説明

湧昇流発生構造物及びその構築方法

【課題】湧昇流を発生させると共に、魚類等を好適に生息させるための空間を形成する湧昇流発生構造物であって、構築上の作業性も良く、構築の後の安定性に優れた湧昇流発生構造物及びその構築方法を提供する。
【解決手段】基礎構築資材106により構築した基礎部102と、該基礎部102の上部に設置した魚礁部104で湧昇流発生構造物100を構築することとした。湧昇流発生構造物は、崩壊防止手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湧昇流発生構造物及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる湧昇流とは、海底から海面に向かって流れる海流のことを指している。このような湧昇流は、水温が低く、比重が大きい。このため、停滞し易い深部の海水を上昇させ、海水の鉛直混合を促進する。また、海底に豊富に存在するリン酸塩、硝酸塩等の栄養塩を太陽光の届く上層に押し上げる。これにより、太陽光線による光合成作用を促進してプランクトンの増殖を促す。これと共に、深層の冷たい海水を表層に上昇させる。この上昇による圧力差と温度差とによって、酸素の溶存量を増加させる。以上のような諸現象によって、魚類が棲息するための格好の環境を形成することができる。したがって、海流や潮流等の水平な流れを利用して湧昇流を発生させる構造物が各種開発されている。このような湧昇流発生構造物としては、特許第2628114号(特許文献1)に記載された湧昇流発生構造物がある。この湧昇流発生構造物は、マウンド状に形成されている。すなわち、この湧昇流発生構造物は、捨石、ブロック、石炭灰コンクリートブロック等のマウンド材料を海中に落下させて海底地盤上に積み上げて形成されている。
【0003】
しかし、このような従来の湧昇流発生構造物は、捨石、ブロック等を積み上げて形成しているために、湧昇流を発生させることはできるものの、魚類等が棲みつく空間が乏しかった。このため、折角湧昇流を発生させても、実際上の効果には疑問があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2628114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、湧昇流を発生させると共に、魚類等を好適に生息させるための空間を形成する湧昇流発生構造物であって、構築上の作業性も良く、構築の後の安定性に優れた湧昇流発生構造物及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、湧昇流発生構造物であって、基礎構築資材により構築した基礎部と、該基礎部の上部に設置した魚礁部とから成ることを特徴とする。係る湧昇流発生構造物は、崩壊防止手段を備えることが好適である。
【0007】
このような上記崩壊防止手段としては、上記魚礁部の飛散防止手段、上記基礎構築資材同士の連結具、上記魚礁部の構成部材同士の連結具、及び上記基礎構築資材と上記魚礁部構成部材との連結具から成る群から選ばれた少なくとも一以上の手段であることが好適である。このような魚礁部の飛散防止手段としては、コンクリート製魚礁を用いることが好適である。
【0008】
魚礁部の上記飛散防止手段には、魚網の引掛け防止手段をさらに設けることが好適である。このような引掛け防止手段は、上記魚礁部飛散防止手段の外部に設けたスロープ部として形成することが好適である。
【0009】
本発明は、別の側面として、湧昇流発生構造物の構築方法であり、該構築方法は、崩壊防止手段を利用して基礎構築資材を海底まで吊り下し、基礎部を構築し、次いで、該基礎部の上に魚礁部の構成部材を吊り下し、魚礁部を構築することを含む。この構築方法において、好適には、上記崩壊防止手段をネットとし、基礎構築資材を該ネットに入れて海底まで吊り下し、ネットに入れたままの上記基礎構築資材により基礎部を構築し、次いで、該基礎部の上に魚礁部の構成部材を吊り下し、魚礁部を構築する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、湧昇流を発生させると共に、魚類等を好適に生息させるための空間を形成する湧昇流発生構造物であって、構築上の作業性も良く、構築の後の安定性に優れた湧昇流発生構造物及びその構築方法が提供される。
【0011】
すなわち、本発明の湧昇流発生構造物は、潮流が速く、構築が困難な場合であっても、適切な基礎部を備えており、潮止まりの傾向の頃合等を見計らう必要がほとんどない。したがって、施工性が良い。特に、崩壊防止手段を併用して構築することによってこの効果を期待することができる。また、崩壊防止手段を適切に採用することにより、構築の後もその形体を安定して保ち、蝟集効果を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る湧昇流発生構造物の一実施の形態を説明する模式的な横断面図である。
【図2】本発明に係る湧昇流発生構造物に採用することのできる魚礁ユニットの一実施の形態を説明する斜視図である。
【図3】本発明に係る湧昇流発生構造物に採用することのできる魚礁ユニットの他の実施の形態を説明する斜視図である。
【図4】本発明に係る湧昇流発生構造物に採用することのできる飛散防止手段の実施の形態を説明する斜視図である。
【図5】本発明に係る湧昇流発生構造物に採用することのできる飛散防止手段の他の実施の形態を説明する斜視図である。
【図6】本発明に係る湧昇流発生構造物に採用することのできる飛散防止手段のさらに他の実施の形態を説明する斜視図である。
【図7】本発明に係る湧昇流発生構造物の他の実施の形態を説明する模式的な横断面図である。
【図8】本発明に係る湧昇流発生構造物のさらに他の実施の形態を説明する模式的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面に示した実施の形態を参照しながら、本発明に係る湧昇流発生構造物及びその構築方法をさらに詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る湧昇流発生構造物の一実施の形態を横断面で示したものである。図示のように、湧昇流発生構造物100は、基礎部102と、魚礁部104とを備える。基礎部102は、基礎構築資材106により構築されている。
【0015】
基礎部102は、平坦又は丘状に形成することが好適である。このように形成することにより、魚礁部104自体を多層に亘って積み上げなくても、後述するような所望の形状に湧昇流発生構造物を形成することができる。なお、海底の地形自体が理想的な地形の場合、例外的にこのような基礎部102を形成することを省略できる。
【0016】
基礎構築資材106として採用することができる素材としては、天然石、コンクリート廃材、コンクリートブロック等を挙げることができる。特に、石炭灰(フライアッシュ、クリンカアッシュ)、溶融スラグ等の産業廃棄物や副産物を含んだコンクリートブロックを用いることがコストや資源リサイクルの観点から好ましい。また、さらに、基礎構築資材106の空間容積に占める実容積の割合が60%、単位容積重量が1.3t/m以上であることが好ましい。これによって、潮流による崩壊を防止することができる。
【0017】
魚礁部104は、上記基礎部102の上部に設置される。魚礁部104は、構成部材として魚礁ユニット108を積層することによって形成される。この魚礁ユニット108としては、例えば図2、図3に示すような、鉄筋コンクリート製のフレーム構造110を備えた方角魚礁を用いることができる。この他、略円錐型の鉄骨フレームから成る魚礁ユニット、略角錐型の鉄筋コンクリートフレームから成る魚礁ユニット、略家型の鉄骨鉄筋コンクリートから成る魚礁ユニット等他の市販のものを用いることもできる。すなわち、蝟集効果を備え、空間容積に占める実容積が、5〜30%のものが好適である。また、魚礁ユニット108は、1種類単独の他、2以上の種類を併用することもできる。
【0018】
魚礁ユニット108は、2段以上積み上げることが好適である。5mを越える魚礁ユニット108を1段のみ基礎部102上に積み上げて魚礁部104を構築するよりも好適である。湧昇流発生効率及び蝟集効果の観点で優れているからである。特に、図2又は図3に示した形状の1辺が1〜5mのコンクリート製魚礁ユニット108を、1〜5段無秩序に積み上げて構築することが好ましい。同様に、湧昇流発生効率及び蝟集効果の観点で優れているからである。なお、魚礁部104全体の空間容積に占める実容積の割合が40%以下、さらには30%以下になるように構築すること蝟集効果の観点で好適である。
【0019】
魚礁ユニット108を構成する材質としては、鉄鋼その他の金属、コンクリート、木材、ロープ、合成樹脂、石材等を挙げることができる。これらの材質は、1種単独又は2種以上のものを複合して用いることができる。一般的には、耐久性及び作製上の便を考慮して、鉄筋コンクリート、鋼材又はこれらを組み合わせたものである。
【0020】
コンクリートを採用する場合、特に、石炭灰(フライアッシュ、クリンカアッシュ)、溶融スラグ等の産業廃棄物や副産物を含んだコンクリートを用いることが、コストや資源リサイクルの観点で好適である。また、魚礁部104の最上部は、水深50m以内、特に日本近海では、30m以内とすることが好適である。蝟集効果の他に、増殖効果も見込まれるからである。
【0021】
さらに、図1の実施の形態では、崩壊防止手段として、魚礁部104の飛散防止手段114を設けている。この飛散防止手段114は、魚礁ユニット108と同様の市販の魚礁ユニットを用いて、魚礁部104の周囲を囲むようにして構築することが好適である。この飛散防止手段114は、魚礁ユニット108が飛散することを妨げる機能を有する。飛散防止手段114は、魚礁ユニット108よりも単位ごとの質量が大きいものを用いて構築することが好適である。飛散を有効に抑制するためである。この飛散防止手段114によって、潮流により魚礁部104の一部が崩壊したとしても、その影響で周囲に崩壊が広がることを防ぐ。これによって、湧昇流の発生効果を保持することができる。
【0022】
なお、この飛散防止手段114は、自然に形成されている適度の凸状の地形を利用することとしても良い。すなわち、潮流の方向や、地形の傾斜により、魚礁ユニット108が飛散しにくいと判断できる部分に対しては、設置を省略することもできる。飛散防止手段114は、その構成ユニット同士を5m以内の間隔で離して設置又は形成するほうが、蝟集効果の観点から好ましい。また、飛散防止手段114は、魚礁部104と接するように設置又は形成することが好適である。もっとも、魚礁部104との距離が10m以内であればよく、5m以内であれば、蝟集効果の向上が見られるのでさらに好ましい。飛散防止手段114は、例えば図4、5に示すような、壁面に窓穴を設けたパネル112を組み上げて構成される組立魚礁を用いることができる。また、図6に示すような形態の魚礁でも良い。この飛散防止手段114は、外枠122を備える。この外枠122でパネル124を支えている。このパネル124は、平面で見て十字型にクロスしている。なお、飛散防止手段114の構成ユニットとして、コンクリートブロックや市販の魚礁ユニット等を設置する場合には、その1辺が10m以内であることが好適である。10mを超えると、大きなクレーンを必要とし、設置時に潮流の影響を受け易くなり、施工性が悪くなるためである。
【0023】
本実施の形態では、さらに、飛散防止手段114の外部を囲むようにスロープ部として、スロープ板116を形成している。このスロープ板116は、魚網の引掛け防止手段として機能する。すなわち、このスロープ板116は、湧昇流発生構造物100、飛散防止手段114に、例えば、トロール船の魚網が引っ掛りにくくするためのものである。
【0024】
スロープ板116は、仰角Aが、10度〜80度であることが好ましく、さらに30度〜60度が好ましい。スロープ板116の仰角Aが10度未満であると、スロープ板116の大きさが必要以上に大きくなる。また、30度以上であると、スロープ板116の大きさを小さくできるので、スロープ板116の作製・設置の作業性、コストの観点で好適である。また、仰角が80度を超えると、スロープ板116の効果を期待することができない。いずれにしても、スロープ板116の傾斜板の延長面以下の高さに湧昇流発生構造物の高さが制限されることが必要である。
【0025】
スロープ板116は、海底地形を考慮して設計し、コンクリート、石材、金属、木材、合成樹脂又はこれらを組み合わせた部材を予め工場で作製して、設置箇所で計画に基づいた仰角となるように組み立てるようにして構成することが好適である。作製のしやすさの観点、及び耐久性の観点から、コンクリート、鋼材又はこれらを組み合わせた部材で構成することがさらに好適である。また、所定の形状となるように、設置箇所の海底でコンクリートを打設して、スロープ板116を作製してもよい。
【0026】
湧昇流発生構造物100自体の全体の形態としては、円錐、上から見てV字型、上から見てW字型、方形等の各種の形態とでき、そのような形態を単独又は複合して採用することができる。また、設置場所に複数の湧昇流発生構造物100を設置することとしても良い。
【0027】
次に、本発明に係る湧昇流発生構造物の構築方法について、その一実施の形態を図1について説明する。例えば、崩壊防止手段としてネットを採用し、基礎構築資材106をネットで包み、ネットごと基礎構築資材106を海底まで吊り下し、基礎部102を構築する。次いで、該基礎部102の上に魚礁部104の構成部材である魚礁ユニット108を吊り下し、魚礁部104を構築することができる。ここで、上記基礎構築資材106をネットに入れたままの状態で基礎部を構築することが好適である。このネットが連結具となり、構築後の崩壊防止手段として機能するからである。
【0028】
なお、湧昇流発生構造物は、このようなネット、ワイヤーロープ等を用いてその構成要素を連結することにより、その崩壊を防止することができる。すなわち、本発明に係る湧昇流発生構造物を構築するにあたっては、基礎構築資材106同士の連結具、魚礁部104の魚礁ユニット(構成部材)108同士の連結具、及び基礎構築資材106と上記魚礁ユニット108との連結具から選択される連結具を採用し、施工性の向上を図ると共に、構築後の構造物の崩壊を防止する。
【0029】
図7は、本発明に係る湧昇流発生構造物の他の実施の形態を説明する横断面図である。この実施の形態では、海底120が略丘状なので、基礎構築資材106の層は薄くて済んでいる。その他の構成は、図1の実施の形態について説明したものと同様である。
【0030】
図8は、本発明に係る湧昇流発生構造物のさらに他の実施の形態を説明する横断面図である。この実施の形態は、海底130が理想的な丘状ではあるものの、中央に窪み132がある場合を説明している。基礎構築資材106は、この窪み132にのみ適用されている。その他の構成は、図1の実施の形態について説明したものと同様である。
【0031】
他の実施の形態
本発明に係る湧昇流発生構造物及びその構築方法は、上記の実施の形態について説明したが、本発明は、このような実施の形態に限定されるものではなく、当業者にとって自明な修飾・変更・付加は、全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
100 湧昇流発生構造物
102 基礎部
104 魚礁部
106 基礎構築資材
108 魚礁ユニット
110 フレーム構造
112 パネル
114 飛散防止手段
116 スロープ板
120 海底
130 海底
132 窪み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎構築資材により構築した基礎部と、該基礎部の上部に設置した魚礁部とから成る湧昇流発生構造物。
【請求項2】
崩壊防止手段を備えることを特徴とする請求項1の湧昇流発生構造物。
【請求項3】
上記崩壊防止手段が、上記魚礁部の飛散防止手段、上記基礎構築資材同士の連結具、上記魚礁部の構成部材同士の連結具、及び上記基礎構築資材と上記魚礁部構成部材との連結具から成る群から選ばれた少なくとも一以上の手段であることを特徴とする請求項2の湧昇流発生構造物。
【請求項4】
上記魚礁部飛散防止手段を、コンクリート製魚礁によって構築したことを特徴とする請求項3の湧昇流発生構造物。
【請求項5】
上記魚礁部飛散防止手段に魚網の引掛け防止手段を設けたことを特徴とする請求項3又は4の湧昇流発生構造物。
【請求項6】
上記魚網の引掛け防止手段を、上記魚礁部飛散防止手段の外部に設けたスロープ部として形成したことを特徴とする請求項5の湧昇流発生構造物。
【請求項7】
崩壊防止手段を利用して基礎構築資材を海底まで吊り下し、基礎部を構築し、次いで、該基礎部の上に魚礁部の構成部材を吊り下し、魚礁部を構築するようにしたことを特徴とする湧昇流発生構造物の構築方法。
【請求項8】
上記崩壊防止手段がネットであり、基礎構築資材を該ネットに入れて海底まで吊り下し、ネットに入れたままの上記基礎構築資材により基礎部を構築し、次いで、該基礎部の上に魚礁部の構成部材を吊り下し、魚礁部を構築するようにしたことを特徴とする請求項7の湧昇流発生構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−106303(P2009−106303A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4542(P2009−4542)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【分割の表示】特願2001−399850(P2001−399850)の分割
【原出願日】平成13年12月28日(2001.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】