説明

湿式シリカ及びその製造方法

【課題】フィルムのアンチブロッキング剤、プレートアウト防止剤等の樹脂の添加剤、インクジェット記録紙填料として使用することができる湿式シリカおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】窒素吸着法により測定した細孔容積の分布において、細孔直径が6nm以上50nm以下の範囲に2つの細孔容積の分布のピークを有し、その第1のピークが細孔直径6nm以上15nm未満の範囲にあり、第2のピークが細孔直径15nm以上50nm以下の範囲に存在し、全細孔容積が0.7〜2.0ml/gであって、細孔直径が15nm未満のである細孔の容積が、全細孔容積の60〜90%であり、かつ、BET比表面積が400m/gを超え700m/g以下である湿式シリカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な湿式シリカ及びその製造方法に関する。詳しくは、特定の細孔容積の分布、比表面積を有する湿式シリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリカは、フィルムのアンチブロッキング剤、インクジェット記録紙填料、シリコーンゴムの充填剤、乾燥剤、研磨剤、塗料インクのつや消し剤等、様々な用途で使用されている。中でも、珪酸アルカリ水溶液と鉱酸とを反応させてシリカを製造する、いわゆる湿式法により得られるシリカは、製造コストが安いため、多くの用途で使用されている。
【0003】
湿式法による湿式シリカの製造方法は、珪酸アルカリ水溶液と鉱酸との反応を酸性下で行い、シリカゾルをゲル化させゲル状のシリカを得るゲル法と、中性あるいはアルカリ性下で反応を行い、ろ過しやすい沈降シリカを得る沈降法とに分類することができる。
【0004】
前記ゲル法により得られるシリカは、比表面積の大きいものであるため、フィルムのアンチブロッキング剤、インクジェット記録紙填料に好適に使用することができる。
【0005】
しかしながら、ゲル法により得られるシリカは、アンチブロッキング効果が優れる反面、構造性が高いため、フィルムを激しくこすり合わせた際に透明性が低下するといった点や、インクジェット記録紙填料に使用した場合には、特に顔料インクを使用する用途においては、顔料を保持しにくく、色濃度が低いといった点で改善の余地があった。
【0006】
しかも、前記の通り、ゲル法は、シリカゾルをゲル化させて湿式シリカを製造するため、ろ過ができず操作性が良くないことや、ゲル状物をアルカリ等により処理して、湿式シリカの構造を制御するため、安定した品質のものを得るためには、かなり厳密な制御が必要であった。
【0007】
一方、沈降法では、ゲル化物を作らず、比較的ろ過しやすい沈殿物として湿式シリカを製造するため、操作性がよく、安定した品質のものを得ることができる。例えば、インクジェット記録紙填料用の湿式シリカとして、沈降法により、比表面積が270〜400m/gであって、細孔容積の分布を調整した湿式シリカが提案されている(特許文献1参照、特許文献2参照)。かかる湿式シリカ等は、比較的直径が大きな細孔を有するものであり、インクジェット記録紙填料の用途、特に染料タイプのインクを使用する場合に優れた効果を発揮するものである。
【0008】
しかしながら、沈降法により得られる湿式シリカは、ゲル法により得られる湿式シリカと比較して、製造方法の違いにより比表面積が小さく、従来は比表面積が400m/gを超えるものを製造することが困難であった。そのため、フィルムのアンチブロッキング剤等の用途に使用した場合には、形状が変形しやすいため、優れたアンチブロッキング効果やスリップ性を発揮することができなかった。これと共に、フィルム成型時にもせん断応力により粒子が壊れ、発生した新表面がフィルム中の低分子量物との反応を起こし成型機内でメヤニ発生の原因にもなると考えられていた。また、近年、インクジェット記録紙填料の用途において、特に顔料インク対応紙においては、顔料の保持性と脱落防止性が優れた、高い色濃度を発揮できる湿式シリカが要求されており、前記性能を満たすために、より比表面積が大きく、かつ、より細孔容積の分布が調整された湿式シリカが望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開平9−95042号公報
【特許文献2】特開平8−225229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、比表面積が大きく、かつ細孔容積の分布を調整することにより、フィルムの添加剤に使用した場合に、アンチブロッキング性、スリップ性、スクラッチ性に優れ、かつ、メヤニの発生を伴わずフィルムの透明性を向上させる湿式シリカを提供することにある。また、インクジェット記録紙填料の用途に使用した場合に、特に顔料インクを使用するものにおいて、顔料の保持性と脱落防止性に優れ、高い色濃度を発揮できる湿式シリカを提供することにある。また、可塑剤等を含む樹脂に添加し、プレートアウト防止剤として効果的に使用することができる湿式シリカを提供することにある。
【0011】
更に、本発明の他の目的は、比表面積が大きく、かつ細孔容積の分布を調整した湿式シリカを、操作性が良い沈降法により製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を続けてきた。その結果、比表面積が大きく、細孔容積の分布において、細孔直径が特定の範囲に2つのピークを有する細孔容積の分布を示し、かつ、特定の細孔直径を有する細孔の容積割合を調整した湿式シリカが、上記目的を達成できることを見出した。
【0013】
更に、前記の比表面積が大きく、かつ、細孔容積の分布において、特定のピーク、容積割合を有する湿式シリカの製造方法として、2段階で酸処理を行い、1段目の酸処理で高い中和率を達成し、かつ2段目の酸処理を低い温度で行う製造方法によって、ろ過による処理ができ、操作性が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、窒素吸着法により測定した細孔容積の分布曲線において、細孔直径が6nm以上50nm以下の範囲に2つのピークを有し、その第1のピークのピークトップが細孔直径6nm以上15nm未満の範囲にあり、第2のピークのピークトップが細孔直径15nm以上50nm以下の範囲に存在し、全細孔容積が0.7〜2.0ml/gであって、細孔直径が15nm未満である細孔の容積が、全細孔容積の60〜90%であり、かつ、BET比表面積が400m/gを超え700m/g以下であることを特徴とする湿式シリカである。
【0015】
また、本発明は、珪酸アルカリ水溶液中に、該水溶液の液温を30〜50℃に保持しながら、鉱酸を中和率が55〜70%になるように添加する第1酸添加処理を行い、次いで、得られる反応液を50〜75℃に昇温した後、昇温後の温度に保持して、該反応液中に析出した粒子を成長させる熟成処理を行い、更に、該熟成処理後の反応液のpHが2〜4となるように鉱酸を添加する第2酸添加処理を行うことを特徴とする湿式シリカの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の湿式シリカは、比表面積が400m/gを超えるものであって、特定の細孔容積の分布を有するものであることから、フィルムの添加剤に使用した場合には、優れたアンチブロッキング性・スリップ性能、スクラッチ性を発揮し、フィルムの透明性を向上させることができる。また、本発明の湿式シリカは、樹脂に添加する用途において、可塑剤等を含む樹脂を混練、ロール成形等を行うに際し、混練物がロールやスクリュウに付着することを防止するプレートアウト防止剤としても有効に使用することができる。更に、本発明の湿式シリカは、インクジェット用記録填料として使用した場合には、特に、顔料インクを使用するものにおいて、優れた顔料の保持性と脱落防止性を発揮することにより、色濃度が優れた塗工膜になると共に、筆記性も発揮することができる。その他、前記湿式シリカは、樹脂の添加剤として、例えば、メヤニ除去剤として使用することができ、中でも、特定の細孔分布を有するため、合成繊維の湿度の吸放出コントロール剤に使用することができる。また、前記湿式シリカは、凝集強度が高いため、研磨剤の用途にも有効に使用することができる。
【0017】
更に、本発明の湿式シリカの製造方法は、通常の沈降法と同じく、ろ過操作により容易に処理することができるため、良好な操作性を有したまま、前記湿式シリカを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の湿式シリカは、窒素吸着法により測定した細孔容積の分布曲線において、細孔直径が6nm以上50nm以下の範囲に2つのピークを有し、その第1のピークのピークトップが細孔直径6nm以上15nm未満の範囲にあり、第2のピークのピークトップが細孔直径15nm以上50nm以下の範囲に存在することを特徴とする。
【0019】
本発明の前記湿式シリカは、窒素吸着法により測定した細孔容積の分布において、前記2つのピークを持つ細孔を有することにより、優れた性能を発揮することができる。
【0020】
前記第1のピークのピークトップが細孔直径6nm未満にある場合には、湿式シリカの一次粒子の凝集力が強くなりすぎる傾向にあり、湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤に使用した際には、スクラッチ性が低下するため好ましくない。また、インクジェット記録紙填料の用途に使用した際には、吸液性が不足すると共に十分に顔料を保持することができず、色濃度が低下するため好ましくない。一方、第1のピークのピークトップが細孔直径15nm以上にある場合には、一次粒子間の凝集強度が低下する傾向にあり、フィルムのアンチブロッキング剤に使用した際には、形状が変形しやすくなり、十分なアンチブロッキング効果が発揮されず好ましくない。また、インクジェット記録紙填料の用途に使用した際には、顔料がシリカの細孔に埋没する確率が高くなり、色濃度が低下するため好ましくない。フィルムのアンチブロッキング性・スクラッチ性、インクジェット記録紙填料用途の色濃度を考慮すると、第1のピークのピークトップは、細孔直径7nm以上13nm以下の範囲にあることが好ましい。
【0021】
また、前記第2のピークのピークトップが細孔直径15nm未満の場合には、湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤に使用した際には、かかる細孔にフィルムに含まれるオリゴマー等の不要な低分子量物を吸着することができないと考えられ、フィルムの透明性が向上しないため好ましくない。また、インクジェット記録紙填料の用途に使用した際には、顔料の脱落防止性能が十分に発揮されず、色濃度が低下するため好ましくない。一方、第2のピークのピークトップが細孔直径50nmを超える場合には、一次粒子の凝集力が弱く、十分なアンチブロッキング性能が発揮されず好ましくない。また、顔料がシリカの細孔に埋没され、色濃度が低下するため好ましくない。フィルムの透明性、アンチブロッキング性能、インクジェット記録紙填料の色濃度を考慮すると、前記第2のピークのピークトップは、細孔直径18nm以上45nm以下の範囲にあることが好ましい。
【0022】
即ち、本発明の湿式シリカにおいて、前記第1のピーク部分の細孔は、湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤として使用した場合には、優れたアンチブロッキング性をもたらし、更に、インクジェット記録紙填料の用途に使用した場合には、顔料の保持性がよく、高い色濃度を発揮させるものである。一方、前記第2のピーク部分の細孔は、湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤として使用した場合には、優れた透明性を発揮させ、更に、インクジェット記録紙填料の用途に使用した場合には、顔料脱落防止性がよく、高い色濃度を発揮させるものである。
【0023】
また、本発明の湿式シリカは、可塑剤等を含む塩化ビニル樹脂等に添加し、混練物がロールやスクリュウに付着することを防止するプレートアウト防止剤としても使用できる。前記湿式シリカがプレートアウト防止剤として優れた効果を発揮する理由は明らかではないが以下の通り推定される。前記湿式シリカは、第1のピーク部分の細孔が存在することにより、ロール等に付着した混練物を研磨し、削り落とすことができるものと考えられる。更に、この遊離した混練物が、前記第2のピーク部分の細孔に吸着されるものと考えられ、優れたプレートアウト防止効果を発揮するものと考えられる。
【0024】
本発明の湿式シリカは、細孔容積の分布曲線において、2つのピークを有し、全細孔容積が0.7〜2.0ml/gであって、かつ、細孔直径が15nm未満のである細孔の容積が、全細孔容積の60〜90%であることが重要である。
【0025】
本発明において、2つのピークを有する前記湿式シリカは、全細孔容積が0.7〜2.0ml/gである。前記湿式シリカにおいて、後述するBET比表面積の範囲を満足し、全細孔容積が前記範囲を外れるものを製造することは困難である。仮に製造ができたとしても、前記湿式シリカの全細孔容積が2.0ml/gを超える場合、フィルムのアンチブロッキング剤として使用する際には、フィルム中の酸化防止剤などの添加剤成分を過剰に吸着するおそれがあるため好ましくない。また、インクジェット記録紙填料に使用した際には、顔料インクの吸着量が多くなり、顔料インクが埋没してしまう量が増え、色濃度が低下するおそれがあるため好ましくない。一方、湿式シリカの全細孔容積が0.7ml/g未満のものが製造できたとしても、フィルムのアンチブロッキング剤として使用する際には、不要な低分子量物を十分に吸着することができないものと考えられ、フィルムの透明性を向上できないおそれがあるため好ましくない。また、インクジェット記録紙填料に使用した際には、顔料の保持性、脱落防止性が低下し、色濃度が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0026】
また、本発明において、前記湿式シリカは、全細孔容積が0.7〜2.0ml/gであって、かつ、細孔直径が15nm未満のである細孔の容積が、全細孔容積の60〜90%でなければならない。全細孔容積が0.7〜2.0ml/gであって、かつ、細孔直径が15nm未満である細孔の容積が、かかる割合で存在することにより、前記第1のピーク部分の細孔と、第2のピーク部分の細孔との容積のバランスがとれ、優れた効果を発揮することができる。そのため、該湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤として使用した場合には、優れたアンチブロッキング性、スクラッチ性を発揮し、更に、フィルムの透明性を向上させることができる。また、該湿式シリカをインクジェット記録紙填料の用途に使用した場合には、優れた色濃度を発揮させることができる。更に、該湿式シリカをプレートアウト防止剤として使用した場合には、ロール等に付着した混練物を研磨する効果と、削り落とされた混練物を吸着する効果が十分に発揮できるものと考えられる。つまり、前記湿式シリカが、かかる割合を満足しなければ、アンチブロッキング剤、インクジェット記録紙填料、プレートアウト防止剤としての機能を十分発揮することができないため好ましくない。
【0027】
尚、本発明において、細孔容積の分布は、細孔直径0nm以上1000nm以下の範囲にあるものの合計を100%(全細孔容積)として測定を行ったものである。図1に本発明の代表的な湿式シリカの細孔容積の分布曲線を示す。
【0028】
本発明において、前記特定の細孔容積の分布を有する湿式シリカのBET比表面積は、400m/gを超え700m/g以下である。比表面積が400m/g以下の場合は、一次粒子の凝集力が弱く、凝集強度が低いため、フィルムのアンチブロッキング剤として使用した場合には、アンチブロッキング性能を十分発揮できず好ましくない。また、インクジェット記録紙填料の用途として使用した場合には、色濃度が低下するため好ましくない。アンチブロッキング性、色濃度を考慮するとBET比表面積は、420m/g以上であることが好ましい。一方、比表面積の上限は、操作性に優れる沈降法で生産する場合には、700m/g以下であり、好ましくは650m/g以下である。
【0029】
本発明において、前記湿式シリカは、比表面積が大きく、緻密なものとなるため、嵩が低下して、フィルムのアンチブロッキング剤の用途に使用する場合には、樹脂中に高充填することができる。そのため、前記湿式シリカの見掛け比容積も、特に制限されるものではないが、6ml/g以下とすることが好ましい。また、前記湿式シリカは、アンチブロッキング剤、インクジェット記録紙填料として使用するには、シリカの純度が高いものが好ましく、原料に由来する酸化アルミニウム(Al)等の不純物が、0〜1.0質量%であることが好ましい。
【0030】
本発明において、湿式シリカの平均粒径(一次粒子が凝集してなるもの)は、使用する用途において適宜調整すればよい。例えば、フィルムのアンチブロッキング剤に使用する際、二軸延伸フィルムのアンチブロッキング剤に使用する場合には、平均粒子径が1〜5μmであり、5μmを超える粒子が10質量%以下に分級されていることが好ましく、一方、無延伸フィルムのアンチブロッキング剤に使用する場合には、平均粒子径が5〜10μmであり、10μm超える粒子が10質量%以下に分級されていることが好ましい。尚、前記湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤に使用する場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、PVA(ポリビニルアルコール)製等の公知の素材のフィルムに使用することができる。また、塩化ビニル樹脂、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)等の樹脂をカレンダーロール加工する際にプレートアウト防止剤として使用できる。
【0031】
また、本発明の湿式シリカをインクジェット記録紙填料に使用する場合には、平均粒径を2〜13μmにすることが好ましい。
【0032】
本発明において、前記湿式シリカは、ろ過により処理することができ、操作性が良く、しかも、前記比表面積であって、前記細孔容積の分布を有する湿式シリカを同一の製造工程で製造するためには、以下に示す方法により製造することが好ましい。
【0033】
即ち、本発明の湿式シリカの製造方法は、珪酸アルカリ水溶液中に鉱酸を2段階に分けて加え、シリカの沈殿物を析出させる方法であり、珪酸アルカリ水溶液中に、該水溶液の液温を30〜50℃に保持しながら、鉱酸を中和率が55〜70%になるように添加する第1酸添加処理を行い、次いで、得られる反応液を50〜75℃に昇温した後、昇温後の温度に保持して、該反応液中に析出した粒子を成長させる熟成処理を行い、更に、該熟成処理後の反応液のpHが2〜4となるように鉱酸を添加する第2酸添加処理を行うことを特徴とするものである。
【0034】
本発明において、前記珪酸アルカリは、特に制限されるものではなく、通常の湿式シリカを製造する際のものが使用することができる、例えば、珪酸ソーダ、珪酸カリウムを例示することができ、中でも珪酸ソーダを使用することが好ましい。珪酸アルカリ水溶液中に溶解しているシリカとアルカリのモル比SiO/MO(Mは、アルカリ金属を表し、例えばNa、K等である)は、SiO/MO=2〜4のものが好ましい。
【0035】
また、珪酸アルカリ水溶液の濃度は、SiO濃度で示した場合、280〜380g/L、好ましくは280〜300g/Lのものを使用することが、安定して湿式シリカを製造することができるため好ましい。尚、前記珪酸アルカリ水溶液中には、電解質、一般には硫酸ナトリウムを1〜100g/L程度混合させることもできる。
【0036】
また、前記珪酸アルカリ水溶液は、SiOに対してAlが0.20質量%以下であるもの使用することが、得られる湿式シリカの不純物を低下させることができるため好ましい。
【0037】
本発明に使用する鉱酸も、通常の湿式シリカの製造に使用されるものが、特に制限なく使用することができる。具体的には、硫酸、塩酸、硝酸を使用することができ、中でも硫酸を使用することが好ましい。使用する鉱酸の濃度は、20〜30質量%が好ましい。
【0038】
本発明の湿式シリカの製造方法は、2段階の中和処理を行う。
【0039】
本発明において、珪酸アルカリ水溶液中に鉱酸を加え、中和率を55〜70%とする第1酸添加処理は、鉱酸を添加する珪酸アルカリ水溶液の液温を30〜50℃に保持することが重要である。前記液温が30℃未満である場合には、ゲル化が生じやすくなり好ましくなく、50℃を超える場合には、比表面積が小さくなるため好ましくない。
【0040】
本発明において、前記第1酸添加処理は、中和率が55〜70%になるように珪酸アルカリ水溶液に鉱酸を添加する。中和率が55%未満の場合には、最終的に得られる湿式シリカの比表面積が小さくなるため好ましくなく、また、前記の細孔容積の分布において、細孔直径15nm未満である細孔の容積の割合が、60%未満となるため好ましくない。一方、中和率が70%を超える場合には、後処理においてゲル化が生じやすくなるため、ろ過による処理が困難となり、生産性が低下するため好ましくない。また、ゲル化が生じない場合でも、前記の細孔分布において、細孔直径15nm未満である細孔の容積の割合が、90%を超えるため好ましくない。生産性と得られる湿式シリカの比表面積、細孔容積の分布を考慮すると中和率は、57〜65%であることが好ましく、更に好ましくは57〜63%である。尚、本発明において、前記中和率が55〜70%とは、珪酸アルカリを中和するために必要な酸の55〜70%となる量の酸を添加することを示すものである。
【0041】
また、前記第1酸添加処理において、鉱酸の添加速度は、使用する珪酸アルカリ水溶液、鉱酸の濃度、量等により適宜調整することができるが、前記範囲の珪酸アルカリ水溶液、鉱酸の濃度で工業的に生産する場合には、3〜30分間の範囲で、連続して攪拌中の珪酸アルカリ水溶液中に添加することが好ましい。
【0042】
本発明において、前記第1酸添加処理を行い得られる反応液は、昇温する前に、破砕装置で処理することもできる。尚、破砕装置とは、超音波装置、ホモジナイザーを示すものであり、破砕装置で処理する操作とは、超音波装置により該反応溶液に超音波をあて、破砕・研磨処理する操作、または、ホモジナイザーにより該反応溶液に振動を与え、破砕・研磨処理する操作を意味するものである。前記第1酸処理後に得られる反応液は、シリカゾルを含む状態のものであり、このシリカゾルを含む反応液を破砕装置により破砕・研磨処理することにより、最終的に得られる湿式シリカの表面が滑らかになり、該湿式シリカをフィルムのアンチブロッキング剤として使用した場合に、より優れた耐スクラッチ性を発揮することが可能となる。
【0043】
また、本発明において、前記第1酸添加処理を行い得られる反応液を破砕装置で処理する際に、超音波破砕装置、ホモジナイザーで処理する場合の条件は、反応液中のシリカの量、濃度等により適宜調節してやればよいが、通常、超音波破砕装置、ホモジナイザーの出力を150W以上として、反応液を撹拌しながら処理することが好ましい。前記条件で処理することにより、最終的に得られる湿式シリカの表面が十分に滑らかなものとなる。
【0044】
本発明において、前記第1酸添加処理を行い得られる反応液は、次いで、50〜75℃の温度に昇温される。昇温後の反応液の液温が50℃未満の場合には、ゲル化するか、またはゲル化しないまでも反応液の粘度が高くなりすぎ、生産性が低下するため好ましくない。また、75℃を超える場合には、最終的に得られる湿式シリカの比表面積が小さくなり、細孔容積の分布において、細孔直径が15nm未満である細孔の容積の割合が60%未満となるため好ましくない。生産性と得られる湿式シリカの比表面積、細孔容積の分布を考慮すると、前記液温は55〜73℃が好ましい。また、該反応液を50〜75℃に昇温させる際には、10〜30分間以内で昇温させることが好ましい。本発明の湿式シリカの製造方法においては、前記第1添加処理における高い中和率と、この昇温後の温度の両方を満足することが重要である。
【0045】
尚、前記昇温とは、第1酸添加処理後の反応液の温度を高くすることであり、該反応液の温度を少なくとも10℃以上高めることが好ましい。つまり、第1酸添加処理後の反応液の液温が50℃の場合は、少なくとも該反応液を60℃に昇温させることが好ましい。第1酸処理後の反応液を少なくとも10℃以上高めることにより、反応液中のシリカゾルから効率良くシリカの種子を析出させることができる。また、昇温する方法は、公知の方法を採用することができ、スチームを攪拌中の反応液に吹き込む方法等を採用することができる。
【0046】
本発明において、50〜75℃に昇温した前記反応液は、昇温後の温度に保持して、反応液中に析出した粒子を成長させる熟成処理を行う。この熟成処理は、反応液中に析出したシリカの種子を成長させ、該種子からシリカの粒子を成長させることを目的に行うものである。また、この熟成処理の時間は、珪酸アルカリ水溶液、鉱酸の濃度、昇温後の温度により適宜調節してやればよいが、前記反応液を昇温後の温度に保持したまま、撹拌しながら1〜60分間放置してやればよい。生産性や操作性を考慮すると熟成処理の時間は、3〜30分間であることが好ましい。
【0047】
本発明において、前記熟成処理後の反応液は、更に、該反応液のpHが2〜4となるように鉱酸を添加する第2酸添加処理を行う。この場合も、前記反応液は、濃度を均一に保つため撹拌を行うものとする。前記第2酸添加処理は、湿式シリカを完全に析出させるために、前記反応液のpHを2〜4となるまで鉱酸を添加する。また、前記第2酸添加処理は、特に制限されるものではないが、鉱酸を添加して、前記反応液のpHが2〜4となるまでの時間が15〜50分間であることが好ましい。鉱酸を添加する時間が15〜50分間であることにより、シリカ粒子の凝集が強固となるため好ましい。尚、第2酸添加処理において、鉱酸は同一の速度で連続して添加することが好ましい。
【0048】
本発明において、前記第2酸添加処理後に得られる湿式シリカを含む反応液は、通常の沈降シリカと同じく、公知のろ過操作により処理することができる。具体的には、フィルタープレス機等の脱水機により、ろ過により湿式シリカを分離することができる。
【0049】
本発明において、前記ろ過により分離された湿式シリカは、公知の方法により、精製することができる。具体的には、水洗、乾燥を行った後、公知の方法で所定の粒径になるまで粉砕、分級を行うことができる。
【0050】
また、上記方法により得られる湿式シリカを熱処理することもできる。前記熱処理は、湿式シリカの水分量が5質量%以下となるように処理することが好ましい。また、熱処理する方法は、特に制限されるものではなく、ロータリーキルン方式・静置焼成方法により、火炎と接触させる方法を採用することができる。湿式シリカの水分量を5質量%以下とすることにより、フィルムのアンチブロッキング剤の用途に用いた場合、樹脂に練りこんだ際に、水分の発生が少なく高充填することができる。そのため、シリカの充填量が5質量%を超えるようなシリカ高充填マスターバッチとしても使用することも可能となる。尚、湿式シリカの水分量の下限は、特に制限されるものではないが、実際の工業的生産を考慮すると0.5質量%以上である。
【0051】
尚、前記熱処理は、ろ過により湿式シリカを分離し、水洗、乾燥を行った後の湿式シリカであれば、粉砕の前後、または、分級の前後のいつでも処理することができる。
【0052】
本発明の製造方法により得られる湿式シリカは、比表面積が大きく、更に、前記熱処理を行うことにより、細孔直径の範囲を変えることなく、細孔容積を低減することができる。そのため、フィルムのアンチブロッキング剤に使用した場合には、優れたアンチブロッキング性を示し、かつ、フィルムに含まれる添加剤の過剰な吸着を抑えることができる。また、インクジェット記録紙填料、樹脂のプレートアウト防止剤としても有効に使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を更に具体的に説明するため実施例を示すが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
尚、実施例及び比較例に掲載した測定値は、以下の方法によって行ったものである。
(1)比表面積の測定
窒素吸着による簡易型BET式比表面積計にて測定した。
【0055】
(2)細孔容積の測定
島津製作所製の窒素吸着法細孔分布測定器アサップ2010型を使用し、細孔容積を測定した。
【0056】
(3)平均粒径の測定
少量のサンプルをメタノール溶液に添加し、超音波分散器で3分間分散する。この溶液を、コールターカウンター粒度分布測定器で測定した。
【0057】
(4)見掛け比容積
JIS K−6220(ピストン法)に準拠して、見掛け比容積を測定した。
【0058】
(5)水分量
JIS K−6220に準拠して、水分量を測定した。
【0059】
(6)凝集強度の測定(トクヤマ法)
超音波破砕機の出力変化(200W/50W)による平均粒子径変化度を、凝集強度として測定した。
【0060】
(7)フィルムのアンチブロッキング剤としての評価
a.フィルムの製膜
市販のMIが7g/10分のホモポリプロピレンに、ホモポリプロピレンに対して添加量が2.0質量%となるように湿式シリカを添加して、溶融混練の温度を230℃にしてペレット(A)を得た。
【0061】
メイン押出機1基、サテライト押出機2基からなる3層シート押出機、及びテンター法二軸延伸製膜機を使用し、フィルムを製膜した。メイン押出機には出光石油化学製F300SP(原料)を供給し、各サテライト押出機には湿式シリカを0.2質量%含むようにペレット(A)で調整した原料を供給し、280℃に溶融させたそれぞれの樹脂をT−ダイスより共押出しし、30℃の冷却ロールに密着させて冷却固化させ、厚さ1mmの3層未延伸シートを成形した。このシートを130℃に予熱したロールを用いて縦方向に4.5倍延伸し、次いで160℃のテンター内で横方向に10倍延伸して、フィルム厚みが25μmの二軸延伸フィルムを製膜した。尚、各層の厚みは、両外層1μm、中心層23μmに設定した。
【0062】
b.アンチブロッキング性能の評価
前記方法により得られた2枚のフィルム(12cm×12cm)を重ね、10kgの荷重をかけて、温度40℃、湿度90%の雰囲気下に24時間放置した後、2枚の重なりの部分が3cm×4cmとなるようにフィルムを切り出し、引張り試験機(引張り速度50m/分)でせん断剥離強度を測定した。尚、ブロッキングが発生せず、該剥離強度が正確に測定できないものについては、表2において、ブロッキング強度1KPa未満と示した。
【0063】
c.スクラッチ性の評価
前記方法により得られた2枚のフィルムを用意して、一方のフィルム(10cm×30cm)を下部フィルムとして固定し、他方のフィルムを上部フィルムとし、上部フィルムには2.4kgの錘をのせて下部フィルムと6.5cm×7.5cmの面積で接触させ、上部フィルムを水平に移動させることによって20cm間を往復10回擦り合わせた。この操作を行う前後のヘイズをJIS K 7105に準拠して測定し、下記判定基準に準じ評価した。
スクラッチ前後のヘイズ値差(Δヘイズ)
◎:0.0〜1.0
○:1.0〜2.0
×:2.0以上
以上の基準で評価した。
【0064】
d.ヘイズの測定(フィルムの透明性の評価)
JIS K 7105に準拠した。
【0065】
(8)プレートアウト防止剤としての効果
a.試料の作成
市販の塩化ビニル樹脂粉末(重合度1300)100部、可塑剤35部、赤色顔料1部、安定剤1部、湿式シリカ1部をミキサーで予備混合したコンパウンドを作成する。これを180℃に制御した4インチロール機で5分間混練した後、塩化ビニル樹脂混練物(A)をロールより取り除いた。次いで、前記塩ビ粉末100部、可塑剤15部、安定剤1部、酸化チタン5部を加えたコンパウンドを別途作成し、塩化ビニル樹脂混練物(A)を取り除いた直後のロールで洗浄混練し、シート(B)を得た。
【0066】
b.プレートアウト防止性の評価
シート(B)に赤色顔料物が移行せず、白色のものを○、僅かに着色しているものを△、赤色のものを×として評価した。シート(B)が着色しておらず、白色に近いものほど、プレートアウト防止性が優れたものとなる。
【0067】
(9)インクジェット記録紙填料の色彩評価
a.記録紙の作成
ポリビニルアルコール(PVAクラレR1130)の20%水溶液1000mlに湿式シリカを250g、分散剤として、PAN()を150g添加し、ホモディスパーを用いて、充分分散した。この塗工液を秤量80g/mの上質紙上に塗工量が、12g/mになるように塗工し記録紙を得た。
【0068】
b.色濃度の測定
エプソン社製のPX−G900プリンターを用いて、前記記録紙に印字した。
ブラック(B)色の印字画像の濃度を
Kolimorgen Instruments Corporation社製マクベスRD918で測定し、以下の評価を行った。
【0069】
c.筆記性の測定
X−37(トクヤマ製)をコートした記録紙をベースに、このコート紙よりも筆記性の良いものを◎、同程度のものを○、筆記性に劣るものを×として評価した。
【0070】
実施例1
市販の珪酸ソーダ(SiO/NaOモル比3.08、SiO濃度28.32質量%、Al0.1質量%)0.12m、水・0.88mを、2mの撹拌翼付き蒸気加熱方式の反応層にいれ、水溶液の液温を40℃に保持しながら、22質量%硫酸を中和率が60%となるように、前記硫酸0.11mを10分間で添加し、第1酸添加処理を行った。次いで、前記第1酸添加処理により得られる反応液中に、蒸気を吹き込んで液温を20分間で70℃とした。前記反応液を撹拌しながら70℃に保持して、15分間放置し、シリカの粒子を成長させる熟成処理を行った。更に、熟成処理後の反応液を撹拌しながら、該反応液中に22質量%の硫酸0.07mを30分間で添加し、反応液の最終pHを3.0とする第2酸添加処理を行った。
【0071】
次いで、前記第2酸添加処理を行った反応液をフィルタープレスによりろ過した後、水洗し、恒温乾燥器で乾燥した。その後、この乾燥品を気流粉砕器で破砕した後、分級し、湿式シリカを得た。表1にその特性を示す。尚、得られた湿式シリカに含まれるAlは、0.1質量%であった。
【0072】
また、このようにして得られた湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。表2にその結果を示す。
【0073】
実施例2
実施例1において、第1酸添加処理後に得られる反応液を2000wの出力で、30分間、超音波装置により処理した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0074】
実施例3
実施例1において、第2酸添加処理を行った反応液をフィルタープレスによりろ過した後、水洗し、恒温乾燥器で乾燥した湿式シリカを電気炉により90分間、熱処理した以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0075】
実施例4
実施例1において、第1酸添加処理温度を70℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0076】
実施例5
実施例1において、中和率を70%となるように硫酸を添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0077】
実施例6
実施例1において、第2酸添加処理温度を50℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0078】
実施例7
実施例1において、第2酸添加処理の硫酸を添加する時間を15分間とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0079】
実施例8
実施例1において、第1酸添加処理後に得られる反応液を2000wの出力で、30分間、超音波装置により処理し、更に、第2酸添加処理を行った反応液をフィルタープレスによりろ過した後、水洗し、恒温乾燥器で乾燥した湿式シリカを電気炉により90分間、熱処理した以外は実施例1と同様の操作を行った。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0080】
比較例1
実施例1において、第2酸添加処理の温度を90℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0081】
比較例2
実施例1において、第1酸添加処理後に得られる反応液を昇温せず、そのまま、第2酸添加処理の温度を40℃とした。得られた反応液は、一部ゲル化して粘度の高い溶液となり、ろ過による操作が行えなかった。
【0082】
比較例3
実施例1において、中和率を30%とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた湿式シリカの特性を表1に示す。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0083】
比較例4
実施例1の第1酸添加処理において、中和率が80%となるように硫酸を添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。次いで、前記第1酸添加処理後に得られる反応液を70℃に昇温した際、一部ゲル化して粘度の高い反応液となり、ろ過による操作が行えなかった。
【0084】
比較例5
市販のゲル法により製造された湿式シリカの比表面積、細孔容積の分布等の特性を表1に示した。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0085】
比較例6
比較例5で使用した市販のゲル法により製造された湿式シリカと、市販の沈降法により製造された湿式シリカを混合し、表1に示す特性のシリカを得た。また、この湿式シリカを使用して、前記方法に従い、フィルムのアンチブロッキング剤としての評価、プレートアウト防止性の評価、およびインクジェット記録紙填料の色彩評価を行った。その結果を表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
実施例1〜8に使用した湿式シリカは、比表面積が大きく、フィルムのアンチブロッキング剤、インクジェット記録紙填料、可塑剤等を含む樹脂のプレートアウト防止剤の用途に好適に使用できることが分かった。また、超音波処理を行った実施例2の湿式シリカを使用した例では、スクラッチ性がより向上されていることが分かった。更に、熱処理を行った実施例3の湿式シリカは、細孔容積とシラノール基が低減されており、フィルムのアンチブロッキング剤に使用した場合、フィルムに含まれる添加剤の過剰な吸着を抑えることができると共に低分子量物との反応も抑えられるものと考えられる。そして、超音波処理、熱処理の両方を行った実施例8の湿式シリカは、スクラッチ性、耐ブロッキングにも優れるものであった。また、実施例1〜8の湿式シリカは、市販のゲル法により製造された湿式シリカ(比較例5)よりも、スクラッチ性、印字濃度が優れていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施例1で得られた湿式シリカの細孔容積の分布曲線である。
【図2】比較例3で得られた湿式シリカの細孔容積の分布曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着法により測定した細孔容積の分布曲線において、細孔直径が6nm以上50nm以下の範囲に2つのピークを有し、その第1のピークのピークトップが細孔直径6nm以上15nm未満の範囲にあり、第2のピークのピークトップが細孔直径15nm以上50nm以下の範囲に存在し、全細孔容積が0.7〜2.0ml/gであって、細孔直径が15nm未満である細孔の容積が、全細孔容積の60〜90%であり、かつ、BET比表面積が400m/gを超え700m/g以下であることを特徴とする湿式シリカ。
【請求項2】
珪酸アルカリ水溶液中に、該水溶液の液温を30〜50℃に保持しながら、鉱酸を中和率が55〜70%になるように添加する第1酸添加処理を行い、次いで、得られる反応液を50〜75℃に昇温した後、昇温後の温度に保持して、該反応液中に析出した粒子を成長させる熟成処理を行い、更に、該熟成処理後の反応液のpHが2〜4となるように鉱酸を添加する第2酸添加処理を行うことを特徴とする湿式シリカの製造方法。
【請求項3】
前記第1酸添加処理後に得られる反応液を破砕装置により処理する操作を含むことを特徴とする請求項2に記載の湿式シリカの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の湿式シリカよりなるフィルムのアンチブロッキング剤。
【請求項5】
請求項1に記載の湿式シリカよりなるインクジェット記録紙填料。
【請求項6】
請求項1に記載の湿式シリカよりなる樹脂のプレートアウト防止剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−69883(P2006−69883A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204305(P2005−204305)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】