説明

湿式電気集塵装置および放電極の腐食防止方法

【課題】腐食性ミストを含む被処理ガスの処理において、腐食性ミストによる放電極の腐食を抑制することができる湿式電気集塵装置を提供する。
【解決手段】被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、冷気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極10と、放電極10の両端にそれぞれ接続する絶縁パイプ14a,14bと、絶縁パイプ14aの上流側であって、絶縁パイプ14aに冷気を供給する冷却手段20とを備え、放電極10に冷気を送風し冷却して、放電極10の外面と被処理ガスとの温度差によって被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、放電極10の外面で濡れ膜を形成させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置および放電極の腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所のボイラから排出される排ガス中には、主成分となる二酸化炭素のほか、燃料に含有された硫黄分から生成された硫黄化合物や、高温・高圧状態の燃焼室で窒素が酸化された窒素酸化物などの有害物質が含まれている。そこで排出される排ガスが周辺環境に影響を与えないように連続的に脱窒・脱硫の捕集処理を経てから大気中に排出している(特許文献1)。ここで一般的な排ガス処理設備はボイラ側から脱硝装置、乾式電気集塵装置、湿式脱硫装置、湿式電気集塵装置の順に配置されている。
【0003】
ところで排ガスに含まれる硫黄化合物は、二酸化硫黄(SO)が主であるが、ボイラ内での燃焼や触媒酸化によって、一部は三酸化硫黄(SO)となりさらに三酸化硫黄は水と反応して硫酸になる。この三酸化硫黄は濃度が数十ppmの場合、温度が百数十度以上ではガス状であるが、ガス温度が酸露点(例えばSO濃度が1〜100ppmの場合、硫酸露点は120度から150度)以下になると、凝縮して硫酸ミストになる。この硫酸ミストは腐食性があるので、湿式脱硫装置の前段では、排ガスを酸露点よりも高い温度、例えば約170度以上にエアヒータで温度制御して、硫酸ミストの発生を抑制している。
【0004】
一方、湿式脱硫装置は、排ガス温度が水の露点近傍で最も脱硫性能が高いため、装置内では多量の循環水をスプレーしている。従って、湿式脱硫装置では、排ガス温度が約170度から水分の露点である約50度〜60度まで急激に低下される。このとき排ガス中の硫酸は湿式脱硫装置内の温度降下時にミスト化される。このような急冷による硫酸ミストは粒径が小さいため、噴霧スラリとの衝突確率が低く、湿式脱硫装置で除去することは困難である。そこで後段の湿式電気集塵装置で硫酸ミストを除去している。
【0005】
湿式電気集塵装置では、湿式脱硫装置から送られた排ガス中の硫酸ミストなどのミストや残存している塵埃を電気集塵の原理によって集塵極で捕集している。捕集されたミストはそれ自体が集塵極表面に濡れ膜を形成して自然落下する、またミスト量が少なく、自然流下が起こり難い場合には、集塵極の上部から洗浄水を常時または間欠的に流し、集塵極に捕集したミストや塵埃を流し落としている。
【特許文献1】特開2002−45643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、硫酸ミストなどの腐食性ミストを含む被処理ガスを湿式電気集塵装置で処理した場合、集塵極にミストが集まって、放電極は乾燥しやすい状態になる。このため、放電極に被処理ガス中の腐食性ミストが付着すると、乾燥による腐食性ミストの濃縮が起こり、放電極が腐食を受け、放電極の耐用期間が短くなるという問題があった。
【0007】
このような問題を改善するために、集塵極と同様の手法で放電極の上部から洗浄水を噴霧し、放電極に付着した腐食性ミストを流し落とすことが考えられる。しかしこのような方法は、噴霧した水滴がガス流によって流されるため、放電極の下部まで水滴を到達させることができず、放電極に付着した腐食性ミストを満遍なく流し落とすことが困難である。
【0008】
また、大型の湿式電気集塵装置の場合には放電極が長尺となり、前記同様に放電極の下部までに水滴を到達させることができず、放電極に付着した腐食性ミストを満遍なく流し落とすことが困難である。
【0009】
さらに、水滴がケーシング内のガス流によって流れないように、噴霧水の粒径を大きくすると、水滴の大部分が集塵極に捕集される。このため、十分な洗浄効果を得ることができない。また逆に粒径の大きい水滴によってスパークを誘発させるという新たな問題が生じてしまう。
【0010】
そこで本発明は上記従来技術の問題点を解決するため、腐食性ミストを含む被処理ガスを処理する場合でも、放電極を満遍なく濡らすことが可能であり、放電極の腐食を抑制することができる湿式電気集塵装置および放電極の腐食防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の湿式電気集塵装置は、被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、前記被処理ガスよりも低温の外気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極を備え、前記放電極に外気を送風し冷却して、前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴としている。
【0012】
また本発明の湿式電気集塵装置は、被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、冷気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極を備え、前記放電極を冷却して前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴としている。
【0013】
また本発明の湿式電気集塵装置は、被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、冷気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極と、前記放電極の両端にそれぞれ接続する絶縁パイプと、前記絶縁パイプの上流側であって、前記絶縁パイプに冷気を供給する冷却手段とを備え、前記放電極に冷気を送風し冷却して、前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴としている。
【0014】
この場合において、前記冷却手段には、前記被処理ガスの温度に基づいて前記冷気の温度および流量制御を行う制御手段が接続しているとよい。
【0015】
本発明の放電極の腐食防止方法は、湿式電気集塵装置の被処理ガスの流路に沿って筒状の放電極を配設し、前記放電極の内部に備えた流路に、前記被処理ガスよりも低温の外気を送風し、前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
上記構成による本発明によれば、筒状の放電極の内部流路に冷気を通すことにより、熱伝達及び熱伝導によって、放電極全体が冷却される。この放電極の外面を被処理ガスが接すると、被処理ガスも吸熱されて冷やされる。
【0017】
この被処理ガスが露点温度を下回ることで、すなわち放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって、被処理ガスに含まれていた水分(水蒸気)の一部が結露して、放電極の外面に付着する。この過程が順次起こることで、放電極の外面に、結露水による濡れ膜が形成される。この濡れ膜が腐食性ミストに対する防護膜として機能し、腐食性ミストが放電極に付着した場合でも、腐食性ミストが濡れ膜によって希釈されることになる。よって放電極の腐食性ミストによる腐食力が低下して、放電極の腐食を大幅に抑制する効果が得られる。
【0018】
また放電極に形成される濡れ膜は、膜の厚みが増すと自重によってパイプ状の電極の長手方向に沿って流下する。このため、一定以上の厚みには成長せず、新たに付着する凝縮水やミストによって膜の形成を繰返し、防護膜としての機能が低下することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の湿式電気集塵装置および放電極の腐食防止方法の実施形態を添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の湿式電気集塵装置の主要部を示す斜視図である。図示のように湿式電気集塵装置のケーシング内には、複数の放電極10および集塵極12が所定の間隔で交互に配設されている。硫酸ミストなどの腐食性ミストを含む被処理ガスは、ケーシングのガス流入口から図中の矢印Aに示すように交互に配置した放電極10と集塵極12と間に流れ込む。
【0021】
被処理水ガス中の硫酸ミストや残存している塵埃は、放電極10と集塵極12の間を通過する間に電気集塵の原理によって集塵極12に捕集される。そして電気集塵によって硫酸ミストや塵埃が除去された処理ガスは、ケーシングのガス排出口からケーシング外に排出される。
【0022】
集塵極12に捕集された硫酸ミストは、それ自体が集塵極12の表面に濡れ膜を形成して自然流下するか、またはミスト量が少なく自然流下が起きにくい場合には、図示しない洗浄手段によって集塵極12の上部から洗浄水を常時又は間欠的に流し、集塵極12に捕集した硫酸ミストや塵埃を流し落としている。
【0023】
図2は、湿式電気集塵装置の放電極の概略説明図である。図3は湿式電気集塵装置の放電極の断面図である。図2に示す放電極10は、集塵極12の間に配置した同一平面上の放電極10を示している。各放電極10はケーシング外部に配置した図示しない高圧電源に接続しており、高電圧が印加されている。この放電極10は、図3に示すように、パイプ(筒状管)のような中空構造としている。さらに放電極10は、両端の開口に絶縁性の配管となる絶縁パイプ14がそれぞれ接続している。絶縁パイプ14は、高電圧が印加される放電極と電気的な接続を回避した電気絶縁性を有しており、一例として硬化性のプラスチック樹脂等を用いることができる。
【0024】
図3に示す放電極10の上部に接続するパイプは、上流側の絶縁パイプ14aであり、冷却手段20が接続している。冷却手段20は、被処理ガスより低い温度の冷気を生成し、絶縁パイプ14に送風するファン22を備えている。ファン22は絶縁パイプ14を介して放電極10内部に冷気を送風できるようにしている。
【0025】
上流側の絶縁パイプ14aの配管途中であって、冷却手段20の接続箇所よりも下流側には、冷気の流量制御弁24を取り付けている。流量制御弁24は、絶縁パイプ14aに供給する冷気の供給量を任意に調整可能に構成している。
【0026】
冷却手段20には制御手段30が接続している。さらに制御手段30は、湿式電気集塵装置に流入する被処理ガスの温度を測定する温度センサ32と、流量制御弁24と、外気温度を測定する外気温度センサ34に接続している。制御手段30は、温度センサ32の測定値すなわち被処理ガスの温度、外気温度センサ34の測定値に基づいて、放電極10に供給する冷気の温度および供給量を制御している。
【0027】
一方、図3に示すように電極10の下部に接続するパイプは、下流側の絶縁パイプ14bである。下流側の絶縁パイプ14bには放電極10を通過した冷気が流れ込む。この冷気は外部へ排気させるか、あるいは上流側の絶縁パイプ14aに戻すことにより循環させる構成とすることもできる。
【0028】
次に上記構成による放電極の腐食防止方法について以下説明する。
まず、湿式電気集塵装置に流入する被処理ガスの温度を温度センサ32により測定し、測定値が制御手段30に送られる。また外気温度センサ34により測定した外気温度が制御手段30に送られる。
【0029】
湿式電気集塵装置内に流れ込む被処理ガスの温度は、通常50度から60度程度の飽和ガスである。よって制御手段30では、放電極10の外面温度が被処理ガスよりも低くなるような設定温度、一例として15度〜20度の冷気を供給する。
【0030】
制御手段30では、まず外気温度が設定温度15度〜20度の場合には、冷却手段20を停止させ、ファン22による外気を上流側の絶縁パイプ14aに供給する。
【0031】
一方、外気温度が設定温度を越えている場合には、冷却手段20により設定温度の冷気を生成する。冷却手段20は、一例として地下水と外気(空気)との熱交換によって冷却して冷気を生成させると良い。
【0032】
このような設定温度の外気あるいは生成した冷気がファン22により上流側の絶縁パイプ14a内に供給される。絶縁パイプ14a内の外気または冷気は、接続する放電極10の上部から流れ込み、下部の下流側の絶縁パイプ14bへ排出される。
【0033】
このとき外気または冷気を放電極10内部に送風することで放電極10の外面が冷却される。放電極10の外面温度が被処理ガスよりも低くなるように外気または冷気を送風すると、放電極10の外面と被処理ガスが接したときにガスが冷やされる。そしてガスが露点温度を下回ることで、ガスに含まれていた水分(蒸気)の一部が放電極10の外面で結露する。生成した結露水によって放電極10の外面は濡れた状態となる。
【0034】
このため、放電極10の外面に順次、結露水が発生し、放電極10の全面に濡れ膜が形成される。この濡れ膜が腐食性ミストに対する防護膜として機能する。すなわち、腐食性ミストが放電極10に付着した場合でも腐食性ミストが濡れ膜によって十分に希釈され、腐食力が低下し、放電極10の腐食を大幅に抑制することができる。そして濡れ膜の厚みが増すと自重によって自然流下する。よって、濡れ膜は、一定の厚み以上には成長せず、新たに付着する結露水やミストによって生成し続け、防護膜としての機能が低下することがない。
【0035】
また放電極10に供給する冷気の設定温度が低すぎるなど、放電極10を冷却して、結露が過剰に発生し、水滴によるスパークが発生した場合には、スパーク頻度により、冷気の設定温度または冷気の流量を調整するようにするとよい。
【0036】
本発明は、冷気が送風可能な流路を形成した放電極10を用いて外面上下を均一に温度制御することができる。また長尺の放電極であっても上下における外面の温度差は微差である。このため、放電極10の全体に均一に濡れ膜を形成することができる。本実施形態において、被処理ガスの流れを水平方向の流れで説明したが、この他にも被処理ガスの流れは鉛直方向など流れ方向に係らず同様な腐食防止の効果が得られる。
【0037】
図4は湿式電気集塵装置の変形例の説明図である。
図示のように変形例の放電極10Aは、集塵極の間で集塵極の平面に沿った同一平面上に並べた複数の放電極を互いに接続して枠形に形成している。枠形の放電極10Aの上下部分には、上流側の絶縁パイプ14aと下流側の絶縁パイプ14bとの接続箇所をそれぞれ設けている。また枠形の放電極10Aは、図1の実施形態と同様に筒状とし、冷気の流路を形成し、互いに外気または冷気を通流可能としている。よって枠形の放電極10Aは上流側の絶縁パイプ14aから外気または冷気が流れ込み、放電極10Aの上方から下方に均等に供給されて下方の絶縁パイプ14bから排出される。この構成により放電極の放電面積を広くするとともに、筒状の放電極の外面に濡れ膜が形成されて図1に示す放電極と同様な腐食抑制効果が得られる。
【0038】
この他、放電極の表面を粗くする粗面加工を施すこともできる。粗面加工としては、ヤスリ加工、ブラスト加工、ディンブル加工、溝入れ加工などを用いて形成することができる。このような粗面加工が成されていると、放電極での濡れ膜の形成と維持が良好となり、腐食抑制作用が向上する効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、硫黄酸化物を含む排ガス処理等の分野において特に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の湿式電気集塵装置の主要部を示す斜視図である。
【図2】湿式電気集塵装置の放電極の概略説明図である。
【図3】湿式電気集塵装置の放電極の断面図である。
【図4】湿式電気集塵装置の変形例の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
10………放電極、12………集塵極、14………絶縁パイプ、20………冷却手段、22………ファン、24………流量制御弁、30………制御手段、32………温度センサ、34………外気温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、
前記被処理ガスよりも低温の外気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極を備え、
前記放電極に外気を送風し冷却して、前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴とする湿式電気集塵装置。
【請求項2】
被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、
冷気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極を備え、
前記放電極を冷却して前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴とする湿式電気集塵装置。
【請求項3】
被処理ガスの流路に沿って放電極を配設した湿式電気集塵装置において、
冷気を送風可能な流路を形成した筒状の放電極と、
前記放電極の両端にそれぞれ接続する絶縁パイプと、
前記絶縁パイプの上流側であって、前記絶縁パイプに冷気を供給する冷却手段とを備え、
前記放電極に冷気を送風し冷却して、前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴とする湿式電気集塵装置。
【請求項4】
前記冷却手段には、前記被処理ガスの温度に基づいて前記冷気の温度および流量制御を行う制御手段が接続していることを特徴とする請求項3記載の湿式電気集塵装置。
【請求項5】
湿式電気集塵装置の被処理ガスの流路に沿って筒状の放電極を配設し、
前記放電極の内部に備えた流路に、前記被処理ガスよりも低温の外気を送風し、
前記放電極の外面と前記被処理ガスとの温度差によって前記被処理ガス中に含まれる水分を結露させて、
前記放電極の外面で濡れ膜を形成させることを特徴とする放電極の腐食防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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