説明

溶射補修材の平滑化

【課題】 コークス炉炭化室の炉壁損傷部に形成された溶射補修層の表面を平滑化することができるコークス炉炭化室炉壁の補修方法を提供する。
【解決手段】 コークス炉の炭化室炉壁を補修するにあたり、前記炭化室炉壁の損傷部に予め形成された溶射補修層の表面を1300℃以上の温度に加熱する。この加熱により、前記溶射補修層は、その表面にガラス層を形成して平滑化する。前記溶射補修層の表面は、好ましくは可燃性ガスと支燃性ガスとの混合ガスの燃焼炎により加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコークス炉炭化室炉壁の補修方法に関し、さらに詳しくは溶射補修材の平滑化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コークス炉炭化室炉壁の補修は、前記炭化室炉壁を構成する耐火煉瓦の損傷部を溶射法により肉盛りして炉構造の強度を保持し、かつ煤煙を抑制することを主な目的としていた。溶射法により炉壁損傷部に肉盛りを行った場合、肉盛り部分の表面には凹凸が生じることが多く、この凹凸にカーボンが付着して大きな突起物ができ、コークス押出抵抗となり、押し詰まりの原因となる。また、コークスを押し出すと同時に溶射補修層および耐火煉瓦の一部も剥離するという現象も確認されている。それゆえ、コークス押出抵抗が増大しないように溶射補修層の肉盛り部分の凹凸を抑制する必要があるが、肉盛り部分の表面平滑化は各々の吹き付け作業員の技量に委ねるしかなく、また、肉盛り部分の平滑度にも限界があった。
【0003】
火炎溶射補修において溶射補修層の凹凸を抑制する方法として、特許文献1には、溶射補修材料の粒子径を規定する技術が開示され、また、特許文献2には、溶射補修材料の化学組成を規定する技術が開示されている。
【0004】
しかし、火炎溶射補修に用いる溶射補修材料の粒子径や化学組成を規定しても、他の溶射法、例えば、テルミット反応熱を利用した溶射法では、骨材成分の一部が溶融せずに残存する可能性が高く、溶射補修層の表面を平滑化することは困難であると考えられる。
【0005】
これに対し、溶射法に依存することなく溶射補修層の表面を物理的に平坦化する方法として、特許文献3には、コテを用いて溶射補修層の表面を平坦化する技術が開示され、また、特許文献4には、機械的にハツリして溶射補修層の表面を平坦化する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平10−89854号公報
【特許文献2】特開平11−279740号公報
【特許文献3】特開平9−302354号公報
【特許文献4】特開2000−212566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、コテによる整形や機械的なハツリは、溶射補修層の表面を平坦化、つまり炭化室炉壁を構成する耐火煉瓦の表面と同じレベルにしているだけであって、必ずしも溶射補修層の表面を平滑化しているわけではない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決するものであり、その目的とするところは、コークス炉炭化室の炉壁損傷部に形成された溶射補修層の表面を平滑化することができる補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
コークス炉炭化室の炉壁損傷部を補修するに際し、例えば、テルミット反応熱を利用した溶射法では、吹き付けた溶射補修層の表面温度が不均一であるので、骨材成分の一部が溶融せずに残存して溶射補修層の表面に凹凸が発生すると考えられる。本発明者らは、このような観点から溶射補修層の表面を平滑化する方法について鋭意検討した結果、溶射補修層の表面を所定温度に加熱すれば、溶融せずに残存していた成分を含めて骨材が溶融し、溶射補修層の表面にガラス層を形成して平滑化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によるコークス炉炭化室炉壁の補修方法は、コークス炉の炭化室炉壁を補修するにあたり、前記炭化室炉壁の損傷部に予め形成された溶射補修層の表面を1300℃以上の温度に加熱することを特徴とする。この加熱により、前記溶射補修層は、その表面にガラス層を形成して平滑化する。前記溶射補修層の表面は、好ましくは可燃性ガスと支燃性ガスとの混合ガスの燃焼炎により加熱される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の補修方法によれば、コークス炉炭化室の炉壁損傷部に形成された溶射補修層の表面が平滑化するので、カーボンの付着および成長を抑制し、コークス押出抵抗を低減して押し詰まりを防止することができる。また、専用の装置を必要とせず、汎用の加熱装置を利用して溶射補修層を所定温度に加熱するだけであるので、極めて簡便かつ効率的にコークス炉炭化室炉壁の補修を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の補修方法は、コークス炉の炭化室炉壁を補修するにあたり、前記炭化室炉壁の損傷部に予め形成された溶射補修層の表面を1300℃以上の温度に加熱することで、前記溶射補修層の表面を平滑化する。
【0012】
本発明の補修方法は、例えば、図1(a)〜(e)に示すように行われる。まず、図1(a)に示すようなコークス炉炭化室の炉壁損傷部に対して、例えば、二酸化珪素(SiO2)と少量の複数の金属酸化物(Al23、CaO、Fe23など)と金属珪素(Si)とからなる粉体混合物を溶射補修材料として用いて、図1(b)に示すように、例えば、テルミット反応熱を利用した通常の溶射補修を行う。
【0013】
補修材料としては、上記の粉体混合物に限定されることはなく、通常、コークス炉炭化室の炉壁損傷部を補修するのに用いられる材料であれば、いかなる材料であっても用いることができる。例えば、テルミット反応熱を利用した溶射補修では、骨材と発熱材の粉体混合物が補修材料として用いられ、高温の被溶射体に酸素と共に補修材料を吹き付け、発熱材の酸化発熱反応を利用して骨材を溶融させる。骨材は、例えば、90質量%以上の二酸化珪素(SiO2)に、酸化アルミニウム(Al23)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉄(Fe23)、酸化カリウム(K2O)、酸化ナトリウム(Na2O)などの金属酸化物の一種または二種以上を10質量%以下の割合で配合した粉体混合物である。発熱材は、例えば、金属珪素(Si)粉体である。溶射補修には、いかなる溶射法を用いてもよいが、テルミット反応熱を利用した溶射法の他に、例えば、火炎溶射法やプラズマ溶射法などが挙げられる。
【0014】
このようにして形成された溶射補修層の表面は、図1(c)に示すように、炭化室炉壁を構成する耐火煉瓦の表面とほぼ同一レベルであっても、凹凸が存在しており、平滑ではない。そこで、図1(d)に示すように、例えば、ガス溶接用バーナーを用いて、溶射補修層の表面を1300℃以上、好ましくは1600℃、より好ましくは1800℃以上の温度に加熱する。加熱温度は、例えば、放射温度計を用いて非接触的に測定すればよい。加熱温度が1300℃未満であると、溶射補修層の表面を平滑化するのに不充分である。加熱温度の上限は、特に限定されないが、アセチレンと酸素との燃焼炎による3800℃程度である。3800℃を超えて加熱すると、炭化室炉壁が損傷する可能性があるので推奨できない。加熱温度の上限は、好ましくは2600℃以下、より好ましくは2000℃以下である。
【0015】
加熱は、上記の温度を達成することができる加熱手段であれば、いかなる手段を用いて行ってもよい。汎用の装置を用いて簡便かつ効率的に加熱が行えることから、バーナーランスを水冷または空冷としたガス溶接用バーナーを用いることが好ましい。ガス溶接用バーナーを用いる場合には、燃焼炎と溶射補修層の表面との距離によって、加熱温度を調節することができる。燃焼炎としては、例えば、可燃性ガスと支燃性ガスとの混合ガスの燃焼炎が用いられる。可燃性ガスとしては、例えば、アセチレン、プロパン、水素、石炭ガスなどが挙げられる。支燃性ガスとしては、例えば、空気、酸素などが挙げられる。これらのガスは、単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。可燃性ガスと支燃性ガスとを適当に組み合わせることにより、加熱温度を選択することができる。例えば、アセチレンと空気で最高3000℃、アセチレンと酸素で最高3800℃、プロパンガスと空気で最高1900℃、プロパンガスと酸素で最高2600℃、水素と空気で最高1900℃、水素と酸素で最高2800℃などである。可燃性ガスと支燃性ガスとの混合割合は、特に限定されるものではなく、所望の加熱温度が得られるように適宜調節すればよい。
【0016】
加熱時間は、一般的に、加熱温度が低い場合は長く、加熱温度が高い場合は短く設定される。また、例えば、ガス溶接用バーナーを用いる場合には、燃焼炎の大きさや溶射補修層の表面積により加熱面積が異なるので、燃焼炎の大きさや溶射補修層の表面積に応じて加熱時間を設定する必要がある。いずれにしても溶射補修層の表面が平滑化するのに充分な時間にわたって加熱すればよい。それゆえ、加熱時間は、特に限定されないが、通常の表面積を有する溶射補修層の場合、5秒以上加熱すれば、溶射補修層の表面を充分に平滑化することができる。加熱時間が5秒未満であると、溶射補修層の表面を平滑化する効果が小さい。加熱時間の上限は、特に限定されないが、30秒を越えると、炉壁を損傷する可能性があるので推奨できない。また、溶射補修層の表面が平滑化した後も不必要に加熱することになり、エネルギー消費量および作業時間が増大する。加熱時間は、好ましくは10秒以上、20秒以下である。
【0017】
かくして、図1(e)に示すように、コークス炉炭化室の炉壁損傷部に形成された溶射補修層の表面が平滑化される。なお、溶射補修層の表面を加熱するのは、溶射補修層を形成した後であれば、どの段階であってもよいが、図1(a)〜(e)に示すように、作業効率の観点から、溶射補修層を形成した直後に、溶射補修層の表面が1000℃程度の温度を維持している段階で行うのが好ましい。このように処理された溶射補修層は、その表面にガラス層を形成しており、充分に平滑であるので、カーボンの付着または成長が発生することがなく、また、コークス押出抵抗が低減されて押し詰まりを起こすことがない。
【0018】
本発明の補修方法は、コークス炉炭化室の炉壁損傷部に予め形成された溶射補修層を所定温度に加熱するだけで、溶射補修層の表面を平滑化することができる。それゆえ、極めて簡便かつ効率的にコークス炉炭化室炉壁の補修作業を行うことができる。
【実施例】
【0019】
本発明を実験例によってさらに詳しく説明する。なお、実験例では、下記の方法により試料の表面粗さを測定した。
【0020】
(表面粗さの測定)
表面粗さの測定は、三次元写真計測システム(クラボウ社製、クラヴェス)を用いて、試料の切断面を定量化することにより行った。なお、表面粗さの指標は、JIS B0601に規定される算術平均粗さとした。算術平均粗さRaとは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、平均線から粗さ曲線までの偏差の絶対値を合計して平均した値、すなわち次の式によって求められる値をいう。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、Lは基準長さである。
【0023】
実験例
96質量%の二酸化珪素(SiO2)に4質量%の金属酸化物(Al23、CaO、MgOなど)を配合した最大粒子径1.5mmの粉体混合物である骨材と金属珪素(Si)粉体である発熱材とからなる溶射補修材料を用いて、この溶射補修材料を耐火煉瓦に吹き付けたドーム状溶射体を試料とした。まず、この試料の頭頂部を約1.5cm四方に切除し、加熱前の表面粗さを測定した。次いで、図2に示すように、小規模電気炉2の上部にて約1000℃に予熱した状態で、LPG仕様のガス溶接用バーナー3を用いて、試料1を10秒加熱することにより、その表面を平滑化した。加熱温度は、放射温度計4を用いて測定し、記録計5で読み取った。次いで、試料1を放冷した後、加熱後の表面粗さを測定した。なお、実験は、加熱温度を1300℃以上、2000℃以下の範囲内で選択した9つの温度で行った。また、温度設定はガス溶接用バーナーと試料表面の距離で調節した。加熱前後の試料表面の算術平均粗さの差を加熱温度に対してプロットしたグラフを図3に示す。
【0024】
図3から明らかなように、実験を行った9つの加熱温度のいずれにおいても、加熱後に試料の表面粗さが低減された。また、特に1800℃以上、2000℃以下の温度で加熱した場合に、表面粗さが大きく低減された。実験に用いた溶射補修材料は実際にコークス炉炭化室炉壁の補修に用いられるものであるので、この実験の結果から、炭化室炉壁の損傷部に予め形成された溶射補修層の表面を1300℃以上の温度に加熱することにより、その表面を平滑化することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の補修方法は、コークス炉炭化室の炉壁損傷部に形成された溶射補修層を平滑化することにより、コークス押出抵抗を低減し、ひいてはコークス炉自体の寿命を延長することができる。それゆえ、コークスの製造コストを抑制し、コークス製造業界に多大の貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるコークス炉炭化室炉壁の補修方法を行う手順を示す説明図。
【図2】実験例で行った実験を示す概略図。
【図3】実験例で行った実験の結果として加熱前後の試料表面の算術平均粗さの差を加熱温度に対してプロットしたグラフ図。
【符号の説明】
【0027】
1 試料
2 小規模電気炉
3 ガス溶接用バーナー
4 放射温度計
5 記録計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の炭化室炉壁を補修するにあたり、前記炭化室炉壁の損傷部に予め形成された溶射補修層の表面を1300℃以上の温度に加熱することを特徴とするコークス炉炭化室炉壁の補修方法。
【請求項2】
前記溶射補修層の表面を可燃性ガスと支燃性ガスとの混合ガスの燃焼炎により加熱する請求項1記載の補修方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56993(P2006−56993A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240034(P2004−240034)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(591265459)株式会社ケイエヌラボアナリシス (8)