湾曲踵底靴
【課題】歩行は人体構造上から体重心の上下動を生じて、特に速足時の着踵時に大きな衝撃が足、脚、膝、腰に掛かる。従来はこの衝撃を靴踵に受けとめて靴のクッション部や人体の足、脚、腰で吸収緩和してきたが、この衝撃の吸収緩和は歩行の推進には全く寄与せず無駄であった。この無駄の根源である体重心の上下動を発生段階で、踵接地面(21)の形状を使って足脚操作で逆運動を与え、相殺し、衝撃を縮小しながら底面転がり移動する靴の考案は皆無に等しかった。
【解決手段】下凸に湾曲して後方に適度に突出した踵接地面(21)を特徴とする底(1)靴を用いる。そして、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて前記踵接地面(21)を足の回転動作で踵部下へ出し入れし、踝(K)に股関節(H)の動きとは逆の上下動を与えて股関節(H)を一定高さに近づけて支持する方法をとる。
【解決手段】下凸に湾曲して後方に適度に突出した踵接地面(21)を特徴とする底(1)靴を用いる。そして、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて前記踵接地面(21)を足の回転動作で踵部下へ出し入れし、踝(K)に股関節(H)の動きとは逆の上下動を与えて股関節(H)を一定高さに近づけて支持する方法をとる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物底の構造、接地面の形状に関する。詳述すると、下凸に湾曲した踵底接地面を特徴とする接地面の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歩行用履物の底形状にはいろいろあるが、底中間部を厚くして円筒状に湾曲した接地面を、歩行キック時に地面上に転がして推進し歩行幅と運動量を僅かでも増やしていると思われる履物がある。その代表的なものを2例述べる。一つは、足の指節骨関節部が載る部位を厚くして局部的に小半径であるが円筒状に湾曲させて、歩行キック時に支持脚の前足部に転がし運動を与えて推進力を補助する履物(例えば、特許文献1参照。)がある。もう一つは、湾曲部を前者よりも中足側に寄せた接地面を転がして歩行推進力を補助する履物(例えば、特許文献2参照。)がある。また、両足に履いて歩くなどして遊ぶ遊戯具で、車輪状の接地面を備えて歩行キック時に地面上にその接地面を転がして推進し歩行幅と運動量を少なからず増やすことのできる遊戯具がある。その代表的なものを2例述べる。一つは、靴の足指節骨関節部から足中央部が載る部位を厚くして局部的に車輪状に湾曲させて、足で転がし運動を与えて推進力を増加させることのできるものがある(例えば、特許文献3参照。)。もう一つは、偏心軸を車輪の外周近くに設けて、この軸にボールベアリングを装着した靴をつけ、車輪と靴が交互に、地面に接して動く走行道具(例えば、特許文献4参照。)があるが、円滑な走行は困難であった。いずれも歩行行程の着踵衝撃を、踵底接地面を転がして緩和する履物ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−513306号公報([要約]、図1、5、6、25および[請求項1])
【特許文献2】米国特許第3,802,424号公報(図5、6)
【特許文献3】米国特許第2,283,595号公報(図1〜3および請求項1)
【特許文献4】実用新案公開昭和52−3678号公報([請求の範囲]および図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩行は人体構造上から体重心の上下動を生じて、特に速足時の着踵時には大きな衝撃が足踝、脚、膝、腰に掛かる。従来は、この衝撃を靴踵に受けとめて靴のクッション部や人体の足、踝、膝、腰で吸収緩和してきたが、この衝撃の吸収緩和は歩行の推進には寄与せず全く無駄であった。しかし、この無駄の根源である体重心の上下動の幅を、歩行機構の支持方法の一つである接地面の形状とその使用方法に工夫を凝らして、より小幅に押さえる靴の考案や概念が無かった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の靴は、踵接地面(21)の前後方向の垂直断面の垂直立脚点(p3)以後の形状が、中心点が前記垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した踵底(11)を特徴とする底(1)を用いる。
【0006】
請求項2の靴は、全長にわたり背後を非撓性底(1)で支持する接地面(2)の前後方向の垂直断面形状が、中心点が垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)の間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した底(1)を用いる。
【0007】
請求項3の靴は、前記底(1)の踵接地面(21)の後突出長(t)tが、水平に測って2cm<t≦10cmの範囲にある底(1)を用いる。
【0008】
請求項4の靴は、請求項1〜3記載の底(1)に前記垂直立脚点(p3)から前後方向に離して前記踵接地面(21)に、または前記踵接地面(21)およびつま先接地面(22)に、接地面の外内に出入り可能にした弾性構造体の水平補助底(13)を備えて用いる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の靴の効果は、請求項3靴と重なる効果を除いて述べるが、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて着踵時に前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら地面に着踵、転がして、着踵衝撃を緩和しながら転がり移動ができることである。この時の制動に要する足回転負荷は、従来靴例に比べ同等であるか、あるいは3分の1以下と小さい(図16bと図17bの比較から、詳細説明は省略)ため、安定支持しながら転がし移動できる。
【0010】
請求項2の靴の効果は、請求項1の靴効果と同様に、踵底接地面(21)で着踵衝撃を緩和しながら転がり移動できるが、さらに、積極的につま先側まで転がして接地面(2)の連続する転がり移動を付加できる。即ち、二脚歩行しながら、積極的に足回転して、接地面(2)の連続する転がり移動を付加できることである。
【0011】
請求項3の靴の効果は、従来靴の概念では踵底(11)の後突出部(111)は足保護と体重支持の点から踵後突出長(t)のt>2cmは不要の長物と云えるものであったが、本請求項3の手段と方法を使うと、歩行動作の人体構造上から生じる股関節(H)の上下動に対して、発生段階で逆方向の上下動を相殺すように付加することができるようになり、顕著に小さく押えることができることである。
中でも効果の顕著な請求項3の中の請求項2の実施例で述べると、体重心の無駄な上下動が小さいため、着踵衝撃が小さく効率のよい歩行推進ができること、かつ車輪面状の接地面(2)を足脚動作で車輪のように地面に転がして効率の高い転がし推進ができ、接地面(2)形状の工夫次第では歩幅を増せることである。その理由は、前述の手段により、支持脚の膝を曲げない直脚歩行時の股関節(H)が静止直立時の股関節高さ(h)に対して開脚で低下する高さ変動分即ち上下動高さ(Δh)を、接地面(2)を支持脚の下端にある足の回転動作で操り地面に押し当て転がし増幅移動しながら、補って、脚上端にある股関節(H)を静止直立時の股関節高さ(h)を一定に近づけて支持することができる。詳しくは、歩行行程において、脚支持される股関節(H)は静止直立時の股関節高さ(h)に対して支持脚が前後に傾斜開脚すると機構的に低くなるが、下凸湾曲接地面(2)の底(1)履いて足背屈底屈回転動作を行うと、その接地面(2)の前後に突出する端部が、踝(K)を中心に回転降下し地面を押して踝(K)位置を高め、脚を介して股関節(H)を押上げ、開脚で低くなる高さ変動分即ち上下動高さ(Δh)を補って股関節(H)を一定高さに近づけて支持することができる。そして、下凸湾曲接地面(2)の形状を歩行動作仕様条件に対応させて上記股関節(H)を一定の高さに支持可能な形に決めると、支持脚動作(着踵・踏切り、重心移動、踏切り)の全工程で股関節(H)を一定高さに支持しながら脚膝を伸ばしたままの直脚支持で、脚足で接地面(2)を地面に転がして効率的に進むことができる(図12〜15参照)。従来靴例ではおおよそ、図17の(b)に示すように上下動が生じている。
【0012】
請求項4の靴の効果は、湾曲踵底接地面(21)および湾曲接地面(2)の転がり性能を確保しながら、偶発的な自然転がりを防止して、水平面上に安定して垂直静止立ちできる。
【0013】
また、なかでも請求項2の靴は、下凸湾曲底(1)を両足に履いて歩きなが前記底(1)を地面に転がして移動する靴であり、身体および筋肉の使い方が従来靴とは大きく異なる。したがって、従来靴とは異なった平行感覚訓錬や足腰運動訓錬の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 本発明第1実施形態の実施例1で、可撓性つま先接地面(22)平置靴で踵接地面(21)が踵底(11)の後方に突出する湾曲踵底靴の立面図
【図2】 図1の、下から見た平面図
【図3】 本発明第1実施形態の実施例2で、接地面(2)断面が、中心が踵と膝の間の点で半径がその高さの円弧でなる湾曲踵底靴の立面図
【図4】 図3の、下から見た平面図
【図5】 本発明第1実施形態の実施例3で、接地面(2)断面が、中心が膝で半径がその高さの円弧でなる湾曲踵底靴の立面図
【図6】 図5の、下から見た平面図
【図7】 本発明第1実施形態の実施例4で、接地面(2)断面が、中心点が静止直立時の股関節(H)で半径がその高さ(h)の円弧でなる湾曲踵底靴の立面図
【図8】 図7の、下から見た平面図
【図9】 本発明第2実施形態の実施例1で、踵後突出が小さく、踵接地面(21)断面が、中心点が踝膝間の点で半径が中心点高さの円弧である湾曲踵底靴の立面図(平面図省略)
【図10】 本発明靴の比較基準となる代表的な従来靴例の立面図(平面図は省略)
【図11】 歩行状態と歩行動作サイクルの関係図(説明用)
【図12】 第1実施形態の実施例1の歩行動作状態図
【図13】 第1実施形態の実施例2の歩行動作状態図
【図14】 第1実施形態の実施例3の歩行動作状態図
【図15】 第1実施形態の実施例4の歩行動作状態図
【図16】 第2実施形態の実施例1の歩行動作状態図
【図17】 従来靴例の歩行動作状態図(説明用)
【図18】 本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図
【図19】 靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図
【図20】 円弧状接地面靴の推進力(F)作用図(説明用)
【発明を実施するための形態】
【第1実施の形態】
【0015】
実施の形態は、便宜上から、非撓性の下凸湾曲の踵底(11)の踵後突出長(t)tを基に、2cm超えとそれ以下の2形態に分ける。
第1実施の形態は、非撓性の下凸湾曲の踵底(11)に、踵後突出長(t)tが2cm<t≦10cmの範囲に特定して後方に長く突出した、従来靴には見られない、後突出部(111)を備える。前記踵底(11)踵接地面(21)の前後方向の垂直断面の垂直立脚点(p3)以後の形状は、中心点が前記垂直立脚点(p3)の垂直線上の股関節(H)中心点と踝中心点の間にあり曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である。そして、上述の下凸湾曲踵底(11)を特徴とする底(1)靴である。また、前記踵接地面(21)形状は効率的歩行動作に要する必要条件を満たすものである。
そして、正常立脚の姿勢で支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて股関節(H)高さが静止直立股関節高さ(h)に対して開脚で低下する股関節高さ変動分を、支持脚の下端にある足の回転動作で接地面(21)を回し操り、補って、支持脚上端にある股関節(H)を静止直立時の股関節高さ(h)に近づけて支持し股関節(H)即ち体重心の上下動の幅を小さく押えながら効率的に歩行できる。
【実施例1】
【0016】
実施例1は、第1実施の形態の第1代表である、可撓性つま先底(12)を特徴とした中央底部上窪みの平置き型、踵後突出長(t)t=8cmとした後長湾曲踵底(11)靴の1例で、股関節(H)の上下動を理想的に小さく押えて効率的な歩行ができる。以下、実施例に適用される履用者脚足サイズ諸元は説明の都合から後述する歩行動作モデルの諸元(段落0022)に合せてある。また、靴は左右対称であるため、全実施例について右側のみを図示する。
図1は本発明第1実施形態の実施例1で、可撓性つま先接地面(22)平置靴で踵接地面(21)が踵底(11)の後方に突出する湾曲踵底靴の立面図である。図2は図1の、下から見た平面図である。構造について説明すると、従来靴例の図10本発明靴の比較基準となる代表的な従来靴例の立面図(平面図は省略)と同様に、踵底(11)とつま先底(12)を一体に構成した中央底裏上凹み形の底(1)である。踵底(11)はtで示す後方に踵後突出長(t)がt=8cmの非撓性の後突出部(111)を持つ長踵底の例で、それ以外の部分は従来靴例と同一構造である。つまり、従来靴例のt=2cmの踵底(11)を水平距離で後方へ(8−2)=6cm延長させた靴である。そして後突出踵底(111)は、下面の接地面(21)は図から分るように断面が後端に行くにしたがって曲率半径が小さくなる下凸湾曲線(後述する歩行モデル解析で足背屈負荷が小さく足操作し易い代表的な曲線)の例である。踵底(11)の材質は従来靴例踵底(11)材質と同じで良い。底(1)の上面に位置する接足面(3)は、地面(GL)線に対してつま先下がりの方向に、つまり接足面傾斜角度(α)がα=5°傾斜している。底(1)上部の甲皮(4)は後部の後突出踵底(111)を支持する部分を除くと従来靴例と全く同じである。また甲皮(4)内の履用時の足脚(a)を2点破線、母趾関節(B)と踝(K)の位置を点で示した。足を固定する甲皮(4)の締結具は最も一般的な紐方式である。つま先接地面(22)は無負荷時を2点細破線で示し、踏込み、踏切りの負荷を受けて母趾関節(B)直下位置辺りから足指に沿って上に曲って支持する位置を、ハッチングを付して太実線で示した。その上端のつま先離地点(p2)は、中股歩行時のものであるが、後段の歩行性能解析に使うために示した。踝(K)の垂直下の地面(GL)接点が垂直立脚点(p3)である。
【0017】
次に本実施例1の靴の使い方を、本発明者が考案した歩行モデルの解析結果である図12 第1実施形態の実施例1の歩行動作状態図の(a)に基づいて説明する。但し、「歩行モデルの技術背景と用語」および「歩行モデルの諸元」については、後の段落(0021)および段落(0022)に記述した通りである。
この歩行モデルは理想的な基本歩行である直脚歩行の成立する脚足、靴および動作の諸条件を定めるためのモデルである。歩行運動を、遊脚足は省略して身体を支える支持脚足の基本動作のみに焦点を当てて、動作を単純化したモデルあるが、歩行の基本動作を充分に解析できる。直脚歩行とは、身体を支持する支持脚の上腿および下腿を膝を曲げないで真直ぐに伸展した状態の脚(以後、直脚と呼ぶ)で、上腿部の大きな筋肉を使い、膝屈伸することなく、着踵・踏切り、重心移動、踏込みの歩行動作サイクルを回して、力強く、長く、楽に、歩く歩行方法のことである。条件が整うと、無駄のない理想的な基本歩行となるものである。
先ず本図12の概要を説明する。図1,2に示す本実施例の靴を縮尺1/10の靴モデル(g1)にモデル化し、中股歩行の脚傾斜角度(β°)−20≦β≧20の範囲を対象に作図して、その歩行運動性能特性を解析したものである。(a)は股関節(H)を基準として固定し、直脚(f)、靴モデル(g1)および地面(GL)を動かして作図した図であり、股関節(H)を一定に支持して歩行する直脚(f)、足の動きと靴モデル(g1)形状の必要条件や特性が分る。(b)は地面(GL)を基準として固定し、股関節(H)、直脚(f)および靴モデル(g1)を動かして作図した図で、股関節(H)位置の推移、歩行時の直脚(f)と靴モデル(g1)の動作状態、底(1)接地面(2)接地状態および歩幅等の歩行性能が分る。そして本図12の(a)、(b)の図から、本実施例は、股関節(H)即ち腰部を水平に支持して直脚歩行することが可能と分る。着踵〜垂直立脚の間、接地点s1、s2、s3を緩やかに結んだ湾曲線の踵接地面(21)が地面(GL)上を転がりながら、前記踵接地面(21)の靴モデル(g1)と直脚(f)で股関節(H)を垂直立脚時の股関節高さ(h)に支持する時に必要な踝(K)回りの足背屈回転力は、即ち(踝と接地点の水平距離×体重)はほぼ従来靴例(図17参照)同等に小さいため、容易に足操作して股関節高さ(h)を一定に支持しながら、直脚歩行ができる。その性能は、図18本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、股関節上下動高さ(Δh)Δh=0、歩幅(L)L=66.5cmで、従来靴例のΔh=2cm、L=63cmに比べ明らかに優れている。
詳細を説明すると、(b)の状態図は、上方の小円で示す股関節(H)と下方の点で示す膝(Z)と踝(K)の3点を結ぶ一点鎖線が直脚(f)で、その下のg1が靴モデルで底(1)接地面(21)形状と支持脚足の動作状態即ち着踵・踏切り、重心移動、踏込み動作の脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)と股関節(H)の移動経路と歩幅(L)の関係を表している。股関節高さ(h)はh=86cmに一定に支持できて右から左へ直脚歩行できる様子が分る。支持脚足の動作状態の脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)は(β°,γ°)表示で図の右から左への順に(0,5)、(10,1)、(20,12)、(23,7)、(−20,−18)、(−17,−8)、(−10,0)、(0,5)となっている。その凡例は本図12(b)の右の図の通りであり、また本実施例の解析結果の要点は図右下の通りである。付記するが、二重支持長さ(D)は普通一般人の歩行では歩幅の約10%あれば安定した歩行ができると言われているため、歩幅の10%のD=6cm間を両脚で身体を支えることができれば充分に安定歩行ができるものと判断し、それを矢印付太線で図中に示した。ただし、本実施例のように体重心の上下動高さ(Δh)Δhがゼロであれば、二重支持長さ(D)はもっと短くて済むものと思われるが、本解析結果に反映させてはいない。体重心を安定的に後脚から前脚へ受け渡して行く体移動動作即ち二重支持期間の脚足動作が歩行の重要点であるため、下記に詳しく述べることにする。直立時の高さを維持支持してきた後脚足(β,γ)を脚後傾斜β=20°,足底屈γ=12°で踏切り開始しながら、前脚足(β,γ)を脚前傾斜β=−20°,足背屈γ=−18°で着踵開始して両脚足で二重支持する。両脚足連動で、二重支持を行い股関節(H)高さ一定支持しながら、後脚足を脚後傾斜β=23°へ3°広げ、足回転角度γ=7°まで5°足背屈し、同時に、前脚足を脚後傾斜β=−17°へ3°狭め、足回転角度γ=−8°まで10°足底屈して前脚足へ体移動完了させる。この間の股関節(H)の移動距離が二重支持長さ(D)D=6cmである。このように二重支持の後脚足動作(β,γ)・前脚足動作(β,γ)を(20,12)・(−20、−18)から(23,7)・(−17、−8)へ、股関節(H)高さを一定に支持するように実行すると、理論的には股関節高さ(h)の上下動高さ(Δh)Δh=0の直脚歩行ができる。実際に直脚歩行するには、当然ながら動作要領を熟知して、次の段落(0018)の要領で小股歩行から徐々に歩幅を広げて中股歩行、大股歩行まで訓練して、体得する必要がある。
【0018】
直脚歩行の要領は、前脚足の踵底(11)を前方に20°背屈、押出したままの、脚を真直ぐに伸ばした状態の直脚で前方の上方から体直下へ向けて地面を踵底(11)後端部の接地点(s1)で叩くような気持ちで一気に振り下ろして体重を載せて踵底(11)を転がすと、身体は上下動なしにスムーズに後脚から前脚に移動できる。当然、この基本歩行動作は理解するだけでなく、訓練して体得する必要がある。
【0019】
また、比較評価のため、図17従来靴例の歩行動作状態図(説明用)を示す。従来靴例は、図10に示すように、本実施例1の踵底(11)の後突出部(111)が無い踵底で、その外は本実施例1と同一である、踏切り時につま先部の根元部の母趾関節(B)下でつま先底(12)が柔軟に曲る靴例である。従来靴例は、本図17の(b)から、膝を伸ばした状態のまま中股歩行の脚傾斜角度(β°)−20≦β≧20で直脚歩行を行うと、股関節(H)は機構的に約2cm程度上下に波打つことが分る。また、本図17(a)の左下のΔhは、脚傾斜角度(β°)β=−25、−30に対応した股関節(H)の上下動高さ(Δh)を示したもので、その値は図19靴モデル別、前方脚傾斜角度(β°)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図に他実施例と共に列記してある。それらから、大股歩行の脚傾斜角度(β°)β≧−25,−30で直脚歩行すると、股関節(H)位置は機構的に約5cm,8cm程度上下に波打つことが、(b)地面(GL)基準の大股歩行の歩行動作状態図は省略してあるが、分る。従来靴例での大股歩行の直脚歩行は普通体力の一般人にとっては、各関節や脊柱への衝撃等が大きくて不向きであり不可能である。更に着踵脚の支持状態を詳しく見ると、着踵〜垂直立脚間の脚足動作は、支点が着踵点(p1)から垂直立脚点(p3)へ飛ぶ支点急変と足回転負荷の急変が伴うため、図示通りの動作はやや難しい。言い換えると、図示通りの動作ができずに着踵時に靴モデル(g6)が水平位置まで回転してしまうと股関節(H)の上下動(Δh)は約5cmになってしまう。
【0020】
これに対して、本実施例は、図12第1実施形態の実施例1の歩行動作状態図および図19靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図、から脚傾斜角度(β°)β≧−25の大股歩行時でも股関節(H)を、踵底(11)の足回転操作で上下動高さ(Δh)をほぼ2cm以内に抑えて直脚歩行ができる特性がある。また、靴底長は後突出部(111)が付いて32cmと従来靴例より6cm長く、その分、立振舞いに少し不具合はあるが、歩幅(L)はL=66.5cmと広い。同じ開脚幅(δ)条件の従来靴例(図17参照)履用の歩幅(L)L=63cmに対し3.5cm、約6%の歩幅増となっている。
要約すると、本実施例は、股関節(H)を一定高さに支持して着踵・踏切りができるため、着踵時の衝撃、無理な負荷、エネルギーロスが小さく、効率的で快適壮快な直脚歩行ができる湾曲踵底靴の代表である。
【歩行モデルの技術背景と用語】
【0021】
歩行運動とは、動作の間、走運動のような両足が地面から離れる滞空時間は発生することなく常に「片方の足が地面に接している」状態に保たれる移動運動のことで、歩行前進とは、両方の足の役割を交互に入換えて前へ進むことである。そして片方の脚で体重を支持し、反対側の脚が前へ振り出される動作の繰返しとなっている。
図11歩行状態と歩行動作サイクルの関係図(説明用)は、歩行運動を地面と足部の2底(1)とそれを支える2脚とその2脚の回転支点である股関節(H)の関係とを、それらの概略の動き状態を分析できるレベルの動作単位に分解、定義して目で見て分るように整理したものであり、歩行動作モデルと前述の「歩行動作状態図」の基礎になっている考え方である。詳しくは、体重を支えている側の脚を立脚といい、反対に、振り出されて空中にある脚を遊脚と云う。また、両足が同時に接地している状態を「二重支持」といい、この時の前脚足で着踵(以後「着踵」と呼ぶ)しながら、後脚足はつま先で立脚した状態から踏込み離地完了するまでを「踏切り」と呼び、踏切り後の片足立脚状態で前脚足に体重を掛けながら離地し浮遊している後脚足を身体へ引戻して(以後、この時の遊脚の動きを「足戻し」と呼ぶ)、前脚足に掛かる重心を足前方部の中足へ移す(目安として脚前傾角度10°ゾーン)までの支持脚の動きを「重心移動」と呼ぶことにする。重心移動後の片足立脚状態で遊脚を前方へ送り(以後、この時の遊脚の動きを「足送り」と呼ぶ)ながら、さらに脚を前傾させながら足を底屈(踝を支点として、つま先を下げる方向へ回す)して足つま先部へ体重を掛ける動作を「踏込み」と呼ぶことにする。二重支持期の時間は、歩行の1サイクルのおよそ10%を占め、残りの90%はどちらかの片脚立脚で体重を支えて「重心移動」しながら他方の遊脚となった脚を「足戻し」しているか、「踏込み」しながら遊脚の「足送り」をしている状態になっている。このように、歩行の間、それぞれの脚は、二重支持期→立脚期→二重支持期→遊脚期→の▲1▼▲2▼▲3▼を繰返していることになる。
即ち、後脚「踏切り」前脚「着踵」が「二重支持期」で、この期間中に後脚から前脚へ体重心が移動して、後脚は「踏切り」完了時点で体重が抜け切れて遊脚になると同時に、前脚へ体移動して前脚立脚となる。そして前脚立脚で体を支えながらその体重を足の踵部から中足部へ「重心移動」し、さらに体重心を中足部から前方のつま先部に移動させて踏み込む「踏込み」までが「立脚期」である。つま先離地した浮遊の後脚足を「足戻し」して「足送り」し、さらに前方空中に蹴り出して「着踵」する直前までの期間が「遊脚期」となる。歩行動作サイクルは、本図11の下の歩行動作サイクル図に示すように、右と記した支持脚足の「着踵」「重心移動」「踏込み」の3連動作と左と記した遊脚足の「踏切り」「足戻し」「足送り」の3連動作の対の動作▲1▼▲2▼▲3▼を、左右交互に入換ながら繰返す形となっている。
【歩行モデルの諸元】
【0022】
履用者の脚足および靴(履物底)に関する、人体機構学的に歩行運動性能に大きく影響する要素を抽出、整理して、下記の通り、歩行モデルの前提諸元とした。履用者の「直脚長、踝高、足長さ」は一般人の1例でモデル化し、他の諸元の影響を見るため、一定値に固定してある。ただし、直脚長(入力データ)がモデル前提と大きく異なる場合は、実用的な近似解として、解析結果の長さ諸元(出力データ)を歩行動作モデル前提の直脚長に対する実直脚長の比に正比例させて利用することができる。しかし、厳密に解析するためには、または特殊諸元に対する直脚歩行に適した解を求める場合には、必要に応じて前提諸元を入換えて、新たに作図し解析すべきである。
前提諸元:
・直脚(f)長 75cm(股関節(H)脚回転中心点から踝(K)足回転中心点までの長さ)。
・踝高さ(k) 8cm(踝(K)足回転中心点から水平面静止立脚時の足裏水平線までの長さ)。
・足長 24cm(水平面静止立脚時の踵後端からつま先端までの長さ)。
・脚傾斜角度(β) 股関節垂直線に対し後方開きを+側とし、−30°〜+40°間の変数。
・足回転角度(γ) 脚長さ方向に直交する足長さ方向線を基準線として、つま先を底側へ底屈する方向を+とし、−20°〜+40°間の変数。
・靴モデル(g) 実施例の底(1)接地面(2)を縮尺1/10でモデル化する。作図し解析して、靴の歩行運動性能の特性を調べることができる(図12〜17参照)。
・接足面傾斜角度(α) 水平面静止立脚時において、水平が0°、つま先下がりが+側である変数。
・底厚(c) 垂直立脚点から水平面静止立脚時の足裏水平線までの距離、靴モデル(g)で決まる。
上記の脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)の設定範囲は、普通一般人の解剖学上または肉体能力的に無理なく作動できる範囲に留めたものである。
【0023】
本実施例の踵接地面(21)断面形状について、着踵〜体重移動(垂直立脚位置まで)動作時の最大足背屈負荷を従来靴並みに抑制する形状の決め方の一例を述べる。
先ず、図1の長さt=8cmの後突出部(111)の付いた踵底(11)に対して3接地点(s1,s2,s3)の位置を想定される形状を考慮して後端から0cm,4cm,6cmの3位置に決めて垂線を立てる。次に、3接地点の高さを決めるために、中心点が静止垂直立脚(p3)の垂直線上の股関節(H)中心点と膝(Z)踝(K)中間点の間にあって、半径がその中心点の地面からの高さ長である3円弧即ち中心点が膝(Z)踝(K)中間点と膝(Z)と股関節(H)の3点で垂直立地点(p3)を通って3接地点位置を横切る3円弧を描いて高さを求める。本実施例では履用者モデルの寸法を使って3接地点(s1,s2,s3)候補の半径R1,R2,R3が28.5cm,46cm,86cmの3円弧を描いて3接地点(s1,s2,s3)位置の高さを求めた。次にそれらの高さを、全体の形状バランスを評価し寸法を調整し、やり直ししながら高さを決定する。本実施例では半径R1,R2,R3を35cm、46cm、86cmの3円弧の前記垂線との交点高さを3接地点(s1,s2,s3)の高さとした。最後に3接地点(s1,s2,s3)および垂直立脚点(p3)をなだらかな曲線で結んで接地面(21)湾曲線とする。
この接地面(21)湾曲線が着踵〜体重移動(垂直立脚位置まで)動作時の足背屈負荷を従来靴例並の適度な大きさに抑制する形状となっている(図12b参照)。接地点(s1)の曲率半径(R1)は、小さい方が、足背屈負荷が小さくなり足操作が容易となること、接地点(s3)および垂直立脚点(p3)の曲率半径(R3)は大きい方が踵底(11)厚を低くできることを考慮して3接地点(s1,s2,s3)の位置と高さを決定している。
【実施例2】
【0024】
実施例2は、第1実施の形態の第2代表である、全底が非撓性で踵後の長い底(1)を特徴とした平置きできない車輪面状の湾曲底(1)靴の1例目で、着踵や転がしの操作性、加速性に優れた代表的な高速中小股歩行用の湾曲踵底靴である。踵後突出長(t)がt=8cm長で、底(1)接地面(2)が、前後方向の垂直断面の形状が半径(R)R=31cmの円弧から成る車輪状の下凸湾曲面である、云わば車輪底靴である。
そして股関節(H)の上下動を小さく押えて、二脚で歩行移動しながら効率的に足回転動作で接地面(2)転がし移動できる。
図3は本発明第2実施形態の実施例1で、接地面(2)断面が、中心が踵と膝の間の点で半径がその高さの円弧でなる歩行用靴の立面図、図4は図3の、下から見た平面図である。
図に示した接地面(2)は、接足面傾斜角度(α)α=0°の踵後突出長(t)tが8cmでつま先長さが1cm程度の長さである底(1)全長に渡って4cm一定幅の車輪面状に設けた例である。そして「その接地面(2)前後方向の垂直断面が、中心点が静止垂直立脚中心線上の膝(Z)と踝(K)の間にあって、半径(R)がその中心点の地面からの高さ長の円弧である」の条件を満たし、かつ接足面傾斜角度(α)α=0°で踵後突出長(t)tが8cmの底(1)接地面(2)のバランスの良い形状を満たす最小半径のR=31cmの円弧で成っている。上記「」条件の由来は「足上下回転の増回転操作で踝高さ(k)増できる踝高さ(k)より長い半径(R)で、かつ足操作性の良い、より短い半径(R)である」の条件からきている。言換えると本実施例靴の接地面(2)は股関節(H)高さ一定支持操作ができ、かつ操作性が良い形状に設定したものである。接地面(2)部分は例えば合成ゴム製のタイヤ面で、プラスチック材や金属材で構成されたスケート靴の様な剛性の底(1)中層部に強固に固定支持された約40°円弧状の転がり易い面で自転車のタイヤ同様に滑り防止の溝を設けることが好ましい。垂直立脚点(p3)は安定静止立脚用の位置ではなく転がり面の一点(線)であり、静止立脚する時は常に足首(踝)で制動を掛けバランスをとって立つ必要がある。そして底(1)は上部のつま先部の母趾関節(B)下辺りの側面につま先部固定用のバンド式締結具(52)と踵部下辺りの側面に足首固定用のバンド式締結具(51)を備えている。この靴緊締具(5)は図に示すつま先部と踵部の2ヶ所を固定して足裏が靴の接足面(3)に密着して力がどの方向から掛かっても位置ずれしないようにした構造のものが好適である。
甲皮(4)は一般的にある紐式の緊締具の付いた従来型例である。
【0025】
性能特性については、図13第1実施形態の実施例2の歩行動作状態図の(b)を見ると、接地面(2)形状と支持脚足の動作状態、即ち脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)と股関節(H)の移動経路と歩幅(L)の関係状態が分かる。図13および図18本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、支持脚の傾斜角度(β)β=−15°〜+20°の範囲の開脚幅(δ)δ=35°の小股開脚範囲は股関節(H)高さを一定に支持して、直脚歩行で歩幅(L)L=65cmを達成できる例である。歩幅(L)は第1実施の形態の実施例1より1.5cm程短いが、小股開脚歩行でありながら中股開脚歩行例の従来靴例より接地面(2)転がり移動が加わって2cm増歩幅となっている。
次に、上述の股関節(H)高さを一定に支持する条件を少し緩めた時の歩行の開脚幅(δ)と性能特性の関係を述べると、(a)の股関節(H)基準の図の左下の靴モデルg2の下方に、着踵脚足の脚傾斜角度(β)=−20°,−25°,−30°に対する上下動高さ(Δh)が図示してあり、その値が図17のg2列に表記してある。脚傾斜角度(β)=−20°の中幅歩行時の股関節(H)上下動高さ(Δh)はΔh=1cmと小さく、実際の歩行では区別付かない数値差である。したがって、Δh=1cmの上下動高さ(Δh)を伴うが、実用的には股関節(H)をほぼ水平支持してさらに10cmほど歩幅(L)の広いL=75cmの直脚歩行ができる靴と云える。
【0026】
接地面(2)断面円弧形の円弧半径(R)と転がり移動の推進力の関係を述べる。図18円弧状接地面靴の推進力(F)作用図(説明図)を見ると、(a)図は半径(R)Rの円弧断面の接地面(2)の靴を履いて身体を前傾させて体重(M)を、接地点(s)より、重心偏り(X)Xだけ偏らせて足裏作用点(p5)に掛けて立脚した状態図で、靴の接地面(2)の接地点(s)にFの推進力(F)が働いている図である。この時の各ベクトルR,X,M,Fの大きさの関係は(b)図の関係にある。この関係を式にすると、(c)式:F=M×X÷Rになる。推進力(F)は接地面(2)の半径(R)が小さいほど大きく働くことが分る。因みに、本実施例の踏込み距離X=8cmの時に働く転がり推進力(F)は(d)の靴モデルg2列で、F=14.5重量kg・cmであり、本実施例1はつま先に体重をかけることにより従来靴には無い推進力が本発明実施例の中で最も大きく得られる例である。
【0027】
本実施例2の靴使用の要領は、安定歩行の要である▲1▼着踵・踏切りの二重支持の動作条件を守って直脚歩行することで、その要点は(b)図から読取ると、立脚の脚傾斜角度(β)β=10°辺りは余り足底屈しない踏込みを行い、後脚足・前脚足の踏切り・着踵の二重支持動作を(β,γ)・(β,γ)で表すと、(20,23)°・(−15、−18)°から(23,30)°・(−12,−15)°へ、後脚足は体重支持しながら一気に足底屈23°→30°の動作をして踏切り、前脚足は体重支持割合を増やしながら足背屈動作を−18°→−15°へ3°だけ緩やかに戻して着踵し、この間に股関節(H)の高さを一定に支持しながら二重支持長さ(D)D=6cmの股関節(H)移動を行い、前脚足へ体移動して、次の体重移動動作に移ることである。この着踵時に脚足に掛かる足背屈力の負荷(地面接地点と踝間の水平距離(x)×体重)は、図の靴モデルg2の着踵状態を見ると、地面接地点と踝間の水平距離(x)が一般の人が耐え得る許容長さの8cm前後程度と同等に短い許容範囲の負荷であり、着踵しようとする脚足は足背屈負荷に抗して自由に足回転角度を操作して股関節(H)の高さを一定に支持しながら着踵することができる。
直脚歩行の要領は、前脚足の底(1)を前方に15°〜20°背屈、押出したままの、脚を真直ぐに伸ばした状態の直脚で前方の上方から体直下へ向けて地面を底(1)後端の接地面で叩くような気持ちで一気に振り下ろして体重を載せ、身体は上下動なしにスムーズに後脚から前脚に移動させることである。当然ながら、実用するには前述の要領を熟知するだけでなく、スケートやローラースケート、一輪車と言った他の乗物同様に、小股歩行から中股歩行までを少しずつ時間を掛けて試行、訓練して、体得する必要がある。
【0028】
要約すると、股関節(H)の高さを一定に支持して、2脚歩行で移動しながら足の底屈回転で底接地面(2)転がし移動する、着踵衝撃が小さく効率的で快適壮快な直脚歩行ができる転がし推進力の大きい中小股歩行用の湾曲踵底靴の代表である。
【実施例3】
【0029】
実施例3は、第1実施の形態の第2代表である、全底が非撓性で踵後の長い底(1)を特徴とした平置きできない車輪面状の湾曲底(1)靴の第2例目で、健脚の高速中距離向けの中股歩行用の湾曲踵底靴である。踵後突出長(t)がt=8cm長で、底(1)接地面(2)が、前後方向の垂直断面の形状が半径(R)R=43.5cmの円弧から成る車輪状の湾曲面で、云わば車輪底靴である。そして、実施例2同様に股関節(H)の上下動を小さく押えて、二脚で歩行移動しながら効率的に足回転動作で接地面(2)転がし移動できる。図5は本発明第1実施形態の実施例3で、接地面(2)断面が、中心が膝で半径がその高さの円弧でなる湾曲踵底靴の立面図であり、図6は図5の、下から見た平面図である。図に示した接地面(2)は接足面傾斜角度(α)α=5°の踵後突出長(t)tが8cmでつま先長さが1cm程度の長さである底(1)全長に渡って4cm一定幅の車輪面状の転がり接地面(2)を設けて、「その接地面(2)前後方向の垂直断面が、中心点が静止垂直立脚中心線上の膝(Z)にあって、半径(R)がその中心点の地面からの高さ長の円弧である」条件を満たし、かつ接足面傾斜角度(α)α=5°で踵後突出長(t)tが8cmの底(1)接地面(2)としてバランスの良い形状で最も広角度の足回転の動作をして接地面(2)転がり移動して歩幅増できる半径のR=43.5cmの円弧で成っている。言換えると本実施例靴は前記実施例2よりも半径が大きく操作性がやや悪いが歩行効率が良い即ち健脚で広歩幅の高速中距離用に適した接地面(2)半径に設定した例である。その構造は、実施例2と同じ部分は説明を省略して、相違点を説明する。相違点は接足面傾斜角度(α)を、着踵脚足の有効背屈角度幅をより大きできるようにα=5°に傾けて、かつ接地面(2)断面形状円弧の半径(R)をより大きい膝高さ(z)長に設定した、健脚で広歩幅の高速中距離用に適した湾曲踵底靴の代表である。
【0030】
本実施例の性能特性ついては、図14第1実施形態の実施例3の歩行動作状態図に基づいて実施例1と異なる部分について説明する。図14および図18本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、支持脚の脚傾斜角度(β)β=−20°〜+20°の範囲は股関節(H)の高さ(h)を一定に支持して、着踵・踏切りを二重支持長さ(D)D=7cm間で、前脚の脚傾斜角度(β)β=−20°からβ=−17°と足回転角度(γ)γ=−18°からγ=−7°、および後脚の脚傾斜角度(β)β=20°からβ=23°と足回転角度(γ)γ=17°からγ=8°へ脚足動作を行って、中股開脚幅で直脚歩行すると歩幅(L)L=72cmを達成できる。実施例1よりも7cm長く、また従来靴例よりも9cmほど長い。これは、接足面傾斜角度(α)をα=5°に増やしかつ接地面(2)半径(R)をR=43.5cmに大きくして、着踵接地面(2)を前方へ多く足背屈回転し踏切り・着踵しているためである。
次に、上述の股関節(H)高さを一定に支持する条件を少し緩めた時の歩行の開脚幅(δ)と性能特性の関係を述べると、(a)の股関節(H)基準の図の左下のg3の下方に、着踵脚足の脚傾斜角度(β)=−25°,−30°に対する上下動高さ(Δh)を図示し、その値を、図19靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図、のg3列に表記した。脚傾斜角度(β)=−25°の大幅開脚時の股関節(H)上下動高さ(Δh)はΔh=2cmであり、実用的には股関節(H)を上下動高さ(Δh)Δh=2cmを伴い、不安定となるが歩行可能範囲であると思われる。さらに10cmほど歩幅(L)の広いL=80cmも達成可能な直脚歩行型の靴と云える。
要約すると、股関節(H)を一定高さに支持して、2脚歩行で移動しながら足の底屈回転で底接地面(2)転がし移動できる、着踵衝撃が小さく効率的で快適爽快な直脚歩行ができる健脚向け高速中距離に適した中股歩行用の湾曲踵底靴の代表である。
【実施例4】
【0031】
実施例4は、第1実施の形態の第2代表である、全底が非撓性で踵後の長い底(1)を特徴とした平置きできない車輪面状の湾曲底(1)靴の第3例目で、健脚向けの高速省エネルギー型長距離歩行に優れた中大股歩行用の湾曲踵底靴である。踵後突出長(t)がt=8cm長で、底(1)接地面(2)が、前後方向の垂直断面の形状が直立時の股関節高さ(h)を半径(R)とするR=h=86cmの円弧で成る車輪状面で、云わば股関節(H)を軸とした車輪面底靴である。その最大の特徴は足首を殆ど固定したままの直脚歩行で下凸の車輪状湾曲面の接地面(2)を地面に転がし移動しながら歩行できることである。そして、実施例1〜3同様に股関節(H)の上下動を小さく押えて、二脚で歩行移動しながら効率的に足回転動作で接地面(2)転がし移動できる。図7は本発明第1実施形態の実施例4で、接地面(2)断面が、中心点が静止直立時の股関節(H)で半径がその高さ(h)の円弧でなる湾曲踵底靴の立面図で、図8は図7の、下から見た平面図である。
構造を述べると、接足面傾斜角(α)α=5°で、接地面(2)が股関節(H)を中心点とした股関節高さ(h)を半径(R)とするh=R=86cmの円弧からなっている。
【0032】
そして、垂直立脚点(p3)を挟んで前後に図8に示すような接地面(2)幅の中央部に突起させて水平補助底(13)を設けて、自然転がりを防止して平らな地面に安定静止立ちできるようにした例である。水平補助底(13)は、ゴムスポンジ体、空気室、バネ内蔵弾性構造体等で、例えば体重の50〜80%以上の負荷が掛かると接地面(2)中に凹んで隠れてしまうようにしたもので、接地面(2)の地面転がり時に、体重負荷が掛かると接地面(2)中に押し込まれて隠れ、負荷が抜けると元に戻る、転がり推進に支障の無いものである。また、前述の後側の水平補助底(13)は靴底の水平支持を補助するばかりでなく、着踵および体重移動動作時に、前記水平補助底(13)が無い場合に比べて突起部が早く接地して、2点支持の形で体重支持を補助し足背屈負荷を軽減する働きをする。
その他の構造は実施例2〜4共通であり、説明は省略する。
【0033】
本実施例の性能特性ついては、図15第1実施形態の実施例4の歩行動作状態図に基づいて実施例1、2と異なる部分について説明する。
本図15および図18の本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、支持脚の脚傾斜角度(β)β=−20°〜+20°の範囲は股関節(H)の高さ(h)を一定に支持して、着踵・踏切りを二重支持長さ(D)D=6cm間で、前脚の脚傾斜角度(β)β=−20°からβ=−17°と足回転角度(γ)γ=−5°からγ=6°、および後脚の脚傾斜角度(β)β=20°からβ=23°と足回転角度(γ)γ=9°からγ=14°へ脚足動作を行って、中股開脚幅で直脚歩行すると歩幅(L)L=63cmを達成できる。実施例1よりも2cm、実施例2よりも9cm短く、従来靴例とは同じ歩幅である。このように歩幅(L)性能は数値上からは余り優れてはいないが、実質的な歩行移動効率は足首運動が少なく大きな筋肉運動の直脚歩行が主であり、最も省エネルギー的で優れた歩行靴と思われる。その根拠は、本実施例3においては、足傾斜角度(β)が−15°≦β≧15°の開脚幅(δ)δ=30°の小股開脚歩行の全範囲が、β=±15°の靴モデル(g4)の図が省略されているが、足回転角度(γ)がγ=5°一定の足首不動の直脚歩行は股関節(H)高さ一定、不動の移動運動になっていて、車転がり移動運動と全く同じ状態となっているからである((a)図の足傾斜角度β=−20°,0°,20°の靴モデル(g4)状態からも推測できる)。
次に、上述の股関節(H)高さを一定に支持する条件を少し緩めた時の歩行の開脚幅(δ)と性能特性の関係を述べると、(a)の股関節(H)基準の図の左下の靴モデルg4の下方に、着踵脚足の脚傾斜角度(β)=−25°,−30°に対する上下動高さ(Δh)を図示し、その値を、図19靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図、のg4列に表記した。脚傾斜角度(β)=−25°の中幅開脚時の股関節(H)の上下動高さ(Δh)はΔh=1cmであり、実用的には股関節(H)の上下動高さ(Δh)Δh=1cmは許容範囲であり、ほぼ水平支持して完全水平支持の歩行に比べ約10cmほど広い歩幅(L)L=73cmの直脚歩行ができる靴と判断できる。
要約すると、股関節(H)を一定高さに支持して、足傾斜角度(β)が−15°≦β≧15°の開脚幅(δ)δ=30°の小股開脚の範囲は理想歩行の「足首不動の直脚歩行」を行いつつ、着踵衝撃が小さく効率的で快適壮快な直脚歩行ができる健脚向けの高速省エネルギー型長距離歩行に優れた中大股歩行用湾曲踵底靴の代表である。
【第2実施の形態】
【0034】
第2実施の形態は、踵突出長(t)がt≦2cmで特定される従来靴並の後突出部(111)である非撓性の短めの踵接地面(21)の下凸湾曲踵底(11)底(1)靴で、前記踵接地面(21)の前後方向の垂直断面が、垂直立脚点(p3)以後が、中心点が垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と踝(K)膝(Z)中間点の間にあって垂直立脚点(p3)を通る半径(R)が踝高さ(k)+2≦R≦2×踝高さ(k)範囲の円弧で成っている靴である。
そして、前傾の立脚姿勢で直脚歩行すると、着踵時に前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら地面に着踵し転がして、着踵衝撃を緩和しながら効率的に前記踵接地面(21)転がり移動ができる。
第1実施の形態との違いは、構造上では下凸湾曲踵底(11)の後突出部(111)の踵後突出長(t)がt≦2cmで従来靴並みに短いこと、使用上では湾曲踵接地面(21)長さの短さに応じて、歩行姿勢を垂直から前傾立脚へより変化させて直脚歩行すること、の2点である。効果は第1実施の形態に比べると小さい。
【実施例1】
【0035】
実施例1は、第2実施の形態の中で従来靴によくある可撓性つま先底(12)を特徴とした中央底部上窪みの平置き型で、踵後突出長(t)t=1cmの後の短い湾曲踵底(11)靴の代表例である。前傾立脚姿勢の直脚歩行で歩くと、股関節(H)の上下動高さ(Δh)を小さく押えて効率的に歩行できることが特徴である。図9は本発明第2実施形態の実施例1で、踵後突出が小さく、踵接地面(21)断面が、中心点が踝膝間の点で半径が中心点高さの円弧である湾曲踵底靴の立面図(平面図省略)である。図に基づいて構造を説明すると、踵底(11)とつま先底(12)の2つの底面で静止立ちする靴であるが、踵接地面(21)の垂直立地点(p3)後方が半径(R)R=16cmの円弧で成る湾曲面の踵底(11)で、tで示す踵後突出長(t)が従来靴並みのt=1cmで後突出部(111)が殆ど無い靴である。接地面傾斜角度(α)がα=5°、踵高さが約3cmの例で、つま先底(12)は可撓性の底で踏み込むとハッチングを付した太実線まで撓み、太実線上の点のつま先離地点(p2)で踏切りする、ごく一般形の中央底部上窪みの平置き型の湾曲踵底(11)底(1)靴の例である。因みに、従来靴例(図10参照)との違いは、従来靴例が踵後突出長(t)t=2cmの平底形の踵底(11)であるのに対し、本実施例1は踵後突出長(t)がt=1cmの断面円弧形の湾曲踵底(11)であること、である。
【0036】
次に本実施例1の性能特性ついて、図16第2実施形態の歩行動作状態図に基づいて説明する。本実施例1は、5°前傾立脚姿勢の直脚歩行方法を前提としているところが、従来靴例と異なる。特徴はつま先底(12)を有効に活用し、踏込み踏切り動作を股関節(H)を高く支持して行う。即ち着踵は脚傾斜角度(β)を前脚β=−15°、後脚β=+25°で開始し、前脚β=−12°、後脚β=+27°で完了するモデルである。
先ず、数値上の性能特性を見ると、前提となっている脚足と直立時の股関節高さ(h)h=86cmは従来靴例と共通で、性能特性は上下動高さ(Δh)Δh=−2cm、二重支持長さ(D)D=6cmは同値で、歩幅(L)L=66cmは+3cm、脚歩幅(Lb)Lb=44cmは+4cm、底転幅(La)La=22cmは−1cmの踵後突出長(t)差によるものとなっている。歩幅(L)Lの差(+3cm)は、主に踏込み踏切り角度を大きく使ったつま先底(12)の有効利用による脚歩幅(Lb)増による。総じて、数値上の性能は従来靴例とほぼ同じである。
次に、動作状態から性能特性を、図17従来靴例の歩行動作状態図(説明用)で示す従来靴例との違いに着眼しながら見る。図16のbは5°前傾の立脚姿勢の直脚歩行を前提としたGL基準の歩行動作状態図で、図から、歩行中の股関節(H)の支持高さおよび歩行幅は、従来靴例と同等となっているが、動作状態を詳細に比較すると、本実施例1は従来靴例よりも、歩行の安定性、動作のやり易さや移動効率が優れていると分かる。その理解のために動作工程を少し詳しく述べると、普通一般の歩行では着踵〜重心移動(垂直立脚位置まで)動作工程の中、着踵開始〜体移動完了の二重支持(D)期間である約0.1〜0.2秒間に着踵脚に体重負荷が0から100%+落下衝撃α%へ急増する工程が着踵工程で、続く工程、即ちこの最大負荷を速やかに引き受けて垂直立脚位置まで体重心を移動するのが重心移動工程である。本実施例1では図16bのように踵接地面(21)が転がり移動で着踵点(p1)から垂直立脚点(p3)へ転がり支点形跡(p7)で示すように、前脚の足首に制動掛けながら体重を乗せて着踵完了し引き続き着踵衝撃を徐々に受けながら垂直立脚位置まで移動する。そして、この時の制動に要する足回転負荷は、従来靴例の約3分の1以下と小さくなる(詳細比較すると分る)ため、容易に安定支持しながら垂直立脚点(p3)位置まで、踵接地面(21)の転がり移動で重心移動がきる。本実施例に対する従来靴例では、図17のb図に示すように、着踵点(p1)で支持開始し、水平になる直前までこの1点(線)で支持し続け、水平になると同時に支点が垂直立脚点(p3)へ飛んで支持する動作図となっているが、この着踵開始から体重移動(垂直立脚位置まで)工程を着踵点(p1)1点(線)で支持する構造はクッションが無ければ衝撃を緩和できないし、有れば衝撃は吸収されて運動エネルギーが無駄となる割合が多くなる。
当然ながら、支点位置が垂直立脚位置近傍で急転移するため図示通りの支持動作が難しく、安定支持がやや困難となり、従って効率も劣る。
要約すると、前傾姿勢の直脚歩行を行い、着踵時に前記踵底(11)の前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら、地面に着踵、体移動し、底転がし体重移動して着踵衝撃を緩和しながら転がり移動できる湾曲踵底靴の短踵型代表例である。
【0037】
本実施例1の踵接地面(21)の湾曲形状の決定は、候補となる数本の円弧を踵底(2)の立面図に描き、踵後端厚さの確保と着踵時の支持高さ即ち股関節(H)の支持状態と足回転による踵接地面(21)転がり状態や転がり支点形跡(p7)を考慮して半径(R)をR=16cmに決定した(図16bのb5参照)。因みに、この決定方法は、後突出長(t)t≦2cm踵底(11)範疇の第2実施の態様に対して、第1実施の形態実施例1で述べた方法(段落0023)の代りとなる近似簡略型の簡便法である。
【0038】
以下、本発明靴の共通事項を述べる。前提とした支持脚の膝を曲げない直脚歩行モデル(段落0017参照)は、遊脚の動きを無視し立脚の直脚(f)と靴モデル(g)に着眼して、脚(f)回転で歩行しながら靴モデル(g)即ち足回転で接地面(2)転がり移動する「2脚2足の4節(リンク)5関節(ジョイント)リンク機構歩行モデル」である。
この歩行モデルで股関節(H)の上下動高さ(Δh)を小さく押えて着踵衝撃を減らしながら効率良く歩行できる理想の靴モデル(g)接地面形状必要条件は、脚(f)靴モデル(g)の動作条件を考慮して求めると、前後方向の断面形状が、中心点が垂直立脚点(p3)垂直線上の股関節(H)と踝(K)の間にあって、曲率半径が前記中心点の地面からの高さ長であり、かつその曲線が長手方向の中央部で大きく前後両端側に向って徐々に小さくなっている湾曲線から成るものとなる。
その根拠は、▲1▼前記曲率半径の上限高さは垂直立脚点(p3)垂直線上の股関節(H)の高さ(h)となること。これは、股関節(H)の支持位置の降下を補いながら歩行推進力を最大にするためには、立脚の脚(f)靴モデル(g)前進方向の回転動作の推進効果が加算される範囲であることによる。即ち回転方向は同調が必要で、少なくとも回転方向が異なってはならないことによる。▲2▼前記曲率半径は踝高さ(k)が下限であること。これは、靴モデル(g)動作の前進方向の回転で高さ増(股関節(H)の降下を補うため)となる下限長が踝高さ(k)であることによる。▲3▼前記湾曲線が垂直立脚点(p3)から離れるほど曲率半径が小さくなるか同じであること。これは、垂直立脚点(p3)近傍は脚動作を中心として靴モデル(g)回転動作はできるだけ小さく抑え、垂直立脚点(p3)から離れた位置では靴モデル(g)回転動作をより多く使って股関節(H)の降下を補いながら転がり移動することが、最大歩行推進能力の必要条件となるためによる。
【0039】
また、履用者の身体上のニーズに合わせてから、次に股関節(H)の高さを一定に近づけて支持しながら円滑に接地面(2)転がしができる接地面(2)形状を決めるべきである。
また、接地面(2)の足踵後端からの水平長さである後突出長さ(t)は、形状の一要素であるが、特に2cm≦t≦10cmの範囲が効果に大きく影響して重要である。短すぎると着踵時の股関節(H)支持高さ不足を来たし、長すぎると履用者の足背屈筋力の能力不足を来たして、股関節(H)の一定高さ支持に必要な、着踵時の制動しながらの足底屈回転動作が困難となる。その限界の長さは普通一般的な筋肉の持主であれば、足長さの3分の1程度の長さと思われる。色々な履用者がいるが、総じて概略長さは10cm程度前後であろう。また取扱い易さや立振舞易さの点からも10cmを越えると不便で不要である。因みに、従来靴の後突出長さ(t)は、1cm以上は少なくて、総じて2cm以下であった。それは従来の踵底は足保護と体重支持を目的としたためと思われるが、その目的からすると2cm以上は無用の長物であったためであろう。
【0040】
本発明靴は、以上の実施例の説明の中で歩行用としてあるが、移動速度を上げ、二重支持長さ(D)Dをゼロにし、さらに強く動作して両足が地面を離れる状態が生じる走運動であっても、歩行同様に股関節(H)の高さを一定に近づけて支持してその上下動高さ(Δh)を小さく抑える効果があることは云うまでもない。また、歩行モデル解で説明した歩行要領は、当然ながら、静止立脚状態でバランスしている脚足動作条件であるため、実際に歩行し移動するためには、体重心を少し前に偏らせて、即ち少し前へ体傾斜させて歩行開始するか、または身体に適度な前向きの初速度を付けて行う必要がある。また、接地面(2)断面形状は、実施例を総合すると、実施例の形状だけでなく、楕円弧等の曲線から成る形状でも、可能であることは容易に推測できる。
【符号の説明】
【0041】
1 底(甲皮を除く靴底部分)、 11 踵底、 111 後突出部
12 つま先底、 13 水平補助底
2 接地面、 21 踵接地面、 22 つま先接地面
3 接足面
4 甲皮
5 締結具、 51 踵締結具、 52 つま先締結具
t 踵後突出長(足踵後端から踵底後端までの水平長さ)
K 踝
k 踵高さ(足裏水平線から踝(K)までの距離)
x 靴踵高さ(垂直立脚点(p3)から踝(K)までの距離)
R 半径
R1,R2,R3 曲率半径
s,s1,s2,s3 接地点、 s1 後端接地点
α 接足面傾斜角度(水平に対して、つま先下がりが+)
a 足脚
B 母趾関節
g 靴モデル
c 底厚(垂直立脚点の)
D 二重支持長さ
d 二重支持脚角度変化幅
f 直脚(H〜K間)
F 推進力
GL 地面
h 股関節高さ(静止直立時の地面から股関節中心までの距離)
Δh 上下動高さ(股関節)
H 股関節(歩行中の地面から股関節中心までの距離)
L 歩幅
La 底転幅(接地面(2)転がりによる移動幅)
Lb 脚歩幅(前足底踵後端から後足底つま先端までの距離)
M 体重
p1 着踵点
p2 つま先離地点
p3 垂直立脚点(静止)
p4 踵離地点
p5 足踵後端点(接足面上の)
p6 足裏支点(接足面における体重心支点)
p7 転がり支持点形跡
X 重心偏り(足裏支点(p6)の接地点(s)を通る垂直線からの距離)
Z 膝(位置)
z 膝高さ(垂直立脚点(p3)から膝位置(Z)までの距離)
β 脚傾斜角度(垂直に対し後傾斜が+、前傾斜が−)
γ 足回転角度(水平に対して、つま先下がり方向が+、つま先上り方向が−)
δ 開脚幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物底の構造、接地面の形状に関する。詳述すると、下凸に湾曲した踵底接地面を特徴とする接地面の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歩行用履物の底形状にはいろいろあるが、底中間部を厚くして円筒状に湾曲した接地面を、歩行キック時に地面上に転がして推進し歩行幅と運動量を僅かでも増やしていると思われる履物がある。その代表的なものを2例述べる。一つは、足の指節骨関節部が載る部位を厚くして局部的に小半径であるが円筒状に湾曲させて、歩行キック時に支持脚の前足部に転がし運動を与えて推進力を補助する履物(例えば、特許文献1参照。)がある。もう一つは、湾曲部を前者よりも中足側に寄せた接地面を転がして歩行推進力を補助する履物(例えば、特許文献2参照。)がある。また、両足に履いて歩くなどして遊ぶ遊戯具で、車輪状の接地面を備えて歩行キック時に地面上にその接地面を転がして推進し歩行幅と運動量を少なからず増やすことのできる遊戯具がある。その代表的なものを2例述べる。一つは、靴の足指節骨関節部から足中央部が載る部位を厚くして局部的に車輪状に湾曲させて、足で転がし運動を与えて推進力を増加させることのできるものがある(例えば、特許文献3参照。)。もう一つは、偏心軸を車輪の外周近くに設けて、この軸にボールベアリングを装着した靴をつけ、車輪と靴が交互に、地面に接して動く走行道具(例えば、特許文献4参照。)があるが、円滑な走行は困難であった。いずれも歩行行程の着踵衝撃を、踵底接地面を転がして緩和する履物ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−513306号公報([要約]、図1、5、6、25および[請求項1])
【特許文献2】米国特許第3,802,424号公報(図5、6)
【特許文献3】米国特許第2,283,595号公報(図1〜3および請求項1)
【特許文献4】実用新案公開昭和52−3678号公報([請求の範囲]および図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩行は人体構造上から体重心の上下動を生じて、特に速足時の着踵時には大きな衝撃が足踝、脚、膝、腰に掛かる。従来は、この衝撃を靴踵に受けとめて靴のクッション部や人体の足、踝、膝、腰で吸収緩和してきたが、この衝撃の吸収緩和は歩行の推進には寄与せず全く無駄であった。しかし、この無駄の根源である体重心の上下動の幅を、歩行機構の支持方法の一つである接地面の形状とその使用方法に工夫を凝らして、より小幅に押さえる靴の考案や概念が無かった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の靴は、踵接地面(21)の前後方向の垂直断面の垂直立脚点(p3)以後の形状が、中心点が前記垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した踵底(11)を特徴とする底(1)を用いる。
【0006】
請求項2の靴は、全長にわたり背後を非撓性底(1)で支持する接地面(2)の前後方向の垂直断面形状が、中心点が垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)の間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した底(1)を用いる。
【0007】
請求項3の靴は、前記底(1)の踵接地面(21)の後突出長(t)tが、水平に測って2cm<t≦10cmの範囲にある底(1)を用いる。
【0008】
請求項4の靴は、請求項1〜3記載の底(1)に前記垂直立脚点(p3)から前後方向に離して前記踵接地面(21)に、または前記踵接地面(21)およびつま先接地面(22)に、接地面の外内に出入り可能にした弾性構造体の水平補助底(13)を備えて用いる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の靴の効果は、請求項3靴と重なる効果を除いて述べるが、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて着踵時に前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら地面に着踵、転がして、着踵衝撃を緩和しながら転がり移動ができることである。この時の制動に要する足回転負荷は、従来靴例に比べ同等であるか、あるいは3分の1以下と小さい(図16bと図17bの比較から、詳細説明は省略)ため、安定支持しながら転がし移動できる。
【0010】
請求項2の靴の効果は、請求項1の靴効果と同様に、踵底接地面(21)で着踵衝撃を緩和しながら転がり移動できるが、さらに、積極的につま先側まで転がして接地面(2)の連続する転がり移動を付加できる。即ち、二脚歩行しながら、積極的に足回転して、接地面(2)の連続する転がり移動を付加できることである。
【0011】
請求項3の靴の効果は、従来靴の概念では踵底(11)の後突出部(111)は足保護と体重支持の点から踵後突出長(t)のt>2cmは不要の長物と云えるものであったが、本請求項3の手段と方法を使うと、歩行動作の人体構造上から生じる股関節(H)の上下動に対して、発生段階で逆方向の上下動を相殺すように付加することができるようになり、顕著に小さく押えることができることである。
中でも効果の顕著な請求項3の中の請求項2の実施例で述べると、体重心の無駄な上下動が小さいため、着踵衝撃が小さく効率のよい歩行推進ができること、かつ車輪面状の接地面(2)を足脚動作で車輪のように地面に転がして効率の高い転がし推進ができ、接地面(2)形状の工夫次第では歩幅を増せることである。その理由は、前述の手段により、支持脚の膝を曲げない直脚歩行時の股関節(H)が静止直立時の股関節高さ(h)に対して開脚で低下する高さ変動分即ち上下動高さ(Δh)を、接地面(2)を支持脚の下端にある足の回転動作で操り地面に押し当て転がし増幅移動しながら、補って、脚上端にある股関節(H)を静止直立時の股関節高さ(h)を一定に近づけて支持することができる。詳しくは、歩行行程において、脚支持される股関節(H)は静止直立時の股関節高さ(h)に対して支持脚が前後に傾斜開脚すると機構的に低くなるが、下凸湾曲接地面(2)の底(1)履いて足背屈底屈回転動作を行うと、その接地面(2)の前後に突出する端部が、踝(K)を中心に回転降下し地面を押して踝(K)位置を高め、脚を介して股関節(H)を押上げ、開脚で低くなる高さ変動分即ち上下動高さ(Δh)を補って股関節(H)を一定高さに近づけて支持することができる。そして、下凸湾曲接地面(2)の形状を歩行動作仕様条件に対応させて上記股関節(H)を一定の高さに支持可能な形に決めると、支持脚動作(着踵・踏切り、重心移動、踏切り)の全工程で股関節(H)を一定高さに支持しながら脚膝を伸ばしたままの直脚支持で、脚足で接地面(2)を地面に転がして効率的に進むことができる(図12〜15参照)。従来靴例ではおおよそ、図17の(b)に示すように上下動が生じている。
【0012】
請求項4の靴の効果は、湾曲踵底接地面(21)および湾曲接地面(2)の転がり性能を確保しながら、偶発的な自然転がりを防止して、水平面上に安定して垂直静止立ちできる。
【0013】
また、なかでも請求項2の靴は、下凸湾曲底(1)を両足に履いて歩きなが前記底(1)を地面に転がして移動する靴であり、身体および筋肉の使い方が従来靴とは大きく異なる。したがって、従来靴とは異なった平行感覚訓錬や足腰運動訓錬の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 本発明第1実施形態の実施例1で、可撓性つま先接地面(22)平置靴で踵接地面(21)が踵底(11)の後方に突出する湾曲踵底靴の立面図
【図2】 図1の、下から見た平面図
【図3】 本発明第1実施形態の実施例2で、接地面(2)断面が、中心が踵と膝の間の点で半径がその高さの円弧でなる湾曲踵底靴の立面図
【図4】 図3の、下から見た平面図
【図5】 本発明第1実施形態の実施例3で、接地面(2)断面が、中心が膝で半径がその高さの円弧でなる湾曲踵底靴の立面図
【図6】 図5の、下から見た平面図
【図7】 本発明第1実施形態の実施例4で、接地面(2)断面が、中心点が静止直立時の股関節(H)で半径がその高さ(h)の円弧でなる湾曲踵底靴の立面図
【図8】 図7の、下から見た平面図
【図9】 本発明第2実施形態の実施例1で、踵後突出が小さく、踵接地面(21)断面が、中心点が踝膝間の点で半径が中心点高さの円弧である湾曲踵底靴の立面図(平面図省略)
【図10】 本発明靴の比較基準となる代表的な従来靴例の立面図(平面図は省略)
【図11】 歩行状態と歩行動作サイクルの関係図(説明用)
【図12】 第1実施形態の実施例1の歩行動作状態図
【図13】 第1実施形態の実施例2の歩行動作状態図
【図14】 第1実施形態の実施例3の歩行動作状態図
【図15】 第1実施形態の実施例4の歩行動作状態図
【図16】 第2実施形態の実施例1の歩行動作状態図
【図17】 従来靴例の歩行動作状態図(説明用)
【図18】 本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図
【図19】 靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図
【図20】 円弧状接地面靴の推進力(F)作用図(説明用)
【発明を実施するための形態】
【第1実施の形態】
【0015】
実施の形態は、便宜上から、非撓性の下凸湾曲の踵底(11)の踵後突出長(t)tを基に、2cm超えとそれ以下の2形態に分ける。
第1実施の形態は、非撓性の下凸湾曲の踵底(11)に、踵後突出長(t)tが2cm<t≦10cmの範囲に特定して後方に長く突出した、従来靴には見られない、後突出部(111)を備える。前記踵底(11)踵接地面(21)の前後方向の垂直断面の垂直立脚点(p3)以後の形状は、中心点が前記垂直立脚点(p3)の垂直線上の股関節(H)中心点と踝中心点の間にあり曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である。そして、上述の下凸湾曲踵底(11)を特徴とする底(1)靴である。また、前記踵接地面(21)形状は効率的歩行動作に要する必要条件を満たすものである。
そして、正常立脚の姿勢で支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて股関節(H)高さが静止直立股関節高さ(h)に対して開脚で低下する股関節高さ変動分を、支持脚の下端にある足の回転動作で接地面(21)を回し操り、補って、支持脚上端にある股関節(H)を静止直立時の股関節高さ(h)に近づけて支持し股関節(H)即ち体重心の上下動の幅を小さく押えながら効率的に歩行できる。
【実施例1】
【0016】
実施例1は、第1実施の形態の第1代表である、可撓性つま先底(12)を特徴とした中央底部上窪みの平置き型、踵後突出長(t)t=8cmとした後長湾曲踵底(11)靴の1例で、股関節(H)の上下動を理想的に小さく押えて効率的な歩行ができる。以下、実施例に適用される履用者脚足サイズ諸元は説明の都合から後述する歩行動作モデルの諸元(段落0022)に合せてある。また、靴は左右対称であるため、全実施例について右側のみを図示する。
図1は本発明第1実施形態の実施例1で、可撓性つま先接地面(22)平置靴で踵接地面(21)が踵底(11)の後方に突出する湾曲踵底靴の立面図である。図2は図1の、下から見た平面図である。構造について説明すると、従来靴例の図10本発明靴の比較基準となる代表的な従来靴例の立面図(平面図は省略)と同様に、踵底(11)とつま先底(12)を一体に構成した中央底裏上凹み形の底(1)である。踵底(11)はtで示す後方に踵後突出長(t)がt=8cmの非撓性の後突出部(111)を持つ長踵底の例で、それ以外の部分は従来靴例と同一構造である。つまり、従来靴例のt=2cmの踵底(11)を水平距離で後方へ(8−2)=6cm延長させた靴である。そして後突出踵底(111)は、下面の接地面(21)は図から分るように断面が後端に行くにしたがって曲率半径が小さくなる下凸湾曲線(後述する歩行モデル解析で足背屈負荷が小さく足操作し易い代表的な曲線)の例である。踵底(11)の材質は従来靴例踵底(11)材質と同じで良い。底(1)の上面に位置する接足面(3)は、地面(GL)線に対してつま先下がりの方向に、つまり接足面傾斜角度(α)がα=5°傾斜している。底(1)上部の甲皮(4)は後部の後突出踵底(111)を支持する部分を除くと従来靴例と全く同じである。また甲皮(4)内の履用時の足脚(a)を2点破線、母趾関節(B)と踝(K)の位置を点で示した。足を固定する甲皮(4)の締結具は最も一般的な紐方式である。つま先接地面(22)は無負荷時を2点細破線で示し、踏込み、踏切りの負荷を受けて母趾関節(B)直下位置辺りから足指に沿って上に曲って支持する位置を、ハッチングを付して太実線で示した。その上端のつま先離地点(p2)は、中股歩行時のものであるが、後段の歩行性能解析に使うために示した。踝(K)の垂直下の地面(GL)接点が垂直立脚点(p3)である。
【0017】
次に本実施例1の靴の使い方を、本発明者が考案した歩行モデルの解析結果である図12 第1実施形態の実施例1の歩行動作状態図の(a)に基づいて説明する。但し、「歩行モデルの技術背景と用語」および「歩行モデルの諸元」については、後の段落(0021)および段落(0022)に記述した通りである。
この歩行モデルは理想的な基本歩行である直脚歩行の成立する脚足、靴および動作の諸条件を定めるためのモデルである。歩行運動を、遊脚足は省略して身体を支える支持脚足の基本動作のみに焦点を当てて、動作を単純化したモデルあるが、歩行の基本動作を充分に解析できる。直脚歩行とは、身体を支持する支持脚の上腿および下腿を膝を曲げないで真直ぐに伸展した状態の脚(以後、直脚と呼ぶ)で、上腿部の大きな筋肉を使い、膝屈伸することなく、着踵・踏切り、重心移動、踏込みの歩行動作サイクルを回して、力強く、長く、楽に、歩く歩行方法のことである。条件が整うと、無駄のない理想的な基本歩行となるものである。
先ず本図12の概要を説明する。図1,2に示す本実施例の靴を縮尺1/10の靴モデル(g1)にモデル化し、中股歩行の脚傾斜角度(β°)−20≦β≧20の範囲を対象に作図して、その歩行運動性能特性を解析したものである。(a)は股関節(H)を基準として固定し、直脚(f)、靴モデル(g1)および地面(GL)を動かして作図した図であり、股関節(H)を一定に支持して歩行する直脚(f)、足の動きと靴モデル(g1)形状の必要条件や特性が分る。(b)は地面(GL)を基準として固定し、股関節(H)、直脚(f)および靴モデル(g1)を動かして作図した図で、股関節(H)位置の推移、歩行時の直脚(f)と靴モデル(g1)の動作状態、底(1)接地面(2)接地状態および歩幅等の歩行性能が分る。そして本図12の(a)、(b)の図から、本実施例は、股関節(H)即ち腰部を水平に支持して直脚歩行することが可能と分る。着踵〜垂直立脚の間、接地点s1、s2、s3を緩やかに結んだ湾曲線の踵接地面(21)が地面(GL)上を転がりながら、前記踵接地面(21)の靴モデル(g1)と直脚(f)で股関節(H)を垂直立脚時の股関節高さ(h)に支持する時に必要な踝(K)回りの足背屈回転力は、即ち(踝と接地点の水平距離×体重)はほぼ従来靴例(図17参照)同等に小さいため、容易に足操作して股関節高さ(h)を一定に支持しながら、直脚歩行ができる。その性能は、図18本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、股関節上下動高さ(Δh)Δh=0、歩幅(L)L=66.5cmで、従来靴例のΔh=2cm、L=63cmに比べ明らかに優れている。
詳細を説明すると、(b)の状態図は、上方の小円で示す股関節(H)と下方の点で示す膝(Z)と踝(K)の3点を結ぶ一点鎖線が直脚(f)で、その下のg1が靴モデルで底(1)接地面(21)形状と支持脚足の動作状態即ち着踵・踏切り、重心移動、踏込み動作の脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)と股関節(H)の移動経路と歩幅(L)の関係を表している。股関節高さ(h)はh=86cmに一定に支持できて右から左へ直脚歩行できる様子が分る。支持脚足の動作状態の脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)は(β°,γ°)表示で図の右から左への順に(0,5)、(10,1)、(20,12)、(23,7)、(−20,−18)、(−17,−8)、(−10,0)、(0,5)となっている。その凡例は本図12(b)の右の図の通りであり、また本実施例の解析結果の要点は図右下の通りである。付記するが、二重支持長さ(D)は普通一般人の歩行では歩幅の約10%あれば安定した歩行ができると言われているため、歩幅の10%のD=6cm間を両脚で身体を支えることができれば充分に安定歩行ができるものと判断し、それを矢印付太線で図中に示した。ただし、本実施例のように体重心の上下動高さ(Δh)Δhがゼロであれば、二重支持長さ(D)はもっと短くて済むものと思われるが、本解析結果に反映させてはいない。体重心を安定的に後脚から前脚へ受け渡して行く体移動動作即ち二重支持期間の脚足動作が歩行の重要点であるため、下記に詳しく述べることにする。直立時の高さを維持支持してきた後脚足(β,γ)を脚後傾斜β=20°,足底屈γ=12°で踏切り開始しながら、前脚足(β,γ)を脚前傾斜β=−20°,足背屈γ=−18°で着踵開始して両脚足で二重支持する。両脚足連動で、二重支持を行い股関節(H)高さ一定支持しながら、後脚足を脚後傾斜β=23°へ3°広げ、足回転角度γ=7°まで5°足背屈し、同時に、前脚足を脚後傾斜β=−17°へ3°狭め、足回転角度γ=−8°まで10°足底屈して前脚足へ体移動完了させる。この間の股関節(H)の移動距離が二重支持長さ(D)D=6cmである。このように二重支持の後脚足動作(β,γ)・前脚足動作(β,γ)を(20,12)・(−20、−18)から(23,7)・(−17、−8)へ、股関節(H)高さを一定に支持するように実行すると、理論的には股関節高さ(h)の上下動高さ(Δh)Δh=0の直脚歩行ができる。実際に直脚歩行するには、当然ながら動作要領を熟知して、次の段落(0018)の要領で小股歩行から徐々に歩幅を広げて中股歩行、大股歩行まで訓練して、体得する必要がある。
【0018】
直脚歩行の要領は、前脚足の踵底(11)を前方に20°背屈、押出したままの、脚を真直ぐに伸ばした状態の直脚で前方の上方から体直下へ向けて地面を踵底(11)後端部の接地点(s1)で叩くような気持ちで一気に振り下ろして体重を載せて踵底(11)を転がすと、身体は上下動なしにスムーズに後脚から前脚に移動できる。当然、この基本歩行動作は理解するだけでなく、訓練して体得する必要がある。
【0019】
また、比較評価のため、図17従来靴例の歩行動作状態図(説明用)を示す。従来靴例は、図10に示すように、本実施例1の踵底(11)の後突出部(111)が無い踵底で、その外は本実施例1と同一である、踏切り時につま先部の根元部の母趾関節(B)下でつま先底(12)が柔軟に曲る靴例である。従来靴例は、本図17の(b)から、膝を伸ばした状態のまま中股歩行の脚傾斜角度(β°)−20≦β≧20で直脚歩行を行うと、股関節(H)は機構的に約2cm程度上下に波打つことが分る。また、本図17(a)の左下のΔhは、脚傾斜角度(β°)β=−25、−30に対応した股関節(H)の上下動高さ(Δh)を示したもので、その値は図19靴モデル別、前方脚傾斜角度(β°)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図に他実施例と共に列記してある。それらから、大股歩行の脚傾斜角度(β°)β≧−25,−30で直脚歩行すると、股関節(H)位置は機構的に約5cm,8cm程度上下に波打つことが、(b)地面(GL)基準の大股歩行の歩行動作状態図は省略してあるが、分る。従来靴例での大股歩行の直脚歩行は普通体力の一般人にとっては、各関節や脊柱への衝撃等が大きくて不向きであり不可能である。更に着踵脚の支持状態を詳しく見ると、着踵〜垂直立脚間の脚足動作は、支点が着踵点(p1)から垂直立脚点(p3)へ飛ぶ支点急変と足回転負荷の急変が伴うため、図示通りの動作はやや難しい。言い換えると、図示通りの動作ができずに着踵時に靴モデル(g6)が水平位置まで回転してしまうと股関節(H)の上下動(Δh)は約5cmになってしまう。
【0020】
これに対して、本実施例は、図12第1実施形態の実施例1の歩行動作状態図および図19靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図、から脚傾斜角度(β°)β≧−25の大股歩行時でも股関節(H)を、踵底(11)の足回転操作で上下動高さ(Δh)をほぼ2cm以内に抑えて直脚歩行ができる特性がある。また、靴底長は後突出部(111)が付いて32cmと従来靴例より6cm長く、その分、立振舞いに少し不具合はあるが、歩幅(L)はL=66.5cmと広い。同じ開脚幅(δ)条件の従来靴例(図17参照)履用の歩幅(L)L=63cmに対し3.5cm、約6%の歩幅増となっている。
要約すると、本実施例は、股関節(H)を一定高さに支持して着踵・踏切りができるため、着踵時の衝撃、無理な負荷、エネルギーロスが小さく、効率的で快適壮快な直脚歩行ができる湾曲踵底靴の代表である。
【歩行モデルの技術背景と用語】
【0021】
歩行運動とは、動作の間、走運動のような両足が地面から離れる滞空時間は発生することなく常に「片方の足が地面に接している」状態に保たれる移動運動のことで、歩行前進とは、両方の足の役割を交互に入換えて前へ進むことである。そして片方の脚で体重を支持し、反対側の脚が前へ振り出される動作の繰返しとなっている。
図11歩行状態と歩行動作サイクルの関係図(説明用)は、歩行運動を地面と足部の2底(1)とそれを支える2脚とその2脚の回転支点である股関節(H)の関係とを、それらの概略の動き状態を分析できるレベルの動作単位に分解、定義して目で見て分るように整理したものであり、歩行動作モデルと前述の「歩行動作状態図」の基礎になっている考え方である。詳しくは、体重を支えている側の脚を立脚といい、反対に、振り出されて空中にある脚を遊脚と云う。また、両足が同時に接地している状態を「二重支持」といい、この時の前脚足で着踵(以後「着踵」と呼ぶ)しながら、後脚足はつま先で立脚した状態から踏込み離地完了するまでを「踏切り」と呼び、踏切り後の片足立脚状態で前脚足に体重を掛けながら離地し浮遊している後脚足を身体へ引戻して(以後、この時の遊脚の動きを「足戻し」と呼ぶ)、前脚足に掛かる重心を足前方部の中足へ移す(目安として脚前傾角度10°ゾーン)までの支持脚の動きを「重心移動」と呼ぶことにする。重心移動後の片足立脚状態で遊脚を前方へ送り(以後、この時の遊脚の動きを「足送り」と呼ぶ)ながら、さらに脚を前傾させながら足を底屈(踝を支点として、つま先を下げる方向へ回す)して足つま先部へ体重を掛ける動作を「踏込み」と呼ぶことにする。二重支持期の時間は、歩行の1サイクルのおよそ10%を占め、残りの90%はどちらかの片脚立脚で体重を支えて「重心移動」しながら他方の遊脚となった脚を「足戻し」しているか、「踏込み」しながら遊脚の「足送り」をしている状態になっている。このように、歩行の間、それぞれの脚は、二重支持期→立脚期→二重支持期→遊脚期→の▲1▼▲2▼▲3▼を繰返していることになる。
即ち、後脚「踏切り」前脚「着踵」が「二重支持期」で、この期間中に後脚から前脚へ体重心が移動して、後脚は「踏切り」完了時点で体重が抜け切れて遊脚になると同時に、前脚へ体移動して前脚立脚となる。そして前脚立脚で体を支えながらその体重を足の踵部から中足部へ「重心移動」し、さらに体重心を中足部から前方のつま先部に移動させて踏み込む「踏込み」までが「立脚期」である。つま先離地した浮遊の後脚足を「足戻し」して「足送り」し、さらに前方空中に蹴り出して「着踵」する直前までの期間が「遊脚期」となる。歩行動作サイクルは、本図11の下の歩行動作サイクル図に示すように、右と記した支持脚足の「着踵」「重心移動」「踏込み」の3連動作と左と記した遊脚足の「踏切り」「足戻し」「足送り」の3連動作の対の動作▲1▼▲2▼▲3▼を、左右交互に入換ながら繰返す形となっている。
【歩行モデルの諸元】
【0022】
履用者の脚足および靴(履物底)に関する、人体機構学的に歩行運動性能に大きく影響する要素を抽出、整理して、下記の通り、歩行モデルの前提諸元とした。履用者の「直脚長、踝高、足長さ」は一般人の1例でモデル化し、他の諸元の影響を見るため、一定値に固定してある。ただし、直脚長(入力データ)がモデル前提と大きく異なる場合は、実用的な近似解として、解析結果の長さ諸元(出力データ)を歩行動作モデル前提の直脚長に対する実直脚長の比に正比例させて利用することができる。しかし、厳密に解析するためには、または特殊諸元に対する直脚歩行に適した解を求める場合には、必要に応じて前提諸元を入換えて、新たに作図し解析すべきである。
前提諸元:
・直脚(f)長 75cm(股関節(H)脚回転中心点から踝(K)足回転中心点までの長さ)。
・踝高さ(k) 8cm(踝(K)足回転中心点から水平面静止立脚時の足裏水平線までの長さ)。
・足長 24cm(水平面静止立脚時の踵後端からつま先端までの長さ)。
・脚傾斜角度(β) 股関節垂直線に対し後方開きを+側とし、−30°〜+40°間の変数。
・足回転角度(γ) 脚長さ方向に直交する足長さ方向線を基準線として、つま先を底側へ底屈する方向を+とし、−20°〜+40°間の変数。
・靴モデル(g) 実施例の底(1)接地面(2)を縮尺1/10でモデル化する。作図し解析して、靴の歩行運動性能の特性を調べることができる(図12〜17参照)。
・接足面傾斜角度(α) 水平面静止立脚時において、水平が0°、つま先下がりが+側である変数。
・底厚(c) 垂直立脚点から水平面静止立脚時の足裏水平線までの距離、靴モデル(g)で決まる。
上記の脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)の設定範囲は、普通一般人の解剖学上または肉体能力的に無理なく作動できる範囲に留めたものである。
【0023】
本実施例の踵接地面(21)断面形状について、着踵〜体重移動(垂直立脚位置まで)動作時の最大足背屈負荷を従来靴並みに抑制する形状の決め方の一例を述べる。
先ず、図1の長さt=8cmの後突出部(111)の付いた踵底(11)に対して3接地点(s1,s2,s3)の位置を想定される形状を考慮して後端から0cm,4cm,6cmの3位置に決めて垂線を立てる。次に、3接地点の高さを決めるために、中心点が静止垂直立脚(p3)の垂直線上の股関節(H)中心点と膝(Z)踝(K)中間点の間にあって、半径がその中心点の地面からの高さ長である3円弧即ち中心点が膝(Z)踝(K)中間点と膝(Z)と股関節(H)の3点で垂直立地点(p3)を通って3接地点位置を横切る3円弧を描いて高さを求める。本実施例では履用者モデルの寸法を使って3接地点(s1,s2,s3)候補の半径R1,R2,R3が28.5cm,46cm,86cmの3円弧を描いて3接地点(s1,s2,s3)位置の高さを求めた。次にそれらの高さを、全体の形状バランスを評価し寸法を調整し、やり直ししながら高さを決定する。本実施例では半径R1,R2,R3を35cm、46cm、86cmの3円弧の前記垂線との交点高さを3接地点(s1,s2,s3)の高さとした。最後に3接地点(s1,s2,s3)および垂直立脚点(p3)をなだらかな曲線で結んで接地面(21)湾曲線とする。
この接地面(21)湾曲線が着踵〜体重移動(垂直立脚位置まで)動作時の足背屈負荷を従来靴例並の適度な大きさに抑制する形状となっている(図12b参照)。接地点(s1)の曲率半径(R1)は、小さい方が、足背屈負荷が小さくなり足操作が容易となること、接地点(s3)および垂直立脚点(p3)の曲率半径(R3)は大きい方が踵底(11)厚を低くできることを考慮して3接地点(s1,s2,s3)の位置と高さを決定している。
【実施例2】
【0024】
実施例2は、第1実施の形態の第2代表である、全底が非撓性で踵後の長い底(1)を特徴とした平置きできない車輪面状の湾曲底(1)靴の1例目で、着踵や転がしの操作性、加速性に優れた代表的な高速中小股歩行用の湾曲踵底靴である。踵後突出長(t)がt=8cm長で、底(1)接地面(2)が、前後方向の垂直断面の形状が半径(R)R=31cmの円弧から成る車輪状の下凸湾曲面である、云わば車輪底靴である。
そして股関節(H)の上下動を小さく押えて、二脚で歩行移動しながら効率的に足回転動作で接地面(2)転がし移動できる。
図3は本発明第2実施形態の実施例1で、接地面(2)断面が、中心が踵と膝の間の点で半径がその高さの円弧でなる歩行用靴の立面図、図4は図3の、下から見た平面図である。
図に示した接地面(2)は、接足面傾斜角度(α)α=0°の踵後突出長(t)tが8cmでつま先長さが1cm程度の長さである底(1)全長に渡って4cm一定幅の車輪面状に設けた例である。そして「その接地面(2)前後方向の垂直断面が、中心点が静止垂直立脚中心線上の膝(Z)と踝(K)の間にあって、半径(R)がその中心点の地面からの高さ長の円弧である」の条件を満たし、かつ接足面傾斜角度(α)α=0°で踵後突出長(t)tが8cmの底(1)接地面(2)のバランスの良い形状を満たす最小半径のR=31cmの円弧で成っている。上記「」条件の由来は「足上下回転の増回転操作で踝高さ(k)増できる踝高さ(k)より長い半径(R)で、かつ足操作性の良い、より短い半径(R)である」の条件からきている。言換えると本実施例靴の接地面(2)は股関節(H)高さ一定支持操作ができ、かつ操作性が良い形状に設定したものである。接地面(2)部分は例えば合成ゴム製のタイヤ面で、プラスチック材や金属材で構成されたスケート靴の様な剛性の底(1)中層部に強固に固定支持された約40°円弧状の転がり易い面で自転車のタイヤ同様に滑り防止の溝を設けることが好ましい。垂直立脚点(p3)は安定静止立脚用の位置ではなく転がり面の一点(線)であり、静止立脚する時は常に足首(踝)で制動を掛けバランスをとって立つ必要がある。そして底(1)は上部のつま先部の母趾関節(B)下辺りの側面につま先部固定用のバンド式締結具(52)と踵部下辺りの側面に足首固定用のバンド式締結具(51)を備えている。この靴緊締具(5)は図に示すつま先部と踵部の2ヶ所を固定して足裏が靴の接足面(3)に密着して力がどの方向から掛かっても位置ずれしないようにした構造のものが好適である。
甲皮(4)は一般的にある紐式の緊締具の付いた従来型例である。
【0025】
性能特性については、図13第1実施形態の実施例2の歩行動作状態図の(b)を見ると、接地面(2)形状と支持脚足の動作状態、即ち脚傾斜角度(β)および足回転角度(γ)と股関節(H)の移動経路と歩幅(L)の関係状態が分かる。図13および図18本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、支持脚の傾斜角度(β)β=−15°〜+20°の範囲の開脚幅(δ)δ=35°の小股開脚範囲は股関節(H)高さを一定に支持して、直脚歩行で歩幅(L)L=65cmを達成できる例である。歩幅(L)は第1実施の形態の実施例1より1.5cm程短いが、小股開脚歩行でありながら中股開脚歩行例の従来靴例より接地面(2)転がり移動が加わって2cm増歩幅となっている。
次に、上述の股関節(H)高さを一定に支持する条件を少し緩めた時の歩行の開脚幅(δ)と性能特性の関係を述べると、(a)の股関節(H)基準の図の左下の靴モデルg2の下方に、着踵脚足の脚傾斜角度(β)=−20°,−25°,−30°に対する上下動高さ(Δh)が図示してあり、その値が図17のg2列に表記してある。脚傾斜角度(β)=−20°の中幅歩行時の股関節(H)上下動高さ(Δh)はΔh=1cmと小さく、実際の歩行では区別付かない数値差である。したがって、Δh=1cmの上下動高さ(Δh)を伴うが、実用的には股関節(H)をほぼ水平支持してさらに10cmほど歩幅(L)の広いL=75cmの直脚歩行ができる靴と云える。
【0026】
接地面(2)断面円弧形の円弧半径(R)と転がり移動の推進力の関係を述べる。図18円弧状接地面靴の推進力(F)作用図(説明図)を見ると、(a)図は半径(R)Rの円弧断面の接地面(2)の靴を履いて身体を前傾させて体重(M)を、接地点(s)より、重心偏り(X)Xだけ偏らせて足裏作用点(p5)に掛けて立脚した状態図で、靴の接地面(2)の接地点(s)にFの推進力(F)が働いている図である。この時の各ベクトルR,X,M,Fの大きさの関係は(b)図の関係にある。この関係を式にすると、(c)式:F=M×X÷Rになる。推進力(F)は接地面(2)の半径(R)が小さいほど大きく働くことが分る。因みに、本実施例の踏込み距離X=8cmの時に働く転がり推進力(F)は(d)の靴モデルg2列で、F=14.5重量kg・cmであり、本実施例1はつま先に体重をかけることにより従来靴には無い推進力が本発明実施例の中で最も大きく得られる例である。
【0027】
本実施例2の靴使用の要領は、安定歩行の要である▲1▼着踵・踏切りの二重支持の動作条件を守って直脚歩行することで、その要点は(b)図から読取ると、立脚の脚傾斜角度(β)β=10°辺りは余り足底屈しない踏込みを行い、後脚足・前脚足の踏切り・着踵の二重支持動作を(β,γ)・(β,γ)で表すと、(20,23)°・(−15、−18)°から(23,30)°・(−12,−15)°へ、後脚足は体重支持しながら一気に足底屈23°→30°の動作をして踏切り、前脚足は体重支持割合を増やしながら足背屈動作を−18°→−15°へ3°だけ緩やかに戻して着踵し、この間に股関節(H)の高さを一定に支持しながら二重支持長さ(D)D=6cmの股関節(H)移動を行い、前脚足へ体移動して、次の体重移動動作に移ることである。この着踵時に脚足に掛かる足背屈力の負荷(地面接地点と踝間の水平距離(x)×体重)は、図の靴モデルg2の着踵状態を見ると、地面接地点と踝間の水平距離(x)が一般の人が耐え得る許容長さの8cm前後程度と同等に短い許容範囲の負荷であり、着踵しようとする脚足は足背屈負荷に抗して自由に足回転角度を操作して股関節(H)の高さを一定に支持しながら着踵することができる。
直脚歩行の要領は、前脚足の底(1)を前方に15°〜20°背屈、押出したままの、脚を真直ぐに伸ばした状態の直脚で前方の上方から体直下へ向けて地面を底(1)後端の接地面で叩くような気持ちで一気に振り下ろして体重を載せ、身体は上下動なしにスムーズに後脚から前脚に移動させることである。当然ながら、実用するには前述の要領を熟知するだけでなく、スケートやローラースケート、一輪車と言った他の乗物同様に、小股歩行から中股歩行までを少しずつ時間を掛けて試行、訓練して、体得する必要がある。
【0028】
要約すると、股関節(H)の高さを一定に支持して、2脚歩行で移動しながら足の底屈回転で底接地面(2)転がし移動する、着踵衝撃が小さく効率的で快適壮快な直脚歩行ができる転がし推進力の大きい中小股歩行用の湾曲踵底靴の代表である。
【実施例3】
【0029】
実施例3は、第1実施の形態の第2代表である、全底が非撓性で踵後の長い底(1)を特徴とした平置きできない車輪面状の湾曲底(1)靴の第2例目で、健脚の高速中距離向けの中股歩行用の湾曲踵底靴である。踵後突出長(t)がt=8cm長で、底(1)接地面(2)が、前後方向の垂直断面の形状が半径(R)R=43.5cmの円弧から成る車輪状の湾曲面で、云わば車輪底靴である。そして、実施例2同様に股関節(H)の上下動を小さく押えて、二脚で歩行移動しながら効率的に足回転動作で接地面(2)転がし移動できる。図5は本発明第1実施形態の実施例3で、接地面(2)断面が、中心が膝で半径がその高さの円弧でなる湾曲踵底靴の立面図であり、図6は図5の、下から見た平面図である。図に示した接地面(2)は接足面傾斜角度(α)α=5°の踵後突出長(t)tが8cmでつま先長さが1cm程度の長さである底(1)全長に渡って4cm一定幅の車輪面状の転がり接地面(2)を設けて、「その接地面(2)前後方向の垂直断面が、中心点が静止垂直立脚中心線上の膝(Z)にあって、半径(R)がその中心点の地面からの高さ長の円弧である」条件を満たし、かつ接足面傾斜角度(α)α=5°で踵後突出長(t)tが8cmの底(1)接地面(2)としてバランスの良い形状で最も広角度の足回転の動作をして接地面(2)転がり移動して歩幅増できる半径のR=43.5cmの円弧で成っている。言換えると本実施例靴は前記実施例2よりも半径が大きく操作性がやや悪いが歩行効率が良い即ち健脚で広歩幅の高速中距離用に適した接地面(2)半径に設定した例である。その構造は、実施例2と同じ部分は説明を省略して、相違点を説明する。相違点は接足面傾斜角度(α)を、着踵脚足の有効背屈角度幅をより大きできるようにα=5°に傾けて、かつ接地面(2)断面形状円弧の半径(R)をより大きい膝高さ(z)長に設定した、健脚で広歩幅の高速中距離用に適した湾曲踵底靴の代表である。
【0030】
本実施例の性能特性ついては、図14第1実施形態の実施例3の歩行動作状態図に基づいて実施例1と異なる部分について説明する。図14および図18本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、支持脚の脚傾斜角度(β)β=−20°〜+20°の範囲は股関節(H)の高さ(h)を一定に支持して、着踵・踏切りを二重支持長さ(D)D=7cm間で、前脚の脚傾斜角度(β)β=−20°からβ=−17°と足回転角度(γ)γ=−18°からγ=−7°、および後脚の脚傾斜角度(β)β=20°からβ=23°と足回転角度(γ)γ=17°からγ=8°へ脚足動作を行って、中股開脚幅で直脚歩行すると歩幅(L)L=72cmを達成できる。実施例1よりも7cm長く、また従来靴例よりも9cmほど長い。これは、接足面傾斜角度(α)をα=5°に増やしかつ接地面(2)半径(R)をR=43.5cmに大きくして、着踵接地面(2)を前方へ多く足背屈回転し踏切り・着踵しているためである。
次に、上述の股関節(H)高さを一定に支持する条件を少し緩めた時の歩行の開脚幅(δ)と性能特性の関係を述べると、(a)の股関節(H)基準の図の左下のg3の下方に、着踵脚足の脚傾斜角度(β)=−25°,−30°に対する上下動高さ(Δh)を図示し、その値を、図19靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図、のg3列に表記した。脚傾斜角度(β)=−25°の大幅開脚時の股関節(H)上下動高さ(Δh)はΔh=2cmであり、実用的には股関節(H)を上下動高さ(Δh)Δh=2cmを伴い、不安定となるが歩行可能範囲であると思われる。さらに10cmほど歩幅(L)の広いL=80cmも達成可能な直脚歩行型の靴と云える。
要約すると、股関節(H)を一定高さに支持して、2脚歩行で移動しながら足の底屈回転で底接地面(2)転がし移動できる、着踵衝撃が小さく効率的で快適爽快な直脚歩行ができる健脚向け高速中距離に適した中股歩行用の湾曲踵底靴の代表である。
【実施例4】
【0031】
実施例4は、第1実施の形態の第2代表である、全底が非撓性で踵後の長い底(1)を特徴とした平置きできない車輪面状の湾曲底(1)靴の第3例目で、健脚向けの高速省エネルギー型長距離歩行に優れた中大股歩行用の湾曲踵底靴である。踵後突出長(t)がt=8cm長で、底(1)接地面(2)が、前後方向の垂直断面の形状が直立時の股関節高さ(h)を半径(R)とするR=h=86cmの円弧で成る車輪状面で、云わば股関節(H)を軸とした車輪面底靴である。その最大の特徴は足首を殆ど固定したままの直脚歩行で下凸の車輪状湾曲面の接地面(2)を地面に転がし移動しながら歩行できることである。そして、実施例1〜3同様に股関節(H)の上下動を小さく押えて、二脚で歩行移動しながら効率的に足回転動作で接地面(2)転がし移動できる。図7は本発明第1実施形態の実施例4で、接地面(2)断面が、中心点が静止直立時の股関節(H)で半径がその高さ(h)の円弧でなる湾曲踵底靴の立面図で、図8は図7の、下から見た平面図である。
構造を述べると、接足面傾斜角(α)α=5°で、接地面(2)が股関節(H)を中心点とした股関節高さ(h)を半径(R)とするh=R=86cmの円弧からなっている。
【0032】
そして、垂直立脚点(p3)を挟んで前後に図8に示すような接地面(2)幅の中央部に突起させて水平補助底(13)を設けて、自然転がりを防止して平らな地面に安定静止立ちできるようにした例である。水平補助底(13)は、ゴムスポンジ体、空気室、バネ内蔵弾性構造体等で、例えば体重の50〜80%以上の負荷が掛かると接地面(2)中に凹んで隠れてしまうようにしたもので、接地面(2)の地面転がり時に、体重負荷が掛かると接地面(2)中に押し込まれて隠れ、負荷が抜けると元に戻る、転がり推進に支障の無いものである。また、前述の後側の水平補助底(13)は靴底の水平支持を補助するばかりでなく、着踵および体重移動動作時に、前記水平補助底(13)が無い場合に比べて突起部が早く接地して、2点支持の形で体重支持を補助し足背屈負荷を軽減する働きをする。
その他の構造は実施例2〜4共通であり、説明は省略する。
【0033】
本実施例の性能特性ついては、図15第1実施形態の実施例4の歩行動作状態図に基づいて実施例1、2と異なる部分について説明する。
本図15および図18の本発明の実施例1−1〜4,2−1、従来靴の諸元および性能一覧図から、支持脚の脚傾斜角度(β)β=−20°〜+20°の範囲は股関節(H)の高さ(h)を一定に支持して、着踵・踏切りを二重支持長さ(D)D=6cm間で、前脚の脚傾斜角度(β)β=−20°からβ=−17°と足回転角度(γ)γ=−5°からγ=6°、および後脚の脚傾斜角度(β)β=20°からβ=23°と足回転角度(γ)γ=9°からγ=14°へ脚足動作を行って、中股開脚幅で直脚歩行すると歩幅(L)L=63cmを達成できる。実施例1よりも2cm、実施例2よりも9cm短く、従来靴例とは同じ歩幅である。このように歩幅(L)性能は数値上からは余り優れてはいないが、実質的な歩行移動効率は足首運動が少なく大きな筋肉運動の直脚歩行が主であり、最も省エネルギー的で優れた歩行靴と思われる。その根拠は、本実施例3においては、足傾斜角度(β)が−15°≦β≧15°の開脚幅(δ)δ=30°の小股開脚歩行の全範囲が、β=±15°の靴モデル(g4)の図が省略されているが、足回転角度(γ)がγ=5°一定の足首不動の直脚歩行は股関節(H)高さ一定、不動の移動運動になっていて、車転がり移動運動と全く同じ状態となっているからである((a)図の足傾斜角度β=−20°,0°,20°の靴モデル(g4)状態からも推測できる)。
次に、上述の股関節(H)高さを一定に支持する条件を少し緩めた時の歩行の開脚幅(δ)と性能特性の関係を述べると、(a)の股関節(H)基準の図の左下の靴モデルg4の下方に、着踵脚足の脚傾斜角度(β)=−25°,−30°に対する上下動高さ(Δh)を図示し、その値を、図19靴モデル別、前方開脚角度(β)別の股関節上下動高さ(Δh)一覧図、のg4列に表記した。脚傾斜角度(β)=−25°の中幅開脚時の股関節(H)の上下動高さ(Δh)はΔh=1cmであり、実用的には股関節(H)の上下動高さ(Δh)Δh=1cmは許容範囲であり、ほぼ水平支持して完全水平支持の歩行に比べ約10cmほど広い歩幅(L)L=73cmの直脚歩行ができる靴と判断できる。
要約すると、股関節(H)を一定高さに支持して、足傾斜角度(β)が−15°≦β≧15°の開脚幅(δ)δ=30°の小股開脚の範囲は理想歩行の「足首不動の直脚歩行」を行いつつ、着踵衝撃が小さく効率的で快適壮快な直脚歩行ができる健脚向けの高速省エネルギー型長距離歩行に優れた中大股歩行用湾曲踵底靴の代表である。
【第2実施の形態】
【0034】
第2実施の形態は、踵突出長(t)がt≦2cmで特定される従来靴並の後突出部(111)である非撓性の短めの踵接地面(21)の下凸湾曲踵底(11)底(1)靴で、前記踵接地面(21)の前後方向の垂直断面が、垂直立脚点(p3)以後が、中心点が垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と踝(K)膝(Z)中間点の間にあって垂直立脚点(p3)を通る半径(R)が踝高さ(k)+2≦R≦2×踝高さ(k)範囲の円弧で成っている靴である。
そして、前傾の立脚姿勢で直脚歩行すると、着踵時に前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら地面に着踵し転がして、着踵衝撃を緩和しながら効率的に前記踵接地面(21)転がり移動ができる。
第1実施の形態との違いは、構造上では下凸湾曲踵底(11)の後突出部(111)の踵後突出長(t)がt≦2cmで従来靴並みに短いこと、使用上では湾曲踵接地面(21)長さの短さに応じて、歩行姿勢を垂直から前傾立脚へより変化させて直脚歩行すること、の2点である。効果は第1実施の形態に比べると小さい。
【実施例1】
【0035】
実施例1は、第2実施の形態の中で従来靴によくある可撓性つま先底(12)を特徴とした中央底部上窪みの平置き型で、踵後突出長(t)t=1cmの後の短い湾曲踵底(11)靴の代表例である。前傾立脚姿勢の直脚歩行で歩くと、股関節(H)の上下動高さ(Δh)を小さく押えて効率的に歩行できることが特徴である。図9は本発明第2実施形態の実施例1で、踵後突出が小さく、踵接地面(21)断面が、中心点が踝膝間の点で半径が中心点高さの円弧である湾曲踵底靴の立面図(平面図省略)である。図に基づいて構造を説明すると、踵底(11)とつま先底(12)の2つの底面で静止立ちする靴であるが、踵接地面(21)の垂直立地点(p3)後方が半径(R)R=16cmの円弧で成る湾曲面の踵底(11)で、tで示す踵後突出長(t)が従来靴並みのt=1cmで後突出部(111)が殆ど無い靴である。接地面傾斜角度(α)がα=5°、踵高さが約3cmの例で、つま先底(12)は可撓性の底で踏み込むとハッチングを付した太実線まで撓み、太実線上の点のつま先離地点(p2)で踏切りする、ごく一般形の中央底部上窪みの平置き型の湾曲踵底(11)底(1)靴の例である。因みに、従来靴例(図10参照)との違いは、従来靴例が踵後突出長(t)t=2cmの平底形の踵底(11)であるのに対し、本実施例1は踵後突出長(t)がt=1cmの断面円弧形の湾曲踵底(11)であること、である。
【0036】
次に本実施例1の性能特性ついて、図16第2実施形態の歩行動作状態図に基づいて説明する。本実施例1は、5°前傾立脚姿勢の直脚歩行方法を前提としているところが、従来靴例と異なる。特徴はつま先底(12)を有効に活用し、踏込み踏切り動作を股関節(H)を高く支持して行う。即ち着踵は脚傾斜角度(β)を前脚β=−15°、後脚β=+25°で開始し、前脚β=−12°、後脚β=+27°で完了するモデルである。
先ず、数値上の性能特性を見ると、前提となっている脚足と直立時の股関節高さ(h)h=86cmは従来靴例と共通で、性能特性は上下動高さ(Δh)Δh=−2cm、二重支持長さ(D)D=6cmは同値で、歩幅(L)L=66cmは+3cm、脚歩幅(Lb)Lb=44cmは+4cm、底転幅(La)La=22cmは−1cmの踵後突出長(t)差によるものとなっている。歩幅(L)Lの差(+3cm)は、主に踏込み踏切り角度を大きく使ったつま先底(12)の有効利用による脚歩幅(Lb)増による。総じて、数値上の性能は従来靴例とほぼ同じである。
次に、動作状態から性能特性を、図17従来靴例の歩行動作状態図(説明用)で示す従来靴例との違いに着眼しながら見る。図16のbは5°前傾の立脚姿勢の直脚歩行を前提としたGL基準の歩行動作状態図で、図から、歩行中の股関節(H)の支持高さおよび歩行幅は、従来靴例と同等となっているが、動作状態を詳細に比較すると、本実施例1は従来靴例よりも、歩行の安定性、動作のやり易さや移動効率が優れていると分かる。その理解のために動作工程を少し詳しく述べると、普通一般の歩行では着踵〜重心移動(垂直立脚位置まで)動作工程の中、着踵開始〜体移動完了の二重支持(D)期間である約0.1〜0.2秒間に着踵脚に体重負荷が0から100%+落下衝撃α%へ急増する工程が着踵工程で、続く工程、即ちこの最大負荷を速やかに引き受けて垂直立脚位置まで体重心を移動するのが重心移動工程である。本実施例1では図16bのように踵接地面(21)が転がり移動で着踵点(p1)から垂直立脚点(p3)へ転がり支点形跡(p7)で示すように、前脚の足首に制動掛けながら体重を乗せて着踵完了し引き続き着踵衝撃を徐々に受けながら垂直立脚位置まで移動する。そして、この時の制動に要する足回転負荷は、従来靴例の約3分の1以下と小さくなる(詳細比較すると分る)ため、容易に安定支持しながら垂直立脚点(p3)位置まで、踵接地面(21)の転がり移動で重心移動がきる。本実施例に対する従来靴例では、図17のb図に示すように、着踵点(p1)で支持開始し、水平になる直前までこの1点(線)で支持し続け、水平になると同時に支点が垂直立脚点(p3)へ飛んで支持する動作図となっているが、この着踵開始から体重移動(垂直立脚位置まで)工程を着踵点(p1)1点(線)で支持する構造はクッションが無ければ衝撃を緩和できないし、有れば衝撃は吸収されて運動エネルギーが無駄となる割合が多くなる。
当然ながら、支点位置が垂直立脚位置近傍で急転移するため図示通りの支持動作が難しく、安定支持がやや困難となり、従って効率も劣る。
要約すると、前傾姿勢の直脚歩行を行い、着踵時に前記踵底(11)の前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら、地面に着踵、体移動し、底転がし体重移動して着踵衝撃を緩和しながら転がり移動できる湾曲踵底靴の短踵型代表例である。
【0037】
本実施例1の踵接地面(21)の湾曲形状の決定は、候補となる数本の円弧を踵底(2)の立面図に描き、踵後端厚さの確保と着踵時の支持高さ即ち股関節(H)の支持状態と足回転による踵接地面(21)転がり状態や転がり支点形跡(p7)を考慮して半径(R)をR=16cmに決定した(図16bのb5参照)。因みに、この決定方法は、後突出長(t)t≦2cm踵底(11)範疇の第2実施の態様に対して、第1実施の形態実施例1で述べた方法(段落0023)の代りとなる近似簡略型の簡便法である。
【0038】
以下、本発明靴の共通事項を述べる。前提とした支持脚の膝を曲げない直脚歩行モデル(段落0017参照)は、遊脚の動きを無視し立脚の直脚(f)と靴モデル(g)に着眼して、脚(f)回転で歩行しながら靴モデル(g)即ち足回転で接地面(2)転がり移動する「2脚2足の4節(リンク)5関節(ジョイント)リンク機構歩行モデル」である。
この歩行モデルで股関節(H)の上下動高さ(Δh)を小さく押えて着踵衝撃を減らしながら効率良く歩行できる理想の靴モデル(g)接地面形状必要条件は、脚(f)靴モデル(g)の動作条件を考慮して求めると、前後方向の断面形状が、中心点が垂直立脚点(p3)垂直線上の股関節(H)と踝(K)の間にあって、曲率半径が前記中心点の地面からの高さ長であり、かつその曲線が長手方向の中央部で大きく前後両端側に向って徐々に小さくなっている湾曲線から成るものとなる。
その根拠は、▲1▼前記曲率半径の上限高さは垂直立脚点(p3)垂直線上の股関節(H)の高さ(h)となること。これは、股関節(H)の支持位置の降下を補いながら歩行推進力を最大にするためには、立脚の脚(f)靴モデル(g)前進方向の回転動作の推進効果が加算される範囲であることによる。即ち回転方向は同調が必要で、少なくとも回転方向が異なってはならないことによる。▲2▼前記曲率半径は踝高さ(k)が下限であること。これは、靴モデル(g)動作の前進方向の回転で高さ増(股関節(H)の降下を補うため)となる下限長が踝高さ(k)であることによる。▲3▼前記湾曲線が垂直立脚点(p3)から離れるほど曲率半径が小さくなるか同じであること。これは、垂直立脚点(p3)近傍は脚動作を中心として靴モデル(g)回転動作はできるだけ小さく抑え、垂直立脚点(p3)から離れた位置では靴モデル(g)回転動作をより多く使って股関節(H)の降下を補いながら転がり移動することが、最大歩行推進能力の必要条件となるためによる。
【0039】
また、履用者の身体上のニーズに合わせてから、次に股関節(H)の高さを一定に近づけて支持しながら円滑に接地面(2)転がしができる接地面(2)形状を決めるべきである。
また、接地面(2)の足踵後端からの水平長さである後突出長さ(t)は、形状の一要素であるが、特に2cm≦t≦10cmの範囲が効果に大きく影響して重要である。短すぎると着踵時の股関節(H)支持高さ不足を来たし、長すぎると履用者の足背屈筋力の能力不足を来たして、股関節(H)の一定高さ支持に必要な、着踵時の制動しながらの足底屈回転動作が困難となる。その限界の長さは普通一般的な筋肉の持主であれば、足長さの3分の1程度の長さと思われる。色々な履用者がいるが、総じて概略長さは10cm程度前後であろう。また取扱い易さや立振舞易さの点からも10cmを越えると不便で不要である。因みに、従来靴の後突出長さ(t)は、1cm以上は少なくて、総じて2cm以下であった。それは従来の踵底は足保護と体重支持を目的としたためと思われるが、その目的からすると2cm以上は無用の長物であったためであろう。
【0040】
本発明靴は、以上の実施例の説明の中で歩行用としてあるが、移動速度を上げ、二重支持長さ(D)Dをゼロにし、さらに強く動作して両足が地面を離れる状態が生じる走運動であっても、歩行同様に股関節(H)の高さを一定に近づけて支持してその上下動高さ(Δh)を小さく抑える効果があることは云うまでもない。また、歩行モデル解で説明した歩行要領は、当然ながら、静止立脚状態でバランスしている脚足動作条件であるため、実際に歩行し移動するためには、体重心を少し前に偏らせて、即ち少し前へ体傾斜させて歩行開始するか、または身体に適度な前向きの初速度を付けて行う必要がある。また、接地面(2)断面形状は、実施例を総合すると、実施例の形状だけでなく、楕円弧等の曲線から成る形状でも、可能であることは容易に推測できる。
【符号の説明】
【0041】
1 底(甲皮を除く靴底部分)、 11 踵底、 111 後突出部
12 つま先底、 13 水平補助底
2 接地面、 21 踵接地面、 22 つま先接地面
3 接足面
4 甲皮
5 締結具、 51 踵締結具、 52 つま先締結具
t 踵後突出長(足踵後端から踵底後端までの水平長さ)
K 踝
k 踵高さ(足裏水平線から踝(K)までの距離)
x 靴踵高さ(垂直立脚点(p3)から踝(K)までの距離)
R 半径
R1,R2,R3 曲率半径
s,s1,s2,s3 接地点、 s1 後端接地点
α 接足面傾斜角度(水平に対して、つま先下がりが+)
a 足脚
B 母趾関節
g 靴モデル
c 底厚(垂直立脚点の)
D 二重支持長さ
d 二重支持脚角度変化幅
f 直脚(H〜K間)
F 推進力
GL 地面
h 股関節高さ(静止直立時の地面から股関節中心までの距離)
Δh 上下動高さ(股関節)
H 股関節(歩行中の地面から股関節中心までの距離)
L 歩幅
La 底転幅(接地面(2)転がりによる移動幅)
Lb 脚歩幅(前足底踵後端から後足底つま先端までの距離)
M 体重
p1 着踵点
p2 つま先離地点
p3 垂直立脚点(静止)
p4 踵離地点
p5 足踵後端点(接足面上の)
p6 足裏支点(接足面における体重心支点)
p7 転がり支持点形跡
X 重心偏り(足裏支点(p6)の接地点(s)を通る垂直線からの距離)
Z 膝(位置)
z 膝高さ(垂直立脚点(p3)から膝位置(Z)までの距離)
β 脚傾斜角度(垂直に対し後傾斜が+、前傾斜が−)
γ 足回転角度(水平に対して、つま先下がり方向が+、つま先上り方向が−)
δ 開脚幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踵接地面(21)の前後方向の垂直断面の垂直立脚点(p3)以後の形状が、中心点が前記垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した踵底(11)を特徴とする底(1)であって、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて着踵時に前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら地面に着踵し転がして、着踵衝撃を緩和しながら前記踵接地面(21)転がり移動する湾曲踵底靴。
【請求項2】
全長にわたり背後を非撓性底(1)で支持する接地面(2)の前後方向の垂直断面形状が、中心点が垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)の間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した底(1)であって、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて着踵時に前記接地面(2)を足回転動作で制動しながら地面に着踵し転がして着踵衝撃を緩和しながら、二脚による歩行と足回転による接地面(2)転がりで移動する湾曲踵底靴。
【請求項3】
前記底(1)の踵接地面(21)の後突出長(t)tが、水平に測って2cm<t≦10cmの範囲にある底(1)であって、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて股関節(H)高さが静止直立高さに対して開脚で低下する高さ変動分を、支持脚の下端にある足の回転動作で前記底(1)を回し操り、補って、支持脚上端にある股関節(H)を静止直立時の高さに近づけて支持しながら歩行する請求項1および2記載の湾曲踵底靴。
【請求項4】
前記垂直立脚点(p3)から前後方向に離して、前記踵接地面(21)に、または踵接地面(21)およびつま先接地面(22)に、接地面の外内に出入り可能にした弾性構造体の水平補助底(13)を備える請求項1〜3記載の湾曲踵底靴。
【請求項1】
踵接地面(21)の前後方向の垂直断面の垂直立脚点(p3)以後の形状が、中心点が前記垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した踵底(11)を特徴とする底(1)であって、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて着踵時に前記踵接地面(21)を足回転動作で制動しながら地面に着踵し転がして、着踵衝撃を緩和しながら前記踵接地面(21)転がり移動する湾曲踵底靴。
【請求項2】
全長にわたり背後を非撓性底(1)で支持する接地面(2)の前後方向の垂直断面形状が、中心点が垂直立脚点(p3)の垂直線上にあって曲率半径が前記垂直立脚点(p3)垂直線上の踝(K)と股関節(H)の間にある点の前記垂直立脚点(p3)からの距離長で前記垂直立脚点(p3)を通る下凸湾曲線から成る曲線形で、前記下凸湾曲線が前記垂直立脚点(p3)から離れる程前記曲率半径が同長かそれ以下である、湾曲した底(1)であって、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて着踵時に前記接地面(2)を足回転動作で制動しながら地面に着踵し転がして着踵衝撃を緩和しながら、二脚による歩行と足回転による接地面(2)転がりで移動する湾曲踵底靴。
【請求項3】
前記底(1)の踵接地面(21)の後突出長(t)tが、水平に測って2cm<t≦10cmの範囲にある底(1)であって、支持脚の膝を曲げない直脚歩行方法を用いて股関節(H)高さが静止直立高さに対して開脚で低下する高さ変動分を、支持脚の下端にある足の回転動作で前記底(1)を回し操り、補って、支持脚上端にある股関節(H)を静止直立時の高さに近づけて支持しながら歩行する請求項1および2記載の湾曲踵底靴。
【請求項4】
前記垂直立脚点(p3)から前後方向に離して、前記踵接地面(21)に、または踵接地面(21)およびつま先接地面(22)に、接地面の外内に出入り可能にした弾性構造体の水平補助底(13)を備える請求項1〜3記載の湾曲踵底靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−36624(P2011−36624A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205265(P2009−205265)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(398048187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(398048187)
【Fターム(参考)】
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