溶射皮膜の品質評価方法
【課題】基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる、溶射皮膜の品質評価方法を提供する。
【解決手段】溶射皮膜の品質評価方法は、検査対象部品Wに電磁気信号Siを印加し、電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する検出信号Soを検出する、検出工程と、予め作成した検量線と、検出工程で検出した検出信号Soと、の関係より、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を算出して、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する、評価工程と、を備える。
【解決手段】溶射皮膜の品質評価方法は、検査対象部品Wに電磁気信号Siを印加し、電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する検出信号Soを検出する、検出工程と、予め作成した検量線と、検出工程で検出した検出信号Soと、の関係より、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を算出して、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する、評価工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射皮膜の品質評価方法に関し、より詳細には、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面処理方法として、溶射材と呼ばれる材料を基材に吹き付け、溶射皮膜を形成する溶射が用いられている。溶射の例としては、溶射材をその溶融点以下の温度で、且つ、高速度のガス流中で加速し、基材に高速で衝突させて皮膜を形成するコールドスプレー法があり、それに用いる装置の構成についても知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−142669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記コールドスプレー法などの溶射による表面処理において、現状では、皮膜を形成した基材の切断検査による皮膜の断面観察や、基材からの皮膜の引き剥がし試験など、破壊試験でしか成膜品質を保証することができなかった。このため、全数検査による成膜品質の検査を行うことができなかったのである。
特に、コールドスプレー法によれば溶射材の粉末を固相状態のまま基材の表面に吹き付けるために、スプレーガンの先端部等で目詰まりが発生する可能性があり、皮膜の品質を保証する必要性が高かった。
【0005】
そこで本発明は上記現状に鑑み、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる、溶射皮膜の品質評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する予備検出信号を検出する、予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、検量線を作成する、検量線作成工程と、前記検査対象部品に電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する検出信号を検出する、検出工程と、前記検量線作成工程で作成した検量線と、前記検出工程で検出した検出信号と、の関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備えるものである。
【0008】
請求項2においては、前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記検出信号として検出するものである。
【0009】
請求項3においては、前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、前記検出工程において、前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出するものである。
【0010】
請求項4においては、前記基材は非磁性材料で形成され、前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出するものである。
【0011】
請求項5においては、前記密着強度測定工程及び前記予備検出工程において、所定の基準温度条件下及び基準温度条件と異なる比較温度条件下での前記予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定するとともに、予備検出信号を検出し、前記検量線作成工程において、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、基準温度条件下での基準検量線と、比較温度条件下での比較検量線とを作成した後に、基準温度条件と比較温度条件との温度差、及び、基準検量線と比較検量線との位置関係に基づいて、前記検出工程の温度条件に対応して前記基準検量線を平行移動する補正を行って前記検量線を作成するものである。
【0012】
請求項6においては、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一予備電磁気信号を印加し、該第一予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一予備検出信号として検出する、第一予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第一予備検出工程で検出した第一予備検出信号と、の関係より、第一検量線を作成する、第一検量線作成工程と、前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二予備検出信号として検出する、第二予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第二予備検出工程で検出した第二予備検出信号と、の関係より、第二検量線を作成する、第二検量線作成工程と、前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、前記基材が非磁性材料である場合に、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三予備検出信号として検出する、第三予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第三予備検出工程で検出した第三予備検出信号と、の関係より、第三検量線を作成する、第三検量線作成工程と、前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、前記第一検量線と前記第一検出信号との関係、前記第二検量線と前記第二検出信号との関係、及び、前記第三検量線と前記第三検出信号との関係、のうち、少なくとも二つの関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備えるものである。
【0013】
請求項7においては、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、前記基材が非磁性材料である場合に、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、前記第一検出信号、第二検出信号、及び、第三検出信号の何れか二つの信号のうち一方を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記二つの信号のうち他方を示す第二の座標軸と、から定められる座標平面を用い、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、前記検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明により、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は検査対象部品を示した斜視図、(b)、(c)はそれぞれ基材を溶射皮膜で被覆した部分の拡大図。
【図2】(a)は溶射皮膜の基材に対する密着強度を測定する工程を示した概略図、(b)は電磁気信号によって検査対象部品に発生する検出信号を検出する工程を示した概略図。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ第一実施例及び第二実施例に係るセンサを示した概略図。
【図4】(a)第三実施例に係るセンサを示した概略図、(b)は検量線の作成方法を示した図。
【図5】第一実施形態に係る品質評価方法を示した図。
【図6】(a)は第一実施形態に係る品質評価方法における出力値を示した図、(b)は同じく第一実施形態に係る品質評価方法における出力差を示した図。
【図7】(a)は第二実施形態に係る品質評価方法を示した図、(b)は同じく第二実施形態に係る品質評価方法における渦電流の差分結果を示した図。
【図8】渦流計測における交流励磁信号と検出信号との関係を示す図。
【図9】(a)は第三実施形態に係る品質評価方法を示した図、(b)は同じく第三実施形態に係る品質評価方法における渦電流の差分結果を示した図。
【図10】(a)、(b)はそれぞれ検量線の補正方法を示した図。
【図11】第四実施形態に係る品質評価方法を示した図。
【図12】第五実施形態に係る品質評価方法において第一検出信号及び第二検出信号の計測結果例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[検査対象部品W]
本発明において成膜品質の評価の対象となる検査対象部品Wを、図1(a)から(c)を用いて説明する。なお、後述する予備検査対象部品Wの構成は、検査対象部品Wの構成と略同一である。
検査対象部品Wは図1(a)に示す如く、基材Bの表面が溶射による皮膜(以下、単に「溶射皮膜」と記載する)Fで被覆されている。具体的には、金属やセラミックス等の溶射材と呼ばれる材料を基材Bに吹き付けることにより、溶射皮膜Fが形成されているのである。本実施形態においては、溶射の方法の一態様として、溶射材をその溶融点以下の温度で、且つ、高速度のガス流中で加速し、基材Bに高速で衝突させて溶射皮膜Fを形成する、コールドスプレー法が用いられている。コールドスプレー法によれば、通常の溶射と比較して低温度の条件下で溶射皮膜Fが形成されるため、熱による材料の特性変化、溶射皮膜F中の酸化を低減させることが可能となる。
【0019】
コールドスプレー法によって形成した溶射皮膜Fは、コールドスプレー装置による溶射材に対する設定圧力によって、その成膜品質に違いが生じる。
具体的に、図1(b)及び(c)を用いて説明する。図1(b)における検査対象部品Whは図1(c)における検査対象部品Wlと比較して、コールドスプレー装置の設定圧力を大きくしたものである。図1(b)及び(c)に示す如く、検査対象部品Whにおける溶射皮膜Fhは溶射皮膜Flと比較して、基材Bh(Bl)との界面における粒子のめり込み量が大きくなる。このため、溶射皮膜Fhの基材Bhに対するアンカー効果は溶射皮膜Flの基材Blに対するアンカー効果よりも大きくなる。
【0020】
また、溶射皮膜Fhの内部に残留する応力は溶射皮膜Flよりも大きくなる。さらに、溶射皮膜Fh(Fl)内や、溶射皮膜Fh(Fl)と基材Bh(Bl)との界面における隙間はそれぞれ、検査対象部品Whのほうが検査対象部品Wlよりも小さくなる。
このような検査対象部品Whと検査対象部品Wlとの違いにより、溶射皮膜Fhの基材Bhに対する密着強度は溶射皮膜Flの基材Blに対する密着強度よりも大きくなるのである。このような密着強度としては、検査対象部品Wに求められる下限の強度が予め定められおり、本明細書においては、この下限を「下限強度」として記載する。
【0021】
上記の如く、溶射皮膜Fと基材Bとの密着強度の違いには、溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面に発生する隙間や残留応力も影響している。本発明に係る溶射皮膜の品質評価方法は、このような検査対象部品Wにおける隙間や残留応力の違いに基づく、透磁率や導電率などの電磁気的特性の違いを検出し、非破壊での検査対象部品Wにおける溶射皮膜Fの成膜品質の評価に活用するものである。
【0022】
[密着強度測定工程]
次に、図2から図6を用いて、第一実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る品質評価方法では、まず、密着強度測定工程において、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の水準試験片である予備検査対象部品Wにおける、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定する。
【0023】
具体的に本実施形態においては、図2(a)に示す如く、水準試験片である予備検査対象部品Wにおける溶射皮膜Fが形成された面に、エポキシ樹脂からなる測定治具Rを密着させる。そして、測定治具Rに力を加えて、図2(a)中の矢印Aの如く所定の速度で移動させる。このように、溶射皮膜Fに密着された測定治具Rを矢印A方向へ移動させることで、溶射皮膜Fが基材Bから剥離することとなる。
その後、基材Bからの溶射皮膜Fの剥離のしかたを計測し、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定する、いわゆる引き剥がし試験を行うのである。
【0024】
なお、本実施形態における密着強度測定工程においては、上記の如く引き剥がし試験を用いたが、水準試験片である予備検査対象部品Wの切断検査による溶射皮膜Fの断面観察など、他の方法を用いることが可能である。即ち、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定することができれば他の方法でも差し支えなく、その具体的方法は限定されるものではない。
【0025】
[予備検出工程]
次に、予備検出工程において、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の水準試験片である予備検査対象部品Wに予備電磁気信号PSiを印加し、予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wに発生する予備検出信号PSoを検出する。
【0026】
具体的には図2(b)に示す如く、汎用的な電子計算機である制御装置21、電圧計22、交流電源を備えた検査器23、及び、センサ30を備えた検査装置20を、予備検査対象部品Wの近傍に設置する。検査装置20における各部は電気的に接続され、通信可能に構成されている。そして、センサ30を予備検査対象部品Wに近接させて配置するのである。
【0027】
さらに、検査器23がセンサ30を、予備検査対象部品Wに予備電磁気信号PSiを印加し、予備検査対象部品Wから予備検出信号PSoを検出するように制御する。予備検出信号PSoは電圧計22で計測され、その計測結果は制御装置21で記憶・演算処理などがされる。
なお、本実施形態においては密着強度測定工程の後に予備検出工程を行う構成としたが、その順序は逆にしても差し支えない。つまり、予備検出工程の後に密着強度測定工程を行う構成とすることも可能である。
【0028】
[センサ30]
センサ30には様々な態様があり、いずれも本実施形態に係る品質評価方法に用いることが可能である。以下、図3(a)、(b)、及び図4(a)を用いて、第一実施例から第三実施例の順にそれぞれのセンサ30の態様について説明する。
図3(a)は、第一実施例に係るセンサ30として用いられるキュービックセンサ30aを示している。キュービックセンサ30aは、いわゆる渦流計測用センサであり、予備検査対象部品Wにおける、表面からの距離に対する硬さと透磁率との関係を用いるものである。
【0029】
本実施例に係るキュービックセンサ30aは、励磁部及び検出部を具備する。励磁部は予備検査対象部品Wと対向して配置された状態で、予備電磁気信号PSiである所定の交流励磁信号を印加する。検出部は、交流励磁信号が印加された励磁部により予備検査対象部品Wに生じた渦電流による予備検出信号PSoを検出する。
【0030】
励磁部は、励磁コイル33a・33aが、略立方体形状の非磁性ボビン31aに巻回されて構成されている。具体的には、励磁コイル33a・33aは、非磁性ボビン31aの上面と下面とで交差するように、直交して巻回されているのである。
励磁コイル33a・33aのそれぞれの両端(両端子)は、検査器23の交流電源に接続されている。つまり、励磁コイル33a・33aは予備検査対象部品Wに対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルである。
【0031】
検出部は、励磁コイル33a・33aにおける二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル32aを備える。検出コイル32aは、非磁性ボビン31aの下面における、励磁コイル33a・33aにおける下側の交差部分の略中央部に配置されている。
本実施形態においては、検出コイル32aには薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。
検出コイル32aの両端(両端子)は、検査器23に接続されている。つまり、検出コイル32aは交流励磁信号が印加された予備検査対象部品Wから渦電流による予備検出信号PSoを検出するのである。
【0032】
上記の如く構成されたキュービックセンサ30aを用いて、予備検査対象部品Wにおける予備検出信号PSoの検出を行う場合は、検出コイル32aが予備検査対象部品Wに対向する姿勢で、キュービックセンサ30aを予備検査対象部品Wに近接配置した状態で、交流電源により励磁コイル33a・33aのそれぞれに予備電磁気信号PSiとして電圧を印加する。励磁コイル33a・33aに電流が流れた瞬間には、図3(a)中の矢印α1に示す如く右ネジの法則に従って回転磁界が発生する。そして、この回転磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって予備検査対象部品Wに渦電流を発生させるのである。さらに、予備検査対象部品Wの表面における渦電流の発生にともない、検出コイル32aに磁束を貫通させ、検出コイル32aに誘起電圧を発生させる。そして、検出コイル32aによって誘起電圧を予備検出信号PSoとして計測するのである。
【0033】
本実施例に係るキュービックセンサ30aによれば上記の如く、予備検査対象部品Wに接触することなく、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を発生させ、この水平磁界を予備検出信号PSoの検出に用いている。このため、キュービックセンサ30aの予備検査対象部品Wからのリフトオフの影響を小さくすることが可能となる。
【0034】
図3(b)は、第二実施例に係るセンサ30として用いられるUコアセンサ30bを示している。Uコアセンサ30bについても、第一実施例に係るキュービックセンサ30aと同様に渦流計測用センサであり、その形状を除いては略同一の構成である。このため、以下では第一実施例との差異点を中心に説明する。
【0035】
本実施例に係るUコアセンサ30bにおける励磁部は、励磁コイル33bが、略U字形状の非磁性ボビン31bの中央部に巻回されて構成されている。検出部は、非磁性ボビン31bの下側の両先端部における中間位置に配置されている。
【0036】
上記の如く構成されたUコアセンサ30bを用いて、予備検査対象部品Wにおける予備検出信号PSoの検出を行う場合は、検出コイル32bが予備検査対象部品Wに対向する姿勢で、Uコアセンサ30bを予備検査対象部品Wに近接配置した状態で、交流電源により励磁コイル33bに予備電磁気信号PSiとして電圧を印加する。励磁コイル33bに電流が流れた瞬間には、図3(b)中の矢印α2に示す如く右ネジの法則に従って磁界が発生する。そして、この磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって予備検査対象部品Wに渦電流を発生させるのである。さらに、予備検査対象部品Wの表面における渦電流の発生にともない、検出コイル32bに磁束を貫通させ、検出コイル32bに誘起電圧を発生させる。そして、検出コイル32bによって誘起電圧を予備検出信号PSoとして計測するのである。
【0037】
本実施例に係るUコアセンサ30bによっては、予備検査対象部品Wに接触することなく、予備検査対象部品Wに生じる水平磁界を収束させることができる。このため、予備検出信号PSoの出力を大きくして検出しやすくすることが可能となる。
【0038】
図4(a)は、第三実施例に係るセンサ30として用いられる電位差センサ30cを示している。電位差センサ30cは、いわゆる交流電位差法における探針プローブ31c・31cを備えており、予備検査対象部品Wにおける導電率を用いるものである。探針プローブ31c・31cは、それぞれ検査器23の交流電源に接続されている。
【0039】
上記の如く構成された電位差センサ30cを用いて、予備検査対象部品Wにおける予備検出信号PSoの検出を行う場合は、探針プローブ31c・31cを予備検査対象部品Wと接触して配置した状態で、予備電磁気信号PSiである所定の交流電圧を印加する。そして、交流電圧により図4中の矢印βの如く予備検査対象部品Wに流れた電流によって生じる探針プローブ31c・31cの間の電位差を、予備検出信号PSoとして検出するのである。
【0040】
本実施例に係る電位差センサ30cによれば上記の如く、予備検査対象部品Wにおける導電率を用いているため、計測原理がシンプルであり、予備検査対象部品Wの電気的特性のみを測定することが可能となる。
【0041】
[検量線作成工程]
次に、検量線作成工程において、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、予備検出工程で検出した予備検出信号PSoと、の関係より、検量線Lを作成する。
【0042】
具体的には図4(b)に示す点P1から点P4の如く、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wごとに、密着強度と予備検出信号PSoとが対応する位置にそれぞれの点をプロットする。その後、点P1から点P4のプロット位置に基づいて、点P1から点P4の近傍を検量線Lが通過するように検量線Lを作成するのである。
【0043】
[検出工程]
次に、検出工程において、検査対象である検査対象部品Wに電磁気信号Siを印加し、電磁気信号によって検査対象部品Wに発生する検出信号Soを検出する。この検出工程では、前記検査装置20を用いて、予備検出工程と同様の手法で、予備検査対象部品Wに替えて検査対象部品Wにおける検出信号Soを検出する。即ち、第一実施例から第三実施例のセンサ30である、キュービックセンサ30a、Uコアセンサ30b、電位差センサ30cのいずれかのうち、予備検出工程で用いたセンサ30を用いて検出信号Soを検出するのである。
【0044】
[評価工程]
次に、評価工程において、検量線作成工程で作成した検量線Lと、検出工程で検出した検出信号Soと、の関係より、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を算出して、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する。
【0045】
具体的には、検出工程で検出した検出信号Soの値が図4(b)に示すS1であった場合、S1に対応する検量線L上の点Qをとり、点Qに対応する密着強度C1を検査対象部品Wにおける溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度として算出する。そして、この密着強度C1が検査対象部品Wに求められる下限である下限強度よりも大きいか否かにより、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する。詳細には、密着強度C1が下限強度よりも大きければ成膜品質を「良」として、密着強度C1が下限強度よりも小さければ成膜品質を「不良」として、評価するのである。
【0046】
上記の如く、本実施形態に係る品質評価方法によれば、基材Bの表面が溶射皮膜Fで被覆された検査対象部品Wにおける成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる。このため、検査対象部品Wを全数検査によって成膜品質の検査を行うことができるのである。
また、コールドスプレー法では溶射材の粉末を固相状態のまま基材の表面に吹き付けるために、スプレーガンの先端部等で目詰まりが発生する可能性がある。このため、コールドスプレー法による溶射皮膜Fを検査する場合は、溶射皮膜Fの成膜品質を全数検査により保証できる点が特に有効となるのである。
【0047】
[検出信号So]
上記の如く、本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面に発生する隙間や残留応力の違いに基づく、透磁率や導電率などの電磁気的特性の違いを検出するものである。一方、基材B自体の電磁気的特性に、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあった場合、そのばらつきがノイズとなって検査精度の低下に繋がる場合がある。
【0048】
このため、本実施形態では、予備検出工程及び検出工程において、図5に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側(図5における上側)と、被覆されていない側(図5における下側)と、の両面にキュービックセンサ30aを近接させ、同時に又は交互に予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加する構成としている。そして、予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)によって予備検査対象部品W(検査対象部品W)のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0049】
具体的に、図5、図6(a)及び(b)を用いて説明する。図6(a)に示す出力値D11からD13は、図5に示す溶射皮膜Fで被覆された側の面で検出した値であり、出力値D21からD23は、図5に示す溶射皮膜Fで被覆されていない側の面で検出した値である。つまり、出力値D11からD13は、溶射皮膜F内や溶射皮膜Fと基材Bとの界面に加えて、基材B自体の電磁気的特性が反映された値である。一方、出力値D21からD23は、基材Bの電磁気的特性のみが反映された値である。ここで、出力値D11とD21、出力値D12とD22、出力値D13とD23はそれぞれ、同じ予備検査対象部品W(検査対象部品W)あるいは検査対象部位において検出した値である。
【0050】
そして、出力値D11とD21との出力差であるd1を図6(b)における検出信号D31とし、同様に、出力値D12(D13)とD22(D23)との出力差であるd2(d3)を図6(b)における検出信号D32(D33)とする。そして、これらの検出信号D31からD33を、予備検出工程及び検出工程における予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0051】
上記の如く構成することにより、溶射皮膜F内や溶射皮膜Fと基材Bとの界面に加えて基材B自体の電磁気的特性が反映された出力値D11からD13と、基材Bの電磁気的特性のみが反映された出力値D21からD23と、の差分値を予備検出信号PSo(検出信号So)としている。これにより、基材B自体の電磁気的特性(本実施形態においては透磁率)に、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあっても、その影響を相殺でき、ばらつきによるノイズ成分を低減させることが可能となるのである。
【0052】
なお、図5以下に示す図において、センサ30としてはキュービックセンサ30aを用いて渦流計測を行うものとして説明するが、他のセンサ及び検査方法を採用することも可能である。
【0053】
[第二実施形態]
次に、図7及び図8を用いて、第二実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態以下に説明する実施形態において、前記第一実施形態と同様の構成はその詳細な説明を省略することとし、差異点を中心に説明する。
【0054】
前記第一実施形態と同様に、本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面に発生する隙間や残留応力の違いに基づく、透磁率や導電率などの電磁気的特性の違いを検出するものである。一方、溶射皮膜Fにおける表面部(基材Bとの界面と反対側、図1(b)及び(c)を参照)は、溶射の際に粗く形成される場合がある。このように、溶射皮膜Fの表面粗さに、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあった場合、そのばらつきがノイズとなって検査精度の低下に繋がる場合がある。
【0055】
このため、本実施形態に係る品質評価方法では、予備検出工程及び検出工程において、予備検査対象部品W(検査対象部品W)に、周波数の異なる2種類の予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加する構成としている。そして、それぞれの周波数による予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)によって予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を、予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0056】
具体的に、図7(a)、(b)、及び図8を用いて説明する。本実施形態においては、予備検出工程及び検出工程において、図7(a)に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆された表面に、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30a(図7(a)における左側)と、高周波のキュービックセンサ30a(図7(a)における右側)とを近接させ、同時に又は交互に予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加するのである。
【0057】
ここで、渦電流の浸透深さδは、以下の数式1によって与えられる。数式1におけるf、μ、σはそれぞれ、励磁周波数、対象物の透磁率及び導電率を示している。
【0058】
【数1】
【0059】
数式1に示す如く、励磁周波数fが高くなると、浸透深さδは小さくなる。即ち、励磁周波数が高周波のキュービックセンサ30aによる渦電流の浸透深さδは、図7(a)における右側に示す如く、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aよりも浅くなるのである。なお、本明細書における渦電流の「浸透深さ」とは、「渦電流の強さが対象物の表面の約37%になる深さ」を意味している。
【0060】
このように、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aと、高周波のキュービックセンサ30aとは、渦電流の浸透深さδが異なる。つまり、渦電流の浸透深さδを調節することにより、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面だけでなく、表面粗さが現れる表面部のみにおける電磁気的特性の違いを検出することが可能となる。
【0061】
そして、図7(b)に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を差分結果Fdとして、予備検出工程及び検出工程における予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。これにより、溶射皮膜Fの表面粗さに、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあっても、その影響を相殺でき、ばらつきによるノイズ成分を低減させることが可能となるのである。
【0062】
[差分結果Fd]
差分結果Fdの算出方法について、図8を用いて説明する。図8に示すように、検査器23の交流電源は、励磁コイル33aに対して所定の交流励磁信号(励磁用交流電圧信号)V1を印加する。検査器23は、励磁コイル33aに交流電源からの交流励磁信号V1が印加されたときの検出コイル32aから得られる検出信号(前記誘起電圧についての電圧信号)V2の大きさと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差(位相遅れ)Φとを検出する。ここで、検査器23には、位相差Φを検出するため、増幅された位相検波として、交流励磁信号V1(波形)が与えられる。
【0063】
検出コイル32aによって検出される検出信号V2は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の透磁率を反映する。つまり、計測部位6aの透磁率が高くなると、前述のような渦電流の発生にともなう磁束が増して検出信号V2が大きくなる。逆に、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の透磁率が低くなると、渦電流の発生にともなう磁束が減って検出信号V2が小さくなる。この渦電流に基づく検出信号V2を定量化(数値化)するため、検出信号V2の大きさの値である振幅値Yと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値である値X(=YcosΦ)とを定義するのである。
【0064】
ここで、差分結果Fdは、以下の数式2によって与えられる。数式2におけるXa、Yaはそれぞれ、渦電流の浸透深さδが深い、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aで計測した、位相差Φに起因する値X、及び、振幅値Yを示している。また、Xb、Ybはそれぞれ、渦電流の浸透深さδが浅い、励磁周波数が高周波のキュービックセンサ30aで計測した、位相差Φに起因する値X、及び、振幅値Yを示している。
【0065】
【数2】
【0066】
[第三実施形態]
次に、図9(a)及び(b)を用いて、第三実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法の対象である、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における基材Bは非磁性材料で形成されている。そして、本実施形態に係る品質評価方法では、予備検出工程及び検出工程において、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側(図9における上側)、換言すれば非磁性材料である基材Bの側に、周波数の異なる2種類の予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加する構成としている。そして、それぞれの周波数による予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)によって予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を、予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0067】
具体的に、図9(a)を用いて説明する。本実施形態においては、予備検出工程及び検出工程において、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆されていない表面に、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30a(図9(a)における左側)と、高周波のキュービックセンサ30a(図9(a)における右側)とを近接させ、同時に又は交互に予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加するのである。
【0068】
前記の如く、励磁周波数fが高くなると、浸透深さδは小さくなるため、励磁周波数が高周波のキュービックセンサ30aによる渦電流の浸透深さδは、図9(a)における右側に示す如く、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aよりも浅くなるのである。この際、基材Bが非磁性材料で形成されているため、図9(a)に示す如く、溶射皮膜Fで被覆されている側にまで、十分な渦電流を浸透させることができるのである。
【0069】
このように、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aと、高周波のキュービックセンサ30aとは、渦電流の浸透深さδが異なる。つまり、低周波のキュービックセンサ30aで溶射皮膜Fまでの浸透深さで計測し、高周波のキュービックセンサ30aで基材Bまでの浸透深さで計測することができる。
【0070】
そして、図9(b)に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を差分結果として、予備検出工程及び検出工程における予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。これにより、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面のみの検出結果を得ることができるのである。なお、本実施形態における2種類の信号の差分結果を算出する方法は、前記第二実施形態における方法と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【0071】
上記の如く、本実施形態においては、基材Bの側から計測することにより、溶射皮膜Fの表面粗さや基材Bの電磁気的特性のばらつきに影響されることなく、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面のみにおける電磁気的特性の違いを検出することが可能となるのである。
【0072】
[検量線の補正方法]
次に、図10を用いて、検量線の補正方法について説明する。
検量線を補正する際には、密着強度測定工程及び予備検出工程において、所定の基準温度条件下(本実施形態においては20度)及び基準温度条件と異なる比較温度条件下(本実施形態においては35度及び5度)での予備検査対象部品Wにおける、溶射皮膜Fの前記基材Bに対する密着強度を測定するとともに、予備検出信号を検出する。
【0073】
そして、検量線作成工程において、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、基準温度条件下での基準検量線L0と、比較温度条件下での比較検量線L1・L2とを作成する。具体的には図10(a)に示す如く、基準温度における検量線を基準検量線L0として作成し、基準温度よりも高い温度(本実施形態においては35度)における比較検量線をL1、基準温度よりも低い温度(本実施形態においては5度)における比較検量線をL2として作成するのである。
【0074】
その後、基準温度条件と比較温度条件との温度差、及び、基準検量線L0と比較検量線L1・L2との位置関係に基づいて、検出工程の温度条件に対応して基準検量線L0を平行移動する補正を行って検量線Lrを作成する。
具体的には図10(a)に示す如く、基準検量線L0と比較検量線L1とにおける、温度上昇(15度)とそれぞれの位置関係から、矢印Rhに示す如く温度変化に伴う検量線の移動量を算出する。同じく、基準検量線L0と比較検量線L2とにおける、温度低下(15度)とそれぞれの位置関係から、矢印Rlに示す如く温度変化に伴う検量線の移動量を算出するのである。そして、検出工程の温度条件が例えば12度の場合は、基準検量線L0をマイナス8度(12度−基準温度条件20度)分に相当する移動量Rだけ下方に平行移動する補正を行い、検量線Lrを作成するのである。
【0075】
このように、検出工程における温度条件に対応して検量線Lを補正することにより、電磁気的特性を用いた計測に対する温度変化の影響を低減させることが可能となる。つまり、検出工程における温度が季節や天候によって変化した場合でも、その場における温度条件に対応した検量線Lを作成することが可能となるため、その影響を受けることがないのである。
【0076】
上記の如く検量線Lを作成する場合は、図10(b)に示すごとく、密着強度が「下限強度」となる予備検査対象部品Wにおいて予備検出信号がゼロとなるように調整(ゼロ調整)することが好ましい。このようにゼロ調整することにより、検出信号から算出した密着強度C1と下限強度との比較が、数値の正負判断のみによりできるため、評価工程における検査対象部品Wの成膜品質の評価を容易に行うことが可能となる。
【0077】
[第四実施形態]
次に、図11を用いて、第四実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は記述の実施形態と同様に、基材Bの表面が溶射皮膜Fで被覆された検査対象部品Wの成膜品質を評価するものである。
そして、第一実施形態と同様に、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wにおける、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定する、密着強度測定工程を備える。
【0078】
また、第一実施形態と同様に、被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wにおける表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一予備電磁気信号PSiを印加し、第一予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wのそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一予備検出信号PSoとして検出する、第一予備検出工程を備える。
さらに、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、第一予備検出工程で検出した第一予備検出信号PSoと、の関係より、第一検量線を作成する、第一検量線作成工程を備える。
そして、検査対象部品Wの表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号Siを印加し、第一電磁気信号Siによって検査対象部品Wのそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号Soとして検出する、第一検出工程を備える。
【0079】
また、第二実施形態と同様に、被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wに、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号PSiを印加し、それぞれの周波数による第二予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第二予備検出信号PSoとして検出する、第二予備検出工程を備える。
さらに、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、第二予備検出工程で検出した第二予備検出信号PSoと、の関係より、第二検量線を作成する、第二検量線作成工程を備える。
そして、検査対象部品Wに、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による第二電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号Soとして検出する、第二検出工程を備える。
【0080】
また、第三実施形態と同様に、基材Bが非磁性材料である場合に、被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wにおける表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号PSiを印加し、それぞれの周波数による第三予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第三予備検出信号PSoとして検出する、第三予備検出工程を備える。
さらに、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、第三予備検出工程で検出した第三予備検出信号PSoと、の関係より、第三検量線を作成する、第三検量線作成工程を備える。
そして、検査対象部品Wの表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による第三電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号Soとして検出する、第三検出工程を備える。
【0081】
加えて、第一検量線と第一検出信号との関係、第二検量線と第二検出信号との関係、及び、第三検量線と第三検出信号との関係、のうち、少なくとも二つの関係より、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を算出して、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する、評価工程を備えるのである。
【0082】
図11は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆された表面において、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加して、第二予備検出信号PSo(第二検出信号So)を検出する、第二予備検出工程(第二検出工程)と、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆されていない表面において、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加して、第三予備検出信号PSo(第三検出信号So)を検出する、第三予備検出工程(第三検出工程)と、を同時に行う様子を示している。
【0083】
このように、本実施形態においては、前記第一実施形態から第三実施形態に係る品質評価方法を組み合わせて、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における成膜品質を評価する構成としている。このように、複数種類の品質評価方法を組み合わせることにより、検査対象部品Wにおける成膜品質の評価精度を向上させることが可能となるのである。
【0084】
なお、本実施形態においては、2種類の品質評価方法を組み合わせる構成としたが、3種類の品質評価方法を組み合わせることとしても差し支えない。この場合は、2種類以上の品質評価方法における評価で成膜品質が「良」と判定された検査対象部品Wの成膜品質を最終的に「良」と判断するのである。
【0085】
[第五実施形態]
次に、図12を用いて、第五実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は記述の実施形態と同様に、基材Bの表面が溶射皮膜Fで被覆された検査対象部品Wの成膜品質を評価するものである。
【0086】
そして、第一実施形態と同様に、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の検査対象部品Wにおける表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号Siを印加し、第一電磁気信号Siによって検査対象部品Wのそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号Soとして検出する、第一検出工程を備える。
【0087】
また、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の検査対象部品Wに、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による第二電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号Soとして検出する、第二検出工程を備える。
【0088】
さらに、基材Bが非磁性材料である場合に、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の検査対象部品Wにおける表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号Soとして検出する、第三検出工程を備える。
【0089】
そして、評価工程において、第一検出信号、第二検出信号、及び、第三検出信号の何れか二つの信号のうち一方を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに二つの信号のうち他方を示す第二の座標軸と、から定められる座標平面を用い、二つの信号の値から定まる座標平面上の点の分布に基づき、座標平面における許容誤差領域を予め設定し、二つの信号の値から定まる座標平面上の点が、許容誤差領域内にあるか否かにより、検査対象部品における成膜品質を評価するのである。
【0090】
評価工程における評価方法について、図12を用いて説明する。
図12に示すように、まず、二つの信号の値から定まる座標平面上の点の分布から、多数の良品データの分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向(長軸方向)を求める。第一主成分の方向が求まると、その方向に直交する方向として、第二主成分の方向(短軸方向)が定まる。
【0091】
このようにして求めた第一主成分及び第二主成分の方向を、それぞれ許容誤差領域を規定する楕円(以下「設定楕円」という。)の長軸及び短軸の方向とする。そして、長軸と短軸との交点が、多数の良品データにおける分布の中心を示す値から定まる。
【0092】
このように、長軸・短軸の方向及びこれらの交点を求めた後、多数の良品データの分布を、長軸の方向を広がりの方向として交点における値を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有することとして、楕円の焦点及び焦点からの距離を定め、設定楕円を決定する。
すなわち、図12に示すように、多数の良品データの分布を、長軸の方向を広がりの方向とし、長軸における短軸との交点における値を平均μとした場合、つまり交点で交わる長軸及び短軸から定まる座標平面において交点を原点とした場合(μ=0の場合)の、標準偏差σ(分散:σ2)とする正規分布N(μ、σ2)とする(正規分布曲線参照)。
【0093】
本実施形態においては、設定楕円を決定するに際し、前記正規分布における所定の広がり(限界値)として、μ±3σの範囲を用いる。つまり、設定楕円はその長軸の方向について交点を中心として±3σの広がりを有することとする。
このように、多数の良品データの分布を正規分布とした場合におけるμ±3σの範囲を、長軸の方向の広がりとして用いることにより、設定楕円の長軸の長さが決定する。そして、この長軸の長さと、多数の良品データにおける分布の短軸方向のバラツキに基づき、楕円の焦点を求める。これにより、設定楕円が決定する(3σの楕円)。
また、設定楕円を決定するに際しては、多数の良品データにおける分布のバラツキに基づき、その二つの信号の平均値等から、多数の良品データがほぼ全部含まれるように長軸上の点となる焦点を予め求めた後、前述した正規分布におけるμ±3σの広がりを用い、焦点からの距離を決定することで、設定楕円を決定することとしてもよい。
このように、許容誤差領域を設定するに際し、長軸の方向について正規分布におけるμ±3σの広がりを有する楕円を用いることにより、長軸の方向については理論上約99.7%の良品データ42が含まれることとなる。
以上のようにして、設定楕円を決定することで、座標平面上における許容誤差領域を設定する。
【0094】
ここで、多数の良品データの分布を長軸の方向についての正規分布として設定楕円を決定する場合における、分離値と楕円の広がりとの関係について説明する。
前述したように、設定楕円である境界線上の計測点は、分離値=1となる。したがって、図12に示すように、前述した正規分布におけるμ±3σの広がりを有する楕円(3σの楕円)である許容誤差領域の境界線上は、分離値=1となる。
これに対し、許容誤差領域の境界線の形状である3σの楕円と相似形であって、交点を原点とし、設定楕円を決定する際に用いた場合と同様の正規分布におけるμ±6σの広がりを有する楕円(6σの楕円)上は、分離値=2となる。同様にして正規分布におけるμ±9σの広がりを有する楕円(9σの楕円)上は、分離値=3となる。
したがって、図12に示す座標平面においては、NGデータは、分離値が約3となる位置に分布していることとなる。
【0095】
以上のようにして許容誤差領域を設定することにより、検査対象部品における成膜品質の評価に際し、検査対象部品Wの温度状況や形状誤差等の影響による検出信号のばらつき(計測誤差)を、それぞれのばらつきの傾向性に応じた範囲で許容することができ、検査対象部品Wの性状に応じた正確な判定(均等な評価)を行うことが可能となる。
また、本実施形態によれば、検出信号と密着強度との関係によらずに成膜品質を評価できるため、密着強度測定工程を行う必要がなく、評価に係る設備コストや時間コストを低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
20 検査装置
30 センサ
Si 電磁気信号
So 検出信号
B 基材
F 溶射皮膜
W 検査対象部品(予備検査対象部品)
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射皮膜の品質評価方法に関し、より詳細には、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面処理方法として、溶射材と呼ばれる材料を基材に吹き付け、溶射皮膜を形成する溶射が用いられている。溶射の例としては、溶射材をその溶融点以下の温度で、且つ、高速度のガス流中で加速し、基材に高速で衝突させて皮膜を形成するコールドスプレー法があり、それに用いる装置の構成についても知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−142669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記コールドスプレー法などの溶射による表面処理において、現状では、皮膜を形成した基材の切断検査による皮膜の断面観察や、基材からの皮膜の引き剥がし試験など、破壊試験でしか成膜品質を保証することができなかった。このため、全数検査による成膜品質の検査を行うことができなかったのである。
特に、コールドスプレー法によれば溶射材の粉末を固相状態のまま基材の表面に吹き付けるために、スプレーガンの先端部等で目詰まりが発生する可能性があり、皮膜の品質を保証する必要性が高かった。
【0005】
そこで本発明は上記現状に鑑み、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる、溶射皮膜の品質評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する予備検出信号を検出する、予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、検量線を作成する、検量線作成工程と、前記検査対象部品に電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する検出信号を検出する、検出工程と、前記検量線作成工程で作成した検量線と、前記検出工程で検出した検出信号と、の関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備えるものである。
【0008】
請求項2においては、前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記検出信号として検出するものである。
【0009】
請求項3においては、前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、前記検出工程において、前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出するものである。
【0010】
請求項4においては、前記基材は非磁性材料で形成され、前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出するものである。
【0011】
請求項5においては、前記密着強度測定工程及び前記予備検出工程において、所定の基準温度条件下及び基準温度条件と異なる比較温度条件下での前記予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定するとともに、予備検出信号を検出し、前記検量線作成工程において、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、基準温度条件下での基準検量線と、比較温度条件下での比較検量線とを作成した後に、基準温度条件と比較温度条件との温度差、及び、基準検量線と比較検量線との位置関係に基づいて、前記検出工程の温度条件に対応して前記基準検量線を平行移動する補正を行って前記検量線を作成するものである。
【0012】
請求項6においては、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一予備電磁気信号を印加し、該第一予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一予備検出信号として検出する、第一予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第一予備検出工程で検出した第一予備検出信号と、の関係より、第一検量線を作成する、第一検量線作成工程と、前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二予備検出信号として検出する、第二予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第二予備検出工程で検出した第二予備検出信号と、の関係より、第二検量線を作成する、第二検量線作成工程と、前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、前記基材が非磁性材料である場合に、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三予備検出信号として検出する、第三予備検出工程と、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第三予備検出工程で検出した第三予備検出信号と、の関係より、第三検量線を作成する、第三検量線作成工程と、前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、前記第一検量線と前記第一検出信号との関係、前記第二検量線と前記第二検出信号との関係、及び、前記第三検量線と前記第三検出信号との関係、のうち、少なくとも二つの関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備えるものである。
【0013】
請求項7においては、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、前記基材が非磁性材料である場合に、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、前記第一検出信号、第二検出信号、及び、第三検出信号の何れか二つの信号のうち一方を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記二つの信号のうち他方を示す第二の座標軸と、から定められる座標平面を用い、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、前記検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明により、基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は検査対象部品を示した斜視図、(b)、(c)はそれぞれ基材を溶射皮膜で被覆した部分の拡大図。
【図2】(a)は溶射皮膜の基材に対する密着強度を測定する工程を示した概略図、(b)は電磁気信号によって検査対象部品に発生する検出信号を検出する工程を示した概略図。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ第一実施例及び第二実施例に係るセンサを示した概略図。
【図4】(a)第三実施例に係るセンサを示した概略図、(b)は検量線の作成方法を示した図。
【図5】第一実施形態に係る品質評価方法を示した図。
【図6】(a)は第一実施形態に係る品質評価方法における出力値を示した図、(b)は同じく第一実施形態に係る品質評価方法における出力差を示した図。
【図7】(a)は第二実施形態に係る品質評価方法を示した図、(b)は同じく第二実施形態に係る品質評価方法における渦電流の差分結果を示した図。
【図8】渦流計測における交流励磁信号と検出信号との関係を示す図。
【図9】(a)は第三実施形態に係る品質評価方法を示した図、(b)は同じく第三実施形態に係る品質評価方法における渦電流の差分結果を示した図。
【図10】(a)、(b)はそれぞれ検量線の補正方法を示した図。
【図11】第四実施形態に係る品質評価方法を示した図。
【図12】第五実施形態に係る品質評価方法において第一検出信号及び第二検出信号の計測結果例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[検査対象部品W]
本発明において成膜品質の評価の対象となる検査対象部品Wを、図1(a)から(c)を用いて説明する。なお、後述する予備検査対象部品Wの構成は、検査対象部品Wの構成と略同一である。
検査対象部品Wは図1(a)に示す如く、基材Bの表面が溶射による皮膜(以下、単に「溶射皮膜」と記載する)Fで被覆されている。具体的には、金属やセラミックス等の溶射材と呼ばれる材料を基材Bに吹き付けることにより、溶射皮膜Fが形成されているのである。本実施形態においては、溶射の方法の一態様として、溶射材をその溶融点以下の温度で、且つ、高速度のガス流中で加速し、基材Bに高速で衝突させて溶射皮膜Fを形成する、コールドスプレー法が用いられている。コールドスプレー法によれば、通常の溶射と比較して低温度の条件下で溶射皮膜Fが形成されるため、熱による材料の特性変化、溶射皮膜F中の酸化を低減させることが可能となる。
【0019】
コールドスプレー法によって形成した溶射皮膜Fは、コールドスプレー装置による溶射材に対する設定圧力によって、その成膜品質に違いが生じる。
具体的に、図1(b)及び(c)を用いて説明する。図1(b)における検査対象部品Whは図1(c)における検査対象部品Wlと比較して、コールドスプレー装置の設定圧力を大きくしたものである。図1(b)及び(c)に示す如く、検査対象部品Whにおける溶射皮膜Fhは溶射皮膜Flと比較して、基材Bh(Bl)との界面における粒子のめり込み量が大きくなる。このため、溶射皮膜Fhの基材Bhに対するアンカー効果は溶射皮膜Flの基材Blに対するアンカー効果よりも大きくなる。
【0020】
また、溶射皮膜Fhの内部に残留する応力は溶射皮膜Flよりも大きくなる。さらに、溶射皮膜Fh(Fl)内や、溶射皮膜Fh(Fl)と基材Bh(Bl)との界面における隙間はそれぞれ、検査対象部品Whのほうが検査対象部品Wlよりも小さくなる。
このような検査対象部品Whと検査対象部品Wlとの違いにより、溶射皮膜Fhの基材Bhに対する密着強度は溶射皮膜Flの基材Blに対する密着強度よりも大きくなるのである。このような密着強度としては、検査対象部品Wに求められる下限の強度が予め定められおり、本明細書においては、この下限を「下限強度」として記載する。
【0021】
上記の如く、溶射皮膜Fと基材Bとの密着強度の違いには、溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面に発生する隙間や残留応力も影響している。本発明に係る溶射皮膜の品質評価方法は、このような検査対象部品Wにおける隙間や残留応力の違いに基づく、透磁率や導電率などの電磁気的特性の違いを検出し、非破壊での検査対象部品Wにおける溶射皮膜Fの成膜品質の評価に活用するものである。
【0022】
[密着強度測定工程]
次に、図2から図6を用いて、第一実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る品質評価方法では、まず、密着強度測定工程において、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の水準試験片である予備検査対象部品Wにおける、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定する。
【0023】
具体的に本実施形態においては、図2(a)に示す如く、水準試験片である予備検査対象部品Wにおける溶射皮膜Fが形成された面に、エポキシ樹脂からなる測定治具Rを密着させる。そして、測定治具Rに力を加えて、図2(a)中の矢印Aの如く所定の速度で移動させる。このように、溶射皮膜Fに密着された測定治具Rを矢印A方向へ移動させることで、溶射皮膜Fが基材Bから剥離することとなる。
その後、基材Bからの溶射皮膜Fの剥離のしかたを計測し、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定する、いわゆる引き剥がし試験を行うのである。
【0024】
なお、本実施形態における密着強度測定工程においては、上記の如く引き剥がし試験を用いたが、水準試験片である予備検査対象部品Wの切断検査による溶射皮膜Fの断面観察など、他の方法を用いることが可能である。即ち、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定することができれば他の方法でも差し支えなく、その具体的方法は限定されるものではない。
【0025】
[予備検出工程]
次に、予備検出工程において、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の水準試験片である予備検査対象部品Wに予備電磁気信号PSiを印加し、予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wに発生する予備検出信号PSoを検出する。
【0026】
具体的には図2(b)に示す如く、汎用的な電子計算機である制御装置21、電圧計22、交流電源を備えた検査器23、及び、センサ30を備えた検査装置20を、予備検査対象部品Wの近傍に設置する。検査装置20における各部は電気的に接続され、通信可能に構成されている。そして、センサ30を予備検査対象部品Wに近接させて配置するのである。
【0027】
さらに、検査器23がセンサ30を、予備検査対象部品Wに予備電磁気信号PSiを印加し、予備検査対象部品Wから予備検出信号PSoを検出するように制御する。予備検出信号PSoは電圧計22で計測され、その計測結果は制御装置21で記憶・演算処理などがされる。
なお、本実施形態においては密着強度測定工程の後に予備検出工程を行う構成としたが、その順序は逆にしても差し支えない。つまり、予備検出工程の後に密着強度測定工程を行う構成とすることも可能である。
【0028】
[センサ30]
センサ30には様々な態様があり、いずれも本実施形態に係る品質評価方法に用いることが可能である。以下、図3(a)、(b)、及び図4(a)を用いて、第一実施例から第三実施例の順にそれぞれのセンサ30の態様について説明する。
図3(a)は、第一実施例に係るセンサ30として用いられるキュービックセンサ30aを示している。キュービックセンサ30aは、いわゆる渦流計測用センサであり、予備検査対象部品Wにおける、表面からの距離に対する硬さと透磁率との関係を用いるものである。
【0029】
本実施例に係るキュービックセンサ30aは、励磁部及び検出部を具備する。励磁部は予備検査対象部品Wと対向して配置された状態で、予備電磁気信号PSiである所定の交流励磁信号を印加する。検出部は、交流励磁信号が印加された励磁部により予備検査対象部品Wに生じた渦電流による予備検出信号PSoを検出する。
【0030】
励磁部は、励磁コイル33a・33aが、略立方体形状の非磁性ボビン31aに巻回されて構成されている。具体的には、励磁コイル33a・33aは、非磁性ボビン31aの上面と下面とで交差するように、直交して巻回されているのである。
励磁コイル33a・33aのそれぞれの両端(両端子)は、検査器23の交流電源に接続されている。つまり、励磁コイル33a・33aは予備検査対象部品Wに対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルである。
【0031】
検出部は、励磁コイル33a・33aにおける二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル32aを備える。検出コイル32aは、非磁性ボビン31aの下面における、励磁コイル33a・33aにおける下側の交差部分の略中央部に配置されている。
本実施形態においては、検出コイル32aには薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。
検出コイル32aの両端(両端子)は、検査器23に接続されている。つまり、検出コイル32aは交流励磁信号が印加された予備検査対象部品Wから渦電流による予備検出信号PSoを検出するのである。
【0032】
上記の如く構成されたキュービックセンサ30aを用いて、予備検査対象部品Wにおける予備検出信号PSoの検出を行う場合は、検出コイル32aが予備検査対象部品Wに対向する姿勢で、キュービックセンサ30aを予備検査対象部品Wに近接配置した状態で、交流電源により励磁コイル33a・33aのそれぞれに予備電磁気信号PSiとして電圧を印加する。励磁コイル33a・33aに電流が流れた瞬間には、図3(a)中の矢印α1に示す如く右ネジの法則に従って回転磁界が発生する。そして、この回転磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって予備検査対象部品Wに渦電流を発生させるのである。さらに、予備検査対象部品Wの表面における渦電流の発生にともない、検出コイル32aに磁束を貫通させ、検出コイル32aに誘起電圧を発生させる。そして、検出コイル32aによって誘起電圧を予備検出信号PSoとして計測するのである。
【0033】
本実施例に係るキュービックセンサ30aによれば上記の如く、予備検査対象部品Wに接触することなく、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を発生させ、この水平磁界を予備検出信号PSoの検出に用いている。このため、キュービックセンサ30aの予備検査対象部品Wからのリフトオフの影響を小さくすることが可能となる。
【0034】
図3(b)は、第二実施例に係るセンサ30として用いられるUコアセンサ30bを示している。Uコアセンサ30bについても、第一実施例に係るキュービックセンサ30aと同様に渦流計測用センサであり、その形状を除いては略同一の構成である。このため、以下では第一実施例との差異点を中心に説明する。
【0035】
本実施例に係るUコアセンサ30bにおける励磁部は、励磁コイル33bが、略U字形状の非磁性ボビン31bの中央部に巻回されて構成されている。検出部は、非磁性ボビン31bの下側の両先端部における中間位置に配置されている。
【0036】
上記の如く構成されたUコアセンサ30bを用いて、予備検査対象部品Wにおける予備検出信号PSoの検出を行う場合は、検出コイル32bが予備検査対象部品Wに対向する姿勢で、Uコアセンサ30bを予備検査対象部品Wに近接配置した状態で、交流電源により励磁コイル33bに予備電磁気信号PSiとして電圧を印加する。励磁コイル33bに電流が流れた瞬間には、図3(b)中の矢印α2に示す如く右ネジの法則に従って磁界が発生する。そして、この磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって予備検査対象部品Wに渦電流を発生させるのである。さらに、予備検査対象部品Wの表面における渦電流の発生にともない、検出コイル32bに磁束を貫通させ、検出コイル32bに誘起電圧を発生させる。そして、検出コイル32bによって誘起電圧を予備検出信号PSoとして計測するのである。
【0037】
本実施例に係るUコアセンサ30bによっては、予備検査対象部品Wに接触することなく、予備検査対象部品Wに生じる水平磁界を収束させることができる。このため、予備検出信号PSoの出力を大きくして検出しやすくすることが可能となる。
【0038】
図4(a)は、第三実施例に係るセンサ30として用いられる電位差センサ30cを示している。電位差センサ30cは、いわゆる交流電位差法における探針プローブ31c・31cを備えており、予備検査対象部品Wにおける導電率を用いるものである。探針プローブ31c・31cは、それぞれ検査器23の交流電源に接続されている。
【0039】
上記の如く構成された電位差センサ30cを用いて、予備検査対象部品Wにおける予備検出信号PSoの検出を行う場合は、探針プローブ31c・31cを予備検査対象部品Wと接触して配置した状態で、予備電磁気信号PSiである所定の交流電圧を印加する。そして、交流電圧により図4中の矢印βの如く予備検査対象部品Wに流れた電流によって生じる探針プローブ31c・31cの間の電位差を、予備検出信号PSoとして検出するのである。
【0040】
本実施例に係る電位差センサ30cによれば上記の如く、予備検査対象部品Wにおける導電率を用いているため、計測原理がシンプルであり、予備検査対象部品Wの電気的特性のみを測定することが可能となる。
【0041】
[検量線作成工程]
次に、検量線作成工程において、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、予備検出工程で検出した予備検出信号PSoと、の関係より、検量線Lを作成する。
【0042】
具体的には図4(b)に示す点P1から点P4の如く、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wごとに、密着強度と予備検出信号PSoとが対応する位置にそれぞれの点をプロットする。その後、点P1から点P4のプロット位置に基づいて、点P1から点P4の近傍を検量線Lが通過するように検量線Lを作成するのである。
【0043】
[検出工程]
次に、検出工程において、検査対象である検査対象部品Wに電磁気信号Siを印加し、電磁気信号によって検査対象部品Wに発生する検出信号Soを検出する。この検出工程では、前記検査装置20を用いて、予備検出工程と同様の手法で、予備検査対象部品Wに替えて検査対象部品Wにおける検出信号Soを検出する。即ち、第一実施例から第三実施例のセンサ30である、キュービックセンサ30a、Uコアセンサ30b、電位差センサ30cのいずれかのうち、予備検出工程で用いたセンサ30を用いて検出信号Soを検出するのである。
【0044】
[評価工程]
次に、評価工程において、検量線作成工程で作成した検量線Lと、検出工程で検出した検出信号Soと、の関係より、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を算出して、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する。
【0045】
具体的には、検出工程で検出した検出信号Soの値が図4(b)に示すS1であった場合、S1に対応する検量線L上の点Qをとり、点Qに対応する密着強度C1を検査対象部品Wにおける溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度として算出する。そして、この密着強度C1が検査対象部品Wに求められる下限である下限強度よりも大きいか否かにより、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する。詳細には、密着強度C1が下限強度よりも大きければ成膜品質を「良」として、密着強度C1が下限強度よりも小さければ成膜品質を「不良」として、評価するのである。
【0046】
上記の如く、本実施形態に係る品質評価方法によれば、基材Bの表面が溶射皮膜Fで被覆された検査対象部品Wにおける成膜品質を、非破壊で評価することが可能となる。このため、検査対象部品Wを全数検査によって成膜品質の検査を行うことができるのである。
また、コールドスプレー法では溶射材の粉末を固相状態のまま基材の表面に吹き付けるために、スプレーガンの先端部等で目詰まりが発生する可能性がある。このため、コールドスプレー法による溶射皮膜Fを検査する場合は、溶射皮膜Fの成膜品質を全数検査により保証できる点が特に有効となるのである。
【0047】
[検出信号So]
上記の如く、本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面に発生する隙間や残留応力の違いに基づく、透磁率や導電率などの電磁気的特性の違いを検出するものである。一方、基材B自体の電磁気的特性に、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあった場合、そのばらつきがノイズとなって検査精度の低下に繋がる場合がある。
【0048】
このため、本実施形態では、予備検出工程及び検出工程において、図5に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側(図5における上側)と、被覆されていない側(図5における下側)と、の両面にキュービックセンサ30aを近接させ、同時に又は交互に予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加する構成としている。そして、予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)によって予備検査対象部品W(検査対象部品W)のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0049】
具体的に、図5、図6(a)及び(b)を用いて説明する。図6(a)に示す出力値D11からD13は、図5に示す溶射皮膜Fで被覆された側の面で検出した値であり、出力値D21からD23は、図5に示す溶射皮膜Fで被覆されていない側の面で検出した値である。つまり、出力値D11からD13は、溶射皮膜F内や溶射皮膜Fと基材Bとの界面に加えて、基材B自体の電磁気的特性が反映された値である。一方、出力値D21からD23は、基材Bの電磁気的特性のみが反映された値である。ここで、出力値D11とD21、出力値D12とD22、出力値D13とD23はそれぞれ、同じ予備検査対象部品W(検査対象部品W)あるいは検査対象部位において検出した値である。
【0050】
そして、出力値D11とD21との出力差であるd1を図6(b)における検出信号D31とし、同様に、出力値D12(D13)とD22(D23)との出力差であるd2(d3)を図6(b)における検出信号D32(D33)とする。そして、これらの検出信号D31からD33を、予備検出工程及び検出工程における予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0051】
上記の如く構成することにより、溶射皮膜F内や溶射皮膜Fと基材Bとの界面に加えて基材B自体の電磁気的特性が反映された出力値D11からD13と、基材Bの電磁気的特性のみが反映された出力値D21からD23と、の差分値を予備検出信号PSo(検出信号So)としている。これにより、基材B自体の電磁気的特性(本実施形態においては透磁率)に、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあっても、その影響を相殺でき、ばらつきによるノイズ成分を低減させることが可能となるのである。
【0052】
なお、図5以下に示す図において、センサ30としてはキュービックセンサ30aを用いて渦流計測を行うものとして説明するが、他のセンサ及び検査方法を採用することも可能である。
【0053】
[第二実施形態]
次に、図7及び図8を用いて、第二実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態以下に説明する実施形態において、前記第一実施形態と同様の構成はその詳細な説明を省略することとし、差異点を中心に説明する。
【0054】
前記第一実施形態と同様に、本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面に発生する隙間や残留応力の違いに基づく、透磁率や導電率などの電磁気的特性の違いを検出するものである。一方、溶射皮膜Fにおける表面部(基材Bとの界面と反対側、図1(b)及び(c)を参照)は、溶射の際に粗く形成される場合がある。このように、溶射皮膜Fの表面粗さに、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあった場合、そのばらつきがノイズとなって検査精度の低下に繋がる場合がある。
【0055】
このため、本実施形態に係る品質評価方法では、予備検出工程及び検出工程において、予備検査対象部品W(検査対象部品W)に、周波数の異なる2種類の予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加する構成としている。そして、それぞれの周波数による予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)によって予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を、予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0056】
具体的に、図7(a)、(b)、及び図8を用いて説明する。本実施形態においては、予備検出工程及び検出工程において、図7(a)に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆された表面に、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30a(図7(a)における左側)と、高周波のキュービックセンサ30a(図7(a)における右側)とを近接させ、同時に又は交互に予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加するのである。
【0057】
ここで、渦電流の浸透深さδは、以下の数式1によって与えられる。数式1におけるf、μ、σはそれぞれ、励磁周波数、対象物の透磁率及び導電率を示している。
【0058】
【数1】
【0059】
数式1に示す如く、励磁周波数fが高くなると、浸透深さδは小さくなる。即ち、励磁周波数が高周波のキュービックセンサ30aによる渦電流の浸透深さδは、図7(a)における右側に示す如く、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aよりも浅くなるのである。なお、本明細書における渦電流の「浸透深さ」とは、「渦電流の強さが対象物の表面の約37%になる深さ」を意味している。
【0060】
このように、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aと、高周波のキュービックセンサ30aとは、渦電流の浸透深さδが異なる。つまり、渦電流の浸透深さδを調節することにより、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面だけでなく、表面粗さが現れる表面部のみにおける電磁気的特性の違いを検出することが可能となる。
【0061】
そして、図7(b)に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を差分結果Fdとして、予備検出工程及び検出工程における予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。これにより、溶射皮膜Fの表面粗さに、予備検査対象部品W(検査対象部品W)ごとあるいは検査対象部位ごとにばらつきがあっても、その影響を相殺でき、ばらつきによるノイズ成分を低減させることが可能となるのである。
【0062】
[差分結果Fd]
差分結果Fdの算出方法について、図8を用いて説明する。図8に示すように、検査器23の交流電源は、励磁コイル33aに対して所定の交流励磁信号(励磁用交流電圧信号)V1を印加する。検査器23は、励磁コイル33aに交流電源からの交流励磁信号V1が印加されたときの検出コイル32aから得られる検出信号(前記誘起電圧についての電圧信号)V2の大きさと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差(位相遅れ)Φとを検出する。ここで、検査器23には、位相差Φを検出するため、増幅された位相検波として、交流励磁信号V1(波形)が与えられる。
【0063】
検出コイル32aによって検出される検出信号V2は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の透磁率を反映する。つまり、計測部位6aの透磁率が高くなると、前述のような渦電流の発生にともなう磁束が増して検出信号V2が大きくなる。逆に、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の透磁率が低くなると、渦電流の発生にともなう磁束が減って検出信号V2が小さくなる。この渦電流に基づく検出信号V2を定量化(数値化)するため、検出信号V2の大きさの値である振幅値Yと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値である値X(=YcosΦ)とを定義するのである。
【0064】
ここで、差分結果Fdは、以下の数式2によって与えられる。数式2におけるXa、Yaはそれぞれ、渦電流の浸透深さδが深い、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aで計測した、位相差Φに起因する値X、及び、振幅値Yを示している。また、Xb、Ybはそれぞれ、渦電流の浸透深さδが浅い、励磁周波数が高周波のキュービックセンサ30aで計測した、位相差Φに起因する値X、及び、振幅値Yを示している。
【0065】
【数2】
【0066】
[第三実施形態]
次に、図9(a)及び(b)を用いて、第三実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法の対象である、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における基材Bは非磁性材料で形成されている。そして、本実施形態に係る品質評価方法では、予備検出工程及び検出工程において、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側(図9における上側)、換言すれば非磁性材料である基材Bの側に、周波数の異なる2種類の予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加する構成としている。そして、それぞれの周波数による予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)によって予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を、予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。
【0067】
具体的に、図9(a)を用いて説明する。本実施形態においては、予備検出工程及び検出工程において、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆されていない表面に、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30a(図9(a)における左側)と、高周波のキュービックセンサ30a(図9(a)における右側)とを近接させ、同時に又は交互に予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加するのである。
【0068】
前記の如く、励磁周波数fが高くなると、浸透深さδは小さくなるため、励磁周波数が高周波のキュービックセンサ30aによる渦電流の浸透深さδは、図9(a)における右側に示す如く、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aよりも浅くなるのである。この際、基材Bが非磁性材料で形成されているため、図9(a)に示す如く、溶射皮膜Fで被覆されている側にまで、十分な渦電流を浸透させることができるのである。
【0069】
このように、励磁周波数が低周波のキュービックセンサ30aと、高周波のキュービックセンサ30aとは、渦電流の浸透深さδが異なる。つまり、低周波のキュービックセンサ30aで溶射皮膜Fまでの浸透深さで計測し、高周波のキュービックセンサ30aで基材Bまでの浸透深さで計測することができる。
【0070】
そして、図9(b)に示す如く、予備検査対象部品W(検査対象部品W)に発生する2種類の信号の出力差を差分結果として、予備検出工程及び検出工程における予備検出信号PSo(検出信号So)として検出するのである。これにより、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面のみの検出結果を得ることができるのである。なお、本実施形態における2種類の信号の差分結果を算出する方法は、前記第二実施形態における方法と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【0071】
上記の如く、本実施形態においては、基材Bの側から計測することにより、溶射皮膜Fの表面粗さや基材Bの電磁気的特性のばらつきに影響されることなく、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における溶射皮膜F内や、溶射皮膜Fと基材Bとの界面のみにおける電磁気的特性の違いを検出することが可能となるのである。
【0072】
[検量線の補正方法]
次に、図10を用いて、検量線の補正方法について説明する。
検量線を補正する際には、密着強度測定工程及び予備検出工程において、所定の基準温度条件下(本実施形態においては20度)及び基準温度条件と異なる比較温度条件下(本実施形態においては35度及び5度)での予備検査対象部品Wにおける、溶射皮膜Fの前記基材Bに対する密着強度を測定するとともに、予備検出信号を検出する。
【0073】
そして、検量線作成工程において、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、基準温度条件下での基準検量線L0と、比較温度条件下での比較検量線L1・L2とを作成する。具体的には図10(a)に示す如く、基準温度における検量線を基準検量線L0として作成し、基準温度よりも高い温度(本実施形態においては35度)における比較検量線をL1、基準温度よりも低い温度(本実施形態においては5度)における比較検量線をL2として作成するのである。
【0074】
その後、基準温度条件と比較温度条件との温度差、及び、基準検量線L0と比較検量線L1・L2との位置関係に基づいて、検出工程の温度条件に対応して基準検量線L0を平行移動する補正を行って検量線Lrを作成する。
具体的には図10(a)に示す如く、基準検量線L0と比較検量線L1とにおける、温度上昇(15度)とそれぞれの位置関係から、矢印Rhに示す如く温度変化に伴う検量線の移動量を算出する。同じく、基準検量線L0と比較検量線L2とにおける、温度低下(15度)とそれぞれの位置関係から、矢印Rlに示す如く温度変化に伴う検量線の移動量を算出するのである。そして、検出工程の温度条件が例えば12度の場合は、基準検量線L0をマイナス8度(12度−基準温度条件20度)分に相当する移動量Rだけ下方に平行移動する補正を行い、検量線Lrを作成するのである。
【0075】
このように、検出工程における温度条件に対応して検量線Lを補正することにより、電磁気的特性を用いた計測に対する温度変化の影響を低減させることが可能となる。つまり、検出工程における温度が季節や天候によって変化した場合でも、その場における温度条件に対応した検量線Lを作成することが可能となるため、その影響を受けることがないのである。
【0076】
上記の如く検量線Lを作成する場合は、図10(b)に示すごとく、密着強度が「下限強度」となる予備検査対象部品Wにおいて予備検出信号がゼロとなるように調整(ゼロ調整)することが好ましい。このようにゼロ調整することにより、検出信号から算出した密着強度C1と下限強度との比較が、数値の正負判断のみによりできるため、評価工程における検査対象部品Wの成膜品質の評価を容易に行うことが可能となる。
【0077】
[第四実施形態]
次に、図11を用いて、第四実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は記述の実施形態と同様に、基材Bの表面が溶射皮膜Fで被覆された検査対象部品Wの成膜品質を評価するものである。
そして、第一実施形態と同様に、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wにおける、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を測定する、密着強度測定工程を備える。
【0078】
また、第一実施形態と同様に、被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wにおける表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一予備電磁気信号PSiを印加し、第一予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wのそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一予備検出信号PSoとして検出する、第一予備検出工程を備える。
さらに、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、第一予備検出工程で検出した第一予備検出信号PSoと、の関係より、第一検量線を作成する、第一検量線作成工程を備える。
そして、検査対象部品Wの表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号Siを印加し、第一電磁気信号Siによって検査対象部品Wのそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号Soとして検出する、第一検出工程を備える。
【0079】
また、第二実施形態と同様に、被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wに、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号PSiを印加し、それぞれの周波数による第二予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第二予備検出信号PSoとして検出する、第二予備検出工程を備える。
さらに、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、第二予備検出工程で検出した第二予備検出信号PSoと、の関係より、第二検量線を作成する、第二検量線作成工程を備える。
そして、検査対象部品Wに、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による第二電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号Soとして検出する、第二検出工程を備える。
【0080】
また、第三実施形態と同様に、基材Bが非磁性材料である場合に、被覆条件がそれぞれ異なる複数の予備検査対象部品Wにおける表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号PSiを印加し、それぞれの周波数による第三予備電磁気信号PSiによって予備検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第三予備検出信号PSoとして検出する、第三予備検出工程を備える。
さらに、被覆条件が対応する予備検査対象部品Wにおける、密着強度測定工程で測定した密着強度と、第三予備検出工程で検出した第三予備検出信号PSoと、の関係より、第三検量線を作成する、第三検量線作成工程を備える。
そして、検査対象部品Wの表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による第三電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号Soとして検出する、第三検出工程を備える。
【0081】
加えて、第一検量線と第一検出信号との関係、第二検量線と第二検出信号との関係、及び、第三検量線と第三検出信号との関係、のうち、少なくとも二つの関係より、溶射皮膜Fの基材Bに対する密着強度を算出して、検査対象部品Wにおける成膜品質を評価する、評価工程を備えるのである。
【0082】
図11は、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆された表面において、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加して、第二予備検出信号PSo(第二検出信号So)を検出する、第二予備検出工程(第二検出工程)と、予備検査対象部品W(検査対象部品W)の溶射皮膜Fで被覆されていない表面において、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号PSi(電磁気信号Si)を印加して、第三予備検出信号PSo(第三検出信号So)を検出する、第三予備検出工程(第三検出工程)と、を同時に行う様子を示している。
【0083】
このように、本実施形態においては、前記第一実施形態から第三実施形態に係る品質評価方法を組み合わせて、予備検査対象部品W(検査対象部品W)における成膜品質を評価する構成としている。このように、複数種類の品質評価方法を組み合わせることにより、検査対象部品Wにおける成膜品質の評価精度を向上させることが可能となるのである。
【0084】
なお、本実施形態においては、2種類の品質評価方法を組み合わせる構成としたが、3種類の品質評価方法を組み合わせることとしても差し支えない。この場合は、2種類以上の品質評価方法における評価で成膜品質が「良」と判定された検査対象部品Wの成膜品質を最終的に「良」と判断するのである。
【0085】
[第五実施形態]
次に、図12を用いて、第五実施形態に係る品質評価方法について説明する。
本実施形態に係る溶射皮膜の品質評価方法は記述の実施形態と同様に、基材Bの表面が溶射皮膜Fで被覆された検査対象部品Wの成膜品質を評価するものである。
【0086】
そして、第一実施形態と同様に、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の検査対象部品Wにおける表面のうち、溶射皮膜Fで被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号Siを印加し、第一電磁気信号Siによって検査対象部品Wのそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号Soとして検出する、第一検出工程を備える。
【0087】
また、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の検査対象部品Wに、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による第二電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号Soとして検出する、第二検出工程を備える。
【0088】
さらに、基材Bが非磁性材料である場合に、溶射皮膜Fの被覆条件がそれぞれ異なる複数の検査対象部品Wにおける表面のうち溶射皮膜Fで被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号Siを印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号Siによって検査対象部品Wに発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号Soとして検出する、第三検出工程を備える。
【0089】
そして、評価工程において、第一検出信号、第二検出信号、及び、第三検出信号の何れか二つの信号のうち一方を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに二つの信号のうち他方を示す第二の座標軸と、から定められる座標平面を用い、二つの信号の値から定まる座標平面上の点の分布に基づき、座標平面における許容誤差領域を予め設定し、二つの信号の値から定まる座標平面上の点が、許容誤差領域内にあるか否かにより、検査対象部品における成膜品質を評価するのである。
【0090】
評価工程における評価方法について、図12を用いて説明する。
図12に示すように、まず、二つの信号の値から定まる座標平面上の点の分布から、多数の良品データの分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向(長軸方向)を求める。第一主成分の方向が求まると、その方向に直交する方向として、第二主成分の方向(短軸方向)が定まる。
【0091】
このようにして求めた第一主成分及び第二主成分の方向を、それぞれ許容誤差領域を規定する楕円(以下「設定楕円」という。)の長軸及び短軸の方向とする。そして、長軸と短軸との交点が、多数の良品データにおける分布の中心を示す値から定まる。
【0092】
このように、長軸・短軸の方向及びこれらの交点を求めた後、多数の良品データの分布を、長軸の方向を広がりの方向として交点における値を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有することとして、楕円の焦点及び焦点からの距離を定め、設定楕円を決定する。
すなわち、図12に示すように、多数の良品データの分布を、長軸の方向を広がりの方向とし、長軸における短軸との交点における値を平均μとした場合、つまり交点で交わる長軸及び短軸から定まる座標平面において交点を原点とした場合(μ=0の場合)の、標準偏差σ(分散:σ2)とする正規分布N(μ、σ2)とする(正規分布曲線参照)。
【0093】
本実施形態においては、設定楕円を決定するに際し、前記正規分布における所定の広がり(限界値)として、μ±3σの範囲を用いる。つまり、設定楕円はその長軸の方向について交点を中心として±3σの広がりを有することとする。
このように、多数の良品データの分布を正規分布とした場合におけるμ±3σの範囲を、長軸の方向の広がりとして用いることにより、設定楕円の長軸の長さが決定する。そして、この長軸の長さと、多数の良品データにおける分布の短軸方向のバラツキに基づき、楕円の焦点を求める。これにより、設定楕円が決定する(3σの楕円)。
また、設定楕円を決定するに際しては、多数の良品データにおける分布のバラツキに基づき、その二つの信号の平均値等から、多数の良品データがほぼ全部含まれるように長軸上の点となる焦点を予め求めた後、前述した正規分布におけるμ±3σの広がりを用い、焦点からの距離を決定することで、設定楕円を決定することとしてもよい。
このように、許容誤差領域を設定するに際し、長軸の方向について正規分布におけるμ±3σの広がりを有する楕円を用いることにより、長軸の方向については理論上約99.7%の良品データ42が含まれることとなる。
以上のようにして、設定楕円を決定することで、座標平面上における許容誤差領域を設定する。
【0094】
ここで、多数の良品データの分布を長軸の方向についての正規分布として設定楕円を決定する場合における、分離値と楕円の広がりとの関係について説明する。
前述したように、設定楕円である境界線上の計測点は、分離値=1となる。したがって、図12に示すように、前述した正規分布におけるμ±3σの広がりを有する楕円(3σの楕円)である許容誤差領域の境界線上は、分離値=1となる。
これに対し、許容誤差領域の境界線の形状である3σの楕円と相似形であって、交点を原点とし、設定楕円を決定する際に用いた場合と同様の正規分布におけるμ±6σの広がりを有する楕円(6σの楕円)上は、分離値=2となる。同様にして正規分布におけるμ±9σの広がりを有する楕円(9σの楕円)上は、分離値=3となる。
したがって、図12に示す座標平面においては、NGデータは、分離値が約3となる位置に分布していることとなる。
【0095】
以上のようにして許容誤差領域を設定することにより、検査対象部品における成膜品質の評価に際し、検査対象部品Wの温度状況や形状誤差等の影響による検出信号のばらつき(計測誤差)を、それぞれのばらつきの傾向性に応じた範囲で許容することができ、検査対象部品Wの性状に応じた正確な判定(均等な評価)を行うことが可能となる。
また、本実施形態によれば、検出信号と密着強度との関係によらずに成膜品質を評価できるため、密着強度測定工程を行う必要がなく、評価に係る設備コストや時間コストを低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
20 検査装置
30 センサ
Si 電磁気信号
So 検出信号
B 基材
F 溶射皮膜
W 検査対象部品(予備検査対象部品)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する予備検出信号を検出する、予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記検査対象部品に電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する検出信号を検出する、検出工程と、
前記検量線作成工程で作成した検量線と、前記検出工程で検出した検出信号と、の関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備える、
ことを特徴とする、溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項2】
前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、
前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記検出信号として検出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項3】
前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、
前記検出工程において、前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項4】
前記基材は非磁性材料で形成され、
前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、
前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項5】
前記密着強度測定工程及び前記予備検出工程において、所定の基準温度条件下及び基準温度条件と異なる比較温度条件下での前記予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定するとともに、予備検出信号を検出し、
前記検量線作成工程において、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、基準温度条件下での基準検量線と、比較温度条件下での比較検量線とを作成した後に、基準温度条件と比較温度条件との温度差、及び、基準検量線と比較検量線との位置関係に基づいて、前記検出工程の温度条件に対応して前記基準検量線を平行移動する補正を行って前記検量線を作成する、
ことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項6】
基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一予備電磁気信号を印加し、該第一予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一予備検出信号として検出する、第一予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第一予備検出工程で検出した第一予備検出信号と、の関係より、第一検量線を作成する、第一検量線作成工程と、
前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二予備検出信号として検出する、第二予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第二予備検出工程で検出した第二予備検出信号と、の関係より、第二検量線を作成する、第二検量線作成工程と、
前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、
前記基材が非磁性材料である場合に、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三予備検出信号として検出する、第三予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第三予備検出工程で検出した第三予備検出信号と、の関係より、第三検量線を作成する、第三検量線作成工程と、
前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、
前記第一検量線と前記第一検出信号との関係、前記第二検量線と前記第二検出信号との関係、及び、前記第三検量線と前記第三検出信号との関係、のうち、少なくとも二つの関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備える、
ことを特徴とする、溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項7】
基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、
前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、
前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、
前記基材が非磁性材料である場合に、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、
前記第一検出信号、第二検出信号、及び、第三検出信号の何れか二つの信号のうち一方を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記二つの信号のうち他方を示す第二の座標軸と、から定められる座標平面を用い、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、前記検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備える、
ことを特徴とする、溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項1】
基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する予備検出信号を検出する、予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記検査対象部品に電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する検出信号を検出する、検出工程と、
前記検量線作成工程で作成した検量線と、前記検出工程で検出した検出信号と、の関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備える、
ことを特徴とする、溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項2】
前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記予備電磁気信号を印加し、該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、
前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、前記電磁気信号を印加し、該電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、前記検出信号として検出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項3】
前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、
前記検出工程において、前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項4】
前記基材は非磁性材料で形成され、
前記予備検出工程において、前記予備検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記予備検出信号として検出し、
前記検出工程において、前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の前記電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、前記検出信号として検出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項5】
前記密着強度測定工程及び前記予備検出工程において、所定の基準温度条件下及び基準温度条件と異なる比較温度条件下での前記予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定するとともに、予備検出信号を検出し、
前記検量線作成工程において、前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記予備検出工程で検出した予備検出信号と、の関係より、基準温度条件下での基準検量線と、比較温度条件下での比較検量線とを作成した後に、基準温度条件と比較温度条件との温度差、及び、基準検量線と比較検量線との位置関係に基づいて、前記検出工程の温度条件に対応して前記基準検量線を平行移動する補正を行って前記検量線を作成する、
ことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項6】
基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる被覆条件で被覆された複数の予備検査対象部品における、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を測定する、密着強度測定工程と、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一予備電磁気信号を印加し、該第一予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一予備検出信号として検出する、第一予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第一予備検出工程で検出した第一予備検出信号と、の関係より、第一検量線を作成する、第一検量線作成工程と、
前記検査対象部品の表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、
基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二予備検出信号として検出する、第二予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第二予備検出工程で検出した第二予備検出信号と、の関係より、第二検量線を作成する、第二検量線作成工程と、
前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、
前記基材が非磁性材料である場合に、基材の表面が溶射皮膜により、それぞれ異なる前記被覆条件で被覆された複数の前記予備検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三予備電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三予備電磁気信号によって前記予備検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三予備検出信号として検出する、第三予備検出工程と、
前記被覆条件が対応する前記予備検査対象部品における、前記密着強度測定工程で測定した密着強度と、前記第三予備検出工程で検出した第三予備検出信号と、の関係より、第三検量線を作成する、第三検量線作成工程と、
前記検査対象部品の表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、
前記第一検量線と前記第一検出信号との関係、前記第二検量線と前記第二検出信号との関係、及び、前記第三検量線と前記第三検出信号との関係、のうち、少なくとも二つの関係より、前記溶射皮膜の前記基材に対する密着強度を算出して、当該検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備える、
ことを特徴とする、溶射皮膜の品質評価方法。
【請求項7】
基材の表面が溶射皮膜で被覆された検査対象部品の成膜品質を評価する、溶射皮膜の品質評価方法であって、
前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち、溶射皮膜で被覆された側と、被覆されていない側と、の両面に、第一電磁気信号を印加し、該第一電磁気信号によって前記検査対象部品のそれぞれの面に発生する信号の出力差を、第一検出信号として検出する、第一検出工程と、
前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品に、周波数の異なる2種類の第二電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第二電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第二検出信号として検出する、第二検出工程と、
前記基材が非磁性材料である場合に、前記溶射皮膜の被覆条件がそれぞれ異なる複数の前記検査対象部品における表面のうち溶射皮膜で被覆されていない側に、周波数の異なる2種類の第三電磁気信号を印加し、それぞれの周波数による該第三電磁気信号によって前記検査対象部品に発生する2種類の信号の出力差を、第三検出信号として検出する、第三検出工程と、
前記第一検出信号、第二検出信号、及び、第三検出信号の何れか二つの信号のうち一方を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記二つの信号のうち他方を示す第二の座標軸と、から定められる座標平面を用い、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、前記二つの信号の値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、前記検査対象部品における成膜品質を評価する、評価工程と、を備える、
ことを特徴とする、溶射皮膜の品質評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−95983(P2013−95983A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241691(P2011−241691)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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