’では、基準点の位置、気圧P0及び気温t0の測定を済ませたか否か調べる。これらを済ましていない場合は、ステップS11’に進んで、表示部22、52に基準点の位置、気圧P0及び気温t0の測定をされたい旨の表示し、作業員へ基準点の位置、気圧及び気温の測定を指示する。次にステップS12’に進んで、作業員は、基準点の位置、気圧及び気温の測定の準備、すなわち、測量機を基準点上に設置するとともに、プリズム装置を同じ高さで隣接させる。本来は、プリズム装置を基準点上に設置すべきであるが、基準点上に設置した測量機にプリズム装置を隣接させても、問題ない程度の精度で基準点位置の測定ができ、その後に基準点上に測量機を設置する手間を不要にするという利点がある。
【0057】
基準点の位置、そこでの気圧P0及び気温t0の測定の準備が済むと、ステップS13に進んで、プリズム装置へ位置、気圧P1、気温t1のデータ要求を送信する。プリズム装置から位置、気圧P1及び気温t1を取得すると、ステップS15’に進んで、それらを基準点位置、そこでの気圧P0及び点気温t0として記憶し、以後、これらを測量機の位置、測量機の位置での気圧P0及び気温t0として採用する。それから、基準点位置、基準点気圧P0及び基準点気温t0の測定完了を表示部22、52に表示して、この自動視準プログラムをストップする。
【0058】
作業員は、基準点位置、基準点気圧P0及び基準点気温t0の測定完了を確認した後、プリズム装置を測点まで持って行って、そこに設置するとともに、反射プリズムを測量機に向ける。そして、再びプリズム装置の測定開始ボタンを押す。
【0059】
すると、直ちにステップS1及びS10’を経てステップS20に進み、プリズム装置へ位置、気圧P1、気温t1のデータ送信要求を送信する。そして、プリズム装置から、位置、気圧P1及び気温t1のデータを取得すると、測量機では、ステップ22’に進んで、前述したように、プリズム装置の位置、気圧P1、気温t1、及び基準点(測量機)の位置、そこでの気圧P0及び気温t0を用いて、測量機から見たプリズム装置の方位角及び高度角を算出する。次のステップS23以降は、前記第1実施例と同じである。
【0060】
本実施例においては、ステップS10’〜S15’までが請求項3に記載の測量機側位置気圧記憶手段に相当し、ステップS20〜S22’の測量機から見たプリズム装置の方位角及び両者間の距離を算出するまでが、請求項3に記載の方位角及び距離算出手段に相当し、ステップS22’のこの後の部分が請求項3に記載の高度角算出手段に相当し、ステップS23が請求項3に記載の回転指令手段に相当する。
【0061】
本実施例も、前記第1実施例と同じ効果を奏するうえ、測量機においては、自動視準プログラムを修正するのみで、ハードの変更が無いので安価に製造できて経済的である。
【0062】
次に、本発明の第4実施例について説明する。本実施例の測量システムは、測量機が自動視準装置と自動視準プログラムの代わりに自動追尾装置と自動追尾プログラムを備える。これ以外は、前記第3実施例と同じである。自動追尾装置の構成は、自動視準装置と略同じでかつ周知であるので、説明を省略する。
【0063】
それでは、図6に基づいて、この測量システムが備える自動追尾プログラムについて説明する。
【0064】
プリズム装置におけるステップS1〜S4は、前記第3実施例と同じである。測量機におけるステップS10’〜S15’までの基準点の位置、気圧及び気温を決定するまでも前記第1実施例と同じである。ただし、これが済むと、ステップS10’に戻り、続いてステップS16に進んで自動追尾に入る。次に、ステップS17に進んで追尾状態をチェックし、追尾状態にロックされていればステップS16に戻って自動追尾を続行する。ステップS17において、なんらかの原因で追尾状態が失われていることを検出したときは、ステップS20に進む。ステップS20〜S23までは、前記第3実施例と同じである。こうして、視準望遠鏡がプリズム装置の方向に回転すると、ステップS26に進んで、反射プリズムを捕捉でき、自動追尾が可能になる。それからステップS16に戻り、以下、ステップS16、S17を繰り返して、自動追尾を維持する。
【0065】
測量機が自動追尾を維持していれば、プリズム装置が測点上に設置されしだい反射プリズムが自動視準されるので、直ちに距離、方位角、高度角を測定して記録するととともに、表示部22に測定結果を表示する。作業員は、測定結果が得られたことを確認して、プリズム装置を次の測点まで持って行って、そこに設置すれば、同様に次の測定ができる。
【0066】
本実施例も、前記第3実施例と同様に作業員は一人で複数の測点について測定を行うことができ、前記第3実施例と同じ効果を奏する。
【0067】
ところで、本発明は、前記各実施例に限るものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、前記各実施例では、測量機としてトータルステーションを挙げたが、自動視準装置又は自動追尾装置を備えた測量機であれば、どのような測量機であっても本発明を適用できるものである。
【0068】
また、本発明では、反射プリズムが視準望遠鏡の視野内に入る程度に、視準望遠鏡を反射プリズムに向けるだけでよいので、測量機から見た反射プリズムの方位角及び高度角の精度に特に高精度を要求されないので、前期各実施例においては、測量機とプリズム装置それぞれの気温センサ32、62を省略して、両者の高度差Δhを算出する(1)式において気温tを常温として、両者の高度差Δhを算出してもよい。
【0069】
さらに、前記各実施例では、プリズム装置の送受信部54が測量機を操作するリモコン装置の送受信部と兼用であり、測量機の送受信部24がリモコン装置との通信を行う送受信部と兼用であり、水平駆動部16及び鉛直駆動部18が自動視準装置又は自動追尾装置の水平駆動部及び鉛直駆動部と兼用にしたが、従来の測量機及びリモコン装置をなるべく変更しないように、それらを兼用にしないでもよい。
【符号の説明】
【0070】
16 水平駆動部
18 鉛直駆動部
24、54 送受信部
26、56 マイコン(制御手段)
28、58 GPS受信機
30、60 気圧センサ
32、62 気温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射プリズムを備えたプリズム装置と、視準望遠鏡を水平回転させる水平駆動部と前記視準望遠鏡を鉛直回転させる鉛直駆動部と前記両駆動部を制御する制御手段とを備えた測量機とからなる測量システムにおいて、
前記プリズム装置に、位置を検出するプリズム側GPS受信機と、気圧を検出する気圧センサと、前記測量機と通信するプリズム側送受信部とを備え、
前記測量機に、位置を検出する測量機側GPS受信機と、前記プリズム装置と通信する測量器側送受信部とを備え、
前記測量機の制御手段は、前記プリズム装置の位置及び前記測量機の位置とから前記測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び前記測量機と前記プリズム装置の間の距離を算出する方位角及び距離算出手段と、前記距離と前記プリズム装置の位置での気圧及び前記測量機の位置での気圧とから前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出する高度角算出手段と、前記方位角及び前記高度角に基づいて前記視準望遠鏡が前記プリズム装置に向くように前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部に回転指令を出す回転指令手段とを有することを特徴とする測量システム。
【請求項2】
前記プリズム装置に気温を検出する気温センサを備え、
前記高度角算出手段は、前記気温センサで検出した気温を加味して前記高度角を算出することを特徴とする請求項1に記載の測量システム。
【請求項3】
反射プリズムを備えたプリズム装置と、視準望遠鏡を水平回転させる水平駆動部と前記視準望遠鏡を鉛直回転させる鉛直駆動部と前記両駆動部を制御する制御手段とを備えた測量機とからなる測量システムにおいて、
前記プリズム装置に、位置を検出するプリズム側GPS受信機と、気圧を検出する気圧センサと、前記測量機と通信するプリズム側送受信部とを備え、
前記測量機に前記プリズム装置と通信する測量機側送受信部を備え、
前記測量機の制御手段は、前記プリズム側GPS受信機を用いて前記測量機の位置を検出するとともに前記気圧センサとを用いて前記測量機の位置での気圧を検出して記憶する測量機側位置気圧記憶手段と、前記GPS受信機から得たプリズム装置の位置及び前記測量機の位置とから前記測量機から見た前記プリズム装置の方位角及び前記測量機と前記プリズム装置の間の距離を算出する方位角及び距離算出手段と、前記距離と前記測量記の位置での気圧と前記プリズム装置の位置での気圧とから前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出する高度角算出手段と、前記方位角及び前記高度角に基づいて前記視準望遠鏡が前記プリズム装置に向くように前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部に回転指令を出す回転指令手段とを有することを特徴とする測量システム。
【請求項4】
前記プリズム装置に気温を検出する気温センサを備え、
前記高度角算出手段は、前記気温センサで検出した気温も加味して、前記測量機から見た前記プリズム装置の高度角を算出することを特徴とする請求項3に記載の測量システム。
【請求項5】
前記プリズム側送受信部が前記測量機を操作するリモコン装置の送受信部であり、前記測量機側送受信部が前記リモコン装置との通信を行う送受信部であり、前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部が自動視準装置の水平駆動部及び鉛直駆動部であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の測量システム。
【請求項6】
前記プリズム側送受信部が前記測量機を操作するリモコン装置の送受信部であり、前記測量機側送受信部が前記リモコン装置との通信を行う送受信部であり、前記水平駆動部及び前記鉛直駆動部が自動追尾装置の水平駆動部及び鉛直駆動部であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の測量システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122920(P2012−122920A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275378(P2010−275378)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000148623)株式会社 ソキア・トプコン (114)