説明

溝用シール材

【課題】圧縮量を大きくし、シール性が向上する溝用シール材を提供する。
【解決手段】溝シール材20は、断面周方向に沿って順次配置された第1凸部21、第2凸部22、第3凸部23、第4凸部24及び第5凸部25を有し、シール溝50に装着した状態で、第1凸部21はシール溝の開口端から突出する突出部となり、第3凸部23及び第4凸部24はシール溝50の底部平面52にそれぞれ当接し、第3凸部23及び第4凸部24の間の第1凹部31とシール溝50の底部平面52とで第1凸部21が押圧された際の変形量を吸収する第1空間部を形成し、第2凸部22と第3凸部23との間、及び第4凸部24と第5凸部25との間にそれぞれ第2凹部32及び第3凹部33を設け、第2凹部32及び第3凹部33とシール溝50の内壁面との間に、第1凸部21が押圧された際、第1空間部41と協働して変形量を吸収する第4空間部44、第5空間部45を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空装置における2つの当接部材相互間に適用される溝用シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
シール溝である、例えば断面台形の蟻溝に装着され、当接する2つの部材相互間の隙間を封止するシール材には、シール性を確保する以外にも、耐久性等の種々の機能が要求される。従って、このような要求を満たすために、断面形状を円形以外の特殊形状にした溝用シール材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の溝用シール材は、シール性に加え、噛み込み、転動、捻れ等の発生を防止することを目的として開発されたものであり、その断面形状は、蟻溝の底面に当接する平坦な底辺と、この底辺の両側から斜め外向きに立ち上がる左右の斜辺と、この左右の斜辺のそれぞれ先端に設けられた左右の張出肩部と、左右の張出肩部の中央に設けられ蟻溝の開口部よりも上方に突出する中央凸部と、張出肩部と中央凸部との間に設けられた凹入部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−014126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の溝用シール材は十分なつぶし量(以下、「圧縮量」という。)を得ようとすると反力が必要以上に増えてしまい、十分なつぶし量が得られず、2つの部材相互の当接部において必ずしも十分なシール性が得られない虞があった。
【0006】
本発明は、圧縮量を大きくし、シール性を向上させることができる溝用シール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の溝シール材は、2つの部材の当接部における一方の部材表面に設けられたシール溝に装着され、他方の部材表面に当接することによって前記2つの部材相互間の隙間を封止する、延伸方向に対して垂直の断面形状が単一形状からなる環状の溝用シール材において、前記断面形状は、周方向に沿って順次配置された第1凸部、第2凸部、第3凸部、第4凸部及び第5凸部を有し、前記シール溝に装着した状態で、前記第1凸部は、前記シール溝の開口端から突出する突出部を形成し、前記第1凸部を頂点とする二等辺三角形の底角に位置する前記第3凸部及び第4凸部は、前記シール溝の底部平面にそれぞれ当接し、前記第3凸部及び第4凸の間に設けられた第1凹部と前記シール溝の前記底部平面との間に前記第1凸部が押圧された際の変形量を吸収する第1空間部が形成され、前記第2凸部及び前記第5凸部は、前記シール溝の対向する2つの壁面にそれぞれ近接し、前記第2凸部と第3凸部との間の面、及び前記第4凸部と第5凸部との間の面と前記シール溝の内壁面との間に前記第1空間部と協働して前記第1凸部が押圧された際の変形量を吸収する第2空間部及び第3空間部がそれぞれ形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の溝用シール材は、請求項1記載の溝用シール材において、前記突出部の前記シール溝の開口端から突出する長さの前記シール溝の深さに対する割合は、10〜35%であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の溝用シール材は、請求項1又は2記載の溝用シール材において、前記第1凸部が押圧された際、前記第2凸部、第3凸部、第4凸部及び第5凸部がそれぞれ前記シール溝の内壁面に当接してシール材の捻れを抑制することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の溝用シール材は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溝用シール材において、前記第3凸部及び前記第4凸部の間隔は、前記シール溝の開口部の開口幅以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の溝用シール材は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溝用シール材において、前記第2凸部及び前記第5凸部と前記シール溝の内壁面との間にそれぞれ所定の隙間が形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の溝用シール材は、請求項5記載の溝用シール材において、前記シール溝の全断面積に対する前記所定の隙間の断面積の割合は3%未満であることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の溝用シール材は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溝用シール材において、前記第2凸部と第3凸部との間、及び前記第4凸部と前記第5凸部との間にそれぞれ第2凹部及び第3凹部が設けられており、前記第2凹部及び第3凹部と前記シール溝の内壁面との間に、前記第1凸部が押圧された際、前記第1空間部と協働して同一押圧条件における断面円形のシール材と同様の反力で、且つ大きな圧縮量を得るための第4空間部及び第5空間部がそれぞれ形成されることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の溝用シール材は、請求項7記載の溝用シール材において、前記第1空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、10〜25%であることを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の溝用シール材は、請求項7又は8記載の溝用シール材において、前記第4空間部及び第5空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、それぞれ2〜10%であることを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の溝用シール材は、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の溝用シール材において、前記第1凸部と第2凸部との間、及び前記第5凸部と前記第1凸部との間に、それぞれ前記第1空間部、第4空間部及び第5空間部と協働して前記圧縮量を増大させる第4凹部及び第5凹部がそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項11記載の溝用シール材は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溝用シール材において、前記第2凸部と第3凸部との間、及び前記第4凸部と前記第5凸部との間に、それぞれ第1平面部及び第2平面部が設けられており、該第1平面部及び第2平面部と前記シール溝の内壁面との間に、前記第1凸部が押圧された際、前記第1空間部と協働して変形量を吸収し、押圧開始当初は、同一押圧条件における断面円形のシール材と同様の圧縮量及び反力が得られ、その後、反力が急増して圧縮量を、前記同一押圧条件における断面円形のシール材における圧縮量よりも小さくする第6空間部及び第7空間部がそれぞれ形成されることを特徴とする。
【0018】
請求項12記載の溝用シール材は、請求項11記載の溝用シール材において、前記第1空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、1〜15%であることを特徴とする。
【0019】
請求項13記載の溝用シール材は、請求項11又は12記載の溝用シール材において、前記第6空間部及び第7空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、それぞれ2〜7%であることを特徴とする。
【0020】
請求項14記載の溝用シール材は、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の溝用シール材において、前記第1凸部と第2凸部との間、及び前記第5凸部と第1凸部との間に、それぞれ前記第1空間部、第6空間部及び第7空間部とそれぞれ協働して前記第1凸部が押圧された際、押圧開始当初は、同一押圧条件における断面円形のシール材と同様の圧縮量及び反力が得られ、その後、反力が急増して前記圧縮量を、前記同一押圧条件における前記断面円形のシール材における圧縮量よりも小さくする第3平面部及び第4平面部がそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0021】
請求項15記載の溝用シール材は、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の溝用シール材において、弾性材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、圧縮量を大きくし、シール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る溝用シール材が適用される真空装置としての基板処理システムの構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の搬送室とプラズマ処理装置との間に配置されたゲートバルブの弁体部分の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る溝用シール材の断面形状を示す図であり、押圧力が「0」である初期状態を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る溝用シール材の断面形状を示す図であり、所定の押圧力をかけた使用状態を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る溝用シール材の断面形状を示す図であり、押圧力が「0」である初期状態を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る溝用シール材の断面形状を示す図であり、所定の押圧力をかけた使用状態を示す図である。
【図7】第1の実施の形態及び第2の実施の形態に係る溝用シール材における反力−圧縮量曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る溝用シール材が適用される真空装置としての基板処理システムの構成を概略的に示す平面図である。この基板処理システムは、例えばフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板にエッチング処理を施すためのマルチチャンバータイプの基板処理システムである。
【0026】
図1において、基板処理システム10は、中央に配された搬送室11と、該搬送室11に接続されたロードロック室12と、搬送室11の周りにクラスタ状に配置された3つのプラズマ処理装置13と、搬送室11とは反対側においてロードロック室12に接続されたアーム支持台14と、該アーム支持台14の両脇に接続された2つのカセット15とを備える。
【0027】
一方のカセット15は複数の未処理のガラス基板(以下、単に「基板」という。)を収容し、他方のカセット15は複数の処理済みの基板を収容する。アーム支持台14には搬送アーム16が配置され、該搬送アーム16は一方のカセット15から未処理の基板を取り出してロードロック室12に搬入すると共に、ロードロック室12から処理済みの基板を取り出して他方のカセット15へ搬入する。
【0028】
各プラズマ処理装置13は基板にエッチング処理を施し、搬送室11は内蔵する搬送アーム(図示省略)によって各プラズマ処理装置13への基板の搬出入を行う。ロードロック室12は基板を一時的に載置するバッファ(図示省略)を有し、搬送アーム16及び搬送室11の搬送アームが、基板をバッファに載置、又はバッファから基板を取り出すことによって基板の入れ換えを行う。搬送室11及びロードロック室12はいずれも内部が減圧可能である。
【0029】
搬送室11及び各プラズマ処理装置13の間、搬送室11及びロードロック室12の間、並びにロードロック室12及びその外側の大気雰囲気の間には、これらの連通路を仕切るゲートバルブ17が設けられている。各ゲートバルブ17は開閉自在であり、該ゲートバルブ17には、各連通路を気密に密封するために、溝用シール材が適用されている。
【0030】
図2は、図1の搬送室11とプラズマ処理装置13との間に配置されたゲートバルブ17の弁体部分の断面図である。
【0031】
図2において、ゲートバルブ17は弁体17aと、該弁体17aの一方の表面に設けられたシール溝17bと、該シール溝17bに装着された溝用シール材20とから主として構成されている。ゲートバルブ17は、例えば搬送室11とプラズマ処理装置13との間の連通口18をシールする。但し、シール溝17b及び溝用シール材20は、弁体17aに相対するプラズマ処理装置13側に設けても良い。
【0032】
ところで、近年、真空装置が大型化するにつれて各連通口も大型化し、装置稼動時には連通口周辺部分に歪みやたわみなどの変形が発生し易くなっている。このような状況において、シール性能を確保するために、断面円形のシール材を用いてシール材断面寸法及び圧縮量を増大させて上記変形を吸収しようとすると、反力が大きくなりすぎてゲートバルブがたわむことがある。ゲートバルブのたわみを抑制するにはゲート構造を高剛性化する必要があるが、ゲート構造の高剛性化によるコストアップに繋がる。
【0033】
以下、圧縮量を増大させる一方、反力を低減して装置機構への負荷を軽減することができる、主として圧力差が小さい2つの空間に挟まれたゲートバルブに適用される本発明の第1の実施の形態に係る溝用シール材について説明する。
【0034】
図3及び図4は、本発明の第1の実施の形態に係る溝用シール材の断面形状を示す図であり、図3は、押圧力が「0」である初期状態を示す図、図4は、所定の押圧力をかけた使用状態を示す図である。この溝用シール材20は、例えば、図1における搬送室11とプラズマ処理装置13との間に設けられたゲートバルブ17に適用される。搬送室11とプラズマ処理装置13は、共に減圧状態に維持され、その圧力差はそれほど大きくない。
【0035】
図3及び図4において、溝用シール材20は、環状のシール材であって、シール材の延伸方向に対して垂直の断面(以下、単に「断面」という。)が単一の形状からなり、その周方向に沿って順次配置された第1凸部21、第2凸部22、第3凸部23、第4凸部24及び第5凸部25を備えている。
【0036】
溝用シール材20をシール溝としての、例えば蟻溝50に装着した場合、第1凸部21は、蟻溝50の開口部51の開口端から突出する突出部(以下、「突出部21」ともいう。)を形成する。突出部21の蟻溝50の開口部51の開口端から突出する長さの蟻溝50の深さに対する割合は、例えば10〜35%である。
【0037】
第1凸部21を頂点とする二等辺三角形の底角に位置する第3凸部23及び第4凸部24は、蟻溝50の底部平面52にそれぞれ当接し、第3凸部23及び第4凸部24の間に設けられた第1凹部31と蟻溝50の底部平面52とで第1空間部41が形成されている。第1空間部41は、突出部21が押圧された際の変形量を吸収する。第1空間部41の断面の面積(断面積)の蟻溝50の全断面積に対する割合は、10〜25%である。
また、第3凸部23及び第4凸部24の間隔は、蟻溝50の開口部51の開口幅と同じかそれよりも狭くなっている。これによって、溝用シール材20の蟻溝50への装着が容易となる。
【0038】
第2凸部22及び第5凸部25は、蟻溝50の断面台形形状の上底と下底以外の2つの辺を形成する傾斜内壁面53及び54にそれぞれ近接し、第2凸部22と第3凸部23との間、及び第4凸部24と第5凸部25との間には、それぞれ第2凹部32及び第3凹部33が設けられている。そして、第2凹部32及び第3凹部33と、蟻溝50の内壁面との間には、それぞれ第4空間部44及び第5空間部45が設けられ、第4空間部44及び第5空間部45は、第1空間部41と協働して突出部21が押圧された際の変形量を吸収し、シール材として圧縮量を確保する。
【0039】
第4空間部44及び第5空間部45は、それぞれ第2凸部22と第3凸部23とを結ぶ線(図中の破線)を含む面、及び第4凸部24と第5凸部25とを結ぶ線(図中の破線)を含む面を平面とした場合における該平面と蟻溝50の内壁面とでそれぞれ形成される仮想の空間部よりも内容積が大きい。従って、突出部21が押圧された際の変形吸収量もより大きくなる。
【0040】
第4空間部44及び第5空間部45の断面積の蟻溝50の全断面積に対する割合は、例えば2〜10%である。
【0041】
また、第1凸部21と第2凸部22との間、及び第5凸部25と第1凸部21との間に、それぞれ第4凹部34及び第5凹部35が設けられている。第4凹部34及び第5凹部35は、突出部21の押圧時の変形を容易にし、変形量を大きくしてシール材としての圧縮量を増大させるように作用する。
【0042】
このような構成の溝シール材20は、圧力差が小さい連通口シール面に設けられたゲートバルブに適用され、突出部(第1凸部)21が押圧されると、シール材断面は、図3中、下方に押しつぶされ、突出部21も下方に移動する。このとき、突出部21の両側に第4凹部34及び第5凹部35を設け、突出部21の蟻溝50の開口端からの突出量を蟻溝50の深さの10〜35%としたので、突出部21の変形量は、同一押圧条件における断面円形のシール材の変形量よりも大きくなる。また、溝用シール材20の断面形状の変形量は、突出部21と対向する底部に設けられた第1空間部41、溝用シール材20の側部に設けられた第4空間部44及び第5空間部45によって吸収されるので、反力が、同一圧縮条件における断面円形のシール材の反力よりも大きくなることはない。
【0043】
本実施の形態によれば、突出部21の蟻溝50の開口端からの突出量を蟻溝50の深さの10〜35%とすると共に、突出部21の両側にそれぞれ第4凹部34及び第5凹部35を設け、突出部21に対向する底部に第1空間部41を設け、両側部にそれぞれ第4空間部44及び第5空間部45を設けたので、突出部21が押圧された際、シール材が変形し易くなり、且つその変形量は各空間部に吸収される。従って、同一押圧条件における断面円形のシール材に比べてほぼ同様の反力で、より大きな圧縮量を得ることができ、この大きな圧縮量によって、連通口シール面と弁体との距離が多少変化しても良好にシールすることができる。また、反力が大きくなりすぎないので、ゲート構造を高剛性化する必要がない上、溝用シール材20は、現状の蟻溝に適用することができるので、ゲートバルブの機構構成を変更する必要がない。
【0044】
また、本実施の形態によれば、第1凸部が押圧された際、第2凸部、第3凸部、第4凸部及び第5凸部がそれぞれ蟻溝50の内壁面に当接するので、シール材が捻れてシール材が損傷することに起因するパーティクルの発生を防止することができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、第3凸部23及び第4凸部24の間隔を、蟻溝50の開口部51の開口幅以下としたので、溝用シール材20の蟻溝50への装着が容易で、装着時にシール材が捻れて損傷が発生するのを防止することができる。
【0046】
本実施の形態において、突出部21の蟻溝50の開口部51の開口端から突出する長さの蟻溝50の深さに対する割合は、例えば10〜35%である。この割合が10%よりも小さいと十分な圧縮量が得られず、35%よりも大きいとシール材としての反力が増大するため十分な圧縮量が得られず、安定なシール性を確保できなくなる。突出部21の蟻溝50の開口部51の開口端から突出する長さの蟻溝50の深さに対する割合が上記範囲であれば、反力を増加することなく圧縮量を増大させ、良好なシール性を確保することができる。
【0047】
本実施の形態において、第1空間部41の断面積の蟻溝50の全断面積に対する割合は、10〜25%であることが好ましい。
【0048】
この割合が、10%よりも小さいと、反力が大きくなって圧縮量の確保が困難となり、25%よりも大きいと反力が小さすぎてシール性を確保できなくなる。第1空間部41の断面積の蟻溝50の全断面積に対する割合が上記範囲内であれば、第4空間部44及び第5空間部45と協働して反力の増大を抑えつつ圧縮量を増大させることができる。
【0049】
本実施の形態において、第4空間部44及び第5空間部45の断面積の蟻溝50の全断面積に対する割合は、それぞれ2〜10%であることが好ましい。
【0050】
この割合が2%よりも小さいと反力が増大して十分な圧縮量が得られなくなり、10%よりも大きいと反力が小さくなり過ぎてシール性が低下する虞がある。第4空間部44及び第5空間部45の断面積の蟻溝50の全断面積に対する割合が上記範囲内であれば、第1空間部41と協働して、押圧時の突出部21の変化量を吸収し、同一押圧条件における断面円形のシール材とほぼ同様の反力で、1.8〜2倍の圧縮量を得ることができる。
【0051】
本実施の形態において、第2凸部22及び第5凸部25と蟻溝50の内壁面との間にそれぞれ所定の隙間を設けることが好ましい。これによって、突出部21が押圧されシール材が変形する際の第2凸部22及び第5凸部25と蟻溝50の内壁面との摩擦を軽減してシール材の摩耗を防止することができ、シール材の損傷等によるパーティクルの発生を防止することができる。ここで、蟻溝50の全断面積に対する各々の隙間の断面積の割合は3%未満であることが好ましい。3%以上では突出部21が押圧された際のシール材の捻れ防止効果が低減し、蟻溝内においてシール材の回転・捩れが発生する。
【0052】
本実施の形態において、シール性の確保は、溝用シール材20の突出部21、第3凸部23及び第4凸部24によって行う。溝用シール材20の材質は、例えばバイトンであり、その硬度は、例えばショア60〜80である。
【0053】
一方、真空と大気との変動を頻繁に繰り返すロードロック室の連通口では、真空時と大気時において弁体にかかる圧力が異なる。例えば、ロードロック室の大気側の連通路をシールする弁体には、ロードロック室が真空時には大気時と比べ1気圧に近い大きな圧力が余分に掛かる。そのため、真空時にシール材におけるシール溝から突出した部分が全て潰れてしまい、これによってゲートバルブの弁体と、該ゲートバルブに対向する構成部材であるロードロック室の連通路シール面がメタルタッチするという問題がある。また、真空と大気とを繰り返す空間のシール面においては、圧力変動に伴って数ミリ幅で微動する現象があり、この微動現象に追従してシール性を確保することは必ずしも容易ではない。
【0054】
以下、主として圧力差が大きい2つの空間に挟まれたゲートバルブで使用され、突出部が全て潰れることによるメタルタッチを防止し、シール面の微動現象にも追従してシール性を確保することができる本発明の第2の実施の形態に係る溝用シール材について説明する。
【0055】
図5及び図6は、本発明の第2の実施の形態に係る溝用シール材の断面形状を示す図であり、図5は、押圧力が「0」である初期状態を示す図、図6は、所定の押圧力をかけた使用状態を示す図である。
【0056】
この溝用シール材は、例えば、図1におけるロードロック室12と大気との間に設けられたゲートバルブ17に適用される。ロードロック室12内は、搬送室11内と同程度の真空状態まで減圧されることがあり、かかる場合、ロードロック室12と大気との圧力差は1気圧に近い大きなものとなる。
【0057】
図5及び図6において、この溝用シール材60が、第1の実施の形態に係る図3及び図4の溝用シール材20と異なるところは、第2凸部62と第3凸部63の間、及び第4凸部64と第5凸部65との間の凹部をなくし、第2凸部62と第3凸部63の間、及び第4凸部64と第5凸部65との間をそれぞれ第1平面部71及び第2平面部72とし、第1平面部71及び第2平面部72と、蟻溝90の内壁面との間にそれぞれ第6空間部86及び第7空間部87を設け、第1凸部61と第2凸部62の間、及び第5凸部65と第1凸部61との間の凹部をそれぞれなくし、第1凸部61と第2凸部62との間、及び第5凸部65と第1凸部61の間にそれぞれ第3平面部73と第4平面部74を設けた点である。
【0058】
このような構成の溝用シール材60は、圧力差が大きいシール面に適用され、突出部(第1凸部)61が押圧されると、シール材断面は、図5中、下方に押しつぶされ、突出部61は下方に移動する。このとき、突出部61の蟻溝90の開口部91の開口端からの突出量の蟻溝90の深さに対する割合が10〜35%であること、及び突出部61の下方への移動に伴うシール材の変形量が、第1空間部81、第6空間部86及び第7空間部87で吸収されることにより、押圧開始当初は反力が小さく、大きな圧縮量が確保される。一方、突出部61の両側部分が凹部でなく、第3平面部73及び第4平面部74となっていること、及び第1空間部81、第6空間部86及び第7空間部87が、それぞれ第1の実施の形態における第1空間部41、第4空間部44及び第5空間部45よりも小さいことによって、シール材の変形吸収量も第1の実施の形態に比べ相対的に小さくなる。これによって、ある程度押圧力が大きくなり、各空間部における変形吸収量が上限に近づくと反力が急増し、圧縮量の増加率が小さくなる。
【0059】
本実施の形態によれば、第6空間部86及び第7空間部87を形成したので、突出部(第1凸部)61が押圧された際の変形量を第1空間部81と協働して吸収し、押圧開始当初は、同一押圧条件における断面円形のシール材とほぼ同等の反力でより大きな圧縮量が得られる。一方、突出部61の変形量を吸収する限界に近づいて、例えば圧縮幅が、例えばシール材の高さを基準として20〜25%になると、反力が急増し、圧縮量が同一押圧条件における断面円形のシール材における圧縮量よりも小さくなる。これによって、一方が大気に曝されて大気によって押しつけられる圧力(大気サポート)が作用する圧力差が大きいゲートバルブであっても、メタルタッチを回避して、例えばメタルタッチに起因するパーティクルの発生を防止することができる。また、圧力変動に伴ってシール面が数ミリ幅で微動する場合であっても蟻溝内でのシール材の回転・捩れを防止し、良好にシール性を確保することができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、第1凸部61と第2凸部62との間、及び第5凸部65と第1凸部61との間に、第3平面部73及び第4平面部74を設けたことにより、押圧を開始し、所定時間経過後における突出部61の変化量が第1の実施の形態の溝用シール材20の変形量に比べて小さくなる。従って、この第3平面部73及び第4平面部74の作用と、第1空間部81、第6空間部86及び第7空間部87との相乗作用によって、シール材としての初期圧縮量及び反力は、同一押圧条件における断面円形のシール材とほぼ同様であるが、突出部61の変化量を第1空間部81、第6空間部86及び第7空間部87で吸収する限界に近づいた時、反力が急増する。従ってシール部におけるメタルタッチを確実に回避しつつシール性を確保することができる。
【0061】
本実施の形態において、第6空間部86及び第7空間部87の断面積の蟻溝90の全断面積に対する割合は、それぞれ2〜7%であることが好ましい。この割合が、2%よりも小さいと圧縮量が不足し、7%を超えると大気サポートによる圧力に耐えることができなくなってメタルタッチが生じる虞がある。第6空間部86及び第7空間部87の断面積にける蟻溝90の全断面積に対する割合が、それぞれ2〜7%であれば、押圧当初、十分な圧縮量を確保することができ、大気サポートがあってもメタルタッチを確実に回避してシール性を向上させることができる。
【0062】
また、第1空間部81の断面積の蟻溝90の全断面積に対する割合は、1〜15%であることが好ましい。これによって、第6空間部86及び第7空間部87と協働して同様の作用効果を確保することができる。
【0063】
本実施の形態において、シール性の確保は、溝用シール材60の突出部61、第3凸部63及び第4凸部64によって行う。本実施の形態に適用されるシール材の材質は、例えばバイトンであり、その硬度は、例えばショア60〜80である。
【0064】
本実施の形態において、第2凸部62及び第5凸部65と蟻溝90の内壁面との間にそれぞれ所定の隙間を設けることが好ましい。これによって、突出部61が押圧されシール材が変形する際の第2凸部62及び第5凸部65と蟻溝90の内壁面との摩擦を軽減してシール材の摩耗を防止することができ、シール材の損傷等によるパーティクルの発生を防止することができる。ここで、各々の隙間の断面積の蟻溝90の全断面積に対する割合は3%未満であることが好ましい。3%以上では突出部61が押圧された際のシール材の捻れ防止効果が低減し、蟻溝内においてシール材の回転・捩れが発生する。
【0065】
図7は、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に係る溝用シール材における反力−圧縮量曲線を示す図である。図7中、Aは、第1の実施の形態における溝用シール材20の反力−圧縮量曲線を示し、Bは、第2の実施の形態における溝用シール材60の反力−圧縮量曲線を示す。また、Cは、従来の断面円形のシール材における反力−圧縮量曲線を示す。
【0066】
図7において、第1の実施の形態における溝用シール材20(A)は、断面円形のシール材(C)に比べて、同一反力で大きな圧縮量が得られ、その推奨適用範囲がかなり広がっていることが分かる。また、第2の実施の形態における溝用シール材60(B)は、断面円形のシール材(C)に比べて、押圧開始当初は、ほぼ同様の反力及び圧縮量が得られるが、その後反力が急激に増大して圧縮量がある程度限界に近づき、これによって高圧に耐え得ることが分かる。なお、第2の実施の形態における溝シール材60(B)の推奨適用範囲は、第1の実施の形態における溝シール材20(A)よりも狭くなっている。
【符号の説明】
【0067】
10 基板処理システム
11 搬送室
12 ロードロック室
13 プラズマ処理装置
17 ゲートバルブ
20、60 溝用シール材
21、61 第1凸部(突出部)
22、62 第2凸部
23、63 第3凸部
24、64 第4凸部
25、65 第5凸部
41 第1空間部
44 第4空間部
45 第5空間部
86 第6空間部
87 第7空間部
88 第8空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材の当接部における一方の部材表面に設けられたシール溝に装着され、他方の部材表面に当接することによって前記2つの部材相互間の隙間を封止する、延伸方向に対して垂直の断面形状が単一形状からなる環状の溝用シール材において、
前記断面形状は、周方向に沿って順次配置された第1凸部、第2凸部、第3凸部、第4凸部及び第5凸部を有し、
前記シール溝に装着した状態で、
前記第1凸部は、前記シール溝の開口端から突出する突出部を形成し、
前記第1凸部を頂点とする二等辺三角形の底角に位置する前記第3凸部及び第4凸部は、前記シール溝の底部平面にそれぞれ当接し、
前記第3凸部及び第4凸の間に設けられた第1凹部と前記シール溝の前記底部平面との間に前記第1凸部が押圧された際の変形量を吸収する第1空間部が形成され、
前記第2凸部及び前記第5凸部は、前記シール溝の対向する2つの壁面にそれぞれ近接し、
前記第2凸部と第3凸部との間の面、及び前記第4凸部と第5凸部との間の面と前記シール溝の内壁面との間に前記第1空間部と協働して前記第1凸部が押圧された際の変形量を吸収する第2空間部及び第3空間部がそれぞれ形成される
ことを特徴とする溝用シール材。
【請求項2】
前記突出部の前記シール溝の開口端から突出する長さの前記シール溝の深さに対する割合は、10〜35%であることを特徴とする請求項1記載の溝用シール材。
【請求項3】
前記第1凸部が押圧された際、前記第2凸部、第3凸部、第4凸部及び第5凸部がそれぞれ前記シール溝の内壁面に当接してシール材の捻れを抑制することを特徴とする請求項1又は2記載の溝用シール材。
【請求項4】
前記第3凸部及び前記第4凸部の間隔は、前記シール溝の開口部の開口幅以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溝用シール材。
【請求項5】
前記第2凸部及び前記第5凸部と前記シール溝の内壁面との間にそれぞれ所定の隙間が形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溝用シール材。
【請求項6】
前記シール溝の全断面積に対する前記所定の隙間の断面積の割合は3%未満であることを特徴とする請求項5記載の溝用シール材。
【請求項7】
前記第2凸部と第3凸部との間、及び前記第4凸部と前記第5凸部との間にそれぞれ第2凹部及び第3凹部が設けられており、
前記第2凹部及び第3凹部と前記シール溝の内壁面との間に、前記第1凸部が押圧された際、前記第1空間部と協働して同一押圧条件における断面円形のシール材と同様の反力で、且つ大きな圧縮量を得るための第4空間部及び第5空間部がそれぞれ形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溝用シール材。
【請求項8】
前記第1空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、10〜25%であることを特徴とする請求項7記載の溝用シール材。
【請求項9】
前記第4空間部及び第5空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、それぞれ2〜10%であることを特徴とする請求項7又8は記載の溝用シール材。
【請求項10】
前記第1凸部と第2凸部との間、及び前記第5凸部と前記第1凸部との間に、それぞれ前記第1空間部、第4空間部及び第5空間部と協働して前記圧縮量を増大させる第4凹部及び第5凹部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の溝用シール材。
【請求項11】
前記第2凸部と第3凸部との間、及び前記第4凸部と前記第5凸部との間に、それぞれ第1平面部及び第2平面部が設けられており、
該第1平面部及び第2平面部と前記シール溝の内壁面との間に、前記第1凸部が押圧された際、前記第1空間部と協働して変形量を吸収し、押圧開始当初は、同一押圧条件における断面円形のシール材と同様の圧縮量及び反力が得られ、その後、反力が急増して圧縮量を、前記同一押圧条件における断面円形のシール材における圧縮量よりも小さくする第6空間部及び第7空間部がそれぞれ形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溝用シール材。
【請求項12】
前記第1空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、1〜15%であることを特徴とする請求項11記載の溝用シール材。
【請求項13】
前記第6空間部及び第7空間部の前記延伸方向に対して垂直の断面における断面積の前記シール溝の全断面積に対する割合は、それぞれ2〜7%であることを特徴とする請求項11又は12記載の溝用シール材。
【請求項14】
前記第1凸部と第2凸部との間、及び前記第5凸部と第1凸部との間に、それぞれ前記第1空間部、第6空間部及び第7空間部とそれぞれ協働して前記第1凸部が押圧された際、押圧開始当初は、同一押圧条件における断面円形のシール材と同様の圧縮量及び反力が得られ、その後、反力が急増して前記圧縮量を、前記同一押圧条件における前記断面円形のシール材における圧縮量よりも小さくする第3平面部及び第4平面部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の溝用シール材。
【請求項15】
弾性材料からなることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の溝用シール材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−185394(P2011−185394A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52974(P2010−52974)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】