説明

湧昇流発生海底人工提

【課題】海底人工堤の空間の有効利用と海底の底層流の栄養塩類の欠乏要因を解消可能な湧昇流発生海底人工堤を提供すること。
【解決手段】仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管110と、主鋼管110を相互に連結する複数の連結材120とからなる鋼管トラス構造体100と、鋼管トラス構造体110の外周面または内部に主鋼管110の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する少なくとも2枚の遮蔽板130とを備えた湧昇流発生海底人工堤において、主鋼管110の端部に鋼板114を接合して空間を形成し、主鋼管110の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料3を充填し、主鋼管110及びあるいは端部の鋼板114に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料3がこぼれ出ない開口部116を1つ以上設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湧昇流発生人工堤に関し、特に底層流の栄養塩類の欠乏要因を解消可能な湧昇流発生海底人工堤に関する。
【背景技術】
【0002】
海底には栄養塩類を豊富に含んだ水平方向の底層流が形成されている。海底から海面方向へ流れる湧昇流を人工的に発生させることによって、栄養塩類が乏しい海面付近の表層に栄養塩類を上昇させ、太陽光が届く有光層である表層に栄養塩類が到達するため、光合成作用を伴って植物プランクトンが増殖し、海域の基礎生産力が増加する。湧昇流を発生させる技術として、例えば特許文献1(特開2007−204992)には、3本の密閉された主鋼管を持つトラス構造の人工堤、また、前記トラス構造体の外周面に遮蔽板を備えた人工堤が提案されている。
【0003】
一方、海岸及び海底に生息する海藻類等を始めとした海洋生物の育成力の低下が問題視され、海洋生物育成を助長するために、含有肥料施肥材料や鉄鋼スラグで作ったブロックを海底に設置することが提案されている。例えば特許文献2(特開2007−330254)には、鉄鋼スラグを含有する施肥材料を透水性の袋に充填して上面が開放された硬質容器に収納して海底面に設置することが公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−204992号公報
【特許文献2】特開2007−330254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海底の底層流の栄養塩類は、一般的には窒素やリンには富むものの植物の生育に必須の鉄分が乏しいという欠点がある。また、前記のような主鋼管を持つトラス構造の人工堤や前記のトラス構造体の外周面に遮蔽板を供えた人工堤においては、主鋼管内や遮蔽板に囲まれた内部の空間は空洞であり、有効に活用されていないという欠点がある。
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、前記海底人工堤の空間の有効利用と海底の底層流の栄養塩類の欠乏要因を解消可能な湧昇流発生海底人工堤を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の湧昇流発生海底人工堤では、仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管と、前記主鋼管を相互に連結する複数の連結材とからなる鋼管トラス構造体と、前記鋼管トラス構造体の外周面または内部に前記主鋼管の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する少なくとも2枚の遮蔽板とを備えた湧昇流発生海底人工堤において、前記主鋼管の端部に鋼板を接合して空間を形成し、前記主鋼管の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、前記主鋼管及びあるいは端部の鋼板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設けることを特徴とする。
また、第2発明の湧昇流発生海底人工堤では、仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管と、前記主鋼管を相互に連結する複数の連結材とからなる鋼管トラス構造体と、前記鋼管トラス構造体の外周面に前記主鋼管の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する3枚の遮蔽板とを備えた湧昇流発生海底人工堤におい
て、前記鋼管トラス構造体の軸方向に沿ったそれぞれの外周面に前記遮蔽板を接合すると共に軸方向端部にトラス用端板を接合して鋼管トラス構造体の内部空間を形成し、前記鋼管トラス構造体の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記遮蔽板及びあるいはトラス用端板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設けることを特徴とする。
第3発明の湧昇流発生海底人工堤では、仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管と、前記主鋼管を相互に連結する複数の連結材とからなる鋼管トラス構造体と、前記鋼管トラス構造体の外周面に前記主鋼管の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する3枚の遮蔽板とを備えた湧昇流発生海底人工堤において、
前記主鋼管の端部に鋼板を接合して空間を形成し、前記主鋼管の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記主鋼管及びあるいは端部の鋼板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設け、
前記鋼管トラス構造体の軸方向に沿ったそれぞれの外周面に前記遮蔽板を接合すると共に軸方向端部にトラス用端板を接合してトラス構造体の内部空間を形成し、前記トラス構造体の空間内部に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記遮蔽板及びあるいはトラス用端板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設けることを特徴とする。
第4発明では、第1発明〜第3発明のいずれかの湧昇流発生海底人工堤において、少なくとも3つの前記鋼管トラス構造体を備え、前記鋼管トラス構造体の軸方向の一端は、相互に接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二価鉄を含む鉄鋼スラグまたはこれを含む材料を海底人工堤の空洞部に充填し海底人工堤を海底に設置することで、海底の栄養塩類に不足する二価鉄を補填した海底栄養塩類を海面付近まで到達させることができる。また、底層流により鉄鋼スラグ中の二価鉄の海水中への溶け込みも促進させ、発生した湧昇流により海底の栄養塩類と海水に溶け込んだ二価鉄イオンの撹拌も容易にされる。その効果により、植物プランクトンの増殖が図られ、そして動物プランクトンが増殖し、さらには魚類も増殖するという、食物連鎖がおき、良好な漁場を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態の湧昇流発生海底人工提を示す斜視図である。
【図2】図1に示す湧昇流発生海底人工提の縦断正面図である。
【図3】図2の一部を拡大して示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の湧昇流発生海底人工提を示す斜視図である。
【図5】図5に示す湧昇流発生海底人工提の縦断正面図である。正面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態の湧昇流発生海底人工提を示す斜視図である。
【図7】スリットを設ける場合の変形形態を示す湧昇流発生海底人工提の側面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に示す斜視図である。
【図9】第1実施形態において遮蔽板の設置形態の変更形態を示す正面図である。
【図10】第1実施形態において衝撃緩衝材を設けた形態を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1〜図3に示す本発明の第1の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1について説
明する。図1は本発明の第1の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1を示す斜視図である。図2は同実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1を示す縦断正面図である。図3は図2の一部を拡大して示す図である。
湧昇流発生海底人工堤1は、海底を水平に流れる底層流を遮断し、海底から海面方向へ流れる湧昇流を人工的に発生させる構造物である。湧昇流発生海底人工堤1は、一般的には大陸棚が形成された沖合い約80km、海面からの深さが約200〜300mの海底に設置される。
【0011】
湧昇流発生海底人工堤1は、底層流の流れの向きを海底から海面方向に転向できる規模を有しており、例えば、湧昇流発生海底人工堤1の長手方向の長さL1が約100〜200m、奥行き方向の長さL2が例えば約20m〜30mであり、垂直高さHが20〜30mである。但し、湧昇流発生海底人工堤1の仕様(長さや高さなど)は、海底の深さや海流の速度、海流の幅などの設計条件に応じて決定されるものである。
【0012】
上記の湧昇流発生海底人工堤1は、鋼管トラス構造体100と3枚の遮蔽板130とを備える。この鋼管トラス構造体100は、3本の主鋼管110と、主鋼管110を連結する連結材120とからなる鋼管トラス構造で形成されている。また、3枚の遮蔽板130は、鋼管トラス構造体100の内部に、主鋼管110の軸方向に延設されている。
【0013】
鋼管トラス構造体100の主鋼管110の長さは上記で説明したとおり、湧昇流発生海底人工堤1全体の長さに応じて定まり、例えば約100〜200mである。主鋼管110の管径は、例えば約2〜3mである。主鋼管110の肉厚は、例えば約12〜20mmである。主鋼管110は中空空間119を有した鋼管であり、主鋼管110の軸方向の両側端部は、例えば平板状の端部鋼板114などによって封止されて、主鋼管内部に充填される鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料3の抜け出しが防止されている。なお、主鋼管110の外周面は腐食防止のため電気防食や防食塗装等が施されてもよい。
【0014】
主鋼管110は3本の主鋼管110が互いに平行するように配設される。このとき、鋼管トラス構造体100の横断面において、各主鋼管110が三角形の頂点に対応する位置に配設される(図2参照)。換言すると、各主鋼管110が仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置されている。前記の三角形は、どの面を下にして海底に着底しても湧昇流を発生させる効果が変わらない正三角形とすることが好ましい。鋼管トラス構造体は正方形としてもよいが、材料が多く必要になり、経済性が悪くなる。
【0015】
上記鋼管トラス構造体100の連結材120は、例えば鋼管を用いることができ、この連結材120を成す鋼管の管径は例えば約1mである。なお、連結材120は鋼管の例に限定されず、棒鋼、H型鋼など任意の鋼材、他の材質の部材または組立部材などであってもよい。連結材120は3本の主鋼管110を連結して、鋼管トラス構造体100の全体の形状を保持する。
【0016】
複数の連結材120はトラス構造を形成するように主鋼管110と連結される。具体的には、主鋼管110の軸方向の端部側で連結される連結材120は、例えば、主鋼管110の軸方向に対して垂直に連結される。また、主鋼管110の軸方向の中間部で連結される連結材120は、鋼管トラス構造体100の外側面内で斜めに配置される。なお、本明細書において、鋼管トラス構造体100の外側面とは鋼管トラス構造体100の外周面であり、2辺が主鋼管110からなる略四角形の面をいう。
【0017】
上記遮蔽板130は、例えば板厚が12〜20mmの平板状の鋼板で形成できる。遮蔽板130は、鋼管トラス構造体100内部において、鋼管トラス構造体100の軸方向に延設され、鋼管トラス構造体100の中心軸方向に配置される接合材132を中心として
120度の間隔で配設され、接合材132と主鋼管110に溶接等により固定されている。この場合、鋼管トラス構造体100軸方向の遮蔽板130の長さは、任意の長さとすることができる。このとき、複数の遮蔽板130を配設することによって、1枚の遮蔽板130を施工しやすい長さとすることができるので、湧昇流発生海底人工堤1の構築が容易となる。なお、鋼管トラス構造体100に複数の遮蔽板130を配設することにより、図1に示すように、鋼管トラス構造体100の軸方向に隣り合う遮蔽板130と遮蔽板130との間には、隙間134が形成される場合がある。但し、遮蔽板130が底層流を遮断する機能が損なわれないように、隙間134の間隔は、湧昇流発生海底人工堤1全体の長さL1に比べて、短くする必要がある。
【0018】
上記のような湧昇流発生海底人工堤1において、例えば、主鋼管110の管径は約2〜3m、長さも約100m〜200mもあり、主鋼管110の内部は大規模な中空空間119を有している。この空間119に鉄鋼スラグないし鉄鋼スラグを含有する材料3を充填する。鉄鋼スラグないし鉄鋼スラグを含有する材料3に含まれる二価鉄が海水に溶け込むように、主鋼管110には、鉄鋼スラグないし鉄鋼スラグを含有する材料3が海中に大量にこぼれない程度のスリットまたは孔からなる開口部116を1つ以上設けられている。
図示の形態では、各主鋼管110の長手方向および周方向に間隔をおいて、多数の開口部116が設けられている。
前記の開口部116の大きさは、鉄鋼スラグないし鉄鋼スラグを含有する材料3をバラもの状態で充填する場合、透水性の袋体に充填された状態の袋体を充填する場合により、開口部116の大きさは、設計により適宜設定される。
主鋼管110の内側に、開口部116を覆う金網などを取り付け、開口部116を小さくして、小粒径の鉄鋼スラグが抜け出さないようにしてもよい。また、鉄鋼スラグなどの二価鉄を含む材料は袋詰めにして充填してもよい。
【0019】
ここで鉄鋼スラグとは、高炉にて、鉄鉱石をコークスで還元し、溶融し、銑鉄を造る際に、比重差により銑鉄から分離された高炉スラグ、および高炉で製造された硬くて脆い銑鉄から、不要な成分を除去し、靭性・加工性のある鋼にする製鋼過程で生じる石灰分を主体とした粉粒状の副産物であるスラグを意味している。この鉄鋼スラグとしては、高炉スラグ(高炉除冷スラグ、高炉水砕スラグ)、製鋼スラグ(転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグ)のうち1種または2種以上を混合したもの、更には、炭酸化処理することで周辺水域のpH上昇を抑制したものを用いてもよい。また、製鋼スラグは還元雰囲気中で生成されるため、酸化しやすく不安定な二価鉄を安定的に含有しつづける性質を有している。前記の鉄鋼スラグの大きな塊のものは砕いて砕石状や紛粒状や紛体状にして使用する。
前記の袋詰めする場合の材料としては、ヤシガラ繊維製の袋あるいはその他の透水性の袋体を用いることができる。
前記の鉄鋼スラグを含有する材料としては、鉄鋼スラグと廃木材チップを発行させた人工腐植土とを混合した混合材料(施肥材料)でもよい。
また、前記以外にも、製鋼スラグ等の鉄鋼スラグを含有する鉄鋼スラグ水和固化体を破砕処理したものでもよく、前記鉄鋼スラグ水和固化体としては、例えば、製鋼スラグと高炉スラグ微粉末を、水と共に混ぜ、水和反応により固化させ、破砕処理したものである。
【0020】
上記に説明したように、湧昇流発生海底人工堤1により、海底の底層流は海面に向かう湧昇流となり、湧昇流発生海底人工堤1の主鋼管に充填された鉄鋼スラグや鉄鋼スラグを含む材料から少なくとも二価鉄が海水中に溶け出し、この成分が湧昇流により攪拌され底層流に含まれる栄養塩素と混じりあって海面に達することになる。
【0021】
前記実施形態の場合、鋼管トラス主構造体100に、遮蔽板130を3枚(130a〜
130c)用いた形態としているが、図9(a)(b)に示す遮蔽板の設置形態の変更例のように、鋼管トラス主構造体100に、遮蔽板130を2枚用いた形態としてもよい。図9(a)に示す形態では、主鋼管110間に亘り2枚山形に設置する形態とし、矢印で示すように底層流を海面方向に上昇させる湧昇流を発生させることができる。また、図9(b)のように、一枚の遮蔽板130を主鋼管110間に亘り設置し、他の1枚の遮蔽板130を、前記主鋼管110間の一枚の遮蔽板130に垂直に設置する形態でも、前記垂直に配置されている遮蔽板130をガイドとして湧昇流発生を発生させることができる。なお、鋼管トラス主構造体100が、図9(a)(b)の状態ではなく、その状態から、120°回転した状態で海底に設置されたとしても、2枚の内の1枚の遮蔽板130は、海底面に対して傾斜して起立した状態になることから、傾斜して起立した遮蔽板130を、底層流を上昇させるガイドとして利用して、湧昇流を発生させることができる。
本発明では、鋼管トラス主構造体100における少なくとも2枚の遮蔽板130の海底面あるいは構造体中心軸線に対する角度(面角度)は、相異なる面角度とされているから、海底に設置した場合に、底層流から湧昇流を発生させることができ、そのため、鉄鋼スラグないし鉄鋼スラグを含有する材料3から溶出された海底の栄養塩類に不足する二価鉄を補填した海底栄養塩類を海面付近まで到達させることができる。また、底層流により鉄鋼スラグ中の二価鉄の海水中への溶け込みも促進させ、発生した湧昇流により海底の栄養塩類と海水に溶け込んだ二価鉄イオンの攪拌も容易にされる。その効果により植物プランクトンの増殖が図られ、そして動物プランクトンが増殖し、さらには魚類も増殖するという、食物連鎖がおき、良好な漁場を形成することができる。
【0022】
なお、図示を省略するが、前記実施形態の場合に、主鋼管110の長手方向に間隔をおいて、主鋼管110の長手方向に直角な隔壁を主鋼管110内壁に固定するように設置して、鉄鋼スラグないし鉄鋼スラグを含有する材料3が主鋼管110の長手方向に平均的に分散配置させるようにしてもよい。なお、前記の隔壁には、開閉可能な出入り口を設けておくとよい。
なお、図中符号112は格点部、136a及び136bは遮蔽板130の端部である。
【0023】
(第2の実施形態)
図4および図5に示す第2の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1について説明する。図4は本発明の第2の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1を示す斜視図である。図5は同実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1を示す断面図である。図4および図5は、図1の遮蔽板を鋼管トラス構造の外側面(トラス構造の主鋼管の軸方向の3面及び略三角形の端面)に取り付け、鋼管トラス構造体100の内部に空間118が形成できる構造にしたものである。
【0024】
上記遮蔽板130は、例えば板厚が12〜20mmの平板状の鋼板で形成できる。遮蔽板130は、鋼管トラス構造体100内部において、鋼管トラス構造体100の軸方向に延設される。この場合、鋼管トラス構造体100軸方向の遮蔽板130の長さは、任意の長さとすることができる。このとき、複数の遮蔽板130を配設することによって、1枚の遮蔽板130を施工しやすい長さとすることができるので、湧昇流発生海底人工堤1の構築が容易となる。
また、鋼管トラス構造体100に複数の遮蔽板130を配設するときに、図4に示すように、遮蔽板130と遮蔽板130との間を鉄鋼スラグや鉄鋼スラグがこぼれない程度で、隙間134を開口部116として設けておいてもよく、溶接等で隣り合う遮蔽板130同士を溶接等により密閉する必要もない。遮蔽板130が底層流を遮断する機能が損なわれないように、隙間134の間隔は、湧昇流発生海底人工堤1全体の長さL1に比べて、短くする必要がある。
【0025】
この主鋼管110と遮蔽板130およびトラス構造体の端部鋼板115に囲まれた内側
のトラス構造体の内部空間118に、鉄鋼スラグあるいは鉄鋼スラグを含有する材料3を充填する。鉄鋼スラグあるいは鉄鋼スラグの充填はバラもの状態でもよいし、袋詰めしてもよい。軸方向の遮蔽板130およびトラス端面の端部鋼板115には、鉄鋼スラグがこぼれない程度の開口部を設けてもよい。開口部116の形状は細長いスリット状でも矩形でも円形等適宜の形状でもよく、開口部の配置形態も整列配置でなくてもよい。開口部116の機能としては、鉄鋼スラグの二価鉄成分が海水中に溶け込んで、開口部116を通水路として利用して底層流を利用して吸い出すように漏洩させるための開口であり、漏洩した二価鉄成分が底層流の栄養塩類と共に湧昇流に乗って海面付近に上昇すればよい。
また、主鋼管110には第1の実施形態において示したように、主鋼管110にも開口部116を設けて、鉄鋼スラグあるいは鉄鋼スラグを含む材料を充填してもよい。
また、前記実施形態と同様、この形態においては、端部の端部鋼板115と並行に、隔壁を、鋼管トラス構造体100の長手方向に間隔をおいて設けるようにしてもよい。
【0026】
(第3の実施形態)
次に、図6を参照して、本発明の第3の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1について説明する。図6は、本発明の第3の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1を示す斜視図である。この形態では、隣り合う遮蔽板130間に隙間134を開口部として設けた形態である。その他の構成は、前記実施形態と同様である。
このような形態の場合に、図7に示すように、遮蔽板130の幅寸法を小さくすることで、隙間134を多数形成し、多数の隙間134を開口部として形成するようにしてもよい。
【0027】
(第4の実施形態)
次に、図8を参照して、本発明の第4の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤2について説明する。図8は、本発明の第2の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤2を示す斜視図である。なお、湧昇流発生海底人工堤2は、上記湧昇流発生海底人工堤1と比べて、鋼管トラス構造体100の機能構成は同じであるため、その機能構成についての詳細な説明は省略する。
【0028】
本実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤2は、例えば、図8に示す通り、3つの鋼管トラス構造体100から構成される。3つの鋼管トラス構造体100は、それぞれ異なる3方向を向くように形成されており、例えば中心材210を中心として120°の等角度間隔で相互に接続されている。1つの鋼管トラス構造体100の長さL3は、例えば、3つの鋼管トラス構造体100の総長が200mとなるように、67mとすることができる。
【0029】
湧昇流発生海底人工堤2において、鋼管トラス構造体100は、鋼管トラス構造体100の軸方向の端部102が相互に接合されている。なお、鋼管トラス構造体100は、端部102が中心材210に接合することにより、中心材210を介して間接的に相互に接合されてもよい。
【0030】
中心材210には、海面側上部に設置された3本の主鋼管110が接合されている。また、中心材210は、海底190に接地しており、海底190から垂直方向に延設される。かかる構成において、中心材210は、海面180側上部に設置された3本の主鋼管110を支持することができ、中心材210が設けられないときに比べて、湧昇流発生海底人工堤2全体の強度を高めることができる。
【0031】
本実施形態において、遮蔽板130は、海底190で水平方向に流れる底層流を遮断し、湧昇流を発生させる。上述した本発明の第1の実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤1のような直線構造では、底層流を確実に遮断できるように、沈降時または着底時に設置
方向の調整が必要である。一方、本実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤2では、遮蔽板130が3方向に向いているため、どの方向に設置されても底層流を遮断することができる。そのため、本実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤2の施工方法では、沈降工程や着底工程における湧昇流発生海底人工堤2の設置方向の調整を省略することができ、湧昇流発生海底人工堤2の施工が容易となる。
【0032】
また、本実施形態にかかる湧昇流発生海底人工堤2は、遮蔽板130が120°の間隔で3方向に向いているため、海底190を流れる底層流の向きが変わっても、適切に湧昇流を発生させることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、湧昇流発生海底人工堤2を構成する鋼管トラス構造体100の設置数は3つとしたが、これに限定されず、4つ以上としてもよい。例えば、鋼管トラス構造体100を4つとした場合、鋼管トラス構造体100は、中心材210を中心として、例えば90°ずつの間隔で相互に接続される。
【0034】
また、例えば、図10に示すように、本変更例では、主鋼管110に衝撃緩衝材212を設けるようにしてもよい。前記の衝撃緩衝材212は、例えばゴム製とすることができる。かかる構成において、衝撃緩衝材212は、湧昇流発生海底人工堤1の着底時における衝撃を緩衝することできるので、着底時に湧昇流発生海底人工堤1が破損することを防止できる。
【0035】
また、例えば、上述した実施形態においては、湧昇流発生海底人工堤1、2は、海底190に1つだけ設置する場合について説明したが、近接する箇所に複数設置してもよい。例えば、湧昇流発生海底人工堤1の長手方向の長さL1を100mとし、湧昇流発生海底人工堤1を長手方向に2つ並置することによって、全長200mの湧昇流発生海底人工堤を構成することができる。また、湧昇流発生海底人工堤1、2を複数設置する場合、湧昇流発生海底人工堤1、2の設置方向が相異なるように設置してもよい。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0037】
なお、本発明の湧昇流発生海底人工堤は、適宜、台船に載置されて搬送されたり、湧昇流発生海底人工堤に浮子を付けて海上を曳航することができ、また、台船上のクレーンまたはクレーン船等により吊り上げて、投入したり、浮子を分離することにより、湧昇流発生海底人工堤を海底に投入することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 湧昇流発生海底人工堤
2 湧昇流発生海底人工堤
3 鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料
100 鋼管トラス構造体
110 主鋼管
112 格点部
114 端部鋼板
115 トラス構造体の端部鋼板
116 開口部
118 トラス構造体の内部空間
119 中空空間
120 連結材
130 遮蔽板
134 隙間
190 海底
212 衝撃緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管と、前記主鋼管を相互に連結する複数の連結材とからなる鋼管トラス構造体と、前記鋼管トラス構造体の外周面または内部に前記主鋼管の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する少なくとも2枚の遮蔽板とを備えた湧昇流発生海底人工堤において、
前記主鋼管の端部に鋼板を接合して空間を形成し、前記主鋼管の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記主鋼管及びあるいは端部の鋼板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設けること
を特徴とする湧昇流発生海底人工堤。
【請求項2】
仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管と、前記主鋼管を相互に連結する複数の連結材とからなる鋼管トラス構造体と、前記鋼管トラス構造体の外周面に前記主鋼管の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する3枚の遮蔽板とを備えた湧昇流発生海底人工堤において、
前記鋼管トラス構造体の軸方向に沿ったそれぞれの外周面に前記遮蔽板を接合すると共に軸方向端部にトラス用端板を接合して鋼管トラス構造体の内部空間を形成し、前記鋼管トラス構造体の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記遮蔽板及びあるいはトラス用端板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設けること
を特徴とする湧昇流発生海底人工堤。
【請求項3】
仮想三角柱の軸方向の3つの稜に対応するようにそれぞれ配置された3本の主鋼管と、前記主鋼管を相互に連結する複数の連結材とからなる鋼管トラス構造体と、前記鋼管トラス構造体の外周面に前記主鋼管の軸方向に延設され、相異なる面角度を有する3枚の遮蔽板とを備えた湧昇流発生海底人工堤において、
前記主鋼管の端部に鋼板を接合して空間を形成し、前記主鋼管の内部空間に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記主鋼管及びあるいは端部の鋼板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設け、
前記鋼管トラス構造体の軸方向に沿ったそれぞれの外周面に前記遮蔽板を接合すると共に軸方向端部にトラス用端板を接合してトラス構造体の内部空間を形成し、前記トラス構造体の空間内部に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料を充填し、
前記遮蔽板及びあるいはトラス用端板に鉄鋼スラグまたは鉄鋼スラグを含有する材料がこぼれ出ない開口部を1つ以上設けること
を特徴とする湧昇流発生海底人工堤。
【請求項4】
少なくとも3つの前記鋼管トラス構造体を備え、
前記鋼管トラス構造体の軸方向の一端は、相互に接合されていること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の湧昇流発生海底人工堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−270567(P2010−270567A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125670(P2009−125670)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】