説明

湿度センサ

【課題】水晶振動子等の固有振動数の変化や共振周波数の変化等を利用した湿度センサに関し、湿度を高感度で検知することができ、またカチオン性高分子とアニオン性高分子の静電気力により有機分子の集合化及び組織化が行われているので、製膜時間が短く、かつ、膜の強度が高く耐久性に優れ、また簡単な操作で製膜して製造できるので、大型の反応器等の装置が不要で、さらに材料を分子レベルで制御するのも容易で品質の安定性に優れるとともに生産性に優れる湿度センサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の湿度センサは、基板2と、カチオン性高分子膜4とアニオン性高分子膜5が1乃至複数回交互に積層され基板2に形成された交互積層部6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子等の固有振動数の変化や共振周波数の変化等を利用した湿度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高分子膜に吸着した水分子を、水晶振動子等の固有振動数の変化や共振周波数の変化等を利用して検知する湿度センサが開発されている。
従来の技術としては、(特許文献1)に「水晶振動子の表面に2−ヒドロキシエチルメタクリレートのプラズマ重合体を形成した湿度センサ」が開示されている。
(特許文献2)には、「水晶振動子の表面に、アルコキシ基含有有機ケイ素化合物のプラズマ重合膜を形成した湿度センサ」が開示されている。
(特許文献3)には、「水溶性無機ハロゲン塩、親水性重合体及び水溶性有機溶媒よりなるドープ液を水晶振動子の電極表面に塗布した後、水表面と接触ゲル化させ、乾燥する湿度センサの製造方法」が開示されている。
(特許文献4)には、「水晶振動子表面に光架橋ポリビニルアルコール系樹脂膜を形成した湿度センサ」が開示されている。
(特許文献5)には、「水晶振動子表面にポリエーテルスルホン感湿膜を形成した湿度センサ」が開示されている。
(特許文献6)には、「水晶振動子の電極表面に、セルロース高分子に疎水性長鎖を付加し、セルロースの水酸基を長鎖脂肪酸でエステル化するとともに、展開溶液をクロロホルム溶媒に溶かし、10〜20℃の純水上に展開して作製したセルロース誘導体の単分子膜を水平に累積して層状に固定化した湿度センサ」が開示されている。
【特許文献1】特公平5−75256号公報
【特許文献2】特許第2870862号公報
【特許文献3】特許第2759816号公報
【特許文献4】特許第2773292号公報
【特許文献5】特開平7−260661号公報
【特許文献6】特許第2969264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)や(特許文献2)に開示の技術は、反応器内に水晶振動子を設置し、0.01〜0.2Torrの減圧下、反応器内に2−ヒドロキシエチルメタクリレートやアルコキシ基含有有機ケイ素化合物を導入し、プラズマ照射し重合膜を形成して湿度センサを製造するので、大型の反応器等の装置が必要であり、さらにプラズマ照射等の製造条件により高分子膜の物性が変化するので、品質の安定性に欠けるという課題を有していた。
(2)(特許文献3)に開示の技術は、ドープ液を水晶振動子の電極表面に塗布した後、水表面と接触ゲル化させて乾燥させ、感湿膜の比表面積を増加させて感度を増大させるものなので、製造条件の変動要因が多く品質の安定性に欠けるという課題を有していた。
(3)(特許文献4)に開示の技術は、光架橋ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を水晶振動子の上に塗布した後、光照射し光架橋させて感湿膜を形成するものだが、感湿膜の厚さの制御が難しいため安定生産が困難で、さらに感湿膜と基板との接着性が乏しく耐久性に欠けるという課題を有していた。
(4)(特許文献5)に開示の技術は、ポリエーテルスルホン感湿膜では感度が乏しいという課題を有していた。
(5)(特許文献6)に開示の技術は、15MHzの水晶振動子を用いた場合でも、相対湿度10%当たり約10Hzの振動数変化しか得られず、感度が乏しいという課題を有していた。また、単分子膜(ラングミュア・ブロジェット膜)を形成するために特殊な製膜装置が必要であり、また製膜操作が煩雑で工数を要するという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、湿度を高感度で検知することができ、またカチオン性高分子とアニオン性高分子の静電気力により有機分子の集合化及び組織化が行われているので、製膜時間が短く、かつ、膜の強度が高く耐久性に優れ、また簡単な操作で製膜して製造できるので、大型の反応器等の装置が不要で、さらに材料を分子レベルで制御するのも容易で品質の安定性に優れるとともに生産性に優れる湿度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明の湿度センサは、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の湿度センサは、基板と、前記基板上に形成されたカチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜が1乃至複数回交互に積層された交互積層部と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)アニオン性高分子膜の官能基への水分子の吸着・脱着により、湿度を高感度で検知することができる。
(2)交互積層部は、カチオン性高分子とアニオン性高分子の静電気力により有機分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れる。
(3)基板をカチオン性高分子とアニオン性高分子の希薄溶液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で製膜して交互積層部を形成できるので、大型の反応器等の装置が不要で、さらに材料を分子レベルで制御するのも容易で品質の安定性に優れるとともに生産性にも優れる。
【0006】
ここで、基板としては、単結晶シリコン、窒化シリコン、水晶(SiO),Bi12GeO20,LiIO,LiNbO,LiTaO,BaTiO等の圧電性結晶、Pb(Zr,Ti)O系,PbTiO系,PbNb等の圧電セラミックス、ZnO薄膜,Bi12GeO20,CdS等の圧電性薄膜等の無機材料製やポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電性高分子等の高分子製が用いられ、固有の振動数や共振周波数を有する基板をQCM(水晶天秤)、弾性表面波素子、マイクロカンチレバー等に適用することによって、基板に形成された交互積層部のアニオン性高分子膜に吸着した水分子の質量に応じて基板の固有振動数等が変化するので、この変化を計測することによって交互積層部への水分子の吸着量を計測し雰囲気中の湿度を検知できる。
基板には、必要に応じて電極を形成することができる。電極としては、白金、金、銀、銅等の金属製、インジウムスズ酸化物(ITO)、グラファイト等の炭素系電極等が用いられ、水晶等の圧電性結晶等の基板の両面に対向して形成したり、圧電性結晶,圧電セラミックス等の基板の片面に櫛形等にして形成することができる。電極の有無によって、交互積層部は、基板、電極、基板と電極の双方に形成することができる。また、交互積層部は、基板の片面又は両面に形成することができる。
【0007】
基板や電極にカチオン性の表面処理層を形成することにより、表面処理層の上にアニオン性高分子、カチオン性高分子の順に吸着させ、自己組織化させることによって交互積層部を形成できる。また、アニオン性の表面処理層を形成することにより、表面処理層の上にカチオン性高分子、アニオン性高分子の順に吸着させ、自己組織化させることによって交互積層部を形成できる。
表面処理層としては、基板や電極をケイ素化剤で処理する、炭素系電極の表面に空気酸化又は湿式酸化によって水酸基を導入する、金等の電極の表面にメルカプトエタノール等の吸着により水酸基を導入する、ITO等の電極の表面に過酸化水素を接触させることにより水酸基を導入する等の手段によって、水酸基,カルボキシル基,アミノ基,スルホン酸基、イソシアン酸基、アルデヒド基,ニトロ基,炭素炭素二重結合,芳香族環等の官能基を基板又は電極の表面に導入し親水化若しくは活性化するものが用いられる。
【0008】
カチオン性高分子としては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等のアミン化合物のポリマー、第4級アンモニウム化合物のポリマー、塩基性アミノ酸のポリマー等の繰り返し単位中にN原子を含有するポリマー、アミンまたは第4級アンモニウム化合物の分子集合体(ミセル、二分子膜など)、アミンまたは第4級アンモニウム修飾金属ゾルなどが用いられる。
カチオン性高分子膜は、アニオン性の表面処理層やアニオン性高分子膜が形成された基板を、カチオン性高分子の希薄溶液に浸すことによって、基板上に電解質ポリマーを吸着させ自己組織化させることにより製膜することができる。
【0009】
アニオン性高分子としては、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物や有機金属錯体が用いられる。また、ポリアクリル酸等のカルボキシル基を有するポリマー、ポリスチレンスルホン酸等のスルホン基を有するポリマー、リン酸基を有するポリマー、アニオン性カーボン材料等を用いることもできる。
アニオン性高分子膜は、カチオン性の表面処理層やカチオン性高分子膜が製膜された基板を、アニオン性高分子の希薄溶液に浸すことによって、基板上に電解質ポリマーを吸着させ自己組織化させることにより製膜することができる。
【0010】
交互積層部において、カチオン性高分子とアニオン性高分子の集合化及び組織化は、静電気力により行われる。
交互積層部は、カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜が1乃至複数回交互積層されるが、積層回数は3〜30回が好ましく、5〜20回が好適である。積層回数が5回より少なくなるにつれ、水分子を吸着するアニオン性高分子膜の官能基の量が少なくなり、水分子の吸着による振動数変化等が少なくなり感度が低下する傾向がみられ、積層回数が20回より多くなるにつれ、製造工数が増え生産性が低下する傾向がみられる。特に、積層回数が3回より少なくなるか30回より多くなると、これらの傾向が著しくなるためいずれも好ましくない。
交互積層部の最外層は、アニオン性高分子膜が製膜される。アニオン性高分子膜の官能基へ水分子が吸着・脱着することにより、湿度を検知できるからである。
【0011】
カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜の各々の膜厚としては、0.1〜10nmが好適に用いられる。膜厚が0.1nmより薄くなると、水分子が吸着するアニオン性高分子の吸着量が少なく湿度の検知能が低下し、10nmより厚くなると水分子が吸着するアニオン性高分子同士が結合するなど官能基が水分子の吸着に有効に使われず検知時間が長くなるため、いずれも好ましくない。
【0012】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の湿度センサであって、前記アニオン性高分子膜が、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物又は有機金属錯体で形成された構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物や有機金属錯体は、水分子の吸着能が高いので感度を高めることができ、さらに吸着水分子の毛管凝縮が生じ難いため、増湿時と減湿時におけるヒステリシスも生じ難く高精度の湿度測定ができ再現性に優れる。
【0013】
ここで、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物や有機金属錯体としては、中心部の水素2原子をCr,Zn,Cu,Co,Ni,Mn,Fe等で置換した金属フタロシアニン、テトラキススルホフェニルポルフィリン等のポルフィリン、Fe,Co,Mn,Zn,Ni,Ru,Cr等と結合したポルフィリン錯体、ビピリジン,ターピリジン,フェナントロリン等のピリジン誘導体、ピリジン誘導体と遷移金属イオンからなる錯体を用いることができる。なかでも、これらの有機金属錯体が好適に用いられる。有機金属錯体の中心金属イオンと水分子の錯形成により水分子の吸着が起こり、さらに湿度条件によって錯形成と脱離の平衡が速やかに起こることにより、ガス等の妨害成分の影響を受けることなく、相対湿度1%以下の精度の高い湿度測定が可能になるからである。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の湿度センサであって、前記基板が、単結晶シリコン、窒化シリコン、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜の内いずれか1種である構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)基板が単結晶シリコン、窒化シリコン、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜の内いずれか1種なので、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜を用いることによりQCM(水晶天秤)、弾性表面波素子等として、単結晶シリコン、窒化シリコンを用いることによりマイクロカンチレバー等として、固有振動数の変化や共振周波数の変化等を利用して水分子の吸着量を計測することができ高精度・高分解能の湿度測定ができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の湿度センサによれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)アニオン性高分子膜の官能基への水分子の吸着・脱着により、湿度を高感度で検知することができる湿度センサを提供できる。
(2)交互積層部はカチオン性高分子とアニオン性高分子の静電気力により有機分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れた湿度センサを提供できる。
(3)基板をカチオン性高分子とアニオン性高分子の希薄溶液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で製膜して交互積層部を形成できるので、大型の反応器等の装置が不要で、さらに材料を分子レベルで制御するのも容易で品質の安定性に優れるとともに生産性に優れた湿度センサを提供できる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物や有機金属錯体は、水分子の吸着能が高いので感度を高めることができ、さらに吸着水分子の毛管凝縮が生じ難いため、増湿時と減湿時におけるヒステリシスも生じ難く高精度の湿度測定ができ再現性に優れた湿度センサを提供できる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)基板が単結晶シリコン、窒化シリコン、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜の内いずれか1種なので、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜を用いることによりQCM(水晶天秤)、弾性表面波素子等として、単結晶シリコン、窒化シリコンを用いることによりマイクロカンチレバー等として、固有振動数の変化や共振周波数の変化等を利用して水分子の吸着量を計測することができ高精度・高分解能の湿度測定ができる湿度センサを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における湿度センサの模式断面図であり、図2は実施の形態1における湿度センサの製造方法を説明する模式図である。
図中、1は実施の形態1における湿度センサ、2は単結晶シリコン,窒化シリコン,圧電性結晶,圧電セラミックス,圧電性薄膜等で形成された基板、3は基板2の表面に形成された表面処理層、4は表面処理層3の上に形成された繰り返し単位中にN原子を含有するポリマーからなるカチオン性高分子膜、5はカチオン性高分子膜4の上に形成されたフタロシアニン誘導体,ポルフィリン誘導体,ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物や有機金属錯体からなるアニオン性高分子膜、6はカチオン性高分子膜4とアニオン性高分子膜5が1乃至複数回交互に積層され最外層がアニオン性高分子膜5の交互積層部である。
【0019】
以上のように構成された本発明の実施の形態1における湿度センサについて、図2を参照しながら、以下その製造方法を説明する。
図中、4aはカチオン性高分子を水等の溶媒に溶解したカチオン性高分子希薄溶液、5aはアニオン性高分子を水等の溶媒に溶解したアニオン性高分子希薄溶液である。
まず、基板2をケイ素化剤やメルカプトエタノール等により処理し、基板2の表面に水酸基,カルボキシル基,アミノ基,アルデヒド基,ニトロ基,炭素炭素二重結合,芳香族環等の官能基を導入した表面処理層3を形成する。
次いで、表面処理層3を形成した基板2を、カチオン性高分子希薄溶液4aに浸すことにより、表面処理層3の上にカチオン性高分子を吸着させ自己組織化させたカチオン性高分子膜4を製膜する。
次に、カチオン性高分子膜4を形成した基板2を、アニオン性高分子希薄溶液5aに浸すことにより、カチオン性高分子膜4の上にアニオン性高分子を吸着させ自己組織化させたアニオン性高分子膜5を製膜する。
カチオン性高分子膜4とアニオン性高分子膜5の交互積層を1乃至複数回繰り返すことにより、最外層にアニオン性高分子膜5が製膜された交互積層部6を形成する。
【0020】
以上のように、本発明の実施の形態1における湿度センサは構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)アニオン性高分子膜5の官能基への水分子の吸着・脱着により、湿度を高感度で検知することができる。
(2)交互積層部6は、カチオン性高分子とアニオン性高分子の静電気力により有機分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れる。
(3)基板2をカチオン性高分子とアニオン性高分子の希薄溶液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で製膜して交互積層部6を形成できるので、大型の反応器等の装置が不要で、さらに材料を分子レベルで制御するのも容易で品質の安定性に優れるとともに生産性にも優れる。
【0021】
なお、本実施の形態においては、アニオン性の表面処理層3を形成することにより、表面処理層3の上にカチオン性高分子、アニオン性高分子の順に吸着させて交互積層部6を形成した場合について説明したが、カチオン性の表面処理層3を形成した場合は、アニオン性高分子、カチオン性高分子の順に吸着させて交互積層部6を形成する。この場合も、交互積層部6の最外層はアニオン性高分子膜5が形成される。アニオン性高分子膜5の官能基へ水分子が吸着・脱着することにより、湿度を検知できるからである。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
両面に金製の電極が形成された基準振動数9MHzの水晶振動子を基板として用いた。この基板をピラナ(HSO:H=3:1)処理した後、メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(分子量Mr=164.18、東京化成工業製)のエタノール溶液(10mmol/L)に12時間浸漬して基板の電極表面をスルホン酸アニオン修飾した。エタノール及びイオン交換水で十分洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、基板及び両面の電極に水酸基を有する表面処理層を形成した。
次に、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA、分子量Mr=200000−350000、20wt%水溶液、東京化成工業製)(カチオン性高分子)の水溶液(5mg/mL)に基板を20分間浸漬した後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、表面処理層の上にカチオン性高分子膜を製膜した。
次に、テトラキススルホフェニルポルフィリン(TSPP、分子量Mr=934.99、東京化成工業製)(アニオン性高分子)の水溶液(1mmol/L)に基板を20分間浸漬した後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、カチオン性高分子膜の上にアニオン性高分子膜を製膜した。
このようにして、カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜の製膜を交互に5回繰り返し行い、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(TSPP)が各々5層ずつの交互積層部が形成された実施例1の湿度センサを得た。
なお、カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜を形成する度に水晶振動子の固有振動数をQCM(水晶天秤)によって測定した。本QCMのシステムでは1Hzの振動数変化は約0.9ngの質量変化を示していることがわかっており、このことから換算すると、交互積層部1層(カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜各々1層ずつの合計)の厚さは約23Åと算出された。
【0023】
(実施例2)
カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜の製膜を交互に10回繰り返し行った以外は、実施例1と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(TSPP)が各々10層ずつの交互積層部が形成された実施例2の湿度センサを得た。
(実施例3)
カチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜の製膜を交互に15回繰り返し行った以外は、実施例1と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(TSPP)が各々15層ずつの交互積層部が形成された実施例3の湿度センサを得た。
【0024】
(実施例4)
アニオン性高分子膜を、テトラキススルホフェニルポルフィリンのマンガン錯体(MnTSPP、分子量Mr=1023.36、シグマアルドリッチ製)の水溶液(1mmol/L)に基板を20分間浸漬した後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させて製膜した以外は、実施例1と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(MnTSPP)が各々5層ずつの交互積層部が形成された実施例4の湿度センサを得た。
(実施例5)
アニオン性高分子膜を、テトラキススルホフェニルポルフィリンのマンガン錯体(MnTSPP、分子量Mr=1023.36、シグマアルドリッチ製)を用いて製膜した以外は、実施例2と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(MnTSPP)が各々10層ずつの交互積層部が形成された実施例5の湿度センサを得た。
(実施例6)
アニオン性高分子膜を、テトラキススルホフェニルポルフィリンのマンガン錯体(MnTSPP、分子量Mr=1023.36、シグマアルドリッチ製)を用いて製膜した以外は、実施例3と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(MnTSPP)が各々15層ずつの交互積層部が形成された実施例6の湿度センサを得た。
【0025】
(実施例7)
テトラキススルホフェニルポルフィリン(TSPP)に代えて、アニオン性高分子膜を、基板をポリスチレン系樹脂のスルホン酸塩であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、分子量Mr=70000、東京化成工業製)の水溶液(5mg/mL)に20分間浸漬した後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させて製膜した以外は、実施例1と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(PSS)が各々5層ずつの交互積層部が形成された実施例7の湿度センサを得た。
(実施例8)
カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(PSS)の製膜を交互に10回繰り返し行った以外は、実施例2と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(PSS)が各々10層ずつの交互積層部が形成された実施例8の湿度センサを得た。
(実施例9)
カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(PSS)の製膜を交互に15回繰り返し行った以外は、実施例3と同様にして、カチオン性高分子膜(PDDA)とアニオン性高分子膜(PSS)が各々15層ずつの交互積層部が形成された実施例9の湿度センサを得た。
【0026】
(湿度と湿度センサの振動数変化の測定)
得られた湿度センサの湿度に対する振動数変化を測定した。まず、基準振動数9MHzの水晶振動子(メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム修飾の交互積層部が形成されていないもの)及び市販の湿度計をフローセル内に配置した後、フローセルに相対湿度13〜60%の空気を流し、水晶振動子の固有振動数の変化と湿度計が示す相対湿度との関係を測定した。
図3はフローセル内の相対湿度と水晶振動子の固有振動数の変化を示す図である。
本システムでは、交互積層部が形成されていない水晶振動子を用いた場合でも、相対湿度13〜60%の変化で水晶振動子の固有振動数が9Hz変化することがわかった。
次に、交互積層部が形成されていない水晶振動子に代えて、フローセル内に実施例3、6、9の湿度センサを各々配置し、フローセルに相対湿度13%、33%、53%、60%、13%の空気を順に流し、水晶振動子の固有振動数の変化と湿度計が示す相対湿度との関係を測定した。
図4は相対湿度に対する実施例3、6、9の湿度センサの水晶振動子の固有振動数の変化を示す図である。
図4から、実施例3、6、9の湿度センサの水晶振動子の固有振動数は、いずれも湿度に応じて変化し、相対湿度60%のときには40Hz以上変化することがわかった。また、応答時間は、市販の湿度計とほぼ同等の数秒から数十秒以下と非常に短かった。
また、ポリスチレン系樹脂のスルホン酸塩でアニオン性高分子膜を形成した実施例9の湿度センサに比べ、アニオン性ポルフィリンで膜を形成した実施例3の湿度センサの固有振動数の変化量が大きいことが確認された。これは、ポルフィリン環が水分子の吸着に大きく寄与していると推察される。さらに、アニオン性のMn錯体のポルフィリンで膜を形成した実施例6の湿度センサの固有振動数の変化が、他の実施例の湿度センサに比べて大きなことが確認された。これは、金属イオンによってポルフィリン環同士のπ結合が邪魔され、金属イオンへの水分子の吸着性が向上したものと推察される。ポルフィリン環への金属イオンの導入によって水分子の結合力が上昇し、さらに金属イオンへの水分子の錯形成と脱離の平衡速度が上昇したものと推察される。
【0027】
図5は、相対湿度と実施例3、6、9の湿度センサの水晶振動子の固有振動数の変化との関係を示す図である。
図5から、実施例3、6、9の湿度センサは、相対湿度と固有振動数変化との間に良好な相関関係が認められることが確認された。特に、実施例6の湿度センサは、相対湿度10%当たり−40Hzの振動数変化を示し、非常に高感度であることも確認された。
【0028】
図6は、相対湿度と実施例4、5、6の湿度センサの水晶振動子の固有振動数の変化との関係を示す図である。
図6から、相対湿度が同じ場合、実施例4、5、6の順に振動数変化が大きくなることが確認され、交互積層部の積層回数が多くなるにつれ振動数変化が大きくなることがわかった。
なお、他の実施例の湿度センサについても、相対湿度と固有振動数変化との間に良好な相関関係が認められることを確認した。
【0029】
次に、実際に、実施例3、6、9の湿度センサ、市販の湿度計、交互積層部が形成されていない水晶振動子を室内(大学の研究室内)に配置し、市販の湿度計の湿度と各湿度センサの振動数変化を23時間連続して測定した。
図7は、測定開始からの経過時間と、湿度計が示した湿度、各湿度センサの振動数変化を示す図である。測定した日は夜半から雨が降り始めたため、相対湿度が約52%から約62%まで連続的に増加した。
図7から、実施例9の湿度センサの振動数変化は交互積層部が形成されていない水晶振動子の変化とほぼ同じであるが、実施例3、6の湿度センサの振動数変化は、湿度計による相対湿度の推移曲線とほぼ相似した推移曲線を示すことが確認された。大学の研究室内は、湿度センサの湿度検知の妨害成分となるアミン系等の種々のガスが存在するが、実施例3、6の湿度センサは、妨害成分の影響を受けることなく、市販の湿度計とほぼ同等の反応時間(反応速度)で湿度を検知できることが確認された。
また、図7から、相対湿度が53〜60%に変化したときに、実施例6の湿度センサの振動数変化は約30Hzであることが読み取れる。これは、図4に示した実施例6の湿度センサにおいて、相対湿度が53〜60%に変化したときに約30Hzの振動数変化を示していることと一致する。図4は湿度センサの特性を実験装置内で測定した結果であり、図7は湿度センサの特性を実際に室内に配置して測定した結果であることから、実施例6の湿度センサは、測定環境の変化等に左右されることなく再現性に極めて優れており、実測環境においても相対湿度1%以下のわずかな湿度変化を計測することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、水晶振動子等の固有振動数の変化や共振周波数の変化等を利用した湿度センサに関し、湿度を高感度で検知することができ、またカチオン性高分子とアニオン性高分子の静電気力により有機分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れ、さらに簡単な操作で製膜して製造できるので、大型の反応器等の装置が不要で、さらに材料を分子レベルで制御するのも容易で品質の安定性に優れるとともに生産性に優れた湿度センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態1における湿度センサの模式断面図
【図2】実施の形態1における湿度センサの製造方法を説明する模式図
【図3】フローセル内の相対湿度と水晶振動子の固有振動数の変化を示す図
【図4】相対湿度に対する実施例3、6、9の湿度センサの水晶振動子の固有振動数の変化を示す図
【図5】相対湿度と実施例3、6、9の湿度センサの水晶振動子の固有振動数の変化との関係を示す図
【図6】相対湿度と実施例4、5、6の湿度センサの水晶振動子の固有振動数の変化との関係を示す図
【図7】測定開始からの経過時間と、湿度計が示した湿度、各湿度センサの振動数変化を示す図
【符号の説明】
【0032】
1 湿度センサ
2 基板
3 表面処理層
4 カチオン性高分子膜
4a カチオン性高分子希薄溶液
5 アニオン性高分子膜
5a アニオン性高分子希薄溶液
6 交互積層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成されたカチオン性高分子膜とアニオン性高分子膜が1乃至複数回交互に積層された交互積層部と、を備えていることを特徴とする湿度センサ。
【請求項2】
前記アニオン性高分子膜が、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピリジン誘導体のいずれか1種乃至は複数種の配位子を有する有機化合物又は有機金属錯体で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の湿度センサ。
【請求項3】
前記基板が、単結晶シリコン、窒化シリコン、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜の内いずれか1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−249511(P2008−249511A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91555(P2007−91555)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)