説明

湿紙の加熱方法および加熱装置ならびに抄紙機

【課題】 湿紙を効果的に、省エネ的に加熱する湿紙の加熱方法および加熱装置と、抄紙機。
【解決手段】 抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱方法および装置であって、湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に3以上の複数のチャンバを湿紙の走行方向に順次設けて、順次設けられた複数のチャンバの一方の端のチャンバに加熱気体を供給しかつ他方の端のチャンバから加熱気体を排出し、加熱気体が湿紙を通過し複数のチャンバに順次流入して順次設けられたチャンバ内の圧力が順次降下するように構成し、加熱気体を湿紙に2回以上通過させて、加熱気体の2度以上の通過による2回以上の加熱を行い、加熱効率を大幅に向上させ、湿紙乾燥効率も向上させて、湿紙の加熱、乾燥を効果的に、省エネ的に行えるようにし、その湿紙の加熱装置を抄紙機に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機に関し、特に湿紙の加熱方法および加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6から図8に基づき、抄紙機と、その従来の湿紙の加熱方法および加熱装置を説明する。図6は従来の一般的な抄紙機の概要構成図、図7は、従来のフラット方式加熱装置の一例の説明図である。図8は、従来、湿紙の加熱装置として用いられているエアキャップの一例の説明図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中A−A矢視側面図である。
【0003】
図6に示すように、従来一般に、抄紙機においてはヘッドボックス10から抄紙原料がフォーマ部11に供給されて抄紙され、抄紙された湿紙1は、プレス部12で水分量48%程度に脱水される。湿紙1はその後ドライヤ部13に入り、ドライヤシリンダ内部に送られた蒸気を熱源とするドライヤロール14にカンバス15によって圧着され、ドライヤロール14、真空ロール16を周回しながら、所定の水分になるまで加熱乾燥され、後工程のカレンダ部17へ送られる。
【0004】
そして、従来必ずしも設けられるとは限らないが、湿紙1の乾燥促進のためは、フォーマ部11またはプレス部12にフラット方式加熱装置20を設けたり、ドライヤ部13で湿紙の加熱装置としてドライヤロール14にエアキャップ30を取り付けたりすることが行われていた。
【0005】
図7に示すフラット方式加熱装置20は、蒸気噴射装置21の蒸気供給口22から圧力Pの加熱用の蒸気sが供給されて蒸気噴射装置21から湿紙1の表面に蒸気sを噴射して加熱するものの例である。加熱後の蒸気sは湿紙1の表面に沿って周囲に漏洩する。
【0006】
このような構成のフラット方式加熱装置20の場合の湿紙温度は40〜50℃、蒸気温度は100〜250℃であり、湿紙1が蒸気噴射装置21を通過すると、湿紙温度は50〜60℃に加熱される。
【0007】
通常、プレス部12においては、湿紙温度が10℃上昇すると脱水率が1%向上するとされており、このように湿紙1の蒸気加熱装置(例えば、上記フラット方式加熱装置20)を設けることは、湿紙1の脱水において重要な要因となっている。またフォーマ部11においても蒸気加熱装置を設置することにより脱水効率が高められる効果が認められる。なお、蒸気sの代わりに熱風を使用する場合もある。
【0008】
一方、特許第3181204号公報(特許文献1)に記載されたエアキャップ30は、図8に示すように、ドライヤ部13でドライヤロール14の上部をエアキャップ30が覆い、エアキャップ30には、給気口31から熱風hが送り込まれる。熱風hは、給気チャンバ32の多孔板ノズル33からドライヤロール14の表面上の湿紙1に吹き付けられ、その後、排気ダクト34を経て排気チャンバ35に集められ、排気口36から排出されるものである。なお、37は一部の熱風hを排気チャンバ32に逃がすブリード穴であり、熱風hの湿紙1に対する吹き付けを均一化する。また、38はポリテトラフルオロエチレンのシート等の材質でできた耐熱性のあるサイドシール板であり、熱風hの周囲への漏洩を削減するためのものである。
【0009】
【特許文献1】特許第3181204号公報(第2、3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の従来の抄紙機とその湿紙の加熱装置は、しかしながら、次のような問題点があった。すなわち、図7、図8に示したものは加熱媒体として熱風hや蒸気sを用いるが、この熱風hや蒸気は噴射されるのみであり、回収して再利用されていない。よって生産コストが高くなり、地球環境(温暖化や資源喪失)にも与える影響も問題となる。また、噴射された熱風hや蒸気sは、湿紙1に噴射される量に対し、外部に漏れる量も多く、効率的でなかった。
その結果、湿紙乾燥効率(加熱温度上昇率や供給エネルギの有効率)が悪いという問題があった。
【0011】
本発明は従来のものにおけるそれらの問題点を解消し、効果的に、省エネ的に機能する湿紙の加熱方法および加熱装置と、その加熱装置を備えた抄紙機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされ、下記の(1)から(12)の手段を提供するものであり、以下、特許請求の範囲に記載の順に説明する。
【0013】
(1)その第1の手段として、抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱方法であって、前記湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に3以上の複数のチャンバを同湿紙の走行方向に順次設けて、順次設けられた同複数のチャンバの一方の端のチャンバに加熱気体を供給しかつ他方の端のチャンバから加熱気体を排出し、同加熱気体が前記湿紙を通過し同複数のチャンバに順次流入して同順次設けられたチャンバ内の圧力が順次降下するように構成し、同加熱気体を前記湿紙に2回以上通過させることを特徴とする湿紙の加熱方法を提供する。
【0014】
(2)第2の手段としては、第1の手段の湿紙の加熱方法において、前記他方の端のチャンバから排出された加熱気体を回収し再加熱して湿紙の加熱に再利用することを特徴とする湿紙の加熱方法を提供する。
【0015】
(3)また、第3の手段として、第1の手段の湿紙の加熱方法において、前記他方の端のチャンバから前記加熱気体を大気圧以下で吸引することを特徴とする湿紙の加熱方法。
【0016】
(4)第4の手段として、第1の手段ないし第3の手段のいずれかの湿紙の加熱方法において、前記加熱気体として非凝縮性ガスを用いることを特徴とする湿紙の加熱方法を提供する。
【0017】
(5)第5の手段として、第1の手段ないし第3の手段のいずれかの湿紙の加熱方法において、前記加熱気体として過熱蒸気を用いることを特徴とする湿紙の加熱方法を提供する。
【0018】
(6)第6の手段として、第1の手段ないし第3の手段のいずれかの湿紙の加熱方法において、前記加熱気体として飽和蒸気を用いることを特徴とする湿紙の加熱方法を提供する。
【0019】
(7)第7の手段として、抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱装置であって、前記湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に同湿紙の走行方向に順次設けられた3以上の複数のチャンバと、同順次設けられた複数のチャンバの一方の端のチャンバに設けられた加熱気体の給気口と、他方の端のチャンバに設けられた加熱気体の排気口とを備え、同加熱気体が前記湿紙を通過して同複数のチャンバに順次流入する流路を形成し、同加熱気体が前記湿紙を2回以上通過するように構成してなることを特徴とする湿紙の加熱装置を提供する。
【0020】
(8)第8の手段として、第7の手段の湿紙の加熱装置において、前記湿紙は前記搬送部材に帯同して前記の複数のチャンバの間を略直線状に走行し、前記複数のチャンバは同湿紙と搬送部材とを挟んで交互に設けられてなることを特徴とする湿紙の加熱装置を提供する。
【0021】
(9)第9の手段として、第7の手段の湿紙の加熱装置において、前記湿紙は前記搬送部材に帯同してロール上に巻き掛けられ同ロールの回転に伴い走行し、前記複数のチャンバは同ロールの筒殻と前記湿紙と搬送部材とを挟んで同筒殻の外周側と内周側とに交互に設けられ、同筒殻には複数の通孔が穿孔されてなることを特徴とする湿紙の加熱装置を提供する。
【0022】
(10)第10の手段として、第7の手段ないし第9の手段のいずれかの湿紙の加熱装置を、抄紙機のフォーマ部とプレス部の間に設置してなることを特徴とする抄紙機を提供する。
【0023】
(11)第11の手段として、第7の手段ないし第9の手段のいずれかの湿紙の加熱装置を、抄紙機のフォーマ部内に設置してなることを特徴とする抄紙機を提供する。
【0024】
(12)第12の手段として、第7の手段ないし第9の手段のいずれかの湿紙の加熱装置を、抄紙機のドライヤ部内に設置してなることを特徴とする抄紙機を提供する。
【発明の効果】
【0025】
(1)特許請求の範囲に記載の請求項1の発明によれば、湿紙の加熱方法を、抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱方法であって、前記湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に3以上の複数のチャンバを同湿紙の走行方向に順次設けて、順次設けられた同複数のチャンバの一方の端のチャンバに加熱気体を供給しかつ他方の端のチャンバから加熱気体を排出し、同加熱気体が前記湿紙を通過し同複数のチャンバに順次流入して同順次設けられたチャンバ内の圧力が順次降下するように構成し、同加熱気体を前記湿紙に2回以上通過させるように構成したので、湿紙が湿紙の加熱装置を通る時に、加熱気体の2度以上の通過による2回以上の加熱が行われることになり、加熱効率が大幅に向上し、湿紙乾燥効率も向上し、湿紙の加熱、乾燥を効果的に、省エネ的に行うことができる。
【0026】
(2)請求項2の発明によれば、請求項1に記載の湿紙の加熱方法において、前記他方の端のチャンバから排出された加熱気体を回収し再加熱して湿紙の加熱に再利用するように構成したので、請求項1の発明の効果に加え、回収して再加熱すれば熱回収の効果があり、特定の気体を使用する場合は気体回収のメリットがある。
【0027】
(3)請求項3の発明によれば、請求項1に記載の湿紙の加熱方法において、前記他方の端のチャンバから前記加熱気体を大気圧以下で吸引するように構成したので、請求項1の発明の効果に加え、加熱気体の湿紙通過を容易とし、装置各部の絶対圧を低下させることができ構造上有利となる。
【0028】
(4)請求項4の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿紙の加熱方法において、前記加熱気体として非凝縮性ガスを用いるように構成したので、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、窒素等の非凝縮性ガスは、水分を含有しないため、湿紙の水分増加を伴うことなく湿紙の加熱・乾燥を行うことができ、特にドライヤ部に適する。
【0029】
(5)請求項5の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿紙の加熱方法において、前記加熱気体として過熱蒸気を用いるように構成したので、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、過熱蒸気は水分を含有するが、高温(100℃以上)の湿紙に、それよりも高温である過熱蒸気を作用させれば、結露せず湿紙に水分が入らず湿紙の水分量を増加させることなく湿紙の乾燥を行うことが可能となり、特にドライヤ部に適する。
【0030】
(6)請求項6の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿紙の加熱方法において、前記加熱気体として飽和蒸気を用いるように構成したので、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、凝縮性ガスである飽和蒸気を利用すると、湿紙中の水分量は増加するが、凝縮潜熱を利用できるため湿紙の温度を上昇させるのに適、湿紙中の水分量は多少増加しても、湿紙の温度を上げることを優先する場合に利用でき、特にフォーマ部、プレス部、ドライヤ部の前段などに適する。
【0031】
(7)請求項7の発明によれば、湿紙の加熱装置を、抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱装置であって、前記湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に同湿紙の走行方向に順次設けられた3以上の複数のチャンバと、同順次設けられた複数のチャンバの一方の端のチャンバに設けられた加熱気体の給気口と、他方の端のチャンバに設けられた加熱気体の排気口とを備え、同加熱気体が前記湿紙を通過して同複数のチャンバに順次流入する流路を形成し、同加熱気体が前記湿紙を2回以上通過するように構成してなるので、湿紙が湿紙の加熱装置を通る時に、加熱気体の2度以上の通過による2回以上の加熱が行われることになり、加熱効率が大幅に向上し、湿紙乾燥効率も向上し、湿紙の加熱、乾燥を効果的に、省エネ的に行うことができる。
【0032】
(8)請求項8の発明によれば、請求項7に記載の湿紙の加熱装置において、前記湿紙は前記搬送部材に帯同して前記の複数のチャンバの間を略直線状に走行し、前記複数のチャンバは同湿紙と搬送部材とを挟んで交互に設けられてなるように構成したので、請求項7の発明の効果に加え、装置構成が簡潔で、湿紙が略直線状に走行する部分に適する。
【0033】
(9)請求項9の発明によれば、請求項7に記載の湿紙の加熱装置において、前記湿紙は前記搬送部材に帯同してロール上に巻き掛けられ同ロールの回転に伴い走行し、前記複数のチャンバは同ロールの筒殻と前記湿紙と搬送部材とを挟んで同筒殻の外周側と内周側とに交互に設けられ、同筒殻には複数の通孔が穿孔されてなるように構成したので、請求項7の発明の効果に加え、湿紙がロールに巻き掛けられて走行する部分に適し、特に従来のドライヤロール、真空ロール等に代えて、あるいは加えて設置するのに適する。
【0034】
(10)請求項10の発明によれば、抄紙機を、請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の湿紙の加熱装置を抄紙機のフォーマ部とプレス部の間に設置してなるように構成したので、請求項7ないし請求項9のいずれかの発明の効果により、湿紙が温度の高い状態でプレス部に入ってプレスされるので、脱水効率が向上する抄紙機が得られる。
【0035】
(11)請求項11の発明によれば、抄紙機を、請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の湿紙の加熱装置を抄紙機のフォーマ部内に設置してなるように構成したので、請求項7ないし請求項9のいずれかの発明の効果により、フォーマ部におけるサクションによる吸引脱水時の温度が上がり、脱水量が増加する抄紙機が得られる。
【0036】
(12)請求項12の発明によれば、抄紙機を、請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の湿紙の加熱装置を抄紙機のドライヤ部内に設置してなるように構成したので、請求項7ないし請求項9のいずれかの発明の効果により、ドライヤ部の加熱、乾燥能率が向上する抄紙機が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は上記の課題を解決するべくなされたもので、湿紙の加熱乾燥において、湿紙に噴射する熱風や蒸気を、従来のように1回のみ噴射するのでなく、繰り返し加熱に用い湿紙の乾燥効率向上と、熱風や蒸気の加熱エネルギの効率化、省エネ化を図るものであり、本発明を実施するための最良の形態として、以下に実施例1および実施例2を説明する。
【実施例1】
【0038】
図1から図3に基づき、本発明の実施例1に係る湿紙の加熱方法および加熱装置、ならびに抄紙機を説明する。図1は、本実施例の湿紙の加熱装置の側面図、図2は本実施例の湿紙の加熱装置の別の適用形態を示す側面図、図3は本実施例の湿紙の加熱装置を備えた抄紙機の例の概要構成図である。
【0039】
図1に示すように、本実施例の湿紙の加熱装置(以下単に「加熱装置」という)40は、下方が開放された第1加熱ボックス(本発明の「一方の端のチャンバ」)41と、横方向(図中左右方向)に略直線状に移動するカンバス、フェルト、ワイヤ等の搬送部材44に帯同された湿紙1を挟んで、第1加熱ボックス41と上下に対峙し、上方が開放された第2加熱ボックス(本発明の「チャンバ」)42と、搬送部材44の移動方向で第1加熱ボックス41と並び、湿紙1と搬送部材44とを挟んで第2加熱ボックス42と上下に対峙し、下方が開放された開放ボックス(本発明の「他方の端のチャンバ」)43とを有している。
【0040】
図1の例の場合、開放ボックス43は第1加熱ボックス41より湿紙1の進行方向(図中右方向)において上流側(図中左側)に位置している。
【0041】
また、第1加熱ボックス41には加熱気体gを供給する給気口45が備えられている。開放ボックス43には加熱気体gを排出する排気口49が備えられており、排気口49は開放ボックス43の上部を開放した形態としてもよく、排気口49にダクト46等を接続して排気を所定位置に導いて排気する構成、あるいは、必要な場合は図示しない吸引装置に接続する構成にしてもよい。
【0042】
すなわち、湿紙1の一方の面(図中、上面)の側と他方の面(図中、下面)の側とに交互に湿紙1の走行方向に順次上記の複数(3つ)のボックス(チャンバ)41、42、43が設置され、加熱気体gが湿紙1を通過して3つのボックス41、42、43に順次流入する流路を形成し、加熱気体gが湿紙1を2回通過するように構成されている。
【0043】
第1加熱ボックス41、第2加熱ボックス42、開放ボックス43の湿紙1側の開放面には湿紙1の搬送部材44の移動方向に周面接線方向を合わせて設けたシールロール47等の適宜なシール手段を備えることが好ましい。
【0044】
本実施例の加熱装置40によれば、搬送部材44に伴って進行する湿紙1に対し、第1加熱ボックス41から圧力P1(3〜7kg/cm)、温度100〜250℃で、熱風または蒸気等の加熱気体gを噴射する。噴射された加熱気体gは湿紙1を通過(X1)し、湿紙1の通過抵抗で圧力低下して圧力P2で湿紙1の下方に設けた第2加熱ボックス42に入る。
【0045】
第2加熱ボックス42は側部下部が密閉されており、湿紙1の進行方向に長く設置され、湿紙1の進行方向における上流側は湿紙1を挟んで開放ボックス43に面して開放されているので、加熱気体gは湿紙1を通過(X2)してさらに低下した圧力P3で開放ボックス43に入る。開放ボックス43が大気開放の場合はP3は略大気圧であり、開放ボックス43に上記のようにダクト46等を接続し図示しない吸引装置で吸引を行う場合はP3は吸引圧(通常、負圧)である。
【0046】
以上のように第1加熱ボックス41で湿紙1に対して噴射された加熱気体gはP1>P2>P3のように、自然に圧力が減少し、圧力の高いほうから低いほうへ流れる。よって湿紙1は本実施例の加熱装置40を通る時に、加熱気体gの2度の通過(X1、X2)による2回の加熱が行われることになり、加熱効率が大幅に向上する。そのため、加熱効率が大幅に向上し、湿紙乾燥効率も向上し、湿紙の加熱、乾燥を効果的に、省エネ的に行うことができる。また、本実施例の加熱装置40は、湿紙1が搬送部材44に帯同して各ボックス41、42、43の間を略直線状に走行するので、装置構成が簡潔で、湿紙1が略直線状に走行する部分に適する。
【0047】
図3に示すように、加熱装置40の後工程にプレス部12があり、脱水処理する場合は、図1に示すように湿紙1の進行方向上流側(左側)に開放ボックス43、下流側(右側)に第1加熱ボックス41を配置することで、プレス部12に近い側に第1加熱ボックス41を配置したほうが、湿紙1が温度の高い状態でプレス部12に入ってプレスされるので、効果的である。
【0048】
ちなみに、湿紙1の温度は加熱装置入口で40〜50℃であるが、加熱後は60〜70℃に上昇し、前述の従来法より10〜20℃程度温度上昇する。よってその後の工程による脱水効率も1〜2%程度向上する。また、フォーマ部11においても同様に、加熱装置40をサクション装置と共に、あるいはその上流側に設置することで、サクションによる吸引脱水時の温度が上がり、脱水量が増加する。
【0049】
図2に示すのは、本実施例の湿紙の加熱装置40の別の適用形態であり、図1の装置と同様な装置であるが、湿紙1の進行方向に対し、図示のように図1と逆の順に配置にしたものであり、必ずしも図1のように配置することなく本実施例が適用されることを示すものであり、加熱、乾燥上の効率は同様であって、配置されるプロセス上の位置、装置レイアウト、等により適宜選択が可能である。
【0050】
なお、図1、図2に示すものにおいて、上下の配置位置は一例であって、上下を反転した配置にして適用することも可能である。また、前述のように、開放ボックス43に至った加熱気体gの圧力P3が大気圧以下となるように開放ボックス43を密閉して真空ボックス化し吸引装置に接続してもよいし、開放ボックス43に流れてきた加熱気体gを回収し、再加熱して再度利用してもよい。本実施例においては、熱交換が十分なされた後の大気圧近くまでなった加熱気体gは大気開放しても熱のロスや問題は少ないが、回収して再加熱すれば熱回収の効果があり、特定の気体を使用する場合は回収のメリットがある。また、吸引を併用すれば、加熱気体gの湿紙1通過を容易とし、装置各部の絶対圧を低下させることができ構造上有利となる。
【0051】
図3は、本実施例の加熱装置40を、抄紙機のフォーマ部11とプレス部12との間に設置した抄紙機の例を示す。しかしながら、本実施例の加熱装置40の設置位置はそれに限定されず、フォーマ部10内に設置してもよいし、ドライヤ部13においてドライヤロール14や真空ロール16の一部に代えて、あるいは加えて用いてもよい。その場合、ドライヤ部の加熱、乾燥能率を向上することができる。
【実施例2】
【0052】
図4と図5に基づき、本発明の実施例2に係る湿紙の加熱方法および加熱装置、ならびに抄紙機を説明する。図4は、本実施例の湿紙の加熱装置の側面断面図、図5は本実施例の湿紙の加熱装置を備えた抄紙機の例の概要構成図である。
【0053】
図4に示すように、本実施の形態の湿紙の加熱装置(以下単に「加熱装置」という)50は、従来のドライヤロール14や真空ロール16に代えて配置することが可能な、ロール55と、ロール55の外周面に向けて備えられた第1チャンバ(本発明の「一方の端のチャンバ」)51、第3チャンバ(本発明の「チャンバ」)53、ロール55の内周面に向けて備えられた第2チャンバ(本発明の「チャンバ」)52、第4チャンバ(本発明の「他方の端のチャンバ」)54を有している。
【0054】
ロール55は、抄紙機のフレーム等の架台に固定された第1チャンバ51、第3チャンバ53と、第2チャンバ52、第4チャンバ54との間にその筒殻50aを挟まれた状態で回転し、ロール55の周面上にはカンバス、フェルト、ワイヤ、等の搬送部材44に帯同された湿紙1が巻き掛けられ、ロール55の回転に伴って周方向(図中左右方向)に走行する。
【0055】
第1チャンバ51はロール55の外周側に配置され、ロール55外周面に面する側が開放されている。第2チャンバ52は、ロール55の内周側に配置され、ロール55の筒殻55aと湿紙1と搬送部材44とを挟んで第1チャンバ51と対峙し、ロール55の内周面(すなわち筒殻55aの内周面)側が開放されている。
【0056】
第3チャンバ53は、搬送部材44の移動方向で第1チャンバ51と隔壁56を介して並び、筒殻55aと湿紙1を挟んで第2チャンバ52と対峙し、ロール55外周面に面する側が開放されており、第4チャンバ54は、ロール55の内周側に配置され、搬送部材44の移動方向で第2チャンバ52と隔壁57を介して並び、筒殻55aと湿紙1と搬送部材44とを挟んで第3チャンバ53と対峙し、ロール55の内周面(すなわち筒殻55aの内周面)側が開放されている。そして、ロール55の筒殻55aには、多数の通孔58が穿孔されている。
【0057】
また、第1チャンバ51には加熱気体gを供給する給気口59が備えられ、第1チャンバ51は、ロール55に巻き付きながら走行する湿紙1に対し加熱気体gを吹き付ける噴射装置ないし噴射チャンバとして働く。第4チャンバ54は排気口60を有し、排気口60は開放してもよく、ダクト61等を接続して排気を所定位置に導いて排気する構成、あるいは、必要な場合は吸引装置に接続する構成にしてもよい。
【0058】
すなわち、湿紙1の一方の面(図中、上面)の側と他方の面(図中、下面)の側とに交互に(ロール55の殻体55aの外周側と内周側とに交互に)湿紙1の走行方向に順次上記の複数(4つ)のチャンバ51、52、53、54が設置され、加熱気体gが湿紙1を通過して4つのチャンバ51、52、53、54に順次流入する流路を形成し、加熱気体gが湿紙1を3回通過するように構成されている。
【0059】
なお、第1チャンバ51や第3チャンバ53の湿紙1側の開放面には湿紙1の搬送部材44の移動方向に周面接線方向を合わせて設けたシールロール62等の適宜なシール手段を備えることが好ましい。
【0060】
図4の例の場合、第1チャンバ51は第3チャンバ53より湿紙1の進行方向(図中右方向)において上流側(図中左側)に位置し、第2チャンバ52は第4チャンバ54より湿紙1の進行方向において上流側に位置している。
【0061】
本実施例の加熱装置50では、圧力P1(3〜7kg/cm)、温度100〜250℃の熱風または蒸気等の加熱気体gを、第1チャンバ51から湿紙1に噴射し、湿紙1を通過(Y1)させて加熱するとともに、湿紙1を通過した加熱気体gはロール55の表面に設けてある通孔58を通過して、ロール55内の第2チャンバ52に入る。第2チャンバ52の加熱気体gの圧力P2は、湿紙1や通孔58の通過損失でP1より低下している。
【0062】
第2チャンバ52の加熱気体gは、通孔58や湿紙1を通過(Y2)して、湿紙1を加熱するとともにロール55外側の第3チャンバ53に流入し、圧損により第2チャンバ52の圧力P2から、圧力P3に低下する。
【0063】
そしてさらに、第3チャンバ53から湿紙1や通孔58を通過(Y3)して湿紙1を加熱すると共にロール55内の第4チャンバ54に流入し、圧力はP4に低下し、排気口60から大気へ排気される。大気開放の場合、P4は略大気圧であり、上記のようにダクト61等を接続し図示しない吸引装置で吸引を行う場合はP4は吸引圧(通常、負圧)である。
【0064】
以上のように第1チャンバ51で湿紙1に対して噴射された加熱気体gはP1>P2>P3>P4のように、自然に圧力が減少し、圧力の高いほうから低いほうへ流れる。よって湿紙1は本実施例の加熱装置50を通る時に加熱気体gの3度の通過(Y1、Y2、Y3)による3回の加熱が行われることになり、効率的に加熱が行えるとともに、エネルギの利用効率も大幅に増加する。そのため、湿紙乾燥効率も向上し、湿紙の加熱、乾燥を効果的に、省エネ的に行うことができる。また、本実施例の加熱装置50は、ロール55の周面上に搬送部材44に帯同された湿紙1が巻き掛けられ、ロール55の回転に伴って周方向に走行する部分に設けられるから、湿紙1がロール55に巻き掛けられてに走行する部分に適し、特に従来のドライヤロール14、真空ロール16等に代えて、あるいは加えて設置するのに適する。
【0065】
本実施例は、図4に示すと同様な装置構成において、湿紙1の進行方向が図4と逆の方向になるように配置してもよく、その場合、ロール55の回転も図4とは反対方向に回転するが、加熱、乾燥上の効率は同様であるが、高温の加熱気体が下流側で噴射されるので湿紙1の温度をより高くできるので、加熱装置50の下流側にプレス部12が配置される場合などは有利となる。
【0066】
なお、図4に示すものにおいて、上下の配置位置は一例であって、上下を反転した配置にして適用することも可能である。また、前述のように、第4チャンバ54に至った加熱気体gの圧力P4が大気圧以下となるように第4チャンバ54を開放せず排気口60にダクト61等を接続し図示しない吸引装置に導き真空ボックス化してもよいし、第4チャンバ54に流れてきた加熱気体gを回収し、再加熱して再度利用してもよい。
【0067】
本実施例においては、熱交換が十分なされた後の大気圧に近くまでなった加熱気体gは大気開放しても熱のロスや問題は少ないが、回収して再加熱すれば熱回収の効果があり、特定の気体を使用する場合は回収のメリットがある。また、吸引を併用すれば、加熱気体gの湿紙1通過を容易とし、装置各部の絶対圧を低下させることができ構造上有利となる。
【0068】
図5は、本実施例の加熱装置50を、抄紙機のフォーマ部11とプレス部12との間に設置した抄紙機の例を示す。しかしながら、本実施例の加熱装置50の設置位置はそれに限定されず、フォーマ部10内に設置してもよいし、ドライヤ部13においてドライヤロール14や真空ロール16の一部に代えて、あるいは加えて用いてもよい。その場合、ドライヤ部の加熱、乾燥能率を向上することができる。
【0069】
以上、本発明を図示の実施例について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されず、本発明の範囲内でその具体的構成、および構造に種々の変更を加えてよいことはいうまでもない。
【0070】
例えば、本発明の加熱装置40、50は、抄紙機における設置箇所、配置方向等が上述のように図示のものに限定されない。また、図示する加熱装置40は、加熱ボックスと開放ボックスとで加熱気体gの通過するボックス(チャンバ)は3つであるが、順次交互に配置するボックス数は3以上であってもよく、図示する加熱装置50は、第1チャンバ51から第4チャンバ54まで加熱気体gの通過するチャンバは4つであるが、順次交互に配置するボックス数は3つでも、4以上であってもよく、加熱気体gが湿紙1を少なくとも2回以上通過するように構成するとよい。
【0071】
また、上記の実施例1、および実施例2において、加熱気体gは熱風または蒸気として説明したが、特に限定されるものではなく、窒素等の本発明で使用する温度域に於いて非凝縮性を有する非凝縮性ガスや、飽和蒸気、過熱蒸気等の凝縮性ガスなどを用いることができる。
【0072】
窒素などの非凝縮性ガスは、水分を含有しないため、湿紙1の水分増加を伴うことなく湿紙の加熱・乾燥を行いたい場合に利用され、主にドライヤ部13に用いるのに適する。
【0073】
凝縮性ガスである過熱蒸気は水分を含有する。しかし高温(100℃以上)である湿紙1に、その湿紙1よりも高温とした過熱蒸気を利用すれば、結露せず湿紙1に水分が入らないので、湿紙1の水分量を増加させることなく湿紙の1乾燥を行うことが可能であり、主にドライヤ部13に用いるのに適している。
【0074】
凝縮性ガスである飽和蒸気を利用すると、湿紙1中の水分量は増加するが、凝縮潜熱を利用できるため湿紙1の温度を上昇させるのに適している。従って、湿紙1中の水分量は多少増加しても、湿紙1の温度を上げることを優先する場合に利用され、主にフォーマ部11、プレス部12、ドライヤ部13の前段などに用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施例1に係る湿紙の加熱装置の側面図である。
【図2】実施例1の湿紙の加熱装置の別の適用形態を示す側面図である。
【図3】実施例1の湿紙の加熱装置を備えた抄紙機の例の概要構成図である。
【図4】本発明の実施例2に係る湿紙の加熱装置の側面断面図である。
【図5】実施例2の湿紙の加熱装置を備えた抄紙機の例の概要構成図である。
【図6】従来の一般的な抄紙機の概要構成図である。
【図7】従来のフラット方式加熱装置の一例の説明図である。
【図8】従来、湿紙の加熱装置として用いられたエアキャップの一例の説明図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中A−A矢視側面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 湿紙
10 ヘッドボックス
11 フォーマ部
12 プレス部
13 ドライヤ部
14 ドライヤロール
15 カンバス
16 真空ロール
17 カレンダ部
20 フラット方式加熱装置
30 エアキャップ
40 加熱装置
41 第1加熱ボックス
42 第2加熱ボックス
43 開放ボックス
44 搬送部材
45 給気口
46 ダクト
47 シールロール
49 排気口
50 加熱装置
51 第1チャンバ
52 第2チャンバ
53 第3チャンバ
54 第4チャンバ
55 ロール
55a 筒殻
56、57 隔壁
58 通孔
59 給気口
60 排気口
61 ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱方法であって、
前記湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に3以上の複数のチャンバを同湿紙の走行方向に順次設けて、
順次設けられた同複数のチャンバの一方の端のチャンバに加熱気体を供給しかつ他方の端のチャンバから加熱気体を排出し、
同加熱気体が前記湿紙を通過し同複数のチャンバに順次流入して同順次設けられたチャンバ内の圧力が順次降下するように構成し、
同加熱気体を前記湿紙に2回以上通過させることを特徴とする湿紙の加熱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の湿紙の加熱方法において、
前記他方の端のチャンバから排出された加熱気体を回収し再加熱して湿紙の過熱に再利用することを特徴とする湿紙の加熱方法。
【請求項3】
請求項1に記載の湿紙の加熱方法において、
前記他方の端のチャンバから前記加熱気体を大気圧以下で吸引することを特徴とする湿紙の加熱方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿紙の加熱方法において、
前記加熱気体として非凝縮性ガスを用いることを特徴とする湿紙の加熱方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿紙の加熱方法において、
前記加熱気体として過熱蒸気を用いることを特徴とする湿紙の加熱方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿紙の加熱方法において、
前記加熱気体として飽和蒸気を用いることを特徴とする湿紙の加熱方法。
【請求項7】
抄紙機において搬送部材に帯同して走行する湿紙を加熱気体により加熱する湿紙の加熱装置であって、
前記湿紙の一方の面の側と他方の面の側とに交互に同湿紙の走行方向に順次設けられた3以上の複数のチャンバと、
同順次設けられた複数のチャンバの一方の端のチャンバに設けられた加熱気体の給気口と、
他方の端のチャンバに設けられた加熱気体の排気口とを備え、
同加熱気体が前記湿紙を通過して同複数のチャンバに順次流入する流路を形成し、
同加熱気体が前記湿紙を2回以上通過するように構成してなることを特徴とする湿紙の加熱装置。
【請求項8】
請求項7に記載の湿紙の加熱装置において、
前記湿紙は前記搬送部材に帯同して前記の複数のチャンバの間を略直線状に走行し、
前記複数のチャンバは同湿紙と搬送部材とを挟んで交互に設けられてなることを特徴とする湿紙の加熱装置。
【請求項9】
請求項7に記載の湿紙の加熱装置において、
前記湿紙は前記搬送部材に帯同してロール上に巻き掛けられ同ロールの回転に伴い走行し、
前記複数のチャンバは同ロールの筒殻と前記湿紙と搬送部材とを挟んで同筒殻の外周側と内周側とに交互に設けられ、
同筒殻には複数の通孔が穿孔されてなることを特徴とする湿紙の加熱装置。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の湿紙の加熱装置を、
抄紙機のフォーマ部とプレス部の間に設置してなることを特徴とする抄紙機。
【請求項11】
請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の湿紙の加熱装置を、
抄紙機のフォーマ部内に設置してなることを特徴とする抄紙機。
【請求項12】
請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の湿紙の加熱装置を、
抄紙機のドライヤ部内に設置してなることを特徴とする抄紙機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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