説明

溶存酸素固定式の地下水採水方法及び装置

【課題】地上へ採水後に圧力・温度の変化や空気との接触の影響を受けにくい地下水の採水方法及び装置を提供する。
【解決手段】導水口12に開閉蓋又は弁14が設けられ且つ内部に溶存酸素固定剤Dの栓16付き封入器15が設けられた採水器11を採水孔3内の地下水深度に吊り下げ、蓋又は弁14を開放して前記深度の地下水Wを採水器11内に充填したのち蓋又は弁14を閉鎖して地下水Wを密閉し、地下水密閉直後に封入器15の栓16を解除して溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出し、固定剤放出後に採水器11を地上に回収する。好ましくは、封入器15の栓16の解除を採水器11の蓋又は弁14の閉鎖に連動させ、地下水密閉と同時に溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出する。更に好ましくは、採水器11内に撹拌手段17を設け、固定剤放出後に採水器11内の溶存酸素固定剤Dと地下水Wとを撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶存酸素固定式の地下水採水方法及び装置に関し、とくに岩盤中の原位置で溶存酸素を固定したうえで地下水を採水する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば岩盤内に高レベル放射性廃棄物の地層処分場等を構築する場合に、岩盤内の地下水の酸化・還元状態が放射性核種の溶解速度に影響することから、地下水の溶存酸素及びその変化の調査が必要となる。また、地下水の酸化・還元状態は地下の微生物の活動にも大きな影響を与えることから、地下構造物の微生物耐性や地下汚染の微生物浄化等を検討する場合にも、地下水の溶存酸素の調査が必要となる。例えば酸化状態では硫黄酸化細菌等の好気性微生物による鉄鋼腐食が問題となり、嫌気状態では硫酸還元菌等の嫌気性微生物による鉄鋼腐食が問題となる。また嫌気状態では油等の汚染物質の嫌気的分解が期待できるのに対し、好気状態ではそのような分解は期待できない。
【0003】
従来、地下水の酸化・還元状態を調査する場合は、岩盤に掘削したボーリング孔等の採水孔を介して所要深度の地下水を採水して分析する方法が一般的である。ただし、地下水の長期に亘る状態を検討するためには地下水の存在する原位置における自然状態の溶存酸素量を把握する必要があり、ボーリング時の掘削水や他の深度の地下水と混合させず、原位置での圧力を保持したまま大気と接触しない状態(以下、被圧不活性状態ということがある)で地下水を採水することが必要となる。
【0004】
地下水を被圧不活性状態で採水する装置として、特許文献1及び2は、採水孔内に遮水パッカーで区切った採水区間を形成し、採水区間の地下水を継続的に地上へ採水(サンプリング採水)して分析することにより採水区間が完全にその区間深度の地下水(以下、区間地下水ということがある)に置換されたことを判断し、置換が確認された時点で採水区間の地下水を採水カプセルに閉じ込めて採水する地下水採水装置を開示している。また特許文献3は、図4に示すように、地上へのサンプリング採水に代えて孔内システムにより採水区間の地下水を分析して区間地下水への置換を確認する大深度孔内採水装置を開示している。
【0005】
図4の採水装置は、採水孔内の所定地下水深度に遮水された採水区間を形成するパッカー対5(上部パッカー6及び下部パッカー7からなる)と、パッカー対5に取り付けた採水器(サンプラー)11及び孔内ポンプ等の導水装置40とを有し、採水器11内に水質センサ46や水圧計47等からなる検知システム45と内部パッカー44とを設けている。採水時には、パッカー6、7を取り付けた採水器11及び導水装置40を採水孔内に吊り下げ、パッカー制御装置8によりパッカー5を拡張して採水区間を形成すると共に内部パッカー44を拡張する。全てのパッカー6、7、44が効いていれば採水区間の湧水圧により採水器11内の水圧が上昇するので、水圧計47によりパッカーの効き具合を確認することができる。次いで内部パッカー44を収縮し、導水装置40により採水区間内の溜まり水を採水ロッド9、逆止弁43、パッカー6内の水通路42、採水器11、導水装置40及び導水装置40の排水口41経由で区間外へ排水する。このとき、採水器11内の孔内システム45で水圧、水質(電気伝導度(EC)、水温、pH等)及び水量を計測し、計測値を観測用ケーブル48 経由で地表のデータロガー49及び記録機50へ伝送する。
【0006】
採水区間内の水質は、排水当初は不安定であるが、排水量が増えるに応じて安定する傾向を示す。孔内システム45の計測値が一定の値に達したことにより、採水器11内が区間地下水ですっかり置き替わったことを確認する。そののち導水装置40を停止し、内部パッカー44を拡張して採水器11を閉塞することにより採水区間内の地下水を採水器11内に被圧不活性状態で蓄える。地下水を蓄えた採水器11はパッカー6、7を収縮して地上まで引き上げる。特許文献1及び2のように地上へサンプリング採水する方法に比し、図4の方法によればサンプリング採水の揚程を短くすることができ、導水装置40の揚水能力による採水深度の制約がなく1,000m程度の大深度でも効率的な採水が可能である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−193101号公報
【特許文献2】特開平9−025783号公報
【特許文献3】特開平6−294270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3に示す従来の採水装置は、被圧不活性状態での採水を可能とするものの、被圧不活性状態での水質計測を保証するものではない。例えば特許文献3の装置では、地上に採水した地下水を計測用容器等に移し替えて計測に供しているが、その移し替え時や計測時に採水した地下水が地下と異なる圧力・温度環境に晒され、また地上の空気と接触するおそれがある。すなわち従来の採水装置では、被圧不活性状態で採水した場合であっても、地上に引き上げた後に圧力・温度の変化や空気との接触の影響を受けやすく、地下の被圧不活性状態における溶存酸素量を精確に検出するためには特別な圧力・温度保持装置等が必要となる。
【0009】
被圧不活性状態における溶存酸素量を計測するため、例えば図4の孔内システム45に溶存酸素計又は酸化還元電位計を含め、地下水の溶存酸素を原位置での検層により検出する方法も考えられる。しかし現状の溶存酸素計又は酸化還元電位計は電極を用いて溶存酸素量(mg/リットル単位)又は酸化還元電位(mV単位)として溶存酸素を計測するものであり、電極のメンテナンス(洗浄)が不可欠であって、電極のメンテナンスが不充分であると計測精度が低下してしまう。上述した採水器11内の区間地下水への入れ替わりには数日〜1週間程度を要する場合があり、電極を数日間も地下水中に浸漬し続けると計測精度が低下してしまう。また、何らかの方法で電極がメンテナンスできたとしても、メンテナンス後のキャリブレーション(校正)に手間がかかる問題点もある。すなわち、現状では孔内システムによって地下水の溶存酸素量を精確に検出することは難しく、地下水を地上に採水したうえで圧力・温度の変化や空気との接触の影響を避けながら溶存酸素量の検出精度を高める必要がある。
【0010】
そこで本発明の目的は、地上へ採水後に圧力・温度の変化や空気との接触の影響を受けにくい地下水の採水方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、水中の溶存酸素を固定する方法に注目した。従来から、例えば硫酸マンガンのアルカリ溶液(水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム溶液等)を試料水に加えると水酸化マンガンMn(OH)2の沈殿を生じ((1)式)、試料水中の溶存酸素がMn(OH)2と反応すると別の沈殿MnO(OH)2となって固定されることが知られている((2)式)。例えばウィンクラー法では、この沈殿MnO(OH)2をヨウ素イオンの存在下で酸(塩酸等)を加えて溶解させ、試料水中の溶存酸素量に応じて遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定することにより、試料水中の溶存酸素量を定量している((3)及び(4)式)。
【0012】
Mn2++2OH-→Mn(OH)2(沈殿) ……………………………… (1)
Mn(OH)2+(1/2)O2→MnO(OH)2(沈殿) ……………………… (2)
MnO(OH)2+2I-+4H+→Mn2++I2+3H2O ……………………… (3)
I2+2S2O32-→2I-+S4O62- …………………………………… (4)
【0013】
硫酸マンガンのアルカリ溶液のような溶存酸素固定剤を岩盤中の地下水に適用し、岩盤中の原位置において溶存酸素を固定したうえで地下水を地上に採水すれば、地上において圧力・温度の変化や空気との接触が生じたとしても固定した溶存酸素量は変化しないので、原位置における地下水の溶存酸素量を精確に検出することが期待できる。ただし、上述したように被圧不活性状態で採水するためには原位置で地下水を採水器等に密閉する必要があり、地下水の溶存酸素を原位置において固定するためには密閉した地下水中に固定剤を添加する必要がある。本発明は、原位置で密閉した地下水中に溶存酸素固定剤を添加する技術の研究開発の結果、完成に至ったものである。
【0014】
図1の実施例を参照するに、本発明による溶存酸素固定式の地下水採水方法は、導水口12に開閉蓋又は弁14が設けられ且つ内部に溶存酸素固定剤Dの栓16付き封入器15が設けられた採水器11を採水孔3内の地下水深度に吊り下げ、蓋又は弁14を開放して前記深度の地下水Wを採水器11内に充填したのち蓋又は弁14を閉鎖して地下水Wを密閉し、地下水密閉直後に封入器15の栓16を解除して溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出し、固定剤放出後に採水器11を地上に回収してなるものである。
【0015】
好ましくは、図2及び図3の実施例に示すように、封入器15の栓16の解除を採水器11の蓋又は弁14の閉鎖に連動させ、地下水密閉と同時に溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出する。更に好ましくは、採水器11内に撹拌手段17を設け、固定剤放出後に採水器11内の溶存酸素固定剤Dと地下水Wとを撹拌する。
【0016】
また図2及び図3の実施例を参照するに、本発明による溶存酸素固定式の地下水採水装置は、導水口12に開閉蓋又は弁14を設けた採水器11、採水器11内に設けた溶存酸素固定剤Dの栓16付き封入器15、蓋又は弁14を開閉する開閉機構20、及び開閉機構20による蓋又は弁14の閉鎖に連動して封入器15の栓16を解除する封入解除機構30を備えてなるものである。好ましくは、採水器11内に撹拌手段17を設ける。
【発明の効果】
【0017】
本発明による溶存酸素固定式の地下水採水方法及び装置は、開閉蓋又は弁14付きの導水口12を有し且つ内部に溶存酸素固定剤Dの栓16付き封入器15が設けられた採水器11を採水孔3内の地下水深度に吊り下げ、蓋又は弁14を開放して採水器11内に地下水Wを充填したのち蓋又は弁14を閉鎖して地下水Wを密閉し、その密閉直後に封入器15の栓16を解除して溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出したのち採水器11を地上に回収するので、次の顕著な効果を奏する。
【0018】
(イ)岩盤中の地下水を原位置の圧力を保持したまま密閉すると共に、その密閉した地下水中の溶存酸素を原位置において固定することができる。
(ロ)原位置において溶存酸素が固定された地下水を地上に採水するので、地上の圧力・温度の変化や空気との接触による影響を受けにくい精確な溶存酸素量の検出が可能となる。
(ハ)特別な圧力・温度保持装置等を必要とせず、地下水の原位置における精確な溶存酸素量を比較的簡単に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の採水装置10の実施例を示す。図示例の採水装置10は、同図(B)及び(C)に示すように、開閉蓋又は弁(以下、単に開閉弁ということがある)14a、14bが設けられた導水口12a、12bを有する採水器11と、その採水器11の内部に設けた溶存酸素固定剤Dの栓16付き封入器15と、開閉弁14a、14bを開閉する開閉機構20a、20bと、封入器15の栓16を解除する封入解除機構30とを有する。また図示例の採水装置10は、開閉機構20a、20bを制御する開閉制御装置21と封入解除機構30を制御する解除制御装置31とに接続され、開閉機構20と封入解除機構30とを独立に制御することができる。ただし、後述するように封入解除機構30を開閉機構20と連動させることができ、連動させる場合は解除制御装置31を省略することができる。
【0020】
図示例の採水器11は一対の導水口12a、12bを有し、開閉機構20により両導水口12a、12bの開閉弁14a、14bを開放することで採水孔3内の地下水Wを採水器11内に導入し(同図(B)参照)、両開閉弁14a、14bを閉鎖することで導入した地下水Wを密閉することができる(同図(C)参照)。ただし、採水器11の導水口12は少なくとも1つあれば足りる。また、導水口12a、12bは同時に制御することが望ましいが、独立に制御してもよい。図示例の封入器15には採水器11の容量に応じた容量の溶存酸素固定剤Dを装填し、栓16により封入する。解除制御装置31で栓16を外すことにより、封入器15に封入された溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出する。溶存酸素固定剤Dの一例は上述した硫酸マンガンのアルカリ溶液であるが、本発明で用いる溶存酸素固定剤Dの種類に特に制限はない。封入器15内に酸素が封入されないように、窒素ガス等を用いて適当な溶存酸素固定剤Dを封入器15に封入して使用することができる。
【0021】
例えば採水装置10にロープ18を接続し、ウィンチ19により岩盤1に設けた採水孔3内の所定深度に採水装置10を吊り下げ、開閉機構20により両開閉弁14a、14bを開放して所定深度の地下水Wを採水器11内に導入する。採水器11内が所定深度の地下水Wに入れ替わるまで開閉弁14a、14bの開放を継続し、入れ替わるに十分な時間が経過したのち、開閉機構20により両開閉弁14a、14bを閉鎖して地下水Wを採水器11内に密閉する。両開閉弁14a、14bが開放されている間は栓16により溶存酸素固定剤Dを封入器15内に封入し、開閉弁14a、14bの閉塞と同時又は閉塞直後に封入解除機構30により封入器15の栓16を外して溶存酸素固定剤Dを採水器11内に放出する。放出された溶存酸素固定剤Dは、地下水W中の溶存酸素と反応して沈殿物を生成することにより溶存酸素を固定する。
【0022】
好ましくは、図示例のように採水器11の内部に撹拌手段17を設け、採水器11内に放出された溶存酸素固定剤Dを十分撹拌して溶存酸素固定剤Dと地下水W中の溶存酸素との反応による沈殿物の生成を促進する。撹拌手段17の一例は小型ポンプであり、例えば開閉弁14a、14bを閉塞したのち又は封入器15の栓16を解除したのちポンプを駆動して採水器11内に強制的に地下水Wの流れを形成し、その流れにより採水器11内に放出した溶存酸素固定剤Dを撹拌する。ただし、例えば採水器11の内部に設けた地下水Wの導入用ポンプを撹拌手段17として用いることも可能であり、撹拌手段17の駆動タイミングは開閉弁14a、14bの閉塞後に限定されるものではない。また、撹拌手段17はポンプに限定されず、図示例のように採水装置10を揺動させて採水器11内の地下水Wを撹拌できる場合は、撹拌手段17を省略することも可能である。更に封入器15と撹拌手段17とを一体化し、溶存酸素固定剤Dを放出すると共に撹拌する方法も考えられる。
【0023】
図2は、従来から所定深度の水の採取に用いられるバンドーン採水器を利用した本発明の採水装置10の実施例を示す。図示例のバンドーン採水器は、例えば合成樹脂製(不透明なポリエチレン製又は透明なアクリル樹脂やポリカーボネート製など)の両端開放の円筒状採水器11と、その採水器11の両端開口12a、12bに嵌合可能な一対の合成ゴム製の開閉蓋14a、14bと、採水器11の内部に配置されて両開閉蓋14a、14bを両端開口12a、12bの閉鎖向きに付勢する弾性部材26と、各開閉蓋14a、14bの外側面に一端が取り付けられたワイヤ23a、23bと、そのワイヤ23a、23bの他端を係止する採水器11の外周面上のワイヤ止め金具22a、22bと、その止め金具22a、22bによるワイヤ23a、23bの係止を解除する開閉機構20(この場合は係止解除機構20)とを有する。採水器11の容量は地下水Wの採水容量に応じて適当に選択できるが、例えば1〜20リットル程度とすることができる。図示例の係止解除機構20は、採水器11の吊り下げ用ロープ18上の所定部位に取り付けたメッセンジャー受け25と、そのロープ18上に沿って移動するメッセンジャー24とを有し、メッセンジャー24がロープ18上を移動してメッセンジャー受け25と結合することにより駆動される。
【0024】
図2の採水装置10は、バンドーン採水器の円筒状採水器11の内部に、溶存酸素固定剤Dを封入する栓16付き封入器15(この場合は、封入器15の両端の開閉蓋を栓16としたもの)と、封入器15の封入解除機構30と、撹拌用ポンプ17とを係止又は結合することにより構成したものである。封入器15及び撹拌用ポンプ17は、適当な係止又は固定部材を用いて採水器11の内周面に係止又は固定する。図示例の封入解除機構30は、一端が封入器15の栓16に結合されると共に他端が採水器11内の弾性部材26上の所定部位に結合された一対の結合索32を有する。各結合索32の弾性部材26への結合部位を、後述するように弾性部材26が伸張して両端開口12a、12bが開放された状態において栓16にかかる張力が十分小さく、弾性部材26が短縮して両端開口12a、12bが閉鎖された状態において栓16が外れる程度に張力が大きくなるように選択することにより、採水器11の開閉蓋14a、14bの閉鎖に連動させて封入器15の両端の栓16を外すことができる。撹拌用ポンプ17は、信号ケーブル35aを介して撹拌制御装置35により適宜駆動することができる。
【0025】
図2の採水装置10は、可能であれば両端の開閉蓋14a、14bを採水場所の地下水Wで洗浄したのち、両開閉蓋14a、14bのワイヤ23a、23bを弾性部材26の付勢に抗してワイヤ止め金具22a、22bに係止し、開閉蓋14a、14bを開口12a、12bが開放される位置に保持する。そして開口12a、12bが開放された採水器11をロープ18に吊り下げて採水孔3の所定採水深度まで静かに降ろす。図示例の符号18a、18bは、吊り下げ用ロープ18を取り付けるロープ締結具を示す。吊り下げる際に、ワイヤ23a、23bの係止解除機構20のメッセンジャー24はメッセンジャー受け25から外して地表に残しておく。採水装置10の吊り下げ深度は、例えばロープ18に接続したウィンチ19の巻き出し長さ等から確認することができる。所定採水深度まで降ろした採水装置10を2〜3回程度上下に揺動させて地下水Wを入れ替え、採水器11内に採水深度の地下水Wを充填したのちメッセンジャー24をロープ18に沿って落下させ、ロープ18上に取り付けたメッセンジャー受け25と結合させる。メッセンジャー24がメッセンジャー受け25と結合することによりワイヤ止め金具22a、22bの係止が解除され、伸張していた弾性部材26が短縮して両開閉蓋14a、14bが閉鎖向きに付勢され、両端開口12a、12bを閉鎖して採水器11内に地下水Wを密閉する(同図(B)参照)。開閉蓋14a、14bの閉鎖は、例えばロープ18を介して伝わる反動により検知することができる。
【0026】
また図2(C)に示すように、弾性部材26が短縮して開閉蓋14a、14bが閉鎖されると同時に、弾性部材26に結合された結合索32の張力が大きくなって封入解除機構30が駆動され、封入器15の栓16が外れて内部の溶存酸素固定剤Dが採水器11内に放出される。また開閉蓋14a、14bの閉鎖を検知した後、撹拌制御装置35により撹拌用ポンプ17を駆動し、採水器11内の地下水Wをポンプ17の上部より吸水して下部から排水することにより採水器11内に地下水Wの流れを作り、採水器11内の地下水W中の溶存酸素と固定剤Dとを十分撹拌して混合する。撹拌に十分な時間が経過したのち採水装置10を地上に引き上げ、試料取出口27a又は27b(例えば、取り出し用ピンチコック付きの軟質塩化ビニル管など)を開いて採水器11内の地下水Wと沈殿物とを全て計測用容器等に移して溶存酸素量の計測に供する。例えば溶存酸素固定剤Dとして硫酸マンガンのアルカリ溶液を用いた場合は、上述したウィンクラー法により実験室等において沈殿物量に応じて遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定することにより、地下水W中の溶存酸素量を定量することができる((3)及び(4)式)。
【0027】
本発明によれば、岩盤中の地下水を原位置で圧力を保持したまま密閉し、密閉した地下水中の溶存酸素を原位置において固定することができる。また、原位置において溶存酸素が固定された地下水を地上に採水するので、地上の圧力・温度の変化や空気との接触による影響を受けにくい精確な溶存酸素量の検出が可能となる。従って、従来のように特別な圧力・温度保持装置等を必要とせずとも、地下の被圧不活性状態における溶存酸素量を精確に検出することができる。
【0028】
こうして本発明の目的である「地上へ採水後に圧力・温度の変化や空気との接触の影響を受けにくい地下水の採水方法及び装置」の提供が達成できる。
【実施例1】
【0029】
図3は、本発明による採水装置10の他の実施例を示す。図2に示すバンドーン採水器を利用した採水装置10は比較的浅い深度の地下水Wを採水する場合に適しているが、大深度の地下水Wの採水に適用することは難しい。図3に示す採水装置10は、例えば図4のように採水孔3内に採水区間を形成するパッカー対5と組み合わせることにより、例えば1,000m程度の大深度の採水にも利用することができる。パッカー対5の一例は水又は空気の注入・回収により拡張・収縮する遮水パッカー又はメカニカルパッカーであるが、採水区間の深度に応じて従来技術に属する適当なパッカーシステムを用いることができる。
【0030】
図3の採水装置10は、両端に開閉弁14a、14b付き導水口12a、12bを設けた採水器11と、パッカー対5の間の地下水Wを採水器11の導水口12aに導入する孔内ポンプ等の導水装置40と、採水器11の内部が所定深度の地下水Wで置換されたことを検知する孔内システム等の検知装置45とを有する。検知装置45には、温度計・電気伝導度計・pH計等の水質センサ46や水圧計47等を含めることができる(図4参照)。例えば図4を参照して上述したように、採水孔3内のパッカー対5で仕切られた採水区間の地下水Wを導水装置40により導水口12aから採水器11内に導入し、導入した地下水Wを導入口12b及び導水装置40の排水口41を介して連続的に排水しつつ、地下水Wの水質、水圧等を採水器11内の検知装置45により連続的に計測し、その計測値を導水装置40の排水量計測値と共に観測ケーブル48経由で地上へ伝送することにより採水器11の内部が採水区間の地下水Wで置換されたことを検知する(図3(A)参照)。
【0031】
また図3の採水装置10は、採水器11の両端の開閉弁14a、14bを機械的に開閉する開閉機構20と、採水器11内に設けた溶存酸素固定剤Dの栓16付き封入器15と、開閉機構20による開閉弁14a、14bの閉鎖に連動して封入器15の栓16を解除する封入解除機構30と、撹拌用ポンプ17とを有する。封入器15及び撹拌用ポンプ17は採水器11の内周面に固定されている。また封入解除機構30は、封入器15の栓16と開閉機構20とを相互に結合する結合部材32を有する。
【0032】
図3の採水装置10は、検知装置45により採水器11の内部が採水区間の地下水Wで置換されたことを検知したのち、開閉制御装置21により開閉機構20を移動させて開閉弁14a、14bを閉鎖することにより、地下水Wを被圧不活性状態で採水器11内に密閉する。その開閉弁14a、14bの閉鎖と同時に、開閉機構20の移動に応じて封入解除機構30の結合部材32が移動することにより封入器15の栓16が解除され、封入器15の内部の溶存酸素固定剤Dが採水器11内に放出される(図3(B)参照)。更に撹拌制御装置35により撹拌用ポンプ17を駆動し、図2の場合と同様に採水器11内に地下水Wの流れを形成することにより、採水器11内に密閉した地下水W中の溶存酸素と固定剤Dとを十分撹拌して混合する。そののち、パッカー対5を収縮させて採水装置10を地上に引き上げる。すなわち図示例の採水装置10によっても、岩盤中の原位置において溶存酸素が固定された地下水を地上に採水することができ、地上の圧力・温度の変化や空気との接触による影響を受けにくい精確な溶存酸素量の検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】本発明による地下水採水装置の一実施例の説明図である。
【図3】本発明による地下水採水装置の他の実施例の説明図である。
【図4】従来の地下水採水方法の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1…岩盤 2…地下水
3…採水孔 5…パッカーシステム
6…上部パッカー 7…下部パッカー
8…パッカー制御装置 9…採水ロッド
10…採水装置 11…採水器
12…導水口 14…開閉蓋又は弁
15…封入器 16…栓
17…撹拌手段 18…ロープ
18a、18b…ロープ締結具 19…ウィンチ
20…開閉機構
21…開閉制御装置 21a…信号ケーブル
22…ワイヤ止め金具 23…ワイヤ
24…メッセンジャー 25…メッセンジャー受け
26…弾性部材 27…試料取出口
30…封入解除機構 31…解除制御装置
31a…信号ケーブル
32…栓結合索
35…撹拌制御装置 35a…信号ケーブル
40…導水装置(孔内ポンプ)
41…排水口 42…水通路
43…逆支弁 44…内部パッカー
45…検知装置 46…水質センサ
47…水圧計 48…観測ケーブル
49…データロガー 50…記録機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導水口に開閉蓋又は弁が設けられ且つ内部に溶存酸素固定剤の栓付き封入器が設けられた採水器を採水孔内の地下水深度に吊り下げ、前記蓋又は弁を開放して前記深度の地下水を採水器内に充填したのち蓋又は弁を閉鎖して地下水を密閉し、地下水密閉直後に封入器の栓を解除して前記固定剤を採水器内に放出し、固定剤放出後に採水器を地上に回収してなる溶存酸素固定式の地下水採水方法。
【請求項2】
請求項1の採水方法において、前記封入器の栓の解除を前記採水器の蓋又は弁の閉鎖に連動させ、前記地下水密閉と同時に前記固定剤を採水器内に放出してなる溶存酸素固定式の地下水採水方法。
【請求項3】
請求項1又は2の採水方法において、前記採水器内に撹拌手段を設け、前記固定剤放出後に採水器内の固定剤と地下水とを撹拌してなる溶存酸素固定式の地下水採水方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの採水方法において、前記溶存酸素固定剤を硫酸マンガンのアルカリ溶液としてなる溶存酸素固定式の地下水採水方法。
【請求項5】
導水口に開閉蓋又は弁を設けた採水器、前記採水器内に設けた溶存酸素固定剤の栓付き封入器、前記蓋又は弁を開閉する開閉機構、及び前記開閉機構による蓋又は弁の閉鎖に連動して封入器の栓を解除する封入解除機構を備えてなる溶存酸素固定式の地下水採水装置。
【請求項6】
請求項5の採水装置において、前記採水器内に撹拌手段を設けてなる溶存酸素固定式の地下水採水装置。
【請求項7】
請求項5又は6の採水装置において、採水孔内の地下水深度に遮水された区間を形成するパッカー対、前記パッカー対の間の地下水を前記採水器の導水口に導入する導水装置、及び前記採水器内が前記深度の地下水で置換されたことを検知する検知装置を設けてなる溶存酸素固定式の地下水採水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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